説明

有機無機複合ゲル発泡体及びその製造方法

【課題】軽量性と、高い伸縮性と高い圧縮性、及び表面粘着性、及び広い範囲で制御された柔軟性、更に大気中での安定性を併せ持つゲル発泡体を提供する。
【解決手段】水溶性有機モノマーの重合物と層状剥離した粘土鉱物と揮発性の低い媒体と熱膨張マイクロカプセルを効果的に複合化したゲル発泡体、即ち、水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマーの重合物と膨潤性粘土鉱物とが形成する三次元網目中に、媒体及び熱膨張性マイクロカプセルの膨張したものを含有する有機無機複合ゲル発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療、医療機器、医療予防、健康、スポーツ用具、衛生用品、家庭用品、分析機器、建築、土木、機械、運輸、電子部材、農業、包装などの分野で用いられる軽量で伸縮性に優れたゲル発泡体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲル、特に高分子を基材とした高分子ゲルが、土木・建築、自動車、住宅、農業、電子・情報機器、医療、医療機器など多くの分野で用いられている(非特許文献1参照)。この中で、例えば振動吸収材や衝撃吸収材、吸水材、充填材、表面被覆材などを始めとする多くの用途で、ゴムと同等の高い伸縮性を有し、且つ軽量(低密度)性や高度の柔軟性を有する高分子ゲルが必要とされていた。これまで、特定の有機モノマーの重合物に対して発泡剤等を用いて発泡させることによりヒドロゲル発泡体が得られることが知られている(特許文献1及び2参照)。また最近、崩壊剤と呼ぶ吸水性の有機高分子粒子を有機モノマー及び有機架橋剤と共に共存させて重合させることにより、強度の向上したヒドロゲル発泡体が得られることが報告されている(特許文献3参照)。しかし、いずれも有機架橋剤を用いて架橋される従来型ヒドロゲルを発泡させたものであり、水を吸収した状態(ヒドロゲル)において十分な軽量性(低密度)、高伸縮性及び柔軟性を併せ持つ材料は得られていなかった。これに対して本発明者らは、水溶性有機高分子と膨潤性粘土鉱物からなるゲルが優れた伸縮性(力学物性)を有するゲルとなることを報告した(特許文献4および5参照)。且つ、これに炭化水素や空気などを導入して発泡させることで、軽量性と優れた伸縮性及び柔軟性を併せ持つゲル発泡体が得られることを報告している(特許文献6参照)。しかし、このゲル発泡体は基本的にヒドロゲルであるため、大気中での保持で水分が放出されたり、また大きな繰り返し圧縮を受けることでガス状発泡剤が放出されたりして、ゲル発泡体の形状や体積が変化する問題があった。また表面に粘着性を付与することなどは出来なかった。
【0003】
一方、有機高分子としてシリコンポリマーを用い、シリコン化合物を媒体としたいわゆるシリコンゲルに関しては、例えば、NaCl抽出によるシリコンゲルや微小中空粒子含有シリコンゲルが報告されている(特許文献7および8)。これらのゲルは、シリコンポリマーを用いた場合の欠点である比重が大きいという欠点を一部改良はしているが、軽量化が充分でないこと、力学物性(柔軟性や弾性率)を広い範囲で制御することが難しいこと、また、シリコンを用いることによるコスト高が避けられず用途が限定されるといった欠点を有していた。従って、種々の用途に有用に用いられるための、高伸縮性および高圧縮性で、且つ、表面粘着性を有し、且つ、柔軟性および弾性率が広い範囲で制御され、且つ軽量(低密度)で、且つ大気中でも安定して用いられる材料は実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,338,766号
【特許文献2】米国特許第5,451,613号
【特許文献3】特表2002−501563号
【特許文献4】特開2002−53629号
【特許文献5】米国特許676710B2号
【特許文献6】特開2004−339431号
【特許文献7】日本特許2841088号
【特許文献8】特公平6−25304号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】長田義仁、梶原莞爾編、ゲルハンドブック、「エヌ・ティー・エヌ」(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、軽量性と、高い伸縮性と高い圧縮性、及び表面粘着性、及び広い範囲で制御された柔軟性、更に大気中での安定性を併せ持つゲル発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、特に水溶性有機モノマーの重合物と層状剥離した粘土鉱物と揮発性の低い媒体と熱膨張マイクロカプセルを効果的に複合化することより、軽量性、高い伸縮性および圧縮性、表面粘着性、および広い範囲で制御可能な柔軟性、更に大気中での安定性を併せ持つ有機無機複合ゲル発泡体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)とが形成する三次元網目中に、媒体(C)及び熱膨張性マイクロカプセル(D)の膨張したもの(D’)を含有することを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体を提供する。
【0009】
また、本発明は、水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマー、膨潤性粘土鉱物(B)、水及び熱膨張性マイクロカプセル(D)を混合し、水中で層状に剥離した膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で該有機モノマーを重合して水溶性有機モノマーの重合物(A)と層状剥離した膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目を形成し、次いで、水の一部又は全部を低揮発性媒体で置換した後、熱膨張性マイクロカプセル(D)を膨張させることを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体の製造方法を提供する。
