説明

有機性廃棄物の湿式メタン発酵処理方法

【課題】下水汚泥及び木質系バイオマスをメタン発酵処理によって有効に処理すること。
【解決手段】本発明は、下水汚泥及び木質系バイオマスを湿式メタン発酵させる有機性廃棄物のメタン発酵処理方法であって、木質系バイオマスを加圧下で混練することによって破砕し、膨潤化させる前処理工程と、
木質系バイオマスが含水率90質量%以上98質量%以下となるように、前処理工程後の木質系バイオマスと下水汚泥の少なくとも一部とを混合する調質工程と、
調質工程後の下水汚泥と木質系バイオマスとの混合物を、木質系バイオマスがメタン発酵槽内の混合物全体の0.1質量%以上3質量%以下となりように調整した後、メタン発酵させ、メタンガスを回収するメタン発酵工程と、
メタン発酵後の発酵残渣を脱水し、固形分を廃棄する固形分廃棄工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の処理方法に関し、下水汚泥と木質系バイオマスとを同時にメタン発酵処理することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥の処理方法には、汚泥の安定化及びメタンガスの回収を目的として、嫌気性消化法が一般的に用いられる。特許文献1は、生物分解されにくいセルロースを含有する有機性廃棄物を処理する場合に、廃棄物を微細破砕し、可溶化処理した後、嫌気性消化処理することが好ましいことを開示している。
【0003】
セルロースを含有する有機性廃棄物の中でも、剪定枝のような木質系廃棄物(木質系バイオマス)は、セルロース繊維をリグニンが膠着させた組織からなっているため、微生物による分解及び消化を受け難い。そのため、剪定枝のような木質系バイオマスは、メタン発酵槽に投入してもほとんど分解されず、メタンガスもあまり発生しない。
【0004】
特許文献2は、乾式発酵槽に葉及び枝を投入してメタン発酵させ、メタンガスを回収する技術を開示している。特許文献2の方法では、ピストンポンプで対象物を発酵槽に押し込んでいくため、木質のような大きな固形分が発酵槽に投入されても機械的な問題は起こらない。しかし、幹の部分は強固な木材組織構造であるために、メタン発酵効率は低い。
【0005】
一方、湿式発酵では、例えば、中温発酵では発酵条件が20日〜30日であり、処理対象物の含水率は高いが、木質系バイオマスは分解性が悪く、含水率も低いことから発酵不適物として処理対象外とされることが通常であった。
【0006】
特許文献3は、刈り取った雑草、剪定枝又は廃木材のような木質系バイオマスを繊維状に破砕した後、熱処理することにより、メタン発酵させる前に易分解化させる方法を開示している。また、特許文献4は、生ゴミ又は剪定枝のような木質系バイオマスを、圧縮しながら混練粉砕するためのスクリュー式圧縮混練粉砕装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−50143号公報
【特許文献2】特開平4−231395号公報
【特許文献3】特開2004−167392号公報
【特許文献4】特開2002−301394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、木質系バイオマスは、湿式発酵の処理対象物としては適当ではない。しかし、山又は森林の近くに位置する地方自治体にとっては、剪定枝のような木質系バイオマスの処理は重要である。従来、焼却処理されることが一般的であった木質系バイオマスであるが、メタン発酵によって少しでも有効活用することが好ましい。また、乾式発酵においては、常に一定量の処理対象物を確保することが困難であり、大規模施設として運転することは難しい。
【0009】
一方で、下水汚泥をメタン発酵させるプラントは、既に実用化されているが、メタン発酵後に発酵槽内の発酵液を固液分離する際に発酵残渣の脱水性が低い場合があり、その場合には無機金属塩又は高分子凝集剤のような凝集剤が必要とされる。
