有機無機ハイブリッド薄膜及びその製造方法
【課題】シリコン基板上に製膜した、酸化モリブデン(MoO3)を主成分とする導電性の有機無機ハイブリッド薄膜、該薄膜を製造する方法、及びその導電性有機無機ハイブリッド薄膜を利用したセンサ部材等を提供する。
【解決手段】金属酸化物単結晶に比べて安価なシリコン基板上に、適切な金属酸化物のバッファー層を介在させて、有機無機ハイブリッド薄膜を形成したことを特徴とする、電気伝導性有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法、該方法により作製された電気伝導性有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として用いた、VOCガス等に対して高感度に応答する化学センサ部材。
【解決手段】金属酸化物単結晶に比べて安価なシリコン基板上に、適切な金属酸化物のバッファー層を介在させて、有機無機ハイブリッド薄膜を形成したことを特徴とする、電気伝導性有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法、該方法により作製された電気伝導性有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として用いた、VOCガス等に対して高感度に応答する化学センサ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法及び応用に関するものであり、更に詳しくは、シリコン単結晶基板上へ有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜素子に関するものである。本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来のハイブリッド薄膜では、高価な金属酸化物単結晶基板が必要であるという問題があることを踏まえ、シリコン単結晶基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させることにより、安価なシリコン単結晶基板上へ有機無機ハイブリッド薄膜を製膜する技術を確立したものである。本発明は、シリコン基板上にエレクトロデバイス材料として使用し得る高品質の導電性有機無機ハイブリッド薄膜を製造することを可能とする新規導電性有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法、及びその製品、特に、導電性部材、化学センサ部材、を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
有機無機ハイブリッド材料は、無機化合物の持つ、優れた耐熱性及び機械的強度と、有機化合物の持つ、優れた化学的特性を併せ持つ、従来にはない新しい材料であり、光学的特性、電気的特性、あるいは機械的特性等に特徴ある機能を有するため、このハイブリッド材料は、様々な分野への応用が期待されている。その中で、電気伝導性を示す有機無機ハイブリッド材料は、例えば、発光素子、トランジスタ、電池、化学センサ等への応用に高いポテンシャルを持つことが報告されている。
【0003】
上記有機無機ハイブリッド材料の、特に、化学センサへの応用に関しては、分子認識機能を持つ有機化合物と検知対象ガスの有無という化学的情報を電気的な信号に変換して外部に出力できる機能を持つ無機化合物を、ナノレベルで複合化したハイブリッド材料を用いることが、ガス選択性の向上に有効であることが報告されている(非特許文献1)。そして、具体的な事例として、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO3)を主成分とし、酸化モリブデン層間に、有機化合物が挿入したインターカレーション型有機無機ハイブリッド材料において、当該材料が揮発性有機化合物(VOC)に対して、抵抗値が変化することで応答すると共に、トルエン、ベンゼンにはほとんど応答しないのに対して、アルデヒド、アルコール、塩素系ガスに対して選択的に応答を示すという、優れたガス選択性を有することを利用して、当該材料から成る化学センサ素子が提案されている(特許文献1)。
【0004】
有機無機ハイブリッド材料の素子への応用には、薄膜化技術の開発が必要不可欠であるが、上記インターカレーション型有機無機ハイブリッド材料については、既に、(1)層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜を作製する、(2)上記高配向薄膜に水和ナトリウムイオンをインターカレートする、(3)これを有機化合物と置換する、ことを特徴とする方法により、高品質薄膜の製造方法が開発されており(特許文献2)、上記薄膜が、VOCガスセンサとして機能することも報告されている(特許文献3、及び非特許文献2、3)。しかしながら、上記薄膜の製造には、高価なLaAlO3等の金属酸化物単結晶基板が必要であり、当技術分野においては、上記ハイブリッド材料のセンサデバイスへの応用を実現するために、安価なシリコン基板上への薄膜製造技術の開発が急務の課題となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−271482号公報
【特許文献2】特願2003−422141号
【特許文献3】特願2004−140528号
【非特許文献1】化学センサ,vol.20,No.3,106(2004)
【非特許文献2】Proc. MRS 2003 Fall Meeting,785,D14.9.1−6(2004)
【非特許文献3】Chem. Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、酸化モリブデンを主成分とする導電性の有機無機ハイブリッド薄膜をシリコン基板上に製造する方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、酸化モリブデンと格子定数が類似した金属酸化物をバッファー層とし、この上にCVD法で作製した酸化モリブデンの高配向膜に、まず、水和ナトリウムイオンをインターカレートし、更に、導電性ポリマーあるいは有機イオンと置換する方法により、有機無機ハイブリッド薄膜を得ることができること、そして、得られた薄膜は、金属酸化物単結晶基板を用いた場合と同様に、VOCガスに対して抵抗値が変化することで応答すること、を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、エレクトロデバイス材料として使用し得る導電性有機無機ハイブリッド薄膜、該ハイブリッド薄膜を製造することを可能とする導電性有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法、及びその応用製品、特に、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)シリコン単結晶基板と該基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させて製膜した有機無機ハイブリッド薄膜から成ることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜。
(2)有機無機ハイブリッド薄膜が、層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換したものである前記(1)記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(3)有機無機ハイブリッド薄膜が、酸化モリブデンを主成分としている前記(1)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(4)有機無機ハイブリッド薄膜が、導電性ポリマーを含んでいる前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(5)有機無機ハイブリッド薄膜が、有機イオンを含んでいる前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(6)バッファー層が、酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物である前記(1)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(7)シリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜を製造する方法において、シリコン単結晶基板上に、金属酸化物からなるバッファー層を介在させて有機無機ハイブリッド薄膜を成長させることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
(8)層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換した有機無機ハイブリッド膜を成長させる前記(7)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
(9)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
