説明

有機性廃水及び汚泥の処理方法及び処理装置

【課題】汚泥脱水性向上効果と、汚泥中リン成分の分離または回収の高効率化をさせることができる技術を提供する。
【解決手段】嫌気性処理工程を組み入れた有機性廃水又は汚泥処理システムであり、25μm未満のリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)由来のリン含有量が該汚泥全体のリン含有量の5%以上である汚泥を対象とし、MAPを系外に取り出す分離工程、汚泥中に分散するMAP粒子の一部を除去した後の脱離汚泥に対する汚泥減量化工程、該分離工程において分離したMAP濃縮懸濁液に対してMAP粒子を回収する工程を含むシステムにおいて、該汚泥減量化工程は、濃縮工程と脱水工程で構成され、濃縮工程は該MAP脱離汚泥に対して凝集処理を施したものを濃縮して、濃縮汚泥と分離水とにする工程であり、脱水工程は該濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加したものを脱水し、脱水ケーキと脱水ろ液を調製する工程である、有機性廃水及び汚泥の処理方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場や各種廃水処理施設等において有機性廃水及び汚泥を処理するシステムに係わり、更に詳しくは、し尿や浄化槽汚泥の消化脱離液、汚泥の消化液、化学工場排水などの高濃度の有機物、リン及び窒素を含有する廃水から、リン等をリン酸マグネシウムアンモニウム(以下「MAP」ともいう)結晶として分離するとともに、該MAP結晶を分離後の汚泥に対して効率良く脱水処理を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な脱窒、脱リンの同時処理方法としては、嫌気無酸素好気法などの生物学的処理方法や、嫌気好気法、凝集沈殿法、アルミナ吸着法等を組み合わせた方法等がある。また、近年、し尿処理や下水処理の工程で発生する返流水や嫌気性消化脱離液等を対象として、MAPを回収する処理法等も試みられている。これらの処理方法の内、嫌気無酸素好気法は、水質の変化や季節変動に伴う外部環境の変化により、処理性能が安定しない等の問題があり、嫌気好気法と凝集沈殿法等を組み合わせた方法は、処理工程が煩雑な上に薬品代をはじめとするランニングコストが大きいという問題があった。特許文献1等のMAP処理法は、先の2法に比べて運転操作の煩雑さは少なく、特にリンの回収を安定的に行える上、回収されるMAPは優れた肥料としての付加価値があり、資源の有効利用の点からも優れたリン及び窒素の回収兼除去技術といえる。一方、汚泥の脱水性を高める方法として、ポリ鉄、塩鉄等の鉄系、またはPAC、硫酸バンド等のアルミ系等の無機凝集剤を高分子凝集剤に併用して用いることで低含水率の脱水ケーキを得る方法が広く採用されている。
【0003】
リン回収手段としてのMAP法では、(1)pH調整剤としての水酸化ナトリウムや添加剤としての塩化マグネシウム等の薬品コストが大きい、(2)30分程度の短時間において急速にMAPを晶析させる(「急速MAP反応」と略記する)と、微細なMAP粒子が生成され、MAP反応槽の処理水中に微細MAP粒子が同伴され、MAP回収率が60〜70%程度に低下する場合がある、(3)急速MAP反応は、約1000mg/リットル以上のSSが液中に混在するとSSがMAP晶析物と絡み合い、純度の高いMAP結晶としての回収が困難である、(4)MAP処理工程の前段に嫌気性消化工程等を採用している場合においては、嫌気性消化工程においてすでにMAP反応が行われており、生成されたMAP粒子はそのままでは有機性SSとの分離が困難であるため、消化汚泥に混在した状態で、回収されないまま汚泥とともに処分されている、(5)汚泥中のMAP粒子は比較的固く脱水ケーキ中に分散した状態で圧搾されたり圧送されたりすることから、脱水機やケーキコンベア−等の機械類の磨耗の原因となる、(6)汚泥中にMAP粒子が残ると脱水処理後の焼却処理後もピロリン酸等の形態で焼却灰中に残留し焼却灰発生量の増加要因となる、等の問題点が存在した。
【0004】
そこで、本発明者らは上述した従来の問題を解決すべく、特許文献1の「有機性廃水の処理方法及び処理装置」を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−28500号公報
【特許文献2】特開2004−160304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、「リン成分を分離または回収するプロセスを含む汚泥脱水処理」において、脱水性能を高めるために使用する無機系凝集剤は、一般的に酸性であることから汚泥中に存在するMAPやHAP(ヒドロキシアパタイト、即ちリン酸カルシウム)粒子を溶解し、MAPやHAP中のリン酸を溶出させてしまう上、それら溶出したリン酸は汚泥中に元々存在するリン酸とともに無機系凝集剤の鉄イオンまたはアルミイオンと結合し、リン酸鉄またはリン酸アルミとして不溶態となってしまう。これら本来脱水性能を向上させるために添加した無機系凝集剤中の金属陽イオン(鉄イオン、アルミイオン等)は、汚泥粒子表面のマイナスにチャージしているカルボキシル基や水酸基等の官能基に付着させて静電気的に中和し汚泥粒子間の結合力を高めることで脱水性を向上させていることから、添加された金属陽イオンが汚泥中のリン酸等と結合する割合が増えれば増えるほど、添加された無機凝集剤の「添加率あたりの脱水性能向上度合い」が低下し、無機凝集剤が無駄に消費されてしまうことになる。