説明

有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤及び浄化方法

【課題】有機塩素化合物によって汚染された土壌、地下水及び底質等の媒体を原位置において短期間で浄化し、使用前の環境への速やかな復元が可能な環境に対する負荷が少ない添加剤及び浄化方法を提供する。
【解決手段】ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸等及びそれらの塩の1つ以上とグルコース等の1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上とグリセリン脂肪酸エステル等の1つ以上を対象となる媒体に対して供給して対象とする媒体に存在する微生物、特には好気性微生物を活性化し、さらに添加剤に対して接触させ、微生物がこれら物質を栄養源あるいは呼吸源として利用して活性化、増殖することで、微生物による有機塩素化合物類、特には塩素数が二以下の有機塩素化合物の無害化を促進し、迅速かつ低コストの浄化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤及び浄化方法に関し、特には塩素数が2以下の有機塩素化合物による地質汚染を浄化する添加剤及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなどに代表される有機塩素化合物は、炭化水素または炭素に塩素が付加した物質である。この有機塩素化合物は、人工的に製造され、過去に溶剤として多くの産業分野において脱脂、洗浄などに利用された。しかし、その生物に対する有害性、環境における難分解性、蓄積性が問題となり、現在世界的に有害物質として認識されている。
【0003】
日本においては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなど10物質について土壌、地下水に関する環境基準が設定されている。これらは、不適切な使用、保管方法が原因となり地下の土壌や地下水汚染を引き起こしており、早期の浄化が求められている。
【0004】
有害な化学物質によって汚染された環境を浄化する手段として、微生物を利用して浄化する方法(バイオレメディエーション)が注目されている。この方法は、従来の物理的・化学的処理方法に比べて動力・設備等が低コストであり、原位置浄化が容易であることが大きな利点である。
このバイオレメディエーションは、汚染物質を分解する能力の高い外来微生物を添加することによって浄化するバイオオーギュメンテーションと、微生物に栄養源等を供給して増殖力、あるいは汚染物質の代謝力を高めることによって浄化するバイオスティミュレーションに大別される。
【0005】
外来微生物を利用するバイオオーギュメンテーションについては、微生物の変異、域外への拡散などを考慮しながら、現在、実用化の検討が進められている。一方、バイオスティミュレーションは、土着の微生物を利用することができ、また栄養塩類その他の材料を対象となる環境に添加するだけでよいので、多くの汚染サイトの原位置浄化工事において採用されるようになってきている。
【0006】
ところで有機塩素化合物の中でも塩素数が多いテトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などは、嫌気性微生物による還元脱塩素化によって逐次分解されることが知られている。従来の有機塩素化合物のバイオレメディエーションにおいては、この嫌気性微生物を利用する方法が主流である。
【0007】
本発明者らは、有機塩素化合物に対する従来のバイオレメディエーション剤の課題を解消すべく、嫌気性微生物による有機塩素化合物の浄化に関して特許文献1及び特許文献2において汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤を開示している。これらの添加剤は、栄養源、エネルギー源となる材料の水溶性が高く、また生分解性がよいので、土壌中において拡散しやすく、また溶存酸素(DO:Dissolved Oxygen)も結合性の酸素(NOX‐のO)も存在しない嫌気状態を造成し有機塩素化合物を分解・浄化するまでの工程が迅速に進行する。
【0008】
この結果、栄養剤を注入するための井戸の間隔を広く取ることが可能となり、少ない地点から注入することによって広い範囲に効果を及ぼすことが可能である。また妨害物質の影響が及ぶ前に有機塩素化合物を分解・浄化することが可能となり、浄化における作業量の低減、浄化期間の短縮を達成することが可能となった。さらに、環境中における生分解性の高い成分が選択されており、浄化完了後に材料は二酸化炭素及び水になり、現場に残留することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−185870号公報
【特許文献2】特開2005−288276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、従来の有機塩素化合物のバイオレメディエーションにおいては、例えばバイオスティミュレーションを原位置浄化に適用する場合に、低塩素、特には2塩素以下の有機塩素化合物の物質については、嫌気性微生物の脱塩素化による無害化のみで浄化を進める場合には、特に汚染の濃度が高い場合や施工に時間的な制約がある場合などにおいて新たな課題が生じていた。
【0011】
