説明

有機無機複合ナノファイバを含有する有機無機複合体

【課題】 既存の無機添加剤成分を含有する複合体に比して、同量の添加剤量であってもより優れた耐熱性を示す有機無機複合体を提供すること。
【解決手段】 直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントと、前記結晶性ポリマーフィラメントを被覆するシリカとからなる有機無機複合ナノファイバにより有機高分子化合物の耐熱性を向上させることができる。特に、含有する有機無機複合ナノファイバ同士が、集合化、階層化した多様な形状を有する会合体を含有するものは、有機高分子化合物の補強効果の向上をより図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子化合物中に、ポリマーとシリカとからなる有機無機複合ナノファイバを含有する有機無機複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂をはじめとする高分子化合物の耐熱性や機械的特性の向上を目的に、シリカ粉末やシリカ粒子などの無機成分を高分子化合物中に分散させることが広く行われている。高分子化合物中にシリカを含有する複合材料としては、例えば、ポリエチレンやポリスチレン、又はエポキシ樹脂などの汎用の樹脂に金属酸化物を含有する複合材料(例えば、特許文献1及び2参照)、あるいは、カチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂などのイオン交換樹脂にシリカを含有する複合材料(例えば、特許文献3及び4参照)などが開示されている。
【0003】
このような複合材料においては、耐熱性の向上を図るためには無機成分の量を多くする必要があるが、無機成分を多くしすぎると材料がもろくなるため必要な耐熱性を確保する際に添加する無機成分量を低くすることが望まれていた。特に、イオン交換樹脂を電解質膜として用いる場合など、特有の特性を有する高分子化合物をその特性を利用した用途に使用する場合には、その特性を充分に発現できる量に無機成分の添加量が制限されるため、耐熱性の向上が充分に得られない場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−100107号公報
【特許文献2】特開2004−131658号公報
【特許文献3】特開平6−111827号公報
【特許文献4】特開平6−111834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記の従来技術の実情に鑑みてなされたもので、既存の無機添加剤成分を含有する複合体に比して、同量の添加剤量であってもより優れた耐熱性を示す有機無機複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントと、前記結晶性ポリマーフィラメントを被覆するシリカとからなる有機無機複合ナノファイバにより有機高分子化合物の耐熱性を向上させることができる。
【0007】
すなわち本発明は、有機高分子化合物と、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントがシリカにより被覆された有機無機複合ナノファイバとを含有する有機無機複合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機無機複合体は、ナノメートルオーダーの太さで、アスペクト比が非常に高い有機無機複合ナノファイバを含有するため、単なる粒子形状のものを添加した場合に比べて耐熱性や強度を高くすることができる。このため、極性基含有樹脂を使用して電解質膜を作成する際などの添加剤の添加量が制限される場合においては、無機成分を含有することにより生じる樹脂の特性低下を低減できるため特に有用である。また、含有する有機無機複合ナノファイバは、相互に会合することにより多様な形状を有する会合体を形成でき、このようなナノファイバ同士が集合化、階層化した会合体は、単独の有機無機複合ナノファイバよりも有機高分子化合物の補強効果の向上を図ることができる。
【0009】
さらに、有機無機複合体中の有機無機複合ナノファイバは、カチオン化や構造制御が容易な直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを含有するものであるため、各種機能性材料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有機無機複合体は、有機高分子化合物と、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントがシリカ(酸化ケイ素)により被覆された有機無機複合ナノファイバとを含有するものである。
【0011】
[有機高分子化合物]
本発明において使用する有機高分子化合物は、特に制限されず、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリカーボネート、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリスルフィド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂をはじめとする公知慣用の有機高分子化合物を使用できる。
【0012】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリサルフォン、パーフルオロカルボン酸、スチレン−ジビニルベンゼンスルホン酸のカチオン交換樹脂、及びスチレン−ブタジエン系のアニオン交換樹脂などの極性基を含有する高分子化合物も好ましく使用でき、パーフルオロカルボン酸のカチオン交換樹脂を特に好ましく使用できる。
【0013】
また、極性基として水酸基、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基のような基を含有するものは、複合化する有機無機複合ナノファイバ中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格におけるエチレンイミン単位と水素結合を形成するため得られる有機無機複合体の補強効果をより高くできるため好ましい。
【0014】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー]
本発明の有機無機複合体は、上記有機高分子化合物中に有機無機複合ナノファイバを含有するものであり、該有機無機複合ナノファイバは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントと、該結晶性ポリマーフィラメントを被覆するシリカ(酸化ケイ素)とからなるものである。
【0015】
ここでいう直鎖状ポリエチレンイミン骨格とは、二級アミンのエチレンイミン単位を主たる構造単位とする直鎖状のポリマー骨格をいう。該骨格中においては、エチレンイミン単位以外の構造単位が存在していてもよいが結晶性ポリマーフィラメントを形成させるためには、ポリマー鎖の一定鎖長が連続的なエチレンイミン単位からなることが好ましい。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格の長さは、該骨格を有するポリマーが結晶性ポリマーフィラメントを形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適に結晶性ポリマーフィラメントを形成するためには、該骨格部分のエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上であることが好ましく、20〜10000の範囲であることが特に好ましい。
