説明

有機無機複合材料の製造方法および光学素子

【課題】 透明性が高く、線膨張率が低く機械的物性に優れた有機無機複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散媒を用いて分散させる分散工程を有する有機無機複合材料の製造方法において、前記分散媒として少なくとも1種類の極性を有する分散媒を用いて、前記極性を有する分散媒の超臨界状態下で前記無機微粒子の分散処理を行う有機無機複合材料の製造方法。前記極性を有する分散媒が水系溶媒またはアルコール系有機溶媒からなる極性溶媒である。前記無機微粒子が、平均一次粒子径が1nm以上30nm以下の酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミ、酸化チタンから選ばれる金属酸化物微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機無機複合材料の製造方法および光学素子に関し、特に有機材料中に無機微粒子を分散した有機無機複合材料の製造方法、及び前記有機無機複合材料を光学材料として使用した光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料と無機材料の両方の特徴を兼ね備えた有機無機複合材料は様々な分野で注目されている材料であり、特に光学分野においても非常に期待されている材料である。しかし、これらの材料を光学材料として用いるためには従来使用されてきたガラス材料と同程度の機械的物性を持ち、なおかつ低散乱で高透明、低複屈折などの光学物性を有していることが必要である。またこれらの物性の温度特性が優れていることも重要である。
【0003】
上記のような温度特性に優れた機械的物性をもつ有機無機複合材料としては有機材料と無機材料をナノメートルのオーダーで混合したナノコンポジット材料がある。ナノコンポジット材料はベース材料となる有機樹脂中に機能性無機材料、例えばナノメートルレベルの粒径をもつ無機微粒子などを添加することで作製することが可能である。このように有機樹脂中にナノメートルレベルで無機微粒子が均一分散すると、それぞれの材料間に働く相互作用により、いわゆるナノコンポジット効果が発現する。これにより、有機材料単独では達成し得ないような有機無機複合材料特有の機械的物性、例えば低線膨張化を達成することが可能である。また、混合する無機材料として無機微粒子の種類や添加量などを適宜選択することにより、機械的物性だけでなく光学物性、例えば屈折率やアッベ数などにおいても従来のガラス材料や有機材料単独では達成し得ないような物性を実現することが可能である。
【0004】
しかし、これらの物性を実現するためには有機樹脂中に無機微粒子をナノメートルオーダーの粒径をもつ一次粒子の状態で均一に分散させることが重要である。ここで一次粒子とは一般的に凝集していない粒子のことを指し、一次粒子が凝集して見かけの粒径が大きくなった粒子のことを二次粒子と呼ぶ。無機微粒子の分散状態が悪く、二次粒子など比較的粒径の大きい凝集粒子が有機無機複合材料中にごくわずかでも存在している状態になると光学的な散乱を誘発する。このような散乱が発生すると有機無機複合材料としては透明性が失われ、光学用途として用いることは困難である。また低線膨張化などの機械的物性を発現させるためにも、混合する無機微粒子が一次粒子の状態で分散している必要がある。ところが微粒子は粒径が小さくなるにつれて微粒子間に働く凝集力が格段に大きくなるため、一旦凝集した微粒子を有機樹脂中で一次粒子状態まで再分散させるには非常に大きな分散エネルギーが必要である。そのため、ナノメートルレベルの微粒子を有機樹脂中に均一分散させるためには、分散処理中において一次粒子のまま凝集が発生しないように制御する必要があり、非常に高度な分散技術を要する。
【0005】
上記のような有機樹脂中に無機微粒子を添加して有機無機複合材料を作製する方法の一つとしては、有機樹脂中に粉末状態である微粒子を添加・混合した後に機械的な外力、例えば高せん断力、衝突力、超音波振動などを加えて分散させる方法がある。この方法では比較的容易に所望の濃度の微粒子を添加することができるが、粉末状態の微粒子はそれ自体が基本的に凝集している状態にある。そのため、有機樹脂との混合後に粒径が数nm〜数十nmの大きさの一次粒子まで分散させるためには非常に大きな外力と時間を必要とする。さらに、微粒子濃度が高くなると有機樹脂との混合後の粘度も極めて高くなるため、効果的に外力を加えることができなくなるという問題もあった。
