説明

有機化学成分分離方法並びに装置

【課題】有機化学成分と妨害物質の分離効率の低下やばらつきを少し、カラムの長期利用を可能とし、該成分の分離過程を自動化する。
【解決手段】プレカラム及びメインカラムに極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を選択して、試料にカラムクロマトグラフ操作を行って、試料中の有機化学成分と該成分の分析の妨害物質とを分離して採取する。この操作は、プレカラム6及びメインカラム9と、第1ライン13と、第2ライン15と、第3ライン18と、第4ライン22と、第1のスイッチングバルブ5と、第2のスイッチングバルブ8と、第3のスイッチングバルブ11とを有し、各送液ポンプ4,7,10とスイッチングバルブ5,8,11の切り替えによって溶離液と試料の流れるパスをプレカラムのみ、プレカラムからメインカラムへ、そしてメインカラムのバックフラッシュを連続的に実行する制御手段を備えるシステムによって容易に自動化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学成分分離方法並びに装置に関する。さらに詳述すると、本発明は試料に含まれるPCBに代表される有機化学成分、さらには絶縁油中に含まれるPCBに代表される有機化学成分を簡便なカラムクロマトグラフを用いて妨害成分から分離する有機化学成分分離方法並びに装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に存在する有機化学成分の中には環境や人体に対して悪影響を及ぼすものが多く存在する。例えばPCBやダイオキシン類、多環芳香族炭化水素などである。これらの有機化学成分については継続的な環境モニタリングを実施することが望まれる。また、PCBについては絶縁材として生産された製品の無害化処理が実施される。この無害化処理施設の運転に当たっては、処理を行うたびに処理基準値の遵守を簡便迅速に確認することが望まれる。さらには、処理前の絶縁油などの試料についても、PCBの有無を簡便迅速に判別することが望まれる。
【0003】
試料中や絶縁油中のPCBなどの有機化学成分の分析は例えばガスクロマトグラフにより行われる。この分析の際には、試料に含まれる妨害成分である例えば非分離炭化水素混合物(UCM:Unresolved Complex Mixture)やn−アルカンを除去する前処理を施す必要がある。同様に、絶縁油試料においても、分析に先立ち絶縁油の主成分である鉱油成分を除去する前処理が必要である。
【0004】
試料をカラムクロマトグラフにより前処理する手順としては、例えばまず試料中の有機成分を有機溶媒に抽出した抽出液を生成する。そしてこの抽出液をアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピルシラン等の極性を有する充填剤を利用してカラムクロマトグラフ操作を行い、例えばPCBなどの測定目的成分から測定妨害成分を分離する(特許文献1)。これにより例えばPCBなどの測定目的成分を含むとともに妨害成分が除去された試料を得ることができる。
【0005】
また、絶縁油試料をカラムクロマトグラフにより前処理する手順としては、例えばプレカラムにシリカゲル、メインカラムにアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピルシラン等の極性を有する充填剤を利用してカラムクロマトグラフ操作を行い、鉱油成分をPCBから分離する(特許文献1)。これによりPCBを含むとともに妨害成分が除去された試料を得ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−114222号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の方法において、絶縁油の前処理に用いるプレカラムの充填剤であるシリカゲルは、PCBなどの有機化学成分と妨害成分を粗く分離するのに適しているものの、その表面が化学的に不安定となりやすく、試料の性状によってはPCBなどの有機化学成分と妨害成分の分離効率にばらつきが生じる可能性がある。
【0008】
また、試料や絶縁油に例えばPCBなどの測定目的成分よりも極性が高い例えば芳香族成分やアルデヒド類、ケトン類などが多く含まれる場合には、前記高極性成分が主としてプレカラム中の充填剤に吸着し、例えばPCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離を不十分にし、ないしはばらつきを生じさせる可能性がある。
【0009】
さらに、主としてプレカラム中の充填剤に吸着した前記高極性成分は容易に充填剤から脱着しないため、この場合プレカラムの長期利用は困難である。また、メインカラムについても、前記高極性成分が移入した場合にはメインカラムの長期利用は困難となる。
【0010】
加えて、前記の方法においてカラムクロマトグラフ操作を手動(自然落下)で行う場合には、分離操作に最大で数時間(3〜4時間)程度を要する上、作業者の熟練度等が例えばPCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離効率に与える影響が懸念される。
【0011】
本発明は、有機化学成分と妨害成分の分離効率の低下やばらつきが少ない有機化学成分分離方法並びに装置を提供することを目的とする。また、本発明は、カラムの長期利用を可能とする有機化学成分分離方法並びに装置を提供することを目的とする。更に、本発明は、有機化学成分の分離過程を自動化できる有機化学成分分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる問題点を解決するため、本発明者等が種々検討、研究した結果、メインカラムと同様にプレカラムについても極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を選択することにより、PCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離のばらつきを改善すればよいとの着想に基づき、鋭意研究を重ねた結果、メインカラムと同様にプレカラムにもアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピルシラン等の極性を有する安定性の高い化学結合型の充填剤を利用してカラムクロマトグラフ操作を行うことにより、PCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離効率にばらつきが生じないとの知見を得た。
