説明

有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法

【課題】優れた力学物性を有するだけではなく、高い生理食塩水膨潤性と水膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、水溶性アクリルモノマーとして、下記式表示のモノマーとアミノ基含有(メタ)アクリレートを併用して、高い食塩水膨潤性と水膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲル及び柔軟性に優れたその乾燥体。


(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療、衛生用品、農業、食品、建築、土木、機械、運輸、電子部材、家庭用品、縫製などの分野で用いられる高分子ヒドロゲル及びその乾燥体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ヒドロゲルは、高分子のつくる三次元ネットワークに多量の水を安定的に保持した材料であり、一般には吸水性材料として知られている。現在では、紙おむつ、生理用品、ソフトコンタクトレンズ、鮮度保持材などの材料として多くの場所で用いられている。近年、高分子ヒドロゲルは機能性材料として大きな展開が期待されている。例えば、ドラックデリバリーシステム(DDS)、細胞培養基材、創傷被覆材、軟骨代替材料など、医療や再生医療材料分野での研究が盛んに行われている。しかし、これまでの高分子ヒドロゲルは、架橋構造に由来する本質的な問題点、即ち、力学的に脆弱という欠点を有するため、強度や耐久性などに要求されている多くの材料として用いることは困難であった。
【0003】
近年、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)のようなアクリルアミド誘導体とヘクトライトなどの水膨潤性無機粘土鉱物をナノメーターレベルで複合化して三次元網目を形成させて得られる有機無機複合ヒドロゲルは、極めて優れた力学物性を示すことが報告されている(特許文献1)。例えば、ジメチルアクリルアミドと粘土鉱物からなる有機無機複合ヒドロゲルは数十から数百kPa引張破断強度と1500%を超える破断伸びを有する。
【0004】
しかし、上述のアクリルアミド誘導体と粘土鉱物からなる有機無機複合ヒドロゲルは、優れた力学物性を有するが、水膨潤性において従来のアクリルアミド誘導体の有機架橋ゲルより高いものの、市販の高吸水樹脂であるポリアクリル酸ナトリウム架橋体と比べて吸水性が劣る。これを改良するため、発明者らは、粘土鉱物の存在下、アクリルアミド誘導体とアミノ基を有するアクリレートとの共重合によってアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルを合成し、吸水倍率600倍を超える有機無機複合ヒドロゲルを見出した(特許文献2)。しかしながら、アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルは市販のポリアクリル酸ナトリウム架橋体と同様に純水中での吸水性能が高いものの、食塩水中では吸水性能が大幅に低下する問題を有していた。また、従来のアクリルアミド誘導体及びアミノ基を有するアクリレートを原料とした有機無機ヒドロゲルは、その乾燥体が硬くて脆いものであるため、柔軟性に要求される創傷被覆材などの医療部材としては取扱にくい欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2008−074924
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、非イオン性のアクリルモノマー及びアミノ基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、優れた力学物性だけではなく、高い水膨潤性と高い食塩水膨潤性を併せ持つヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非イオン性アクリルモノマーとアミノ基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、非イオン性アクリルモノマーとして、下記式(1)で表されるモノマーを使用することにより、有機無機複合ヒドロゲルに高い食塩水膨潤性を持たせることができる。また、アミノ基を有する(メタ)アクリレートとしてジメチルアミノエチルアクリレートを用いることにより、有機無機複合ヒドロゲルに高い水膨潤性を持たせることができる。本発明は水溶性のアクリルモノマーとアミノ基を有する(メタ)アクリレートを併用することによって、優れた力学物性だけではなく、高い水膨潤性と高い食塩水膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲルを得られること、また、このヒドロゲルを低温で乾燥することによって優れた柔軟性と高膨潤性を重ね備える有機無機複合体を見出し、完成させたものである。
【0008】
即ち、本発明は、非イオン性アクリルモノマー(a)とアミノ基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【0009】