【0016】
本発明において使用する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、その構造中に上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するものであればよく、その形状が線状、星状または櫛状であっても、水の存在下で結晶性ポリマーフィラメントを与えることができるものであればよい。
【0017】
また、これら線状、星状または櫛状のポリマーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格のみからなるものであっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格からなるブロック(以下、ポリエチレンイミンブロックと略記する。)と他のポリマーブロックとのブロックコポリマーからなるものであってもよい。他のポリマーブロックとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどの水溶性のポリマーブロック、あるいは、ポリスチレン、ポリオキサゾリン類のポリフェニルオキサゾリン、ポリオクチルオキサゾリン、ポリドデシルオキサゾリン、ポリアクリレート類のポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどの疎水性のポリマーブロックを使用できる。これら他のポリマーブロックとのブロックコポリマーとすることで、結晶性ポリマーフィラメントの形状や特性を調整することができる。
【0018】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、他のポリマーブロック等を有する場合の該ポリマー中における直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合は結晶性ポリマーフィラメントを形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適に結晶性ポリマーフィラメントを形成するためには、ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合が25モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、その前駆体となるポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を有するポリマー(以下、前駆体ポリマーと略記する。)を、酸性条件下またはアルカリ条件下で加水分解することで容易に得ることができる。従って、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの線状、星状、または櫛状などの形状は、この前駆体ポリマーの形状を制御することで容易に設計することができる。また、重合度や末端構造も、前駆体ポリマーの重合度や末端機能団を制御することで容易に調整できる。さらに、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをブロックコポリマーとし、該前駆体中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を選択的に加水分解することで得ることができる。
【0020】
前駆体ポリマーは、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法、あるいは、マクロモノマー法などの合成方法により合成が可能であり、合成方法や開始剤を適宜選択することにより、線状、星状、あるいは櫛状などの各種形状の前駆体ポリマーを合成できる。
【0021】
ポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を形成するモノマーとしては、メチルオキサゾリン、エチルオキサゾリン、メチルビニルオキサゾリン、フェニルオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマーを使用できる。
【0022】
重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を使用できる。これら重合開始剤は、多くのアルコール類化合物の水酸基を他の官能基に変換させることで得られる。なかでも、官能基変換として、臭素化、ヨウ素化、トルエンスルホン酸化、およびトリフルオロメチルスルホン酸化されたものは重合開始効率が高いため好ましく、特に臭化アルキル、トルエンスルホン酸アルキルが好ましい。
【0023】
また、ポリ(エチレングリコール)の末端水酸基を臭素あるいはヨウ素に変換したもの、またはトルエンスルホニル基に変換したものを重合開始剤として使用することもできる。その場合、ポリ(エチレングリコール)の重合度は5〜100の範囲であることが好ましく、10〜50の範囲であれば特に好ましい。
【0024】
また、カチオン開環リビング重合開始能を有する官能基を有し、かつ光による発光機能、エネルギー移動機能、電子移動機能を有するポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、またはピレン骨格のいずれかの骨格を有する色素類は、得られるポリマーに特殊な機能を付与することができる。
【0025】
線状の前駆体ポリマーは、上記オキサゾリンモノマーを1価または2価の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。このような重合開始剤としては、例えば、塩化メチルベンゼン、臭化メチルベンゼン、ヨウ化メチルベンゼン、トルエンスルホン酸メチルベンゼン、トリフルオロメチルスルホン酸メチルベンゼン、臭化メタン、ヨウ化メタン、トルエンスルホン酸メタンまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、5−(4−ブロモメチルフェニル)−10,15,20−トリ(フェニル)ポルフィリン、またはブロモメチルピレンなどの1価のもの、ジブロモメチルベンゼン、ジヨウ化メチルベンゼン、ジブロモメチルビフェニレン、またはジブロモメチルアゾベンゼンなどの2価のものが挙げられる。また、ポリ(メチルオキサゾリン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、または、ポリ(メチルビニルオキサゾリン)などの工業的に使用されている線状のポリオキサゾリンを、そのまま前駆体ポリマーとして使用することもできる。
【0026】
星状の前駆体ポリマーは、上記したようなオキサゾリンモノマーを3価以上の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。3価以上の重合開始剤としては、例えば、トリブロモメチルベンゼン、などの3価のもの、テトラブロモメチルベンゼン、テトラ(4−クロロメチルフェニル)ポルフィリン、テトラブロモエトキシフタロシアニンなどの4価のもの、ヘキサブロモメチルベンゼン、テトラ(3,5−ジトシリルエチルオキシフェニル)ポルフィリンなどの5価以上のものが挙げられる。
