説明

有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法

【課題】水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成され、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲルを提供する。また、厚膜で作成した場合でも、製造時に溶液の増粘が起こらず、且つ高い重合収率によりヒドロゲルを得ることが出来、その結果、安全性の高いヒドロゲルを得ることが出来る製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性アクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、水溶性アクリルモノマーが、式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルにより、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲルを実現できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、素材が多量の溶媒(水、水溶性有機溶媒等)を含むことができるため、透明性、柔軟性、溶媒吸収性、特定溶質の吸着性や透過性などに優れており、分析、化学工業、農業、土木、建築、医療分野を始めとする多くの分野で、ソフトマテリアル、吸水材料、吸着剤、選択的分離材、振動吸収材などとして広く用いることが期待されている。しかし、これまでの高分子ゲルは、機能性と力学物性の全てを兼ね備えたものはほとんど無く、特に高分子ゲルの多くは力学的に弱いまたは脆いという欠点を有していた。最も一般的に用いられる高分子ゲルは、高分子鎖間を、有機架橋剤を用いて、もしくはγ線や電子線を照射して、架橋したものであり、例えば、高吸水性樹脂として知られるポリアクリル酸ナトリウム架橋体や、N,N‘メチレンビスアクリルアミドにより架橋して得られたポリ(N、N−ジメチルアクリルアミド)のゲルなどが良く知られている。しかし、これらの高分子ゲル(以下、有機架橋高分子ゲルと略す)は極めて低い力学物性しか示さず、いずれも、10〜40%程度の延伸による弱い力で脆性破壊する課題を有していた。
【0003】
これに対して、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(以下、PNIPAと略す)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(以下、PDMAAと略す)のようなアミド基含有高分子とヘクトライトなどの水膨潤性無機粘土鉱物をナノメーターレベルで複合化して三次元網目を形成させて得られる有機無機複合高分子ゲルは、優れた透明性、高膨潤性と共に、極めて優れた力学物性や機能性(刺激応答性など)を示すことが報告されている(特許文献1)。例えば、PDMAAと粘土鉱物からなる有機無機複合高分子ゲルは優れた透明性、高膨潤性と共に、1500%を超える破断伸びや高い破断強度を有する優れた力学物性を示すことが報告されている(非特許文献1)。またPNIPAと粘土鉱物からなる有機無機複合高分子ゲルは1000%前後の破断伸びを含む優れた力学物性、優れた透明性、高い膨潤性に加えて、温度変化による迅速な膨潤/収縮などの優れた機能性を示すことが報告されている(非特許文献2、3)。以上のことから、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる有機無機複合高分子ゲルは、優れた透明性、膨潤性、力学物性、機能性により数多くの産業分野で有効に用いられることが期待されている。
【0004】
しかし、かかる高分子ゲルは、主たる構成成分であるアミド基含有高分子の組成によって、膨潤性が異なり、アミド基含有高分子の種類によっては、やや膨潤性が低くなることが難点であった。また、当該高分子ゲルの構成成分である粘土鉱物の含有量により、膨潤性は制御できるが、破断強度が低下する問題があった。そのため、高い破断強度を維持したまま、高膨潤性を両立させることが強く求められていた。
【0005】
一方、非水溶性の重合開始剤を水媒体中に分散させた溶液中で、粘土鉱物存在下において、水溶性アクリル系モノマーをエネルギー線照射により重合させて、高分子ゲルを得ることが出来ると報告されている(特許文献2)。この報告では、ポリエチレングリコール鎖やポリプレングリコール鎖を有するアクリル系モノマーを使用して、非水溶性の重合開始剤の分散を行い、得られた高分子ゲルが高い物性を得られることとしているが、エネルギー線重合であるために、厚膜で作成した場合や、重合時の酸素除去が不十分で作成した場合の重合収率が低くなり、高安全性が求められる医療分野などへの適用が不可能であった。
【0006】
また、特許文献1の方法により、アクリル系モノマーとしてポリエチレングリコール鎖やポリプレングリコール鎖を有するモノマーのみを使用して高分子ゲルを製造しようとすると、重合前にアクリル系モノマーを含む溶液がかなり増粘し、高分子ゲルの作成が困難となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2006−169314
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ハラグチ等(K. Haraguchi et.al.),マクロモレキュールズ(Macromolecules), vol.36, No.15, 5732-5741 (2003).