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーとアミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)とを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、前記式(1)で表されるモノマー及び(メタ)アクリルアミド誘導体と、前記水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(D)とを含む均一溶液を調製した後、アミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)を重合開始剤と同時に又は重合開始剤を添加した直後に加えて、前記式(1)で表されるモノマー及び(メタ)アクリルアミド誘導体と前記アミノ基を有する(メタ)アクリレートとを重合させることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成されるヒドロゲルであるが、水溶性アクリルモノマーとして式(1)で表されるモノマーとアミノ基を有する(メタ)アクリレートを併用することにより、得られる有機無機複合ヒドロゲルは、食塩水中での膨潤性及び純水中での膨潤性が共に優れていることがわかった。また、本発明は式(1)で表されるモノマーを使用することにより、得られる有機無機複合ヒドロゲルの乾燥体の柔軟性が与えられ、アミノ基を有する(メタ)アクリレートモノマーを使用することにより、ヒドロゲル乾燥体の純水での高い膨潤性が与えられ、柔軟性と膨潤性とのバランスがとれた有機無機複合体が容易に得られる。本発明の有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体は優れた食塩水及び純水での膨潤性から、医療用途での創傷被覆材や紙おむつ、生理用品をはじめとする吸水材料として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1及び比較例1,2で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1,2で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例1,2で得られたヒドロゲルの純水での膨潤度を示す図である。
【図4】実施例2,3で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図5】実施例2,3で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【図6】実施例2,3で得られたヒドロゲルの純水での膨潤度を示す図である。
【図7】実施例2で得られたヒドロゲルの温度応答性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水膨潤性粘土鉱物の水溶液に水溶性のアクリルモノマー(a)のラジカル重合によって形成される。
【0014】
本発明に用いられる水溶性アクリルモノマー(a)は、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性の粘土鉱物(B)と相互作用を有するものであれば良く、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)やアクリル酸エステルが好ましく用いられる。
【0015】
水溶性アクリルモノマー(a)としては、得られる有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体の食塩水膨潤性や柔軟性を向上させるために式(1)で表されるポリエチレングリコール(PEG)鎖又はポリプロピルグリコール(PPG)鎖を有するアクリルモノマーが使用される。
【0016】
【化2】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
【0017】
本発明で用いられている式(1)で表されるアクリルモノマーのエチレングリコール繰り返し単位数は2〜99個のものを適宜に選択することができる。一般的には、エチレングリコール繰り返し単位数を増えることにつれ、得られる有機無機複合ヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度が高くなる傾向を示す。
【0018】
また、得られる有機無機複合ヒドロゲルの力学強度をもたらすため、水溶性アクリルモノマー(a)としては、(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド及びアクリロイルモルホリンなどから選択される1種以上の(メタ)アクリルアミド及びその誘導体を併用することが好ましく、具体的には、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N-アクリロイルピロリディン、N-アクリロイルピペリディン、N-アクリロイルメチルホモピペラディン、N-アクリロイルメチルピペラディンなどが例示される。中でも、膨潤性の観点から、N,N−ジメチルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましく、生体に対する安全性の観点から、アクリロイルモルホリンと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましく、機能性の観点から、LCST(下限臨界共溶温度)を持つN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましい。
【0019】
本発明は有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体の膨潤特性、特に水膨潤性を増すため、更にアミノ基を有する(メタ)アクリレートを用いられる。アミノ基を有する(メタ)アクリレートとしては、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート及びジエチルアミノエチルアクリレートなどが挙げられる。この中、優れる水膨潤性の観点から、ジメチルアミノエチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0020】
