説明

有機無機複合材料、その製造方法および光学部品

【課題】光線透過率と屈折率が高く、耐熱性が改善された有機無機複合材料とその製造方法および該有機無機複合材料を用いた光学部品を提供する。
【解決手段】下記式で表される単位構造を少なくとも一つ有している熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含有していることを特徴とする有機無機複合材料。


〔式中、R1およびR3は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R1およびR2はそれぞれ、R3およびR4のいずれとも互いに連結していない。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線透過率と屈折率が高くて、耐熱性も改善された有機無機複合材料、および、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、透明性、軽量性、易成型性、離型性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)や、インデン誘導体とビニル単量体との共重合体を用いる技術(特許文献4参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
【0005】
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる試みがなされている(特許文献5、6参照)。また、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子径が15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリクス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子径が15nm以下の一次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリクス中に、均一に分散させることは極めて難しい。またレンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。このため、樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリクス中に分散させることが求められていた。
【0006】
このような要求に応えるものとして、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散させた有機無機複合材料が提案されている(特許文献7参照)。この有機無機複合材料は、実用的に安価なポリスチレン系樹脂を共重合成分として含んでおり、無機微粒子の分散性が良好で、屈折率1.60以上を達成している。
【0007】
しかしながら、例えば特許文献7のポリスチレン系樹脂を共重合成分として含む熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散させると、有機無機複合材料の耐熱性が低下することが知られており、近年新たな課題とされている。このような課題に対し、主鎖に環構造を導入した熱可塑性樹脂を用いることで耐熱性を改善することが検討されてきている。
【0008】
このように、透明性を低下させずに無機微粒子の分散性がよく、屈折率が高く、耐熱性も高い有機無機複合材料は従来知られていなかった。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2001−89537号公報
【特許文献5】特開昭61−291650号公報
【特許文献6】特開2003−73564号公報
【特許文献7】特開2007−238929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らがさらに主鎖に環構造を導入した熱可塑性樹脂を検討した結果、特定の構造の熱可塑性樹脂を用いることで、透明性を低下させずに無機微粒子の分散性がよく、屈折率が高く、耐熱性も高い有機無機複合材料が得られることが判明した。さらに、安価であり実用上好ましく用いられるポリスチレン系樹脂共重合体についても検討を行ったところ、重合性よく高分子量体を得ることができ、上記の性能も得られることが判明した。
【0010】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、光線透過率と屈折率が高く、耐熱性が改善された有機無機複合材料とその製造方法および該有機無機複合材料を用いた光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子を含有し、特定の条件を満たす有機無機複合材料が、高屈折性と優れた透明性を有しながら耐熱性も改善されていることを見出して、以下に記載する本発明の完成に至った。
【0012】
[1] 下記一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有している熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含有していることを特徴とする有機無機複合材料。
【化1】

〔一般式(1)中、R1およびR3は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R1およびR2はそれぞれ、R3およびR4のいずれとも互いに連結していない。〕
[2] 前記熱可塑性樹脂が、前記一般式(1)で表される単位構造と、主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する単位構造との共重合体であることを特徴とする[1]に記載の有機無機複合材料。
[3] 前記一般式(1)で表される単位構造が、下記一般式(2)で表される単位構造であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合材料。
【化2】

〔一般式(2)中、R5は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、R6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、R7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。ただし、R5およびR7はそれぞれ、R6およびR8のいずれとも互いに連結していない。〕
[4] 下記一般式(3)で表されるモノマーの少なくとも一種を重合して熱可塑性樹脂を得る工程と、前記熱可塑性樹脂に無機微粒子を分散させる工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
【化3】

〔一般式(3)中、R31およびR33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R32およびR34はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R31およびR32はそれぞれ、R33およびR34のいずれとも互いに連結していない。〕
[5] 前記一般式(3)で表されるモノマーと、重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する構造を形成しうるモノマーとを共重合体させて熱可塑性樹脂を得る工程を含むことを特徴とする[4]に記載の有機無機複合材料の製造方法。
[6] 前記一般式(3)で表されるモノマーが、下記一般式(4)で表されるモノマーであることを特徴とする[4]または[5]に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【化4】

