説明

有機化合物

本発明は、真核細胞培養方法における使用および興味ある組換え産物の発現のための新規選択系に関する。選択系は、外因性機能性膜結合葉酸受容体遺伝子と興味ある産物をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子の真核細胞への導入に基づき、細胞生存性が葉酸摂取に依存している真核細胞で広く利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、真核細胞培養方法における使用および興味ある組換え産物の発現のための新規選択系に関する。選択系は、外因性機能性の膜結合葉酸受容体遺伝子と興味ある産物をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子の真核細胞への導入に基づき、細胞生存性が葉酸摂取に依存している真核細胞で広く利用することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
選択マーカーおよび選択系は遺伝子工学、組換えDNA技術および真核細胞培養における組換え産物、例えば、抗体、ホルモンおよび核酸の生産において広く使用される。このような優性選択マーカーおよび選択系の主要目的は選択可能な遺伝子を導入し、選択的な培養条件下に暴露し、興味ある組換え産物の高レベルの生産が可能である細胞を提供することである。
【0003】
今日までに、3つの主な選択マーカー系を利用している:
【0004】
(a)グルタミン合成酵素系:酵素グルタミン合成酵素(GS)はグルタミン酸およびアンモニアからグルタミンの生合成に関与する。この生合成反応は哺乳動物細胞においてグルタミン形成のための唯一の経路を提供する。したがって、培養培地中においてグルタミンの非存在下で、酵素GSは培養中の哺乳動物細胞の生存に不可欠である。重要なことには、マウス骨髄腫細胞を含む特定の哺乳動物細胞系はGSの十分な発現を欠いており、したがって、外からグルタミンの添加なしに生存することができない。したがって、このような細胞系は、この系において選択可能なマーカーとして機能することができ、グルタミンを欠いている培地中で細胞培養を可能にする、トランスフェクトされたGS遺伝子のための適当なアクセプターである。対照的に、広く使用されるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような細胞系は十分なGSを発現し、グルタミン−フリー培地における培養を支える。したがって、これらのCHO細胞がGS遺伝子のトランスフェクションのためにレシピエント細胞として使用されるとき、特異的かつ強力なGS阻害剤のメチオニンスルホキシミン(MSX)は、高レベルのトランスフェクトされたGS遺伝子を発現するトランスフェクタントのみがグルタミン−フリー培地中で生存することができるように、内因性GS活性を阻害するために適用することができる。GS系の主な不利な点は、興味ある標的遺伝子を安定に過剰発現する細胞を確立するために、比較的に長期(すなわち2−6月)の選択的な培養の点である。別の不利な点は選択的な圧力の増加のための細胞毒性剤のMSXの頻繁な利用である。興味ある組換え産物(例えば、抗体のようなポリペプチド)と一緒でのこのような細胞毒性剤の存在は、この細胞毒性剤を取り除くためにさらなる精製工程を必要とし得る。
【0005】
(b)ジヒドロ葉酸レダクターゼ/MTX選択系:ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)はジヒドロ葉酸のテトラヒドロ葉酸(THF)へのNADP−依存還元を触媒する。次にTHFはプリンおよびチミジル酸のデノボ生合成においてそれぞれ使用される10−ホルミル−THFおよび5,10−メチレン−THFに相互転換される。DHFは5,10−メチレン−THF−依存反応におけるdUMPのdTMPへの変換を触媒するチミジル酸シンターゼ(TS)の触媒活性の副産物である。したがって、DHFRはDNA複製のために必要であるプリンおよびピリミジンヌクレオチドの生合成に不可欠であるTHF補因子のリサイクルのために極めて重要である。したがって、(すなわち標的されたゲノム欠失により)DHFR遺伝子を欠いている細胞(例えば、CHO細胞)はヌクレオチドフリーである培地中でDHFR遺伝子のトランスフェクションのためのレシピエントとして使用することができる。トランスフェクション後、細胞を非常に強力なDHFR阻害剤(Kd=1pM)である抗葉酸剤MTXの濃度において段階的な増加に付し、それにより細胞に増加したレベルのDHFRを生産させることができる。選択の複数の循環により、選択可能なマーカーDHFRは頻繁に有意な遺伝子増幅を引き起こす。さらに、MTXに対する主な耐性を有する変異マウスDHFRも、トランスフェクタント細胞において高レベルのMTX−耐性の獲得を顕著に高める、優性選択可能なマーカーとして広く使用されている。DHFR/MTX選択系の主な不利な点は、この技術が変異原細胞毒性剤のMTXを利用し、容易にレシピエント細胞の遺伝子型を変え得ることである。さらに、このような薬剤を扱う人間を保護するために、特定の安全対策を取り得る。これは頻繁に、興味ある標的遺伝子の発現が還元型葉酸キャリア(RFC)における機能喪失突然変異および/またはRFC遺伝子発現の喪失(これら両方はMTX摂取を破壊する)により起こらない、MTX−耐性細胞集団を引き起こす。別の不利な点は、変異原剤MTXが、培養培地に含まれる過剰発現され、分泌された標的産物(例えば、抗体のようなポリペプチド)を容易に汚染し、それにより、この変異原化合物MTXを取り除くために必要な労働集約型で、時間がかかり、高額なクロマトグラフ法が必要であり得ることである。加えて、最終産物においてMTXが存在しないことは、それぞれのアッセイにより測定する必要がある。
【0006】
(c)還元型葉酸キャリア選択系:還元型葉酸キャリア(RFC)は、5−メチル−THFおよび5−ホルミル−THFのような還元型葉酸の摂取のための主な輸送体として働く、遍在的に発現される膜糖タンパク質である。しかしながら、RFCは酸化型葉酸、葉酸に対して非常に乏しい親和性を示す。したがって、RFCの発現を欠いているか、またはゲノムRFC位置を欠失している細胞は、5−ホルミル−THFのような還元型葉酸を培養培地から段階的に不足にさせ、それにより細胞に増加したレベルのこの葉酸輸送体を発現させる条件下で、選択可能なマーカー遺伝子RFCのトランスフェクションのためのレシピエントとして働くことができる。RFC選択系に関していくつかの不利な点がある:a)1つは内因性RFC位置が標的ノックアウトまたは機能喪失突然変異によりノックアウトされているか、または不活性化されているRFC−null レシピエント細胞を使用しなければならない。b)RFCは葉酸に対して極度に乏しい輸送親和性を有し、したがって、この酸化型葉酸は選択のために使用することができない。c)一方向の葉酸摂取系であり、以下に詳細に説明されている普通の葉酸−受容体ベース系とは対照的に、RFCは葉酸の等しく強力な取り込みおよび排出を示す二方向の葉酸輸送体である。これは、葉酸欠乏の条件下で、RFC過剰発現が、過剰発現したRFCを介して葉酸をさらに排出するレシピエント細胞に有害であり得ることを意味する。
【0007】
