説明

有機化合物を沈殿させる方法及びデバイス

本発明は、有機化合物を沈殿させる方法であって、(a)第1の溶媒中の上記有機化合物の溶液(I)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;(b)ステップ(a)と同時に、沈殿剤(II)を、第2の入口を介して前記閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;(c)上記有機化合物の溶液(I)及び沈殿剤(II)を、超音波処理、回転式磁気攪拌手段、又は回転式機械攪拌手段により混合し、それにより前記有機化合物の沈殿物及び液相を形成するステップ;(d)上記有機化合物の沈殿物及び液相を、単一の出口を介して前記閉鎖型混合チャンバから排出するステップを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物及びその誘導体、例えば、それらの有機化合物の前駆体、(付加)塩、多形体、溶媒和物、及び水和物を沈殿させる方法及びデバイスに関する。有機化合物は、非晶質有機化合物であっても結晶性有機化合物であってもよい。有機化合物は、特に、病気又は不快症状の治療又は予防用の薬学活性物質としての使用のためのものである。しかし、有機化合物は、薬学活性物質の前駆体であってもよい。さらに、本発明の範囲内で、有機化合物は、薬学活性物質を含む製剤の有益な賦形剤であってもよい。
【背景技術】
【0002】
薬学活性化合物又はその中間体の溶液からの結晶化は、業界では典型的な精製方法である。活性成分の望ましい平均結晶粒径、粒径分布、形態、多形体、及び純度を得ることが非常に重要である。水に難溶性の薬剤、例えば10mg/ml未満の溶解度を有するものの場合、結晶粒径は、溶解速度及び平衡溶解度に大きく影響し、即ち結晶粒径がより小さい程、望ましいより高い溶解速度及び平衡溶解度が得られる。これらの因子は、人間の体内における薬剤の生物学的利用率を反映する。小粒径で高表面積の粒子の直接結晶化は、通常、高い過飽和環境において達成され、これは多くの場合、不十分な結晶構造形成に起因して、純度が低く、脆性が高く、また安定性が低下した材料をもたらす。
【0003】
水に溶けにくい薬剤はまた、循環系に吸収される前に胃腸管から排除される傾向があり、また大きすぎる粒子、例えば6μmを超える直径を有する粒子は、静脈注射が必要となった場合に、針の閉塞、さらには患者における毛細血管等の小血管の閉塞の点で、困難をもたらす。
【0004】
緩やかな結晶化は、生成物の純度を上げるために使用される一般的な技術であり、より安定した結晶構造を生成するが、晶析装置の生産性を低下させ、多くの場合、後に高エネルギー粉砕を必要とする大きな低表面積粒子を生成するプロセスである。現在、薬学的化合物は、ほとんどの場合、粒子の表面積を増加させ、それによりそれらの生物学的利用率を改善するために、結晶化後の粉砕ステップを必要とする。しかし、高エネルギー粉砕には不利な点がある。粉砕は、過度の局所温度を生じさせ、材料の分解、収率損失、騒音及び発塵だけでなく、非常に強力な薬学的化合物に対する人間の望ましくない曝露をもたらす可能性がある。さらに、従来の乾式粉砕では、粉末度の限界は、通常、約100μmであり、このとき材料は粉砕チャンバの壁上で固結し始める。湿式粉砕は、粉末度のさらなる低下に適しているが、通常、より低い粒径は凝集により約10μmに制限される。空気ジェット粉砕技術は、約1μmから約50μmの平均粒径を提供することができる。また、粉砕中に結晶表面上に生成された応力が、不安定な化合物に悪影響を与える可能性がある。全般的に、現在の結晶化技術を用いて、3つの最も望ましい最終生成物の目標である、高い表面積、高い化学的純度、及び高い安定性を同時に最適化するのは、高エネルギー粉砕なくしては困難であることがよく知られている。
【0005】
ミクロンサイズ又はナノサイズの結晶を得るためには、高過飽和を用いる必要がある。高過飽和の使用の標準的な問題は、極めて急速な核生成速度及びその後の高い成長速度をもたらすという点である。高過飽和の場合の必要最小限の混合速度を達成するための結晶化法及び結晶化装置の設計は、困難であることがよく知られている。溶媒/貧溶媒及び反応沈殿の場合には、ミリ秒又はさらにマイクロ秒の推定核生成速度が珍しくない。均一核生成速度は、粒子−溶液界面エネルギーに対する改善された推定(Granberg et al, Primary nucleation of paracetamol in acetone-water mixtures, Chem.Eng.Sci., vol 56, 2305-2313, 2001を参照)を考慮して、古典的な核生成理論を用いて推定することができる(Kashchiev, Nucleation, Basic Theory with Applications, Butterworth-Heinemann, 2000及びKashchiev and van Rosmalen Review: Nucleation in solutions revisited, Cryst.Res.Technol., vol 38, No. 7-8, 555-574, 2003を参照)。溶媒−貧溶媒沈殿の場合、特にいわゆる「逆」添加シーケンスを適用すると、過飽和は高くなることができる。逆添加とは、溶質溶液を貧溶媒に添加することを意味する。これは、典型的に、貧溶媒を溶質溶液に添加する場合よりも高い過飽和を形成する。この文脈においては、10以上の過飽和比が高いとみなされる。
【0006】
有機化合物の沈殿又は結晶化の分野、特に2種の反応溶液を迅速且つ完全に混合し、狭い粒径分布を有するマイクロサイズ又はナノサイズ粒子として溶質を沈殿させる分野において、広範囲の研究開発が行われてきた。好ましくは、混合プロセスは、粒子の核生成が開始する前に終了しなければならない、即ち、混合プロセスにおいて2種の溶液が混合されて分子レベルで分散した均一な混合物となっていなければならない。通常、いかなる不均一性も、粒径分布を広げる。およそ1μm未満の平均粒径が望まれる粒子の場合、通常、適切な添加剤による安定化が好ましい。そのような小粒径粒子は、典型的には、高い過飽和から非常に高い過飽和の条件下で形成され、その条件下では粒子成長もまた非常に急速である。しかし、過飽和が無視できる値まで減退し核生成が停止する前に、多数の粒子の形成(核生成)をより長い時間継続させるために、粒子成長は低くなければならない。そのような添加剤は、結晶表面に吸着して結晶表面の成長部位をブロックする化合物である。好適な添加剤は、典型的には、両親媒性ポリマー若しくはコポリマー、界面活性剤、又はそれらの任意の組合せである。
【0007】
結晶化のための標準的な機器は、連続攪拌タンク式反応器(Continuously Stirred Tank Reactor、CSTR)である。これは、混合用の攪拌器と、急速な攪拌速度が必要となるたびに渦の形成を制限するための邪魔板とを有する。この種類の晶析装置には、攪拌力の不均一性を含むいくつかの欠点があり、いくつか例を挙げると、不均一な混合、発泡、及び粒子凝集を引き起こす。一般にこの方法を使用して狭い粒径分布の小粒径を得ることはできない。
【0008】
他の結晶化法は、欧州特許出願公開第1.157.726号明細書及び米国特許第5.314.506号明細書、並びに、Johnson et al., ACS Symposium series (2006), 924 (Polymeric Drug Delivery II), 278-291(アメリカ化学会発行、CODEN: ACSMC8 ISSN: 0097-6156)の第18章に記載の衝突噴流を使用する。この方法では、ジェット流は直接衝突し、溶液のマイクロ混合を可能にする温度及び圧力条件下において、衝撃点で激しい乱流を形成する。衝突噴流法は、一般に、衝突して即時の激しい乱流衝撃を形成する、2つの実質的に正反対のジェット流を提供するステップを含む。1つの標準的な結晶化プロセスは、結晶化させる化合物の過飽和溶液を、適切な「貧溶媒」又は結晶化剤と混合するステップを含む。他の標準的な結晶化プロセスは、結晶化させる化合物の溶液をその過飽和点までもたらすために、その溶液の温度変化を使用する。
【0009】
反対方向の衝突噴流による既知の方法では、粒径が5〜1000μmの結晶性生成物を調製することが可能である。ジェットがごくわずかにずれただけでも溶液及び貧溶媒は十分に混合せず、より広い粒径分布をもたらすため、反対方向の衝突噴流による方法の欠点は、ジェットノズルの位置決め及び位置合わせの正確性である。また、わずかに逸脱した場合であっても、ノズルでの結晶化によりジェットノズルが詰まる可能性がある。さらに、ジェットノズルのうちの1又は複数からの不十分な流速は、特に溶液の大部分が望ましい衝撃点でマイクロ混合されない場合に、生成中のバッチ全体の品質に影響し得る。そのような場合、狭い小粒径分布は達成できない。一般に、衝突するジェット流の好ましい流量は、変動の余地がほとんどない。
【0010】
欧州特許出願公開第1.157.726号明細書及び米国特許第6.302.958号明細書は、強力な混合を達成するための、超音波プローブを有する衝突噴流デバイスの使用をさらに開示している。この方法は、衝突噴流法と類似した欠点を有する。
【0011】
米国特許出願公開第2005/202095号明細書(国際公開第03/033097号パンフレット)は、貧溶媒、反応、塩析、又は急冷による沈殿及び結晶化での微小粒子生成のための強力インライン型ロータ−ステータ装置を開示している。しかし、米国特許出願公開第2005/202095号明細書に開示される装置は、様々な欠点を有する。まず第1に、過飽和の制御が幾分困難である。同じ位置での溶媒及び貧溶媒の同時導入(図1、参照番号9及び10を参照)は、不安定な混合物につながる可能性がある。さらに、この装置は、混合がほとんど起こらないデッドスペースを有し、これは不均一な混合物及び広い粒径分布をもたらす。本発明の文脈内でより重要なことには、米国特許出願公開第2005/202095号明細書に開示されるデバイスは、ステータ5を包囲する「第1の空洞3」として定義される「閉鎖混合型チャンバ」を備え、上記ステータ5は、開口部13として定義される多数の「出口」を有する。さらに、「第1の空洞3」は、「第1の空洞3」として定義される「閉鎖混合型チャンバ」の外壁とステータ5との間に環状の空隙を形成する、「渦巻部14」を備える。これらの「渦巻部14」においては混合がほとんど起こらないため、当業者にとって、「渦巻部14」は「閉鎖混合型チャンバ」の一部ではない。結果として、米国特許出願公開第2005/202095号明細書による「閉鎖混合型チャンバ」は、開口部13として定義される多数の出口を有する。さらに、沈殿したグリシン粒子の直径が約4.4〜300μmの間の範囲であったことを実施例が示しているように、大粒子が生成される。
【0012】
無機塩の沈殿の分野では、米国特許第5.985.535号明細書は、特殊な装置内で行われる特定の沈殿ステップを含む、ハロゲン化銀エマルジョンを生成するためのプロセスを開示している。この装置は、互いに実質的に反対方向に位置する攪拌手段を有する閉鎖型攪拌タンクを備える。攪拌手段は、高速で、即ち1000rpm以上で、逆方向に駆動される。攪拌手段はまた、閉鎖型攪拌タンクを通って突出する回転軸を用いず、モータに接続された外部磁石と連結した磁石を使用することにより駆動される。この装置の有機物質の沈殿に対する適合性は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1.157.726号明細書
【特許文献2】米国特許第5.314.506号明細書
【特許文献3】米国特許第6.302.958号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/202095号明細書
