説明

有機材料を堆積する方法

原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法を開示する。この方法は、実質的に平行な細長チャネルに沿って一連のガス流を同時に方向付けする工程を含み、該一連のガス流は、順番に、少なくとも第1反応ガス材料と、不活性パージガスと、第2反応ガス材料とを含み、任意選択的に複数回繰り返される、この際、該第1反応ガス材料は、該第2反応ガス材料で処理された基板表面と反応することができ、該第1反応ガス材料、該第2反応ガス材料、又はその両方は、揮発性有機化合物である。この方法は、有機薄膜の堆積中、実質的に大気圧で、又は大気圧を上回る圧力で、250℃未満の温度で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね有機薄膜に関し、そしてより詳細には、原子又は分子層堆積を用いて有機薄膜を基板上へ堆積する方法に関する。具体的には、本発明は、電子デバイス又は光学デバイス内に使用することができる無機−有機ハイブリッド薄膜を含む、有機薄膜の膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の電子装置は、典型的には比較的大型の基板上に、電気的又は光学的に活性の材料から成る複数のパターン化された層を必要とする。電子装置、例えば高周波識別(RFID)タグ、太陽光発電装置、光学及び化学センサは全て、電子回路における或るレベルのパターン化を必要とする。フラット・パネル・ディスプレイ、例えば液晶ディスプレイ又はエレクトロルミネッセント・ディスプレイ(例えばOLED)は、バックプレーンの薄膜構成部分を形成するために、正確にパターン化された連続層に依存する。これらの構成部分は、キャパシタ、トランジスタ、及び電力バスを含む。業界は、性能向上及びコスト軽減の両方のために材料堆積及び層パターン化の新しい方法を引き続き模索している。
【0003】
有機−無機ハイブリッド膜を含む有機膜が、絶縁層及び保護層を含む多数の用途にとって極めて有用であり得る。多くの有機膜又はハイブリッド有機膜は溶液流延法から堆積することができるが、より高品質の膜を提供することを約束する分子堆積法によって、又は場合によっては、容易な溶液処理経路を持たない膜の堆積によって極めて高品質の有機膜を成長させることに関心が持たれている。
【0004】
所望の膜材料を形成するために2つの反応ガスが混合される化学蒸気堆積法(CVD)が、高品質膜成長を達成するための有用な経路であり得る。原子層堆積法(「ALD」)は、そのCVD先行技術と比較して、厚さ解決手段及びコンフォーマル能力を改善することができるさらに別の代わりの膜堆積技術である。ALD法は、従来のCVDの従来の薄膜堆積プロセスを、単一原子層の堆積工程に分割する。
【0005】
ALDは、半導体デバイス及び支持用電子構成部分、例えば抵抗器及びキャパシタ、絶縁体、バスライン及びその他の導電性構造を含む数多くのタイプの薄膜電子デバイスを形成するための製作工程として用いることができる。ALDで堆積することができる一般クラスの機能性材料は、導体、誘電体又は絶縁体、及び半導体を含む。
【0006】
ALDによって堆積された機能層を用いて、数多くのデバイス構造を形成することができる。2つの導体の間に誘電体を配置することにより、キャパシタが形成される。2つの導電性電極間に相補的キャリア・タイプの2つの半導体を配置することから、ダイオードが形成される。相補的キャリア・タイプの2つの半導体の間に、固有の半導体領域が配置されていてもよく、これはその領域が少数の自由電荷キャリアを有することを示す。2つの導体間に単一の半導体を配置することにより、ダイオードを構成することもできる。この場合、導体/半導体界面のうちの1つは、電流フローを1つの方向において強く妨げるショットキー障壁を形成する。導体(ゲート)上に絶縁層を配置し、続いて半導体層を配置することにより、トランジスタが形成される。2つ又は3つ以上の追加の導体電極(ソース及びドレイン)が、上側の半導体層と接触した状態で互いに離隔して配置されると、トランジスタを形成することができる。重要な界面が形成される限り、上記デバイスのうちのいずれかを種々の形態を成して形成することができる。
【0007】
有利には、ALD工程は自己終結型であり、自己終結曝露時間まで、又は自己終結曝露時間を超えて実施すると、1つの原子層を正確に堆積することができる。原子層は典型的には、0.1〜0.5分子単層であり、典型的な寸法は数オングストローム以下のオーダーにある。ALDの場合、原子層の堆積は、反応性分子前駆体と基板との間の化学反応の結果である。それぞれ別個のALD反応堆積工程において、正味の反応が所望の原子層を堆積し、そして分子前駆体内に元々含まれる「余分」の原子を実質的に排除する。その最も純粋な形態では、ALDは、その他の反応前駆体の完全な不存在における、前駆体のそれぞれの吸着及び反応に関与する。実際には、いかなるシステムにおいても、少量の化学蒸着反応をもたらす種々異なる前駆体の若干の直接反応を回避することは難しい。ALDを実施すると主張するいかなる方法も、その目標は、少量のCVD反応を許容できることを認識しつつ、ALDシステムに見合う装置の性能及び特質を得ることである。
【0008】
ALD用途の場合、典型的には2種の分子前駆体が、別個の段階においてALD反応器内に導入される。例えば、金属前駆体分子MLxは、原子又は分子リガンドLに結合された金属元素Mを含む。例えばMとしては、Al,W,Ta,Si,Znなどが挙げられる。基板表面が分子前駆体と直接反応するように調製されている場合、金属前駆体は基板と反応する。例えば、基板表面は典型的には、金属前駆体と反応する水素含有リガンドAHなどを含むように調製される。硫黄(S)、酸素(O)、及び窒素(N)がいくつかの典型的なA種である。ガス状金属前駆体分子は、基板表面上のリガンドの全てと効果的に反応し、その結果、金属の単一原子層を堆積する:
基板−AH+MLx→基板−AMLx-1+HL (1)
上記式中HLは反応副産物である。反応中、初期表面リガンドAHは消費され、そして表面はAMLx-1リガンドで覆われるようになる。これらのAMLx-1リガンドは金属前駆体MLxとさらに反応することはできない。従って、表面上の初期AHリガンドの全てがAMLx-1種で置換されると、反応は自己終結する。この反応段階には、典型的には不活性ガスパージ段階が続き、この不活性ガスパージ段階は、他の前駆体を別個に導入する前にチャンバから余分の金属前駆体及びHL副産物種を排除する。
【0009】
第2分子前駆体は次いで、金属前駆体に対する基板の表面反応性を回復させるために使用される。このことは、例えばLリガンドを除去し、そしてAHリガンドを再堆積することにより行われる。この場合、第2前駆体は典型的には、所望の(通常は非金属)元素A(すなわちO,N,S)、及び水素(すなわちH2O,NH3,H2S)を含む。次の反応は下記の通りである:
基板−A−ML+AHY→基板−A−M−AH+HL (2)
これにより、表面は、AHで覆われた状態に戻るように変換される(この場合、便宜上、化学反応は平衡されない)。所望の追加の元素Aは膜内に内蔵され、また望ましくないリガンドLは揮発性副産物として排除される。ここでもやはり、反応は反応性部位(この場合L末端部位)を消費し、そして基板上の反応性部位が完全に消耗したら自己終結する。第2分子前駆体は次いで、不活性パージガスを第2パージ段階で流すことにより堆積チャンバから除去される。
【0010】
ここで要約すると、ALD法は、基板に対する化学物質のフラックスを順番に交互にすることを必要とする。上述のような代表的なALD法は、4つの異なる作業段階を有するサイクルである:
1. MLx反応;
2. MLxパージ;
3. AHy反応;及び
4. AHyパージ、次いで段階1へ戻る。
【0011】
ALDはより典型的には、無機化合物の堆積のために利用されており、金属前駆体はハロゲン化物、アルコキシド、ジケトネート・キレート、又は有機金属化合物である。第2の前駆体はより典型的には、酸化物、窒化物又は硫化物がそれぞれ堆積される場合には、酸素源、窒素源、又は硫黄源である。研究は比較的少ないものの、ALDによって有機化合物又は有機/無機ハイブリッド層を堆積することには有用性がある。これらの事例において、このような方法によって生成された制限層が原子ではなく分子の層であってよい以外は、自己制限反応の交互の順序を有することがやはり可能である。このようなものとして、このような技術は、分子層堆積(MLD)と呼ばれることもあるが、その基本概念及び堆積設備は、ALD法及び設備と同様である。有機膜の原子層又は分子層堆積の一例は、“ATOMIC LAYER DEPOSITION OF POLYIMIDE THIN FILMS”(Matti Putkonen他, Journal of Material Chemistry, 2007, 16, 664-669)に見いだすことができる。本明細書中に使用される「原子層堆積」という用語は、文脈が他のことを示すのでなければ、ALD及びMLDの両方を意味する。
【0012】
表面反応と、パージ動作を介在させて、基板表面をその初期反応状態に回復させる前駆体除去とを交互に行うことのこのような反復シーケンスは、典型的なALD堆積サイクルである。ALD作業の重要な特徴は、基板をその初期の表面化学反応状態に回復させることである。この反復工程セットを用いて、化学キネティクス、1サイクル当たりの堆積、組成、及び厚さがすべて同一である等しく計量された層として膜を基板上に層形成することができる。
【0013】
