説明

有機性排水処理装置および処理方法

【課題】低濃度有機性排水が低水温であってもメタン発酵処理を適用できる有機性排水処理装置、および、有機性排水処理方法を提供する。
【解決手段】有機性排水処理装置101は、低濃度有機性排水1を固液分離し、固液分離水2と第1の濃縮汚泥3に分ける固液分離装置10と;第1の濃縮汚泥3を酸発酵処理する、所定の温度に維持された酸発酵槽20と;固液分離水2と酸発酵槽20で処理された酸発酵処理水4を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合槽30と;発酵ガスが分離された混合槽出口水5をメタン発酵処理するメタン発酵処理槽40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、下水等の低濃度有機性排水をメタン発酵処理する、酸発酵槽を備えた有機性排水処理装置、および有機性排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水をメタン発酵処理する技術は、有機性排水を好気性生物処理する技術に比べて、(1)汚泥発生量が少ない、(2)ブロワ−などの電気代が不要なためランニングコストがかからない、(3)発生したメタンガスを有効利用できる、等のメリットがあるため、近年、CODcr濃度2000〜3000mg/L以上の有機性排水を対象に普及している。メタン発酵処理には、UASB(Up-flow Anaerobic Sludge Blanket(上向流嫌気性汚泥床)の略)法、固定床法、流動床法等のメタン発酵処理方式が用いられる。特に、UASB法は、嫌気性微生物の自己造粒機能を利用して、沈降性の優れたグラニュ−ル汚泥を槽内に高濃度に保持できるため、CODcr負荷10〜30kg/m/dというような高い負荷をかけることができる。上記理由により、UASB法は国内外の有機性排水をメタン発酵処理する方法として最も普及している。
【0003】
一方で、ブラジル、インド、東南アジア等の温暖化地域においては、下水等のCODcr濃度400〜1000mg/Lの有機性排水を対象とし、好気性生物処理(具体的には活性汚泥処理)の前処理としてUASB処理するケ−スが見られる。
【0004】
しかし、日本のように冬期の気温が0〜10℃に下がる地域では、処理対象である下水の温度が5〜15℃と低い。そのため、下水をUASB処理すると、UASB槽内の温度も5〜15℃と低温になり槽内の嫌気性菌の活動が抑制される。また、UASB槽内に懸濁物質(Suspended Solids、以下SSとする)が溜まり、UASB処理ができない状態となる。なお、図8に従来のメタン発酵処理装置の構成図を示す。
【0005】
また、下水等のCODcr濃度400〜1000mg/Lの有機性排水をUASB処理する場合、UASB槽の加温に多量のエネルギ−を必要とし、CODcr濃度1000〜3000mg/L以上の有機性排水をUASB処理する場合に比べ経済的ではない。こうした理由のため、寒冷地では、下水等のCODcr濃度400〜1000mg/Lの有機性排水にメタン発酵処理を適用することができなかった。このため、下水等の有機性排水の処理には活性汚泥処理法が適用されてきた。このように従来技術では、活性汚泥処理でのブロワ−などの電気代、汚泥処理費等のランニングコストがかかっていた。
【0006】
ところで、接触効率が良好で負荷が大きくとれるUASB処理をするために、排水中の固形成分を固形分離し、分離汚泥を可溶化処理した後メタン発酵処理する例として特許文献1が挙げられる。特許文献1には、でんぷん工場廃液、ビール工場廃液、酸発酵廃液等の高濃度有機性排水(一般的に、CODcr濃度が2000〜3000mg/L以上)を対象とした嫌気性消化処理装置であって、可溶化槽を備えた嫌気性消化処理装置が開示されている。この装置では、有機性排水を沈殿槽で固液分離し、分離した有機性固形物を含む沈殿固形物濃縮液を、可溶化槽で高温条件(50〜90℃)で可溶化し、可溶化処理液と沈殿槽の上澄み液を嫌気性処理装置(メタン発酵処理槽)に導入する(段落0008、図3)。さらに、嫌気性処理装置で発生したメタンガスを燃焼させ、生じた熱により可溶化槽を加温する(段落0011)。
【0007】
しかし、下水等のCODcr濃度400〜1000mg/Lの有機性排水をメタン発酵処理した場合は、CODcr濃度2000〜3000mg/L以上の有機性排水をメタン発酵処理した場合と比べ、発生するメタンガスの量が少ない。また、グラニュール汚泥を維持するために通水速度に制限があり、UASB槽での有機物負荷を取れない。また、発生したメタンガスの一部は有機性排水中に溶存メタンとして存在し、結果として、回収できるメタンガスの量がさらに少なくなる。このため、特許文献1に開示された嫌気性消化処理装置を用いて、下水等の有機性排水を処理しようとしても、回収したメタンガスだけでは可溶化槽を高温条件(50〜90℃)に維持できない。高温条件に維持するためには別途熱エネルギーが必要であり、かえってコスト高となり好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−1179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、低濃度有機性排水をメタン発酵処理する、酸発酵槽を備えた有機性排水処理装置であって、有機性排水が低水温であってもメタン発酵処理を適用できる有機性排水処理装置、および、有機性排水処理方法を提供することを目的とする。なお、「低水温」とは、メタン発酵処理槽中の水温であって、20℃以下、特に10〜15℃の水温をいう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様に係る有機性排水処理装置101は、例えば図1に示すように、低濃度有機性排水1を固液分離し、固液分離水2と第1の濃縮汚泥3に分ける固液分離装置10と;第1の濃縮汚泥3を酸発酵処理する、所定の温度に維持された酸発酵槽20と;固液分離水2と酸発酵槽20で処理された酸発酵処理水4を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合槽30と;発酵ガスが分離された混合槽出口水5をメタン発酵処理するメタン発酵処理槽40とを備える。