【0027】
櫛状の前駆体ポリマーを得るためには、多価の重合開始基を有する線状のポリマーを用いて、該重合開始基からオキサゾリンモノマーを重合させることができるが、例えば、通常のエポキシ樹脂やポリビニルアルコールなどの側鎖に水酸基を有するポリマーの水酸基を、臭素やヨウ素等でハロゲン化するか、あるいはトルエンスルホニル基に変換させた後、該変換部分を重合開始基として用いることでも得ることができる。
【0028】
また、櫛状の前駆体ポリマーを得る方法として、ポリアミン型重合停止剤を用いることもできる。例えば、一価の重合開始剤を用い、オキサゾリンを重合させ、そのポリオキサゾリンの末端をポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリプロピルアミンなどのポリアミンのアミノ基に結合させることで、櫛状のポリオキサゾリンを得ることができる。
【0029】
上記により得られる前駆体ポリマーのポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格の加水分解は、酸性条件下またはアルカリ条件下のいずれの条件下でもよい。
【0030】
酸性条件下での加水分解は、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌することにより、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。得られた塩酸塩を過剰のアンモニウム水で処理することで、塩基性のポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが望ましい。また、反応温度は80℃前後が望ましい。
【0031】
アルカリ条件下での加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、ポリオキサゾリンをポリエチレンイミンに変換させることができる。アルカリ条件下で反応させた後、反応液を透析膜にて洗浄することで、過剰な水酸化ナトリウムを除去し、ポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる水酸化ナトリウムの濃度は1〜10mol/Lの範囲であればよく、より効率的な反応を行うには3〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。また、反応温度は80℃前後が好ましい。
【0032】
酸性条件下またはアルカリ条件下での加水分解における、酸またはアルカリの使用量は、ポリマー中のオキサゾリン単位に対し、1〜10当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、3当量程度とすることが好ましい。
【0033】
上記加水分解により、前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格となり、該ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが得られる。
【0034】
また、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと他のポリマーブロックとのブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをポリオキサゾリン類からなる直鎖状のポリマーブロックと、他のポリマーブロックとからなるブロックコポリマーとし、該前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状のブロックを選択的に加水分解することで得ることができる。
【0035】
他のポリマーブロックが、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などの水溶性ポリマーブロックである場合には、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)が、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)やポリ(N−アセチルエチレンイミン)に比べて、有機溶剤への溶解性が高いことを利用してブロックコポリマーを形成することができる。即ち、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンを、前記した重合開始化合物の存在下でカチオン開環リビング重合した後、得られたリビングポリマーに、さらに2−エチル−2−オキサゾリンを重合させることによって、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる前駆体ポリマーを得る。該前駆体ポリマーを水に溶解させ、該水溶液にポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックを溶解する水とは非相溶の有機溶剤を混合して攪拌することによりエマルジョンを形成する。該エマルジョンの水相に、酸またはアルカリを添加することによりポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックを優先的に加水分解させることにより、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとを有するブロックコポリマーを形成できる。
【0036】
ここで使用する重合開始化合物の価数が1および2の場合には、直鎖状のブロックコポリマーとなり、それ以上の価数であれば星型のブロックコポリマーが得られる。また、前駆体ポリマーを多段のブロックコポリマーとすることで、得られるポリマーも多段のブロック構造とすることも可能である。
【0037】
[結晶性ポリマーフィラメント]
上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、有機無機複合ナノファイバ中で結晶性ポリマーフィラメントとして存在する。該結晶性ポリマーフィラメントは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの一次構造中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の複数が水分子の存在下で結晶化することにより、ポリマーが相互に会合して繊維状に成長したものであり、結晶の性質を構造中に有するものである。
【0038】
該結晶性ポリマーフィラメントは、1〜100nm程度、好ましくは2〜30nm、より好ましくは2〜10nmの範囲の太さを有し、長さが太さの10倍以上、好ましくは100倍以上の繊維形状(以下、該繊維形状を一次形状と言う場合がある。)のものである。
【0039】
従来広く使用されてきたポリエチレンイミンは、環状エチレンイミンの開環重合により得られる分岐状ポリマーであり、その一次構造には一級アミン、二級アミン、三級アミンが存在する。従って、分岐状ポリエチレンイミンは水溶性であるが、結晶性は持たないため、分岐状ポリエチレンイミンを用いてヒドロゲルを作るためには、架橋剤による共有結合により網目構造を与えなくてはならない。しかしながら本発明に使用するポリマーが骨格として有する直鎖状ポリエチレンイミンは、二級アミンだけで構成されており、該二級アミン型の直鎖状ポリエチレンイミンは水溶性でありながら、結晶化が可能である。
