説明

有機溶媒存在下での表面処理

【課題】本発明は、電気化学的表面処理において金属廃液の削減と、付き周りが良くピンホールの無い高品位な金属皮膜を、容易に実現させる。
【解決手段】金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒の共存下に被対象物に表面処理を行うことを特徴とし、ここで表面処理とは電解めっき、化学めっき、電鋳、陽極酸化、電解研磨、電解加工、電気泳動塗装、電解精錬および化成処理からなる群から選択される、表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学反応に関する。さらに詳しくは金属塩水溶液と疎水性の溶媒を添加することによる、電気化学反応の効率化技術およびそれを用いた表面処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気めっき(電解めっき)ではめっき液の電気分解により発生する水素を原因として、めっき皮膜上にクラックやピンホールが発生する。これを防ぐために種々の技術が開発されているが、このうち有力な方法として、界面活性剤の使用により表面張力を下げるなどして気泡を剥離させる方法が検討されている。特にフッ素系界面活性剤は他の界面活性剤より高機能であるとされ、種々の化合物が開示されている(特許文献1〜2)。
【0003】
しかしながら、これらの方法によっても完全にピンホールレスな金属薄膜を作製することは困難であり、通常はコストの許す限り厚塗りすることで回避してきた。あるいはスパッタなどのドライプロセスが採用されている。
【特許文献1】特許第3334594号明細書
【特許文献2】特開昭64−25995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電気化学的表面処理において金属廃液の削減と、付き周りが良くピンホールの無い高品位な金属皮膜を、容易に実現させる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ペルフルオロアルキル化合物からなる溶媒、ポリシロキサン類、イオン性液体は、一般の炭化水素系溶媒に比較して、気体をその溶媒中に多量に溶解させることが知られている。
【0006】
【表1】

【0007】
表1には酸素の溶解度を示しているが、ペルフルオロ溶媒に酸素が良く溶解することが判る。このデータから、フッ素溶媒の様に気体溶解度の高い溶媒の共存により、ピンホール発生の原因である、水素の除去が期待できる。
【0008】
さらにはめっきなどの電気化学反応場中に共存させるには、化学的に安定で不燃などの性質が求められるが、この点でもペルフルオロアルキル溶媒は適していると推測される。
【0009】
以上を前提とすれば、電気化学反応中基体上に発生する気泡を、共存する疎水性溶媒が溶解除去できれば、ピンホールの無い金属皮膜が形成できることが推測される。さらには金属塩水溶液に比較して、一般の有機溶媒は表面張力が低く、特にフッ素溶媒はその分子間力が小さいことにより、乳化状態が形成できれば、電解質溶液全体の表面張力が低下する。このため界面活性剤の共存下に、金属塩水溶液と疎水性溶媒から形成される乳化状態において、めっきなどの表面処理を行えば、微細構造の内部まで均一に表面処理を行うことが可能になる。
【0010】
また界面活性剤溶液は洗浄効果も有するため、めっきなどの表面処理の前後工程も簡略化することが可能で、廃液の削減も可能になる。
【0011】
またさらに本方法によれば、混合した疎水性溶媒分だけめっき液の量を削減できるため、金属廃液の削減、廃液処理費の削減が可能となる。
【0012】
ところで、電気めっき以外の化学めっきにおいても、めっきの析出に伴い水素ガスが発生し、ピンホールが発生する。このため、本発明は化学めっきにおいても、ピンホールレスな皮膜形成に貢献できる
以上の推定をもとに本発明者らは、金属塩水溶液に気体溶解度の高い疎水性溶媒を添加して、これを乳化ないし混濁させた状態で表面処理操作を行うことにより、以下に示す発明に至った。
[1] 金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒の共存下に被対象物に表面処理を行うことを特徴とする表面処理方法。
[2] 攪拌下に金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒を乳化させて、表面処理を行うことを特徴とする、[1]に記載の方法
[3] さらに界面活性剤を添加して乳化させて表面処理を行うことを特徴とする[1]または[2]に記載の方法。
[4] 疎水性溶媒がフッ素溶媒である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 疎水性溶媒がシリコン系溶媒である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[6] さらに他の有機溶媒を添加することを特徴とする[4]または[5]に記載の方法。
