説明

有機無機複合体の製造方法及び有機無機複合体

【課題】 半芳香族ポリエステルを有機成分に持つ有機無機複合体を簡便に得る製造方法を提供することにある。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、及び粘土鉱物(b−3)から成る群から選ばれる少なくとも1つの無機化合物(B)を含有する水溶液(2)と、前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)のいずれか片方又は両方にジオール(c)を含有させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが少なくとも一部相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させ、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と前記ジオール(c)とを反応させると同時に無機成分を析出させる有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリエステルをマトリクスポリマーとする有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に分散、複合化することにより有機無機複合体を作り出す検討が広く行われている。
例えば、無機材料固有の特性を生かすような有機無機複合体の設計は、極力小さい粒径の無機微粒子を高い充填率で複合化することで、より高い複合化効果を期待することができる。粒径が小さいほど無機微粒子の重量当たりの表面積が大きくなり、有機ポリマーと無機材料との界面領域が広くなるためである。更に、無機微粒子の充填率が高くなると、無機材料の特性をより強く出せることとなる。
【0003】
発明者らは先に、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン等のポリマーをマトリクスポリマーとしナノサイズの無機微粒子を高い充填率で含む有機無機複合体を合成する方法を発明し開示している。例えば特許文献1には、アルカリ金属成分を持つ粘土を分散させた水にジアミンを溶解させ、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドを反応させる、粘土とポリアミドの有機無機複合体の製造方法が記載されている。また、特許文献2には水にジアミンと珪酸アルカリを溶解させた水溶液を、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドを反応させる方法によるシリカとポリアミドの有機無機複合体の製造方法が記載されている。また特許文献3には、水にジアミンとアルカリ金属含有の複合酸化物類を溶解させた水溶液を、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドやジクロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物と反応させる方法による金属酸化物とポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン等との有機無機複合体の製造方法が記載されている。
【0004】
前記方法は、ジアミン、及びジアミンと反応するジカルボン酸ハライド等のモノマーとを反応させ有機ポリマーを合成しつつ、無機成分を溶解状態から析出や合成させ、有機ポリマーと無機材料とを相補的に析出させることによりナノ粒径の無機成分を析出させることができる。
【0005】
しかしながら前記方法では、水に溶解させる原料モノマーがジアミンのみであったため、得られるマトリクスポリマーは、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタンに限定されていた。有機無機複合体のポリマー成分のバリエーションを広げることができれば、より複合材料の用途を広げることが可能となる。特にポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)は、汎用ポリマーや比較的安価なエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているため、これらの半芳香族ポリエステルをポリマー成分として持つ有機無機複合体があれば、半芳香族ポリエステル類に混合し、無機成分を複合化することで各種機能を向上させることが期待できる。
【0006】
半芳香族ポリエステル類にアルコキシシランと金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシシドから選ばれる少なくとも1種の金属化合物からなる層状構造体を配合してなる有機無機複合体は特許文献4に記載されている。しかしながら該有機無機複合体は、半芳香族ポリエステルの原料あるいは半芳香族ポリエステル前駆体に、前記層状構造体を添加し重合する方法や、半芳香族ポリエステルと前記層状構造体を溶融混練する方法、あるいは前記層状構造体と半芳香族ポリエステルを溶媒中で混合する方法等で配合しており(段落0074参照)、得られる有機無機複合体の均一性に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−208291号公報
【特許文献2】特開平10−176106号公報
【特許文献3】特開2005−036211号公報
