説明

有機半導体素子及びその製造方法

【課題】簡便な塗布プロセスによって製造することができ、トランジスタとしての特性が良好であり、さらに空気中の酸素に対して安定で経時劣化が十分抑制された有機半導体素子及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】4価の白金のオルトメタル化錯体を還元的脱離反応することによって得られた、2価の白金のオルトメタル化錯体を含有する有機半導体層を有することを特徴とする有機半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また、情報化の進展に伴い、従来、紙媒体で提供されていた情報が電子化される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては、液晶、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)、電気泳動等を利用した素子を用いて表示媒体を形成している。また、こうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度等を確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動素子(TFT素子)を用いる技術が主流になっている。例えば、通常のコンピュータディスプレイではガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)等の半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には通常、スパッタリング、プラズマCVD等の高温あるいは高真空の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料であるという制限が加わることになる。このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にしかTFT素子を形成できないことに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0006】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、例えば非特許文献1等において論じられているような有機レーザー発振素子や、例えば非特許文献2等、多数の論文にて報告されている有機薄膜トランジスタ素子(有機TFT素子)への応用が期待されている。これら有機半導体デバイスを実現できれば、基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも例えばTFT素子を形成できる可能性がある。透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落としても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0007】
さらには、有機半導体材料の分子構造を適切に改良することによって、溶剤に溶解できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も可能となり、従来のフォトリソグラフによってパターニングする方法と比べて大幅な工程数の削減が可能となるため、さらなる低コスト化が可能になると期待される。
【0008】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、ペンタセンやテトラセンといったアセン類(例えば、特許文献1参照)、鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物(例えば、特許文献2参照)や、α−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体を代表例とする芳香族オリゴマー(例えば、特許文献3参照)、ナフタレン、アントラセンに5員の芳香族複素環が対称に縮合した化合物(例えば、特許文献4参照)、モノ、オリゴ及びポリジチエノピリジン(例えば、特許文献5参照)、さらにはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子等限られた種類の化合物(例えば、非特許文献1〜3参照)でしかなく、溶剤への十分な溶解性を保持しながら、十分なキャリア移動度、ON/OFF比を示す材料は見出されていない。
【0009】
最近、溶解性の高いアセン類であるルブレンの単結晶が非常に高い移動度を有することが報告されているが(非特許文献4参照)、このような単結晶は気相成長法で作成したものであり、溶液キャストで製膜した膜は通常アモルファスであり、十分な移動度は得られていない。
【0010】
また、真空蒸着によって高いキャリア移動度を有する化合物であるペンタセンに官能基を付与した化合物等も開示され、溶液塗布によって比較的良好なキャリア移動度が得られるとの報告(例えば、特許文献6参照)もなされている。
【0011】
しかし、ルブレンやペンタセン等のアセン系の化合物は、空気中に含まれる酸素によって容易に酸化されてエンドパーオキシドと呼ばれる酸化体に転化し、電界効果トランジスタとしての性能が大きく劣化してしまうことが知られており、溶液での保存安定性や塗布膜の安定性についてはいまだ解決すべき課題が残されている。
【0012】
酸化に対して比較的安定で、かつ有機溶剤に溶解可能なアセン系化合物の例としては、非特許文献5や6、特許文献7において、ペンタセンの6、13位をシリルエチニル基で置換した一部の化合物が、塗布膜の安定性がよいとの報告がある程度である。
【0013】
しかしこれらの報告においては、文章中において酸化に対する安定性が向上したと定性的な性状を述べているのみであり、いまだ実用に耐えうる程度の安定性は得られていない。
【0014】
このような有機半導体素子の経時安定性については、例えば、特開2003−292588号公報、米国特許出願公開第2003/136958号明細書、同2003/160230号明細書、同2003/164495号明細書において、「マイクロエレクトロニクス用の集積回路論理素子にポリマーTFTを用いると、その機械的耐久性が大きく向上し、その使用可能寿命が長くなる。しかし半導体ポリチオフェン類の多くは、周囲の酸素によって酸化的にドープされ、導電率が増大してしまうため空気に触れると安定ではないと考えられる。この結果、これらの材料から製造したデバイスのオフ電流は大きくなり、そのため電流オン/オフ比は小さくなる。従ってこれらの材料の多くは、材料加工とデバイス製造の間に環境酸素を排除して酸化的ドーピングを起こさない、あるいは最小とするよう厳重に注意しなければならない。この予防措置は製造コストを押し上げるため、特に大面積デバイスのための、アモルファスシリコン技術に代わる経済的な技術としてのある種のポリマーTFTの魅力が削がれてしまう。これら及びその他の欠点は、本発明の実施の形態において回避され、あるいは最小となる。従って、酸素に対して強い対抗性を有し、比較的高い電流ON/OFF比を示すエレクトロニックデバイスが望まれている」との記載があるように、有機半導体材料が経時で劣化することをいかに防ぐかといった課題が、実用化を行う上での大きな課題となってきている。