自己飽和型表面反応は、技術的な許容差及び流動プロセスの限界又は表面トポグラフィ(すなわち三次元高アスペクト比構造内への堆積)に関連する限界に起因する、さもなければ表面均一性を損なうおそれのある移動不均一性に対してALDを不感受性にする。原則として、反応プロセスにおける不均一な化学物質フラックスは一般に、表面領域の異なる部分に対する完成時間を異なるものにする。しかしALDを用いた場合、反応のそれぞれが基板表面全体上で完成することが許される。従って、完成キネティクスの相違は、均一性に対して何の不利益も与えない。その理由は、最初に反応を完成するようになっている領域は反応を自己終結し、他の領域は、完全処理された表面が所望の反応を受けるまで持続することができるからである。
【0014】
典型的にはALD法は、単一のALDサイクル(1サイクルは前に挙げた1〜4の番号の工程を有している)において0.1〜0.2nmの膜を堆積する。多くの又はほとんどの半導体用途において、3nm〜300nmの均一な膜厚を、そして他の用途ではさらに厚い膜を提供するために、有用なそして経済的に見合うサイクル時間が達成されるべきである。産業上のスループット標準によれば、基板は好ましくは2分〜3分で処理され、これは、ALDサイクル時間が0.6秒〜6秒の範囲になければならないことを意味する。
【0015】
ALD法は、多くの基板のコスト効率が高い被覆を可能にするために、多くのサイクルにわたって効率的に且つ信頼性高くこのシーケンシングを実行できなければならない。任意の所与の反応温度で、ALD反応が自己終結に達するために必要とする時間を最小化しようと、1つのアプローチでは、いわゆる「パルス化」システムを使用して、ALD反応器内へ流入する化学物質フラックスを最大化するようになっている。パルス化ALD法の場合、基板はチャンバ内に位置し、そして、第1ガスがチャンバに入るのを許すことにより、上記ガス配列に暴露され、続いてそのガスを除去するためのポンピング・サイクルを施され、続いて第2ガスがチャンバに導入され、続いて第2ガスを除去するためのポンピング・サイクルを施される。この順番は、任意の頻度で、ガスのタイプ及び/又は濃度を任意に変化させて繰り返すことができる。正味の影響は、チャンバ全体が時間に伴うガス組成の変化を受けることであり、ひいてはこのタイプのALDは時間依存性ALDと呼ぶことができる。既存のALD法の大部分は時間依存性ALDである。
【0016】
ALD反応器内へ流入する化学物質フラックスを最大化するために、最小限に希釈した不活性ガスとともに、そして高い圧力でALD反応器内に分子前駆体を導入することが有利である。しかし、これらの手段は、短いサイクル時間、及びALD反応器からのこれらの分子前駆体の迅速な除去を達成するという必要性に対して不都合に働く。迅速な除去は、ALD反応器内のガス滞留時間が最小化されることを決定づける。
【0017】
既存のALDアプローチは、反応時間を短くし、化学物質利用効率を改善する必要性と、他方では、パージガス滞留時間及び化学物質除去時間とを最小化する必要性との間のトレードオフを伴う妥協の産物である。時間に依存するALDシステムの固有の限界を克服するための1つのアプローチは、各反応ガスを連続的に提供すること、そして各ガスを通して基板を連続して動かすことである。これらのシステムでは、比較的一定のガス組成が存在するが、しかし処理システムの特定の領域又はスペースに局在化される。従ってこれらのシステムを、空間依存性ALDシステムと呼ぶ。
【0018】
例えば、“GAS DISTRIBUTION SYSTEM FOR CYCLICAL LAYER DEPOSITION”と題される米国特許第6,821,563号明細書(Yudovsky)には、前駆体及びパージガスのための別個のガスポートと、各ガスポート間の真空ポンプポートとを交互に有する、真空下の空間依存性ALD処理システムが記載されている。各ガスポートは、そのガス流を鉛直方向で見て下向きに基板に向かって導く。別個のガス流は壁又は仕切りによって分離され、各ガス流の両側には排気のための真空ポンプが設けられている。各仕切りの下側部分は、基板に近接して、例えば基板表面から0.5mm以上のところに延びている。このように、これらの仕切りの下側部分は、ガス流が基板表面と反応した後、ガス流が下側部分の周りで真空ポートに向かって流れるのを可能にするのに十分な距離だけ、基板表面から離されている。
【0019】
回転ターンテーブル又はその他の移動装置が、1つ又は2つ以上の基板ウエハーを保持するために設けられている。この装置を用いると基板は異なるガス流の下で往復させられ、これによりALD堆積を生じさせる。1つの態様の場合、基板は、チャンバを通して線状通路内で動かされ、この通路内で基板は多数回にわたって前後へパスされる。
【0020】
連続ガス流を使用した別のアプローチが、“METHOD FOR PERFORMING GROWTH OF COMPOUND THIN FILMS”(Suntola他)と題された米国特許第4,413,022号明細書に示されている。ガス流アレイには、ソースガス開口、キャリアガス開口、及び真空排気開口が交互に設けられている。アレイ上の支持体の往復運動が、パルス化された動作を必要とすることなしに、ここでもALD堆積を生じさせる。具体的には図13及び図14の態様の場合、基板表面と反応性蒸気との順次の相互作用が、ソース開口の固定アレイ上の基板の往復運動によって行われる。排気開口間にキャリアガス開口を有することにより、拡散バリアが形成されている。このような態様を伴う動作は大気圧においてさえも可能であるとSuntola他は述べているが、プロセスの詳細又は例はほとんど又は全く提供されていない。
【0021】
‘563 Yudovsky及び‘022 Suntola他の開示物に記載されたもののような方法は、パルス化ガスのアプローチに固有の難しさのいくつかを回避することはできるが、これらのシステムは他の欠点を有する。例えば、アレイ内の異なる地点で均一な真空を維持すること、そして同期的なガス流及び真空を相補的な圧力で維持することは極めて難しく、ひいては基板表面に提供されるガスフラックスの均一性に関して妥協することになる。‘563 Yudovskyの開示物のガス流供給ユニットも、‘022 Suntola他の開示物のガス流アレイも、基板に0.5mmよりも近接して使用することはできない。
【0022】
米国特許出願公開第2005/084610号明細書(Selitser)には、大気圧原子層化学蒸着法が開示されている。動作圧力を大気圧に変化させることにより、反応速度が著しく高くなり、このことは、反応物質の濃度を桁違いに増大させ、その結果として表面反応速度を高めることを、Selitser他は述べている。Selitserの態様は、方法のそれぞれの段階毎に別個のチャンバを伴うが、図10には、チャンバの壁が取り除かれている態様が示されている。一連の分離されたインジェクタが、回転する円形基板ホルダ軌道の周りに間隔を置いて設けられている。各インジェクタは、独立して操作される反応物質マニホルド、パージ・マニホルド、及び排気マニホルドを内蔵しており、そしてそれぞれの基板毎に、この基板がプロセス中にインジェクタの下を通るのに伴って、1つの完結した単分子層堆積・反応物質パージサイクルとして制御し作用する。ガス・インジェクタ又はマニホルドの詳細はほとんど又は全くSelitser他によって記載されてはいないが、隣接するインジェクタからの交差汚染がパージガスによって予防され、排気マニホルドが各インジェクタ内に内蔵されるように、インジェクタの間隔が選択されていると、彼らは述べている。
【0023】
トリメチルアルミニウム及び種々のグリコールを使用したシリコン基板上へのアルコーン(Alucone)・ポリマーの分子層堆積が、2007年10月15日付けで提示されることになっている、AVS 54th International Symposiumに提出された論文TF-MoA8に対応するA. A. Dameronによる要約において開示されている。米国特許出願公開第2007/0190247号明細書(Jang他)に開示されているように、Alq3、Znq3及びTiq3(qは8−ヒドロキシキノリンである)から成る薄膜の原子層堆積も公知である。分子層堆積による単分子層成長工程を用いて形成されたポリマー膜が、Appl. Phys. Lett., Vol. 59, No. 4, July 1991に開示されている。選択された多環式芳香族化合物、例えば軸端ジイミド結合及び同様のものを形成することができる多環式テトラカルボン酸二無水物化合物の分子から成る薄膜を形成する方法が、米国特許第6,808,803号明細書(Yitzchaik)に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従来技術における問題点及び欠点を克服することができる、原子層堆積によって有機材料を堆積するための材料及び方法を提供することが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、空間依存性ALDと適合性のある有機材料を堆積するための方法を提供する。具体的には、本発明は、原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法であって、実質的に平行な細長チャネルに沿って一連のガス流を同時に方向付けする工程を含み、該一連のガス流は、順番に、少なくとも第1反応ガス材料と、不活性パージガスと、第2反応ガス材料とを含み、任意選択的に複数回繰り返される、この際、該第1反応ガス材料は、該第2反応ガス材料で処理された基板表面と反応することができ、そして該第2反応ガス材料は、該第1反応ガス材料で処理された表面と反応して、薄膜を形成することができ、該第1反応ガス材料、該第2反応ガス材料、又はその両方は、揮発性有機化合物であり、
該方法は、実質的に大気圧で、又は大気圧を上回る圧力で実施され、堆積中の該基板の温度は250℃未満であり、そして該堆積された有機薄膜は少なくとも20原子量パーセントの炭素を含む、
