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有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法
説明

有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法

【課題】優れた力学物性と高い生理食塩水膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【解決手段】水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、水溶性アクリルモノマーとして、下記式(1)で表されるモノマーを使用することにより、優れた力学物性と高い食塩水膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲル及び柔軟性に優れているその乾燥体を提供する。


(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは10〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生用品、農業、食品、医療、建築、土木、機械、運輸、電子部材、家庭用品、縫製などの分野で用いられる高分子ヒドロゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ヒドロゲルは、架橋高分子のネットワークの中に多量の水を溶媒として含むことができるため、透明性、柔軟性、溶媒吸収性、特定溶質の吸着性や透過性などに優れており、分析、化学工業、農業、土木、建築、医療、医薬、食品など幅広い分野で、ソフトマテリアル、吸水材料、振動吸収材、高機能材料などとして広く用いることが期待されている。しかし、これまでの高分子ヒドロゲルは、機能性と力学物性の全てを兼ね備えたものはほとんど無く、特に高分子ヒドロゲルの多くは力学的に弱いまたは脆いという欠点を有していた。最も一般的に用いられる高分子ゲルは、高分子鎖間を、有機架橋剤を用いて、もしくはγ線や電子線を照射して、架橋したものであり、例えば、高吸水性樹脂としてポリアクリル酸ナトリウム架橋体などが良く知られている。しかし、高吸水性を得るため、ポリアクリル酸ナトリウムをわずかに架橋するもので、吸水後の力学特性が弱く、形が保持しにくい欠点がある。また、吸水性においてポリアクリル酸ナトリウム架橋体は純水中での吸水性能が高いものの、イオン性であるため、食塩水中では大幅に性能が低下することが知られている。
【0003】
これに対して、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)のようなアクリルアミド誘導体とヘクトライトなどの水膨潤性無機粘土鉱物をナノメーターレベルで複合化して三次元網目を形成させて得られる有機無機複合ヒドロゲルは、極めて優れた力学物性を示すことが報告されている(特許文献1)。例えば、ジメチルアクリルアミドと粘土鉱物からなる有機無機複合ヒドロゲルは数十から数百kPa引張破断強度と1500%を超える破断伸びを有する。
【0004】
しかし、上述のアクリルアミド誘導体からなる有機無機複合ヒドロゲルは、優れた力学物性を有するが、水膨潤性において従来のアクリルアミド誘導体の有機架橋ゲルより高いものの、市販の高吸水樹脂であるポリアクリル酸ナトリウム架橋体と比べて吸水性が劣る。市場ニーズを応えるため、水、特に食塩水中での膨潤性の更なる改良が強く求められている。
【0005】
一方、粘土鉱物存在下において、ジメチルアクリルアミドとポリエチレングリコール(PEG)鎖を有するアクリレートを併用して得られる有機無機複合ヒドロゲルが調湿材として用いることが出来ると報告されている(特許文献2)。しかし、この報告では、ポリエチレングリコール鎖のエチレングリコール繰り返し単位数が2〜9個のものを使用しており、PEG鎖長が短いため、食塩水中での膨潤性が低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2007−297550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法を提供することにある。特に、本発明が解決しようとする課題は、食塩水中での膨潤性が良好なヒドロゲル及びその乾燥体並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、水溶性アクリルモノマーとして、下記式(1)で表されるモノマーを使用することにより、優れた力学物性と高膨潤性を併せ持つ有機無機複合ヒドロゲルを得られること、また、このヒドロゲルを低温で乾燥することによって優れた柔軟性と高膨潤性を併せ持つ有機無機複合体を見出し、完成させたものである。
【0009】
即ち、本発明は、水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、
前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【0010】