(10)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として含むことを特徴とする化学センサ部材。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、上述のように、酸化モリブデンと格子定数が類似した金属酸化物をバッファー層として備えたシリコン単結晶基板上に、CVD法により高配向酸化モリブデン薄膜を形成し、水和アルカリ金属イオンをインターカレートした後、更に、これを有機化合物と置換することにより、導電性インターカレート型有機無機ハイブリッド薄膜を製造することを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、上述の特定の構成を採用することで、安価なシリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製造することが可能となる。本発明は、シリコン単結晶基板上に、有機無機ハイブリッドの無機成分である酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物をバッファー層とすることにより達成される。バッファー層を持たないシリコン単結晶基板を用いた場合、CVD法により作製した酸化モリブデン薄膜に水和アルカリ金属イオンをインターカレートする工程において、薄膜が基板から剥離するという問題がある
【0011】
金属酸化物単結晶基板を用いた場合は、このような問題は発生しないことから、シリコン単結晶基板上に適切な金属酸化物のバッファー層を形成し、この上に上記プロセスにより有機無機ハイブリッド薄膜を形成すれば、剥離の問題が回避できるものと考えられる。バッファー層として採用する金属酸化物は、無機層である酸化モリブデンと格子常数が類似したものであることが望ましい。
【0012】
層状構造を持つ酸化モリブデンに有機物をインターカレートする工程において、酸化モリブデンの層間距離が増加する。このため、酸化モリブデン薄膜は層方向(ac面)が基板面と平行であるように配向している必要がある(b軸配向)。このような配向性が実現されていない酸化モリブデン薄膜にインターカレートを行うと、層間距離の増加により発生する歪みのため、膜が基板から剥離する。b軸配向を実現するには、斜方晶である酸化モリブデンのa軸とc軸の平均軸長が基板の格子常数と類似することが望ましい。実際、金属酸化物単結晶基板として用いられるLaAlO3の(100)面との格子常数のミスマッチは約1%程度となっている。
【0013】
以上のことから、バッファー層として採用される金属酸化物としては、例えば、LaAlO3等ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物、蛍石型構造を有するCeO2等の金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。以上の様に、本発明においては、バッファー層は、元来、酸化モリブデンとの格子定数のマスマッチが大きく、配向した酸化モリブデン薄膜が形成されにくいシリコン基板表面上に形成されることで、配向した酸化モリブデン薄膜が成長するためのテンプレートの役割を果たし、その結果、ハイブリッド薄膜が剥離することなくシリコン基板上に形成されることを可能とするものである。
【0014】
バッファー層の成膜方法は、シリコン単結晶基板上に緻密で均質な膜が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、本発明では、溶液法及びスパッタリング法を採用した。溶液法による詳しいバッファー層の製膜工程を以下に示す。LaAlO3をバッファー層とする場合、市販のLa溶液及びAl溶液をLa:Al=1:1になるように混合し、十分に攪拌する。全金属イオン濃度は、0.05M/L程度とする。この溶液をシリコン単結晶基板上にスピンコーティングする。スピンコーティングの条件は、均一な膜が形成されれば特に限定されるものではないが、一例として、2000rpmで30秒である。
【0015】
次に、溶液をコーティングした基板を、空気中で熱処理する。熱処理温度は、通常800〜1100℃、好ましくは900〜1000℃である。熱処理時間は、通常10〜60分、好ましくは20〜40分である。CeO2をバッファー層とする場合は、市販のCe溶液を上記と同様の方法でスピンコートし、熱処理を行う。溶液中のCeイオン濃度は、0.05M/L程度とする。熱処理温度は、通常500〜800℃、好ましくは600〜700℃である。熱処理時間は、通常10〜60分、好ましくは20〜40分である。
【0016】
上記した条件で作製したバッファー層のX線回折パターンにおいて観察される回折ピークは、すべて目的とする金属酸化物相に起因するものであることが確認できる。更に、走査型電子顕微鏡観察から、当該バッファー層の膜厚は50〜100nmであり、バッファー層が基板全体に均一にかつ緻密に形成されていることが確認できる。
【0017】
上記バッファー層上に有機無機ハイブリッド薄膜を製造するに際し、(1)酸化モリブデン(MoO3)の高配向薄膜の作製、(2)酸化モリブデン薄膜への水和アルカリイオンのインターカレート、(3)水和アルカリイオンと導電性ポリマーあるいは有機イオンとの置換反応、の3段階の工程を経る。以下、それぞれの工程について詳しく述べる。
【0018】
工程(1)における酸化モリブデンの製膜方法は、高配向膜が得られる方法であれば、特に限定されるものではないが、本発明では、好適には、CVD法が採用される。CVD法におけるモリブデンソースについては、本発明では、好適には、ヘキサカルボニルモリブデンMo(CO)6が採用される。
【0019】
次に、工程(2)で、酸化モリブデン薄膜への水和アルカリイオンのインターカレートを行う。蒸留水を10分程度アルゴンガスでバブリングした後、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)及びモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)を添加し、攪拌することでこれらを溶解する。ここへ工程(1)で作製した、酸化モリブデン配向薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常5〜120秒、好ましくは10〜60秒程度である。この間、無色の酸化モリブデン薄膜は青色に変化し、酸化モリブデンが還元されると共に、水和ナトリウムイオンがインターカレートしたことが確認できる。
【0020】
浸漬後、薄膜を蒸留水ですばやく洗浄し、乾燥することで、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンがインターカレートした[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が得られる。インターカレーション反応の進行は、X線回折パターンから確認できる。水和ナトリウムイオンのインターカレーションにより、酸化モリブデンの層間が広がり、このため、(0k0)に指数付けされる回折ピークは低角度側にシフトする。
【0021】
次に、工程(3)で、水和アルカリイオンと導電性ポリマーあるいは有機イオンとの置換反応を行う。代表的な導電性ポリマーである、ポリピロール(PPy)との置換反応では、まず蒸留水にピロールを加え、超音波ホモジナイザーを用いて十分に攪拌混合した後、酸化剤を添加し、更に攪拌する。ここへ工程(2)で作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常3秒〜5分、好ましくは10〜60秒程度である。薄膜を取り出し、洗浄、乾燥することで(PPy)xMoO3薄膜が得られる。
【0022】
ここで用いる酸化剤は、ピロールを酸化させ得るものであれば特に制限されず、塩化鉄、ペルオキソ2硫酸アンモニウム、硝酸鉄などを例示することができる。ピロールの添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常50〜200倍当量、好ましくは100〜150倍当量である。酸化剤の添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常1〜3倍当量、好ましくは1.5〜2倍当量である。
【0023】
有機イオンとの置換反応においては、例えば、有機イオンとしてブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)を用いる場合、まず、ブチルアンモニウムクロライド(C4H9NH3Cl)を蒸留水に溶解し、ここに、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常3秒〜10分、好ましくは5〜60秒程度である。薄膜を取り出し、洗浄、乾燥することで、(C4H9NH3)xMoO3薄膜が得られる。C4H9NH3Clの添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常1〜10倍当量、好ましくは2〜7倍当量である。
【0024】
あらかじめバッファー層上に金電極を蒸着したシリコン単結晶基板を用いて、上記プロセスを経ることで、作製したセンサ素子のVOCガスに対するセンサ特性を評価した。通常、VOCガスに対して、既存のn型半導体酸化物からなる抵抗変化型のセンサは、抵抗値が低下することで応答する。しかしながら、本発明によって得られた、インターカレーション型有機無機ハイブリッド薄膜センサは、有機物として導電性ポリマーから構成されるもの、有機物として有機イオンから構成されるもの、のいずれの試料においても、VOCガスに対してセンサ抵抗が増加することで応答する。
【0025】
本発明の、バッファー層を持つシリコン単結晶基板上への有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法では、上記酸化モリブデン、及びポリピロール、あるいはブチルアンモニウムイオンを用いた場合と同様の方法を、酸化モリブデン及びポリピロール、あるいはブチルアンモニウムイオン以外の層状無機化合物、及び導電性ポリマー、あるいは有機イオンにも適用することができる。
