説明

有機無機複合ヒドロゲルの製造方法

【課題】 広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物と高分子重合体が三次元網目構造を形成し、優れた力学物性を示す有機無機複合ヒドロゲルを、開始剤を用いずに製造できる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
プラズマによる表面処理を施した水膨潤性粘土鉱物(b)と水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を水媒体(C)中に分散又は溶解させた後、重合開始剤を用いずに、前記(メタ)アクリル系モノマー(a)を加熱及び/又は紫外線の照射により重合させることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体と、水膨潤性粘土鉱物(b)からなる有機無機複合ヒドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリウレタンなどの有機高分子を粘土と複合させることによりナノコンポジットと呼ばれる高分子複合体が調製されている。得られた高分子複合体はアスペクト比の大きい粘土層を微細に分散させていることから、弾性率、熱変形温度、ガス透過性、および燃焼速度などが効果的に改良されることが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
高分子複合体中に含まれる粘土鉱物量としては、性能強化の観点からは高い粘土鉱物含有量が望まれるが、より低い粘土鉱物量で効果的な性能強化が達成されることも重要である。これまでの研究では通常0.2〜5質量%が用いられ、0.1質量%以下の低無機含有高分子複合体や10質量%を超える高無機含有高分子複合体は用いられていない。これは無機含有率が低くなると性能向上の効果が無視されるほど小さくなり、一方、無機含有率が高くなると製造時の粘度増加が大きく、得られる複合体中での、粘土鉱物のナノスケールでの微細且つ均一な分散が達成できなかったり、或いは複合体が脆くなり力学物性(強度や伸び)が大きく低下したりするためである。
【0004】
このような問題に対し、優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、広い範囲の粘土鉱物含有率において粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散した有機無機複合ヒドロゲルが開示されており、該有機無機複合ヒドロゲルは水媒体中で水膨潤性粘土鉱物と重合開始剤の存在下にアクリルアミドやメタクリルアミドの誘導体、(メタ)アクリル酸エステルなどを重合させることにより、力学物性の良い高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、乾燥状態で優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、水溶性(メタ)アクリル酸エステルから得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物とが三次元網目を形成してなることを特徴とする高分子複合体が開示されており、該複合体は、水膨潤性粘土鉱物と水溶性(メタ)アクリル酸エステルと重合開始剤、更に必要に応じて触媒または/および有機架橋剤を、水または水と有機溶媒との混合溶媒中に溶解または均一に分散させた後、水溶性(メタ)アクリル酸エステルを重合させ、次いで乾燥させて溶媒を除去することにより、高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
更に、酸素の影響を受けにくく、短時間で有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法が開示されており、即ち、非水溶性の重合開始剤を水媒体中に分散させた反応溶液中で、水膨潤性粘土鉱物の共存下において、水溶性のアクリル系モノマーをエネルギー線の照射により反応させることにより、力学物性の優れた有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法である(例えば特許文献4参照)。
【0007】
上記の有機無機複合ヒドロゲルは、何れも反応液中にラジカルを発生させる重合開始剤を含んだもので、使用目的により、作製後のゲルより開始剤を除去する工程が必要になる。
【0008】
一方、ポリテトラフルオルエチレンフィルム(PTFE)の表面にプラズマを照射し、空気中の水分と反応させた後、前記PTFEをアクリル酸のような水溶性モノマーの水溶液中に入れ、紫外線を照射することにより、PTFEフィルムの表面に親水性モノマーをグラフト重合させる技術が開示されている(例えば非特許文献2参照)。しかし、プラズマ処理を施した無機物(特にナノ粒子状の無機物)を架橋剤としての役割と同時に、開始剤としての役割をも果たす技術例は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2004−143212
【特許文献3】特開2005−232402
【特許文献4】特開2006−169314
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ピナバイアおよびベアル編(T.J.Pinnavaia and G. W.Beall Eds.)「ポリマークレイナノコンポジット」(Polymer-Clay Nano Composites ),ワイリー社(wiley)、2000年出版
【非特許文献2】K. L. Tanら、Macromolecules 1993, 26, 2832-2836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物と高分子重合体が三次元網目構造を形成し、優れた力学物性を示す有機無機複合ヒドロゲルを、開始剤を用いずに製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、プラズマによる表面処理を施した水膨潤性粘土鉱物(b)と水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を水媒体(C)中に分散又は溶解させた後、重合開始剤を用いずに、前記(メタ)アクリル系モノマー(a)を加熱及び/又は紫外線の照射により重合させることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、有機無機複合ヒドロゲルを重合する際に重合開始剤を添加しないため、開始剤を除去するための製造工程が不要であることから簡便に低コストで有機無機複合ヒドロゲルを製造できる。
【0014】