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは10〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、前記式(1)で表されるモノマーを含有する水溶性のアクリルモノマー(a)を水媒体と混合し、水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で前記水溶性のアクリルモノマー(a)を重合開始剤により重合することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物とで形成されるヒドロゲルであるが、水溶性アクリルモノマーとして式(1)で表されるモノマーを使用することにより、得られる有機無機複合ヒドロゲルの生理食塩水中での膨潤性が大幅に向上した。また、本発明は式(1)で表されるモノマーを使用することにより、得られる有機無機複合ヒドロゲルの乾燥体の柔軟性が与えられ、膨潤性と共に使いやすさも顕著に改良される。更に、本発明は式(1)で表されるモノマーを用いることにより、アクリルモノマー、特にジメチルアクリルアミドの重合速度が抑制され、製造時に反応系内の溶液の増粘が起こらず、工業的に有機無機複合ヒドロゲルの製造は容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1,2,3及び比較例1,2で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図2】実施例1,2,3及び比較例1,2,3で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【図3】実施例4,5,6,7,8で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図4】実施例4,5,6,7,8で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【図5】実施例9,10,11,12及び比較例4で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図6】実施例9,10,11,12及び比較例4で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【図7】実施例9,10,11,12で得られたヒドロゲルの温度応答性を示す図である。
【図8】実施例13,14,15及び比較例5で得られたヒドロゲルの破断強度と伸びを示す図である。
【図9】実施例13,14,15及び比較例5で得られたヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性のアクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とから構成される。
【0015】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルに用いられる水溶性アクリルモノマー(a)は、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性の粘土鉱物(B)と相互作用を有するものであれば良く、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)やアクリル酸エステルが好ましく用いられる。
【0016】
本発明に用いられる水溶性アクリルモノマー(a)としては、得られる有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体の膨潤特性や柔軟性を向上させるために式(1)で表されるアクリルモノマーが使用される。
【0017】
【化2】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは10〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
【0018】
また、水溶性アクリルモノマー(a)としては、(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド及びアクリロイルモルホリンなどから選択される1種以上のモノマーを併用することが好ましく、具体的には、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N-アクリロイルピロリディン、N-アクリロイルピペリディン、N-アクリロイルメチルホモピペラディン、N-アクリロイルメチルピペラディンなどが例示される。中でも、膨潤性の観点から、N,N−ジメチルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましく、生体に対する安全性の観点から、アクリロイルモルホリンと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましく、機能性の観点から、LCST(下限臨界共溶温度)を持つN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用することが好ましい。
【0019】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、優れた力学物性と膨潤特性を示すため、また、ヒドロゲルの製造を容易に行うために、上記式(1)で表されるアクリルモノマーとアミド基を有するアクリルモノマーとの共重合体として用いられる必要がある。重合の際に用いられる全アクリルモノマーに含まれる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用比率は、好ましくは1質量%〜70質量%であり、より好ましくは3質量%〜60質量%であり、5質量%〜50質量%が特に好ましい。全アクリルモノマー中の式(1)で表されるアクリルモノマーの含有率がこの範囲であると、得られる有機無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体の膨潤特性や柔軟性等の物性向上に十分な効果が得られ、またヒドロゲルの力学物性が大幅に低下することがなく、好ましい。
【0020】
本発明で用いられている式(1)で表されるアクリルモノマーのエチレングリコール繰り返し単位数は10〜99個のものを適宜に選択することができる。一般的には、エチレングリコール繰り返し単位数を増えることにつれ、得られる有機無機複合ヒドロゲルの生理食塩水での膨潤度が高くなる傾向を示す。したがって、式(1)のモノマーのエチレングリコール繰り返し単位数は、好ましくは14〜99個であり、より好ましくは20〜60個であり、45〜60個であることが特に好ましい。
【0021】
