説明

有機固体蛍光物質

【課題】固体状態において非常に明るい有機固体蛍光物質を提供すること。
【解決手段】後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却することで再結晶し、非常に明るい高輝度のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶をうる。該結晶としては、反射度分光法による固体における可視光領域の最大反射率が100%以上、好ましくは120%以上、より好ましくは150%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、塗料、印刷インキ、文具、建材、皮革などを着色する分野、及びエレクトロニクス分野での波長変換デバイスとしての用途分野において用いられる有機固体蛍光顔料や、その成分である固体状態において非常に明るいN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの結晶や、該結晶の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光物質は、樹脂着色、塗料、印刷インキ、波長変換材料など幅広く利用されているが、有機物で固体状態において蛍光を持つものは非常に珍しい。無機物で固体状態において蛍光を持つものは知られているが、無機物は樹脂と混ぜにくく利用しにくいという欠点がある。また、固体蛍光物質は、液状蛍光物質よりも耐光性が良いことから、固体状態で蛍光を持つ有機蛍光物質の開発が望まれている。また、固体として明るいものほど少量でも鮮やかに発色することから、より広い用途が期待でき、より明るい有機固体蛍光物質の開発が望まれている。
【0003】
一方、N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルは公知であり、特許文献1ではカラー複写機によって複写した場合、複写したことが一目瞭然に分かり、偽造することを防止出来る印刷物あるいは複写画像に使用するインキ又はトナーに用いる波長変換色素として記載されている。また、N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの構造は、特許文献2における一般式[1]で示されるシアノピラジン誘導体に含まれているが、それ自体の合成実施例は記載されておらず物性値も示されていない。また、そこに開示されている合成法と同様の手法では本発明である非常に明るい結晶は得られない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−138974号公報
【特許文献2】特開平5−32640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光物質は蛍光顔料としても使用されている。従来の無機蛍光顔料は、蛍光染料を樹脂中に均一に溶解し、固溶体にして粉砕使用している例が多い。この場合、いろいろな処方で他成分と混合して使用するときに濃度の調整が困難である。また、有機蛍光顔料の多くは液体状態において蛍光を有している。液体状態では樹脂と相溶性が良い反面、耐光性が悪いという欠点を持つことが多い。固体蛍光物質は、液状蛍光物質よりも耐光性が良いことから、固体状態で蛍光を持つ有機蛍光物質の開発が望まれている。また、固体として明るいものほど少量でも鮮やかに発色することから、より広い用途が期待でき、より明るい有機固体蛍光物質の開発が望まれている。本発明の課題は、固体状態において非常に明るい高輝度の有機固体蛍光物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来、N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて攪拌・反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた固形状のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの粗結晶を、モノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却して再結晶させ、析出した暗赤色の固体を濾取して加熱乾燥し、N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを98%の純度で暗赤色の結晶として得ていた。モノクロルベンゼンで再結晶を行うと98%という高純度のものが得られ、再結晶操作に使用する量も少なくて済む反面、モノクロルベンゼンの除去が困難であるという欠点があるため、再結晶溶媒及び後処理法の検討を行った。
【0007】
シアノピラジン誘導体は対称形であるため一般に各種溶媒への溶解度が低い。N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルも各種溶媒に対する溶解度が低く、塩化メチレン、イソプロパノール、エタノール及びメタノール溶媒では溶けにくく上手く再結晶ができない。上記従来の工程におけるモノクロルベンゼンに代わる条件について種々検討を行ったところ、メチルイソブチルケトンを用いると、結晶の溶解性、再結晶の析出量及び溶媒除去の容易さの面で再結晶溶媒として好適であることがわかった。さらに予想していなかったこととして、モノクロルベンゼンからの再結晶で得られた暗赤色の結晶は高純度であることから固有の色であると考えられていたが、メチルイソブチルケトンからの再結晶で得られた結晶のほうが、固体状態で少し明るい赤色蛍光を持つことがわかった。
【0008】
結晶形が異なると、異なる色を示す例は多々あるが、モノクロルベンゼンとメチルイソブチルケトン溶媒による再結晶で得られた結晶をNMR及び粉末X線結晶回折を測定したところ、元の暗赤色の結晶と同一構造、同一結晶形であるというデータが得られ、結晶多形による色の違いではないと判断された。
【0009】
そこで、メチルイソブチルケトン以外の多くの他の溶媒を用いる再結晶につき検討したところ、モノクロルベンゼンに代えてクロロホルムを用いた場合、前記粗結晶はクロロホルムに加熱溶解し難いことがわかった。念のため、モノクロルベンゼンで再結晶させた暗赤色の結晶をクロロホルムに加熱溶解し、冷却により再結晶したところ、明るい赤色蛍光を持つN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの結晶が得られた。この明るい赤色蛍光を持つ結晶についても、粉末X線解析を行ったところ、前記暗赤色の結晶とほぼ同じデータが得られた(図1参照)。そこで、暗赤色の結晶と明るい赤色蛍光を持つ結晶について顕微鏡で1000倍に拡大して観察したところ、明るい赤色蛍光を持つ結晶の粒子径は少し小さく表面が平滑であったのに対し、暗赤色の結晶の粒子径は少し大きく更に表面に小さな結晶が付着していることが認められた(図2参照)。表面状態をも含め、なぜ明るい赤色蛍光を持つ結晶に変わったのか理由は明らかになっていないが、表面状態及び単結晶の集合状態の違いが明るさの違いの原因となっている可能性があると考えられる。
【0010】
その後、晶析のための冷却条件等を検討することにより、明るさが増したN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの結晶が得られることを見い出した。その他、N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルはクロロホルムに加熱溶解し難い上に、加熱溶解した後に冷却しても析出しがたいことがわかったので、前記暗赤色の結晶をクロロホルムに加熱溶解し、イソプロパノールを加えて、冷却により再結晶することにより、明るさの点で多少低下するが、収率が向上することを見い出した。