【0010】
更に、本発明は、水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマー、膨潤性粘土鉱物(B)、水、低揮発性媒体及び熱膨張性マイクロカプセル(D)を混合し、水中で層状に剥離した膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で該有機モノマーを重合して水溶性有機モノマーの重合物(A)と層状剥離した膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目を形成し、次いで、熱膨張性マイクロカプセル(D)を膨張させることを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、軽量性(低密度)、高伸縮性、広い範囲で制御された柔軟性(弾性率)を兼ね備え、且つ、大気中での安定性を併せ持つ有機無機複合ゲル発泡体を提供する。また、得られた有機無機複合ゲル発泡体は、生体に対する安全性、表面粘着性、調湿性(水分吸湿性および水分放出性)なども併せ持つことができる。得られた有機無機複合ゲル発泡体は、同一又は異なる組成の有機無機複合ゲル発泡体と複合化したり、他の多くの基材(高分子、セラミック、金属、人体組織)と複合化して用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例2で得られた星型形状の有機無機複合ゲル発泡体の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、水溶性有機モノマーの重合物と膨潤性粘土鉱物と熱膨張性マイクロカプセルからなるヒドロゲルを形成し、媒体を水から低揮発性媒体に置換後、マイクロカプセルの加熱膨張によりそれらが均一、且つ、異なる度合いで低密度化できること、且つ得られた有機無機複合ゲル発泡体が高い伸縮性、高い強度、表面粘着性、調湿性、広範囲に制御された柔軟性を有し、軽量性(低密度)と大気中での安定性を併せ持つ材料となることを見出した点にある。これに対してメチレンビスアクリルアミドなどの有機架橋剤を用いて化学架橋して得られる従来型高分子ゲルは、同じ条件ではゲル発泡体とすることが困難であったり、たとえ一部の方法で発泡を達成したとしても伸縮性や軽量性を始めとする上記の特性を併せ持つ材料とはならない。
【0014】
本発明での水溶性有機モノマーの重合物(A)(以下、単に重合体(A)という)としては、膨潤性粘土鉱物(B)と相互作用により三次元網目を形成可能なものであり、好ましくはアミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、カチオン基の一つ又は複数を側鎖又は主鎖に含有し、親水性又は両親媒性を示すものであり、特に好ましくは水又は水と有機溶剤との混合溶媒に膨潤したり溶解する性質を有するものである。かかる重合物(A)の好ましいものとしては、水溶性アクリルアミド誘導体の重合物やそれを少なくとも一部含む共重合物があげられる。水溶性アクリルアミド誘導体としては、例えば炭素数1以上のアルキル基を有する水溶性のN−アルキルアクリルアミド又はN,N−ジアルキルアクリルアミドが例示される。
【0015】
重合体(A)に用いられる水溶性有機モノマーとしては、前記アクリルアミド誘導体の他、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、炭素数1以上のアルキル基を有するアルキルメタクリルアミド、アルキルアクリレートの中から選択される一つ又は複数が用いられる。ここでN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アルキルメタクリルアミド、アルキルアクリレートの具体例としては、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリディン、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン、2−メトキシエチルアクリレートなどが例示される。またこれらモノマーにその他の有機モノマーをあわせて用いることも、本発明にいう有機無機複合ゲル発泡体が形成される限りにおいて可能である。
【0016】
本発明における膨潤性粘土鉱物(B)としては、水又は水溶液中で膨潤するものであることが好ましく、より好ましくは水溶性有機モノマーを含む溶液中で層状剥離し、微細且つ均一に分散可能なものであり、更には、かかる微細且つ均一に分散した状態が低揮発性媒体又は水と低揮発性媒体との混合物中でも保たれるものが特に好ましい。本発明の有機無機複合ゲル発泡体において、膨潤性粘土鉱物(B)は好ましくは10層以下、より好ましくは3層以下、特に好ましくは1層又は2層のナノメーターレベル(の厚み)で分散しているものである。かかる膨潤性粘土鉱物の分散は発泡ゲルを乾燥したものの超薄切片を透過型電子顕微鏡により観察することによって確認されるほか、同様な試料を用いた小角X線回折測定によっても確認され、回折角(2θ)が好ましくは3度〜8度で、より好ましくは2度〜8度で、特に好ましくは1度〜8度で粘土鉱物の積層に基づく明確な回折ピークが観測されないことによって確認される。また、本発明における膨潤性粘土鉱物(B)は、水溶性有機モノマーの重合物(A)と三次元網目を形成できるものであることが好ましく、より好ましくはメチレンビスアクリルアミド等の有機架橋剤を用いないで(A)と(B)からなる三次元網目を形成できるものである。更に好ましくは、形成した三次元網目構造が低揮発性媒体又は低揮発性媒体と水との混合物中でも維持されるものである。かかる膨潤性粘土鉱物(B)としては、例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などの水中で膨潤し、層状剥離した状態で微分散することが可能な膨潤性の無機粘土鉱物が用いられ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。また、水溶性有機モノマーと共に溶媒中で層状剥離可能であれば、界面活性剤などにより部分的に有機化した粘土鉱物を用いることもできる。