【0015】
これらの有機半導体材料の溶液安定性を改善する手段としては、有機半導体材料の前駆体を溶解、塗布した後、加熱によって有機半導体材料に変化させ、有機半導体層を形成するといった方法(例えば非特許文献7、特許文献8)も考案されている。
【0016】
しかし、これまで公知の前駆体材料では、有害なハロゲン系溶剤にしか溶解しなかったり、前駆体を反応させるために高温または長時間が必要であったり、反応率が低く十分な移動度が得られない等といった課題を有していた。
【0017】
また、これまでに公知の有機半導体の前駆体材料から得られる有機半導体は、ほとんどがペンタセンであり、可溶性アセン化合物からなる薄膜と同様に、変換した後のペンタセン薄膜の酸素、水分等に対する安定性はいまだ不十分であった。
【0018】
このように、高移動度と耐久性、さらには溶解性を兼ね備えた有機半導体材料は未だ得られていない。
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】特開平5−190877号公報
【特許文献3】特開平8−264805号公報
【特許文献4】特開平11−195790号公報
【特許文献5】特開2003−155289号公報
【特許文献6】国際公開第03/016599号パンフレット
【特許文献7】米国特許第6,690,029号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2003/0136964号明細書
【非特許文献1】『サイエンス』(Science)誌289巻,599ページ(2000)
【非特許文献2】『ネイチャー』(Nature)誌403巻,521ページ(2000)
【非特許文献3】『アドバンスド・マテリアル』(Advanced Material)誌、2002年,第2号,99ページ
【非特許文献4】Science,vol.303(2004),1644ページ
【非特許文献5】Org.Lett.,vol.4(2002),15ページ
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,vol.127(2005),4986ページ
【非特許文献7】Synthetic Metals,vol.155(2005),490ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、簡便な塗布プロセスによって製造することができ、トランジスタとしての特性が良好であり、さらに空気中の酸素に対して安定で経時劣化が十分抑制された有機半導体素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0021】
1.4価の白金のオルトメタル化錯体を還元的脱離反応することによって得られた、2価の白金のオルトメタル化錯体を含有する有機半導体層を有することを特徴とする有機半導体素子。
【0022】
2.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることを特徴とする1に記載の有機半導体素子。
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、Z1、Z2は置換または無置換の芳香族環を表し、置換基はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよい。X1、X2はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、かつZ1、Z2が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。A1は炭素原子または窒素原子を表す。)
3.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、配位子に3環以上が縮合した縮合多環構造を有する4価の白金のオルトメタル化錯体を用いることを特徴とする1または2に記載の有機半導体素子。
【0025】
4.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(2)で表される化合物を用いることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の有機半導体素子。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、Z3〜Z5は置換または無置換の芳香族環を表す。X3、X4はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、Z3〜Z5が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。)
5.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(1)及び(2)においてX1〜X4で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子が、ともに下記一般式(3)で表される配位子である化合物を用いることを特徴とする2〜4のいずれか1項に記載の有機半導体素子。
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、A2は炭素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子を表し、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基から選ばれる置換基を表す。)
6.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(3)においてA2で表される原子が酸素原子である化合物を用いることを特徴とする5に記載の有機半導体素子。
【0030】
7.4価の白金のオルトメタル化錯体を含有する薄膜に、エネルギーを印加することによって2価の白金のオルトメタル化錯体を主成分とする薄膜に変換することを特徴とする有機半導体素子の製造方法。
【0031】
8.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(4)で表される化合物を用いることを特徴とする7に記載の有機半導体素子の製造方法。
【0032】
【化4】