【0013】
また、本発明者は、試料や絶縁油に含まれる比較的高極性の共雑成分をプレカラムの前段で除去することにより、プレカラム及びメインカラムに前記高極性成分を移入させなければよいとの着想に基づき、プレカラムの前段に付加し、試料や絶縁油中の高極性成分を除去する共雑成分除去カラムについて検討を加えた結果、共雑成分除去カラムとしてアミノプロピルシラン等の極性を有する充填剤を用いることにより、プレカラム及びメインカラムに高極性成分が移入することを防げるとの知見を得た。
【0014】
本発明の有機化学成分分離方法は、かかる知見に基づくものであって、プレカラム及びメインカラムとして極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を選択して、試料を対象にカラムクロマトグラフ操作を行うことにより、試料中の有機化学成分と該有機化学成分の分析の妨害成分とを分離して採取するものである。
【0015】
さらに、本発明の有機化学成分分離方法は、プレカラムの前段に極性を有する充填剤を充填した共雑成分除去カラムを備え、試料を共雑成分除去カラムに通した後に、プレカラム及びメインカラムに接触させるものである。しかして、共雑成分除去カラム、プレカラム、メインカラムの組み合わせにより、試料または絶縁油中の例えばPCBなどの測定目的成分を測定妨害成分から分離して採取するようにしている。
【0016】
ここで、共雑成分除去カラムとは、好ましくは極性を有する充填剤を充填したカラムであり、原則として繰り返し使用を目的としないカラムである。共雑成分除去カラムとしては、市販の固相カートリッジを使用してもよい。
【0017】
またプレカラム、メインカラムに用いる充填剤としては、極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤であることが好ましく、より好ましくはアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピルシランから選ばれる1種または2種以上の混合物である。充填剤としては、粒径3〜20μmの25Mpa以上の高圧に耐えうる充填剤である。
【0018】
さらに、本発明の有機化学成分分離方法において、好ましくは、試料に各カラム中での移動速度が有機化学成分よりも早く妨害成分よりも遅いマーカー物質を添加してプレカラムに供給し、マーカー物質がプレカラムから溶出したことを検出するまではプレカラムから溶出される溶離液をメインカラムを通さずに処理し、マーカー物質がプレカラムから溶出したことを検出するのと同時にプレカラムから溶出される溶離液をメインカラムに供給してカラムクロマトグラフ操作することで有機化学成分を分離することである。
【0019】
本発明の有機化学成分分離方法において、より好ましくは、マーカー物質がメインカラムから溶出した後に、メインカラム出口から溶離液を供給してバックフラッシュさせることにより、有機化学成分を分離回収することである。
【0020】
また、本発明者等は、カラムクロマトグラフ操作におけるPCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離について人為的なばらつきを極力少なくするため、プレカラム及びメインカラムにおけるPCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離操作について複数の送液ポンプ及びカラムスイッチングのためのバルブを付加することによりプレカラムとメインカラムとを自動的に繋ぐ有機化学成分分離システムを構築して、分離操作を自動化し人為操作を極力排除するとともに、分離に要する時間を短縮することとした。
【0021】
即ち、本発明の有機化学成分分離装置は、極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を充填したプレカラム及びメインカラムと、第1の送液ポンプを備え溶離液と処理対象試料あるいは溶離液のみを供給する第1ラインと、第2送液ポンプを備え溶離液を供給する第2ラインと、第3送液ポンプ溶離液を備え溶離液を供給する第3ラインと、試料中の有機化学成分を検出する検出手段を備える第4ラインと、第2ラインが接続され第1ラインとプレカラムとの接続先を切り替える第1のスイッチングバルブと、第3ライン並びに第1のスイッチングバルブが接続されメインカラムの接続先を切り替える第2のスイッチングバルブと、第2のスイッチングバルブが接続されて第2スイッチングバルブの接続先を第4ラインと廃棄ラインとのいずれかに選択的に切り替える第3のスイッチングバルブとを有し、第1ラインとプレカラムと第4ラインとを結ぶパスを設定してプレカラムを通過した溶離液と妨害成分をメインカラムを通過させずに検出器を経て系外へ排出する第1ステップと、第1ラインとプレカラムとメインカラム並びに第4ラインとを結ぶパスを設定してプレカラムで妨害成分が分離された測定対象となる有機化学成分と溶離液とをメインカラムに導入する第2ステップと、プレカラムを切り離して第1ラインとメインカラム並びに第4ラインとを結ぶパスを設定して第1ラインから溶離液のみを供給しながら有機化学成分をメインカラムに供給し、第2ライン並びに第3ラインから溶離液を供給してプレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第3ステップと、第2送液ポンプとメインカラムの出口とを連結してメインカラム内に残留する有機成分をバックラッシュをかけて第4ラインに送液して検出器に送液するパスを設定し、かつ第1ライン並びに第3ラインから溶離液を供給しプレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第4ステップとを、各送液ポンプとスイッチングバルブの切り替えによって連続的に実行する制御手段を備えるようにしている。
【0022】