原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法に関する。
【0026】
プロセス中、ガス材料のための基板又は堆積装置、又はその両方は、近接する関係を維持しながら、堆積装置の出力面と基板との間の相対運動を提供することができる。
【0027】
好ましい態様の場合、この方法は、薄膜堆積を施される基板の連続的な運動で操作することができ、この方法は、好ましくは、実質的に大気圧の周囲に対して密閉されていない環境内で、堆積装置を通り過ぎるウェブ上で又はウェブとして支持体を移動することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のさらに別の利点は、大面積基板上への堆積を含む、ウェブ又はその他の可動基板上の堆積に対して適合可能であることである。
【0029】
本発明のさらに別の利点は、好ましい態様において大気圧条件下での操作を可能にすることである。
【0030】
本発明のさらに別の利点は、大気圧における低温プロセスにおいて採用することができ、この方法を周囲大気に対して開いた、密閉されていない環境内で実施できることである。
【0031】
本発明はまた、本発明の方法によって形成された、好ましくは可撓性基板上の有機又は無機−有機ハイブリッド材料を含むトランジスタに関する。
【0032】
本発明の目的、特徴、及び利点は、本発明の一例としての態様を示し記述した図面と併せて、下記詳細な説明を読めば、当業者には明らかになる。
【0033】
本明細書は、本発明の主題を具体的に指摘し明確に主張する特許請求の範囲で締めくくられるが、添付の図面と併せて下記説明から本発明をより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の1つの態様のための原子層堆積のための供給ヘッドを示す断面側方図である。
【図2】図2は、本発明に用いるためのALD法の工程を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の方法において使用することができる原子層堆積のための堆積装置の1つの態様を示す断面側方図である。
【図4】図4は、薄膜堆積を施される基板へガス材料を分配する、一例としてのガス材料システムの態様を示す断面側方図である。
【図5A】図5Aは、付随する堆積動作を概略的に示す、ガス材料システムの分配の1つの態様の断面側方図である。
【図5B】図5Bは、付随する堆積動作を概略的に示す、ガス材料システムの分配の1つの態様の断面側方図である。
【図6】図6は、基板に対する出力チャネルの配向と往復運動とを示し、堆積装置内のガス流の1配列例を示す、堆積装置の1つの態様の一部の、出力面側から見た斜視図である。
【図7A】図7Aは、種々の態様における出力チャネルに対応するガス流方向を示す、前記図4〜6Bの断面図に対して直交方向で見た断面図である。
【図7B】図7Bは、種々の態様における出力チャネルに対応するガス流方向を示す、前記図4〜6Bの断面図に対して直交方向で見た断面図である。
【図8】図8は、往復運動及び直交方向運動のための別の動作パターンを示す概略図である。
【図9】図9は、本発明による方法を用いる堆積システムの1つの態様を示すブロック・ダイヤグラムである。
【図10】図10は、本発明による、可動ウェブに適用される堆積システムの別の態様を、堆積装置が定置の状態で示すブロック・ダイヤグラムである。
【図11】図11は、例の薄膜堆積法を施される基板に提供されるガス材料の配列を示す、本発明の方法に使用される堆積装置の断面側方図である。
【図12】図12は、例の薄膜堆積法を施される基板に提供されるガス材料の配列を示す、本発明の方法に使用される堆積装置の断面側方図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、上記のように、原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法であって、一連のガス流を、実質的に平行な細長いチャネルに沿って、そして細長い出力開口を出るように同時に導くことにより、有機薄膜を形成することを含み、第1反応ガス材料、第2反応ガス材料、又はその両方は、揮発性有機化合物である、方法に関する。堆積された有機薄膜は少なくとも20原子量パーセントの炭素を含む。有機薄膜は、無機−有機ハイブリッド薄膜であることが可能である。
【0036】
本発明の方法において、一連のガス流は、少なくとも、第1反応ガス材料と、不活性パージガスと、第2反応ガス材料とを含み、任意選択的に複数回繰り返される、この際、該第1反応ガス材料は、該第2反応ガス材料で処理された基板表面と反応することができ、そして該第2反応ガス材料は、該第1反応ガス材料で処理された表面と反応して、薄膜を形成することができる。
【0037】
1つの態様の場合、第1反応ガス材料、第2反応ガス材料、又はその両方は、揮発性有機化合物であり、そして第1反応ガス材料は、金属又は半金属原子、例えば炭素、窒素、酸素又は水素に結合された金属原子又は半金属原子を含む。金属原子又は半金属原子は、例えばアルミニウム、亜鉛、チタン、又はケイ素であり得る。金属原子又は半金属原子は、β−ジケトネート化合物と関連付けられることができる。
【0038】
1つの態様の場合、第2反応ガス材料は、1つ又は2つ以上のヒドロキシル基、チオール基、又はアミン基を含む。例えば、第2反応ガス材料は、ジオール、ジチオール、ジアミン、又はキノリネートであり得る。
【0039】
本発明の有機物含有薄膜の製造方法は、最大支持温度300℃未満、より好ましくは250℃未満、又はおよそ室温の温度(25℃〜70℃)でも行うことができる。ここに含まれる本発明に関する知識を持っているならば、温度選択は一般に、当業者に知られている支持体及び処理パラメータに応じて行う。これらの温度は伝統的な集積回路及び半導体の処理温度を十分に下回る。これにより、種々の比較的低廉な支持体、例えば可撓性高分子支持体のいずれかの使用が可能になる。こうして、本発明は、性能が著しく改善された薄膜トランジスタを含有する比較的低廉な回路の製造を可能にする。
【0040】
下記説明に関して「ガス」又は「ガス材料」という用語は、広い意味で、所定の範囲の蒸発した又はガス状の元素、化合物、又は材料のいずれかを含むように使用される。本明細書中に使用されるその他の用語、例えば「反応物質」、「前駆体」、「真空」及び「不活性ガス」は、材料堆積技術における当業者によってよく理解される従来通りの意味を有する。提供される図面は、原寸に比例して描かれてはいないが、本発明のいくつかの態様の機能全体及び構造的配列を示すように意図されている。
【0041】
本発明の方法は、有機物含有薄膜を製造することに対する従来のアプローチからの有意義な脱却を提供し、大面積の、ウェブをベースとする基板上への堆積に適合することができ、また改善されたスループット速度で高度に均一な薄膜堆積を達成することができる、基板表面にガス材料を供給するためのシステムを採用する。本発明の方法は、(パルス化ALD又は時間依存性ALDとは反対に)連続した空間依存性ALDガス材料分配を採用する。本発明の方法は、大気圧又は近大気圧での動作を可能にし、また、密閉されていない又はオープンエア環境内で動作することができる。
【0042】
図1を参照すると、本発明による基板20上への原子層堆積のための供給ヘッド10の1つの態様の断面側方図が示されている。供給ヘッド10は、第1ガス材料を受容するための流入ポートとして役立つガス流入導管14と、第2ガス材料を受容する流入ポートのためのガス流入導管16と、第3ガス材料を受容する流入ポートのためのガス流入導管18とを有している。これらのガスは、続いて説明するように、ディフューザを含んでいてよい構造的配列を有する出力チャネル12を介して、出力面36で放出される。図1における破線矢印は、供給ヘッド10から基板20へのガスの供給を意味する。図1において、点線矢印Xはまた、排気ポートを提供する排気導管24と連通する、排気通路(この図面内では上向きに示されている)及び排気チャネル22を示す。排ガスはまだ多量の未反応前駆体を含有していることがあるので、1つの反応種を主に含有する排気流が、別の種を主に含有する排気流と混ざるのを許すことは望ましくない場合がある。このようなものとして、供給ヘッド10は、いくつかの独立した排気ポートを含有し得ることが認識される。
【0043】
1つの態様の場合、ALD堆積を生じさせるために基板表面上で順次反応する第1及び第2ガスを受容するように、ガス流入導管14及び16が適合されており、ガス流入導管18が、第1及び第2ガスに対して不活性のパージガスを受容する。供給ヘッド10は、後でより詳細に説明するように基板支持体上に設けることができる基板20から距離Dを置いて配置されている。基板20と供給ヘッド10との間には、基板20の運動によって、又は供給ヘッド10の運動によって、又は基板20及び供給ヘッド10の両方の運動によって、往復運動を提供することができる。図1に示された特定の態様の場合、矢印A、及び基板の左右の仮想線によって示すように、往復式に出力面36を横切るように、基板20が基板支持体96によって動かされる。なお、往復運動は、供給ヘッド10を使用する薄膜堆積にいつも必要とされるわけではない。基板20と供給ヘッド10との間の他のタイプの相対運動、例えば、基板20又は供給ヘッド10の1つ又は2つ以上の方向における運動を提供することもできる。
【0044】
図2は、薄膜を製造するためのALD法120の好ましい態様の一般化された工程ダイヤグラムである。ここでは、第1分子前駆体と第2分子前駆体とから成る2種の反応性ガスが使用される。ガスはガス源から供給され、そして例えば堆積装置を介して基板に供給することができる。ガス材料を堆積装置に提供する計量・弁装置を使用することができる。
