説明

有機廃棄物分解作用を示す微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法

【課題】従来技術と異なる微生物を用いて、悪臭の発生が少なく、極めて短時間に有機廃棄物を分解することができる、有機廃棄物分解作用を示す微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法を提供する。
【解決手段】Bacillus sp.THU-H0024株(FERM P-21946)を有機廃棄物に混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することにより、有機廃棄物を分解する。有機廃棄物の分解により堆肥を製造できる。好気性のグラム陽性桿菌である。コロニー形態は、直径:3mm、色調:クリーム、形:円形、隆起状態:台状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:半透明、粘稠度:バター様で、芽胞形成能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物分解作用を示す微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、有機廃棄物分解作用を示す微生物組成物および有機廃棄物の分解方法として、バチルス・サブチリスと、バチルス sp. KB-02と、バチルス・バリスモルティスと、バチルス・リケニフォルミスと、バチルス・プミルスとを含む微生物組成物を用いて、有機廃棄物を約40℃〜約65℃で分解する技術がある(例えば、特許文献1参照)。この技術の目的は、分解中および分解後に悪臭の発生が少なく、極めて短時間に有機廃棄物を分解することにある。
また、新種のパエニバチルス属細菌およびバチルス属細菌を用いて、悪臭の発生が少なく、極めて短時間に有機廃棄物を分解する技術が本発明者らによって開発されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−9848号公報
【特許文献2】特開2010−88309号公報
【特許文献3】特開2010−88310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術と異なる微生物を用いて、悪臭の発生が少なく、極めて短時間に有機廃棄物を分解することができる、有機廃棄物分解作用を示す微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る有機廃棄物分解作用を示す微生物は、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU-H0024株(FERM P-21946)から成ることを特徴とする。
本発明に係る有機廃棄物分解作用を示す微生物は、パエニバチルス属細菌(Paenibacillus sp.)THU0001株(FERM P-21614)、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU0021株(FERM P-21615)、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU3710株(FERM P-21616)、バチルス ギンセンギフミ種細菌(Bacillus ginsengihumi)THU4501株(FERM P-21617)およびブレビバクテリウム属細菌(Brevibacterium sp.)の1種または2種以上と共存状態で利用してもよい。バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU-H0024株(FERM P-21946)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成22年3月30日に受託されている(各受託番号をカッコ内に示す)。パエニバチルス属細菌(Paenibacillus sp.)THU0001株(FERM P-21614)、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU0021株(FERM P-21615)、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU3710株(FERM P-21616)、およびバチルス ギンセンギフミ種細菌(Bacillus ginsengihumi)THU4501株(FERM P-21617)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成20年7月23日に受託されている(各受託番号をカッコ内に示す)。
【0006】
本発明に係る有機廃棄物の分解方法は、有機廃棄物に前記微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することを特徴とする。
本発明に係る堆肥の製造方法は、有機廃棄物に前記微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術と異なる微生物を用いて、悪臭の発生が少なく、極めて短時間に有機廃棄物を分解することができる、有機廃棄物分解作用を示す、微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態の有機廃棄物分解作用を示す微生物は、バチルス属細菌(Bacillus sp.)THU-H0024株(FERM P-21946)から成ることを特徴とする。
【0009】
本発明の実施の形態の有機廃棄物の分解方法は、有機廃棄物に前記微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することを特徴とする。
本発明の実施の形態の堆肥の製造方法は、有機廃棄物に前記微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することを特徴とする。
【0010】
本発明の実施の形態の有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法では、有機廃棄物をpH2以上7以下の範囲、特に、pH3以上5以下の酸性条件下に置くことが好ましい。保温温度は、37℃乃至75℃であり、より好ましくは45℃乃至65℃、さらに好ましくは55℃乃至65℃である。より高温で処理することにより、雑菌等が増殖するのを防ぎ、悪臭の発生をより効果的に抑えることができる。
有機廃棄物の処理開始時の含水率は、約30質量%〜約70質量%の範囲が好ましく、特に約40%〜約60%が好ましい。本発明の実施の形態の有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法では、有機廃棄物に前記微生物を混合する際、撹拌し、微生物と有機廃棄物とをよく混合するとともに酸素を供給することが好ましい。
【0011】
(A)微生物の菌学的性質
微生物の菌学的性質は以下のとおりである。
以下の菌学的性質に基いて、菌株をBergery′s Mannual of Determinative Bacteriology 第9版によって検索した結果、新種の微生物であると同定された。
【0012】
Bacillus sp. THU-H0024株(FERM P-21946)
グラム陽性桿菌・好気性
コロニー形態(使用培地:普通寒天培地、培養温度:37℃、培養日数:1日)は、直径:3mm、色調:クリーム、形:円形、隆起状態:台状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:半透明、粘稠度:バター様
芽胞形成能を有する。
一般的なバチルスよりも増殖速度が速く、プレート上のコロニーは広がりやすい。
【0013】
本菌株の16S ribosomal RNAをコードするDNAの部分配列(部分配列長: 1,539bp)は以下のとおりである(配列表参照)。