【0010】
本発明は、下水汚泥及び木質系バイオマスを湿式メタン発酵処理によって有効に処理し得る、有機性廃棄物のメタン発酵処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献4に開示されているスクリュー式圧縮混練粉砕装置のような前処理装置によって木質系バイオマスを破砕及び膨潤化させれば、メタン発酵効率を向上させ得る。本発明者等は、破砕及び膨潤化させた木質系バイオマスを、下水汚泥に特定比率で混合させれば、下水汚泥をメタン発酵させる既存のプラントにおいて、木質系バイオマスの一部を湿式メタン発酵に供することが可能であり、しかもメタン発酵後の発酵残渣の脱水性も向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
具体的に、本発明は、
下水汚泥及び木質系バイオマスをメタン発酵させる有機性廃棄物の湿式メタン発酵処理方法であって、
前記方法は
木質系バイオマスを加圧下で混練することによって破砕し、膨潤化させる前処理工程と、
木質系バイオマスが含水率90質量%以上98質量%以下となるように、前処理工程後の木質系バイオマスと下水汚泥の少なくとも一部を混合する調質工程と、
調質工程後の下水汚泥と木質系バイオマスとの混合物を、木質系バイオマスがメタン発酵槽内の混合物全体の0.1質量%以上3質量%以下となるように調整した後、メタン発酵させ、メタンガスを回収するメタン発酵工程と、
メタン発酵後の発酵残渣を脱水し、固形分を廃棄する固形分廃棄工程と、
を有する。
【0013】
水分を含有している木質系バイオマスは、加圧下で混練されることによって破砕され、膨潤化される。その結果、開繊され、表面積が増大し、微生物による湿式メタン発酵を受けやすくなる。本発明では、このような前処理を行った後、木質系バイオマスと、下水汚泥とを混合する。木質系バイオマスだけでは、湿式メタン発酵に利用可能な有機物濃度が低く、メタン発酵効率は低い。しかし、下水汚泥と特定比率で混合した後、湿式メタン発酵させることによって、メタン発酵槽内の発酵効率を維持しつつ、木質系バイオマスの湿式メタン発酵を行い得る。
【0014】
なお、本発明でいう下水汚泥には、下水等を処理した際に発生する余剰汚泥はもちろん、下水処理工程において発生し、固液分離によって得られる汚泥(初沈汚泥又は水処理後に固液分離されて得られる汚泥)も含まれる。
【0015】
また、通常、下水処理場から得られる下水汚泥は、含水率が99.9質量%以上と高いが、本発明でいう下水汚泥は、含水率が99質量%以上に限定されない。例えば、脱水処理によって得られる濃縮汚泥も、本発明でいう下水汚泥に含まれる。なお、濃縮汚泥としては、メタン発酵される際の取扱性の容易さから、一般に含水率が97質量%以上の下水汚泥が利用される。
【0016】
通常、下水汚泥をメタン発酵槽内でメタン発酵させた後、発酵液が固液分離される。固形分は、発酵残渣として取り出されるが、無機金属塩又は高分子凝集剤のような凝集剤を発酵液に添加し、固形分を凝集沈殿させた後、汚泥脱水機を用いて固液分離されることが一般的である。しかし、本発明では、下水汚泥に破砕及び膨潤化された木質系バイオマスを混合し、湿式メタン発酵に供するため、破砕及び膨潤化させた微細な木質が汚泥フロック形成の核となって凝集性が向上するため、結果的に湿式メタン発酵後の発酵残渣の脱水性が向上するために、凝集剤の使用量を削減し得る。
【0017】
調質工程では、木質系バイオマス及び有機性廃水を混合する際に、木質系バイオマスが含水率90質量%以上98質量%以下となるように調整される。含水率90質量%未満であるとメタン発酵槽への供給が困難となり、含水率が98質量%よりも大きいと、調質槽が大型化してしまうためである。このような観点から、含水率を92質量%以上95質量%以下とすることがより好ましい。
【0018】