なお、本明細書において、「低濃度有機性排水」とは、CODcr値が1000mg/L以下の有機性排水をいう。「所定の温度」とは、好ましくは20〜35℃、下水水温と発生ガスの熱エネルギ−から判断するとより好ましくは20〜25℃の範囲である。「酸発酵処理」とは、有機物中の多糖や蛋白質、脂質などの高分子物質がまず、単糖やアミノ酸、その他の単位構成分子に加水分解され、その後、酢酸、プロピオン酸等の揮発性脂肪酸や乳酸、コハク酸、更にはエタノ−ルなどのアルコ−ル類、水素、二酸化炭素などに分解される一連の処理を含む。酸生成に関与する微生物は通性嫌気菌である。「メタン発酵処理」とは、ORPが−330mV以下の範囲で行なう嫌気性生物学的処理をいう。「発酵ガス」とは、主にCOガスであり、一部Hガスを含む。
【0011】
このように構成すると、固液分離装置により低濃度有機性排水に含まれる汚泥を分離し濃縮することができる。そのため、所定の温度に維持された酸発酵槽での濃縮汚泥の加温において、有機性排水を直接加温する場合に比べ、加温に必要なエネルギーを減らすことができる。さらに、酸発酵槽において、濃縮汚泥中に含まれる固形物(SS分)の一部は、加水分解、有機酸発酵を経て、溶解性の有機物(酢酸、プロピオン酸等)に変換される。そのため、こうした物質の存在によりメタン菌の活性を維持し、低水温の有機性排水であってもメタン発酵処理を良好に行なうことができる。また、酸発酵槽において発生する発酵ガスを混合槽において混合水から分離することができる。そのため、発酵ガスがメタン発酵処理槽に流入し、スカムを発生させるのを防ぐことができる。すなわち、酸発酵槽の汚泥濃度は10000mg/Lから20000mg/Lと高いため、発酵ガスの一部は汚泥と共に同伴する。そのため、その状態で固液分離水と混合し、UASB槽に投入すると、UASB槽内でスカム発生の原因となる。したがって、混合槽において固液分離水や流入下水と混合した際、酸発酵処理汚泥に同伴した発酵ガスを分離する必要がある。
【0012】
本発明の第2の態様に係る有機性排水処理装置102は、例えば図3に示すように、メタン発酵処理槽40から排出された第2の濃縮汚泥7を酸発酵処理する、所定の温度に維持された酸発酵槽20と;低濃度有機性排水1および酸発酵槽20で処理された酸発酵処理水4’を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合槽30と;発酵ガスが分離された混合槽出口水5’をメタン発酵処理する、メタン発酵処理槽40とを備える。
【0013】
このように構成すると、低濃度有機性排水の水温によりメタン発酵処理槽内にSS分が溜まり、汚泥の界面が上昇する場合であっても、槽内の濃縮汚泥を排出させることにより界面の上昇を防ぐことができる。また、酸発酵槽において、濃縮汚泥中に含まれる固形物(SS分)の一部は、加水分解、有機酸発酵を経て、溶解性の有機物(酢酸、プロピオン酸等)に変換される。そのため、こうした物質の存在によりメタン菌の活性を維持し、低水温の有機性排水であってもメタン発酵処理を良好に行なうことができる。また、酸発酵槽において発生する発酵ガスを混合槽において混合水から分離することができる。そのため、発酵ガスがメタン発酵処理槽に流入し、スカムを発生させるのを防ぐことができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る有機性排水処理方法は、例えば図1に示すように、低濃度有機性排水1を固液分離し、固液分離水2と第1の濃縮汚泥3に分ける分離工程と;第1の濃縮汚泥3を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;固液分離水2と酸発酵工程で処理された酸発酵処理水4を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合工程と;発酵ガスが分離された混合槽出口水5をメタン発酵処理するメタン発酵処理工程とを備える。
【0015】
このように構成すると、分離工程により低濃度有機性排水に含まれる汚泥を分離し濃縮することができる。そのため、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程での濃縮汚泥の加温において、有機性排水を直接加温する場合に比べ、加温に必要なエネルギーを減らすことができる。さらに、酸発酵工程において、濃縮汚泥中に含まれる固形物(SS分)の一部は、加水分解、有機酸発酵を経て、溶解性の有機物(酢酸、プロピオン酸等)に変換される。そのため、こうした物質の存在によりメタン菌の活性を維持し、低水温の有機性排水であってもメタン発酵処理を良好に行なうことができる。また、酸発酵工程において発生する発酵ガスを混合工程において混合水から分離することができる。そのため、発酵ガスがメタン発酵処理工程に流入し、スカムを発生させるのを防ぐことができる。
【0016】
本発明の第4の態様に係る有機性排水処理方法は、例えば図3に示すように、メタン発酵処理工程から排出された第2の濃縮汚泥7を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;低濃度有機性排水1および酸発酵工程で処理された酸発酵処理水4’を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合工程と;発酵ガスが分離された混合槽出口水5’をメタン発酵処理するメタン発酵処理工程とを備える。
【0017】
