説明

有機性廃水の処理方法

【課題】マンガンが膜分離活性汚泥処理槽に流入する場合でも、膜をファウリングさせることなく、安定に膜分離活性汚泥処理する処理方法を提供する。
【解決手段】マンガンを含有する有機性廃水を活性汚泥処理槽内で生物処理し、活性汚泥処理槽内に設置された膜分離装置によって生物処理した水を膜分離処理する有機性廃水の処理方法において、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態に基づいて、膜分離装置への負荷を制御することを特徴とする有機性廃水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃水などマンガンを含有する有機性廃水を、活性汚泥処理槽内で生物処理し、次いで膜分離処理して、処理水を得る際に、好適に用いることのできる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離活性汚泥法は、一般下水のほか、繊維・樹脂など、化学工業から排出される廃水再利用用途にも適用されている。これらのプロセスの廃水には、原料や触媒として使用される重金属類が含まれる場合があり、このような廃水の処理に膜分離活性汚泥法を適用する際に、膜に悪影響を与えることが懸念される。
【0003】
中でもマンガンを含有する有機性廃水の場合、マンガンが膜のファウリングの原因となるため、あらかじめマンガンを可能な限り除去し、濃度を低減化する前処理を行った後に、膜分離活性汚泥処理する方法が通常用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1では、マンガンなどの重金属類を含有する廃水を処理するに際し、前処理として、キレート樹脂に接触させて重金属類を捕捉した後、固液分離する方法が挙げられている。
【0005】
しかし、このような前処理工程を設けていても、除去できなかった微量のマンガンが膜分離活性汚泥処理槽に流入することもあり、依然として膜のファウリングが発生する場合があった。
【0006】
そこで、マンガンが膜分離活性汚泥処理槽に流入する場合でも、膜をファウリングさせることなく、安定に膜分離活性汚泥処理する処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−22923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マンガンが膜分離活性汚泥処理槽に流入する場合でも、膜をファウリングさせることなく、安定に膜分離活性汚泥処理する処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
【0010】
(1)マンガンを含有する有機性廃水を活性汚泥処理槽内で生物処理し、活性汚泥処理槽内に設置された膜分離装置によって生物処理した水を膜分離処理する有機性廃水の処理方法において、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態に基づいて、膜分離装置への負荷を制御することを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【0011】
(2)有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態が、
A.有機性廃水中のマンガンの価数
B.有機性廃水中のマンガンの濃度
C.活性汚泥処理槽内のマンガンの価数
D.活性汚泥処理槽内のマンガンの濃度
のうち、AとB、AとD、BとC、および、CとDからなる群から選ばれる1つであることを特徴とする(1)に記載の有機性廃水の処理方法。
【0012】
(3)有機性廃水中のマンガンの価数が、3価および/または7価である(2)に記載の有機性廃水の処理方法。
【0013】
(4)膜分離装置への負荷を制御するため、
イ)有機性廃水に含まれるマンガン除去を行うための前処理条件、
ロ)有機性廃水に含まれるマンガンの酸化または還元を行うための前処理条件、
ハ)活性汚泥処理槽内のHRT(水理学的滞留時間)、
ニ)活性汚泥処理槽内のSRT(汚泥滞留時間)、
ホ)活性汚泥処理槽内のMLSS(活性汚泥濃度)、および、
ヘ)活性汚泥処理槽内の膜ろ過流束
からなる群から選ばれる少なくとも1つを制御することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の有機性廃水の処理方法。
【0014】
