説明

有機半導体デバイスおよびその製造方法

【課題】貼り合わせ界面の密着性向上による性能改善を図ることが可能な有機半導体デバイス、その製造方法を提供する。
【解決手段】有機半導体デバイス10は、第1基材12a上に第1電極層12bを備えた第1電極基材12と、第2基材14a上に第2電極層14bを備えた第2電極基材14とを有し、第1電極基材12の第1電極層12b表面に有機物層16が積層され、この有機物層16表面と第2電極基材14の第2電極層14b表面とが貼り合わされてなる。第2電極層14bは、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、第2基材14a側から第2基材14aと反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体デバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスに有機物を用いた有機半導体デバイスが知られている。例えば、この種の有機半導体デバイスとして、発光材料として有機物材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、単に「有機EL素子」ということがある。)や、導電性ポリマーやフラーレン等を組み合わせた有機物材料を用いた有機薄膜太陽電池などがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、透明基板の表面に、陽電極層(ITO層等)と、発光層を含む有機物層とが積層された陽電極基板と、樹脂フィルムの表面に、陰電極層(Mg−Ag合金等)が積層された陰電極フィルムとを、互いに重ね合わせて加熱・加圧して貼り合わせた有機EL素子が開示されている。同文献には、陰電極層の有機物層側に電子注入層(LiF等のアルカリ金属化合物等)を付設すると、発光特性を改良できる点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2は、貼り合わせ法を採用するものではないが、同文献には、絶縁性基板上に、陽極、正孔注入層、発光層、陰極層、酸化物絶縁層とを順次積層して形成した有機EL素子が開示されている。そして、陰極層を、例えば、Caが存在するAl層(発光層側)と、Caが存在しないAl層(発光層と反対側)との2層構造から構成した点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−38816号公報
【特許文献2】特許第4133736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、貼り合わせ法を用いる有機半導体デバイスは、以下の点で問題があった。すなわち、貼り合わせ法を用いた場合、貼り合わせ界面の密着性が不十分であると、デバイス性能が低下する。例えば、有機EL素子の場合、発光特性が低下するし、有機薄膜太陽電池の場合、発電特性が低下する。
【0007】
特許文献1に記載のように、陰電極層の有機物層側に電子注入層を付設し、これと陽電極層上の有機物層表面とを貼り合わせる場合、特に、貼り合わせ界面の密着性が低下しやすい。なぜなら、電子注入層材料として使用されるアルカリ金属、アルカリ土類金属は、熱伝導率が低いため、貼り合わせ界面に加熱による熱を伝え難いからである。
【0008】
このように貼り合わせ法を用いた場合には、デバイス特性の向上を図る層を追加しても、貼り合わせに起因して、その効果を十分に得ることができないといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、貼り合わせ界面の密着性向上による性能改善を図ることが可能な有機半導体デバイス、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る有機半導体デバイスは、第1基材上に第1電極層を備えた第1電極基材と、第2基材上に第2電極層を備えた第2電極基材とを有し、上記第1電極基材の第1電極層表面に有機物層が積層され、この有機物層表面と上記第2電極基材の第2電極層表面とが貼り合わされてなり、上記第2電極層は、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、上記第2基材側から上記第2基材と反対側にかけて、上記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっていることを要旨とする。
【0011】
ここで、上記第2電極層の一部を構成する、熱伝導率が200W/mK以上である金属は、Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0012】
また、上記第2電極層は、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜であることが好ましい。
【0013】
また、上記第2基材と上記第2電極層との間に、熱伝導率が200W/mK以上である金属よりなる金属層が形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る有機半導体デバイスの製造方法は、第1基材上に第1電極層、有機物層を順に積層してなる第1電極基材を準備する工程と、第2基材上に第2電極層を積層してなる第2電極基材を準備する工程と、準備した上記第1電極基材の有機物層表面と上記第2電極基材の第2電極層表面とを加熱加圧により貼り合わせる工程とを有し、上記第2電極基材を準備するに当たり、第2基材上に、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを共蒸着し、第2電極層を形成することを要旨とする。
【0015】