【0017】
一方、水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目形成に加えて、少量の化学架橋を同時に含ませることは、発泡倍率の調整、繰り返し圧縮および延伸試験におけるヒステリシスの減少、初期弾性率の増加などを行わせるのに有効に用いられる。用いる化学架橋度は、架橋剤の濃度がモノマーの0.3モル%以下、より好ましくは0.2モル%以下、特に好ましくは0.01〜0.1モル%である。
【0018】
本発明における有機無機複合ゲル発泡体においては、ゲル発泡体を構成する(無機)粘土鉱物の比率を広い範囲で設定でき、特に低〜高の広い粘土鉱物比率を有する有機無機複合ゲル発泡体が得られることが特徴である。本発明の有機無機複合ゲル発泡体に含まれる水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)の量比は、水又は低揮発性媒体の中で両者が三次元網目を形成する範囲が好ましく、(B)/(A)の質量比として0.01〜3、好ましくは0.1〜3、特に好ましくは0.3〜2.5である。(B)/(A)の質量比が0.01未満では、有効な(A)と(B)の三次元網目を形成することが困難となり、一方、3を越えると均一な(B)の層状剥離した分散が困難となる場合が多い。
【0019】
なお、(B)/(A)の質量比に於ける膨潤性粘土鉱物(B)としては、粘土鉱物の少なくとも一部が有機化されている場合には有機成分を除いた無機質量で計算される。これは、例えば空気中、800℃までの加熱による熱重量分析により求められる。
【0020】
本発明では、水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)の三次元網目形成には、(B)の表面と(A)の末端の相互作用や、(B)の表面と(A)の主鎖又は側鎖の官能基との相互作用などが単独又は組み合わせて用いられる。相互作用の種類としては(A)と(B)との種類、組み合わせにより種々のものが選択可能であり、例えば、イオン相互作用、配位結合、水素結合、共有結合、疎水相互作用などの単独又は複数が組み合わせて用いられる。
【0021】
本発明における媒体(C)としては、低揮発性媒体、又は低揮発性媒体と水との混合物が用いられる。低揮発性媒体としては、水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目の中に均一に含まれるもので、且つ、水より低い揮発性を有するものが用いられる。好ましくは、揮発性が60℃・1気圧の開放系において1cm・1時間当たり0.1g以下、好ましくは、0.05g以下、更に好ましくは0.01g以下、特に好ましくは0.001g以下のものが用いられる。特に好ましくは、室温(10〜30℃)において殆ど揮発しないものである。また、人体に対して毒性を有さないものが好ましい。具体的には(かっこ内は揮発性)、グリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ジグリセリン(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、エチレングリコール(0.01g/cm・hr・60℃・1atm)、プロピレングリコール(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ジプロピレングリコール(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)、ポリエチレングリコール(PEG600)(0.001g以下/cm・hr・60℃・1atm)等が例示され、これらから選ばれる一種又は複数が用いられるが、より好ましくは、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコールであり、特に好ましくはグリセリンである。これに対して水は約0.28g/cm・hr・60℃・1atmと揮発性が高い。また、本発明の有機無機複合ゲル発泡体においては、低揮発性媒体と共に、他の機能性分子(例えば、三次元網目を補強する効果を持ったり、薬効を有する有機化合物や有機又は無機の塩など)を併せて含ませておくことは有効に用いられる。
【0022】
本発明において有機無機複合ゲル発泡体中に含まれる媒体(C)の量は、用途に合わせて広い範囲で設定することが可能であるが、(C)/{(A)+(B)}で表される質量比が0.5〜200であり、好ましくは1〜100、より好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20である。かかる質量比が0.5未満ではゲルとしての柔軟性が低下し、200を越えると機械的性質が弱くなる場合が多い。また、媒体(C)として低揮発性媒体と共に水を用いることは、柔軟性を増したり、密度や表面粘着性を制御するのに極めて有効である。低揮発性媒体に対する水の割合は目的に応じて設定することが可能であるが、好ましくは、水/低揮発性媒体の質量比が0.01〜10、より好ましくは0.05〜5、特に好ましくは0.1〜1である。また、本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、含まれる低揮発性媒体と水の割合が周りの環境で変わる特性を有することができ、例えば、周囲の環境が低湿度の場合は有機無機複合ゲル発泡体から水分を環境へ放出(即ち、有機無機複合ゲル発泡体中の水含有率は低下)し、周囲の環境が高湿度の場合は有機無機複合ゲル発泡体が環境の水分を吸湿する(即ち、有機無機複合ゲル発泡体中の水含有率は増加する)ことができる。
【0023】
