説明

有機化繊維、樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 低線膨張係数、高透明性、低吸水膨張率、耐熱性、高強度/高弾性率を有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 直径が4〜1000nmである微細セルロース繊維と、有機性カチオン化合物を含む有機化繊維。さらに上記に加えて疎水性の樹脂とを含む樹脂組成物であって、好ましくは微細セルロース繊維が、化学処理及び/又は機械的処理により微細化して得られた繊維であり、セルロース繊維の水酸基の一部がアルデヒド基又は/及びカルボキシル基に酸化されている樹脂組成物であり、より好ましくは有機性カチオン化合物が含窒素化合物もしくは含燐化合物であることを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化繊維、樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂の熱線膨張係数の低減、または弾性率、曲げ強度等の機械的強度を上げるために球状フィラーや繊維状フィラーを配合することが広く行われている。近年セルロースを利用したプラスチック代替品は多く報告されている。例えばセルロースを高圧ホモジナイザーと呼ばれる装置を用いて極めて高い圧力でフィブリル状物質を高度に微細化して得られたセルロースミクロフィブリル充填材として利用する方法、その他マイクロフリュイダイザー法、グラインダー法、凍結乾燥法、強せん弾力混練法、ボールミル粉砕法によりダウンサイジングしたミクロフィブリルを充填材として利用する複合体があげられる。これらの充填材を用いると比較的強度の高い成形体が得られるという報告がされている。(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2に記載されているように菌が生成するバクテリアセルロースを用いて透明で低熱線膨張率を有する繊維強化複合材料が得られることが知られている。
【0004】
しかしながらセルロースミクロフィブリルは繊維表面に水酸基を多数有するため親水性が高く、通常は疎水性である樹脂材料に配合しても均一に分散しない。それゆえ複合材料として使用しようとしても透明化も強度向上も不十分であり、充分な性能を発現することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−201695号公報
【特許文献2】特開2005−60680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低線膨張係数、高透明性、低吸水膨張率、耐熱性、高強度/高弾性率を有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
(1)直径が4〜1000nmであるセルロース繊維と、有機性カチオン化合物とからなることを特徴とする、有機化繊維。
(2)上記セルロース繊維が、化学処理及び/又は機械的処理により微細化し得られた繊維である、上記(1)に記載の有機化繊維。
(3)上記セルロース繊維の水酸基の一部がアルデヒド基及び/又はカルボキシル基に酸化されている、上記(1)又は(2)に記載の有機化繊維。
(4)上記セルロース繊維が天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより上記天然セルロースを酸化して得られたセルロース繊維である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の有機化繊維。
(5)上記有機性カチオン化合物が、含窒素化合物であるかもしくは含燐化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機化繊維。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の有機化繊維と、疎水性の樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
(7)上記樹脂組成物全体に対して、上記有機化繊維の含有率が0.1〜99.9重量%である上記(6)に記載の樹脂組成物。
(8)上記樹脂組成物の厚さ30μmにおける全光線透過率が70%以上である上記(6)又は(7)に記載の樹脂組成物。
(9)上記樹脂組成物の、室温より、熱膨張係数の計測におけるTgの20度以下までの温度域での平均熱線膨張係数が、50ppm以下である上記(6)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(10)上記(6)〜(9)いずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(a)セルロース繊維を水に分散させておく工程、
(b)上記セルロース繊維表面の金属性イオンや水素イオンを有機性カチオン化合物でイオン交換して有機化繊維を得る工程、
(c)上記有機化繊維を疎水性の樹脂と混合する工程、
を有することを特徴とする、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低線膨張係数、高透明性、低吸水膨張率、耐熱性、高強度/高弾性率を有する樹脂組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の有機化繊維は、直径が4〜1000nmであるセルロース繊維と、有機性カチオン化合物とからなることを特徴とする。
また、本発明の樹脂組成物は、上記本発明の有機化繊維と、疎水性の樹脂とを含むことを特徴とする。
そして、本発明の樹脂組成物の製造方法は、
(a)セルロース繊維を水に分散させておく工程、
(b)上記セルロース繊維表面の金属性イオンや水素イオンを有機性カチオン化合物でイオン交換して有機化繊維を得る工程、
(c)上記有機化繊維を疎水性の樹脂と混合する工程、
を有することを特徴とする。
【0010】
まず、本発明の有機化繊維について説明する。
本発明の有機化繊維には、直径が4〜1000nmであるセルロース繊維(以下、「微細セルロース繊維」ということがある)を用いる。
本発明で用いる微細セルロース繊維は、原料であるセルロースは針葉樹や広葉樹から得られる精製パルプ、コットンリンターやコットンリントより得られるセルロース、バロニアやシオグサなどの海草より得られるセルロース、ホヤより得られるセルロース、バクテリアの生産するセルロースなどの天然セルロースを微細化した再生セルロースを使用することが出来る。しかしながら特に低線膨張率や力学強度の観点からは高結晶性のものが好ましく、その点で再生セルロースよりも天然セルロースより得られる繊維を用いることが好ましい。
【0011】
本発明の有機化繊維に用いられる微細セルロース繊維は、化学処理及び/又は機械的処理により微細化して得られた繊維であることが好ましい。
本発明で用いるセルロース繊維を得る方法としては特に限定されず公知の方法を使用することが出来、例えば媒体撹拌ミル処理装置、振動ミル処理装置、高圧ホモジナイザー処理装置、超高圧ホモジナイザー処置装置などの繊維をバラバラにする機能を有する装置を用いて繰り返し処理する方法がある。また、エレクトロスピニング法、スチームジェット法、APEX(登録商標)技術(Polymer Group.Inc)法などを採用することが出来るが、エネルギー効率などを考えると、以下に示す化学的に処理する方法で
微細繊維を作製することが最も好ましい。
【0012】
すなわち、ここで用いられる微細セルロース繊維としては、天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより上記天然セルロースを酸化して得られたセルロース繊維であることが好ましい。
具体的には、天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程の3つの工程により得たナノセルロースファイバーを作成する方法により得られたものである。以下に各工程について詳細に説明する。
