説明

有機無機複合体分散液の製造方法

【課題】粘土鉱物と高分子重合体が三次元網目を形成し、複合構造や粒径の制御が容易であり、且つ優れた皮膜形成能や基材との接着性を有する有機無機複合体粒子が水中で安定に分散した有機無機複合体の水分散液およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるモノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とが複合化した有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液。


(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは水素原子または炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー(a)の重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリウレタンなどの有機高分子を粘土と複合させることによりナノコンポジットと呼ばれる高分子複合体が調製されている。得られた高分子複合体はアスペクト比の大きい粘土層を微細に分散させていることから、弾性率、熱変形温度、ガス透過性、および燃焼速度などが効果的に改良されることが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
高分子複合体中に含まれる粘土鉱物量としては、性能強化の観点からは高い粘土鉱物含有量が望まれるが、より低い粘土鉱物量で効果的な性能強化が達成されることも重要である。これまでの研究では通常0.2〜5質量%が用いられ、0.1質量%以下の低無機含有高分子複合体や10質量%を超える高無機含有高分子複合体は用いられていない。これは無機含有率が低くなると性能向上の効果が無視されるほど小さくなり、一方、無機含有率が高くなると製造時の粘度増加が大きく、得られる複合体中での、粘土鉱物のナノスケールでの微細且つ均一な分散が達成できなかったり、或いは複合体が脆くなり力学物性(強度や伸び)が大きく低下したりするためである。
【0004】
このような問題に対し、優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、広い範囲の粘土鉱物含有率において粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散した有機無機複合ヒドロゲルが開示されており、該有機無機複合ヒドロゲルは水媒体中で水膨潤性粘土鉱物と重合開始剤の存在下にアクリルアミドやメタクリルアミドの誘導体、(メタ)アクリル酸エステルなどを重合させることにより、力学物性の良い高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、乾燥状態で優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)から得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなることを特徴とする高分子複合体が開示されており、該複合体は、水膨潤性粘土鉱物(B)と水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)と重合開始剤、更に必要に応じて触媒または/および有機架橋剤(C)を、水または水と有機溶媒との混合溶媒中に溶解または均一に分散させた後、(a)を重合させ、次いで乾燥させて溶媒を除去することにより、高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
更に、酸素の影響を受けにくく、短時間で有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法が開示されており、即ち、非水溶性の重合開始剤(d)を水媒体(c)中に分散させた反応溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(b)の共存下において、水溶性のアクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させることにより、力学物性の優れた有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法である(例えば特許文献4参照)。
上記に示す有機無機複合ヒドロゲル及び高分子複合体は、全てバルク体であり、製造過程においても、反応系全体がゲル化する工程を経て製造されている。
【0007】
一方、生化学や再生医療分野および自動車、建築などの工業分野においては、皮膜形成能に優れ、且つ基材との接着性にも優れた皮膜を形成することができる有機無機複合体の分散液(塗料)、または、細胞が前記皮膜に接着して培養し、培養終了後、温度低下などの外部刺激により、従来のタンパク加水分解酵素(例えばトリプシン)を使用することなく細胞が容易にシート状に剥離する性質や、また細胞が前記皮膜に接着することなく、浮遊状態で増殖する性質など、更に、タンパク質吸着を抑制する性質や防曇性、外部温度の変化による有機無機複合体分散液の透明度変化を利用した透過光の調節機能、などの機能性を付与できる有機無機複合体の分散液が求められている。しかしながら、上記の特許文献等においては、このような特性を満足する有機無機複合体の粒子が、水媒体中に分散している有機無機複合体分散液およびその製造方法に関する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2004−143212
【特許文献3】特開2005−232402
【特許文献4】特開2006−169314
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ピナバイアおよびベアル編(T.J.Pinnavaia and G. W.Beall Eds.)「ポリマークレイナノコンポジット」(Polymer-Clay Nano Composites ),ワイリー社(wiley)、2000年出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、有機無機複合体粒子が水中で安定に分散し、乾燥による皮膜形成能に優れ、且つ基材との間に優れた接着性を有し、更に、無機物と高分子重合体とが複合化して形成される有機無機複合体粒子の構造や、該粒子の粒径の制御が容易であり、広い範囲の粘土鉱物含有率において、その水分散液を簡便に短時間で製造できる有機無機複合体分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献1−4は、製造過程において反応系全体がゲル化する工程を経て有機無機複合ヒドロゲルや高分子複合体を製造する技術に関するものである。本発明者らは、これらの技術を基に、無機物の濃度や無機物と有機高分子の質量比を調整しながら、粒子状の有機無機複合体を水中で製造する方法を種々検討した。その結果、図1に示すように反応系全体がゲル化する領域のほかに、反応系のモノマー及び無機物の濃度が特定の範囲(図1中の式(2)及び式(3)で示す境界よりも下側の領域)になると反応系が全くゲル化せず、有機無機複合粒子の水分散液を製造できる領域が存在することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0013】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
で表されるモノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を、水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより、モノマー(a)の重合体Paと無機材料(B)からなる有機無機複合体粒子(Xa)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体(Xa)を含む水溶液に、水溶性モノマー(b)及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと有機無機複合体粒子(Xa)からなる有機無機複合体粒子(Xab)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法を提供するものである。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pa))との質量比((B)/(Pa))である。)
【0014】