(5)活性汚泥処理槽内のマンガンの濃度を50mg/L以下に制御することを特徴する(1)〜(4)のいずれかに記載の有機性廃水の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マンガンを含有する有機性廃水を膜分離活性汚泥処理する場合に、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの価数と濃度を把握し、その結果に基づいて、適切な膜への負荷となるよう、膜分離活性汚泥処理槽の運転条件を制御することで、安定した効率の良い処理方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明で用いられる膜分離活性汚泥処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、マンガンを含有する有機性廃水を膜分離活性汚泥法により処理する際、マンガンが原因で引き起こされる膜のファウリングを抑制し、安定した効率の良い処理を行うための運転制御方法に関するものである。 具体的には、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態を調査し、膜をファウリングさせやすい状態にある場合、膜のファウリングが見られる上限濃度に達しないよう膜分離活性汚泥工程の運転条件を適正化し運転する方法である。
【0018】
ここで、本発明において、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態とは次の通りである。
A.有機性廃水に含まれるマンガンの価数
B.有機性廃水に含まれるマンガンの濃度
C.活性汚泥処理槽内のマンガンの価数
D.活性汚泥処理槽内のマンガンの濃度
これらのうち、BとDの測定結果、もしくは、AとB、AとD、BとC、および、CとDからなる群から選ばれる1つの組み合わせの測定結果に基づいて、膜分離活性汚泥処理槽の運転条件を制御することで、安定した効率の良い処理が可能となる。中でも、価数と濃度の情報を得ることができるAとB、AとD、BとC、および、CとDからなる群から選ばれる1つの組み合わせの測定結果に基づいて、膜分離活性汚泥処理槽の運転条件を制御することで、安定した効率の良い処理が可能となる為、好適である。
【0019】
本発明者らが、有機性廃水に含まれるマンガンの価数と膜のファウリングとの関連について検証した結果、有機性廃水に含まれるマンガンの価数に応じて、ファウリングし易さが異なり、中でも3価および/または7価のマンガンが含まれている場合にファウリングし易いことを見出した。
【0020】
さらに、連続的に濃度の異なるマンガンを含む有機性廃水を供給して検証した結果、活性汚泥処理槽内にマンガンが蓄積し、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度がある一定の濃度、つまり上限に達すると、膜をファウリングさせることを見出した。
【0021】
これらのことから、マンガンが膜分離活性汚泥処理槽に流入した場合に、膜をファウリングさせることなく、膜分離活性汚泥工程を制御する方法として、有機性廃水に含まれるマンガンの価数と、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度を把握し、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度が上限に達しないよう膜への負荷を制御することが重要であるという知見に至った。
【0022】
図1に、本発明で用いられる一般的な膜分離活性汚泥処理装置の工程を概略化したものを示す。図1の装置では、有機性廃水1を膜分離して処理水を得るための精密ろ過膜分離装置2(以下、MF膜分離装置2と略す。)と、このMF膜分離装置2を有機性廃水1と活性汚泥の混合液中に浸漬設置させるための活性汚泥処理槽3と、MF膜分離装置2により有機性廃水1と活性汚泥の混合液を膜分離して得られた処理水5を貯留する処理水槽4が備えられている。
【0023】
以下では、本発明の水処理方法の実施態様を示す処理フローについて概説する。
【0024】
まず、マンガンを含む有機性廃水1が活性汚泥処理槽3内に供給され、この有機性廃水は活性汚泥処理槽3内で活性汚泥処理される。
【0025】
次に、活性汚泥処理槽3内で活性汚泥処理された水は、同じ活性汚泥処理槽3内で膜分離装置2により固液分離され、処理水槽4に貯えられる。処理水5は再利用、あるいは放流される。
【0026】
MF膜分離装置2に用いられる膜としては、平膜、中空糸膜のいずれでもよく、特に限定されるものではない。また、MF膜分離装置2で用いられる膜の構造は、特に限定されるものではなく、例えば、フレームの両面に流路材を挟んだ上に平膜を接着した平膜エレメント構造や、平膜がスパイラル状に巻かれた平膜エレメント構造、中空糸膜を複数本束ねた中空糸膜エレメント構造のいずれでも採用できる。