本発明の目的は上記の先行技術の選択系を越える特定の利点を有する新規代謝選択系を提供することである。新規選択系は、細胞培養培地中の葉酸の使用および発現ベクターを介して興味ある産物を生産することを意図された組換え真核細胞に導入された葉酸受容体の存在に基づく。この新規手段は内因性葉酸受容体(FR)遺伝子の事前の欠失を必要としない。FR選択可能な遺伝子ならびに(ポリペプチドのような)興味ある産物をコードするポリヌクレオチドの両方を有するベクターの導入後、細胞を極度に限界濃度の葉酸を含む選択的な培地中で培養する。したがって、FRを顕著に過剰発現する細胞のみが細胞培養、DNA複製および細胞増殖を維持するために十分な葉酸を取ることができ、それにより興味ある標的産物の過剰発現が可能となる。
【0008】
酸化型葉酸、すなわち葉酸、ならびに還元型葉酸またはテトラヒドロ葉酸(THF)として知られている葉酸の還元された誘導体は真核細胞、特に哺乳動物細胞におけるプリン、チミジル酸および特定のアミノ酸の生合成のために必須の補因子および/または補酵素であるB−9ビタミンのグループである。THF補因子はDNA複製、したがって細胞増殖のために特に極めて重要である。具体的に、THF補因子はプリンおよびチミジル酸、アミノ酸ならびにDNAのCpGアイランドのメチル化を含むメチル基代謝のデノボ生合成を含む一連の相互接続された代謝経路において一炭素単位の供与体として機能する。具体的に、10−ホルミル−THF(10−CHO−THF)を含むTHF補因子は、プリンのデノボ生合成に関与する2つの重要なデノボホルミルトランスフェラーゼ反応における一炭素単位を与える。第1の酵素であるグリシンアミドリボヌクレオチドトランスホルミラーゼ(GARTF)はプリンのイミダゾール環の形成に関するが、5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミドリボヌクレオチドトランスホルミラーゼ(AICARTF)が介在するさらに下流の反応はプリン中間体のイノシン5’−一リン酸(IMP)を産生する。後者はAMPおよびGMPの制御された生合成のための重要な前駆体として働く。さらに、5,10−メチレン−THF(5,10−CH−THF)は、酵素であるチミジル酸シンターゼ(TS)に関する極めて重要な補因子として機能する別の重要なTHF補酵素である。TSはdUMPからチミジン一リン酸(dTMP)の形成を触媒する。したがって、これらの葉酸−依存酵素は、DNA複製に不可欠であるプリンおよびチミンヌクレオチドのデノボ生合成の重要なメディエーターである。それ自体、これらの葉酸−依存酵素は、抗葉酸剤として知られている葉酸アンタゴニストの活性のための標的として同定された。例えば、4−アミノ葉酸類似体であるアミノプテリンおよびその相同体である4−アミノ−10−メチル葉酸メトトレキサート(MTX)は、小児急性リンパ芽球性白血病(ALL)の化学療法に関する診療に導入された代謝拮抗剤の第1のクラスであった。抗葉酸剤は、骨肉腫、乳癌、原発性中枢神経系リンパ腫、絨毛癌および妊娠性トロホブラスト腫瘍を含む他のヒト悪性腫瘍の処置のために現在使用されている異なる化学療法レジメンの現在、重要な成分である。
【0009】
自身が葉酸を合成する多数の原核生物、植物、菌類および特定の生物(protest)とは対照的に、哺乳動物および他の真核細胞種はTHF補因子生合成を欠いており、したがって外因性源からそれらを得る必要がある。3つの独立した輸送系が現在、哺乳動物細胞における葉酸および抗葉酸剤の摂取を介在することが知られている:
【0010】
a)還元型葉酸の補因子の主な細胞輸送系は還元型葉酸キャリア(RFC)である。RFC(溶質キャリアファミリー19メンバー1、SLC19A1としても既知である)は、非常に高い細胞内レベルに蓄積することで知られているアデニンヌクレオチドのような有機リン酸ならびにチアミン一リン酸およびピロリン酸を交換することにより、還元型葉酸の困難な輸送を介在する二方向の促進キャリアとして機能する〜85kDaの膜糖タンパク質を遍在的に発現させる。RFCはロイコボリン(5−ホルミル−THF;Kt=1μM)を含むTHF補因子に対して高い親和性を示すが、酸化型葉酸である葉酸に対して非常に乏しい輸送親和性(Kt=200−400μM)を有する。
【0011】
b)葉酸摂取の別の経路は最近クローニングされたプロトン共役葉酸輸送体(PCFT、SLC46Aとしても既知である)である。PCFTはRFCと独立して発現するようであり、酸性pH(5.5)で最適に機能し、そして酸化型(例えば、葉酸)およびTHF補因子(すなわち還元型葉酸)ならびにMTXを含む種々の親水性抗葉酸剤の両方の流入を介在する。生理学的pH(7.4)ではなく酸性pH(5.5)で葉酸および抗葉酸剤の最適輸送を示すPCFTは、上部小腸における葉酸および抗葉酸剤の両方の吸収において重要な役割を有する。
【0012】
c)本発明が基づく第3の輸送経路は葉酸受容体(FR)を含む。FRは、3つの別個の遺伝子、FRα(FRアルファ)、FRβ(FRベータ)およびFRγ(FRガンマ)によってコードされる高親和性の葉酸結合糖タンパク質である。FRα(またはFR−アルファ)は、また、成体葉酸結合タンパク質またはFDPとして、葉酸受容体1またはFOLR(マウスにおいてfolbp1)として、および卵巣癌関連抗原またはMOv18として知られている。FRβ(またはFRベータ)は、また、FOLR2(胎児)およびFBP/PL−1(胎盤)として知られている。FRγ(またはFRガンマ)は、また、FOLR3およびFR−Gとして知られている(M.D. Salazar and M. Ratnam, Cancer Metastasis Rev. 2007 26(1), pp.141-52.により概説されている)。よく特徴付けられている成熟FRは〜70−80%のアミノ酸同一性で同種のタンパク質であり、229から236個のアミノ酸ならびに2から3個のN−グリコシル化部位を含む。FRα(FRアルファ)およびFRβ(FRベータ)は膜結合、特にグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)−アンカー、細胞表面糖タンパク質であるが、FRγはGPIアンカーを欠いており、分泌されるタンパク質である。FRα(FRアルファ)およびFRβ(FRベータ)は、葉酸(Kd=0.1−1nM)、5,10−ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF;ロメテレキソール;Ki=0.4−1.3nM 基質として[H]葉酸を使用する)およびBGC945(これは還元型葉酸キャリアを介するのでなく単にFRα(FRアルファ)を介して特異的に輸送されるシクロペンタ[g]キナゾリン−ベースのチミジル酸シンターゼ阻害剤である)(Kd=1nM)に対して高親和性を示すが、MTX(Kd>100nM)に対して非常に低い親和性を示す。葉酸および抗葉酸剤のFR−依存摂取は受容体−介在エンドサイトーシスの古典的メカニズムを介して前進する。遺伝子ノックアウト試験によって、FRα(FRアルファ)(マウスにおいて、Folbp1としても知られている)が初期胚発生および母体の葉酸補充のために不可欠であり、子宮内における胚を死亡から救出し、正常発生を可能にすることが示されている。
【0013】
今日までに知られている選択系の1つ以上の不利な点を克服する安全で極めて効率の良いコスト的に有効な選択系に対する継続した必要性がある。
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
