説明

有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別方法及びそのための装置

【課題】本発明の目的は、現場においてポリサルファイド系樹脂の中に有機塩素化合物が含まれているか否かを簡易かつ迅速に判別する方法、及びそのための装置を提供することである。
【解決手段】本発明は、有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別方法であって、有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行ない、前記溶媒に対して有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を施した後、前記溶媒中に塩化物イオンが存在するか否かを検出し、塩化物イオンが存在する場合に前記ポリサルファイド系樹脂が有機塩素化合物を含有するものであると判別する方法、並びにそのための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリサルファイド系樹脂中に有機塩素化合物が含まれているか否かを簡易かつ迅速に判別する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物解体に伴い発生する廃棄物(以下「建築廃棄物という」中にポリサルファイド系樹脂が存在する場合、該樹脂の中に有機塩素化合物の一種であるポリ塩化ビフェニル類(以下「PCB」という)が含まれているか否かを判定し、PCBが含まれている場合にはPCB廃棄物として廃棄物処理法の特別産業廃棄物保管基準に従い保管しなければならない(非特許文献1参照)。
【0003】
実際の建築解体現場(以下「現場」という)においては種々の廃棄物が同時に発生するため、PCB廃棄物が他の廃棄物に混入しないよう速やかに分別を行なう必要がある。しかしながら従来の判別方法は、ポリサルファイド系樹脂の一部分を現場から分析室に持ち帰り、ガスクロマトグラフ等の機器を用いた分析によって有機塩素化合物の定量を行ない、含有の有無を確認するというものであるため、ポリサルファイド系樹脂中にPCBが含まれるか否かを迅速に判別することは困難であった。
【0004】
【非特許文献1】平成15年5月2日東京都環境局公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、現場においてポリサルファイド系樹脂の中に有機塩素化合物が含まれているか否かを簡易かつ迅速に判別する方法、及びそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別方法であって、有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行ない、前記溶媒に対して有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を施した後、前記溶媒中に塩化物イオンが存在するか否かを検出し、塩化物イオンが存在する場合に前記ポリサルファイド系樹脂が有機塩素化合物を含有するものであると判別する方法。
【0007】
(2)有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理が、前記抽出後の有機溶媒へのアルカリ剤の添加、並びに、前記脱離を促進する触媒の添加及び/又は紫外線の照射を行なうことを含む(1)に記載の方法。
【0008】
(3)有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行なうための抽出手段と、有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を行なうための反応手段と、塩化物イオンを検出するための検出手段とを備えた有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別装置。
【0009】
(4)前記抽出手段が抽出槽からなり、前記反応手段が加熱部及び/又は超音波発生部を備えた反応槽からなる(3)に記載の装置。
【0010】
(5)前記抽出手段が抽出槽からなり、前記反応手段が反応槽と該反応槽内に紫外線を照射する紫外線ランプとからなる(3)に記載の装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、現場においてポリサルファイド系樹脂の中に有機塩素化合物が含まれているか否かを簡易かつ迅速に判別する方法及びそのための装置が提供される。
【0012】
本発明によればポリサルファイド系樹脂の中に有機塩素化合物が含まれているか否かを低コストかつ確実に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において有機塩素化合物とはポリサルファイド系樹脂に含有されている可能性のあるものであれば特に限定されないが、例えばポリ塩化ビフェニル類(PCB)が挙げられる。
【0014】
本発明の方法は第一に、有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出する工程を含む。抽出に用いる有機溶媒は、判別対象のポリサルファイド系樹脂中に含まれる有機塩素化合物を溶解可能なものであれば特に限定されないが、例えばイソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、又はこれらのうちの2種以上の混合溶媒が挙げられ、イソプロピルアルコールが好ましい。抽出は通常の方法、例えば判別対象のポリサルファイド系樹脂の樹脂片を有機溶媒中に浸漬することにより行なうことができる。抽出効率を高めるために、ポリサルファイド系樹脂を細かく(例えば米粒大の大きさに)粉砕したものを検査試料としてもよい。また抽出効率を高めるために、浸漬に加えて、振とう、攪拌、有機溶媒の沸点未満の温度での加熱、超音波照射等の処理を施してもよい。