【特許文献5】国際公開第03/033097号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/20295号明細書
【特許文献7】米国特許第5.985.535号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Granberg et al, Primary nucleation of paracetamol in acetone-water mixtures, Chem.Eng.Sci., vol 56, 2305-2313, 2001
【非特許文献2】Kashchiev, Nucleation, Basic Theory with Applications, Butterworth-Heinemann, 2000
【非特許文献3】Kashchiev and van Rosmalen Review: Nucleation in solutions revisited, Cryst.Res.Technol., vol 38, No. 7-8, 555-574, 2003
【非特許文献4】Johnson et al., ACS Symposium series (2006), 924 (Polymeric Drug Delivery II), 278-291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
有機化合物の結晶化のための上述の方法及びデバイスは、いくつかの欠点を有するため、平均粒径が小さく、かつ再現性があり、狭い平均粒径分布を有する、高純度の有機/薬学的粒子の形成を提供する方法及びデバイスの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
有機/薬学活性化合物を、狭い粒径分布を有する非常に小さな粒子として沈殿させるための、効率的且つ再現性のある方法を求めて、本発明者らは、誘導期間の後に、時間的に安定した沈殿物と液相との混合物が閉鎖型混合チャンバ内で得られる、閉鎖型混合チャンバ内の有機化合物を制御された連続して沈殿させる方法及びデバイスを設計した。したがって、本発明は、それに従い、有機化合物を沈殿させる方法であって、
(a)第1の溶媒中の上記有機化合物の溶液(I)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;
(b)ステップ(a)と同時に、沈殿剤(II))を、第2の入口を介して前記閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;
(c)上記有機化合物の溶液(I)及び沈殿剤(II)を、超音波処理、回転式磁気攪拌手段、又は回転式機械攪拌手段により混合し、それにより前記有機化合物の沈殿物及び液相を形成するステップ;及び
(d)上記有機化合物の沈殿物及び液相を、単一の出口を介して前記閉鎖型混合チャンバから排出するステップを含む方法に関する。
【0017】
本発明は、さらに、有機化合物の沈殿のためのデバイス1であって、
(a)閉鎖型混合チャンバ3;
(b)溶媒中の前記有機化合物の溶液(I)を送給するための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口4;
(c)前記閉鎖型混合チャンバ3に沈殿剤(II)を送給するための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口5;
(d)前記有機化合物の沈殿物及び液相を受けるための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された単一の出口6; 及び
(e)機械攪拌手段2であって、上記閉鎖型混合チャンバ3に備えられている機械攪拌手段2とを備えるデバイスに関する。
【0018】
したがって、閉鎖型混合チャンバ内の実質的に全容量において効果的な混合が達成される該閉鎖型混合チャンバにおいて、単一の出口は、米国特許出願公開第2005/020295号明細書に開示される装置に勝る独特の利点を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、本発明の方法及び/又はデバイスにより得られる沈殿物の、薬学的組成物又は製剤における活性薬剤成分としての使用、並びに、本発明の方法により得られる沈殿物の、薬学的組成物又は製剤の製造における使用、即ち、賦形剤、添加剤、又は薬学活性化合物としての使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のデバイスの全体像を示す図である。
【図2】本発明のデバイスの好ましい実施形態の断面図である。
【図3】本発明のデバイスの他の好ましい実施形態の断面図である。
【図3A−3B】図3に示されるデバイスのより好ましい実施形態の上面図である。
【図4】本発明のデバイスのさらに他の好ましい実施形態の断面図である。
【図5】従来の連続攪拌タンク式反応器(CSTR)において行われる結晶化プロセスで得られるプレグネノロンの結晶を示す図である。
【図6】図5に示されるプレグネノロンの結晶の粒径分布を示す図である。
【図7】図2に従うデバイスにおいて行われる結晶化プロセスで得られるプレグネノロンの結晶を示す図である。
【図8】図7に示されるプレグネノロンの結晶の粒径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書及び請求項において、「備える(to comprise)」という動詞及びその活用形は、その単語の後にくる項目が含まれるが、具体的に示唆されていない項目が除外されないことを意味するように、非制限的な意味で使用される。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素の言及は、文脈上明確にその要素が1つのみ存在すると解すべき場合を除いて、その要素の2つ以上が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0022】
本明細書において、「有機化合物」という用語は、その最も広い意味で、少なくとも1つの炭素原子を含む化合物を指す。通常、有機化合物はまた、水素原子を含む。有機化合物はまた、ヘテロ原子、例えば、酸素原子、窒素原子、及び/又はリン原子を含むことが非常に多い。特に、「有機化合物」という用語は、通常、製薬、染料、農業、及び化学産業の分野において有機化合物とみなされるものを指す。「有機化合物」という用語はまた、金属原子を含む化合物、即ち、ヘモグロビン等の有機金属化合物、及び塩を含む。「有機化合物」という用語は、ホルモン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、アミノ酸、脂質、ビタミン、酵素等の「生物学的」有機化合物を含む。「有機化合物」という用語はまた、異なる結晶形、即ち、多形体、水和物、及び溶媒和物、並びに、付加塩を含む塩を包含する。
【0023】
「沈殿」という用語は、溶液沈殿の分野のサブクラスを指す。沈殿は、多くの場合、(i)沈殿粒子の低溶解度、(ii)高速プロセス、(iii)小粒径、及び(iv)プロセスの不可逆性(W. Gerhartz in: Ullmans encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. B25th ed., VHC Verlagsgessellschaft mbH, Weinheim, FGR, 1988)という特徴のうちの1又は複数で認識される。本発明の文脈において、沈殿に対する適した定義は、溶液相からの難溶性固相の比較的急速な形成(Handbook of Industrial crystallization, Edited by Allan S. Myerson, Butterworth Heinemann, Oxford, p141)である。
【0024】
一般に、沈殿をもたらす以下の2種類のプロセスを認めることができる。
− そのようなプロセスの第1の種類は、貧溶媒(非溶媒とも称される)沈殿である。沈殿物が形成するように、溶解した有機化合物を、その溶解度を低下させる溶媒と混合する。貧溶媒沈殿の変形例は、溶解した有機化合物を必ずしも貧溶媒と混合する必要はないが、核が形成されるように、沈殿させる溶媒の溶解度を低下させるように混合することである。これは、例えば、温度、pH(酸又はアルカリ溶液の添加)、イオン強度等、及びそのような因子の組合せの変動により達成することができる。
− そのようなプロセスの第2の種類は、反応沈殿である。2成分を混合して新たに形成される有機化合物の形成をもたらし、用いる混合条件又は反応条件の下での形成された有機化合物の低溶解度に起因して、沈殿物が形成する。
【0025】
明らかに、「沈殿」という用語は、固体小粒子が形成されるいかなるプロセスも包含し、例えば結晶化を含むがこれに限定されない。
【0026】
「貧溶媒」又は「非溶媒」という用語は、通常、有機化合物の溶解度が、20℃の温度及び1バールの圧力下で、溶媒及び有機化合物の総重量を基準として1重量%未満、好ましくは10−2重量%未満である溶媒として理解される。溶媒は、極性であっても非極性であってもよい。溶媒は、プロトン性であっても非プロトン性であってもよい。溶媒は、さらに、非イオン性であってもイオン性であってもよい。しかし、ある条件下では、溶媒は、例えば超臨界二酸化炭素等の超臨界状態の気体であってもよい。明らかに、溶媒は異なる溶媒の混合物であってもよく、その場合混合物は、実質的に均一であるか、又は2つの相を含む。しかし、溶媒は1種の有機溶媒を含むのが好ましい。さらに、溶媒は1種の有機溶媒であるのがより好ましい。加えて、有機化合物の溶液を形成するために使用される溶媒は、貧溶媒と相溶性であるのが好ましい。
【0027】
「過剰飽和」(又は「過飽和」)という用語は、所与の条件、即ち溶媒又は溶媒混合物、温度、pH、イオン強度等の下で飽和を上回る有機化合物の濃度を意味する。
【0028】
本発明による方法において、第1の溶媒中の有機化合物又は有機化合物の前駆体の溶液(I)は、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに連続流で送給され、提供される。同時に、沈殿剤(II)が、同じく連続流で、第2の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給される。閉鎖型混合チャンバは、この溶液(I)用の2つ以上の第1の入口、及び沈殿剤(II)用の2つ以上の第2の入口を有してもよい。次のステップにおいて、溶液(I)及び沈殿剤(II)が混合され、該混合物は、有機化合物の過剰飽和、好ましくは安定した過剰飽和S10を提供し、有機化合物の沈殿物及び液相の形成をもたらす。「S10」という用語は、添加開始後10秒での過剰飽和比Sを示す。これは、S10=C10/C10,eとして定義され、式中、C10は、添加開始後10秒での溶質の計算濃度と等しく、C10,eは、添加開始後10秒での溶質の平衡溶質濃度と等しい。
【0029】
最後に、沈殿物と液相の混合物は、閉鎖型混合チャンバから、好ましくは同じく連続流で、好ましくは回収(又は受容)槽内に排出される。本発明によれば、閉鎖型混合チャンバの単一の出口では、基本的に過剰飽和がないことが好ましい。さらに、本発明によれば、入口及び単一の出口以外に、閉鎖型混合チャンバには他の開口部は存在しない。これは、第1及び第2の入口並びに単一の出口からを除き、溶媒、液体、溶液、粒子等が閉鎖型混合チャンバに進入することもそこから出ることもできないことを意味する。
【0030】