この場合、無機凝集剤由来の金属陽イオンとリン酸が結合してできたリン酸鉄等の化合物は一般的に25μm未満の微細粒子であることが多く、他の汚泥中粒子との物理的分離は難しいためリン化合物のみの分離、または回収は困難となる場合が多い。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点の解決及び、先の特許文献2等の発明をさらに向上させることを目的とする。すなわち、本発明は、有機性廃水処理システムの中で、特に有機物、窒素、リンを含有する廃水、例えばし尿や浄化槽汚泥の消化脱離液、汚泥の消化液、化学工場排水などの高濃度の有機物、リン及び窒素を含有する廃水に対して、嫌気性処理工程を採用し、かつ、汚泥中リン成分をリン酸マグネシウムアンモニウム結晶として分離するMAP処理法を採用し、かつ、汚泥の脱水性向上のための無機系凝集剤添加処理を採用する汚泥処理プロセスにおいて、添加した無機系凝集剤の汚泥脱水性向上効果と、汚泥中リン成分の分離または回収の高効率化の両方を同時に満足させることができる技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す手段により上記課題を解決することができた。
(1)嫌気性処理工程を組み入れた有機性廃水又は汚泥処理システムであり、処理対象汚泥中に存在する25μm未満のリン酸マグネシウムアンモニウム粒子(以下、微細MAP粒子と呼ぶ)由来のリン含有量が該汚泥全体のリン含有量の5%以上である汚泥を処理対象とし、該嫌気性消化工程において汚泥中に発生するリン酸マグネシウムアンモニウムを系外に取り出すリン酸マグネシウムアンモニウム分離工程を有する処理方法であって、該リン酸マグネシウムアンモニウム分離工程において汚泥中に分散するリン酸マグネシウムアンモニウム粒子の一部を除去した後のリン酸マグネシウムアンモニウム脱離汚泥に対する汚泥減量化工程、該リン酸マグネシウムアンモニウム分離工程において分離したリン酸マグネシウムアンモニウム濃縮懸濁液に対してマグネシウムイオンを含む溶液を混合又は接触させるリン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程、及び該リン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程後の該リン酸マグネシウムアンモニウム濃縮懸濁液を含む液体からリン酸マグネシウムアンモニウム粒子を回収する工程を含むシステムにおいて、該汚泥減量化工程は、濃縮工程と脱水工程の2段階で構成され、該濃縮工程は該リン酸マグネシウムアンモニウム脱離汚泥に対して凝集処理を施したものを濃縮して、濃縮汚泥と分離水を調製する工程であり、該脱水工程は該濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加したものを脱水し、脱水ケーキと脱水ろ液を調製する工程である、有機性廃水及び汚泥の処理方法。
(2)有機性廃水又は汚泥処理システムの構成装置として、嫌気性消化反応槽を有し、該嫌気性消化反応槽には少なくとも原水供給管と消化汚泥排出管が接続し、該嫌気性消化反応槽から排出された汚泥又は該嫌気性消化反応槽内の汚泥中の粒子由来であり該汚泥中有機成分粒子と比べて比重と粒径が比較的大きい粒子を優先的に濃縮分離する固液分離装置を配備し、該固液分離装置により分離した粒子を多く含むスラリー状又は固形状物質に対して、マグネシウムイオン含有溶液、又はマグネシウムイオン含有溶液と該固液分離装置の後段の汚泥減量化装置から分離した分離水あるいは脱水ろ液由来のリン酸イオン、マグネシウムイオン、又はアンモニウムイオンを接触させる晶析反応装置を含む配管設備、及び該接触後の比重と粒径が比較的大きい粒子を固形物として回収する装置を含み、該粒子を当該汚泥から分離後の粒子脱離汚泥に対して濃縮処理を行える機構を有し、該濃縮処理後の濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加する機構を有し、かつ無機凝集剤を添加後の汚泥に対して脱水処理を行える機構を有する、有機性廃水及び汚泥の処理装置。
【0009】
本発明は、嫌気性処理汚泥、または従来のMAP処理汚泥中には液体サイクロン等のような比重と粒径の違いによる物理的微粒子分級方法では分離できない微細MAP粒子が汚泥中全リンの1〜45%程度存在する場合がありリンの回収率向上を阻害している場合があることを知見したことを嚆矢としている。
本発明は、リン酸マグネシウムアンモニウム脱離汚泥に少なからず微細MAP粒子が含まれることを発見し、その微細MAP粒子又はその粒子に由来するリン、マグネシウム、及びアンモニウムを効率的に分離し、MAP粒子として回収することが可能であり、かつ脱水ケーキの脱水性も改善することが、汚泥減量化工程に無機凝集剤を適正に用いることにより可能であることを見出したものである。特許文献2の該汚泥減量化工程では、該無機凝集剤を用いる記載及びその作用効果等の記載はありません。
言い換えれば、本発明は、「汚泥中リン成分の分離または回収処理」を前提とした場合の「汚泥の脱水性向上のための無機系凝集剤添加処理」において、添加した無機系凝集剤の汚泥脱水性向上効果と、汚泥中リン成分の分離または回収の高効率化の両方を同時に満足させることができる汚泥処理プロセスを提供するものである。
【0010】