【0033】
(式中、Z1、Z2は置換または無置換の芳香族環を表し、置換基はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよい。X1、X2はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、かつZ1、Z2が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。A1は炭素原子または窒素原子を表す。)
9.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、配位子に3環以上が縮合した縮合多環構造を有する4価の白金のオルトメタル化錯体を用いることを特徴とする7または8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【0034】
10.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(5)で表される化合物を用いることを特徴とする7〜9のいずれか1項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Z3〜Z5は置換または無置換の芳香族環を表す。X3、X4はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、Z3〜Z5が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。)
11.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(4)及び(5)においてX1〜X4で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子が、ともに下記一般式(6)で表される配位子である化合物を用いることを特徴とする8〜10のいずれか1項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【0037】
【化6】

【0038】
(式中、A2は炭素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子を表し、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基から選ばれる置換基を表す。)
12.前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(6)においてA2で表される原子が酸素原子である化合物を用いることを特徴とする11に記載の有機半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、簡便な塗布プロセスによって製造することができ、トランジスタとしての特性が良好であり、さらに空気中の酸素に対して安定で経時劣化が十分抑制された有機半導体素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
上記課題について本発明者等が鋭意検討を行ったところ、有機半導体として優れた特性を有する芳香族系化合物を、酸素に対して安定な貴金属である白金と組み合わせた構造を有する2価のオルトメタル化錯体が、半導体としての優れた特性と酸素に対する安定性を兼ね備えた有機半導体材料となることを見出した。
【0041】
しかし、2価の白金のオルトメタル化錯体は溶解性が低く、溶液塗布等の常圧プロセスによって有機半導体層を形成することは困難であった。
【0042】
本発明者等はさらなる検討を行ったところ、4価の白金のオルトメタル化錯体は溶解性が高く、さらには熱、光、マイクロ波、超音波、電界等のエネルギーを加える処理を行うことによって、還元的に配位子を放出して安定かつ結晶性の高い2価の白金のオルトメタル化錯体に変換されること、それにより2価の白金のオルトメタル化錯体を含有する高移動度かつ耐久性の高い有機半導体層が形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0043】
本発明に係る有機半導体材料においては、請求項1〜6のいずれか1項に規定される有機半導体素子を用いることにより、有用な有機薄膜トランジスタを得ることができる。
【0044】
また、請求項7〜12のいずれか1項に規定される製造方法を用いることにより、有機薄膜トランジスタ用途に有用な有機半導体素子を得ることができる。
【0045】
上記により得られた本発明の有機半導体素子、有機薄膜トランジスタ(以下、有機TFTともいう)は、キャリア移動度が高く、良好なON/OFF特性を示す等、優れたトランジスタ特性を示しながら、かつ、高耐久性であることが判明した。
【0046】
以下、本発明に係る各構成要素の詳細について説明する。
【0047】
〔有機半導体材料及び前駆体〕
本発明において、有機半導体層は2価の白金のオルトメタル化錯体によって形成されるが、2価の白金のオルトメタル化錯体は溶解性が乏しいため、4価の白金のオルトメタル化錯体を前駆体として形成される。なお、オルトメタル化錯体とは、山本明夫著「有機金属化学 基礎と応用」,150頁及び232頁,裳華房社(1982年)、H.Yersin著「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」,71〜77頁及び135〜146頁,Springer−Verlag社(1987年)等に記載されている化合物群の総称である。
【0048】
4価の白金のオルトメタル化錯体は、平面構造ではないため有機溶剤に対して溶解性が高い反面、より安定な2価の錯体に変化しやすいため、加熱、光照射、超音波照射、マイクロ波照射、電界印加、触媒・反応助剤の添加等の後処理を行うことによって比較的容易に還元的脱離反応を起こし、2価の白金のオルトメタル化錯体に変換することができる。このようにして得られた2価の白金のオルトメタル化錯体は、平面構造を有しており結晶性が高く、また活性酸素の物理的消光剤として機能する白金原子を含有するために、酸素等に対して安定性が高く、経時安定性に優れた有機半導体層を形成することができる。なお、4価の白金のオルトメタル化錯体が2価の白金のオルトメタル化錯体に変換されたことは、可視部のスペクトルを測定することによって確認することができる。
【0049】
本発明において、より好ましい有機半導体の前駆体としては、前記一般式(1)、一般式(4)で表される構造を有する4価の白金のオルトメタル化錯体である。
【0050】
前記一般式(1)、一般式(4)において、Z1、Z2は置換または無置換の芳香族環を表し、置換基はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよい。X1、X2はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、かつZ1、Z2が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。A1は炭素原子または窒素原子を表す。
【0051】
前記一般式(1)、一般式(4)で表される4価の白金のオルトメタル化錯体は、マイナス1価のアニオン性単座配位子X1、X2がZ1、Z2で表される芳香族平面とは同じ平面に存在しないため、有機溶媒に溶解することができ、4価の白金のオルトメタル化錯体からなる塗布膜を形成することができる。
【0052】
さらに、X1〜X2で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子は、Z1〜Z3で表される二座配位子に比して脱離しやすい配位子であるため、前記エネルギー印加によって還元的脱離反応を起こし、2価の白金のオルトメタル化錯体に変換することができる。
【0053】
従って、以下のように4価の白金のオルトメタル化錯体からなる塗布膜に対して前記エネルギーを印加することにより、X1、X2で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子が脱離して2価の白金のオルトメタル化錯体に変換され、結晶性が高く高移動度の有機半導体層を得ることができる。
【0054】
【化7】