【0027】
MF膜分離装置2に用いられるMF膜(精密ろ過膜)とは、孔径が0.01μmから10μm程度のものをいい、一般的に分子ふるいによる分離が行われるUF膜(限外ろ過膜)より目が粗く、通常操作圧は減圧状態から200kPa以下で運転される。
【0028】
MF膜の膜構造としては、多孔質膜や、多孔質膜に機能層を複合化した複合膜などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの膜の具体例としては、ポリアクリロニトリル多孔質膜、ポリイミド多孔質膜、ポリエーテルスルホン多孔質膜、ポリフェニレンスルフィドスルホン多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、ポリフッ化ビニリデン多孔質膜、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜等の多孔質膜が挙げられるが、ポリフッ化ビニリデン多孔質膜やポリテトラフルオロエチレン多孔質膜は耐薬品性が高いため、特に好ましい。さらに、これら多孔質膜に機能層として架橋型シリコーン、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリルブタジエン、エチレンプロピレンラバー、ネオプレンゴム等のゴム状高分子を複合化した複合膜も、好適である。
【0029】
活性汚泥処理槽3は、有機性廃水を貯え、MF膜分離装置2を有機性廃水と活性汚泥の混合液に浸漬することができれば特に制限されるものではなく、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。また、活性汚泥処理槽3の内部が複数に分割されていてもかまわないし、複数に分割されている槽のうち一部を、MF膜分離装置2を浸漬する槽として、他方を脱窒槽として利用し、有機性廃水を互いの分割されている槽間で循環されるようにしていてもよい。
【0030】
活性汚泥処理槽3に導入する活性汚泥は、廃水処理等に一般に利用されるものであり、種汚泥としては他の廃水処理施設の引き抜き汚泥などが通常使用される。活性汚泥法は、微生物が廃水中の生分解性の高い成分を餌として利用することにより、水の浄化を可能とするものである。
【0031】
処理水槽4は、処理水を貯留することができれば特に制限されるものではなく、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。また、有機性廃水をMF膜分離装置2でろ過するために、MF膜分離装置2と処理水槽4との間にポンプ等を設けていてもかまわないし、水頭圧力差をかけるために、処理水槽4内の処理水液面が、活性汚泥処理槽3内の有機性廃水液面よりも低くなるようにしていてもかまわない。なお、図1においては、吸引ポンプ9によるろ過を実施している。
【0032】
ここで、有機性廃水1として流入するマンガンを含有する有機性廃水には、例えば、樹脂製造廃水、繊維製造廃水などの化学工業プラントなどの廃水が挙げられる。
【0033】
有機性廃水に含まれるマンガンとは、特に限定されるものではないが、製造工程等で使用後に排出され、廃水処理工程に含まれるマンガンもしくはマンガン化合物のことである。
【0034】
廃水処理工程に含まれるマンガンの状態を把握する為には、製造工程で使用されるマンガンの状態を調査することが好適である。製造工程で使用されるマンガンの状態が不明な場合には、有機性廃水もしくは活性汚泥処理槽内に含まれるマンガンの状態、もしくは有機性廃水と活性汚泥処理槽内の両方のマンガンの状態を調査する。ここで調査するマンガンの状態とは、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内マンガンの価数や濃度のことである。
【0035】
マンガンの価数とは、マンガン単体がイオンとなっている場合は、その電荷のことをいい、マンガン化合物あるいはそのイオンの場合には、構成するマンガンとそれ以外の原子間で起こる電子の授受を示すのに用いられる酸化数のことをいう。マンガンの価数を測定する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、酸化剤または還元剤の標準溶液を用いた酸化還元滴定による方法や、含まれる重金属を溶媒に抽出させ,抽出液の重金属濃度を定量する逐次分画法や、環境条件(pH、酸化還元電位、共存元素の種類・濃度)を変えながら化学形態の変化の観察が可能な蛍光X線を用いた、XPS(X線光電子分光法)や、例えば、JFE技報No.13(2006年8月)(65〜70頁)に記載のXAFS(X線吸収微細構造)解析などが好適に用いられる。