【0011】
赤色蛍光を持つ結晶の明るさを、定量的に評価するため、安息角、スパチュウラ角、表面形状及び粒度分布も定量的指標となり得ないが、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が最適であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%以上であることを特徴とする構造式[I]:
【化1】

[I]
で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶や、(2)波長600〜700nmの領域において、最大反射率を有することを特徴とする上記(1)記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶や、(3)後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が、120%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶や、(4)後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が、150%以上であることを特徴とする上記(3)記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶や、(5)後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却することで再結晶することにより得られることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶に関する。
【0013】
また本発明は、(6)N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却により再結晶することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法や、(7)N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、冷却により再結晶することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法や、(8)N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、イソプロパノールを加えて、冷却により再結晶することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法や、(9)後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンで再結晶することにより、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率を100%以上にすることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、(10)上記(1)〜(5)のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶を含有することを特徴とする有機固体蛍光顔料に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、有機固体蛍光顔料として有用な、明るい赤色蛍光を持つN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの結晶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶(以下、「本発明の結晶」ということがある)としては、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%以上である前記構造式[I]で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの結晶であれば特に制限されず、380nm以上かつ780nm未満の可視光領域、例えば波長600〜700nmの領域において、好ましくは最大反射率が120%以上、より好ましくは150%以上の明るい赤色蛍光を持つ結晶や、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却することで再結晶することにより得られる結晶を好適に例示することができる。
【0017】
本特許において「後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率」とは、JIS Z−8722に準拠する0−45°後分光方式に基づく分光式色差計である日本電色工業株式会社SE−2000を用いて分光反射率を測定し、その可視光領域内で示した最も高い反射率のことをいい、日本電色工業株式会社SE−2000を用いての測定は、粉体サンプルを口径30mmのガラス製シャーレに均一に敷き詰めて、SE−2000の取扱説明書記載の通りに行い、光源には標準イルミナントAを用いるものの、標準イルミナントCを用いての測定値に計算されている反射率で示されている。N,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルの反射率では、物質固有の色に同じ波長の蛍光が加わった値が測定されることになる。
【0018】
本発明の結晶の製造方法としては、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンで再結晶することにより、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率を100%以上にする方法を挙げることができ、より具体的には、N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加え反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物(粗結晶)をメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却により再結晶する方法(以下「製法1」ということがある)や、N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加え反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、冷却により再結晶する方法(以下「製法2」ということがある)や、N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加え反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、イソプロパノールを加えて、冷却により再結晶する方法(以下「製法3」ということがある)を好適に例示することができる。
【0019】
上記製法1によると、波長600〜700nmの領域において、後分光方式の反射率測定による固体における最大反射率が120%以上の本発明の結晶を得ることができ、上記製法2によると、波長600〜700nmの領域において、後分光方式の反射率測定による固体における最大反射率が150%以上の本発明の結晶を得ることができる。また、上記製法3によると、波長600〜700nmの領域において、後分光方式の反射率測定による固体における最大反射率が120%以上の本発明の結晶を得ることができ、上記製法2よりも本発明の結晶を高収率で得ることができる。