調質工程後、木質系バイオマスと下水汚泥との混合物は、メタン発酵槽に供給されるが、木質系バイオマスがメタン発酵槽内の混合物全体の0.1質量%以上3質量%以下となるように供給される。木質系バイオマスが0.1質量%未満だと発酵残渣の脱水性向上効果が不十分であり、3質量%超だとメタン発酵槽内の発酵に利用し得る有機物濃度が低下し、木質系バイオマスの増加に伴い発酵残渣が増加して発酵効率が低下するためである。また、3質量%超だと混合物の流動性が悪くなり、ガス発生量の低下及び配管閉塞という問題も起こる。
【0019】
なお、メタン発酵槽内の混合物は、メタン発酵槽に供給される下水汚泥及び木質系バイオマスの他に、別途、有機性廃棄物(例えば食品残渣)が含有されていてもよい。メタン発酵槽に供給される混合物の量は、予め重量計又は流量計によって測定することによって、木質系バイオマスが混合物の合計に対して上記範囲となるように供給することが可能である。
【0020】
前記調質工程又はその前処理として、木質系バイオマスと下水汚泥との混合物又は木質系バイオマスを曝気処理することが好ましい。
【0021】
木質系バイオマスは、メタン発酵させ難いため、事前に曝気処理を行うことによって、上述した加圧下での混練による破砕及び膨潤化処理と相まって、その一部がさらにメタン発酵されやすい易分解性物質へと変化され得る。
【0022】
この曝気処理は、下水汚泥と混合した後の木質系バイオマスを対象としてもよく、また、下水汚泥と混合する前の木質系バイオマスを対象としても良い。木質系バイオマスを曝気する場合は、木質系バイオマスの含水率を上げるために水を添加してもよく、有機性廃棄物(例えば、産業排水汚泥又は浄水場等から排出される汚泥、食品残渣、嫌気発酵処理後の消化液など)を添加してもよい。
【0023】
前記調質工程において、少なくとも滞留時間を1日以上とすることが好ましい。
【0024】
木質系バイオマスを下水汚泥と混合し、メタン発酵槽に供給する前に1日以上滞留させることにより、木質系バイオマスを一定以上の含水率を保有した状態で均一に拡散し得るため、メタン発酵槽に木質系バイオマスを供給した際にメタン発酵槽内で混合されやすく、均一に拡散しやすくなるという効果が得られる。均一に拡散されることによって、木質系バイオマスによる凝集効果をより効果的に発揮させることができると共に、木質系バイオマス自体のメタン発酵効率も高めることができる。
【0025】
なお、調質工程の前処理として曝気処理する場合、この曝気処理も合わせて前記調質工程として滞留時間を1日以上とすればよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、メタン発酵源として木質系バイオマスの有効利用が図れると共に、下水汚泥の湿式メタン発酵における発酵残渣の脱水性を向上させ、凝集剤の使用量を削減し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1の概略工程フローを示す。
【図2】スクリュー式圧縮混練粉砕装置の一例に関する要部横断面図を示す。
【図3】図2に示されるスクリュー式圧縮混練粉砕装置の要部縦断面図を示す。
【図4】図2に示されるスクリュー式圧縮混練粉砕装置による被処理物の粉砕工程の概念図を示す。
【図5】実施形態1において、有機性廃水のみの処理を行う場合の概略工程フローを示す。
【図6】実施形態2の概略工程フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0029】
<実施形態1>
(前処理工程)
図1は、本発明の実施形態1の概略工程フローを示す。木質系廃棄物(木質系バイオマス)の具体例は、剪定枝、刈草、藻類、籾殻、稲藁又は廃木材である。木質系バイオマスは、破砕機に供給され、加圧下で混練されることによって破砕及び膨潤化される。破砕機としては、神鋼造機株式会社製、商品名:植繊機(登録商標)を使用し得る。破砕機では、水分を含有している木質系バイオマスが圧縮及び混練された後、圧力が開放されることによって、破砕された木質系バイオマスが膨潤化される。膨潤化されることによって、木質系バイオマスの繊維が開繊され、結晶構造が崩れる。その結果、表面積が増大し、かつ、吸水性が向上するために、通常の微粉砕処理された木質系バイオマスと比較して、微生物による発酵を受けやすくなる。