【0036】
マンガン濃度の測定方法は、特に制限されるものではなく、例えば、下水試験法(日本下水道協会)に記載の全マンガン測定法などが好適に用いられる。また、先述の酸化剤または還元剤を用いた酸化還元滴定法や、市販されているマンガン濃度測定キットなどを用いてもかまわない。下水試験法の全マンガン測定法には、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法やICP質量分析法、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法、過よう素酸吸光光度法、などが挙げられ、中でもICP発光分光分析法やICP質量分析法が好適に用いられる。ICP発光分光分析法やICP質量分析法は、試料中の全マンガン量は、有機物を加熱分解した後、試料に硝酸や塩酸などの酸を加えて、残存したマンガンを含む固形物を水に溶解させ、ICP発光分析装置にて測定する方法である(日本下水道協会編 下水試験方法1997年版)。
【0037】
有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの価数は、製造工程で使用されるマンガンの状態に応じて、2価、3価、4価、7価と様々である。ここで、本発明者らが、図1に示す装置を用い、マンガンの価数と、膜のファウリングの傾向との関係を検討した結果、マンガンの価数の違いに応じて、膜のファウリングの傾向が異なり、3価や7価のマンガンが含まれる場合に、膜のファウリングが起きることが明らかとなった。
【0038】
さらに、膜のファウリングが起きた際、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度が一定以上、具体的には50mg/L以上蓄積していたことから、活性汚泥処理槽内に蓄積するマンガン濃度の上限値を超えると、膜のファウリングが起きることが明らかとなった。
【0039】
この活性汚泥処理槽内でのマンガンの蓄積は、活性汚泥に吸着、または、生物酸化や、マンガンの自触媒作用などによって起こると考えられる。
【0040】
そこで、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度が、上限濃度を超えないよう制御するには、膜分離装置に流入する上流、より好ましくは活性汚泥処理槽に流入する上流で、マンガン除去の為の前処理工程を行い、有機性廃水に含まれるマンガン濃度を調整することが好ましい。
【0041】
前処理工程としては、一般的なマンガン除去に用いられる装置であればよく、例えば、マンガン砂等を充填した除マンガン設備、イオン交換樹脂装置、凝集沈殿装置などが挙げられる。
【0042】
また、有機性廃水に含まれるマンガンを酸化または還元する前処理を行うことで、有機性廃水に含まれるマンガンの価数を変えたり、濃度を調整したりすることも好適である。酸化または還元する為の前処理を例示すると、オゾン酸化や湿式酸化、次亜塩素酸や過酸化水素による酸化などが挙げられる。さらに、有機性廃水に酸やアルカリを添加し、pHを変えることも好適である。
【0043】
その他、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度が、上限に達しないよう制御するためには、活性汚泥処理槽のHRT(水理学的滞留時間)やSRT(固形物滞留時間)を調節する方法も好適である。具体的には、有機性廃水に含まれるマンガン濃度に応じて、汚泥引き抜き量や頻度を調整することで、活性汚泥処理槽内に蓄積するマンガン濃度の増加を抑制する方法である。
【0044】
ここで、HRTとは、有機性廃水が活性汚泥処理槽内に滞留する時間のことをいい、活性汚泥処理槽内への有機性廃水の流入量と槽容積に基づき、次の関係式(式1)で表される。
【0045】
HRT=槽容積/流入量 ・・・(式1)
また、SRTとは、活性汚泥処理槽内の汚泥が、新たに生成した汚泥によって全量入れ替わるのに必要な時間のことをいい、引き抜き汚泥量と槽容積に基づき、次の関係式(式2)で表される。
【0046】
SRT=槽容積/引き抜き汚泥量 ・・・(式2)
活性汚泥処理槽に流入する有機性廃水に含まれるマンガンは、活性汚泥内の微生物により生分解されず、槽内に活性汚泥とともに保持され、汚泥とともに引き抜かれるまで、蓄積していく。この槽内蓄積の割合は、先述のHRTとSRTとの関係で表され、活性汚泥処理槽内の蓄積の増加を抑える為には、次の関係式(式3)に基づいて、制御することが好適である。
【0047】
有機性廃水のマンガン濃度<槽内のマンガン濃度×(HRT/SRT)・・・(式3)