[7] 疎水性溶媒が、分子内にペルフルオロアルキル基を有するフッ素溶媒である、[1]〜[4]、[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 疎水性溶媒が、分子内にペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒である、[1]〜[4]、[6]のいずれかに記載の方法。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の方法で得られた、金属皮膜。
[10] 金属皮膜を有する物品を製造する方法であって、金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒の共存下に被対象物に表面処理を行うことを特徴とする製造方法。
[11] [10]の方法で得られた、金属皮膜を有する物品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面処理方法によれば、被対象物に対し容易に高品位金属皮膜を作成することができる。これにより、高品位金属皮膜を有する物品を製造することができる。またこの表面処理の際に発生する重金属などの廃液量も、既存電気化学的表面処理に比較して少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳述する。
【0015】
本発明において有効な疎水性溶媒としては、金属塩水溶液と乳化できる溶媒全てが使用可能であるが、特にフッ素溶媒、シリコン系溶媒、フロン類、イオン性液体の様に気体(特に水素)の溶解度が大きいものが有効である。さらには、操作時の安全性から、化学的、物理的安定性、不燃性、低毒性が求められる。この点からはフッ素溶媒が望ましく、特に蒸気圧の低い、低粘度のペルフルオロポリエーテル化合物が望ましい。また実施にあたっては攪拌の効率を考慮して粘性の低いものが望ましい。フッ素溶媒は分子間力が小さいため、分子量のわりには低粘度であり、上記の攪拌効率の点からも望ましい溶媒である。
【0016】
フッ素溶媒は、炭化水素中C-H結合の一部ないしは全部をC-F結合に置き換えた化合物であり、例えば、分子内にペルフルオロアルキル基を有するフッ素溶媒、ペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒が挙げられる。
【0017】
ペルフルオロアルキル基を有する含フッ素溶媒としては、例えば、ヘプタフルオロシクロペンタン、オクタフルオロシクロペンテン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロテトラヒドロフラン、ペルフルオロジメチルシクロヘキサンなどの電解フッ素化やコバルトフッ素化により得られるものが挙げられる。
【0018】
ペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒としては、例えば、一般式F-(CF2O)o-(C3F6O)m-(C2F4O)n-(CF2O)p-(CF2)q-CF3(ここで、o、p及びqは0又は1を示し、m及びnは同時に0では無い0〜50の整数であり、n+m≦50である。各繰り返し単位の順番は問わず、-(C3F6O)m-は、-(CF2CF2CF2O)m-または-(CF(CF3)CF2O)m-を、-(C2F4O)n-は、-(CF2CF2O)n-または-(CF(CF3)O)n-を各々表す。)で表されるペルフルオロポリエーテル化合物が挙げられる。
【0019】
他のペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒としては、式:F-(CF2)q-(OC3F6)m-(OC2F4)n-(OCF2)o-(CH2)p-で示されるユニットを含む化合物、又は、式:-(CH2)p-(CF2O)o-(C2F4O)n-(C3F6O)m-(CF2)q-(OC3F6)m-(OC2F4)n-(OCF2)o-(CH2)p-で示されるユニットを含む化合物が挙げられる。(ここで、mおよびnは同時に0では無い0〜50の整数であり、n+m≦50を満たし、oは0〜20の整数、pは0〜2の整数、qは1〜10の整数である。各繰り返し単位の順番は問わず、-(OC3F6)m-は、-(OCF2CF2CF2)m-または-(OCF(CF3)CF2)m-を、-(OC2F4)n-は、-(OCF2CF2)n-または-(OCF(CF3))n-を各々表す。)
