説明

有機無機複合ヒドロゲルの製造方法

【課題】高い力学物性を有するだけでなく、高い水膨潤性とプロトン伝導性を有する新規な有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリルアミド又はその誘導体と、ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とを含む均一溶液を調製した後、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを重合開始剤と同時に又は重合開始剤を添加した後に加えて、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体とスルホン酸基を有する重合性モノマーとを共重合させることにより得られる有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成している有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療、建築、土木、機械、運輸、電子部材、縫製、家庭用品、衛生用品、農業、食品などの分野で用いられる高分子ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリルアミドヒドロゲルは、シリコンゲルやウレタンゲルに比べて良好な親水性を示すが、機械強度が脆弱で取り扱いにくいことが知られている。その機械強度を改良するため、様々な努力がなされていた。例えば、(メタ)アクリルアミドヒドロゲルの力学物性を大きく向上させる方法として、水に均一分散している粘土鉱物の共存下に(メタ)アクリルアミド誘導体の重合を行わせることによって、数十〜数百kPa引張破断強度を有する有機無機複合ヒドロゲルが見出されている(特許文献1)。かかる機械強度の向上により、これらのゲルの実用性が現実的となってきている。一方、いろいろなニーズに対応するため、このヒドロゲルに力学物性だけでなく、水膨潤性、細胞培養性、プロトン伝導性などの機能性を更に改良したり、付与することが望まれている。
【0003】
なお、特許文献2には、クレイ共存下、アクリルアミド系モノマーの重合により製造される有機無機複合ヒドロゲルに関する技術が開示され、アクリルアミド誘導体とスルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマーを共重合できることが記載されている。しかしながら、該文献にはスルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマーを用いた有機無機複合ヒドロゲルの安定した製造方法の詳細については開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2002-053629号公報
【特許文献2】特開2006-169314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い力学物性を有するだけでなく、高い水膨潤性を有する有機無機複合ヒドロゲルの安定な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物を用い、(メタ)アクリルアミド誘導体及びスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーと、ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)との均一混合溶液の粘度を効果的に下げて、(メタ)アクリルアミド誘導体とスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーとの共重合を行わせることによって、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルが得られ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、上記のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体と、ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とを含む均一溶液を調製した後、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを重合開始剤と同時に又は重合開始剤を添加した後に加えて、前記(メタ)アクリルアミド又はその誘導体と前記スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーとを共重合させることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルを安定して製造することができる。そして、本発明にて製造されたヒドロゲルは有機無機複合ヒドロゲルの高い力学物性を保持し、従来の有機架橋ヒドロゲルと比べて優れた機械強度を有する。また、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを分子鎖に導入したことによって、高い水膨潤性及びプロトン伝導性が得られ、高吸水性樹脂材料や燃料電池用材料としての用途展開が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる有機高分子(A)は、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーと(メタ)アクリルアミド及び/又はその誘導体との共重合によって得られるものであって、水に分散した水膨潤性粘土鉱物(B)と水素結合やイオン結合等の非共有結合により三次元網目を形成している。
【0010】
有機高分子(A)を構成する(メタ)アクリルアミド又はその誘導体としては、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体などが挙げられる。具体的には、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリディン、N-アクリロイルピペリディン、N-アクリロイルメチルホモピペラディン、N-アクリロイルメチルピペラディンなどが例示される。その中に、水溶液中でのポリマー物性(親水性と疎水性)がLCST(下限臨界共溶温度)を持つN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドなどは機能性の観点から好ましく用いられる。
【0011】
また、有機高分子(A)を構成するスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーはスルホン酸基やカルボン酸基を本有機無機複合ヒドロゲルに導入させるものであり、次のようなモノマーを用いることが好ましい。
(1)スルホン酸基を有するモノマー
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリルアミドスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸及びこれらの塩類、メタクリロキシオキシエチルスルホン酸ナトリウムなど