【0026】
有機無機ハイブリッド薄膜によるガスセンサを形成できる層状無機化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、塩化ルテニウム、酸塩化鉄、硫化モリブデン等が、また、導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリチオール、ポリエチレンオキサイド等が、また、有機イオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられるが、これらに制限されるものではなく、これらと同効あるいは類似のものであれば、同様に使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、(1)シリコン基板上に適切なバッファー層を形成することで、導電性の有機無機ハイブリッド薄膜を安価なシリコン基板上に製造することが可能となる、(2)それにより、有機無機ハイブリッドセンサ素子の製造コストを格段に低下させることができる、(3)シリコン半導体分野で確立された技術を適用でき、センサ素子の小型化が可能となる、(4)シリコンウェハー上に素子形成することで、大量生産が可能となる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(1)溶液法によるCeO2バッファー層の形成
市販のCe溶液のCeイオン濃度を0.05M/Lに調整した。この溶液を約10mm角のシリコン単結晶基板表面にスピンコート法によりコーティングした。スピンコートの条件は、2000rpmで30秒とした。溶液をコーティングした基板を、空気中、700℃で30分間熱処理した。得られたバッファー層のX線回折パターンを図1(a)に示す。CeO2相の(200)ピークのみが観測され、配向したCeO2膜が形成されていることが確認できた。CeO2バッファー層表面の電子顕微鏡写真を図2に示す。緻密で均質な膜であることが分かる。膜厚は70nmであった。
【0030】
(2)MoO3薄膜の成膜
MoO3薄膜の作製には、CVD法を用いた。基板を、加熱用ヒーターを持つホルダーにセットした。モリブデンソースであるヘキサカルボニルモリブデン(Mo(CO)6)0.2gを石英ガラスボートに入れ、ソース室にセットし、ソース室を40℃にした。試料室及びソース室を含む系全体に酸素ガス(150ml/min)流し、試料室部分を電気炉により460℃に加熱し、更に、基板加熱用ヒーターにより基板温度を500℃にした。基板温度が安定した後、系全体を真空ポンプで排気し、真空度0.8Torrに調整した。15分間製膜した後、系全体を大気圧に戻した。これにより、ソースの揮発が抑制され、製膜が終了した。得られたバッファー層及びMoO3薄膜のX線回折パターンを図1(b)に示す。観測される回折ピークは、基板からのピークを除けば、層状構造を持つMoO3の(0k0)に指数付けが可能であり、MoO3のb軸配向膜が成長していることが分かる。
【0031】
(3)水和ナトリウムイオンのインターカレーション
蒸留水25mlを20分間アルゴンガスでバブリングした後、亜ジチオン酸ナトリウムNa2S2O4(0.4g,2.2mmol)及びモリブデン酸ナトリウムNa2MoO42H2O(6g,24.8mmol)を添加し、攪拌することで、これらを溶解した。ここへ、上記(2)で得られたMoO3薄膜を40秒間浸漬した。この間、無色の三酸化モリブデン薄膜は青色に変化した。浸漬後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中85℃で約30分間乾燥した。
【0032】
この薄膜試料のX線回折パターンを図1(c)に示す。(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、MoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が増加していることが分かる。図1(c)から求めた層間距離は、0.97nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.28nm増加している。この層間距離の広がりは、水和ナトリウムイオンNa(H2O)2がインターカレーションした場合に相当することから、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0033】
(4)(PPy)xMoO3薄膜の作製
蒸留水25mL中に、ピロール(2.0ml,28.9mmol)を加え、超音波ホモジナイザーで3分間処理した後、酸化剤として塩化鉄FeCl3(0.086g,0.51mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。ここへ、上記[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を2分間浸漬した。ここで薄膜を取り出し、蒸留水で洗浄し、空気中80℃で約20分間乾燥した。この薄膜試料のX線回折パターンを図1(d)に示す。
【0034】
(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、[Na(H2O)2]xMoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が増加していることが分かる。図1(d)から求めた層間距離は、1.31nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.62nm増加している。この層間距離の広がりは、ポリピロールがインターカレーションした場合に相当することから、(PPy)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0035】
(5)電気的特性及びセンサ特性の評価
(PPy)xMoO3薄膜センサのアセトアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。図3に、30ppmのアセトアルデヒドガスに対する応答を示す。抵抗値が変化することで可逆的に応答することが確認できた。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、CeO2バッファー層をCVD法で作製した。MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜及び(PPy)xMoO3薄膜の作製は、実施例1の方法に準じて行った。図4に、CVD法で作製したCeO2のX線回折パターンを示す。CeO2の(200)及び(311)ピークが観測され、CeO2が生成していることが確認できた。当該CeO2バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜及び(PPy)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図5に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜の形成が確認できる。
【実施例3】
【0037】
本実施例では、CeO2バッファー層をスパッタリング法で作製した。基板温度150℃でスパッタリングを行い、その後、空気中800℃で30分間熱処理を行った。MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜の作製は、実施例1の方法に準じて行った。図6に、スパッタリング法で作製したCeO2薄膜、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す。実施例1の場合と同様に、(PPy)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【実施例4】
【0038】
本実施例では、溶液法により作製したCeO2バッファー層上に、有機イオンであるブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)がMoO3層間にインターカレートした(C4H9NH3)xMoO3薄膜を作製した。実施例1の方法に準じて、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を作製した。更に、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を、ブチルアンモニウムクロライド(C4H9NH3Cl)0.13g(1.2mmol)を蒸留水20mlに溶解することで作製した水溶液中に1分間浸漬した。薄膜を取り出し、蒸留水で洗浄した後、空気中80℃で約15分間乾燥した。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図7に示す。
【0039】
(C4H9NH3)xMoO3薄膜においても、(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、[Na(H2O)2]xMoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が大きくなっていることが分かる。図7(b)から求めた層間距離は、1.18nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.49nm増加している。この層間距離の広がりは、ブチルアンモニウムイオンがインターカレーションした場合に相当することから、(C4H9NH3)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0040】
