説明

有機無機複合体の合成方法

【課題】有機無機複合体を容易に回収することが可能な新規の合成方法を提供する。
【解決手段】M−O−M(Mは珪素原子または金属原子をそれぞれ独立に示す)で表される結合を含む珪素および金属の酸化物からなるとともに少なくとも一部の珪素原子に結合している有機基をもつ有機無機複合体の合成方法であって、
1以上のアルコキシ基をもち有機基と共有結合で結合した珪素原子を有するオルガノアルコキシシランおよび金属原子を含む金属化合物を極性溶媒である第一溶媒に溶解して原料溶液を調製する調製工程と、
オルガノアルコキシシランと金属化合物とを加水分解するとともに脱水縮合させて有機無機複合体を合成する反応工程と、
反応工程後の溶液に該溶液と相溶しない第二溶媒を加えて有機無機複合体を第二溶媒に溶解させた後、第二溶媒と相溶しない溶液を除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料と無機材料との性質をあわせもつ有機無機複合体の合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、被膜や成形体などの主成分材料あるいはフィラーとして用いられる無機材料は、高硬度、耐熱性などの特徴をもつ。無機材料を用いる場合、液相もしくは溶液から迅速に緻密な固相を形成するには、加熱焼成が必要である。また、これらの無機材料は、有機溶媒や有機物相との親和性がよくない。一方、有機材料は、可撓性や常温での迅速な成膜性などの特徴をもつが、硬度や耐熱性が劣るという欠点がある。このため、無機材料と有機材料の上記の特徴をあわせもち、さらに上記の欠点を可及的に制限した有機無機複合体およびその製造方法がこれまで検討されてきている。
【0003】
たとえば、特許文献1および特許文献2には、珪素を中心原子とする4面体シートと金属を中心原子とする8面体シートとの2:1型または1:1型の積層体からなるフィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有し、珪素の少なくとも一部と共有結合する有機基をもつ層状珪素ポリマーが開示されている。また、特許文献3には、特許文献1および2に記載の層状珪素ポリマーをフィラーとして用いた被覆材組成物およびそれを用いた耐摩耗性物品の製造方法が記載されている。各特許文献に記載されている層状珪素ポリマーの製造方法を以下に具体的に説明する。
【0004】
はじめに、メタノ−ルに、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと塩化マグネシウム6水和物を加えて撹拌して原料溶液を調製する。次に、原料溶液を撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を添加すると、この混合液はゲル化する。こうして、フィロ珪酸塩鉱物型の結晶性の積層構造を有するメタクリルMg層状ポリマーが合成される。なお、図1に、2:1型のメタクリルMg層状ポリマーの構造の概要を示す。メタクリルMg層状ポリマーは、マグネシウム原子1を中心とする8面体シート2の両側に、珪素原子3(●で示す)を中心とする4面体シート4が形成されている。そして、珪素原子3には、4面体シート4の一部を構成するものとして、有機基Rが共有結合により結合している。図中、○は酸素原子を示す。
【0005】
その後、ゲル化した混合溶液を濾過し、水洗したあと真空乾燥して、メタクリルMg層状ポリマーを粉末状で単離している。
【特許文献1】特開平6−200034号公報
【特許文献2】特開平7−126396号公報
【特許文献3】特開平8−12899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反応後の溶液は、ゲル化したり合成物が沈殿したりするため、通常、上記の製造方法のように濾過することで、副生成物である塩化ナトリウム等の不純物を含む溶液と合成された層状珪素ポリマーとを分離している。ところが、濾過により溶液から分離できる層状珪素ポリマーの大きさには限界がある。層状珪素ポリマーが微粒子である場合には、溶液とともに微粒子も流去されることがある。
【0007】
また、濾過後の乾燥方法としては、加熱してメタノールや水を蒸発させるのが最も簡単な方法であるが、層状珪素ポリマーの有機部分は熱に弱いため、加熱温度に制限がある。真空乾燥や凍結乾燥などを用いた乾燥方法もあるが、コストや装置の面から簡便な方法とは言い難い。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、層状珪素ポリマーのような有機無機複合体を容易に回収することが可能な新規の合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機無機複合体の合成方法は、M−O−M(Mは珪素原子または金属原子をそれぞれ独立に示す)で表される結合を含む珪素および金属の酸化物からなるとともに少なくとも一部の珪素原子に結合している有機基をもつ有機無機複合体の合成方法であって、
1以上のアルコキシ基をもち前記有機基と共有結合で結合した前記珪素原子を有するオルガノアルコキシシランおよび前記金属原子を含む金属化合物を極性溶媒である第一溶媒に溶解して原料溶液を調製する調製工程と、
前記オルガノアルコキシシランと前記金属化合物とを加水分解するとともに脱水縮合させて前記有機無機複合体を合成する反応工程と、
前記反応工程後の溶液に該溶液と相溶しない第二溶媒を加えて前記有機無機複合体を該第二溶媒に溶解させた後、該第二溶媒と相溶しない溶液を除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