また、本発明は、水溶性モノマー(b)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を、水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと無機材料(B)からなる有機無機複合体粒子(Xb)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体(Xb)を含む水溶液に、下記一般式(1)
【0015】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
で表されるモノマー(a)、及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより、モノマー(a)の重合体Paと有機無機複合体粒子(Xb)からなる有機無機複合体粒子(Xba)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法を提供するものである。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pb))との質量比((B)/(Pb))である。)
【0016】
また、本発明は、上記の有機無機複合体分散液を用いた調光機能を有する光学素子を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の有機無機複合体分散液を乾燥して得られる前記有機無機複合体の乾燥皮膜を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有するタンパク質吸着防止材を提供するものである。
【0020】
更に、本発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有す防曇材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、製造工程が少なく、高価な設備投資が不要で、簡便に短時間で有機無機複合体分散液を製造できる。また、本発明の製造方法で製造された有機無機複合体は、無機物をナノメーターレベルで微細且つ均一に、しかも広い濃度範囲で含有することができ、良好な安定性と皮膜形成能を有し、得られた皮膜は、高い透明性と、良好な弾性率と柔軟性、屈曲性を有する。大気中で安定して用いられるばかりでなく、水中でも膨潤せず優れた力学物性を示す特徴を有する。本発明の有機無機複合体分散液から得られた皮膜は、特に細胞培養性(細胞の接着培養と温度低下による細胞の自然剥離、及び細胞の浮遊状態での培養性)や防曇性、タンパク吸着抑制能及び調光機能に優れるため、再生医療や生化学用の細胞培養用材料、低タンパク吸着基材(例えばろ過材、遠沈管などのプラスチック製容器類)、自動車や住宅などに利用可能な防曇性材料、調光機能を有する光学素子、更に、透明性、伸縮性に優れるため各種工業材料、医療用具などの表面改質剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一般式(2)と(3)を満足する有機無機複合体分散液の形成可能な領域を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で用いるモノマー(a)は、その重合体が無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体粒子を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールやポリエチレングリコールエステル系モノマーが好ましく用いられ、特に好ましくは下記一般式(1)のモノマー(a)が用いられる。
【0024】
【化3】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは水素原子または炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
【0025】
モノマー(a)の使用により、得られる有機無機複合体粒子の粒径制御や、無機材料(B)と重合体の複合構造の制御が容易であり、分散液の安定性や皮膜の形成能、ならびに支持体との接着性がよく、皮膜厚みの制御幅が広く、より平滑な皮膜が得られる。また、LCST(下限臨界溶解温度)を有する重合体Pbを用いた場合、モノマー(a)の濃度を変えることにより、得られる複合体XabまたはXba分散液のLCSTを幅広く調製することができる。上記のモノマー(a)は、要求される力学物性や表面性質などにより、二種以上を混合して使用してもよい。一般式(1)で表されるモノマー(a)の中でも、nが1〜3である化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸2メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2エトキシエチル、(メタ)メチルカルビトールアクリレート、(メタ)エチルカルビトールアクリレート、(メタ)メトキシトリエチレングリコールアクリレート、(メタ)エトキシトリエチレングリコールアクリレートがより好ましく、(メタ)アクリル酸2メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2エトキシエチルが特に好ましい。
【0026】
本発明に用いる無機材料(B)は、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料である。水膨潤性粘土鉱物としては、層状に剥離可能な膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0027】
本発明に用いるシリカ(SiO)としては、コロイダルシリカが挙げられ、好ましくは水溶液中で均一に分散可能で、粒径が10nm〜500nmのコロイダルシリカ、特に好ましくは粒径が10〜50nmのコロイダルシリカが用いられる。
【0028】
無機材料(B)の使用により、分散液の安定性や皮膜の形成能がよく、優れた細胞接着性と増殖能を有する乾燥皮膜が得られる。
【0029】
本発明に用いられる重合開始剤(D)としては、公知のラジカル重合開始剤を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)の他、Fe2+と過酸化水素との混合物などが例示される。
【0030】
触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどは好ましく用いられる。但し、触媒は必ずしも用いなくてもよい。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて例えば0℃〜100℃が用いられる。重合時間も数十秒〜数十時間の間で行うことが出来る。
【0031】
一方、光重合開始剤は、酸素阻害の影響を受けにくく、重合速度が速いため、好適に用いられる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0032】
前記光重合開始剤は非水溶性のものである。ここで言う非水溶性とは、重合開始剤の水に対する溶解量が0.5質量%以下であることを意味する。非水溶性の重合開始剤を使用することにより、開始剤がより無機材料(B)の近傍に存在しやすく、無機材料(B)近傍からの開始反応点が多くなり、得られる有機無機複合体の粒径分布が狭く、分散液の安定性が高く、好ましい。
【0033】
前記光重合開始剤を水媒体(C)と相溶する溶媒(F)に溶解させた溶液を前記水媒体(C)中に添加することが好ましい。この方法によって光重合開始剤がより均一に分散でき、より粒径の揃った複合体粒子が得られる。
【0034】
本発明の溶媒(F)としては、非水溶性の光重合開始剤を溶解できる水溶性の溶剤、または前記一般式(1)で表されるモノマー(a)やその他の水溶性のアクリル系モノマー(a’)を用いることができる。水溶性溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶剤を混合して用いても良い。
【0035】
また、溶媒(F)として用いることのできる前記一般式(1)で表されるモノマー(a)または水溶性のアクリル系モノマー(a’)としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレートのようなポリプロピレングリコールジアクリレート類、ポリエチレングリコールジアクリレート類、ペンタプロピレングリコールアクリレートのようなポリプロピレングリコールアクリレート類、ポリエチレングリコールアクリレート類、メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートのようなメキシポリエチレングリコールアクリレート類、ノニルフェノキシポリエチレングリコ−ルアクリレート類、ジメチルアクリルアミドのようなN置換アクリルアミド類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、などが挙げられる。これらのアクリル系モノマーは、二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