本発明において重合の際に用いられる全モノマーに含まれる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用比率は、好ましくは1質量%〜70質量%であり、より好ましくは3質量%〜60質量%であり、5質量%〜50質量%が特に好ましい。全モノマー中の式(1)で表されるアクリルモノマーの含有率がこの範囲であると、得られる有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体の食塩水膨潤性や柔軟性等の物性向上に十分な効果が得られ、またヒドロゲルの力学物性が大幅に低下することがなく、好ましい。
【0021】
また、本発明のモノマー組成において、アミノ基を有する(メタ)アクリレートモノマーの共重合比率が高すぎると、得られたヒドロゲルの力学物性は低下する。一方、その共重合比率が低すぎると、本発明のヒドロゲルの高い吸水性は発揮出来なくなる。従って、本発明のアミノ基を有する(メタ)アクリレートの共重合比率としては、モノマー全体に対して0.3〜40モル%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜30モル%であり、特に好ましくは1〜20モル%である。
【0022】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物は、水又は水溶液中で層間が膨潤する性質を有することが必要である。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、更に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みに、特に好ましくは水中で1ないし3層以内の厚みに層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などを用いることができ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルを構成する水溶性アクリルモノマー(a)と粘土鉱物との比率は、用いるモノマーや粘土鉱物の種類により適宜選択されるが、溶媒の中で両者が三次元網目を形成する範囲が好ましく、水膨潤性粘土鉱物(B)/水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)の質量比として好ましくは0.01〜5、より好ましくは0.03〜3、特に好ましくは0.05〜1.5である。かかる質量比の範囲であれば、調製が容易であり、高延伸性を保ったまま、広い範囲において制御された弾性率(柔らかさ)および高強度が得られる。
【0024】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルには、溶媒として水以外にも水と混和する有機溶媒との混合溶媒を含んでいるものも含まれる。
【0025】
本発明において有機無機複合ヒドロゲルに含まれる水又は溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、好ましくは有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物との合計質量に対する水又は溶媒の質量比が50以下のものが用いられ、さらに好ましくは0.1〜30のものが用いられる。
【0026】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、以下の方法で製造できる。層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下に有機高分子(A) のモノマーである水溶性アクリルモノマーの重合を行わせる。重合過程で有機高分子(A)のモノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)との相互作用により水膨潤性粘土鉱物(B)がモノマーの架橋剤の働きをして、有機高分子(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との分子レベルでの複合化が達成され、三次元網目形成によりゲル化した有機無機複合ヒドロゲルが得られる。
【0027】
具体的には、水中に微細分散した水膨潤性粘土鉱物(B)の水溶液に、(メタ)アクリルアミド誘導体及び式(1)のアクリルモノマーを加え、低温にしてアミノ基を有する(メタ)アクリレートとラジカル重合開始剤を添加させ、引き続き、所定温度で重合を行わせる。ここで、アミノ基を有する(メタ)アクリレートの添加順序は重要である。先にアクリルアミド誘導体及び式(1)のアクリルモノマーと一緒にアミノ基を有する(メタ)アクリレートを添加すると、粘土鉱物がアミノ基と強い相互作用により凝集を生じてしまう。このようにして得られたヒドロゲルは白濁するだけでなく、力学物性も大きく低下する傾向を示す。また、粘土鉱物とアミノ基との相互作用により、反応系が著しく増粘し、ゲル化する場合もある。そのため、重合開始剤は反応系内に分散できなくなり、均一なヒドロゲルが得られない。粘土鉱物の凝集を最小限に抑えるため、(メタ)アクリルアミド誘導体及び式(1)のアクリルモノマーを先に粘土鉱物水分散液に加え、続いてアミノ基を有する(メタ)アクリレートと重合開始剤を一度に添加させること又は重合開始剤を加えた後にアミノ基を有する(メタ)アクリレートを添加させることによって、モノマーの分散と共にラジカル重合を行わせ、系全体をゲル化させる方法が有効に用いられる。重合開始剤とアミノ基を有する(メタ)アクリレートを別々に添加する場合は、重合開始剤を加えた直後にモノマーを加えることが好ましい。重合開始剤を加えると、先に水分散液中に添加されている(メタ)アクリルアミド誘導体及び式(1)のアクリルモノマーの重合が開始する。したがって、重合開始剤を添加したら、できるだけ速やかにアミノ基を有する(メタ)アクリレートを添加すると、ランダム共重合が進み、本発明の効果を発揮する上で好ましい。
【0028】