なお、本明細書において、「溶解」とは、物質(溶質)が溶媒に溶けて均一混合物(溶液)となる現象であって、溶解後、溶質の少なくとも一部がイオンとなる場合、溶質がイオンに解離せず分子状で存在している場合、分子やイオンが会合して存在している場合、などが含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機無機複合体の合成方法は、従来の濾過の代わりとなる除去工程を含む。除去工程では、反応工程において合成された有機無機複合体を、反応工程後の溶液と相溶しない第二溶媒に溶解させる。合成された有機無機複合体は第二溶媒に溶解するが、副生成物などの不純物は極性溶媒に溶解したままである。そして、反応工程後の溶液と第二溶媒とは、互いに相溶せず分離するため、不純物を含む溶液を容易に除去することができ、有機無機複合体を含む溶液が回収される。有機無機複合体は、その大きさに関わらず第二溶媒に溶解するため、濾過で取り出せないような微小な有機無機複合体も除去工程後の第二溶媒に残留する。その結果、濾過により回収できないような微小な有機無機複合体をも回収して利用することが可能となる。微小な有機無機複合体を被膜や成形体のフィラーとして用いれば、被膜の塗料組成物や成形体の原料において分散性が高く、また、フィラーが小さいほど入射した光が反射や散乱されにくいため透明度の高い被膜や成形体が得られる。
【0012】
除去工程後に得られる溶液は、有機無機複合体が第二溶媒に溶解する溶液(以下「有機無機複合体/第二溶媒溶液」と略記することもある)である。有機無機複合体/第二溶媒溶液は、有機無機複合体が有する有機基の種類によっては、そのまま被膜の塗料組成物または成形体の成形原料として用いることも可能である。また、有機無機複合体を樹脂製の被膜や成形体のフィラーとして用いるのであれば、有機無機複合体/第二溶媒溶液に樹脂を溶解させることで、塗料組成物あるいは成形原料として用いることも可能である。
【0013】
さらに、多くの第二溶媒は有機系であることから、第二溶媒には有機的な性質が強い有機無機複合体が溶解しやすい傾向がある。そのため、回収される有機無機複合体は、樹脂との親和性に優れる。
【0014】
本発明の有機無機複合体の合成方法では、除去工程において用いられる第二溶媒の多くは有機系で沸点が低いものであるため、有機無機複合体を単離する場合には、合成された有機無機複合体を高温に曝すことなく第二溶媒を除去できる。第二溶媒が除去され単離された有機無機複合体も、有機溶媒や樹脂ワニスに分散させたりすることでフィラーとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の有機無機複合体の合成方法(以下「本発明の合成方法」と略記することもある)を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
本発明の合成方法において合成される有機無機複合体は、M−O−M(Mは珪素原子または金属原子をそれぞれ独立に示す)で表される結合を含む珪素および金属の酸化物からなるとともに少なくとも一部の珪素原子に結合している有機基をもち、以下に詳説する調製工程、反応工程および除去工程を経て合成される。以下に、各工程について説明する。
【0017】
[調製工程]
調製工程は、オルガノアルコキシシランおよび金属化合物を第一溶媒に溶解して原料溶液を調製する工程である。なお、ここでの溶解は、オルガノアルコキシシランおよび/または金属化合物が粒子として第一溶媒に分散した状態も含む。
【0018】
オルガノアルコキシシランは、1以上のアルコキシ基をもち有機基と共有結合で結合した珪素原子を有する。オルガノアルコキシシランは、一般式:RSi(OR’)4−n(nは1、2または3、Rはアルコキシ基を除く有機基、OR’はアルコキシ基)で表されれば、特に限定はない。このとき、Siは有機無機複合体が有するM−O−M結合のMの一部に相当し、有機基は有機無機複合体が有する珪素原子と結合する有機基に相当する。オルガノアルコキシシランとしては、アクリル系シラン、ビニル系シラン、アルキルシラン、芳香族シラン、エポキシ系シラン、−NH、−NHCH、−N(CHをもつアミノ系シランおよびアミン、ウレイド系シラン、ハロゲン系シラン、メルカプト系シラン、イソチオウロニウム塩、酸無水物の他、イミダゾール、イミダゾリン、ピリジン、ピロール、アジリジン、トリアゾール等の含窒素複素環、ニトロ基(−NO)、カルボメトキシ基(−COOCH)、アルデヒド基(−CH=O)、ケトン基(−(C=O)−R)、水酸基(−OH)、スルフォニル基(−S(=O)−)、含硫黄複素環、シアノ基(−NC)、イソシアネート基(−N=C=O)、等を有するオルガノアルコキシシランであるのが望ましい。
【0019】