【非特許文献2】ハラグチ等(K. Haraguchi et.al.),アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials), vol.14, No.16, 1120-1124 (2002).
【非特許文献3】ハラグチ等(K. Haraguchi et.al.),マクロモレキュールズ(Macromolecules), vol.35, No.27, 10162-10171 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つ、ヒドロゲルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、厚膜で作成した場合でも、製造時に溶液の増粘が起こらず、且つ高い重合収率によりヒドロゲルを得ることが出来、その結果、安全性の高いヒドロゲルを得ることが出来る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される高分子ゲルであって、水溶性アクリルモノマーとして、下記式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを使用することにより、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲルを実現できることを見出し、完成させたものである。
【0011】
即ち、本発明は、水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、
前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【0012】
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜13の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、
前記式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有する水溶性のアクリルモノマー(a)を水媒体と混合し、水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で前記水溶性のアクリルモノマー(a)を重合開始剤により重合することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成されるヒドロゲルであるが、水溶性アクリルモノマーとして式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを使用することにより、厚膜で作成した場合でも、高い重合収率によりヒドロゲルを得ることが出来、安全性の高いヒドロゲルを得ることが出来る。また、本発明のヒドロゲルは、製造時に溶液の増粘が起こらず、容易にヒドロゲルを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性のアクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とから構成される。
【0016】
前記重合体(A)は、式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有する水溶性のアクリルモノマー(a)を重合することによって得られる。
【0017】
【化2】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜13の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
式(1)で表されるモノマーを使用することにより有機無機複合ヒドロゲルの膨潤特性を向上させることができ、また、アクリロイルモルホリンは非常に毒性の低いモノマーであり、アクリロイルモルホリンを含有する有機無機複合ヒドロゲルは、残留モノマーによる生体への影響が非常に少なく、アクリロイルモルホリンを使用することは生体に対する安全性を確保する上で重要である。
【0018】
また、水溶性アクリルモノマー(a)としては、式(1)で表されるモノマーとアクリロイルモルホリン以外に、(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド等を用いることができる。具体的には、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。
【0019】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルを製造するために用いる水溶性のアクリルモノマー(a)中の式(1)で表されるアクリルモノマーの使用比率は、好ましくは5質量%〜50質量%であり、より好ましくは5質量%〜40質量%であり、10質量%〜40質量%が特に好ましい。この範囲であると有機無機複合ヒドロゲルの膨潤特性等の物性向上に十分な効果が得られ、また、重合時の増粘を抑えることが容易である。
【0020】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(B)は、水又は水溶液中で層間が膨潤する性質を有することが必要である。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、更に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みに、特に好ましくは水中で1ないし3層以内の厚みに層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などを用いることができ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルを構成する水溶性アクリルモノマー(a)と粘土鉱物(B)との比率は、用いる水溶性アクリルモノマーや粘土鉱物の種類により適宜選択されるが、溶媒の中で両者が三次元網目を形成する範囲が好ましく、水膨潤性粘土鉱物(B)/水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)の質量比として好ましくは0.01〜10、より好ましくは0.03〜3、特に好ましくは0.1〜1.5である。かかる質量比の範囲であれば、調製が容易であり、高延伸性を保ったまま、広い範囲において制御された弾性率(柔らかさ)および高強度が得られる。
