説明

有機半導体装置、検出装置および検出方法

【課題】高機能化、高感度化が可能な有機半導体装置、検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、有機半導体からなる活性層20と、活性層20にキャリアを注入するソース電極16と、活性層20からキャリアを受けるドレイン電極18と、活性層20の一面に設けられ、キャリアの伝導を制御するゲート電極12と、活性層20の前記一面と反対の面のソース電極16とドレイン電極18との間の領域の少なくとも一部上に設けられ、ターゲット分子に対し感応性を有する感応膜22と、を具備する有機半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体装置、検出装置および検出方法に関し、特に、有機半導体からなる活性層上にターゲット分子に感応性を有する感応膜を備えた有機半導体装置、検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体からなる活性層を有する有機半導体装置が開発されている。非特許文献1には、表面をシラン化合物で装飾した有機半導体層上に2つの電極を設けセンサとして用いることが提案されている。このセンサにおいては、シラン化合物に検知対象のターゲット分子が吸着した際の活性層の導電率の変化を2つの電極で検知する。これにより、ターゲット分子を検知することができる。
【非特許文献1】Nature Materials Vol.7 (2008) pp84-89
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非特許文献1に係るセンサにおいては、ターゲット分子を検出する際の情報が少なく、高機能化、高感度化が難しいという課題がある。本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高機能化、高感度化が可能な有機半導体装置、検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、有機半導体からなる活性層と、前記活性層にキャリアを注入するソース電極と、前記活性層からキャリアを受けるドレイン電極と、前記活性層の一面に設けられ、前記キャリアの伝導を制御するゲート電極と、前記活性層の前記一面と反対の面の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域の少なくとも一部上に設けられ、ターゲット分子に対し感応性を有する感応膜と、を具備することを特徴とする有機半導体装置である。本発明によれば、ターゲット分子が感応膜に吸着または結合することにより有機半導体装置の特性が変化する。これにより、ターゲート分子の有無または濃度を検出することができる。また、ゲート電極に電圧を印加することにより、ターゲット分子検出の高機能化、高感度化が可能となる。
【0005】
上記構成において、前記感応膜は、有機シラン化合物、ホスホン酸およびカルボン酸から選択された膜である構成とすることができる。この構成によれば、ターゲット分子を高感度に検出することができる。
【0006】
上記構成において、前記感応膜の膜厚は10nm以下である構成とすることができる。この構成によれば、ターゲット分子を高感度に検出することができる。
【0007】
上記構成において、前記活性層の膜厚は2μm以下である構成とすることができる。この構成によれば、ターゲット分子を高感度に検出することができる。
【0008】
本発明は、上記有機半導体装置と、前記有機半導体装置の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流に基づき、前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする検出装置である。
【0009】
本発明は、上記有機半導体装置と、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧に対する前記感応膜の前記ターゲット分子に対する感応性の遅れに基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする検出装置である。
【0010】
本発明は、上記有機半導体装置と、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧を正から負に変化させた場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、前記ゲート電圧を負から正に変化させた場合の前記ドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、の差に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする検出装置である。
【0011】