【0030】
植繊機(登録商標)を用いる破砕処理は、連続処理でもよく、バッチ式処理でもよい。粉砕程度は、単位質量当たりの表面積(比表面積)で数値化される。破砕後の木質系バイオマスは、その50質量%以上が直径0.05mmφ以下とすることが好ましい。木質系バイオマスの比表面積が大きくなることにより、木質系バイオマスがより分解され易くなり、メタン発酵効率が向上するためである。破砕後の木質系バイオマスの比表面積は、1.0m2 /g以上とすることが好ましい。
【0031】
ここで、植繊機(登録商標)の一例であるスクリュー式圧縮混練粉砕装置について説明する。図2は、スクリュー式圧縮混練粉砕装置の一例に関する要部横断面図を示す。図3は、図2に示されるスクリュー式圧縮混練粉砕装置の一例に関する要部縦断面図を示す。
【0032】
図2及び図3に示されるスクリュー式圧縮混練粉砕装置1は、ケーシング2と、ケーシング2内に回転自在に挿入されたスクリュー3と、ケーシング先端部にボルト23aによって固定されたトップカバー7と、トップカバー7の中央部に配置されスクリュー3の先端12を回転自在に支持する支持部材11と、トップカバー7の内面に摺接するカッター9とを有している。ケーシング2の後端側には、ロート状の被処理体投入用のホッパ10が、その下部開口である投入口13がケーシング内に開口するように設けられている。さらに、トップカバー7には、粉砕物を排出するための多数の排出孔6が設けられている。
【0033】
カッター9は、トップカバー7の内側表面に接触又は近接するように配置されており、スクリュー3の回転軸20の先端に取り付けられて、回転軸20と共に回転するようになっている。トップカバー7の中心には、スクリュー支持部材11が設けられており、スクリュー3の先端12は、スクリュー支持部材11に回転自在に支持されている。さらに、スクリュー3の回転軸20は、ケーシング2にボルト23bで固着されたリアカバー8に回転自在に保持され、その後端は、コネクタを介して適宜の駆動源22に取り付けられ、回転軸20をケーシング2内で回転自在に支持する構造となっている。ケーシング2の内側前方側には、ケーシング2の長手方向に沿って複数の剪断刃部材4がボルト5によって固着されている。
【0034】
スクリュー式圧縮混練粉砕装置1は、上記構成により、スクリューの回転力によって被処理体をスクリュー3とケーシング2の内面とによって粉砕しつつ混練し、さらに、スクリュー3の羽根3aの間隔は、先端に行くに従って狭くなるように形成されている。これにより被処理体をスクリュー3の回転力によって前方に圧送し、トップカバー7の排出孔6から押し出すようになっている。この押し出しの直前で、ケーシング2内の排出孔6の手前に設けられたカッター9により、被処理体の繊維質を切断し、これにより排出孔6の目詰まりを防止するようになっている。
【0035】
ケーシング2の内側には、ケーシング2の長手方向に沿って複数の剪断刃部材4が形成されており、図4に概念的に示されている要領で、被処理物の剪断による粉砕が行われる。すなわち、図4(a)に示されるように、スクリューの回転によって圧送されてきた被処理物30は、スクリュー羽根3aの外周縁と剪断刃部材4とに挟まれる状態となる。次に、図4(b)に示されるように、被処理物30は、スクリュー3の回転(図中矢印方向)によってスクリュー羽根3aの外周縁と剪断刃部材4のテーパ状剪断刃面4aとの間で剪断力を受け、図4(c)に示されるように、スクリュー羽根3aの外周縁とテーパ状剪断刃面4aとの間に存在する被処理物30は、両部材の相対運動によって擦り潰し作用を受け、これによって被処理物中の繊維質は、ほぐされつつ剪断され、粉砕される。
【0036】
