説明

有機合成装置

【課題】隣接するマグネットに影響されずに低速回転から高速回転までの安定した回転が得られ、個別に回転数の設定が可能であり、容易に、一の反応容器の反応条件を他の反応容器と同一として、同時に設定可能である有機合成装置を提供する。
【解決手段】二以上の反応容器を把持可能な反応容器把持部10と、反応容器把持部10によって把持される反応容器8内の試薬を撹拌する撹拌手段28と、反応容器把持部10によって把持される反応容器8内を加熱する加熱手段26と、加熱手段26及び撹拌手段28を制御する制御手段38と、を備えた有機合成装置において、制御手段30は、前記反応容器把持部10によって把持される反応容器8毎に反応条件を設定可能に構成されており、各反応容器8設定された反応条件は、それぞれ他の反応容器8に設定された反応条件に同期させることが可能に構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器内の試薬を撹拌・加熱することによって、反応容器に収容された試薬の合成を行なう有機合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一度に、同一条件又は異なる条件によって多種類の試薬の合成を行い、その合成された試薬について一斉に検定を行なうものとして、有機合成装置が使用されている。この有機合成装置は、反応容器内の試薬を撹拌・加熱することによって、反応容器内に収容された試薬を合成するものである。例えば、有機合成装置は、図8に示すように、5つの反応容器70を把持可能な反応容器把持部72と、反応容器把持部72に把持された反応容器70内の試薬を撹拌する撹拌部74と、反応容器70の開口に装着され、反応容器70内に試薬を添加可能な試薬添加部76と、を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
従来の有機合成装置において、反応容器把持部72と撹拌部74は、分離することができ、試薬添加部76は、反応容器把持部72に把持された反応容器70の上端の開口に装着するように構成されている。撹拌部74は、反応容器70の下方を加熱するヒータを有する加熱部を備えている。反応容器把持部72は、把持される反応容器70の上方が突出可能な孔が形成されている天板78と、天板78の下方に把持される反応容器70毎に設けられ、反応容器70の底部が挿入可能な挿入孔を有する保持部84と、天板78と保持部84の間に把持される反応容器70毎に設けられ、反応容器70が貫通可能な貫通孔を有する還流用ブロック82と、還流用ブロック82と保持部84を天板78に対して把持する支柱86と、を備えている。撹拌部74のヒータは、反応容器把持部72の各保持部84に整合する位置に設けられている。したがって、加熱部のヒータから保持部84を介して反応容器70の下方に熱が伝わるように構成されている。反応容器70の下方がこの加熱部のヒータによって加熱されると、反応容器70に充填された試薬が蒸発するが、反応容器70の還流用ブロック82の位置で冷やされて結露し、再び液体に戻されるよう構成されている。
【0004】
撹拌部74は、反応容器70内に試薬と共に入れられ、マグネットで構成された回転チップを回転させる回転マグネットを反応容器把持部72によって把持される反応容器70毎に設けており、これら回転マグネットにより反応容器70内の回転チップを回転させることによって、反応容器70内の試薬を撹拌するように構成されている。図9は、これら回転マグネットの駆動構成を示す概念図である。これら回転マグネット88A乃至88Eは、この図9に示すように、モータなどの駆動源に接続された駆動プーリ90と共に一本の駆動ベルト92が張り合わされており、これにより駆動プーリ90に連動して回転するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−137990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように従来の有機合成装置において、撹拌部の回転マグネット88A乃至88Eは、一つのモータによって回転するように構成されているので、反応容器全ての撹拌速度を同じにしなければならないが、反応容器毎に撹拌速度を異ならせるという要請がある。この要請に応えるべく、回転磁力毎にモータを設けることが考えられるが、これらの回転マグネット88A乃至88Eは、把持されている反応容器70毎に並列させて設けられているので、隣接する回転マグネット同士の磁力が互いに影響を与えてしまい、撹拌速度の調整を容易に行なうことができないという問題がある。例えば、低速回転させる場合であっても、隣接するマグネットが高速回転していると、それにつられて高速回転してしまうという問題がある。
【0007】