本発明における熱膨張性マイクロカプセル(D)としては、熱により膨張する性質を有するマイクロカプセルが用いられる。具体的な熱膨張性マイクロカプセル(D)の例としては、熱可塑性高分子(例:ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸など)やその架橋高分子を殻(シェル)にして、その内部に低沸点炭化水を包み込んだマイクロカプセルがあげられる。かかる熱膨張性マイクロカプセル(D)は有機無機複合ゲル調製用の反応液中に導入され、その後、重合過程及び/又は重合化後に、好ましくは低揮発性媒体を含む有機無機複合ゲル中において熱膨張させ、膨張したマイクロカプセル(D’)となり、ゲルを発泡状態とする働きを有する。用いる熱膨張性マイクロカプセル(D)の大きさは必ずしも限定されないが、有機無機複合ゲル中の(A)と(B)からなる三次元網目中に微細に分散して含まれるためには、1〜500μm、より好ましくは3〜100μm、特に好ましくは5〜50μmの範囲の大きさが用いられる。熱膨張性マイクロカプセル(D)の膨張度、即ち(D’)/(D)の体積比は、得られる有機無機複合ゲルの発泡倍率(有機無機複合ゲルに対する有機無機複合ゲル発泡体の体積割合)を達成することができれば良く、広い範囲から選定されるが、本発明における特性(低密度、高伸縮性など)を達成するには1.1〜20倍、より好ましくは1.5〜10倍、特に好ましくは2〜7倍の膨張度が用いられる。また、熱膨張性マイクロカプセルの使用量は、所望の発泡倍率、用いる熱膨張性マイクロカプセルの種類、膨張(発泡)時の条件(例:温度や圧力)によって異なり、適宜選択されるが、例えば、水溶性有機モノマーに対する質量比として、0.01〜10の範囲が好ましく用いられる。一方、膨張を起こさせる温度としては、有機無機複合ゲルの合成を阻害しない範囲が用いられる。例えば、膨張温度としてはゲルの重合温度以上とするのが好ましく、具体的には20℃〜250℃の範囲が用いられ、より好ましくは30℃〜200℃、更に好ましくは50℃〜150℃、特に好ましくは60℃〜120℃の範囲が用いられる。また、かかる熱膨張性マイクロカプセル(D)は、均一に有機無機複合ゲルの中に分散して保持されるほか、部分的に異なる保持をさせることが有効に用いられる。部分的に異なる保持の例としては、表面部と内部で濃度が異なるような傾斜濃度を持つように分布させたり、内部または表面部のみに保持させたり、局所的に交互に保持させることなどがあげられる。また用いる熱膨張性マイクロカプセル(D)は一種類でも、大きさや膨張度や成分などの異なる複数種類を組み合わせてもよい。従って、複数の熱膨張性マイクロカプセルを用いて、前記のように部分的に異なるような保持をさせることもできる。一方、本発明においては既膨張の低密度マイクロカプセル(D’)を反応液に混合してゲル発泡体を調製することも基本的には可能である。但し、反応液調製時の粘度増加抑制や均一混合達成のためには、未膨張の熱膨張性マイクロカプセル(D)を用いて、有機無機複合ゲル形成途中又は形成後に膨張させる方法がより有効に用いられる。本発明では、熱膨張性マイクロカプセルの他に、その他の低密度粒子又は中空粒子(例えば、既膨張マイクロカプセル、多孔質微粒子、シラスバルーンなど)を併用して用いることも有機無機複合ゲル発泡体の力学物性、柔軟性、密度、表面硬さなどを調整するのに有効に用いられる。
【0024】
本発明で使用できる熱膨張性マイクロカプセル(D)の市販品としては、例えば、マツモトマイクロスフェアーFシリーズ(松本製薬工業株式会社:F−20、F−30、F−36LV、F−36、F−48、F−50、F−78K、F−79、F−80S、F−82、F−100、F−102、F−105、F−170、F−190D、F−230D、F−260D、等)、FN−シリーズ(松本製薬工業株式会社:FN−100、FN−105、FN−180S、FN−180、等)がある。これらは液状の低沸点炭化水素を塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂の殻(シェル)で包み込んだマイクロカプセルであり、加熱によりシェルが軟化して、内包している炭化水素がガス化することによりマイクロカプセルが膨張する材料である。
【0025】
本発明における有機無機複合ゲル発泡体の発泡倍率は目的に応じて変化させられ、必ずしも限定されないが、好ましくは、水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)と媒体(C)と膨張性マイクロカプセル(D)からなる発泡前の体積に比べて1.1以上、好ましくは1.1〜100、より好ましくは1.3〜20、特に好ましくは1.5〜10である。かかる発泡倍率が1.1未満であると、軽量性が不十分となり好ましくない。本発明の有機無機複合ゲル発泡体については、かさ密度で示すこともできるが、好ましくは0.01g/cm〜1.0g/cm、より好ましくは0.05g/cm〜0.8g/cm、更に好ましくは0.1g/cm〜0.7g/cm、特に好ましくは0.15g/cm〜0.5g/cmである。尚、気孔の大きさ、及び独立気孔/連続気孔の種類及びその比率は目的に応じて選択して用いられ、必ずしも限定されないが、発泡により形成される気孔の平均孔径は、1〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは5〜500μm、更に好ましくは10〜300μm、特に好ましくは20〜200μmである。
【0026】
本発明の有機無機複合ゲル発泡体には、その他用いられる、無機充填材、液状充填剤、難燃剤、繊維状強化材、着色剤、保水剤などを含有していてもよい。かかる添加剤については、好ましくはゲル発泡体の製造時に予め水溶性有機モノマーに混合し、場合によっては発泡後に該発泡体に注入することもできる。また本発明の有機無機複合ゲル発泡体はそのままで用いることができる他、フィルムや布状の材料で包んだり、密封して用いることができ、目的に応じて任意に選択される。
【0027】
本発明の有機無機複合ゲル発泡体の製造法については必ずしも限定されないが、好ましくは以下の方法が用いられる。
【0028】