すなわち前述したように、有機塩素化合物が嫌気性微生物によって無害化される場合、脱塩素化が進行する。その途上において低塩素、特には2塩素以下の有機塩素化合物、例えば、シスー1,2−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタンなどの環境基準が指定されている物質、その他、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパンなどといった物質が生成される。
生成されたこれらの2塩素以下の有機塩素化合物は、3塩素以上の有機塩素化合物に比べて嫌気性微生物による脱塩素化が遅くなる傾向にある。
【0012】
また、工業的にこれら低塩素の有機塩素化合物を利用していた場所では、それ自体が汚染契機物質となり地質を汚染している場合もある。さらに、特に有機塩素化合物の濃度が高い箇所では、嫌気性微生物による脱塩素化によって生成した2塩素以下の有機塩素化合物の蓄積が進む場合がある。
【0013】
また、有機塩素化合物の使用履歴のある汚染現場では、いわゆる複合汚染が生じている場合がある。その様な場合には、有機塩素化合物とともにトルエン、エチルベンゼン、キシレンといったベンゼン類、シアン化合物といった物質が汚染として存在し、こうした物質については、好気性微生物を利用するバイオレメディエーションが有効である。
【0014】
本発明の目的は、有機塩素化合物によって汚染された土壌、地下水及び底質等の媒体を原位置において短期間で浄化し、使用前の環境への速やかな復元が可能で環境に対する負荷が少ない添加剤及び浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤は、ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸、酢酸及びそれらの塩の1つ以上とグルコース、スクロース、ラクトース、マンニトールの1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上とグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル、エトキシル酸ノニルフェノール、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノスチレート、ポリオキシエチレンソルベート、ソルビタンモノステアリン酸、ラウロイル乳酸ナトリウムの1つ以上から構成されていることを特徴とする。
【0016】
以上の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤は、酸素の溶存濃度を20mg/L以上に調整することができる。またメタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれか一つ以上を溶解し、さらにその溶存濃度を0.5mg/L以上に調製することができる。
【0017】
また本発明の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法は、ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸、酢酸及びそれらの塩の1つ以上とグルコース、スクロース、ラクトース、マンニトールの1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上とグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル、エトキシル酸ノニルフェノール、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノスチレート、ポリオキシエチレンソルベート、ソルビタンモノステアリン酸、ラウロイル乳酸ナトリウムの1つ以上から構成された添加剤を媒体に供給する工程を有することを特徴とする。
【0018】
以上の本発明の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法は、酸素の溶存濃度を20mg/L以上とした液体を媒体に注入する工程をさらに含むようにすることができる。
【0019】
また対象とする媒体を、媒体中の液体相において溶存酸素濃度が2mg/L以上、酸化還元電位が0mV以上の好気状態となるよう調整することができる。液体は水(HO)を用いることができる。
【0020】
さらにメタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれか一つ以上を含む気体を液体に溶解して対象とする媒体に注入する工程を加えることができる。その場合、メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれかの溶存濃度が0.5mg/L以上の液体を作製するようにすることができる。
【0021】
対象とする土壌、地下水及び底質等の媒体は、特には塩素数が二以下の有機塩素化合物によって汚染された媒体とすることができる。
【0022】
[作用]
以上の本発明の添加剤と浄化方法を行い、微生物によって汚染物質を迅速に浄化することができる。特に酸素さらにはメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタンのいずれか一つ以上を溶解させた水を媒体に供給することによって、媒体に存在する微生物に対して接触させ、微生物がこれら物質を栄養源あるいは呼吸源として利用して活性化、増殖して塩素数が二以下の有機塩素化合物を無害化することができる。その結果、従来は、時間がかかっていた塩素数が二以下の有機塩素化合物によって汚染された媒体を迅速かつ低コストで浄化することができる。
