有機層のインクジェット印刷または他の用途向けの液体組成物
比較的高沸点の不純物の含有量が削減されている溶媒調製物中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を使用することによる、有機電子デバイス(例えばOLED)用の有機層の形成方法。溶媒調製物は、高沸点溶媒と、溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物とを含む。液体組成物は、インクジェット印刷により表面上に被着されて、有機層を形成する。同様に提供されているのは、有機層を作製するために使用することのできる液体組成物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月17日出願の米国仮特許出願第61/187,862号明細書に対する優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、有機発光デバイスなどの有機電子デバイス内に有機層を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、有機発光デバイス(OLED)は、小分子材料については真空蒸着によって、そしてポリマー材料についてはスピンコーティングまたはディップコーティングによって製造されてきた。より近年では、OLEDの製造において有機薄膜層を直接被着するために、インクジェット印刷が使用されてきた。ポリマー材料のインクジェット印刷のためには、トルエンまたはキシレンなどのさまざまな従来の溶媒を使用することができる。しかしながら、従来ポリマー材料のインクジェット印刷用に使用されたこれらの溶媒は多くの場合、小分子材料の被着のためにも同じようにうまく機能するわけではない。したがって、有機層を形成するための小分子材料のインクジェット印刷に適した改良型インクジェット液調合物に対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,902,830号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0251923号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0088167号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0008673号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0003789号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、比較的高沸点の不純物の含有量が削減されている溶媒調製物を用いて溶液処理(例えばインクジェット印刷)することにより有機層を形成する改良された方法を提供する。この方法により被着された有機層を用いるOLEDなどの有機電子デバイスは、改良されたデバイス性能を有し得る。
【0006】
一実施形態において、本発明は、有機電子デバイス用の有機層の形成方法において:溶媒調製物中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を提供するステップであって、溶媒調製物が、溶媒と溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物とを含み、溶媒が1atmで200℃以上の沸点を有しているステップと;液体組成物を表面上に被着させるステップと、を含む方法を提供している。被着は、インクジェット印刷または他の溶液処理技術により実施されてよい。溶媒調製物は、市販の溶媒調製物の再蒸留によって製造されてよい。
【0007】
別の実施形態において、本発明は、1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒と;0.01〜10wt%の範囲内の濃度で溶媒中に混合された小分子有機半導体材料とを含み、溶媒に比べて高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物を有している液体組成物を提供している。3−フェノキシトルエンや1−テトラロンを含め、さまざまな溶媒を使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】濡れ接触角θが測定されている状態の、インジウムスズ酸化物で作られた平面である処理表面上に適用された本発明のケトン溶媒の液滴を示している。
【図2】本発明の一実施形態に係るOLEDの構造を示す。
【図3A】インクジェット印刷が適用されるかもしれない基板の概略図を示す上面図である。
【図3B】インクジェット印刷が適用されるかもしれない基板の概略図を示す垂直断面図である。
【図4A】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図4B】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図4C】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図5】本発明の一実施形態にしたがって製造されたOLEDの(輝度と時間の関係としてプロットした)寿命を示す。
【図6A】再蒸留前の市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のガスクロマトグラムを示す。
【図6B】再蒸留前の市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のUV−HPLC出力を示す。
【図7A】再蒸留後の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のガスクロマトグラムを示す。
【図7B】再蒸留後の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のUV−HPLC出力を示す。
【図8】経時的な光度のプロットとして描かれたOLED例の動作寿命を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中で使用すべく意図されている以下の用語の意味は、次の通りである。
【0010】
「脂肪族」という用語は、線状、分岐または非芳香族環内の飽和または不飽和ヒドロカルビルを意味する。炭素は、単結合(アルキル)、2重結合(アルケニル)、または3重結合(アルキニル)により結合され得る。水素以外に、酸素、窒素、硫黄またはハロゲンなどの他の元素を置換として炭素に結合させることが可能である。「脂肪族」という用語は同様に、炭素原子の代わりに酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素などのヘテロ原子を含むヒドロカルビル類をも包含する。
【0011】
「アルキル」という用語は、アルキル部分を意味し、線状および分岐アルキル鎖の両方を包含する。さらにアルキル部分自体は1つ以上の置換基で置換されてもよい。「ヘテロアルキル」という用語は、ヘテロ原子を含むアルキル部分を意味する。
【0012】
「低級」という用語は、脂肪族化合物または上述のタイプの脂肪族化合物のいずれかに言及する場合、脂肪族基が1〜15個の炭素原子を含むことを意味している。例えば低級アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどを含む。
【0013】
「アリール」という用語は、単環基および多環式環系を含む少なくとも1つの芳香族環を含むヒドロカルビルを意味する。「ヘテロアリール」という用語は、単環基および多環式環系を含む、少なくとも1つの複素環式芳香族環を含む(すなわちヘテロ原子を含む)ヒドロカルビルを意味する。多環式環は、2つの隣接する環によって2つの炭素原子が共有されている(すなわちこれらの環は「融合され」ている)2つ以上の環を有していてよく、ここで環の少なくとも1つは芳香族環または複素環式芳香族環である。「低級アリール」または「低級ヘテロアリール」という用語は、それぞれ、3〜15個の炭素原子を含むアリールまたはヘテロアリールを意味する。
【0014】
アリール基の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ペリレン、テトラセン、ピレン、ベンズピレン、クリセン、トリフェニレン、アセナフテン、フルオレンおよびこれらから誘導されたものが含まれる。ヘテロアリール基の例としては、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピロール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、チアゾール、テトラゾール、インドール、カルバゾール、ピロロイミダゾール、ピロロピラゾール、ピロロピロール、チエノピロール、チエノチオフェン、フロピロール、フロフラン、チエノフラン、ベンゾイソキサゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾイミダゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キノキサリン、フェナントリジン、ベンゾイミダゾール、ペリミジン、キナゾリン、キナゾリノン、アズレンおよびこれらから誘導されたものが含まれる。
【0015】
本発明は、溶液処理技術による有機層の形成に関する。一態様において、本発明は、有機層を形成する方法を提供する。この方法には、ケトン溶媒中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を提供するステップが含まれる。液体組成物は次に、表面上に被着され、乾燥させられて有機層を形成する。
【0016】
「ケトン溶媒」とは、溶媒化合物が分子構造中に1つ以上のケトン官能基を有することを意味している。一部の実施形態では、ケトン溶媒は芳香族ケトン溶媒である。「芳香族ケトン溶媒」とは、溶媒分子が1つ以上のアリールまたはヘテロアリール基と1つ以上のケトン官能基とを含むことを意味している。
【0017】
一部の実施形態において、芳香族ケトン溶媒はテトラロン溶媒である。「テトラロン溶媒」とは、溶媒化合物が、フェニル環がシクロヘキサノンと縮合されている2環式ケトンであるかまたはそれを含んでいることを意味している。本発明で使用可能なテトラロンの例としては、以下に示す1−テトラロンおよび2−テトラロンが含まれる。1−テトラロンと2−テトラロンの化学的および/または物理的特性は、当技術分野において公知であるかまたは、従来の技術によって容易に決定可能である。例えば、1−テトラロンは、(1atmで)256℃の沸点、(20℃で)1.1g/cm3の密度、(1atmで)5〜6℃の融点そして146の分子量を有するものとして公知である。
【化1】
【0018】
「テトラロン溶媒」という用語も同様に、環(すなわちフェニル環とシクロヘキサン環)のいずれかまたは両方の上に1つ以上の置換が存在する1−テトラロンと2−テトラロンの誘導体を包含するように意図されている。このような置換には、低級脂肪族化合物、低級アリール、低級ヘテロアリールまたはハロゲンが含まれる。したがって、本発明で使用可能なテトラロン溶媒の他の例としては、2−(フェニルエポキシ)テトラロンおよび6−(メトキシ)テトラロンが含まれる。
【0019】
本発明において使用可能な芳香族ケトン溶媒の他の例としては、アセトフェノン(メチルフェニルケトン)、プロピオフェノン(エチルフェニルケトン)、ベンゾフェノン(ジフェニルケトン)、およびそれらの誘導体、例えば4−メチルプロピオフェノンが含まれる。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明において使用してよい他のケトン溶媒は、アリールまたはヘテロアリール基を有していない。ケトン溶媒のこのような1つの例は、以下に示す通りのイソフォロンであり、これは、(1atmで)215℃の沸点、(20℃で)0.92g/cm3の密度、(1atmで)−8℃の融点そして138の分子量を有する。
【化2】
【0022】
一部の場合において、ケトン溶媒は、2種以上のケトン溶媒の混合物(ブレンド物)であってよい。混合ケトン溶媒のこのような1つの例として、EASTMAN C−11 KETONE(商標)(Eastman)があり、これは、1atmで200℃の沸点、−12℃の融点、0.84mg/cm3の密度を有する。一部の場合において、液体組成物自体は、本発明のケトン溶媒でない溶媒を含む溶媒配合物を使用してよい。このような場合において、1つまたは複数のケトン溶媒は、液体組成物中の溶媒体積の少なくとも50%(体積%)を構成する。
【0023】
本発明で使用されるケトン溶媒は、それをインクジェット印刷などの溶液処理技術により有機層を形成するために有用なものにしているさまざまな化学的/物理的特性を有していてよい。例えば、ケトン溶媒は、25℃以下の融点を有していてよい。一部の場合においては、ケトン溶媒は、100〜250の範囲内の分子量を有する。一部の場合において、ケトン溶媒は150℃以上または200℃以上の沸点を有し;一部の場合には、150℃〜350℃または200℃〜350℃の範囲内の沸点を有する。この範囲内の沸点は、インクジェットプリントヘッドのノズルの目詰まりを防止する上で有用であるかもしれない。
【0024】
有機半導体材料は、半導体特性を示すことのできる、すなわち伝導帯と価電子帯の間のエネルギーギャップが0.1〜4eVの範囲内にある小分子有機化合物(有機金属化合物を含む)である。小分子有機半導体材料は、有機発光デバイスなどの有機電子デバイスの製造において使用されるものとして公知のまたは提案されているもののいずれかであってよい。例えば、有機半導体材料は、電荷輸送化合物(ホールまたは電子輸送)またはリン光発光性化合物である。