ここで言う水溶性を有する溶剤とは、水100gに対し50g以上溶解できる溶剤であることが好ましい。この範囲であれば、非水溶性の光重合開始剤(D)の水媒体(C)への分散性が良好であり、得られる有機無機複合体粒子の粒径が揃い易く、分散液の安定性が良好である。
【0037】
非水溶性光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液中における光重合開始剤(D)と溶媒(F)の質量比(D)/(F)は、0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.05が更に好ましい。0.001以上であると、エネルギー線の照射によるラジカルの発生量が十分に得られるため好適に重合反応を進行させることができ、0.1以下であれば、開始剤による発色や、臭気を実質的に生じることがなく、またコストの低減が可能である。
【0038】
以上のアクリル系モノマー(a’)および水溶性を有する溶剤のいずれの場合においても、光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液の添加量が、モノマー(a)、無機材料(B)、水媒体(C)、重合開始剤(D)及び溶媒(F)の総質量に対し、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%であることが更に好ましい。該分散量が0.1質量%以上であると、重合が十分に開始され、5質量%未満であると、複合体粒子(X)中の重合開始剤の増加による臭気の発生、更には一旦分散された光重合開始剤が再び凝集する等の問題を低減でき、均一な有機無機複合体分散液を得ることができるため好ましい。
【0039】
本発明の製造方法に用いる水媒体(C)は、モノマー(a)や無機材料(B)などを含むことができ、物性のよい有機無機複合体分散液が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、たんぱく質、糖類、アミノ酸類、細胞、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
【0040】
本発明で用いるモノマー(b)は、その重合体Pbが無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体粒子を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有するアクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有するアクリル系モノマー、糖残基を有するアクリル系モノマー、また、水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコールジアクリレート、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが好ましく用いられ、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体が特に好ましい。
【0041】
モノマー(b)の使用により、得られる有機無機複合体分散液が基材、特に疎水性基材に対する濡れ性がよく、より薄く、平滑性が高く、品質のよい塗膜が得られ、細胞の浮遊状態での培養性がよく(細胞低接着性)、タンパク吸着の抑制能が高く、また、外部刺激(温度低下)による細胞の自然剥離性の優れた皮膜が得られ、更に調光機能や防曇性を有する皮膜が得られる。
【0042】
次いで、本発明の製造方法について説明する。
【0043】
本発明の有機無機複合体分散液は、下記第1の方法で製造することができる。
【0044】
即ち、前記モノマー(a)、前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を前記水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより前記有機無機複合体粒子(Xa)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体粒子(Xa)を含む水溶液に、水溶性モノマー(b)及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと有機無機複合体粒子(Xa)からなる有機無機複合体粒子(Xab)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法である。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pa))との質量比((B)/(Pa))である。)
【0045】
また、本発明の有機無機複合体分散液は、下記第2の方法でも製造することができる。
【0046】
即ち、前記モノマー(b)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を、水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと無機材料(B)からなる有機無機複合体粒子(Xb)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体粒子(Xb)を含む水溶液に、下記一般式(1)
【0047】
【化4】

【0048】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
で表されるモノマー(a)、及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより、モノマー(a)の重合体Paと有機無機複合体粒子(Xb)からなる有機無機複合体粒子(Xba)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法である。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pb))との質量比((B)/(Pb))である。)
【0049】
無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)は式(2)又は式(3)で表される範囲であることが本発明の有機無機複合体分散液製造の最大の特徴である。無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)が上記範囲以上になると、重合により反応系全体のゲル化が起きたり、分散液が不均一になったりするため、良好な有機無機複合体分散液の製造ができない。
【0050】
上記第1の方法、第2の方法いずれにおいても、第1工程においては、重合体Pa(またはPb)と無機材料(B)が三次元網目を形成し且つ均一に複合化した構造を有する複合体粒子(XaまたはXb)を形成し、更に、第2工程では、添加されたモノマー(bまたはa)が複合体粒子(XaまたはXb)の内部及び表面の、まだ重合体Pa(またはPb)と相互作用していない無機材料の表面近傍に局在し、重合により、複合体粒子XabまたはXbaが形成される。
【0051】
なお、第2工程においても第1工程と同様に、水媒体(C)中の水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることが好ましい。この範囲であれば、有機無機複合体粒子が水中で安定に分散した分散液を創造することが容易である。
【0052】
第1の方法における第2工程の式(2)及び式(3)は以下の通りである。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第2工程で製造される重合体(Pb))との質量比((B)/(Pb))である。)
【0053】
第2の方法における第2工程の式(2)及び式(3)は以下の通りである。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第2工程で製造される重合体(Pa))との質量比((B)/(Pa))である。)
【0054】