また、特許文献1に開示されている「汚泥処理装置」では、本発明と同様の目的である「消化汚泥の効率的脱水処理とリン除去、回収」を行えるプロセスとして、消化汚泥に対して高分子凝集剤と無機凝集剤を使用して濃縮処理及び脱水処理を行い、カチオン系有機高分子凝集剤により凝集した後の分離水を主とする液体からMAPを生成することによりリンを回収する方式を提案している。しかし、同文献1の方式では、嫌気性処理後の消化汚泥中等に既に含まれているMAPやHAP等のリン化合物粒子の存在、影響、及び処理方法に関して述べられていない。また、本願発明の前提となる特許文献2が開示された時点においても、消化汚泥中のMAP粒子が液体サイクロン等の物理的処理後に微細MAP粒子がどのような割合で汚泥中に残留し、それらがポリ鉄等の無機凝集剤添加によりリンやマグネシウム等の各成分ごとにどのように溶出するか等の知見については開示されていない。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【発明の効果】
【0011】
有機性廃水または汚泥中に含まれるリン成分をリン酸マグネシウムアンモニウム結晶として分離しつつ、脱水性を高めるためにポリ鉄等の無機凝集剤の添加を行うプロセスにおいて、本願発明法を採用することによりMAP回収率を高効率に維持しつつ、無機凝集剤添加による高効率脱水性も維持し、さらに従来の液体サイクロン等の固液分離装置により分離回収が困難であった粒径25μm未満レベルの微細MAP粒子の一部を再結晶化するプロセスを組み込むことでMAPの回収率向上及びMAP反応のための薬品供給量の低減を図ることを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基本フローを示すもので、本発明の方法を説明するための図である。
【図2】図1のフローを詳細に示すものであり、本発明の方法の具体的態様の一例を説明するための図である。
【図3】図1のフローを詳細に示すものであり、本発明の方法の具体的態様の他の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、「リン酸マグネシウムアンモニウム濃縮懸濁液」を「MAP濃縮スラリー」と、「リン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程」を「MAP処理工程」と、「リン酸マグネシウムアンモニウム粒子を回収する工程」を「MAP回収工程」と、各々呼称する場合がある。また、本明細書において、「%」は、特に言及されない場合は、質量基準である。
本発明を図面に従って説明する。
図1は、本発明の基本フローを示すものであり、概略的に分類すると嫌気性処理工程1、リン分離工程2、汚泥減量化工程3の3種類の工程で構成されており、本発明は、この内の特にリン分離工程2と汚泥減量化工程3に関して従来技術に改良を加えたものである。図2、3は、図1を具体化したものの一態様である。
本発明において「嫌気性処理工程を組み入れた有機性廃水又は汚泥処理システム」は、有機性廃水または汚泥に対して嫌気的な環境を与えた処理工程全般を指し、酸発酵、メタン発酵、嫌気性消化等を含む処理である。嫌気性処理工程1は、これらの嫌気的環境において有機物は分解されその分解代謝物としてアンモニウムイオン、リン酸イオン、マグネシウムイオン等のMAP合成に必要な基質を消化汚泥4中に溶出するとともにMAPを生成する工程である。
又、有機性廃水又は汚泥処理システムの構成装置として、嫌気性消化反応槽を有し、該嫌気性消化反応槽には少なくとも原水供給管と消化汚泥排出管が接続した装置が挙げられる。
【0014】
リン分離工程2は、MAP分離工程2a、MAP処理工程2b、及びMAP回収工程2cを含む。MAP分離工程2aは、消化汚泥4又はMAP処理汚泥2b1から上記生成したMAP粒子の内、粒径25μm〜数ミリ大の粒子(以下、粗MAP粒子ともいう)を主として含むMAP濃縮スラリー2a2とMAP脱離汚泥2a1に分離する工程である。MAP処理工程2bは、MAP濃縮スラリー2a2又は消化汚泥4からの該粗MAP粒子の結晶化を進め、回収可能なサイズに成長させる工程であり、必要によりMg源、pH調整剤等2b2が系外から同工程2bに添加される。該Mg源、pH調整剤等2b2は、後述されるように後段の汚泥減量化工程3の分離水3a2、3a21、脱水ろ液3b2が代替又は一部代替可能である。MAP回収工程2cは、MAP処理工程2bの該MAP粒子を回収する工程である。
【0015】
該MAP分離工程2aでは、嫌気性消化反応槽から排出された汚泥又は該嫌気性消化反応槽内の汚泥中の粒子由来であり該汚泥中有機成分粒子と比べて比重と粒径が比較的大きい該粗MAP粒子を優先的に濃縮分離する固液分離装置が配備される。
該MAP処理工程2bでは、該固液分離装置により分離した粗MAP粒子を多く含むスラリー状又は固形状物質を含むMAP濃縮スラリー2a2に対して、マグネシウムイオン溶液、又はマグネシウムイオン溶液と該固液分離装置の後段の上記分離水あるいは脱水ろ液由来のリン酸イオン、マグネシウムイオン、又はアンモニウムイオンを接触させる晶析反応装置を具備した配管設備が設けられる。該晶析反応装置には、粗MAP粒子の結晶化を進める反応槽が具備される。
該MAP回収工程2cでは、該接触後の比重と粒径が比較的大きいMAP粒子、HAP粒子等のリン成分を固形物の回収リン2c1として回収する装置が設けられる。
【0016】
汚泥減量化工程3は、濃縮工程3a、脱水工程3bを含む。濃縮工程3aはMAP脱離汚泥2a1に対して凝集処理を施したものを濃縮して、濃縮汚泥3a1と分離水3a2を調製する工程であり、該脱水工程3bは該濃縮汚泥3a1に対して無機凝集剤6を添加したものを脱水し、脱水ケーキ3b1と脱水ろ液3b2を調製する工程である。