【0055】
前記一般式(1)、一般式(4)のZ1、Z2で表される芳香族環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、テトラジン環等の6員環構造、また、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、フラザン環、チオフェン環、チアゾール環等の5員環構造のどちらであっても制限なく用いることができる。ただし、Z2で表される芳香族環は、少なくとも1つ以上窒素原子を有する芳香族環である必要がある。また、これらの芳香族環は置換基を有していてもよく、それらの置換基は互いに結合してさらに環を形成していてもよい。
【0056】
また、前記一般式(1)、一般式(4)のX1、X2で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子としては、例えば、下記のアニオンが挙げられる。
【0057】
【化8】

【0058】
なお、上記の構造においてRは置換基を表し、mは0〜3の整数を表す。
【0059】
前記Z1、Z2で表される芳香族環を置換してよい置換基、及び前記マイナス1価のアニオン性単座配位子の一部を構成する置換基Rとしては、以下のような置換基を挙げることができる。
【0060】
アルキル基:例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等、
シクロアルキル基:例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等、
アルケニル基:例えば、ビニル基、アリル基、1,2−ジクロロエチレン基等、
アルキニル基:エチニル基、プロパルギル基、ジエチニル基等、
アリール基(芳香族炭素環基、芳香族炭化水素基等ともいう):例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ビフェニリル基等、
またナフタレン環、アントラセン環、アズレン環、アセナフテン環、フルオレン環、フェナントレン環、インデン環、ピレン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、ベンゾピレン環、ベンゾアズレン環、クリセン環、ベンゾクリセン環、アセナフテン環、アセナフチレン環、トリフェニレン環、コロネン環、ベンゾコロネン環、ヘキサベンゾコロネン環、ベンゾフルオレン環、フルオランテン環、ペリレン環、ナフトペリレン環、ペンタベンゾペリレン環、ベンゾペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、コロネン環、ナフトコロネン環、オバレン環、アンスラアントレン環等の縮合芳香族炭化水素環の一部の水素を置き換えた置換基等、
ヘテロアリール基(芳香族複素環基ともいう):例えば、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、テトラジン環、キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、フェナントリジン環、キノキサリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、プテリジン環、フェナジン環、フェナントロリン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、カルバゾール環、プリン環、ピロロピロール環、ピラゾロトリアゾール環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す)、フェナントロリン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、オキサジアゾール環、フラザン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、チエノ[2,3−a]チオフェン環、チエノ[2,3−b]チオフェン環、アントラジチオフェン環、ジチアフルベン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾジチオフェン環、アントラジチオフェン環、チオチオフテン環等の縮合芳香族炭化水素環の一部の水素を置き換えた置換基等、
複素環基:エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε−カプロラクトン環、ε−カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン−1、1−ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン環等、
アルコキシ基:例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等、
シクロアルコキシ基:例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等、
アリールオキシ基:例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等、
アルキルチオ基:例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等、
シクロアルキルチオ基:例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等、
アリールチオ基:例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等、
アルコキシカルボニル基:例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等、
アリールオキシカルボニル基:例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等、
スルファモイル基:例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等、
アシル基:例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)等、
アミド基:例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)等、
アミノ基:例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等、
ハロゲン原子:例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等、
フッ化炭化水素基:例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等、
シリル基:例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、シラトラン基等、
シロキシ基:例えば、トリメチルシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基、トリシクロヘキシルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基、フェニルジエチルシロキシ基等、