前記光重合開始剤を用いた場合の重合方法としては、エネルギー線照射が挙げられ、例えば、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができる。中でも装置や取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製およびエネルギー線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
【0055】
本発明のモノマー(a)、無機材料(B)及び非水溶性の重合開始剤(D)、及び水媒体(C)を含む分散液(E)のエネルギー線照射による重合方法は任意である。例えば、容器中で分散液(E)を攪拌及び/または超音波振動を与えながら、エネルギー線を照射して重合させる非連続の製造方法や、分散液(E)を透明な管(マイクロ流路を含む)の中を流れながらエネルギー線を照射して重合させる連続の製造方法が挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法で製造される有機無機複合体分散液は、そのまま塗料として使用してもよいし、水洗などによる精製工程を経てから使用してもよい。また塗布性や乾燥皮膜の表面平滑性、細胞培養性/剥離性、細胞接着性、タンパク吸着の抑制能、調光性能、防曇性などの機能性を付与する目的に、該有機無機複合体分散液に更にレベリング剤や界面活性剤、高分子化合物、ペプチド、たんぱく質、コラーゲンなどを添加して使用してもよい。
【0057】
LCSTを有する重合体Pbを使用することにより、本発明の有機無機複合体分散液をそのまま調光機能を有する光学素子として使用することができる。例えば、自然の太陽光が当たることにより、分散液の温度がLCST以上に上昇し、分散液が白濁し、自然光線を遮断し、また、太陽光が当たらなくなると、周囲温度がLCST以下に下がると、分散液が透明に変わり、自然光線が透過できるようになる。分散液のLCSTは、重合体PaとPbの比率により零下20℃から50℃の間で幅広く調節することができる。
【0058】
また、本発明の有機無機複合体分散液を支持体上に塗布して乾燥皮膜とすることにより積層体を製造することができる。支持体上に塗布する際には、特定の形状のパターン状に塗布することが、良好な細胞培養性と優れた細胞剥離回収性を有するため好ましい。有機無機複合体分散液を支持体にパターン状に塗布する方法としては、模様のある版に分散液をつけてから支持体に転写する印刷方法、または支持体に塗布しない部分を予め遮蔽して塗布後遮蔽部分を取り除くパターン状塗布や、インクジェットプリンター方式による分散液の塗布方法などが挙げられる。
【0059】
また、幅と深さが数十〜数百μmを有する凹凸構造の表面を、細胞に対し非常に弱い接着または非接着性を持つ皮膜を形成させることにより、凹の部分に細胞をスフェロイド(球)状に培養することができる。
【0060】
上記乾燥皮膜を細胞培養基材とした場合の最大の特徴は、前記重合体Paの構成部分が支持体との間の接着性を担い、また、重合体Paと無機材料(B)の構成部分が細胞の初期接着と増殖を担い、重合体Pbは細胞の初期接着性と細胞の剥離性を担い、この三つの部分を細胞の種類や用途に応じてそれぞれ(重合体の種類や配合量を)単独に制御できることにある。例えば、細胞の初期接着性を最小限に抑えるには(浮遊培養基材)、LCSTを有さず、なるべく親水性の高い重合体Pbを選べば良く、一方、細胞の初期接着を有し、培養後の細胞を容易に剥離させたい場合は、LCSTを有する重合体Pbを選ぶと良い。例えば、培養時、培養温度(37℃)がポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのLCST(32℃)より高いため、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが水不溶(疎水性)状態になり、細胞が基材の表面で増殖するが、温度を32℃以下に下げると(例えば20℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが水溶性になり基材表面から水溶液へと伸展し、それに伴い細胞が基材表面から脱離しながら剥離していく。
【0061】
LCSTを有しない高親水性の重合体の例としては、例えばポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの重合体、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有するアクリル系モノマーの重合体、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有するアクリル系モノマーの重合体、N,N−ジメチルアクリルアミドの重合体、N,N−ジメチルアクリルアミドとポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとの共重合体、アクリロイルモルホリンの重合体などが挙げられる。
【0062】
一方、LCSTを有する重合体の例としては、例えばN−イソプロピルアクリルアミドの重合体、アクリル酸2メトキシエチルとN,N−ジメチルアクリルアミドの共重合体、などが挙げられる。
【0063】
更に、上記乾燥皮膜をタンパク吸着抑制材とした場合は、細胞非接着性基材の場合と同様に、なるべく親水性が高く、非イオン性またはタンパクと同じイオンを持つ重合体Pbを選び、配合量もなるべく多い方が好ましい。一方、皮膜が接着しにくい支持体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート)については、タンパク吸着抑制能に影響しない程度に、なるべく重合体Paの配合量を多くし、支持体との接着性が向上し、好ましい。
【0064】
上記乾燥皮膜を防曇材料とした場合は、上記タンパク吸着抑制材の場合に準じて、それぞれの重合体Pa、Pb及び無機物(B)を選ぶとよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0066】
本発明者らは、無機物の濃度や無機物と有機高分子の質量比を調整しながら、粒子状の有機無機複合体を水中で製造する方法を種々検討した。その結果、図1に示すように反応系全体がゲル化する領域のほかに、反応系のモノマー及び無機物の濃度が特定の範囲(図1中の式(2)及び式(3)で示す境界よりも下側の領域)になると反応系が全くゲル化せず、有機無機複合粒子の水分散液を製造できる領域が存在することを見出した。
【0067】
図1中の各プロットは、以下の参考例1〜8、実施例1、2、3、4、11、12、13、比較例1である。参考例と比較例はゲル化する領域に位置し、実施例はゲル化しない領域に位置する。これからも判るように式(2)、式(3)を境にゲル化する領域と粒子化する領域とが分かれている。
【0068】
(参考例1)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.8g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.018g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(S11)を調製した。
上記反応液(S11)を室温で15時間攪拌したところ、部分的に大きなゲル状塊が形成した不均一な分散液になった。この不均一な分散液をそのまま長時間攪拌しても大きなゲル状塊の溶解や分散はしなかった。
この反応系のRa=0.01、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.18>12.4Ra+0.05=0.17
【0069】
(参考例2)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.7g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.05g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(S12)を調製した。
上記反応液(S12)を室温で15時間攪拌したところ、部分的に大きなゲル状塊が形成した不均一な分散液になった。この不均一な分散液をそのまま長時間攪拌しても大きなゲル状塊の溶解や分散はしなかった。
この反応系のRa=0.03、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.50>12.4Ra+0.05=0.42
【0070】
(参考例3)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.08g以外は、上記参考例2と同様にして反応液(S13)を調製した。
