説明

有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法

【課題】従来の防食被覆鋼材に比べ、耐食性及び耐黒変性を有し、かつ、鋼板変形時の有機樹脂皮膜の密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板を、Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であるリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を形成し、さらに有機樹脂皮膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機樹脂被覆した表面処理鋼板であって、表面処理皮膜中にクロムを含有せず、有機樹脂皮膜の密着性が優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建材、家電製品等の使途で耐食性を要求される部位には、塗装鋼板やラミネート鋼板等の有機樹脂被覆鋼板が広く使用されている。また一般的に、有機樹脂被覆鋼板は、下地鋼板として亜鉛系めっき鋼板が用いられ、有機樹脂皮膜と亜鉛系めっき層との密着性を確保するために、リン酸塩処理やクロメート処理等が施される。
【0003】
前記クロメート処理は、耐食性や塗料密着性に優れ、かつロールコータなどの比較的簡単な設備で形成可能な処理方法であり、例えば特許文献1に示すように、酸化物ゾルなどをクロメート皮膜に添加することで皮膜表面に凹凸を付与し、アンカー効果や界面結合力の強化により有機樹脂皮膜との優れた密着性を実現した技術である。
【0004】
しかし、特許文献1の技術は、クロメート処理液中に環境負荷物質である6価クロムを用いることから、環境保全上好ましくなく、6価クロムを用いることなく亜鉛系めっき鋼板の耐食性及び塗料密着性を向上させることができるリン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板が多く開示されている。
【0005】
例えば、特許文献2に示すように、多価金属の第一リン酸塩と金属酸化物ゾルの混合水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成した後、有機樹脂皮膜を形成することで、耐食性及び有機樹脂皮膜の密着性を有する有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3及び特許文献4に示すように、酸化物微粒子とリン酸及び/またはリン酸化合物とMg、Mn,Alの中から選ばれる1種以上の金属とを含有する複合酸化物皮膜とし、該複合酸化皮膜上に有機樹脂皮膜を形成することで、耐食性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献2、特許文献3及び特許文献4のようなリン酸塩皮膜を形成する方法は、有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板中の有機樹脂皮膜の膜厚が100μm以上の場合、鋼板に加工を行う際の密着性が十分でないという問題がある。特に、膜厚が100μm以上の有機樹脂皮膜は、強度が高いため、変形時に有機樹脂皮膜と前記リン酸塩処理との界面に強いせん断力が働き、剥離が生じやすくなるためである。
【0008】
また、6価クロムを用いることなく亜鉛系めっき鋼板の耐食性及び塗料密着性を向上させることができるリン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板として、リン酸亜鉛にMgを含有させる技術が公知技術として多くの特許文献に示されている。例えば、特許文献5に示すように、Mgを2.0%以上、Ni、Co、Cuから選ばれた1種以上の元素を0.01〜1%含有するリン酸亜鉛皮膜を、付着量が0.7g/m2以上となるように形成する、耐食性および色調に優れたリン酸亜鉛処理亜鉛系めっき鋼板が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献5の技術では、リン酸亜鉛皮膜中にMgを多量に含有するため、高温多湿環境下では表面が黒く変色するといった、耐黒変性が劣化する恐れがあり、また、リン酸亜鉛皮膜中にNi、Co、Cuを高濃度に含有することで該リン酸亜鉛皮膜の色調が暗くなるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−306381号公報
【特許文献2】特開2000−129460号公報
【特許文献3】特開2002−53979号公報
【特許文献4】特開2002−53980号公報
【特許文献5】特開2002−285346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐食性及び耐黒変性を有し、かつ、鋼板変形時の有機樹脂皮膜の密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、亜鉛イオン濃度、マグネシウムイオン濃度を規定し、かつ、前記亜鉛イオンに対するマグネシウムイオンの濃度の割合及び処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合を適正化したリン酸塩処理液を用いて製造することで、耐食性及び耐黒変性を有し、かつ、鋼板変形時の有機樹脂皮膜と亜鉛系めっき層との密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板が得られることを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)亜鉛系めっき鋼板をリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸塩皮膜を形成し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を形成する有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、前記リン酸塩処理液が、Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であることを特徴とする有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0013】