有機化合物の溶液(I)は、単一の溶媒又は溶媒の混合物を含むことができ、溶媒(複数を含む)は、極性であっても非極性であってもよく、プロトン性であっても非プロトン性であってもよく、及び/又は非イオン性であってもイオン性であってもよい。適切である場合には、溶媒は、例えば超臨界二酸化炭素等の超臨界状態の気体であってもよい。
【0031】
沈殿剤(II)の好ましい性質及び組成は、使用される有機化合物及びプロセスに依存し、例えば、溶液(I)と比較して、より低い温度(低温沈殿の場合)、異なるイオン強度、又は異なるpHを有する溶液であってもよい。また、沈殿剤(II)は、非溶媒、非溶媒の混合物、又は非溶媒と溶媒との混合物であってもよい。
【0032】
本発明による方法は、低ミクロン、サブミクロン、又はさらにナノメートルの範囲の狭い平均粒径分布を有する非常に小さい粒子の沈殿に非常に適している。そのような小粒子の欠点は、それらが不安定である傾向を有することであり、したがって、それらの粒子の安定性を増加させるために、好ましくは安定化剤及び/又は湿潤剤が添加される。したがって、溶液(I)及び/又は沈殿剤(II)は安定化剤を含むことが好ましい。また、溶液(I)及び/又は沈殿剤(II)は湿潤剤を含むことがさらに好ましい。
【0033】
本発明によれば、これらの安定化剤は、好ましくは、タンパク質、酵素、ペプチド、ポリペプチド、ゼラチン、アミノ酸、両親媒性ポリマー、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、RNA配列、DNA配列、炭水化物、多糖類、オリゴ糖、二糖類、単糖類、脂質、脂肪酸(脂肪酸は、飽和、不飽和、又は多重不飽和であってもよい)、植物化学物質、ビタミン、ミネラル、塩、着色剤、顔料、甘味料、固結防止剤、増粘剤、乳化剤、抗菌剤、酸化防止剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される成分を含む。安定化剤は、好ましくは両親媒性ポリマーを含む。
【0034】
より好ましくは、安定化剤は、タンパク質、酵素、ペプチド、ポリペプチド、ゼラチン、アミノ酸、両親媒性ポリマー、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、RNA配列、DNA配列、炭水化物、多糖類、オリゴ糖、二糖類、単糖類、脂質、脂肪酸(脂肪酸は、飽和、不飽和、又は多重不飽和であってもよい)、植物化学物質、ビタミン、ミネラル、塩、着色剤、顔料、甘味料、固結防止剤、増粘剤、乳化剤、抗菌剤、酸化防止剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される。安定化剤は、好ましくは両親媒性ポリマーである。
【0035】
好ましい両親媒性ポリマーは、両親媒性ブロックポリマーであり、より好ましくは両親媒性ブロックコポリマーである。好ましい両親媒性ブロックコポリマーは、生体適合性の両親媒性ブロックコポリマーから選択され、その好ましいブロックタイプ及びブロック長は、沈殿させる有機化合物、及び沈殿後の好ましい平均粒径に依存して変動し得る。
【0036】
好ましくは、両親媒性ブロックコポリマーは、親水性及び疎水性ブロックを含む。さらに、両親媒性ブロックコポリマーは、ジブロックコポリマー又はトリブロックコポリマー、より好ましくはジブロックコポリマー、特に親水性ブロック及び疎水性ブロックを有するジブロックコポリマーであることが好ましい。
【0037】
好ましい親水性ブロックは、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)及び/又はポリ(エチレングリコール)モノエーテル(「PEG」エーテル)ブロックである。好ましいエーテルは、1〜4つの炭素原子、好ましくは1つの炭素原子を有し、最も好ましくは、エーテルはメチルエーテルである。
【0038】
好ましい疎水性ブロックは、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(「PLGA」)、ポリ(スチレン)、ポリ(ブチルアクリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、及び、特にポリラクチド(「PLA」)ブロックである。ポリラクチドは、ジラクチド、即ち乳酸の二量体の重合により形成されるポリエステルであり、異なる立体化学配置で、例えばポリ−L−ラクチド、ポリ−D−ラクチド、及びポリ−L,D−ラクチド等として生じ得る。
【0039】
好ましい生体適合性の両親媒性ブロックコポリマーは、PEG及び/又はPEGエーテルブロック、並びにPLAブロックを含むコポリマーを含む。
【0040】
好ましくは、PEG及びPEGエーテルブロックは、250〜5000、より好ましくは400〜4000、さらにより好ましくは500〜2000のMを有する。本発明の好ましい方法において、両親媒性ポリマーは、250〜5000のMを有するPEGブロック、及び/又は、250〜5000のMを有するPEG(C−Cアルキル)エーテルブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーであり、PEGブロック又はPEG(C−Cアルキル)エーテルブロックのMは、より好ましくは400〜4000、さらにより好ましくは500〜2000である。
【0041】
PLAブロックは、好ましくは250〜5000、より好ましくは400〜4000、さらにより好ましくは500〜2000のMを有する。例えば、1000のMを有するPLAブロックで良好な結果が得られた。
【0042】
特に好ましい生体適合性の両親媒性ブロックコポリマーは、PEG(C−Cアルキル)エーテルブロック及びPLAブロックのジブロックコポリマーであり、ここでPEG(C−Cアルキル)エーテルブロック及びPLAブロックは、上述のMを有する。
【0043】
好ましい生体適合性の両親媒性ジブロックコポリマーは、ポリ(エチレングリコール)−PLAジブロックコポリマー、特に以下のものを含む。
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M350〜1500(好ましくは750)、PLA M500〜2000(好ましくは)1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M350〜1500(好ましくは350)、PLA M600〜1600(好ましくは)1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M500〜1100(好ましくは750)、PLA M600〜1600(好ましくは)1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M600〜900(好ましくは750)、PLA M800〜1200(好ましくは)1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M700〜900(好ましくは750)、PLA M800〜1200(好ましくは)1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチド(C−Cアルキル)エーテル、PEG M750、PLA M1000;
ここで、C−Cアルキル基はメチル基であることが好ましい。したがって、好ましい生体適合性の両親媒性ジブロックコポリマーは、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル、PEG M750、PLA M1000である。
【0044】
両親媒性ブロックコポリマーの例には以下が含まれる。
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル、PEG M750、PLA M1000(PEGモノメチルエーテルM750 PLA M1000としても知られる);
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル、PEG M350、PLA M1000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル、PEG M5000、PLA M約5000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ε−カプロラクトン)メチルエーテル、PEG M5000、ポリ(ε−カプロラクトン)M5000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ε−カプロラクトン)メチルエーテル、PEG M5000、ポリ(ε−カプロラクトン)M13000;
ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ε−カプロラクトン)メチルエーテル、PEG M5000、ポリ(ε−カプロラクトン)M32000;これらはすべてSigma-Aldrich Co.社から市販されている。
【0045】
当業者には理解されるように、「メチルエーテル」は、PEG鎖の1つの末端におけるメチル基を指す(両端の場合はPLAのPEGへの付着が妨げられるため、明らかに両端ではない)。また、例えば「PEGモノメチルエーテルM750」等のPEGに対するM値は、PEG自体のMを指すため、メチル基の追加のCH基は含まない。
【0046】
両親媒性ポリマーは、商業的供給源から入手可能であり、又は、プロセスで使用するために合成することもできる。両親媒性ポリマーは、単一の両親媒性ポリマーであっても、2種以上の両親媒性ポリマーを含む混合物であってもよい。好ましい両親媒性ポリマー、即ち、ポリ(アルキレングリコール)(PAG)ブロック(例えばPEGブロック)を有する両親媒性ジブロックコポリマーの調製は、多くの手法で行うことができる。既知の方法は、例えば、X.M. Deng et al., J. Polym. Sci, Part C, Polymer Lett. 28, 411-416, 1990; K.J. Zhu et al., J. Polym. Sci, Part C, Polymer Lett. 24, 331, 1986に開示されている。
【0047】
好ましい安定化剤の他の群は、ゼラチンである。これは、牛、豚、又は魚の骨又は皮由来の、市場で入手可能ないかなるゼラチンであってもよい。しかし、動物由来のゼラチンはいくつかの欠点を有し、また薬学的用途においては、組換え合成ゼラチンが好ましい。
【0048】
上述のように、溶液(I)及び/又は沈殿剤(II)は、有機化合物のための安定化剤を含むことが好ましい。したがって、溶液(I)又は沈殿剤(II)のいずれかは、両親媒性ポリマー、好ましくは両親媒性ブロックコポリマー、最も好ましくは両親媒性ジブロックコポリマーか、又はゼラチン、特に組換えゼラチンを含むことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、溶液(I)及び沈殿剤(II)は、それぞれ、両親媒性ブロックコポリマー及びゼラチンを含むか、又はその逆を含む。
【0049】
さらに、湿潤剤を含む場合、湿潤剤は、好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム、Tween 80、Cremophor A25、Cremophor EL、Pluronic F68、Pluronic L62、Pluronic F88、Span 20、Tween 20、Cetomacrogol 1000、ラウリル硫酸ナトリウム、Pluronic F127、Brij 78、Klucel、Plasdone K90、Methocel E5、PEG、Triton X100、Witconol-14F、及びEnthos D70-30Cからなる群から選択される。本発明の方法に従い沈殿させる粒子が薬学的用途に使用されなければならない場合は、安定剤及び湿潤剤は生体適合性であることが好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、安定化剤及び/又は湿潤剤を閉鎖型混合チャンバに送給する代わりに、安定化剤及び/又は湿潤剤を回収槽に送給することができる。本発明の他の実施形態によれば、安定化剤及び/又は湿潤剤を、回収槽と閉鎖型混合チャンバの両方に送給することができる。本発明のさらに他の実施形態によれば、湿潤剤を、閉鎖型混合チャンバの代わりに回収槽に送給することができる。
