説明

有機無機ハイブリッド体の製造方法

【課題】 完全水系化でき、コストパフォーマンスに優れ価格競争力のある有機無機ハイブリッド体の製造方法を提供することであり、特に耐水性あるいは表面強度に優れた有機無機ハイブリッド体を得ることができる製造方法を提供することにある。
【解決手段】 水素結合性基を有する固体状の有機高分子物質を活性珪酸溶液に浸漬して該有機高分子物質と珪酸とのハイブリッド体を形成することを特徴とする有機無機ハイブリッド体の製造方法。前記活性珪酸は、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体により脱アルカリ金属処理して生成されるか、または、珪酸アルカリ金属塩水溶液に酸を加えpHを7以下にして生成され、珪酸アルカリ金属塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム又は珪酸リチウムが好ましい。水素結合性基を有する有機高分子物質の代表例はポリビニルアルコールなどの水溶性高分子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド体の製造方法に関し、更に詳しくは、安価な珪酸アルカリ金属塩を原料として製造させる活性珪酸と水素結合性基を有する高分子物質との有機無機ハイブリッド体を得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機無機ハイブリッド体の開発がさかんに行われている。ハイブリッド化することにより有機成分と無機成分の優れた特徴を効率良く引き出す、あるいは相乗効果的な特性を引き出すことが期待されている。このような期待のもと無機成分の原料として、層状粘土鉱物いわゆる平板状顔料を用いるもの、あるいはオルガノシランを原料として用いるものがある。
【0003】
層状粘土鉱物を用いる方法として、例えば、層状粘土鉱物をポリプロピレンに分散させたもの、層状粘土鉱物をεカプロラクタムに混合し重合したもの等がある(非特許文献1及び非特許文献2参照)。層状粘土鉱物を用いるものは、如何に層状粘土鉱物をナノレベルに一層一層はがした状態で分散できるかが1つのキーテクノロジーであり、その分散に用いる薬品の性質により適用範囲が制限される問題がある。
【0004】
一方、オルガノシランを用いる方法として、例えば、オルガノシランによるポリカーボネートとのハイブリッド体についての提案、オルガノシランによる石油系樹脂とのハイブリッド材料についての提案等がある(特許文献1及び特許文献2参照)。金属アルコキシドやシランカップリング剤に代表されるオルガノシランを用いるこれらの方法の溶媒の主成分は有機溶媒である必要があり、水が多い溶媒を用いるとゾル−ゲル反応が進み良好なハイブリッド体を作成することができないため、水系の塗料は作成できない欠点を持つ。
【0005】
また、ポリビニルアルコールとオルガノシランのゾル−ゲル法による重縮合物の提案がある(特許文献3参照)。しかし、オルガノシランの加水分解によりアルコールが必ず生じ、ポリビニルアルコールはアルコールに不溶のため、ハイブリッド体の特性を十分に引き出せないことがある。分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールの作成方法が特許文献4の本文中に記載されている。作成した分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールはシリル基が多い場合は水系化し難く、また分子内にシリル基を持つ変性ポリビニルアルコールの作成する段階は水を用いない系で変性あるいは重合反応を行う必要がある。また(ポリ)アクリル酸類および塩基性化合物と無機アルコキシド類、金属アルコキシド類などのアルコキシド類と酸触媒からなる塗料を基材上に塗布してインク受容層を形成した事務機用被記録材を製造する方法が提案されている(特許文献5参照)。これら特許文献3〜5のようにオルガノシランを用いる方法は、塗料中に有機溶媒を含有させる必要があり、製造中の排水に有機溶剤の混入が問題となる。更にオルガノシランを用いる方法は値段が高く、市場性は限定されたものであった。
【0006】
また珪酸アルカリ金属塩を用いる塗料として、分子内にシリル基を有する変性ポリビニルアルコールと珪酸ナトリウムを成分とする塗料を酸性紙に塗布する提案がされている(特許文献4参照)。しかしこの方法は酸性紙に限定されること、更に有機成分として分子内にシリル基を有する変性ポリビニルアルコールとする必要があるため適用範囲が狭いという問題があった。
【特許文献1】特開平11−209596号公報
【特許文献2】特開2002−284879号公報
【特許文献3】特許第2556940号公報
【特許文献4】特開平5−32931号公報
【特許文献5】特開平6−135124号公報
【非特許文献1】N.Hasegawa et al.,J.Appl.Polym.Sci.,67,87(1998)
【非特許文献2】A.Usuki et al.,J.Mat.Res.8(5),1179(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、完全水系化でき、コストパフォーマンスに優れ価格競争力のある有機無機ハイブリッド体の製造方法を提供することであり、特に耐水性あるいは表面強度に優れた有機無機ハイブリッド体を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(7)の構成を採用する。