水又は水と低揮発性媒体との混合液と層状剥離して均一に微分散した膨潤性粘土鉱物と水溶性有機モノマーと熱膨張性マイクロカプセルを含む溶液を調製後、それらの共存下で水溶性有機モノマーを重合させ、有機無機複合ゲルを調製する。熱膨張性マイクロカプセルの膨張を、かかる重合過程又は重合後、又は水の少なくとも一部を低揮発性媒体で置換した後に行わせ、更に、低揮発性媒体と水の割合を調整することにより良好な有機無機複合ゲル発泡体を得る。安定して構造制御された有機無機複合ゲル発泡体を得るという意味では、より好ましくは、最初は水を使って有機無機複合ゲルを調製し、その後に水の少なくとも一部を低揮発性媒体に置換し、次いでマイクロカプセルを膨張させる方法である。また、短時間・低コストでの製造のためには、低揮発性媒体を重合溶液の中に含ませておくこと方法が有効に用いられる。なお、水溶性有機モノマーを含有するために必要な重合開始剤又は重合条件により必要となる触媒は、予め溶液に添加しておく。
【0029】
具体的な重合開始剤としては、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく用いられる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤なども用いられる。また触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが好ましく用いられる。重合温度は、用いる水溶性有機高分子、重合触媒および開始剤の種類などに合わせて0℃〜100℃の範囲に設定される。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で行う
【0030】
本発明の有機無機複合ゲル発泡体の製造においては、熱膨張プロセスを好ましくは50〜100%、より好ましくは60%〜100%、特に好ましくは70〜100%の湿度雰囲気で、且つ、60℃〜130℃、より好ましくは70℃〜121℃、特に好ましくは80℃〜110℃の温度で行わせることが有効である。具体的には、高温高湿状態を保てる恒温恒湿装置、水蒸気むし装置、オートクレーブ装置などを用いて、温度と湿度を同時に制御した熱膨張を行わせることができる。また、熱膨張プロセスを湿度に関係なく加熱条件で行わせた後、50%〜100%、より好ましくは60%〜100%、特に好ましくは70%〜100%の高湿度雰囲気において処理することも有効に用いられる。
【0031】
また本発明の有機無機複合ゲル発泡体の製造においては、発泡前の有機無機複合ゲルを任意の選ばれた形状を有する金型に入れて発泡させることにより、金型の形を有する有機無機複合ゲル発泡体を得ることができる特徴を有する。これにより、有機無機複合ゲルは一定の大きさと形状で作りながら、種々の最終形状を有する有機無機複合ゲル発泡体が容易に調製できる。これは得られる有機無機複合ゲル発泡体が柔軟な性質を持つこと、発泡時に塑性変形を生じることなどによるが、特に媒体含有率や媒体中の水分率を調整することにより、極めて複雑な形状を有する金型にもフィットした形状の有機無機複合ゲル発泡体が得られる。
【0032】
さらに、上記有機無機複合ゲル発泡体の製造時に、例えば低密度微粒子や中空粒子さらにはカーボンブラックなどの固形フィラーを有機モノマー水溶液に添加することができ、重合によって緻密で均一なゲルを得た後、膨張(発泡)処理を行うことにより、物性の異なる有機無機複合ゲル発泡体を得ることができる。
【0033】
なお、膨潤性粘土鉱物を含有しないで有機架橋剤により架橋された従来の有機架橋型ゲルを発泡しようとしても、伸縮性および強度に優れたゲル発泡体を得ることはできない。例えば、膨潤性粘土鉱物を含まず、代わりにメチレンビスアクリルアミドを水溶性有機モノマーの1モル%を添加して調製される有機架橋型ヒドロゲルの場合、予め熱膨張性マイクロカプセルを加えて同様にゲル発泡体を調製する方法を行っても発泡がほとんど進まず、低密度のゲル発泡体は得られない。また、発泡条件の工夫等により発泡がある程度達成された場合でも、有機架橋型ゲルの場合は、延伸、圧縮などにより容易に破壊し、伸縮性、強度に優れたゲル発泡体は得られなかった。また発泡させない有機無機複合ゲルは、密度が1g/cm以上で軽量性が無く、また柔軟性が不十分(例えば60%圧縮変形時の応力が高い)であることが多かった。
【0034】
本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、気孔を内部に含有するにもかかわらず、水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)との三次元網目が形成されているため、優れた伸縮性および圧縮性を示し、圧縮や延伸において好ましくは元の長さの50%以上の可逆的な変形が可能な特徴を有する。かかる有機無機複合ゲル発泡体は、より好ましくは圧縮で70%以上、延伸で100%以上の可逆的な変形が可能であり、特に好ましくは、圧縮で80%以上、延伸で200%以上の可逆的な変形が可能である。なお、伸縮性以外の機械的性質は、重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)の種類、及び両者の比率、また媒体の種類とその比率(例えば、低揮発性媒体と水の比率)およびそれらの量、更にはフィラーの添加量などにより異なり、広い範囲から目的に応じて設定することが可能であるが、特に僅かの応力で変形が可能な高い柔軟性を有するものが含まれることが特徴である。また本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、優れた吸水性や、大気中の水分濃度に応じて水分を吸収したり放出したりする調湿性を示すこともできる。更に、本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、低揮発性媒体を含む場合、大気雰囲気で安定して使用することが可能である。
【0035】