【0040】
このような、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は、そのポリマーのエチレンイミン単位に含まれる結晶水数により、ポリマー結晶構造が大きく異なることが知られている(Y.Chatani et al.、Macromolecules、1981年、第14巻、p.315−321)。無水のポリエチレンイミンは二重螺旋構造を特徴とする結晶構造を優先するが、モノマー単位に2分子の水が含まれると、ポリマーはzigzag構造を特徴とする結晶体に成長することが知られている。実際、水中から得られる直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は一つのモノマー単位に2分子水を含む結晶であり、その結晶は室温状態では水中不溶である。
【0041】
本発明における直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントは、上記の場合と同様に直鎖状ポリエチレンイミン骨格の結晶発現により形成されるものであり、ポリマー形状が線状、星状、または櫛状などの形状であっても、一次構造に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーであれば、結晶性ポリマーフィラメントが得られる。
【0042】
結晶性ポリマーフィラメントの存在はX線散乱により確認でき、広角X線回折計(WAXS)における2θ角度値で20°,27°,28°近傍の結晶性ヒドロゲル中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に由来するピーク値により確認される。
【0043】
結晶性ポリマーフィラメントは、水の存在下で結晶性ポリマーフィラメント同士の物理的な結合により三次元網目構造を有するヒドロゲルを形成することもでき、さらに結晶性ポリマーフィラメント同士を架橋剤で架橋することにより化学的な架橋結合を有する架橋ヒドロゲルを形成することもできる。
【0044】
結晶性ポリマーフィラメントのヒドロゲル中では、結晶性ポリマーフィラメント同士が、水の存在下で相互に会合して、マイクロ〜ミリメートルの大きさの三次元形状(以下、該微細な三次元形状を二次形状と言う場合がある。)を形成している。これら二次形状を有する会合体間において、会合体中の結晶性ポリマーフィラメントがさらに物理的に会合して架橋構造を形成し、全体として結晶性ポリマーフィラメントからなる三次元網目構造を形成する。これらは水の存在下で生じるため、該三次元網目構造中に水を包含したヒドロゲルが形成される。架橋剤を使用した場合には、結晶性ポリマーフィラメント間が化学的に架橋し、該三次元網目構造が化学的な架橋により固定化された架橋ヒドロゲルとなる。
【0045】
ここでいう三次元網目構造とは、通常の高分子ヒドロゲルと異なり、ナノスケールの結晶性ポリマーフィラメント同士が、その表面に存在するフリーなエチレンイミン鎖の水素結合により、物理的な架橋により形成された網目構造である。従って、その結晶の融点以上の温度では、結晶が水中溶解されてしまい、三次元網目構造も解体される。ところが、それが室温に戻ると結晶性ポリマーフィラメントが成長し、その結晶間では水素結合による物理的な架橋が形成するため、再び、三次元網目構造が現れる。
【0046】
ヒドロゲル中で、結晶性ポリマーフィラメントが形成する二次形状は、ポリマー構造の幾何学的な形状や、分子量、一次構造中に導入できる非エチレンイミン部分、さらには結晶性ポリマーフィラメントの形成条件などを調整することにより、例えばファイバ状、ブラシ状、星状などの各種形状に制御可能である。また、ヒドロゲルは、概ねの外形(以下、該ヒドロゲルの外形形状を三次形状と言う場合がある。)を保持できるが、外力により任意に変形させることができるため、その形状を容易に制御できるものである。
【0047】
上記結晶性ポリマーフィラメントは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが室温の水に不溶である性質を利用し、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶媒に溶解させた後、水の存在下で析出させることで得られる。
【0048】
具体的な方法としては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水又は水と親水性有機溶剤の混合溶媒(以下、これらを水性媒体という。)に溶解し、該溶液を加熱した後冷却する方法や、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを親水性有機溶剤に溶解し、該溶液に水を加える方法などが例として挙げられる。
【0049】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解する溶媒は、水性媒体又は親水性有機溶剤を好ましく使用できる。該該親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、ピロリドンなどの親水性有機溶剤が挙げられる。
【0050】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの溶液から結晶性ポリマーフィラメントを析出させるには、水の存在が不可欠であるため、析出は水性媒体中で生じる。
【0051】
また、上記方法において、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの量を調整することで、結晶性ポリマーフィラメントからなるヒドロゲルを得ることができる。例えば、該ヒドロゲルは、まず直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを一定量水中に分散し、該分散液を加熱することにより、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの透明な水溶液を得る。次いで、加熱状態のポリマーの水溶液を室温に冷やすことにより得られる。該ヒドロゲルは、剪断力等の外力により変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリームのような状態を有し、多様な形状に変形させることが可能である。
【0052】
上記方法において、加熱温度は100℃以下が好ましく、90〜95℃の範囲であることがより好ましい。また、ポリマー分散液中のポリマー含有量は、ヒドロゲルが得られる範囲であれば特に限定されないが、0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、形状の安定したヒドロゲルを得るためには0.1〜10質量%の範囲がさらに好ましい。このように、本発明においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用すると、ごく少量のポリマー濃度でもヒドロゲルを形成することができる。
【0053】