本発明は、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチドおよび興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを含む真核細胞発現ベクターに関する。
【0015】
本発明は、さらに、細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、ベクターによってコードされる機能性葉酸受容体を細胞により発現するように該発現ベクターが安定に導入された真核細胞に関する。
【0016】
さらに、本発明は、興味ある産物を高収率で安定に発現することができる組換え真核細胞を提供するための選択方法に関する。
【0017】
本発明は、高収率で興味ある産物の生産方法において好都合に利用することができる。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明において、今回驚くべきことに、興味ある産物を生産することができる組換え真核細胞を提供するための選択系が、細胞培養培地中の葉酸の限定された利用に基づくことができることを見出した。該系は広く、すなわち細胞生存性が葉酸摂取に依存する真核細胞に適用できる。
【0019】
該新規系は、細胞毒性剤の非存在下で高レベルの組換え産物を安定に過剰発現する、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞クローンの迅速な選択、スクリーニングおよび確立のために使用することができる。さらに、他の既知の選択系と対照的に、例えば、内因性遺伝子を変異またはノックアウトすることにより提供された修飾された細胞に対して必須の必要性がない(ときどき実行可能であるが)。例えば、FRα(FRアルファ)は、例えば、RFCがロイコボリン(Kt=1μM)に対するよりも、FA(K=0.1nM)に対して高い親和性を示し、一方向経路を介して細胞に葉酸を輸送するため、本発明は特に培養培地からの段階的な葉酸(例えば、葉酸)欠乏を介して、顕著に改良された優性の代謝選択可能なマーカーとしてのFRα(FRアルファ)および他の葉酸受容体の使用のために提供する。新規葉酸−ベース選択は、種々の過剰発現系において日常的に使用される細胞毒性剤選択の非存在下で、培養された哺乳動物細胞における標的タンパク質の迅速な安定な高レベルの過剰発現のために非常に適している優れた戦略である。
【0020】
新規選択系は、先行技術で利用できる選択系を越えるいくつかの重要な利点を示す。
【0021】
1. 本発明による選択系は非常に迅速な選択系である:葉酸欠乏4週間以内に、興味ある標的遺伝子を発現する細胞集団またはクローン細胞誘導体を容易に単離することができる。これは、標的遺伝子の選択および安定化に2−6月必要であり得る上記GS系と対照的である。
【0022】
2. 本発明による選択系はトランスフェクション前に内因性FRα(アルファ)、β(ベータ)またはγ(ガンマ)遺伝子のゲノム欠失または減衰を必要とせず、したがって、いくつかの内因性FR遺伝子発現が存在するときでさえ、すべてのレシピエント細胞に適用することができる。この重要な利点はFRα(FRアルファ)トランスフェクション後の、細胞を培養培地から急激かつ激しい葉酸(例えば、葉酸)の欠乏に暴露することができる事実に基づく。結果として、有意な量の選択可能なFRα(FRアルファ)マーカーを発現するトランスフェクタント細胞のみが十分な葉酸を輸送し、DNA複製および細胞増殖を維持することができる。これは内因性FRα(FRアルファ)遺伝子の発現において有意な上昇の欠如で起こる。これは、レシピエント細胞を内因性DHFR遺伝子に関して頻繁に欠失する、上記DHFR/MTX系と対照的である(例えば、CHO DG44細胞およびCHO Dux細胞)。
【0023】
c) 本発明による選択系は、内因性RFCの増加した発現を含む葉酸摂取の別の経路の増加した発現を介する選択的な圧力の軽減による選択のストリンジェンシーの喪失に苦しまない。この重要な利点は、FRα(FRアルファ)が葉酸に対して優れた親和性(Kd=0.1nM)を有するが、RFCは葉酸に対して極度に乏しい親和性(Km=0.2−0.4mM)を示す事実による。対照的に、MTX選択において、選択可能なマーカー発現を有さないか、または発現の乏しいMTX−耐性細胞を頻繁に得られるため、DHFR/MTX系を含む種々の先行技術の選択系は選択のストリンジェンシーの厳しい喪失に苦しむ。RFCの機能の喪失の代わりに、主なMTX輸送体は頻繁にMTX耐性メカニズムとなり得る。これはRFC遺伝子における不活性化変異の頻繁な発生またはRFC遺伝子発現の激しい喪失により示されている。
【0024】
d) 本発明による選択系は、レシピエント細胞ならびに興味ある標的遺伝子の遺伝子型を変え得る、DHFR系におけるMTXまたはGS系におけるMSXのような細胞毒性剤および/または変異原化合物を使用しない。むしろ、FR選択は培養培地からのビタミンの欠乏の原理を利用する。
【0025】
したがって、1つの局面において、本発明は機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチド(すなわち、選択可能なマーカー遺伝子)および興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを含む真核細胞発現ベクターに関する。
【0026】
本発明における機能性膜結合葉酸受容体は、特に真核細胞への葉酸の一方向の取り込みまたは摂取ができる機能性膜結合受容体として定義される。
【0027】
本発明における葉酸は酸化型葉酸(すなわち、葉酸)または還元型葉酸のいずれかであり得る。一般的に、葉酸を機能性膜結合葉酸受容体により真核細胞に取り込むことができる限り、このような葉酸は本発明において有用であり得る。酸化型葉酸の好ましい例は葉酸である。還元型葉酸の好ましい例は、5−メチル−テトラヒドロ葉酸、5−ホルミル−テトラヒドロ葉酸、10−ホルミル−テトラヒドロ葉酸および5,10−メチレン−テトラヒドロ葉酸である。
【0028】
好ましい態様において、本発明の発現ベクターは機能性膜結合葉酸受容体および興味ある産物の両方を真核細胞において発現させることができる。
【0029】
第2のポリヌクレオチドによってコードされる興味ある産物は、第2のポリヌクレオチドによってコードされる遺伝情報の転写、翻訳または発現の他の何らかの事象により生産することができるすべての生物学的産物であり得る。この点において、該産物は発現産物であり得る。例えば、好ましい態様において、このような産物はポリペプチド、RNAおよびDNAからなる群から選択される。“ポリペプチド”はペプチド結合により互いに結合しているアミノ酸のポリマーを含む分子を意味する。“ポリペプチド”なる用語はあらゆる長さのポリペプチドを含み、大きな分子(例えば、約50個以上のアミノ酸を含む)の場合、“タンパク質”と呼ばれ、小さい分子(例えば、2−49個のアミノ酸を含む)の場合、“ペプチド”と呼ばれ得る。該産物は薬学的または治療的に活性な化合物またはアッセイなどにおいて利用される研究道具であり得る。特に好ましい態様において、該産物はポリペプチド、好ましくは薬学的または治療的に活性なポリペプチドまたは診断または他のアッセイなどにおいて利用される研究道具である。より好ましい態様において、ポリペプチドは免疫グロブリン分子または抗体またはそれらのフラグメント(特に機能性フラグメント)、例えば、キメラまたは部分的にもしくは全体的にヒト化抗体である。このような抗体は診断抗体または薬学的もしくは治療的に活性な抗体であり得る。典型的に、興味ある産物は発現のために使用される真核細胞宿主細胞と異種であり、これは宿主細胞がトランスフェクション前に興味ある産物を天然または内因性的に生産しないことを意味する。むしろ、興味ある産物の生産または発現を達成するために、興味ある産物をコードするポリヌクレオチドは、特に本発明における発現ベクターとのトランスフェクションにより、真核細胞宿主細胞に導入されるべきである。