また、併用する(メタ)アクリルアミド誘導体の種類によって、エチレングリコールの繰り返し単位数の最適範囲が異なる。例えば、ジメチルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用する系では、高い生理食塩水での膨潤度を得るため、式(1)のモノマーのエチレングリコール繰り返し単位数は、好ましくは10〜99個であり、より好ましくは23〜60個であり、45〜60個であることが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(B)は、水又は水溶液中で層間が膨潤する性質を有することが必要である。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、更に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みに、特に好ましくは水中で1ないし3層以内の厚みに層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などを用いることができ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルを構成する水溶性アクリルモノマー(a)と粘土鉱物(B)との比率は、用いる水溶性アクリルモノマーや粘土鉱物の種類により適宜選択されるが、溶媒の中で両者が三次元網目を形成する範囲が好ましく、水膨潤性粘土鉱物(B)/水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)の質量比として好ましくは0.01〜5、より好ましくは0.03〜3、特に好ましくは0.05〜1.5である。かかる質量比の範囲であれば、調製が容易であり、高延伸性を保ったまま、広い範囲において制御された弾性率(柔らかさ)および高強度が得られる。
【0024】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルには、溶媒として水以外にも水と混和する有機溶媒との混合溶媒を含んでいるものも含まれる。
【0025】
本発明において有機無機複合ヒドロゲルに含まれる水又は溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、好ましくは有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体と水膨潤性粘土鉱物との合計質量に対する水又は溶媒の質量比が50以下のものが用いられ、さらに好ましくは0.1〜30のものが用いられる。
【0026】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルは、水溶性アクリルモノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とから構成される三次元網目構造を有することから、20kPa以上の引っ張り強度、および200%以上の破断伸びといった優れた物性を実現できる柔軟且つ強靭な材料であり、好ましくは、引っ張り強度が25kPa以上、破断伸びが300%以上の物性を有する。
【0027】
本発明における有機無機複合ヒドロゲルは、イオン性を持たないため耐塩性に優れ、食塩水中での膨潤性が極めて高い。食塩水膨潤性の高低は、食塩水で膨潤した状態のヒドロゲルの質量(Wgel)をゲルの固形分質量(Wdry)で除した食塩水膨潤度(Wgel)/(Wdry)により判断できる。本発明のヒドロゲルは、生理食塩水中での(Wgel)/(Wdry)が20〜120であることが好ましい。より好ましくは25〜100である。
【0028】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルには、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を有し、Tcを境にした上下の温度変化により透明性や体積を可逆的に変化できる特徴を有するものが含まれる。このような有機無機複合ヒドロゲルは有機モノマーとして水溶液中でLCST(下限臨界共溶温度)を示す感温性モノマー、例えばN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドを用いて調製できる。ポリエチレングリコール鎖を有する式(1)のアクリルモノマーと共重合する場合、感温性モノマーのLCSTが消失する傾向がある。高い水膨潤性と感温性を併せ持つため、全モノマー中の式(1)のアクリルモノマーの含有比率は、好ましくは2〜50質量%であり、より好ましくは4〜45質量%であり、特に好ましくは6〜40質量%である。式(1)で表されるアクリルモノマーの含有率が2質量%より少ないと、得られる有機無機複合ヒドロゲルの食塩水膨潤性向上に十分な効果が得られなく、また50質量%より多くなると、ヒドロゲルの温度応答性が無くなる恐れがあり、好ましくない。
【0029】
本発明に用いる有機無機複合ヒドロゲルの製造方法は、水溶性アクリルモノマー(a)を水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下での重合反応によって行われる。重合反応は、ラジカル重合開始剤を使用する慣用のラジカル重合方法により行わせることが出来る。具体的には、まず、水溶性アクリルモノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(B)と水を含む均一分散液を調製した後、水膨潤性粘土鉱物(B)共存下で窒素雰囲気中水溶性アクリルモノマー(a)を重合させることにより、有機無機複合ヒドロゲルを調製する。ここで層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が架橋剤の働きをすることにより水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との三次元網目を形成した有機無機複合ヒドロゲルが得られる。該有機無機複合ヒドロゲルはこのように形成された三次元網目構造を有することにより、その内部に水又は水と有機溶媒との水溶液を保持することができると共に、上記の優れた物性を達成できる。