本発明は、上記有機半導体装置と、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に交流電圧を印加した場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のインピーダンスの虚成分に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする検出装置である。
【0012】
上記検出装置において、前記検出手段は、前記ゲート電極に印加するゲート電圧を制御することにより、前記感応膜への前記ターゲット分子の吸脱着を制御する構成とすることができる。
【0013】
本発明は、上記有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、前記有機半導体装置の前記ソース電極と前記ドレインとの間を流れるドレイン電流に基づき、前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法である。
【0014】
本発明は、上記有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧に対する前記感応膜の前記ターゲット分子に対する感応性の遅れに基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法である。
【0015】
本発明は、上記有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧を正から負に変化させた場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、前記ゲート電圧を負から正に変化させた場合の前記ドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、の差に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法である。
【0016】
本発明は、上記有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、前記有機半導体装置の前記ゲート電極に交流電圧を印加した場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のインピーダンスの虚成分に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法である。
【0017】
上記検出方法において、前記ゲート電極に印加するゲート電圧を制御することにより、前記感応膜への前記ターゲット分子の吸脱着を制御するステップを有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ターゲット分子が感応膜に吸着または結合することにより有機半導体装置の特性が変化する。これにより、ターゲート分子の有無または濃度を検出することができる。また、ゲート電極に電圧を印加することにより、ターゲット分子検出の高機能化、高感度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態の断面を示す図である。図1のように、本実施形態に係る有機半導体装置は、基板10上にゲート電極12が設けられている。ゲート電極12上にゲート絶縁膜14が設けられている。ゲート絶縁膜14上にはソース電極16およびドレイン電極18が設けられている。ソース電極16とドレイン電極18との間のゲート絶縁膜14上に有機半導体からなる活性層20が設けられている。活性層20上のソース電極16とドレイン電極18との間の領域の少なくとも一部上に感応膜22が設けられている。
【0020】
本実施形態によれば、ソース電極16は活性層20に電子またはホール等のキャリアを注入する。ドレイン電極18は、活性層20を伝導したキャリアを受ける。ゲート電極12は、活性層20の一面にゲート絶縁膜14を介して設けられ、活性層20内のキャリアの伝導を制御する。感応膜22は活性層20上に設けられており、ターゲット分子に対し感応性を有している。よって、ターゲット分子が感応膜22に吸着または結合すると感応膜22の分極が変化し、活性層の特性に変化をもたらす。これにより、ソース電極16とドレイン電極18間のキャリアの伝導が変化する。よって、ソース電極16とドレイン電極18との間の電気的特性を測定することにより、ターゲート分子の有無または濃度を検出することができる。このとき、ゲート電極12に電圧等を印加することにより、ターゲート分子の有無または濃度を高感度に検出することが可能となる。また、ターゲット分子の感応膜22への吸脱着を制御することができ、有機半導体装置を高機能化することができる。
【0021】