【0045】
工程1に示されているように、システムのためのガス材料の連続供給が、基板上に材料薄膜を堆積するために行われる。シーケンス15における工程は順次適用される。工程2において、基板の所与の領域(チャネル領域と呼ぶ)に関して、第1分子前駆体又は反応ガス材料が、基板のチャネル領域上で第1チャネル内を流れるように導かれ、この領域と反応する。工程3において、基板とシステム内のマルチ・チャネル流との相対運動が発生し、このことが工程4の準備を整える。工程4では、不活性ガスを有する第2チャネル(パージ)流が、所与のチャネル領域の上方で発生する。次いで工程5において、基板とマルチ・チャネル流との相対運動が工程6の準備を整える。工程6では、所与のチャネル領域に原子層堆積が施され、ここでは第2分子前駆体が今や(この特定の態様では基板の表面に対して横方向且つ実質的に平行に)基板の所与のチャネル領域上に位置し、基板上の前の層と反応することにより、所望の材料の(理論上)単分子層を生成する。第1分子前駆体は、ガス形態を成しており、例えば有機化合物又は有機金属化合物、例えばジエチル亜鉛又はトリメチルアルミニウムである。このような態様の場合、第2分子前駆体もガス形態を成しており、そして、これは例えば有機金属化合物と反応する有機化合物であることにより、ハイブリッド無機−有機化合物、或いは異なる有機金属化合物を形成することができる。
【0046】
工程7では、基板とマルチ・チャネル流との相対運動が次いで、工程8の準備を整える。工程8では再び、不活性ガスを使用することにより、この時には、前の工程6から生じた所与のチャネル領域からの過剰の第2分子前駆体を一掃する。工程9において、基板とマルチ・チャネル流との相対運動が再び発生し、このことが、工程2へ戻る反復シーケンスの準備を整える。サイクルは、所望の膜を確立するのに必要な回数だけ反復される。この方法のこの態様の場合、工程は、流れチャネルによって占められる領域に対応する、基板の所与のチャネル領域に対して繰り返される。その間に、種々のチャネルには、工程1の所要のガス材料が供給されることになる。図1のボックス15のシーケンスと同時に、他の隣接チャネル領域が処理され、その結果、工程11全体に示されているように、マルチ・チャネル流が並行して生じる。上記のように、並行流は、堆積装置の出力面に対して実質的に直交方向又は実質的に平行に生じることができる。
【0047】
第2分子前駆体の主な目的は、基板表面の、第1分子前駆体との反応性を回復させることである。第2分子前駆体はまた、分子ガスから材料を提供することにより、表面の第1の材料と合体し、堆積したばかりの第1前駆体と化合物を形成する。
【0048】
この特定の態様は、分子前駆体を基板に適用した後で分子前駆体を除去するために真空パージを用いる必要がない。パージ工程はALD法における最も顕著なスループット制限工程であると、大抵の研究者が予測している。
【0049】
図3における2種の反応ガスとして、例えばAX及びBYを使用すると仮定する。反応ガスAX流が供給され、所与の基板領域上に流されると、反応ガスAXの原子は基板上に化学吸着され、その結果Aから成る層と、リガンドXの表面とが生じる(結合化学吸着)(工程2)。次いで、残りの反応ガスAXは不活性ガスでパージされる(工程4)。次いで反応ガスBY流が供給され、及びAX(表面)とBY(ガス)とが化学反応し、その結果、基板上にABから成る分子層が生じる(解離化学吸着)(工程6)。残りのガスBY及び反応副産物はパージされる(工程8)。薄膜の厚さは、プロセス・サイクル(工程2〜9)を多数回繰り返すことにより増大させることができる。
【0050】
膜は一度に1つの単分子層上に堆積することができるので、コンフォーマルであり均一な厚さを有する傾向がある。
【0051】
本発明の方法を用いて形成することができる材料の一例としては、アルコーン(alucone)、ボロコーン(borocone)、ベークライト、及びポリウレタンが挙げられる。
【0052】
当業者には明らかなように、2種、3種又は4種以上の金属の合金を堆積することができ、2種、3種又は4種以上の成分と一緒に化合物を堆積することができ、また等級フィルム及びナノ−ラミネートのようなものを製造することもできる。
【0053】
これらのバリエーションは、交互のサイクルで本発明の特定の態様を用いた変更形に過ぎない。本発明の思想及び範囲に含まれるその他の多くのバリエーションがあるので、本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0054】
種々の揮発性亜鉛含有前駆体、前駆体の組み合わせ、及びALD薄膜法において有用な反応物質に関しては、Handbook of Thin Film Process Technology, Vol. 1, Glocker及びShah編, Institute of Physics (IOP) Publishing, Philadelphia 1995, 第B1.5:1〜B1.5:16頁;及びHandbook of Thin Film Material, Nalwa編, Vol.1, 第103〜159頁を参照されたい。
【0055】
酸化物基板はALD堆積のための基を提供するが、好適な表面処理によってプラスチック基板を使用することができる。
【0056】
ここで図3を参照すると、本発明による基板20上への原子層堆積のために本発明の方法において使用することができる供給ヘッド10の1つの態様の断面側方図が示されている。供給ヘッド10は、第1ガス材料を受容するためのガス流入ポート14と、第2ガス材料を受容するためのガス流入ポート16と、第3ガス材料を受容するためのガス流入ポート18とを有している。これらのガスは、続いて説明する構造的配列を有する出力チャネル12を介して、出力面36で放出される。図3及び後続の図5A及び5Bにおける矢印は、ガス材料の拡散輸送を意味するものであって、出力チャネルから受容された流れを意味するものではない。この特定の態様において、流れは、さらに下で説明するように、実質的に図面頁から出るように導かれる。
【0057】
1つの態様の場合、ALD堆積を生じさせるために基板表面上で順次反応する第1及び第2ガスを受容するように、ガス流入ポート14及び16が適合されており、ガス流入ポート18が、第1及び第2ガスに対して不活性のパージガスを受容する。供給ヘッド10は、後でより詳細に説明するように基板支持体上に設けられた基板20から距離Dを置いて配置されている。基板20と供給ヘッド10との間には、基板20の運動によって、又は供給ヘッド10の運動によって、又は基板20及び供給ヘッド10の両方の運動によって、往復運動を提供することができる。図3に示された特定の態様の場合、矢印R、及び図1の基板20の左右の仮想線によって示すように、往復式に出力面36を横切るように、基板20が動かされる。なお、往復運動は、供給ヘッド10を使用する薄膜堆積にいつも必要とされるわけではない。基板20と供給ヘッド10との間の他のタイプの相対運動、例えば後でより詳細に説明するような、基板20又は供給ヘッド10の1つ又は2つ以上の方向における運動を提供することもできる。
【0058】
図4の断面図は、供給ヘッド10の出力面36の一部の上方に放出されたガス流を示している。この特定の配列において、仕切り13によって分離された各出力チャネル12は、図3に見られるガス流入ポート14,16又は18のうちの1つとガス流体連通している。各出力チャネル12は典型的には、第1反応ガス材料O1、又は第2有機金属又は有機反応ガス材料O2、又は第3不活性ガス材料Iを供給する。
【0059】
図4は、ガスの比較的基本的又は単純な配列を示している。(材料O1のような)複数の第2堆積前駆体、又は(材料O2のような)複数の第1前駆体材料を流を、薄膜単一堆積の際に種々のポートに順次供給することも考えられる。或いは、例えば交互の材料層を有する、又は材料中に混和された少量のドーパントを有する複合薄膜材料を形成する場合に、反応ガスの混合物、例えば、金属前駆体材料の混合物、又は金属及び非金属前駆体の混合物を単一の出力チャネルに適用することもできる。符号Iを付けられた中間流が、ガスがその中で互いに反応する見込みのあるいかなる反応物質チャネルをも分離する。
【0060】
第1及び第2反応ガス材料O1及びO2は、ALD堆積を生じさせるために互いに反応するが、しかし反応ガス材料O1又はO2も不活性ガス材料Iとは反応しない。不活性ガス材料Iは、窒素、アルゴン、ヘリウム、又はALDシステムにおけるパージガスとして一般に使用されるその他のガスであってよい。不活性ガス材料Iは、第1及び第2反応ガス材料O1及びO2に対して不活性である。第1及び第2反応ガス材料間の反応は、有機金属酸化物又はその他の二元化合物、例えば1つの態様においてアルコーンを形成することになる。3種以上の反応ガス材料間の反応は、他の材料、例えば三元化合物を形成することもできる。
【0061】
図5A及び5Bの断面図は、反応ガス材料O1及びO2を供給する場合に基板20が供給ヘッド10の出力面36に沿って進むのに伴って実施されるALD被覆動作を、単純化された概略形態で示している。図5Aにおいて、基板20の表面は先ず、第1反応ガス材料O1を供給するものとして指定された出力チャネル12からのO1の暴露を受ける。基板の表面はここでは、材料O1の部分反応形態を含有している。この部分反応形態は今や表面種S1として示され、材料O2と反応させられ易い。次いで、基板20が第2反応ガス材料O2の反応性化合物の経路内に入ると、O2との反応が行われ、2つの反応ガス材料から形成することができる生成物Pから成る薄膜材料を形成する。
【0062】