(C4H9NH3)xMoO3薄膜センサのホルムアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した(図8)。(C4H9NH3)xMoO3薄膜センサにおいても、(PPy)xMoO3薄膜センサの場合と同様に、ホルムアルデヒドガスに対して抵抗値が増加することで応答した。
【実施例5】
【0041】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、(PPy)xMoO3薄膜を作製した。市販のAl溶液及びLa溶液を、La:Al=1:1の比になるように混合した。更に、溶液の金属イオン濃度を0.05M/Lに調整した。この溶液を約10mmの角シリコン単結晶基板表面にスピンコート法によりコーティングした。スピンコートの条件は、2000rpmで30秒とした。溶液をコーティングした基板を空気中、1000℃で30分間熱処理を行った。得られたバッファー層のSEM写真を図9に示す。均一な膜が形成されていることが分かる。膜厚は約70nmであった。
【0042】
溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、実施例1に準じた方法により、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜を作製した。それぞれのX線回折パターンを図10に示す。それぞれの層間距離の大きさより、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜が生成していることを確認した。
【0043】
(PPy)xMoO3薄膜センサのアセトアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。図11に、6ppmのアセトアルデヒドガスに対する応答を示す。抵抗値が変化することで可逆的に応答することが確認できた。
【実施例6】
【0044】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、有機イオンであるブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)がMoO3層間にインターカレートした(C4H9NH3)xMoO3薄膜を作製した。実施例5の方法に準じて、LaAlO3バッファー層を、実施例1の方法に準じてMoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を、実施例4の方法に準じて、(C4H9NH3)xMoO3薄膜をそれぞれ作製した。当該LaAlO3バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図12に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜の形成が確認できた。
【実施例7】
【0045】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、高分子であるポリアニリン(PANI)がMoO3層間にインターカレートした(PANI)xMoO3薄膜を作製した。実施例5の方法に準じて、LaAlO3バッファー層を、実施例1の方法に準じて、MoO3薄膜、及び[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を作製した。PANIのインターカレーションは、以下の方法により行った。
【0046】
アルゴンガスでバブリングした蒸留水15mL中にアニリン(1.5ml)を加え、塩酸を用いてpHを1.0に調整した。更に、ここに、重合開始剤である(NH4)2S2O8 を0.05g加え、30分間攪拌した。ここへ、上記[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒間浸漬させた後、蒸留水及びアセトンで洗浄し、80℃で約30分間乾燥した。当該LaAlO3バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PANI)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図13に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PANI)xMoO3薄膜の形成が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明は、有機無機ハイブリッド薄膜及びその製造方法に係るものであり、本発明により、シリコン基板上に、適切な金属酸化物のバッファー層を形成することで、導電性の有機無機ハイブリッド薄膜を安価なシリコン基板上に製造することが可能となる。それにより、本発明では、シリコン半導体分野で確立された技術を適用でき、センサ素子の小型化が可能となり、有機無機ハイブリッドセンサ素子の製造コストを格段に低下させることができる。また、本発明は、シリコンウェハー上に素子形成することが可能であり、それにより、大量生産が可能となる。本発明は、例えば、VOCに対して優れた選択性を示す、化学センサを広く普及するための新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1に示す、(a)CeO2バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1に示すCeO2バッファー層表面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例1に示す(PPy)xMoO3薄膜の30ppmのホルムアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図4】実施例2に示すCeO2バッファー層のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例2に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図6】実施例3に示す、(a)CeO2バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図7】実施例4に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(C4H9NH3)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図8】実施例4に示す(C4H9NH3)xMoO3薄膜の50ppmのホルムアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図9】実施例5に示すLaAlO3バッファー層表面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例5に示す、(a)LaAlO3バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例5に示す(PPy)xMoO3薄膜の6ppmのアセトアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図12】実施例6に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(C4H9NH3)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図13】実施例7に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(PANI)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法及び応用に関するものであり、更に詳しくは、シリコン単結晶基板上へ有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜素子に関するものである。本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来のハイブリッド薄膜では、高価な金属酸化物単結晶基板が必要であるという問題があることを踏まえ、シリコン単結晶基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させることにより、安価なシリコン単結晶基板上へ有機無機ハイブリッド薄膜を製膜する技術を確立したものである。本発明は、シリコン基板上にエレクトロデバイス材料として使用し得る高品質の導電性有機無機ハイブリッド薄膜を製造することを可能とする新規導電性有機無機ハイブリッド薄膜、その製造方法、及びその製品、特に、導電性部材、化学センサ部材、を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
有機無機ハイブリッド材料は、無機化合物の持つ、優れた耐熱性及び機械的強度と、有機化合物の持つ、優れた化学的特性を併せ持つ、従来にはない新しい材料であり、光学的特性、電気的特性、あるいは機械的特性等に特徴ある機能を有するため、このハイブリッド材料は、様々な分野への応用が期待されている。その中で、電気伝導性を示す有機無機ハイブリッド材料は、例えば、発光素子、トランジスタ、電池、化学センサ等への応用に高いポテンシャルを持つことが報告されている。
【0003】