【0030】
本発明におけるベクターは直線形態または、好ましくは、円形態、例えば、プラスミドで存在し得る。
【0031】
興味あるポリヌクレオチドの発現のために使用されるベクターは、通常、転写を駆動するために適当な転写調節因子、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写停止または終結シグナルを含む。所望の産物がタンパク質であるとき、通常、適当な翻訳調節因子、例えば、リボソームを動員するために適当な5’キャップ構造による5’非翻訳領域および翻訳プロセスを終結するための終止コドンがベクター中に含まれる。特に、選択可能なマーカー遺伝子として働くポリヌクレオチドならびに興味ある産物をコードするポリヌクレオチドの両方は、適当なプロモーターに存在する転写因子のコントロール下で転写される。選択可能なマーカー遺伝子および興味ある産物の遺伝子の両方の得られる転写産物は、かなりのレベルのタンパク質発現(すなわち翻訳)を容易にする機能性翻訳因子を有する。
【0032】
したがって、好ましい態様は、本発明において第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが別個の転写プロモーターのコントロール下である発現ベクターに関する。一般的に、真核細胞において第1および/または第2のポリヌクレオチドの発現、特に転写を促進することができるプロモーターが適当である。好ましい態様において、別個の転写プロモーターが同じである。別の好ましい態様において、別個の転写プロモーターが異なっている。好ましくは、転写プロモーターはSV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1アルファプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群から選択される。これらの好ましい態様において、第1のポリヌクレオチドおよび/または第2のポリヌクレオチドの転写をコントロールするプロモーターはCMVプロモーターまたは、より好ましくはSV40プロモーターである。特に好ましい態様において、第1のポリヌクレオチドの転写をコントロールするプロモーターはSV40プロモーターである。
【0033】
本発明の発現ベクターの他の好ましい態様において、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドは共通の転写プロモーターのコントロール下である。好ましくは、このような転写プロモーターはSV40プロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群から選択される。これらのさらに好ましい態様において、共通の転写プロモーターはSV40プロモーターである。このような共通の転写プロモーターを有する発現ベクターのさらに好ましい態様は、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチド間に機能的に位置するIRES因子を含む。
【0034】
本発明において利用される発現ベクターに関する手段により真核細胞宿主細胞に導入された膜結合葉酸受容体は、本発明において機能性である、すなわち利用される真核細胞と適合性である限り、あらゆる種由来であり得る。好ましくは、哺乳動物種由来の葉酸受容体、例えば、齧歯動物由来のもの、または、さらに好ましくは、ヒト葉酸受容体を使用する。一般的に、真核宿主細胞に導入され、選択マーカーとして利用される葉酸受容体は宿主細胞の内因性葉酸受容体と同種または異種であり得る。それが同種であるとき、それは宿主細胞と同じ種由来であり、例えば、宿主細胞の内因性葉酸受容体と同一であり得る。それが異種であるとき、それは宿主細胞以外の他の種由来であり、したがって宿主細胞の内因性葉酸受容体と相違であり得る。一般的に、選択マーカーとして利用される導入された葉酸受容体は宿主細胞と異種である。例えば、ヒト由来葉酸受容体は齧歯動物宿主細胞、例えば、CHO細胞に対する選択マーカーとして使用され得る。
【0035】
好ましくは、本発明の発現ベクターの第1のポリヌクレオチドによってコードされる機能性膜結合葉酸受容体は葉酸受容体アルファ(FRα)、葉酸受容体ベータ(FRβ)およびそれらの機能性変異体からなる群から選択される。機能性変異体は、すなわち真核細胞により摂取し、細胞の葉酸代謝を介して細胞の生存に寄与することができる、生理学的態様において機能性である葉酸受容体の誘導体を含む。例えば、葉酸受容体の変異型は置換、欠失および/または付加のような1個以上のアミノ酸変異体ならびにポリマー、例えば、ポリエチレングリコール構造(PEG)のような化学的な部分が葉酸受容体と結合している化学誘導体を含む。好ましくは、第1のポリヌクレオチドによってコードされる葉酸受容体はヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)、ヒト葉酸受容体ベータ(hFRβ)またはそれらの機能性変異体である。さらに好ましくは、好ましくは下記アミノ酸配列(配列番号1、1文字表記、N−末端からC−末端への方向で示されている)を有するヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)である:
MAQRMTTQLLLLLVWVAVVGEAQTRIAWARTELLNVCMNAKHHKEKPGPEDKLHEQCRPWRKNACCSTNTSQEAHKDVSYLYRFNWNHCGEMAPACKRHFIQDTCLYECSPNLGPWIQQVDQSWRKERVLNVPLCKEDCEQWWEDCRTSYTCKSNWHKGWNWTSGFNKCAVGAACQPFHFYFPTPTVLCNEIWTHSYKVSNYSRGSGRCIQMWFDPAQGNPNEEVARFYAAAMSGAGPWAAWPFLLSLALMLLWLLS
【0036】
他の好ましい態様は下記アミノ酸配列(配列番号2、1文字表記、N−末端からC−末端への方向で示されている)を有するヒト葉酸受容体ベータ(hFRβ)に関する:
MVWKWMPLLLLLVCVATMCSAQDRTDLLNVCMDAKHHKTKPGPEDKLHDQCSPWKKNACCTASTSQELHKDTSRLYNFNWDHCGKMEPACKRHFIQDTCLYECSPNLGPWIQQVNQTWRKERFLDVPLCKEDCQRWWEDCHTSHTCKSNWHRGWDWTSGVNKCPAGALCRTFESYFPTPAALCEGLWSHSYKVSNYSRGSGRCIQMWFDSAQGNPNEEVARFYAAAMHVNAGEMLHGTGGLLLSLALMLQLWLLG
【0037】