図5A及び5Bが示すように、第1及び第2反応ガス材料O1及びO2の流れの間の交互の出力チャネル12毎に、不活性ガス材料Iが提供されている。連続する出力チャネル12が隣接しており、すなわち、図示の態様では仕切り22によって形成された共通の境界を共有している。ここでは、出力チャネル12は、基板20の表面に対して垂直に延びる仕切り22によって互いに画定され分離されている。
【0063】
図6は、出力面36から(すなわち図3〜5Bに対して下側から)見た、本発明の方法に使用することができる供給ヘッド10の1つのこのような態様の斜視図を示している。この態様において隣接する出力チャネル12を画定して分離する仕切り13は、部分的に破断して、ガス出力ポート24から流れるガス流をより良く見えるように示している。図6はまた、この開示の図面に使用した、基準x、y、z座標軸の割り当てを示している。出力チャネル12が実質的に平行に形成されていて、x座標軸に相当する長さ方向に延びている。基板20の往復運動、又は基板20に対する相対運動が、この座標の割り当てを用いると、y座標方向で行われる。
【0064】
図6は、この態様の供給ヘッド10から供給された種々のガス材料に対応するガス流FI、FO及びFMを示す。ガス流FI、FO及びFMはx方向、すなわち細長出力チャネル12の長さに沿って形成される。
【0065】
図7A及び7Bの断面図は、図3〜5Bの断面に対して直交方向に示されており、そしてこの図で見て1つの方向のガス流を示している。各出力チャネル12内部では、相応のガス材料が、図7A及び7Bで仮想線で示されたガス出力ポート24から流れる。図7Aの態様の場合、ガス流F1は、図6を参照して説明したように、出力チャネル12の長さに沿って、そして基板20を横切るように、ガス材料を導く。流れF1はこの配列の供給ヘッド10のエッジを超えて持続し、周囲環境内に流出するか、又は所望の場合にはガス捕集マニホルド(図示せず)に流れる。図7Bは、出力チャネル12がガス流の再指向又は引き抜きのための排気ポート26をも提供する、ガス流F2のための別の態様を示している。一方向流が好ましいが、或る程度の混合が発生することが可能であり、このような混合は、特定の用途に関与する流量及びその他の環境に応じて、或る程度有益なことさえある。
【0066】
特定の供給ヘッド10は、ガス流形態又はこれらの組み合わせ、図7AのF1流、図7BのF2流、又は、好ましくは制御された混合とともに層状又は平滑に、出力チャネル12に沿って基板20を横切って流れるようにガス材料が導かれる何らかの他の変更形のうちのいずれか1つを使用して構成された出力チャネル12を使用してよい。1つの態様の場合、反応ガス材料を供給する各出力チャンネル12毎に1つ又は2つ以上の排気ポート26が設けられている。例えば、図6を参照すると、符号O及びMで示された第1及び第2反応ガス材料のための出力チャネル12が、流れF2(図7B)のパターンに従って、反応物質を通気するか又は引き抜くために排気ポート26を有するように構成されている。このことは、何らかの材料再循環を許し、またマニホルドの端部の近くの不所望の混合及び反応を防止する。符号Iで示された不活性ガス材料のための出力チャネル12は、排気ポート26を使用せず、ひいては流れF1(図7A)のパターンに従う。層流がいくつかの態様において好ましいが、或る程度の混合が発生することがあり、このような混合は、また特定の用途に関与する流量及びその他の環境に応じて、或る程度有益なことさえある。
【0067】
排気ポート26は従来の意味で真空ポートである必要はなく、単に、その対応出力チャネル12内のガス流を引き抜き、ひいてはチャネル内部の均一なガス流パターンを促進するために設けられているに過ぎない。ガス出力ポート24におけるガス圧力の対向圧力よりもわずかだけ低い負の吸引力が、秩序正しい流れを促進するのを助けることができる。負の吸引は、例えば0.9〜1.0気圧の圧力で動作することができるのに対して、典型的な真空は例えば0.1気圧未満である。流れパターンを排気ポート26内に再指向するために、図7Bに点線で輪郭を示した任意選択のバッフル58が設けられていてよい。
【0068】
仕切り13の周りのガス流を真空排気する必要がないので、出力面36は、基板表面から1ミル(ほぼ0.025mm)以内に、極めて近接して配置することができる。比較によると、前に引用した米国特許第6,821,563号明細書(Yudovsky)に記載されているような以前のアプローチは、チャネル側壁のエッジの周りのガス流を必要とし、ひいては基板表面に対して0.5mm以上の距離に限定された。基板表面に供給ヘッド10がより近接して配置されることが本発明においては好ましい。好ましい態様の場合、基板表面からの距離Dは、堆積装置の出力面、又は流れチャネルを形成するガイド壁の底部から0.4mm以下、好ましくは0.3mm以内、より好ましくは0.25mm以内であってよい。
【0069】
出力チャネル12の長さに沿って平滑な流れを提供するために、ガス出力ポート24は、図7A及び7Bに示したように、法線から離れる所定の角度を成して傾斜していてよい。任意選択的に、ガス出力ポート24からの下向きの流れを、これが出力面36に対して実質的に平行に流れるガス流を形成するように再指向するために、何らかのタイプのガス流再指向構造が採用されてもよい。図5A及び5Bに関して具体的に記載したように、供給ヘッド10は、その堆積機能を発揮するために、基板20の表面に対する相対運動を必要とする。供給ヘッド10及び基板20のいずれか又は両方の運動を含むこの相対運動は、数多くの方法で、例えば基板支持体を提供する装置を動かすことにより、得ることができる。
【0070】
運動は振動又は往復運動であってよく、或いは、いかに多くの堆積サイクルが必要とされるかに応じて、連続運動であってもよい。特にバッチ法において基板の回転を利用することもできるが、連続法が好ましい。
【0071】
典型的には、ALDは、制御された膜深さを各サイクル毎に形成する複数の堆積サイクルを必要とする。上記のガス材料タイプに対する用語を使用すると、単一のサイクルは、例えば単純な構成において、第1反応ガス材料O1を1回適用し、そして第2反応ガス材料O2を1回適用することを可能にする。
【0072】
O1及びO2反応ガス材料のための出力チャネル間の距離は、各サイクルを完成するのに必要な往復運動距離を決定する。各出力チャネル12毎に公称チャネル幅W0.034インチを有する供給ヘッド10の場合、少なくとも0.20インチの(ここで使用されるy軸に沿った)往復運動が必要とされることになる。この例の場合、基板20の所定の領域を、第1反応ガス材料O1及び第2反応ガス材料O2の両方に、この距離全体にわたって動かしながら曝露する。いくつかの事例において、均一性を考慮して、例えば往復移動の端点に沿ったエッジ作用又はエッジ形成を低減するために、各サイクルにおける往復運動量に対するランダム性の尺度を必要とすることがある。
【0073】
供給ヘッド10は、単一のサイクルを提供するのに十分な出力チャネル12だけを有していてよい。或いは、供給ヘッド10は、複数サイクルの配列を有してもよく、より広い堆積面積に範囲が及ぶことを可能にするか、又は往復運動距離の1トラバースにおいて2つ又は3つ以上の堆積サイクルを許す距離全体にわたるその往復運動を可能にする。
【0074】
1つの態様の場合、基板の所与の領域を、500ミリ秒未満にわたって、好ましくは100ミリ秒未満にわたってチャネル内のガス流に当てる。振動中の基板とチャネルとの相対運動は、少なくとも0.1cm/秒の速度で行われ、そしてチャネル内のガス流は、少なくとも1cm/秒の速度で行われる。好ましくは、堆積中の基板の温度は300℃未満、より好ましくは250℃未満である。
【0075】
本発明の1つの態様において使用される供給ヘッド10のために用いられる往復運動の利点は、これが出力面36の面積を上回る面積を有する基板20上への堆積を可能にすることである。図8は、矢印Rによって示されたy軸に沿った往復運動、及びこの往復運動に対して直交方向又は横方向の、x軸方向に沿った運動を用いて、どのようにこの広い面積を被覆することができるかを概略的に示している。ここでも、強調すべき点は、図8に示されたようなx又はy方向における運動は、供給ヘッド10の動作によって、又、動作をもたらす基板支持体74によって提供される基板20の動作によって、又は供給ヘッド10及び基板20双方の動作によって生じさせ得ることである。
【0076】
図8において、堆積装置と基板との相対運動方向は互いに垂直である。この相対運動を平行に有することも可能である。この場合、相対運動は、振動を表す非ゼロ周波数成分と、基板の変位を表すゼロ周波数成分とを有することが必要である。この組み合わせは、固定基板上の堆積装置の変位と組み合わされた振動;固定堆積装置に対する基板20の変位と組み合わされた振動;又は振動と固定運動とが基板20及び供給ヘッド10の両方の動作によって提供される任意の組み合わせによって達成することができる。
【0077】
好ましい態様の場合、ALDは、大気圧又は近大気圧で、また周囲及び基板の広範囲の温度、好ましくは300℃未満の温度で実施することができる。好ましくは、汚染の可能性を最小限にするために、比較的清浄な環境が必要となるが、しかし、本発明の装置の好ましい態様を使用すると、良好な性能を得るために、完全な「クリーンルーム」条件又は不活性ガス充填閉鎖容器が必要とされることはない。
【0078】