以上のように、ケーシング2内に投入された被処理物30は、次第に小片30a,30bに剪断されつつ混練され、擦り潰されて、より小さな粒子へと粉砕される。特に、スクリュー3の羽根ピッチは、前方ほど狭くなっているので、スクリューの前方に行くほどスクリューの回転力によって被処理物は圧縮されて圧密化され、その状態でさらに混練作用による擦り潰しと粉砕作用を受けて、一層細かな粒子へと粉砕される。
【0037】
被処理物が剪定枝、枯れ草又は籾殻のような乾燥物の場合には、被処理物は、上述したスクリュー羽根3aと剪断刃部材4との剪断作用やスクリュー2による圧縮を受けている状態でケーシング内壁やスクリュー面との摩擦を受ける結果、被処理物の温度が高くなり、場合によっては内部で炭化する現象も生じる。同時に、摩擦抵抗の増大により、スクリューによる円滑な送りが行えなくなる場合もある。これを防止する目的で、ケーシング2の先端部25a、又はその近傍の圧縮部25b,25cのケーシング前部に、ケーシング2の機壁を貫通して導水管14が配置され、必要に応じてバルブ14aの開閉によってケーシング内に水分の供給を行うと共に、その供給量の調整を行えるようになっている。
【0038】
(調質工程)
次に、下水処理施設から排出される下水汚泥が脱水処理され、濃縮された濃縮汚泥の一部が、調質槽へと供給される。そして、前処理工程後の木質系バイオマスも、調質槽へと供給され、両者が攪拌及び混合される。このとき、調質槽内での混合物の含水率が90質量%以上98質量%以下、好ましくは92質量%以上95質量%以下となるように木質系バイオマスと下水汚泥の混合割合を調整する。混合物の流動性が悪い場合には、適宜水を添加して流動性を調整してもよい。
【0039】
なお、本発明において、調質槽における滞留時間は特に限定されないが、1日以上、好ましくは4日以内が好ましい。滞留時間が全く無い場合、木質系バイオマスを均一化させないままメタン発酵槽に供給するため、メタン発酵槽内で木質系バイオマスが拡散するのに時間を要する可能性がある。一方で滞留時間が長すぎると、調質槽が大きくなり調質のための場所と動力が過大となる。
【0040】
上述したように、木質系バイオマスと下水汚泥との混合物以外に、有機性廃棄物が混合されてもよい。木質系バイオマスは、本発明の前処理工程により易分解性の物質となっているものの、通常の下水汚泥と比較するとメタン発酵に利用し得る有機物濃度は低い。そのため、メタン発酵槽内で利用し得うる有機物濃度を高めるために、有機性廃棄物を混合することによって、メタン発酵効率が低下することを抑止し得うる。なお、有機性廃棄物の一部を曝気槽又はや調質槽などで事前に木質系バイオマスと混合することによって、木質系バイオマスと有機性廃棄物が混合及び分散され、メタン発酵槽に供給される混合物をより湿式メタン発酵に適した状態とすることができる。そのため、該混合物をメタン発酵槽に供給した際に、例えば、混合不良が起こった場合であっても、槽内で局所的に発酵し難い個所が形成されることを防止し得る。
【0041】
(メタン発酵工程)
調質工程後、有機性廃水及び木質系バイオマスの混合物は、メタン発酵槽へと供給され、含有される有機物が、湿式メタン発酵によって嫌気的に生物分解される。この際、メタン発酵槽内においては、木質系バイオマスが混合物全体の0.1質量%以上3質量%以下となるように調整される。メタン発酵工程は、公知の湿式メタン発酵方法によって行い得る。発生したメタンガスは、精製された後、ガスタンクのような貯蔵施設に貯蔵される。本発明では、前処理工程において、木質系バイオマスを破砕及び膨潤化しているために、単に微粉砕した木質系バイオマスを湿式メタン発酵させる場合と比較して、木質系バイオマスのメタン発酵効率が高い。
【0042】
なお、メタン発酵槽内での滞留時間は中温(35℃〜40℃程度)嫌気性醗酵の場合、20日〜30日程度とすることが好ましく、高温(50℃〜60℃程度)嫌気性発酵の場合、10日〜20日程度とすることが好ましい。
【0043】