【0015】
本発明の方法は第二に、抽出後の有機溶媒に対して、有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を施す工程を含む。この工程には抽出後の有機溶媒の全部又は一部を用いることができる。判別の精度を高めるためには、この工程を開始する前に抽出後の有機溶媒を適当なろ過手段でろ過するなどして不溶性成分を除去することが好ましい。
【0016】
上記の「有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理」(本明細書ではこの反応を「塩素離脱反応」、この処理を「塩素脱離処理」と称する場合がある)は、具体的には、抽出後の有機溶媒にアルカリ剤を添加し、更に、塩素離脱反応を促進する触媒を添加するか或いは紫外線を照射することにより行なうことができる。使用されるアルカリ剤としては、結晶水を含まない固体状のものであることが好ましく、例えば水酸化ナトリウムが挙げられるがこれには限定されない。使用される触媒としては、塩素離脱反応を促進するものであれば特に限定されないが、例えばロジウム活性炭素やパラジウム活性炭素が挙げられる。照射する紫外線の波長範囲は塩素離脱反応を引き起こすものであれば特に限定されないが、230〜320nmであることが好ましい。触媒添加と紫外線照射とはそれぞれ単独で行っても、同時又は順次に組み合わせて行ってもよい。塩素離脱反応を短時間で効率よく行なうためには、触媒添加及び/又は紫外線照射に加えて、振とう、攪拌、有機溶媒の沸点未満の温度での加熱、超音波照射等の処理を施してもよい。
【0017】
塩素離脱処理が終了した時点で適当なろ過手段を用いるなどして固液分離することが好ましい。簡便にはマイクロシリンジフィルターを用いたろ過が挙げられる。
【0018】
本発明の方法は第三に、塩素脱離処理後に塩化物イオンを検出する工程を含む。塩化物イオンの検出は例えば次の方法で行なうことができる。塩化物イオンは金属イオンと金属塩を形成し、金属塩として沈殿を生成する性質がある。そこで、塩素離脱処理後の溶液に金属イオンを添加し、沈殿が観察された場合に塩化物イオンの存在を検出することができる。使用し得る金属イオンとしては例えば銀イオンが挙げられる。金属イオンは水溶液の形態で添加することができる。
【0019】
本発明はまた有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別方法に使用するための装置に関する。本発明の装置は、有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行なうための抽出手段と、有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を行なうための反応手段と、塩化物イオンを検出するための検出手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
図1は、上記特徴を備えた装置の一例を示す概略図である。本装置は塩素離脱反応を触媒を用いて行なう場合に適したものであり、抽出手段は抽出用の有機溶媒101を収容する抽出槽102から構成され、反応手段は抽出液103を収容する反応槽104と、反応槽104に備えられた加熱部105とから構成され、検出手段はろ過装置(メンブレンフィルター)106と、シリンジ107と、金属イオン溶液108を収容する検出槽109とから構成される。判別対象のポリサルファイド系樹脂は有機溶媒101中に添加される。抽出槽101は更に加熱部、超音波発生部又は攪拌器を備えていてもよい。抽出後の有機溶媒101の全部又は一部が、好ましくはろ過工程を経て、抽出液103として利用される。塩素離脱反応の触媒は抽出液103中に添加される。反応槽104は加熱部105に加えて、或いは加熱部105に代えて、塩素離脱反応を促進させるため他の手段、例えば超音波発生部、攪拌器等を備えていてもよい。塩素離脱反応完了後、反応液はろ過装置106を経てシリンジ107に吸引される。吸引された反応液110は金属イオン溶液108(例えば硝酸銀溶液)に添加される。反応液中に塩化物イオンが含まれていれば金属塩化物塩(例えば塩化銀)が生成して検出槽109内で沈殿するため、塩化物イオンの存在を検出することができる。検出槽109は内部が目視可能な透明又は半透明の材料でできていることが好ましい。
【0021】
またシリンジ107内に予め金属イオン溶液を少量入れておけば、ろ過装置106を通過した反応液がシリンジ107内に導入されると同時に金属イオン溶液と接触するため、塩化物イオンの存在を直ちに検出することができ好ましい。この場合、検出層109は不要である。
【0022】
図2は、塩素離脱反応を紫外線照射により行なう形態に適した本発明に係る装置の一例を示す概略図である。本装置の反応手段は、反応槽201と該反応槽201に向けて紫外線を照射するように設置された紫外線ランプ202とからなる。この形態においても、反応槽201は紫外線ランプ202に加えて、塩素離脱反応を促進させるため他の手段、例えば加熱部、超音波発生部、攪拌器等を備えていてもよい。
【0023】