【0013】
まず、酸化反応工程では、水中にセルロースを分散させた分散液を調製する。ここで、用いるセルロースは叩解等の表面積を高める処理を施すことが好ましい。反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるからである。さらに、セルロースとして、単離、精製の後、ネバードライで保存していたものを使用するとミクロフィブリルの集束体が膨潤し易い状態であるため、やはり反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができ、好ましい。反応におけるセルロースの分散媒は水であり、反応水溶液中のセルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、反応水溶液の重量に対して約5%以下である。
【0014】
また、セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物は数多く報告されている(「Cellulose」Vol.10、2003年、第335〜341ページにおけるI. Shibata及びA.Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事)が、特にTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPOは水中常温での反応速度において好ましい。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0015】
共酸化剤として、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などが本発明において使用可能であるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、たとえば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムである。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属、たとえば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度において好ましい。この臭化アルカリ金属の添加量は、N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0016】
反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0017】
本発明に使用する微細セルロース繊維を得るために必要なカルボキシル基量は天然セルロース種により異なり、カルボキシル基量が多いほど、微細化処理後の最大繊維径、及び数平均繊維径は小さくなる。たとえば、木材系パルプおよび綿系パルプでは0.2〜2.2mmol/g、BC(バクテリアセルロース)やホヤからの抽出セルロースでは0.1〜0.8mmol/gの範囲でカルボキシル基が導入されて微細化は進む。従って、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御し、天然セルロース種に応じた酸化条件を最適化することで、目的とするカルボキシル基量を得ることが好ましい。一般に共酸化
剤の添加量は、天然セルロース1gに対して約0.5〜8mmolの範囲で選択することが好ましく、反応は約5〜120分間、長くとも240分間以内に完了する。
【0018】
精製工程に於いては、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水以外の化合物を系外へ除去するが、反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。該精製工程における精製方法は遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどんな装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の水分散体は絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10重量%〜50重量%の範囲にある。この後の工程で、ナノファイバーへ分散させることを考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0019】
さらに、上述した精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を溶媒中に分散させ分散処理を施すことにより、本発明の微細セルロース繊維の分散体として提供することができる。ここで、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましい。水以外にも目的に応じて水に可溶する溶剤として、たとえばアルコール類、エーテル類、ケトン類やN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等への分散は比較的良好であるが、最も分散性良好なものは水である。また疎水性の樹脂もしくは有機溶剤へはほとんど分散しない。
【0020】
次に、分散工程で使用する分散装置としては、種々なものを使用することができる。具体例を示せば、反応物繊維における反応の進行度(アルデヒド基やカルボキシル基への変換量)にも依存するが、好適に反応が進行する条件下では、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機としての汎用の分散装置で十分に微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。しかし、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、およびグラインダーのようなより強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。さらに、これらの装置を使用することにより、アルデヒド基やカルボキシル基の量が比較的小さい場合(例えば、アルデヒド基やカルボキシル基のセルロースに対する総和量として、0.1〜0.5mmol/g)にも高度に微細化された微細セルロース繊維の分散体を提供できる。
【0021】
本発明で用いる微細セルロース繊維の平均繊維径は、4〜1000nmであり、4〜300nmであることが好ましく、4〜200nmであることがより好ましい。また本発明において用いられる繊維の長さについては特に限定されないが、繊維の平均長さが100nm以上であれば補強効果が得られやすく、強度の向上が図れる。
【0022】
ここで平均繊維径の解析は次のようにして行う。固形分率で0.05重量〜0.1重量%のセルロース繊維の分散体を調製し、該分散体を、カーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。また、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。この際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読
み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。こうして得られた繊維径のデータにより平均繊維径を算出する。
【0023】
本発明の有機化繊維に用いるセルロース繊維は、その水酸基の一部がアルデヒド基及び/又はカルボキシル基に酸化されているものであることが好ましい。
また、本発明に使用する微細セルロース繊維は、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有することが好ましい。これは、微細セルロース繊維が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し微細化した繊維であることを意味する。