【特許文献4】特開2004−307708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、半芳香族ポリエステルを有機成分に持つ有機無機複合体を簡便に得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、アルカリ金属、珪酸アルカリあるいは粘土鉱物等を含有する水溶液(2)と、前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)のいずれか片方又は両方にジオール(c)を含有させた状態で前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)を共存させることで、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と前記ジオール(c)とを反応させ、半芳香族ポリエステルを合成すると同時に無機成分を析出させた有機無機複合体が得られることを見出した。
【0010】
即ち本発明は、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、及び粘土鉱物(b−3)から成る群から選ばれる少なくとも1つの無機化合物(B)を含有する水溶液(2)と、前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)のいずれか片方又は両方にジオール(c)を含有させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが少なくとも一部相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させ、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と前記ジオール(c)とを反応させると同時に無機成分を析出させる有機無機複合体の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記有機無機複合体の製造方法により得た、100質量%中の無機成分の含有率が10〜60質量%である有機無機複合体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、半芳香族ポリエステルをマトリクスポリマーとする有機無機複合体を、簡便に得ることができる。
【0013】
更に本発明は、複合化する無機化合物の原料としてアルミン酸アルカリや珪酸アルカリ、含アルカリ金属粘土を、また有機成分の原料としてエチレングリコール等の安価なジオール類を使用することができるため原料費が安価で済む。加えて、製造を汎用の攪拌装置を用いて短時間の1ステップで行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(有機溶剤溶液(1))
本発明で使用する有機溶剤溶液(1)は少なくとも芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と有機溶剤とを含有する。
【0015】
(芳香族ジカルボン酸ハライド(a))
本発明で使用するジカルボン酸ハライドは芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を必須とする。芳香族ジカルボン酸ハライド(a)の例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基などで置換した芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物や複数の芳香環(例えば、ナフタレン、アントラセン骨格等)からなるジカルボン酸の酸ハロゲン化物などが例示できる。
前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)に加え、一部に脂肪族ジカルボン酸ハライド(例としてはマロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物)が混合していても差し支えない。しかしながら前記脂肪族カルボン酸ハライドは水との反応性が前記芳香族カルボン酸ハライド(a)に比べて著しく高いため、後述の水溶液(2)に大過剰に存在する水と加水分解反応しジカルボン酸と酸ハライドを生成する副反応が極めて急速に生じる場合がある。一旦ジカルボン酸となると常温近傍ではジオールとの反応が生じないためポリエステルを得ることができない。従って脂肪族カルボン酸ハライドの含有率は、本発明で使用するジカルボン酸ハライドの総量に対して30モル%以下であることが好ましく、最も好ましくは10モル%以下である。
【0016】
(有機溶剤)
本発明で使用する有機溶剤としては、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を必要な量溶解させることができれば特に制限はない。具体的な例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジメチルエ−テル、ジエチルエ−テル、ジブチルエ−テル、アニソ−ル等のエ−テル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、n−メチルピロリドン、N−N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶媒、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド等を例示することができる。これらは複数を組み合わせて用いても良い。
【0017】
前記有機溶剤溶液(1)中の前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含むジカルボン酸ハライドのモノマー総濃度としては、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、ジオールと良好に接触させる観点から、各々0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0018】
(水溶液(2))
本発明で使用する水溶液(2)は、少なくとも金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、又は粘土鉱物(b−3)を含有する。これらは本発明における有機無機複合体の無機成分の原料である。