感応膜22は、活性層20内のキャリアの伝導に影響するため、活性層20の上面のソース電極16とドレイン電極18との間の領域の少なくとも一部上に設けられていればよい。また、ターゲット分子が感応膜22に吸着または結合した際の影響が活性層20に伝わりやすくするため、感応膜22の膜厚は、10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。さらに、2nm以下であることがより好ましい。これにより、ターゲート分子の検出を高感度化できる。膜厚を薄くするため、感応膜22は、例えば自己組織化単分子膜であることが好ましい。これにより、単分子相当の厚みの薄い感応膜を形成することが可能となり、かつ、緻密で強固な感応膜を形成することができる。
【0022】
感応膜22としては、例えば、R(CHSiR3−n(mは自然数、nは0、1または2)の一般式で表される有機シラン化合物を用いることができる。Rは、例えば、水素(−H)、メチル基(−CH)、トリフルオロメチル基(−CF)、アミノ基(−NH)、メルカプト基(−SH)等を用いることができる。Rは、例えば、メチル基(−CH)等を用いることができる。Xはアルコキシ基(−OR(Rはアルキル基))、クロル基(−Cl)等を用いることができる。また、感応膜22として、例えば、R−P(=O)(OH)の一般式で知られるホスホン酸、R−COOHの一般式で知られるカルボン酸を用いることができる。ここで、Rは有機基である。
【0023】
活性層20に用いられる有機半導体としては、アセン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポルフィリン系化合物、フタロシアニン系化合物などを用いることができる。活性層20の膜厚は、単結晶の有機半導体を用いた場合、好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。活性層20を薄くすることにより、感応膜22にターゲット分子が付着した際、活性層20に変化が伝わりやすく、ターゲット分子の検出をより高感度化できる。
【0024】
図2(a)から図2(d)は、本実施形態の製造方法を示す図である。図2(a)から図2(d)では、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アンチモン(Sb)等を不純物として添加したP型またはN型シリコン基板をゲート電極12として用いている。図1の基板10として、例えば、単結晶シリコン基板、ガラス基板、石英基板、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルスルフォンまたはポリカーボネート等のプラスチック基板等の絶縁性基板を用い、基板10上に金属等の導電膜からなるゲート電極12を形成してもよい。
【0025】
図2(a)を参照に、基板からなるゲート電極12上にゲート絶縁膜14を形成する。ゲート絶縁膜14は、ゲート電極12と活性層20との間の障壁となる膜である。ゲート絶縁膜14としては、二酸化シリコン(SiO)やアルミナ(Al)等の絶縁性の膜を用いることができる。ゲート絶縁膜14の形成方法としては、熱酸化法によりシリコン基板表面を酸化させ形成してもよいし、スパッタリング法、化学的気相成長(CVD)法または真空成膜法を用いることもできる。ゲート絶縁膜14の膜厚は例えば100〜800nmとすることができる。
【0026】
図2(b)を参照に、ゲート絶縁膜14上に真空成膜法を用い導電性の薄膜を形成する。リソグラフィ法を用い、1対のソース電極16およびドレイン電極18を形成する。ソース電極16およびドレイン電極18としては、例えば金属電極、金属酸化物電極または炭素電極を用いることができる。例えば、活性層20としてルブレン(C4228)を用いた場合、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、インジウム−スズ酸化物(ITO)等を用いることができる。ソース電極16およびドレイン電極18の膜厚は、例えば、50〜300nmである。
【0027】
図2(c)を参照に、ゲート絶縁膜14上に、ソース電極16およびドレイン電極18と接触する有機半導体からなる活性層20を形成する。活性層20としては、例えば、ルブレン(C4228)、ペンタセンやオリゴチオフェン等の有機低分子、ポリチオフェン等の有機高分子、フタロシアニン等の金属錯体、C60、C70、 金属内包フラーレン等のフラーレン類、及びカーボンナノチューブ類の群から選択される少なくとも1種を利用することでき、単結晶であることが好ましい。活性層20の形成方法としては、予め、別の手法により作製した有機半導体単結晶をゲート絶縁膜14上に貼り合わせるラミネート法を利用することができる。また、液相または気相中で有機半導体単結晶を直接ゲート絶縁膜14上に成長させることもできる。
【0028】
図2(d)を参照に、活性層20上に感応膜22を形成する。感応膜22の形成は、例えば活性層20の表面をオゾン処理等の活性化処理を施し、感応膜22を形成する材料が活性層20の表面に化学的に吸着するようにしてもよい。また、感応膜22を形成した後、エタノールや2−プロパノール等のアルコール類、超純水等を用いてリンスを行なうことにより、不要な吸着物を除去してもよい。