このように構成すると、低濃度有機性排水の水温によりメタン発酵処理工程においてSS分が溜まり、汚泥の界面が上昇する場合であっても、濃縮汚泥を排出させることにより界面の上昇を防ぐことができる。また、酸発酵工程において、濃縮汚泥中に含まれる固形物(SS分)の一部は、加水分解、有機酸発酵を経て、溶解性の有機物(酢酸、プロピオン酸等)に変換される。そのため、こうした物質の存在によりメタン菌の活性を維持し、低水温の有機性排水であってもメタン発酵処理を良好に行なうことができる。また、酸発
酵工程において発生する発酵ガスを混合工程において混合水から分離することができる。そのため、発酵ガスがメタン発酵処理工程に流入し、スカムを発生させるのを防ぐことができる。
【0018】
本発明の第5の態様に係る有機性排水処理装置103は、上記本発明の第1の態様に係る有機性排水処理装置101において、例えば図5に示すように、固液分離装置10で分離された第1の濃縮汚泥3を酸発酵槽20に移送する流路に、流路を開閉する第1の開閉装置51と;メタン発酵処理槽40から排出された第2の濃縮汚泥7を酸発酵槽20に移送する流路に、流路を開閉する第2の開閉装置52と;メタン発酵槽40内の温度を計測する温度測定装置と;メタン発酵槽40内の汚泥界面の高さを計測する高さ測定装置とを備え;前記温度測定装置と前記高さ測定装置の測定値に基づいて、第1の開閉装置51と第2の開閉装置52を開閉する。
【0019】
このように構成すると、酸発酵槽において第1の濃縮汚泥と第2の濃縮汚泥のどちらも酸発酵処理することができる。また、メタン発酵槽40内の水温およびメタン発酵槽40内の汚泥界面の高さを考慮して酸発酵処理する汚泥を選択することにより、メタン発酵槽40内の水温およびメタン発酵槽40内の汚泥界面の高さに合わせたメタン発酵処理が可能となる。
【0020】
本発明の第6の態様に係る有機性排水処理方法は、上記本発明の第3の態様に係る有機性排水処理方法において、例えば図5に示すように、前記メタン発酵処理工程から排出された第2の濃縮汚泥7を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;前記メタン発酵処理工程での処理温度と、前記メタン発酵処理工程での汚泥界面の高さに基づいて、第1の濃縮汚泥3または第2の濃縮汚泥7を前記酸発酵工程への移送する工程とを備える。
【0021】
このように構成すると、酸発酵工程において第1の濃縮汚泥と第2の濃縮汚泥のどちらも酸発酵処理することができる。また、メタン発酵処理工程での処理温度と汚泥界面の高さを考慮して酸発酵処理する汚泥を選択することにより、メタン発酵処理工程での処理温度と汚泥界面の高さに合わせたメタン発酵処理が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固形物の酸発酵処理とメタン発酵処理とを組み合わせて、低濃度の有機性排水を低水温においてもメタン発酵処理に適用することができる。そのため、低濃度の有機性排水を活性汚泥単独処理する場合に比べて、設備の電気代、汚泥処理費等のランニングコストを大幅に削減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機性排水処理装置101の構成図である。
【図2】有機性排水処理装置101が備える混合槽30およびUASB槽40の概略図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る有機性排水処理装置102の構成図である。
【図4】有機性排水処理装置102が備える混合槽30およびUASB槽40の概略図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係る有機性排水処理装置103の構成図である。
【図6】図1、図3、図5、図8の各装置を選択する判断基準を示すフロ−チャ−トである。
【図7】有機性排水処理装置101に溶存メタン回収槽60を追加した有機性排水処理装置101’の構成図である。
【図8】従来のメタン発酵処理装置の構成図である。
【図9】実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4で用いた原水性状の表(表1)を示す図である。
【図10】実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4で用いた装置の仕様の表(表2)を示す図である。
【図11】実施例1、2、比較例1、2の実験条件の表(表3)を示す図である。
【図12】実施例1、2、比較例1、2の実験結果の表(表4)を示す図である。
【図13】Run1の実験結果を示すグラフである。
【図14】Run2の実験結果を示すグラフである。
【図15】実施例3、4、比較例3、4の実験結果の表(表5)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。特に、メタン発酵処理には、UASB法、固定床法、流動床法のいずれも適用できる。以下の実施の形態では、メタン発酵処理に最も適しているUASB法を例にとり説明する。
【0025】
本発明の有機性排水処理装置および有機性排水処理方法は、低濃度有機性排水が低水温であってもメタン発酵処理を適用するという目的を、酸発酵槽(酸発酵工程)を備えるという構成により実現した。
【0026】
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る有機性排水処理装置101について説明する。有機性排水処理装置101は、固液分離装置10、酸発酵槽20、混合槽30、メタン発酵処理槽としてのUASB槽40を備える。図1に示すように、低濃度有機性排水としての下水1は、固液分離装置10に入り、排水中の沈降性の良いSS分が沈降し、固液分離水2と第1の濃縮汚泥3に分離される。第1の濃縮汚泥3は、酸発酵槽20に供給され、酸発酵処理される。酸発酵処理された酸発酵処理水4と、固液分離水2は、混合槽30に供給され混合される。混合された混合槽出口水5は、UASB槽40に供給され、メタン発酵処理される。なお、下水1、固液分離水2、濃縮汚泥3、酸発酵処理水4、混合槽出口水5、メタン発酵処理水6等が通過する流路は、これらを移送できる流路として、例えば配管を用いることができる。