上記したペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒は、容易に入手可能であり、例えば、デムナム(ダイキン工業社製)、クライトックス(デュポン社製)、フォンブリン(ソルベイソレクシス社製)、ガルデン(ソルベイソレクシス社製)などが例示される。また、ハイドロフルオロエーテル(HFE)などのように、ここに挙げたフルオロアルキル基を分子内に有するフッ素−炭化水素ハイブリッド型化合物も有効に機能できる。
【0020】
シリコン系溶媒は、分子中にポリアルキルケイ素基を有する化合物である。例えば、式:(R-(Si(R’)2O)n-R’’で示されるポリジアルキルシロキサン(ここでR、R’及びR’’はそれぞれ同一又は異なっており、水素又は炭素数1〜20の炭化水素基である。nは任意の正の整数を示す。);該ポリジアルキルシロキサンと他の炭化水素ポリマーとの共重合体(これに種々の置換基を有しても良い);式(R-Si(OR’)、R2Si(OR’)2、又はR3SiOR’で示されるアルコキシアルキルシラン(ここでR及びR’はそれぞれ水素又は炭素数1〜20の炭化水素基である。)などが例示できる。
【0021】
フロン類としては、CFC-113, HCFC-13, HCFC-141b, HCFC-225ca, HCFC-225cbなどのHCHF類、HFC-365mfc, HFC-c-447ef, HFC-43-10mee, HFC-52-13pなどのHFC類および先に挙げたHFE類が例示できる。
【0022】
イオン性液体としては、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、N-アルキルピリジニウム、1,3-ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルスルホニウムをカチオンとして有し、BF4-, PF6-, SbF6-, NO3-, CF3SO3-, (CF3SO3)2N-, ArSO3-, CF3CO2-, CH3CO2-, Al2Cl7-をアニオンとして有する有機塩類が例示できる。
【0023】
なお、本発明の疎水性溶媒は、常温(20〜25℃)で液体である、水と分離する溶媒を広く包含し、粘性については常温で攪拌できる程度の粘性であれば差し支えないが、攪拌を容易にするために低粘度の溶媒が特に好ましい。疎水性溶媒の分子量は、上記の条件を満たす限り特に限定されないが、例えば250〜3000程度である。
【0024】
疎水性溶媒と金属塩水溶液との構成比に関して大きな制限は存在しないが、疎水性溶媒に対して金属塩水溶液の量が0.01wt%以上あれば充分に表面処理が可能である。そのため金属塩水溶液に対する疎水性溶媒の量は1wt%〜99wt%程度で使用可能であり、5〜95wt%が望ましく、さらには10〜90wt%が特に望ましい。
【0025】
本発明で用いる金属塩水溶液は、特別に調整する必要は無く、めっき液など通常入手可能な市販製品が使用可能である。
【0026】
本発明で使用する金属塩の金属としてはNi,Co,Cu,Zn,Cr,Sn,W,Fe,Ag,Cd,Ga,As,Cr,Se,Mn,In,Sb,Te,Ru,Rh,Pd,Au,Hg,Tl,Pb,Bi,Po,Re,Os,Ir,Pt等が例示され、金属塩としては、これらの水溶性の塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、シアン化物、酸化物、水酸化物、錯体等が例示される。金属塩は1種の金属の塩でもよく、2種以上の金属の塩を組み合わせて使用してもよい。金属塩の濃度は、金属種に応じて最適な濃度を適宜選択することができるが、実用的な反応速度を得るという点から、例えば金属塩水溶液中0.01wt%以上に設定することができる。
【0027】
本発明の表面処理方法は、電気めっき、化学めっき、電鋳、陽極酸化、電解研磨、電解加工、電気泳動塗装、電解精錬、化成処理などの水の電気分解或いは化学反応の際に気泡(例えば水素)が発生する処理方法であり、この気泡が疎水性有機溶媒に溶解することによって除去され、ピンホールの無い高品質な皮膜を得る点に特徴を有する。ここでピンホールが無い皮膜とは、径が1μm以上のピンホールが1cm2当たり1個以下の皮膜を指す。気泡が無くなれば、ピンホールが無くなるだけでなく、金属皮膜の水素脆化が防げ、皮膜強度も向上する。好ましい表面処理は、電気めっき、化学めっき、陽極酸化、電鋳、電解研磨、電解加工、電解精錬、電気泳動塗装である。
【0028】
本発明では、疎水性溶媒と金属塩水溶液を乳化するため界面活性剤の添加が、表面処理効率に影響を与える。界面活性剤を添加しなくても電気めっきは可能であるが、添加する事により非常に効率化できる。界面活性剤としては、従来から知られた多くの化合物が使用可能であり、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性イオン系の界面活性剤、またこれらの構成元素も炭化水素系、シリコン系、フッ素系などが挙げられ、これらの中から少なくとも1種類以上を選択して使用することが出来る。界面活性剤の濃度は特に制限は無いが、例えば、金属塩水溶液に対し0.0001〜20wt%程度、好ましくは0.001〜10wt%程度であればよい。