【0024】
該微細セルロース繊維がI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と2シータ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。さらに、微細セルロース繊維のセルロースにアルデヒド基あるいはカルボキシル基が導入されていることは、水分を完全に除去したサンプルにおいて全反射式赤外分光スペクトル(ATR)においてカルボニル基に起因する吸収(1608cm−1付近)が存在することにより確認することができる。特に、酸型のカルボキシル基(COOH)の場合には、上記の測定において1730cm−1に吸収が存在する。
【0025】
微細なセルロース繊維は、上述した理由により、セルロースに存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和が多いほうがより微小な繊維径として安定に存在し得る。たとえば木材パルプや綿パルプの場合、微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和がセルロース繊維の重量に対し、0.2〜2.2mmol/g、好ましくは0.5〜2.2mmol/g、さらに好ましくは0.8〜2.2mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供することができる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのような比較的ミクロフィブリルの繊維径が太いセルロースの場合(平均径が数10nmのオーダー)には、該総和量は0.1〜0.8mmol/g、好ましくは0.2〜0.8mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供できる。該総和量が0.1mmol/gよりも小さい場合には、従来知られている微細化されたセルロース繊維との物性上の差異(例えば、分散体における分散安定化効果)も小さくなると同時に、微小な繊維径の繊維として得られ難くなることがある。
【0026】
さらに、ノニオン性の置換基であるアルデヒド基に対し、カルボキシル基が導入されることにより、電気的な反発力が生まれ、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が増大するため、ナノファイバーとしての安定性はより増大する。たとえば木材パルプや綿パルプの場合、微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基の量がセルロース繊維の重量に対し、0.2〜2.2mmol/g、好ましくは0.4〜2.2mmol/g、さらに好ましくは0.6〜2.2mmol/gであるとナノファイバーとしての極めて安定性に優れた繊維として提供することができる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのような比較的ミクロフィブリルの繊維径が太いセルロースの場合には、カルボキシル基の量は0.1〜0.8mmol/g、好ましくは0.2〜0.8mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供できる
【0027】
ここで、セルロース繊維の重量に対するセルロースのアルデヒド基およびカルボキシル基の量(mmol/g)は、以下の手法により評価する。
乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から
、下式を用いて官能基量1を決定する。該官能基量1がカルボキシル基の量を示す。
官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
次に、セルロース試料を、酢酸でpHを4〜5に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量2を測定する。この酸化によって追加された官能基量(=官能基量2−官能基量1)を算出し、アルデヒド基量とする。
【0028】
次に、親水性の強い微細セルロース繊維を疎水化することを説明する。さらに、微細セルロース繊維を水中に分散させた分散体から、疎水化された微細セルロース繊維を樹脂中に分散させた材料を製造する方法について説明する。上述した方法により作成した微細セルロース繊維の水中分散体を、凍結乾燥法やスプレードライ法などで一度乾燥させることによって微細セルロース繊維を製造することができ、その後で樹脂と配合して混練機を用いて分散処理することにより材料を得ることは可能であるが、一般的には微細セルロース繊維からなる含水パルプから水を完全に除去した場合、微細セルロース繊維同士が縮合反応してしまい、各種媒体中への再分散は非常に困難になる傾向にある。このような一旦脱水を経るプロセスでは樹脂への分散処理、特に疎水性の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂への分散は、一般的には困難である。それゆえそれらの疎水性樹脂への分散を試みる場合は、分散プロセスの途中の過程での完全脱水はできるだけ避けることが望ましく、水を多量に含んだパルプ状もしくは水ゾル状のままで脱水せずに疎水性樹脂への混合分散処理を施すことが望ましいのであるが、一方その状態においては、微細セルロース繊維は強い親水性であり、疎水性の樹脂への分散はやはり非常に困難となる。
そこで今回、本発明者らは鋭意検討の結果、水を含んだパルプ状もしくは水ゾル状の微細セルロース繊維の表面に多数存在するカルボン酸基の水素イオンを疎水性の有機カチオンにイオン交換することにより、簡便かつ効果的に微細セルロース繊維を疎水化し、さらには疎水性の樹脂への相溶性を改善できることを見出した。
【0029】
水への分散性の良好な微細セルロース繊維の表面には、多量のカルボン酸基が存在しており、その静電反発により繊維同士の凝集を防いでいると考えることができる。さらにはこのカルボン酸(−COOH)の水素イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、銀イオン、ニッケルイオンのような金属カチオンにより置換され金属塩(−COO・M)の形で系中では存在させることにより、より強いマイナスの電位を帯びさせ、強い静電反発を利用した分散改善がなされることが多い。静電反発に加え、これらの水素イオンならびに金属性カチオンは、親水性であり水分子を引き寄せやすいため、微細セルロース繊維の表面は完全に水に濡れた状態で系中に存在することとなるためと考えられる。この理由により、上記の金属塩型もしくはカルボン酸型の微細セルロース繊維は、水中への分散性は良好であるが、有機溶剤中や疎水性の樹脂中への分散には逆に不利であり、有機溶剤中への分散処理を達成するためにはより疎水性のカチオンとイオン交換することが必要と判断された。疎水性のカチオンとして、樹脂や有機溶剤への分散性改善に効果のあったカチオンとしては、有機カチオン全般が挙げられるが、より望ましくは炭素含有量の比較的多いものが適当である。
含窒素系の有機カチオンとしては、例えばヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、トリメチルステアリルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオンなどの第4級アンモニウムカチオンや、ブチルピリジニウムイオン、ヘキシルピリジニウムイオン、オクチルピリジニウムイオン、デシルピリジニウムイオン、ドデシルピリジニウムイオン、ラウリルピリジニウムイオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムイオン、1−エチル−3−ヒド
ロキシメチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、等のピリジニウムカチオンや、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン等のイミダゾリウムイオンや、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオン等のピロリジニウムイオンなどが挙げられる。またm−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ベンジジン、ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−チオジアニリン、ジアニシジン、2,4−トルエンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−(o−トルイジン)、o−フェニレンジアミン、メチレンビス(o−クロロアニリン)、m−アミノベンジルアミン、アニリン等の芳香族アミン物質起因のイオンや、それらの重合物、たとえばアニリンノボラックのイオンなども挙げられる。
さらに含燐系の有機カチオンとしては、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、エチルトリフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、(1,3−ジオキソラン−2−イル)メチルトリフェニルホスホニウムイオン、(1−ナフチルメチル)メチルトリフェニルホスホニウムイオン、(3,4−クロロベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(2−ヒドロキシベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムイオン、(4−ニトロベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(シアノメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(ホルミルメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(ブロモメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、等の4級ホスホニウムイオンが挙げられる。これらのアンモニウムイオンやホスホニウムイオン等は単独使用でも複合使用でも問題は無い。
【0030】
これらの有機カチオン性物質は、金属イオンや水素イオンと比べて、一般的にイオン化傾向が小さいため、これらの塩を微細セルロースの金属塩に配合/撹拌するだけで、容易に微細セルロース表面でイオン交換を行い、セルロース表面がこれらの疎水性イオンによって覆われ、その結果、疎水性の微細セルロース繊維が得られる。たとえば、カルボン酸基の水素イオンがナトリウムイオンにイオン交換されている微細セルロース繊維の水ゾルの場合、系中にオクチルピリジニウムクロリドを所定量添加するだけで、ナトリウムイオンとオクチルピリジニウムイオンがイオン交換し、微細セルロース繊維表面に疎水性のオクチルピリジニウムカチオンが多数付着した構造となり、微細セルロース繊維は疎水化される。この状態で疎水性樹脂と混合すると、疎水化された微細セルロース繊維は容易に疎水性の樹脂層に移行し、疎水性樹脂に均一/微細に分散した微細セルロース繊維含有の樹脂組成物を容易に得ることが可能となる。また水中にはNaClが残されるため、水による洗浄を複数回繰り返すことにより、残ナトリウムイオンや残塩素イオンの含有量を減らすことも可能である。上記の配合方法は一例であり、混合するだけで比較的簡便に疎水化される現象を利用して簡便で効果的な各種のプロセスを構築することが可能である。
本発明の有機化繊維において用いられる上記有機性カチオン化合物としては、含窒素化合物であるかもしくは含燐化合物であることが好ましい。これにより、セルロース繊維を安価かつ簡便に疎水化することができる。
【0031】
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、以上に説明した本発明の有機化繊維と、疎水性の樹脂とを含むことを特徴とする。
本発明の樹脂組成物における必須成分として、疎水性の樹脂が必須である。本発明における疎水性の樹脂とは、室温において水への溶解性をほとんど持たず、溶解現象を見せない熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂のことを示す。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミ
ド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリウレタン、木材の構成成分であるリグニンやヘミセルロース、ニカワ、カゼインをはじめとするたんぱく質等の天然高分子等を用いることが出来る。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、等が挙げられる。
特にフェノール樹脂としては、分子内にフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物が含まれ、ノボラック樹脂やビスフェノール類、ナフトールやナフトールを分子内に有する樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール、メチロール型フェノール等のレゾール樹脂、前記樹脂等をさらにメチロール化させた化合物、フェノール性水酸基を1つ以上含むリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物、さらにリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物を変性したもの、あるいはこれらを石油資源から製造されたフェノール樹脂とを混合した物を含むものである。
またエポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいい、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型のエポキシ樹脂、またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式多官能エポキシ樹脂、水添ビフェニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂組成物に用いられる疎水性樹脂において上述したように熱硬化性樹脂を用いた場合、硬化させる方法は特に限定されないが、酸無水物、脂肪族アミン、芳香族アミン、フェノールノボラック等の硬化剤、またはカチオン系硬化触媒若しくはアニオン系硬化触媒等の硬化促進剤を添加することができる。
【0033】
硬化剤としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、2,6,2’,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4’−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3’―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3’−ジアミノ)ジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンや、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、レゾルシンノボラック、ビスフェノールAノボラック、並びにその他各種のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド及びグリオキザールなどの各種アルデヒドとの縮合反応で得られるノボラック[例えば2,4−ビス(ヒドロキシメチル)フェノール、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)フェノール、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−4−メチルフェノール、2,4−ビス(ヒドロキシメチル)−6メチルフェノール及び2,6−ヒドロキシメチル]−4−t−ブチルフェノール等のフェノールノボラックや、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4