(2)亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を有し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を有することを特徴とする上記(1)記載の有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法により製造した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板。
【0014】
(3)前記有機樹脂皮膜の膜厚が、100μm以上であることを特徴とする上記(2)記載の有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、亜鉛系めっき鋼板を、Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であるリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を形成することで、耐食性及び耐黒変性を有し、かつ、鋼板変形時の有機樹脂皮膜の密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
本発明に従う有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を有し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を有することを特徴とする、後述する製造方法により製造した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板である。
【0017】
(亜鉛系めっき)
本発明の鋼板の下地鋼板となる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、溶融亜鉛−55質量%アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−5質量%アルミニウム合金めっき鋼板)、鉄−亜鉛合金めっき鋼板、ニッケル−亜鉛合金めっき鋼板、黒色化処理後のニッケル-亜鉛合金めっき鋼板などの各種亜鉛系めっき鋼板等を用いることができる。また、基板である素地鋼板は、亜鉛系めっき鋼板として適用できる鋼板であれば特に限定はなく、用途に応じ適宜選択できる。さらにまた、亜鉛めっき層の付着量は、用途に応じて適宜選択できるが、1〜100g/m2以上とすることが好ましい。付着量が1g/m2未満では耐食性が十分でなく、100 g/m2を超えると耐めっき剥離性が低下するためである。なお、より好適な付着量は5〜70g/mである。
【0018】
(リン酸塩皮膜)
前記亜鉛系めっき鋼板の少なくとも一方の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を有する。
【0019】
リン酸塩皮膜は、主として前記亜鉛めっき層と塗膜との密着性向上のために形成されるが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものがより好ましい。また、前記リン酸塩皮膜中のMgの含有量は、0.2質量%以上2.0質量%未満である必要がある。0.2質量%未満では、耐食性が十分でなく、2.0質量%以上では、耐黒変性が低下するためである。なお、Mgのより好適な含有量は、0.5〜1.0質量%である。また、前記リン酸塩皮膜中には、Ni、Mn、Co等が不可避的不純物として0.01〜0.4質量%であれば含有することができる。
【0020】
なお、前記リン酸塩皮膜の付着量は、0.2〜1.0g/m2である必要がある。0.2g/m2未満では耐食性が十分でなく、1.0g/m2超えではリン酸塩皮膜中のリン酸塩結晶が粗大化して、鋼板変形時の剥離強度が低くなり、有機樹脂皮膜の密着性が低下するためである。また、前記リン酸塩皮膜の形成は、前記亜鉛めっき層と後述するリン酸塩処理液とを、例えばスプレーまたは浸漬等の常法により接触させて形成させる。さらに、前記リン酸塩処理液での処理時間は、処理方法によっても異なるが、例えばスプレー処理の場合、3秒〜15秒であることが好ましい。3秒未満では、リン酸塩皮膜を十分に形成することができず、15秒超えでは、リン酸塩処理液によりエッチングされ、マクロなムラが生じやすくなるためリン酸塩皮膜の形成が不均一となるためである。
【0021】
なお、リン酸塩皮膜形成に先立ち、チタンコロイド系活性処理剤を用いて、亜鉛めっき層の表面調整処理を行うことが好ましい。チタンコロイド系活性処理剤としては、例えば、日本パーカライジング(株)製の商品名「プレバレンZN」が挙げられ、該処理剤を亜鉛めっき層の表面にスプレーすることにより行うことができる。
【0022】
(有機樹脂皮膜)