上記有機無機ハイブリッド材料の、特に、化学センサへの応用に関しては、分子認識機能を持つ有機化合物と検知対象ガスの有無という化学的情報を電気的な信号に変換して外部に出力できる機能を持つ無機化合物を、ナノレベルで複合化したハイブリッド材料を用いることが、ガス選択性の向上に有効であることが報告されている(非特許文献1)。そして、具体的な事例として、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO3)を主成分とし、酸化モリブデン層間に、有機化合物が挿入したインターカレーション型有機無機ハイブリッド材料において、当該材料が揮発性有機化合物(VOC)に対して、抵抗値が変化することで応答すると共に、トルエン、ベンゼンにはほとんど応答しないのに対して、アルデヒド、アルコール、塩素系ガスに対して選択的に応答を示すという、優れたガス選択性を有することを利用して、当該材料から成る化学センサ素子が提案されている(特許文献1)。
【0004】
有機無機ハイブリッド材料の素子への応用には、薄膜化技術の開発が必要不可欠であるが、上記インターカレーション型有機無機ハイブリッド材料については、既に、(1)層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜を作製する、(2)上記高配向薄膜に水和ナトリウムイオンをインターカレートする、(3)これを有機化合物と置換する、ことを特徴とする方法により、高品質薄膜の製造方法が開発されており(特許文献2)、上記薄膜が、VOCガスセンサとして機能することも報告されている(特許文献3、及び非特許文献2、3)。しかしながら、上記薄膜の製造には、高価なLaAlO3等の金属酸化物単結晶基板が必要であり、当技術分野においては、上記ハイブリッド材料のセンサデバイスへの応用を実現するために、安価なシリコン基板上への薄膜製造技術の開発が急務の課題となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−271482号公報
【特許文献2】特願2003−422141号
【特許文献3】特願2004−140528号
【非特許文献1】化学センサ,vol.20,No.3,106(2004)
【非特許文献2】Proc. MRS 2003 Fall Meeting,785,D14.9.1−6(2004)
【非特許文献3】Chem. Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、酸化モリブデンを主成分とする導電性の有機無機ハイブリッド薄膜をシリコン基板上に製造する方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、酸化モリブデンと格子定数が類似した金属酸化物をバッファー層とし、この上にCVD法で作製した酸化モリブデンの高配向膜に、まず、水和ナトリウムイオンをインターカレートし、更に、導電性ポリマーあるいは有機イオンと置換する方法により、有機無機ハイブリッド薄膜を得ることができること、そして、得られた薄膜は、金属酸化物単結晶基板を用いた場合と同様に、VOCガスに対して抵抗値が変化することで応答すること、を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、エレクトロデバイス材料として使用し得る導電性有機無機ハイブリッド薄膜、該ハイブリッド薄膜を製造することを可能とする導電性有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法、及びその応用製品、特に、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)シリコン単結晶基板と該基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させて製膜した有機無機ハイブリッド薄膜から成ることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜。
(2)有機無機ハイブリッド薄膜が、層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換したものである前記(1)記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(3)有機無機ハイブリッド薄膜が、酸化モリブデンを主成分としている前記(1)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(4)有機無機ハイブリッド薄膜が、導電性ポリマーを含んでいる前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(5)有機無機ハイブリッド薄膜が、有機イオンを含んでいる前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(6)バッファー層が、酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物である前記(1)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
(7)シリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜を製造する方法において、シリコン単結晶基板上に、金属酸化物からなるバッファー層を介在させて有機無機ハイブリッド薄膜を成長させることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
(8)層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換した有機無機ハイブリッド膜を成長させる前記(7)に記載の有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
(9)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
(10)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として含むことを特徴とする化学センサ部材。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、上述のように、酸化モリブデンと格子定数が類似した金属酸化物をバッファー層として備えたシリコン単結晶基板上に、CVD法により高配向酸化モリブデン薄膜を形成し、水和アルカリ金属イオンをインターカレートした後、更に、これを有機化合物と置換することにより、導電性インターカレート型有機無機ハイブリッド薄膜を製造することを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、上述の特定の構成を採用することで、安価なシリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製造することが可能となる。本発明は、シリコン単結晶基板上に、有機無機ハイブリッドの無機成分である酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物をバッファー層とすることにより達成される。バッファー層を持たないシリコン単結晶基板を用いた場合、CVD法により作製した酸化モリブデン薄膜に水和アルカリ金属イオンをインターカレートする工程において、薄膜が基板から剥離するという問題がある
【0011】
金属酸化物単結晶基板を用いた場合は、このような問題は発生しないことから、シリコン単結晶基板上に適切な金属酸化物のバッファー層を形成し、この上に上記プロセスにより有機無機ハイブリッド薄膜を形成すれば、剥離の問題が回避できるものと考えられる。バッファー層として採用する金属酸化物は、無機層である酸化モリブデンと格子常数が類似したものであることが望ましい。
【0012】
層状構造を持つ酸化モリブデンに有機物をインターカレートする工程において、酸化モリブデンの層間距離が増加する。このため、酸化モリブデン薄膜は層方向(ac面)が基板面と平行であるように配向している必要がある(b軸配向)。このような配向性が実現されていない酸化モリブデン薄膜にインターカレートを行うと、層間距離の増加により発生する歪みのため、膜が基板から剥離する。b軸配向を実現するには、斜方晶である酸化モリブデンのa軸とc軸の平均軸長が基板の格子常数と類似することが望ましい。実際、金属酸化物単結晶基板として用いられるLaAlO3の(100)面との格子常数のミスマッチは約1%程度となっている。
【0013】
以上のことから、バッファー層として採用される金属酸化物としては、例えば、LaAlO3等ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物、蛍石型構造を有するCeO2等の金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。以上の様に、本発明においては、バッファー層は、元来、酸化モリブデンとの格子定数のマスマッチが大きく、配向した酸化モリブデン薄膜が形成されにくいシリコン基板表面上に形成されることで、配向した酸化モリブデン薄膜が成長するためのテンプレートの役割を果たし、その結果、ハイブリッド薄膜が剥離することなくシリコン基板上に形成されることを可能とするものである。
【0014】