スルフィニル基:例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等、
スルホニル基:例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等、
その他の置換基:シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルシリル基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、スルホキシイミン基、オキソ基(=O)、チオン基(=S)、リン酸エステル基、チオリン酸エステル基、ホスホリルアミノ基、亜リン酸エステル基等、
が挙げられる。これらの置換基は、上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0061】
本発明に係る4価の白金のオルトメタル化錯体を形成する、前記一般式(1)、一般式(4)中のZ1、Z2で表される配位子としては、2価の白金のオルトメタル化錯体に変換された後にπスタック構造を形成しうる配位子であれば特に限定されないが、高い移動度を有する有機半導体薄膜を得るためには、3環以上が縮合した縮合多環を有する配位子であることが好ましい。このような構造とすることで、有機薄膜の結晶性が向上し、かつ、結晶内で縮合多環同士のπスタック面積が増大し、高い移動度を得ることができるという効果がある。
【0062】
このような配位子の中でも、縮合多環自体がオルトメタル化錯体を形成している材料が、分子の対称性が高いために結晶性の高い塗布膜を得やすく、ひいては高移動度の塗布膜を得やすい。また、白金と共有結合を形成する原子は炭素原子である方が錯体の安定性が高い傾向があるため、前記A1で表される原子は炭素原子であることが好ましい。
【0063】
従って、より好ましくは前記一般式(2)、一般式(5)で表されるような化合物である。
【0064】
一般式(2)、一般式(5)において、Z3〜Z5は置換または無置換の芳香族環を表す。X3、X4はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、Z3〜Z5が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。
【0065】
これらのZ3〜Z5で表される芳香族環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、テトラジン環等の6員環構造、また、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、フラザン環、チオフェン環、チアゾール環等の5員環構造のどちらであっても制限なく用いることができる。ただしZ5で表される芳香族環は、少なくとも1つ以上窒素原子を有する芳香族環である必要がある。
【0066】
このような縮合多環としては、例えば、ベンゾ[h]キノリン、ベンゾ[h]シンノリン、ベンゾ[f]キノキサリン、ベンゾ[c]ナフチリジン、ベンゾ[h]ナフチリジン、1,7−フェナントロリン、1,8−フェナントロリン、1,9−フェナントロリン、2,3,5−トリアザフェナントレン、2,5,9−トリアザフェナントレン、4,9,10−トリアザフェナントレン、チエノ[2,3−h]キノリン、ナフト[1,2−d]チアゾール、ベンゾ[4,5]チエノ[3,2−b]ピリジン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
ところで4価の白金のオルトメタル化錯体から2価の白金のオルトメタル化錯体への変換する際の還元的脱離反応には、
(1)X1、X2で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子同士が結合してX1−X2という構造を有する分子として脱離し、白金が4価から2価に還元される場合、
(2)X1、X2のマイナス1価のアニオン性単座配位子のβ水素が脱離反応を起こし、配位子が脱離していく場合、
とがある。
【0068】
本発明においては、(2)のような還元的脱離反応を起こすものが好ましい。(1)のような脱離反応を起こす化合物は、2つの配位子が結合するために脱離後の化合物の分子量が増大し、揮発性の低い化合物となりやすいが、(2)のような還元的脱離反応では、脱離する分子の分子量が増大せず、揮発性が高い化合物が得られるため、還元的脱離反応によって得られる2価の白金のオルトメタル化錯体からなる薄膜中に残存しにくく、高い移動度の有機半導体薄膜を得やすいためである。
【0069】
従って、X1〜X4で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子としては、前記一般式(3)、一般式(6)で表される配位子であることが好ましい。
【0070】
一般式(3)、一般式(6)において、A2は炭素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子を表し、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基から選ばれる置換基を表す。
【0071】
このように、マイナス1価のアニオン性単座配位子のβ位に水素原子を有する炭素原子とすることで、前記のβ水素脱離型の還元的脱離反応を起こす有機半導体前駆体とすることができる。
【0072】
また、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基といった低極性かつ溶解性の向上の寄与が大きい特定の置換基を有する単座配位子とすることで、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の低極性の有機溶媒への溶解性がより向上し、OTS等で表面処理された絶縁膜表面に均一に塗布できるようになるという効果がある。
【0073】
上記マイナス1価のアニオン性単座配位子のうち、一般式(3)、一般式(6)においてA2で表される原子が酸素原子である配位子を有する前駆体であることが好ましい。このような化合物では、配位子がアルデヒド系またはケトン系化合物に酸化・脱離しやすいため、2価の白金のオルトメタル化錯体へと高効率で変換できる前駆体とすることができる。
【0074】
前記の4価の白金のオルトメタル化錯体の分子量は300〜5000の範囲であることが好ましい。分子量を300以上とすることで、化合物の揮発性を十分低くすることができ、生産時の揮発、工程汚染を防止することができる。また5000以下とすることで、溶媒への溶解性を良好な範囲に保つことができる。なお、蒸着で半導体層を形成する場合には、分子量は1000以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、製膜を比較的低真空度で行うことができ、生産性を高くすることができる。なお、有機半導体材料の分子量は、質量分析装置、GPC等によって測定することができる。
【0075】
以下、本発明に係る化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0076】
【化9】