本発明に係る電極基材は、基材上に電極層を備え、上記電極層は、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、上記基材側から前記基材面と反対面側にかけて、上記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっていることを要旨とする。
【0016】
ここで、上記熱伝導率が200W/mK以上である金属は、Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0017】
また、上記電極層は、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第2電極基材の第2電極層は、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、上記第2基材側から上記第2基材と反対側にかけて、上記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっている。上記第2電極基材の第2電極層表面と、第1電極基材の第1電極層表面に積層された有機物層表面とが貼り合わされて有機半導体デバイスが構成されている。
【0019】
そのため、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図ることができる。これは、上記第2基材側から上記第2基材と反対側にかけて、上記熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなっているので、有機物層側(第2基材と反対側)に、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属などの低熱伝導性金属を一様に分布させた場合に比べ、加熱・加圧による貼り合わせ時に貼り合わせ界面に熱を伝えやすくなるからである。したがって、本発明に係る有機半導体デバイスを、例えば、有機EL素子に適用した場合には、従来に比べ、発光効率の向上を図ることができる。また例えば、有機薄膜太陽電池に適用した場合には、従来に比べ、発電特性の向上が期待できる。
【0020】
ここで、上記第2電極層の一部を構成する、熱伝導率200W/mK以上である金属が、Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上である場合には、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図りやすい。
【0021】
また、上記第2電極層が、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜である場合には、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図りやすい。とりわけ、Ag、Alを、有機EL素子の陰極金属として、Mg、Caを、有機EL素子の電子注入材料として機能させることで、発光特性に優れた有機EL素子を得ることができる。
【0022】
また、上記第2基材と上記第2電極層との間に、熱伝導率が200W/mK以上である金属よりなる金属層がさらに形成されている場合には、電極機能を損なわずに第2基材側からの水分や酸素等を抑制することができる。
【0023】
本発明に係る有機半導体デバイスの製造方法によれば、第2電極基材を準備するに当たり、第2基材上に、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを共蒸着し、第2電極層を形成する。熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを共蒸着すると、両者の基材への付着確率の違いから、その組成は傾斜的に分布する。具体的には、第2基材側から第2基材と反対側にかけて、熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなる。
【0024】
そのため、準備した第1電極基材の有機物層表面と第2電極基材の第2電極層表面とを加熱加圧により貼り合わせると、従来に比べ、貼り合わせ界面に熱が伝わりやすく、貼り合わせ界面の密着性が向上する。それ故、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善が図られた有機半導体デバイスを得ることができる。
【0025】
本発明に係る電極基材は、基材上に電極層を備え、上記電極層は、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、上記基材側から前記基材面と反対面側にかけて、上記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっている。そのため、貼り合わせ法を用いる有機半導体デバイスの電極基板として好適に用いることができる。
【0026】
ここで、上記熱伝導率200W/mK以上である金属が、Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上である場合には、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図りやすい。
【0027】
また、上記電極層が、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜である場合には、貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図りやすい。とりわけ、Ag、Alを、有機EL素子の陰極金属として、Mg、Caを、有機EL素子の電子注入材料として機能させることができるので、有機EL素子の陰極基材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る有機半導体デバイスの断面図を模式的に示した図である。
【図2】第2電極層に含まれる金属の膜厚方向の組成分布を模式的に示した図である。
【図3】第2実施形態に係る有機半導体デバイスの断面図を模式的に示した図である。