また溶存酸素濃度が20mg/L以上の水を媒体に供給することで、対象とする媒体中の水相において溶存酸素濃度を2mg/L以上、ORP値0mV以上の好気状態とし、さらにメタン、エチレン、エタン、プロパン或いはブタンのうちのいずれか一つ以上の物質を添加することで、対象とする汚染の濃度、種類などの条件に応じて多様な適用態様が可能で、適用範囲を広くすることができる。
【0023】
以上の本発明の添加剤と浄化方法では汚染物質が3塩素以上の有機塩素化合物である場合には、2塩素以下の物質になるまで微生物によって脱塩素化を進め、その後酸素を供給することによって好気状態として汚染の無害化を迅速に進めることができる。
【0024】
このように、有機ハロゲン化合物、特に有機塩素化合物を分解する過程で関与する微生物群を構成する各種の微生物全体の働きを考慮して、複数種類の性質の異なる物質を添加剤として供給することで、効率的であって、しかも有害物質が残留しにくいバイオレメディエーション工法が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の添加剤と浄化方法によれば、土壌、地下水及び底質等の有機塩素化合物によって汚染されている媒体の有機塩素化合物を原位置において浄化する際に、土着の微生物によって環境に対する負荷を小さくして使用前の環境へ速やかに短期間で復元することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明が対象とする媒体は、例えば一般的に土着の微生物が存在する土壌、地下水或いは底質があるが、媒体が微生物の生息できる環境であれば、外部から微生物を添加する手法によっても、同等の効果を得ることができる。
【0027】
本発明の添加剤は、汚染地域の土壌、地下水或いは底質土などといった媒体の中に添加される。
本発明の添加剤を構成するそれぞれの物質の配合比は修復対象の土質に合わせて設定することで修復の効果を高めることができる。
また添加剤の形態は、固体状、液体状、スラリー状などであり、汚染地域の地層などの地質状態や、汚染地域の汚染状況に基づいて決定される。供給方法は、例えば、水に溶解させて媒体に供給する方法が一般的であるが、機械によって媒体と混合する方法などによっても同等の効果を得ることができる。
【0028】
本発明が無害化の対象とする塩素数が二以下の有機塩素化合物は、例えば、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロペン及びジクロロベンゼンといった物質であるが、塩素数が二以下の有機化合物であれば、これらに限定されない。
【0029】
本発明の添加剤による無害化に利用される微生物とは、汚染土壌に存在し、一般的な微生物と同様の方法で増殖させることができる微生物であり、無機塩、窒素源、その他栄養源を含む無機栄養培地、有機栄養培地等において増殖でき、有機塩素化合物を無害化することのできる微生物である。外来微生物を混合したり、微生物から抽出した遺伝子によって作成した組み換え微生物を使用したり、微生物を担体に固定化した場合も本発明の汚染物質の無害化剤及び無害化方法は適用可能である。
【0030】
ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸、酢酸及びそれらの塩の1つ以上とグルコース、スクロース、ラクトース、マンニトールの1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上から構成される添加物は、汚染物質を分解する微生物の活性化、増殖に関る栄養源、炭素源として有効である。対象とする汚染物質の種類及び濃度、媒体の種類、利用する微生物種などに応じて使用する物質の種類、添加量が選択される。
【0031】
リン酸塩、アンモニウム塩としては、水溶性の物質が対象とする媒体への供給のしやすさから望ましい。例えば、リン酸水素ニアンモニウム、リン酸ニ水素アンモニウム、リン酸水素二カリウムなどが挙げられる。
【0032】
グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル、エトキシル酸ノニルフェノール、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノスチレート、ポリオキシエチレンソルベート、ソルビタンモノステアリン酸、ラウロイル乳酸ナトリウムは、汚染物質の水への移動性を高める界面活性剤として加える脂溶性の物質である。
微生物が対象物質を無害化する際の利用性(バイオアベイラビリティ)を高めるために有効であり、食品工業分野において食品添加物などとして利用されている有害性の低い物質である。
【0033】
酸素を供給する際には、空気による供給、土壌の混練など、供給方法は問わない。水に溶かして溶存酸素の形態で媒体に供給する方法が、媒体内での拡散、効果の波及の面からは好ましい。最も好適な方法として、溶存酸素濃度が20mg/L以上の高濃度酸素水を注入することによって溶存酸素濃度で2mg/L以上、ORP値0mV以上の好気状態にすることが、対象となる汚染物質を分解する好気性微生物の活性化、増殖の観点から好ましい。
【0034】
メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンは、対象とする汚染物質の種類と濃度に応じて、使用する物質と濃度が選択されることが望ましい。使用する形態は、標準温度においてガス体であることから、直接媒体に吹き込む方法、水に溶解させて供給させる方法がある。水に溶存させた形態で媒体に供給する方法が、媒体内での拡散、効果の波及の面からは好ましい。最も好適な方法として、溶存濃度が0.5mg/L以上の水を注入することが、対象となる汚染物質を分解する好気性微生物に対して炭素源を供給する観点から好ましい。