本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、多くの場合、自発的な表面粘着性を有することが可能である。これは、重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目が、ゲル発泡体の表面においてダングリング高分子鎖(クレイに片末端が結合し、片末端が自由な高分子鎖)が媒体により可塑化された状態で存在することによると推定される。このため、通常用いられる粘着剤などを一切使用することなく、表面に粘着性を有することができる。以上の結果、本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、人体や各種基材に対して、強い粘着性能を示し、より有効に用いることが可能である。また、人体に対して用いるときは人体の皮膚や組織に対して高い安全性を有することが特徴である。更に、かかる表面粘着性を利用して同種又は異種の複数の有機無機複合ゲル発泡体を積層することで一体化して使用することが可能となる。特に、柔軟性や発泡倍率や組成の異なる有機無機複合ゲル発泡体を複数積層することにより、多くの目的に応じた形状・厚みおよび物性(圧縮特性、延伸特性、吸湿特性など)の設計が可能となる。一方、かかる表面粘着性は高分子フィルム、不織布などと積層するか、それらで包むことにより、表面粘着性のない状態とすることが可能である。
【0036】
本発明における有機無機複合ゲル発泡体は、メーターからマイクロメーターの範囲の種々の厚みのフィルム、板、塗膜、球、ロッド、中空チューブや繊維状形態を有するもの、更に星形や表面凹凸のある複雑形状とすることが可能であり、いずれの形態においても有機無機ゲル発泡体及び他の基材(例えば、高分子、セラミック、金属などのフィルム、シート、不織布、ブロックなど、また人体組織)との複合体として用いることができる。
【実施例】
【0037】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
水溶性有機モノマーとしてN、N−ジメチルアクリルアミド(興人株式会社製)を99g、膨潤性粘土鉱物として水膨潤性ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、英国ロックウッド株式会社製)を22.9g、熱膨張性マイクロカプセル(F20:松本油脂製薬株式会社製、平均粒子径10〜20μm)74.25g(乾燥重量)、純水950g含む均一透明な溶液を3000mlのガラス容器中で撹拌しながら調製した。該溶液を氷浴に入れ、次いで、純水50gとペルオキソ二硫酸カリウム1gからなる開始剤水溶液50gを撹拌して加え、均一反応溶液を得た。次いで、フィルム作成用ガラス容器(内容積540cm:縦30cm、横30cm、厚み6mm)に反応溶液を注入し、ガラス容器を50℃の恒温水槽に入れ5時間保持して、水溶性有機モノマーを重合させ、有機無機複合ゲルを調製した。熱膨張性マイクロカプセル/水溶性有機モノマー重合物の質量比は0.75。以上の工程は全て酸素を除いた状態にて行った。重合後、容器から取りだした有機無機複合ゲルを大過剰(ゲルの約5倍量)のグリセリンと水の混合溶液(グリセリン:水=71:29(質量比))中に入れ、40℃で60時間保持した。その間、12時間おきに新鮮な混合溶液に交換した。得られた有機無機複合ゲルの一部を切り出し、含まれているグリセリン量を乾燥重量と熱重量分析により測定した所、グリセリン/(高分子+粘土(ヘクトライト))の質量比が8.2であった。この有機無機複合ゲルを温度95℃、湿度98%の恒温恒湿器内で60分処理することにより、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、発泡状態のゲルを得た。更に、湿度60%、温度25℃の雰囲気で1日保持して調湿処理を行うことにより、有機無機複合ゲル発泡体を得た。得られた有機無機複合ゲル発泡体中の粘土鉱物/重合物の質量比は0.23、媒体/(粘土鉱物+重合物)の質量比は9.5、媒体中の水/グリセリンの質量比は0.2であった。また、発泡(膨張)前の有機無機複合ゲルに対する有機無機複合ゲル発泡体の体積比は3.3であり、有機無機複合ゲル発泡体の密度は0.31g/cm、平均気孔径は55μmであった。得られた有機無機ゲル発泡体は柔軟で、表面粘着性があり、取り扱い性に優れた軽量のゲル発泡体であった。粘着性を、厚さ30μmのPETフィルム(25mm幅×150mm長さ)を発泡ゲル表面に貼付し、90°引き剥がし試験により評価した結果、剥離強度は1.3N/cmであった。有機無機ゲル発泡体を一片が2cmで厚みが1cmの直方体に切り出して圧縮試験を、また1cm×1cmの断面で長さが7cmの直方体に切り出して延伸試験を行った。圧縮及び延伸試験には、島津製作所製卓上型万能試験機AGS−Hを用い、変形速度30mm/分及び50mm/分にて行った。その結果、圧縮試験において90%圧縮(元の長さの10%迄圧縮)しても破壊することなく、また延伸試験において200%まで延伸しても破壊することなくいずれも可逆的な繰り返し変形が可能であった。60%圧縮時の応力は初回が20kPa、2回以降が18kPaであった。一方、得られた有機無機ゲル発泡体は、大気中でも長期間(1年以上)において安定した形状と特性(可逆的な高伸縮性、高圧縮性、表面粘着性など)を示した。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、グリセリン溶液に浸漬して調製した有機無機複合ゲルを4cm径に切り出し、突起部の一片が3cm、高さ0.7cmの星型容器の中心部に配置して、温度90℃、湿度60%の条件で30分保持することにより、膨張性マイクロカプセルを膨張させた。その結果、図1に示すように、容器の形状にほぼ一致した形を有する有機無機複合ゲル発泡体が得られた。
【0040】
(実施例3)