SRTを制御する際に好適に用いられるのが、活性汚泥の引き抜き、つまり活性汚泥処理槽のMLSS(活性汚泥濃度)を変更する方法である。
【0048】
MLSSの測定方法は、浮遊物質濃度を定量化できる方法であれば、特に制限されるものではなく、例えば、下水試験法(日本下水道協会)に記載の蒸発残留物測定法や浮遊物質測定法などが好適に用いられる。また、市販されているMLSS濃度計などを用いてもかまわない。ここで好適に用いられるMLSS測定法は、活性汚泥を遠心分離やガラス繊維ろ紙により固液分離した後、残留固形物を105〜110℃で約2時間加熱乾燥し、その質量から浮遊物質濃度を算出するものである。
【0049】
さらに、有機性廃水に含まれるマンガンによる膜への負荷を軽減するため、活性汚泥処理槽内の膜ろ過流束を調整する方法も好適である。膜ろ過流束とは、膜面積あたりのろ過流速のことであり、膜ろ過流束に応じて、先述のHRTに関わるろ過水量(処理水量)が決まる。つまり、有機性廃水に含まれるマンガン濃度が低い場合には、膜ろ過流束を上げて膜ろ過運転を行い、有機性廃水に含まれるマンガン濃度が高い場合には、膜ろ過流束を下げて、膜のファウリングの進行を調節することで、安定した効率のよい処理が可能となる。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0051】
農集落廃水処理場汚泥を種汚泥とし、活性汚泥処理槽と、それぞれ膜分離して得られた処理水を貯留する処理水槽などから構成される膜分離活性汚泥処理実験装置を用い、連続処理運転を行った。分離膜には下廃水用浸漬膜(東レ製、材質:ポリフッ化ビニリデン製、膜面積:0.03m)を用い、有機性廃水には、酢酸、窒素、リンを添加して調製した人工廃水に、各種マンガン化合物を添加したものを使用した。マンガン濃度および価数の測定には、希硫酸を入れて酸性にした硫酸鉄を還元剤とする酸化還元適定方法を用いた。運転条件を表1に、運転結果を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
(比較例1)
塩化マンガン4水和物(和光純薬)(2価)に、価数を変化させるためにpH8.5になるよう水酸化ナトリウム(和光純薬)を添加して調製した3価のマンガンを10mg/L含む有機性廃水を用いて、連続処理運転を行った。すると、運転開始約1週間で、ろ過圧力が初期に比べ、5kPa以上上昇する傾向が見られた。この時、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度を測定したところ、63mg/Lであった。
【0055】
(実施例1)
そこで、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度を下げるため、活性汚泥を15L引き抜き、マンガンを殆ど含まない活性汚泥(マンガン濃度0.05mg/L)を15L添加した。膜を入れ替えた後、前処理として、マンガン砂(二酸化マンガンをろ材に担持させたもの)を充填したカラムに通水して、除マンガン処理を行い、有機性廃水に含まれる3価のマンガン濃度を2mg/Lに下げて、運転を再開した。運転1ヶ月経過した時点で、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度は40mg/Lであり、ろ過圧力上昇は見られなかった。
【0056】
(比較例2)
比較例1と同様の装置及び運転条件で、活性汚泥と膜を入れ替え、過マンガン酸カリウム(和光純薬)を予め純水に溶解させて調製した7価のマンガンを10mg/L含む有機性廃水を用いて、連続処理運転を行った。すると、運転開始約5日で、ろ過圧力上昇が、初期に比べ、5kPa以上上昇する傾向が見られた。この時、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度を測定したところ、52mg/Lであった。
【0057】
(実施例2)
そこで、活性汚泥処理槽内に蓄積するマンガン濃度の増加を抑制した運転を行うため、活性汚泥と膜を入れ替え、有機性廃水に含まれる7価のマンガン濃度を2mg/Lに下げ、活性汚泥の引き抜きを2倍にして連続処理運転を行った。運転1ヶ月経過した時点で、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度は33mg/Lであり、ろ過圧力上昇は見られなかった。
【0058】
(比較例3)