【0029】
以下、本実施形態に係る実施例について説明する。
【実施例1】
【0030】
実施例1は、有機半導体装置の例である。図3(a)から図3(c)に示すサンプルA〜Cを作製した。サンプルCが実施例1に係る有機半導体装置に相当する。サンプルA〜Cにおいては、ゲート電極12としてリン(P)を添加したシリコン基板、ゲート絶縁膜14として膜厚が500nmの二酸化シリコン膜、ソース電極16およびドレイン電極18として金(Au)膜、活性層20としてラミネート法を用い形成された膜厚が約1μmの単結晶ルブレン膜を用いた。図3(a)を参照に、サンプルAは、活性層20上に感応膜が形成されていない。図3(b)を参照に、サンプルBは、サンプルAと比較しゲート絶縁膜14と活性層20との間に、膜厚が約15nmの弗素系自己組織化単分子膜(F−SAM)24が形成されている。図3(c)を参照に、サンプルCは、サンプルAと比較し活性層20上に、パーフルオロオクチルトリクロロシラン(CF(CF(CHSiCl)からなるシラン化合物の感応膜22が気相中で形成されている。
【0031】
図4は、有機半導体装置の特性を測定する際の測定方法を示す図である。図4のように、ソース電極16を接地する。グランドに対しゲート電極12にゲート電圧Vを印加し、ゲート電流Iを測定する。グランドに対しドレイン電極18にドレイン電圧Vを印加し、ドレイン電流Iを測定する。有機半導体装置は、測定ボックス32に配置される。バルブ34を開放することにより、測定ボックス32内にアセトン蒸気や窒素ガスを導入することができる。バルブ36を開放することにより、測定ボックス32内を排気することができる。以下のアセトンを検出する測定は、以下の方法により行なった。まず、有機半導体装置を測定ボックス32内に配置する。測定ボックス32内の空気を排気し、窒素ガスでパージする。これを数回行なう。測定ボックス32内にアセトン蒸気を10秒間導入する。このように、アセトン蒸気内でのサンプルA〜Cの測定を行なった。
【0032】
図5(a)から図5(c)は、アセトン蒸気中でサンプルA〜Cのゲート電圧V−ドレイン電流I特性を測定した結果である。まず、ドレイン電圧Vを−1Vとし、ゲート電圧Vを0Vから約15Vまで掃引する。その後、ゲート電圧Vを15Vから−10Vまで掃引する。さらにゲート電圧Vを−10Vから0Vに掃引する。図中黒丸が測定点である。約数十秒で1周期の掃引を行なっている。
【0033】
図5(a)を参照に、サンプルAでは、ゲート電極12に負のゲート電圧Vを印加すると活性層20にチャネルが形成されドレイン電流Iが流れる。ゲート電圧V掃引によるドレイン電流Iヒステリシスはほとんど観察されない。図5(b)を参照に、サンプルBでは、ゲート電圧Vを正から負に掃引し活性層20にチャネルが形成された直後のドレイン電流Iの立ち上がりが大きい。これは、サンプルBの伝達特性が改善していることを示している。しかし、サンプルAと同様に、ゲート電圧Vの掃引によるドレイン電流Iヒステリシスはほとんど観察されない。図5(c)を参照に、サンプルCでは、ドレイン電流Iの立ち上がり領域でゲート電圧Vの掃引によるドレイン電流Iヒステリシスが観察される。このように、活性層20上に感応膜22を設けることでゲート電圧Vの掃引によるドレイン電流Iヒステリシスが観察された。このような、ヒステリシスは本発明者がはじめて発見した現象である。ここで、ヒステリシスの最も大きいゲート電圧Vの電圧差を電圧差ΔVとする。
【0034】
次に、実施例1の別の例として図6に示すサンプルDを作製した。サンプルDは、サンプルCと比較しゲート絶縁膜14と活性層20との間に、膜厚が約15nmの弗素系自己組織化単分子膜(F−SAM)24が形成されている。図7は、サンプルDを測定ボックス32内に配置し、時間経過と共に電圧差ΔVを測定した結果を示す図である。図中黒丸は測定した値を示している。時間T1までは、測定ボックス32にアセトン蒸気を導入していない。時間T1で10秒間アセトン蒸気を導入する。時間T2でアセトン蒸気を排気し窒素でパージする。図7より、測定ボックス32内にアセトン蒸気が充満すると電圧差ΔVが大きくなる。
【0035】
図8(a)から図8(c)は、それぞれ図7の領域a〜cにおけるゲート電圧V−ドレイン電流I特性を測定した結果である。測定方法は図3(a)から図3(c)と同じである。図8(a)および図8(c)より、アセトン蒸気を導入していない場合、ゲート電圧Vの掃引によるドレイン電流Iヒステリシスは観察されない。一方、図8(b)のように、アセトン蒸気を導入すると、図8(a)および図8(c)に比べ同じゲート電圧V(例えば0V)でのドレイン電流Iが小さくなる。さらに、ゲート電圧Vの掃引によるドレイン電流Iヒステリシスが観察される。
【0036】