バッファー層の成膜方法は、シリコン単結晶基板上に緻密で均質な膜が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、本発明では、溶液法及びスパッタリング法を採用した。溶液法による詳しいバッファー層の製膜工程を以下に示す。LaAlO3をバッファー層とする場合、市販のLa溶液及びAl溶液をLa:Al=1:1になるように混合し、十分に攪拌する。全金属イオン濃度は、0.05M/L程度とする。この溶液をシリコン単結晶基板上にスピンコーティングする。スピンコーティングの条件は、均一な膜が形成されれば特に限定されるものではないが、一例として、2000rpmで30秒である。
【0015】
次に、溶液をコーティングした基板を、空気中で熱処理する。熱処理温度は、通常800〜1100℃、好ましくは900〜1000℃である。熱処理時間は、通常10〜60分、好ましくは20〜40分である。CeO2をバッファー層とする場合は、市販のCe溶液を上記と同様の方法でスピンコートし、熱処理を行う。溶液中のCeイオン濃度は、0.05M/L程度とする。熱処理温度は、通常500〜800℃、好ましくは600〜700℃である。熱処理時間は、通常10〜60分、好ましくは20〜40分である。
【0016】
上記した条件で作製したバッファー層のX線回折パターンにおいて観察される回折ピークは、すべて目的とする金属酸化物相に起因するものであることが確認できる。更に、走査型電子顕微鏡観察から、当該バッファー層の膜厚は50〜100nmであり、バッファー層が基板全体に均一にかつ緻密に形成されていることが確認できる。
【0017】
上記バッファー層上に有機無機ハイブリッド薄膜を製造するに際し、(1)酸化モリブデン(MoO3)の高配向薄膜の作製、(2)酸化モリブデン薄膜への水和アルカリイオンのインターカレート、(3)水和アルカリイオンと導電性ポリマーあるいは有機イオンとの置換反応、の3段階の工程を経る。以下、それぞれの工程について詳しく述べる。
【0018】
工程(1)における酸化モリブデンの製膜方法は、高配向膜が得られる方法であれば、特に限定されるものではないが、本発明では、好適には、CVD法が採用される。CVD法におけるモリブデンソースについては、本発明では、好適には、ヘキサカルボニルモリブデンMo(CO)6が採用される。
【0019】
次に、工程(2)で、酸化モリブデン薄膜への水和アルカリイオンのインターカレートを行う。蒸留水を10分程度アルゴンガスでバブリングした後、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)及びモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)を添加し、攪拌することでこれらを溶解する。ここへ工程(1)で作製した、酸化モリブデン配向薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常5〜120秒、好ましくは10〜60秒程度である。この間、無色の酸化モリブデン薄膜は青色に変化し、酸化モリブデンが還元されると共に、水和ナトリウムイオンがインターカレートしたことが確認できる。
【0020】
浸漬後、薄膜を蒸留水ですばやく洗浄し、乾燥することで、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンがインターカレートした[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が得られる。インターカレーション反応の進行は、X線回折パターンから確認できる。水和ナトリウムイオンのインターカレーションにより、酸化モリブデンの層間が広がり、このため、(0k0)に指数付けされる回折ピークは低角度側にシフトする。
【0021】
次に、工程(3)で、水和アルカリイオンと導電性ポリマーあるいは有機イオンとの置換反応を行う。代表的な導電性ポリマーである、ポリピロール(PPy)との置換反応では、まず蒸留水にピロールを加え、超音波ホモジナイザーを用いて十分に攪拌混合した後、酸化剤を添加し、更に攪拌する。ここへ工程(2)で作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常3秒〜5分、好ましくは10〜60秒程度である。薄膜を取り出し、洗浄、乾燥することで(PPy)xMoO3薄膜が得られる。
【0022】
ここで用いる酸化剤は、ピロールを酸化させ得るものであれば特に制限されず、塩化鉄、ペルオキソ2硫酸アンモニウム、硝酸鉄などを例示することができる。ピロールの添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常50〜200倍当量、好ましくは100〜150倍当量である。酸化剤の添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常1〜3倍当量、好ましくは1.5〜2倍当量である。
【0023】
有機イオンとの置換反応においては、例えば、有機イオンとしてブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)を用いる場合、まず、ブチルアンモニウムクロライド(C4H9NH3Cl)を蒸留水に溶解し、ここに、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を浸漬する。浸漬時間は、通常3秒〜10分、好ましくは5〜60秒程度である。薄膜を取り出し、洗浄、乾燥することで、(C4H9NH3)xMoO3薄膜が得られる。C4H9NH3Clの添加量は、[Na(H2O)2]xMoO3に対して、通常1〜10倍当量、好ましくは2〜7倍当量である。
【0024】
あらかじめバッファー層上に金電極を蒸着したシリコン単結晶基板を用いて、上記プロセスを経ることで、作製したセンサ素子のVOCガスに対するセンサ特性を評価した。通常、VOCガスに対して、既存のn型半導体酸化物からなる抵抗変化型のセンサは、抵抗値が低下することで応答する。しかしながら、本発明によって得られた、インターカレーション型有機無機ハイブリッド薄膜センサは、有機物として導電性ポリマーから構成されるもの、有機物として有機イオンから構成されるもの、のいずれの試料においても、VOCガスに対してセンサ抵抗が増加することで応答する。
【0025】
本発明の、バッファー層を持つシリコン単結晶基板上への有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法では、上記酸化モリブデン、及びポリピロール、あるいはブチルアンモニウムイオンを用いた場合と同様の方法を、酸化モリブデン及びポリピロール、あるいはブチルアンモニウムイオン以外の層状無機化合物、及び導電性ポリマー、あるいは有機イオンにも適用することができる。
【0026】
有機無機ハイブリッド薄膜によるガスセンサを形成できる層状無機化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、塩化ルテニウム、酸塩化鉄、硫化モリブデン等が、また、導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリチオール、ポリエチレンオキサイド等が、また、有機イオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられるが、これらに制限されるものではなく、これらと同効あるいは類似のものであれば、同様に使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、(1)シリコン基板上に適切なバッファー層を形成することで、導電性の有機無機ハイブリッド薄膜を安価なシリコン基板上に製造することが可能となる、(2)それにより、有機無機ハイブリッドセンサ素子の製造コストを格段に低下させることができる、(3)シリコン半導体分野で確立された技術を適用でき、センサ素子の小型化が可能となる、(4)シリコンウェハー上に素子形成することで、大量生産が可能となる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(1)溶液法によるCeO2バッファー層の形成
市販のCe溶液のCeイオン濃度を0.05M/Lに調整した。この溶液を約10mm角のシリコン単結晶基板表面にスピンコート法によりコーティングした。スピンコートの条件は、2000rpmで30秒とした。溶液をコーティングした基板を、空気中、700℃で30分間熱処理した。得られたバッファー層のX線回折パターンを図1(a)に示す。CeO2相の(200)ピークのみが観測され、配向したCeO2膜が形成されていることが確認できた。CeO2バッファー層表面の電子顕微鏡写真を図2に示す。緻密で均質な膜であることが分かる。膜厚は70nmであった。
【0030】
(2)MoO3薄膜の成膜
MoO3薄膜の作製には、CVD法を用いた。基板を、加熱用ヒーターを持つホルダーにセットした。モリブデンソースであるヘキサカルボニルモリブデン(Mo(CO)6)0.2gを石英ガラスボートに入れ、ソース室にセットし、ソース室を40℃にした。試料室及びソース室を含む系全体に酸素ガス(150ml/min)流し、試料室部分を電気炉により460℃に加熱し、更に、基板加熱用ヒーターにより基板温度を500℃にした。基板温度が安定した後、系全体を真空ポンプで排気し、真空度0.8Torrに調整した。15分間製膜した後、系全体を大気圧に戻した。これにより、ソースの揮発が抑制され、製膜が終了した。得られたバッファー層及びMoO3薄膜のX線回折パターンを図1(b)に示す。観測される回折ピークは、基板からのピークを除けば、層状構造を持つMoO3の(0k0)に指数付けが可能であり、MoO3のb軸配向膜が成長していることが分かる。
【0031】
(3)水和ナトリウムイオンのインターカレーション