【0027】
固液分離装置10には、沈殿池、遠心分離機、スクリーン、スクリュープレス等の固液分離装置が好ましい。下水のような大水量で低SS濃度の固形物を無薬注にて固液分離するためには、設備面、維持管理面からみてスケ−ルアップ容易であること、ランニングコストが低く、維持管理が容易であること等から沈殿池が適している。よって、処理対象となる有機性排水が水量の多い下水の場合は、沈殿池が特に好ましい。すなわち、固液分離装置10は、従来の活性汚泥処理で用いられている最初沈殿池であってもよい。
【0028】
酸発酵槽20は、汚泥の撹拌が可能な槽であればよい。撹拌には、撹拌機を設置してもよく、空気等のガスを曝気してもよい。また、酸発酵槽20は外部熱源を備える。加熱用の熱源には、UASB槽40から回収されたメタンガスg1をボイラーで蒸気に変換して利用することができる。酸発酵槽20内の温度は、好ましくは20〜35℃、下水水温と発生ガスの熱エネルギ−から判断するとより好ましくは20〜25℃の範囲である。このように、酸発酵槽20に流入した第1の濃縮汚泥3は、外部熱源により20℃以上に加温され、酸発酵処理される。酸発酵槽20では、有機性排水中に含まれる、そのままの状態では微生物が分解できない固形物(SS分)が、酸生成菌による有機酸発酵を経て、溶解性の有機物(プロピオン酸、酢酸等)に変換される。
【0029】
酸発酵処理が行なわれる酸発酵槽20のHRT(Hydraulic Retention Time:水理学的滞留時間)は、溶解性有機物濃度(S−CODcr)および酢酸・プロピオン酸・乳酸等の揮発性脂肪酸濃度(Volatile Fatty Acid、以下VFAと略す)により決定する。すなわち、CODcrの可溶化比(S−CODcr/CODcr)、VFA(asCODcr)/S−CODcr比が一定値を示したときのHRTを最適HRTとする。
例えば、最初沈殿池汚泥の場合、酸発酵処理におけるHRTを2日とすると、酸発酵槽の温度20℃で、S−CODcr/CODcr比は0.15〜0.20(−)、VFA(asCODcr)/S−CODcr比は0.3〜0.4、酸発酵槽の温度25℃で、S−CODcr/CODcr比は0.15〜0.20(−)、VFA(asCODcr)/S−CODcrは0.55〜0.65となる。一方、UASBの濃縮汚泥の場合、酸発酵処理におけるHRTを2日とすると、酸発酵槽の温度20℃で、S−CODcr/CODcr比は0.10〜0.20(−)、VFA(asCODcr)/S−CODcr比は0.13〜0.20、酸発酵槽の温度25℃で、S−CODcr/CODcr比は0.10〜0.20(−)、VFA(asCODcr)/S−CODcr比は0.35〜0.45となる。このように、最初沈殿池汚泥、UASB槽の濃縮汚泥共に酸発酵槽の温度が高くなると酸生成菌の活性が上がるため、HRTは短縮され、水温20℃で最適HRTは2〜3日、水温25℃で最適HRTは1〜2日、水温30℃で最適HRTは0.5〜1.5日となる。UASB槽の濃縮汚泥は排水中の有機物がUASB槽で嫌気性菌により一部分解された後のものなので、最初沈殿池汚泥とUASB槽では、濃縮汚泥のS−CODcr/CODcr比、VFA(asCODcr)/S−CODcr比は、共にUASB槽の濃縮汚泥の方が小さい値になる。
【0030】
酸発酵槽20の濃縮汚泥の撹拌は、連続的あるいは間欠撹拌にて行なうことが好ましい。酸発酵槽20内のMLSS濃度が20000〜40000mg/Lと高濃度であるため、汚泥を均一に撹拌するための動力がかかる。しかし、撹拌が強いと生成した有機酸が揮発あるいは酸化され減少する。したがって、酸発酵槽の撹拌は間欠に行なう。1〜2時間の間隔で、5〜15分の間欠撹拌を行なうことが好ましい。
【0031】
図2に、混合槽30において固液分離水2と酸発酵処理水4を混合した後、混合槽出口水5をUASB槽40に通水する様子を示す。混合槽30では、図2に示すように、混合槽としての分配槽30に混合水を一時的に滞留させ、大気と接触させることにより、酸発酵処理によって生じた発酵ガスを混合水から分離する。分配槽30では、混合水を迂流、自然流下、オーバーフロー等させて、含有する発酵ガスを分離してもよい。また、混合槽30は、内部に撹拌機を備えても良い。発酵ガスを分離することにより、UASB槽40内において発酵ガスによるスカムの発生を抑制し、UASB処理を良好に行なうことができる。
【0032】
UASB槽40は、内部にGSS41(気固液分離部)、汚泥床42を有する。さらに、汚泥床42中の濃縮汚泥(第2の濃縮汚泥)を脱水工程へ移送する流路、例えば配管を有する。UASB処理では、低濃度有機性排水に含まれた有機物や、酸発酵により生成した溶解性有機物、酢酸・プロピオン酸等の有機酸が、UASB槽40内の嫌気性菌により、メタンと二酸化炭素に分解される。
【0033】
なお、下水は一般的にCODcr濃度400〜1000mg/Lの低濃度有機性排水であるため、メタン発酵処理槽(UASB槽)でのCODcr容積負荷が1kg/m/dと低い。そのため、食品製造排水のような高濃度有機性排水のメタン発酵処理に比べ、発生メタンガスの量は少ない。また、低濃度有機性排水のメタン発酵処理では、メタン発酵処理槽で発生したメタンガスの40〜60%はメタン発酵処理水に溶存し、系外に排出される。したがって、低濃度有機性排水のメタン発酵処理で得られるメタンガスからの熱エネルギー量には制約がある。下水のSS濃度は通常200mg/Lであり、この状態で、メタン発酵で発生したガスをボイラ−にて蒸気に変換し加温エネルギ−として利用しても水温を上げることは難しい。その点、SSを固液分離して濃縮汚泥濃度(20000〜40000mg/L)として、約100〜200倍に濃縮すれば、酸発酵槽内の温度を5〜10℃上昇させることができる。したがって、酸発酵槽の温度を20℃以上にするためには、メタン発酵処理において固液分離装置としての最初沈殿池やメタン発酵処理槽の温度が、10〜15℃以上であることが好ましい。