〔一般式(4)中、R35は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、R36はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、R37とR38はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。ただし、R35およびR37はそれぞれ、R36およびR38のいずれとも互いに連結していない。〕
[7] [4]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料の製造方法により製造されたことを特徴とする有機無機複合材料。[8] 前記熱可塑性樹脂の波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする[1]〜[3]および[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[9] 前記熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000〜200000であることを特徴とする[1]〜[3]、[7]および[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[10] 前記熱可塑性樹脂が、前記一般式(1)で表される単位構造を前記熱可塑性樹脂中に3〜70質量%含むことを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【化5】

〔一般式(1)中、R1およびR3はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R1およびR3は互いに連結していない。〕
[11] 前記熱可塑性樹脂が下記の群から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を有することを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[10]のいずれか1項に記載の有機無機複合材料。
【化6】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OHまたはその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
[12] 前記熱可塑性樹脂が、前記官能基を高分子鎖1本あたり平均0.1〜20個有していることを特徴とする[11]に記載の有機無機複合材料。
[13] 前記無機微粒子の数平均粒子径が1〜15nmであることを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[14] 前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[13]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[15] 前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1〜3および7〜14のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[16] 前記無機微粒子を20〜95質量%含むことを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[15]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[17] 波長589nmにおける屈折率が1.63以上であり、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であることを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[16]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[18] ガラス転移温度が85℃以上であることを特徴とする[1]〜[3]および[7]〜[17]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[19] [1]〜[3]および[7]〜[18]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
[20] 前記光学部品がレンズであることを特徴とする、[19]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機無機複合材料は、光線透過率と屈折率が高く、耐熱性が改善されている。また、本発明の光学部品は、優れた透明性と高い屈折率を有し、さらに耐熱性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明の有機無機複合材料とその利用形態について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[熱可塑性樹脂]
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有していることを特徴とする。このような単位構造を有していることで、本発明の有機無機複合材料の耐熱性、すなわちガラス転移温度(以下、Tgともいう)が向上している。
以下、本発明で用いる熱可塑性樹脂について詳細に説明する。
【0016】
(一般式(1)で表される単位構造)
前記一般式(1)で表される単位構造について説明する。
【化7】

【0017】
前記一般式(1)中、前記R1およびR3は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。前記R1は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基であることが好ましい。前記アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基が有する置換基としては特に制限はないが、例えば水素原子、ハロゲン原子、置換または無置換のアルコキシ基などが好ましい。前記R3は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、または置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、無置換のアルコキシカルボニル基、無置換のアリールオキシカルボニル基または置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましい。R3が置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基である場合、アルコキシカルボニル基のアルコキシ部分における炭素鎖長は1〜8であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜2であることが特に好ましい。
前記R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。前記R2およびR4は水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
ただし、R1およびR2はそれぞれ、R3およびR4のいずれとも互いに連結していない。
【0018】
前記一般式(1)で表される単位構造は、下記一般式(2)で表される構造であることが好ましい。
【0019】
【化8】

【0020】
前記一般式(2)中、R5は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基またはシアノ基であることが好ましく、無置換のアルコキシカルボニル基またはシアノ基であることがより好ましく、メトキシカルボニル基またはシアノ基であることが特に好ましい。また、R5が置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基である場合、アルコキシカルボニル基のアルコキシ部分における炭素鎖長は1〜8であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜2であることが特に好ましい。また前記アルコキシ部分は直鎖状であっても分枝状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、水素原子、ハロゲン原子または無置換のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子または塩素原子であることがより好ましい。
7は水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表し、水素原子またはシアノ基であることがより好ましい。
8は水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表し、水素原子またはハロゲン原子であることが好ましく、水素原子または塩素原子であることがより好ましい。
ただし、R5およびR7はそれぞれ、R6およびR8のいずれとも互いに連結していない。
【0021】
(一般式(1)で表される単位構造を形成できるモノマー)
前記一般式(1)で表される単位構造は、特定の構造を有するモノマーを重合することによって形成することができる。前記一般式(1)で表される単位構造を形成できるモノマーとしては、下記一般式(3)で表されるモノマーを挙げることができる。
【0022】
【化9】