,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、1−トリフルオロメチル−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、フエナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフエン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、等の酸無水物が挙げられる。これらは単独使用でも複合使用でもよい。
【0034】
硬化触媒としては、カチオン系硬化触媒としては、例えば加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出するもの、例えばオニウム塩系カチオン硬化触媒、またはアルミニウムキレート系カチオン硬化触媒や、活性エネルギー線によってカチオン重合を開始させる物質を放出させるもの(例えばオニウム塩系カチオン系硬化触媒等)が挙げられる。具体的には、芳香族スルホニウム塩として三新化学工業社製のSI−60L、SI−80L、SI−100L、旭電化工業社製のSP−66やSP−77等のヘキサフルオロアンチモネート塩が挙げられ、アルミニウムキレートとしてはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられ、三フッ化ホウ素アミン錯体としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素イミダゾール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体等が挙げられる。
アニオン系硬化促進剤としては1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン等の三級アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾールや1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のリン化合物、四級アンモニウム塩、有機金属塩類、およびこれらの誘導体等があげられ、これらのなかでも透明性が優れることからリン化合物や1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類が好ましい。これら硬化促進剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いても良い。
【0035】
本発明の樹脂組成物における必須成分は、セルロース繊維と、有機性カチオン化合物と、疎水性の樹脂の3種であるが、各種の目的のためにその他の原料を配合することは問題ない。
複合材料の界面強化のために配合されるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップッリング剤、アルミニウム系カップリング剤なども使用することができる。前記シランカップリング剤は少なくともケイ素原子を1個以上、アルコキシ基を1個以上含んでいることが好ましい。それ以外の官能基としてはエポキシ基、あるいはエポキシシクロヘキシル基、アミノ基、水酸基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、フェニル基、スチリル基、イソシアネート基などが挙げられる。尚、本発明においては前記カップリング剤と同等の効果が得られることから、アル
コキシ基を4個含むテトラアルコキシシランもシランカップリング剤に含まれる。シランカップリング剤の具体例としてはテトラアルコキシシラン化合物、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシランなどのアルキル基含有アルコキシシラン化合物、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3−グリシドプロピルメチルジアルコキシシラン、および2−(3,4−エポキシシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランなどのエポキシシラン化合物、3−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリアルコキシシランなどのアミノアルコキシシラン化合物、3−アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランなどの(メタ)アクリルアルコキシシラン化合物、ビニルトリアルコキシシランなどのビニルアルコキシシラン化合物、フェニルトリアルコキシシラン、ジフェニルジアルコキシシラン、4−ヒドロキシフェニルトリアルコキシシランなどのフェニル基含有のトリアルコキシシラン化合物、3−イソシアネートプロピルトリアルコキシシランなどのスチリル基含有アルコキシシラン化合物などが例示される。これらの中でも、テトラアルコキシシラン化合物、アルキル基含有アルコキシシラン化合物、フェニル基含有アルコキシシラン化合物が耐水性を高める効果が高く好ましい。
【0036】
チタン系の具体例としては、アルコキシシラン化合物と同様の置換基を有するアルコキシチタン化合物が挙げられる。例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルフォニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルフォスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルフォスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリクシルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)フォスファイトチタネートなどが挙げられる。
【0037】
前記カップリング剤としては加水分解物を用いても構わない。カップリング剤又は加水分解物の選択は分散媒等との相溶性、加水分解物の安定性などを勘案し、適宜選択すればよく、加水分解物は酢酸水溶液など酸性水溶液とカップリング剤とを撹拌混合することにより容易に作成することが出来る。また、アルコキシド基を加水分解したものでなくても、分子構造が前記カップリング剤の加水分解物と同一であれば本発明に含まれる。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物においては、セルロース繊維と有機性カチオン化合物と、疎水性の樹脂以外の他の構成成分として、金属酸化物微粒子を適宜配合することも出来る。
用いる金属酸化物微粒子は、その種類が特に限定されるものではないが、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、TiO(チタニア)、ZrO(ジルコニア)等の単一金属の酸化物を始めとして、SiO−Al(ムライトなど)、SiO−TiO、SiO−ZrO(ジルコンなど)、スピネル等の複合酸化物、チタニア内包シリカ、ジルコニア内包シリカなどを用いることができる。また、一種の金属酸化物微粒子で構成するだけでなく、二種以上の金属酸化物微粒子を混合した混合物として構成してもよい。このような無機粒子は、ゾルゲル法、湿式法、気相法、乾式法等の方法によって得ることができる。