【図4】第1実施形態に係る有機半導体デバイスの製造方法を模式的に示した図である。
【図5】実施例1における共蒸着膜のエッチング深さ方向(nm)とAg/Mg比率(%)との関係を示したグラフである。
【図6】実施例2における共蒸着膜のエッチング深さ方向(nm)とAl/Ca比率(%)との関係を示したグラフである。
【図7】実施例1および比較例1に係る有機EL素子の電流密度と輝度との関係を示したグラフである。
【図8】実施例2および比較例2に係る有機EL素子の電流密度と輝度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施形態に係る有機半導体デバイス(以下、「本デバイス」ということがある。)およびその製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)について詳細に説明する。
【0030】
1.本デバイス
図1は、第1実施形態に係る有機半導体デバイスの断面図を模式的に例示したものである。図1に示すように、本デバイス10は、第1電極基材12と、第2電極基材14とを有する。第1電極基材12は、第1基材12a上に第1電極層12bを備えている。第2電極基材14は、第2基材14a上に第2電極層14bを備えている。第1電極基材12の第1電極層12b表面には、有機物層16が積層されている。この有機物層16表面と第2電極基材14の第2電極層14b表面とは貼り合わされている。つまり、本デバイス10は、有機物層16と第2電極層14bとの間に貼り合わせ界面Xを有している。
【0031】
第1基材12aは、通常、可視光に対して透明な材料より形成されている。可視光透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であると良い。第1基材12aには、ガラス基板等のセラミック基板、樹脂基材などを用いることができる。樹脂基材の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアリレート、シクロオレフィンポリマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。第1基材12aの厚みは、通常、3〜1000μmであり、好ましくは、10〜500μm、より好ましくは、10〜300μmであると良い。
【0032】
第1電極層12bの材料は、例えば、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、導電性化合物、または、これらの混合物などを例示することができる。具体的には、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などを代表的なものとして例示することができる。第1電極層12bの厚みは、通常、1μm以下であり、200nm以下が好ましい。第1電極層12bの抵抗は、数百Ω/sq.以下が好ましい。第1電極層12bは、真空蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、キャスト法、LB法、パイロゾル法、スプレー法等により形成することができる。
【0033】
第2基材14aは、絶縁性を有する材料より形成されている。可視光に対する透明性はあってもなくても良い。第2基材14aには、SUS箔等の金属箔、ガラス基板等のセラミック基板、樹脂基材などを用いることができる。樹脂基材の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアリレート、シクロオレフィンポリマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。第2基材14aの厚みは、通常、3〜1000μmであり、好ましくは、10〜500μm、より好ましくは、10〜300μmであると良い。
【0034】
ここで、本デバイス10において、第2電極層14bは、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されている。上記蒸着膜は、製造上、不可避な不純物を含んでいても良い。なお、上記アルカリ土類金属とは、周期表第II族に属するBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Raの6元素の総称であるが、本発明ではBeは除く。上記アルカリ金属とは、周期表第I族に属するLi、Na、K、Rb、Cs、Frの6元素の総称である。
【0035】
第2電極層14bにおいて、上記熱伝導率が180W/mK未満になると、貼り合わせ界面の密着性を向上させ難い。上記熱伝導率は、貼り合わせ界面の密着性向上の観点から、好ましくは、200W/mK以上、より好ましくは、220W/mK以上、さらに好ましくは、240W/mK以上であると良い。
【0036】
上記熱伝導率が200W/mK以上である金属としては、具体的には、例えば、Al、Ag、Au、Cuなどを好適なものとして例示することができる。貼り合わせ界面の密着性向上によるデバイス性能の改善を図りやすいからである。これらは1種または2種以上含まれていても良い。好ましくは、アルカリ土類金属もしくはアルカリ金属との相性等の観点から、Al、Agであると良い。
【0037】
一方、上記アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどが挙げられ、上記アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csなどが挙げられる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。好ましくは、取扱いのしやすさ等の観点から、Mg、Ca、Sr、Baであると良い。とりわけ、有機EL素子の場合、Mg、Ca、Sr、Baを有機EL素子の電子注入材料として機能させることで優れた有機EL素子を得ることができる。