アセトン蒸気を測定ボックス32に導入することによりドレイン電流Iが変化するのは、アセトン蒸気の導入により感応膜22にターゲット分子が吸着または結合し、活性層20に影響しドレイン電流Iが変化するためと考えられる。そこで、ゲート電圧Vを一定にしドレイン電流Iを測定することで、ターゲット分子の有無や濃度を検出することができる。また、ドレイン電流Iのヒステリシスが生じるのは、感応膜22にターゲット分子であるアセトンが吸着または結合した状態でゲート電極12にゲート電圧Vを印加し活性層20の電位を変化させると、分極の遅れが生じるためと考えられる。このような、分極の遅れは、感応膜22に吸着または結合したターゲット分子の有無や濃度に敏感である。よって、電圧差ΔVを測定することにより、ターゲット分子の有無や濃度をより高感度に検出することができる。
【実施例2】
【0037】
実施例2は、実施例1に係る有機半導体装置を用いたターゲット分子の検出装置の例である。図9は実施例2に係る検出装置の模式図である。図9を参照に、ゲート電極12、ソース電極16およびドレイン電極18に検出手段30が接続されている。検出手段30は、例えば図4のような電圧印加器、電流測定器およびそれらを制御する制御装置を備えている。
【0038】
検出手段30は、例えばドレイン電流Iに基づき、ターゲット分子の有無または濃度を検出することができる。例えば、ゲート電圧Vを一定にし、ドレイン電流Iを測定する。これにより、ターゲット分子の有無や濃度を検出することができる。
【0039】
また、検出手段30は、ゲート電圧Vに対する感応膜22のターゲット分子に対する感応性の遅れに基づきターゲット分子の有無または濃度を検出することができる。前述のように、分極の遅れは、感応膜22に吸着または結合したターゲット分子の有無や濃度に敏感である。よって、ターゲット分子の有無や濃度をより高感度に検出することができる。例えば、検出手段30は、上記感応性の遅れが大きい場合、ターゲット分子が有るまたは濃度が高いと判断し、上記感応性の遅れが小さい場合、ターゲット分子が無いまたは濃度が低いと判断することができる。
【0040】
さらに、検出手段30は、ゲート電圧Vを正から負に変化させた場合のI−V特性(ドレイン電流とゲート電圧との特性)と、ゲート電圧Vを負から正に変化させた場合のI−V特性の差に基づきターゲット分子の有無または濃度を検出することができる。これにより、ゲート電圧Vに対する感応膜22のターゲット分子に対する感応性の遅れを検出することができる。例えば、検出手段30は、上記I−V特性の差が大きい場合、ターゲット分子が有るまたは濃度が高いと判断し、上記I−V特性の差が小さい場合、ターゲット分子が無いまたは濃度が低いと判断することができる。
【0041】
図8(b)のようなヒステリシスは、ドレイン電圧Vを印加した際のソース電極16とドレイン電極18との間のインピーダンスの遅れを示している。つまり、インピーダンスの虚成分に対応する。そこで、検出手段30は、ゲート電極12に交流電圧を印加した場合のソース電極16とドレイン電極18との間のインピーダンスの虚成分に基づきターゲット分子の有無または濃度を検出することができる。これにより、ゲート電圧Vに対する感応膜22のターゲット分子に対する感応性の遅れを簡単に検出することができる。例えば、検出手段30は、上記インピーダンスの虚成分が大きい場合、ターゲット分子が有るまたは濃度が高いと判断し、上記インピーダンスの虚成分が小さい場合、ターゲット分子が無いまたは濃度が低いと判断することができる。
【実施例3】
【0042】
実施例3は、感応膜22へのターゲット分子の吸脱着を行なう検出装置の例である。図10は、サンプルDにおいて、ゲート電圧Vを掃引する期間の間の期間(つまりゲート電圧Vを掃引していない期間)においてゲート電圧Vを一定に保持した場合の時間に対する電圧差ΔVを示した図である。アセトン蒸気を導入していない期間(時間T1の前および時間T2の後)は、ゲート電圧Vを正に保持する。アセトン蒸気を導入している期間(時間T1とT2の間)は、ゲート電圧Vを負に保持する。図10のように、アセトン蒸気を導入している期間にゲート電圧Vを負に保持すると電圧差ΔVが大きくなっている。これは、負のゲート電圧Vを印加することにより、感応膜22にターゲット分子がより吸着または結合しているためと考えられる。
【0043】
次に、感応膜22からのターゲット分子の脱離について説明する。図11(a)および図12(a)は、アセトン蒸気中でのドレイン電流Iのヒステリシス特性を示している。図11(b)は、ゲート電圧Vとして正の電圧(+5V)を印加した状態で測定ボックス32の排気および窒素ガスパージを行なって4分後のヒステリシス特性、図11(c)は、12分後のヒステリシス特性である。一方。図12(b)は、ゲート電圧Vとして負の電圧(−5V)を印加した状態で測定ボックス32の排気および窒素ガスパージを行なって4分後のヒステリシス特性、図12(c)は、12分後のヒステリシス特性である。
【0044】