したがって、PCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離操作が自動化できる。しかも、第1〜第3の送液ポンプと第1〜第3のスイッチングバルブとの切り替えによって溶離液(溶離液)並びに試料のプレカラム及びメインカラムへの送液速度並びに切り替えタイミングを自在に変更することが可能である。また、カラムに濃縮されたPCBなどの測定目的成分は、バックフラッシュによりカラム入口方向へ逆流させることにより、濃縮した状態で効率的に分離回収される。更に、プレカラム及びメインカラムは、使用の都度、溶離液のバックフラッシュにより洗浄され、再利用される。
【0023】
また、本発明の有機化学成分分離装置は、試料に各カラム中での移動速度が有機化学成分よりも早く妨害成分よりも遅いマーカー物質を添加してプレカラムに供給し、マーカー物質のプレカラム並びにメインカラムでの分離挙動をモニターすることで、スイッチングバルブによるカラムスイッチングのタイミング及び送液ポンプの駆動及び休止のタイミングを決定するものである。この場合には、各カラムで分離されたマーカー物質は、妨害成分よりも遅くカラムから溶出し、かつ測定目的成分即ち有機化学成分よりも早くカラムから溶出されるので、マーカー物質がカラムから溶出されるときを基準にカラムの切り替え及び複数の送液ポンプの駆動及び休止のタイミングが正確に実施される。
【0024】
ここで、好ましくは、上述のマーカー物質がプレカラムから溶出する直前であることを検出したときにステップ1からステップへの切り替えを行い、有機化学成分の全量がメインカラムに導入されたことを前記検出器で検出したときにステップ2からステップ3への切り替えを行い、マーカー物質がメインカラムから溶出したことを検出してステップ3からステップ4への切り替えを行うものである。
【0025】
更に、本発明の有機化学成分分離装置において、好ましくは、送液ポンプの起動のタイミングを必要とされるタイミングの前に設定することである。
【0026】
また、本発明の有機化学成分分離装置において、好ましくは、プレカラムの前段に極性を有する充填剤を充填した共雑成分除去カラムを備え、試料を共雑成分除去カラムに通した後に、プレカラム及びメインカラムに接触させることである。
【発明の効果】
【0027】
しかして、本発明の有機化学成分分離方法によると、プレカラムの充填剤として極性を有しかつ安定性の高い化学結合型のアミノプロピルシラン等の充填剤を用いているので、プレカラムにおけるPCBなどの測定目的成分と妨害成分の分離効率にばらつきが生じにくい。
【0028】
また、プレカラムの前段にアミノプロピルシランなどの極性を有する充填剤を用いた共雑成分除去カラムを付加した本発明によると、試料や絶縁油に含まれる比較的高極性の成分を共雑成分除去カラムに吸着させて、プレカラム及びメインカラムに移入することを防止できるので、プレカラム並びにメインカラムでの測定目的成分と妨害成分の分離効率を高めることができる。しかも、試料等に含まれる比較的高極性の成分のプレカラム及びメインカラムへの移入が防がれるので、カラムの洗浄は容易となり、またカラムの寿命を延ばすことができる。例えば、プレカラム及びメインカラムを溶離液で洗浄するだけの簡便な処理で長期に亘って繰り返し使用が可能であり、コストの低減を図ることができる。
【0029】
また、試料にカラム中での移動速度が有機化学成分よりも速く妨害成分よりも遅いマーカー物質を付加する場合には、このマーカー物質のカラム内での分離挙動を監視してメインカラムへの溶離液の送液の切替えが行われるので、プレカラムで試料から分離された妨害成分のメインカラムへの移入を防止でき、更に有機化学成分とマーカー物質との分離も正確に行うことができ、測定目的成分とそれ以外の成分との分離効率を高められる。
【0030】
更に、メインカラムに濃縮されたPCBなどの測定目的成分をバックフラッシュによりカラム入口方向へ逆流させることで、PCBなどの測定目的成分を含む画分の溶媒量は、順方向に送液した場合のそれと比較して少なく抑えることができ、すなわちPCBなどの測定目的成分を効率的に濃縮できる上、溶離液の使用量を節約する効果も期待できる。
【0031】
よって本発明によれば試料や絶縁油に含まれる例えばPCBなどの有機化学成分を簡便迅速に測定するに適した有機化学成分の分離方法を得ることができる。
【0032】
また、本発明の有機化学成分分離装置によれば、プレカラム及びメインカラムに送液ポンプを介して溶離液と試料とを圧送して各カラム等を通過させると共にスイッチングバルブの切り替え操作で、各カラムへの溶離液と試料との切り替えが行われるので、測定対象たる有機化学成分(例えばPCBなど)と妨害成分の分離はむらなく短時間で完了することができる。例えば本実施例によると、20分程度で有機化学成分の分離が高い分離効率でできた。特に、プレカラムの前段に共雑成分除去カラムを付加して試料を注入する場合には、試料や絶縁油に含まれる比較的高極性の成分のプレカラム及びメインカラムへの移入を防止できるので、プレカラム並びにメインカラムでの測定目的成分と妨害成分の分離効率を更に高めることができるだけでなく、各カラムを溶離液で洗浄するだけの簡便な処理で長期利用を可能としてコスト低減を図ることができる。
【0033】
しかも、メインカラムで分離された測定目的成分たる有機化学成分を濃縮されたまま溶離液のバックフラッシュによりカラム入口方向へ逆流させることで回収するので、測定目的成分を含む画分の溶媒量は、順方向に送液した場合のそれと比較して少なく抑えることができる。したがって、PCBなどの測定目的成分を効率的に濃縮できる上に、溶離液の使用量を節約することができる。また、プレカラム及びメインカラムの洗浄を行う場合にも、溶離液のバックフラッシュにより、カラムに濃縮した化学成分を効率的かつ短時間でカラムの外に流し出すことができる。
【0034】
さらに、試料に付加したマーカー物質を検出器によりリアルタイムでモニターして、カラムスイッチングの切り替え及び複数の送液ポンプの駆動及び休止を制御する本発明の有機化学成分分離装置によれば、カラムの切り替え及び複数の送液ポンプの駆動及び休止のタイミングが、妨害成分よりも遅くかつ測定目的成分よりも早くカラムから溶出されるマーカー物質を基準に決定されるので、分離効率に優れる。特に、マーカー物質のカラムから溶出するタイミングでカラムスイッチングの切り替え及び複数の送液ポンプの駆動及び休止を制御する場合には、より高い分離効率が得られる。
【0035】
また、複数の送液ポンプの起動のタイミングを実際に必要とされるタイミングの前に設定することで、溶離液の送液速度を安定化させることができる。これによって、むらなく分離が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0037】