前記リン酸塩皮膜上に、有機樹脂皮膜を形成する。有機樹脂皮膜に含有される有機樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ラミネート鋼板に通常用いられる塩ビ系やポリエステル系のフィルム等が挙げられるが、環境負荷低減の観点から、ポリエステル系フィルム等の非塩ビ系フィルムとすることが好ましい。さらに、前記有機樹脂を硬化させるためにメラミン樹脂、尿素またはイソシアネートなどの架橋剤を用いることが、加工性と耐薬品性のバランスの点で好ましい。
【0023】
また、前記有機樹脂皮膜の膜厚が、100μm以上であることが好ましい。本発明の効果の1つは、有機樹脂皮膜の膜厚が厚くなった場合においても、前記リン酸亜鉛処理皮膜が良好な皮膜密着性を有することであり、100μm以上の膜厚で効果が最も顕著に現れるためである。
【0024】
本発明に従う有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、亜鉛系めっき鋼板をリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸塩皮膜を形成し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を形成する有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、前記リン酸塩処理液が、Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であることを特徴とする有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法である。
【0025】
・Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下
Zn2+は、リン酸塩結晶を形成するには必須の成分であるため、リン酸塩処理液中のZn2+濃度を2.0g/L超え5.0g/L以下、より好ましくは3.0〜5.0g/Lの範囲で適正に制御する必要がある。2.0g/L以下ではリン酸塩が析出しにくく、局所的にリン酸塩結晶が生成されていない不均一なリン酸塩皮膜を形成するためである。また、5.0g/L超えでは、リン酸塩処理液を安定させるために高濃度のリン酸成分を必要とするため、後述する遊離酸濃度を低く設定することが困難となるからであり、リン酸塩結晶に疎な部分が多くなるためリン酸塩皮膜による耐食性の十分な効果が得られなくなるからである。
【0026】
・Mg2+:2.0〜5.0g/L
Mg2+は、リン酸塩皮膜の耐食性を向上させるために必須の成分であるため、リン酸塩処理液中のMg2+濃度を2.0〜5.0g/L、より好ましくは2.5〜5.0g/Lの範囲で適正に制御する必要がある。2.0g/L未満ではマグネシウム成分の取りこみが少ないために前記リン酸亜鉛皮膜の耐食性が低下し、5.0g/L超えでは、マグネシウム成分の含有量が多すぎるために、前記リン酸亜鉛皮膜の耐黒変性が低下するためである。また、Mg2+の濃度は、後述するリン酸塩水溶液中のZn2+に対するMg2+の濃度の割合(Mg2+/Zn2+)によっても異なるため、Mg2+/Zn2+の適正範囲内において濃度を調整する必要がある。
【0027】
・Zn2+に対するMg2+の濃度の割合(Mg2+/Zn2+):0.4〜2.5
前記リン酸塩皮膜に適量のMgを含有させるために、本発明では、前記リン酸塩処理液中の亜鉛イオン濃度に対するマグネシウムイオン濃度の割合Mg2+/Zn2+ を0.4〜2.5、より好適には0.8〜1.2に規定している。Mg2+/Zn2+ が0.4未満では、処理液中のMg2+濃度は2.0g/L未満となるため、リン酸塩皮膜中のMg含有量が不十分(0.2質量%未満)となり、リン酸亜鉛皮膜の侵食性が低下する恐れがあり、また、Mg2+/Zn2+ が2.5を超えると、処理液中のMg2+濃度は5.0g/L超えとなるため、リン酸塩皮膜中のMg含有量が適正範囲を外れ(2.0質量%超え)、リン酸亜鉛皮膜の耐黒変性が低下する恐れがあるからである。
【0028】
また、前記リン酸塩処理液は、上記条件の他に、リン酸塩処理液中のMg塩を適正濃度で溶解させるため、前記処理液の液温を30〜70℃、pHを1.0〜2.5の範囲とすることが好ましい。次に示す理由のためである。液温が30℃未満の場合、反応性が低いため、短時間で均一な皮膜形成が困難となる。逆に液温が高すぎると、エッチング性が高くなる上、リン酸塩も析出し難くなることから、処理時間の制御が非常に困難となる。また、pH1.0未満の場合、エッチング性が高く、皮膜が析出しにくいため同様に処理時間の制御が困難となる。一方、pHが2.5を超える場合には、処理液の安定性が低く沈殿が生じやすい。
【0029】
さらに、前記処理液中のMg2+と対になる陰イオンの選択が重要となる。ここで、水酸化イオン、炭酸イオン、硫酸イオンなどを用いた場合には、Mg塩の十分な溶解度が得られない傾向があり、塩化イオンを用いた場合には、溶解度は十分であるもののMg2+と同時に高濃度の塩素イオンがリン酸塩処理液中に混入するため、リン酸塩皮膜の形成に悪影響を及ぼすことになる。一方、硝酸イオンは酸化作用を有するとともに、塩素イオンや硫酸イオンなどの他のアニオンと比較し皮膜成分中に残留しにくいため、形成した皮膜に可溶性の成分をミニマム化でき、リン酸塩皮膜の性能を向上させる作用があるため、陰イオンとしては、硝酸イオンが好適であり、処理液中のMgイオン源としては、硝酸マグネシウムを用いることが好ましい。本発明で使用するリン酸塩処理液としては、亜鉛イオン、リン酸イオンを含有し、さらに促進剤等を含有する市販の処理液、例えば、日本パーカライジング(株)製の商品名:「PB3312M」等に、上記した硝酸イオンを所定量添加したものを用いる。