(固形分廃棄工程)
メタン発酵工程が終了した後、メタン発酵槽内の発酵液は、脱水機を用いて固液分離される。脱水機の例は、汚泥脱水機である。固形分は、通常は焼却処分され、液体は排水設備へと排水され、処理される。発酵液を固液分離する際、通常であれば、無機金属塩又は高分子凝集剤のような凝集剤を発酵液に添加し、有機物を凝集沈殿させた後、脱水機へと供給して固液分離する。しかし、本発明では、下水汚泥に木質系バイオマスが混合されているために発酵液の脱水性がよく、発酵液に添加する凝集剤が少量で済み、凝集剤のコストを抑制し得る。
【0044】
図5は、実施形態1において、木質系バイオマスの処理を行わない場合の概略工程フローを示す。図5の概略工程フローは、下水汚泥をメタン発酵させる従来技術の工程フローと同じである。すなわち、本発明の有機性廃棄物のメタン発酵処理方法は、木質系バイオマスの処理を行わない場合には、既存のメタン発酵処理施設をそのまま活用することが可能である。この場合、湿式メタン発酵後の発酵液には、凝集剤を通常通りに添加する必要がある。
【0045】
なお、木質系バイオマスの処理を行わない場合は、下水汚泥を木質系バイオマスの処理系に設けられた調質槽へ供給する必要は無いが、調質槽では常に一定の滞留時間を有するように運転することが好ましい。調質槽を常に一定滞留時間で運転することによって、次回木質系バイオマスを受け入れる際に、運転がスムーズに行われるためである。この観点から、木質系バイオマスの処理を行わない場合でも、一定の滞留時間を有するように調質槽へ下水汚泥の一部を供給することが好ましい。
【0046】
<実施形態2>
図6は、本発明の実施形態2の概略工程フローを示す。本実施形態の基本フローは、図1に示される実施形態1と共通するため、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0047】
本実施形態では、破砕及び膨潤化された木質系バイオマスと、下水汚泥とを曝気槽へと供給する。曝気槽内における木質系バイオマスと下水汚泥との混合割合は、実施形態1の調質槽内と同じとしてもよいが、異なっていてもよい。曝気槽内の混合物には、曝気装置によって空気が供給される。この曝気処理によって下水汚泥と木質系バイオマスが好気性発酵処理され、木質系バイオマスの一部が易分解性物質に分解される。
【0048】
図6では、木質系バイオマス及び有機性廃水を曝気槽へ供給した後、曝気処理を行っているが、木質系バイオマスに濃縮前の下水汚泥を混合して曝気槽内に供給した後、曝気処理してもよい。また、下水汚泥の代わりに有機性廃棄物、メタン発酵処理後に得られる発酵液(若しくは、その固液分離液)、又は併設する下水処理場の処理水のいずれかを混合してもよく、これらの内から2以上を選択して混合してもよい。
【0049】
下水汚泥の含水率が高い場合、メタン発酵のためにより大きな設備が必要となり、メタン発酵効率が低下する。そこで、下水汚泥の含水率が高い場合には、本実施形態のように、事前に脱水機で濃縮された下水汚泥(下水汚泥)を利用することにより、調質槽内及びメタン発酵槽内の含水率を低くすることが好ましい。
【0050】
また、木質系バイオマスの混合によりメタン発酵槽内での易分解性の有機物濃度が低くなるため、易分解性の有機物濃度を高めるために、メタン発酵槽内にさらに木質系バイオマス以外の易分解性の有機性廃棄物を混合してもよい。
【0051】
ここで、易分解性の有機性廃棄物としては、例えば、生ごみ又は食品廃棄物が該当する。これに対して、木質系の廃棄物は、難分解性の有機性廃棄物に該当するといえる。
【0052】
なお、易分解性の有機性廃棄物を混合する場合、メタン発酵槽に供給される混合物の合計に対して5質量%以下となるように易分解性の有機性廃棄物を供給することが好ましい。特に既存の下水処理設備を使用する場合、易分解性の有機性廃棄物の混合量が5質量%を超えると、下水処理設備の負荷が増加し、後段の処理設備に過大な負荷がかかり、別途処理が必要となるおそれがある。