【0025】
「小分子」という用語は、ポリマーでないあらゆる化合物を意味し、「小分子」は実際には、かなり大きいものであってよい。小分子は、一部の状況において反復単位を含んでいてよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることによって、その分子が「小分子」であることから排除されることはない。一般に、小分子は、単一分子量を伴う明確な化学式を有し、一方ポリマーは、分子毎に変動するかもしれない化学式および分子量を有する。小分子有機半導体材料の分子量は典型的には3000以下である。
【0026】
一部の実施形態において、有機半導体材料は、電荷輸送化合物である。当技術分野においては、トリアリールアミン類、フタロシアニン類、金属フタロシアニン類、ポルフリン類、金属ポルフィリン類、インドロカルバゾール類、金属錯体、イミノスチルベン含有化合物、およびカルバゾール含有化合物を含めたさまざまなタイプの電荷輸送化合物が公知である。
【0027】
一部の実施形態において、有機半導体材料は、1つ以上の架橋結合官能基を有し、このため、(架橋結合官能基を有する別の有機半導体材料などの)別の分子上の反応基との共有結合の形成が可能になる。例えば、当技術分野においては架橋結合官能基を有するさまざまなタイプの電荷輸送化合物が公知である。一部の場合において、電荷輸送化合物は、その全体を参照により本明細書に援用するXiaらに対する米国特許出願公開第2008/0220265号明細書(2008年9月11日)中に記載されている架橋性イリジウム−リガンド錯体などの架橋結合官能基を有する有機金属錯体であってよい。このような架橋性イリジウム錯体には、以下の一般構造を有するものが含まれる:
【化3】
【0028】
各Lは、非局在化π−電子を含むかまたは、イリジウムの錯体の溶解度(水性または有機性)、メソゲン特性または電荷輸送能力を改善するのに役立つさまざまな二座リガンドのいずれかを含む、イリジウムと配位結合するリガンドを表わしている。例えば、リガンドLはフェニルピリジンまたはアセチルアセトンであってよい。
【0029】
各Kは、同様に、構造R1−A−B−R2、スペーサ基Sおよび1つ以上の架橋結合官能基Pを含むリガンドも表わす。変数「n」は1から3までの範囲の整数値を有する。n=1である場合、リガンドLは互いに同じまたは異なるものであってよい。n=2またはn=3である場合、リガンドKの各々は互いに同じまたは異なるものであってよい。架橋性官能基Pの例としてはビニル、アクリレート、エポキシド、オキセタン、トリフルオロエチレン、ベンゾシクロブテン、シロキサン、マレイミド、シアネートエステル、エチニル、ナジミド、フェニルエチニル、ビフェニレン、フタロニトリル、またはホウ酸が含まれる。
【0030】
構造A−Bは、互いに結合されている一対の芳香族環を表わす。環AおよびBは、各々5または6員の環である。環A上の原子Xは、窒素または炭素とし得るヘテロ原子を表わす。構造A−Bは、環A上の窒素原子および環B上のsp2混成炭素を介してイリジウムに対し配位結合される。
【0031】
環AまたはBの各々は、任意選択で置換基R1およびR2により置換され、ここでR1およびR2の各々は、それらのそれぞれの環上の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換を表わす。R1またはR2は、それらのそれぞれの環に連結または融合されてよい。R1およびR2置換基は、低級脂肪族化合物、低級アリールまたは低級ヘテロアリール基を含むことができる。
【0032】
架橋性反応性官能基を有する電荷輸送化合物のさらなる例としては、参照により本明細書に援用するTierneyらに対する米国特許出願公開第2004/0175638号明細書(2004年9月9日公開)中に開示されているものが含まれる。他の例としては、X.Jiangら、Advanced Functional Materials、vol.12:11−12、pp.745−751(December 2002)に開示されている重合性トリアリールアミン含有ペルフルオロシクロブタン類(PFCB)が含まれる。他の例としては、E.Bellmanら、Chem.Mater.、vol.10:1668−1676(1998)中に記載されているペンダントトリアリールアミン(TPA)基を伴うポリノルボルネン類が含まれる。他の例としては、B.Domercqら、Chem.Mater.、vol.15:1491−1496(2003)中に記載されている架橋性N,N’−ビス−(m−トリル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)ベースのホール輸送ポリマーが含まれる。他の例としては、O.Nuykenら、Designed Monomers & Polymers、vol.5:2−3、pp.195−210(2002)中に記載されているペンダントオキセタン基を伴うトリアリールアミンベースのホール輸送分子およびポリマーが含まれる。他の例としては、その全体を参照により本明細書に援用するWooらに対する米国特許第5,929,194号明細書(1999年7月27日発行)中に記載されている架橋性または鎖延長可能なポリアリールポリアミン類が含まれる。
【0033】
他の例としては、A.Bacherら、Macromolecules、vol.32:4551−4557(1999)中に記載されているアクリレート基を有するヘキサアルコキシトリフェニレン類が含まれる。他の例としては、E.Bacherら、Macromolecules、vol.38:1640−1647(2005)中に記載されている架橋性ホール伝導ポリマーが含まれる。他の例としては、その全体を参照により本明細書に援用するFarrandらに対する米国特許第6,913,710号明細書(2005年7月5日発行)中に記載されている反応性ベンゾジチオフェン類が含まれる。架橋結合基を有する電荷輸送化合物の他の例は、参照により本明細書に援用するMullerら、Synthetic Metals 111/112:31−34(2000)および米国特許出願公開第2005/0158523号明細書(Guptaら)中に記載されている。架橋性反応基を有する電荷輸送化合物の他の例としては、N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ビス(4−ビニルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミンなどのスチリル基を有するアリールアミン誘導体が含まれる。
【化4】
【0034】
液体組成物中の有機半導体材料の濃度は、特定の利用分野に応じて変動する。一部の実施形態において、有機半導体材料は、インクジェット印刷に適した濃度で提供される。一部の場合、有機半導体材料の濃度は0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合0.01〜2wt%の範囲内、そして一部の場合0.1〜1wt%の範囲内である。液体組成物の粘度は、特定の利用分野に応じて変動する。インクジェット印刷での使用のためには、適切な粘度は1〜25mPasまたは5〜25mPasの範囲内であり得る。有機半導体材料とケトン溶媒の相互作用は、液体組成物の粘度に影響を及ぼすかもしれない。したがって、液体組成物の粘度は、ケトン溶媒および/または有機半導体材料の選択を変えることによって、または各々の相対的量を変動させることによって調整してよい。液体組成物は同様に、OLEDなどの有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな他のタイプの有機材料のいずれを含んでいてもよい。
【0035】
液体組成物は、当技術分野において公知のいずれかの適切な溶液処理技術を用いて、表面上に被着される。例えば、液体組成物は、インクジェット印刷、ノズル印刷、オフセット印刷、転写印刷またはスクリーン印刷などの印刷プロセスを用いてか、または例えばスプレーコーティング、スピンコーティングまたはディップコーティングなどのコーティングプロセスを用いて被着させることができる。液体組成物の被着後、ケトン溶媒が除去されるが、これは真空乾燥または加熱などの任意の従来の方法を用いて実施されてよい。
【0036】
有機半導体材料が架橋性官能基を有する実施形態において、この方法はさらに、有機層を形成するための有機半導体材料の架橋結合を含んでいてよい。架橋結合は、UV光、ガンマ線またはX線を含めた熱および/または化学線に有機半導体材料を曝露することによって実施されてよい。架橋結合は、架橋結合反応を開始するフリーラジカルまたはイオンを生成するように熱または照射の下で分解する開始剤の存在下で実施されてよい。架橋結合は、デバイスの製造中にその場で実施されてよい。
【0037】
架橋結合した有機層を得ることは、溶液処理技術による多層有機電子デバイスの製造において有用であるかもしれない。詳細には、架橋結合した有機層は、その上に被着した溶媒により溶解させられたり、形態学的に影響を受けたりまたは劣化させられることを回避できる。架橋結合した有機層は、トルエン、キシレン、アニソールおよび他の置換芳香族および脂肪族溶媒を含めた有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな溶媒に対する耐性を有するかもしれない。こうして、下にある有機層が架橋結合され溶媒耐性を有するものとなった状態で、溶液堆積と架橋結合のプロセスとを反復して複数の層を作り出すことができる。
【0038】
こうして、一部の場合において、この方法はさらに、架橋結合した(第1の)有機層全体にわたり溶液処理により追加の(第2の)有機層を形成するステップを含む。この追加の(第2の)有機層は、電荷輸送層(例えばホール輸送層)または発光層であってよい。
【0039】
液体組成物は、OLEDなどの有機電子デバイスの製造に関与する表面を含めた、さまざまな異なるタイプの表面上に被着されてよい。一部の実施形態において、表面は、液体組成物中で使用されるケトン溶媒との関係において親水性である。この特徴は、表面を濡らす液体組成物の能力を改善するために有用であるかもしれない。以下の実施例の節で記述する通り、液体組成物により表面を十分に濡らすと、形成される有機層の質を改善することができる。表面を十分に濡らす溶媒の能力は、表面上(または実際の表面と同じ材料で作られる匹敵する被験表面上)に塗布されるケトン溶媒の小滴の濡れ接触角により実証可能である。
【0040】
例えば、図1は、インジウムスズ酸化物で作られた未処理の平面表面20上に適用されたケトン溶媒の液滴10を示している。液滴10の濡れ接触角は、表面20との境界面における液滴10に対する接線と表面20自体の平面の間の角度θである。一般に、液滴10は表面20上を半径方向に拡散し、半径方向拡散の範囲は、溶媒による表面20の濡れが増大するにつれて大きくなる。接触角θは、液滴10が半径方向に拡散するにつれて減少することから、接触角がより小さくなれば、それは溶媒による表面20の濡れがより大きいことを表わす。したがって、ケトン溶媒および/または表面は、表面(または実際の表面と同じ材料で作られた被験表面)上に適用されたケトン溶媒の液滴が、20°以下;そして一部の場合では10°以下;そして一部の場合では5°以下の接触角を有するような形で選択されてよい。
【0041】
本発明の別の態様においては、液体組成物は、芳香族エーテル溶媒中に混合された小分子有機半導体材料を含む。液体組成物はその後、表面上に被着され、乾燥させられて有機層を形成する。「芳香族エーテル溶媒」とは、溶媒分子が一般構造式R−O−R’を有するエーテルであり、ここでRまたはR’の少なくとも1つがアリールを含み、RおよびR’が同じであるかまたは異なるものであることを意味している。一部の場合においてRおよびR’の両方がアリールを含む。一部の場合において、溶媒分子は(アリール)−O−(アリール)という式を有し、アリール基は各々独立して選択される(すなわちこれらは同じものであっても異なるものであってもよい)。
【0042】
本発明で使用される芳香族エーテル溶媒は、それをインクジェット印刷などの溶液処理技術によって有機層を形成するために有用なものにするさまざまな化学的/物理的特性を有していてよい。例えば、芳香族エーテル溶媒は、25℃以下の融点を有するかもしれない。一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は100〜250の範囲内の分子量を有する。一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は150℃以上または200℃以上の沸点を有し、一部の場合には、150℃〜350℃または200℃〜350℃の範囲内の沸点を有する。この範囲内の沸点は、インクジェットプリントヘッドのノズルの目詰まりを防ぐ上で有用であるかもしれない。
【0043】
本発明において使用するのに適したものであるかもしれない芳香族エーテル溶媒の例を、下表2に記す。
【0044】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0045】
一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は、2つ以上の芳香族エーテル溶媒の配合物であってよい。一部の場合において、液体組成物自体は、本発明の芳香族エーテル溶媒以外の溶媒を含む溶媒配合物を使用してよい。このような場合、1つまたは複数の芳香族エーテル溶媒は、液体組成物中の溶媒体積の少なくとも50%(体積%)を構成する。