上記反応液(S13)を室温で15時間攪拌したところ、ほぼ全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.06、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.79=12.4Ra+0.05=0.79
【0071】
(参考例4)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.16g以外は、上記参考例2と同様にして反応液(S14)を調製した。
上記反応液(S14)を室温で15時間攪拌したところ、ほぼ全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.125、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=1.60=12.4Ra+0.05=1.60
【0072】
(参考例5)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.24g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S15)を調製した。
上記反応液(S15)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液(S15)全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.19、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=2.34%=0.87Ra+2.17=2.34
【0073】
(参考例6)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.22g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.40g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S16)を調製した。
上記反応液(S16)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液(S16)全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=1.82、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=3.85%>0.87Ra+2.17=3.75
【0074】
(参考例7)
[モノマー(b)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(b)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)3.2g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.16g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S17)を調製した。
上記反応液(S17)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液(S17)全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.05、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=1.57>12.4Ra+0.05=0.67
【0075】
(参考例8)
[モノマー(b)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(b)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.64g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.64g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S18)を調製した。
上記反応液(S18)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液(S18)全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=1.0、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=6.02>0.87Ra+2.17=3.04
【0076】
(実施例1)
[光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液(G)の調整]
溶媒(F)として、エタノール9.8g、非水溶性の光重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(G1)を調製した。
【0077】
[モノマー(a)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.064g、無機材料(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.02g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E1)を調整した。
【0078】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E1)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xa1の分散液(EMLa1)を作製した。
この反応系のRa=0.31、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<0.87Ra+2.17=2.44
【0079】
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa1)に、モノマー(b)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)0.226g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、該混合液を20℃に冷やした後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xab1の分散液(EMLab1)を作製した。
【0080】
この反応系のRa=0.09、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=1.17
【0081】
上記有機無機複合体Xab1の分散液(EMLab1)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は60nmであった。
上記分散液(EMLab1)を水槽に入れ、水槽の温度を室温から1℃/3分の昇温速度で昇温しながら、分散液の白濁開始温度(LCST)を測定したところ、該分散液(EMLab1)のLCSTは約32℃であった。
【0082】
(実施例2)
[モノマー(b)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(b)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)0.226g、無機材料(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.02g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E2)を調製した。
【0083】
[有機無機複合複合体Xbの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E2)を20℃に冷やした後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xb2の分散液(EMLb2)を作製した。
この反応系のRa=0.09、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=1.17
【0084】
[有機無機複合複合体Xbaの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLb2)に、モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.013g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、該混合液を10℃に冷やした後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xba2の分散液(EMLba2)を作製した。