また、従来の有機合成装置は、一の反応容器の反応温度などの反応条件を他の反応容器と同一とする場合であっても、反応条件を反応容器毎にそれぞれ設定する必要があるので、その設定作業が煩雑であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、隣接するマグネットに影響されずに低速回転から高速回転までの安定した回転が得られ、個別に回転数の設定を容易に行なうことが可能な有機合成装置を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、一の反応容器の反応条件を他の反応容器と同一として設定することを容易に行なうことが可能な有機合成装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、二以上の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、該反応容器把持部によって把持される反応容器と整合するそれぞれの位置に設けられるとともに、磁場の変位により前記把持される反応容器内に試薬とともに収容されるチップを運動させることによって、前記把持される反応容器内の試薬を撹拌する二以上の撹拌手段と、を備えた有機合成装置において、隣接する前記二以上の撹拌手段の一方の磁場の変位が他方の撹拌手段の磁場に影響を与えるのを防止する磁場遮断手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0010】
このように本発明に係る有機合成装置によれば、隣接する撹拌手段の一方の磁場の変位が他方の撹拌手段の磁場に影響を与えることを防止する磁場遮断手段を備えているので、隣接する撹拌手段の磁場の変位による影響を受けることなく、それぞれの撹拌速度を容易に調整することができる。また、本発明に係る有機合成装置において、前記磁場遮断手段は、前記撹拌手段の前記磁場が変位する部分を囲むリング状に形成されていることが好ましい。
【0011】
上記第2の目的を達成するために、本発明は、二以上の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、該反応容器把持部によって把持される反応容器内を加熱する加熱手段と、前記反応容器把持部によって把持される反応容器内の試薬を撹拌する撹拌手段と、少なくとも前記加熱手段及び前記撹拌手段を制御する制御手段と、を備えた有機合成装置であって、前記制御手段は、前記反応容器把持部によって把持される反応容器毎に反応条件を設定可能に構成されており、各反応容器に設定された反応条件は、それぞれ他の反応容器に設定された反応条件に同期させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
このように本発明に係る有機合成装置によれば、各反応容器に設定された反応条件は、それぞれ他の反応容器に設定された反応条件に同期させることが可能に構成されているので、一の反応容器の反応条件を他の反応容器と同一として設定することを容易に行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る有機合成装置によれば、隣接するマグネットに影響されずに低回転から高回転までの安定した回転が得られ、個別に回転数の設定ができ、また、それぞれ他の反応容器に設定された反応条件に同期させることが可能に構成されているので、一の反応容器の反応条件を他の反応容器と同一として設定することを容易に行なうことができる有機合成装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る有機合成装置の分解斜視図及び使用時の正面図である。
【図2】本実施例に係る有機合成装置の撹拌部12の図1に係るA−A’断面図である。
【図3】本実施例に係る有機合成装置の撹拌部12の図2に係るB−B’断面図である。
【図4】図3のC部拡大斜視図である。
【図5】本実施例に係る有機合成装置の機能ブロック図である。
【図6】本実施例に係る有機合成装置の制御例を示す図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る有機合成装置の回転マグネット部の拡大斜視図である。
【図8】従来の有機合成装置を示す正面概念図である。
【図9】従来の有機合成装置の撹拌部の回転マグネットの配置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る有機合成装置の実施例について図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る有機合成装置の使用状態を示す正面概念図である。本実施例に係る有機合成装置は、4つの反応容器8を把持可能な反応容器把持部10と、反応容器把持部10に把持された反応容器8内の試薬を撹拌する撹拌部12と、を備えており、反応容器把持部10と撹拌部12は、分離可能に構成されている。