【0046】
有機半導体材料は、上述のもののいずれかであってよい。一部の場合において、有機半導体材料は、リン光発光性化合物である。全て参照により本明細書に援用する米国特許第6,902,830号明細書(Thompsonら)および米国特許出願公開第2006/0251923号明細書(Linら)、米国特許出願公開第2007/0088167号明細書(Linら)、米国特許出願公開第2006/0008673号明細書(Kwongら)および米国特許出願公開第2007/0003789号明細書(Kwongら)中に記載されている遷移金属の有機金属錯体を含めた、さまざまなタイプのリン光発光性化合物のいずれかが適切であるかもしれない。
【0047】
液体組成物中の有機半導体材料の濃度は、特定の利用分野によって変動するものである。一部の実施形態において、有機半導体材料は、インクジェット印刷に適した濃度で提供される。一部の場合では、有機半導体材料の濃度は、0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合では0.01〜2wt%の範囲内であり、一部の場合では0.1〜1wt%の範囲内である。
【0048】
液体組成物の粘度は、特定の利用分野によって変動するものである。インクジェット印刷において使用するためには、適切な粘度は1〜25mPasまたは5〜25mPasの範囲内にあり得る。有機半導体材料と芳香族エーテル溶媒との相互作用は、液体組成物の粘度に影響を及ぼすかもしれない。したがって、芳香族エーテル溶媒および/または有機半導体材料の選択を変動させることによってかまたは各々の相対的量を変動させることにより、液体組成物の粘度を調整してもよい。液体組成物は、OLEDなどの有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな他のタイプの有機材料のいずれかを含んでいてもよい。例えば、液体組成物がOLEDの発光層を作製するために使用される場合、この液体組成物はさらにホスト材料を含んでいてよい。有機層は、上述のもののいずれであってもよい(例えばOLED内のホール注入層、ホール輸送層または発光層)。液体組成物を伴う有機層を作製するために、上述のプロセスのいずれを使用してもよい。
【0049】
参照により本明細書に援用する米国特許出願公開第2005/0072021号明細書(Steigerら)中に開示されているものなどの、有機発光デバイス、有機電界効果トランジスタ(OFET)、有機薄膜トランジスタ(OTFT)、有機光起電デバイスおよび有機太陽電池を含めたさまざまな有機電子デバイスの製造において、本発明を使用することが可能である。例えば、図2は、本発明を用いて製造してよいOLED100を示す。OLED100は、当技術分野において周知であるアーキテクチャを有する(例えば、参照により本明細書に援用するXiaらに対する米国特許出願公開第2008/0220265号明細書を参照されたい)。図2を見ればわかるように、OLED100は、基板110、アノード115、ホール注入層120、ホール輸送層125、電子ブロッキング層130、発光層135、ホールブロッキング層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155およびカソード160を有する。カソード160は、第1の導電層162および第2の導電層164を有する複合カソードである。第1層が、第2層の「上」にあるとして記述されている場合、第1層は基板からさらに離れて配置されている。第1層が第2層と「物理的に接触状態にある」と規定されているのでないかぎり、第1層と第2層との間に他の層が存在してもよい。例えば、間にさまざまな有機層が存在するとしても、カソードをアノードの「上」に配置されているものとして記述できる。
【0050】
本発明は、OLED中のさまざまな有機層の任意の層を作製するために適しているかもしれない。例えば、図2を再び参照すると、ホール注入層120を作製する上で本発明を使用してもよい。この場合、液体組成物が上に被着される表面はアノード115である。アノード115は、ホールを有機層まで輸送するのに十分な導電性をもついずれかの適切なアノードであってよい。アノード115を作製するために使用される材料は、好ましくは、約4eVより高い仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)およびアルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)が含まれる。別の実施例においては、ホール輸送層125を作製するために、本発明を使用してもよい。別の実施例では、発光層135を作製するために本発明を使用してもよい。
【実施例】
【0051】
本発明の具体的で代表的な実施形態について、このような実施形態の実施方法を含めて、次に記述する。具体的な方法、材料、条件、プロセスパラメータ、装置類などが、必ずしも本発明の範囲を限定するものではないということを理解すべきである。
【0052】
有機層は、さまざまな溶媒を用いてインクジェット印刷により作製された。4つの異なる溶媒中に以下で示す化合物1(架橋性イリジウム錯体)を0.1wt%の濃度で溶解させることによってインクジェット液を調製した。
【化5】
【0053】
使用した溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)、安息香酸エチル、酢酸ベンジル、および1−テトラロンであり、その沸点および密度は、下表3に示されている。この表を見ればわかるように、これら4つの溶媒は、類似の沸点と密度を有する。
【0054】
【表7】
【0055】
インクジェット液を濾過し、使い捨てのインクカートリッジ内に充填した。次にインクジェット液を、図3Aおよび3Bに示された基板上にインクジェット印刷した。これらの図は、OLED製造において使用される従来の基板の概略図である。ガラス基板30をインジウムスズ酸化物(ITO)層38とSiO2緩衝層32とでコーティングした。画素マトリクスを形成するために、ITO表面38上にポリイミド層をパターン化して、画素を画定する区画36を形成した。図3Bの垂直断面図に見られるように、区画36は、持ち上ったポリイミド隔壁34により画定されている。ポリイミド隔壁34は、ITO層38およびSiO2緩衝層32の表面に比べて相対的に疎水性であるか、または反対に、ITO層38およびSiO2緩衝層32の表面は、ポリイミド隔壁34に比べて相対的に親水性である。
【0056】
したがって、本発明においては、液体組成物を被着させるために用いられる表面は、隔壁により画定される区画を有していてよく、区画は隔壁よりも親水性である。この設計により、区画は、液体組成物中のケトン溶媒との関係において親水性であり、隔壁は、ケトン溶媒との関係において疎水性であり、こうして隔壁は液体組成物をはじくことができるようになる。その結果、隔壁上全体にわたるおよび隣接する画素区画内への被着した液体組成物の望ましくないオーバーフローを回避でき、画素区画の平担化された充填を改善することが可能となる。必要な場合、表面の親水性を調整するために、周知の表面処理技術(例えば酸素またはCF4プラズマ処理)によって表面を修飾することができる。
【0057】
インクジェット液の多数の滴を基板上の各画素区画内に噴射し、その結果は、図4A−4Cの左欄に示されている。インクジェット印刷の後、溶媒を室温で10分間真空乾燥させ、結果は図4A−4Cの右欄に示されている。溶媒としてNMPを用いたインクジェット液は急速に乾燥しすぎて印刷できなかった(したがって図4には示されていない)。
【0058】
図4Aの左図版を参照すると、溶媒として安息香酸エチルを使用するインクジェット液については、基板上にインクジェット液の滴の不均等分布が存在した。図4Aの第2の図版に見られるように、乾燥後に形成された有機層は、不均一であり、画素は一部が過度に厚く、他は過度に薄いものであった。
【0059】
図4Bの左図版を参照すると、溶媒として酢酸ベンジルを用いるインクジェット液について、隣接する画素区画内へのインクジェット液のオーバーフローが存在した。これは、溶媒がITO表面を十分に濡らすことができないことの結果と考えられる。
【0060】
図4Cの左図版を参照すると、溶媒として1−テトラロンを用いるインクジェット液について、インクジェット印刷は、画素の非常に均等な充填を結果としてもたらした。図4Cの第2の図版に見られるように、有機層を乾燥させた後、結果として得られた画素は、平担で均一であった。これは、なかでも、1−テトラロン溶媒がインクジェット印刷のために十分な粘度とITO表面を十分に濡らす能力をインクジェット液にもたらすことを表わすと考えられる。
【0061】
他の溶媒と比べ1−テトラロンを用いてこのような優れた結果が得られることは、他の溶媒も1−テトラロンと類似の沸点および密度を有する1−テトラロンと同様の極性溶媒であったことから、意外で予期せぬことである。理論により束縛されることは意図していないものの、テトラロン上の芳香族環、テトラロン上のケトン官能基、またはその両方が組合わされて、有機半導体材料と相互作用して、これらの注目すべき能力を有する液体組成物を提供するものと考えられる。
【0062】
これらの注目すべき結果を得て、本発明の液体組成物を用いて機能的OLEDが製造された。以下で示す導電率ドーパントと共に0.1wt%の濃度で1−テトラロン中に以下に示す架橋性HIL材料(架橋性イリジウム錯体)を溶解させることによって、ホール注入層を作製するためのインクジェット液を調製した。本明細書中で使用する「導電率ドーパント」とは、添加剤として有機層に適用された場合に有機電子デバイスの有機層の導電率を増大させる有機小分子を意味する。HIL材料と導電率ドーパントとの間の重量比は97:3であった。その後インクジェット液を濾過し、使い捨てのインクカートリッジの中に充填した。
【化6】
【0063】
0.2wt%の濃度で以下に示す架橋性HTL材料を1−テトラロン中に溶解させることによって、ホール輸送層を作製するためのインクジェット液を調製した。インクジェット液を次に濾過し、使い捨てインクカートリッジ内に充填した。
【化7】
【0064】
88:12のホスト:ドーパント重量比で、以下に示すリン光発光緑色ドーパント材料と共に以下に示すEMLホスト材料を1.0wt%の濃度で3−フェノキシトルエン中に溶解させることによって、発光層を作製するためのインクジェット液を調製した。インクジェット液を次に濾過し、使い捨てインクカートリッジ内に充填した。
【化8】
【0065】
図3に示されているものと類似の基板上にHILインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥することにより、ホール注入層を作製した。その後、結果として得た有機層を250℃で30分間のホットプレート焼成に付して、より多くの溶媒を除去し、HIL材料を架橋結合させた。架橋結合させたホール注入層上にHTLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥することにより、ホール輸送層を作製した。結果として得た有機層を次に200℃で30分間ホットプレート焼成に付して、より多くの溶媒を除去し、HTL材料を架橋結合させた。架橋結合したホール輸送層上にEMLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後10分間室温で真空乾燥し、次に100℃で60分間焼成することにより、発光層を作製した。
【0066】
複合HPT(以下に示す)を含むホールブロッキング層、Alq3[アルミニウム(III)トリス(8−ヒドロキシキノリン)]を含む電子輸送層、LiFを含む電子注入層およびアルミニウム電極(カソード)を順次従来の手法で真空蒸着させた。
【化9】
【0067】
結果として得た緑色発光OLEDを室温で20mA/cm2のDC定電流下で動作させて、その性能をテストした。図5は、経時的光度プロットとして描かれたデバイスの動作寿命を示す。図5に見られるように、デバイスは、(2000cd/m2の初期レベルの80%に至るまでの明度減衰にかかった時間によって測定した場合)100時間の寿命を有していた。デバイス性能結果は、下表4にまとめられている。
【0068】
【表8】
【0069】
比較的高沸点の溶媒を用いた有機層のインクジェット印刷の結果、被着された有機層内に溶媒残渣が残ることになる可能性がある。有機層内のこの溶媒残渣は、電子デバイスの性能と干渉し得ると考えられる。したがって、高沸点溶媒の使用に伴う問題の1つは、被着させた有機層から溶媒を除去するのが困難であるという点にある。高温での焼成は、溶媒の除去を迅速化し得るが、これは、デバイスの熱崩壊をひき起こす可能性がある。同様に、高温で焼成しても、被着させた有機層から溶媒残渣が完全に除去されないかもしれない。
【0070】