【0034】
また、下水のような低濃度有機性排水のUASB処理では、CODcr容積負荷は1kg/m/dである。一方で、食品産業排水のような高濃度有機性排水のUASB処理では、CODcr容積負荷は10〜20kg/m/dである。すなわち、低濃度有機性排水は、高濃度有機性排水に比べ有機物負荷が1/10〜1/20と低く、嫌気性菌の密度が低くなり、汚泥床のグラニュール汚泥の粒径は0.1〜0.5mmと小さなものになる。グラニュ−ル汚泥の沈降速度と流入SSの沈降速度の差が、高濃度有機性排水に適用されている従来のUASBグラニュ−ル汚泥に比べて小さいため、流入するSS濃度、排水の性状によっては、UASB槽内でのスカムの発生が多くなり、UASB槽内の汚泥の維持が困難になる場合がある。こうした理由から、固液分離水2と酸発酵処理水4とを混合した後の混合水は、SS濃度を2000mg/L以下にすることが好ましく、特に1000mg/L以下にすることが好ましい。
【0035】
図3を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る有機性排水処理装置102について説明する。有機性排水処理装置102は、酸発酵槽20、混合槽30、メタン発酵処理槽としてのUASB槽40を備える。図3に示すように、低濃度有機性排水としての下水1は、混合槽30に供給される。一方で、UASB槽40内から排出される第2の濃縮汚泥7は、酸発酵槽20に供給され、酸発酵処理される。処理された酸発酵処理水4’は、混合槽30に供給される。混合槽30では、下水1と酸発酵処理水4’が混合され、混合槽出口水5’がUASB槽40に供給されメタン発酵処理される。
なお、有機性排水処理装置101について記載した理由と同様の理由から、流入下水1と酸発酵処理水4’とを混合した後の混合水は、SS濃度を2000mg/L以下にすることが好ましく、特に1000mg/L以下にすることが好ましい。
【0036】
図4に、混合槽30において下水1と酸発酵処理水4’を混合した後、混合槽出口水5’をUASB槽40に通水する様子を示す。図4では、UASB槽40内から排出される第2の濃縮汚泥7を酸発酵槽20に供給する流路を、第2の濃縮汚泥7を脱水工程へ移送する流路から分岐させているが、これらの流路は別々に備えてもよい。
【0037】
冬期等に下水1の温度が15〜20℃以下に下がると、UASB槽40内の嫌気性菌の活性が低下する。嫌気性菌の中で、特に酸生成菌が水温の影響を受けると、下水1中のSS分は酸発酵しにくくなり、SS分が汚泥床に多く蓄積し、汚泥床の界面が上昇する。このため、有機性排水処理装置102では図3に示すように、UASB槽40下部の汚泥濃度の高い箇所(MLSS20,000〜40,000mg/L)から汚泥を排出させ、酸発酵槽20に供給する。酸発酵槽20では、外部熱源を用いて汚泥を20℃以上に加温し、酸発酵処理する。酸発酵処理水4’は、下水1と混合されUASB槽40に供給される。酸発酵により、溶解性有機物、酢酸・プロピオン酸等の有機酸が生成される。これらの有機物は、UASB槽40内の嫌気性菌により、メタンと二酸化炭素に分解される。
【0038】
年間を通して外気温が低い地域(例えば、日本では北海道、海外ではドイツ、デンマーク等の北ヨーロッパ)では、下水をメタン発酵処理すると、メタン発酵処理槽(例えばUASB槽)の温度は、15〜20℃以下になる場合が多く、メタン発酵処理槽内で流入SS分の蓄積が多くなる。したがって、このような地域では、第1の実施の形態に係る有機性排水処理装置101(図1)を適用する。
一方で、年間を通して外気温が15℃以上の温暖化地域(例えば、日本では四国南部、九州南部等、海外では東南アジア、インド、ブラジル等)では、下水をメタン発酵処理すると、メタン発酵処理槽(例えばUASB槽)の温度は、15〜20℃以上になる場合が多く、メタン発酵処理槽内での汚泥の蓄積は少なくなる。しかし、このような地域でも、気象条件の変化により冬期での急激な気温低下や流入SS濃度変化によりUASB槽内に汚泥が蓄積する場合が考えられる。また、メタン発酵処理での発生ガス量を増やす目的で、UASB槽内に残存した有機物の一部を酸発酵処理することは有効な方法である。以上のような場合には、第2の実施の形態に係る有機性排水処理装置102(図3)を適用する。
【0039】
図5を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る有機性排水処理装置103について説明する。有機性排水処理装置103は、図1に示す有機性排水処理装置101において、移送装置63(移送先:酸発酵槽20)によって、UASB処理槽40から第2の濃縮汚泥7が排出され、酸発酵槽20に供給されて酸発酵処理される。すなわち、有機性排水処理装置101(図1)と有機性排水処理装置102(図3)の両装置の構成を備える。さらに、有機性排水処理装置103では、固液分離装置10で分離された第1の濃縮汚泥3は、移送装置61(移送先:酸発酵槽20)によって酸発酵20に供給され酸発酵処理される。固液分離装置10から酸発酵槽20にいたる流路には、流路を開閉する第1の開閉装置としてのバルブ51と、UASB槽40から排出された第2の濃縮汚泥7を酸発酵槽20に移送する流路には、流路を開閉する第2の開閉装置としてのバルブ52とを備える。また、低濃度有機性排水である下水1から固液分離装置10にいたる流路、および固液分離装置10前で該流路から分岐し固液分離装置10をバイパスして混合槽30にいたる流路にそれぞれ、第3の開閉装置としてのバルブ53、第4の開閉装置としてのバルブ54を備える。さらに、UASB槽40内の温度を計測する温度測定装置としての温度計と、UASB槽40内の汚泥界面の高さを計測する高さ測定装置とを備える。