蒸留水25mlを20分間アルゴンガスでバブリングした後、亜ジチオン酸ナトリウムNa2S2O4(0.4g,2.2mmol)及びモリブデン酸ナトリウムNa2MoO42H2O(6g,24.8mmol)を添加し、攪拌することで、これらを溶解した。ここへ、上記(2)で得られたMoO3薄膜を40秒間浸漬した。この間、無色の三酸化モリブデン薄膜は青色に変化した。浸漬後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中85℃で約30分間乾燥した。
【0032】
この薄膜試料のX線回折パターンを図1(c)に示す。(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、MoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が増加していることが分かる。図1(c)から求めた層間距離は、0.97nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.28nm増加している。この層間距離の広がりは、水和ナトリウムイオンNa(H2O)2がインターカレーションした場合に相当することから、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0033】
(4)(PPy)xMoO3薄膜の作製
蒸留水25mL中に、ピロール(2.0ml,28.9mmol)を加え、超音波ホモジナイザーで3分間処理した後、酸化剤として塩化鉄FeCl3(0.086g,0.51mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。ここへ、上記[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を2分間浸漬した。ここで薄膜を取り出し、蒸留水で洗浄し、空気中80℃で約20分間乾燥した。この薄膜試料のX線回折パターンを図1(d)に示す。
【0034】
(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、[Na(H2O)2]xMoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が増加していることが分かる。図1(d)から求めた層間距離は、1.31nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.62nm増加している。この層間距離の広がりは、ポリピロールがインターカレーションした場合に相当することから、(PPy)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0035】
(5)電気的特性及びセンサ特性の評価
(PPy)xMoO3薄膜センサのアセトアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。図3に、30ppmのアセトアルデヒドガスに対する応答を示す。抵抗値が変化することで可逆的に応答することが確認できた。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、CeO2バッファー層をCVD法で作製した。MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜及び(PPy)xMoO3薄膜の作製は、実施例1の方法に準じて行った。図4に、CVD法で作製したCeO2のX線回折パターンを示す。CeO2の(200)及び(311)ピークが観測され、CeO2が生成していることが確認できた。当該CeO2バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜及び(PPy)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図5に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜の形成が確認できる。
【実施例3】
【0037】
本実施例では、CeO2バッファー層をスパッタリング法で作製した。基板温度150℃でスパッタリングを行い、その後、空気中800℃で30分間熱処理を行った。MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜の作製は、実施例1の方法に準じて行った。図6に、スパッタリング法で作製したCeO2薄膜、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す。実施例1の場合と同様に、(PPy)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【実施例4】
【0038】
本実施例では、溶液法により作製したCeO2バッファー層上に、有機イオンであるブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)がMoO3層間にインターカレートした(C4H9NH3)xMoO3薄膜を作製した。実施例1の方法に準じて、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を作製した。更に、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を、ブチルアンモニウムクロライド(C4H9NH3Cl)0.13g(1.2mmol)を蒸留水20mlに溶解することで作製した水溶液中に1分間浸漬した。薄膜を取り出し、蒸留水で洗浄した後、空気中80℃で約15分間乾燥した。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図7に示す。
【0039】
(C4H9NH3)xMoO3薄膜においても、(0k0)で指数付けされるピークが観測されるが、これらのピークは、[Na(H2O)2]xMoO3に比較して低角度側にシフトしており、層間距離が大きくなっていることが分かる。図7(b)から求めた層間距離は、1.18nmであり、MoO3の層間距離(0.69nm)に比べて0.49nm増加している。この層間距離の広がりは、ブチルアンモニウムイオンがインターカレーションした場合に相当することから、(C4H9NH3)xMoO3薄膜が生成していることが確認できた。
【0040】
(C4H9NH3)xMoO3薄膜センサのホルムアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した(図8)。(C4H9NH3)xMoO3薄膜センサにおいても、(PPy)xMoO3薄膜センサの場合と同様に、ホルムアルデヒドガスに対して抵抗値が増加することで応答した。
【実施例5】
【0041】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、(PPy)xMoO3薄膜を作製した。市販のAl溶液及びLa溶液を、La:Al=1:1の比になるように混合した。更に、溶液の金属イオン濃度を0.05M/Lに調整した。この溶液を約10mmの角シリコン単結晶基板表面にスピンコート法によりコーティングした。スピンコートの条件は、2000rpmで30秒とした。溶液をコーティングした基板を空気中、1000℃で30分間熱処理を行った。得られたバッファー層のSEM写真を図9に示す。均一な膜が形成されていることが分かる。膜厚は約70nmであった。
【0042】
溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、実施例1に準じた方法により、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜を作製した。それぞれのX線回折パターンを図10に示す。それぞれの層間距離の大きさより、MoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PPy)xMoO3薄膜が生成していることを確認した。
【0043】
(PPy)xMoO3薄膜センサのアセトアルデヒドガスに対するセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。図11に、6ppmのアセトアルデヒドガスに対する応答を示す。抵抗値が変化することで可逆的に応答することが確認できた。
【実施例6】
【0044】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、有機イオンであるブチルアンモニウムイオン(C4H9NH3+)がMoO3層間にインターカレートした(C4H9NH3)xMoO3薄膜を作製した。実施例5の方法に準じて、LaAlO3バッファー層を、実施例1の方法に準じてMoO3薄膜、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を、実施例4の方法に準じて、(C4H9NH3)xMoO3薄膜をそれぞれ作製した。当該LaAlO3バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図12に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(C4H9NH3)xMoO3薄膜の形成が確認できた。
【実施例7】
【0045】
本実施例では、溶液法により作製したLaAlO3バッファー層上に、高分子であるポリアニリン(PANI)がMoO3層間にインターカレートした(PANI)xMoO3薄膜を作製した。実施例5の方法に準じて、LaAlO3バッファー層を、実施例1の方法に準じて、MoO3薄膜、及び[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を作製した。PANIのインターカレーションは、以下の方法により行った。