インクジェット被着させた有機層中の溶媒残渣は、溶媒自体または溶媒調製物中の不純物であるかもしれない。しかし、高沸点溶媒の場合は、何らかの不純物ではなくむしろ溶媒そのものが有機層内の支配的な残渣となるものと考えられている。例えば、市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物は、典型的に95〜99%の純度を有する(すなわち1〜5wt%の不純物含有量を有する)。上述の緑色発光OLEDを製造する上で使用される3−フェノキシトルエン溶媒調製物は、TCI America(Portland,OR)から得たものであった。TCI America(Portland,OR)から得たこの3−フェノキシトルエン溶媒調製物の不純物含有量を調査するために、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)およびガスクロマトグラフィ質量分析法(GC−MS)により溶媒調製物を分析した。図6Aは、3−フェノキシトルエン溶媒調製物の試料について実施されたガスクロマトグラフィ出力を示しており、ここで、化合物は沸点の逓増順で溶出している、換言すると、より高い沸点を有する化合物がより長く保持されている。主ピークは、3−フェノキシトルエン(すなわち溶媒自体)を表わしている。約7.29の保持時間にある左側のより小さいピークは、主不純物を表わし、これはジフェニルエーテルであるものとして同定されている。主ピークの右側のさらに一層小さい多数のピークは、3−フェノキシトルエンよりも高い沸点を有する(すなわちより長い保持時間を有する)不純物を表わしている。同様にして、3−フェノキシトルエン溶媒調製物の試料について実施されたUV−HPLC(250nmおよび227nm)出力は、それぞれ3−フェノキシトルエン、ジフェニルエーテルそして微量の他の不純物をそれぞれに表わす、主ピーク、副ピークそして多数のより小さいピークを示している。
【0071】
次に、この市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物(これは比較的高純度のものであり大部分の商業的用途に適したものであるにせよ以下ではこれを「粗製」3−フェノキシトルエン溶媒調製物と呼ぶものとする)を、以下の通りに分別蒸留によって精製した。全てのガラス製品を脱イオン水で清浄し、4時間オーブン乾燥した。粗製3−フェノキシトルエン溶媒調製物を、分別蒸留装置が取付けられた丸底フラスコ内に入れ、これを真空ポンプに接続した。冷水(約18℃)で蒸留液収集経路を冷却した。蒸留液留分を収集し、HPLCおよび/またはGC−MSにより分析した。55℃の温度で30mbarの圧力下で、収集した留分はかなりの量の不純物を含んでいたため、廃棄した。58〜60℃で収集した留分は、きわめて少量の不純物しか含まないことがわかった。図7Aはこの留分のガスクロマトグラフィを示している。ここでわかるように、比較的沸点が高い不純物(すなわち主ピークの右側)はほぼ完全に除去されているが、ジフェニルエーテル不純物の一部はなおも存在している。図7Bは、この留分のUV−HPLC出力を示しており、比較的高い沸点の不純物が除去されたことを確認している。
【0072】
この精製された3−フェノキシトルエン溶媒調製物を使用して、以下のようにOLEDを製造した。上述のデバイスと同じ材料を用いて、上述のものと類似のプロセスにより溶媒として1−テトラロンを用いてインクジェット印刷によって、デバイス用のHIL層およびHTL層を作製した。上述のものと同じ要領で、粗製3−フェノキシトルエン溶媒調製物(対照デバイス用)または精製済み3−フェノキシトルエン溶媒調製物(被験デバイス用)の各々を用いて、EMLのためのインクジェット液を作製した。架橋結合したHTL上にEMLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥し、次に100℃で60分間焼成することにより、発光層を作製した。焼成温度は3−フェノキシトルエンの沸点(272℃)よりもはるかに低いことから、このプロセスによってEMLから3−フェノキシトルエンが完全に除去されることは期待されていない。複合HPT(以下で示す)を含むホールブロッキング層、Alq3[アルミニウム(III)トリス(8ヒドロキシキノリン)]を含む電子輸送層、LiFを含む電子注入層およびアルミニウム電極(カソード)を順次従来の手法で真空蒸着させた。
【0073】
図8は、経時的光度プロットとして2つのデバイスの動作寿命を示す。精製済み溶媒調製物を用いて製造された被験デバイスが、200時間の寿命(DC定駆動下で、室温で2000cd/m2の初期レベルの80%までの輝度の減衰にかかった時間により測定したもの)を有していたのに対して、粗製溶媒調製物を用いて製造された対照デバイスの場合は100時間であった。
【0074】
デバイス性能のこの差異は、粗製溶媒調製物対精製済み(再蒸留済み)溶媒調製物を使用したインクジェット印刷により形成されたEML内に残っている残渣の違いの結果であると考えられている。しかしながら、以上で説明した通り、溶媒調製物中のいずれの不純物よりも溶媒自体が残渣中の支配的種であると考えられていることから、デバイス性能のこの有意な改善は予想外の結果である。粗製溶媒調製物について以上で示した通り、不純物は、溶媒調製物のわずかな留分を構成しているにすぎず、したがって残渣材料のわずかな留分しか構成しないと考えられる。これらの少量の不純物を除去することで、溶媒残渣の組成が有意に変更されることは予期されておらず、したがって、不純物の除去によりデバイスの性能に対する有意な効果がもたらされるとは予期されないと思われる。
【0075】
さらに、主不純物であるジフェニルエーテルは、再蒸留済み溶媒調製物中になおも存在している。粗製溶媒調製物と再蒸留済み溶媒調製物との間の最も有意な差異は、再蒸留済み溶媒調製物中に比較的高い沸点の不純物が存在しないという点にある。粗製溶媒調製物について以上で示した通り、これらの比較的高い沸点の不純物は、それ自体溶媒調製物のわずかな留分しか構成していない全不純物のわずかな留分(おそらくは約10%以下)しか構成しない。したがって、これらの微量の比較的高沸点の不純物を除去することで、デバイス性能のこのような劇的な改善が結果としてもたらされるということは、さらに意外である。
【0076】
したがって、これらの意外な結果に基づいて、本発明では、比較的高沸点の不純物の含有量が削減された溶媒調製物を用いて有機層を作製することにより、デバイス性能の改善が可能であると考えられる。一部の実施形態において、溶媒調製物は、高沸点溶媒、および溶媒自体よりもさらに高い沸点をもつ0.1wt%以下の不純物を含んでいる。本明細書中で使用する「高沸点溶媒」とは、1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒を意味する。したがって、3−フェノキシトルエン(BP=272℃)および1−テトラロン(BP=256℃)は、高沸点溶媒とみなされると考えられる。一部の場合において、高沸点溶媒は、(1atmで)250℃以上の沸点を有する溶媒である。高沸点溶媒は、(1atm)で350℃という高い沸点を有していてよいが、他の沸点範囲も同様に可能である。溶媒は、インクジェット印刷におけるその使用を容易にするため、25℃以下の融点を有していてよい。市販の溶媒調製物を再蒸留することによって溶媒調製物を製造してよい。
【0077】
上述の要領で小分子有機半導体材料と溶媒調製物を混合して、有機層を作製するための液体組成物を形成する。その後、溶液処理技術(例えばインクジェット印刷)により表面上に液体組成物を被着させて、有機層を形成する。一部の場合、有機半導体材料の濃度は0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合、0.01〜2wt%の範囲内、そして一部の場合、0.1〜1wt%の範囲内である。
【0078】
したがって、一部の実施形態において、本発明の液体組成物は、高沸点溶媒と、その中に混合された小分子有機半導体材料とを含む。溶媒調製物および小分子有機半導体材料により導入されるあらゆる溶解した不純物(ただし固体不純物は除く)を考慮すると、液体組成物は、溶媒より高い沸点を有する不純物を0.1wt%以下有していてよい。
【0079】
本発明は、HIL、HTLまたはEMLを含めたOLED中のさまざまな有機層のいずれを作製するためにも適しているかもしれない。本発明を用いて製造されたOLEDは、対応する有機層(例えば発光層)が粗製溶媒調製物を用いて作製されるという点を除いて同じ要領で製造されている匹敵するデバイスに比べて、著しく改善されたT80寿命(DC定駆動下で、室温で初期レベルの80%までの明度減衰にかかった時間)を有しているかもしれない。例えば、デバイスの寿命(T80)は、粗製溶媒調製物を用いて製造された匹敵するデバイスに比べて、少なくとも1.5倍長くなり、一部の場合、少なくとも2倍長くなり得る。
【0080】
上述の記述および実施例は、単に本発明を例示するためのみに示されており、限定的であることを意図されたものではない。本発明の開示された態様および実施形態の各々は、個別に、または本発明の他の態様、実施形態および変形形態と組合せた形で考慮されてよい。さらに、別段の規定のないかぎり、本発明の方法のステップはいずれも、いずれかの特定の実施順序に限定されない。当業者であれば、本発明の趣旨および本質を取込んでいる開示された実施形態の修正を認識するかもしれず、このような修正は、本発明の範囲内に入るものである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月17日出願の米国仮特許出願第61/187,862号明細書に対する優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、有機発光デバイスなどの有機電子デバイス内に有機層を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、有機発光デバイス(OLED)は、小分子材料については真空蒸着によって、そしてポリマー材料についてはスピンコーティングまたはディップコーティングによって製造されてきた。より近年では、OLEDの製造において有機薄膜層を直接被着するために、インクジェット印刷が使用されてきた。ポリマー材料のインクジェット印刷のためには、トルエンまたはキシレンなどのさまざまな従来の溶媒を使用することができる。しかしながら、従来ポリマー材料のインクジェット印刷用に使用されたこれらの溶媒は多くの場合、小分子材料の被着のためにも同じようにうまく機能するわけではない。したがって、有機層を形成するための小分子材料のインクジェット印刷に適した改良型インクジェット液調合物に対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,902,830号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0251923号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0088167号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0008673号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0003789号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、比較的高沸点の不純物の含有量が削減されている溶媒調製物を用いて溶液処理(例えばインクジェット印刷)することにより有機層を形成する改良された方法を提供する。この方法により被着された有機層を用いるOLEDなどの有機電子デバイスは、改良されたデバイス性能を有し得る。
【0006】
一実施形態において、本発明は、有機電子デバイス用の有機層の形成方法において:溶媒調製物中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を提供するステップであって、溶媒調製物が、溶媒と溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物とを含み、溶媒が1atmで200℃以上の沸点を有しているステップと;液体組成物を表面上に被着させるステップと、を含む方法を提供している。被着は、インクジェット印刷または他の溶液処理技術により実施されてよい。溶媒調製物は、市販の溶媒調製物の再蒸留によって製造されてよい。
【0007】
別の実施形態において、本発明は、1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒と;0.01〜10wt%の範囲内の濃度で溶媒中に混合された小分子有機半導体材料とを含み、溶媒に比べて高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物を有している液体組成物を提供している。3−フェノキシトルエンや1−テトラロンを含め、さまざまな溶媒を使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】濡れ接触角θが測定されている状態の、インジウムスズ酸化物で作られた平面である処理表面上に適用された本発明のケトン溶媒の液滴を示している。
【図2】本発明の一実施形態に係るOLEDの構造を示す。
【図3A】インクジェット印刷が適用されるかもしれない基板の概略図を示す上面図である。
【図3B】インクジェット印刷が適用されるかもしれない基板の概略図を示す垂直断面図である。
【図4A】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図4B】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図4C】さまざまな有機溶媒を用いた小分子有機半導体材料のインクジェット印刷に由来する結果を示す。
【図5】本発明の一実施形態にしたがって製造されたOLEDの(輝度と時間の関係としてプロットした)寿命を示す。
【図6A】再蒸留前の市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のガスクロマトグラムを示す。
【図6B】再蒸留前の市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のUV−HPLC出力を示す。