(1) 水素結合性基を有する固体状の有機高分子物質を活性珪酸溶液に浸漬して該有機高分子物質と珪酸とのハイブリッド体を形成することを特徴とする有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(2) 前記活性珪酸が、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体により脱アルカリ金属処理して生成されることを特徴とする(1)に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(3) 前記イオン交換体が、水素型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする(2)に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(4) 前記活性珪酸が、珪酸アルカリ金属塩水溶液に酸を加えpHを7以下にして生成されることを特徴とする(1)に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(5) 前記珪酸アルカリ金属塩が、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム又は珪酸リチウムの少なくとも1つであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(6) 前記水素結合性基を有する有機高分子物質が水溶性高分子であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
(7) 前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであることを特徴とする(6)に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、珪酸アルカリ金属塩を無機成分の原料とするので、オルガノシランを無機成分の原料とする従来の方法に比べて、コストパフォーマンスに優れ、しかも価格競争力があり、かつ環境にも優しく産業上極めて有用な有機無機ハイブリッド体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の有機無機ハイブリッド体の製造方法に関して詳細に説明する。なお、以下では有機無機ハイブリッド体のことを単にハイブリッド体と称する。
本発明のハイブリッド体の製造方法は、水素結合性基を有する固体状の高分子物質を活性珪酸溶液に浸漬して、少なくとも該高分子物質の表面にハイブリッド体を形成することを特徴とする有機無機ハイブリッド体の製造方法である。
【0011】
<活性珪酸溶液について>
本発明で使用する活性珪酸溶液とは、固形分の主成分として活性珪酸を含有する水溶液、有機溶媒溶液、水/有機溶媒混合溶液を意味する。
前記活性珪酸溶液における固形成分における活性珪酸の含有量としては、70質量%以上であるのが好ましく、更に90質量%以上であるのが好ましく、特に98質量%以上であるのが好ましい。活性珪酸の含有量が70質量%未満であると、本発明の製造方法で得られるハイブリッド体の特性、特に、耐水性あるいは表面強度が十分に発揮されないことが
ある。
【0012】
活性珪酸溶液溶媒の主成分は水であることが好ましい。具体的には、溶媒成分の80質量%以上が水であるのが好ましく、更に、95質量%以上であるのが好ましく、特に、溶媒成分のすべてが水であるのが環境上好ましい。
【0013】
本発明の活性珪酸は、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体で脱アルカリ金属処理するのが好ましい。
【0014】
前記珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩としては、特に制限はないが、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム又は珪酸リチウムであるのが好ましく、更に、珪酸ナトリウム又は珪酸リチウムが好ましく、特に、JIS K 1408で規定される3号珪酸ナトリウムが好ましい。本発明においては、前記珪酸アルカリ金属塩を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
珪酸アルカリ金属塩水溶液中の珪酸アルカリ金属塩の濃度としては、0.5〜15質量%であるのが好ましく、1〜10質量%であるのがより好ましく、特に、2〜7質量%であるのが好ましい。珪酸アルカリ金属塩水溶液の濃度が15質量%よりも高いと、イオン交換体による脱アルカリ金属処理が十分に行えない場合がある。珪酸アルカリ金属塩水溶液の濃度が0.5質量%よりも低いと、塗料中の活性珪酸の濃度が低くなってしまうので、ハイブリッド体としての効果を得ることができないことがある。
【0016】
珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体で脱アルカリ金属処理して得られた処理液(以下、「脱アルカリ金属処理液」という。)中の活性珪酸の濃度としては、0.05〜12質量%であるのが好ましく、0.5〜7質量%であるのがより好ましく、特に、1〜5質量%であるのが好ましい。活性珪酸の濃度が0.05質量%よりも低い場合は、溶液中の活性珪酸の濃度が低くなりすぎるため好ましくない。また、脱アルカリ金属処理液のpHを6以下、さらに4以下、特に3以下に調整するのが好ましい。脱アルカリ処理液のpHが6よりも高いと、機能が十分に発揮されにくくなることがある。
【0017】
珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体で脱アルカリ金属処理する時の温度としては、0〜50℃であるのが好ましく、10〜40℃であるのがより好ましく、特に、15〜30℃であるのが好ましい。温度が上記範囲外であると、脱アルカリ金属処理が上手くいかないため、前記活性珪酸濃度の脱アルカリ金属処理液を得ることができないことがあり、また、イオン交換が不十分になる場合がある。
【0018】
前記イオン交換体としては、如何なるものも用いることができるが、陽イオン無機イオン交換体又は陽イオン交換樹脂が好ましく、特に、水素型陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。前記水素型陽イオン交換樹脂としては、特に制限はなく、如何なる水素型陽イオン交換樹脂を用いることができる。
【0019】
本発明において、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体により脱アルカリ金属処理をして得られる活性珪酸の代わりに、珪酸アルカリ金属塩水溶液を酸処理して得られる活性珪酸(以下、「酸処理液」という。)を用いることもできる。酸処理液のpHは7以下であるのが好ましく、5以下であるのが好ましく、特に、3以下であるのが好ましい。また酸処理液の濃度は、30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましく、特に、5質量%以下であるのが好ましい。前記酸としては、公知の酸を挙げることができ、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、硫酸アルミニウム、酢酸、乳酸、酪酸、スルファミン酸、クエン酸又はポリアクリル酸等を挙げることができる。なお、本発明においては、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体により脱アルカリ金属処理をして得られる活性珪酸と珪酸アルカリ金属塩水溶液を酸処理して得られる活性珪酸とを併用することも可能である。
【0020】
<水素結合性基を有する有機高分子について>
本発明に使用する固体状の高分子物質は、水素結合性基を有していれば良く、即ち、水素結合を形成する能力のある官能基を分子の一部に有していれば良い。
【0021】
本発明で言う水素結合性基としては、イオンの状態を呈していない水素結合性基でも良く、イオンの状態を呈している水素結合性基(イオン性基)でも良い。
水素結合性基としては、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、アミン基、ホスホニウム基などが挙げられ、特に好ましい水素結合性基としては、水酸基、アミノ基、アミン基、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、アンモニウム基などを挙げることができる。もちろんこれらに限定されることはなく、強い水素結合を示すものであれば良い。
【0022】
このような水素結合性基を有する有機高分子の好ましい具体例として、例えば、ビニルアルコール分率が40モル%以上の有機高分子、多糖類、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリベンゼンスルホン酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルチオール、ポリグリセリン、カゼイン、ゼラチン等のコラーゲン、プロテイン等を挙げることができる。もちろんこれらのナトリウム塩等の金属塩、アンモニウム塩も含まれる。
【0023】
ビニルアルコール分率が40モル%以上の有機高分子として、具体的には、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールとしては完全鹸化型、部分鹸化型、官能基変性型(官能基としては公知のものを使用することができる。より好ましくは、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミノ基、アミン基、チオール基、スルホン酸基、燐酸基、シラノール基等を挙げることができる。)等を挙げることができる。
【0024】
多糖類としては例えば、澱粉(公知の変性澱粉を含む。具体的に酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、アセチル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、カルバミン酸澱粉、ヒドロキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等を好ましく挙げることができる)、デキストリン、セルロース(セルロース誘導体も含む)ヘミセルロース、パルプ、キチン、キトサン、アルギン酸、プルラン、マンナン、グルコマンナン、ゼラチン等のコラーゲン、ナタデココ、カゼイン等が上げられる。
セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
ポリアルクリアミドは、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の如何なるものも用いることができる。
【0025】
本発明に使用する水素結合性基を有する有機高分子としてより好ましい具体例としては、ビニルアルコール分率が40モル%以上のポリビニルアルコール(官能基変性ポリビニルアルコールであっても構わない)、澱粉(変性澱粉を含む)、セルロース(セルロース誘導体も含む)、ヘミセルロース、パルプ、ポリアクリルアミド(ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性を含む)、ゼラチン、カゼインを挙げることができる。パルプとしては合成有機高分子パルプ、竹パルプ、藁パルプ、木材パルプ(N材、L材いずでも良く、更に蒸解方法、晒し方法等のパルプ製造方法、処理方法等は限定されることはない)などがあり、好ましくは木材パルプである。
本発明に使用する水素結合性基を有する有機高分子として、特に好ましい具体例は、ポリビニルアルコールである。
【0026】
本発明では以上に挙げた水素結合性基を有する有機高分子を構成する基本分子構造(基本分子構造とは、その構成材料の最小繰り返しユニットのことを言う。例えばポリビニルアルコールなら基本分子構造はビニルアルコール、セルロースなら基本分子構造はグルコースである。)を複数組み合わせた合成有機高分子あるいは天然有機高分子としてもよい。またこの合成有機高分子あるいは天然有機高分子中に水素結合性基を有しない基本分子構造が含まれていても良い。
本発明に使用する水素結合性基を有する有機高分子は、以上に挙げたものを1種類以上使用することができる。
【0027】
本発明においては水素結合性基を有する有機高分子を、水を含む溶液に浸漬するので、該高分子として水溶性高分子を使用する場合、水に溶け出してしまわないように注意する必要がある。水溶性高分子の中でも完全鹸化ポリビニルアルコールであれば、本発明に必要な浸漬時間の間に溶出することはないが、溶解性が高い部分鹸化ポリビニルアルコール、可溶性澱粉などの場合には、架橋されたものを用いることが好ましい。架橋剤としては、ホルマリン、ホウ酸、ホウ酸塩、ジルコニウム塩、チタン化合物、ジアルデヒド化合物、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジメチロール尿素、ポアミドポリ尿素、ジメチロールメラミンなどが使用できる。
【0028】
本発明のハイブリッド体の形成製造方法において、水素結合性基を有する有機高分子は、シート状、繊維状、粉状、針状などのいずれの形状でも良い。シート状はフィルム状、織布、不織布を含む。特に好ましい形状は、フィルム状である。
また、立体形状あるいは、シートを3次元形状に形成したものでも良い。
更には、浸漬する際には、シート状基材の表面に水素結合性基を有する高分子を塗布・乾燥した形態、基材に水素結合性基を有する高分子を混合した形態のものを浸漬処理しても良い。
基材に水素結合性基を有する高分子を混合した形態にあっては、当該高分子の含有量としては、5質量%以上であるのが好ましく、更に10質量%以上であるのが好ましく、特に25質量%以上であるのが好ましい。前記含有量が5質量%未満であると、ハイブリッド体の特性を十分に発揮することができない。
【0029】
基材中に水素結合性基を有する高分子を混合している例として、水素結合性基を有する高分子と他の高分子の混合体のシートあるいはフィルムなどか挙げられ、また、紙、織布、不織布などの基材に水素結合性基を有する高分子を含浸した場合なども例示できる。
【0030】
基材の表面に水素結合性基を有する高分子を塗布・乾燥する際の塗布方法としては、公知の方法を用いることがでる。例えば、エアナイフコーティング、ロールコーティング、ブレードコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、キャストコーティング、カーテンコーティング、ダイスロットコーティング、ゲートロールコーティング、サイズプレスコーティング等を挙げることができる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的に、例えば、熱若しくは熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、加熱水蒸気乾燥等を挙げることができる。
【0031】
<浸漬処理>
固体状の有機高分子物質を活性珪酸溶液に浸漬する際には、バッチ方式、連続方式のいずれの方法でも良い。バッチ方式は、固体状の有機高分子物質を活性珪酸溶液の浴槽に一定時間浸漬し、取り出して乾燥する方法である。この際に、固体状の有機高分子物質が粉体などの場合には、網の中に入れて浸漬すれば良い。
連続方式は、有機高分子物質のシート状の巻取をアンリールし、活性珪酸溶液の浴槽を一定時間かけて通過させた後に乾燥させて巻き取る方式である。連続糸の場合も同様である。(図1参照)