【0019】
(金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)又は粘土鉱物(b−3))
本発明における有機無機複合体の無機成分の原料は、アルカリ金属を含有する無機化合物である。具体的には、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)(以下金属化合物(b−1)と略す)、珪酸アルカリ(b−2)又は粘土鉱物(b−3)が、入手が容易であり安価であり好ましい。金属化合物(b−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が、珪酸アルカリ(b−2)を原料とした場合はシリカ(二酸化ケイ素)が析出する。また、粘土鉱物(b−3)を原料とした場合には少なくとも一部の層がへき開した粘土鉱物が複合化する。(以下、「金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)又は粘土鉱物(b−3)」を略して、「無機化合物(B)」とする場合がある)
【0020】
(金属化合物(b−1))
本発明で使用する金属化合物(b−1)は、具体的には下記一般式(1)で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.9O2.8 のような類が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水及び有機溶剤溶液(1)に用いられる有機溶剤に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
【0023】
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(b−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(b−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
前記金属化合物(b−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)とジオール(c)との反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
【0026】
加えて、前記金属化合物(b−1)の市販材料がない場合は、たとえば水酸化ナトリウムや、水酸化カリウムのアルカリ金属の水酸化物の高濃度水溶液中にこれらに可溶の金属化合物を溶解させることでも金属化合物(b−1)を得ることもできる。これにより、複合化できる無機材料の種類を広げることができる。ここで用いることができる金属化合物としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化アンチモン(III)、水酸化アンチモン(V)、水酸化イリジウム(III)、水酸化イリジウム(IV)、水酸化金(III)、水酸化クロム(III)、水酸化コバルト(II)、水酸化スズ(II)、水酸化炭酸ニッケル(II)、水酸化タンタル(V)、水酸化ニオブ(V)、水酸化ニッケル(II)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ベリリウム等の金属水酸化物、酸化亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(V)、酸化ガリウム(I)、酸化金(III)、酸化水酸化金(III)、酸化水酸化鉛(II)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、酸化タングステン(VI) 、酸化チタン(IV)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、酸化ニオブ(V)、酸化バナジウム(III))、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化ビスマス(V)、酸化モリブデン(VI)、酸化ルテニウム(VIII)、酸化レニウム(VI)等の酸化物、炭酸亜鉛、炭酸鉛(II)、塩基性炭酸銅(II)等の炭酸化物を例示することができる。
【0027】
(珪酸アルカリ(b−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(b−2)は、例えば、珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。
【0028】
(粘土鉱物)
本発明で使用する粘土鉱物(b−3)は、水溶液(2)に溶解させて使用することから水に溶解性、膨潤性、分散性である必要がある。特にアルカリ金属イオン層間に持つ粘土鉱物であることが好ましく、中でも、該アルカリ金属がナトリウムである粘土鉱物は水に対する溶解性、膨潤性が高い上、安価であるため最も好ましく用いられる。これらの粘土鉱物は水中で膨潤または微分散し、その際にアルカリ性を示す。この粘土層間のアルカリ金属もまた芳香族ジカルボン酸ハライド(a)とジオール(c)との反応を促進する。粘土層間のアルカリ金属としてはNaである粘土鉱物(Na型粘土鉱物)が最も水に対する膨潤性が高いため好ましい。
【0029】
粘土構造として特に好ましいのはスメクタイト群が挙げられ、その中でもさらに具体的にはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等を例示することができる。これらに加え、バーミキュライト等を用いても良い。
【0030】
(水溶液(2)の溶媒)
前記化合物(B)は、水に溶解させ水溶液(2)として使用する。また、前記有機溶剤溶液との反応を相溶した状態で行う場合には、アセトンやテトラヒドロフラン、アセトニトリル等の極性有機溶剤を水溶液(2)の30質量%程度を上限にして混合し、溶解度を調節してもよい。また、水溶液(2)には反応を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、有機溶剤溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0031】