上記のラジカル重合反応は、ラジカル重合開始剤及び/又は放射線照射など公知の方法により行わせることができる。ラジカル重合開始剤及び触媒としては、公知慣用のラジカル重合開始剤及び触媒を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。特に好ましくは層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。
【0029】
具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、VA-044, V-50, V-501の他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤などが挙げられる。一方、触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンやβ-ジメチルアミノプロピオ二トリルなどがもちろん用いられるが、本発明では、モノマーとして用いられているアミノ基を有する(メタ)アクリレートは触媒の働きをしているため、上述のラジカル重合触媒を添加しなくてもよい。
【0030】
重合温度は、開始剤の種類にあわせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も他の重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数十時間の間で行われる。
【0031】
本発明のアミノ基及びPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲルは、有機無機ヒドロゲルの特徴を保持しており、従来の有機架橋ゲルと比べて、高い吸水率を有する他、優れた力学物性などを示している。例えば、強度、伸び、タフネスなどの力学物性において、本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、有機架橋ゲルよりすべて優れていることが特徴である。
【0032】
有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、ヒドロゲルの水含有率及び形状により異なるため、本発明のアミノ基及びPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、一定範囲内の水含有率及び断面積を持つヒドロゲルを用いて試験した結果で表される。本明細書では、具体的には、試験開始時のフィルム状ヒドロゲルの断面積(初期断面積)を0.25cm2にしたものを試験材料として用い、アミノ基とPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲル中の前記水(D)の含有率(含水率)が90質量%のものについて力学物性の測定を行った。
【0033】
本発明のアミノ基及びPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲルは、上記の水含有率と初期断面積のヒドロゲルを用いて測定した場合、引張強度が10〜300kPaであり、より好ましくは15〜250kPaであり、特に好ましくは20〜200kPaであること、更に引張破断伸びが100〜3000%であり、より好ましくは200〜2500%であり、特に好ましくは300〜2000%であるものが好ましい。
【0034】
本発明のアミノ基及びPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲルにおいては、純水での最大膨潤度Wgel/Wdryが50以上であることが好ましい。ここで、最大膨潤度Wgel/Wdryとは、乾燥ゲル1g当たりに膨潤したヒドロゲルの質量数である。Wdryはヒドロゲルの固形分であり、Wgelはヒドロゲルを大量の水に浸して、膨潤したゲルの質量である。最大膨潤度Wgel/Wdryは50〜1000であることがより好ましく、100〜600であることが特に好ましい。
また、本発明のアミノ基及びPEG鎖を有する有機無機複合ヒドロゲルにおいては、生理食塩水での平衡膨潤度Wgel/Wdryが20以上であることが好ましい。より好ましくは25以上であり、特に好ましくは30以上である。
【0035】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルには、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を有し、Tcを境にした上下の温度変化により透明性や体積を可逆的に変化できる特徴を有するものが含まれる。このような有機無機複合ヒドロゲルは有機モノマーとして水溶液中でLCST(下限臨界共溶温度)を示す感温性モノマー、例えばN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドを用いて調製できる。ポリエチレングリコール鎖を有する式(1)のアクリルモノマー及びアミノ基を有する(メタ)アクリレートと共重合する場合、感温性モノマーのLCSTが消失する傾向がある。高い水膨潤性と感温性を併せ持つため、全モノマー中の式(1)のアクリルモノマー及びアミノ基を有する(メタ)アクリレートの含有比率は、好ましくは2〜40質量%であり、より好ましくは4〜35質量%であり、特に好ましくは6〜30質量%である。かかる含有率が2質量%より少ないと、得られる有機無機複合ヒドロゲルの食塩水膨潤性向上に十分な効果が得られなく、また40質量%より多くなると、ヒドロゲルの温度応答性が無くなる恐れがあり、好ましくない。
【0036】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、重合時に重合容器の形状を変化させたり、重合後に切削加工したりすることにより種々の大きさや形状に調製でき、例えば、フィルム状、平板状、繊維状、棒状、円柱状、中空状、筒状、らせん状、あるいは球状など任意の形状とすることができる。特にフィルム状のヒドロゲルでは、その高い生理食塩水膨潤性から創傷被覆材として好適に用いられる。また、本発明には、得られた有機無機複合ヒドロゲルを慣用の方法で乾燥し、溶媒の一部もしくは全部を除去した有機無機複合体を得ることが出来る。かかる乾燥温度は80℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下である。乾燥温度は80℃を超えると、重合体の一部に共有結合による架橋が生じるため、得られる有機無機複合体の食塩水膨潤性が低下する恐れがあり、好ましくない。乾燥時間は用いるヒドロゲルフィルムの厚み、乾燥方法及び乾燥温度によって異なるが、通常数時間から数十時間である。