また、本発明により得られた有機無機複合ヒドロゲルは、広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散し、優れた力学物性や柔軟性などを示すと同時に、重合も極短時間で完了できる特徴を持っており、医療や介護用具、各種工業用材料として用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)は、その重合体が粘土鉱物と相互作用し、重合により有機無機複合ヒドロゲルを形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、(メタ)アクリルアミドおよび/またはこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)や(メタ)アクリル酸エステルが好ましく用いられ、特に好ましくは(メタ)アクリルアミド、および/またはこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)が用いられる。
【0016】
更に好ましくは下記式(1)〜(6)の(メタ)アクリル系モノマーが用いられる。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基を表し、nは1〜9の整数である。)
【0023】
上記のアクリル系モノマーは、要求される力学物性や化学物性などにより、一種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
また、有機無機複合ヒドロゲルの物性に影響を及ぼさない程度に、その他の共重合モノマーとして、例えば、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有するアクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有するアクリル系モノマー、糖残基を有するアクリル系モノマー、また、水酸基を有するアクリル系モノマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有するアクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性アクリル系モノマー、ポリエチレングリコールジアクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどを併用することができる。
【0025】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(b)としては、層状に剥離可能な膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0026】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルを製造する際、水膨潤性粘土鉱物(b)と水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)との重量比(b)/(a)が、0.01〜10であることが好ましく、0.03〜5がより好ましく、0.05〜3が特に好ましい。重量比(b)/(a)が0.01未満では、得られる有機無機複合ヒドロゲルの力学物性が不十分になりやすく、また10を超えると粘土鉱物の分散が困難になってくる。
【0027】
本発明に用いる水媒体(C)は、モノマー(a)や水膨潤性粘土鉱物などを含むことができ、物性のよい有機無機複合体分散液が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、コラーゲン、たんぱく質、糖類、アミノ酸類、細胞、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、無機化合物、発泡剤、レベリング剤などを含むことができる。
【0028】
本発明におけるプラズマによる粘土鉱物の表面処理方法は、粉状の水膨潤性粘土鉱物に直接プラズマを照射する方法や、水膨潤性粘土鉱物の水分散液を支持体に塗布し、乾燥させて、水膨潤性粘土鉱物の薄層にした後、プラズマを照射する方法などがある。後者の場合、より均一なプラズマ処理ができ、処理される粘土鉱物の割合も高く、好ましい。この場合の粘土鉱物の薄層の厚みが10μm以下であることが好ましく、3μm以下が更に好ましい。水膨潤性粘土鉱物の薄層の厚みが10μm以下であれば、プラズマ照射後、ラジカルを持つ粘土鉱物が十分生成することができ、良好な有機無機複合ヒドロゲルを形成することができ、好ましい。
【0029】
また、水膨潤性粘土鉱物の水分散液を凍結乾燥することにより形成させた多孔質状の粘土鉱物にプラズマを照射することが、プラズマが多孔質の内部までとどき、より多くの粘土鉱物を表面処理でき、好ましい。
【0030】
プラズマ照射には、公知慣用のプラズマ照射装置を用いることができる。例えば、真空型プラズマ処理装置や、大気圧プラズマ処理装置、大気圧コロナ処理装置などが挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させる方法は、一定時間の加熱による熱重合法や、紫外線を照射する光重合方法、または紫外線照射と加熱を併用する方法を用いる。中でも、加熱せず、重合時間が短く、酸素の影響も少ない点から、紫外線による重合方法が好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。
【0032】
本発明は、反応系に熱重合または光重合用の重合開始剤を一切添加せず、プラズマ照射を施した、多官能架橋剤として使用される水膨潤性粘土鉱物(b)の表面に生成したラジカルを利用して、モノマー(a)を重合させることが本発明の最大の特徴である。
【0033】
本発明の製造方法は、異なる形状の鋳型や支持体、またはフォトマスクを用いることにより、任意形状(例えば、板状、シート状、薄膜状、棒状、球状、糸状、中空糸状、パターン状)の有機無機複合ヒドロゲルを製造することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
[水膨潤性粘土鉱物のプラズマ処理]
粘土鉱物(b)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.5gを真空型プラズマ処理装置(PR31型、ヤマト科学(株)製)に入れ、アルゴンガス雰囲気中で、60Wの照射強度で、5分間プラズマ照射を行い、プラズマ処理粘度鉱物(B1)を調製した。
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(b)、水媒体(C)を含む反応液の調製]
モノマー(a)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.99g、前記プラズマ処理粘土鉱物(B1)0.4g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E1)を調製した。