【図7A】再蒸留後の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のガスクロマトグラムを示す。
【図7B】再蒸留後の3−フェノキシトルエン溶媒調製物のUV−HPLC出力を示す。
【図8】経時的な光度のプロットとして描かれたOLED例の動作寿命を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中で使用すべく意図されている以下の用語の意味は、次の通りである。
【0010】
「脂肪族」という用語は、線状、分岐または非芳香族環内の飽和または不飽和ヒドロカルビルを意味する。炭素は、単結合(アルキル)、2重結合(アルケニル)、または3重結合(アルキニル)により結合され得る。水素以外に、酸素、窒素、硫黄またはハロゲンなどの他の元素を置換として炭素に結合させることが可能である。「脂肪族」という用語は同様に、炭素原子の代わりに酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素などのヘテロ原子を含むヒドロカルビル類をも包含する。
【0011】
「アルキル」という用語は、アルキル部分を意味し、線状および分岐アルキル鎖の両方を包含する。さらにアルキル部分自体は1つ以上の置換基で置換されてもよい。「ヘテロアルキル」という用語は、ヘテロ原子を含むアルキル部分を意味する。
【0012】
「低級」という用語は、脂肪族化合物または上述のタイプの脂肪族化合物のいずれかに言及する場合、脂肪族基が1〜15個の炭素原子を含むことを意味している。例えば低級アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどを含む。
【0013】
「アリール」という用語は、単環基および多環式環系を含む少なくとも1つの芳香族環を含むヒドロカルビルを意味する。「ヘテロアリール」という用語は、単環基および多環式環系を含む、少なくとも1つの複素環式芳香族環を含む(すなわちヘテロ原子を含む)ヒドロカルビルを意味する。多環式環は、2つの隣接する環によって2つの炭素原子が共有されている(すなわちこれらの環は「融合され」ている)2つ以上の環を有していてよく、ここで環の少なくとも1つは芳香族環または複素環式芳香族環である。「低級アリール」または「低級ヘテロアリール」という用語は、それぞれ、3〜15個の炭素原子を含むアリールまたはヘテロアリールを意味する。
【0014】
アリール基の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ペリレン、テトラセン、ピレン、ベンズピレン、クリセン、トリフェニレン、アセナフテン、フルオレンおよびこれらから誘導されたものが含まれる。ヘテロアリール基の例としては、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピロール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、チアゾール、テトラゾール、インドール、カルバゾール、ピロロイミダゾール、ピロロピラゾール、ピロロピロール、チエノピロール、チエノチオフェン、フロピロール、フロフラン、チエノフラン、ベンゾイソキサゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾイミダゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キノキサリン、フェナントリジン、ベンゾイミダゾール、ペリミジン、キナゾリン、キナゾリノン、アズレンおよびこれらから誘導されたものが含まれる。
【0015】
本発明は、溶液処理技術による有機層の形成に関する。一態様において、本発明は、有機層を形成する方法を提供する。この方法には、ケトン溶媒中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を提供するステップが含まれる。液体組成物は次に、表面上に被着され、乾燥させられて有機層を形成する。
【0016】
「ケトン溶媒」とは、溶媒化合物が分子構造中に1つ以上のケトン官能基を有することを意味している。一部の実施形態では、ケトン溶媒は芳香族ケトン溶媒である。「芳香族ケトン溶媒」とは、溶媒分子が1つ以上のアリールまたはヘテロアリール基と1つ以上のケトン官能基とを含むことを意味している。
【0017】
一部の実施形態において、芳香族ケトン溶媒はテトラロン溶媒である。「テトラロン溶媒」とは、溶媒化合物が、フェニル環がシクロヘキサノンと縮合されている2環式ケトンであるかまたはそれを含んでいることを意味している。本発明で使用可能なテトラロンの例としては、以下に示す1−テトラロンおよび2−テトラロンが含まれる。1−テトラロンと2−テトラロンの化学的および/または物理的特性は、当技術分野において公知であるかまたは、従来の技術によって容易に決定可能である。例えば、1−テトラロンは、(1atmで)256℃の沸点、(20℃で)1.1g/cm3の密度、(1atmで)5〜6℃の融点そして146の分子量を有するものとして公知である。
【化1】
【0018】
「テトラロン溶媒」という用語も同様に、環(すなわちフェニル環とシクロヘキサン環)のいずれかまたは両方の上に1つ以上の置換が存在する1−テトラロンと2−テトラロンの誘導体を包含するように意図されている。このような置換には、低級脂肪族化合物、低級アリール、低級ヘテロアリールまたはハロゲンが含まれる。したがって、本発明で使用可能なテトラロン溶媒の他の例としては、2−(フェニルエポキシ)テトラロンおよび6−(メトキシ)テトラロンが含まれる。
【0019】
本発明において使用可能な芳香族ケトン溶媒の他の例としては、アセトフェノン(メチルフェニルケトン)、プロピオフェノン(エチルフェニルケトン)、ベンゾフェノン(ジフェニルケトン)、およびそれらの誘導体、例えば4−メチルプロピオフェノンが含まれる。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明において使用してよい他のケトン溶媒は、アリールまたはヘテロアリール基を有していない。ケトン溶媒のこのような1つの例は、以下に示す通りのイソフォロンであり、これは、(1atmで)215℃の沸点、(20℃で)0.92g/cm3の密度、(1atmで)−8℃の融点そして138の分子量を有する。
【化2】
【0022】
一部の場合において、ケトン溶媒は、2種以上のケトン溶媒の混合物(ブレンド物)であってよい。混合ケトン溶媒のこのような1つの例として、EASTMAN C−11 KETONE(商標)(Eastman)があり、これは、1atmで200℃の沸点、−12℃の融点、0.84mg/cm3の密度を有する。一部の場合において、液体組成物自体は、本発明のケトン溶媒でない溶媒を含む溶媒配合物を使用してよい。このような場合において、1つまたは複数のケトン溶媒は、液体組成物中の溶媒体積の少なくとも50%(体積%)を構成する。
【0023】
本発明で使用されるケトン溶媒は、それをインクジェット印刷などの溶液処理技術により有機層を形成するために有用なものにしているさまざまな化学的/物理的特性を有していてよい。例えば、ケトン溶媒は、25℃以下の融点を有していてよい。一部の場合においては、ケトン溶媒は、100〜250の範囲内の分子量を有する。一部の場合において、ケトン溶媒は150℃以上または200℃以上の沸点を有し;一部の場合には、150℃〜350℃または200℃〜350℃の範囲内の沸点を有する。この範囲内の沸点は、インクジェットプリントヘッドのノズルの目詰まりを防止する上で有用であるかもしれない。
【0024】
有機半導体材料は、半導体特性を示すことのできる、すなわち伝導帯と価電子帯の間のエネルギーギャップが0.1〜4eVの範囲内にある小分子有機化合物(有機金属化合物を含む)である。小分子有機半導体材料は、有機発光デバイスなどの有機電子デバイスの製造において使用されるものとして公知のまたは提案されているもののいずれかであってよい。例えば、有機半導体材料は、電荷輸送化合物(ホールまたは電子輸送)またはリン光発光性化合物である。
【0025】
「小分子」という用語は、ポリマーでないあらゆる化合物を意味し、「小分子」は実際には、かなり大きいものであってよい。小分子は、一部の状況において反復単位を含んでいてよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることによって、その分子が「小分子」であることから排除されることはない。一般に、小分子は、単一分子量を伴う明確な化学式を有し、一方ポリマーは、分子毎に変動するかもしれない化学式および分子量を有する。小分子有機半導体材料の分子量は典型的には3000以下である。
【0026】
一部の実施形態において、有機半導体材料は、電荷輸送化合物である。当技術分野においては、トリアリールアミン類、フタロシアニン類、金属フタロシアニン類、ポルフリン類、金属ポルフィリン類、インドロカルバゾール類、金属錯体、イミノスチルベン含有化合物、およびカルバゾール含有化合物を含めたさまざまなタイプの電荷輸送化合物が公知である。
【0027】
一部の実施形態において、有機半導体材料は、1つ以上の架橋結合官能基を有し、このため、(架橋結合官能基を有する別の有機半導体材料などの)別の分子上の反応基との共有結合の形成が可能になる。例えば、当技術分野においては架橋結合官能基を有するさまざまなタイプの電荷輸送化合物が公知である。一部の場合において、電荷輸送化合物は、その全体を参照により本明細書に援用するXiaらに対する米国特許出願公開第2008/0220265号明細書(2008年9月11日)中に記載されている架橋性イリジウム−リガンド錯体などの架橋結合官能基を有する有機金属錯体であってよい。このような架橋性イリジウム錯体には、以下の一般構造を有するものが含まれる:
【化3】
【0028】
各Lは、非局在化π−電子を含むかまたは、イリジウムの錯体の溶解度(水性または有機性)、メソゲン特性または電荷輸送能力を改善するのに役立つさまざまな二座リガンドのいずれかを含む、イリジウムと配位結合するリガンドを表わしている。例えば、リガンドLはフェニルピリジンまたはアセチルアセトンであってよい。
【0029】
各Kは、同様に、構造R1−A−B−R2、スペーサ基Sおよび1つ以上の架橋結合官能基Pを含むリガンドも表わす。変数「n」は1から3までの範囲の整数値を有する。n=1である場合、リガンドLは互いに同じまたは異なるものであってよい。n=2またはn=3である場合、リガンドKの各々は互いに同じまたは異なるものであってよい。架橋性官能基Pの例としてはビニル、アクリレート、エポキシド、オキセタン、トリフルオロエチレン、ベンゾシクロブテン、シロキサン、マレイミド、シアネートエステル、エチニル、ナジミド、フェニルエチニル、ビフェニレン、フタロニトリル、またはホウ酸が含まれる。
【0030】
構造A−Bは、互いに結合されている一対の芳香族環を表わす。環AおよびBは、各々5または6員の環である。環A上の原子Xは、窒素または炭素とし得るヘテロ原子を表わす。構造A−Bは、環A上の窒素原子および環B上のsp2混成炭素を介してイリジウムに対し配位結合される。
【0031】
環AまたはBの各々は、任意選択で置換基R1およびR2により置換され、ここでR1およびR2の各々は、それらのそれぞれの環上の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換を表わす。R1またはR2は、それらのそれぞれの環に連結または融合されてよい。R1およびR2置換基は、低級脂肪族化合物、低級アリールまたは低級ヘテロアリール基を含むことができる。
【0032】
架橋性反応性官能基を有する電荷輸送化合物のさらなる例としては、参照により本明細書に援用するTierneyらに対する米国特許出願公開第2004/0175638号明細書(2004年9月9日公開)中に開示されているものが含まれる。他の例としては、X.Jiangら、Advanced Functional Materials、vol.12:11−12、pp.745−751(December 2002)に開示されている重合性トリアリールアミン含有ペルフルオロシクロブタン類(PFCB)が含まれる。他の例としては、E.Bellmanら、Chem.Mater.、vol.10:1668−1676(1998)中に記載されているペンダントトリアリールアミン(TPA)基を伴うポリノルボルネン類が含まれる。他の例としては、B.Domercqら、Chem.Mater.、vol.15:1491−1496(2003)中に記載されている架橋性N,N’−ビス−(m−トリル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)ベースのホール輸送ポリマーが含まれる。他の例としては、O.Nuykenら、Designed Monomers & Polymers、vol.5:2−3、pp.195−210(2002)中に記載されているペンダントオキセタン基を伴うトリアリールアミンベースのホール輸送分子およびポリマーが含まれる。他の例としては、その全体を参照により本明細書に援用するWooらに対する米国特許第5,929,194号明細書(1999年7月27日発行)中に記載されている架橋性または鎖延長可能なポリアリールポリアミン類が含まれる。
【0033】