【0038】
上記熱伝導率200W/mK以上である金属と、上記アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属との具体的な組み合わせとしては、例えば、AgとMg、AlとCa、AlとSr、AlとBaなどを好適な組み合わせとして例示することができる。特に好ましい組み合わせは、AgとMg、AlとCaである。Ag、Alを、有機EL素子の陰極金属として、Mg、Caを、有機EL素子の電子注入材料として機能させることで、発光特性に優れた有機EL素子を得ることができるからである。
【0039】
図2は、第2電極層に含まれる金属の膜厚方向の組成分布を模式的に示したものである。図2において、横軸は、第2電極層14bの膜厚である。横軸右方向は基材側であり、横軸左方向は有機物層16側(基材と反対側)である。また、縦軸は、第2電極層14bに含まれる熱伝導率200W/mK以上である金属(高k金属)、アルカリ土類金属(AE)、アルカリ金属(A)の組成比である。
【0040】
図2に示すように、第2電極層14bは、第2基材14a側から第2基材14aと反対側(有機物層16側)にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなっている。一方、第2電極層14bは、第2基材14a側から第2基材14aと反対側(有機物層16側)にかけて、アルカリ土類金属(AE)、アルカリ金属(A)の比率が大きくなっている。
【0041】
図2では、第2基材14a側から第2基材14aと反対側(有機物層16側)にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が漸次小さくなるように傾斜している例を示している。本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第2基材14a側から第2基材14aと反対側(有機物層16側)にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が段階的に小さくなるように傾斜していても良い。
【0042】
このように、第2基材14a側から第2基材14aと反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなっていることにより、加熱・加圧による貼り合わせ時に貼り合わせ界面に熱を伝えやすくなる。
【0043】
なお、第2電極層14bに含まれる金属の膜厚方向の組成分布は、ESCA分析により測定することができる。
【0044】
第2電極層14bの膜厚の上限は、貼り合わせ時の熱伝導およびデバイスとして構築した際の導電性などの観点から、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、500nm以下であると良い。一方、第2電極層14bの膜厚の下限は、導電性の確保、均一な電子輸送性の確保などの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、50nm以上であると良い。
【0045】
有機物層16は、本デバイス10の機能を発揮させる部位となる。有機物層16は、1また2以上の同一または異なる層が積層されて構成されていても良い。本デバイス10を例えば、有機EL素子として用いる場合、有機物層16は、発光層を含んでいる。有機物層16は、発光層単体であっても良い。有機物層16は、発光層以外にも、第1電極層12b側に正孔輸送層などを有していても良い。
【0046】
上記発光層は、有機発光材料から形成するか、キャリア輸送性(正孔輸送性、電子輸送性、または、両性輸送性)を示す有機材料(以下、「ホスト材料」という場合がある。)に少量の有機発光材料を添加した材料より形成することができる。発光層に用いる有機発光材料の選択により、発光色を設定することができる。発光層の厚みは、実用的な発光輝度を得るために、200nm以下が好ましい。
【0047】
発光層を有機発光材料から形成する場合、有機発光材料としては、成膜性に優れ、膜の安定性に優れた材料が用いられる。このような有機発光材料としては、具体的には、例えば、Alq(トリス−(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム)に代表される金属錯体、ポリフェニレンビニレン(PPV)誘導体、ポリフルオレン誘導体などが挙げられる。ホスト材料と共に用いる有機発光材料としては、添加量が少ないために、上記有機発光材料の他に、単独では安定な薄膜を形成し難い蛍光色素なども用いることができる。蛍光色素の例としては、クマリン、DCM誘導体、キナクリドン、ペリレン、ルブレンなどを例示することができる。ホスト材料の例としては、上記Alq 、TPD(トリフェニルジアミン)、電子輸送性のオキサジアゾール誘導体(PBD)、ポリカーボネート系共重合体、ポリビニルカルバゾールなどを例示することができる。なお、上記のように発光層を有機発光材料から形成する場合にも、発光色を調節するために、蛍光色素などの有機発光材料を少量添加することもできる。発光層は、有機溶媒に希釈し、スピンコート等で塗工し、加熱して乾燥することで形成することができる。
【0048】
上記正孔輸送層を形成する材料として、例えば、テトラアリールベンジシン化合物、芳香族アミン類、ピラゾリン誘導体、およびトリフェニレン誘導体、水溶性のPEDOT:PSS(ポリスチレンスルフォン酸ドープポリエチレンジオキシチオフェン)などを例示することができる。正孔輸送層4の厚みは、20〜100nmが好ましい。正孔輸送層を形成する方法としては、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、および印刷法などが挙げられる。正孔輸送層には、その正孔移動度を改善するために、電子受容性アクセプタを添加することが好ましい。電子受容性アクセプタの例としては、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸などが挙げられる。正孔輸送層にPEDOT:PSSを用いる場合は、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒に希釈し、スピンコート等で塗工し、加熱して乾燥することで形成することができる。