【0023】
前記一般式(3)中、前記R31およびR33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。また前記R32およびR34はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。前記R31〜R34の好ましい範囲は、前記R1〜R4の好ましい範囲と同様である。
ただし、R31およびR32はそれぞれ、R33およびR34のいずれとも互いに連結していない。
【0024】
前記一般式(3)で表されるモノマーは、下記一般式(4)で表されるモノマーであることがより好ましい。
【0025】
【化10】

〔一般式(4)中、R35は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、R36はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、R37とR38はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。ただし、R35およびR37はそれぞれ、R36およびR38のいずれとも互いに連結していない。〕
【0026】
前記一般式(4)中、前記R35は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表す。前記R36はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。前記R37およびR38はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。前記R35〜R38の好ましい範囲は、前記R5〜R8の好ましい範囲と同様である。
ただし、R35およびR37はそれぞれ、R36およびR38のいずれとも互いに連結していない。以下に、重合することによって一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーすなわち前記一般式(3)で表されるモノマーの具体例を以下にA−1〜A−28として挙げるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。
【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
【化13】

【0030】
なお、これらの一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーは、公知の方法によって合成することができ、また商業的に入手することが可能である。
【0031】
一般式(1)で表される単位構造を含む熱可塑性樹脂の主鎖の種類としては、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
【0032】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、一般式(1)で表される単位構造の単独重合体であっても、その他の共重合成分との共重合体であってもよい。さらに、共重合体である場合は、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよいが、側鎖にカルボキシル基を有する共重合成分とのランダム共重合体であることが好ましい。
【0033】
本発明で用いる熱可塑性樹脂を共重合により合成する際には、一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーを、モノマー組成物中に3〜70質量%使用することが好ましく、5〜50質量%使用することがより好ましく、7〜30質量%使用することがさらに好ましい。一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーは、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<共重合可能なモノマー>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、重合することによって一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに、他のモノマーを共重合させることにより製造することができる。そのような他のモノマーとして、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものなどを用いることができる。
【0035】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0036】
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン、4−クロロスチレン等が挙げられる。
【0037】
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0038】
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
【0039】
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0040】
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0041】
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
【0042】
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
【0044】
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
【0045】
その他、クロトン酸、イタコン酸など等も挙げることができる。
【0046】
重合することによって一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに共重合することができるモノマーとしては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
【0047】
【化14】

【0048】
(主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する単位構造)
前記一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに共重合することができるモノマーの中でも、重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有するモノマーを用いることが好ましい。すなわち、本発明において、前記一般式(3)で表されるモノマーと、重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する構造を形成しうるモノマーとの共重合体である熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前記重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有するモノマーとしては、スチレンまたはスチレン誘導体であることがより好ましい。
【0049】
また、本発明で用いられる前記熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する単位構造を少なくとも1つ有することが実用上好ましく、スチレンまたはスチレン誘導体からなる単位構造を少なくとも一つ有することが特に好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する単位構造を1〜97質量%含むものであることが好ましく、5〜95質量%含むものであることがより好ましく、10〜90質量%含むものであることが特に好ましい。
【0050】
(無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマー)
本発明では、共重合することができるモノマーとして、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーを用いることが好ましい。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基として、例えば以下の構造を有する官能基を挙げることができる。
【0051】
【化15】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OHまたはその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
【0052】
11、R12、R13、R14、R15、R16の好ましい範囲は、次の範囲である。
アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。アルケニル基は、炭素数2〜30が好ましく、より好ましくは炭素数2〜20であり、例えばビニル基、2−フェニルエテニル基を挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル基、2−フェニルエチニル基を挙げることができる。アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。R11、R12、R13、R14として特に好ましいのは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましいのは水素原子である。
17、R18の好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14、R15、R16と同様である。nは、好ましくは3である。
【0053】
これらの官能基の中でも、好ましくは、
【化16】

、−SO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−Si(OR15m1163-m1であり、より好ましくは、
【化17】