濃縮工程3aは、基本的に濃縮汚泥3a1と分離水3a2を調製することが可能であれば、その手段に制限はないが、濃縮手段として無機凝集剤は使用しないことが好ましい。この理由は、コスト、微細MAP粒子の性質、及び合理性等の観点から言えることであり、詳細は明細書の記載から明らかである。
なお、本発明において、MAP脱離汚泥2a1の一部を嫌気性消化タンク1a又はその前段に戻すことも可能である。
【0017】
以下、図2について更に詳細に説明する。
図2は、本発明の実施態様の一例を示すものであり、汚泥の嫌気性消化工程において、汚泥中有機物は嫌気性消化タンク1a内の嫌気性下におけるメタン発酵等によりアンモニウムイオン、リン酸イオン、マグネシウムイオン等の分解代謝物が溶出される。これらMAPの基質成分は嫌気性消化タンク1a内のpHが7.5〜8.3程度の弱アルカリ性下においてMAP生成反応が促進され消化タンク内でMAP結晶が生成する。これらMAP結晶は、粒径25μm未満の微細粒子(即ち、微細MAP粒子)や、粒径25μm〜数ミリ大の粒子(即ち、粗MAP粒子)、タンク内の壁面や底面や攪拌羽根に付着して成長していく結晶等もある。該消化タンク1aから排出される消化汚泥4中には微細MAP粒子、及び粗MAP粒子が多く含まれている。本発明は、該微細MAP粒子由来のリン含有量は該消化汚泥全体のリン含有量の5%以上となる。該リン含有量の上限は、95%であるが、通常、1〜45%程度であり、5〜30%程度がコスト、運転条件等の総合的観点から有利と考えられる。なお、MAP粒子の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−910)及び超音波ふるい(昭和電工株式会社製マイクロシーブShodex PS)により測定したものである。MAP粒子径の測定及び確認方法としては、粗MAP粒子を主体とするMAP濃縮スラリー等のサンプルはレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定し、微細MAP粒子主体のMAP脱離汚泥等のサンプルは超音波ふるいにより25μm未満であることを確認する。具体的に説明する。粗MAP粒子主体のサンプルの場合は、1Lビーカーに対象サンプル200mlを取りpH8.0のアルカリ水を800ml添加し、攪拌後2分静置した後に上澄み水を静かに分離し、該ビーカー底部の粒子状物質を回収し、該回収物中の粒子の粒子径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定する。該測定装置は一般的には0.1μm〜1000μmまで測定可能であるが、25μm未満の粒子はわずかであり、例えば汚泥中粗MAP粒子が0.5g/l以上存在するような一般的な消化汚泥の場合、本方式で1Lビーカー底部に分離した粒子サンプルはほぼ98%以上が25μm以上である。また、微細MAP主体のサンプルは、固形物換算で約1g相当のサンプルを分取し、pH8.0のアルカリ水を希釈水とし、穴径25μmのマイクロシーブを装填した超音波ふるいにより25μm以上の粒子と25μm未満の粒子の存在割合を測定する。一般的な消化汚泥に対して液体サイクロンで分級したあとのMAP脱離汚泥等をサンプルとした場合は25μm以上の粒子割合はほぼ1%未満でありほぼ全微粒子が25μm未満である。
【0018】
本実施形態では、MAP分離工程2aにおいて消化汚泥から比較的分離し易い粗MAP粒子を汚泥から分離する。分離する方法としては、国際公開第2003/086990号公報等に記載の液体サイクロン等の固液分離装置を用いる方法が望ましい。すなわち、1mm〜5mmの穴径の振動ふるい等で髪の毛、種子類、木屑等の汚泥中に混在する夾雑物を除去し、夾雑物脱離後の汚泥を液体サイクロン等に投入することで粗MAP粒子を分離する。分離した夾雑物はそのまま処理する場合もあるが、後段の脱水工程3bの前段でMAP脱離汚泥2a1に添加して脱水補助剤として使用することも有効である。
【0019】
該MAP分離工程2aにおいて液体サイクロン等で分離した粗MAP粒子が多く存在するMAP濃縮スラリー2a1はMAP処理工程2bに導入し、MAP晶析反応の種晶として使用する。
【0020】
発明者らは本願発明の前提となる前記特許文献2以降も、様々な汚泥に対して液体サイクロン等を用いて汚泥中の粗MAP粒子を分離しその分離性能を確認しているが、当然のことながら汚泥の性状、サイクロンの仕様、MAP粒子径の分布等の諸々の条件でこの粗MAP粒子の分離量は異なる。例えば、下水汚泥の嫌気性消化汚泥に対して液体サイクロンによるMAP分離処理を行う場合、粗MAP粒子量は0.4〜3.0g/l程度(これは、試料をpH2で酸分解し溶出したMg、NH、PO−Pイオン量の内の最少モル量より6水和物MAPとして算出した値)となる。また、液体サイクロンのような分離対象物の比重と粒径や液体の粘性に分離性能が影響を受ける種類の物理的分離処理のみでは汚泥中のMAP粒子は十分に分離しきれない場合もあり、その場合、物理的分離処理で分離されなかった微細MAP粒子等は汚泥中に残留し、仮に本発明の汚泥減量化工程を実施しないと最終的に脱水ケーキの一部として処分される割合が高くなる。微細MAP粒子が回収されないとその分、汚泥からのリン回収率が低下することになる。即ち、本発明は、処理対象汚泥中に存在する微細MAP粒子がリン換算で5%以上存在するような場合は、後段の汚泥減量化工程において無機凝集剤を添加することにより、「高効率リン回収」と「高効率脱水」の両方を達成することができる。これは、ポリ鉄等の無機凝集剤が酸として機能し、該微細MAP粒子の一部が溶解しリン酸イオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン等が液側に溶出するレベルが数十〜数百mg/lと比較的高く、その溶出レベルによっては該溶液をMAP処理工程に返送して特にマグネシウムイオンやアンモニウムイオンのリサイクルをすることが有効な場合が多いからである。これらの事象に関する詳細は後述する。