図1〜図5に本発明の有機化学成分分離方法を実施するシステムの一例を示す。このシステムは、試料を導入する試料注入部1と、溶離液2を貯留するタンク3と、試料及び溶離液を輸送する第1の送液ポンプ4、試料及び溶離液の分岐を行う第1のスイッチングバルブとしての六方バルブ5、プレカラム6、プレカラム6により分離した試料及び溶離液の分岐を行う第2のスイッチングバルブとしての六方バルブ8、メインカラム9、カラム出口における例えば炭化水素などの化学成分の存在の有無をモニターするための検出部12、メインカラム9を用いて分離した試料を検出器12に導くための第3のスイッチングバルブとしての四方バルブ11、メインカラム9をバックフラッシュするための溶離液2を輸送する第3の送液ポンプ10、プレカラム6を洗浄するための溶離液2を輸送する第2の送液ポンプ7からなる。尚、プレカラム6及びメインカラム9には、それぞれ充填剤が充填されている。
【0038】
プレカラム6及びメインカラム9には、極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤がそれぞれ充填されている。この充填剤としては、好ましくはアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3−ジヒドロキシプロポキシプロピルから選ばれる1種または2種以上の混合物を担持したものが挙げられる。
【0039】
また、図1の試料注入口1より導入する試料は、予め極性が極めて低いないしは無い溶媒、好ましくはn−ヘキサンにより洗浄された、極性を有する充填剤、好ましくはアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3−ジヒドロキシプロポキシプロピルから選ばれる1種または2種以上の混合物を担持した充填剤(共雑成分除去カラム)を通過させ、試料に含まれる比較的極性の高い成分のみを充填剤に吸着させることにより分離したものを用いる。例えば、プレカラム6の前段に極性を有する充填剤を充填した共雑成分除去カラム24を備え、試料を共雑成分除去カラム24に通した後に、試料注入口1を介してライン1に導入し、プレカラム6及びメインカラム9に接触させるようにしている。
【0040】
そして、プレカラム6、メインカラム9並びに検出器12は、対応する各スイッチングバルブ5,8,11にそれぞれ接続され、更にこれらが複数の配管によって相互に接続されると共に試料並びに溶離液を供給する供給ラインと繋がれている。
【0041】
即ち、プレカラム6を接続する第1のスイッチングバルブたる六方バルブ5には、第1の送液ポンプ4を備え溶離液2と処理対象試料25あるいは溶離液2のみを供給する第1ライン13と、第2送液ポンプ7を備え溶離液を供給する第2ライン15と、第2のスイッチングバルブたる六方バルブ8が連結されている。例えば、六方バルブ5のポート5aに第1のライン13が、ポート5bと5eにプレカラム6を備えた第5のライン14の両端が、ポート5cにシステム系外に続く第6のライン16が、ポート5dに第2のライン15が、ポート5fに第2のスイッチングバルブ8のポート8aがそれぞれ接続されている。尚、第1ライン13を流れる溶離液2に対する処理対象となる試料25の注入は、第1の送液ポンプ4と六方バルブ5との間に設けられた試料注入部1を介して行われる。
【0042】
また、メインカラム9を接続する第2のスイッチングバルブたる六方バルブ8には、第1のスイッチングバルブ5と、第3送液ポンプ10を備え溶離液を供給する第3ライン18と、第3のスイッチングバルブたる四方バルブ11が連結されている。例えば、六方バルブ8のポート8aに第1のスイッチングバルブ5のポート5fを連結する第7のライン17が、ポート8bと8eにメインカラム9を備えた第8のライン19の両端が、ポート8cに四方バルブ11のポート11cが繋がる第10のライン21が、ポート8dに第3のライン18が、ポート8fに四方バルブ11のポート11aが第9ライン20を介してそれぞれ接続されている。
【0043】
更に、検出器12を接続する第3のスイッチングバルブたる四方バルブ11には、第2のスイッチングバルブ8が接続されて、メインカラム9を経由したラインあるいは経由しないラインが第4ライン22と廃棄ライン23とのいずれかに選択的に接続可能とされている。例えば、四方バルブ11の第1のポート11aには六方バルブ8の第6ポート8fと連通する第9ライン20が、第2のポート11bには系外に至る第11のライン23が、第3のポート11cには六方バルブ8の第3のポート8cと連通する第10のライン21が、更には第4のポート11dには試料中の有機化学成分を検出する検出手段12を備え系外に至る第4ライン22がそれぞれ接続されている。
【0044】
上述の第1〜第3のスイッチングバルブ5,8,11並びに第1〜第3の送液ポンプ4,7,10の切り替え並びに駆動・停止は、図示していない制御手段によって、タイムスケジュールあるいは検出手段からの検知信号に基づいてシーケンス制御されるように設けられている。
【0045】
各ステップにおける説明は以下の通り。ラインでつながれたシステム全体を第1の送液ポンプ4,第2の送液ポンプ7,第3の送液ポンプ10により溶離液2で洗浄する洗浄ステップ(図1)、第1ライン13とプレカラム6と第4ライン22とを結ぶパスを設定してプレカラム6を通過した溶離液2と妨害成分をメインカラム9を通過させずに検出器12を経て系外へ排出する第1ステップ(図2)と、第1ライン13とプレカラム6とメインカラム9並びに第4ライン22とを結ぶパスを設定してプレカラムで妨害成分が分離された測定対象となる有機化学成分と溶離液とをメインカラム9に導入する第2ステップ(図3)と、プレカラム6を切り離して第1ライン13とメインカラム9並びに第4ライン22とを結ぶパスを設定して第1ライン13から溶離液のみを供給しながら有機化学成分をメインカラム9に供給し、第2ライン並びに第3ラインから溶離液を供給してプレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第3ステップ(図4)と、第3送液ポンプとメインカラムの出口とを連結してメインカラム内に残留する有機成分をバックラッシュをかけて第4ラインに送液して検出器12に送液するパスを設定し、かつ第1ライン並びに第3ラインから溶離液を供給してプレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第4ステップ(図5)とを、各送液ポンプ4,7,10とスイッチングバルブ5,8,11の切り替えによって連続的に実行する。