または−CO2Hまたはその塩である。
【0054】
無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を熱可塑性樹脂中に導入するには、該官能基もしくはその前駆体を有する重合性モノマーを用いて重合反応を行う方法や、樹脂を反応剤と反応させて該官能基もしくはその前駆体を導入する方法を挙げることができる。官能基導入量の制御の容易さから、該官能基もしくはその前駆体を有する重合モノマーを用いて重合反応を行って樹脂を得る方法を採用することが好ましい。
【0055】
重合反応によって樹脂を得る場合、無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーとして、ジオール化合物やジチオール化合物、ジカルボン酸化合物など、本発明で用いる他のモノマーと重合反応できるモノマーを採用することができる。
【0056】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、前記官能基を有するビニルモノマーに由来する構造単位を0.1〜5質量%含むことが好ましく、0.3〜3質量%含むことがより好ましく、0.4〜2.5質量%含むことがさらに好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂において、上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。
【0057】
一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに共重合することができる、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーとしては、下記の具体例を挙げることができるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0058】
【化18】

【0059】
(熱可塑性樹脂の性質)
本発明で用いる熱可塑性樹脂の数平均分子量は10000〜200000であることが好ましく、20000〜200000であることがより好ましく、50000〜200000であることがさらに好ましい。前記熱可塑性樹脂(1)の数平均分子量を200000以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にあり、10000以上とすることにより力学強度が向上する傾向にある。
【0060】
ここで、上述の数平均分子量は、下記の方法で測定することができる。
テトラヒドロフランを溶媒とするポリスチレン換算GPC測定により、GPC(東ソー(株)製HLC−8220GPC)を用いて、ポリスチレンの分子量標準品と比較して求めた。
【0061】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0062】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性と成型性の観点から、100〜400℃であることが好ましく、110〜380℃であることがより好ましく、120〜300℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度が100℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0063】
熱可塑性樹脂の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。一般には熱可塑性樹脂の屈折率が1.48程度であれば屈折率1.60レベルの透明性成形体を提供することができる。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の屈折率に特に制限はないが、本発明の有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、熱可塑性樹脂は高屈折率特性を持つことが好ましい。本発明では、屈折率1.63以上の透明性成形体を提供する観点から、本発明に用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0064】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0065】
(熱可塑性樹脂の具体例)
以下の表に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げる。表に記載される種類のモノマーを表に記載される質量割合で混合して共重合することにより、熱可塑性樹脂を製造することができる。ただし、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0066】
【表1】

【0067】
これらの熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
[添加剤]
本発明においては上記熱可塑性樹脂および無機微粒子以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合しても良い。例えば、表面処理剤、可塑剤、帯電防止剤、分散剤、離型剤等を挙げることができる。また前記熱可塑性樹脂以外に前記官能基を有さない樹脂を添加しても良く、このような樹脂の種類に特に制限はないが、前記熱可塑性樹脂と同様の光学物性、熱物性、分子量を有するものが好ましい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂を足しあわせた量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがよりこのましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0069】
(可塑剤)
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。本発明で使用する可塑剤としては、一般式(5)で表される構造を有するものが好ましい。
【0070】
【化19】

(式中、B1 およびB2 は炭素数6〜18のアルキル基またはアリールアルキル基、mは0または1、Xは
【0071】
【化20】

のうちのいずれかであり、R21およびR22は水素原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。)
【0072】
また、一般式(5)で表される化合物において、B1 ,B2 は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなるので添加効果が不十分である。
1 ,B2 の基としては、具体的には、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。本発明に用いる一般式(5)で示される化合物の具体例としては、 次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名〔KP−L155〕)が好ましい。
【0073】
【化21】