本発明は、式(1)で表されるアクリルモノマーを用いることによって、得られる有機無機複合体に柔軟性が与えられる。その柔軟さは、用いる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量及び粘土鉱物の含有率によって異なる。例えば、上述のヒドロゲルフィルムを乾燥することによって得た0.1〜0.3mm厚みの乾燥フィルムでは、135°繰り返し曲げられても割れないことを基準とした場合、用いる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量は全モノマーに対して20質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。また、用いる粘土鉱物の含有率は固形分に対して20質量%以下が好ましく、より好ましくは16質量%以下であり、特に好ましくは13質量%以下である。かかる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量及び粘土鉱物の含有率が上述の範囲であれば、得られる有機無機複合体フィルムは人間の体にフィットする柔軟性を持ち、そのままでも、又は水に浸してヒドロゲルフィルムに再生して、創傷被覆材として用いることができる。
【実施例】
【0037】
本発明は、次の実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
(測定条件)
<破断強度と伸びの測定>
以下の実施例及び比較例において、引張り試験は、島津製作所(株)製卓上型万能試験機AGS-Hを用いて、未精製のフィルム状のヒドロゲル(幅=10mm,厚み=2.5mm)をチャック部での滑りのないようにして引っ張り試験装置に装着し、標点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて測定を行った。
<生理食塩水中で膨潤度の測定>
ヒドロゲルの生理食塩水中での膨潤度は両辺30mm、厚み2.5mmのフィルム状ヒドロゲルを大量の生理食塩水の中に浸して、その質量増加の時間依存性から求めた。また、ヒドロゲルフィルム乾燥体の生理食塩水中での膨潤度は、厚み約0.2mmの乾燥フィルム約 0.03gを50mlの37℃の生理食塩水の中に25〜100時間浸して、質量増加しなくなるまでの平衡膨潤度を測定した。
<純水中で膨潤度の測定>
ヒドロゲルの純水中での膨潤度は約0.2gヒドロゲルを大量の水の中に浸して、その質量増加の時間依存性から求めた。また、ヒドロゲルフィルム乾燥体の水中での最大膨潤度は、厚み約0.2mmの乾燥フィルム約 0.03gを50mlの水の中に25〜100時間浸して、質量増加しなくなるまでの重さから求めた。
<柔軟性の評価>
ヒドロゲルフィルムから得られた厚み約0.1〜0.2mmの乾燥フィルムにおいて、135°繰り返し曲げられるものは○で柔軟性ありを表し、135°曲げて割れたものは×で柔軟性なしを表す。
<光透過率の測定>
光透過率の温度依存性は、角柱状の透明ポリスチレンセルにヒドロゲルを合成し、そのまま日本分光(株)製紫外可視分光光度計V-530を用いて測定した。
【0038】
(試薬)
・ 粘土鉱物
XLG: 水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)
XLS:6%ピロリン酸ナトリウム含有水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLS、日本シリカ株式会社製)
・モノマー
DMAA: N,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
NIPAM: N-イソプロピルアクリルアミド(興人株式会社製)、トルエンとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶し無色針状結晶に精製してから用いた。
ACMO: アクリロイルモルフォリン(興人株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
DMAEA: ジメチルアミノエチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)、試薬そのまま使用した。
AM-230G: CH2=CHCO(OC2H4)nOCH3 n=23 NKエステルAM-230G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
M-450G: CH2=C(CH3)CO(OCH2CH2)nOCH3 n=45 NKエステルM-450G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
・重合開始剤
KPS: ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製)、KPS/水=0.2/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。
・重合触媒
TEMED: N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)
【0039】
(実施例1と比較例1)