【0046】
アルゴンガスでバブリングした蒸留水15mL中にアニリン(1.5ml)を加え、塩酸を用いてpHを1.0に調整した。更に、ここに、重合開始剤である(NH4)2S2O8 を0.05g加え、30分間攪拌した。ここへ、上記[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒間浸漬させた後、蒸留水及びアセトンで洗浄し、80℃で約30分間乾燥した。当該LaAlO3バッファー層上に作製した[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PANI)xMoO3薄膜のX線回折パターンを図13に示す。[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(PANI)xMoO3薄膜の形成が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明は、有機無機ハイブリッド薄膜及びその製造方法に係るものであり、本発明により、シリコン基板上に、適切な金属酸化物のバッファー層を形成することで、導電性の有機無機ハイブリッド薄膜を安価なシリコン基板上に製造することが可能となる。それにより、本発明では、シリコン半導体分野で確立された技術を適用でき、センサ素子の小型化が可能となり、有機無機ハイブリッドセンサ素子の製造コストを格段に低下させることができる。また、本発明は、シリコンウェハー上に素子形成することが可能であり、それにより、大量生産が可能となる。本発明は、例えば、VOCに対して優れた選択性を示す、化学センサを広く普及するための新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1に示す、(a)CeO2バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1に示すCeO2バッファー層表面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例1に示す(PPy)xMoO3薄膜の30ppmのホルムアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図4】実施例2に示すCeO2バッファー層のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例2に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図6】実施例3に示す、(a)CeO2バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図7】実施例4に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(C4H9NH3)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図8】実施例4に示す(C4H9NH3)xMoO3薄膜の50ppmのホルムアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図9】実施例5に示すLaAlO3バッファー層表面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例5に示す、(a)LaAlO3バッファー層、(b)MoO3薄膜、(c)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(d)(PPy)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例5に示す(PPy)xMoO3薄膜の6ppmのアセトアルデヒドガスに対するセンサ応答を示す図である。
【図12】実施例6に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(C4H9NH3)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【図13】実施例7に示す、(a)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜、及び(b)(PANI)xMoO3薄膜、のX線回折パターンを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶基板と該基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させて製膜した有機無機ハイブリッド薄膜から成ることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項2】
有機無機ハイブリッド薄膜が、層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換したものである請求項1記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項3】
有機無機ハイブリッド薄膜が、酸化モリブデンを主成分としている請求項1に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項4】
有機無機ハイブリッド薄膜が、導電性ポリマーを含んでいる請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項5】
有機無機ハイブリッド薄膜が、有機イオンを含んでいる請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項6】
バッファー層が、酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物である請求項1に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項7】
シリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜を製造する方法において、シリコン単結晶基板上に、金属酸化物からなるバッファー層を介在させて有機無機ハイブリッド薄膜を成長させることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
【請求項8】
層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換した有機無機ハイブリッド膜を成長させる請求項7に記載の有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として含むことを特徴とする化学センサ部材。
【請求項1】
シリコン単結晶基板と該基板上に金属酸化物からなるバッファー層を介在させて製膜した有機無機ハイブリッド薄膜から成ることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項2】
有機無機ハイブリッド薄膜が、層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換したものである請求項1記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項3】
有機無機ハイブリッド薄膜が、酸化モリブデンを主成分としている請求項1に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項4】
有機無機ハイブリッド薄膜が、導電性ポリマーを含んでいる請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項5】
有機無機ハイブリッド薄膜が、有機イオンを含んでいる請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項6】
バッファー層が、酸化モリブデンと格子常数が類似した金属酸化物である請求項1に記載の有機無機ハイブリッド薄膜。
【請求項7】
シリコン単結晶基板上に有機無機ハイブリッド薄膜を製膜した有機無機ハイブリッド薄膜を製造する方法において、シリコン単結晶基板上に、金属酸化物からなるバッファー層を介在させて有機無機ハイブリッド薄膜を成長させることを特徴とする有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
【請求項8】
層状構造を持つ無機化合物の高配向薄膜に、水和アルカリ金属イオンをインターカレートし、更に、これを有機化合物と置換した有機無機ハイブリッド膜を成長させる請求項7に記載の有機無機ハイブリッド薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド薄膜をセンサ素子として含むことを特徴とする化学センサ部材。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図9】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図9】
【公開番号】特開2006−315933(P2006−315933A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142706(P2005−142706)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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