【0035】
汚染の状況によっては、主汚染が3塩素以上の有機塩素化合物の場合がある。本発明の媒体の浄化剤及び本発明の媒体の浄化方法では媒体に酸素を供給しない状態で嫌気性微生物による脱塩素化を進めて係る主汚染を2塩素化以下の有機塩素化合物とする。さらに本発明の浄化剤及び浄化方法では媒体に酸素を供給して好気性微生物による媒体の浄化を行うことができる。
この場合、他の嫌気性のバイオレメディエーション用の添加剤によって嫌気性微生物による脱塩素化を進めて2塩素化以下の有機塩素化合物とし、これに組み合わせてその後本発明の添加剤及び浄化方法によって好気性微生物による無害化を進める方法を採用することもできる。
【0036】
本発明では、微生物を利用することによって有機塩素化合物の無害化を迅速に行う為、一般的に微生物が好適に生息できる環境において適用するか、もしくは環境を形成・管理することが必要である。
【0037】
以上の条件で、本発明は有機塩素化合物、特には2塩素化以下の有機塩素化合物を無害化することができる。従って、従来の嫌気性微生物によるバイオレメディエーションによっては困難、もしくは時間のかかっていた汚染媒体においても環境負荷、短工期、コスト面での負担を小さくし無害化できる浄化方法である。
以下、実施例を用いて本方法をさらに詳細に説明する。しかし、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本発明添加剤によって地下水中の有機塩素化合物を浄化した事例を示す。
実験に使用するサンプルとして、ジクロロメタンによって汚染された地下水を汚染地域から採取した。試料は、予め滅菌した15本の500mLの褐色ガラス容器に満杯になるまで入れ、4℃で冷蔵しながら実験室に運搬した。
【0039】
培養開始直前に試料の一部をそれぞれの容器から採取してガスクロマトグラフによって試料中の有機塩素化合物を分析した。その結果を表1に示す。
次に、無菌条件において上記の試料に下記の処理を施した試料を以下に示す各処理につき3つづつ作成した。
【0040】
実施例1(本発明添加剤1):酵母エキス0.2g、乳酸ナトリウム0.2g、グルコース0.2g、リン酸水素ニアンモニウム0.1g、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム0.1gを混合して被験水に添加して混合したもの
【0041】
実施例2(本発明添加剤2):ペプトン0.2g、乳酸ナトリウム0.2g、ラクトース0.2g、リン酸ニ水素アンモニウム0.1g、ポリエチレングリコールドデシルエーテル0.1gを混合して被験水に添加して混合したもの
【0042】
実施例3(本発明添加剤3):酵母エキス0.2g、酢酸ナトリウム0.2g、スクロース0.2g、リン酸水素ニアンモニウム0.1g、ソルビタンモノステアリン酸0.1gを混合して被験水に添加して混合したもの
【0043】
比較例1(比較のため殺菌処理したもの):実施例1と同一の添加剤に加え、土着の微生物を死滅させるための殺菌剤として塩化水銀7.5g添加したもの
【0044】
比較例2:添加剤及び殺菌剤を添加しないもの
以上の処理を施した試料に対して、各処理後に封印し、これを暗所において20℃で90日間培養した。試験中は、実施例1から実施例3については、被験水のpH、溶存酸素及びORPを定期的に測定し、溶存酸素が2mg/L以上、ORP値が0mV以上の好気状態を維持するように管理した。また定期的に容器の頭隙からガスを抜取りガスクロマトグラフによって有機塩素化合物の濃度を測定した。測定する被験水の溶存酸素が2mg/Lになった時点で、酸素源として空気を頭隙に再添加して試験を継続した。各処理の結果は、3つの試料の平均値である。その結果を表2に示す。
【0045】
表1から本発明添加剤を添加した実施例1から実施例3においては、分析した全ての有機塩素化合物が減少していることが分かる。一方、比較例1及び比較例2では、若干の有機塩素化合物濃度の減少はあるものの、実施例1から実施例3ほどの顕著な減少は見られなかった。以上のことから、本発明添加剤によって地下水中の微生物が活性化され、有機塩素化合物の分解効果が高まったことが分かる。
【0046】
【表1】

【実施例2】
【0047】
本発明添加剤によって地下水中の有機塩素化合物を無害化した事例を示す。
有機塩素化合物によって汚染された地下水の原位置浄化において、添加剤による浄化効果を実証するため、有機塩素化合物による地下水汚染が確認されているサイトにおいてパイロット試験を実施した。パイロット試験現場は、地表からの対象層厚5mで平面領域が縦10m×横10mの範囲である。この試験においては、有機塩素化合物(ジクロロメタン(以下、DCMと記述する。)、1,2−ジクロロエタン(以下、1,2−DCAと記述する。)の濃度、溶存酸素量(DO)、ORPをパラメータとして測定した。有機塩素化合物濃度は、公定分析法(JIS−K0125)に準拠してガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定した。この試験において使用した添加剤は、酵母エキス100kg、乳酸ナトリウム100kg、グルコース100kg、リン酸水素ニアンモニウム100kg、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム10kgの混合物である。
【0048】