この反応系のRa=1.54、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<0.87Ra+2.17=3.51
【0085】
上記有機無機複合体Xba2の分散液(EMLba2)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は40nmであった。
上記分散液(EMLba2)を水槽に入れ、水槽の温度を15℃から1℃/3分の昇温速度で昇温しながら、分散液の白濁開始温度(LCST)を測定したところ、該分散液(EMLba2)のLCSTは約26℃であった。
【0086】
(実施例3)
[有機無機複合複合体Xbaの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLb2)に、モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.064g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、該混合液を10℃に冷やした後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xba3の分散液(EMLba3)を作製した。
この反応系のRa=0.31、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<0.87Ra+2.17=2.44
【0087】
上記有機無機複合体Xba3の分散液(EMLba3)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は50nmであった。
上記分散液(EMLba3)を水槽に入れ、水槽の温度を15℃から1℃/3分の昇温速度で昇温しながら、分散液の白濁開始温度(LCST)を測定したところ、該分散液(EMLba2)のLCSTは約12℃であった。
【0088】
上記実施例1、3より、有機無機複合体の形成順番が違うと、分散液のLCSTが異なることが理解できる。
また上記実施例2、3より、複合体の形成順番が同じで、同じ量の重合体Pbに対し重合体Paの配合量が増えるにつれ、分散液のLCSTが低下することが理解できる。
【0089】
(実施例4)
[モノマー(a)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.128g、無機材料(B)としてスノーテックス20(20重量%のコロイダルシリカ水溶液、日産化学工業株式会社製)0.1g(固形分0.02g)、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E4)を調製した。
【0090】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E4)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xa4の分散液(EMLa4)を作製した。
この反応系のRa=0.16、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=2.03
【0091】
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa4)に、モノマー(b)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.235g、及びポリエチレングリコールアクリレート(AM130G、新中村化学工業株式会社製)0.082g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、淡い乳白色を呈する有機無機複合体Xab4の分散液(EMLab4)を作製した。
この反応系のRa=0.06、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=12.5
上記有機無機複合体Xab4の分散液(EMLab4)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は70nmであった。
【0092】
本実施例の重合体PbがLCSTを有しないため、分散液(EMLab4)もLCSTを示さなかった。
【0093】
(実施例5)
[モノマー(a)、無機材料(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.128g、無機材料(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.02g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(E5)を調製した。
【0094】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E5)を室温で15時間攪拌し、やや乳白色を呈する有機無機複合体Xa5の分散液(EMLa5)を作製した。
この反応系のRa=0.16、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=2.03
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa5)に、モノマー(b)としてN、N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.248g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、を均一に混合し、十分脱気した後、室温で15時間攪拌し、やや乳白色を呈する有機無機複合体Xab5の分散液(EMLab5)を作製した。
この反応系のRa=0.08、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=1.04
【0095】
上記有機無機複合体Xab5の分散液(EMLab5)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は80nmであった。
本実施例の重合体PbがLCSTを有しないため、分散液(EMLab5)もLCSTを示さなかった。
【0096】
(実施例6)
この実施例はLCSTを有する分散液を光学素子に応用した例を示すものである。
【0097】
長さ100×100mm、厚さ2mmの板状並みガラス、及びスペーサとして長さ100mm、幅5mm、厚さ2mmの並みガラスを用いてペアガラス状の疑似窓を作製し、上記実施例1の分散液(EMLab1)を板ガラス間に流し込み、密封して、調光機能を有する光学素子を作製した。
【0098】
この光学素子を用い、可視光の透過率を測定したところ、透過率は約96%であった。一方、この光学素子を40℃の温水に入れ、数秒後ガラス全体が白濁になり、可視光の透過率を測定したところ、透過率はほぼ0%であった。
【0099】
更に、この光学素子を窓際に置いて、日光を当てたところ、ガラス全体が徐々に白濁することが観察された。
【0100】
以上の実施例より、この光学素子に日光を当てることにより、内部の分散液の温度が徐々に上昇し、LCSTを達すると、ガラス全体が白濁し、日光を遮断する機能を有することが理解できる。
【0101】
(実施例7)
この実施例はLCSTを有する分散液からなる乾燥皮膜を培養基材としての応用例を示すものである。
【0102】
実施例1の分散液(EMLab1)を、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)に厚み50μmになるように流延し、80℃、20分乾燥した後、滅菌水でシャーレを洗浄し、滅菌袋中でシャーレを乾燥して、細胞培養基材(7)を得た。この培養基材7を目視で観察したところ、塗布前と同等な透明度を有し、乾燥皮膜が高い透明度を有することが分かる。
【0103】
[正常ヒト真皮線維芽細胞の培養及び剥離]
上記得られた細胞培養基材7に、CS-C complete medium(Cell Systems社製培地)を適量入れ、正常ヒト真皮線維芽細胞を播種して(播種濃度は1.2×10個/cm)、5%二酸化炭素中、37℃で培養を行った。細胞がシャーレ一面に増殖したのを確認して、その(37℃の)培地を吸い取り、4℃の培地を入れ、約5分間静置させたところ、シャーレの周辺から細胞の剥離が見られ、そのまま観察し続けたところ、細胞の剥離速度がだんだん速くなり、約15分間でほぼ全ての細胞が一枚のシート状に剥離したことが観察された。