樹脂組成物の成形物の機械的強度、耐熱性の向上といった目的で金属酸化物微粒子を使用する場合、比較的安価なことを考慮すれば、シリカ、もしくはアルミナ、あるいはこれらの複合酸化物を用いることが望ましい。特に、樹脂組成物の成形物の耐摩耗性を向上させることを考慮した場合には、金属酸化物微粒子はアルミナの微粒子とすることが望まし
い。また、最も安価であり、酸およびアルカリによる腐食に強く化学的に安定であり、さらに電子部品等の用途に供される場合に要求される低誘電率であること等を考慮すれば、金属酸化物微粒子はシリカの微粒子とすることが望ましい。
【0039】
本発明における樹脂組成物においては、樹脂組成物全体に対して、有機化繊維の重量分率が0.1%から99.9%であることが好ましく、0.1%から75%であることがさらに好ましい。尚、配合量は特に限定されるものではなく樹脂組成物を成形した際に必要とされる特性に応じて配合することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物を太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板として用いる場合、厚さ30μmにおける全光線透過率が70%以上であることが好ましく、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは88%以上である。
【0041】
本発明の樹脂組成物を、光学用途、すなわち透明板、光学レンズ、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルタ用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル、光学素子、光導波路、LED封止材等として用いる場合は、室温より、Tgの20℃以下の温度域における平均熱線膨張係数が50ppm/℃以下であることが望ましいが、30ppm/℃であることがより望ましい。
なおここで示される、室温より、Tgの20℃以下の温度域における平均熱線膨張係数とは、室温から、樹脂組成物をTMA装置で熱膨張率を計測した際に観測されるTgより20℃下の温度域までの温度範囲における熱膨張係数のことを示す。具体的には、TMA装置で測定したTgが200℃である場合、熱膨張係数の計測温度域は25〜180℃となり、Tgが120℃である場合は25〜100℃の温度範囲での計測が必要であるとする。
なお、特にシート状のアクティブマトリックス表示素子基板に用いる場合は、上記平均熱線膨張係数が30ppm/℃以下であることがことが好ましいが、より好ましくは20ppm/℃以下であり、さらに好ましくは10ppm/℃以下である。上記上限値を超えると、製造工程において反りやアルミ配線の断線などが起こることがある。
【0042】
本発明の樹脂組成物を液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルタ用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル等として用いる場合、得られたフィルムの膨潤率は好ましくは0.5倍以下である。なおここで示される膨張倍率とは、室温で吸水処理させた後に膨張した量を比率で示したものであり、元の厚みをL、吸水後の厚みをMとすると、膨潤率は、(M−L)/L で示されるものとする。
【0043】
本発明の樹脂組成物を、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル等として用いる場合、基板の厚さは10〜2000μmであることが好ましく、20〜200μmであるのがより好ましい。基板の厚さがこの範囲内にあれば、平坦性に優れ、ガラス基板と比較して、基板の軽量化を図ることができる。
【0044】
本発明の樹脂組成物を光学シートとして用いる場合、平滑性向上のために両面に樹脂のコート層を設けてもよい。コートする樹脂としては、優れた透明性、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましく、具体的には多官能アクリレートやエポキシ樹脂などをあげることができる。コート層の厚みは0.1〜50μmが好ましく、0.5〜30μmであるのがより好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物から得た光学シートを特に表示素子用プラスチック基板として用いる場合には、必要に応じて水蒸気や酸素に対するガスバリア層や透明電極層を設けてもよ
い。
【0046】
本発明の樹脂組成物を適用する他の用途としては、低熱膨張係数を生かした半導体部品用樹脂製品、たとえば半導体封止材や回路基板、特にBGAやPOPのような複合パッケージやチップサイズパッケージ等における樹脂基板やチップ接合用樹脂フィルムやアンダーフィル用樹脂やチップ表面のバッファーコート材、さらに透明性を生かして各種光導波路や透明基板、などにも使用できる。価格が比較的安価であるがゆえにPCや各種電気電子装置におけるハウジングや筐体としても使用可能である。また、低熱膨張係数と高強度を生かして自動車用の各種構造材や部品などにも利用可能である。
またセルロースは生物由来の材料であり、生物由来の疎水性樹脂と併用することで生分解性のある強靭な樹脂を得ることができ、そのときは環境負荷が小さくかつ低熱膨張係数で機械的特性も良好な樹脂材料を得ることができるため、生体に吸収されることが前提の生体内埋め込み用部品や、廃棄問題化している各種の消費材にも適用可能である。たとえば文具、玩具、スポーツ用品、衝撃吸収材、壁等である。
【0047】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、熱可塑性又は熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用することができる。本発明の樹脂組成物中には、必要に応じて特性を損なわない範囲で、少量の酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラー等の充填剤等を含んでいても良い。
【0048】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の樹脂組成物は任意の方法により各成分を混合することにより得ることができる。例えば微細セルロース繊維と有機性カチオンと疎水性樹脂をそのまま混合する方法が挙げられる。あるいは各種溶剤を用いて均一分散液を得、後に脱溶媒する方法を用いると、セルロース繊維の分散性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
より好適な方式としては、
(a)セルロース繊維を水に分散させておく工程、
(b)上記セルロース繊維表面の金属性イオンや水素イオンを有機性カチオン化合物でイオン交換して有機化繊維を得る工程、
(c)上記有機化繊維を疎水性の樹脂と混合する工程、
を有する製造方法が好ましい。
樹脂組成物を混合するときに使用する混合・混練装置に関しては特に限定されないが、羽根撹拌、自転公転型分散混練機、ブレンダー、撹拌ミキサー、ラボプラストミル、ビーズミル、ボールミル、超音波分散処理装置、一軸混練機、二軸混練機、四軸混練機、二本ロール、三本ロール等、特に限定しない。
【0049】
さらに、本発明の樹脂組成物を太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板等の所定の厚みを有するシートを得る方法としては特に限定されない。
【0050】
流延してシートを作製する場合、濾別及び/又は乾燥後に形成されたシートが容易に剥離する基材を選択することが好ましく、金属性の基材、樹脂性の基材などが考えられる。金属製基材としてはステンレス製基材、真ちゅう製基材、亜鉛製基材、銅製基材、鉄製基材などが挙げられ、樹脂製基材としてはアクリル性基材、フッ素系基材、ポリエチレンテレフタレート製基材、塩化ビニル製基材、ポリスチレン性基材、ポリ塩化ビニリデン製基材が例示できる。
【実施例】
【0051】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0052】