実施例1で用いた均一反応溶液57gを、一片3cm、高さ10cmのガラス容器に注入し、次いで、その上に、熱膨張性マイクロカプセルを含まない以外は実施例1と同様にして調製した均一反応溶液3gを静かに注入し、密閉・静置した状態で温度を50℃に高めて、重合を行い、有機無機複合ゲルを得た。実施例1と同様に(グリセリン:水=71:29(質量比))のグリセリン水溶液中に入れ、40℃で60時間保持し、媒体置換を行った。この有機無機複合ゲルを温度90℃、湿度95%の恒温恒湿器内で120分処理することにより、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させ、有機無機複合ゲル発泡体を得た。有機無機複合ゲル発泡体中の粘土鉱物/重合物の質量比は0.23、媒体/(粘土鉱物+重合物)の質量比は9.2、媒体中の水/グリセリンの質量比は0.2であった。また、有機無機複合ゲル発泡体の平均密度は0.33g/cm、表面に近い薄い層は密度が1.01gcmである、傾斜的に密度(発泡度)の異なる有機無機複合ゲル発泡体が得られた。
【0041】
(実施例4、5)
実施例4では発泡をオートクレーブ中にて105℃で10分行うこと、実施例5では発泡をオートクレーブにて121℃で20分行った後に真空処理(0.5Torr)を室温で10分行うこと以外は、実施例1と同様にして有機無機ゲル発泡体を調製し、評価を行った。得られた有機無機ゲル発泡体はいずれも均質で、表面粘着性を有し、圧縮性・伸縮性・柔軟性に優れた、大気中で安定な軽量発泡体であった。有機無機ゲル発泡体の密度と60%圧縮時の1回目の応力は、0.34g/cmおよび31kPa(実施例4)、0.27g/cmおよび11kPa(実施例5)であった。
【0042】
(実施例6,7)
実施例6では浸漬条件を40℃1時間とし、実施例7では40℃96時間とし、加熱発泡をオートクレーブにて105℃30分で行うこと以外は、実施例1と同様にして有機無機ゲル発泡体を調製し、評価を行った。得られた有機無機ゲル発泡体はいずれも均質で、表面粘着性を有し、圧縮性・伸縮性・柔軟性に優れた、大気中で安定な軽量発泡体であった。有機無機ゲル発泡体のグリセリン/(粘土鉱物+重合物)の質量比は、1.7(実施例6)および10.1(実施例7)であった。有機無機ゲル発泡体の密度と60%圧縮時の1回目の応力は、0.15g/cmおよび8kPa(実施例6)、0.42g/cmおよび51kPa(実施例7)であった。
【0043】
(実施例8)
膨張性マイクロカプセルとしてF36(松本油脂製薬株式会社製:平均粒子径10〜16μm)を用いる以外は、実施例1と同様にして有機無機ゲル発泡体を調製した。得られた有機無機ゲル発泡体は、均質で、表面粘着性を有し、圧縮性・伸縮性・柔軟性に優れ、密度が0.17g/cmの大気中で安定な軽量発泡体であった。60%圧縮時の1回目の応力は2.8kPaであった。
【0044】
(実施例9、10)
反応溶液中にN,N,N’,N’テトラメチレンジアミン80μlを反応溶液中に入れること、低揮発性媒体としてグリセリンの代わりに、ジエチレングリコール(実施例9)又はプロピレングリコール(実施例10)を用いること、浸漬を40℃で24時間保持すること、加熱発泡を100℃で10分間行うこと以外は、実施例1と同様にして有機無機複合ゲル発泡体を調製した。得られた有機無機複合ゲル発泡体中の媒体/(粘土鉱物+重合物)の質量比は5.4(実施例9)および5.6(実施例10)、媒体中の水/低揮発性媒体の質量比は0.1(実施例9)およびで0.07(実施例10)であった。得られた有機無機ゲル発泡体は柔軟で、表面粘着性があり、取り扱い性に優れた軽量のゲル発泡体であった。有機無機複合ゲル発泡体の密度は0.29g/cm(実施例9)および0.30g/cm(実施例10)であった。また、60%圧縮時の1回目の応力は12kPa(実施例9)および14kPa(実施例10)であった。
【0045】
(実施例11)
実施例1および実施例4および実施例5で得られた有機無機ゲル発泡体を積層した後、95℃、90%湿度の条件で60分間保持することにより、これら三つのゲル発泡体が一体化した有機無機ゲル発泡体が得られた。
【0046】
(実施例12)
熱膨張性マイクロカプセルの変わりに、既に膨張したマイクロカプセル(真比重0.03:平均直径100μm、松本油脂製薬株式会社製)を用いること、膨張済マイクロカプセル/水溶性有機モノマー重合物の体積比が1.6であること、および、重合後の熱膨張処理を行わないことを除くと、実施例1と同様にして有機無機複合ゲル発泡体を調製した。得られた有機無機複合ゲル発泡体は白色・均一で、密度0.44g/cmの力学的にタフな低密度ゲルであった。60%圧縮時の応力は45KPaであり、また、表面粘着性は非常に小さかった。
【0047】
(実施例13)
水950gの代わりに、純水650gとグリセリン300gを用いる以外は実施例1と同様にして、有機無機複合ゲルを調製した。得られたゲル中の媒体中のグリセリン含有率は30%であった。この有機無機複合ゲルを温度80℃、湿度95%の恒温恒湿器内で120分処理することにより、膨張性マイクロカプセルを膨張させ、有機無機複合ゲル発泡体を得た。得られた有機無機複合ゲル発泡体中の粘土鉱物/重合物の質量比は0.23、媒体/(粘土鉱物+重合物)の質量比は3.5であった。また、有機無機複合ゲル発泡体の密度は0.28g/cmであった。圧縮試験においては90%圧縮しても、または延伸試験において200%まで延伸しても破壊することなく、いずれも可逆的な繰り返し変形が可能であった。60%圧縮時の応力は29kPaであった。
【0048】
(実施例14、15、16、17)
実施例14〜17では発泡をオートクレーブ中にて105℃で20分行うこと、及び各成分の質量比および熱膨張性マイクロカプセルのモノマーに対する質量比を表1に示すように変化させる以外は、実施例1と同様にして有機無機ゲル発泡体を調製し、評価を行った。得られた有機無機ゲル発泡体はいずれも均質で、表面粘着性を有し、圧縮性・伸縮性・柔軟性に優れた、大気中で安定な軽量発泡体であった。有機無機ゲル発泡体の密度と60%圧縮時の1回目の応力を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(比較例1)