【0021】
該MAP処理工程2bでは、該MAP分離工程からのMAP濃縮スラリー2a2を導入するが、後段の濃縮工程3aからの分離水3a2、脱水工程3bからの脱水ろ液3b2、及び系外よりMg源及びpH調整剤等2b2をそれぞれ必要に応じて導入することにより、該工程2bにおいてMAP生成反応を促進させる。
【0022】
MAP処理工程2bとしての具体的な装置としては上向流流動層型や完全混合型等の一般的な晶析反応槽を採用することが可能である。系外より供給するMg源としては水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムの他、海水等の使用も可能である。pH調整剤としてはアルカリ剤としては苛性の他、水酸化マグネシウム等も可能である、酸性剤としては硫酸が適しているが、本願発明では脱水工程3bからのpH約3.5〜5.0の脱水ろ液3b2はpH調整剤やMg源供給剤の役割も兼ねられるため、系外からの添加は必要に応じて行うことができるという利点がある。
【0023】
該MAP処理工程2bにおいて、生成したMAPの一部はMAP回収工程2cにおいて回収し、回収リン2c1として排出する。該MAP回収工程2c、又は同装置としては該MAP処理工程2bの反応槽底部から引き抜く方式、又は装置やエアリフトポンプ等で該反応槽上部から引き抜く方式、又は装置があり、引き抜いた物質に対しての回収装置に具備される固液分離装置、及び乾燥処理装置等を経て排出される場合もある。
該リン分離工程2の該MAP分離工程2aで粗MAP粒子を分離除去した後のMAP脱離汚泥2a1は後段の汚泥減量化工程3の前半の濃縮工程3aに導入する。先述したようにMAP脱離汚泥2a1中には該MAP分離工程2aの液体サイクロン等で分離できなかった一部の微細MAP粒子が含まれ、また他のリン酸化合物としてリン酸カルシウム、リン酸鉄等も含まれている。
【0024】
該濃縮工程3aでは、ポリ鉄、塩鉄等の鉄系凝集助剤や硫酸バンド、PAC等のアルミ系凝集助剤等のいわゆる「無機凝集剤」を使用せずに固液分離を行い、濃縮汚泥と分離水を調製する。該濃縮工程は無薬注濃縮が可能な場合もあるが、高分子凝集剤5を用いて凝集及び濃縮を行う場合もある。該濃縮工程において、濃縮処理を行える機構としては、重力ろ過型、遠心分離型、スクリーン又は膜分離型等の濃縮機が挙げられる。
汚泥濃縮工程において高分子凝集剤5を使用する場合の汚泥濃度はTSに対して重力濃縮タイプで5〜7%程度、簡易加圧タイプで10〜14%程度となる場合が多い。該汚泥濃縮工程において分離された分離水3a2は先に示したように該MAP処理工程2bに導入され、濃縮された濃縮汚泥3a1は後段の脱水工程3bに導入される。この分離水3a2には、MAP粒子の基質成分、微細MAP粒子が含まれる。
【0025】
該濃縮工程3aにおける濃縮性能は、本願発明の目的である「高効率リン回収」と「高効率脱水」に大きく影響する。濃縮性能が高く濃縮汚泥濃度が通常の5%程度ではなく10%以上となるような場合、分離水を分離し高濃度汚泥になる分、濃縮汚泥中の溶液量が少なくなることから該溶液中のリン酸イオン量が減少し、ポリ鉄等の無機凝集剤を添加した時のリン酸鉄等の化合物生成量が減少し、汚泥の脱水性に寄与する鉄イオンの割合が相対的に増えることで脱水性が向上する。また、消化汚泥4は7.5〜8.3程度の弱アルカリ性であり、ポリ鉄等の無機凝集剤はpH1程度の酸性であるので該無機凝集剤を添加した時のpHは、添加対象の汚泥量が少ないほど減少するため高濃縮汚泥の方がpHは低下する。
本発明においては、前記濃縮汚泥は、TSが70〜150g/lであり、該濃縮汚泥に対して添加する無機凝集剤を鉄系又はアルミ系とし、その添加率が該TSあたり、FeまたはAlとして1.5〜11.0%とすることが好ましい。
例えば、ある下水消化汚泥をTSが70g/lと120g/lまでそれぞれ濃縮した汚泥に対して、ポリ鉄を対TSで4%(Feとして)添加した場合のpHはそれぞれ5.8と4.0となる。
【0026】
汚泥減量化工程3の後半の脱水工程3bでは、該濃縮汚泥3a1に対して無機凝集剤6を添加するとともに必要に応じて適度に混合攪拌し、無機凝集剤6を汚泥全体になるべく均一になるように混合する。濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加する機構としては、無機凝集剤をそのまま濃縮汚泥が存在する装置に投入する機構、無機凝集剤を溶液として、ポンプにて同装置に定量供給する機構等が挙げられる。なお、前記濃縮工程で高分子凝集剤を用いる場合も同様の機構を用いてもよい。
この時の無機凝集剤は先に示したポリ鉄、塩鉄、PAC、硫酸バンド等当該汚泥の適性に応じてどれを使用しても良いが、一般的には腐食が少なく硫化水素臭が軽減するという理由で広く使用されているポリ鉄を使用する方法が比較的効率的である場合が多い。無機凝集剤の添加量により後段の汚泥脱水機における脱水性が高まるとともに脱水ろ液中のリン酸イオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオンが変化する。例えばポリ鉄を使用した場合、ポリ鉄はFe2+のようにプラスの電荷を帯びており汚泥粒子表面のCOOやOH等のマイナスの電荷を帯びている粒子と結合して汚泥表面荷電を中和し汚泥粒子間の反発力を軽減して脱水性を向上させる一面がある。