【0049】
また、本デバイス10を例えば、有機薄膜太陽電池として用いる場合、有機物層16(光電変換層)の材料として次の材料を例示することができる。例えば、ショットキー型有機薄膜太陽電池とする場合、光電変換層を形成する材料は、電子供与性または電子受容性の性質を有する材料であれば特に限定されない。具体的には、ペンタセンなどの有機単結晶、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、ポリアルキルチオフェンおよびその誘導体等の導電性高分子およびその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、メロシアニン誘導体、クロロフィル等の合成色素、有機金属ポリマー等を例示することができる。
【0050】
また、ヘテロ接合型有機薄膜太陽電池とする場合、バイレイヤー型と、バルクへテロ接合型とに分けることができる。バイレイヤー型有機薄膜太陽電池の場合、光電変換層として、電子受容性の機能を有する電子輸送層および電子供与性の機能を有する正孔輸送層を各々別個に形成し、それらの界面において形成されるpn接合を利用して光電荷分離を生じさせ、光電流を得る。この場合、上記電子輸送層を形成する材料としては、電子受容体としての機能を有するものであれば特に限定されない。具体的には、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)、MEH−CN−PPV、−CN基または−CF基含有ポリマー、それらの−CF置換ポリマー、ポリ(フルオレン)誘導体、C60などのフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体、多環キノン、キナクリドン等の材料を例示することができる。一方、上記正孔輸送層を形成する材料としては、電子供与体としての機能を有するものであれば特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、ポリアルキルチオフェンおよびその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、有機金属ポリマー等を例示することができる。
【0051】
バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池の場合、光電変換層として、電子受容性および電子供与性の両方の機能を有する電子正孔輸送層とし、電子正孔輸送層内で形成されるpn接合を利用して光電荷分離を生じさせ、光電流を得る。この場合、上記電子受容性の材料としては、そのような機能を有するものであれば特に限定されない。具体的には、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)、MEH−CN−PPV、−CN基または−CF基含有ポリマー、それらの−CF置換ポリマー、ポリ(フルオレン)誘導体、C60誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体、多環キノン、キナクリドン等の材料を例示することができる。一方、上記電子供与性の材料としては、そのような機能を有するものであれば特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、ポリアルキルチオフェンおよびその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、有機金属ポリマー等を例示することができる。
【0052】
有機EL素子の場合、有機物層16の厚みの上限は、実用的な発光輝度を得るなどの観点から、好ましくは、1μm以下、より好ましくは、500nm以下、さらに好ましくは、300nm以下であると良い。一方、有機物層16の厚みの下限は、実用的な発光輝度を得るなどの観点から、好ましくは、1nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、10nm以上であると良い。
【0053】
また、有機薄膜太陽電池の場合、有機物層16の厚みの上限は、実用的な発電特性を得るなどの観点から、好ましくは、1μm以下、より好ましくは、500nm以下、さらに好ましくは、200nm以下であると良い。一方、有機物層16の厚みの下限は、実用的な発電特性を得るなどの観点から、好ましくは、1nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、10nm以上であると良い。
【0054】
図3は、第2実施形態に係る有機半導体デバイスの断面図を模式的に例示したものである。図3に示すように、本デバイス10は、第2基材14aと第2電極層14bとの間に、熱伝導率200W/mK以上である金属よりなる金属層18がさらに形成されていても良い。金属層18を構成する、熱伝導率200W/mK以上である金属は、第2電極層14bにて説明したものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0055】
金属層18の膜厚の上限は、貼り合わせ時の熱伝導およびデバイスとして構築した際の導電性などの観点から、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、500nm以下であると良い。一方、金属層18の膜厚の下限は、導電性の確保などの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、50nm以上であると良い。