【0051】
当業者には明らかなように、有機化合物自体が本発明による方法において使用される必要はない。明らかに、有機化合物の前駆体を使用することができ、その場合、この前駆体を有機化合物自体に転換することができる沈殿剤が使用される。結果として、本発明のこの実施形態によれば、有機化合物の前駆体と反応性の沈殿剤が使用される。これは、例えばプロトン化/脱プロトン化、陰イオン/陽イオン交換、酸付加塩形成/遊離、酸化還元反応、付加反応等による共有結合又はイオン結合の形成が関与する、前駆体と沈殿剤との間の実質的に即時の化学反応を可能とする。明らかに、「実質的に即時の」という用語は、閉鎖型混合チャンバ内の有機化合物(の前駆体)の平均滞留時間よりも実質的に短い時間を意図する。
【0052】
明らかに、過剰飽和が沈殿を引き起こす混合チャンバの部分で、制御された様式で沈殿が生じるように、有機化合物の溶液(I)が沈殿剤(II)と非常に良好に混合されることが重要である。有機化合物の沈殿物及び液相の連続的流出により、閉鎖型混合チャンバ内は定常状態に達し、これを連続的に維持することが可能である。一般に、そして好ましくは、混合チャンバ内の滞留時間は、0.0001秒を超え5秒未満、好ましくは0.001秒を超え3秒未満である。滞留時間が長すぎると、一度混合チャンバ内で形成された超微細粒がより大きな粒径へと成長し、平均粒径分布が望ましくなく広くなる。滞留時間が短すぎると、形成される核が少なすぎる。最適な滞留時間は、有機化合物ごとに変動する。
【0053】
溶液(I)及び沈殿剤(II)は、閉鎖混合チャンバ内で溶液(I)と沈殿剤(II)の安定な混合物が得られる限り、様々な様式で混合することができる。好ましい方法において、溶液(I)及び沈殿剤は、超音波処理により混合される。他の好ましい方法において、溶液(I)及び沈殿剤(II)は、任意の攪拌手段により、好ましくは機械攪拌手段又は磁気攪拌手段により混合される。機械攪拌手段は、好ましくは、混合チャンバ内で回転可能であり、回転可能な羽根であってもよい。回転可能な羽根は、いかなる形態であってもよく、またいかなるアスペクト比を有してもよい。即ち、高さと幅が同様である比を有する櫂の形態であってもよく、又は、高さが幅よりも大幅に小さい円盤の形態であってもよい。「幅」という用語は、櫂等の機械攪拌手段の中心回転軸からその最外端までの、直径方向の距離を表すように意図される。
【0054】
機械又は磁気攪拌手段が使用される場合、攪拌手段の体積は、閉鎖型混合チャンバの10%以上99%以下、より好ましくは15%以上95%以下であることが好ましい。さらに、機械混合が使用される場合、機械攪拌手段は、モータにより回転されるシャフトを備え、対称の攪拌羽根がそのシャフトに取り付けられることが好ましい。攪拌羽根の好ましい大きさは、少なくとも50%である。より好ましい大きさは、少なくとも70%である。さらにより好ましい大きさは、混合チャンバの最小直径の80%から99%の間であり、最も好ましい大きさは、80%から95%の間である。
【0055】
混合を補助するために、有機化合物の沈殿物及び液相は、入口から混合チャンバの反対の端に向かうが入口と直接並んでいない出口を介して、混合チャンバから排出されるのが好ましい。例えば、入口は混合チャンバの底部に位置することができ、出口は混合チャンバの頂部に位置することができる。本発明の実施形態によれば、入口は混合チャンバの中心線の下方(例えば、下方30%の高さ又は下方20%の高さ)にある。出口は、上方70%の高さにあってもよい。本発明の他の実施形態によれば、出口は、入口を通る溶液(I)及び沈殿剤(II)の流れに対し、約直角(例えば80°から100°、特に約90°)を成す。このように、入口から進入する液体は、適切に混合されることなく出口から即時に出ていくことはない。
【0056】
有機化合物の沈殿物及び液相は、好ましくは回収槽内に排出される。回収槽は、安定化剤、湿潤剤、非溶媒、溶媒、又はそれらの混合物のうちの1又は複数を含む第2の液相を含んでもよい。
【0057】
他の実施形態において、好ましい平均粒径及び/又は平均粒径分布が達成されるまで、回収槽内で有機化合物の沈殿物の熟成が行われる。この改良又は熟成は、回収槽内で液相及び沈殿物を攪拌することにより達成することができる。改良又は熟成中、平均粒径は増加し得るが、平均粒径分布は通常狭くなり、これは時には有利である。改良又は熟成は、様々なパラメータ、例えば、温度、pH、又はイオン強度等により制御することができる。結果として、この好ましい実施形態によれば、本発明による方法は、有機化合物の沈殿物及び液相が回収槽内に排出され、そこで有機化合物の沈殿物が熟成ステップに供される、さらなるステップ(e)を含む。
【0058】
さらに他の実施形態において、沈殿剤は、沈殿させる化合物の小粒子を含む。この場合、制御された様式で、より大きな粒子を得ることができる。
【0059】
本発明による沈殿法の誘導期間中、沈殿剤(II)が閉鎖型混合チャンバに連続流で導入され、回収槽に向け単一の出口を介して閉鎖型混合チャンバを出る。続いて、有機化合物の溶液(I)が閉鎖型混合チャンバに連続流で導入されて有機化合物の過剰飽和がもたらされ、それにより沈殿物及び液相の形成が開始する。液相では、閉鎖型混合チャンバの外では実質的に沈殿が生じない程度まで過剰飽和が低減されている。有機化合物の溶液(I)及び沈殿剤(II)が連続的に送給されるため、最終的に沈殿物及び液相の連続的流出が達成される。誘導期間の後、閉鎖型混合チャンバ内は定常状態に達し、これは基本的に、閉鎖型混合チャンバ内の混合物の組成が安定であり、実質的に経時的に変化しないことを意味する。さらに、沈殿物及び液相の流出物の組成も同様に安定であり、実質的に経時的に変化しない。
【0060】
溶液(I)及び沈殿剤(II)の流入の速度は、高速度に限定されない。複数の入口が使用される場合は、1つの流入の速度は、他の流入の速度とは異なっていてもよい。しかし、一般に、溶液(I)及び沈殿剤(II)の流入の送給速度は、0.01m/s、0.1m/s、又は1m/sとなり得る。10m/s、又は50m/sを超える速度でさえも使用可能である。しかし、本発明の方法の利点は、比較的低い送給速度で小粒子沈殿を達成することができるということである。複数の入口の場合の送給速度は、等しい必要はない。それとは対照的に、衝突噴流混合機においては、それらの送給速度が互いに一致することが重要であり、事実上不可欠である。溶液(I)及び沈殿剤(II)の送給速度比は、1:99〜99:1となることができる。誘導期間中、閉鎖型混合チャンバの排出物は、排出物の組成が実質的に一定となるまで回収される。定常状態に達したらすぐに、沈殿物及び液相は回収槽に回収される。
【0061】
本発明によれば、沈殿させる有機化合物又はその前駆体は、好ましくは、上述の溶媒又は溶媒混合物中に溶解している。沈殿剤(II)の種類又は性質は、沈殿の方法に依存する。溶媒−非溶媒沈殿の場合には、沈殿剤は、好ましくは、非溶媒、非溶媒の混合物、又は非溶媒と溶媒の混合物(該混合物は非溶媒として機能する)である。温度を低下させることにより沈殿が引き起こされる場合、沈殿剤は、好ましくは、沈殿を開始させる温度を有する溶媒又は溶媒混合物である。pHによる沈殿又はイオン強度による沈殿の場合、沈殿剤は、それぞれ、沈殿を開始させるpH又はイオン強度を有する溶液であり得る。反応沈殿の場合、沈殿剤は、有機化合物の前駆体と反応し、それにより沈殿を誘導する反応物質である。
【0062】
Soehnel及びGarside("Precipitation, Basic Principles and Industrial Applications", Butterworth-Heinemann, 1992)は、古典的な核生成理論を用いた閉鎖系における沈殿動力学を説明している。古典的な核生成理論は、主に定常状態の核生成速度Jの決定、即ち、熱力学的準安定系の、単位時間間隔あたり単位体積に形成される超臨界クラスタ数の推定を扱う。一般に、Jの値が高いと、高い粒子数が得られ、したがって小粒径が得られる。
【0063】
Schmelzer及びSlezov(Theoretical Determination of the Number of Clusters Formed in Nucleation-Growth Processes, Chapter 9, in "Aggregation Phenomena in Complex Systems, Ed. J. Schmelzer, G. Ropke, R. Manhke, Wiley-VCH, 1999)は、より少ない仮定しか導入せずに、古典的な核生成及び成長理論を改良した。例えば、一度に1つのモノマー単位で核成長が生じるという仮定を排除した。過剰飽和は、沈殿中の固体の核生成及び成長速度を決する主要なパラメータの1つである。しかし、核生成理論は、塩沈殿に成功裏に使用されているが、溶媒−貧溶媒沈殿における沈殿有機固体の粒径分布の予測においては、成功が限定されている。おそらく、これにはOstwald熟成等の高速二次プロセスが関与している可能性がある。
【0064】
同時係属特許出願PCT/GB2007/002786(2007年7月20日出願)に説明されるように、最も実用的なバッチ用途においては、定常状態は系内で非常に短い期間しか確立することができない。
【0065】
本発明による方法の重要な因子は、過剰飽和(又は過飽和)の値である。核生成速度計算に必要な単純化を行うために、沈殿プロセスは、閉鎖型混合チャンバ内で常時完全な混合が行われる栓流混合プロセス(過剰飽和S10は上に定義される)として扱われる。この点において、過剰飽和は、実際の濃度を平衡濃度(溶液がちょうど飽和した濃度を意味する)で除した比として定義される。流量、温度、又は濃度が時間依存性である場合は、S10は時間依存性となり得る。10秒は、不安定な混合チャンバ組成及び温度の立ち上がりの効果を考慮した。好ましい実験条件は、S10に対し高い値をもたらすものである。沈殿させる化合物に依存して、1.5を超える、2.5を超える、10を超える、またさらにそれよりも大きい過剰飽和値が有利となり得る。ある化合物に対しては、100以上もの過剰飽和値を使用することができる。過剰飽和は、当業者には明らかなように、温度や溶液中の有機化合物濃度等のパラメータにより制御することができる。
【0066】
本発明による方法は、平均粒径が小さく粒径分布が狭い、おそらくは結晶性の粒子としての、有効薬剤化合物の沈殿に非常に適している。薬剤小粒子は、薬物における使用に非常に適している。本発明の他の利点は、沈殿した結晶性有機化合物が高純度であり、実質的に不純物を含まないことである。
【0067】
本発明の方法により得られる粒子は、非晶質性であってもよく、又は結晶性であってもよい。
【0068】