【0040】
有機性排水処理装置103では、制御装置50を備えることにより、温度計と高さ測定装置の測定値に基づいて、をオン・オフする制御も制御装置50により行われる。酸発酵処理水4(4’)を移送するポンプ62は、酸発酵槽20の液レベル(図示せず)によりオン・オフ制御される。すなわち、酸発酵槽20の液レベルがある一定以上のレベル(高レベル)になった時に移送ポンプ62はオンとなり、酸発酵処理水4(4’)を混合槽30に移送する。酸発酵槽20の液レベルがある一定未満のレベル(低レベル)になった時に移送ポンプ62はオフとなる。
なお、UASB槽の水温は気温の影響を受け、月単位の長いスパンで変化する。したがって、第1の開閉装置としてのバルブ51、第3の開閉装置としてのバルブ53、第4の開閉装置としてのバルブ54の開閉は、常に自動制御により行なう必要はなく、手動により開閉可能なものであってもよい。同様に、第2の開閉装置としてのバルブ52も必要に応じて手動により開閉可能であってもよい。
【0041】
このように、有機性排水処理装置103では、UASB槽40内の水温およびUASB槽40内の汚泥界面の高さを考慮して酸発酵処理する汚泥を選択することができる。なお、流路とは、処理水や汚泥を移送できればよく、例えば配管を用いることができる。
また、有機性排水処理装置101(図1)および有機性排水処理装置102(図3)では、バルブ51、52、53、および移送ポンプ61、62、63は省略されている。
【0042】
図6にUASB槽内温度、UASB槽内汚泥界面高さによる、濃縮汚泥の酸発酵槽への供給ケースを示す。UASB槽内温度が適正であり、さらにUASB槽内汚泥界面高さが適正な場合は前処理(酸発酵処理)なし(図8)となる。UASB槽内温度が適正であるが、UASB槽内汚泥界面高さが適正でない場合は、UASB槽内汚泥の一部を酸発酵処理し、流入原水と酸発酵処理水とを混合後UASB槽に供給する(図3)。UASB槽内温度が適正でないが、UASB槽内汚泥界面高さが適正な場合は、流入原水を固液分離し、濃縮汚泥を酸発酵し、固液分離水と酸発酵処理水を混合後UASB槽に供給する(図1)。UASB槽内温度が適正でなく、さらにUASB槽内汚泥界面高さが適正でない場合は、流入原水を固液分離し、濃縮汚泥を酸発酵し、固液分離水と酸発酵処理水を混合後UASB槽に供給する。さらに、UASB槽汚泥の一部を酸発酵処理し、固液分離水と酸発酵処理水を混合後UASB槽に供給する(図5)。
ここで、UASB槽内温度が適正な場合とはUASB水温15℃以上、好ましくは20℃以上として設定する。適正なUASB槽内汚泥界面高さとは、有効水深5mの場合、汚泥界面高さ2.0〜3.0m(有効水深の40〜60%)が適正といえる。汚泥界面高さが3.5m(有効水深の70%)以上になった場合は、濃縮汚泥を酸発酵処理する必要がある。
UASB槽内温度は、槽底部から1.0m、槽底部から3mの箇所2箇所に温度計を設置し、その平均温度が適正温度範囲かどうかを判断することが好ましい。汚泥界面高さはMLSS濃度計(光電式)等を用いて測定する。
【0043】
図7に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る有機性排水処理装置101は、UASB槽40の下流に溶存メタン回収槽70を備えてもよい。有機性排水処理装置102、103についても同様である。
酸発酵に関与する酸生成菌は、通性嫌気性菌である。よって、図7に示すように、酸発酵槽20において汚泥の撹拌の代わりに空気g2を吹き込み、汚泥の撹拌と同時に酸発酵処理を進める。酸発酵処理により空気中の酸素は消費され、二酸化炭素が生成される。酸発酵槽20からの排ガスg3をメタン発酵処理槽40の後段に配置された溶存メタン回収槽70に吹き込み、メタン発酵処理水6中の溶存メタンを追い出しメタンガスを含む混合ガスg4として回収する。なお、空気g2の代わりに酸素を含有する気体を用いてもよい。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図9の表1に本実施例に用いた原水の性状を示す。平均値を見ると、SS濃度162mg/L、CODcr402mg/L、S−CODcr96mg/L、BOD165mg/L、S−BOD39mg/Lであった。
図10の表2に本実施例で用いた装置の仕様を示す。メタン発酵には、UASB槽(有効容量940L)を用いた。酸発酵には、酸発酵槽(有効容量60L)を用いた。UASB槽本体は鋼板製であり、GSS部分は透明塩ビ製である。UASB槽内の温度調整はバンドヒーターと温度コントローラーを用いて行なった。酸発酵槽内の撹拌は撹拌機で行なった。酸発酵槽内の温度調整は、UASB槽と同様にバンドヒーターと温度コントローラーを用いて行なった。
【0045】
[実施例1/比較例1]
図11の表3に実施例1と比較例1の条件を示す。実施例1、比較例1ともに原水水量2.82m/d、UASB槽のHRT8h、UASB槽内温度10〜20℃(Run1−1:20℃、Run1−2:15℃、Run1−3:10℃)の条件で実験を行なった。実施例1のRun1−1(UASB水温20℃)では、図8に示す有機性排水処理装置201の処理フローを用いた。Run1−2(UASB水温15℃)、Run1−3(UASB水温10℃)では、図1に示す有機性排水処理装置101の処理フローを用いた。最初沈殿池(固液分離装置)の水面積負荷は32.5m/m/d、最初沈殿池からの濃縮汚泥量は0.030m/d、濃縮汚泥濃度は20000mg/Lであった。酸発酵槽の温度は、25℃、HRTは2dとした。比較例1のRun1−1〜Run1−3では、図8に示す有機性排水処理装置201の処理フローを用いた。
【0046】