平底ガラス容器に、純水26.5gと1.2gのXLSを攪拌して均一な溶液を調製した。これにDMAA 2.4g及びAM-230G 0.3gを加え、15分間窒素バブリングした。続いて、氷浴下、KPS水溶液1.5gを攪拌して加えた直後に、DMAEA 0.3g(モノマー合計に対して8mol%)、H2O 2g及びTEMED 0.024gの混合溶液を攪拌して加え、均一溶液を得た。得られた均一溶液を予め窒素置換したポリスチレン製容器(8cm×12cm)に酸素に触れないようにして移した後、蓋を密栓し、20℃で静置重合を行った。15時間後にポリスチレン製容器内に伸縮性、強靭性のある均一なフィルム状のヒドロゲルが生成された。ヒドロゲルは大量の水に浸して精製した。得られた精製ヒドロゲルを100℃、減圧下にて乾燥して水分を除いたヒドロゲル乾燥体を得た。ゲル乾燥体を20℃の水に浸漬することにより、乾燥前と同じ形状の伸縮性のあるヒドロゲルに戻ることが確認された。
【0040】
以上から、本実施例で得られたゲルは、有機高分子と粘土鉱物と水からなるヒドロゲルであること、有機高分子の合成において架橋剤を添加していないにもかかわらず、均一なヒドロゲルとなること、ヒドロゲルから水分を除いて得られるゲル乾燥体を水に浸漬することにより再びもとの形状のヒドロゲルに戻ることなどから、有機高分子と粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成されていると結論された。
【0041】
なお、粘土鉱物を共存させない以外は同様な条件で合成した有機高分子は高分子水溶液となりヒドロゲルとはならなかった。
【0042】
未精製のフィルム状のヒドロゲルの引っ張り試験を行い、その結果を図1に示す。また、生理食塩水及び純水での膨潤性の測定結果を図2と図3に示す。
アミノ基を有するアクリレートDMAEAを用いない以外は実施例1と同様な組成の比較例1では、図3に示したように純水での膨潤性は実施例1と比べて極めて低かった。また、式(1)のPEG鎖を有するアクリルモノマーAM-230Gを用いない以外は実施例1と同様な組成の比較例2では、図2と図3に示したように生理食塩水及び純水での膨潤性は実施例1より劣る。
【0043】
(実施例2,3)
表2に示した組成で実施例1と同様にして実施例2,3のヒドロゲルを合成した。得られたフィルム状のヒドロゲルの引っ張り試験結果及び膨潤特性を図4、図5及び図6に示す。図に示したように、実施例2,3は高い生理食塩水及び純水での膨潤性を有することがわかった。また、感温性モノマーNIPAMを用いた実施例2のヒドロゲルは、図7に示したように38℃付近に明確なLCST温度を観測され、優れた温度応答性を確認した。
【0044】
(実施例4及び比較例3,4)
表3に示した組成で実施例1と同様にして実施例4のヒドロゲルを合成した。次に得られたヒドロゲルフィルムを40℃で熱風乾燥し、ヒドロゲル乾燥フィルムを得た。式(1)のアクリルモノマーM-450Gを多量に用いた結果、ヒドロゲル乾燥フィルムに柔軟性を与え、135°繰り返し曲げられても、割れることはなかった。また、アミノ基を有するモノマーを用いたため、純水での膨潤度が高くなった。これに対して、アミノ基を有するモノマーを用いない比較例3では、純水での膨潤度が極めて低かった。一方、式(1)のアクリルモノマーを用いない比較例4では、ヒドロゲル乾燥フィルムが硬くて脆いため、90°でも曲げられなかった。なお、これらの測定結果を表3にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、
前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーとアミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)とを含むことを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項2】
前記式(1)で表されるモノマーを全モノマー成分に対して1質量%〜70質量%含有する請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項3】
前記アミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)がジメチルアミノエチルアクリレートである請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項4】
前記アミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)を全モノマー成分に対して0.3モル%〜40モル%含有する請求項1又は3記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の有機無機複合ヒドロゲルを乾燥することにより得られる有機無機複合体。
【請求項6】
請求項1〜4記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、前記式(1)で表されるモノマー及び(メタ)アクリルアミド誘導体と、前記水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(D)とを含む均一溶液を調製した後、アミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)を重合開始剤と同時に又は重合開始剤を添加した直後に加えて、前記式(1)で表されるモノマー及び(メタ)アクリルアミド誘導体とアミノ基を有する(メタ)アクリレート(C)とを重合させることにより前記重合体(A)を製造することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−153175(P2011−153175A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14148(P2010−14148)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】