アクリル系シランの具体例としては、β−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、β−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、β−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。ビニル系シランの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。アルキルシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。芳香族シランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ系シランとしては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。アミノ系シランおよびアミンとしては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン、1−アミノ−2−(ジメチルエトキシシリル)プロパン、(アミノエチルアミノ)−3−イソブチルジメチルメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、11−アミノウンデシルトリエトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、N−メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルアミノメチルエトキシシラン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、(N−アセチルグリシジル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ウレイド系シランとしては3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等、ハロゲン系シランとしては3−クロロプロピルトリメトキシシラン等、メルカプト系シランとしては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。イソチオウロニウム塩としては、N−(トリメトキシシリルプロピル)イソチオウロニウムクロライドが使用可能である。酸無水物としては、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、等が挙げられる。
【0020】
また、含窒素複素環を有するオルガノアルコキシシランとしては、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)ピロール、N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−2−カルボメトキシアジリジン等が挙げられる。ニトロ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、3−(2,4−ジニトロフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリルプロピル)−p−ニトロベンズアミド等が挙げられる。カルボメトキシ基を有するオルガノアルコキシシランとしては2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン、アルデヒド基を有するオルガノアルコキシシランとしてはトリエトキシシリルブチルアルデヒド、ケトン基を有するオルガノアルコキシシランとしては、2−ヒドロキシ−4−(3−メチルジエトキシシリルプロポキシ)ジフェニルケトン、等が挙げられる。また、水酸基を有するオルガノアルコキシシランとしては、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、11−(トリエトキシシリル)ウンデカナール、トリエトキシシリルウンデカナール、エチレングリコールアセタール、N−(3−エトキシシリルプロピル)グルコンアミド等が挙げられる。スルフォニル基を有するオルガノアルコキシシランとしては、(2−トリエトキシシリルプロポキシ)エトキシスルホランが挙げられる。含硫黄複素環を有するオルガノアルコキシシランとしては、2−(3−トリメトキシシリルプロピルチオ)チオフェンが挙げられる。シアノ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、3−シアノプロピルフェニルジメトキシシラン、11−シアノデシルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン等、イソシアネート基を有するオルガノアルコキシシランとしては3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
以上列挙したオルガノアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
また、有機無機複合体が含有する有機基の量を調整するために、必要に応じて、有機基をもたないシリコンアルコキシドをオルガノアルコキシシランと併用することもできる。有機基をもたないシリコンアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトシキシラン(TEOS)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、シリコンアルコキシドの使用割合が多い場合には、無機的な性質が強い有機無機複合体が合成されやすい。無機的な性質が強い有機無機複合体は、有機溶媒や有機物相との親和性が悪いため、樹脂製の被膜や成形体のフィラーとして望ましくない。また、無機的な性質が強い有機無機複合体が合成されると、後に詳説する除去工程において使用される第二溶媒が限定される。そのため、無機的な性質が強い有機無機複合体は、本発明の合成方法には適さない場合がある。そのため、シリコンアルコキシドを使用する場合には、オルガノアルコキシシランの割合をシリコンアルコキシドに対するモル数比で、オルガノアルコキシシラン:シリコンアルコキシド=50:50以上さらには70:30以上とするのが望ましい。