【0077】
【化10】

【0078】
【化11】

【0079】
【化12】

【0080】
【化13】

【0081】
なお、上記の化合物は、Inorg.Chem.,vol.41(2002),p3055を参考にして合成することができる。
【0082】
〔有機半導体素子、有機半導体デバイス、有機薄膜トランジスタ〕
本発明の有機半導体素子、有機半導体デバイス、有機薄膜トランジスタについて説明する。
【0083】
本発明に係る有機半導体材料は、有機半導体素子、有機半導体デバイス、有機薄膜トランジスタの半導体層に用いることにより、良好に駆動する有機半導体デバイス、有機薄膜トランジスタを提供することができる。有機薄膜トランジスタは、支持体上に、半導体層として有機半導体で連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と、支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体で連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別される。
【0084】
本発明に係る有機半導体材料を有機半導体膜、有機半導体デバイス、有機薄膜トランジスタの半導体層に設置するには、簡便で、大面積化も容易である溶液塗布法で有機半導体層を形成することが好ましい。溶液塗布法としては、キャストコート、スピンコート、印刷、インクジェット法、アブレーション法等が挙げられるが、塗布速度、精細度、製膜する基板材料、用いる溶液の粘度等に応じて選択すればよい。
【0085】
この場合、本発明に係る有機半導体前駆体材料を溶解する溶媒は、有機半導体前駆体材料を溶解して適切な濃度の溶液が調製できるものであれば格別の制限はないが、具体的にはジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾール等の芳香族系溶媒、N−メチルピロリドン、2硫化炭素等を挙げることができる。これらの溶媒のうち、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒が好ましく、非ハロゲン系溶媒で構成することが好ましい。また、絶縁膜表面を疎水化処理した絶縁膜上に塗布する場合には、そのような疎水化表面の表面エネルギーよりも表面エネルギーが小さい非極性な溶媒であることが好ましく、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等が好ましい。
【0086】
本発明の有機薄膜トランジスタは、本発明に係る有機半導体前駆体材料を含有する溶液または分散液を塗布した後、還元的脱離反応を誘発しうる後処理を行うことにより形成することが好ましい。後処理の方法としては、例えば、加熱、光照射、マイクロ波照射、超音波照射、反応性試薬や触媒の導入、減圧・加圧、等の手段を挙げることができる。
【0087】
これらの後処理を行うことによって、本発明に係る有機半導体前駆体材料である4価の白金のオルトメタル化錯体を、2価の白金のオルトメタル化錯体に変換することができ、2価の白金のオルトメタル化錯体からなる有機半導体層を得ることができる。
【0088】
これらの後処理の中でも、簡便かつ大面積でも均一に行うことができる後処理である、加熱処理を用いることが好ましい。
【0089】
本発明において、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペースト及びカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITO及び炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。中でも半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0090】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0091】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等が挙げられる。それらのうち好ましいのは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0092】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法等のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法等の塗布による方法、印刷やインクジェット等のパターニングによる方法等のウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0093】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶媒あるいは水に必要に応じて界面活性剤等の分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0094】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については特開平11−61406号公報、同11−133205号公報、特開2000−121804号公報、同2000−147209号公報、同2000−185362号公報等に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0095】
また有機化合物皮膜として、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、及びシアノエチルプルラン等を用いることもできる。有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0096】
また、支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えば、プラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。
【0097】
以下に、本発明の有機半導体材料を用いて形成された有機半導体膜を用いた有機薄膜トランジスタについて説明する。
【0098】
図1は、本発明の有機薄膜トランジスタの構成例を示す図である。同図(a)は、支持体6上に金属箔等によりソース電極2、ドレイン電極3を形成し、両電極間に本発明に係る有機半導体材料からなる有機半導体層1を形成し、その上に絶縁層5を形成し、さらにその上にゲート電極4を形成して有機薄膜トランジスタを形成したものである。同図(b)は、有機半導体層1を、(a)では電極間に形成したものを、コート法等を用いて電極及び支持体表面全体を覆うように形成したものを表す。(c)は、支持体6上に先ずコート法等を用いて、有機半導体層1を形成し、その後ソース電極2、ドレイン電極3、絶縁層5、ゲート電極4を形成したものを表す。
【0099】
同図(d)は、支持体6上にゲート電極4を金属箔等で形成した後、絶縁層5を形成し、その上に金属箔等で、ソース電極2及びドレイン電極3を形成し、該電極間に本発明に係る有機半導体材料により形成された有機半導体層1を形成する。その他同図(e)、(f)に示すような構成を取ることもできる。
【0100】
図2は、有機薄膜トランジスタシートの概略等価回路図の1例を示す図である。
【0101】
有機薄膜トランジスタシート10はマトリクス配置された多数の有機薄膜トランジスタ11を有する。7は各有機薄膜トランジスタ11のゲートバスラインであり、8は各有機薄膜トランジスタ11のソースバスラインである。各有機薄膜トランジスタ11のソース電極には、出力素子12が接続され、この出力12は例えば液晶、電気泳動素子等であり、表示装置における画素を構成する。画素電極は光センサの入力電極として用いてもよい。図示の例では、出力素子として液晶が、抵抗とコンデンサからなる等価回路で示されている。13は蓄積コンデンサ、14は垂直駆動回路、15は水平駆動回路である。
【0102】
有機薄膜トランジスタの性能としては、その用途に応じて必要とされる性能は変化するが、例えば電子ペーパーのような用途においては、キャリア移動度は0.01(1.0×10-2)〜1.0cm2/Vsecの範囲であることが好ましく、ON/OFF比としては1.0×105〜1.0×107の範囲であることが好ましい。このような範囲とすることで十分な速度でディスプレイを駆動することができ、またディスプレイに良好な階調を付与することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
実施例1
《有機薄膜トランジスタ1の作製》
ゲート電極としての比抵抗0.01Ω・cmのSiウェハーに、厚さ200nmの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、オクタデシルトリクロロシランによる表面処理を行った。
【0105】
このような表面処理を行ったSiウェハー上に、比較化合物1(ペンタセン、アルドリッチ社製、市販試薬を昇華精製して用いた)を、窒素雰囲気下で窒素を30分間バブリングしたトルエンに対して0.5質量%の濃度となるように添加し、窒素雰囲気下でスピンコート塗布(回転数2500rpm、15秒)し、自然乾燥することによりキャスト膜を形成して、窒素雰囲気下で50℃、30分間の熱処理を施した。
【0106】
さらに、この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着してソース電極及びドレイン電極を形成した。ソース電極及びドレイン電極は幅100μm、厚さ200nmで、チャネル幅W=3mm、チャネル長L=20μmの有機薄膜トランジスタ1を作製した。
【0107】
《有機薄膜トランジスタ2の作製》
比較化合物2(2,3,9,10−テトラヘキシルペンタセン)は、Organic Letters、vol.2(2000),p85に記載の方法で合成した。
【0108】
有機薄膜トランジスタ1の作製において、比較化合物1を比較化合物2に変更した以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ2を作製した。
【0109】
《有機薄膜トランジスタ3の作製》
比較化合物3は、J.Am.Chem.Soc.,vol.123(2001),p9482,supporting informationに記載の方法で合成した。
【0110】
有機薄膜トランジスタ1の作製において、比較化合物1を比較化合物3に変更した以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ3を作製した。
【0111】
《有機薄膜トランジスタ4の作製》
比較化合物4は、前記非特許文献6,supporting informationに記載の方法で合成した。
【0112】
有機薄膜トランジスタ1の作製において、比較化合物1を比較化合物4に変更した以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ4を作製した。
【0113】
《有機薄膜トランジスタ5の作製》
比較化合物5は、前記非特許文献7に記載の方法で合成した。
【0114】
有機薄膜トランジスタ1の作製において、比較化合物1を比較化合物5に変更し、さらに熱処理(エネルギーの印加)条件を100℃で1分間、次いで150℃で30分間に変更し、4価の白金のオルトメタル化錯体を還元的脱離反応により2価の白金のオルトメタル化錯体に変換した以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ5を作製した。
【0115】
《有機薄膜トランジスタ6〜10の作製》
有機薄膜トランジスタ5の作製において、比較化合物5の代わりに、表1に記載の本発明に係る有機半導体材料に変更した以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ6〜10を作製した。
【0116】
【化14】

