説明

有機性廃棄物を用いたリン酸質肥料の製造方法

【課題】既存の設備を用いて、有機性廃棄物等をリン回収原料としてこれより得られた炭化物をリン鉱石の代替原料として過リン酸石灰を製造する方法を提供する。
【解決手段】下水汚泥、メタン発酵残渣、畜産系廃棄物等の有機性廃棄物からの炭化物を、リン鉱石原料の一部代替資材として、硫酸と反応させることにより過リン酸石灰を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物である下水汚泥や畜産系廃棄物、メタン発酵残渣などを還元加熱処理することにより得られた炭化物またはこの炭化物からリン成分を分離・回収したリン回収物をリン鉱石の代替原料として、リン酸質肥料である過リン酸石灰を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
普通肥料である過リン酸石灰は、肥料取締法に基づく登録肥料であり、粉砕したリン鉱石に硫酸を反応させて製造するリン酸質肥料として一般的に利用されており、外観灰白色の粉状または粒状で、リン酸一石灰Ca(HPO・HOおよびセッコウCaSOを主成分とするが、通常この他に少量の遊離リン酸、リン酸二石灰CaHPO・HOおよび未分解のリン鉱石等を含有する。日本では、肥料取締法により水溶性および可溶性リン酸の含有量が保証されている。
【0003】
しかし、主原料のリン鉱石は将来的には枯渇が懸念される資源であり、全世界で価格が高騰する戦略物資として争奪競争が高まっている。
【0004】
一方で、生活系廃棄物の下水汚泥や畜産系廃棄物からリンを回収する技術は、本来脱リン技術として開発されたHAP法、MAP法や酸アルカリ抽出法として確立している。これらの技術は、エネルギーを利用して廃棄物を焼却することや、その残渣に薬剤を添加することによりリンを固定・回収するものであり、リンの回収効率が高く、高純度のリンを回収できることが特徴である。
【0005】
しかし、供給するエネルギーおよび薬剤や回収残渣の処分等による回収コストが高いことがこれらの技術の課題であり、現状ではリン回収事業として広く普及していない。
【0006】
特許文献1には、有機性廃棄物の炭化物をリン源として、これを熱処理することによりリン酸質肥料を製造する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、この方法では、リン鉱石の代替原料として供給した炭化物を熱処理した際に発生する排ガスの処理が必要である。そのため、既存肥料製造プロセスの排ガス処理装置の能力変更、装置追加が必要となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−024091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、既存の設備を用いて、有機性廃棄物あるいはそれから製造される堆肥等をリン回収原料として、これを還元加熱処理することにより得られた炭化物またはこの炭化物からリン成分を分離・回収したリン回収物をリン鉱石の代替原料として過リン酸石灰を製造し、有限資源である鉱石への依存軽減および有効資源の循環利用を実現する、方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、有機性廃棄物からの炭化物を、リン鉱石原料の一部代替資材として、硫酸と反応させることにより過リン酸石灰を製造する方法である。
【0011】
上記発明により、有限資源である鉱石への依存軽減および有効資源の循環利用を実現することができる。
【0012】
また、有機性廃棄物からの炭化物をリン鉱石の代替原料として利用するので、枯渇資源への依存が軽減される。
【0013】
原料として利用されるリン成分を含む有機性廃棄物として、畜産系廃棄物である畜産系バイオマスの中でも特にリン成分が高濃度である豚・鶏ふん堆肥が最も望ましいが、これに限らずリン成分を含む下水汚泥やメタン発酵残渣などの有機性廃棄物全般を適用することができる。
【0014】
これまでに採取した豚ふん堆肥のリン酸濃度は平均6%であり、炭化処理することで濃縮された炭化物のリン酸濃度は8〜15%である。また、炭化物に濃縮されたリン化合物は粒子表面に集積して、低コストな乾式分離法でリン成分を炭化物の1.3倍の10〜20%まで濃縮できる。
【0015】
一般的なリン鉱石のリン酸濃度は30〜35%であり、炭化物からのリン回収物は鉱石の1/3から1/2以上のリン酸濃度であり、十分に肥料原料の代替効果が期待できる。
【0016】
また、炭化物を化学肥料原料に使用した場合には、農地の土壌改良等の効果も期待できる。
【0017】
リン酸質肥料の原料として炭化物を肥料原料に利用した場合に、炭化物特性に由来する農地の物理的、生物的性質の改善効果等が期待できる。炭化物は農地の保水性、通気性を向上させる物理的効果や、菌根菌などの微生物の住みかとなることでの生物的効果があることは従来からわかっており、炭化物を原料としたリン酸質肥料もこれらの物理的、生物的効果や、さらには畜産地域特有の硝酸態窒素の吸着効果、バイオマス由来の炭素固定効果も期待できる。
【0018】
さらに、有機性廃棄物を過リン酸石灰の原料に利用することで、地域資源の広域循環利用が可能となる。
【0019】
下水汚泥、畜産系廃棄物やメタン発酵処理残渣等の有機性廃棄物は、堆肥化することで有機肥料として利用できるが、需要の季節変動による需給バランスの崩れや化学肥料に比べて嵩張ることから施肥や移送の効率が悪く、有効なリサイクル用途がないままに埋立処分される場合があり、未利用の地域資源として有効活用が望まれている。これらを、リン鉱石の代替資材として過リン酸石灰の原料に利用することで、地方に偏在している未利用バイオマスの有用資源を低コストで回収し、減容化による貯留および輸送効率の向上、更に広域的な流通が可能となる。
【0020】
好ましくは、炭化物は、有機性廃棄物から製造された堆肥を還元加熱処理することにより、例えば、300〜600℃の温度で堆肥を還元加熱することにより得られたものである。
【0021】