[微細セルロース繊維の作製]
(作製例1)
乾燥重量で2g相当分の未乾燥のパルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維から成る)、0.025gのTEMPO(2,2,6,6‐テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)および0.25gの臭化ナトリウムを水150mlに分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は自動滴定装置を用い、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、0.5Mの塩酸水溶液でpH7に中和し反応物をろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を6回繰り返し、固形分量2重量%の水を含浸させた反応物繊維を得た。
【0053】
次に、該反応物繊維に水を加え0.2重量%とした。
この反応物繊維分散液を高圧ホモジナイザー(ノロ・ソビア社製、15−8TA)型)を用いて圧力20Mpaで10回処理し、透明なセルロースナノファイバ−分散水溶液を得た。
この分散体を親水処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャスト後、2重量%ウラニルアセテートでネガティブ染色しTEM観察した。最大繊維径が10nmかつ、数平均繊維径が5nmであった。また、乾燥させて得られた透明な膜状のセルロースの広角X線回折像から、セルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認され、上述した方法により評価したセルロース中のアルデヒド基の量およびカルボキシル基の量はそれぞれ0.31mol/g、および1.67mmol/gであった。
【0054】
(実施例1)
作製例1で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロース繊維分散水溶液中にドデシルピリジニウムクロリド(試薬グレード、分子量283.5)を添加して撹拌し、有機化繊維を得た。添加量はセルロース固形分100重量部に対して47.3重量部である。なおこれはカルボキシル基に置換しているナトリウムイオンを全量ドデシルピリジニウムイオンに置換することのできる量である。
その後、上記セルロースの固形分に換算で100重量部に該当するセルロース繊維分散水溶液に対して、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエピコート828(JER社製、エポキシ当量190)と芳香族アミン系硬化剤ジアミノジフェニルメタン(スリーボンド社製、活性水素当量50)の当量配合物を900重量部配合し撹拌した。ドデシルピリジニウムイオンをカウンターイオンとして有するセルロース繊維とエポキシ樹脂と芳香族アミン硬化剤の混合物は沈殿し、上澄みの水層には塩化ナトリウムが含有されている。沈殿物を取り出し、さらに水洗と沈殿物取得を3回行なったのち、沈殿物を撹拌しながら減圧脱水することで、微細セルロース繊維が均一に分散した褐色透明の液状の樹脂組成物を得た。
得られた液状の樹脂組成物を離型処理したシャーレに注ぎ、温度120℃の熱板上で8時間処理して、厚み30μmの褐色透明なフィルムを得た。
得られたフィルムの全光線透過率は79%、熱膨張係数計測におけるTgは109℃、25℃〜89℃の範囲における平均熱線膨張係数は14ppm/℃、膨潤率は0.06倍、動的粘弾性計測によるTgは131℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は2.5×10Pa、であった。
【0055】
(実施例2)
実施例1において使用したドデシルピリジニウムクロリドの代わりにテトラブチルホスホニウムブロミド(試薬グレード、分子量339.3)を56.7重量部添加して有機化繊維を得て、実施例1において使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂と芳香族アミン
硬化剤の当量配合樹脂の代わりに脂環式透明液状エポキシ樹脂CEL−2021P(3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’、4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ダイセル化学工業社製、エポキシ当量126)と硬化促進剤SI−100(オニウム塩系カチオン系硬化触媒、三新化学工業社製)との99対1重量部の配合物を400重量部配合すること以外は、実施例1と同様にして透明な樹脂組成物を調製し、さらに熱板上での硬化条件を100℃2時間、さらに150℃2時間とした以外は実施例1と同条件で作業することにより、厚み30μmの若干黄色に着色した透明の硬化フィルムを得た。
得られたフィルムの全光線透過率は94%であり、熱膨張係数計測におけるTgは192℃、25℃〜172℃の範囲における平均熱線膨張係数は11ppm/℃、動的粘弾性計測によるTgは223℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は2.2×10Pa、膨潤率は0.09倍であった。
【0056】
(実施例3)
作製例1で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロース繊維分散水溶液中にトリメチルステアリルアンモニウムクロリド(試薬グレード、分子量348)を添加して撹拌し、有機化繊維を得た。添加量はセルロース固形分100重量部に対して58.1重量部である。なおこれはカルボキシル基に置換しているナトリウムイオンを全量トリメチルステアリルアンモニウムイオンに置換することのできる量に相当する。トリメチルステアリルアンモニウムイオンをカウンターイオンとした微細セルロース繊維は水中で沈殿するので、塩化ナトリウムを含有する水層を捨て、沈殿部を得た後、純水で数度水洗した後に、フェノールノボラックA1082(住友ベークライト社製、水酸基当量105)とヘキサメチレンテトラミン(三菱ガス化学社製)の90対10重量配合物の粉末900重量部と混合し、脱気装置付の二軸混連機で脱水しつつ吐出温度90℃で加熱混練を行い、樹脂組成物を得た。
得られた黄色半透明の樹脂組成物をスペーサー枠のついたプレスで170℃で10分間プレスしたのちに170℃で4時間ポストキュアすることで厚み30μmの黄色の半透明の成形品を得た。
得られた成形品の全光線透過率は90%であり、熱膨張係数計測におけるTgは124℃、25℃〜104℃の範囲における平均熱線膨張係数は10ppm/℃、動的粘弾性計測によるTgは145℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は3.5×10Pa、膨潤率は0.10倍であった。
【0057】
(実施例4)
実施例1において、さらに樹脂組成物中にグリシジル型エポキシシランカップリング剤KBM−403(3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、信越化学工業社製)を20重量部と、ジルコニアのMEKゾル(一次粒子径10nm、ジルコニア含有量は10重量%)を100重量部添加する以外は実施例1とまったく同じに作成し、若干黄色に着色した透明の厚み30μmの硬化フィルムを得た。
得られたフィルムの全光線透過率は91%であり、熱膨張係数計測におけるTgは106℃、25℃〜86℃の範囲における平均熱線膨張係数は13ppm/℃、膨潤率は0.12倍、動的粘弾性計測によるTgは130℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は2.7×10Pa、であった。
【0058】
(実施例5)
実施例3において、樹脂として使用していたフェノールノボラックとヘキサメチレンテトラミン混合物を、ポリスチレンGPPS−680(PSジャパン社製)に変更し、二軸混連機の吐出物温度を200℃に変更し、プレスの成形条件を80℃数分間とした以外は同じ要領で厚み30μmの半透明の成形品を得た。