【0074】
[無機微粒子]
本発明の有機無機複合材料に用いられる無機微粒子としては特に制限はなく、例えば特開2002−241612号公報、特開2005−298717号、特開2006−70069号各公報等に記載の微粒子を用いることができる。
【0075】
具体的には、酸化物微粒子(酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化錫等)、複酸化物微粒子(ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、タンタル酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、錫酸バリウム、ジルコンなど)、IIb-VIb族半導体(Zn、Cdのカルコゲン(S、Se、Te)化物または酸化物)などを用いることができる。なかでも、ジルコニウム、亜鉛、錫またはチタンの化合物が好ましく、具体的には、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0076】
無機微粒子は2種類以上を併用してもよい。
【0077】
本発明で用いられる無機微粒子は、屈折率、透明性、安定性などの観点から、複数の成分による複合物であってもよい。また無機微粒子には、光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドープしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、有機酸(カルボン酸類、スルホン酸類、リン酸類、ホスホン酸類等)または有機酸基を持つ分散剤などで表面修飾しても良い。さらに目的に応じて、これらの2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明で特に好ましい微粒子は、は錫含有ルチル型酸化チタンを酸化ジルコニウムで被覆した微粒子である。
【0078】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率に特に制限はないが、本発明の有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、無機微粒子は高屈折率特性を持つことが好ましい。この場合、用いられる無機微粒子の屈折率は22℃、589nmの波長において1.90〜3.00であることが好ましく、より好ましくは2.00〜2.70であり、特に好ましくは2.10〜2.50である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば樹脂との屈折率差が比較的小さいためレイリー散乱を抑制しやすくなる傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化の効果が得られやすくなる傾向がある。
【0079】
無機微粒子の屈折率は、例えば本発明で用いる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムに成形して、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率から算出する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。またシリコンウエハ等の光学特性が既知な基板上に例えばスピンコート等で薄膜を作製し、十分乾燥した後エリプソメータで干渉パターンのフィッティングにより屈折率を求めることもできる。
【0080】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均1次粒子サイズが大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均1次粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
【0081】
また本発明に用いられる無機微粒子は上記の平均粒子サイズを満たし、かつ粒子サイズ分布が狭いほど望ましい。このような単分散粒子の定義の仕方はさまざまであるが、例えば特開2006−160992号公報に記載されるような数値規定範囲が、本発明で用いられる微粒子の好ましい粒径分布範囲にも当てはまる。
ここで、上述の数平均1次粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)などで測定することができる。
【0082】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。
例えば、金属塩類やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この方法の詳細は、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)等に記載されている。
これらの水分を含有する反応系において合成した無機微粒子を応用する際に水分が悪影響を及ぼす場合がある。このような場合は無機微粒子合成後に他の適切な有機溶媒に置換することもできる。必要に応じて適切な分散剤を用いることで分散性を損なうことなく均一分散が可能である。
【0083】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中や本発明における熱可塑性樹脂が溶解した有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法を採用してもよい。この際、必要に応じて各種表面処理剤(シランカップリング剤類、アルミネートカップリング剤類、チタネートカップリング剤類、有機酸類(カルボン酸類、スルホン類、ホスホン酸類など))を共存させてもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
溶液中で無機粒子を作製する場合、合成時の温度により無機粒子の特性、粒子サイズ、凝集状態等が異なり適切な条件を求めることが重要である。しかしながら、常圧下では溶液の沸点以上の温度で合成することは不可能である。特性上より高温での合成が必要な場合には、例えばオートクレーブのような高圧釜を用いて高圧下で合成することにより必要な特性を得ることもできる。
【0084】
無機微粒子の合成法としては、上記の如く液相のみで行う場合以外に、更なる高温処理を行うために焼成工程を用いる場合もある。このような焼成法は、液相で微粒子を形成した後、結晶化度を高めるために行う場合や、原材料を焼成工程で直接反応させ合成する場合または微粒子の前駆体を液相で形成した後、焼成工程で所望の微粒子を合成する場合等がある。焼成法の例として特開2003-19427号公報には、無機微粒子原料成分とそれ以外の無機化合物を溶解した溶液を噴霧熱分解して粒子合成を行った後、水で洗浄して無機微粒子以外の無機化合物を取り除くことにより結晶性の高い粒子のみを得る方法が開示してある。
または、粒子の前駆体を液相で形成した後に無機塩で粒子の凝集を防ぎながら焼成により結晶化させる方法が特開2006−16236号公報に記載されている。
さらには分子ビームエピタキシー法やCVD法のような真空プロセスを用いた気相法で作製する方法など、例えば特開2006−70069号公報等に記載される各種一般的な微粒子合成法を挙げることができる。
無機微粒子の結晶化度は合成する条件により異なるが、いかなる結晶化度の無機粒子でも状況に応じて用いることができる。XRD装置で測定した場合明確なピークを有する結晶性のものであってもブロードなハローを持つアモルファスであっても構わない。一般に結晶化度の高い無機微粒子は低いものに比較して屈折率が高く、高屈折材料への応用には有利である。しかしながら、例えば酸化チタンのように光触媒活性が高い材料の場合、結晶化度を低くすることにより光触媒活性を抑制できることが知られている。無機微粒子の光触媒活性は、有機無機複合材料に光を照射した場合樹脂の分解という重大な問題を引き起こす場合がある。このような場合には、結晶化度の低い無機ナノ粒子を用いて光触媒活性を抑制することも可能である。
無機微粒子がコアーシェル構造を有する場合、コア部分とシェル部分の結晶化度は同一であっても全く異なっても構わない。これらの組み合わせは、コア部分とシェル部分の結晶構造、格子定数等で物理的に決定される場合もあるが、合成条件により意図的に作り分けることが可能な場合もある。それぞれの特性を活かしたコアとシェルの組み合わせが必要である。
【0085】
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
【0086】
[有機無機複合材料の製造方法]
本発明の有機無機複合材料は、熱可塑性樹脂と無機微粒子等の成分を混合することにより製造することができる。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが比較的小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で上記熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合組成物の好ましい製造方法としては、(1)無機粒子を上記表面処理剤の存在下にて表面処理し、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合組成物を製造する方法、(2)無機微粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合組成物を製造する方法、が挙げられる。
【0087】
上記(1)の手法によって無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合組成物を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる表面処理剤については、前述<表面処理剤>の箇所で述べたものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加しても良い。
【0088】
上記(2)の場合には、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、t−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加しても良い。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。この際前記表面処理剤を添加しても良い。