複数の無機成分(なお、本発明において「無機成分」とは、本発明の有機無機複合体の製造方法によって析出したアルカリ金属を含まない無機化合物を指す。また前記無機化合物(B)を原料として得た無機成分は「無機成分(B)」とする。)を有機無機複合体に含有させたい場合には、前記金属化合物(b−1)、前記珪酸アルカリ(b−2)、又は前記粘土鉱物(b−3)を併用しても良い。ただし該組み合わせによっては、水溶液(2)中で無機化合物(B)がゲル化したり析出したりする場合があり無機成分(B)を微粒子状態で複合化できなくなる場合があるので特にその組み合わせには注意を要する。
【0032】
また、前記水溶液(2)に、塩基性水溶液に溶解し且つ中性溶液では析出する金属化合物(b−4)を添加することにより、有機無機複合体の無機成分を多様化して更なる機能を付与できる方法がある。この方法は、ジオール(c)と芳香族ジカルボン酸ハライド(a)との反応に伴い、前記化合物(b−1)、(b−2)及び(b−3)のいずれか一種が消費されることにより、水溶液のpHが塩基性から中性に変化することを利用する。即ち、複合体合成反応初期では水溶液が塩基性であるために、金属化合物(b−4)は溶解状態のままであるが、有機無機複合化反応が進み水溶液が中性に近づくと、金属化合物(b−4)は析出する。このように金属化合物(b−4)は前記無機成分(B)とは異なり、原料と実質的に同一の組成で複合化される。従って得られる有機無機複合体は、ポリマーマトリックス中に無機成分(B)が均一に分散し、その最外表面の無機主成分上に金属化合物(b−4)が担持的に存在する構造を有する。
【0033】
このような金属化合物(b−4)として、好適に用いられる金属化合物を例示すると、リン酸リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属化合物、酸化タングステン(VI)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(II) 、水酸化コバルト(II) 、シュウ酸コバルト(II)、酸化ニオブ(II)、水酸化鉄(II)、酸化ニオブ(V)、酸化モリブデン(VI)、水酸化マンガン(II)、酸化金(III)、水酸化金(III)、ヨウ素酸銀(I)、炭酸銀(I)、酸化銀(I)、硫化銀(I)、酸化銅(I)、水酸化銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、酸化銅(II)、リン酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、酸化レニウム(VI)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ルテニウム(IV)等の遷移金属化合物、酸化スズ(II)、水酸化スズ(II)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化インジウム(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化ガリウム(III)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、リン酸鉛(II)、 水酸化鉛(II)等の典型金属化合物が挙げられる。これら金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
(水溶液の温度)
前記水溶液(2)の温度は前記の各種材料の溶解が問題なくできるのであれば特に限定されない。使用が容易である常温付近とするのが最も好ましい。
【0035】
(ジオール(c))
本発明で使用するジオール(c)としては、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール等の脂肪族ジオール類の2価の水酸基を持つグリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式脂肪族ジオールの他、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノールに加えてヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ナフタレンジオール、ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、テトラメチルビフェノール等の芳香族多価フェノールのエチレンオキサイド伸長物の含芳香族ジオール等を例示することができる。
【0036】
(ジオール(c)の溶液)
前記ジオール(c)は、有機溶剤溶液(1)に溶解させても、水溶液(2)に溶解させても良い。また両方に溶解させてもよい。本発明では無機成分を極力微粒化した状態で複合化させるために、無機成分の原料である無機化合物(B)を完全溶解状態、もしくは完全膨潤状態で反応場に添加することが好ましい。ジオール(c)を水溶液(2)に溶解させた場合、エチレングリコール等の短鎖グリコールは水溶性が高く、かつフェノール成分とは異なりプロトンを解離しないため珪酸アルカリ、アルミン酸アルカリ等の無機化合物(B)での無機析出反応を進行させることは無い。また、有機溶剤溶液(1)に溶解させた場合でも、アルコールと酸ハライドとは常温近傍ではアルカリ成分がない状況下では反応が進行しないため、溶解状態を維持することができる。
【0037】