他の例としては、A.Bacherら、Macromolecules、vol.32:4551−4557(1999)中に記載されているアクリレート基を有するヘキサアルコキシトリフェニレン類が含まれる。他の例としては、E.Bacherら、Macromolecules、vol.38:1640−1647(2005)中に記載されている架橋性ホール伝導ポリマーが含まれる。他の例としては、その全体を参照により本明細書に援用するFarrandらに対する米国特許第6,913,710号明細書(2005年7月5日発行)中に記載されている反応性ベンゾジチオフェン類が含まれる。架橋結合基を有する電荷輸送化合物の他の例は、参照により本明細書に援用するMullerら、Synthetic Metals 111/112:31−34(2000)および米国特許出願公開第2005/0158523号明細書(Guptaら)中に記載されている。架橋性反応基を有する電荷輸送化合物の他の例としては、N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ビス(4−ビニルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミンなどのスチリル基を有するアリールアミン誘導体が含まれる。
【化4】
【0034】
液体組成物中の有機半導体材料の濃度は、特定の利用分野に応じて変動する。一部の実施形態において、有機半導体材料は、インクジェット印刷に適した濃度で提供される。一部の場合、有機半導体材料の濃度は0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合0.01〜2wt%の範囲内、そして一部の場合0.1〜1wt%の範囲内である。液体組成物の粘度は、特定の利用分野に応じて変動する。インクジェット印刷での使用のためには、適切な粘度は1〜25mPasまたは5〜25mPasの範囲内であり得る。有機半導体材料とケトン溶媒の相互作用は、液体組成物の粘度に影響を及ぼすかもしれない。したがって、液体組成物の粘度は、ケトン溶媒および/または有機半導体材料の選択を変えることによって、または各々の相対的量を変動させることによって調整してよい。液体組成物は同様に、OLEDなどの有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな他のタイプの有機材料のいずれを含んでいてもよい。
【0035】
液体組成物は、当技術分野において公知のいずれかの適切な溶液処理技術を用いて、表面上に被着される。例えば、液体組成物は、インクジェット印刷、ノズル印刷、オフセット印刷、転写印刷またはスクリーン印刷などの印刷プロセスを用いてか、または例えばスプレーコーティング、スピンコーティングまたはディップコーティングなどのコーティングプロセスを用いて被着させることができる。液体組成物の被着後、ケトン溶媒が除去されるが、これは真空乾燥または加熱などの任意の従来の方法を用いて実施されてよい。
【0036】
有機半導体材料が架橋性官能基を有する実施形態において、この方法はさらに、有機層を形成するための有機半導体材料の架橋結合を含んでいてよい。架橋結合は、UV光、ガンマ線またはX線を含めた熱および/または化学線に有機半導体材料を曝露することによって実施されてよい。架橋結合は、架橋結合反応を開始するフリーラジカルまたはイオンを生成するように熱または照射の下で分解する開始剤の存在下で実施されてよい。架橋結合は、デバイスの製造中にその場で実施されてよい。
【0037】
架橋結合した有機層を得ることは、溶液処理技術による多層有機電子デバイスの製造において有用であるかもしれない。詳細には、架橋結合した有機層は、その上に被着した溶媒により溶解させられたり、形態学的に影響を受けたりまたは劣化させられることを回避できる。架橋結合した有機層は、トルエン、キシレン、アニソールおよび他の置換芳香族および脂肪族溶媒を含めた有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな溶媒に対する耐性を有するかもしれない。こうして、下にある有機層が架橋結合され溶媒耐性を有するものとなった状態で、溶液堆積と架橋結合のプロセスとを反復して複数の層を作り出すことができる。
【0038】
こうして、一部の場合において、この方法はさらに、架橋結合した(第1の)有機層全体にわたり溶液処理により追加の(第2の)有機層を形成するステップを含む。この追加の(第2の)有機層は、電荷輸送層(例えばホール輸送層)または発光層であってよい。
【0039】
液体組成物は、OLEDなどの有機電子デバイスの製造に関与する表面を含めた、さまざまな異なるタイプの表面上に被着されてよい。一部の実施形態において、表面は、液体組成物中で使用されるケトン溶媒との関係において親水性である。この特徴は、表面を濡らす液体組成物の能力を改善するために有用であるかもしれない。以下の実施例の節で記述する通り、液体組成物により表面を十分に濡らすと、形成される有機層の質を改善することができる。表面を十分に濡らす溶媒の能力は、表面上(または実際の表面と同じ材料で作られる匹敵する被験表面上)に塗布されるケトン溶媒の小滴の濡れ接触角により実証可能である。
【0040】
例えば、図1は、インジウムスズ酸化物で作られた未処理の平面表面20上に適用されたケトン溶媒の液滴10を示している。液滴10の濡れ接触角は、表面20との境界面における液滴10に対する接線と表面20自体の平面の間の角度θである。一般に、液滴10は表面20上を半径方向に拡散し、半径方向拡散の範囲は、溶媒による表面20の濡れが増大するにつれて大きくなる。接触角θは、液滴10が半径方向に拡散するにつれて減少することから、接触角がより小さくなれば、それは溶媒による表面20の濡れがより大きいことを表わす。したがって、ケトン溶媒および/または表面は、表面(または実際の表面と同じ材料で作られた被験表面)上に適用されたケトン溶媒の液滴が、20°以下;そして一部の場合では10°以下;そして一部の場合では5°以下の接触角を有するような形で選択されてよい。
【0041】
本発明の別の態様においては、液体組成物は、芳香族エーテル溶媒中に混合された小分子有機半導体材料を含む。液体組成物はその後、表面上に被着され、乾燥させられて有機層を形成する。「芳香族エーテル溶媒」とは、溶媒分子が一般構造式R−O−R’を有するエーテルであり、ここでRまたはR’の少なくとも1つがアリールを含み、RおよびR’が同じであるかまたは異なるものであることを意味している。一部の場合においてRおよびR’の両方がアリールを含む。一部の場合において、溶媒分子は(アリール)−O−(アリール)という式を有し、アリール基は各々独立して選択される(すなわちこれらは同じものであっても異なるものであってもよい)。
【0042】
本発明で使用される芳香族エーテル溶媒は、それをインクジェット印刷などの溶液処理技術によって有機層を形成するために有用なものにするさまざまな化学的/物理的特性を有していてよい。例えば、芳香族エーテル溶媒は、25℃以下の融点を有するかもしれない。一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は100〜250の範囲内の分子量を有する。一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は150℃以上または200℃以上の沸点を有し、一部の場合には、150℃〜350℃または200℃〜350℃の範囲内の沸点を有する。この範囲内の沸点は、インクジェットプリントヘッドのノズルの目詰まりを防ぐ上で有用であるかもしれない。
【0043】
本発明において使用するのに適したものであるかもしれない芳香族エーテル溶媒の例を、下表2に記す。
【0044】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0045】
一部の場合において、芳香族エーテル溶媒は、2つ以上の芳香族エーテル溶媒の配合物であってよい。一部の場合において、液体組成物自体は、本発明の芳香族エーテル溶媒以外の溶媒を含む溶媒配合物を使用してよい。このような場合、1つまたは複数の芳香族エーテル溶媒は、液体組成物中の溶媒体積の少なくとも50%(体積%)を構成する。
【0046】
有機半導体材料は、上述のもののいずれかであってよい。一部の場合において、有機半導体材料は、リン光発光性化合物である。全て参照により本明細書に援用する米国特許第6,902,830号明細書(Thompsonら)および米国特許出願公開第2006/0251923号明細書(Linら)、米国特許出願公開第2007/0088167号明細書(Linら)、米国特許出願公開第2006/0008673号明細書(Kwongら)および米国特許出願公開第2007/0003789号明細書(Kwongら)中に記載されている遷移金属の有機金属錯体を含めた、さまざまなタイプのリン光発光性化合物のいずれかが適切であるかもしれない。
【0047】
液体組成物中の有機半導体材料の濃度は、特定の利用分野によって変動するものである。一部の実施形態において、有機半導体材料は、インクジェット印刷に適した濃度で提供される。一部の場合では、有機半導体材料の濃度は、0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合では0.01〜2wt%の範囲内であり、一部の場合では0.1〜1wt%の範囲内である。
【0048】
液体組成物の粘度は、特定の利用分野によって変動するものである。インクジェット印刷において使用するためには、適切な粘度は1〜25mPasまたは5〜25mPasの範囲内にあり得る。有機半導体材料と芳香族エーテル溶媒との相互作用は、液体組成物の粘度に影響を及ぼすかもしれない。したがって、芳香族エーテル溶媒および/または有機半導体材料の選択を変動させることによってかまたは各々の相対的量を変動させることにより、液体組成物の粘度を調整してもよい。液体組成物は、OLEDなどの有機電子デバイスの製造において使用されるさまざまな他のタイプの有機材料のいずれかを含んでいてもよい。例えば、液体組成物がOLEDの発光層を作製するために使用される場合、この液体組成物はさらにホスト材料を含んでいてよい。有機層は、上述のもののいずれであってもよい(例えばOLED内のホール注入層、ホール輸送層または発光層)。液体組成物を伴う有機層を作製するために、上述のプロセスのいずれを使用してもよい。
【0049】
参照により本明細書に援用する米国特許出願公開第2005/0072021号明細書(Steigerら)中に開示されているものなどの、有機発光デバイス、有機電界効果トランジスタ(OFET)、有機薄膜トランジスタ(OTFT)、有機光起電デバイスおよび有機太陽電池を含めたさまざまな有機電子デバイスの製造において、本発明を使用することが可能である。例えば、図2は、本発明を用いて製造してよいOLED100を示す。OLED100は、当技術分野において周知であるアーキテクチャを有する(例えば、参照により本明細書に援用するXiaらに対する米国特許出願公開第2008/0220265号明細書を参照されたい)。図2を見ればわかるように、OLED100は、基板110、アノード115、ホール注入層120、ホール輸送層125、電子ブロッキング層130、発光層135、ホールブロッキング層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155およびカソード160を有する。カソード160は、第1の導電層162および第2の導電層164を有する複合カソードである。第1層が、第2層の「上」にあるとして記述されている場合、第1層は基板からさらに離れて配置されている。第1層が第2層と「物理的に接触状態にある」と規定されているのでないかぎり、第1層と第2層との間に他の層が存在してもよい。例えば、間にさまざまな有機層が存在するとしても、カソードをアノードの「上」に配置されているものとして記述できる。
【0050】
本発明は、OLED中のさまざまな有機層の任意の層を作製するために適しているかもしれない。例えば、図2を再び参照すると、ホール注入層120を作製する上で本発明を使用してもよい。この場合、液体組成物が上に被着される表面はアノード115である。アノード115は、ホールを有機層まで輸送するのに十分な導電性をもついずれかの適切なアノードであってよい。アノード115を作製するために使用される材料は、好ましくは、約4eVより高い仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)およびアルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)が含まれる。別の実施例においては、ホール輸送層125を作製するために、本発明を使用してもよい。別の実施例では、発光層135を作製するために本発明を使用してもよい。
【実施例】
【0051】
本発明の具体的で代表的な実施形態について、このような実施形態の実施方法を含めて、次に記述する。具体的な方法、材料、条件、プロセスパラメータ、装置類などが、必ずしも本発明の範囲を限定するものではないということを理解すべきである。
【0052】
有機層は、さまざまな溶媒を用いてインクジェット印刷により作製された。4つの異なる溶媒中に以下で示す化合物1(架橋性イリジウム錯体)を0.1wt%の濃度で溶解させることによってインクジェット液を調製した。
【化5】
【0053】
使用した溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)、安息香酸エチル、酢酸ベンジル、および1−テトラロンであり、その沸点および密度は、下表3に示されている。この表を見ればわかるように、これら4つの溶媒は、類似の沸点と密度を有する。
【0054】
【表7】
【0055】