得られた成形品の全光線透過率は89%であり、熱膨張係数計測におけるTgは91℃
、25℃〜71℃の範囲における平均熱線膨張係数は11ppm、膨潤率は0.20倍、動的粘弾性計測によるTgは110℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は1.50×10Pa、であった。
【0059】
(比較例1)
作成例1で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロース繊維分散水溶液に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエピコート828(JER社製、エポキシ当量190)と芳香族アミン系硬化剤ジアミノジフェニルメタン(スリーボンド社製、活性水素当量50)の当量配合物を900重量部配合し撹拌した。50℃で減圧撹拌しながら脱水処理を行い、微細セルロース繊維を配合した液状エポキシ樹脂組成物を作成した。得られた樹脂組成物は黄白色の不透明状態で、部分的に褐色透明の部分もあり、不均一であった。これを実施例1と同様の条件で硬化させ30μm厚のフィルムを作成した。
得られたフィルムの全光線透過率は4%、熱膨張係数計測におけるTgは104℃、25℃〜84℃の範囲における平均熱線膨張係数は51ppm、膨潤率は1.6倍、動的粘弾性計測によるTgは115℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は5.4×10Pa、であった。
【0060】
(比較例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエピコート828(JER社製、エポキシ当量190)と芳香族アミン系硬化剤ジアミノジフェニルメタン(スリーボンド社製、活性水素当量50)の当量配合物を撹拌し、褐色透明液状樹脂組成物を得た。これを実施例1と同様の条件で硬化させ30μm厚のフィルムを作成した。
得られたフィルムの全光線透過率は95%、熱膨張係数計測におけるTgは101℃、25℃〜81℃の範囲における平均熱線膨張係数は81ppm、膨潤率は0.07倍、動的粘弾性計測によるTgは110℃、動的粘弾性におけるTgより30℃上の温度での弾性率は3.2×10Pa、であった。
【0061】
特性評価方法は、以下の通りである。
【0062】
(a)平均熱線膨張係数及び熱膨張計測によるTg
セイコー電子社製TMA/SS120C型熱応力歪測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から200℃まで上昇させた後、一旦−50℃まで冷却し、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて引っ張りモードで荷重を5gで計測を行った。Tgは熱膨張率の屈曲点より算出して得た。熱膨張係数は、室温(25℃)から、前記熱膨張計測によるTgの20℃下の温度までの温度範囲での平均線熱膨張係数を算出して得た。
【0063】
(b)全光線透過率
ヘイズメーターNDH−2000(日本電色社製)で全光線透過率を測定した。
【0064】
(c)膨潤率
フィルムを23℃の純水に1時間浸し、含浸前後のフィルム厚み変化率を測定した。
【0065】
(d)動的粘弾性計測によるTg及び弾性率
フィルムを長さ3cm、幅5mmの短冊状に切断し、セイコー電子社製動的粘弾性計測装置DMSを利用して動的粘弾性計測を行った。昇温速度5℃/min、温度域は室温から300℃、雰囲気は空気、引っ張りモード、で計測した。Tgは周波数1Hzにおけるtanδのピークの温度より求めた。弾性率は周波数1HzにおけるTgに30度加えた温度における貯蔵弾性率の数値を採用した。
【0066】
実施例1〜5は本発明の樹脂組成物であり、低熱膨張係数、高光線透過率、疎水性、高弾性率、高耐熱性を示すという結果となった。
比較例1は疎水性樹脂中に有機性カチオンで疎水化していない微細セルロース繊維を分散処理した樹脂組成物であるが、透明性と低熱膨張係数性と低吸水性と高強度性と高耐熱性が低下した。
比較例2は疎水性樹脂単独の樹脂組成物であるが、低熱膨張係数性と高強度性と高耐熱性が大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂組成物を用いた成形品は低熱膨張係数を有し、高強度でかつ寸法安定性が高いことから、自動車の外装及びダッシュボードなどの自動車部品、鉄道、航空機、船等の輸送用機器の部品、住宅やオフィスにおけるサッシ、壁板及び床板などの建材、柱あるいは鉄筋コンクリートにおける鉄筋のような構造部材、電子回路、表示体の基板などの電子部品、パソコン及び携帯電話等の家電製品の筐体(ハウジング)、文具等の事務用機器、家具、使い捨て容器等の生活用品、スポーツ用品、玩具など家庭内で使用される小物、看板、標識などの野外設置物、防弾盾、防弾チョッキなどの衝撃吸収部材、ヘルメットなどの護身用具、人工骨、医療用品、研磨剤、防音壁、防護壁、振動吸収部材、工具、板ばねなどの機械部品、楽器、梱包材などに使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が4〜1000nmであるセルロース繊維と、有機性カチオン化合物とからなることを特徴とする、有機化繊維。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、化学処理及び/又は機械的処理により微細化し得られた繊維である、請求項1に記載の有機化繊維。
【請求項3】
前記セルロース繊維の水酸基の一部がアルデヒド基及び/又はカルボキシル基に酸化されている、請求項1又は2に記載の有機化繊維。
【請求項4】
前記セルロース繊維が天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより前記天然セルロースを酸化して得られたセルロース繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の有機化繊維。
【請求項5】
前記有機性カチオン化合物が、含窒素化合物であるかもしくは含燐化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の有機化繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機化繊維と、疎水性の樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物全体に対して、前記有機化繊維の含有率が0.1〜99.9重量%である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物の厚さ30μmにおける全光線透過率が70%以上である請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物の、室温より、熱膨張係数の計測におけるTgの20度以下までの温度域での平均熱線膨張係数が、50ppm以下である請求項6〜8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(a)セルロース繊維を水に分散させておく工程、
(b)前記セルロース繊維表面の金属性イオンや水素イオンを有機性カチオン化合物でイオン交換して有機化繊維を得る工程、
(c)前記有機化繊維を疎水性の樹脂と混合する工程、
を有することを特徴とする、樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−47084(P2011−47084A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197760(P2009−197760)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】