【0022】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性アクリルモノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とから構成される三次元網目構造を有することから、1kPa以上の引っ張り弾性率、20kPa以上の引っ張り強度、および50%以上の破断伸びといった優れた物性を実現できる柔軟且つ強靭な材料であり、好ましくは、引っ張り弾性率が2kPa以上、引っ張り強度が30kPa以上、破断伸びが50%以上の物性を有する。また、該有機無機複合ヒドロゲルのこれらの物性に特に上限は制限されないが、引っ張り弾性率については、100kPa以下であると、該有機無機複合ヒドロゲルが様々な変形に耐えうる十分な柔らかさを持つことが可能となる。
【0023】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルは、他の力学的変形に対しても良好な機械特性を示し、例えば大きな圧縮、引っ張り又は曲げ変形に対しても優れた強靱性を有する。具体的には、本発明の有機無機複合ヒドロゲルには、元の有機無機複合ヒドロゲルに比べて厚み方向で1/3以下の厚みに圧縮変形されても、その形状が破壊されない有機無機複合ヒドロゲルや、又は長さ中心点で100度以上の角度に曲げ変形されても、その形状が破壊されない有機無機複合ヒドロゲルが好ましく用いられる。
【0024】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルには、溶媒として水以外にも水と混和する有機溶媒との混合溶媒を含んでいるものも含まれる。
【0025】
本発明において有機無機複合ヒドロゲルに含まれる水又は溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、好ましくは有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物との合計質量に対する水又は溶媒の質量比が50以下のものが用いられ、さらに好ましくは0.1〜30のものが用いられる。
【0026】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルの平衡膨潤率(W/Wdry)は50以上であることが好ましい。Wは有機無機複合ヒドロゲルを20℃の純水中に48時間浸漬した後の質量であり、Wdryは有機無機複合ヒドロゲルの乾燥質量である。平衡値(平衡膨潤率)は、温度や、pHなどの環境条件によって異なるが、上記の条件下で浸漬した場合、50以上であると非常に高い膨潤性能を示し、好ましい。また、該質量比の上限は特に制限されないが、平衡膨潤時の形状を安定に保てることから、300以下が好ましい。
【0027】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルの製造方法は、水溶性アクリルモノマー(a)を水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下での重合反応によって行われる。重合反応は、ラジカル重合開始剤を使用する慣用のラジカル重合方法により行わせることが出来る。
【0028】
具体的には、まず、水溶性アクリルモノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(B)と水を含む均一分散液を調製した後、水膨潤性粘土鉱物(B)共存下で水溶性アクリルモノマー(a)を重合させることにより、有機無機複合ヒドロゲルを調製する。ここで層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が架橋剤の働きをすることにより水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との三次元網目を形成した有機無機複合ヒドロゲルが得られる。該有機無機複合ヒドロゲルはこのように形成された三次元網目構造を有することにより、その内部に水又は水と水溶液を保持することができると共に、上記の優れた物性を有する。
【0029】
ラジカル重合開始剤及び重合促進剤としては、慣用のラジカル重合開始剤及び重合促進剤のうちから適宜選択して用いることが出来、好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものを用いることができる。特に好ましくは層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。具体的には、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物などを好ましく使用できる。水溶性アゾ化合物としては、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく使用できる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性ラジカル開始剤なども使用できる。また重合促進剤としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどを好適に使用できる。
【0030】
上記重合反応時の温度は、用いる水溶性アクリルモノマー(a)、重合促進剤及び開始剤の種類などに合わせて適宜選択すればよく、例えば0℃〜100℃の範囲に設定出来る。重合時間は重合促進剤、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で調整すればよい。