【0023】
金属化合物は、有機無機複合体が有するM−O−M結合のMの残部に相当する金属原子を含む。金属化合物は、金属原子の無機塩、有機塩またはアルコキシドであるのが望ましい。また、金属原子としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、リチウム(Li)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)およびチタン(Ti)から選ばれる少なくとも一種であるのが望ましい。すなわち、金属化合物としては、これらの金属の塩化物、硫化物、硫酸物、硝酸物、酢酸物、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が使用可能である。これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、珪素原子および金属原子のうちの一部を他の金属原子で置換する場合には、その金属を含む塩やアルコキシドを併用してもよい。
【0024】
使用するオルガノアルコキシシラン(必要に応じてシリコンアルコキシド)および金属化合物は、金属原子M’と珪素原子Siとのモル比(M’:Si)が1:0.5〜1:2となるように原料溶液を調製するのが望ましい。特に、有機無機複合体が、Siを中心原子とする4面体面構造をもつ4面体構造層と、金属原子M’を中心原子とする8面体面構造をもつ8面体構造層と、の2:1型または1:1型の積層体からなるフィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有する層状有機無機複合体である場合には、M’:Siを選択することにより、2:1型あるいは1:1型の層状有機無機複合体を選択的に製造することができる。たとえば、M’:Siが1:0.5〜1:1の比率では1:1型の層状有機無機複合体が、M’:Siが3:4〜1:2の比率では2:1型の層状有機無機複合体が合成される。
【0025】
また、有機無機複合体は、1つの有機分子または有機分子の集合体であるコア粒子を内包する皮殻層を構成してもよい。このような複合粒子を得るには、たとえば、調製工程において、金属化合物としてチタンアルコキシドと、オルガノアルコキシシランと、紫外線吸収分子や色素分子といった有機分子と、を第一溶媒に溶解して原料溶液を調製すればよい。反応前の原料溶液中で、オルガノアルコキシシランがチタンアルコキシドに配位し、さらに、オルガノアルコキシシランが配位したチタンアルコキシドが有機分子の周囲に会合して会合体を形成することで、反応後に、コア粒子を内包する皮殻層が合成される。有機無機複合体が複合粒子である場合には、M’:Siが1:0.5〜1:2さらには1:0.8〜1:1.5の範囲で調製するのが望ましい。
【0026】
オルガノアルコキシシランと金属化合物とを溶解する第一溶媒は、極性溶媒であれば特に限定はないが、無機系および有機系の極性溶媒から選ばれる1種あるいは2種以上の混合溶媒からなるとよい。具体的には、無機極性溶媒としての水、有機極性溶媒としてのアルコール、アセトン、有機酸および無機酸などのうち1種あるいは2種以上の混合溶媒が好ましく、より好ましくは、水および低級アルコール(炭素数が1〜5の鎖式アルコール)、アセトンのような水に可溶の有機溶媒のうちの1種あるいは2種以上の混合溶媒である。
【0027】
[反応工程]
反応工程は、オルガノアルコキシシランと金属化合物とを加水分解するとともに脱水縮合させて有機無機複合体を合成する工程である。調製工程で調製した原料溶液に水が存在すると、オルガノアルコキシシランと金属化合物とが加水分解とともに脱水縮合する。特に、金属化合物として金属無機塩および/または金属有機塩を使用する場合、反応工程は、原料溶液のpHをアルカリ性に調整してオルガノアルコキシシランと金属化合物との反応を促進させるpH調整工程を含むとよい。pH調整工程では、原料溶液にアルカリを添加するとよい。添加するアルカリの種類に特に限定はなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を水溶液で添加するとよい。アルカリ添加によって調整されるpHは、所望の程度以上の速度で結晶化が起こるpHであり、かつ有機基が損なわれるような強アルカリ性でなければよい。オルガノアルコキシシランと金属化合物の種類に依存するため一律には規定できないが、層状有機無機複合体の合成であれば、たとえばpH8〜10程度であるのが望ましい。オルガノアルコキシシランと金属化合物は、水もしくは水とアルカリとの存在により、金属化合物が先に加水分解され、もしくは、金属水酸化物となり、どちらの場合においても−M’−OHを生ずる。この−M’−OHがオルガノアルコキシシランの加水分解を促してさらに結合することで,R−Si−O−M’であらわされる結合をもつ有機無機複合体が合成される。層状の有機無機複合体が形成される場合には、金属原子M’を中心原子とする8面体構造層の結晶構造が先行して成長しつつ、これに追従してオルガノアルコキシシランの珪素がアルコキシ基の加水分解の後の脱水縮合により8面体構造層に結合し、この珪素を中心に4面体構造層の結晶構造も成長して行くものと推定される。
【0028】