CCCAGAGTTTGATCCTGGCTCAGGACGAACGCTGGCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCGAGCGGACAGAAGGGAGCTTGCTCCCGGATGTTAGCGGCGGACGGGTGAGTAACACGTGGGTAACCTGCCTGTAAGACTGGGATAACTCCGGGAAACCGGAGCTAATACCGGATAGTTCCTTGAACCGCATGGTTCAAGGATGAAAGACGGTTTCGGCTGTCACTTACAGATGGACCCGCGGCGCATTAGCTAGTTGGTGAGGTAACGGCTCACCAAGGCGACGATGCGTAGCCGACCTGAGAGGGTGATCGGCCACACTGGGACTGAGACACGGCCCAGACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCGCAATGGACGAAAGTCTGACGGAGCAACGCCGCGTGAGTGATGAAGGTTTTCGGATCGTAAAGCTCTGTTGTTAGGGAAGAACAAGTGCAAGAGTAACTGCTTGCACCTTGACGGTACCTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGAATTATTGGGCGTAAAGGGCTCGCAGGCGGTTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCCCGGCTCAACCGGGGAGGGTCATTGGAAACTGGGAAACTTGAGTGCAGAAGAGGAGAGTGGAATTCCACGTGTAGCGGTTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGACTCTCTGGTCTGTAACTGACGCTGAGGAGCGAAAGCGTGRGGAGCGAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTAGGGGGTTTCCGCCCCTTAGTGCTGCAGCTAACGCATTAAGCACTCCGCCTGGGGAGTACGGTCGCAAGACTGAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGGTTTAATTCGAAGCAACGCGAAGAACCTTACCAGGTCTTGACATCCTCTGACAACCCTAGAGATAGGGCTTTCCCTTCGGGGACAGAGTGACAGGTGGTGCATGGTTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGATCTTAGTTGCCAGCATTCAGTTGGGCACTCTAAGGTGACTGCCGGTGACAAACCGGAGGAAGGTGGGGATGACGTCAAATCATCATGCCCCTTATGACCTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCTGCGAGACCGCAAGGTTTAGCCAATCCCACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGAATCGCTAGTAATCGCGGATCAGCATGCCGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACACCACGAGAGTTTGCAACACCCGAAGTCGGTGAGGTAACCTTTATGGAGCCAGCCGCCGAAGGTGGGGCAGATGATTGGGGTGAAGTCGTAACAAGGTAACCGGGTACCGAGCTCGAATTCCACCCA

【0014】
(1)DNAデータベース(BLAST等)上での最近縁属種名やその周辺近縁種との相同性(%)情報。

近縁種 相同性(%)
Bacillus pumilus strain S1 99.8 *最近縁種
Bacillus sp. 41KBZ 99.8
Bacillus sp. 41KAZ 99.8
Bacillus pumilus strain SDB-01 99.8

前記のDNAの部分配列の内、本解析に用いた配列長は、 1,512 bpである。
【0015】
(2)当該属に安全度レベル2以上の菌種が存在する場合は、それら全てとの相同性(%)情報。

Bacillus属のBSL2以上の種 相同性(%) 安全度レベル
Bacillus anthracis ATCC10987 93.4 3
Bacillus anthracis A0248 93.3 3
Bacillus cereus ATCC 14579 93.7 2
Bacillus cereus DZ103 93.8 2
Bacillus weihenstephanensis KBAB4 93.2 2
Bacillus weihenstephanensis MC67 93.1 2