【0027】
該無機凝集剤6を添加された濃縮汚泥3a1は脱水工程3bに導入されて脱水処理が行われる。
脱水工程において、脱水処理を行える機構としては、ベルトプレス、スクリュープレス、及び遠心脱水機等いずれの脱水機でも適応可能であり、一般的にケーキ含水率:72〜78%程度の脱水ケーキ3b1が得られる。一方、この「無機凝集剤添加+脱水工程」の一連の処理時間において、該汚泥中に含まれている微細MAP粒子及びリン酸カルシウム等のリン酸化合物の一部はポリ鉄等の無機凝集剤の添加による酸性下で溶解し脱水ろ液3b2中に溶出する。また、ポリ鉄を添加した場合、鉄イオンは、この溶出してきたリン酸イオンと瞬時に結合しリン酸鉄の化合物が生成する。すなわち、汚泥に添加したポリ鉄中の鉄イオンは汚泥中のリン酸化合物を溶解し溶出してきたリン酸と結合して安定するため、実質的には微細MAP粒子等のリン酸化合物中のMgイオン、NHイオンの2成分のみが汚泥から脱水ろ液3b2中に放出することになる。
【0028】
例えば、先のポリ鉄添加量(対汚泥TSあたりFeとして4%)における実測値としては、ポリ鉄添加前と後の脱水ろ液中の各種濃度は一例としてPO−P:120mg/l→15mg/l、Mg2+:6mg/l→500mg/l、NH−N:850mg/l→1200mg/l等のようになる。これらの数値から考えられることは、リン酸イオンは鉄と結合して減少しているが、Mg、NH−Nが大幅に増加していることからも、汚泥中の微細MAP粒子等が酸に溶解して溶出してきていると推定できる。これらの成分を含む当該脱水ろ液はPO−Pの含有率は小さいもののMg、NH−Nを多く含有していることから該MAP処理工程におけるMg源且つpHは3.5〜5.0の酸性中和液とすることが可能である。
【0029】
また、当該脱水ろ液がpH3.5以上の領域にある場合、鉄イオンはリン酸鉄、または水酸化鉄の形態で粒子状になっている割合が多く、残留鉄イオン量は比較的小さいため、該MAP処理工程に導入した場合においてもMAP生成を阻害する要因にはなりにくい。また、脱水効率をさらに高める等の目的で無機凝集剤6の添加時における濃縮汚泥3a1に対する当該無機凝集剤6(ポリ鉄等)の添加率を大きくする場合には、脱水ろ液3b2中に鉄イオンが多く残留する可能性があることから当該脱水ろ液を該MAP処理工程に導入した場合に鉄イオンが該MAP処理工程内のリン酸イオンと結合してリン酸鉄を形成しMAP生成量を低下させる可能性もある。そのため、汚泥性状、目標脱水性能、目標リン回収量、薬剤コスト等の種々の条件を基にして、該濃縮工程3aにおける濃縮倍率、無機凝集剤6の添加時における濃縮汚泥3a1に対する無機凝集剤(ポリ鉄等)の添加率等を適正に設定することが好ましい。
【0030】
また、汚泥からのリン回収率増加という目的で、該濃縮工程3a、または該無機凝集剤6の添加時等の前段において酸性溶液を適量添加混合することで濃縮汚泥3a1の凝集力を維持しつつも微細MAP粒子等のリン酸化合物の一部を溶解させる事も可能である。該MAP溶解成分を含有する分離水3a2等を該MAP処理工程に導入することで、該MAP分離工程2aで分離回収が困難であった微細MAP粒子やリン酸カルシウム等由来のリン酸を該MAP処理工程2bでのMAP合成の基質として回収する割合が高まる。ただし、酸性溶液を濃縮汚泥3a1に添加混合する場合において、該濃縮工程3aでの濃縮倍率が比較的小さい場合は濃縮汚泥3a1の容量が大きくなるので微細MAP粒子が溶解するpH領域まで酸性化するための該酸性溶液添加量が大きくなることから、該濃縮工程3aでの濃縮倍率を適度に大きくして濃縮した後に、例えば、酸性溶液等で微細MAP粒子を溶解しMAP溶解成分を含有する分離水3a21を濃縮汚泥3a1から分離することもできる。
【0031】
また、該酸性溶液添加による濃縮汚泥3a1の凝集状態低下を改善するために濃縮工程3a、濃縮工程3aの前段、または無機凝集剤6の添加時において脱水性改善補助剤等を使用することも後段の脱水にとっては有効である。該脱水性改善補助剤としては成分溶解濃度1%以上の液状ポリマー、5mm以下のセルロース系繊維状物質等が有効である。また、該酸性溶液添加混合方法により十分に汚泥中のリン酸化合物が溶出した場合はMAP溶解成分を含有する分離水3a21のみを該MAP処理工程2bに導入し、該脱水工程からの脱水ろ液3b2を該MAP処理工程2bに導入する必要がなくなる場合もある。
【0032】
また、図3に示されているリン分離工程2は、特許第4402697号公報等で開示されているMAP処理工程の一部であるが、本願で示すところのMAP分離工程2aとMAP処理工程2bが図2で示したフローと比較して順序が逆になった方式である。本方式ではMAP処理工程2bにおいて粗MAP粒子やリン酸イオンが多く存在する消化汚泥4中に直接Mg源やpH調整剤等2b2を供給してMAP処理を行い、該MAP処理汚泥2b1をMAP分離工程2aに導入し、分離したMAP濃縮スラリー2a2をMAP処理工程2bに循環するとともに、該MAP濃縮スラリー2a2の一部をMAP回収工程2cに導入し回収リン2c1を得るフローとなっている。
【0033】