【0089】
上記(1)、(2)の方法によって得られた有機無機複合材料の溶液は、そのままキャスト成形して透明成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することが好ましい。またこの際、本発明の粉状の有機無機複合材料を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。
本発明において、無機微粒子と熱可塑性樹脂溶液を混合して有機無機複合材料の溶液を調製した場合、溶液状態のままキャスト成形してプリフォームを得ることができる。また、前記溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により、前記溶液から溶媒を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形、押し出し法等の公知の手法によって、一定の重さ、形状を有するプリフォームを作成した成形することもできる。
成形体がレンズ等の光学部品である場合、目的の形状を効率的に作成するために、前記プリフォームに適当な曲率をもたせておくこともできる。プリフォームの加工の際に加熱してもよい。
【0090】
上記有機無機複合材料をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いても良い。
【0091】
本発明の有機無機複合材料の製造方法では、前記一般式(3)で表されるモノマーの少なくとも一種を重合して熱可塑性樹脂を得る工程と、前記熱可塑性樹脂に無機微粒子を分散させる工程を含む。
また、好ましくは、前記一般式(3)で表されるモノマーと、重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有するモノマーとを共重合体させて熱可塑性樹脂を得る工程を含む。
さらに、前記一般式(3)で表されるモノマーが、前記一般式(4)で表されるモノマーであることがより好ましい。
【0092】
[有機無機複合材料]
本発明の有機無機複合材料のガラス転移温度(Tg)は、85℃以上であることが好ましく、90〜400℃であることがより好ましく、95〜400℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度が85℃以上の有機無機複合材料を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られる。
【0093】
本発明の有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、熱可塑性樹脂は高屈折率特性を持つことが好ましい。本発明では、有機無機複合材料の屈折率が1.63以上であることが好ましく、1.64以上であることがより好ましく、1.65以上であることが特に好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0094】
本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0095】
[光学部品]
上述の本発明の有機無機複合材料を成形することにより、本発明の光学部品を製造することができる。本発明の光学部品は、有機無機複合材料の説明で前記した屈折率や光学特性を示すものが有用である。
また本発明の光学部品としては、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品が特に有用である。好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する透明物品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の有機無機複合材料を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する光学部品とすることができる。
【0096】
本発明の有機無機複合材料を利用した光学部品は、本発明の有機無機複合材料の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【0097】
本発明の有機無機複合材料を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合材料を用いて製造されたレンズ基材は、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合材料を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0098】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、撮像レンズ(車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ等;ズームレンズや、正/負のパワーレンズなど各種公知の撮像レンズを含む)、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0100】
[分析および評価方法]
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製H−9000UHR型透過型電子顕微鏡(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0101】
(2)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置UV−3100(島津製作所製)で波長589nmの光について測定した。
【0102】
(3)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製DR−M4)にて、波長589nmの光について行った。
【0103】
(4)耐熱性(ガラス転移点)
示差走査熱量計DSC7200(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)により測定した。
【0104】
[材料の調製]
(1)チタニア微粒子の合成
0.1モル/Lの硫酸チタニル水溶液を攪拌しながら、同容量の1.5モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を室温で10分かけて滴下した。こうして得た白色の超微粒子の懸濁液を、3500rpmで遠心分離し、上澄み液のデカンテーションによる除去および水洗の工程を繰り返すことにより精製した。こうして得た白色沈殿を0.3モル/Lの希塩酸中に攪拌分散しながら50℃で約1時間加熱して、透明感のある酸性ヒドロゾルを得た。この酸性ヒドロゾルを氷冷し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の水溶液を加えたところ白色沈殿を生じたので、次いでトルエンで抽出し、乾燥後濃縮した。この濃縮残渣のXRDとTEMより、アナタース型チタニア微粒子(数平均粒子径は約5nm)の生成を確認した。
【0105】
(2)ジルコニア微粒子の合成
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒としてジルコニア換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理してジルコニア微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子径が5nmのジルコニア微粒子の生成を確認した。
【0106】
(3)ジルコニア微粒子トルエン分散液の調製
前記(2)で合成したジルコニア微粒子懸濁液と東京化成製のp−プロピル安息香酸を溶解させたトルエン溶液を混合し、50℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出し、ジルコニア微粒子トルエン分散液を作製した。
他の分散剤を用いる場合にも、同様の方法により調製できる。
【0107】
(4)樹脂の合成
還流冷却器、ガス導入コックを付した500ml三口フラスコに、けい皮酸メチル(A−1)80.0g、スチレン(B−1)118.0g、2−カルボキシエチルアクリレート(C−3)2.0g、酢酸エチル85.7gを添加し、2回窒素置換した後、開始剤として和光純薬工業株式会社製V−601(商品名)1.0gを添加し、さらに2回窒素置換した後、窒素気流下80℃で3時間加熱した。室温に戻した後、酢酸エチル200mlを添加後、10分間攪拌し、メタノール5Lに投入し、再沈殿した。沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、80℃で3時間真空乾燥することによりP−1を得た(収率35%、数平均分子量36,000、重量平均分子量65,000)。
他の例示したポリマーについても、同様の方法で調製できる。
【0108】
(5)有機無機複合材料の調製
(3)で合成したジルコニア微粒子のトルエン分散液(ジルコニア:p−プロピル安息香酸=10:1)を樹脂P−1および株式会社松村石油研究所製S−3103(商品名)を溶解させたトルエン溶液に5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合材料を粉体として得た。
他の有機無機複合材料についても、同様の方法で調製した。
【0109】
[加熱成形による光学部品の製造]
実施例1〜13と比較例1〜3の各レンズを下記の手順で製造した。使用した無機微粒子の種類と無機成分としての使用量は表2に示す通りとした。但し、p−プロピル安息香酸を8.3質量%およびS−3103を4.2質量%含み、残りを樹脂が占めるものである。比較例1では、樹脂としてポリメチルメタクリレート(アルドリッチ社製、製品番号44,574−6)を用い、比較例2〜4ではそれぞれ熱可塑性樹脂として下記表2記載の組成のQ−1〜Q−3を用い、比較例5ではポリスチレン(アルドリッチ社製、製品番号18,242−7)を用いた。
製造した各有機無機複合材料を180℃で加熱成形し、厚さ1mmのレンズ用成形体を作成した。成形体を切削し、断面をTEMで観察して、無機微粒子が熱可塑性樹脂中に均一に分散しているか否かを確認した。さらに光線透過率測定、屈折率測定、耐熱性(ガラス転移点)測定を行った。これらの結果は以下の表2に記載した。その後、レンズ用成形体をレンズの形状に成形して、光学部品であるレンズを得た。
【0110】
【表2】