[開始剤フリー有機無機複合ヒドロゲルの作製]
上記反応溶液(E1)を内径5.5mmのガラス管に封入し、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射しN,Nージメチルアクリルアミドを重合させて、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(1)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(1)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は95KPaで、破断点歪みは1935%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0035】
(実施例2)
[水膨潤性粘土鉱物のプラズマ処理]
粘土鉱物(b)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.5g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合した水分散液を、6×15cmの硝子板に、乾燥粘土鉱物の薄層の厚みが5μmになるように塗布し、80℃、1時間乾燥させ、粘土鉱物の薄層を作製した。
【0036】
上記硝子板に作製した粘土鉱物の薄層を、真空型プラズマ処理装置(PR31型、ヤマト科学(株)製)に入れ、アルゴンガス雰囲気中で、60Wの照射強度で、5分間プラズマ照射を行い、プラズマ処理粘度(B2)を調製した。
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(b)、水媒体(C)を含む反応液の調製]
モノマー(a)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.99g、前記プラズマ処理粘土鉱物(B2)0.4g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E2)を調製した。
[開始剤フリー有機無機複合ヒドロゲルの作製]
上記反応溶液(E2)を内径5.5mmのガラス管に封入し、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射しN,Nージメチルアクリルアミドを重合させて、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(2)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(2)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は90KPaで、破断点歪みは1900%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0037】
(実施例3)
実施例2の粘土鉱物(b)と水を均一に混同した水分散液を、硝子板に乾燥粘土鉱物の薄層の厚みが1μmになるように塗布したこと以外は、実施例2と同様にして、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(3)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(3)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は132KPaで、破断点歪みは1650%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0038】
(実施例4)
実施例2の粘土鉱物(b)と水を均一に混同した水分散液を、硝子板に乾燥粘土鉱物の薄層の厚みが0.5μmになるように塗布したこと以外は、実施例2と同様にして、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(4)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(4)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は188KPaで、破断点歪みは1600%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0039】
以上の実施例2〜4より、プラズマ処理された粘土鉱物の薄層の厚みが薄くなると、処理された粘土鉱物の割合が増え、得られた有機無機複合ヒドロゲルの力学物性も向上することが理解できる。
【0040】
(実施例5)
実施例2の反応液(E2)を、真空脱気により、反応液中の酸素を十分除去した後、アルゴンガス雰囲気中で、反応液を内径5.5mmのガラス管に封入した後、60℃、15時間静置して、N,Nージメチルアクリルアミドを重合させ、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(5)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(5)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は95KPaで、破断点歪みは1900%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0041】
(実施例6)
N、N−ジメチルアクリルアミド0.99gの変わりに、N―イソプロピルアクリルアミド1.13gを用いること以外は、実施例3と同様にして、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(6)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(6)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は105KPaで、破断点歪みは1000%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
このゲル(6)を20℃の水中に165時間浸漬したところ、ゲルが透明のまま膨潤し重量が初期の約400%になった。また、この膨潤したゲルを50℃の水に24時間浸漬したところ、ゲルが収縮し白濁になり、重量が初期の約35%になった。
【0042】
(実施例7)
[水膨潤性粘土鉱物のプラズマ処理]
粘土鉱物(b)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.5g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合した水分散液を、6×15cmの硝子板に、乾燥粘土鉱物の薄層の厚みが1μmになるように塗布し、80℃、1時間乾燥させ、粘土鉱物の薄層を作製した。
【0043】