なお抽出手段は必ずしも図示した抽出槽の形態である必要はなく、他の形態、例えば判別対象の樹脂試料をカラム状に充填したものに有機溶媒を通して抽出を行なう形態であってもよい。図示した抽出槽を用いる場合には、加熱、超音波照射、攪拌などを行なって抽出時間を短縮することが可能である。
【0024】
反応手段は必ずしも図示した反応槽の形態である必要はなく、他の形態、例えば触媒をカラム状に充填したものに抽出液を通して反応させる形態や、紫外線を透過する流路と紫外線ランプとを備えて、抽出液を前記流路に流通させることにより塩素脱離反応を行なう形態であってもよい。
【0025】
検出手段は必ずしも図示した形態である必要はなく、他の形態、例えば物理的に塩化物イオンを検出する装置であってもよい。
【実施例】
【0026】
ポリサルファイド系樹脂の断片(0.3g)を試験管中でイソプロピルアルコール5mLに入れて浸漬させた。このとき30分間超音波照射した後、30分間静置した。
【0027】
浸漬後の上記溶液を孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。
【0028】
得られたろ過溶液に水酸化ナトリウム(1粒)とロジウム活性炭(触媒)(0.01g)とを添加し、数分間超音波を照射した後、温度70℃の熱水浴で30分間反応させた。
【0029】
熱水浴させた反応液を放冷した後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。
【0030】
得られたろ液に0.01mol/L硝酸銀溶液(数滴)を添加すると白色沈殿が生じた。このろ液と同量の水を更に添加すると、白色沈殿が更に生じた。この白色沈殿はPCBを構成する塩素が脱塩素されて生じた塩化物イオンが硝酸銀と反応して得られた塩化銀の沈殿であると考えられる。
【0031】
ロジウム活性炭に代えてパラジウム活性炭を触媒として用いて、同様の手順で実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
【0032】
従って白色沈殿の有無に基づいてポリサルファイド系樹脂中のPCBを判別することが可能となる。
【0033】
また、上記において、塩素脱離反応後のろ液に硝酸銀溶液を数滴添加したとき、いずれのろ液試料でも若干茶系の沈殿が生じた。そして、水を加えて最終的なPCBの有無を判定する場合、黄ばみを帯びた反応液となる。さらに、PCB含有試料は黄ばみを帯びた白色沈殿溶液となり、PCB無含有試料は黄ばみを帯びた透明溶液となる。これらの結果、硝酸銀溶液添加後の白濁の有無によりPCB含有を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の方法において触媒を用いて塩素離脱反応を行なう場合に適した装置の一例の概略図である。
【図2】本発明の方法において紫外線照射により塩素離脱反応を行なう場合に適した装置の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
101…有機溶媒、102…抽出槽、103…抽出液、104、201…反応槽、105…加熱部、106…ろ過装置、107…シリンジ、108…金属イオン溶液、109…検出槽、110…反応液、202…紫外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別方法であって、有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行ない、前記溶媒に対して有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を施した後、前記溶媒中に塩化物イオンが存在するか否かを検出し、塩化物イオンが存在する場合に前記ポリサルファイド系樹脂が有機塩素化合物を含有するものであると判別する方法。
【請求項2】
有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理が、前記抽出後の有機溶媒へのアルカリ剤の添加、並びに、前記脱離を促進する触媒の添加及び/又は紫外線の照射を行なうことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機塩素化合物を溶解可能な有機溶媒を用いて判別対象のポリサルファイド系樹脂の抽出を行なうための抽出手段と、有機塩素化合物の結合塩素を塩化物イオンとして離脱させる処理を行なうための反応手段と、塩化物イオンを検出するための検出手段とを備えた有機塩素化合物含有ポリサルファイド系樹脂の判別装置。
【請求項4】
前記抽出手段が抽出槽からなり、前記反応手段が加熱部及び/又は超音波発生部を備えた反応槽からなる請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記抽出手段が抽出槽からなり、前記反応手段が反応槽と該反応槽内に紫外線を照射する紫外線ランプとからなる請求項3に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−266920(P2006−266920A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86635(P2005−86635)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000211064)中外テクノス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】