【0030】
ラジカル重合開始剤及び重合促進剤としては、慣用のラジカル重合開始剤及び重合促進剤のうちから適宜選択して用いることが出来、好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものを用いることができる。特に好ましくは層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。具体的には、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物などを好ましく使用できる。水溶性アゾ化合物としては、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく使用できる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性ラジカル開始剤なども使用できる。また重合促進剤としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどを好適に使用できる。
【0031】
上記重合反応時の温度は、一般的に用いる水溶性アクリルモノマー(a)、重合促進剤及び開始剤の種類などに合わせて適宜選択され、例えば0℃〜100℃の範囲に設定出来るが、用いる水溶性アクリルモノマー(a)の種類によって最適な重合温度が異なる。例えば、ジメチルアクリルアミド及びイソプロピルアクリルアミドと式(1)で表されるモノマーとを併用する系では、20℃での低温重合が最も好ましい。これに対して、アクリロイルモルホリン(ACMO)と式(1)で表されるモノマーとを併用する系では、20℃での低温で両モノマーは重合していくと相分離が生じるため、より高い重合温度、例えば50℃での重合が好ましい。重合時間は重合促進剤、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で調整すればよい。
【0032】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、その特性、例えば弾性率(硬さ)を改良する目的で、該有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体の一部を共有結合により架橋させることが出来る。該有機無機複合ヒドロゲル中のアクリルモノマーの重合体の一部を共有結合させることにより、溶媒を吸収して膨潤した時に形状の安定性が向上する。
【0033】
アクリルモノマーの重合体の一部を共有結合によって架橋させる方法は、該有機無機複合ヒドロゲルの柔軟性や強靱性を保持できる限り、特に方法が限定されるわけではないが、例えば、有機架橋剤を用いる方法や該有機無機複合ヒドロゲルに放射線を照射して、アクリルモノマーの重合体相互で共有結合させる方法が挙げられる。
【0034】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、重合時に重合容器の形状を変化させたり、重合後に切削加工したりすることにより種々の大きさや形状に調製でき、例えば、フィルム状、平板状、繊維状、棒状、円柱状、中空状、筒状、らせん状、あるいは球状など任意の形状とすることができる。特にフィルム状のヒドロゲルでは、その高い生理食塩水膨潤性から創傷被覆材として好適に用いられる。例えば、ヒドロゲルフィルムで傷口を覆って貼り付けて、傷口表面を細菌から保護し、傷口から出てくる侵出液を吸収し、かつ、乾いた創傷面にも湿潤環境を供与し、傷の痛みを軽減しつつ、治癒を促進することができる。
【0035】
また、本発明には、得られた有機無機複合ヒドロゲルを慣用の方法で乾燥し、溶媒の一部もしくは全部を除去した有機無機複合体を得ることが出来る。かかる乾燥温度は80℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下である。乾燥温度は80℃を超えると、重合体の一部に共有結合による架橋が生じるため、得られる有機無機複合体の食塩水膨潤性が低下する恐れがあり、好ましくない。乾燥時間は用いるヒドロゲルフィルムの厚み、乾燥方法及び乾燥温度によって異なるが、通常数時間から数十時間である。
【0036】
本発明は、式(1)で表されるアクリルモノマーを用いることによって、得られる有機無機複合体に柔軟性が与えられる。その柔軟さは、用いる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量及び粘土鉱物の含有率によって異なる。例えば、上述のヒドロゲルフィルムを乾燥することによって得た0.1〜0.3mm厚みの乾燥フィルムでは、90°繰り返し曲げられても割れないことを基準とした場合、用いる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量は全モノマーに対して20質量%以上が好ましく、より好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。また、用いる粘土鉱物の含有率は固形分に対して20質量%以下が好ましく、より好ましくは16質量%以下であり、特に好ましくは13質量%以下である。かかる式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量及び粘土鉱物の含有率が上述の範囲であれば、得られる有機無機複合体フィルムは人間の体にフィットする柔軟性を持ち、そのままでも、又は水に浸してヒドロゲルフィルムに再生して、創傷被覆材として用いることができる。
【実施例】
【0037】
本発明は、次の実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0038】
(測定条件)
<破断強度と伸びの測定>