【0016】
反応容器把持部10は、反応容器8毎に設けられ、反応容器8それぞれに接続される4つの反応容器ホルダー14と、4つの試薬添加部16と、4つの反応容器ホルダー14を支持する枠体18と、を備えている。反応容器ホルダー14は、4つの天板20と、天板20の下方に設けられ、反応容器8内において気化した物質を冷却して再び液体に戻す4つの還流用ブロック22とを備えており、天板20及び還流用ブロック22は、試薬添加部が挿入可能に整合して貫通孔が設けられている。また、天板20の前後の縁には、天板20を枠体18に固定する固定ねじ20aが設けられている。また、枠体18の上面には、枠体18を把持可能とする把持部18a設けられている。
【0017】
撹拌部12は、図1乃至3に示すように、ハウジング24と、そのハウジング24の上面に配置され、各反応容器8の下方を加熱する加熱部26a乃至26dと、各反応容器8に入れられる回転チップを回転させる回転マグネット部28と、反応条件を制御する制御部30(図5参照)と、を備えている。
【0018】
各加熱部26a乃至26dは、反応容器把持部10によって把持される反応容器8毎に設けられており、加熱温度は、後述するようにそれぞれ個別に設定可能に構成されている。また、各加熱部26a乃至26dは、反応容器8が密接した状態で挿入可能な挿入孔を有しており、その挿入孔に挿入された反応容器8を図示しないヒータによって加熱するように構成されている。
【0019】
各回転マグネット部28は、反応容器把持部10によって把持される反応容器8毎に設けられており、円板状の回転盤32と、その回転盤32上の対向する位置に設けられた一対の磁石34、34と、を備えている。これら磁石34、34は、「N」と「S」が互いに逆になるように設けられている。これら各回転盤32の下方には、回転盤32を回転するモータ36a乃至36dが設けられている。各モータ36a乃至36dの本体の上面は、ハウジング24内に設けられた固定板38の底面側に固定されており、各モータ36a乃至36dの軸心は、固定板38に形成された孔を通り、固定板38の上方に位置する回転盤32の中心に接合されている。この固定板38は、ゴム等の弾性部材からなる防振部40を介して、固定板38の4角に設けられた支柱42により支持されている。
【0020】
本実施例において、固定板38上には、回転マグネット部28の外周を囲むようにリング状の磁場遮断部材44が、固定部材46を介して回転マグネット部28毎に設けられている。この磁場遮断部44は、磁気を吸収する材料、例えば鉄などからなり、少なくとも、回転マグネット部28の高さよりも高い高さを有することが好ましい。
【0021】
本実施例において、回転マグネット部28は、従来の有機合成装置と同様に並列させて設けられているが、回転マグネット部28毎に磁場遮断部材44が設けられているので、隣接する他の回転マグネット部28の影響を受けることはない。したがって、各モータ36a乃至36dの駆動により回転マグネット部28を回転させると、試薬と共に各反応容器8に入れられた回転チップは、回転して反応容器8内の溶液を撹拌するが、磁場遮断部材44により、隣接する磁束の影響が遮断されるので、隣接する回転マグネット部28と回転速度を異ならせても、隣接する回転マグネット部28の回転の影響を受けることはなく、安定した回転を提供することができる。
【0022】
制御部30は、図1及び図5に示すように、反応容器把持部10によって把持される反応容器8それぞれの反応条件を制御する第1制御部30a乃至第4制御部30dと、これら第1制御部30a乃至第4制御部30dを制御する第5制御部30eと、を備えている。これら第1制御部30a乃至第4制御部30d及び第5制御部30eの間は、バス48により接続され、信号の送受信が可能に構成されている。第1制御部30aは、制御情報を入力する第1入力部50aと、その入力情報及び温度等の測定情報を表示する第1表示部52aと、その入力情報に基づきモータ44aの回転数を制御する第1回転制御部54aと、加熱部26aの加熱温度を制御する第1温度制御部56aと、第1同期制御部58aと、を備えており、第1入力部50aによって入力された反応条件に基づいて、モータ44aの回転数と加熱部26aの加熱温度を制御するように構成されている。第2制御部30b乃至第4制御部30dは、第1制御部30aと同様に、第2乃至第4入力部50b乃至50dと、第2乃至第4表示部52b乃至52dと、第2乃至第4回転制御部54b乃至54dと、第2乃至第4温度制御部56b乃至56dと、第2乃至第4同期制御部58b乃至58dと、を備えている。