すなわち、層状有機無機複合体は、珪素原子を中心原子とする4面体面構造が構成する4面体構造層と前記金属原子を中心原子とする8面体面構造が構成する8面体構造層との積層体からなる。このとき、珪素原子の少なくとも一部は、有機基と共有結合している。既に述べたように、調製工程において金属原子M’と珪素原子Siとのモル比(M’:Si)を調整することで、4面体構造層と前記8面体構造層との2:1型または1:1型の積層体からなる層状有機無機複合体が合成される。このような層状有機無機複合体は、フィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有する。なお、得られる層状有機無機複合体は、一般式:{RSiO(4−n)/2〔M’OZ/2〕〔HO〕で表される。ここで、Rは有機基、M’は金属原子、nは1〜3のいずれかの整数であり、xは0.5以上で2以下の整数に限定されない任意の数であり、zは金属原子M’の価数であって2または3の整数であり、wは(z/2)−1〜(z+1)/2の整数に限定されない構造水の分子数である。四面体構造にSi−OH結合が含まれている場合があるため、wは整数に限定されない。
【0029】
また、反応工程では、オルガノアルコキシシランと金属化合物との反応は室温程度の温度でも十分に起こるが、有機基を損なわない程度の一定の高い温度条件下で行ってもよい。反応工程は、条件次第で、直ちに完了する場合もあり、ある程度(たとえば1〜2日間程度)のエージングを要する場合もある。
【0030】
また、反応工程における原料溶液全体に対する、有機無機複合体の原料の含有量に特に限定はない。有機無機複合体の原料であるオルガノアルコキシシランおよび金属化合物(必要に応じてシリコンアルコキシド等)の分子量によっても異なるが、あえて規定するならば、反応工程における原料溶液の総質量(ただし、反応工程において水やアルカリを添加する場合はその量も含む)を100質量%としたときに、有機無機複合体の原料の総量を25質量%以下とするのが望ましい。さらに望ましくは、15質量%以下である。特に、5質量%以下では、10〜500nm程度の微細な有機無機複合体が合成されるが、本発明の合成方法によれば、濾過では回収できない微細な有機無機複合体も回収可能であるため、望ましい。
【0031】
[除去工程]
除去工程では、反応工程後の溶液に第二溶媒を加えて、有機無機複合体を第二溶媒に溶解させる。第二溶媒は反応工程後の溶液と相溶しないため、両者は分離する。その後、第二溶媒と相溶しない溶液を除去する。なお、反応工程後の溶液は、通常、反応工程において多量の水が添加されるため、実質的に水溶液である。すなわち、第二溶媒は少なくとも水と相溶せず有機無機複合体を溶解する溶媒であればよい。以下の説明では、反応工程後の溶液を「水溶液」として説明する。
【0032】
反応工程後の水溶液は、ゲル化した状態であったり合成物が沈殿した状態であったりするため、濾過して有機無機複合体(コロイド粒子や沈殿物)を回収するのが一般的である。一方、本発明の合成方法では、濾過を行わずに、反応後の水溶液に第二溶媒を加えて有機無機複合体を選択的に溶解させる。水溶液と第二溶媒とは、互いに相溶せず分離するため、第二溶媒に溶解した状態の有機無機複合体を回収することができる。
【0033】
第二溶媒としては、水溶液と相溶せず、反応工程後の水溶液からの抽出溶媒として用いることができるものであれば特に限定はない。具体的には、n−ペンタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルプロパン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素系、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系、オルト蟻酸トリエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1,2,2,−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン系、等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いるとよい。なかでも、酢酸エチル、トルエンおよびクロロホルムが望ましい。有機無機複合体は親水的な無機部と疎水的な有機部を有するため溶液中で界面活性剤的に働くので、水溶液と第二溶媒との界面に取り付いて二層に分離するのを妨げる傾向がある。これは第二溶媒が完全な疎水性の溶媒である場合に顕著である。酢酸エチルのように水と若干相溶する第二溶媒を使用すれば、このような現象が抑制されるため望ましい。
【0034】
反応工程後の溶液に第二溶媒を加えた後、十分に混合を行い、平衡状態となるように静置すると、溶液は、上層と下層の二層に分離する。通常、下層に水溶液、上層に第二溶媒を含む第二溶媒溶液が位置する。このとき、上層の第二溶媒溶液には主として有機無機複合体が溶質として存在する。下層の水溶液には不純物、たとえば、pH調整工程において生成した副生成物、必要以上に無機成分が多く含まれる有機無機複合体、未反応物など、が溶質として存在する。なお、第二溶媒がハロゲン系溶媒のように水より比重が重い溶媒である場合には、上層に水溶液、下層に第二溶媒溶液が位置する。
【0035】
そして、水溶液を除去することで、有機無機複合体/第二溶媒溶液が回収される。この有機無機複合体/第二溶媒溶液は、有機無機複合体がもつ有機基の種類によっては、そのまま塗料組成物や成形原料として用いて、被膜や成形体を形成することができる。有機無機複合体の有機基が、他の有機無機複合体の有機基と反応して結合可能な反応基を末端にもつ場合には、有機基同士を反応させることで有機無機複合体同士が結合して被膜や成形体を成す。また、有機無機複合体/第二溶媒溶液に有機モノマーを添加したり、有機無機複合体/第二溶媒溶液と既存の塗料組成物または成形原料とを混合したりして、フィラーを含む塗料組成物や成形原料としてもよい。