好ましくは、硫酸の一部にスクラバ洗浄水から回収した廃液が利用される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、リン成分を含む有機性廃棄物全般を代替資源としてリン酸質肥料を製造することができる。また、本発明の方法では、大幅な既存設備の更新なしで代替資源を循環利用することができ、炭化物を原料として利用することで農地の物理的、生物的機能の改善効果や、さらには畜産地域特有の硝酸態窒素の吸着効果、バイオマス由来の炭素固定効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の過リン酸石灰の製造方法を説明するフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の過リン酸石灰の製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の過リン酸石灰の製造方法を説明するフローシートである。
【0026】
加熱炉(1)は、畜産系廃棄物等のリン成分を含む有機性廃棄物を搬入し、還元加熱処理により炭化物を生じさせる炉である。
【0027】
還元加熱処理のために、酸素欠乏雰囲気下で加熱温度300〜600℃を維持し、原料の水分量に応じて15〜60分程度の滞留時間を確保する。
【0028】
生じた炭化物は可燃分を含んでおり、発火の危険性があるため、冷却器(2)に搬送され、ここで、冷却される。冷却器として、例えば水冷構造の排出・搬送機のようなものが挙げられるが、炭化物を30℃程度に冷却することができれば、いかなるものであってもよい。
【0029】
ここで、生じた炭化物は、直接、目的物の製造が実施されることになる粉砕・混合機(7)に搬入されてもよいが、リン分離装置(3)に搬入されてもよい。
【0030】
リン分離装置(3)は、炭化物を搬入し、例えば、乾式分離法によりリン成分を分離する。
【0031】
乾式分離法は、粉砕・分級の操作条件下に炭化物を置く方法である。
【0032】
一方、加熱炉(1)で発生したガス成分は、まず、集塵器(4)に通されて、ここで、煤塵が集められる。集められた煤塵は、これも多少のリン成分を含有するので、冷却器(2)を出た炭化物に混合される。
【0033】
集塵器(4)を出たガス成分は、次いで、スクラバ(5)に通される。スクラバ(5)では、揮散した酸性成分がスクラバ洗浄水により除去される。原料である有機性廃棄物の性状によっては、スクラバ洗浄水により硫酸成分を回収することができ、この廃液は、過リン酸石灰の製造に用いる硫酸の一部として利用することができる。
【0034】
スクラバ(5)を出たガス成分は、誘引通風機(6)により外部の方に導かれ、排ガスとして外部に排出される。
【0035】
冷却器(2)からの炭化物またはリン分離装置(3)からのリン回収物は、粉砕・混合機(7)に搬入される。また、この粉砕・混合機(7)にはリン鉱石も搬入される。炭化物および/またはリン回収物は、リン鉱石に対する重量比が1〜200%、好ましくは5〜100%になるように粉砕・混合機(7)に加えられる。
【0036】
粉砕・混合機(7)では、まず、搬入されたリン鉱石と、炭化物および/またはリン回収物とを粉砕し、次いで、これに70℃程度に加温された所定量の硫酸を加えて混合し攪拌する。必要な硫酸量は、粉砕・混合機(7)に搬入される各成分の組成から計算される。
【0037】
反応が落ち着いた段階で、乾燥機(8)に移し、ここで熟成させ、最終物である過リン酸石灰が得られる。
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
有機性廃棄物として豚ふん堆肥を用い、これを加熱炉(1)において450℃で約30分間の時間にわたり還元加熱処理して炭化物を得た。
【0040】
粉砕・混合機に搬入されるリン鉱石は、リン酸濃度が32.7%である。
【0041】
得られた炭化物とリン鉱石とを種々の混合比で粉砕・混合機(7)に入れ、粉砕の後、70℃程度に加温した必要量の硫酸を加え攪拌により混合した。
【0042】
反応が落ち着いた後、乾燥機(8)で熟成させた。
【0043】
(実施例2)
リン鉱石としてリン酸濃度が26.0%のものを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0044】
実施例1および2におけるリン鉱石と炭化物の混合比と、その分析結果を下記の表1に示す。
【0045】
なお、下記表1において、実施例1のリン鉱石のみを用いたものを参考例1とし、実施例2のリン鉱石のみを用いたものを参考例2として、これらの分析結果も記載している。
【0046】
【表1】

【符号の説明】
【0047】
1 加熱炉
2 冷却器
3 リン分離装置
4 集塵器
5 スクラバ
6 誘引通風機
7 粉砕、混合機
8 乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物からの炭化物を、リン鉱石原料の一部代替資材として、硫酸と反応させることにより過リン酸石灰を製造する方法。
【請求項2】
有機性廃棄物は、下水汚泥、メタン発酵残渣、または畜産系廃棄物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化物は、有機性廃棄物から製造された堆肥を還元加熱処理することにより得られたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭化物は、300〜600℃の温度で堆肥を還元加熱することにより得られたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
硫酸の一部にスクラバ洗浄水から回収した廃液を利用する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−18680(P2013−18680A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154500(P2011−154500)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】