上記硝子板に作製した粘土鉱物の薄層を、真空型プラズマ処理装置(PR31型、ヤマト科学(株)製)に入れ、アルゴンガス雰囲気中で、60Wの照射強度で、5分間プラズマ照射を行い、プラズマ処理粘度(B7)を調製した。
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(b)、水媒体(C)を含む反応液の調製]
モノマー(a)として2−メトキシエチルアクリレート(東亞合成株式会社製)1.28g、前記プラズマ処理粘土鉱物(B7)0.16g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E7)を調製した。
[開始剤フリー有機無機複合ヒドロゲルの作製]
上記反応溶液(E7)を内径5.5mmのガラス管に封入し、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し2−メトキシエチルアクリレートを重合させたところ、白色で棒状の有機無機複合ヒドロゲル(7)を得た。この白色のゲルを室温で乾燥させたところ、硬くて、透明な棒状の有機無機複合体となった。
[ゲルの物性]
上記作製した有機無機複合体を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は2.5MPaで、破断点歪みは1600%であった。
【0044】
(実施例8)
[水膨潤性粘土鉱物のプラズマ処理]
粘土鉱物(b)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.5g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合した水分散液を、6×15cmの硝子板に、厚みが100μmになるように塗布し、凍結乾燥させ、粘土鉱物の多孔質体を作製した。
【0045】
上記粘土鉱物の多孔質体を軽く潰した後、真空型プラズマ処理装置(PR31型、ヤマト科学(株)製)に入れ、アルゴンガス雰囲気中で、60Wの照射強度で、5分間プラズマ照射を行い、プラズマ処理粘度(B8)を調製した。
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(b)、水媒体(C)を含む反応液の調製]
モノマー(a)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.99g、前記プラズマ処理粘土鉱物(B8)0.4g、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E8)を調製した。
[開始剤フリー有機無機複合ヒドロゲルの作製]
上記反応溶液(E8)を内径5.5mmのガラス管に封入し、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射しN,Nージメチルアクリルアミドを重合させて、棒状の有機無機複合ヒドロゲル(8)を作製した。
[ゲルの物性]
上記作製したゲル(8)を、引っ張り試験機(AGS−H型、島津製作所製)を用いて、測定したところ、破断点応力は129KPaで、破断点歪みは1580%であった。該ゲルは、目視で無色透明で、柔軟であった。
【0046】
(比較例1)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(b)、水媒体(C)を含む反応液の調製]
モノマー(a)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.99g、粘土鉱物(b)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.4g(未処理)、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して分散液(1)を調製した。
[有機無機複合ヒドロゲルの作製]
上記分散液(1)を内径5.5mmのガラス管に封入し、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、N,Nージメチルアクリルアミドは重合せず、分散液(1)は液状のままで、有機無機複合ヒドロゲルを作製することはできなかった。
上記実施例及び比較例から、本発明の製造方法によれば重合開始剤を添加することなく、極短時間で、広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散し、優れた力学物性や柔軟性及び透明性などを示す有機無機複合ヒドロゲルを製造できることが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによる表面処理を施した水膨潤性粘土鉱物(b)と水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を水媒体(C)中に分散又は溶解させた後、重合開始剤を用いずに、前記(メタ)アクリル系モノマー(a)を加熱及び/又は紫外線の照射により重合させることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理の方法が、水膨潤性粘土鉱物(b)を10μm以下の薄層とした後にプラズマ照射する方法である請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理の方法が、水膨潤性粘土鉱物(b)を多孔質状の成形物とした後にプラズマ照射する方法である請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項4】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)が、(メタ)アクリルアミド、これらの誘導体及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)が、下記式(1)〜(6)から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基を表し、nは1〜9の整数である。)
【請求項6】
前記水膨潤性粘土鉱物(b)が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。
【請求項7】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(b)との重量比(b)/(a)が、0.01〜10の範囲にある請求項1〜6のいずれかに記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【公開番号】特開2011−213793(P2011−213793A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81258(P2010−81258)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】