【0056】
本デバイス10は、例えば、有機EL素子、有機薄膜太陽電池などとして用いることができる。本デバイス10を有機EL素子、有機薄膜太陽電池として用いる場合、第1電極層12bを陽極層(つまり、第1電極基材は陽極基材)とし、第2電極層14bを陰極層(つまり、第2電極基材は陰極基材)とすれば良い。
【0057】
2.本製造方法
本製造方法は、上述した本デバイス10を得るのに好適な方法である。図4は、第1実施形態に係る有機半導体デバイスの製造方法を模式的に示したものである。
【0058】
本製造方法では、図4(a)に示すように、第1基材12a上に第1電極層12b、有機物層16を順に積層してなる第1電極基材12を準備する。また、図4(b)に示すように、第2基材14a上に第2電極層14bを積層してなる第2電極基材14を準備する。なお、本製造方法では、図4(a)の工程の後に図4(b)の工程を行っても良いし、図4(b)の工程の後に図4(a)の工程を行っても良い。その後、準備した第1電極基材12の有機物層16表面と第2電極基材14の第2電極層14b表面とを加熱加圧により貼り合わせる(図4(c))。
【0059】
ここで、本製造方法では、第2電極基材14を準備するに当たり、第2基材14a上に、直接または他の層を介して、上述した熱伝導率200W/mK以上である金属と、上述したアルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを共蒸着し、第2電極層14bを形成する。上記共蒸着によれば、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とのそれぞれの付着確率の違いから、図2に例示するように、第2基材14a側から第2基材14aと反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなるように傾斜した組成となる。
【0060】
第2電極層14bの膜厚方向における、熱伝導率200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属との比率は、蒸着時の成膜レート比([Å/s])を可変することにより調整することができる。
【0061】
上記成膜レート比は、好ましくは、熱伝導率200W/mK以上である金属:アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属=1:1〜1:100、より好ましくは、1:5〜1:20の範囲内にあると良い。第2基材14a側から第2基材14aと反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなるような傾斜組成が得やすくなるからである。
【0062】
また、上記により、本発明に係る電極基材が得られる。本発明に係る電極基材は、基材上に電極層を備え、電極層が、熱伝導率200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ基材側から基材面と反対面側にかけて、熱伝導率200W/mK以上である金属の比率が小さくなっている。
【0063】
なお、上述した第2電極基材14を準備するに際し、上記共蒸着の前に、第2基材14a上に、熱伝導率200W/mK以上である金属を単体で蒸着すれば、第2基材14aと第2電極層14bとの間に金属層18を介在させることができる。また、上記共蒸着は、1回または2回以上に分けて行うことも可能である。
【0064】
また、第1電極基材12の有機物層16表面と第2電極基材14の第2電極層14b表面との貼り合わせは、有機物層16表面と第2電極層14b表面とを互いに接するように重ね合わせ、この状態のものを、ロール温度が所定の温度に設定された一対の加熱ロールの間を通過させて加熱・加圧すれば良い。あるいは、所定温度に設定されたプレスにより加熱・加圧すれば良い。
【0065】
加熱・加圧方法としては、好ましくは、前者の熱ラミネート法を好適に用いることができる。ロール・トウ・ロールが可能になるなど、連続生産による生産性の向上に寄与でき、テープ形状等、長尺物の形状を形成しやすいなどの利点があるからである。なお、加熱温度、加圧力等は、有機物層の材料などに応じて適宜最適な範囲を選択することができる。
【0066】
なお、本製造方法では、第1電極基材12を、有機物層16が形成されてから貼り合わせ工程までの間、酸素と水分の濃度を規制した雰囲気に存在させ、第2電極基材14を、第2電極層14bが形成されてから貼り合わせ工程までの間、酸素と水分の濃度を規制した雰囲気に存在させ、貼り合わせ工程を、酸素と水分の濃度を規制した雰囲気の大気圧下で行うことが好ましい。
【0067】
第2電極基材14の第2電極層14bに水分や酸素により金属酸化膜が形成されるのを防止でき、発光特性等のデバイス特性を向上させることができるからである。その結果、例えば、得られるデバイスとして有機EL素子を製造する場合であれば、一定電圧下での発光特性を向上させることができるので、駆動電圧を下げて発光による構成材料自体の劣化を抑制することが可能となり、素子の連続発光時間を延ばして長寿命化を図ることができる。
【0068】
上記酸素の濃度は、0.1ppm以下であることが好ましく、また、上記水分の濃度は、露点で−80℃以下であることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を示す。
【0070】
1.有機半導体デバイスの作製
(実施例1)