図11(c)および図12(c)では、ドレイン電流Iのヒステリシスはほとんど観察されない。このことは、測定ボックス32の排気および窒素ガスパージを行なって12分後には、感応膜22に吸着または結合していたターゲット分子が脱離したことを示している。一方、図11(b)は図12(b)より電圧差ΔVが小さい。このことは、測定ボックス32の排気および窒素ガスパージを行なって4分後には、正のゲート電圧を印加した場合、感応膜22からターゲット分子が脱離している。負のゲート電圧を印加した場合、感応膜22からのターゲット分子の脱離は不十分であることを示している。つまり、正のゲート電圧Vを印加すると感応膜22からのターゲット分子の脱離を促進できることを示している。このように、ゲート電圧Vを印加することにより、感応膜22へのターゲット分子の吸着および脱離の制御が可能となる。以上のように、図9の検出手段30は、ゲート電圧Vを制御することにより、感応膜22へのターゲット分子の吸脱着を制御することができる。
【実施例4】
【0045】
実施例4は、感応膜としてホスホン酸を用いた例である。実施例4では、図6で示した実施例1の感応膜22として、有機シラン化合物の代わりにn−オクタデシルホスホン酸(CH(CH17P(=O)(OH))からなるホスホン酸を用いた。ホスホン酸は液相中で形成した。図13は、実施例4に係る有機半導体装置の時間に対する電圧差ΔVを示した図である。図7と同様に、時間T1で測定ボックス21内にアセトン蒸気を導入し、時間T2で測定ボックス32の排気と窒素ガスパージを行なった。図14(a)から図14(c)は、それぞれ図13の領域a〜cにおけるドレイン電流Iのヒステリシスを示している。図13、図14(a)および図14(c)を参照に、アセトン蒸気を導入していない期間(時間T1の前および時間T2の後)においては、電圧差ΔVは小さい。一方、図13および図14(b)を参照に、アセトン蒸気を導入している期間(時間T1とT2との間)においては電圧差ΔVが大きい。以上のように、感応膜22として、ホルホン酸を用いることができる。さらに、ホルホン酸と同様のターゲット分子の感応性を有するカルボン酸を感応膜22に用いることもできる。
【0046】
実施例1〜実施例4においては、ターゲット分子としてアセトンを例に測定を行なったが、ターゲット分子は感応膜22が感応する化学物質であればよい。
【0047】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る有機半導体装置の断面模式図である。
【図2】図2(a)から図2(d)は、本発明の実施形態に係る有機半導体装置の製造方法を示す図である。
【図3】図3(a)から図3(c)は、それぞれサンプルA〜Cの断面模式図である。
【図4】図4は、測定システムを示す図である。
【図5】図5(a)から図5(c)は、それぞれサンプルA〜Cのドレイン電流のヒステリシス特性を測定した図である。
【図6】図6は、サンプルDの断面模式図である。
【図7】図7は、サンプルDの時間に対する電圧差ΔVを示す図である。
【図8】図8(a)から図8(c)は、それぞれ図7の領域a〜cのドレイン電流のヒステリシス特性を測定した図である。
【図9】図9は、実施例2を示す図である。
【図10】図10は、実施例3における時間に対する電圧差ΔVを示す図である。
【図11】図11(a)は、アセトン蒸気中でのドレイン電流のヒステリシス特性、図11(b)および図11(c)は、それぞれゲート電圧Vとして+5Vを印加した状態で測定ボックスの排気および窒素ガスパージを行なって4分後、12分後のヒステリシス特性である。
【図12】図12(a)は、アセトン蒸気中でのドレイン電流のヒステリシス特性、図12(b)および図12(c)は、それぞれゲート電圧Vとして−5Vを印加した状態で測定ボックスの排気および窒素ガスパージを行なって4分後、12分後のヒステリシス特性である。
【図13】図13は、実施例4における時間に対する電圧差ΔVを示す図である。
【図14】図14(a)から図14(c)は、それぞれ図13の領域a〜cのドレイン電流ヒステリシス特性を測定した図である。
【符号の説明】
【0049】
10 基板
12 ゲート電極
14 ゲート絶縁膜
16 ソース電極
18 ドレイン電極
20 活性層
22 感応膜
30 検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体からなる活性層と、
前記活性層にキャリアを注入するソース電極と、
前記活性層から前記キャリアを受けるドレイン電極と、
前記活性層の一面に設けられ、前記キャリアの伝導を制御するゲート電極と、
前記活性層の前記一面と反対の面の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域の少なくとも一部上に設けられ、ターゲット分子に対し感応性を有する感応膜と、を具備することを特徴とする有機半導体装置。
【請求項2】
前記感応膜は、有機シラン化合物、ホスホン酸およびカルボン酸から選択された膜であることを特徴とする請求項1記載の有機半導体装置。
【請求項3】
前記感応膜の膜厚は10nm以下であることを特徴と請求項1または2記載の有機半導体装置。