【0046】
ここで測定対象成分をプレカラム6に供給し、各スイッチングバルブ5,8,11によるカラムスイッチングのタイミング及び各送液ポンプ4,7,10の駆動及び休止のタイミングを決定する。その後に試料をプレカラム6に供給し、あらかじめ決定したタイミングにしたがって第1ステップから第4ステップまでの切り替えを行い、対象化学成分の分離を行う。
【0047】
また、本発明の分離方法では試料に各カラム6,9中での移動速度が有機化学成分よりも早く妨害成分よりも遅いマーカー物質を添加してプレカラム6に供給し、マーカー物質のプレカラム6並びにメインカラム9での分離挙動をモニターすることで、スイッチングバルブ5,8,11によるカラムスイッチングのタイミング及び送液ポンプ4,7,10の駆動及び休止のタイミングを決定することも可能である。より好ましくは、マーカー物質がプレカラム6から溶出したことを検出部12で検出するまではプレカラム6から溶出される溶離液2をメインカラム9を通さずに処理し(第1ステップ)、マーカー物質がプレカラム6から溶出したことを検出部12で検出するのと同時にステップ1からステップ2へ切り替えてプレカラム6から溶出される溶離液2をメインカラム9に供給してカラムクロマトグラフ操作し(第2ステップ)、更に、有機化学成分の全量がメインカラム9に導入された後にステップ2からステップ3への切り替え行って、プレカラム6をラインから切り離してからカラムクロマトグラフ操作を続行し、マーカー物質がメインカラム9から溶出したことを検出部12で検出するのと同時にステップ3からステップ4へ切り替えて有機化学成分をバックラッシュにより検出部12へ送液する操作を行うものである。尚、各送液ポンプ4,7,10の駆動のタイミングを必要とされるタイミングの前に設定すること、即ち各スイッチングバルブ5,8,11の切り替え操作を実行する前に設定することが好ましい。この場合には、溶離液の送液速度を安定化させることができ、むらなく分離が行われる。ここで、有機化学成分の全量がメインカラム9に導入されたことの確認は、マーカー物質と測定対象とする有機化学成分との間の移動速度の差から、マーカー物質の検出を基準にして容易に行える。しかし、テストサンプルを用いて切り替えタイミングをより精確に見いだすことも可能であり、この場合には、プレカラム9の下流側に、直接、検出器を接続した系を組み、そこで有機化学成分の溶出を確認する。
【0048】
マーカー物質としては、測定対象成分に応じて適宜選定されるものであり、例えばβ−カロテンの使用が好ましい。マーカー物質としての条件は、好ましくは(1)カラム溶出時間が測定対象成分に近く、しかも近すぎないことであり(近すぎると、上述のように検出部12に至るラインをマーカー物質が移動している間に、測定対象成分がカラム6,9から出てきてしまう可能性がある)、(2)測定対象成分と異なる波長領域で吸収があること(測定対象成分と同じ吸収では、両者を分けることは困難であるが、吸収波長が異なれば、マーカー物質の溶出を確認することができる)である。尚、ラインの最後の検出部12でマーカー物質を検出する場合には、カラム6あるいは9を出てから検出器12に至るまでの間に幾つものラインが存在するため、マーカー物質の先頭がこのラインを移動している間はマーカー物質がカラム6あるいは9から溶出しているにもかかわらず、検出されないことになる。したがって、この場合におけるマーカー物質は、カラムからの溶出時間に関して、測定対象成分(本実施形態の場合はPCB)との間にある程度の差があることが必要である。勿論、この溶出時間の差が、マーカー物質がカラムから検出器にいたるラインを移動している時間に比べて大きければ、あるいはラインの全長が十分に短ければ何ら支障はない。
【0049】
マーカー物質を使用してPCBと妨害成分を含む試料からPCBを分離する手順を図1から図4に沿って説明する。
【0050】
システムを構成する各部分をラインでつなぐ。溶離液としては極性が極めて低いかあるいは無い溶媒、好ましくはn−ヘキサンを使用する。ラインでつながれたシステム全体は、試料を導入する以前に各送液ポンプ4,7,10により溶離液2で洗浄する(洗浄ステップ)。
【0051】
次に第2、第3の送液ポンプ7,10を停止する(第1ステップ)。この状態で第1の送液ポンプ4によって溶離液2を流す。次に共雑成分除去カラム24を通して極性を有する充填剤に試料に含まれる比較的極性の高い成分のみを吸着させる上述の前処理を施した試料溶液とマーカー物質を試料注入口1より第1ライン13に導入する。試料溶液は第1のライン13、六方バルブ5のポート5aから六方バルブ5内に導入され、ポート5bを経て第5ライン14を通ってプレカラム6に導かれる。プレカラム6において妨害成分はマーカー物質よりも移動速度が速いため、妨害成分はマーカー物質に先んじてプレカラム6を通過し、第5ライン14に至る。第5ライン14に到達した妨害成分は、ポート5eから六方バルブ5内に導入されてポート5fから第7ライン17、六方バルブ8のポート8a、ポート8f、第9のライン20、四方バルブ11のポート11a、ポート11dを経て、メインカラム9に導かれることなく検出部12まで移動する。ここで、試料溶液中の例えば炭化水素成分の有無が検出部12(示差屈折計)によりモニターされる。モニター後の溶液は第4ライン22から系外に流出させられる。
【0052】
妨害成分が先に溶出した後のプレカラム6内では、移動速度が妨害成分よりも遅いが有機化学成分よりも速いマーカー物質が先にカラム出口から溶出する。そこで、マーカー物質を検出部12で検出することにより、妨害成分の粗分離が完了したことを確認できるので、六方バルブ8を切り替え、流路を図3に示す通りに切り替える(第2ステップ)。この直後に、プレカラム6において充分に分離できない測定対象たる有機化学成分例えばPCBと一部の妨害成分がマーカー物質とともに第5ライン14を経て六方バルブ5のポート5eから六方バルブ5内に導入されてポート5f、第7ライン17、六方バルブ8のポート8a,8bを経て第8ライン19のメインカラム9に導入される。
【0053】