第5制御部30eは、第5入力部50eと、第5表示部52eと、同期制御部58eと、を備えている。上記第1乃至第5同期制御部58b乃至58eは、第5入力部50eの入力によって第1乃至第4制御部30a乃至30dのいずれか一つを主制御部として機能させ、その他のいずれかを主制御部の反応条件に同期する副制御部として機能させるように構成されている。ここで、反応条件を同期するとは、第1乃至第4回転制御部54a乃至54dの設定条件と第1乃至第4温度制御部56a乃至56dの設定条件を同一に設定することである。なお、第5制御部30eは、例えば、有機合成装置の外部端子に接続されたパソコン等であってもよい。また、第5制御部30eを省き、第1制御部30a乃至第4制御部30dのみで構成し、第1乃至第4入力部50a乃至50dの入力に基づき、同期可能に機能させるようにしてもよい。
【0023】
次に、上記第1乃至第5同期制御部58a乃至58eによる制御を図6に基づいて説明する。先ず、図6(a)において、第5入力部50eから同期情報を入力し、第1制御部30aを独立して反応条件を設定可能である主制御部(符号、主)として機能するように設定し、第2及び第3制御部30b及び30cの反応条件を主制御部である第1制御部38aの反応条件に同期させる副制御部(符号、副)として機能するように設定する。次に、図6(b)において、第1及び第4入力部50a,50dから第1制御部30aを25℃、第4制御部30dを30℃の一定温度に制御する制御情報を入力すると、図6(c)に示すように、第2及び第3制御部30b,30cは、設定温度を入力されることなく、第1制御部30aの設定温度と同期して25℃に設定される。図6においては、温度設定の同期のみを例示したが、撹拌速度及び反応時間等の同期も同様に設定しても良い。
【0024】
以上、発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、追加、置換等が可能である。例えば、有機合成装置の反応容器把持部10及びそれに対応する第1乃至第4制御部30a乃至30dは4つに限定されることなく、さらに5つ以上であってもよく、数が多くなるほど、使用者は、反応条件を同一に設定する場合、煩雑な設定作業をすることなく、迅速に有機合成装置を使用することが可能になる。また、上述した磁場遮断部材44は、図2〜図4に示される一重構造ではなく、図7に示すような2重構造としても良い。さらに、上記実施例において、磁場遮断部材44は、回転マグネット部28毎に設けたが、隣接する回転マグネット部28からの磁場の影響を遮断すれば良いので、磁場遮断部材44を一つおきに設けても良い。またさらに、磁場遮断部材44は、リング状の構造ではなく、隣接する磁石34間の磁場を遮断する構成であればよく、回転盤32間に設けられた板状の形状とすることも可能である。
【符号の説明】
【0025】
8…反応容器,10…反応容器把持部,12…撹拌部,14…反応容器ホルダー,16…試薬添加部,18…枠体,18a…把持部,20…天板,20a…固定ねじ,22…還流用ブロック,24…ハウジング,26…加熱部,28…回転マグネット部,30…制御部,32…回転盤,34…磁石,36…モータ,38…固定板,40…防振部,42…支柱,44…磁場遮断部材,46…固定部材,48…バス,50…入力部,52…表示部,54…回転制御部,56…温度制御部,58…同期制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二以上の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、
該反応容器把持部によって把持される反応容器内を加熱する加熱手段と、
前記反応容器把持部によって把持される反応容器内の試薬を撹拌する撹拌手段と、
少なくとも前記加熱手段及び前記撹拌手段を制御する制御手段と、を備えた有機合成装置であって、
前記制御手段は、前記反応容器把持部によって把持される反応容器毎に反応条件を設定可能に構成されており、
各反応容器に設定された反応条件は、それぞれ他の反応容器に設定された反応条件に同期させることが可能に構成されていることを特徴とする有機合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−45547(P2012−45547A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254114(P2011−254114)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【分割の表示】特願2005−236895(P2005−236895)の分割
【原出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】