【0036】
また、除去工程では、第二溶媒の種類を変更するなどして、同様の手順を複数回繰り返し行ってもよい。
【0037】
除去工程後、さらに、有機無機複合体/第二溶媒溶液から第二溶媒を除去して有機無機複合体を回収する回収工程を含んでもよい。回収工程を経ることで、有機無機複合体は単離される。第二溶媒を除去する方法としては、エバポレータ等を用いて第二溶媒を蒸発させるとよい。特に、酢酸エチル、トルエンおよびクロロホルムから選ばれる第二溶媒であれば、有機無機複合体を高温に曝すことなく第二溶媒を蒸発させられる。回収工程により単離された有機無機複合体は、フィラーとして既存の塗料組成物または成形原料に添加してもよいし、溶媒に分散させて塗料組成物や成形原料として用いてもよいし、さらに有機モノマーを添加してもよい。
【0038】
以上、本発明の有機無機複合体の合成方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の有機無機複合体の合成方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0040】
[実施例1]
250mlのメタノールに9.9g(0.05mol)の塩化鉄(II)四水和物を加えて撹拌した。塩化鉄(II)四水和物が溶解した後、24.8g(0.1mol)の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加えて30分撹拌して原料溶液を得た。
【0041】
得られた原料溶液を1000mlのイオン交換水とともに、松下電器産業株式会社製業務用ミキサーMX−151Sを用いて攪拌して混合した。撹拌したまま1mol/lの水酸化ナトリウム溶液を100ml(NaOH:0.1mol)加え、その後2分間混合した。
【0042】
混合された溶液をビーカーに移して1日静置すると、ビーカーの下部に茶色の沈殿物が得られた。このビーカー内に沈殿物を含む溶液が500ml残るように、上澄み液を取り除いた。
【0043】
次に、ビーカーに残った溶液に500mlの酢酸エチルを加えて十分に撹拌し、分液ロートに移して静置した。その後、分液ロートの中の溶液は、上層と下層の二層に分離した。茶色の沈殿物は、その全てが酢酸エチルに溶解して上層に分離された。水溶液からなる下層を分液ロートのコックを開いて下部から流去し、分液ロートの上部より茶色の溶液(上層)を取り出した。
【0044】
取り出された上層の溶液をロータリーエバポレータ(バス温:30℃)で濃縮し、酢酸エチルを完全に除去したところ、茶色のメタクリル鉄層状複合体が52.2g得られた。
【0045】
[実施例2]
250mlのメタノールに12.1g(0.05mol)の塩化アルミニウム(III)六水和物を加えて撹拌した。塩化アルミニウム(III)六水和物が溶解した後、24.8g(0.1mol)の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加えて30分撹拌して原料溶液を得た。
【0046】
得られた原料溶液を1000mlのイオン交換水とともに、上記業務用ミキサーを用いて攪拌して混合した。撹拌したまま1mol/lの水酸化ナトリウム溶液を150ml(NaOH:0.15mol)加え、その後1分間混合した。
【0047】
混合された溶液をビーカーに移して1日静置すると、ビーカーの下部に白色の沈殿物が得られた。このビーカー内に沈殿物を含む溶液が100ml残るように、上澄み液を取り除いた。
【0048】
次に、ビーカーに残った溶液に100mlの酢酸エチルを加えて十分に撹拌し、分液ロートに移して静置した。その後、分液ロートの中の溶液は、上層と下層の二層に分離した。白色の沈殿物は、その全てが酢酸エチルに溶解して上層に分離された。水溶液からなる下層を分液ロートのコックを開いて下部から流去した後、残った溶液(上層)に30mlの飽和食塩水を加えて十分に混合した。しばらく静置すると、ともに透明な上層と下層の二層に分離した。再度、食塩水からなる下層を分液ロートのコックを開いて下部から流去し、分液ロートの上部より上層を取り出した。
【0049】
取り出された上層の溶液をロータリーエバポレータ(バス温:30℃)で濃縮し、酢酸エチルを完全に除去したところ、透明なメタクリルAl層状複合体が14.7g得られた。
【0050】
単離されたメタクリルAl層状複合体は、1−メトキシ−2−プロパノールに完全に溶解し、透明溶液となった。この透明溶液をガラス基板の表面に塗布して、乾燥させて、メタクリルAl層状複合体からなる透明皮膜が得られた。
【0051】
次に、この透明皮膜のX線回折(XRD)測定を行った。XRD測定には、株式会社リガク製X線回折装置RINT2200を用い、CuKα線(加速電圧:40kV、電流:30mA)により2〜70°まで測定した。得られた回折図形を図2に示す。層状構造の面間隔を示す回折ピークが4.3°に観測された。この回折ピークより算出された層間距離は、20.5Å(2.05nm)であった。
【0052】
さらに、単離されたメタクリルAl層状複合体を重クロロホルムに溶解し、水素(H)、炭素(13C)、珪素(29Si)、アルミニウム(27Al)の各核種について核磁気共鳴(NMR)スペクトルを測定した。測定結果を図3に示す。Hおよび13Cのスペクトルより、オルガノアルコキシシランがもつ有機構造(メタクリル基)がそのまま存在することが確認された。29Siのスペクトルより、加水分解および脱水縮合が十分に進行し完結していることが確認された。また、27Alのスペクトルより、複合体にアルミニウムが取り込まれ、その状態はアルミニウムを含有する代表的な層状ケイ酸塩であるスメクタイトとほぼ同様となっていることを確認した。