本発明の方法に従い沈殿させることができる化合物は、好ましくは、薬学活性化合物であり、好ましくは、アナボリックステロイド、中枢神経興奮剤、鎮痛剤、麻酔薬、制酸剤、抗不整脈剤、抗喘息剤、抗生物質、虫歯予防薬、抗癌剤、抗凝血剤、アンチコフォナージック(anticofonergics)、抗痙攣薬、抗鬱剤、抗糖尿病薬、止瀉薬、制吐薬、抗癲癇薬、抗真菌剤、駆虫薬、痔薬、抗ヒスタミン剤、抗ホルモン剤、降圧剤、抗低血圧剤、抗炎症薬、抗ムスカリン薬、抗かび剤、抗腫瘍薬、抗肥満薬、歯石防止薬、抗原虫薬、抗精神病薬、消毒剤、鎮痙薬、抗トロンビン剤、鎮咳薬、抗ウイルス薬、抗不安薬、収斂剤、ベータアドレナリン受容体遮断薬、胆汁酸、息清涼剤、抗気管支痙攣薬、気管支拡張薬、カルシウムチャネル遮断薬、強心配糖体、避妊薬、コルチコステロイド、充血除去剤、診断用薬、消化薬、利尿薬、ドーパミン作動薬、電解質、吐薬、去痰薬、止血剤、ホルモン、ホルモン補充療法薬、睡眠薬、血糖降下薬、免疫抑制剤、性的不全治療薬、下剤、脂質調整剤、粘液溶解薬、筋肉弛緩剤、非ステロイド系抗炎症薬、栄養補給食品、鎮痛剤、副交感神経遮断薬、副交感神経作用薬、プロスタグラジン、精神刺激薬、向精神薬、鎮静剤、性ステロイド、鎮痙作用薬、ステロイド、刺激薬、サルファ剤、交感神経遮断薬、交感神経作用薬、交感神経様作用薬、甲状腺ホルモン様作用薬、甲状腺ホルモン抑制薬、血管拡張薬、ビタミン、キサンチン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましい有機化合物は、パクリタキセル(タキソールとしても知られる)である。
【0069】
本発明はまた、好ましくは本発明の方法を実行するための沈殿デバイスに関する。本発明によるデバイスの第1の実施形態を、図1に概略的に開示する。この第1の好ましい実施形態によるデバイス1は、攪拌手段2と、閉鎖型混合チャンバ3と、第1の溶媒中の有機化合物の溶液(I)を送給するための第1の入口4であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口4と、閉鎖型混合チャンバ3に沈殿剤(II)を送給するための第2の入口5であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口5と、有機化合物の沈殿物及び液相を受けるための単一の出口6であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された出口6とを備える。例示を目的として、攪拌手段2は、単一の攪拌羽根として示されているが、当業者には理解されるように、また以下で明らかなように、その代わりに攪拌又は混合を行うことができる他の手段を使用することができる。図1に実際に示されているような入口4及び5、並びに出口6の位置もまた、例示目的のみで示されている。しかし、これらの入口4及び5、並びに出口6の他の位置が実現可能であり、本発明の範囲内である。特に、入口4及び5、並びに出口6の位置は、有機化合物の閉鎖混合チャンバ内での平均滞留時間をある程度決定する。一般に、混合チャンバは、底部及び頂部を有する。さらに、混合チャンバを底部及び頂部で分断する、混合チャンバを通る中心線を画定することができる。さらに、最も低い底部を0%の高さ、中心線を50%の高さ、最上部を100%の高さとして画定することができる。閉鎖混合チャンバのこの概要を用いて、入口4及び5は、中心線の下方、例えば下方30%の高さ又は下方20%の高さの、混合チャンバの底部で接続される必要がある。単一の出口6は、中心線の上方、例えば上方70%の高さの、混合チャンバの上部に位置する必要がある。入口4及び5は、互いに正反対であってもよい。入口4及び5はまた、実質的に平行となるように整列されてもよい。入口4及び5はまた、下側の底部を介して独立して閉鎖型混合チャンバに進入してもよい。同様に、出口6は、図1において、閉鎖型混合チャンバ3の頂部に位置するように示されているが、閉鎖型混合チャンバ3の側壁のより高い位置に位置してもよい。出口6が閉鎖型混合チャンバ3の頂部に位置する実施形態の利点は、汚染につながり得る軸受が必要ないという点である。
【0070】
閉鎖型混合チャンバ3の大きさは、沈殿が行われる規模に依存する。小規模では、典型的には、0.5〜150cm又は0.15〜100cmの閉鎖混合チャンバを使用し、中規模では、150〜500cm又は100〜250cmの閉鎖型混合チャンバ、また大規模では、500cmを超え1000cmまでの、又はさらに1mの閉鎖型混合チャンバを使用することができる。好ましくは、閉鎖型混合チャンバの大きさは、1cm〜1dmである。
【0071】
好ましくは、流入する溶液(I)及び沈殿剤(II)の流れの間の物理的な障壁として機能するように、入口の間に少なくとも1つの攪拌手段が位置する。このように、攪拌手段は、さもないと入口を閉塞しかねない、それらの入口での沈殿物形成の可能性を低減する。代わりに、溶液(I)及び沈殿剤(II)の流れは、「真正面」からではなく、外周に沿って接触する。
【0072】
デバイス1は、好ましくは、回収槽を有するか、又はそれに接続されてもよい。回収槽は、好ましくは攪拌手段を備える。任意選択で、閉鎖型混合チャンバは、回収槽により取り囲まれてもよい。或いは、閉鎖型混合チャンバは、使用者の選択により、回収槽に隣接して、又はそこから離れて位置してもよい。当業者には明らかなように、本発明のデバイス1及び/又は回収槽は、例えば、それぞれ閉鎖型混合チャンバ及び回収槽内の温度を制御するための制御手段を有することができる。そのような制御手段は、例えば、溶液(I)、沈殿剤(II)、閉鎖型混合チャンバ3、及び供給タンクの温度を制御するために使用することができる。
【0073】
本発明のデバイス1は、有機化合物の溶液(I)を含む供給タンク(図示せず)及び沈殿剤(II)を含む供給タンク(図示せず)を備える。供給タンクは、ホース又は固定された管等の供給ラインにより閉鎖型混合チャンバに接続される。混合チャンバへの移送は、ポンプにより提供される連続流で行われる。長期間にわたりポンプが安定した流量を提供することができる限り、ポンプは当技術分野で知られたいかなるポンプであってもよい。適したポンプは、例えば、プランジャポンプや蠕動ポンプ等である。
【0074】
閉鎖型混合チャンバの形状は、原則として自由に選択することができ、中心軸の周りで回転対称である場合には、例えば、互いにxの距離だけ離れた2つの同一表面、即ち1つの頂面及び1つの底面により特定することができ、これらの表面は長方形から十二角形まで、又は、該当する場合には最小直径がDminの円まで、いかなる形状を有してもよい。例えば、正方形の形状を有する閉鎖型混合チャンバの場合、Dminは対向する辺の間の距離である。この実施形態において、xは、Dminより大きくてもよく、或いは、xはまたDminより小さくてもよい。さらなる実施形態において、頂面及び底面は同一である必要はないが、1つの表面の大きさは、例えば他の表面より小さくてもよい。
【0075】
本発明によるデバイスの好ましい実施形態を図2に示す。このより好ましい実施形態は、本質的に、米国特許第5.985.535号明細書(参照することにより本明細書に明示的に組み入れられる)に開示される装置である。図2において、デバイス1は、攪拌手段2a、2bと、頂部及び底部の方向を向く回転の中心軸を有するタンク本体7、及びタンク本体7の頂部及び底部の開口端を封止するタンク壁として機能するシール板8からなる閉鎖型混合チャンバ3とを備える。タンク本体7及びシール板8は、好ましくは、以下により詳細に明確化するように、磁気攪拌が使用される場合に優れた透磁率を有する非磁性材料で作製される。攪拌手段2a、2bは、外部磁石10a、10bを有し、実質的に互いに反対方向にある、閉鎖型混合チャンバ3の頂端部及び底端部の外側に配置される。外部磁石10a、10bは、磁力により、閉鎖混合チャンバの内側の攪拌羽根9a、9bに結合される。モータ11a及び11bは、外部磁石10a及び10bを逆方向に駆動する。これにより、攪拌羽根9a、9bは、閉鎖混合チャンバ内で逆方向に回転する。
【0076】
さらに、図2において、閉鎖型混合チャンバ3は、第1の溶媒中の有機化合物の溶液(I)を送給するための第1の入口4であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口4と、閉鎖型混合チャンバ3に沈殿剤(II)を送給するための第2の入口5であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口5と、有機化合物の沈殿物及び液相を受けるための単一の出口6であって、閉鎖型混合チャンバ3に接続された出口6と、を有する。入口4及び5は正反対となるように示されているが、実質的に平行となるように整列されてもよい。閉鎖型混合チャンバ3の形状として、円筒形状がしばしば使用されるが、当業者には明らかなように、長方形、六角形、及び他の様々な形状が使用されてもよいことは明白である。同様に、攪拌羽根9a、9bを駆動する攪拌手段2a、2bは、閉鎖型混合チャンバ3の反対方向の頂端部及び底端部に配置されるように示されているが、明らかに、混合チャンバの形状に依存して、反対方向の左右側部に配置されてもよく、又は対角線上に配置されてもよい。さらに、閉鎖型混合チャンバ3は、逆方向に回転する攪拌羽根のより多くの対を備えてもよい。
【0077】
図2に従うデバイスの他の実施形態において、例えば、1つ、3つ、又は5つの磁気攪拌手段等、奇数の磁気攪拌デバイスを使用することができる。加えて、単一の攪拌手段と組み合わせた、対として配向した攪拌手段の使用が、さらにより効率的な攪拌につながり得る。
【0078】
本発明によれば、図2に従うデバイスにおいて使用される、有機化合物を沈殿させるための好ましい方法は、
(I)有機化合物及び第1の溶媒を含む溶液(I)を含む流れ(i)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給し、流れ(i)と同時に第2の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給される沈殿剤(II)を含む流れ(ii)に、流れ(i)を接触させ、それにより有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を形成するステップと、
(II)好ましくは有機化合物の溶液を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向と並流となる幾何学的方向に、有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を、単一の出口を介して閉鎖型混合チャンバから排出するステップと、を含む。
【0079】
「並流となる方向(concurrent direction)」という用語は、流れ(iii)の方向が流れ(i)の方向に逆行しないことと理解されたい。「並流となる方向」という用語は、より具体的には、流れ(i)の軸及び流れ(iii)の軸により決まる角度が90°〜180°変動するものとして理解されたい。
【0080】
この好ましい方法において、有機化合物を含む溶液(I)を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向と実質的に正反対の方向に、沈殿剤(II)を含む流れ(ii)が閉鎖型混合チャンバに送給されることがさらに好ましい。
【0081】
本発明によるデバイスの他の好ましい実施形態を図3に示す。図3において、デバイス1は、攪拌手段2と、頂部及び底部の方向を向く回転の中心軸を有するタンク本体7からなる閉鎖型混合チャンバ3とを備える。攪拌手段2は、好ましくは、閉鎖型混合チャンバ3の中心に配置され、好ましくは、直接攪拌軸12及びモータ(図示せず)を介して駆動され得る。入口4及び5は、好ましくは、実質的に互いに垂直である。しかし、入口4及び5の位置は交換可能であり、即ち、入口4は、閉鎖型混合チャンバ3にその底部を介して進入してもよく、一方入口5は、閉鎖型混合チャンバ3に側壁を介して進入してもよい。或いは、入口5は、閉鎖型混合チャンバ3にその底部を介して進入してもよく、一方入口4は、閉鎖型混合チャンバ3に側壁を介して進入する。入口4及び5の両方が側壁を通して進入することも可能であり、その場合、水平面内での入口間の角度はいかなる値を有してもよいが、好ましくは90°と180°の間である。この実施形態において、攪拌軸又はシャフト12は、閉鎖型混合チャンバ3の単一の出口6内に位置する。さらに、入口4及び5の両方が、閉鎖型混合チャンバ3の底部を介して進入することが可能である。好ましい実施形態において、貧溶媒がそこから閉鎖型混合チャンバ3に進入する入口5は、反応チャンバへの入口での望ましくない沈殿が防止されるように、底部に設置される。