フィルム基材として、厚み25μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを準備した。準備した基材は、真空オーブンを用いて真空下で加熱乾燥することにより、基材の付着水・含有水分を予め除去した。このフィルム基材の表面に、金属層として膜厚50nmのAg層を形成した。上記Ag層を形成したフィルム基材の表面に、真空蒸着法によりAg(熱伝導率420W/mK)とMgとを共蒸着し、膜厚200nmの陰電極層を形成した。この際、成膜レートは、Ag:0.2Å/s、Mg:2.0Å/s(成膜レート比 Ag:Mg=1:10)、真空度は、2.0×10−4Paに設定した。これにより、PENフィルム(膜厚25μm)上に、Ag膜(50nm)、Ag(熱伝導率420W/mK)とMgとの共蒸着膜(200nm)が順に形成された陰電極フィルム基材を作製した。なお、作製した陰電極フィルム基材は、酸素濃度0.01ppm、水分濃度が露点で−88℃の窒素雰囲気の密閉容器内に保管した。
【0071】
作製した陰電極フィルム基材の共蒸着膜における金属の組成分布をESCA分析により測定した。分析に用いた装置はESCA5600(ULVAC−PHI社製)である。測定条件は、X−Ray:Mgコンベンショナル 300W×14kV、光電子取出角度:45°、分析エリア:800μm、中和銃:使用とした。また、組成分布を測定するため、共蒸着膜表面からPENフィルム基材側にかけてイオンエッチング(エッチングガス:Ar、ビーム圧:3kV、エッチング間隔:2min)を行った。
【0072】
図5に、エッチング深さ方向(nm)とAg/Mg比率(%)との関係を示す。図5に示されるように、上記共蒸着膜は、基材側から基材と反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上であるAgの比率が小さくなっていることが分かる。また、基材側から基材と反対側にかけて、Mgの比率が大きくなっていることが分かる。
【0073】
次に、フィルム基材として、厚み200μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを準備した。準備した基材は、真空オーブンを用いて真空下で加熱乾燥することにより、基材の付着水・含有水分を予め除去した。このフィルム基材の表面に、陽電極層として膜厚150nmのインジウム錫酸化物(ITO)層を形成した。上記ITO層を形成した陽電極フィルム基材を純水、有機アルカリ洗浄液(メルフ社製:エフストラン)、純水、アセトン溶液、IPA溶液の順に各5分間、超音波洗浄を行った。その後、UVオゾン洗浄器で10分間処理した。上記洗浄したITO層表面に、正孔輸送層形成用の塗工液〔PEDOT:PSS水溶液(スタルク社製)をエタノールで希釈したもの〕をスピンコートにより成膜し、130℃のホットプレートで30分間乾燥し、厚み60nmの正孔輸送層を形成した上記正孔輸送層の表面に、発光層材料としてポリフルオレン系発光材料(ガラス転移温度:116℃、DSC法)を厚み80nmになるようにスピンコート法で塗布し、乾燥させ、発光層を形成した。これにより、PENフィルム(膜厚200μm)上に、ITO層(150nm)、正孔輸送層(60nm)、発光層(80nm)が順に形成された陽電極フィルム基材を作製した。なお、上記発光層の形成は、酸素濃度0.01ppm、水分濃度が露点で−88℃の窒素雰囲気のグローブボックス中で行い、作製した陽電極フィルム基材は、貼り合わせ工程までの間、このグローブボックス中に保管した。
【0074】
次に、陽電極フィルム基材を保管したグローブボックス中に、上記酸素濃度0.01ppm、水分濃度が露点で−88℃以下の窒素雰囲気の密閉容器に保管した陰電極フィルム基材を入れた密閉容器を入れ、密閉容器から陰電極フィルム基材を取り出した。その後、上記作製した陰電極フィルム基材の共蒸着膜と、陽電極フィルム基材の発光層とが接するように、陰電極フィルム基材と陽電極フィルム基材とを重ね合わせた積層体を、2本の加熱ロール(温度:140℃、ロール圧力:1.5MPaに設定)の間を通過させ、陰電極フィルム基材と陽電極フィルム基材とを加熱・加圧して、両者を接合して貼り合わせて有機EL素子を得た。さらにこの酸素濃度と水分濃度を規制したグローブボックスの内部で、上記の貼り合わせ後の有機EL素子をガラス上に置き、素子の上からガラスキャップをし、周囲を紫外線硬化型接着剤を用いて封止して実施例1に係る有機EL素子を得た。
【0075】
(実施例2)
実施例1の陰電極フィルム基材の作製において、Al層を形成したフィルム基材の表面に、真空蒸着法によりAl(熱伝導率236W/mK)とCaとを共蒸着し、膜厚200nmの陰電極層を形成した。この際、成膜レートは、Al:0.2Å/s、Ca:2.0Å/s(成膜レート比 Al:Ca=1:10)、真空度は、2.0×10−4Paに設定した。
【0076】
これにより、PENフィルム(膜厚200μm)上に、Al膜(50nm)、Al(熱伝導率236W/mK)とCaとの共蒸着膜(200nm)が順に形成された陰電極フィルム基材を作製した。作製した陰電極フィルム基材の共蒸着膜における金属の組成分布を同様にESCA分析により測定した。
【0077】
図6に、エッチング深さ方向(nm)とAl/Ca比率(%)との関係を示す。図6に示されるように、上記共蒸着膜は、基材側から基材と反対側にかけて、熱伝導率200W/mK以上であるAlの比率が小さくなっていることが分かる。また、基材側から基材と反対側にかけて、Caの比率が大きくなっていることが分かる。
【0078】
以降は、この陰電極フィルム基材を用いた点以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る有機EL素子を得た。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同様にして、PENフィルム(膜厚200μm)上に、陽電極層としてのITO層(150nm)、正孔輸送層(60nm)、発光層(80nm)を順に形成した。その後、上記発光層の表面に、真空蒸着法により、Ag(熱伝導率420W/mK)とMgとを共蒸着し、膜厚200nmの陰電極層を形成した。この際、成膜レートは、Ag:0.2Å/s、Mg:2.0Å/s(成膜レート比 Ag:Mg=1:10)、真空度は、2.0×10−4Paに設定した。これにより、比較例1に係る有機EL素子を得た。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同様にして、PENフィルム(膜厚200μm)上に、陽電極層としてのITO層(150nm)、正孔輸送層(60nm)、発光層(80nm)を順に形成した。その後、上記発光層の表面に、真空蒸着法により、Al(熱伝導率236W/mK)とCaとを共蒸着し、膜厚200nmの陰電極層を形成した。この際、成膜レートは、Al:0.2Å/s、Ca:2.0Å/s(成膜レート比 Al:Ca=1:10)、真空度は、2.0×10−4Paに設定した。これにより、比較例2に係る有機EL素子を得た。