全ての有機化学成分(PCB)がメインカラム9に導入された後に、六方バルブ5を切り替え、送液ポンプ7,10を起動し,流路を図4に示す通りに切り替える(第3ステップ)。第1のライン13から送液ポンプ4で圧送・供給される溶離液2は、六方バルブ5のポート5aからポート5fへ直に通過して、プレカラム6を経ずに、第7ライン17、六方バルブのポート8a、ポート8bを経由してメインカラム9に導入される。これによりプレカラム6においてPCB溶出以降の妨害成分がメインカラム9に流入することを避ける。メインカラム9においては、プレカラム6と同様に妨害成分とマーカー物質はPCBよりも移動速度が速いため、妨害成分とマーカー物質はPCBに先んじてメインカラム9を通過し、第8のライン19、六方バルブのポート8e,8fを経て第9のライン20、四方バルブのポート11a、ポート11dを経て検出部12まで移動する。PCBを含まない妨害成分とマーカー物質を含む試料溶液は、検出部12を経た後に第4のライン22より系外に流出させる。必要に応じてこの試料溶液を採取してもよい。なお、このときプレカラム6は第2の送液ポンプ7により溶離液2を逆方向から流すこと(バックフラッシュ)により洗浄される。洗浄液は第6のライン16から系外へ排出される。
【0054】
次に、メインカラム9からマーカー物質が溶出した後に、六方バルブ8、四方バルブ11を切り替え、第1の送液ポンプ4を停止し,流路を図5に示す通りに切り替える(第4ステップ)。メインカラム9からのマーカー物質の溶出は、検出部12によって検出する。流路の切り替えにより、メインカラム9に保持されている有機化学成分は、第3の送液ポンプ10から圧送される溶離液が六方バルブ8のポート8e、第8のライン19を経てカラム出口側からメインカラム9内へ逆流することによって、第3ステップとは逆方向へ移動(バックフラッシュ)し、メインカラム9の入り口側から流出する。そして、第8のライン19、六方バルブ8のポート8b、ポート8c、第10ライン21、四方バルブ11のポート11c、ポート11dを経て第4のライン22より流出する。この流出液を第4のライン22出口に配置した試料採取用の容器に採取する。このときプレカラム6は第2の送液ポンプ7により溶離液2を逆方向から流すことにより洗浄される。また、第1の送液ポンプ4によって第1ライン13から圧送される溶離液2は、試料注入部1、六方バルブ5のポート5a,5f、第7ライン17、六方バルブ8のポート8a,8f、第9ライン20、四方バルブ11のポート11a,11bを経て、これらパスを洗浄して第11ライン23から廃棄される。尚、第4のライン22の出口に有機化学成分(PCB)が溶出する間は、試料溶液採取用の容器を配置する。
【0055】
第4のライン22出口において採取した試料溶液は、例えばガスクロマトグラフ質量分析計に注入して測定する。
【0056】
以上の操作は自動で行われるため、簡便性が高い上に人為的な操作による誤差を少なくすることができる。加えて、自動化によりPCBと妨害成分の分離に要する時間は、従来法の数時間から20分程度にまで短縮させることができる。さらに、プレカラム6とメインカラム9は洗浄により繰り返し使用ができる。
【0057】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態ではPCBはメインカラム9からバックフラッシュにより溶出させているが、試料によってはバックフラッシュをせずにステップ3の状態のまま溶出させることも可能である。
【0058】
また、検出部12については、例えば紫外吸光光度計や示差屈折計、可視吸光光度計、二波長を同時にモニターできる紫外可視吸光光度計などの中から1ないしは2つ以上選択して用いてもよい。ここでシステムに注入する前の試料にマーカー物質、好ましくはPCBと吸収波長が異なる物質、より詳しくは可視光域に吸収を持つ物質、例えばβ−カロテンを加える場合には、二波長を同時にモニターできる紫外可視吸光光度計、もしくは紫外吸光光度計と可視吸光光度計を組み合わせてPCBとマーカー物質の溶出位置を同時にモニターすることが可能となる。さらに付け加えれば、マーカー物質はシステムに注入する前の試料に添加せずに、システム内部、例えば図1の試料注入口1からカラム6に至るラインのいずれかの箇所から注入してもよい。
【0059】
また、溶離液を最も適切なものに選択することが重要であり、本実施例ではヘキサンを選択しているが、測定対象や妨害成分が変われば、これに最も適した溶媒を選択することが必要である。
【0060】
また、本実施形態では有機化学成分やマーカー物質などの検出を1つの検出部12で行うようにしているが、場合によっては各カラム6,9から出た直後にマーカー物質用の検出器を備えるようにして、マーカー物質の各カラム6,9からの溶出直後にラインの切り替えを行うようにしても良い。
【0061】
また、試料、とりわけ無害化処理を行う前の絶縁油などに含まれるPCBの有無を簡便迅速に確認する場合であれば、メインカラム9を用いずに、プレカラム6のみを使用してPCBと妨害成分を分離することも可能である。この場合、試料の分離に要する時間は数分程度まで短縮される。
【0062】
また、本発明の分離手法は、実施形態では測定対象有機化学成分としてPCBを例に挙げて主に説明したがこれに特に限定されるものではなく、例えばディーゼル排ガス中の粒子状物質を対象に多環芳香族炭化水素を直鎖及び分岐炭化水素から分離する場合にも有効である。
【実施例】
【0063】
以下、図1〜図5に示す本発明のシステムにより上述の手順を経て絶縁油よりPCBを分離した例を説明する。
【0064】
プレカラム6及びメインカラム9の充填剤には共に2,3−ジヒドロキシプロポキシプロピルシランを用いた。カラムの形状は、プレカラム6は7.6mmφ×100mm、メインカラムは7.6mmφ×150mmとした。検出部12としては示差屈折計(炭化水素モニター用)及び紫外可視吸光光度計(芳香族成分及びマーカー物質モニター用)を接続した。溶離液2にはn−ヘキサンを選択した。システムはn−ヘキサンにより予め洗浄した。絶縁油はアミノプロピルシランを充填した共雑成分除去カラム(8mmφ×30mm)に導入したのちに、n−ヘキサン3〜4mlで溶出させたものを1mlに濃縮して試料注入口1より注入した。各送液ポンプの駆動のタイムチャートを図6に示す。
【0065】