ジオール(c)を有機溶剤溶液、水溶液のいずれに溶解させるかは、使用するジオール(c)の水及び有機溶剤への溶解性や、使用する無機原料のアルカリ強度の観点から適宜選定させる。一般には反応モノマー同士の接触性の観点から、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)とジオール(c)は共に、有機溶剤溶液(1)に溶解させた方が反応しやすい傾向にある。また、ジオール(c)と共に3官能上のポリオールを共存させてもよい。ポリオールとしては1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸、グリセリン、エリスリトール、ペンタエリトール、ジペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエタノールアミン等の脂肪族多価アルコールを用いても良い。
【0038】
(製造方法)
本発明の有機無機複合体の製造方法は、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、及び粘土鉱物(b−3)から成る群から選ばれる少なくとも1つの無機化合物(B)を含有する水溶液(2)と、前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)のいずれか片方又は両方にジオール(c)を含有させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが少なくとも一部相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させ、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と前記ジオール(c)とを反応させると同時に無機成分を析出させることを特徴とする。
【0039】
本発明での反応機構は以下の通りと推定される。ジオール(c)はその水酸基中のプロトンが無機化合物(B)が水溶した際に発生したアルカリ金属イオンと一部イオン交換し金属アルコキシドとなることで反応性を増す。この状態で芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と接触することにより、ジオール(c)由来のアルコキシドと芳香族酸ハライド(a)とが常温下でも反応することで半芳香族ポリエステルが生成する。
【0040】
この時、無機化合物(B)として、金属化合物、珪酸アルカリを用いた場合には無機原料中のアルカリ金属が除去されると同時に無機高分子化反応、例えば、珪酸アルカリを用いた場合は、シラノールの重縮合反応進行することにより、無機成分が析出し有機無機複合体が生成する。一方、無機化合物(B)として、アルカリ金属を層間に含有した粘土鉱物を用いた場合には、水溶時または水膨潤時に層同士の結合材料的に機能するアルカリ金属イオンの一部がアルコキシドとして除かれるため層同士が剥離した状態となる。この層周辺で半芳香族ポリエステルが合成されると、無機層は再凝集することができなくなるため、無機成分が良分散すると推定される。また、以上の反応に伴い、副生成物としてハロゲン化アルカリが発生するが、これらは合成系中の水や洗浄工程での水に溶解することで、合成系外に排出される。
【0041】
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを仕込めばよい。反応温度は常温近傍が好ましく具体的には0℃〜50℃の範囲が望ましい。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常30分以下の短時間で完結する。
【0042】
(製造装置)
本発明で用いる製造装置としては、有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフロ−ミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbaugmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、アンカー翼やマックスブレンド翼やファウドラー翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
【0043】
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の製造方法により得られる有機無機複合体の無機成分は、使用する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)又は粘土鉱物(b−3)により得られる形状、性質が異なるので、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、金属化合物(b−1)を用いた場合には、無機成分は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物類が得られる。これらの金属酸化物の原料であるアルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリは安価である。また珪酸アルカリ(b−2)を使用した場合には無機成分としてシリカが得られ、無機粒径の小さい有機無機複合体が得られる。また粘土鉱物(b−3)を使用した場合には、無機成分の形状が高アスペクト比であり、得られる有機無機複合体に様々な機能を付与することができる。また本発明の製造方法は、得られる無機成分の粒径が小さいことも特徴の1つであり、平均粒径が500nm以下、さらに好ましくは300nm以下、最も好ましくは5nm〜100nmの有機無機複合体を得ることができる。
【0044】
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機成分の含有率)
本発明で得られる有機無機複合体の、金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)又は粘土鉱物(b−3)に由来する無機成分は、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度、放熱特性等の特性を付与する。