上記ポリマー水溶液の温度を室温まで低下させる過程により、得られるヒドロゲル中の結晶性ポリマーフィラメントの二次形状を調整することができる。温度を低下させる方法を例示すると、ポリマー水溶液を80℃に1時間保持した後、1時間かけて60℃にし、該温度でさらに1時間保持する。その後1時間かけて40℃まで低下させた後、自然に室温まで下げる方法、上記ポリマー水溶液を一気に氷点の氷り水、または氷点下のメタノール/ドライアイス、あるいはアセトン/ドライアイスの冷媒液にて冷却させた後、その状態のものを室温のワータバスにて保持する方法、あるいは、上記のポリマー水溶液を室温のウォータバスまたは室温空気環境にて、室温まで温度を低下させる方法などが挙げられる。
【0054】
上記ポリマー水溶液の温度を低下させる過程は、得られるヒドロゲル中において結晶性ポリマーフィラメント同士の会合に強く影響を与えるため、上記異なる方法により得られるヒドロゲル中の結晶性ポリマーフィラメントが形成する二次形状は同一ではない。
【0055】
上記のポリマー水溶液の温度を、濃度を一定として多段階的に低下させた場合、ヒドロゲル中における結晶性ポリマーフィラメントが形成する二次形状を、ファイバ状の形状とすることができる。これを急冷した後、室温に戻した場合には、花弁状の形態とすることができ。また、これをドライアイス状のアセトンで再度急冷して、室温に戻した場合、波状の形態とすることができる。このように、本発明におけるヒドロゲル中における結晶性ポリマーフィラメントが形成する二次形状の形態を、各種形状に設定することができる。
【0056】
上記により得られるヒドロゲルは、不透明なゲルであり、ゲル中にはポリエチレンイミン骨格を有するポリマーからなる結晶性ポリマーフィラメントが形成され、その結晶性ポリマーフィラメント同士は水素結合により物理的に架橋化され、三次元の物理的な網目構造を形成している。一旦形成したヒドロゲル中の結晶性ポリマーフィラメントは室温中では不溶状態を保つが、加熱すると結晶性ポリマーフィラメントが解離し、ヒドロゲルはゾル状態に変化してしまう。従って、本発明の物理的なヒドロゲルは、熱処理を行うことでゾルからゲル、またゲルからゾルへと可逆的な変化が可能である。
【0057】
本発明でいうヒドロゲルは三次元網目構造中に少なくとも水を含有するが、該ヒドロゲルの調製時に、親水性有機溶剤を加えることで、有機溶剤を含有したヒドロゲルが得られる。該親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、ピロリドンなどの親水性有機溶剤が挙げられる。
【0058】
有機溶剤の含有量は、水の体積に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、1〜3倍の範囲であればより好ましい。
【0059】
上記親水性有機溶剤を含有させることにより結晶性ポリマーフィラメントの形態を変えることができ、単純な水系と異なる形態の結晶を与えることができる。例えば、水中では繊維状の広がりを有する分岐状の二次形状であっても、その調製に一定量のエタノールが含まれた場合、繊維が収縮したような鞠状の二次形状を得ることができる。
【0060】
本発明でいうヒドロゲル調製時に、他の水溶性ポリマーを加えることで、水溶性ポリマーを含有するヒドロゲルが得られる。該水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンなどを取りあげることができる。
【0061】
水溶性ポリマーの含有量は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの質量に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であればより好ましい。
【0062】
上記水溶性ポリマーを含有させることによっても結晶性ポリマーフィラメントの形態を変えることができ、単純な水系と異なる形態の二次形状を与えることができる。また、ヒドロゲルの粘性を増大させ、ヒドロゲルの安定性を向上させることに有効である。
【0063】
また、上記方法で得られたヒドロゲルを、ポリエチレンイミンのアミノ基と反応する2官能基以上を含む化合物で処理することで、ヒドロゲル中の結晶性ポリマーフィラメント表面同士を化学結合でリンクさせた架橋ヒドロゲルを得ることができる。
【0064】
前記アミノ基と室温状態で反応できる2官能基以上を含む化合物としては、アルデヒド類架橋剤、エポキシ類架橋剤、酸クロリド類、酸無水物、エステル類架橋剤を用いることができる。アルデヒド類架橋剤としては、例えば、マロニルアルデヒド、スクシニルアルデヒド、グルタリルアルデヒド、アジホイルアルデヒド、フタロイルアルデヒド、イソフタロイルアルデヒド、テレフタロイルアルデヒドなどがあげられる。また、エポキシ類架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリシジルクロライド、グリシジルブロマイドなどがあげられる。酸クロリド類としては、例えば、マロニル酸クロリド、スクシニル酸クロリド、グルタリル酸クロリド、アジホイル酸クロリド、フタロイル酸クロリド、イソフタロイル酸クロリド、テレフタロイル酸クロリドなどがあげられる。また、酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、スクシニル酸無水物、グルタリル酸無水物などがあげられる。また、エステル類架橋剤としては、マロニル酸メチルエステル、スクシニル酸メチルエステル、グルタリル酸メチルエステル、フタロイル酸メチルエステル、ポリエチレングリコールカルボン酸メチルエステルなどがあげられる。
【0065】
架橋反応は、得られたヒドロゲルを架橋剤の溶液に浸す方法でも、架橋剤溶液をヒドロゲル中に加える方法でも可能である。この際、架橋剤は系内での浸透圧変化と共に、ヒドロゲル内部へ浸透し、そこで結晶性ポリマーフィラメント同士を水素結合で繋いでエチレンイミンの窒素原子との化学反応を引き起こす。
【0066】
架橋反応は、結晶性ポリマーフィラメント表面のフリーなエチレンイミンとの反応により進行するが、その反応を結晶性ポリマーフィラメント内部では起こらないようにするためには、ヒドロゲルを形成する結晶性ポリマーフィラメントの融点以下の温度で反応を行うことが望ましく、さらには架橋反応を室温で行うことが最も望ましい。
【0067】
架橋反応を室温で進行させる場合には、ヒドロゲルを架橋剤溶液と混合した状態で放置しておくことで、架橋ヒドロゲルを得ることができる。架橋反応させる時間は、数分から数日でよく、概ね一晩放置することで好適に架橋が進行する。
【0068】
架橋剤量はヒドロゲル形成に用いるポリエチレンイミン骨格を有するポリマー中のエチレンイミンユニットのモル数に対し、0.05〜20%であればよく、それが1〜10%であればもっと好適である。
【0069】
上記ヒドロゲルは、ゲル化剤が結晶性ポリマーフィラメントであるため多様なモルフォロジーのゲル構造を発現できる。また少量の結晶性ポリマーフィラメントであっても水中で好適に三次元網目構造を形成するため高い水保持性を有する。さらに、使用する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは構造設計や合成が容易であり、かつヒドロゲルの調整が簡便である。また、該ヒドロゲル中の結晶性ポリマーフィラメント間を架橋剤により架橋することにより、ヒドロゲルの形状を固定化できる。
【0070】
[有機無機複合ナノファイバ]