あるいは、本発明は天然環境において膜結合しない葉酸受容体に関する。このような非膜結合受容体を、例えば、非膜結合葉酸受容体と別のポリペプチドの膜貫通領域の融合タンパク質を提供することにより、膜結合するように変異させることができる。他の変異型も可能であり、これは当業者が容易に利用できる。この点において、好ましい例は可溶性葉酸受容体ガンマ(FRγ)、好ましくはヒト可溶性葉酸受容体ガンマ(FRγ)に基づく。それらのより好ましい態様において、ヒト可溶性葉酸受容体ガンマ(FRγ)は下記アミノ酸配列(配列番号3、1文字表記、N−末端からC−末端への方向で示されている)を有する:
MDMAWQMMQL LLLALVTAAG SAQPRSARAR TDLLNVCMNA KHHKTQPSPE DELYGQCSPW KKNACCTAST SQELHKDTSR LYNFNWDHCG KMEPTCKRHF IQDSCLYECS PNLGPWIRQV NQSWRKERIL NVPLCKEDCE RWWEDCRTSY TCKSNWHKGW NWTSGINECP AGALCSTFES YFPTPAALCE GLWSHSFKVS NYSRGSGRCI QMWFDSAQGN PNEEVAKFYA AAMNAGAPSR GIIDS
次に、これは、本発明の内容の葉酸摂取ができる機能性膜結合葉酸受容体を形成するために、変異、あるいは遺伝的に改変または誘導体化され得る。
【0038】
さらなる局面において、本発明における発現ベクターは1つ以上の付加的な選択マーカーをコードする1つ以上のさらなるポリヌクレオチドをさらに含み得る。したがって、好ましい態様において、本発明の葉酸系と1つ以上の異なる選択系(例えば、neo/G418)を利用する共選択を最適な実施を提供するために適用することができる。
【0039】
別の局面において、本発明は、細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチドおよび発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドが安定に導入された真核細胞であって、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する真核細胞に関する。それらの好ましい態様において、機能性膜結合葉酸受容体および興味ある産物は真核細胞により発現する。
【0040】
発現ベクターを介して細胞系に導入された機能性膜結合葉酸受容体に加えて、本発明における真核細胞は少なくとも1つの内因性機能性の一方向機能性葉酸輸送系、特に1つ以上の内因性機能性の膜結合葉酸受容体を含み得る。以下に記載されているとおり、選択方法がこのような内因性の一方向機能性葉酸輸送系の存在下でさえ、すなわちこのような内因系を維持している場所でさえ利用することができることが、本発明の利点である。したがって、さらなる好ましい態様は、少なくとも1つの内因性の一方向機能性葉酸輸送系を含む本発明の真核細胞であって、このような内因性の一方向機能性葉酸輸送系が好ましくは少なくとも1つの内因性機能性の膜結合葉酸受容体を含む真核細胞に関する。それらの好ましい態様において、内因性機能性の膜結合葉酸受容体は葉酸受容体アルファ(FRα)および葉酸受容体ベータ(FRβ)からなる群から選択される。
【0041】
他の好ましい態様は、少なくとも、例えば、1つの内因性機能性の膜結合葉酸受容体を含む内因性の一方向機能性葉酸輸送系が完全な活性を欠いている、すなわち減衰している、本発明における真核細胞に関する。このような減衰は、例えば、点突然変異、遺伝子破壊などによる、例えば、問題の内因性葉酸輸送系、例えば、内因性機能性の膜結合葉酸受容体の何らかのタイプの突然変異生成により提供され得る。該減衰は部分的または全体的であり得る。後者の場合、本発明における真核細胞は内因性機能性の一方向機能性葉酸輸送系、例えば、内因性機能性の膜結合葉酸受容体を含まない。したがって、好ましい態様において、本発明は、本発明の発現ベクターを安定に導入され、少なくとも1つの内因性機能性の膜結合葉酸受容体の完全な活性を欠いている、真核細胞に関する。
【0042】
該宿主細胞に導入された発現ベクターに関して、本明細書に記載されている好ましい態様を含む本発明のすべての発現ベクターが利用することができる。本発明の真核細胞の好ましい態様において、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチドおよび興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドは同じ発現ベクターに位置する。好ましくは、このような発現ベクターは本発明における、すなわち本明細書に記載されている発現ベクターである。
【0043】
本発明における真核細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞および菌類からなる群から選択される。菌類および植物細胞に関して、これらは、通常、葉酸に関して原栄養性である(すなわち、このような細胞はこれらの細胞生存性、すなわち細胞培養および増殖のために必要な葉酸を自発的に合成することができる)。本発明は、特に葉酸に対する栄養要求性となり得るこのような菌類および植物細胞を含む。これは、例えば、遺伝子操作によるものであり得る、すなわち、今回、細胞はそれらの細胞生存に必要な十分な量の葉酸を合成することができない。例えば、適当な代謝経路を介して葉酸を内因的に生合成するこのような菌類または植物細胞の能力は、例えば、適当な標的遺伝子の遺伝子破壊もしくは遺伝子サイレンシングまたは重要な酵素の阻害などにより不活性化される。
【0044】
それらの好ましい態様において、真核細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは、このような哺乳動物細胞は齧歯動物細胞、ヒト細胞およびサル細胞からなる群から選択される。特に好ましくは齧歯動物細胞であり、好ましくはCHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、マウス3T3繊維芽細胞およびSP2/0細胞からなる群から選択される。さらに特に好ましい齧歯動物細胞はCHO細胞である。また、好ましくはヒト細胞であり、好ましくは、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞およびHeLa細胞からなる群から選択される。さらに好ましくはサル細胞であり、好ましくは、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群から選択される。
【0045】
他の態様において、本発明は、細胞生存性が葉酸摂取に依存している真核細胞を提供し、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチドおよび発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを導入することを含む本発明における真核細胞の生産方法であって、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する方法に関する。好ましい態様において、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドは同じ発現ベクターに位置し、より好ましい態様において、該ベクターは本発明における、すなわち本明細書に記載されている発現ベクターである。
【0046】
本発明のさらに他の局面は、細胞に導入された発現ベクターによってコードされる興味ある産物を安定に発現することができる真核細胞の選択方法であって、