以下の実施例及び比較例において、破断強度と伸びを測定するための引張り試験は、島津製作所(株)製卓上型万能試験機AGS−Hを用いて、未精製のフィルム状のヒドロゲル(厚み=2.5mm、幅=10mm)をチャック部での滑りのないようにして引っ張り試験装置に装着し、標点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて測定を行った。
<生理食塩水中で膨潤度の測定>
ヒドロゲルの生理食塩水中での膨潤度は両辺30mm、厚み2.5mmのフィルム状ヒドロゲルを大量の生理食塩水の中に浸して、その質量増加の時間依存性から求めた。また、ヒドロゲルフィルム乾燥体の生理食塩水中での膨潤度は、厚み約0.2mmの乾燥フィルム約 0.03gを50mlの37℃生理食塩水の中に25〜100時間浸して、質量増加しなくなるまでの平衡膨潤度を測定した。
<柔軟性の評価>
ヒドロゲルフィルムから得られた厚み約0.1〜0.2mmの乾燥フィルムにおいて、150°繰り返し曲げられるものは◎で優れた柔軟性を表し、90°繰り返し曲げられるものは○で柔軟性ありを表し、90°曲げて割れたものは×で柔軟性なしを表す。
<光透過率の測定>
光透過率の温度依存性は、角柱状の透明ポリスチレンセルにヒドロゲルを合成し、そのまま日本分光(株)製紫外可視分光光度計V-530を用いて測定した。
【0039】
(試薬)
・ 粘土鉱物
XLG: 水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)
・モノマー
DMAA: N,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
NIPAM: N-イソプロピルアクリルアミド(興人株式会社製)、トルエンとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶し無色針状結晶に精製してから用いた。
ACMO: アクリロイルモルフォリン(興人株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
DEAA: N,N-ジエチルアクリルアミド(興人株式会社製)、活性アルミナを用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
AM-90G: CH2=CHCO(OC2H4)nOCH3 n=9 NKエステルAM-90G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
AM-130G: CH2=CHCO(OC2H4)nOCH3 n=13 分子量 550 NKエステルAM-130G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
AM-230G: CH2=CHCO(OC2H4)nOCH3 n=23 分子量1000 NKエステルAM-230G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
M-450G: CH2=C(CH3)CO(OCH2CH2)nOCH3 n=45 分子量2000 NKエステルM-450G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
M-900G: CH2=C(CH3)CO(OCH2CH2)nOCH3 n=90 分子量4000 NKエステルM-900G(新中村化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
PME-2000: CH2=C(CH3)CO(OCH2CH2)nOCH3 n=45 分子量2000 ブレンマPME-2000
(日油株式会社製)、試薬そのまま使用した。
PME-4000: CH2=C(CH3)CO(OCH2CH2)nOCH3 n=90 分子量4000 ブレンマPME-4000(日油株式会社製)、試薬そのまま使用した。
BIS:N,N’-メチレンビスアクリルアミド(関東化学株式会社製)、試薬そのまま使用した。
・重合開始剤
KPS: ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製)、KPS/水=0.2/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。
・重合触媒
TEMED:N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)
【0040】
(実施例1と比較例1,2,3)
平底ガラス容器に、純水28.5gを攪拌しながら、0.96gのXLGを添加して無色透明の溶液を調製した。これにDMAA 5.4gとPME-2000 0.6g(モノマー合計に対して10質量%)を加え、15分間窒素バブリングした。続いて、氷浴下、TEMED24μl、KPS水溶液1.5gを順次攪拌して加え、均一溶液を得た。得られた均一溶液を予め窒素置換したポリスチレン製容器(8cm×12cm)に酸素に触れないようにして移した後、蓋を密栓し、20℃で静置重合を行った。24時間後にポリスチレン容器内に伸縮性、強靭性のあるフィルム状のヒドロゲルが生成された。得られたヒドロゲルを50℃、減圧下にて乾燥して水分を除いたヒドロゲル乾燥体を得た。このゲル乾燥体を20℃の水に浸漬することにより、乾燥前と同じ形状の伸縮性のあるヒドロゲルに戻ることが確認された。
【0041】
上述のように本実施例で得られたゲルは、有機高分子の合成において架橋剤を添加していないにもかかわらず、均一なヒドロゲルとなること、ヒドロゲルから水分を除いて得られるゲル乾燥体を水に浸漬することにより再びもとの形状のヒドロゲルに戻ることなどから、有機高分子と粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成されていると結論された。
【0042】