本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、上記した結晶性ポリマーフィラメントと、結晶性ポリマーフィラメントを被覆するシリカとからなるものである。該有機無機複合ナノファイバは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、ナノファイバ形状を誘導する鋳型、シリカを固定する足場、及びシリカソースを重合させる触媒として働くことにより形成されると考えられる。直鎖状ポリエチレンイミンは水中可溶であるが、室温では水分子の存在により水不溶性の結晶体を形成できる。このような直鎖状ポリエチレンイミンを骨格に有するポリマーは、ポリマー相互の直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分が結晶を形成することにより、結晶の性質を有するナノメートルの太さの結晶性ポリマーフィラメントを形成できる。この結晶性ポリマーフィラメントがテンプレートの働きをする。また、該結晶性ポリマーフィラメント表面には不可避的に結晶に関わりがないフリーなポリエチレンイミンの鎖が多数存在し、これらフリーな鎖は結晶性ポリマーフィラメント表面に垂れている状態となる。これらの鎖は、その近傍で重合したシリカを固定する足場であり、同時にシリカソースを重合させる触媒の働きをする。このように、本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、結晶性ポリマーフィラメント表面でシリカソースをゾルゲル反応させて得ることができる。
【0071】
本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、その太さが10〜1000nm、好ましくは15〜100nmのものであり、長さが太さの10倍以上、好ましくは100倍以上の長さを有するものである。このような形状を有する有機無機複合ナノファイバは、そのアスペクト比が非常に高いため、高分子化合物に添加すると添加された材料の耐熱性や強度を、単なる粒子形状のものを添加した場合に比べて向上させることができる。
【0072】
有機無機複合ナノファイバ中のシリカの含有量は、反応条件などにより一定の幅で変化するが、有機無機複合ナノファイバ全体の30〜90質量%の範囲とすることができる。シリカの含有量はゾルゲル反応の際に用いたポリマーの量の増加に伴って増加する。また、ゾルゲル反応時間を長くすることにより増大する。
【0073】
本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントを芯として有するものである。このため、該有機無機複合ナノファイバは、該結晶性ポリマーフィラメント中に存在するエチレンイミン単位により、金属イオンを高度に濃縮して吸着することができる。また、該エチレンイミン単位は容易にカチオン化できるため、該有機無機複合ナノファイバは、アニオン性の生体材料などの各種イオン性物質の吸着や固定化も可能である。さらに該直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは他のポリマーとのブロックやグラフト化が容易であり、ポリマー側鎖や末端構造などの構造制御も容易であることから、各種の機能性ポリマーとのブロック化や末端構造の制御により有機無機複合ナノファイバに各種機能を付与することが可能である。本発明の有機無機複合体は、このような有機無機複合ナノファイバを含有するものであるため、各種機能性の材料として極めて有用な材料である。
【0074】
また、本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、相互に会合することにより多様な形状を有する会合体を形成できる。このようなナノファイバ同士が集合化、階層化した会合体は、単独の有機無機複合ナノファイバよりも有機高分子化合物の補強効果の向上を図ることができるため好ましい。
【0075】
該会合体形状は、上記ヒドロゲル中に形成された会合体の二次形状を複写したものであり、使用するポリマーのポリマー構造の幾何学的な形状や、分子量、一次構造中に導入できる非エチレンイミン部分、さらにはシリカソースの使用量などにより、ファイバ状、ブラシ状、星状、レタス状、スポンジ状、アスター状、サボテン状、タンポポ状などの様々な形状を有することができる。これらの形状の会合体は、相互に会合してより大きな構造体を形成する場合もあるため、これら形状を有する会合体の大きさは一概には規定できないが、星状、アスター状、サボテン状などの形状の場合には、長軸方向の平均長が3μm〜1mm程度の大きさのものを得ることができる。この大きさの形状は、基本ユニットである有機無機複合ナノファイバの会合と空間配置から形成された三次元形状である。この基本ユニットとなる有機無機複合ナノファイバには結晶性ポリマーフィラメントの芯が含まれる。即ち、該会合体は、結晶性ポリマーフィラメント同士が、水中で水素結合による物理的な結合で繋がれて空間に配置されて各種形状の三次元形状のテンプレートとなり、このテンプレートに沿ってシリカが固定化されることにより、有機無機複合ナノファイバが相互に会合して空間に配置された形態を形成したものであると考えられる。
【0076】
本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、
(1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶媒に溶解させた後、水の存在下で析出させ、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントを得る工程、及び(2)水の存在下で、前記結晶性ポリマーフィラメントとアルコキシシランとを接触させることにより、前記結晶性ポリマーフィラメントをシリカで被覆する工程、
からなる製造方法により製造できる。
【0077】
上記(1)の工程は、上述したとおりであり、結晶性ポリマーフィラメントはヒドロゲルの状態や架橋ヒドロゲル状態であってもよい。
【0078】
本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、上記(2)の工程により水の存在下で、結晶性ポリマーフィラメントと、シリカソースとを接触させることにより得られる。また、結晶性ポリマーフィラメントが架橋剤で架橋された状態や結晶性ポリマーフィラメントがヒドロゲルを形成した状態、あるいは該ヒドロゲルを架橋剤で架橋させた状態でシリカソースを接触させることで、有機無機複合ナノファイバからなる有機無機複合構造体を得ることができる。
【0079】
結晶性ポリマーフィラメントとシリカソースとを接触させる方法としては、結晶性ポリマーフィラメントの水中分散液または結晶性ポリマーフィラメントのヒドロゲル又は架橋ヒドロゲル中に、通常のゾルゲル反応において使用できる溶媒にシリカソースを溶解した溶液を加えて、室温下でゾルゲル反応させる方法が挙げられる。該方法により有機無機複合ナノファイバ、有機無機複合構造体を容易に得ることができる。
【0080】
シリカソースとして用いる化合物としては、テトラアルコキシシラン類、アルキルトリアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0081】
テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどを挙げられる。
【0082】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシアンなどを挙げられる。
【0083】
有機無機複合ナノファイバを与える上記ゾルゲル反応は、水、あるいは水と親水性有機溶剤の混合溶液などの水性媒体中、結晶性ポリマーフィラメントの存在下で進行するが、その反応は水性液体相では起こらず、結晶性ポリマーフィラメントの表面で進行する。従って、複合化反応条件では結晶性ポリマーフィラメントが溶解することがなければ、反応条件は任意である。
【0084】
結晶性ポリマーフィラメントを不溶とするためには、ゾルゲル反応の際、親水性有機溶剤を含む水性液体中、水の存在が20%以上とすることが好ましく、それが40%以上であればさらに好ましい。
【0085】
ゾルゲル反応においては、ポリエチレンイミンのモノマー単位であるエチレンイミンに対し、シリカソースであるアルコキシシランの量を過剰とすれば好適に有機無機ナノファイバを形成できる。過剰の度合いとしては、エチレンイミンに対し2〜1000倍等量の範囲であることが好ましい。
【0086】
また、結晶性ポリマーフィラメントを形成する際の水性媒体中のポリマー濃度はそのポリマー中に含まれるポリエチレンイミンの量を基準に、0.1〜30%にすることが好ましい。また、水性媒体中のポリエチレンイミン量は、結晶性ポリマーフィラメントの結晶形態が保持された状態で濃縮することにより30%を越える濃度にすることも可能である。この際の濃縮方法としては、上記結晶性ポリマーフィラメントの水中分散液や結晶性ポリマーフィラメントのヒドロゲルを常温で常圧濾過又は減圧濾過する方法等が使用できる。
【0087】
ゾルゲル反応の時間は1分から数日まで様々であるが、アルコキシシランの反応活性が高いメトキシシラン類の場合は、反応時間は1分〜24時間でよく、反応効率を上げることから、反応時間を30分〜5時間に設定すればさらに好適である。また、反応活性が低い、エトキシシラン類、ブトキシシラン類の場合は、ゾルゲル反応時間が24時間以上が好ましく、その時間を一週間程度とすることも望ましい。
【0088】
有機無機複合体を作成する際に、ポリマー構造の幾何学的な形状や、分子量、一次構造中に導入できる非エチレンイミン部分、さらには有機無機複合構造体の形成条件等を調整することにより、有機無機複合構造体中の会合体形状を調整できる。該会合体形状は、使用するポリマーの分子構造、重合度、組成、及び有機無機複合構造体調製時の温度低下の方法によく依存する。
【0089】
例えば、直鎖ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとして、重合度が300以上の線状ポリエチレンイミンを使用し、80℃以上のところから自然に常温まで低下させてヒドロゲルを得た後、該ヒドロゲルを用いてゾルゲル反応することにより、レタス状の二次的形状を有する有機無機複合構造体を得ることができる。レタス状の会合体形状において葉を形成する部分の厚みはポリマーを結晶化させる際のポリマー溶液中のポリマー濃度が低下するにつれて厚くなるが、濃度が2%以上では、葉の部分の厚みは100nm前後であり、濃度が1%以下では葉の部分の厚みは500nm前後となる。
【0090】
また、星型ポリエチレンイミンを使用する場合には、その核となる中心残基の構造を変えることでも、得られる二次的形状を制御することができる。例えば、中心残基がポルフィリンのような大きなパイ平面を持つものである場合、得られる有機無機複合構造体中の二次的形状はアスター状であり、一つのアスター形状の結晶大きさは2〜6μm程度である。濃度が1%以上ではアスターのアーム数は少なく、各々のアームは結束する傾向があり、それ以下の濃度では、アーム数が多く、各々のアームは別れる傾向がある。また、中心残基がベンゼン環のような小さい構造の場合、得られる有機無機複合構造体中の会合体形状は多くの糸が結束されたファイバ状であり、そのファイバが相互に絡み合い、全体としてスポンジ状の有機無機複合構造体を形成する。一つのファイバ形状の太さは150nm前後である。
【0091】
このように、本発明において使用する有機無機複合ナノファイバは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解し、水の存在下で析出させて結晶性ポリマーフィラメントを得た後、水の存在下で該結晶性ポリマーフィラメントとアルコキシシランを接触させることにより容易に製造することができる。該製造方法においては、結晶性ポリマーフィラメントを得る工程、シリカのゾルゲル反応工程を短時間で行うことが可能である。
【0092】
[有機無機複合体]
本発明の有機無機複合体は、上記有機無機複合ナノファイバを含有するものである。該有機無機複合ナノファイバの含有量は、使用する用途等に応じて適宜調整すればよいが、得られる複合体の機械的強度を保持しつつ耐熱性の向上を図る際には、0.5〜50質量%の範囲であることが好ましく、1〜30質量%の範囲であるとより好ましい。特に、極性基含有樹脂を使用して電解質膜を作成する場合などにおいては、樹脂の特性低下を防ぐ必要があるため、上記範囲のものを好ましく使用できる。ただし、有機無機複合ナノファイバの特性を利用して有機無機複合体に機能性を付与する場合などは更に多く添加することが好ましい場合もある。
【0093】
本発明の有機無機複合体は、1軸、2軸押し出し機により高分子化合物と有機無機複合ナノファイバを混錬する方法や、高分子化合物溶液と有機無機複合ナノファイバの分散液とを混合する方法などにより容易に製造することができる。
【0094】
なかでも、高分子化合物溶液と有機無機複合ナノファイバの分散液とを混合する方法は、有機無機複合ナノファイバを均一に高分子化合物中に分散させやすいため好ましい。該方法により製造する際に、高分子化合物を溶解させる溶媒は、使用する高分子化合物を溶解する溶媒を好ましく使用でき、使用する高分子化合物により適宜選択すればよい。有機無機複合ナノファイバを分散させる媒体としては、有機無機複合ナノファイバを均一に分散させる溶媒であればよく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルメチルエチルケトンなどを好適に使用できる。
【0095】
以上のとおり、本発明の有機無機複合体は、アスペクト比の高い有機無機複合ナノファイバを含有するため優れた耐熱性や強度を有する。また、該有機無機複合ナノファイバが相互に集合化、階層化した会合体を形成している場合には、更に特性の向上が図られる。
【0096】
また、有機無機複合体中の有機無機複合ナノファイバは、カチオン化や構造制御が容易な直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを含有するものであるため、各種機能性材料として極めて有用である。
【実施例】
【0097】
<線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500000,平均重合度5000,Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて100℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0098】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は4.2g(結晶水含有)であった。