(i)細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチドおよび発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを導入された複数の真核細胞を提供し(第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する)、
(ii)限界濃度の葉酸を有する細胞培養培地中で該複数の真核細胞を培養し、それにより興味ある産物の安定な発現を達成する真核細胞を得る
ことを含む方法に関する。原則として、このような葉酸は酸化型葉酸または還元型葉酸であり得る。好ましいものは酸化型葉酸、特に葉酸である。
【0047】
葉酸の限界量に関して、培地中の適当な濃度は宿主細胞の必要条件および適用される選択条件のストリンジェンシーにしたがって当業者により測定することができる。葉酸(folic acid)を葉酸(folate)として、例えば、CHO宿主細胞と使用する場合、ストリンジェントな選択方法のための細胞培養培地中の葉酸の適当な濃度は約100nM以下、好ましくは約30nM以下または約10nM以下である。例えば、葉酸の適当な濃度は0.001nM−100nMの範囲、好ましくは0.01nM−100nMの範囲、より好ましくは0.1nM−100nMの範囲または1nM−100nMの範囲の任意の値を有し得る。同様に好ましくは0.001nM−30nMの範囲、0.01nM−30nMの範囲、0.1nM−30nMの範囲、1nM−30nMの範囲または3nM−10nMの範囲である。例えば、選択に適当な細胞培養培地中の葉酸濃度は1nM、3nM、10nMまたは30nMであり得る。
【0048】
ロイコボリンのような還元型葉酸を選択方法において使用する場合、それらの濃度は再び宿主細胞の必要条件および適用される選択条件のストリンジェンシーにしたがって当業者により測定することができる。細胞培養培地中のロイコボリンの濃度は、例えば、ストリンジェントな選択方法のために0.2nM−2nMの範囲であり得る。
【0049】
それらのさらなる態様において、選択方法はさらに興味ある産物の安定な発現を達成する真核細胞を同定および単離することを含む。
【0050】
選択方法のさらに好ましい態様において、複数の真核細胞は本発明における、すなわち本明細書に記載されている真核細胞から構成される。
【0051】
本発明のこの局面のさらなる好ましい態様は、特に真核細胞および発現ベクターに対して本明細書に記載されている。
【0052】
本発明の他の態様は、
(i)本発明における、すなわち本明細書に記載されている選択方法を実施し、
(ii)該細胞培養培地または該細胞から興味ある産物を単離する
ことを含む、興味ある産物の生産方法に関する。
【0053】
さらに、本発明のこの局面の好ましい態様は、特に真核細胞および発現ベクターに対して本明細書に記載されている。
【0054】
本発明にしたがって生産された興味ある産物、例えば、ポリペプチドは、当分野で既知の方法により、回収され、さらに精製され、単離され得る。例えば、該ポリペプチドは遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈降を含むが、これらに限定されない慣用の手段により栄養培地から回収され得る。精製は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水、クロマトフォーカシングおよびサイズ排除)、電気泳動手段(例えば、分取等電点分画)、溶解度差(例えば、硫酸アンモニウム沈降)または抽出を含むが、これらに限定されない種々の当分野で既知の手段により実施され得る。
【0055】
本発明のさらなる局面は、真核細胞の細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、興味ある産物を安定に発現することができる真核細胞の選択のための選択マーカーとしての機能性膜結合葉酸受容体の使用に関する。このような使用の好ましい態様において、葉酸受容体は葉酸受容体アルファ(FRα)、葉酸受容体ベータ(FRβ)およびそれらの機能性変異体からなる群から選択される。好ましくは、本発明のこの局面で利用される葉酸受容体はそれぞれのヒト葉酸受容体であり、ヒト葉酸受容体アルファ(FRα)が好ましい。本発明のこの局面のさらに好ましい態様は、特に真核細胞および発現ベクターに対して本明細書に記載されている。
【0056】
本明細書に記載されている文献および文書の全ての内容を出典明示により本明細書に包含させる。
【0057】
以下の実施例は、なんら本発明の範囲を限定することなく、本発明を説明するために提供する。特に、実施例は本発明の好ましい態様に関する。
【実施例】
【0058】
実施例
一般的に、本明細書に記載されている物質、例えば、試薬は当業者に知られており、市販されており、製造業者の指示にしたがって使用することができる。
【0059】
実施例1:葉酸−受容体ベース選択系を利用する組換え抗体の高レベル発現
実施例1.1:発現ベクター
(i)分泌されるIgG1型の組換えヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット、および(ii)選択可能なマーカー遺伝子としてヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)をコードするポリヌクレオチドを含む別個の発現カセットの両方を有する真核細胞、特にCHO細胞における発現に適当であるプラスミドベクター(すなわち試験ベクター)を、培養培地中で限界濃度の葉酸、すなわち葉酸下でhFRアルファ(hFRα)−トランスフェクトされた細胞の選択の効率を調べるために構築する。ヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)の発現はSV40プロモーターおよび標準(SV40)ポリアデニル化シグナルのコントロール下である。組換え抗体の発現はCMVプロモーターおよび標準(SV40)ポリアデニル化シグナルのコントロール下である。コントロール(すなわちコントロールベクター)として、同じ抗体をコードし、hFRアルファ(hFRα)発現カセットを欠いているが、選択可能なマーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を含んでいる、同様の発現ベクターを使用する。
【0060】
実施例1.2:細胞および培養条件
株CHO−K1由来のチャイニーズハムスター卵巣細胞を2.3μM(マイクロM)の葉酸を含む適当な化学的に定義された培養培地で懸濁培養条件で維持する。
【0061】
細胞生存の葉酸依存の分析のために、2300nMから0.1nMの範囲の葉酸濃度を使用して葉酸飢餓実験を行う。細胞をこのような培地で培養し、細胞生存性を生存細胞のパーセントを定量するために分析する。表1は上記CHO−K1細胞系で得られた結果を要約する。
【0062】
表1:異なる葉酸濃度でのCHO細胞の生存:
【表1】

【0063】
これらの結果は、この特定の宿主細胞系に対して、100nM以下、好ましくは30nM以下の葉酸濃度が安定にトランスフェクトされた細胞の葉酸受容体ベース選択のための有意な選択圧力を生むために適当であることを示す。
【0064】
実施例1.3:トランスフェクションおよび選択