【0104】
一方、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)を用いて、同様な細胞培養を行ったところ、細胞がシャーレ表面に強く接着し、4℃の培地を交換しても、全く細胞の剥離が起きなかった。
【0105】
以上の実施例7より、LCSTを有する分散液からなる乾燥皮膜を培養基材として使用した場合、37℃では、良好な細胞培養性を示し、また、温度をLCST以下に下げることにより、細胞がシート状に容易に剥離できることが理解できる。
【0106】
(実施例8)
この実施例はLCSTを有しない分散液からなる乾燥皮膜を培養基材としての応用例を示すものである。
【0107】
実施例4の分散液(EMLab4)を、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)に厚み50μmになるように流延し、80℃、20分乾燥した後、滅菌水でシャーレを洗浄し、滅菌袋中でシャーレを乾燥して、細胞培養基材(8)を得た。この培養基材8を目視で観察したところ、塗布前と同等な透明度を有し、乾燥皮膜が高い透明度を有することが分かる。
【0108】
[マウスマクロファージ細胞(J744.1)の浮遊培養]
上記得られた細胞培養基材8に、10%牛血清を添加したDMEM培地(バイオウエスト社製)を適量入れ、マウスマクロファージ細胞(J744.1)を播種して(播種濃度は2×10個/35mmシャーレ)、5%二酸化炭素中、37℃で3日間培養を行った。次いで、シャーレ中の培地及び浮遊している細胞を吸い取り、PBSバッファーで3回リンスした後、顕微鏡でシャーレ表面に細胞接着の有無を確認したところ、細胞は全くPBSバッファーで洗い流され、シャーレ表面には接着した細胞は観察されなかった。
一方、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)を用いて、同様な培養試験を行ったところ、マウスマクロファージ細胞がほぼ全てシャーレに接着していた。
以上の実施例より、この培養基材8は、細胞がシャーレ表面に接着せず、浮遊状態で培養されていることが理解できる。
【0109】
(実施例9)
この実施例はLCSTを有しない分散液からなる乾燥皮膜をタンパク質吸着防止材としての応用例を示すものである。
【0110】
[タンパク質吸着試験]
上記実施例8で作製された細胞培養基材8に、濃度0.2μg/mlの免疫グロブリンG(IgG)水溶液を1ml入れ、室温3時間静置し、IgGの吸着を行う。次いで、シャーレ中のIgG水溶液を吸い取り、PBSバッファーで3回リンスした後、1mlのTMB発色剤(KPL社製)を入れ、2分間静置して、更に1Nの塩酸を1ml入れた(シャーレ表面にタンパク質が残ると発色)。この溶液を、紫外可視分光光度計(日立株式会社製)を用いて、450nmでの吸光度を測定して、タンパク質の吸着度合いを評価した。その結果、吸光度は0.2であった。
一方、35mmポリスチレン製シャーレ(コード1000−035、AGCテクノグラス株式会社製)を用い、同様なタンパク質吸着試験を行ったところ、吸光度は2.0であった。
【0111】
以上の実施例9より、分散液(EMLab4)からなる乾燥皮膜をPSシャーレの表面に形成させることにより、タンパク質吸着が大きく抑制されたことが理解できる。
【0112】
(実施例10)
この実施例はLCSTを有する分散液からなる乾燥皮膜を防曇材料としての応用例を示すものである。
【0113】
実施例1の分散液(EMLab1)をガラス板に厚み約150μmになるように塗布し、80℃、60分乾燥させて、防曇性塗膜10を調製した。乾燥後の有機無機複合体(Xab1)の乾燥皮膜の厚みは約5μmであった。
【0114】
この塗膜にカッターナイフを用いて、1×1mm四方の碁盤目の切り傷を入れた後、碁盤目を入れた所にセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で急速に引き剥がし、碁盤目の状態を観察したところ、塗膜は全く剥離せず、基材との接着性が良好であることが確認された。
【0115】
また、この防曇性塗膜10を50℃の水から発生した水蒸気に約1分間暴露したところ(塗膜と水面間の距離が約5cm)、塗膜は全く曇らなかった。
更に、この防曇性塗膜を50℃の水に24時間浸漬した後、室温で乾燥させて、再び上記の水蒸気に約1分間暴露させたところ、塗膜は全く曇らなかった。
【0116】
この実施例より、親水性重合体を含有する有機無機複合体(Xab1)の塗膜が、基材との接着性が良好で、防曇性を有し、熱水洗浄しても、その防曇性が維持されていることがわかる。
【0117】
(実施例11)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.3g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.04g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E11)を調製した。
【0118】
<有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)>
上記反応液(E11)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、白色を呈する有機無機複合体Xa11の分散液(EMLa11)を作製した。
この反応系のRa=0.03、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.40(%)<12.4Ra+0.05=0.42
【0119】
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa11)に、モノマー(b)としてアクリロイルモルホリン(株式会社興人製)0.282g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、乳白色を呈する有機無機複合体Xab11の分散液(EMLab11)を作製した。
この反応系のRa=0.14、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.40(%)<12.4Ra+0.05=1.79
【0120】
上記有機無機複合体Xab11の分散液(EMLab11)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は180nmであった。
本実施例の重合体PbがLCSTを有しないため、分散液(EMLab5)もLCSTを示さなかった。
【0121】
(実施例12)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.0g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E12)を調製した。
【0122】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E12)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、乳白色を呈する有機無機複合体Xa12の分散液(EMLa12)を作製した。
【0123】
この反応系のRa=0.20、無機材料(B)の濃度(質量%)=1.96(%)<0.87Ra+2.17=2.34
【0124】
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa12)に、モノマー(b)としてノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(ニューフロンティアN−177E、第一工業製薬株式会社製)0.204g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、乳白色を呈する有機無機複合体Xab12の分散液(EMLab12)を作製した。
この反応系のRa=0.98、無機材料(B)の濃度(質量%)=1.96(%)<0.87Ra+2.17=3.02
【0125】
上記有機無機複合体Xab12の分散液(EMLab12)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は90nmであった。
【0126】
(実施例13)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)0.18g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.32g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E13)を調製した。