【0053】
[実施例3]
250mlのメタノールに122.5g(0.05mol)の硫酸銅(II)五水和物を加えて撹拌した。硫酸銅(II)五水和物がメタノールに分散させた後、24.8g(0.1mol)の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加えて30分撹拌して原料溶液を得た。
【0054】
得られた原料溶液を1000mlのイオン交換水とともに、上記業務用ミキサーを用いて攪拌して混合したところ、青色透明の溶液が得られた。この溶液を撹拌したまま1mol/lの水酸化ナトリウム溶液を100ml(NaOH:0.1mol)加え、その後2分間混合しところ、青色の生成物が空気を巻き込み浮上した。
【0055】
混合された溶液をビーカーに移して1日静置し、生成物を含む溶液を300ml汲み取った。汲み取った溶液に500mlの酢酸エチルを加えて十分に撹拌し、分液ロートに移して静置した。その後、分液ロートの中の溶液は、上層と下層の二層に分離した。青色の生成物は、その全てが酢酸エチルに溶解して上層に分離された。水溶液からなる下層を分液ロートのコックを開いて下部から流去し、分液ロートの上部より青色の溶液(上層)を取り出した。
【0056】
取り出された上層の溶液をロータリーエバポレータ(バス温:30℃)で濃縮し、酢酸エチルを完全に除去したところ、青色でゴム状のメタクリル銅層状複合体が23.6g得られた。
【0057】
単離されたメタクリル銅層状複合体は、1−メトキシ−2−プロパノールに完全に溶解し、透明溶液となった。この透明溶液をガラス基板の表面に塗布して、乾燥させて、青みを帯びた透明皮膜を得た。
【0058】
次に、この透明皮膜のX線回折(XRD)測定を上記と同様の手順で行った。得られた回折図形を図4に示す。層状構造の面間隔を示す回折ピークが5.7°に観測された。この回折ピークより算出された層間距離は、15.5Å(1.55nm)であった。
【0059】
[実施例4]
500mlのメタノールに51.1g(0.25mol)の塩化マグネシウム六水和物を加えて撹拌した。塩化マグネシウム六水和物が溶解した後、118g(0.5mol)の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製サイラエースS510)を加えて撹拌して原料溶液を得た。
【0060】
得られた原料溶液を一晩放置した後、20g(0.5mol)の水酸化ナトリウムペレットを500mlのイオン交換水に溶解した水酸化ナトリウム溶液(1mol/l)を加えて30分間攪拌して混合した。
【0061】
混合された溶液をビーカーに移して1日静置した後、3000mlのクロロホルムを加えて1時間撹拌した。この溶液を分液ロートに移して1日静置すると、分液ロートの中の溶液は、上層と下層の二層に分離した。水溶液からなる下層を分液ロートのコックを開いて下部から流去し、分液ロートの上部よりエポキシ系マグネシウム層状複合体/クロロホルム溶液(上層)を取り出した。得られた
エポキシ系Mg層状複合体/クロロホルム溶液の固形分濃度を測定後、エポキシ系Mg層状複合体/クロロホルム溶液にエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート604)を加えて溶解させた。エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ系Mg層状複合体とエポキシ樹脂との質量比がエポキシ系Mg層状複合体:エポキシ樹脂=1:2、2:10および1:10の3種類とした。次に、それぞれの溶液からロータリーエバポレータ(バス温:40℃)でクロロホルムを除去し、60℃の油浴で加熱しながらロータリーポンプで脱気を行い、エポキシ系Mg層状複合体/エポキシ樹脂混合物を得た。いずれの混合物も透明であった。つまり、本実施例の方法により得られたエポキシ系Mg層状複合体は、微細で有機溶媒への分散性に富む。
【0062】
[比較例1]
実施例4と同様の手順で原料溶液を調製した後、得られた原料溶液に、実施例4と同様の手順で水酸化ナトリウム溶液を加えて攪拌して混合した。
【0063】
混合された溶液は、1日静置してから濾過を行い、回収物を水洗した。水洗された回収物を2リットルのイオン交換水とともに上記業務用ミキサーを用いて混合し、回収物が分散した懸濁液を得た。この懸濁液を凍結真空乾燥して、エポキシ系Mg層状複合体の粉末を得た。
【0064】
得られた粉末とエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製エピコート604)とを日陶科学株式会社製自動乳鉢ANM200Wにより混練した。このとき、エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ系Mg層状複合体とエポキシ樹脂との質量比がエポキシ系Mg層状複合体:エポキシ樹脂=1:2、2:10および1:10の3種類とした。30分間の混練の後、白色で不透明なエポキシ系Mg層状複合体/エポキシ樹脂混合物を得た。つまり、本比較例の方法により得られたエポキシ系Mg層状複合体には、粒子サイズの大きな複合体や有機溶媒への分散性が低い複合体が含まれる。
【0065】