【0082】
さらに、デバイスのこの実施形態において、攪拌手段2の体積が、閉鎖型混合チャンバ3の体積の10%以上99%以下、好ましくは95%以下であることも極めて好ましい。したがって、本発明の沈殿デバイス1の好ましい実施形態は、軸又はシャフト12を備える攪拌手段2と、頂部及び底部の方向を向く回転の中心軸を有するタンク本体7からなる閉鎖型混合チャンバ3と、好ましくは実質的に互いに垂直である入口4及び入口5と、攪拌手段2の軸又はシャフト12が位置する出口6とを備える。
【0083】
図3の実施形態によるデバイスは、デバイス1のこの実施形態の上面図を示す図3A及び3Bに示されるような可動部から構築することができる。ここで、閉鎖型混合チャンバ3は、ヒンジ14を中心に回転可能な2つのチャンバ可動部13により形成される。チャンバ可動部13は、攪拌手段2の周りで連結される。
【0084】
本発明によれば、図3に従うデバイスにおいて使用される、有機化合物を沈殿させるための好ましい方法は、
(I)有機化合物及び第1の溶媒を含む溶液(I)を含む流れ(i)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給し、流れ(i)と同時に第2の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給される沈殿剤(II)を含む流れ(ii)に、流れ(i)を接触させ、それにより有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を形成するステップと、
(II)有機化合物の溶液を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向、又は沈殿剤(II)を含む流れ(ii)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向のいずれかに実質的に垂直な幾何学的方向に、有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を閉鎖型混合チャンバから排出するステップと、を含む。
【0085】
或いは、ステップ(II)はまた、有機化合物の溶液を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向、又は沈殿剤(II)を含む流れ(ii)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向のいずれか、又は両方の入口が閉鎖型混合チャンバにその底部を介して進入する場合はその両方と実質的に並流となる幾何学的方向に、有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を閉鎖型混合チャンバから排出するステップを含んでもよい。
【0086】
本発明によるデバイスの他の好ましい実施形態を図4に示す。この実施形態もまた、当業者には明らかなように、図3A及び3Bに示されるような可動部から構築することができる。
【0087】
図4において、デバイス1は、攪拌手段2と、頂部及び底部の方向を向く回転の中心軸を有するタンク本体7からなる閉鎖型混合チャンバ3とを備える。この実施形態においても、攪拌軸又はシャフト12は、閉鎖型混合チャンバ3の単一の出口6内に位置する。入口4及び5は、好ましくは、実質的に互いに垂直である。しかし、この実施形態においても、入口4及び5の位置は交換可能であり、またこの実施形態においても、入口4及び5は、閉鎖型混合チャンバの側壁を通して、又は底部を介して閉鎖型混合チャンバに進入することができる。ここで、沈殿剤(II)は、混合チャンバの底部を介して進入することが好ましい。
【0088】
さらに、デバイスのこの実施形態において、攪拌手段9の体積が、閉鎖型混合チャンバ3の体積の10%以上99%以下、好ましくは95%以下であることも極めて好ましい。示された実施形態において、攪拌手段2は、2つの攪拌ディスク15を備え、閉鎖型混合チャンバ3は、隔壁17により区画に分割される混合ゾーンを備える。1つのディスクを備える混合チャンバを使用することもでき、一方、単一の軸に取り付けられた攪拌ディスクを各区画に有する、3つ以上の区画を有する混合チャンバも使用することができる。したがって、本発明のデバイス1のこの好ましい実施形態は、軸又はシャフト12及び少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の攪拌ディスク15を備える攪拌手段2と、頂部及び底部の方向を向く回転の中心軸を有するタンク本体7からなる閉鎖型混合チャンバ3であって、混合ゾーン16を備える閉鎖型混合チャンバ3と、好ましくは実質的に互いに垂直な入口4及び入口5と、攪拌手段2の軸又はシャフト12が位置する出口6とを備える。任意選択で、混合ゾーン16は、1又は複数の隔壁17により区画に分割されてもよい。2つ以上の攪拌ディスクを備え、ただ1つの混合ゾーン、即ち1又は複数の隔壁により1又は複数の区画に分けられていない混合ゾーンを有するデバイス、及び2つ以上の攪拌ディスクと、1又は複数の隔壁によりいくつかの区画に分けられた混合ゾーンとを備えるデバイスも、この実施形態の範囲内である。明らかに、デバイスがただ1つの攪拌ディスクを備える場合は、一般に隔壁を備えることはないため、混合ゾーンはただ1つの区画を備える。
【0089】
また、図4に従う実施形態は、
(I)有機化合物及び第1の溶媒を含む溶液(I)を含む流れ(i)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給し、流れ(i)と同時に第2の入口を介して閉鎖型混合チャンバに送給される沈殿剤(II)を含む流れ(ii)に、流れ(i)を接触させ、それにより有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を形成するステップと、
(II)有機化合物の溶液を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向、又は沈殿剤(II)を含む流れ(ii)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向のいずれかに実質的に垂直な幾何学的方向に、有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を閉鎖型混合チャンバから排出するステップと、を含む方法を可能にする。
【0090】
図3の実施形態のように、ステップ(II)はまた、有機化合物の溶液を含む流れ(i)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向、又は沈殿剤(II)を含む流れ(ii)が閉鎖型混合チャンバに送給される方向のいずれか、又は両方の入口が閉鎖型混合チャンバにその底部を介して進入する場合はその両方と実質的に並流となる幾何学的方向に、有機化合物の沈殿物及び液相を含む流れ(iii)を閉鎖型混合チャンバから排出するステップを含んでもよい。
【0091】
好ましくは、閉鎖型混合チャンバ内の混合物と接触する閉鎖型混合チャンバのすべての部分は、接着、汚損、蓄積等を防止する材料の層で被覆される。好ましい材料は、50%の相対湿度及び23℃の温度で、1%未満のASTM D 570による吸湿を有する材料である。そのような材料の好適な例には、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化アルケンポリマー及びコポリマー、並びにポリオキシメチレン等のポリアセタールが含まれる。
【0092】
核生成の開始時に、核は過剰飽和した流体に取り囲まれる。これらの粒子の2つ以上があまりにも長い間接触したままであると、それらは互いに「固着」して凝集体となる。さらに、水性媒体中の無機粒子とは異なり、有機粒子は通常帯電せず、したがってこれらの有機粒子は反発機構を有さない。本発明において、閉鎖型混合チャンバ内において流体の動きにより核に付与される抵抗/せん断力が、粒子の凝集を防止する。本発明の一実施形態において、粒子間の接触時間を、周りの流体がまだ過剰飽和している間凝集を発生させない値まで低減するために、過剰の乱流が使用される。
【0093】
本発明によれば、攪拌手段の直径は、閉鎖型混合チャンバの最小直径の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%と99%の間であることが好ましい。混合チャンバの最小直径の約90%〜95%の直径を有する攪拌手段で、非常に良好な結果が得られた。他の実施形態において、閉鎖型混合チャンバの最小直径の80%〜90%の直径を有する攪拌手段で、非常に良好な結果が得られた。ここで、攪拌手段は、好ましくは機械攪拌手段である。
【0094】
羽根の表面上に追加の要素を有する又は有さない、それを中心に回転が生じる軸の周りに対称性を有する有孔又は閉じた羽根を用いた混合機の種類が使用される場合、混合は、以下の方程式により得られるインペラレイノルズ数NReにより特徴付けることができる。
【0095】
【数1】

【0096】
式中、
Da=羽根の直径;
N=回転速度;
ρ=流体密度;及び
μ=粘度である。
【0097】
典型的には、この場合、NReが10より大きいとき、流れは等方性乱流である。Perry(Perry's Chemical Engineers' Handbook, Ed.: R.H. Perry and D.W. Green, McGraw-Hill, Ch18, 1999)を参照されたい。
【0098】
上記式から、攪拌羽根の直径が大きいほどレイノルズ数が増加すると思われる。本発明では、攪拌羽根の好ましい直径は、混合チャンバの最小直径の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは80%と99%の間であることが判明した。混合チャンバの最小直径の約90%〜95%の直径を有する攪拌羽根で、非常に良好な結果が得られた。
【0099】
本発明において、図2に従うデバイスの実施形態に示されるように、閉鎖型混合チャンバにおいて対向する攪拌手段が駆動される場合、高い混合効率を得るためには高速度で攪拌羽根を回転させることが必要である。回転速度は、1,000rpm以上、好ましくは3,000以上、さらに好ましくは5,000rpm以上である。逆方向に回転する攪拌手段の対は、同じ回転速度で回転されても、異なる回転速度で回転されてもよい。軸周りに対称である攪拌手段の場合は、攪拌速度は500rpmを超える速度、例えば1,000rpm又は5,000又はさらに10,000rpmとなる必要がある。今日では、20,000rpm及びさらにそれ以上の攪拌速度を有する攪拌器が市販されている。一般に、攪拌速度が高いほどより良好に混合され、したがって好ましい攪拌速度の上限を定義することはできない。
【0100】
閉鎖型混合チャンバ内の有機化合物の滞留時間は、とりわけ、様々なパラメータ、例えば有機化合物の溶液(I)の流入、沈殿剤(II)の流入、攪拌手段の形状や大きさ等の種類の選択、混合強度、並びに入口及び単一の出口の位置を変えることにより変動し得る。閉鎖型混合チャンバ内の滞留時間が短すぎると、過剰飽和混合物が回収槽に進入するという事実に起因して、閉鎖混合チャンバの外での制御不可能な核生成をもたらすため、望ましくない。閉鎖型混合チャンバ内の滞留時間が長すぎても、過剰の凝集及び成長をもたらすため、望ましくない。溶媒及び非溶媒は、例えば温度と併せて、核生成速度を制御するように選択され得る。誘導時間は、例えば、10−9〜10−2秒となり得る。したがって、これらの非常に高い核生成速度で混合効率が低下すると凝集はほぼ必至であるため、混合は非常に重要な因子である。