【0030】
・遊離酸度の全酸度に対する割合:0.020以上0.15未満
前記リン酸塩皮膜は、遊離オルトリン酸(遊離酸)のエッチング作用によって、処理液の固液界面のpHが上昇し、処理液中の第一リン酸亜鉛(Zn(H2PO4)2)とオルトリン酸(H3PO4)の濃度平衡に差異が生じるため、前記第一リン酸亜鉛がマグネシウムを含有するリン酸亜鉛結晶となって析出することにより形成されることから、遊離酸は前記リン酸塩処理層の形成において非常に重要な役割を担っている。そのため、本発明者らは、遊離酸のエッチング作用に着目し、均一なリン酸塩皮膜を短時間(3〜15秒程度)の処理で形成し、鋼板変形時の有機樹脂皮膜の密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法について鋭意検討を重ねた。
【0031】
その結果、遊離酸濃度を高くすると、亜鉛めっきへのエッチング性が高くなり、リン酸塩処理の前処理である脱脂・表調の工程において表面状態が不均一となるため、リン酸塩皮膜がムラとなって形成すること、及び遊離酸濃度が上昇するとリン酸亜鉛結晶は析出しにくくなるため、数秒レベルの短時間処理の場合には、局部的にリン酸塩皮膜が形成されない部分が生じることを見出した。そしてさらに検討を重ねた結果、遊離酸度の全酸度に対する割合を従来よりも低く設定し、適正化することで、エッチング性を抑制しつつも、従来技術と同等のリン酸塩結晶の析出を可能とし、均一なリン酸塩皮膜を短時間で形成することができること、さらに、均一なリン酸塩皮膜が形成することにより、前記有機樹脂皮膜の密着性が向上することを見出した。
なお、遊離酸(オルトリン酸)濃度としては、遊離酸度にして0.5〜3.4の範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは、1.0〜3.0の範囲である。また、全酸度は20〜26の範囲とすることが好ましいが、後述する遊離酸度との割合となるようにする必要がある。
【0032】
なお、前記遊離酸度の全酸度に対する割合(遊離酸度/全酸度)は0.020以上0.15未満、さらに好ましくは0.035〜0.120に制御する必要がある。0.020未満では、遊離酸濃度が低すぎるため、亜鉛へのエッチング性に乏しく、リン酸塩結晶の析出に必要な反応が生じにくくなり、十分なリン酸塩皮膜が形成されないからであり、さらに、リン酸塩処理液の安定性が低下し、処理液中に亜鉛及び不純物として存在する鉄を含むリン酸化合物と考えられる固形分が析出し、分散するからである。一方、0.15以上では、数秒レベルの短時間処理を施した場合に、亜鉛の表面状態の不均一性に起因したリン酸塩皮膜のムラが生じやすく、前記有機樹脂皮膜の密着性が低下する恐れがあるからである。
【0033】
ここで、遊離酸度とは、リン酸塩処理液10mlに対し、指示薬としてブロムフェノールブルーを数滴加え、0.1規定の苛性ソーダで滴定し、中和に要した0.1規定の苛性ソーダ量(ml)をポイントとして表す。さらに全酸度は、同じく、リン酸塩処理液10mlに対し、指示薬としてフェノールフタレインを数滴加え、0.1規定の苛性ソーダで滴定し、中和に要した0.1規定の苛性ソーダ量(ml)をポイントとして表す。
【0034】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0035】
本発明の実施例について説明する。
【0036】
(実施例1〜12及び比較例1〜12)
板厚1.0mmの冷延鋼板の両面に、片面あたりの付着量が90g/m2の溶融亜鉛のめっき層をCGLにて形成した。その一方の面にリン酸塩処理を施した。
【0037】
リン酸塩処理の前処理として、亜鉛めっき層表面に、表面調整剤(日本パーカライジング(株)製:商品名「プレンパレンZ」)による表面調整処理を施し、前記亜鉛めっき層に、リン酸塩処理液((日本パーカライジング(株)製:商品名「PB3312M」)に硝酸マグネシウムを添加したもの)2〜10秒の範囲で時間を変えてスプレー処理し、水洗、乾燥して、リン酸塩皮膜を形成させた。なお、リン酸塩処理液の液温は60℃、pHは各実施例によって異なるが2.1〜2.7の範囲であり、いずれの処理液にも0.1〜0.4g/Lの範囲のNiを含有している。
【0038】
なお、前記リン酸塩処理液中のZn2+濃度、Mg2+濃度、遊離酸度及び全酸度の値は、前記「PB3312M」の濃度並びに水酸化ナトリウム水溶液、オルトリン酸、硝酸を適宜添加することによって、各実施例及び比較例ごとに変化させており、Zn濃度は、前記、「PB3312M」の初期濃度により変化させ、マグネシウム濃度は硝酸マグネシウム添加量を変化させることで変化させた。
上記のように作製したリン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板から、試験片(大きさ:90×90mm)を切り出し、一般的なポリプロピレンフィルム用接着剤を乾燥膜厚が3μmとなるように塗布し、炉内温度100℃の加熱炉で焼き付けた後、膜厚150μmのポリプロピレンフィルムをロールで鋼板表面に押し付け、熱圧着することにより接着させ、有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板を作製した。
また、前記リン酸塩皮膜中のMg含有量は、リン酸塩処理層を重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解し、該溶解液をICP分析(誘起結合プラズマ発光分析)により計測し、リン酸塩皮膜の付着量は、リン酸塩処理液と接触時間を変えること(4〜12秒)で変化させた。また、前記リン酸塩皮膜の付着量は、重クロム酸アンモニウム水溶液で溶解して重量法で計測した。