従って、該無機成分の有機無機複合体全量100質量%に対する含有率は一定以上であることが好ましく、好ましくは10〜60質量%であり、更に好ましくは15〜60質量%であり、最も好ましくは30〜60質量%である。該含有率が多くなりすぎると、シ−ト化や積層板等への加工性、あるいは他の樹脂への混合性が損なわれる場合がある。
【実施例】
【0045】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお実施例中断りのない限り、「部」「%」は重量規準である。
実施例1〜3は、ジオール(c)を水溶液(2)に含有させた例であり、実施例4〜6は、ジオール(c)を有機溶剤溶液(1)に含有させた例である。
【0046】
(実施例1)
(エチレングリコール/アルミン酸ナトリウム/イソフタル酸クロリドの反応物の製造法)
アセトン52gを有機溶剤としてこれに、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)としてイソフタル酸クロライド6.70gを100cmビーカー中常温下でスターラーで攪拌溶解して、有機溶剤溶液(1−1)を得た。
次に、300cmの三口フラスコ中に、イオン交換水66gにエチレングリコール 2.05g、金属化合物(b−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の5.05gを入れ、常温下でアンカー翼により100rpmで10分間攪拌することにより透明淡黄色均一な水溶液(2−1)を得た。該水溶液を150rpmで攪拌しつつ、有機溶剤溶液(1−1)を10秒間かけて滴下した。有機溶剤溶液の滴下に伴い白色物が速やかに析出した。有機溶剤溶液の滴下が終了した時点で攪拌回転数を250rpmに上げ、室温下で30分間攪拌を継続することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。
【0047】
(複合体の洗浄、乾燥処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより淡黄色の粉末状の含液有機無機複合体を得た。この粉体をイオン交換水200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過した後。同様な洗浄、濾過をもう1回繰り返すことで含水有機無機複合体を得た。これを150℃で5時間熱風乾燥することにより、白色の反応物−1を得た。
【0048】
(実施例2)
(1,4−ブタンジオール/アルミン酸ナトリウム/テレフタル酸クロリドの反応物の製造法)
モノマー(a)としてテレフタル酸クロリド6.70gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−2)を得た。次にエチレングリコールの代わりに1,4−ブタンジオール2.98gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−2)を得た。これを実施例1と同様な方法で攪拌混合することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−2を得た。
【0049】
(実施例3)
(エチレングリコール/酸化亜鉛の水酸化ナトリウム水溶液(亜鉛酸ナトリウム水溶液)/イソフタル酸クロリドの反応物の製造法)
金属化合物(b−1)の水溶液として、水酸化ナトリウム38質量%水溶液20gに、酸化亜鉛4.0gを室温下で60分攪拌し完全に溶解させることで亜鉛酸ナトリウムの水溶液を得た。次に実施例1と同一の有機溶剤溶液(1−3)を用意した。
次にアルミン酸ナトリウムの代わりに、前記、亜鉛酸ナトリウムの水溶液2.09gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−3)を得た。これを実施例1と同様な方法で混合することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−3を得た。
【0050】
(実施例4)
(エチレングリコール/水ガラス3号/イソフタル酸クロリドの反応物の製造法)
アセトン52gを有機溶剤としてこれに、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)としてイソフタル酸クロライド6.70gと、ジオール(c)としてエチレングリコール2.05gを300cmの三口フラスコ中にいれ、アンカー翼により100rpmで10分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−4)を得た。次に、200cmのビーカーに中に水66gを入れた後、水ガラス3号22.6gを入れ10分間スターラーで攪拌することにより均一透明な水溶液(2−4)を得た。有機溶剤溶液(1−4)を150rpmで攪拌しつつ、水溶液(2−4)を10秒間かけて滴下した。水溶液の滴下に伴い白色物が速やかに析出した。水溶剤溶液の滴下が終了した時点で攪拌回転数を250rpmに上げ、室温下で30分間攪拌を継続することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。得られたスラリーを実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−4を得た。
【0051】
(実施例5)
(1,3−ベンゼンジメタノール/炭酸ジルコニウムカリウム/オルソフタル酸クロリドの反応物の製造法)
芳香族ジカルボン酸ハライド(a)としてオルソフタル酸クロリド6.70g、ジオール(c)として1,3−ベンゼンジメタノール4.56gを用いた以外は実施例4と同一の方法で有機溶剤溶液(1−5)を得た。金属化合物(b−1)として炭酸ジルコニウムカリウム水溶液のジルメル1000(日本軽金属株式会社)21.3gを用いた以外は実施例4と同様な方法で透明均一な水溶液(2−5)を得た。これらの2液を実施例4と同様な方法で混合することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−5を得た。