【0101】
また、そのような速い核生成時間を有さない化合物に対しても、閉鎖型混合チャンバ内の滞留時間は、沈殿プロセスの効率が低くなるため長すぎてはならない。さらに、長い滞留時間は、広い平均粒径分布及びより大きな粒子をもたらす。実際には、混合チャンバ滞留時間は、好ましくは、3秒を超えず、1秒未満である。核生成が緩やかに進行する場合、例えば10−3秒から10−6秒までの場合は、条件は好ましくは、滞留時間が0.1秒を超えるが5秒未満であるように、より好ましくは3秒未満であるように、さらにより好ましくは1秒未満であるように選択される。
【0102】
滞留時間tは、以下のように計算される。
t=v/(a+b)
式中、
v:混合槽の混合空間の体積(cm
a:有機化合物溶媒溶液の添加流量(cm/秒)
b:沈殿剤の添加流量(cm/秒)である。
【0103】
好ましくは、本発明による方法から生じる沈殿した有機化合物は、1μm未満、より好ましくは700nm未満、とりわけ500nm未満、さらにとりわけ200nm未満の平均粒径を有する。好ましくは、沈殿した有機化合物は、単峰型粒径分布を有する。
【0104】
本発明による方法は、例えば噴霧乾燥器を使用することにより、沈殿した有機化合物を乾燥させるステップもまた含んでもよい。沈殿した有機化合物の乾燥は、ステップ(c)の実行から10分以内、又は5分以内、又は2分以内、またさらにステップ(c)の実行から1分以内に開始することができる。乾燥はまた、沈殿物が両親媒性ブロックコポリマーの存在下では非常に安定であるため、延期することができる。本発明による方法はいかなる規模でも実行することができ、ステップ(a)〜(d)は、連続的に実行することができる。このように、工業規模を含めて、大量の望ましい粒子状有機化合物を調製することができる。慎重な位置合わせが必要なジェットをプロセス内に含める必要はない。
【0105】
好ましくは、沈殿した有機化合物は粒子形状であり、500nm未満、より好ましくは400nm未満、さらにより好ましくは300nm未満、特に200nm未満のD50を有する。D50は、例えばMalvern Mastersizer 2000粒径分析器を使用した、ISO 13320−1法に従うレーザー回折等、当技術分野で知られた技術により測定することができる。
【0106】
本発明はまた、本発明による方法を実行するステップを含む薬物の製造のための方法を提供し、この場合、有機化合物は、薬学活性有機化合物である。薬物の製造のための方法は、好ましくは、薬学活性有機化合物を、薬学的に許容されるキャリア又は賦形剤と混合するステップを含む。
【0107】
本発明による方法はまた、好ましくはそれが乾燥された後に、薬学活性有機化合物を滅菌するステップを含んでもよい。典型的な滅菌技術は、照射、加熱、及び濾過を含む。
【0108】
本発明はまた、本発明による方法で得ることができる薬物を投与するステップを含む、それを必要とする哺乳動物を治療するための方法を包含する。この薬物は、好ましくは癌治療のためのものである。
[実施例]
【0109】
以下の化学薬品は、すべてSima-Aldrich Co.社(Zwijndrecht、オランダ)から入手した。
タイヘイヨウイチイ由来パクリタキセル、≧95%(HPLC)、
プレグネノロン、≧98%、
フェノフィブラート、≧95%、粉末、
シクロスポリンA、BioChemika社製、≧98.5%(TLC)、
テトラヒドロフラン(THF)、バイオグレード、≧99.9%、阻害剤フリー、
クエン酸、USPグレード、
D−マンニトール、USPグレード、
MPEG−PLAブロックコポリマー、
無水エタノール(100%DAB)、PH.EURは、Boom B.V.社(Meppel、オランダ)から入手、
魚ゼラチン150kDaは、Norland Products Inc.社(クランバリー、アメリカ合衆国)から入手、
加水分解魚ゼラチン4.2kDaは、新田ゼラチン株式会社(日本)から入手、
使用した水は、現場で脱塩及び濾過技術により精製した。
【0110】
比較例1
有機化合物は、3.75リットルCSTR内でエタノール/水から沈殿したプレグネノロンである。
【0111】
タンク内貧溶媒溶液初期体積V=1500cm純水(温度T=275K)、溶媒エタノールの初期体積割合x=0(水中0%EtOH、T=275K)、プレグネノロン溶液送給速度1000cm/分、EtOH中プレグネノロン濃度34g/l(=325Kでの飽和濃度)、送給温度T=328K、攪拌回転速度750rpm。総バッチ添加時間は45秒である。S10=190である。
【0112】
添加開始直後に濁りが観察される。
【0113】
10μmエッジ長さ以上の多くの粒子を含め、粒径分布は広い。図5は、得られた結晶を示す。図6は、Malvern Mastersizer 2000を用いて測定された平均粒径分布を示す。このバッチのD50は14.59μmである。したがって、全粒子の50%は、14.59μmより小さい体積中央粒径を有する。このバッチのD90は、36.22μmである。
【0114】
発明の実施例1
有機化合物は、攪拌タンク内部体積が0.7cmの図1に従う混合装置内でエタノール/水から沈殿したプレグネノロンである。
【0115】
プレグネノロン溶液送給速度は10cm/分、EtOH中プレグネノロン濃度34g/l(=325Kでの飽和濃度)、送給温度T=328K、両方の攪拌器を6,000rpmで反対方向に操作する。温度T=275Kの貧溶媒水を110cm/分の流量で送給する。100cmとするための総バッチ添加時間は50秒である。S10=200である。
【0116】
添加開始直後に濁りが観察される。
【0117】
粒径分布は狭く、平均粒径は、CSTR内で沈殿させた場合よりも大幅に小さい。図7は、得られた結晶を示す。
【0118】
粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。このバッチのD50は9.17μmである。このバッチのD90は、18.72μmである(図8)。
【0119】
発明の実施例2
有機化合物は、攪拌タンク内部体積が0.7cmの図2に従う混合装置内でエタノール/水から沈殿したプレグネノロンである。プレグネノロン溶液送給速度は10cm/分、EtOH中プレグネノロン濃度34g/l(=325Kでの飽和濃度)、送給温度T=328K、両方の攪拌器を6,000rpmで反対方向に操作する。貧溶媒水は、4%の加水分解非ゲル化魚ゼラチン、分子量平均20kDaを含有する。温度T=275Kのゼラチン溶液を110cm/分の流量で送給する。100cmとするための総バッチ添加時間は50秒である。S10=200である。
【0120】
添加開始直後に濁りが観察される。
【0121】
粒径分布は二峰型であり、平均粒径は、安定化ゼラチンなしで沈殿させた場合よりも大幅に小さい。
【0122】
粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。このバッチのD50は1.36μmである。このバッチのD90は、4.58μmである。
【0123】
発明の実施例3
有機化合物は、攪拌タンク内部体積が0.7cmの図2に従う混合装置内でエタノール/水から沈殿したフェノフィブラートである。
【0124】
フェノフィブラート溶液送給速度は10cm/分、EtOH中フェノフィブラート濃度20g/l(293Kでの飽和濃度は40g/l)、送給温度T=293K、両方の攪拌器を6,000rpmで反対方向に操作する。貧溶媒水は、4%の非加水分解非ゲル化魚ゼラチン、分子量平均150kDaを含有する。温度T=293Kのゼラチン溶液を110cm/分の流量で送給する。100cmとするための総バッチ添加時間は50秒である。S10=4355である。
【0125】
添加開始直後に濁りが観察される。
【0126】
粒径分布は単峰型であり、平均粒径はナノメートルの範囲である。粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。このバッチのD50は127nmである。このバッチのD90は、228nmである。
【0127】
発明の実施例4
有機化合物は、攪拌タンク内部体積が0.7cmの図2に従う混合装置内でエタノール/水から沈殿したフェノフィブラートである。
【0128】
20g/lフェノフィブラート及び4.4g/lポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M750、PLA M1000;Aldrich社から市販されている)を含有するエタノール溶液を調製し、293Kの温度に設定する。貧溶媒水は、4%の非加水分解非ゲル化魚ゼラチン、分子量平均150kDaを含有する。この貧溶媒溶液を、温度T=293Kに設定する。
【0129】
フェノフィブラート/ブロック−コポリマー溶液送給速度は10cm/分である。ゼラチン溶液は、110cm/分の流量で送給する。攪拌羽根は、チャンバ直径の83%の直径を有していた。両方の攪拌器を6,000RPMで反対方向に操作する。100cmとするための総バッチ添加時間は50秒である。S10=4355である。
【0130】
添加開始直後に濁りが観察される。
【0131】
粒径分布(Malvern Mastersizer 2000を用いて測定)は単峰型であり、平均粒径はナノメートルの範囲である。粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。このバッチのD50は111ナノメートルである。このバッチのD90は206ナノメートルである。
【0132】
発明の実施例5
THF及びパクリタキセル(10g/l)及びポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M5000、PLA M5000)(10g/l)を含む、20℃の溶液を調製した。沈殿剤は、0℃の純水であった。
【0133】
発明の実施例4のように沈殿を行ったところ、溶液送給速度は15cm/分、沈殿剤送給速度は105cm/分であった。沈殿剤に対する溶媒溶液の比は、20:100であった。
【0134】
得られた粒子の初期粒径(D50)は、約260nmであった。
【0135】
発明の実施例6
THF及びパクリタキセル(10g/l)及びポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M350、PLA M1000)(10g/l)を含む、20℃の溶液を調製した。沈殿剤は、0℃の純水であった。
【0136】
発明の実施例4のように沈殿を行ったところ、溶液送給速度は15cm/分、沈殿剤送給速度は105cm/分であった。沈殿剤に対する溶媒溶液の比は、15:105であった。
【0137】
得られた粒子の初期粒径(D50)は、約123nmであった。
【0138】
発明の実施例7
THF及びパクリタキセル(10g/l)及びポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M750、PLA M1000)(10g/l)を含む、20℃の溶液を調製した。沈殿剤は、0℃の純水であった。
【0139】
発明の実施例4のように沈殿を行ったところ、溶液送給速度は15cm/分、沈殿剤送給速度は105cm/分であった。沈殿剤に対する溶媒溶液の比は、15:105であった。
【0140】
得られた粒子の初期粒径(D50)は、115nm未満であった。
【0141】
発明の実施例8
THF及びシクロスポリンA(10g/l)及びポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M750、PLA M1000)(10g/l)を含む、20℃の溶液を調製した。沈殿剤は、0℃の純水中1wt%クエン酸溶液であった。