注入後の試料は上述の第1ステップから第4ステップへと自動的に移行する過程でプレカラム6及びメインカラム9を通過させることで、これに含まれるPCBと妨害成分を分離した。このとき第4のライン22においてPCB溶出以前に溶出した妨害成分のみを含む試料溶液及びPCBが含まれる試料溶液をそれぞれ採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計(トータルイオンモニタリングモード)を用いて分析した時のクロマトグラムをそれぞれ図7、図8に示す。妨害成分のみを含む試料溶液のクロマトグラムを示した図7より、絶縁油中の鉱油成分に由来する雑多なピークが広範囲にわたって多数認められる。これに対してPCBが含まれる試料溶液のクロマトグラムを示した図8より、本発明のシステムにより妨害成分を除去した後の試料では、図5で認められた絶縁油中の鉱油成分に由来する広範囲かつ大量のピークは一切見出されず、ベースラインは安定している。すなわち本システムは絶縁油などの試料に含まれるPCBを共存する妨害成分から充分に分離できることが確認された。
【0066】
また、測定対象成分(PCB)とマーカー物質を供給して紫外紫外吸光光度計(UV 260nm )と可視吸光光度計(VIS 470nm)によりモニターしたクロマトグラムを図9並びに図10に示す。マーカー物質の可視吸光光度計ではマーカー物質および絶縁油中の鎖状炭化水素(一部)が検出されている。これに対して、紫外吸光光度計ではPCBと絶縁油に含まれる芳香族炭化水素と呼ばれる成分が検出されている。
【0067】
図9の実験は、マーカー物質の溶出のタイミングをはかることが目的であるので、PCBとマーカー物質が供試されている。この結果、マーカー物質が先に、PCBが後から溶出していることがわかるので、マーカー物質が溶出したことを検出器(VIS)で確認したところで、流路を切り替えればPCBをそれ以前に溶出したものと分離して採取することができることが確認された。
【0068】
他方、図10は、図9の結果に基づき、実際の絶縁油試料を使って実験した例である。この実験では、絶縁油試料が入っているので、PCB、マーカー物質以外に、絶縁油由来の鎖状炭化水素、芳香族炭化水素(妨害成分)も含まれている。そのため、図9では見られなかったピークが出ている。図9と図10を見比べて、図9で見られなかったピークが、絶縁油由来の炭化水素成分であり、PCB(「分画」と表示された部分)よりも前に溶出し、更にマーカー物質よりも先に溶出していることが確認された。
【0069】
さらに、図11にガスクロマトグラフ質量分析計の選択イオンモニタリングモードにおける測定結果を示す。同モードは測定対象とする成分のみを検出したいときに有用な手法であり、本発明はトータルイオンモニタリングモード(図8)のみならず、選択イオンモニタリングモード(図11)における測定にも供することができることが確認された。
【0070】
本実施例ではシステムを自動化したことによりPCBと妨害成分の分離操作を従来の数時間から20分程度にまで短縮させた。ガスクロマトグラフ質量分析計による試料の分析に30分程度であるため、測定に要する時間は1時間に満たず、絶縁油中のPCBの測定を極めて短時間で実施できた。また、プレカラム6及びメインカラム9は共にn−ヘキサンで洗浄することにより長期に亘って再利用ができ、結果、測定コストの低減に寄与することが確認された。さらに送液ポンプによる溶離液の圧送に伴い、充填剤を密にむらなく充填したプレカラム6及びメインカラム9を採用できるので、メインカラムの長さを従来の460mmから150mm程度まで短くすることができた。
【0071】
尚、上記した実施例はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えばカラムの形状はプレカラム6、メインカラム9共に試料の性質に応じて変更が可能である。また溶離液の送液速度についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の有機化学成分分離方法を実施する分離システムの一例を示す説明図であり、ステップ1の状態を示す。
【図2】同有機化学成分分離システムのステップ2の状態を示す説明図である。
【図3】同有機化学成分分離システムのステップ3の状態を示す説明図である。
【図4】同有機化学成分分離システムのステップ4の状態を示す説明図である。
【図5】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験におけるPCB溶出以前の妨害成分のみを含む画分のガスクロマトグラフ質量分析計によるカラムクロマトグラム(トータルイオンモニタリングモード)。
【図6】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験におけるPCBを含む画分のガスクロマトグラフ質量分析計によるカラムクロマトグラム(トータルイオンモニタリングモード)。
【図7】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験における妨害成分を分離する前のガスクロマトグラフ質量分析計によるクロマトグラム(トータルイオンモニタリングモード)
【図8】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験における妨害成分を分離した後のガスクロマトグラフ質量分析計によるクロマトグラム(トータルイオンモニタリングモード)
【図9】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験において測定対象成分(PCB)とマーカー物質を供給し紫外吸光光度計と可視吸光光度計によりモニターしたクロマトグラムである。
【図10】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験において絶縁油とマーカー物質を供給し紫外吸光光度計と可視吸光光度計によりモニターしたクロマトグラムである。
【図11】本発明の有機化学成分分離方法による絶縁油の分離実験における妨害成分を分離した後のガスクロマトグラフ質量分析計によるクロマトグラム(選択イオンモニタリングモード)
【符号の説明】
【0073】
1 試料注入部
2 溶離液
3 タンク
4 第1の送液ポンプ
5 第1のスイッチングバルブとしての六方バルブ
6 プレカラム
7 第2の送液ポンプ
8 第2のスイッチングバルブとしての六方バルブ
9 メインカラム
10 第3の送液ポンプ