インクジェット液を濾過し、使い捨てのインクカートリッジ内に充填した。次にインクジェット液を、図3Aおよび3Bに示された基板上にインクジェット印刷した。これらの図は、OLED製造において使用される従来の基板の概略図である。ガラス基板30をインジウムスズ酸化物(ITO)層38とSiO2緩衝層32とでコーティングした。画素マトリクスを形成するために、ITO表面38上にポリイミド層をパターン化して、画素を画定する区画36を形成した。図3Bの垂直断面図に見られるように、区画36は、持ち上ったポリイミド隔壁34により画定されている。ポリイミド隔壁34は、ITO層38およびSiO2緩衝層32の表面に比べて相対的に疎水性であるか、または反対に、ITO層38およびSiO2緩衝層32の表面は、ポリイミド隔壁34に比べて相対的に親水性である。
【0056】
したがって、本発明においては、液体組成物を被着させるために用いられる表面は、隔壁により画定される区画を有していてよく、区画は隔壁よりも親水性である。この設計により、区画は、液体組成物中のケトン溶媒との関係において親水性であり、隔壁は、ケトン溶媒との関係において疎水性であり、こうして隔壁は液体組成物をはじくことができるようになる。その結果、隔壁上全体にわたるおよび隣接する画素区画内への被着した液体組成物の望ましくないオーバーフローを回避でき、画素区画の平担化された充填を改善することが可能となる。必要な場合、表面の親水性を調整するために、周知の表面処理技術(例えば酸素またはCF4プラズマ処理)によって表面を修飾することができる。
【0057】
インクジェット液の多数の滴を基板上の各画素区画内に噴射し、その結果は、図4A−4Cの左欄に示されている。インクジェット印刷の後、溶媒を室温で10分間真空乾燥させ、結果は図4A−4Cの右欄に示されている。溶媒としてNMPを用いたインクジェット液は急速に乾燥しすぎて印刷できなかった(したがって図4には示されていない)。
【0058】
図4Aの左図版を参照すると、溶媒として安息香酸エチルを使用するインクジェット液については、基板上にインクジェット液の滴の不均等分布が存在した。図4Aの第2の図版に見られるように、乾燥後に形成された有機層は、不均一であり、画素は一部が過度に厚く、他は過度に薄いものであった。
【0059】
図4Bの左図版を参照すると、溶媒として酢酸ベンジルを用いるインクジェット液について、隣接する画素区画内へのインクジェット液のオーバーフローが存在した。これは、溶媒がITO表面を十分に濡らすことができないことの結果と考えられる。
【0060】
図4Cの左図版を参照すると、溶媒として1−テトラロンを用いるインクジェット液について、インクジェット印刷は、画素の非常に均等な充填を結果としてもたらした。図4Cの第2の図版に見られるように、有機層を乾燥させた後、結果として得られた画素は、平担で均一であった。これは、なかでも、1−テトラロン溶媒がインクジェット印刷のために十分な粘度とITO表面を十分に濡らす能力をインクジェット液にもたらすことを表わすと考えられる。
【0061】
他の溶媒と比べ1−テトラロンを用いてこのような優れた結果が得られることは、他の溶媒も1−テトラロンと類似の沸点および密度を有する1−テトラロンと同様の極性溶媒であったことから、意外で予期せぬことである。理論により束縛されることは意図していないものの、テトラロン上の芳香族環、テトラロン上のケトン官能基、またはその両方が組合わされて、有機半導体材料と相互作用して、これらの注目すべき能力を有する液体組成物を提供するものと考えられる。
【0062】
これらの注目すべき結果を得て、本発明の液体組成物を用いて機能的OLEDが製造された。以下で示す導電率ドーパントと共に0.1wt%の濃度で1−テトラロン中に以下に示す架橋性HIL材料(架橋性イリジウム錯体)を溶解させることによって、ホール注入層を作製するためのインクジェット液を調製した。本明細書中で使用する「導電率ドーパント」とは、添加剤として有機層に適用された場合に有機電子デバイスの有機層の導電率を増大させる有機小分子を意味する。HIL材料と導電率ドーパントとの間の重量比は97:3であった。その後インクジェット液を濾過し、使い捨てのインクカートリッジの中に充填した。
【化6】
【0063】
0.2wt%の濃度で以下に示す架橋性HTL材料を1−テトラロン中に溶解させることによって、ホール輸送層を作製するためのインクジェット液を調製した。インクジェット液を次に濾過し、使い捨てインクカートリッジ内に充填した。
【化7】
【0064】
88:12のホスト:ドーパント重量比で、以下に示すリン光発光緑色ドーパント材料と共に以下に示すEMLホスト材料を1.0wt%の濃度で3−フェノキシトルエン中に溶解させることによって、発光層を作製するためのインクジェット液を調製した。インクジェット液を次に濾過し、使い捨てインクカートリッジ内に充填した。
【化8】
【0065】
図3に示されているものと類似の基板上にHILインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥することにより、ホール注入層を作製した。その後、結果として得た有機層を250℃で30分間のホットプレート焼成に付して、より多くの溶媒を除去し、HIL材料を架橋結合させた。架橋結合させたホール注入層上にHTLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥することにより、ホール輸送層を作製した。結果として得た有機層を次に200℃で30分間ホットプレート焼成に付して、より多くの溶媒を除去し、HTL材料を架橋結合させた。架橋結合したホール輸送層上にEMLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後10分間室温で真空乾燥し、次に100℃で60分間焼成することにより、発光層を作製した。
【0066】
複合HPT(以下に示す)を含むホールブロッキング層、Alq3[アルミニウム(III)トリス(8−ヒドロキシキノリン)]を含む電子輸送層、LiFを含む電子注入層およびアルミニウム電極(カソード)を順次従来の手法で真空蒸着させた。
【化9】
【0067】
結果として得た緑色発光OLEDを室温で20mA/cm2のDC定電流下で動作させて、その性能をテストした。図5は、経時的光度プロットとして描かれたデバイスの動作寿命を示す。図5に見られるように、デバイスは、(2000cd/m2の初期レベルの80%に至るまでの明度減衰にかかった時間によって測定した場合)100時間の寿命を有していた。デバイス性能結果は、下表4にまとめられている。
【0068】
【表8】
【0069】
比較的高沸点の溶媒を用いた有機層のインクジェット印刷の結果、被着された有機層内に溶媒残渣が残ることになる可能性がある。有機層内のこの溶媒残渣は、電子デバイスの性能と干渉し得ると考えられる。したがって、高沸点溶媒の使用に伴う問題の1つは、被着させた有機層から溶媒を除去するのが困難であるという点にある。高温での焼成は、溶媒の除去を迅速化し得るが、これは、デバイスの熱崩壊をひき起こす可能性がある。同様に、高温で焼成しても、被着させた有機層から溶媒残渣が完全に除去されないかもしれない。
【0070】
インクジェット被着させた有機層中の溶媒残渣は、溶媒自体または溶媒調製物中の不純物であるかもしれない。しかし、高沸点溶媒の場合は、何らかの不純物ではなくむしろ溶媒そのものが有機層内の支配的な残渣となるものと考えられている。例えば、市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物は、典型的に95〜99%の純度を有する(すなわち1〜5wt%の不純物含有量を有する)。上述の緑色発光OLEDを製造する上で使用される3−フェノキシトルエン溶媒調製物は、TCI America(Portland,OR)から得たものであった。TCI America(Portland,OR)から得たこの3−フェノキシトルエン溶媒調製物の不純物含有量を調査するために、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)およびガスクロマトグラフィ質量分析法(GC−MS)により溶媒調製物を分析した。図6Aは、3−フェノキシトルエン溶媒調製物の試料について実施されたガスクロマトグラフィ出力を示しており、ここで、化合物は沸点の逓増順で溶出している、換言すると、より高い沸点を有する化合物がより長く保持されている。主ピークは、3−フェノキシトルエン(すなわち溶媒自体)を表わしている。約7.29の保持時間にある左側のより小さいピークは、主不純物を表わし、これはジフェニルエーテルであるものとして同定されている。主ピークの右側のさらに一層小さい多数のピークは、3−フェノキシトルエンよりも高い沸点を有する(すなわちより長い保持時間を有する)不純物を表わしている。同様にして、3−フェノキシトルエン溶媒調製物の試料について実施されたUV−HPLC(250nmおよび227nm)出力は、それぞれ3−フェノキシトルエン、ジフェニルエーテルそして微量の他の不純物をそれぞれに表わす、主ピーク、副ピークそして多数のより小さいピークを示している。
【0071】
次に、この市販の3−フェノキシトルエン溶媒調製物(これは比較的高純度のものであり大部分の商業的用途に適したものであるにせよ以下ではこれを「粗製」3−フェノキシトルエン溶媒調製物と呼ぶものとする)を、以下の通りに分別蒸留によって精製した。全てのガラス製品を脱イオン水で清浄し、4時間オーブン乾燥した。粗製3−フェノキシトルエン溶媒調製物を、分別蒸留装置が取付けられた丸底フラスコ内に入れ、これを真空ポンプに接続した。冷水(約18℃)で蒸留液収集経路を冷却した。蒸留液留分を収集し、HPLCおよび/またはGC−MSにより分析した。55℃の温度で30mbarの圧力下で、収集した留分はかなりの量の不純物を含んでいたため、廃棄した。58〜60℃で収集した留分は、きわめて少量の不純物しか含まないことがわかった。図7Aはこの留分のガスクロマトグラフィを示している。ここでわかるように、比較的沸点が高い不純物(すなわち主ピークの右側)はほぼ完全に除去されているが、ジフェニルエーテル不純物の一部はなおも存在している。図7Bは、この留分のUV−HPLC出力を示しており、比較的高い沸点の不純物が除去されたことを確認している。
【0072】
この精製された3−フェノキシトルエン溶媒調製物を使用して、以下のようにOLEDを製造した。上述のデバイスと同じ材料を用いて、上述のものと類似のプロセスにより溶媒として1−テトラロンを用いてインクジェット印刷によって、デバイス用のHIL層およびHTL層を作製した。上述のものと同じ要領で、粗製3−フェノキシトルエン溶媒調製物(対照デバイス用)または精製済み3−フェノキシトルエン溶媒調製物(被験デバイス用)の各々を用いて、EMLのためのインクジェット液を作製した。架橋結合したHTL上にEMLインクジェット液をインクジェット印刷し、その後室温で10分間真空乾燥し、次に100℃で60分間焼成することにより、発光層を作製した。焼成温度は3−フェノキシトルエンの沸点(272℃)よりもはるかに低いことから、このプロセスによってEMLから3−フェノキシトルエンが完全に除去されることは期待されていない。複合HPT(以下で示す)を含むホールブロッキング層、Alq3[アルミニウム(III)トリス(8ヒドロキシキノリン)]を含む電子輸送層、LiFを含む電子注入層およびアルミニウム電極(カソード)を順次従来の手法で真空蒸着させた。
【0073】
図8は、経時的光度プロットとして2つのデバイスの動作寿命を示す。精製済み溶媒調製物を用いて製造された被験デバイスが、200時間の寿命(DC定駆動下で、室温で2000cd/m2の初期レベルの80%までの輝度の減衰にかかった時間により測定したもの)を有していたのに対して、粗製溶媒調製物を用いて製造された対照デバイスの場合は100時間であった。
【0074】
デバイス性能のこの差異は、粗製溶媒調製物対精製済み(再蒸留済み)溶媒調製物を使用したインクジェット印刷により形成されたEML内に残っている残渣の違いの結果であると考えられている。しかしながら、以上で説明した通り、溶媒調製物中のいずれの不純物よりも溶媒自体が残渣中の支配的種であると考えられていることから、デバイス性能のこの有意な改善は予想外の結果である。粗製溶媒調製物について以上で示した通り、不純物は、溶媒調製物のわずかな留分を構成しているにすぎず、したがって残渣材料のわずかな留分しか構成しないと考えられる。これらの少量の不純物を除去することで、溶媒残渣の組成が有意に変更されることは予期されておらず、したがって、不純物の除去によりデバイスの性能に対する有意な効果がもたらされるとは予期されないと思われる。
【0075】
さらに、主不純物であるジフェニルエーテルは、再蒸留済み溶媒調製物中になおも存在している。粗製溶媒調製物と再蒸留済み溶媒調製物との間の最も有意な差異は、再蒸留済み溶媒調製物中に比較的高い沸点の不純物が存在しないという点にある。粗製溶媒調製物について以上で示した通り、これらの比較的高い沸点の不純物は、それ自体溶媒調製物のわずかな留分しか構成していない全不純物のわずかな留分(おそらくは約10%以下)しか構成しない。したがって、これらの微量の比較的高沸点の不純物を除去することで、デバイス性能のこのような劇的な改善が結果としてもたらされるということは、さらに意外である。
【0076】