本方式においては該リン分離工程後のMAP脱離汚泥2a1中の溶解性リン酸成分がある程度減少していることから、後段の汚泥減量化工程の濃縮工程3aにおいて分離水3a2を該MAP反応装置に導入する必要性が低下するため、該分離水3a2、更には後段の脱水ろ液3b2を前段の該MAP処理工程2bに導入しない方式も可能である。ただし、先の図2の汚泥減量化工程にも示したように、該汚泥減量化工程3において酸性溶液での処理を行った場合等には、分離水3a2、3a21、及び脱水ろ液3b2を前段のMAP処理工程に導入することが有効となる場合がある。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の廃水処理技術を実際に組み込んだ実験プラントの運転結果の一例について説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1及び2、比較例1及び2
本実施例は、A下水処理場の汚泥を使用して行ったパイロットプラント実験による実施例であり、フローは先に示した図2のフローと同じである。A処理場は、汚泥の嫌気性消化処理を採用している。
実施例1のパイロットプラントでは、A処理場の消化タンクから排出された消化汚泥(表1に性状を記載)を、穴径3mmの振動ふるい機に導入して髪の毛や種子系の夾雑物を分離し、夾雑物脱離後の汚泥を胴体径4インチの液体サイクロンに導入し、液体サイクロンのアンダー出口径12mmから排出されるMAP濃縮スラリーはMAP処理工程としての上向流MAP反応槽に導入する。
【0036】
該MAP反応槽は内径200mmの円筒型で下部よりMAP濃縮懸濁液、分離水、脱水ろ液、及びMg源やpH調整剤が導入される。
該MAP反応槽は中段部分より内部液を引抜きし循環流量倍率2.5倍で循環流として下部より注入することで上向流速を15〜30m/hとしており、該引抜き中間部分より上方は反応槽径が300mmとなっておりそのゾーンでは上向流を大幅に低下することが可能な反応槽を採用した。
この反応槽の採用により粒径の大きいMAP粒子は該反応槽の底部に堆積し微細なMAP粒子は該反応槽上部に滞留する状態ができる。
該MAP反応槽内においてMAP粒子から形成される流動層の高さは、MAP粒子が成長することによって増加する。
高さが増加した流動層内のMAP粒子は、該MAP反応槽底部より、MAP粒子抜き出し管を経て定期的に抜き出す。底部から抜き出されるMAP粒子は、流動層内にあるMAP粒子の中でも、粒径が大きく、緻密となっているものである。
【0037】
また、該MAP反応槽にはpH計を設置し、リアルタイムにpHを測定し、アルカリ剤として水酸化マグネシウム、酸性剤として硫酸の注入制御を行うことでpHが8.1±0.2となるように設定している。Mg源の供給は反応槽内のMg/P比が1.2になるように調整して添加した。
【0038】
液体サイクロンのオーバー出口から排出されるMAP脱離汚泥は汚泥濃縮工程に導入される。該汚泥濃縮工程は、「凝集反応槽+濃縮機」で構成されており、該凝集反応槽の滞留時間3分でありカチオン度がやや高い両性の高分子凝集剤を汚泥TSあたり2.0%の添加率で添加し汚泥を凝集させた後、背圧板付き多重円盤スリット型の濃縮機に導入して汚泥濃度として11〜13%まで濃縮処理を行う。該濃縮処理により分離される分離水は先のMAP反応槽に導入する。
該濃縮汚泥は無機凝集剤としてポリ鉄を汚泥TSあたりFeとして4%添加し汚泥混和装置で混和された後にスクリュープレス型脱水機に導入し脱水する。該汚泥混和装置では多少凝集性が劣化することも考慮して該混和装置に成分濃度40%の液状ポリマーを添加できるように設定する。該脱水機により脱水されたケーキは系外に搬出し、脱水ろ液は全量MAP反応槽に導入される。
また、本願発明法の比較として、汚泥濃縮工程をスキップした条件の比較例1、無機凝集剤添加をスキップした条件の比較例2、及び汚泥脱水機の脱水ろ液をMAP反応槽に導入しない条件の実施例2とそれぞれ設定してあわせて処理を行った。
上記処理に使用したA処理場の消化汚泥の性状を表1に示す。該消化汚泥中の微細MAP粒子(粒径25μm未満)中のリン成分は汚泥中T−Pの21.6%存在している。
上記処理成績を表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
本願発明法による脱水性の向上効果に関して述べる。実施例1では脱水ケーキのケーキ含水率は74.5%であった。それに対して、比較例1では77.9%とケーキ含水率は実施例1よりも高かった。比較例1では汚泥濃縮工程をスキップしていることから汚泥のボリュームが大きい状態で脱水機に投入されることから同一の処理速度を維持する為にはそれだけスクリュープレスの軸回転数を高くする必要が生じたこと。また添加したポリ鉄が汚泥中の多量のPO−Pと反応してリン酸鉄となった分汚泥粒子に付着する鉄成分が減少したことによると考えられる。比較例2ではケーキ含水率は79.2%と実施例1よりも高かった。比較例2はポリ鉄の添加を行わない方法であるため脱水性が悪くなったと考えられる。実施例2の脱水ラインは実施例1と同じであるので脱水ケーキ含水率は同一であった。よって、実施例1及び2による脱水性は比較例1,2の方法よりも有効であると判断できる。
【0042】
次に本願発明法によるリンの高効率回収効果に関して述べる。実施例1では汚泥lLあたりのMAP回収量は2.42g/汚泥1Lであった。それに対して比較例1では1.72g/汚泥1Lであり実施例1よりも少なかった。これは、比較例1が汚泥濃縮工程をスキップしているためにMAP回収の対象液である脱水ろ液中のリン酸の多くがポリ鉄を添加した場合にリン酸鉄として安定するために、MAP反応槽においてMAPとして回収できなかったことが原因である。比較例2、実施例2はMAP回収量は実施例1とほぼ同等であったものの、MAP回収に使用する薬品コストは実施例1よりも大きくなった。その理由としては比較例2ではポリ鉄を添加せず、実施例2はポリ鉄を添加するものの脱水ろ液をMAP反応槽に導入しないプロセスであるので、汚泥中に混在する微細MAP粒子がポリ鉄により溶出し、脱水ろ液をMAP反応槽に導入した時に微細MAP粒子溶出由来のMgイオンの供給効果が無く結果的に該MAP反応槽でのMg添加量が大きくなる点、及びポリ鉄添加により脱水ろ液のpHが3.5〜5.0になることからこの酸性液体をMAP反応槽に導入した場合のpH調整効果によりMAP反応槽でのpH調整剤のHSOの添加率軽減効果が望めない点等によると考えられる。以上の結果より、本願発明法は「ポリ鉄を使用して汚泥の脱水効率と汚泥からのリンの回収効率の両方を高めたバランスの良いプロセス」としても有望であると判断できる。