【0031】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、その特性を改良する目的で、該有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体の一部を共有結合により架橋させることが出来る。該有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体の一部を共有結合させることにより、溶媒を吸収して膨潤した時に形状の安定性が向上する。
【0032】
この場合、該有機無機複合ヒドロゲル中に含まれる共有結合によって架橋しているアクリルモノマーの重合体の割合は、用いる水溶性アクリルモノマーや粘土鉱物、及び架橋方法の種類によっても異なり必ずしも限定されないが、水溶性アクリルモノマーの0.001〜10モル%が好ましく、より好ましくは0.002〜1モル%であり、特に好ましくは0.005〜0.3モル%である。0.001モル%以上であれば、溶媒を吸収した膨潤後に該有機無機複合ヒドロゲルの形状が安定に保持され、また、10モル%以下であれば、該有機無機複合ヒドロゲルの柔軟性や強靱性といった物性が保持される。
【0033】
アクリルモノマーの重合体の一部を共有結合によって架橋させる方法は、該有機無機複合ヒドロゲルの柔軟性や強靱性を保持できる限り、特に方法が限定されるわけではないが、例えば、有機架橋剤を用いる方法や該有機無機複合ヒドロゲルに放射線を照射して、アクリルモノマーの重合体相互で共有結合させる方法が挙げられる。
【0034】
有機架橋剤による場合に使用する有機架橋剤は、多官能性であり、水または有機モノマーに溶解する性質を有するものであればよく、例えば、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する有機架橋剤が挙げられ、なかでもアミド基を有する有機架橋剤が好ましい。ここで、有機架橋剤とはヒドロゲルを構成するアクリルモノマー間を共有結合により架橋させる働きをする架橋剤である。
【0035】
このような有機架橋剤の例としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が例示される。
【0036】
本発明において、これら有機架橋剤を有機無機複合ヒドロゲル中に導入する時期としては、目的とする共有結合の導入が得られるのであれば良く、さらに有機架橋剤の種類により異なるため、必ずしも限定されないが、重合性の有機架橋剤については、重合反応により有機無機複合ヒドロゲルを形成する前の時期が好ましい。
【0037】
放射線による架橋を行う際に、有機無機複合ヒドロゲルに照射する放射線としては、電子線、ガンマ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができるが、好適にアクリルモノマーの重合体の架橋反応を起こすことが可能な、電子線、またはガンマ線を用いることが好ましい。放射線の線量は、アクリルモノマーの重合体に導入される共有結合の程度により任意に調節可能であるが、上で述べた該有機無機複合ヒドロゲル中に含まれる共有結合によって架橋しているアクリルモノマーの重合体の割合の範囲に適合させるためには、好ましくは0.1kGy〜20kGyの範囲であり、より好ましくは1kGy〜10kGyの範囲である。0.1kGy以上の線量で照射することにより、有機無機複合ヒドロゲルの内部まで架橋反応が起こり、溶媒を吸収した膨潤後に形状の安定性が向上し、また20kGy以下の線量であれば、有機無機複合ヒドロゲルの放射線照射による物性劣化を抑制することが可能となる。
【0038】
本発明において有機無機複合ヒドロゲルに対して共有結合による架橋を導入する際の放射線照射を行う時期としては、目的とする共有結合の導入が十分に得られるのであれば良く、必ずしも限定されないが、好ましくは重合反応による該有機無機複合ヒドロゲルの形成の途中または形成後に行われる。かかる時期に放射線照射を行うことによって、該有機無機複合ヒドロゲルの形成に影響を与えることなく、共有結合の導入を行うことが出来る。
【0039】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、重合時に重合容器の形状を変化させたり、重合後に切削加工したりすることにより種々の大きさや形状に調製でき、例えば、平板状、繊維状、棒状、円柱状、中空状、筒状、らせん状、あるいは球状など任意の形状とすることができる。
【実施例】
【0040】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(Rockwood Ltd.製「ラポナイトXLG」)を精製してから使用した。アクリルモノマーはアクリロイルモルホリン(興人株式会社製:以下ACMOと略記)は精製してから使用し、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学株式会社製NKエステルM−90G(式(1)のモノマー;n=9):以下、M−90Gと略記)はそのまま用いた。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製:以下、KPSと略記。)を、0.2g/10mLの水溶液として用いた。重合促進剤は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製:以下、TEMEDと略記。)を使用した。超純水は、全て窒素バブリング等により、含有酸素を除去してから使用した。
【0042】
平底ガラス容器に、超純水57.06g、1.44gのラポナイトXLG、アクリロイルモルホリン(ACMO)7.61g、及びM−90G2.8gを加え、無色透明溶液を得た。さらにKPS水溶液3.0mLとTEMED48μLを加えた後、ポリスチレン製容器(9cm×15cm)に移し、密栓をして、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。なお、これらの操作は、酸素を遮断した状態で行った。重合開始から20時間後に、ポリスチレン製容器内にほぼ無色透明で均一な厚さ2mmのシート状のヒドロゲル(C)が得られた。合成されたヒドロゲル(C)を100℃減圧下にて乾燥して、水分を取り除いたヒドロゲル乾燥体を得たことから、水含有率([水/ゲル乾燥物]×100=)が485質量%の有機無機複合ヒドロゲルであることがわかった。