したがって、これらの意外な結果に基づいて、本発明では、比較的高沸点の不純物の含有量が削減された溶媒調製物を用いて有機層を作製することにより、デバイス性能の改善が可能であると考えられる。一部の実施形態において、溶媒調製物は、高沸点溶媒、および溶媒自体よりもさらに高い沸点をもつ0.1wt%以下の不純物を含んでいる。本明細書中で使用する「高沸点溶媒」とは、1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒を意味する。したがって、3−フェノキシトルエン(BP=272℃)および1−テトラロン(BP=256℃)は、高沸点溶媒とみなされると考えられる。一部の場合において、高沸点溶媒は、(1atmで)250℃以上の沸点を有する溶媒である。高沸点溶媒は、(1atm)で350℃という高い沸点を有していてよいが、他の沸点範囲も同様に可能である。溶媒は、インクジェット印刷におけるその使用を容易にするため、25℃以下の融点を有していてよい。市販の溶媒調製物を再蒸留することによって溶媒調製物を製造してよい。
【0077】
上述の要領で小分子有機半導体材料と溶媒調製物を混合して、有機層を作製するための液体組成物を形成する。その後、溶液処理技術(例えばインクジェット印刷)により表面上に液体組成物を被着させて、有機層を形成する。一部の場合、有機半導体材料の濃度は0.01〜10wt%の範囲内であり、一部の場合、0.01〜2wt%の範囲内、そして一部の場合、0.1〜1wt%の範囲内である。
【0078】
したがって、一部の実施形態において、本発明の液体組成物は、高沸点溶媒と、その中に混合された小分子有機半導体材料とを含む。溶媒調製物および小分子有機半導体材料により導入されるあらゆる溶解した不純物(ただし固体不純物は除く)を考慮すると、液体組成物は、溶媒より高い沸点を有する不純物を0.1wt%以下有していてよい。
【0079】
本発明は、HIL、HTLまたはEMLを含めたOLED中のさまざまな有機層のいずれを作製するためにも適しているかもしれない。本発明を用いて製造されたOLEDは、対応する有機層(例えば発光層)が粗製溶媒調製物を用いて作製されるという点を除いて同じ要領で製造されている匹敵するデバイスに比べて、著しく改善されたT80寿命(DC定駆動下で、室温で初期レベルの80%までの明度減衰にかかった時間)を有しているかもしれない。例えば、デバイスの寿命(T80)は、粗製溶媒調製物を用いて製造された匹敵するデバイスに比べて、少なくとも1.5倍長くなり、一部の場合、少なくとも2倍長くなり得る。
【0080】
上述の記述および実施例は、単に本発明を例示するためのみに示されており、限定的であることを意図されたものではない。本発明の開示された態様および実施形態の各々は、個別に、または本発明の他の態様、実施形態および変形形態と組合せた形で考慮されてよい。さらに、別段の規定のないかぎり、本発明の方法のステップはいずれも、いずれかの特定の実施順序に限定されない。当業者であれば、本発明の趣旨および本質を取込んでいる開示された実施形態の修正を認識するかもしれず、このような修正は、本発明の範囲内に入るものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電子デバイスのための有機層の形成方法において:
− 溶媒調製物中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を得るステップであって、前記溶媒調製物が溶媒と前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物とを含み、前記溶媒が1atmで200℃以上の沸点を有しているステップと;
− 前記液体組成物を表面上に被着させるステップと;
を含む方法。
【請求項2】
前記溶媒調製物が精製済み溶媒調製物であり、前記液体組成物を準備するステップが、
− 前記溶媒と前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%超の不純物とを含む粗製溶媒調製物を得るステップと;
− 前記溶媒よりも高い沸点を有する前記不純物の少なくとも一部分を除去することによって前記粗製溶媒調製物を精製して、前記精製済み溶媒調製物を得るステップと;
− 前記精製済み溶媒調製物と前記小分子有機半導体材料を混合するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粗製溶媒調製物を精製するステップが、前記粗製溶媒調製物を蒸留するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒が250℃以上の沸点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が3−フェノキシトルエン溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が1−テトラロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒よりも高い沸点を有する前記不純物が本質的に紫外線検出−高圧液体クロマトグラフィによって検出不可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機半導体材料の濃度が0.01〜2wt%の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機半導体材料が遷移金属の有機金属錯体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アノード、カソードおよび前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層を有する有機発光デバイスの製造方法であって、前記有機層が請求項1に記載の方法によって形成される製造方法。
【請求項11】
− 前記有機層が、請求項2に記載の方法によって形成され、前記有機層が発光層であり、
− 前記有機発光デバイスは、前記発光層が粗製溶媒調製物を用いて作られている点を除いて同一に作られている比較デバイスに比べて少なくとも1.5倍長いT80寿命を有している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記被着ステップがインクジェット印刷により実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
− 1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒と;
− 0.01〜10wt%の範囲内の濃度で前記溶媒中に混合された小分子有機半導体材料と;
を含み、前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物を有している液体組成物。
【請求項14】
前記有機半導体材料の濃度が0.01〜2wt%の範囲内にある、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項15】
前記有機半導体材料がリン光発光性化合物である、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項16】
前記リン光発光性化合物が遷移金属の有機金属錯体である、請求項15に記載の液体組成物。
【請求項17】
前記液体組成物が前記リン光化合物のためのホスト化合物をさらに含む、請求項15に記載の液体組成物。
【請求項18】
前記ホスト化合物がカルバゾール含有化合物である、請求項17に記載の液体組成物。
【請求項19】
前記溶媒が250℃以上の沸点を有する、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項20】
前記溶媒が3−フェノキシトルエンである、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項21】
前記溶媒が1−テトラロンである、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項1】
有機電子デバイスのための有機層の形成方法において:
− 溶媒調製物中に混合された小分子有機半導体材料を含む液体組成物を得るステップであって、前記溶媒調製物が溶媒と前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物とを含み、前記溶媒が1atmで200℃以上の沸点を有しているステップと;
− 前記液体組成物を表面上に被着させるステップと;
を含む方法。
【請求項2】
前記溶媒調製物が精製済み溶媒調製物であり、前記液体組成物を準備するステップが、
− 前記溶媒と前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%超の不純物とを含む粗製溶媒調製物を得るステップと;
− 前記溶媒よりも高い沸点を有する前記不純物の少なくとも一部分を除去することによって前記粗製溶媒調製物を精製して、前記精製済み溶媒調製物を得るステップと;
− 前記精製済み溶媒調製物と前記小分子有機半導体材料を混合するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粗製溶媒調製物を精製するステップが、前記粗製溶媒調製物を蒸留するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒が250℃以上の沸点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が3−フェノキシトルエン溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が1−テトラロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒よりも高い沸点を有する前記不純物が本質的に紫外線検出−高圧液体クロマトグラフィによって検出不可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機半導体材料の濃度が0.01〜2wt%の範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機半導体材料が遷移金属の有機金属錯体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アノード、カソードおよび前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層を有する有機発光デバイスの製造方法であって、前記有機層が請求項1に記載の方法によって形成される製造方法。
【請求項11】
− 前記有機層が、請求項2に記載の方法によって形成され、前記有機層が発光層であり、
− 前記有機発光デバイスは、前記発光層が粗製溶媒調製物を用いて作られている点を除いて同一に作られている比較デバイスに比べて少なくとも1.5倍長いT80寿命を有している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記被着ステップがインクジェット印刷により実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
− 1atmで200℃以上の沸点を有する溶媒と;
− 0.01〜10wt%の範囲内の濃度で前記溶媒中に混合された小分子有機半導体材料と;
を含み、前記溶媒よりも高い沸点を有する0.1wt%以下の不純物を有している液体組成物。
【請求項14】
前記有機半導体材料の濃度が0.01〜2wt%の範囲内にある、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項15】
前記有機半導体材料がリン光発光性化合物である、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項16】
前記リン光発光性化合物が遷移金属の有機金属錯体である、請求項15に記載の液体組成物。
【請求項17】
前記液体組成物が前記リン光化合物のためのホスト化合物をさらに含む、請求項15に記載の液体組成物。
【請求項18】
前記ホスト化合物がカルバゾール含有化合物である、請求項17に記載の液体組成物。
【請求項19】
前記溶媒が250℃以上の沸点を有する、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項20】
前記溶媒が3−フェノキシトルエンである、請求項13に記載の液体組成物。
【請求項21】
前記溶媒が1−テトラロンである、請求項13に記載の液体組成物。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公表番号】特表2012−531012(P2012−531012A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516132(P2012−516132)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/037920
【国際公開番号】WO2010/147818
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(503055897)ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション (61)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/037920
【国際公開番号】WO2010/147818
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(503055897)ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション (61)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]