【0111】
表2から明らかなように、本発明の実施例1〜13では屈折率が1.63より大きくて、無機微粒子の分散性および透明性が良好であり、耐熱性の高い光学部品が得られた。一方、ポリメチルメタクリレートを用いた比較例1では、分散性が低いために無機微粒子を均一に分散することができず、微粒子が凝集しており、光線透過率が低いためにアッベ屈折率計での屈折率測定を行えなかった。また、比較用の熱可塑性樹脂Q−1〜3を用いた比較例2〜4では耐熱性が不十分であった。さらに、樹脂としてポリスチレンを用いた比較例5では、分散性が低いために無機微粒子を均一に分散することができず、微粒子が凝集しており、光線透過率が低いためにアッベ屈折率計での屈折率測定を行えなかった。
【0112】
なお、実施例1〜13の有機無機複合材料は、いずれも耐電圧が−1.0〜7.0kVの範囲内であり、250℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であり、飽和吸水率は20.5質量%以下であった。また、実施例1〜13の有機無機複合材料は、生産性よくかつ型の形状に合わせて正確に凹凸レンズ形状を形成することができるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有している熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含有していることを特徴とする有機無機複合材料。
【化1】

〔一般式(1)中、R1およびR3は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R1およびR2はそれぞれ、R3およびR4のいずれとも互いに連結していない。〕
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、前記一般式(1)で表される単位構造と、主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する単位構造との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される単位構造が、下記一般式(2)で表される単位構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合材料。
【化2】