【0117】
《キャリア移動度及びON/OFF比の評価》
得られた有機薄膜トランジスタ1〜10について、各素子のキャリア移動度とON/OFF比を、素子作成直後に測定した。なお、本発明では、I−V特性の飽和領域からキャリア移動度を求め、さらに、ドレインバイアス−50Vとし、ゲートバイアス−50V及び0Vにしたときのドレイン電流値の比率からON/OFF比を求めた。
【0118】
また同様の評価を、各素子を40℃90%RHの環境室に48時間投入した後、キャリア移動度及びON/OFF比の再測定を行った。
【0119】
得られた結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1の結果から、比較化合物1は、溶解性が低く、塗布によって膜を作ることができず、有機薄膜トランジスタ1はトランジスタとしての駆動を確認できなかった。
【0122】
また比較化合物2は、比較化合物1に比べて溶解性が向上し、塗布膜を形成することができ、有機薄膜トランジスタ2、5はトランジスタとしての駆動を確認することができたが、耐久試験の後では大きく性能が劣化する、耐久性の低いトランジスタであることが分かる。
【0123】
有機薄膜トランジスタ3、4では、塗布製膜直後は十分なTFT性能を示したが、耐久試験後では移動度は10-3台、ON/OFF比も104台と、ディスプレイの駆動が可能な値まで保持されていない。
【0124】
他方、本発明に係る有機半導体材料を用いて、エネルギーの印加により4価の白金のオルトメタル化錯体を還元的脱離反応により2価の白金のオルトメタル化錯体に変換して作製した有機薄膜トランジスタ6〜10では、作製直後においてキャリア移動度、ON/OFF比ともに優れた特性を示し、かつ、耐久試験後においても移動度が10-2台以上、ON/OFF比も105台以上であり、経時劣化が少なく高い耐久性を併せ持つということが分かる。
【0125】
本発明の有機薄膜トランジスタの中でも、有機薄膜トランジスタ9では、耐久試験後においても移動度が10-1台と非常に優れた耐久性を有しており、半導体特性と安定性を兼ね備えた有機薄膜トランジスタが得られることが分かる。
【0126】
実施例2
《有機EL素子の作製》
有機EL素子の作製は、Nature,395巻,151〜154頁に記載の方法を参考にして、図3に示したような封止構造を有するトップエミッション型の有機EL素子を作製した。なお、図3において、101は基板、102aは陽極、102bは有機EL層(具体的には、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等が含まれる)、102cは陰極を示し、陽極102a、有機EL層102b、陰極102cにより、発光素子102が形成されている。103は封止膜を示す。なお、本発明の有機EL素子は、ボトムエミッション型でもトップエミッション型のどちらでもよい。
【0127】
本発明の有機EL素子と本発明の有機薄膜トランジスタ(ここで、本発明の有機薄膜トランジスタは、スイッチングトランジスタや駆動トランジスタ等として用いられる)を組み合わせて、アクティブマトリクス型の発光素子を作製したが、その場合は、例えば、図4に示すように、ガラス基板601上にTFT602(有機薄膜トランジスタ602でもよい)が形成されている基板を用いる態様が一例として挙げられる。ここで、TFT602の作製方法は公知のTFTの作製方法が参照できる。もちろん、TFTとしては、従来公知のトップゲート型TFTであってもボトムゲート型TFTであっても構わない。
【0128】
上記で作製した有機EL素子は、単色、フルカラー、白色等の種々の発光形態において、良好な発光特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明に係る有機TFTの構成例を示す図である。
【図2】本発明の有機TFTの概略等価回路図の1例である。
【図3】封止構造を有する有機EL素子の一例を示す模式図である。
【図4】有機EL素子に用いる、TFTを有する基板の一例を示す模式図であ
【符号の説明】
【0130】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 絶縁層
6 支持体
7 ゲートバスライン
8 ソースバスライン
10 有機薄膜トランジスタシート
11 有機薄膜トランジスタ
12 出力素子
13 蓄積コンデンサ
14 垂直駆動回路
15 水平駆動回路
101 基板
102 有機EL素子
102a 陽極
102b 有機EL層
102c 陰極
103 封止膜
601 ガラス基板
602 TFT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4価の白金のオルトメタル化錯体を還元的脱離反応することによって得られた、2価の白金のオルトメタル化錯体を含有する有機半導体層を有することを特徴とする有機半導体素子。
【請求項2】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体素子。
【化1】