図9は、比較的良好に制御された、汚染なしの環境を提供するためのチャンバ50を有する、有機薄膜を製造するための原子層堆積(ALD)システム60を示す。ガス供給部28a,28b及び28cは、供給ライン32を通して供給ヘッド10に、第1、第2、及び第3ガス材料を提供する。可撓性供給ライン32の任意選択的に使用すると、供給ヘッド10を運動させやすくなる。便宜上、任意選択のの真空蒸気回収装置及びその他の支持構成部分は図10には示されていないが、しかしこれらを使用することもない。移動サブシステム54は、供給ヘッド10の出力面36に沿って基板20を移動する基板支持体を提供し、本発明の開示に採用された座標軸システムを使用して、x方向における運動を可能にする。運動制御、並びに弁及びその他の支持構成部分の全体的な制御を、制御論理プロセッサ56、例えばコンピュータ又は専用マイクロプロセッサ集成体によって提供することができる。図10の配列において、制御論理プロセッサ56は、供給ヘッド10に往復運動を提供するためのアクチュエータ30を制御し、そしてまた移動サブシステム54の移動モータ52を制御する。
【0079】
図10は、流れパターンが図10の構造に対して直交方向に配向されている定置の供給ヘッド10を使用して、ウェブ装置内で薄膜を堆積するための原子層堆積(ALD)システム70を示している。この装置では、ウェブ・コンベヤ62自体の運動が、ALD堆積に必要な動作を提供する。この環境において、例えば供給ヘッド10に対して前方及び後方に基板66を動かすためにウェブ・ローラの回転方向を繰り返し逆転させることによる往復運動を用いることもできる。往復運動は、ウェブ基板66をコンスタントな運動で動かしながら、ローラ軸と一致する軸を有する円弧を横切る供給ヘッド10の往復運動を可能にすることにより、得ることもできる。別の態様の場合、供給ヘッド10の少なくとも一部が、所定量の湾曲(図示せず)を有する出力面36を備えており、このことは、いくつかのウェブ被覆用途にとって有利な場合がある。凸面状又は凹面状の湾曲を設けることができる。
【0080】
任意選択的に、同一譲受人による米国特許出願公開第2007/0238311号明細書、米国特許出願公開第2007/0228470号明細書、米国特許出願第11/620,744号明細書、及び米国特許出願第11/620,740号明細書により詳細に記載された他の装置又はシステムを用いて、本発明の方法を達成することができる。これらのシステムは、連続的に流れる互いに反応性のガスの望ましくない混和という空間的ALDシステムの困難な局面の1つを克服しようとしている。具体的には、米国特許出願公開第2007/0238311号明細書は、混和を防止するために新規の横流パターンを採用しているのに対して、米国特許出願第11/620,744号明細書及び米国特許出願第11/620,740号明細書は、改善されたガス分離を達成するためにプロセスの反応ガスの圧力によって部分的に浮揚された被覆用ヘッドを採用している。上に特定した全ての出願を参考のため本明細書中に引用する。
【0081】
後者の3つの出願における態様において、基板上へ薄膜材料堆積するためのガス材料を提供する出力面を有する供給装置が、供給装置の出力面に対して実質的に直交方向にそれぞれ第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料のうちの少なくとも1つの材料から成る流れを導くことができる3つの細長放出チャネル群のうちの少なくとも1つの細長放出チャネル群(つまり、(i)1つ又は2つ以上の第1細長放出チャネル、(ii)1つ又は2つ以上の第2細長放出チャネル、及び(iii)複数の第3細長放出チャネル、から成る少なくとも1つの群)内の細長放出チャネルを含み、このガス材料流は、基板表面に対して実質的に直交方向に少なくとも1つの群における細長放出チャネルのそれぞれから直接的又は間接的に提供することができる。
【0082】
本明細書中に使用する用語「細長放出チャネル群」又は「細長出力チャネル群」は、堆積供給ヘッドの出力面内の細長い出力開口にそれぞれ接続されている。細長い出力開口は、細長放出チャネルの流出部内に形成されていてよく、或いは、例えばディフューザ、又は細長い出力開口よりも前にガス流を生じさせる他の手段を介して間接的に接続されていてもよい。
【0083】
1つの態様の場合、出力面に対して実質的に平行に、アパーチャ付きプレートが配置されており、アパーチャ付きプレートのうちの少なくとも1つのプレート上のアパーチャが、第1、第2、及び第3の細長放出チャネルを形成する。別の態様の場合、アパーチャ付きプレートは、出力面に対して実質的に垂直方向に配置されている。
【0084】
1つのこのような態様の場合、堆積装置は排気チャネル、例えば、基板上に薄膜材料堆積するための供給装置を含み、供給装置は:(a) 第1反応ガス材料、第2反応ガス材料、及び第3(不活性パージ)ガス材料のための共通の供給部をそれぞれ受容することができる、少なくとも第1流入ポート、第2流入ポート、及び第3流入ポートを含む複数の流入ポート;及び(b) 薄膜材料堆積からの排ガスを受容することができる少なくとも1つの排気ポートと、それぞれが少なくとも1つの排気ポートとガス流体連通可能である少なくとも2つの細長排気チャネルとを含み;さらに供給装置は、(c) (i)複数の第1細長出力チャネルを含む第1群、(ii)複数の第2細長出力チャネルを含む第2群、及び(iii)複数の第3細長出力チャネルを含む第3群、から成る少なくとも3つの細長放出チャネル群を含み、そして第1、第2、及び第3細長出力チャネルのそれぞれが、対応する第1流入ポート、第2流入ポート、及び第3流入ポートのうちの1つとそれぞれガス流体連通可能であり;第1、第2、及び第3細長出力チャネルのそれぞれ、及び細長排気チャネルのそれぞれは、長さ方向で実質的に平行に延びており;各第1細長出力チャネルがその少なくとも1つの細長い側で、比較的近い細長排気チャネルと比較的近くない第3細長放出チャネルとによって、最も近い第2細長出力チャネルから分離されており;そして各第1細長放出チャネルと各第2細長放出チャネルとが、比較的近い細長排気チャネルの間、及び比較的近くない細長放出チャネルの間に位置している。
【0085】
さらなる態様は、3つの細長放出チャネル群のうちの少なくとも1つの群と連携するガス・ディフューザを含み、これにより第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料のうちの少なくとも1つがそれぞれ、基板上への薄膜材料堆積中に供給装置から基板への供給前にガス・ディフューザを通過できるようになっており、そしてガス・ディフューザは、少なくとも1つの細長放出チャネル群内の細長放出チャネルのそれぞれから下流側の、第1、第2、及び第3ガス材料のうちの少なくとも1つの材料の流れ隔離を維持する。
【0086】
1つの態様の場合、このようなガス・ディフューザは、ガス・ディフューザを通過するガス材料に対して、1×102を上回る摩擦係数を提供し、これにより、少なくとも1つの第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料の流れが供給装置を出る場所で背圧を提供し、圧力の均等化を促進する。本発明の1つの態様の場合、ガス・ディフューザは、第1、第2、及び第3ガス材料のうちの少なくとも1つが通過する多孔質材料を含む。本発明の第2態様の場合、ガス・ディフューザは、相互接続通路を含む少なくとも2つの要素を含む機械的に形成された集成体を含み、例えばこの場合、ノズルが、2つの要素内の平行な表面領域の間の薄いスペースによって提供された流路に接続されている。
【0087】
1つの態様の場合、堆積装置からのガス流のうちの1つ又は2つ以上は、供給ヘッドの面から基板表面を分離するのに少なくとも貢献する圧力を提供し、これにより、ガス流を安定化しガス流混和を制限するのを助けることができる「浮動ヘッド」又は「空気軸受け」タイプの堆積ヘッドを提供する。
【0088】
本発明の方法は、いくつかの態様における室温又は近室温を含む、広範囲の温度にわたって基板上への堆積を実施できる点で有利である。本発明の方法は真空環境において動作することができるが、しかし、大気圧又は近大気圧での動作に特によく適している。
【0089】
ALD堆積された材料から、当業者に知られたコンベンショナルな技術によって、薄膜電子デバイスを製造することができる。1つの態様の場合、基板を用意し、上記の材料から成る膜又は層を基板に適用し、そして電気コンタクトを層にすることができる。正確な過程順序は、所望の電子デバイスの構造によって決定される。これらの構造を製作する技術は、選択的堆積、逐次的マスキング、フォトリソグラフィ、レーザー、及び/又は当業者に知られたその他の手段を含む。
【0090】
製造中、試験中、及び/又は使用中に電子デバイス又は層を支持するための支持体は、有機又は無機材料を含むことができる。例えば、支持体は無機ガラス、セラミック・フォイル、高分子材料、充填高分子材料、被覆金属フォイル、アクリル、エポキシ、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリケトン、ポリ(オキシ−1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレンカルボニル−1,4−フェニレン)(ポリ(エーテルエーテルケトン)又はPEEKと呼ばれることがある)、ポリノルボルネン、ポリフェニレンオキシド、ポリ(エチレンナフタレンジカルボキシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(フェニレンスルホン)(PES)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、及び繊維強化プラスチック(FRP)を含むことができる。可撓性基板は、薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁層で被覆されるならば、薄い金属フォイル、例えばステンレス鋼であってもよい。本発明のいくつかの態様において、可撓性基板がロール処理を可能にする。ロール処理は連続的に行われてよく、平ら且つ/又は剛性の支持体を凌ぐ、規模の経済性及び製造の経済性を提供する。選択された可撓性支持体は好ましくは、直径50cm未満、より好ましくは25cm未満、最も好ましくは10cm未満のシリンダーの周面に、素手のような低い力によって、歪み又は破断を生じさせずに巻き付けることができる。この好ましい可撓性支持体は巻き上げることができる。しかし可撓性が重要でない場合には、基板は、ガラス及びシリコンを含む材料から形成されたウエハー又はシートであってよい。基板の厚さは様々であってよく、特定の例によれば、これは100μm〜1cmであってよい。