【0020】
本発明の有機固体蛍光顔料は、上記本発明の結晶を含有するものであれば特に制限されず、化粧品、塗料、印刷インキ、文具、建材、皮革などを着色する分野、エレクトロニクス分野での波長変換デバイスとしての用途分野等、高輝度の着色が要求される用途分野において有利に用いることができる。
【0021】
以下、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例等により制限されるものではない。なお、実施例等における後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率は、JIS Z−8722に準拠する0−45°後分光方式に基づく分光式色差計である日本電色工業株式会社SE−2000を用い、粉体サンプルを口径30mmのガラス製シャーレに均一に敷き詰めて、SE−2000の取扱説明書記載の通りに行い、光源には標準イルミナントAを用いるものの、標準イルミナントCを用いての測定値で表されている。
[実施例]
【0022】
[参考例1]
N,N’−ジメチルアセトアミド480mL中に2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン19.2g、2−メチルベンジルブロマイド97.6gを入れ,撹拌しながら、0℃以上にならないように25%NaOH水溶液80.8gを徐々に加えた。添加後1時間0℃で撹拌し、更に常温で1時間撹拌した後、NaCL120gを960mLの水に溶かした溶液に分散してろ過した。得られた固形物(粗結晶)を650mLのモノクロルベンゼンに加熱溶解し、室温下1昼夜かけて緩慢に冷却すると暗赤色の固体が析出し、濾取して加熱乾燥すると42.5gの化合物1(融点203℃)が得られた。後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率を図3に示す。
【実施例1】
【0023】
参考例1のモノクロルベンゼンの代わりに1250mLのメチルイソブチルケトンを用いて、参考例1の粉体よりも明るい本発明の結晶43.2gを得た(融点203℃)。後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率を図3に示す。
【実施例2】
【0024】
参考例1で得られた暗赤色の固体60.0gをクロロホルム500mLに加熱溶解し、室温下1昼夜かけて緩慢に冷却し、種結晶を入れて、さらに1昼夜室温放置すると、本発明のきわめて明るい赤色の結晶40gを収率67%で得た(融点203℃)。後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率を図3に示す。
【実施例3】
【0025】
参考例1で得られた暗赤色の固体36.0gをクロロホルム500mLに加熱溶解し、イソプロパノール(IPA)500mLを加えて、室温下1昼夜かけて緩慢に冷却し、種結晶を入れて、さらに1昼夜室温放置すると、本発明のきわめて明るい赤色の結晶32gを収率89%で得た(融点203℃)。後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明(下図)と参考例1(上図)のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の粉末X線解析を示す図である。
【図2】本発明(右図)と参考例1(左図)のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】参考例1,実施例1及び実施例2及び実施例3で得られたN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の分光反射率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%以上であることを特徴とする構造式[I]:
【化1】

[I]
で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶。
【請求項2】
波長600〜700nmの領域において、最大反射率を有することを特徴とする請求項1記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶。
【請求項3】
後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が、120%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶。
【請求項4】
後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が、150%以上であることを特徴とする請求項3記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶。
【請求項5】
後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却することで再結晶することにより得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶。
【請求項6】
N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をメチルイソブチルケトンに加熱溶解し、冷却により再結晶することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法。
【請求項7】
N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、冷却により再結晶することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法。
【請求項8】
N,N’−ジメチルアセトアミド中に、2,5−ジアミノ−3,6−ジシアノピラジン及び2−メチルベンジルブロマイドを加え、撹拌しながら0℃以上にならないようにNaOH水溶液又は固体のNaOHを徐々に加えて反応させ、反応物をNaCl水溶液に分散させ濾過し、得られた濾過物をモノクロルベンゼンに加熱溶解し、冷却することにより得られる暗赤色の固体をクロロホルムに加熱溶解し、イソプロパノールを加えて、冷却により再結晶することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造法。
【請求項9】
後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率が100%未満であるN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリルを、クロロホルム又はメチルイソブチルケトンで再結晶することにより、後分光方式の反射率測定による固体における可視光領域の最大反射率を100%以上にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか記載のN,N,N’,N’−テトラキス(2−メチルベンジル)−2,5−ジアミノ−3,6−ピラジンカルボニトリル結晶を含有することを特徴とする有機固体蛍光顔料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−204443(P2007−204443A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26875(P2006−26875)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】