実施例及び比較例に用いたリン酸塩処理液中のZn2+濃度、Mg2+濃度、Mg2+/Zn2+比、遊離酸度、全酸度及び遊離酸度/全酸度比、ならびに作製した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板のリン酸塩皮膜のMg含有量及び付着量を表1に示す。
【0039】
以上のようにして得られた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0040】
(評価方法)
(1)密着性
密着性は、作製した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板供試材について、有機樹脂皮膜(ポリプロピレンフィルム)の密着性をJIS K6744-1992(ポリ塩化ビニル金属板)に記載の密着性試験(エリクセン試験)に準拠して、試験片90×90mm、エリクセン高さ6mm、カット部長さ50mmとして押し込んだ後、目視によって有機樹脂皮膜の剥離発生の有無を調べ、以下の評価基準により評価した。
○:剥離発生なし
×:剥離発生あり
【0041】
(2)密着性(沸騰水浸漬)
密着性試験を行う前に、試験片を沸騰させたイオン交換水中に1時間浸漬させたこと以外は、上記(1)密着性と同様の工程で試験及び評価を行った。
○:剥離発生なし
×:剥離発生あり
【0042】
(3)耐食性
耐食性は、作製した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板から、試験片(大きさ:50×100mm)を切り出し、試験片の端部及び裏面をテープシールした後、JIS Z 2371-2000の規定に準拠して塩水噴霧試験を1000時間実施した。その後、試験片表面状態を観察し、耐食性を以下の評価基準に従って評価した。
○:錆なし
×:錆あり
【0043】
(4)耐黒変性
耐黒変性は、作製した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板から、試験片(大きさ:100×50mm)を切り出し、分光式色差計SQ2000(日本電色工業(株)製)を用いて、試験片の初期のL値(明度)を測定した。ついで、試験片を、温度80℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽中に24時間放置後、試験片のL値を同様に測定し、初期のL値からの変化量ΔLを求め、以下の評価基準に従って評価した。
◎:ΔL≧−1
○:−1>ΔL≧−2
△:−2>ΔL≧−4
×:ΔL<−4
【0044】
上記各試験の評価結果を表1に示す。
これによれば、実施例1〜12の有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板は、いずれも良好な密着性、耐食性及び耐黒変性を有している。また、短時間でリン酸塩皮膜を形成した場合でも十分な性能が得られていることがわかった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、亜鉛系めっき鋼板を、Zn2+:2.0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であるリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を形成し、さらに有機樹脂皮膜を形成することで、耐食性及び耐黒変性を有し、かつ、鋼板変形時の有機樹脂皮膜の密着性に優れた有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供するすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板をリン酸塩処理液で処理して、亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸塩皮膜を形成し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を形成する有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
前記リン酸塩処理液が、Zn2+:2 .0g/L超え5.0g/L以下、Mg2+:2.0〜5.0g/Lを含有し、かつ、前記Zn2+に対するMg2+の濃度の割合Mg2+/Zn2+が0.4〜2.5の範囲であり、前記処理液中における遊離酸度の全酸度に対する割合が0.020以上0.15未満であることを特徴とする有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、Mg:0.2質量%以上2.0質量%未満を含有し、付着量が0.2〜1.0g/m2であるリン酸塩皮膜を有し、該リン酸塩皮膜上に有機樹脂皮膜を有することを特徴とする請求項1記載の有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法により製造した有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記有機樹脂皮膜の膜厚が、100μm以上であることを特徴とする請求項2記載の有機樹脂被覆リン酸塩処理亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2008−111174(P2008−111174A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295940(P2006−295940)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】