11 第3のスイッチングバルブとしての四方バルブ
12 検出部
13 第1ライン
14 第5ライン
15 第2ライン
16 第6ライン
17 第7ライン
18 第3ライン
19 第8ライン
20 第9ライン
21 第10ライン
22 第4ライン
23 第11ライン(廃棄ライン)
24 共雑成分除去カラム
25 処理対象試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレカラム及びメインカラムとして極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を選択して、試料を対象にカラムクロマトグラフ操作を行うことにより、前記試料中の有機化学成分と該有機化学成分の分析の妨害成分とを分離して採取することを特徴とする有機化学成分分離方法。
【請求項2】
前記プレカラムの前段に極性を有する充填剤を充填した共雑成分除去カラムを備え、前記試料を前記共雑成分除去カラムに通した後に、前記プレカラム及び前記メインカラムに接触させることを特徴とする請求項1記載の有機化学成分分離方法。
【請求項3】
前記極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤は、好ましくはアミノプロピルシラン、シアノプロピルシラン、2,3−ジヒドロキシプロポキシプロピルシランから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の有機化学成分分離方法。
【請求項4】
前記試料に前記各カラム中での移動速度が前記有機化学成分よりも早く前記妨害成分よりも遅いマーカー物質を添加して前記プレカラムに供給し、前記マーカー物質が前記プレカラムから溶出したことを検出するまでは前記プレカラムから溶出される溶離液を前記メインカラムを通さずに処理し、前記マーカー物質が前記プレカラムから溶出したことを検出するのと同時に前記プレカラムから溶出される溶離液を前記メインカラムに供給してカラムクロマトグラフ操作することで、有機化学成分を分離するものである請求項1記載の有機化学成分分離方法。
【請求項5】
前記マーカー物質が前記メインカラムから溶出した後に、前記メインカラム出口から溶離液を供給してバックフラッシュさせることにより、有機化学成分を前記メインカラムから分離回収するものである請求項4記載の有機化学成分分離方法。
【請求項6】
極性を有しかつ安定性の高い化学結合型の充填剤を充填したプレカラム及びメインカラムと、第1の送液ポンプを備え溶離液と処理対象試料あるいは前記溶離液のみを供給する第1ラインと、第2送液ポンプを備え溶離液を供給する第2ラインと、第3送液ポンプを備え溶離液を供給する第3ラインと、前記試料中の有機化学成分を検出する検出器を備える第4ラインと、前記第2ラインが接続され前記第1ラインと前記プレカラムとの接続先を切り替える第1のスイッチングバルブと、前記第3ライン並びに前記第1のスイッチングバルブが接続され前記メインカラムの接続先を切り替える第2のスイッチングバルブと、前記第2のスイッチングバルブが接続されて前記第2スイッチングバルブの接続先を前記第4ラインと廃棄ラインとのいずれかに選択的に切り替える第3のスイッチングバルブとを有し、前記第1ラインと前記プレカラムと前記第4ラインとを結ぶパスを設定して前記プレカラムを通過した前記溶離液と妨害成分を前記メインカラムを通過させずに前記検出器を経て系外へ排出する第1ステップと、前記第1ラインと前記プレカラムと前記メインカラムと並びに前記第4ラインとを結ぶパスを設定して前記プレカラムで妨害成分が分離された測定対象となる有機化学成分と溶離液とをメインカラムに導入する第2ステップと、前記プレカラムを切り離して前記第1ラインと前記メインカラム並びに前記第4ラインとを結ぶパスを設定して前記第1ラインから溶離液のみを供給しながら有機化学成分をメインカラムに供給し、前記第2ライン並びに第3ラインから溶離液を供給して前記プレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第3ステップと、前記第2送液ポンプとメインカラムの出口とを連結して前記メインカラム内に残留する有機成分をバックラッシュをかけて第4ラインに送液して前記検出器に送液するパスを設定し、かつ前記第1ライン並びに第3ラインから溶離液を供給して前記プレカラム並びに第1、第2及び第3のスイッチングバルブの使われていないパスを逆洗浄する第4ステップとを、前記各送液ポンプとスイッチングバルブの切り替えによって連続的に実行する制御手段を備える有機化学成分分離装置。
【請求項7】
前記試料に前記各カラム中での移動速度が前記有機化学成分よりも早く前記妨害成分よりも遅いマーカー物質を添加して前記プレカラムに供給し、前記マーカー物質の前記プレカラム並びに前記メインカラムでの分離挙動をモニターすることで、前記スイッチングバルブによるカラムスイッチングのタイミング及び前記送液ポンプの駆動及び休止のタイミングを決定することを特徴とする請求項6記載の有機化学成分分離装置。
【請求項8】
前記マーカー物質が前記プレカラムから溶出することが検出されたと同時に前記ステップ1からステップ2への切り替えを行い、前記有機化学成分の全量が前記メインカラムに導入されたタイミングで前記ステップ2からステップ3への切り替えを行い、前記マーカー物質が前記メインカラムから溶出したことを検出して前記ステップ3からステップ4への切り替えを行うものである請求項7記載の有機化学成分分離装置。
【請求項9】
前記送液ポンプの起動のタイミングを必要とされるタイミングの前に設定することを特徴とする請求項6から8のいずれか1つに記載の有機化学成分分離方法。
【請求項10】
前記プレカラムの前段に極性を有する充填剤を充填した共雑成分除去カラムを備え、前記試料を前記共雑成分除去カラムに通した後に、前記プレカラム及び前記メインカラムに接触させることを特徴とする請求項6から9のいずれか1つに記載の有機化学成分分離装置。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−58238(P2006−58238A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242742(P2004−242742)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)