現場において水道水6トンにこの添加剤をタンクにおいて混合しながら注入井戸から地下水に滴下し、同時に水道水に酸素を平均30mg/L、メタンを同0.5mg/Lで溶解させて約2L/分の流速で地下水に継続的に注入した。注入井戸から地下水流の下流5mの位置に設置した観測井戸において、定期的に有機塩素化合物濃度及び化学的パラメータ(溶存酸素量、ORP)を測定した。各パラメータの測定結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から添加剤の注入によって汚染地域の溶存酸素とORPが微生物による好気分解に好適な条件となって汚染の分解環境が形成され、試験期間中維持されたことが分かる。対象となる有機塩素化合物は、試験開始から15〜30日後には、環境基準を満足するまで濃度が低減された。以上の結果から本発明添加剤は、微生物による地下水中の低塩素の有機塩素化合物の浄化に有効であることを実証することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸、酢酸及びそれらの塩の1つ以上とグルコース、スクロース、ラクトース、マンニトールの1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上とグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル、エトキシル酸ノニルフェノール、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノスチレート、ポリオキシエチレンソルベート、ソルビタンモノステアリン酸、ラウロイル乳酸ナトリウムの1つ以上から構成されていることを特徴とする有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤。
【請求項2】
酸素の溶存濃度を20mg/L以上とした請求項1記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤。
【請求項3】
メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれか一つ以上を溶解した請求項1又は請求項2記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤。
【請求項4】
メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれかの溶存濃度が0.5mg/L以上である請求項1〜請求項3のいずれか一に記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤。
【請求項5】
対象とする媒体が塩素数が二以下の有機塩素化合物によって汚染された媒体である請求項1〜請求項4のいずれか一に記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体を浄化するための添加剤。
【請求項6】
ペプトン、酵母エキスの1つ以上と乳酸、酢酸及びそれらの塩の1つ以上とグルコース、スクロース、ラクトース、マンニトールの1つ以上とリン酸塩の1つ以上とアンモニウム塩の1つ以上とグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル、エトキシル酸ノニルフェノール、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノスチレート、ポリオキシエチレンソルベート、ソルビタンモノステアリン酸、ラウロイル乳酸ナトリウムの1つ以上から構成された添加剤を媒体に供給する工程を有することを特徴とする有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。
【請求項7】
酸素の溶存濃度を20mg/L以上とした液体を媒体に注入する工程をさらに含む請求項6記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。
【請求項8】
対象とする媒体を、媒体中の液体相において溶存酸素濃度が2mg/L以上、酸化還元電位が0mV以上の好気状態となるよう調整する請求項6又は請求項7記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。
【請求項9】
メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれか一つ以上を含む気体を液体に溶解して対象とする媒体に注入する工程を含む請求項6乃至請求項8のいずれか一に記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。
【請求項10】
メタン、エタン、エチレン、プロパン或いはブタンのうちのいずれかの溶存濃度が0.5mg/L以上の液体を作製する請求項9記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。
【請求項11】
対象とする媒体が塩素数が二以下の有機塩素化合物によって汚染された媒体である請求項6乃至請求項9のいずれか一に記載の有機塩素化合物によって汚染された媒体の浄化方法。

【公開番号】特開2010−263824(P2010−263824A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117210(P2009−117210)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(302008467)エコサイクル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】