細胞をエレクトロポレーションによりhFRアルファ(hFRα)発現カセットを含む試験ベクターまたはhFRアルファ hFRαを欠いているコントロールベクターのいずれかでトランスフェクトする。次にトランスフェクタント細胞を適当な濃度のグルタミンおよび2.3μM(マイクロM)の葉酸で補った培地中で125ml振とうフラスコ中の懸濁培養条件下で培養する。トランスフェクションの48時間後、細胞を限界量の葉酸、すなわち10nMまたは1nMの葉酸を含む培地に移し、試験ベクターでトランスフェクトされたサンプルに対して24−ウェルプレートにおいて本発明による選択方法を開始する。加えて、コントロールプラスミドでトランスフェクトされた細胞を、選択剤、すなわち0.8mg/mLのG418を2.3μM(マイクロM)の葉酸を含む培地に加えることにより選択するか(すなわちコントロール1)、または何ら選択なしに培養する(すなわちコントロール2)。首尾よくこの選択スキームから回収した細胞を6−ウェルプレートに移し、さらに抗体生産レベルの分析のために振とうフラスコに拡大する。
【0065】
実施例1.4:抗体生産の分析
トランスフェクタントおよび葉酸不足細胞集団から、振とうフラスコ中の過集密バッチ培養物を抗体発現レベルを分析するために製造する。細胞を2.3μM(マイクロM)の葉酸を含む培地中に2×10細胞/mLで播種し、懸濁培養(すなわち振とう)条件下でインキュベートする。14日目、細胞培養の上清を回収し、タンパク質−A HPLC方法論、すなわち精製の親和性型を使用して抗体レベルを分析する。IgG分子は主にそれらのFc−部分を介してカラムに特異的に結合するが、他のタンパク質はマトリックスと相互作用せずカラムを通過する。低いpH条件下で、捕獲されたIgGタンパク質をカラムから溶離し、UV吸収測定を介して定量し、そして、必要なとき、さらに精製し、単離する。
【0066】
実施例1.5:結果
この研究の目的は、葉酸遺伝子、特にhFRアルファ(hFRα)遺伝子が葉酸欠乏条件下で選択可能なマーカーとして働き、それにより興味ある産物、例えば、モノクローナル抗体を共過剰発現する細胞を選択することができる、概念の証明を提供するためである。コントロールとして、選択可能なマーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子を含むベクターも使用する。トランスフェクション後、細胞を、培地中の葉酸濃度を2.3μM(マイクロM)から10nMまたは1nMに急激に減少させることによりストリンジェント選択に付す。葉酸受容体を有するプラスミドでトランスフェクトされた細胞を葉酸欠乏の条件下で容易に回収し、選択的な培地においてさらに拡大することができる。対照的に、コントロールベクターの場合、葉酸の濃度は変化なしに維持されるが、G418での選択圧力または全く選択圧力なしのいずれかを適用する。選択された細胞集団を、2.3μM(マイクロM)の葉酸を含む培地中で過成長(すなわち過集密)懸濁(すなわち振とう)フラスコ培養を使用して、抗体生産に関して分析する。次に培養培地中の抗体の濃度を14日目に測定する。下記表1に示されるとおり、葉酸受容体を含むプラスミドでトランスフェクトされ、そして葉酸アベイラビリティを減少することにより選択された細胞は組換え抗体を過剰発現する。これらのトランスフェクタント細胞集団により生産された抗体の量はコントロールベクターでトランスフェクトされ、G418で選択された細胞と比較して高い。さらなるコントロールとして、選択圧力を適用しないとき、抗体生産しない細胞が得られる。これらのデータは、現在の葉酸受容体遺伝子の手段が興味ある組換え産物を過剰発現する細胞を迅速に確立するために独立型の優性の代謝選択可能なマーカーとして容易に適用することができる、概念の証明を提供する。
【0067】
表2:(C葉酸:選択中の培地中の葉酸の濃度;CG418:選択中の培地中のG418の濃度;CmAb:過成長培養中の培地中の分泌される抗体の濃度)
【表2】

【0068】
実施例2:組換え抗体生産レベルは培養培地中の葉酸濃度の減少に応じて増加する
実施例2.1:発現ベクター
上記実施例1.1に記載されているプラスミドベクター(すなわち試験ベクター)を提供する。
【0069】
実施例2.2:細胞および培養条件
株CHO−K1由来のチャイニーズハムスター卵巣細胞を2.3μM(マイクロM)の葉酸を含む化学的に定義された培養培地RPMI−1640において単層培養条件下で維持する。該細胞は本明細書外に記載されているRFC輸送体活性を欠いている(Assaraf, Y.G. and Schimke, R.T. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7154-7158; Rothem, L., et al., Mol. Pharmacol. 68: 616-624)。このようなRFC−欠損細胞を実施例におけるこのさらなるキャリア系による葉酸飢餓の可能性のある副行路を避けるために使用する。
【0070】
実施例2.3:トランスフェクションおよび選択
RFC−欠損 C15細胞をエレクトロポレーションにより試験ベクターでトランスフェクトする。トランスフェクション48時間後、細胞を選択可能なマーカーならびに組換え抗体の両方の発現を促進するために30nMの葉酸を補った葉酸−フリー培地中で増殖させ、次に希釈クローニングに付す。細胞を5細胞/mlの最終密度に希釈し、96−ウェルプレートに100μl/ウェル(すなわち0.5細胞/ウェル)で播種する。次にクローンを0.25nMの葉酸および500μg/mlのG418を含む培地中に維持する。選択方法の最適性能を提供するために、さらなる選択系(すなわちneo/G418)と一緒に本発明の葉酸系を利用する共選択を適用する。次に、抗体過剰発現をさらに支持し、確立するように、最も高いレベルの抗体生産を行うクローンを低い葉酸濃度(すなわち1200pM、600pMおよび60pM)下で培養する。これは種々のクローンにおける抗体発現のさらなる分析により確認される。
【0071】
実施例2.4:抗体生産の分析
抗体生産の分析を原則として上記実施例1.4に記載されているとおりに実施する。分泌される抗体の濃度を以下のとおりELISAアッセイを使用してモニタリングする:Maxisorp マイクロプレートを抗−ヒトIgGで被覆する。ウシ血清アルブミン(BSA)を含むバッファーでブロックし、数回洗浄後、分泌される抗体サンプルの複数回希釈物を加える。次に、ヤギ抗−ヒトIgG−ペルオキシダーゼからなるペルオキシダーゼ−結合二次抗体を加える。最後に、発色ペルオキシダーゼ基質を加え、得られる色素濃度をそれぞれのウェルにおいて分光学的に測定し、次に既知のIgG濃度の標準濃度と比較する。
【0072】
2.5:結果
以下の表2に記載されているとおり、組換え抗体生産のレベルは葉酸欠乏のストリンジェンシーと相関する。したがって、葉酸濃度が培地中で減少するとき、抗体生産レベルは増加する。これらの結果は、hFRアルファ(hFRα)遺伝子が葉酸欠乏の条件下で組換えタンパク質の過剰発現のために使用することができる有効な選択可能なマーカーであるという概念の証明のさらなる確認である。
【0073】
表3:(C葉酸:培地中の葉酸の濃度;CmAb:培地中に分泌される抗体の濃度)
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチド、および興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを含む真核細胞発現ベクター。
【請求項2】
興味ある産物がポリペプチド、RNAおよびDNAからなる群から選択される、請求項1に記載の真核細胞発現ベクター。