なお、上記の手順で得られたこれらの混合物を少量取り、2枚のスライドガラス板の間で押し延ばした。いずれの混合物においても、未分散のエポキシ系Mg層状複合体が多数確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】2:1型の積層体からなるフィロ珪酸塩鉱物型の層状構造をもつメタクリルマグネシウム層状ポリマーの構造を示す説明図である。
【図2】本発明の有機無機複合体の合成方法により得られたメタクリルアルミニウム層状複合体のX線回折図形を示す。
【図3】本発明の有機無機複合体の合成方法により得られたメタクリルアルミニウム層状複合体の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【図4】本発明の有機無機複合体の合成方法により得られたメタクリル銅層状複合体のX線回折図形を示す。
【符号の説明】
【0067】
1:マグネシウム原子
2:8面体シート
3:珪素原子
4:4面体シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M−O−M(Mは珪素原子または金属原子をそれぞれ独立に示す)で表される結合を含む珪素および金属の酸化物からなるとともに少なくとも一部の珪素原子に結合している有機基をもつ有機無機複合体の合成方法であって、
1以上のアルコキシ基をもち前記有機基と共有結合で結合した前記珪素原子を有するオルガノアルコキシシランおよび前記金属原子を含む金属化合物を極性溶媒である第一溶媒に溶解して原料溶液を調製する調製工程と、
前記オルガノアルコキシシランと前記金属化合物とを加水分解するとともに脱水縮合させて前記有機無機複合体を合成する反応工程と、
前記反応工程後の溶液に該溶液と相溶しない第二溶媒を加えて前記有機無機複合体を該第二溶媒に溶解させた後、該第二溶媒と相溶しない溶液を除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする有機無機複合体の合成方法。
【請求項2】
前記反応工程は、前記原料溶液に水を添加して前記有機無機複合体を合成する工程であって、
前記除去工程は、前記反応工程後の水溶液に少なくとも水と相溶しない前記第二溶媒を加えた後、該水溶液を除去する工程である請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項3】
前記第一溶媒は、無機系および有機系の極性溶媒から選ばれる1種あるいは2種以上の混合溶媒である請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項4】
前記第一溶媒は、水、低級アルコールおよびアセトンから選ばれる1種あるいは2種以上の混合溶媒である請求項3記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項5】
前記第二溶媒は、酢酸エチル、トルエンおよびクロロホルムから選ばれる1種以上である請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項6】
前記反応工程は、前記原料溶液のpHをアルカリ性に調整して前記オルガノアルコキシシランと前記金属化合物との反応を促進させるpH調整工程を含む請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項7】
前記除去工程後、さらに、前記第二溶媒を除去して前記有機無機複合体を回収する回収工程を含む請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項8】
前記金属原子は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、リチウム(Li)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)およびチタン(Ti)から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項9】
前記金属化合物は、前記金属原子の無機塩、有機塩またはアルコキシドである請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項10】
前記有機無機複合体は、前記珪素原子を中心原子とする4面体面構造が構成する4面体構造層と前記金属原子を中心原子とする8面体面構造が構成する8面体構造層との2:1型または1:1型の積層体からなるフィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有する層状有機無機複合体である請求項1記載の有機無機複合体の合成方法。
【請求項11】
前記層状有機無機複合体は、一般式:{RSiO(4−n)/2〔M’OZ/2〕〔HO〕(ここでRは前記有機基、M’は前記金属原子、nは1〜3のいずれかの整数であり、xは0.5以上で2以下の整数に限定されない任意の数であり、zは金属原子M’の価数であって2または3の整数であり、wは(z/2)−1〜(z+1)/2の整数に限定されない構造水の分子数)で表される請求項10記載の有機無機複合体の合成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−185148(P2009−185148A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25207(P2008−25207)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】