【0029】
好ましい界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤が例示でき、より好ましくはフッ素系界面活性剤又はシリコン系界面活性剤である。
【0030】
界面活性剤の具体例を以下に記載する。
【0031】
フッ素系界面活性剤としては、アルキルの水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたポリフルオロアルキルを有する界面活性剤であり、例えば、ポリフルオロアルキルスルホン酸塩、ポリフルオロアルキルカルボン酸塩、ポリフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリフルオロアルキル硫酸エステル塩、ポリフルオロアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリフルオロフェニルエーテル硫酸エステル塩、スルホコハク酸エステルのポリフルオロアルキル誘導体などのアニオン系化合物;ポリフルオロポリアルキレングリコール、ポリフルオロアルキロールアミド、ポリフルオロ高級アルコール、ポリフルオロ脂肪酸エステル、ポリフルオロポリエーテルカルボン酸エステル、ポリフルオロアルキルアミンエチレンオキシド付加体、ポリフルオロアルキルカルボン酸、ポリフルオロポリエーテルカルボン酸などのノニオン系化合物;モノポリフルオロアルキルアンモニウムハライド、ジポリフルオロアルキルアンモニウムハライド、トリポリフルオロアルキルアンモニウムハライドなどのカチオン系化合物;ポリフルオロアルキルベタインなどの分子内にカチオンアニオン両方を有する両性化合物が挙げられる。そのうち、ノニオン系化合物が好ましい。なお、上記のポリフルオロアルキルには、アルキルの水素原子の全てがフッ素原子で置換されたペルフルオロアルキルを含むものとする。
【0032】
シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリオール、エステル、アミド、アミノアルコール、アルキルアンモニウム、アルキルスルホン酸塩、アルキルカルボキシル、アルキルリン酸塩等を含む基を有するポリジメチルシロキサン類又はポリアルコキシアルキルシリコン類などが挙げられる。そのうち、ポリアルキレングリコールを含む基を有するポリジメチルシロキサン類又はポリアルコキシアルキルシリコン類が好ましい。
【0033】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステル、エーテルスルホン酸塩、アルキルフェノール、高級アルコール、ポリオール、ポリアルキレングリコール、アルキロールアミド、脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、アルキルアミンエチレンオキシド付加体、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、イミダゾリウムベタインなどが挙げられる。そのうち、ポリアルキレングリコールが好ましい。
【0034】
表面処理にあたり、温度や圧力は特に限定はなく、必ずしも加熱ないし加圧する必要は無い。通常の表面処理に必要な温度及び圧力の範囲で行うことが可能である。
【0035】
表面処理工程の温度は0℃から200℃程度であればよい。例えば電気めっきであれば、その金属に応じためっき温度であり、室温(20℃)から100℃程度である。例えば、ニッケルや金では室温から80℃であり、パラジウムでは30℃から70℃、銅では室温から70℃、また白金では50℃から100℃程度である。
【0036】
表面処理工程の圧力は10気圧未満であればよい。処理温度での溶媒の気化による圧力上昇を避けるため、高温で処理する際には高沸点の溶媒を使用する。安全上の面からは、このような処理条件の設定により、1気圧から2気圧で表面処理を行うことが望ましい。
【0037】
さらに以下に示す有機溶媒(助溶剤)の添加も可能である。例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類;アセトニトリル;酢酸エチルなどのエステル類;エチルエーテルなどのエーテル類;フロン類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化物等が挙げられ、特に毒性が低く低分子量のものが望ましい。有機溶媒を添加する場合、その添加量は疎水性溶媒に対し50wt%以下、好ましくは5〜10wt%程度であればよい。
【0038】