【0043】
得られた有機無機複合ヒドロゲル(C)は、無色透明で均一なヒドロゲルであること、ヒドロゲルから水分を除いて得られる乾燥体を水に浸漬することにより、再び元の形状のヒドロゲルに戻ることから、アクリルモノマーの重合体と粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成されていると結論された。
【0044】
このようにして得られた有機無機複合ヒドロゲル(C)を実施例1と同様の方法で引張り試験を行ったところ、引っ張り強度が49kPa、破断伸びが620%、弾性率が3.6kPaであった。
【0045】
得られた有機無機複合ヒドロゲル(C)を両辺が3cmの大きさになるように切断し、純水中に浸漬して20℃で保持したところ、24時間後の重量(W)は、元の有機無機複合ヒドロゲル(C)の乾燥体重量(Wdry)に対して、W/Wdry=86となるまで大きく膨潤した。
【0046】
(実施例2)
アクリルモノマーとして、ACMOを7.61g、ポリエチレングリコールモノアクリレート(新中村化学株式会社製NKエステルAM−130G(式(1)のモノマー;n=13):以下、AM−130Gと略記)を1.9g加えること以外は実施例1と同様にしてヒドロゲル(D)を得た。合成されたヒドロゲル(D)は水含有率([水/ゲル乾燥物]×100=)が525質量%の有機無機複合ヒドロゲルであった。
【0047】
このようにして得られた有機無機複合ヒドロゲル(D)を実施例1と同様の方法で引張り試験を行ったところ、引っ張り強度が57kPa、破断伸びが700%、弾性率が3.8kPaであった。
【0048】
得られた有機無機複合ヒドロゲル(D)を両辺が3cmの大きさになるように切断し、純水中に浸漬して20℃で保持したところ、24時間後の重量(W)は、元の重量(Wdry)に対して、W/Wdry=83となるまで大きく膨潤した。
【0049】
(比較例1)
アクリルモノマーとして、ACMOを7.61gのみを用いること以外は実施例1と同様にして、ヒドロゲル(E)を得た。合成されたヒドロゲル(E)は、水含有率([水/ゲル乾燥物]×100=)が868質量%の有機無機複合ヒドロゲルであった。
【0050】
このようにして得られた有機無機複合ヒドロゲル(E)を実施例1と同様の方法で引張り試験を行ったところ、引っ張り強度が80kPa、破断伸びが600%、弾性率が5.9kPaであった。
【0051】
得られた有機無機複合ヒドロゲル(E)を両辺が3cmの大きさになるように切断し、純水中に浸漬して20℃で保持したところ、24時間後の重量(W)は、元の重量(Wdry)に対して、W/Wdry=33であり、ヒドロゲル(A)〜(D)と比較して、低い膨潤率であった。
【0052】
(比較例2)
粘土鉱物を用いないで、アクリルモノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(興人株式会社製:以下、DMAAと略記。)5.35g、及びM−90G2.8gを使用し、有機架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を0.1g添加すること以外は実施例1と同様にしてヒドロゲル(F)を得た。合成されたヒドロゲル(F)は、水含有率([水/ゲル乾燥物]×100=)が870質量%の有機架橋ヒドロゲルであった。
【0053】
このようにして得られた有機架橋ヒドロゲル(F)を実施例1と同様の方法で引張り試験を行おうとしたところ、試験機に取り付ける際にゲルが破壊してしまい、測定が出来なかった。
【0054】
また、得られた有機架橋ヒドロゲル(F)を両辺が3cmの大きさになるように切断し、純水中に浸漬して20℃で保持したところ、24時間後の重量(W)は、元の重量(Wdry)に対して、W/Wdry=17と、非常に小さな膨潤率であった。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、
前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは2〜13の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項2】
前記重合体(A)が、前記式(1)で表されるモノマーを全モノマー成分に対して5質量%〜50質量%含有する水溶性アクリルモノマー(a)の重合体である請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項3】
前記有機無機複合ヒドロゲルの平衡膨潤率(W/Wdry)(式中、Wは有機無機複合ヒドロゲルを20℃の純水中に24時間浸漬した後の質量、Wdryは有機無機複合ヒドロゲルの乾燥質量を表す。)が50以上である請求項1又は2に記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項4】
請求項1又は2記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、
前記式(1)で表されるモノマーと、アクリロイルモルホリンとを含有する水溶性のアクリルモノマー(a)を水媒体と混合し、水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で前記水溶性のアクリルモノマー(a)を重合開始剤により重合することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【公開番号】特開2009−256629(P2009−256629A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64217(P2009−64217)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノコンポジット型ヒドロゲルを用いた新規医療部材の実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】