未精製のフィルム状のヒドロゲルを所定形状に切り出して引っ張り試験と生理食塩水での膨潤実験を行い、その結果を図1,図2に示す。また、式(1)のアクリルモノマーを使わない比較例1、式(1)のアクリルモノマーの代わりにポリエチレングリコール(PEG)鎖長の短いPEGアクリレートを用いた比較例2、粘土鉱物の変わりに有機架橋剤を用いた比較例3のヒドロゲルをそれぞれ実施例1と同様に合成し、引張特性と生理食塩水での膨潤性を評価した。図1に示したように式(1)のアクリルモノマーを用いた実施例は比較例1,2と比べてヒドロゲルが柔らかくなるが、まだ十分強い破断強度を保持した。一方、生理食塩水での膨潤性において、図2に示したように実施例1は比較例より膨潤度及び膨潤速度が大幅に向上した。なお、比較例3のゲルが極めて脆弱で引っ張り試験を行おうとしたが、チャックに装着前に殆どのサンプルが壊れた。また、チャックに軽く装着したものでも試験直後に破断し、物性値は得られなかった。
【0043】
(実施例2,3)
式(1)で表されるアクリルモノマーの使用量及び種類を変えた以外は実施例1とほぼ同様にして実施例2,3のヒドロゲルを調製した。図1及び図2に示したように実施例2,3は比較例と比べて、高い力学物性を保持した上、生理食塩水での膨潤度と膨潤速度が大幅に向上した。
【0044】
(実施例4〜8)
表2に示した組成で、実施例1とほぼ同様にして実施例4,5,6,7,8のヒドロゲルを調製した。図3及び図4に示したように実施例4〜8はいずれも比較例と比べて、力学物性を大きく低下せず、生理食塩水での膨潤度と膨潤速度が向上した。特に式(1)で表わされるアクリルモノマーの含有比率の高い実施例8は極めて高い膨潤度を示した。
【0045】
(実施例9〜12,比較例4)
DMAAの代わりにNIPAMを用いて、表3に示した組成で実施例1と同様にして、それぞれのヒドロゲルフィルムを調製した。また、式(1)のアクリルモノマーを用いない以外は実施例と同じように比較例4を調製した。図5に示したように式(1)のアクリルモノマーを用いた実施例は比較例と比べてヒドロゲルが柔らかくなるが、まだ十分高い破断強度と伸びを保持した。一方、生理食塩水での膨潤性において、図6に示したように実施例の膨潤度はいずれも比較例より向上した。特に式(1)のアクリルモノマーの含有比率の高い実施例11は高い膨潤度を示した。また、図7に示したように、実施例は親水性の式(1)のアクリルモノマーを用いたにもかかわらず、得られたヒドロゲルは34℃付近に光透過率が大きく変化し、明確なLCST(下限臨界共溶温度)を有することがわかった。
【0046】
(実施例13〜15,比較例5)
DMAAの代わりにACMOを用いて、表4に示した組成と合成条件で実施例1と同様にして、それぞれのヒドロゲルフィルムを調製した。また、式(1)のアクリルモノマーを用いない以外は実施例と同じように比較例5を調製した。図8及び図9に示したように実施例13〜15はいずれも比較例と比べて、力学物性を大きく低下せず、生理食塩水での膨潤度と膨潤速度が向上した。
【0047】
(実施例16と比較例6)
表5に示した組成で実施例1と同様にして実施例16のヒドロゲルフィルムを調製した。次に、このゲルフィルムを純水で洗浄し、室温で一晩風乾した後、更に4時間、50℃で熱風乾燥した。得られた乾燥フィルムは90°に繰り返して曲げられて、優れた柔軟性を示した。また、37℃の生理食塩水での膨潤度も高い値を示した。これに対して、式(1)で表わされるモノマーを用いない以外は実施例16と同様にして調製された比較例6の乾燥フィルムは極めて脆く、90°に曲げようとしたが、曲げられず割れた。これらの測定結果を表5に示す。
(実施例17〜19)
【0048】
式(1)で表わされるモノマーの使用量及び粘土鉱物含有率を変えた以外は実施例16と同様にして実施例17,18,19の乾燥フィルムを作製した。柔軟性及び37℃生理食塩水での膨潤率を表5にまとめて示す。粘土鉱物含有率が低く、かつ式(1)のモノマー含有率が高い実施例17は150°に繰り返し曲げることができて、極めて優れた柔軟性を示した。
【0049】
(実施例20〜25)
表6に示した組成及び合成条件で実施例16と同様にして、実施例20〜25の乾燥フィルムを作製した。フィルムの柔軟性及び37℃の生理食塩水での膨潤率はいずれも良好で、その値を表6にまとめて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アクリルモノマー(a)の重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成される有機無機複合ヒドロゲルであって、
前記水溶性アクリルモノマー(a)が、式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、nは10〜99の整数、Yはメトキシ基又は水酸基を表す。)
で表されるモノマーを含有することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項2】
前記重合体(A)が、式(1)で表されるモノマーを全モノマー成分に対して1質量%〜70質量%含有する水溶性アクリルモノマー(a)を重合して得られる重合体である請求項1記載の有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の有機無機複合ヒドロゲルを乾燥することにより得られる有機無機複合体。
【請求項4】
80℃以下の温度で乾燥する請求項3記載の有機無機複合体。
【請求項5】
請求項1又は2記載の有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、
前記式(1)で表されるモノマーを水媒体と混合し、水膨潤性粘土鉱物(B)の共存下で前記水溶性のアクリルモノマー(a)を重合開始剤により重合することを特徴とする有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−215784(P2010−215784A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64218(P2009−64218)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】