図12に実験結果のまとめ(1)および図13に実験結果(1)を示す。比較例1では、Run1−1(UASB水温20℃)、Run1−2(UASB水温15℃)、Run1−3(UASB水温10℃)と段階的にUASB槽の水温が低下するのに伴い、ガス発生量の顕著な低下(実験経過後60日目:192L/d、実験経過後120日目:120L/d、実験経過後180日目:60L/d)が見られた。メタン発酵処理が水温の影響を受けたためであり、その結果、UASB槽内の未分解のSS分が増え、汚泥界面の上昇が顕著となった(実験経過後60日目:2.6m、実験経過後120日目:3.3m、実験経過後180日目:4.5m)。
一方で、実施例1ではRun1−2(UASB水温15℃)から、原水を固液分離装置としての最初沈殿池に供給して固液分離し、濃縮汚泥を酸発酵槽に供給した。酸発酵槽は水温25℃、HRT2dの条件で、酸発酵処理した後、固液分離装置の分離水と混合後UASB槽に供給した。その結果、UASB槽内温度が10〜15℃に低下した期間においても、ガス発生量の顕著な低下は見られず、メタン発酵処理は良好に行なわれた(実験経過後60日目:191L/d、実験経過後120日目:191L/d、実験経過後180日目:160L/d)。さらに、UASB槽内の未分解SS分の増加はなく、汚泥界面の上昇は見られなかった(実験経過後60日目:2.7m、実験経過後120日目:2.7m、実験経過後180日目:2.8m)。
【0047】
[実施例2/比較例2]
図11の表3に実施例2と比較例2の条件を示す。実施例2、比較例2ともに原水水量2.82m/d、UASB槽のHRT8h、UASB槽内温度15〜25℃(Run2−1:25℃、Run2−2:20℃、Run2−3:15℃)の条件で実験を行なった。実施例2のRun2−1(UASB水温25℃)、Run2−2(UASB水温20℃)では、図8に示す有機性排水処理装置201の処理フローを用いた。Run2−3(UASB水温15℃)では、図3に示す有機性排水処理装置102の処理フローを用いた。UASB槽底部から1mの箇所にある排出汚泥管よりUASB槽内の汚泥を排出させた。UASB槽からの濃縮汚泥の排出量は0.015m/d、濃縮汚泥濃度は40000mg/Lであった。酸発酵槽の温度は25℃、HRTは2dとした。比較例2のRun2−1〜Run2−3では、図8に示す有機性排水処理装置201の処理フローを用いた。
【0048】
図12に実験結果のまとめ(1)および図14に実験結果(2)を示す。比較例2では、Run2−1(UASB水温25℃)、Run2−2(UASB水温20℃)まではガス発生量の低下は見られなかった。しかし、Run2−3(UASB水温水温15℃)になると、ガス発生量の低下(実験経過後60日目:211L/d、実験経過後120日目:190L/d、実験経過後180日目:130L/d)が見られた。メタン発酵処理が水温の影響を受けたためであり、その結果この期間は、UASB槽内の未分解のSS分が増え、汚泥界面の上昇が見られた(実験経過後60日目:3.2m、実験経過後120日目:3.4、実験経過後180日目:4.0m)。
一方で、実施例2ではRun2−3(UASB水温15℃)になった時点で、UASB槽底部から1.0mの位置から汚泥を0.015m/d排出させ、酸発酵槽に供給した。酸発酵槽は水温25℃、HRT2dの条件で、酸発酵処理した後、原水と混合後UASB槽に供給した。その結果、UASB槽内温度が15℃に低下した期間においても、ガス発生量の低下は見られず、メタン発酵処理は良好に行なわれた(実験経過後60日目:230L/d、実験経過後120日目:210L/d、実験経過後180日目:198L/d)。さらに、UASB槽内の未分解SS分の増加はなく、汚泥界面の上昇は見られなかった(実験経過後60日目:3.1m、実験経過後120日目:3.2m、実験経過後180日目:3.4m)。
【0049】
図15に実験結果のまとめ(2)を示す。以下、図6に示す「図3:UASB槽汚泥の一部を酸発酵処理し、流入原水と酸発酵処理水と混合後UASB槽に供給する」ケース(実施例3)、および図6に示す「図5:流入原水を固液分離し、濃縮汚泥を酸発酵し、固液分離水と酸発酵処理水を混合後UASB槽に供給する。UASB槽内汚泥の一部を酸発酵処理し、固液分離水と酸発酵処理水と混合後UASB槽に供給する」ケース(実施例4)に関し説明する。
【0050】
[実施例3/比較例3]
UASB槽内温度は20℃であったため、図8に示す有機性排水処理装置201の処理フローで処理を行っていたが、UASB槽内汚泥界面の許容値を超えたため(界面4m)、実施例3では、UASB槽汚泥の一部を酸発酵処理し、流入原水と酸発酵処理水とを混合後UASB槽に供給した。すなわち、図5に示す第2の開閉装置52を開にし、UASB槽の濃縮汚泥(第2の濃縮汚泥)の移送ポンプ63、酸発酵処理水の移送ポンプ62を制御装置50を介してオン・オフ運転を行うようにした。比較例3では図8の処理フロ−のままで処理を行った。
実験開始後60日目において、実施例3では、汚泥界面は4.0mから3.5mに低下し、発生ガス量198L/日で安定した。一方、比較例3では汚泥界面は4.0mから4.5mに上昇し、UASB処理水に汚泥が流出し、処理水SS濃度が1000mg/L以上の高い数値となった。また同時にGSS部にスカムが溜まり発生ガス配管が閉塞し、GSSからのガス回収が不可能となり、発生ガスはUASB処理水と共に系外に排出されていた。
【0051】
[実施例4/比較例4]
UASB槽内温度が13℃であったため、流入原水を固液分離し、濃縮汚泥(第1の濃縮汚泥)を酸発酵し、固液分離水と酸発酵処理水を混合後UASB槽に供給していた(図1に示す有機性排水処理装置101の処理フロー:すなわち、図5に示す第3の開閉装置53は開、第4の開閉装置54は閉、第1の開閉装置51は開、第2の開閉装置52は閉、移送ポンプ61、移送ポンプ62はオン・オフ運転中、移送ポンプ63はオフ)。UASB槽内汚泥界面の許容値3.8mを超えたため、実施例4では、UASB槽内汚泥濃縮汚泥(第2の濃縮汚泥)の一部を酸発酵処理し、固液分離水と酸発酵処理水と混合後UASB槽に供給した(すなわち、第2の開閉装置52を開、移送ポンプ63をオン・オフ運転)。比較例4では図1の処理フローのままで処理を行った。