【0091】
上述のように、本発明の方法を用いて形成することができる有機材料の一例としては、アルコーン(Alucone)、ボロコーン(borocone)、ベークライト、及びポリウレタンが挙げられる。アルコーン及び同様のポリマーは、薄膜内に三次元網状構造を含む。
【0092】
例えばアルコーンは、C. Niamh McMahon他, Chem. Mater. 1999, 11, 3181-3188によって記載されているようにアルミニウムアルコキシド・ポリマーである。McMahon他は、[Al(tBu)2x(OCH2CH2O)1.5-xn(0.3≦2x≦0.8)を得るために、エチレングリコールとAl(tBu)3前駆体との反応により形成されたtert−ブチル・アルコーン(「tBu」はtert−ブチルを意味する)について記述している。エトキシ・アルコーンを形成することもできる。
【0093】
本発明の方法の種々の態様において、任意の数の有機又は有機金属前駆体を採用することができ、この場合、適正に処理された表面が第1前駆体に暴露された場合に、第2前駆体に対して反応する部分を表面上に残す反応が進行することを条件とする。さらに、第2前駆体の反応は、再び第1前駆体によって反応させられやすい状態に表面を戻すべきである。このように、ALDシーケンスを維持することができる。
【0094】
反応物質のうちの1種として金属含有前駆体を使用する場合、典型的な化合物は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチル亜鉛、トリメチル亜鉛、チタニウムテトラクロリド、チタニウムテトラエトキシド、シラン、テトラエトキシシランのような金属化合物、並びに迅速な反応を可能にする任意の他の金属源を含む。
【0095】
或いは、金属を種々の化合物との錯化形態又は反応形態で供給することもできる。これらの化合物のうち、β−ジケトネートが特に有用なクラスである。下記表は、いくつかの代表的なβ−ジケトネート、及び金属含有前駆体を製造するのに適した他の化合物を示す。
【0096】
【化1】

【0097】
本発明の方法に採用することができる純有機前駆体(例えば、炭素原子数が少なくとも2であり、且つ共有結合だけから成る金属非含有分子)は、反応、そしてこれに続く表面反応性の保持を可能にするための少なくとも2つの活性部位を必要とする。このような化合物の例は、ジオール、例えばエチレングリコール、ジアミン、及び他の好適な化合物と併せて下記表に挙げたジチオールである。当業者に明らかなように、これらのクラス及び他のクラスの材料が、本発明の実施において好適であり得る。
【0098】
【化2】

【実施例】
【0099】
被覆装置の説明
本発明の例において使用される被覆装置は、図1〜7に示された設計に基づいている。下記薄膜例の全ては、図11に示されている流れ機構を採用する。この流れ機構には、酸素及び水汚染物を1ppm未満まで除去するために精製された窒素ガス流81を供給する。ガスをマニホルドによっていくつかの流量計に迂回させる。これらの流量計は、パージガス、及び反応性前駆体を選択するためにバブラーを通って迂回されるガスの流量を制御する。窒素の供給に加えて、空気流90も装置に供給する。空気は湿分を除去するように分子篩で前処理する。
【0100】
下記流れをALD被覆装置に供給する:窒素ガス中に希釈された反応物質O1を含有する流れ92;窒素ガス中に希釈された反応物質O2を含有する流れ93;不活性ガスだけから成る窒素パージ流95。これらの流動体の組成及び流量を下記のように制御する。
【0101】
ガス・バブラー82は前駆体O2を含有する。流量計85は、純窒素流をバブラー82へ供給する。バブラーの出力は、今や前駆体溶液で飽和された窒素ガスを含有する。これらの出力流を、流量計87から供給された窒素ガス希釈流と混合することにより、金属前駆体流92の流れ全体をもたらす。
【0102】
ガス・バブラー84は前駆体O1を含有する。流量計88は、純窒素流をガス・バブラー84へ供給する。ガス・バブラー84の出力はO1蒸気で飽和された窒素ガス流である。空気流90が流量計91によって制御される。ガス・バブラー84の出力及び窒素流を、流量計89からの希釈流と混合させることにより、O2前駆体含有ガス流93の流れ全体を生成する。
【0103】
流量計94は、被覆装置に供給されることになっている純窒素流を制御する。
【0104】
流動体又は流れ92,93及び95を次いで大気圧被覆用ヘッドに供給し、このヘッドにおいてこれらの流れは、図12に示されたチャネル又はマイクロチャンバ・スロットから導出される。細長いチャネルと基板97との間には、ほぼ30ミクロンのギャップ99が存在する。マイクロチャンバはほぼ2.5mm高さ、0.86mm幅であり、また76mmの被覆用ヘッドの長さにわたって延びている。このような形態の反応性材料は、スロットの中央に供給され、そして前後から流出する。
【0105】
堆積を行うために、供給ヘッドを基板の一部上に配置し、次いで矢印98によって示すように、基板上を往復運動させる。往復サイクル長は32mmであった。往復サイクルの運動速度は30mm/秒である。
【0106】
堆積された膜の組成を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって分析した。
【0107】
使用する材料
(1) 研磨シリコン基板
(2) Me3Al(Aldrich Chemical Co.から商業的に入手可能)
(3) エチレングリコール(Aldrich Chemical Co.から商業的に入手可能な試薬等級)
【0108】
例1
アルコーン、有機物含有膜の調製
この例では、有意な量の有機材料を含有する薄膜であるアルコーンの調製について記述する。この堆積のために、バブラー82は、O2前駆体としてトリメチルアルミニウムを含有し、そしてバブラー84は、O1前駆体としてエチレングリコールを含有した。
【0109】
2.5×2.5平方インチ(62.5平方mm)のシリコンウエハーを、この装置のプラテン上に配置し、真空支援装置によって所定の場所に保持し、そして200℃まで加熱した。基板を有するプラテンを、反応性ガス流を導く被覆用ヘッドの下に配置した。シリコン基板と被覆用ヘッドとの間の間隔を、マイクロメータを使用して30ミクロンに調節した。
【0110】
被覆用ヘッドを40℃に維持した。個々のガスの流量を下記表1に示し、指定されたサイクル数にわたって基板を横切るように被覆用ヘッドを振動させることにより、被覆過程を開始した。
【0111】
【表1】

【0112】
堆積された膜をFTIRによって分析した。被膜(図19)の赤外スペクトルは、2870cm-1近くのv(−CH2−)炭化水素吸光度に基づいて有機材料の存在を示す。1088及び1040cm-1におけるピークも、純エチレングリコール液中で観察され、v(−CH2−O−)結合に割り当てられる。900〜700cm-1近くで観察された広域の吸光度は、v(Al−O)振動モードを示す。700以下の波数で観察される極めて強い吸収バンドは、シリコンウエハー基板の存在に起因する。標準エチレングリコールIR基準スペクトル(オンラインAldrich Chemical Library)と比較することにより、観察された吸収ピークが残留量のエチレングリコールに対応しないことが確認された。それというのも、例えば3360cm-1におけるエチレングリコール中の極めて強いv(O−H)ストレッチ・バンドが存在しないからである。
【0113】
例2
ボロコーンの調製
ALD又は分子層エピタキシを使用してボロコーンを形成することができる。この仮想例では、有意な量の有機材料を含有する薄膜であるボロコーンの調製について記述する。この堆積のために、バブラー82は、O2前駆体としてトリメチルアルミニウムB(OMe)3を含有し、そしてバブラー84は、O1前駆体としてエチレングリコールを含有する。
【0114】
ボロコーンを調製するために使用される装置は、例1に記載されたものと同じ装置である。2.5×2.5平方インチ(62.5平方mm)のシリコンウエハーを、この装置のプラテン上に配置し、真空支援装置によって所定の場所に保持し、そして200℃まで加熱した。基板を有するプラテンを、反応性ガス流を導く被覆用ヘッドの下に配置した。シリコン基板と被覆用ヘッドとの間の間隔を、マイクロメータを使用して30ミクロンに調節した。
【0115】
被覆用ヘッドを40℃に維持する。基板を30℃〜250℃の温度に維持する。ボロコーンの所望厚は、ヘッドの振動サイクル数、基板が受けるALDサイクル数、又は基板の温度を制御することによって得ることができる。表2は、トリメチルボレート及びエチレングリコールからボロコーンを形成するための被覆法において使用されるべき個々のガスの流量を示している。
【0116】
【表2】

【0117】
例3
ポリウレタンの調製
本発明の別の仮想例において、ALD又は分子層エピタキシを使用してポリウレタン薄膜を形成することができる。この例では、つまり有意な量の有機材料を含有する薄膜であるポリウレタン膜の調製について記述する。この堆積のために、バブラー82は、O2前駆体として1,4−ブタンジオールを含有し、そしてバブラー84は、O1前駆体として1,4−ジイソシアナトブタンを含有する。