なお、本発明においては、系が二相系であるため攪拌が必要とされる。ここで攪拌とは磁気的攪拌、機械的攪拌、ないしは超音波照射などによるミキシングが挙げられる。具体的な回転数については、疎水性溶媒や金属塩水溶液の種類や装置の規模、撹拌方法によっても変わるため、実際の操作のなかで最適化する必要がある。
【0039】
例えば、磁気的攪拌ないし機械的攪拌の場合、100〜100000rpm、好ましくは400〜1000rpmが例示され、超音波照射の場合、20kHz〜10MHzが例示される。
【0040】
本発明の表面処理で形成される金属皮膜の厚さは、用途、めっき条件等に応じて適宜選択できるが、例えば、1nm〜1000μm程度、好ましくは10nm〜100μm程度である。
【0041】
表面処理の対象物の材料としては、特に限定されず、金属、合金、セラミック、プラスチック、ガラス、導電性高分子などが挙げられ、導電性でない材料(例えばプラスチック)の場合には、表面に金属粒子を付着させるなどの表面処理を行ったものが例示される。表面処理の対象物の形状は、板状、粒状、球状、曲面状、筒状などが挙げられ、攪拌下に金属塩水溶液と疎水性溶媒を含む処理液の供給が十分に行われるような形状のものが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれだけに限定されるものでは無い。
【0043】
[実施例1]ニッケル電解めっき
内容積が50ccのビーカーにニッケルめっき液(ワット浴:硫酸ニッケル280g/L,塩化ニッケル60g/L,ホウ酸50g/L,光沢剤適量)20mL、及びPerfluorohexane 20mLの混合物に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3をめっき浴に対して0.1wt%入れ、陰極に脱脂した真鍮板、陽極に純ニッケル板(それぞれ表面積4cm2)を取り付けた。この混合物を恒温槽で温度を50℃に上げた。スターラー上に固定し、回転子を500r.p.mで回転させることで、これらを乳化させた。5A/dm2で0.5分間通電し、ニッケルめっきを行った。通電終了後、陰極板を取り出し、十分な水洗を行い、顕微鏡で表面観察を行った。皮膜の厚さは0.5ミクロンであった。顕微鏡写真を図1〜3に示す。
【0044】
図1で明らかなようにピンホールは検出されない。また図2及び3のSEMによる高倍率(それぞれ5,000倍、50、000倍)写真で判るように、非常に細かな結晶により緻密な皮膜が形成できている。基板上に発生したガスが、フロン溶媒中に溶解除去されたためと考えられる。
【0045】
[比較例1]光沢ニッケルめっき
実施例1と同様の内容積が50ccのビーカーにニッケルめっき液(ワット浴)40mLを入れ、容器の上から、陰極として真鍮板、陽極として純ニッケル板(それぞれ表面積4cm2)を取り付けた。液温を50℃にして、マグネチックスターラーによる攪拌下(500r.p.m)に、5A/dm2で0.5分間通電し、ニッケルめっきを行った。実施例1と同様の後処理後、得られためっき皮膜をSEM観察した。図4に通常の光沢ニッケルめっき(厚さ5ミクロン)の顕微鏡写真を示す。
【0046】
図4より、通常の電気めっきでは厚さ5ミクロン以下の皮膜を形成する場合ピンホールが多数発生することが分かった。
【0047】
[実施例2]ニッケル電解めっき
実施例1と同じニッケルめっき液30mLとペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLの混合物に、界面活性剤としてH(CF2)4CH2OCOCH2CH(SO3Na)COOCH2(CF2)4Hをめっき液に対して0.04wt%を加えた。実施例1と同様の条件で真鍮板にニッケルめっきを行った。
【0048】
[実施例3]ニッケル電解めっき
実施例1と同じニッケルめっき液30mLとペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLの混合物に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)CO(OCH2CH2)7OCH3をめっき液に対して0.04wt%を加え、めっきを実施した。実施例1と同様のニッケル皮膜が形成できた。
【0049】
[実施例4]無電解銅めっき
(1)触媒担持工程
ポリプロピレン製試薬瓶蓋−円板(直径3Φ)の一部を高圧装置の底に静置し、この容器に、有機白金錯体(1,5-Cyclooctadiene)dimetylplatinum(II) 16mgを入れ、封じたのち二酸化炭素を導入して30MPa、120℃で15時間処理後、さらに130℃に昇温して3時間保って、触媒の活性化を行った。減圧後サンプルを取り出し、水続いてメタノールで洗浄した。サンプル表面に黒く担持された活性化白金触媒を確認した。
(2)めっき工程