(式中、Z1、Z2は置換または無置換の芳香族環を表し、置換基はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよい。X1、X2はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、かつZ1、Z2が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。A1は炭素原子または窒素原子を表す。)
【請求項3】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、配位子に3環以上が縮合した縮合多環構造を有する4価の白金のオルトメタル化錯体を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(2)で表される化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機半導体素子。
【化2】

(式中、Z3〜Z5は置換または無置換の芳香族環を表す。X3、X4はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、Z3〜Z5が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。)
【請求項5】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(1)及び(2)においてX1〜X4で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子が、ともに下記一般式(3)で表される配位子である化合物を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の有機半導体素子。
【化3】

(式中、A2は炭素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子を表し、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基から選ばれる置換基を表す。)
【請求項6】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(3)においてA2で表される原子が酸素原子である化合物を用いることを特徴とする請求項5に記載の有機半導体素子。
【請求項7】
4価の白金のオルトメタル化錯体を含有する薄膜に、エネルギーを印加することによって2価の白金のオルトメタル化錯体を主成分とする薄膜に変換することを特徴とする有機半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(4)で表される化合物を用いることを特徴とする請求項7に記載の有機半導体素子の製造方法。
【化4】

(式中、Z1、Z2は置換または無置換の芳香族環を表し、置換基はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよい。X1、X2はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、かつZ1、Z2が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。A1は炭素原子または窒素原子を表す。)
【請求項9】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、配位子に3環以上が縮合した縮合多環構造を有する4価の白金のオルトメタル化錯体を用いることを特徴とする請求項7または8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、下記一般式(5)で表される化合物を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【化5】

(式中、Z3〜Z5は置換または無置換の芳香族環を表す。X3、X4はマイナス1価のアニオン性単座配位子を表し、Z3〜Z5が形成する平面とは同じ平面に存在しない配位子である。)
【請求項11】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(4)及び(5)においてX1〜X4で表されるマイナス1価のアニオン性単座配位子が、ともに下記一般式(6)で表される配位子である化合物を用いることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【化6】

(式中、A2は炭素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子を表し、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシリル基、(アルキルシリル)アルキル基から選ばれる置換基を表す。)
【請求項12】
前記4価の白金のオルトメタル化錯体として、前記一般式(6)においてA2で表される原子が酸素原子である化合物を用いることを特徴とする請求項11に記載の有機半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−207968(P2007−207968A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24294(P2006−24294)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】