【0118】
ポリウレタン薄膜を調製するために使用される装置は、例1に記載されたものと同じ装置である。2.5×2.5平方インチ(62.5平方mm)のシリコンウエハーを、この装置のプラテン上に配置し、真空支援装置によって所定の場所に保持し、そして200℃まで加熱した。基板を有するプラテンを、反応性ガス流を導く被覆用ヘッドの下に配置した。シリコン基板と被覆用ヘッドとの間の間隔を、マイクロメータを使用して30ミクロンに調節した。
【0119】
被覆用ヘッドを40℃に維持する。基板を30℃〜250℃の温度に維持する。ポリウレタンの所望厚は、ヘッドの振動サイクル数、基板が受けるALDサイクル数、又は基板の温度を制御することによって得ることができる。表2は、1,4−ブタンジオール及び1,4−ジイソシアナトブタンからポリウレタンを形成するための被覆法において使用されるべき個々のガスの流量を示している。
【0120】
【表3】

【符号の説明】
【0121】
1 システムのためのガス材料の連続供給
2 基板のチャネル領域上の第1分子前駆体の第1チャネル流
3 基板とマルチ・チャネル流との相対運動
4 チャネル領域上の不活性ガスを含む第2チャネル流
5 基板とマルチ・チャネル流との相対運動
6 チャネル領域上の第2分子前駆体の第3チャネル流
7 基板とマルチ・チャネル流との相対運動
8 チャネル領域上の不活性ガスを含む第4チャネル流
9 基板とマルチ・チャネル流との相対運動
10 堆積装置
【0122】
11 並行したマルチ・チャネル流
12 出力チャネル
13 排気チャネル
14,16,18 ガス流入ポート
15 シーケンス
20 基板
22 仕切り
24 ガス出力ポート
26 排気ポート
28a,28b,28c ガス供給部
【0123】
30 アクチュエータ
32 供給ライン
36 出力面
50 チャンバ
52 移動モータ
54 移動サブシステム
56 制御論理プロセッサ
58 バッフル
60 原子層堆積(ALD)法
62 ウェブ・コンベヤ
66 ウェブ基板
【0124】
70 原子層堆積(ALD)システム
74 基板支持体
81 窒素ガス流
82,84 ガス・バブラー
85,87,88 流量計
89,91,94 流量計
90 空気流
92 金属前駆体流
93 酸化剤含有流
95 窒素パージ流
96 基板支持体
97 基板の例
98 矢印
99 ギャップ
【0125】
120 ALD
A 矢印
D 距離
F1,F2 ガス流
I,FO,FM ガス流
H 高さ
I 不活性ガス材料
L チャネル長
M 第2反応ガス材料
O1 第1反応ガス材料
O2 第2有機酸化的反応ガス材料
P 生成物
R 矢印
S1 表面種
W チャネル幅
X 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法であって、実質的に平行な細長チャネルに沿って一連のガス流を同時に方向付けする工程を含み、該一連のガス流は、順番に、少なくとも第1反応ガス材料と、不活性パージガスと、第2反応ガス材料とを含み、任意選択的に複数回繰り返される、この際、該第1反応ガス材料は、該第2反応ガス材料で処理された基板表面と反応することができ、そして該第2反応ガス材料は、該第1反応ガス材料で処理された表面と反応して、薄膜を形成することができ、該第1反応ガス材料、該第2反応ガス材料、又はその両方は、揮発性有機化合物であり、
該方法は、実質的に大気圧で、又は大気圧を上回る圧力で実施され、堆積中の該基板の温度は250℃未満であり、そして該堆積された有機薄膜は少なくとも20原子量パーセントの炭素を含む、
原子層堆積法によって基板上に有機薄膜を形成する方法。
【請求項2】
該第1反応ガス材料が金属原子又は半金属原子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該第1反応ガス材料が、炭素、窒素、酸素、又は水素に結合された金属原子又は半金属原子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該金属原子又は半金属原子は、アルミニウム、亜鉛、チタン、及びケイ素から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該金属原子又は半金属原子が、β−ジケトネート化合物と関連づけられている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
該第2反応ガス材料該、ヒドロキシル基、チオール基、及びアミン基から成る群から選択された1つ又は2つ以上の官能基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該第2反応ガス材料が、ジオール、ジチオール、ジアミン、及びキノリネートから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該有機薄膜が、無機−有機ハイブリッド薄膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該一連のガス流が、平面図において該基板に向いている、実質的に並行であり、該基板に近接して該基板上に配置され、堆積装置の出力面内にある、一連の開いた細長い出力開口を含む該堆積装置によって提供され、該出力面は、堆積を受ける基板表面から1mm内の間隔が開いており、任意選択的に、該第1反応ガス材料及び該第2反応ガス材料のための細長い出力開口の間に、排気チャネルがない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該方法が、
(a) それぞれ少なくとも第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料のための少なくとも第1源、第2源、及び第3源を含む、それぞれ複数のガス材料のための複数の源;
(b)(i)該第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料をそれぞれ受容するための少なくとも第1、第2、及び第3流入ポートを含む複数の流入ポート;並びに
(ii)該基板から所定の距離だけ離され、該第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料のそれぞれのための実質的に平行な複数の細長出力開口を含む堆積出力面
を含む、該複数のガス材料を、薄膜堆積を受ける基板に供給するための少なくとも1つの供給ヘッドを含み、供給ヘッドが、該出力面内の該細長出力開口から該第1ガス材料、第2ガス材料、及び第3ガス材料を同時に供給するように構成されている、
堆積システム内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
薄膜堆積のために該供給ヘッドから基板表面へのガス材料のうちの1種又は2種以上の流れによって、薄膜堆積中に該供給ヘッドの出力面と該基板表面との間の分離を維持する力の少なくとも一部が生成され、そして該堆積装置が、少なくとも該第1反応ガス材料及び該第2反応ガス材料のための実質的に平行な細長い出力開口の間に排気チャネルをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該基板の所与の領域が、100ミリ秒未満の間、チャネル内のガス流に暴露され、堆積装置に対する該基板の相対運動が、少なくとも0.1cm/秒の速度である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該揮発性化合物を大気圧で300℃未満の温度で蒸発させることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該薄膜材料堆積のための基板の総表面積が、該堆積装置の出力面の総表面積を上回る、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
該基板又は該基板のための支持体が、可動ウェブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該方法が、周囲雰囲気に対して密閉されていない関係にある、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該方法が、少なくとも2つの導電性電極間に配置された絶縁層を含有する電子デバイスの前記絶縁層を形成するために用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該方法が、電子デバイスをその周囲雰囲気から保護するバリア層を形成するために用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
さらに、堆積装置の出力面から0.3mm内の分離距離で該基板の表面を維持する基板支持体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
該電子デバイスが、集積回路、アクティブ・マトリックス・ディスプレイ、太陽電池、アクティブ・マトリックス撮像装置、センサ、及びrf価格ラベル、識別ラベル、又は在庫ラベルから成る群から選択される、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−506758(P2011−506758A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526899(P2010−526899)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/010801
【国際公開番号】WO2009/042051
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】