上記サンプルを実施例1と同様の50mLビーカー中に静置し、これに銅無電解めっき液(株式会社高純度化学研究所−C-200LT)30mLとペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLを入れ、さらにこの溶液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3をめっき液に対して0.6wt%加えた。この反応液を50℃で15分攪拌した。サンプルを水洗し表面観察を行った。図5にめっきサンプルの写真を示した。
【0050】
[実施例5]無電解銅めっき
実施例4と同じ材質で2.5cm各の板状(厚さ0.5mm)サンプルをアセトンで表面を洗浄、乾燥後、クロム酸−硫酸溶液により60℃で15分処理し、表面を粗面化した。これに0.5mM-PdCl2-0.05mM-SnCl2溶液に30分浸した。水洗後、サンプルを実施例1と同様の50mLビーカー中に静置し、これに銅無電解めっき液(株式会社高純度化学研究所−C-200LT)30mLとペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLを入れ、さらにこの溶液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3をめっき液に対して0.6wt%加えた。この反応液を50℃で15分攪拌した。サンプルを水洗し表面観察を行った。図6にめっきサンプルの写真を示した。
【0051】
[実施例6]電解パラジウムめっき
内容積が50ccのビーカーにパラジウムめっき浴(ethylenediamine 10g/Lの水溶液に塩化パラジウムを10g/Lを加えて、60℃で加熱して均一溶液を作製する。この溶液に2N塩酸を加えてpHを3に調整した。)を30mL、ペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLを入れ、さらにこの溶液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)CO(OCH2CH2)2OCH3をめっき液に対して0.6wt%加えた。陰極に脱脂した真鍮板、陽極にチタン板(それぞれ表面積4cm2)を取り付けた。この混合物を恒温槽で温度を60℃に上げた。スターラー上に固定し、回転子を500r.p.mで回転させることで、これらを乳化させた。2A/dm2で0.5分間通電し、ニッケルめっきを行った。通電終了後、陰極板を取り出し、十分な水洗を行い、顕微鏡で表面観察を行った。図7〜9にSEM写真を示した。ピンホールの無い、結晶粒の細かな非常に緻密な皮膜を形成している。また、ハルセル基板の溝の中までトレース出来ており、付き周りも非常に優れていることも判る。
【0052】
[実施例7]電解パラジウムめっき
めっき液としてアルカリ浴(日本エレクトロプレイティングエンジニヤース(株)パラデックスLF-2)を用いて実施例6と同様のパラジウムめっきを行った。得られためっき皮膜は実施例6より若干均一性が低かった。酸性浴の方が良好な傾向が観られた。
【0053】
[実施例8]電解銅めっき
銅めっき液として(株)高純度化学研究所−C-100ESを30mL用い、ペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLを入れ、さらにこの溶液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)CO(OCH2CH2)2OCH3をめっき液に対して0.6wt%加えた。陰極に真鍮板、陽極にチタン板(それぞれ表面積4cm2)を取り付け、攪拌下に乳化させた後、50℃で2A/dm2で0.5分間通電し、銅めっきを行った。図10にSEM写真を示した。均一でピンホールの無い皮膜が得られている。
【0054】
[実施例9]電解金めっき
酸性金めっき液((株)高純度化学研究所−純金電解メッキ液K-24EA10)30mL用い、ペルフルオロジメチルシクロヘキサン20mLを入れ、さらにこの溶液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3をめっき液に対して0.6wt%加えた。めっき槽の蓋に、陰極に真鍮板、陽極に白金コーティングしたチタン板(それぞれ表面積4cm2)を取り付け、通電しつつめっき液中に浸し、蓋を閉めた。攪拌を開始してめっき液−ペルフルオロ溶媒を乳化させた後、50℃で0.5A/dm2で170秒間通電し(通電時の電圧:約3V)、金めっきを行った(皮膜厚:0.7μ)。図11〜13にSEM写真を示した。ピンホールの無い均一な皮膜が得られた。
【0055】
[実施例10]電解金めっき
実施例9と同様の金めっき液30mLとフロリナート(FC-77)20mLの混合液に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOHを10mg添加して、実施例9と同様の操作を行った。