【0099】
<有機無機複合ナノファイバの作製>
上記で得られたL−PEI粉末を2.5g秤量し、それを蒸留水500g中に分散させてL−PEI分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、80℃に加熱し、0.5質量%の完全透明な水溶液を得た。その水溶液を室温に放置し、自然に室温までに冷やし、不透明なL−PEIヒドロゲルを得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。
【0100】
得られたヒドロゲル1mL中に、テトラメトキシシラン(TMOS)とエタノールの1/1(体積比)の混合液を1mL加え、アイスクリーム状態のものを軽く一分間かき混ぜた後、そのまま40分放置した。その後、過剰なアセトンで洗浄し、それを遠心分離器にて3回洗浄を行った。得られた固形物を回収し、室温で乾燥し、有機無機複合ナノファイバ会合体の粉末を得た。有機無機複合ナノファイバ会合体のX線回折測定から、20.5°、27.2°、28.2°に散乱強度のピークが表れた。
【0101】
得られた固形物を走査型顕微鏡により観察したところ葉状の会合体形状が確認された(図1)。また、透過型電子顕微鏡により観察したところ太さが約5nmの結晶性ポリマーフィラメント表面にシリカが被覆されていることが確認された(図2)。
【0102】
次に本発明に関わる熱可塑性フィルムの好ましい実施例を記載するが、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0103】
(実施例1)
市販品のパーフルオロカルボン酸樹脂(商品名:ナフィオン、デュポン社製)の20質量%イソプロパノール溶液(和光純薬工業社製)0.45gと、上記で得られた有機無機複合ナノファイバ会合体の5質量%イソプロパノール分散溶液0.20gとを混合した。上記ナノファイバー会合体の5質量%イソプロパノール分散溶液は、イソプロパノール3.8gにシリカファイバー0.2gを加え、高速分散攪拌機を用い、3000rpmで3分、120000rpmで3分、3000rpmで1分攪拌することによって得た。該混合液を膜成形容器に流し込み、60℃で2時間、140℃で30分乾燥し、有機無機複合ナノファイバの含有率が10質量%、膜厚0.1mmのフィルム状の有機無機複合体を作製した。
【0104】
得られた有機無機複合体の動的粘弾性を測定し、貯蔵弾性率(以下、弾性率という)の温度依存性を測定した。なお、弾性率はRheometric Science Inc.製のRheometric RSAIIを用いて張モード、周波数1Hz、20℃〜200℃で測定したところ、100℃における弾性率は、2.78×10Paであった。また、20℃〜200℃の弾性率変化は図3のとおりであった。
【0105】
(実施例2)
パーフルオロカルボン酸樹脂(商品名:ナフィオン、デュポン社製)の20質量%イソプロパノール溶液0.32gと、上記で得られた有機無機複合ナノファイバ会合体の5質量%分散液0.32gとを混合した。該混合液を膜成形容器に流し込み、60℃で2時間、140℃で30分乾燥し、有機無機複合ナノファイバの含有率が20質量%、膜厚0.1mmのフィルム状の有機無機複合体を作製した。
【0106】
有機無機複合ナノファイバの含有率が20質量%、膜厚0.1mmのフィルム状の有機無機複合体を作製した。得られた有機無機複合体の弾性率を実施例1と同様に測定したところ、100℃における弾性率は、7.56×10Paであった。
【0107】
(比較例1)
実施例1で使用したパーフルオロカルボン酸樹脂の20質量%イソプロパノール溶液を膜成形容器に流し込み、60℃で2時間、140℃で30分乾燥して、膜厚0.1mmのフィルムを作製し、弾性率を測定したところ、100℃における弾性率は、1.34×10Paであった。
【0108】
(比較例2)
実施例1に用いた有機無機複合ナノファイバを、シリカ粒子(商品名:アエロジル300、日本アエロジル社製、1次粒径の平均径約7nm)に換えた以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、弾性率を測定したところ、100℃における弾性率は、2.65×10Paであった。また、20℃〜160℃の弾性率変化は図3のとおりであった。
【0109】
上記実施例、比較例において示したとおり、本願発明の有機無機複合体は、通常のシリカ粒子を含有する複合体に比べて優れた耐熱性を示すことが明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施例1において使用した有機無機複合ナノファイバの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1に使用した有機無機複合ナノファイバの透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例1と比較例1の複合体における貯蔵弾性率の温度依存性の測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子化合物と、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ポリマーフィラメントがシリカにより被覆された有機無機複合ナノファイバとを含有することを特徴とする有機無機複合体。
【請求項2】
前記有機無機複合ナノファイバの太さが、10〜1000nmの範囲にある請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記有機無機複合ナノファイバの長さが0.1μm〜3mmの範囲にある請求項1又は2に記載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記有機無機複合ナノファイバが相互に会合して会合体を形成している請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項5】
前記有機高分子化合物が、極性基として水酸基、アミノ基、カルボン酸基、及びスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項6】
前記有機高分子化合物が、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリサルフォン、パーフルオロカルボン酸、スチレン−ジビニルベンゼンスルホン酸のカチオン交換樹脂、及びスチレン−ブタジエン系のアニオン交換樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項7】
有機無機複合ナノファイバの含有量が、0.5〜50質量%の範囲にある請求項1〜6のいずれかに記載の有機無機複合体。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−84657(P2007−84657A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273682(P2005−273682)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】