(2)カルボン酸基を有するモノマー
アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸及びその塩類
これらの中でも、水膨潤性やプロトン伝導性の優れた有機高分子が得られやすいとの観点から、アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が特に好ましく用いられる。
【0012】
本発明に用いるピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)は、水に膨潤し均一分散可能なものであり、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。これらの粘土鉱物は、水溶性有機高分子のモノマーが重合する前の水溶液中で微細、且つ均一に分散していることが必要であり、特に水溶液中に単位層レベルで分散していることが望ましい。ここで、水溶液中に粘土鉱物の沈殿となるような粘土鉱物凝集体がないことが必要であり、より好ましくは1〜10層程度のナノオーターの厚みで分散しているもの、特に好ましくは1又は2層程度の厚みで分散しているものである。
【0013】
上述の粘土鉱物にピロリン酸ナトリウムを添加することが必要である。ピロリン酸ナトリウムを添加することによって、粘土鉱物水分散液の粘度が効果的に下がり、高濃度でも、ゲル化せず、有機高分子のモノマーが均一に重合することができる。スルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマーを用いた場合、粘土鉱物の含有率が低くなると、力学強度を有する複合体ヒドロゲルが得られない。一方、粘土鉱物の含有率を高くすると、溶液がゲル化して、スルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマーの均一な分散、共重合ができなくなる。また、攪拌機を用い、ゲル化した溶液にモノマーを分散させると、強力な攪拌により、スルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマーと粘土鉱物との相互作用が強くなり、無機架橋剤としての粘土鉱物の働きを失い、強い複合体ヒドロゲルが得られなくなる。ピロリン酸ナトリウムを用いることによって、高濃度の粘土鉱物の水溶液でも、溶液がゲル化せず、(メタ)アクリルアミド誘導体とスルホン酸基を有する重合性モノマーとの共重合は均一にできるようになった。
【0014】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルにおける有機高分子(A)と水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物(B)との比率は重要であり、好ましくは前記水膨潤性粘土鉱物(B)と前記有機高分子(A)の質量比((B)/(A))は0.05〜5である。また、より好ましくは(B)/(A)の質量比が0.1〜4、特に好ましくは0.2〜3である。
【0015】
(B)/(A)の質量比が0.05未満では、本発明のヒドロゲルの伸縮性が十分でない場合が多く、5を越えては、得られたヒドロゲルが脆くなるなどの製造上の問題が生じる場合がある。一方、(A)+(B)に対する(C)水の比率は、重合過程での水量調整、もしくはその後の膨潤や乾燥により、目的に応じて広い範囲で任意に設定できる。
【0016】
また、有機高分子(A)のモノマー組成において、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーの共重合比率が高すぎると、得られたヒドロゲルの力学物性は低下する。一方、その共重合比率が低すぎると、本発明のヒドロゲルの高い吸水性やプロトン伝導性は発揮出来なくなる。従って、有機高分子(A)中のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーの共重合比率としては、モノマー全体に対して0.1〜30モル%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜25モル%であり、特に好ましくは0.5〜20モル%であり、1〜15モル%であることが最も好ましい。
【0017】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルには、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を有し、Tcを境にした上下の温度変化により透明性や体積を可逆的に変化できる特徴を有するものが含まれる。このような有機無機複合ヒドロゲルは有機モノマーとして水溶液中でLCST(下限臨界共溶温度)を示す有機モノマーを用いて調製できる。
【0018】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、有機無機ヒドロゲルの特徴を保持しており、従来の有機架橋ゲルと比べて、高い吸水率を有する他、優れた力学物性などを示している。例えば、強度、伸び、タフネスなどの力学物性において、本発明のスルホン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、有機架橋ゲルよりすべて優れていることが特徴である。
【0019】
有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、ヒドロゲルの水含有率及び形状により異なるため、本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、一定範囲内の水含有率及び断面積を持つヒドロゲルを用いて試験した結果で表される。本明細書では、具体的には、試験開始時のヒドロゲルの断面積(初期断面積)を0.2〜0.5cm2にしたものを試験材料として用い、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲル中の前記水(C)の含有率(含水率)が90質量%のものについて力学物性の測定を行った。
【0020】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、上記の水含有率と初期断面積のヒドロゲルを用いて測定した場合、引張強度が10〜500kPaであり、より好ましくは20〜450kPaであり、特に好ましくは30〜400kPaであること、更に引張破断伸びが100〜3000%であり、より好ましくは200〜2500%であり、特に好ましくは300〜2000%であるものが好ましい。
【0021】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルにおいては、平衡膨潤度Wgel/Wdryが50以上であることが好ましい。ここで、平衡膨潤度Wgel/Wdryとは、乾燥ゲル1g当たりに膨潤したヒドロゲルの質量数である。Wdryはヒドロゲルの固形分であり、Wgelはヒドロゲルを大量の水に浸して、その重量を増加しなくなるまでの質量である。平衡膨潤度Wgel/Wdryは50〜2000であることがより好ましく、100〜1500であることが特に好ましい。