【0056】
[実施例11]
実施例1と同様にニッケルめっき液30mLとCF3[(OCF(CF3)CF2)x(OCF2)y]OCF3(オリゴマー混合物、沸点=135℃)20mLの混合物に、界面活性剤としてF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3を20mg添加して、50℃、電流密度5A/dm2で3分間通電し、ニッケルめっきを実施した。
【0057】
以上の実施例に記載した様に、本発明によれば、非常に薄い薄膜でも、径が1μm以上のピンホールが1cm2当たり1個以下で形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率500倍)を示す。
【図2】実施例1で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率5000倍)を示す。
【図3】実施例1で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率50000倍)を示す。
【図4】比較例1で得られた通常の光沢ニッケルめっき(厚さ5ミクロン)のSEM写真(倍率500倍)を示す。
【図5】実施例4で得られたサンプルの写真を示す。
【図6】実施例5で得られたサンプルの写真を示す。
【図7】実施例6で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率60倍)を示す。
【図8】実施例6で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率1000倍)を示す。
【図9】実施例6で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率10000倍)を示す。
【図10】実施例8で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率1000倍)を示す。
【図11】実施例9で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率110倍)を示す。
【図12】実施例9で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率1000倍)を示す。
【図13】実施例9で得られためっき皮膜を示すSEM写真(倍率20000倍)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒の共存下に被対象物に表面処理を行うことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
攪拌下に金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒を乳化させて、表面処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに界面活性剤を添加して乳化させて表面処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
疎水性溶媒がフッ素溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
疎水性溶媒がシリコン系溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
さらに他の有機溶媒を添加することを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
疎水性溶媒が、分子内にペルフルオロアルキル基を有するフッ素溶媒である、請求項1〜4、6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
疎水性溶媒が、分子内にペルフルオロポリエーテル基を有するフッ素溶媒である、請求項1〜4、6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で得られた、金属皮膜。
【請求項10】
金属皮膜を有する物品を製造する方法であって、金属塩を含む水溶液と疎水性溶媒の共存下に被対象物に表面処理を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法で得られた、金属皮膜を有する物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−39805(P2007−39805A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185626(P2006−185626)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】