【0052】
(実施例6)
(エチレングリコール/粘土鉱物/イソフタル酸クロリドの反応物の製造法)
有機溶剤溶液(1−6)として、実施例4で用いたものと同一の有機溶剤溶液を調合した。次に、水溶液(2−6)として、水66gに粘土鉱物(b−3)として合成ヘクトライト(化学式Na0.33(Mg2.67Li0.33)Si410(OH)2 :コープケミカル株式会社製「ルーセンタイト SWN」)1.38gと水酸化ナトリウム2.84gを入れ常温下で15分間攪拌することにより、半透明均質透明な水溶液を得た。これらの2液を実施例4と同様な方法で混合することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−6を得た。
【0053】
(比較例)
(比較例1:実施例1の金属化合物(b−1)無し)
実施例1での水溶液(2)中にアルミン酸ナトリウム粉末を含まない以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とをアンカー翼を持つ撹拌容器内で混合した。実施例1の時とは異なり固体状の生成物は全く得られず洗浄工程は実施できなかったため、以降の測定に供することはできなかった。
【0054】
(比較例2:実施例1の芳香族ジカルボン酸ハライド(a)の脂肪族ジカルボン酸ハライドへの変更検討)
実施例1での有機溶剤溶液(1)中のイソフタル酸クロライド6.70gを、脂肪族カルボン酸ジハライドである塩化アジポイル6.10gに変更した以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とをアンカー翼を持つ撹拌容器内で混合した。実施例1の時とは異なり淡黄色の少量の生成物が発生した。生成物は攪拌を停止すると同時に沈降し、高比重であることが示唆された。本生成物を実施例1と同様な方法で洗浄した。
【0055】
比較例3に、半芳香族ポリエステルの代表であるポリエチレンテレフタレートに無機微粒子を直接溶融混練した際の、有機無機複合体の製造検討例を示す。
(比較例3:ポリエチレンテレフタレートと無機微粒子との溶融混練)
樹脂溶融混練装置である、ラボプラストミルCタイプ((株)東洋精機製作所)を用いて以下の条件で溶融混練法によりシリカ微粒子とポリエチレンテレフタレート樹脂を複合化する試験を行った。(加熱温度260℃、ミキサー回転数150rpm、混練時間10分、混合試験物:ポリエチレンテレフタレート樹脂35g、シリカ微粒子(日本アエロジェル製 品番#200、平均一次粒径12nm)15g。)本方法では無機微粒子の装置への導入が無機微粒子の飛散により困難であった上、溶融混練時におおきなトルク上昇が見られたが、白色の生成物を得た。生成物の一部には凝集したシリカが見られた。
【0056】
以上各実施例、比較例で得られた反応物を、以下の方法で測定を行った。
(測定1)無機化合物の含有率の測定法
得られた反応物を150℃2時間の熱風乾燥による絶乾後に精秤(複合体質量)し、これをマッフル炉を用い空気中、600℃で2時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により灰分含有率を算出した。
【0057】
【数1】

【0058】
実施例1〜6及び比較例3では一定量が焼失し有機成分と無機成分との複合化物であることが明らかとなった。実施例1〜6では焼成前の形状を焼成後も概ね維持し、均一な複合材料であることが示唆されたが、比較例3では焼成物はバラバラで原型をとどめなかった。一方、比較例2では90質量%以上が灰分含有率として残り、実質的に有機成分が生成していない、つまりポリマー合成が生じていないことが明らかとなった。従って比較例2については以降の評価を実施しなかった。
【0059】
(測定2)無機成分の検証
(蛍光X線での測定)
得られた反応物の粉末約1gを、開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料デ−タ(粉末、補正成分;セルロ−ス)を装置に与えることにより該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0060】
いずれの実施例で得られた反応物も、金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)に由来する無機元素(アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム、珪酸ナトリウム(水ガラス)の場合はケイ素、亜鉛酸ナトリウムの場合は亜鉛が検出された。また、粘土鉱物(b−3)を用いた場合には合成ヘクトライト由来のマグネシウム、ケイ素が検出された。従って、これらの実施例では目的とする無機化合物の複合化がされていることが示された。また、比較例3でも無機原料の微粒子シリカに対応する無機成分(ケイ素)が検出できた。
【0061】
一方、アルカリ金属元素は、実施例1〜6で得た反応物は痕跡程度しか検出されなかった。これは、金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、粘土鉱物(b−3)中のアルカリ金属化合物がモノマー中のハロゲン(塩素)と反応しハロゲン化アルカリ(NaCl、KCl)として洗浄工程中に系外に排出されたためであると考えられる。
【0062】
(測定3)ポリマー成分の検証
(フ−リエ変換型赤外分光分析:FT−IRの測定)
得られた反応物の粉末をKBr粉末と混合粉砕した試料を作製し、KBrディスク法によりFT−IR(日本分光(株)製FT/IR−550)による測定を行った。いずれの実施例でも1700cm−1のエステル結合を示す領域に非常に強い吸収ピークが見られた。また、1800cm−1に酸無水物由来の僅かなピークがみられた。これらのピーク強度比に関しては各実施例とも概ねエステル:酸無水=95:5であった。