【0022】
本発明のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、以下の方法で製造できる。有機高分子(A)のモノマーと、水に均一分散可能なピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とを含む均一溶液を調製後、層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下に有機高分子(A)のモノマーの重合を行わせる。重合過程で有機高分子(A)のモノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)との相互作用により水膨潤性粘土鉱物(B)がモノマーの架橋剤の働きをして、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との分子レベルでの複合化が達成され、三次元網目形成によりゲル化したスルホン酸基又はカルボン酸基を有する有機無機複合ヒドロゲルが得られる。
【0023】
具体的には、水中に微細分散したピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物(B)の水溶液に、(メタ)アクリルアミド誘導体を加え、低温にしてスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーとラジカル重合開始剤を添加させ、引き続き、所定温度で重合を行わせる。ここで、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーの添加順序は重要である。先にアクリルアミド誘導体と一緒にスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを添加すると、粘土鉱物がスルホン酸基やカルボン酸基と強い相互作用により凝集を生じてしまう。このようにして得られたヒドロゲルは白濁するだけでなく、力学物性も低下する傾向を示す。また、粘土鉱物とスルホン酸基又はカルボン酸基との相互作用により、反応系が著しく増粘し、ゲル化する場合もある。そのため、重合開始剤は反応系内に分散できなくなり、均一なヒドロゲルが得られない。粘土鉱物の凝集を最小限に抑えるため、(メタ)アクリルアミド(誘導体)を先に粘土鉱物水分散液に加え、続いてスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーと重合開始剤を一度に添加させること又は重合開始剤を加えた後スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを添加させることによって、モノマーの分散と共にラジカル重合を行わせ、系全体をゲル化させる方法が有効に用いられる。重合開始剤とスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを別々に添加する場合は、重合開始剤を加えた直後にモノマーを加えることが好ましい。重合開始剤を加えると、先に水分散液中に添加されている(メタ)アクリルアミド(誘導体)の重合が開始する。したがって、重合開始剤を添加したら、できるだけ速やかにスルホン酸基を有する重合性モノマーを添加すると、ランダム共重合が進み、本発明の効果を発揮する上で好ましい。
【0024】
上記のラジカル重合反応は、ラジカル重合開始剤及び/又は放射線照射など公知の方法により行わせることができる。ラジカル重合開始剤及び触媒としては、公知慣用のラジカル重合開始剤及び触媒を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。
【0025】
具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、VA-044, V-50, V-501の他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤などが挙げられる。一方、触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンやβ-ジメチルアミノプロピオ二トリルなどがもちろん用いられるが、本発明では、モノマーとして用いられているスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーは触媒の働きをしているため、上述のラジカル重合触媒を添加しなくてもよい。
【0026】
重合温度は、開始剤の種類にあわせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も他の重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数十時間の間で行われる。
【実施例】
【0027】
本発明は、次の実施例によって更に具体的に説明する。
【0028】
(測定条件)
以下の実施例及び比較例において、引張り試験は、島津製作所(株)製卓上型万能試験機AGS-Hを用いて、未精製の丸棒状のヒドロゲル(直径=5.5mm) 又は平板状のヒドロゲル(幅=10mm,厚み=4.5mm)をチャック部での滑りのないようにして引っ張り試験装置に装着し、標点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて測定を行った。水膨潤度は直径5.5mmの丸棒状ヒドロゲル約0.2gを大量の水の中に浸して、その質量増加の時間依存性から求めた。
【0029】
(試薬)
・粘土鉱物
XLS: 6%ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLS、日本シリカ株式会社製)
XLG: 水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)
・モノマー
DMAA: ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
NIPAM: N-イソプロピルアクリルアミド(興人株式会社製)、トルエンとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶し無色針状結晶に精製してから用いた。
AMPS: 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)
AAc: アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)
MESNa: メタクリロキシオキシエチルスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)
BIS: N,N'-メチレンビスアクリルアミド(関東化学株式会社製)
・重合開始剤
KPS: ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製)、KPS/水=0.2/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。
・重合触媒