比較例1と同様の装置及び運転条件で、活性汚泥と膜を入れ替え、塩化マンガン4水和物(和光純薬)に、pH8.5になるよう水酸化ナトリウム(和光純薬)を添加して調製した3価のマンガンを10mg/L含む有機性廃水を用いて、連続処理運転を行った。すると、比較例1と同様に、運転開始約1週間で、ろ過圧力が初期に比べ、5kPa以上上昇する傾向が見られた。この時、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度を測定したところ、65mg/Lであった。
【0059】
(実施例3)
そこで、活性汚泥処理槽内に流入するマンガンを酸化還元する前処理を行い、マンガンの価数を変えた条件で運転を行った。比較例3でろ過圧力上昇が見られた槽内の活性汚泥を15L引き抜き、マンガンを殆ど含まない活性汚泥(マンガン濃度0.05mg/L)を15L添加した。膜を入れ替えた後、比較例3で用いた有機性廃水に、有機性廃水に含まれる3価のマンガンを酸化して4価にするために次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬)を添加し、連続処理運転を行った。すると、運転1ヶ月経過した時点で、活性汚泥処理槽内のマンガン濃度は48mg/Lであり、ろ過圧力上昇は見られなかった。
【0060】
以上の検討から、有機性廃水に3価および/または7価のマンガンが含まれる場合に、槽内のマンガン濃度は50mg/Lを超えると、膜のファウリングが見られ、槽内のマンガン濃度が50mg/Lを超えないよう制御した場合には、膜のファウリングは見られず、安定運転が可能であることを確認した。従って、マンガンを含有する有機性廃水を膜分離活性汚泥処理する場合に、廃水処理工程に含まれるマンガンの価数と濃度を把握し、その結果に基づいて、適切な膜への負荷となるよう、膜分離装置の運転条件を制御する本処理方法は有効である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、マンガンを含有する有機性廃水を、膜分離活性汚泥処理して、処理水を得る際に、好適に用いることができる処理方法である。
【符号の説明】
【0062】
1:有機性廃水(原水)
2:MF膜分離装置
3:活性汚泥処理槽
4:処理水槽
5:処理水
6:原水供給ポンプ
7:空気供給装置
8:散気装置
9:吸引ポンプ
10:汚泥引き抜きポンプ
11:引き抜き汚泥(余剰汚泥)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有する有機性廃水を活性汚泥処理槽内で生物処理し、活性汚泥処理槽内に設置された膜分離装置によって生物処理した水を膜分離処理する有機性廃水の処理方法において、有機性廃水中および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態に基づいて、膜分離装置への負荷を制御することを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項2】
有機性廃水および/または活性汚泥処理槽内のマンガンの状態が、
A.有機性廃水中のマンガンの価数
B.有機性廃水中のマンガンの濃度
C.活性汚泥処理槽内のマンガンの価数
D.活性汚泥処理槽内のマンガンの濃度
のうち、AとB、AとD、BとC、および、CとDからなる群から選ばれる1つであることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項3】
有機性廃水中のマンガンの価数が、3価および/または7価である請求項2に記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項4】
膜分離装置への負荷を制御するため、
イ)有機性廃水に含まれるマンガン除去を行うための前処理条件、
ロ)有機性廃水に含まれるマンガンの酸化または還元を行うための前処理条件、
ハ)活性汚泥処理槽内のHRT(水理学的滞留時間)、
ニ)活性汚泥処理槽内のSRT(汚泥滞留時間)、
ホ)活性汚泥処理槽内のMLSS(活性汚泥濃度)、および、
ヘ)活性汚泥処理槽内の膜ろ過流束
からなる群から選ばれる少なくとも1つを制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項5】
活性汚泥処理槽内のマンガンの濃度を50mg/L以下に制御することを特徴する請求項1〜4のいずれかに記載の有機性廃水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−176369(P2012−176369A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41404(P2011−41404)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】