【請求項4】
前記活性層の膜厚は2μm以下であることを特徴と請求項1から3のいずれか一項記載の有機半導体装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置と、
前記有機半導体装置の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流に基づき、前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、
を具備することを特徴とする検出装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置と、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧に対する前記感応膜の前記ターゲット分子に対する感応性の遅れに基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、
を具備することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置と、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧を正から負に変化させた場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、前記ゲート電圧を負から正に変化させた場合の前記ドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、の差に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、
を具備することを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置と、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に交流電圧を印加した場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のインピーダンスの虚成分に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出する検出手段と、
を具備することを特徴とする検出装置。
【請求項9】
前記検出手段は、前記ゲート電極に印加するゲート電圧を制御することにより、前記感応膜への前記ターゲット分子の吸脱着を制御する請求項5から8のいずれか一項6記載の検出装置。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、
前記有機半導体装置の前記ソース電極と前記ドレインとの間を流れるドレイン電流に基づき、前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加されるゲート電圧に対する前記感応膜の前記ターゲット分子に対する感応性の遅れに基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に印加したゲート電圧を正から負に変化させた場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れるドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、前記ゲート電圧を負から正に変化させた場合の前記ドレイン電流と前記ゲート電圧との特性と、の差に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか一項記載の有機半導体装置を用いた前記ターゲット分子の検出方法であって、
前記有機半導体装置の前記ゲート電極に交流電圧を印加した場合の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のインピーダンスの虚成分に基づき前記ターゲット分子の有無または濃度を検出するステップを有することを特徴とする検出方法。
【請求項14】
前記ゲート電極に印加するゲート電圧を制御することにより、前記感応膜への前記ターゲット分子の吸脱着を制御するステップを有することを特徴とする請求項10から13のいずれか一項記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−71906(P2010−71906A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241943(P2008−241943)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 日本物理学会 第63回年次大会 主催者名 社団法人 日本物理学会 開催日 平成20年3月25日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】