【請求項3】
興味ある産物がポリペプチドである、請求項2に記載の真核細胞発現ベクター。
【請求項4】
第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが別個の転写プロモーターのコントロール下である、前の請求項のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項5】
転写プロモーターが同じである、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
転写プロモーターが異なっている、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項7】
第1のポリヌクレオチドの転写をコントロールするプロモーターがSV40プロモーターである、請求項4から6のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項8】
第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが共通の転写プロモーターのコントロール下である、請求項1から3のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項9】
共通の転写プロモーターがSV40プロモーターである、請求項8に記載の発現ベクター。
【請求項10】
該ベクターが第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチド間に機能的に位置するIRES因子を含む、請求項8または9に記載の発現ベクター。
【請求項11】
第1のポリヌクレオチドによってコードされる機能性膜結合葉酸受容体が葉酸受容体アルファ(FRα)、葉酸受容体ベータ(FRβ)およびそれらの機能性変異体からなる群から選択される、前の請求項のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項12】
第1のポリヌクレオチドによってコードされる機能性膜結合葉酸受容体がヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)である、請求項11に記載の発現ベクター。
【請求項13】
細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチド、および発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドが安定に導入された真核細胞であって、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する真核細胞。
【請求項14】
該細胞が少なくとも1つの内因性機能性の膜結合葉酸受容体の完全な活性を欠いている、請求項13に記載の真核細胞。
【請求項15】
機能性膜結合葉酸受容体をコードする該第1のポリヌクレオチド、および興味ある産物をコードする該第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターに位置する、請求項13または14に記載の真核細胞。
【請求項16】
発現ベクターが請求項1から12のいずれかに定義されているとおりである、請求項13から15のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項17】
該真核細胞が哺乳動物細胞である、請求項13から16のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項18】
該哺乳動物細胞が齧歯動物細胞である、請求項17に記載の真核細胞。
【請求項19】
該齧歯動物細胞がCHO細胞である、請求項18に記載の真核細胞。
【請求項20】
細胞生存性が葉酸摂取に依存している真核細胞を提供し、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチド、および発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを導入することを含む請求項13から19のいずれかに記載の真核細胞の生産方法であって、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する方法。
【請求項21】
第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターに位置する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
発現ベクターが請求項1から12のいずれかに定義されているとおりである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
細胞に導入された発現ベクターによってコードされる興味ある産物を安定に発現することができる真核細胞の選択方法であって、
(i)細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、発現ベクターに位置し、機能性膜結合葉酸受容体をコードする第1のポリヌクレオチド、および発現ベクターに位置し、興味ある産物をコードする第2のポリヌクレオチドを導入された複数の真核細胞を提供し(第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターまたは別々の発現ベクターに位置する)、
(ii)限界濃度の葉酸を有する細胞培養培地中で該複数の真核細胞を培養し、それにより興味ある産物の安定な発現を達成する真核細胞を得る
ことを含む、方法。
【請求項24】
興味ある産物の安定な発現を達成する真核細胞を同定および単離することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
複数の真核細胞が請求項13から19のいずれかに定義されているとおりの真核細胞から構成される、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
(i)請求項23から25のいずれかに記載の選択方法を実施し、
(ii)該細胞培養培地または該細胞から興味ある産物を単離する
ことを含む、興味ある産物の生産方法
【請求項27】
真核細胞の細胞生存性が葉酸摂取に依存しており、興味ある産物を安定に発現することができる真核細胞の選択のための選択マーカーとしての機能性膜結合葉酸受容体の使用。
【請求項28】
葉酸受容体が葉酸受容体アルファ(FRα)、葉酸受容体ベータ(FRβ)およびそれらの機能性変異体からなる群から選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
葉酸受容体がヒト葉酸受容体アルファ(hFRα)である、請求項28に記載の使用。

【公表番号】特表2011−505861(P2011−505861A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538764(P2010−538764)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068046
【国際公開番号】WO2009/080759
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】