実験開始後30日目において、実施例4では、汚泥界面は3.8mから3.3mに低下し、発生ガス量157L/日で安定した。一方、比較例4では、汚泥界面は3.8mから4.5mに上昇し、UASB処理水に汚泥が流出し、処理水SS濃度が3000mg/L以上の高い数値となった。また同時にGSS部にスカムが溜まり発生ガス配管が閉塞し、GSSからのガス回収が不可能となり、発生ガスはUASB処理水と共に系外に排出されていた。
【符号の説明】
【0052】
1 低濃度有機性排水、下水
2 固液分離水
3 第1の濃縮汚泥
4、4’酸発酵処理水
5、5’混合槽出口水
6 メタン発酵処理水、UASB処理水
7 第2の濃縮汚泥
8 メタン回収槽処理水
10 固液分離装置
20 酸発酵槽
30 混合槽、分配槽
40 メタン発酵処理槽、UASB槽
41 GSS(気固液分離部)
42 汚泥床
50 制御装置
51 第1の開閉装置、バルブ
52 第2の開閉装置、バルブ
53 第3の開閉装置、バルブ
54 第4の開閉装置、バルブ
61 移送装置(第1の濃縮汚泥3の移送ポンプ、移送先:酸発酵槽20)
62 移送装置(酸発酵処理水4(4’)の移送ポンプ、移送先:混合槽30)
63 移送装置(第2の濃縮汚泥7の移送ポンプ、移送先:酸発酵槽20)
70 溶存メタン回収槽
101、101’、102、103 有機性排水処理装置
201 従来のメタン発酵処理装置
g1 メタンガス
g2 空気
g3 排ガス
g4 混合ガス
h1 UASB槽における有効水深(h1=h2+h3+h4)
h2 UASB槽の濃縮汚泥を酸発酵槽へ送る配管位置(有効水深5mの場合は通常1mとする。)
h2+h3 UASB槽内における限界汚泥界面高さ(h3=2.5〜3m、有効水深5mの場合)
h4 UASB槽の上部水面から限界汚泥界面までの距離(UASB槽上部水面から汚泥界面計を用いて測定した場合の実測値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低濃度有機性排水を固液分離し、固液分離水と第1の濃縮汚泥に分ける固液分離装置と;
前記第1の濃縮汚泥を酸発酵処理する、所定の温度に維持された酸発酵槽と;
前記固液分離水と前記酸発酵槽で処理された酸発酵処理水を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合槽と;
発酵ガスが分離された混合槽出口水をメタン発酵処理するメタン発酵処理槽とを備える;
有機性排水処理装置。
【請求項2】
メタン発酵処理槽から排出された第2の濃縮汚泥を酸発酵処理する、所定の温度に維持された酸発酵槽と;
低濃度有機性排水および前記酸発酵槽で処理された酸発酵処理水を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合槽と;
発酵ガスが分離された混合槽出口水をメタン発酵処理する、前記メタン発酵処理槽とを備える;
有機性排水処理装置。
【請求項3】
低濃度有機性排水を固液分離し、固液分離水と第1の濃縮汚泥に分ける分離工程と;
前記第1の濃縮汚泥を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;
前記固液分離水と前記酸発酵工程で処理された酸発酵処理水を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合工程と;
発酵ガスが分離された混合槽出口水をメタン発酵処理するメタン発酵処理工程とを備える;
有機性排水処理方法。
【請求項4】
メタン発酵処理工程から排出された第2の濃縮汚泥を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;
低濃度有機性排水および前記酸発酵工程で処理された酸発酵処理水を混合し、該混合水中に含まれる発酵ガスを分離する混合工程と;
発酵ガスが分離された混合槽出口水をメタン発酵処理する前記メタン発酵処理工程とを備える;
有機性排水処理方法。
【請求項5】
前記固液分離装置で分離された前記第1の濃縮汚泥を前記酸発酵槽に移送する流路に、流路を開閉する第1の開閉装置と;
前記メタン発酵処理槽から排出された第2の濃縮汚泥を前記酸発酵槽に移送する流路に、流路を開閉する第2の開閉装置と;
前記メタン発酵槽内の温度を計測する温度測定装置と;
前記メタン発酵槽内の汚泥界面の高さを計測する高さ測定装置とを備え;
前記温度測定装置と前記高さ測定装置の測定値に基づいて、前記第1の開閉装置と前記第2の開閉装置を開閉する;
請求項1に記載の有機性排水処理装置。
【請求項6】
メタン発酵処理工程から排出された第2の濃縮汚泥を、所定の温度で酸発酵処理する酸発酵工程と;
前記メタン発酵処理工程での処理温度と、前記メタン発酵処理工程での汚泥界面の高さに基づいて、前記第1の濃縮汚泥または前記第2の濃縮汚泥を前記酸発酵工程へ移送する工程を備える;
請求項3に記載の有機性排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−81403(P2012−81403A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229138(P2010−229138)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度から20年度の独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構との共同研究“無曝気・省エネルギー型次世代水資源循環技術の開発”、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】