【0053】
メタン発酵槽内に供給される有機物濃度は、例えば、TS(固形物濃度)、VS(有機物濃度)によって測定されることが可能であり、又はニクロム酸カリウム法を用いる化学的酸素要求量測定方法(CODcr)によって測定されることも可能である。易分解性の有機性廃棄物としては、菓子類製造時に発生する食品残渣、又は排水処理汚泥が好適に利用できる。
【0054】
なお、本発明においてメタン発酵槽に供給される木質系バイオマスの混合割合は、常に一定でなくともよい。例えば、1週間を1つの期間として、1週間にメタン発酵槽に供給される有機物等の合計に対して0.1質量%以上3質量%以下となるように、木質系バイオマスを供給してもよい。特にメタン発酵槽での滞留時間が20日以上(高温メタン発酵の場合10日以上)で、かつ、調整槽における滞留時間が1日以上ある場合には、調整槽内の均一化とメタン発酵槽内における混合分散によって、十分に脱水性を発揮し得る程度に木質系バイオマスが混合されるためである。
【0055】
本発明においては、下水汚泥と木質系バイオマスを混合するため、下水処理場に設置されたメタン発酵槽を、木質系バイオマスの湿式メタン発酵にも有効活用できると共に、湿式メタン発酵残渣の脱水性を向上させ、処理コストを抑制することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の有機性廃棄物のメタン発酵処理方法は、廃水処理、廃棄物処理又はエネルギー分野において有用である。
【符号の説明】
【0057】
1:スクリュー式圧縮混練粉砕装置
2: ケーシング
3: スクリュー
3a:スクリューの羽根
4: 剪断刃部材
4a:剪断刃部材のテーパ状剪断刃面
5:ボルト
6: 排出孔
7:トップカバー
8:リアカバー
9:カッター
10:ホッパ
10a:ホッパの傾斜面
11:支持部材
12:スクリューの先端
13:ホッパの被処理物投入口
14:導水管
14a:バルブ
19:回転方向を示す矢印
20:回転軸
22:駆動源
23a,23b:ボルト
26:後部空間
30,40:被処理物
30a,30b:被処理物の小片
41:搬送装置
42a,42b:被処理物の移動方向を示す矢印
43:ホッパ内に滞留する被処理物
44a:スクリュー巻き込み側空間
44b:右側空間
O:スクリュー3の中心点
C1:中心点Oを通る垂線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥及び木質系バイオマスをメタン発酵させる有機性廃棄物の湿式メタン発酵処理方法であって、
前記方法は、
木質系バイオマスを加圧下で混練することによって破砕し、膨潤化させる前処理工程と、
木質系バイオマスが含水率90質量%以上98質量%以下となるように、前処理工程後の木質系バイオマスと下水汚泥の少なくとも一部を混合する調質工程と、
調質工程後の下水汚泥と木質系バイオマスとの混合物を、木質系バイオマスがメタン発酵槽内の混合物全体の0.1質量%以上3質量%以下となるように調整した後、メタン発酵させ、メタンガスを回収するメタン発酵工程と、
メタン発酵後の発酵残渣を脱水し、固形分を廃棄する固形分廃棄工程と、
を有する。
【請求項2】
前記調質工程又はその前段階において、木質系バイオマス、又は木質系バイオマスと下水汚泥との混合物を曝気処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調質工程において、少なくとも滞留時間を1日以上とする請求項1又は2に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−6164(P2013−6164A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141957(P2011−141957)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】