【0081】
2.評価
実施例および比較例に係る有機EL素子について、不活性ガス雰囲気内で封止後、発光特性を評価した。実施例1、比較例1に係る有機EL素子の発光特性の評価は、0.5Vずつ電圧をあげていき、その際の輝度および電流値を測定することにより行った。実施例2、比較例2に係る有機EL素子の発光特性の評価は、0.2Vずつ電圧をあげていき、その際の輝度および電流値を測定することにより行った。
【0082】
図7に、実施例1および比較例1に係る有機EL素子の電流密度と輝度との関係を示す。図8に、実施例2および比較例2に係る有機EL素子の電流密度と輝度との関係を示す。
【0083】
図7、図8によれば、以下のことが分かる。すなわち、従来法(有機物層上に直接、共蒸着膜を成膜する方法)による比較例1および比較例2に係る有機EL素子に比べ、実施例1および実施例2に係る有機EL素子は、貼り合わせ法を用いていても、高い発光効率を有していることが分かる。通常、貼り合わせ法においては、有機物層側にアルカリ土類金属、アルカリ金属を一様に分布させるように設けた場合、これら実施例、比較例より発光効率は大幅に低くなる。この実施例の結果は、本発明の構成を採用したことにより、貼り合わせ界面の密着性が向上したためである。
【0084】
以上、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。上記実施例では、本発明を有機EL素子に適用した場合について示したが、本発明を有機薄膜太陽電池に適用すれば、発電特性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0085】
10 有機半導体デバイス
12 第1電極基材
12a 第1基材
12b 第1電極層
14 第2電極基材
14a 第2基材
14b 第2電極層
16 有機物層
X 貼り合わせ界面
18 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材上に第1電極層を備えた第1電極基材と、
第2基材上に第2電極層を備えた第2電極基材とを有し、
前記第1電極基材の第1電極層表面に有機物層が積層され、この有機物層表面と前記第2電極基材の第2電極層表面とが貼り合わされてなる有機半導体デバイスであって、
前記第2電極層は、
熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、
前記第2基材側から前記第2基材と反対側にかけて、前記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっていることを特徴とする有機半導体デバイス。
【請求項2】
前記第2電極層の一部を構成する、熱伝導率が200W/mK以上である金属は、
Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体デバイス。
【請求項3】
前記第2電極層は、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機半導体デバイス。
【請求項4】
前記第2基材と前記第2電極層との間に、熱伝導率が200W/mK以上である金属よりなる金属層が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス。
【請求項5】
第1基材上に第1電極層、有機物層を順に積層してなる第1電極基材を準備する工程と、
第2基材上に第2電極層を積層してなる第2電極基材を準備する工程と、
準備した前記第1電極基材の有機物層表面と前記第2電極基材の第2電極層表面とを加熱加圧により貼り合わせる工程とを有し、
前記第2電極基材を準備するに当たり、
第2基材上に、熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを共蒸着し、第2電極層を形成することを特徴とする有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項6】
基材上に電極層を備え、
前記電極層は、
熱伝導率が200W/mK以上である金属と、アルカリ土類金属および/またはアルカリ金属とを含む蒸着膜より形成されており、かつ、
前記基材側から前記基材面と反対面側にかけて、前記熱伝導率が200W/mK以上である金属の比率が小さくなっていることを特徴とする電極基材。
【請求項7】
前記熱伝導率が200W/mK以上である金属は、
Al、Ag、Au、および、Cuから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項6に記載の電極基材。
【請求項8】
前記電極層は、AgとMgとを含む蒸着膜、または、AlとCaとを含む蒸着膜であることを特徴とする請求項6または7に記載の電極基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−175889(P2011−175889A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39736(P2010−39736)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】