【0142】
発明の実施例4のように沈殿を行ったところ、溶液送給速度は15cm/分、沈殿剤送給速度は105cm/分であった。沈殿剤に対する溶媒溶液の比は、15:105であった。
【0143】
得られた粒子の初期粒径(D50)は、約132nmであった。
【0144】
比較例2
ブロックコポリマーではない両親媒性ポリマーを使用して、発明の実施例4の方法を行った。但し、溶液(I)は、50℃のEtOH中プレグネノロン溶液(34g/l)であり、沈殿剤は、4wt.%の加水分解非ゲル化魚ゼラチン(4.2kDa)を含有する水であった。生成物を100cmとするための総バッチ添加時間は50秒であった。
【0145】
粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。粒子は、二峰型の粒径分布を有していた。粒子のD50は1.36μmであった。粒子のD90は4.58μmであった。
【0146】
発明の実施例9
THF及びパクリタキセル(10g/l)及びポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリラクチドメチルエーテル(PEG M750、PLA M1000)(10g/l)を含む、20℃の溶液を調製した。沈殿剤は、クエン酸(1wt.%)及びD−マンニトール(5wt.%)を含有する0℃の水であった。
【0147】
発明の実施例4のように沈殿を行ったところ、溶液送給速度は15cm/分、沈殿剤送給速度は105cm/分であった。沈殿剤に対する溶媒溶液の比は、15:105であった。
【0148】
得られた粒子の初期粒径(D50)は、118nmであった。
【0149】
比較例3
両親媒性ポリマーを使用せずに発明の実施例4の方法を行った。但し、溶液(I)は、50℃のEtOH中プレグネノロン溶液(34g/l)であり、沈殿剤は水であった。生成物を100cmとするための総バッチ添加時間は50秒であった。
【0150】
粒径分布はMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。粒子は、比較例2よりも狭い粒径分布を有し、平均粒径はナノメートルの範囲であった。粒子のD50は9.17μmであった。粒子のD90は18.72μmであった。
【符号の説明】
【0151】
1 沈殿デバイス
2、2a、2b 攪拌手段
3 閉鎖型混合チャンバ
4 溶液(I)を送給するための第1の入口
5 沈殿剤(II)を送給するための第2の入口
6 有機化合物の沈殿物及び液相を受けるための出口
7 タンク本体
8 シール板
9、9a、9b 攪拌羽根
10、10a、10b 外部磁石
11、11a、11b モータ
12 軸又はシャフト
13 チャンバ可動部
14 ヒンジ
15 攪拌ディスク
16 混合ゾーン
17 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を沈殿させる方法であって、
(a)第1の溶媒中の前記有機化合物の溶液(I)を、第1の入口を介して閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;
(b)ステップ(a)と同時に、沈殿剤(II)を、第2の入口を介して前記閉鎖型混合チャンバに導入するステップ;
(c)前記有機化合物の溶液(I)及び前記沈殿剤(II)を、超音波処理、回転式磁気攪拌手段、又は回転式機械攪拌手段により混合し、それにより前記有機化合物の沈殿物及び液相を形成するステップ;及び
(d)前記有機化合物の沈殿物及び液相を、単一の出口を介して前記閉鎖型混合チャンバから排出するステップを含む方法。
【請求項2】
溶液(I)が、溶媒の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
沈殿剤(II)が、非溶媒、非溶媒の混合物、又は非溶媒と溶媒との混合物を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶液(I)が、安定化剤を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
沈殿剤(II)が、安定化剤を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
安定化剤が、タンパク質、酵素、ペプチド、ポリペプチド、ゼラチン、組換えゼラチン、アミノ酸、両親媒性ポリマー、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、RNA配列、DNA配列、炭水化物、多糖類、オリゴ糖、二糖類、単糖類、脂質、脂肪酸、植物化学物質、ビタミン、ミネラル、塩、着色剤、顔料、甘味料、固結防止剤、増粘剤、乳化剤、抗菌剤、酸化防止剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
安定化剤が、両親媒性ポリマーを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
安定化剤が、組換えゼラチンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
溶液(I)が、湿潤剤を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
沈殿剤(II)が、湿潤剤を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
湿潤剤が、生体適合性湿潤剤である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
溶液(I)が、有機化合物の前駆体を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
沈殿剤(II)が、有機化合物の前駆体と反応する化合物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
混合チャンバ内の有機化合物の滞留時間が、0.0001秒を超える、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
混合チャンバ内の有機化合物の滞留時間が、5秒未満である、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
機械攪拌手段が、モータにより回転される軸を備え、対称の攪拌羽根が前記軸に取り付けられている、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ステップ(c)が、両親媒性ポリマーの存在下で行われる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
両親媒性ポリマーが、両親媒性ブロックコポリマーである、請求項7又は17に記載の方法。
【請求項19】
磁気攪拌手段又は機械攪拌手段が、1000rpm以上で操作される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
磁気攪拌手段又は機械攪拌手段が、反対方向に回転する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
有機化合物の沈殿のためのデバイス1であって、
(a)閉鎖型混合チャンバ3;
(b)溶媒中の前記有機化合物の溶液(I)を送給するための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口4;
(c)前記閉鎖型混合チャンバ3に沈殿剤(II)を送給するための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された入口5;
(d)前記有機化合物の沈殿物及び液相を受けるための、前記閉鎖型混合チャンバ3に接続された単一の出口6; 及び
(e)前記閉鎖型混合チャンバ3に備えられている機械攪拌手段2
を備えるデバイス。
【請求項22】
入口4が、溶液(I)を供給するための供給タンクに接続されている、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
入口5が、沈殿剤(II)用の供給タンクに接続されている、請求項21に記載のデバイス。
【請求項24】
出口6が、有機化合物の沈殿物及び液相を受入れるか又は回収するための受入槽又は回収槽に接続されている、請求項21に記載のデバイス。
【請求項25】
溶液(I)、沈殿剤(II)、閉鎖型混合チャンバ3、及び供給タンクの温度が、温度制御手段により制御される、請求項21〜24のいずれかに記載のデバイス。
【請求項26】
閉鎖型混合チャンバ3が、攪拌軸及び攪拌羽根を備える機械攪拌手段を有し、前記攪拌軸が、前記閉鎖型混合チャンバの単一の出口内に位置する、請求項21〜25のいずれかに記載のデバイス。
【請求項27】
閉鎖型混合チャンバ3が、前記閉鎖型混合チャンバ3内に対置される攪拌手段2を有し、第1の攪拌手段2aが、前記閉鎖型混合チャンバ3の頂部又はその近傍に位置し、第2の攪拌手段2bが、前記閉鎖型混合チャンバ3の底部又はその近傍に位置し、前記攪拌手段2a、2bが、前記閉鎖型混合チャンバ3内に配置される攪拌羽根9a、9bを備え、前記攪拌羽根9a、9bが、前記閉鎖型混合チャンバ3の外に配置される外部磁石10a、10bと磁気結合関係を有し、前記外部磁石10a、10bに接続されるモータ11a、11bにより、前記外部磁石が回転駆動される、請求項21〜25のいずれかに記載のデバイス。
【請求項28】
攪拌手段2、又は第1及び第2の攪拌デバイス2a、2bの組合せが占める体積が、閉鎖型混合チャンバ3の体積の10%〜99%である、請求項21〜27のいずれかに記載のデバイス。
【請求項29】
閉鎖型混合チャンバ3が、超音波攪拌手段を有する、請求項21〜25のいずれかに記載のデバイス。
【請求項30】
請求項21〜29のいずれかに記載の方法により得られる、500nm未満のD50を有する微粒子形態の有機化合物。
【請求項31】
薬学活性有機化合物である、請求項30に記載の有機化合物。
【請求項32】
1μm未満の平均粒径を有する、請求項30又は31に記載の有機化合物。
【請求項33】
請求項1〜20のいずれかに記載の方法により得られる沈殿物、請求項21〜29のいずれかに記載のデバイスを用いて得られる沈殿物、又は請求項30〜32のいずれかに記載の有機化合物を用いて得られる沈殿物の、活性薬剤成分としての使用。
【請求項34】
請求項1〜20のいずれかに記載の方法により得られる沈殿物、請求項21〜29のいずれかに記載のデバイスを用いて得られる沈殿物、又は請求項30〜32のいずれかに記載の有機化合物を用いて得られる沈殿物の、薬学的組成物又は製剤の製造における使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A−3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−503532(P2010−503532A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529137(P2009−529137)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/NL2007/000233
【国際公開番号】WO2008/035962
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(505232782)フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ. (50)
【Fターム(参考)】