水膨潤性粘土鉱物ラポナイトXLGの代わりに、有機架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.07gを用いること以外は、実施例1と同様にしてゲルを調製した。しかし、発泡倍率は1.1倍以下であり、最終的に得られたゲルのかさ密度は1.01g/cmであった。このように発泡が殆どおこらないため軽量化したゲル発泡体は得られなかった。また、これを延伸試験を行った所、30%に到達する前に破壊し、伸縮性を示さない、また柔軟性のない脆い材料であった。
【0051】
(比較例2)
水溶性有機モノマーとしてN,N−ジメチルアクリルアミド(興人株式会社製)0.99g、水膨潤性ヘクトライト0.381g、純水9.47g、テトラメチレンジアミン8μlおよび、純水10gとペルオキソ二硫酸カリウム0.2gからなる開始剤水溶液0.5gからなる無色透明溶液を調製し、これにペンタン8mlを撹拌しながら加えた。次いで、容器を密閉し20℃の恒温水槽中で15時間保持して、水溶性有機モノマーを重合させ、ゲルを調製した。以上の工程は全て酸素を除いた状態にて行った。重合後、水分の蒸発がない状態にして容器の密栓をとり、室温にて24時間保持することにより、ゲルは発泡し、ゲル発泡体が得られた。発泡倍率は約10倍、かさ密度は0.12g/cmであった。得られたゲル発泡体は表面粘着性を示さず、複数のゲル発泡体同を積層しても一体化することはなかった。また、得られたゲル発泡体の圧縮試験においては、80%圧縮しても破壊することなく(60%圧縮時の応力は2kPa)、また延伸試験においては200%まで延伸しても破壊することなくいずれも可逆的な繰り返し変形が可能であった。しかし、得られたゲル発泡体を大気中に保持することで、急速に水分が蒸発し、24時間以内に硬い発泡材料となり、伸縮性や圧縮性は失われた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)とが形成する三次元網目中に、媒体(C)及び熱膨張性マイクロカプセル(D)の膨張したもの(D’)を含有することを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項2】
前記水溶性有機モノマーの重合物(A)と膨潤性粘土鉱物(B)と媒体(C)の質量比〔(C)/{(A)+(B)}〕が0.5〜200、質量比{(B)/(A)}が0.01〜3であり、前記熱膨張性マイクロカプセル(D)と前記水溶性有機モノマーの重合物(A)の質量比{(D)/(A)}が0.01〜10である請求項1記載の有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項3】
前記質量比〔(C)/{(A)+(B)}〕、質量比{(B)/(A)}、質量比{(D)/(A)}の内の一つ又は複数が部分的に異なっている請求項2記載の有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項4】
複数の有機無機複合ゲル発泡体を積層し一体化した請求項1〜3のいずれか一つに記載の有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項5】
前記媒体(C)が0.1g/cm・hr・60℃・1atm以下の揮発性を有する低揮発性媒体、又は該低揮発性媒体と水との混合物である請求項1〜4のいずれか一つに記載の有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項6】
前記水と低揮発性媒体との混合物の質量比(水/低揮発性媒体)が、0.01〜10である請求項5記載の有機無機複合ゲル発泡体。
【請求項7】
水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマー、膨潤性粘土鉱物(B)、水及び熱膨張性マイクロカプセル(D)を混合し、水中で層状に剥離した膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で該有機モノマーを重合して水溶性有機モノマーの重合物(A)と層状剥離した膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目を形成し、次いで、水の一部又は全部を低揮発性媒体で置換した後、熱膨張性マイクロカプセル(D)を膨張させることを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体の製造方法。
【請求項8】
水溶性のアクリルアミド誘導体を主成分とする有機モノマー、膨潤性粘土鉱物(B)、水、低揮発性媒体及び熱膨張性マイクロカプセル(D)を混合し、水中で層状に剥離した膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で該有機モノマーを重合して水溶性有機モノマーの重合物(A)と層状剥離した膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目を形成し、次いで、熱膨張性マイクロカプセル(D)を膨張させることを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体の製造方法。
【請求項9】
前記熱膨張性マイクロカプセル(D)の加熱膨張を70%以上の湿度雰囲気にて、30〜150℃の間で行わせる請求項7又は8に記載の有機無機複合ゲル発泡体の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の複数の有機無機複合ゲル発泡体を、接着剤なしで積層し、その表面粘着性を利用して一体化させることを特徴とする有機無機複合ゲル発泡体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236400(P2011−236400A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181306(P2010−181306)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】