〔一般式(2)中、R5は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、R6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、R7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。ただし、R5およびR7はそれぞれ、R6およびR8のいずれとも互いに連結していない。〕
【請求項4】
下記一般式(3)で表されるモノマーの少なくとも一種を重合して熱可塑性樹脂を得る工程と、前記熱可塑性樹脂に無機微粒子を分散させる工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
【化3】

〔一般式(3)中、R31およびR33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R32およびR34はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R31およびR32はそれぞれ、R33およびR34のいずれとも互いに連結していない。〕
【請求項5】
前記一般式(3)で表されるモノマーと、重合した際に主鎖に環構造を有さず側鎖に芳香環構造を有する構造を形成しうるモノマーとを共重合体させて熱可塑性樹脂を得る工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(3)で表されるモノマーが、下記一般式(4)で表されるモノマーであることを特徴とする請求項4または5に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【化4】

〔一般式(4)中、R35は置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、またはシアノ基を表し、R36はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、R37とR38はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。ただし、R35およびR37はそれぞれ、R36およびR38のいずれとも互いに連結していない。〕
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料の製造方法により製造されたことを特徴とする有機無機複合材料。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂の波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする請求項1〜3および7のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000〜200000であることを特徴とする請求項1〜3、7および8のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(1)で表される単位構造を前記熱可塑性樹脂中に3〜70質量%含むことを特徴とする請求項1〜3および7〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【化5】

〔一般式(1)中、R1およびR3はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基を表す。ただし、R1およびR3は互いに連結していない。〕
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が下記の群から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を有することを特徴とする請求項1〜3および7〜10のいずれか1項に記載の有機無機複合材料。
【化6】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OHまたはその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂が前記官能基を高分子鎖1本あたり平均0.1〜20個有していることを特徴とする請求項11に記載の有機無機複合材料。
【請求項13】
前記無機微粒子の数平均粒子径が1〜15nmであることを特徴とする請求項1〜3および7〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項14】
前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする請求項1〜3および7〜13のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項15】
前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1〜3および7〜14のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項16】
前記無機微粒子を20〜95質量%含むことを特徴とする請求項1〜3および7〜15のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項17】
有機無機複合材料の波長589nmにおける屈折率が1.63以上であり、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3および7〜16のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項18】
ガラス転移温度が85℃以上であることを特徴とする請求項1〜3および7〜17のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項19】
請求項1〜3および7〜18のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
【請求項20】
前記光学部品がレンズであることを特徴とする、請求項19に記載の光学部品。

【公開番号】特開2010−31186(P2010−31186A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197054(P2008−197054)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】