TEMED: N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)
【0030】
(実施例1及び比較例1,2)
内径25mm,長さ80mmの平底ガラス容器に、純水19gと1.6gのXLSを攪拌して均一な溶液を調製した。これにNIPAM 1.9gを加え、15分間窒素バブリングした。続いて、氷浴下、KPS水溶液1gを攪拌して加えた直後に、AMPS 0.1gとH2O 1gとの透明溶液を加え、均一溶液を得た。得られた均一溶液を速やかに底の閉じた内径5.5mm,長さ150mmのガラス管容器に酸素に触れないようにして移した後、上部を密栓し、20℃で静置重合を行った。15時間後にガラス管容器内に伸縮性、強靭性のある均一な棒状のヒドロゲルが生成された。ヒドロゲルは大量の水に浸して精製した。得られた精製ヒドロゲルを100℃、減圧下にて乾燥して水分を除いたヒドロゲル乾燥体を得た。ゲル乾燥体を20℃の水に浸漬することにより、乾燥前と同じ形状の伸縮性のあるヒドロゲルに戻ることが確認された。また、ゲル乾燥体の熱重量分析(セイコー電子工業株式会社製TG-DTA220:空気流通下、10℃/分で600℃まで昇温)を行い、B/A=0.8(質量比)を得た。
【0031】
以上から、本実施例で得られたゲルは、仕込み組成に沿った成分比を有する、有機高分子(NIPAMとAMPSの共重合体)と粘土鉱物と水からなるヒドロゲルであること、有機高分子の合成において架橋剤を添加していないにもかかわらず、均一なヒドロゲルとなること、ヒドロゲルから水分を除いて得られるゲル乾燥体を水に浸漬することにより再びもとの形状のヒドロゲルに戻ることなどから、有機高分子と粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成されていると結論された。
【0032】
なお、粘土鉱物を共存させない以外は同様な条件で合成した有機高分子は高分子水溶液となりヒドロゲルとはならなかった。
未精製の丸棒状のヒドロゲルの引っ張り試験を行い、その結果を図1に示す。また、水膨潤性の測定結果を図3に示す。
【0033】
また、粘土鉱物の変わりに有機架橋剤を用いて、スルホン酸基を有する有機架橋ゲルを合成した(比較例1)。比較例1のゲルは極めて脆弱で引っ張り試験を行おうとしたが、チャックに装着前に殆どのサンプルが壊れた。また、チャックに軽く装着したものでも試験直後に破断し、物性値は得られなかった。
【0034】
なお、AMPSを用いない以外は実施例1と同様にして比較例2のヒドロゲルを合成した。水膨潤性において、スルホン酸基を有するヒドロゲルの実施例1は比較例2を大きく超え、優れた吸水性を示した(図3)。
【0035】
(実施例2,3.4)
表1に示した組成で、実施例1と同様に実施例2,3,4のスルホン酸基又はカルボン酸基を有するヒドロゲルを合成した。図1及び図3に示したように、実施例2,3,4のヒドロゲルは優れた力学特性と水膨潤性を示した。
【0036】
(実施例5,6,7,8,9)
表1に示したように、AMPSの変わりに、AMPSNaを用いた実施例5,6、MESNaを用いた実施例7,8及びAAcNaを用いた実施例9は、実施例1と同様にしてスルホン酸基又はカルボン酸基を有するヒドロゲルを合成した。図2及び図4に示したように、実施例5,6,7,8,9のヒドロゲルは優れた力学特性と水膨潤性を示した。
【0037】
(実施例10及び比較例3)
表1に示した組成で、実施例1と同様にして低クレイ含有率の実施例10のスルホン酸基を有するヒドロゲルを合成した。また、ピロリン酸ナトリウムを使わない以外は実施例10と同様な組成の比較例3のヒドロゲルを作ろうとしたが、AMPSを添加する際、溶液は著しく増粘し、AMPSの均一な分散ができなかった。また、攪拌機を用い、ゲル化した溶液にモノマーを分散させたが、伸縮性のあるヒドロゲルが得られなかった。
【0038】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1,2,3,4で得られたヒドロゲルの強度と伸びを示す図である。
【図2】実施例5,6,7,8,9,10で得られたヒドロゲルの強度と伸びを示す図である。
【図3】実施例1,2,3,4及び比較例2で得られたヒドロゲルの水膨潤度を示す図である。
【図4】実施例5.6,7,8,9,10で得られたヒドロゲルの水膨潤度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成している有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体と、ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性粘土鉱物と、水(C)とを含む均一溶液を調製した後、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーを重合開始剤と同時に又は重合開始剤を添加した後に加えて、前記(メタ)アクリルアミド又はその誘導体とスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーとを共重合させることにより前記有機高分子(A)を製造することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)と前記有機高分子(A)の質量比((B)/(A))が0.05〜5である請求項1に記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)がピロリン酸ナトリウム含有合成ヘクトライトである請求項1に記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項4】
前記スルホン酸基を有する重合性モノマーが、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はその塩、あるいはメタクリロキシオキシエチルスルホン酸ナトリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸基を有する重合性モノマーがアクリル酸又はその塩である請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項6】
前記有機高分子(A)中のスルホン酸基又はカルボン酸基を有する重合性モノマーの共重合比率が0.1〜30モル%以下である請求項1〜5のいずれか一つに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる有機無機複合ヒドロゲルであって、前記水(C)の含有率(含水率)が90質量%の時点における、引っ張り強度が10kPa〜500kPaであり、且つ破断伸びが100%〜3000%である有機無機複合ヒドロゲル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−127035(P2009−127035A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307243(P2007−307243)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】