【0127】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E13)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、乳白色を呈する有機無機複合体Xa13の分散液(EMLa13)を作製した。
【0128】
この反応系のRa=1.8、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=3.10(%)<0.87Ra+2.17=3.74
【0129】
[有機無機複合複合体Xabの分散液の作製(第2工程)]
上記分散液(EMLa13)に、モノマー(b)として2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)0.232g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、を均一に混合し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、乳白色を呈する有機無機複合体Xab13の分散液(EMLab13)を作製した。
この反応系のRa=1.4、無機材料(B)の濃度(質量%)=3.10(%)<0.87Ra+2.17=3.39
【0130】
上記有機無機複合体Xab13の分散液(EMLab13)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は80nmであった。
【0131】
(比較例1)
[モノマー(a)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリル酸2メトキシエチル(東亞合成株式会社製)1.28g、無機材料(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.16g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E1’)を調製した。
【0132】
[有機無機複合複合体Xaの分散液の作製(第1工程)]
上記反応液(E1’)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体が完全にゲル化してしまった。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.125、無機材料(B)の濃度(質量%)=1.60(%)=12.4Ra+0.05=1.60
【0133】
上記実施例及び比較例から、本発明の有機無機複合体分散液は、粒径制御が容易で、分散液の安定性がよく、プラスチックやガラスなど基材との接着性が良好である。また、この複合体分散液を乾燥させて得た乾燥皮膜は、高い透明性を持ち、優れた細胞培養機能や低タンパク吸着性、生態適合性、防曇性を有している。更に、製造方法によれば酸素を除去することなく極短時間で、広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物と有機高分子が異なる構造で複合することができ、優れた分散安定性や皮膜形成能を示す有機無機複合体分散液を製造できることが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
で表されるモノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を、水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより、モノマー(a)の重合体Paと無機材料(B)からなる有機無機複合体粒子(Xa)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体粒子(Xa)を含む水溶液に、水溶性モノマー(b)及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと有機無機複合体粒子(Xa)からなる有機無機複合体粒子(Xab)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pa))との質量比((B)/(Pa))である。)
【請求項2】
水溶性モノマー(b)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を、水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(b)を重合させることにより、モノマー(b)の重合体Pbと無機材料(B)からなる有機無機複合体粒子(Xb)を形成する第1工程、
前記有機無機複合体粒子(Xb)を含む水溶液に、下記一般式(1)
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9である。)
で表されるモノマー(a)、及び重合開始剤(D)を均一に混合させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより、モノマー(a)の重合体Paと有機無機複合体粒子(Xb)からなる有機無機複合体粒子(Xba)を形成する第2工程を含み、
前記第1工程において、前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(2)又は式(3)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(第1工程で製造される重合体(Pb))との質量比((B)/(Pb))である。)
【請求項3】
前記モノマー(a)が、(メタ)アクリル酸2メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2エトキシエチル、メチルカルビトール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート又はエトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートである請求項1〜2のいずれかに記載の有機無機複合体分散液の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性モノマー(b)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、スルホン基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを有する(メタ)アクリル系モノマー、アミノ酸残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、糖残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、及び水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーの中から選ばれる1種以上の水溶性(メタ)アクリル系モノマーである請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合体分散液の製造方法。
【請求項5】
前記水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種の、水媒体(C)中で1〜10層に層状剥離する粘土鉱物であり、前記シリカが水分散性のあるコロイダルシリカである請求項1〜4のいずれかに記載の有機無機複合体分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合体分散液を用いた調光機能を有する光学素子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合体分散液を乾燥して得られる有機無機複合体の乾燥皮膜。
【請求項8】
請求項7記載の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材。
【請求項9】
請求項7記載の乾燥皮膜を表面に有するタンパク質吸着防止材。
【請求項10】
請求項7記載の乾燥皮膜を表面に有する防曇材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−132345(P2011−132345A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292343(P2009−292343)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】