前記のDNAの部分配列の内、本解析に用いた配列長は、1,512bpである。
本菌株とBacillus属の安全度レベル2以上の種との相同性は、最近縁種と比較して明らかに低く、別種であると考えられる。
【0016】
(B)微生物の単離
微生物は、宮城県多賀城市栄二丁目6-53 株式会社相澤製作所内の有機廃棄物処理装置から単離した。
本菌株は、LB Lennox /1%フルクトース添加培地(培地組成: LB Broth Lenox (20g/1L)、1% D(-)-Fructose)で培養した(培地のpH:7.0、培養温度:37−45℃、培養期間:48時間)。
【0017】
(C)微生物の有用性
本菌株を有機廃棄物に混合し、37℃乃至75℃の温度で保温することにより、アンモニアなどの腐敗臭を抑制して有機廃棄物を分解処理することができる。
本発明の実施の形態の有機廃棄物分解作用を示す微生物、有機廃棄物の分解方法および堆肥の製造方法において、分解するのに適した有機廃棄物として、野菜屑・魚類廃棄物などの食品残渣、落ち葉、木屑、糞尿などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施の形態によれば、以下の作用、効果が得られる。
1)極めて短時間に有機廃棄物を分解することができる。また、所定時間ごと、例えば、24時間ごとに有機廃棄物を投入して、安定した連続的な処理が可能である。
2)処理中にアンモニアなどの悪臭がほとんど発生しない。製造した堆肥を放置してもアンモニアなどの悪臭を発生しない。
【実施例1】
【0019】
[有機廃棄物分解実験]
(a)微生物による有機廃棄物分解実験
本菌株により有機廃棄物を分解する実験を行った。
<実験方法>
1.シリコン栓付きガラス試験管に、普通培地(牛肉エキス1%、ポリペプトン1%、NaCl 1%)3mlを分注したものと、その普通培地に1%フルクトースを添加したLB培地3mlとを分注した。その普通培地をオートクレーブ滅菌し、滅菌後、室温に戻した。
2. 普通培地に本菌株(Bacillus sp.)THU-H0024株(FERM P-21946)の30%グリセロールストックを各30μl加えて45℃で48時間震盪培養した。コントロールは培地成分のみとした。
3.約1.5gの人参または大根のスティック(いずれも未滅菌)をコントロールおよび本菌株の培養液にそれぞれ加えた。
4.60℃下で7日間、160rpmで震盪後、室温で一晩静置した。
翌朝ピンセットでガラス試験管内の野菜を静かにペーパーの上に取り出し、水分を軽く拭き取った後、直ちに野菜の重量を測定した。
5.取り出した野菜はかなり水分を含んでいたため、ペーパーを交換しながら水分を拭き取り、30分後、50分後、60分後の野菜の重量を測定した。
6.各試験管の培地成分、野菜の種類、測定した野菜の重量を表1および表2に示す。表中、NBは普通培地を、LBFは1%フルクトース添加LB培地を示す。野菜減少率は、取り出して60分後の野菜の、処理前重量に対する減少率で示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
[実験結果]
コントロールに比較して、本菌株THU-H0024株(FERM P-21946)培養液で処理した野菜は、明らかに重量の減少率が大きかった。特に人参では、野菜組織の崩壊が顕著に認められた。
実験中、コントロールからはひどい悪臭が発生していた。本菌株THU-H0024株(FERM P-21946)培養液では悪臭の発生はなかった。
この結果から、本菌株THU-H0024株(FERM P-21946)培養液で処理することにより、悪臭の発生がなく、極めて短時間で効率良く有機廃棄物を分解できることがわかる。
【実施例2】
【0023】
本菌株THU-H0024株(FERM P-21946)を用いて1ヶ月間にわたり、有機廃棄物の分解試験を行った。
合計342.5kgの有機廃棄物を発酵槽に投入し、分解処理した。有機廃棄物は、一般食堂および鮨店の残渣から成り、魚肉、鳥獣肉、野菜、穀物などの残渣を含んでいた。発酵槽は、62℃に設定した第1発酵槽と50℃に設定した第2発酵槽とから成り、第1発酵槽に投入した有機廃棄物を第2発酵槽に移送するようになっている。第1発酵槽には、有機廃棄物とともに、本菌株THU-H0024株(FERM P-21946)培養液合計12リットルと、籾殻菌床合計335リットルと、リンゴジュース合計24リットルと、水16リットルとを投入した。投入開始後15日目に、第1発酵槽から第2発酵槽へ有機廃棄物の移送が始まった。
その結果、投入した有機廃棄物は、翌朝にはすべて分解されて形がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物分解作用を示す微生物であるバチルス属細菌(Bacillus sp.)THU-H0024株(FERM P-21946)。
【請求項2】
有機廃棄物に請求項1記載の微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温する有機廃棄物の分解方法。
【請求項3】
有機廃棄物に請求項1記載の微生物を混合し、37℃乃至75℃の温度で保温する堆肥の製造方法。



【公開番号】特開2012−23994(P2012−23994A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164003(P2010−164003)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(502375622)株式会社 相澤製作所 (3)
【Fターム(参考)】