浸漬時間、浸漬温度は水素結合性基を有する高分子物質の水に対する溶解性により異なり、また、物質の内部までハイブリッド化するか表面のみハイブリッド化するかで異なるので一概には言えないが、時間としては1〜60分程度、温度は0℃〜50℃程度の範囲が好ましい。
【0032】
液晶表示装置などに使用されるポリビニルアルコール系偏光フィルムも、本発明の浸漬法が適用される代表的な分野である。
偏光フィルムの代表的な作り方は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、一軸延伸した後に染色する、一軸延伸しながら染色する、あるいは染色後に一軸延伸しても良い。そして、ホウ素化合物などにより処理されることが好ましい。これらの製造方法は、特開平7−120616号公報、特開平9−325214号公報、特開2005−92112号公報など多数の特許文献に記載されている。しかしながら高温・高湿条件化での耐久性即ち、耐湿熱性については未だに改善の余地がある。
本発明の方法においては、前記従来の方法において、一軸延伸する工程で活性珪酸溶液を使用すること、または延伸後の耐久化処理として活性珪酸溶液に浸漬すること、あるいは、その両方を併用することが可能である。
【0033】
水溶性高分子のシートを活性珪酸により耐水化する際に、該シートに活性珪酸溶液を塗布することが考えられるが、十分な量の活性珪酸と十分な時間だけ反応させるという観点からは、塗布方法は必ずしも適していない。本発明の浸漬法によれば、活性珪酸溶液の浴槽中を時間をかけて移動することにより、十分な量の活性珪酸を与えることができ、かつ、十分な時間の反応を行わせることができる。
シートが薄膜である場合、塗布法ではシート強度が不足して塗布、搬送しにくいが、本発明の浸漬法の場合には、シートを保護する別のシートと共に搬送し浸漬することが可能である。
また、活性珪酸溶液に有機溶媒を混合する必要がある場合でも、本発明の方法によれば浴槽を密閉することで、安全面、健康面での対策がとり易い。
【0034】
<ハイブリッド化>
脱アルカリ金属処理液、酸処理液中に含まれる活性珪酸と水素結合性基を有する有機高分子の組み合わせが良い理由については定かではないが、おそらく脱アルカリ金属処理液、酸処理液中にアルコールが存在せず、かつ活性珪酸と水素結合性基を有する有機高分子の間に強い水素結合があるため相溶性が良くナノレベルあるいはオングストロングレベルで活性珪酸と水素結合性基を有する有機高分子が混ざり合うためと考えられる。このため水素結合を最大限活用でき、場合によっては活性珪酸と高水素結合性有機高分子の反応生成物を多く含有させることができるためハイブリッド材料としての特性が十分に引き出されると考えられる。
【0035】
また、本発明のハイブリッド体には、960cm-1付近(945〜975cm-1)の赤外吸収があることが好ましい。960cm-1付近の赤外吸収はSi-O-C結合によるため、脱アルカリ金属処理液、酸処理液中に含まれる活性珪酸と有機高分子の反応生成物にSi-O-C結合を持つものが少なくとも1種反応生成したことを意味する。960cm-1付近の赤外吸収の有無がハイブリッド体としての特性にどのように影響しているかは定かではないが、少なからず影響を及ぼしていると考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明する。
<実施例1>
厚さ75μmのポリビニルアルコール(重合度4000、鹸化度99.9モル%)のフィルムを30℃の染色水溶液(ヨウ素:0.2g/l、ヨウ化カリウム:20g/l、硼酸:40g/l)中に3分間浸漬した。続いて50℃の下記製造例1の脱アルカリ金属処理液Bの中で1軸方向に4倍に延伸し、30℃の処理水溶液(ヨウ化カリウム:20g/l、塩化亜鉛:10g/l、下記製造例1の脱アルカリ処理液A:固形分換算20g/l)中に4分間浸漬した。最後に40℃の温風で乾燥することにより厚さ16μmのハイブリッド材料ヨウ素系偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの偏光度、透過度、二色性比を日本電子機械工業規格(EIAJ)LD-201-1983に準拠し、分光光度計を用いてC光源、2度視野にて測定して計算した。更に得られた偏光フィルムを80℃90%RHの環境下に1000時間放置し、同様にして偏光度、透過度、二色性比を求めた。結果を表1に示す。
【0037】
<実施例2>
厚さ75μmのポリビニルアルコール(重合度4000、鹸化度99.9モル%)のフィルムを30℃の染色水溶液(ヨウ素:0.2g/l、ヨウ化カリウム:20g/l、下記製造例2の酸処理液:固形分換算で40g/l)中に3分間浸漬した。続いて50℃の製造例2の酸処理液中で1軸方向に4倍に延伸し、30℃の処理水溶液(ヨウ化カリウム:20g/l、塩化亜鉛:10g/l、製造例2の酸処理液を固形分換算20g/l)中に4分間浸漬した。最後に40℃の温風で乾燥することにより厚さ16μmのハイブリッド材料ヨウ素系偏光フィルムを得た。偏光フィルムの偏光度、透過度、二色性比について実施例3と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0038】
<比較例1>