【符号の説明】
【0043】
1…嫌気性処理工程、2…リン分離工程、2a…MAP分離工程、2a1…MAP脱離汚泥、2a2…MAP濃縮スラリー、2b…MAP処理工程、2b1…MAP処理汚泥、2b2…Mg源及びpH調整剤等、2c…MAP回収工程、3…汚泥減量化工程、3a…濃縮工程、3a1…濃縮汚泥、3a2、3a21…分離水、3b…脱水工程、3b1…脱水ケーキ、3b2…脱水ろ液、4…消化汚泥、5…高分子凝集剤、6…無機凝集剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性処理工程を組み入れた有機性廃水又は汚泥処理システムであり、処理対象汚泥中に存在する25μm未満のリン酸マグネシウムアンモニウム粒子由来のリン含有量が該汚泥全体のリン含有量の5%以上である汚泥を処理対象とし、該嫌気性消化工程において汚泥中に発生するリン酸マグネシウムアンモニウムを系外に取り出すリン酸マグネシウムアンモニウム分離工程を有する処理方法であって、該リン酸マグネシウムアンモニウム分離工程において汚泥中に分散するリン酸マグネシウムアンモニウム粒子の一部を除去した後のリン酸マグネシウムアンモニウム脱離汚泥に対する汚泥減量化工程、該リン酸マグネシウムアンモニウム分離工程において分離したリン酸マグネシウムアンモニウム濃縮懸濁液に対してマグネシウムイオンを含む溶液を混合又は接触させるリン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程、及び該リン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程後の該リン酸マグネシウムアンモニウム濃縮懸濁液を含む液体からリン酸マグネシウムアンモニウム粒子を回収する工程を含むシステムにおいて、該汚泥減量化工程は、濃縮工程と脱水工程の2段階で構成され、該濃縮工程は該リン酸マグネシウムアンモニウム脱離汚泥に対して凝集処理を施したものを濃縮して、濃縮汚泥と分離水を調製する工程であり、該脱水工程は該濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加したものを脱水し、脱水ケーキと脱水ろ液を調製する工程である、有機性廃水及び汚泥の処理方法。
【請求項2】
前記濃縮汚泥は、TSが70〜150g/lであり、該濃縮汚泥に対して添加する無機凝集剤を鉄系又はアルミ系とし、その添加率が該TSあたり、FeまたはAlとして1.5〜11.0%とする、請求項1に記載の有機性廃水及び汚泥の処理方法。
【請求項3】
前記濃縮工程は、高分子凝集剤を使用して、前記濃縮汚泥と前記分離水を調製する工程であり、該分離水の一部または全部を前記リン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程に導入する、請求項1又は請求項2に記載の有機性廃水及び汚泥の処理方法。
【請求項4】
前記濃縮工程は、高分子凝集剤を使用して、前記濃縮汚泥と前記分離水を調製する工程であり、該濃縮汚泥に対して添加する無機凝集剤を鉄系又はアルミ系として、前記脱水工程を実施して得られた脱水ろ液の一部または全部をリン酸マグネシウムアンモニウム−マグネシウム溶液接触工程に導入する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機性廃水及び汚泥の処理方法。
【請求項5】
有機性廃水又は汚泥処理システムの構成装置として、嫌気性消化反応槽を有し、該嫌気性消化反応槽には少なくとも原水供給管と消化汚泥排出管が接続し、該嫌気性消化反応槽から排出された汚泥又は該嫌気性消化反応槽内の汚泥中の粒子由来であり該汚泥中有機成分粒子と比べて比重と粒径が比較的大きい粒子を優先的に濃縮分離する固液分離装置を配備し、該固液分離装置により分離した粒子を多く含むスラリー状又は固形状物質に対して、マグネシウムイオン含有溶液、又はマグネシウムイオン含有溶液と該固液分離装置の後段の汚泥減量化装置から分離した分離水あるいは脱水ろ液由来のリン酸イオン、マグネシウムイオン、又はアンモニウムイオンを接触させる晶析反応装置を含む配管設備、及び該接触後の比重と粒径が比較的大きい粒子を固形物として回収する装置を含み、該粒子を当該汚泥から分離後の粒子脱離汚泥に対して濃縮処理を行える機構を有し、該濃縮処理後の濃縮汚泥に対して無機凝集剤を添加する機構を有し、かつ無機凝集剤を添加後の汚泥に対して脱水処理を行える機構を有する、有機性廃水及び汚泥の処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−718(P2013−718A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137338(P2011−137338)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】