酸無水物は、酸ハロゲン化物とアルカリ金属イオン成分とが反応しC−ONaが生成した後、これが他の酸ハロゲン化物と化合した副反応が由来であると予測される。しかしこれらの量は僅かであったため、本発明の方法により概ね設計通りのポリエステルが生成していることが確認できた。
【0063】
(測定4)透過型電子顕微鏡(TEM)用サンプルの作製
得られた反応物を、170℃、20MPaの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの反応物からなる薄片を得た。これを収束イオンビ−ム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片をエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍のTEM写真をベースにして無機粒径、形状の観察を行った。
また、同様に比較例3で得られた試料を250℃、10MPaの条件で2分間熱プレスを行い、厚さ約1mmの反応物からなる薄片を得た後、各実施例と同様な方法でTEM用サンプルを得た。
【0064】
(測定5)無機主成分の粒径測定
無機成分の粒径は、TEM写真より100個の粒径を測定し、その平均値を平均粒径とした。尚、粒子形状により粒径の測定方法を下記の通りに行った。
(粒子が略球状の場合):任意の1辺の長さをその粒子の粒径とした。無機成分がシリカ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛の場合、この方法で測定した。
(粒子が2以上のアスペクト比を持つ場合):粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値をその粒子の粒径とした。無機主成分が酸化アルミニウム、粘土鉱物の場合は、この方法で測定した。
【0065】
以下、表1に実施例1〜6の結果及び比較例3の測定結果をまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示したとおり、芳香族ジカルボン酸ハライド(a)とジオール(c)とを反応させ半芳香族ポリエステルを合成しつつ金属酸化物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、粘土鉱物(b−3)から選ばれる無機化合物(B)を原料とする無機成分の複合化を行うことで、有機無機複合体を製造することができた。得られた複合材料の無機粒径は何れも70nm以下と十分に小さい状態で、無機含有率を15〜53%と高くすることができた。さらに、無機原料の種類を変更することで多様な無機化合物を複合化することができた。
一方、比較例1は、半芳香族ポリエステルの重縮合反応を促進するアルカリ成分を供給する無機化合物(B)が系中に存在しない例であるが、半芳香族ポリエステルの重合反応は殆ど生じなかった。また、比較例2は脂肪族ジカルボン酸ハライドのみを使用した例であるが、有機ポリマーが実質的に生成しなかった。また、比較例3は半芳香族ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート樹脂にシリカ微粒子を溶融混練した例であるが、一次粒径が12nmの微粒子を用いたにも係わらず凝集をほどくことが出来ず、無機粒径の小さい分散物は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明で得られた有機無機複合体は加熱プレス等の処理で成型が可能であり、各種構造材料として使用することができる。また、得られた有機無機複合体を他の樹脂、特に類似構造を持つPET等の半芳香族ポリエステル類に溶融混練、添加することにより、該樹脂に対して本複合体中の無機成分による強度、弾性率、耐衝撃性、電子伝導性、帯電防止特性、ガスバリア特性等の性質を付与することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸ハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、
金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(b−1)、珪酸アルカリ(b−2)、及び粘土鉱物(b−3)から成る群から選ばれる少なくとも1つの無機化合物(B)を含有する水溶液(2)と、
前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)のいずれか片方又は両方にジオール(c)を含有させた状態で、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが少なくとも一部相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させ、前記芳香族ジカルボン酸ハライド(a)と前記ジオール(c)とを反応させると同時に無機成分を析出させることを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記金属化合物(b−1)が、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、及び炭酸ジルコニウムアルカリからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記無機成分の平均粒径が5nm〜100nmである請求項1又は2に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合体の製造方法により得た、100質量%中の無機成分の含有率が10〜60質量%である有機無機複合体。

【公開番号】特開2012−149207(P2012−149207A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10876(P2011−10876)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】