厚さ75μmのポリビニルアルコール(重合度4000、鹸化度99.9モル%)のフィルムを30℃の染色水溶液(ヨウ素:0.2g/l、ヨウ化カリウム:20g/l、硼酸:40g/l)中に3分間浸漬した。続いて50℃の硼酸水溶液(40g/l)中で1軸方向に4倍に延伸し、30℃の処理水溶液(ヨウ化カリウム:20g/l、塩化亜鉛:10g/l、硼酸:20g/l)中に4分間浸漬した。最後に40℃の温風で乾燥することにより厚さ16μmのヨウ素系偏光フィルムを得た。偏光フィルムの偏光度、透過度、二色性比について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0039】
<比較例2>
テトラエトキシシラン(商品名:KBE-04、信越化学工業社製)に水と0.05mol/l塩酸をテトラエトキシシラン:水:0.05mol/l塩酸を質量比で10:80:10になるように混合し、還流管をつけたフラスコ内にて室温下で3時間攪拌したが、水層と油層(テトラエトキシシラン)が分離したままであり液温の昇温もなかった。そこで水の代わりにエタノールを使用し、テトラエトキシシラン:エタノール:0.05mol/l塩酸を質量比で10:80:10になるように混合し、還流管をつけたフラスコ内にて室温下で3時間攪拌した。はじめ徐々に液温が上昇し攪拌開始1時間後から液温が低下しはじめた。3時間攪拌したものの固形分を測定したところ4.9質量%であった。この液を実施例1の脱アルカリ金属処理液AとBの代わりに使用した。結果を表1に示す。
【0040】
<製造例1>
SiO2濃度30質量%、SiO2/Na2Oモル比3.1の珪酸ナトリウム水溶液〔東曹産業(株)製、三号珪酸ソーダ〕に水を混合し、強酸性水素型陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)ダイヤイオンSK―1BH〕が充填されたカラムに通じて脱アルカリ金属処理液Aを調整した。得られた脱アルカリ金属処理液Aの活性珪酸濃度は4.0質量%、pH2.8であった SiO2濃度20質量%、SiO2/Li2Oモル比3.5の珪酸リチウム水溶液〔日本化学工業社製、珪酸リチウム35〕に水を混合し、強酸性水素型陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)ダイヤイオンSK―1BH〕が充填されたカラムに通じて脱アルカリ金属処理液Bを調整した。得られた脱アルカリ金属処理液Bの活性珪酸濃度は4.0質量%、pH2.5であった。
【0041】
<製造例2>
SiO2濃度30質量%、SiO2/Na2Oモル比3.1の珪酸ナトリウム水溶液〔東曹産業(株)製、三号珪酸ソーダ〕に水を混合し、塩酸を加えて濃度10.0質量%、pH2.4の酸処理液を作成した。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のハイブリッド体が特に効力を発揮する技術分野としては、親水性であって、かつ、耐水湿性、耐湿水熱性などを必要とする部材、特に耐湿熱性を要する偏光フィルムなどの分野が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に使用する浸漬装置の断面模式図
【符号の説明】
【0045】
1:繰出しロール(アンリール)
2:ガイドロール
3:引取ロール
4:浴槽
5:活性珪酸溶液
6:フィルムなど
7:乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素結合性基を有する固体状の有機高分子物質を活性珪酸溶液に浸漬して該有機高分子物質と珪酸とのハイブリッド体を形成することを特徴とする有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項2】
前記活性珪酸が、珪酸アルカリ金属塩水溶液をイオン交換体により脱アルカリ金属処理して生成されることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項3】
前記イオン交換体が、水素型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項4】
前記活性珪酸が、珪酸アルカリ金属塩水溶液に酸を加えpHを7以下にして生成されることを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項5】
前記珪酸アルカリ金属塩が、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム又は珪酸リチウムの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項6】
前記水素結合性基を有する有機高分子物質が水溶性高分子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項6に記載の有機無機ハイブリッド体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224297(P2007−224297A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19993(P2007−19993)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】