【0006】
一方では、混合する有機樹脂と相溶性のある溶媒中に予め微粒子が分散している微粒子分散液と有機樹脂を混合し、溶媒の存在下で微粒子を分散させた後に溶媒を除去し、有機無機複合材料を作製する方法がある。この方法では予め微粒子が一次粒子の状態で分散している微粒子分散液を使用することにより、比較的容易に微粒子を凝集なく有機樹脂中に分散させることができる。したがって有機無機複合材料の透明性を維持させやすい。しかし、この場合においては微粒子分散液での微粒子の分散状態の良し悪しが、最終的な有機無機複合材料における微粒子分散状態に大きな影響を及ぼす。そのため微粒子分散液の状態で微粒子が凝集することなく分散し、高透明性を有していることが必要である。また溶媒の除去中に微粒子が再凝集する場合もあり、同時に過剰な溶媒を必要とするといった課題もある。
【0007】
上記のような分散方法において、より微粒子の分散性を向上させるためには、分散過程における有機樹脂と微粒子の混合物の粘度を低下させることも有効である。この方法の一つとして超臨界状態の流体を混合物に添加することで混練時の粘度を低下させる方法も用いられている。ここで超臨界状態とは臨界温度及び臨界圧力以上の状態のことで、液体と気体の両方の性質をもつ。すなわち液体の特徴である高溶解性と気体の特徴である高拡散性かつ低粘性とを併せ持つ状態である。そのため有機樹脂と無機微粒子のような異質な材料を混合するには非常に適した状態である。
【0008】
例えば特許文献1では、熱可塑性樹脂と無機微粒子の混合方法において、超臨界二酸化炭素を導入した状態で混練して複合材料を生成する方法についての記載がある。
【0009】
また特許文献2では、複数種の樹脂と層状珪酸塩の混合方法において、溶媒を加熱及び加圧して高温高圧流体または超臨界流体とし、この状態で混合を行い、ポリマーアロイ複合材料を製造する方法についての記載がある。
【0010】
また特許文献3では、透明な熱可塑性重合体、平均粒径が50nm以下の無機微粒子及び有機溶媒を含有する液状の熱可塑性重合体混合物を超臨界流体に曝露し、混合物を攪拌または混練する方法についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−139971号公報
【特許文献2】特開2004−307719号公報
【特許文献3】特開2008−163124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載されている方法は、有機樹脂と微粒子の溶融混練時に超臨界状態の二酸化炭素を導入することで樹脂を可塑化させ、混合物の粘度低下により分散性を向上させるものである。しかしながらこの方法では混合過程そのものが超臨界状態ではないため、混合過程における粘度低下は十分ではない。また超臨界状態特有の有機樹脂と無機微粒子の相溶性の向上が見込めないため、有機樹脂中への微粒子分散効果が小さい。一方、特許文献2では、超臨界溶媒として主に二酸化炭素を用いた場合について詳しく述べられているが、その他の溶媒を用いたことに対して具体的な記載がない。また特許文献3においても、超臨界溶媒としては二酸化炭素が用いられている。
【0013】
上記の文献ではいずれの場合も二酸化炭素を超臨界流体として用いているが、二酸化炭素は無極性であるため、微粒子の分散媒としては適当ではない。一般的に微粒子を凝集なく一次粒子状態のままで分散させるためには、微粒子のζ電位の絶対値が大きいことが有利である。ここでζ電位とは、溶媒中に分散した微粒子表面に形成される電気的な二重層のうち、外側の層の界面(すべり面)における電位のことである。このζ電位の絶対値が大きいと個々の粒子間に静電的な反発力が生じるため凝集が発生しにくくなる。しかし、分散媒が無極性の場合、微粒子表面に電気二重層が有効に形成されないため、静電反発力によるポテンシャル障壁が小さくなり、ζ電位を増大させてもその効果が十分でない。そのため無極性の分散媒中においては、微粒子表面の修飾基または界面活性剤などの吸着層による立体障害効果を利用して、微粒子を分散させるのが一般的である。しかし、これらの修飾基などは有機無機複合材料にしたときに余分な成分を導入することになり、最終的な材料物性を低下させる。
【0014】
一方、極性を有する分散媒を用いた場合、未修飾微粒子であってもそのζ電位と電気二重層による静電反発力を利用することにより、分散媒中の微粒子分散が比較的容易となる。しかし、この場合は微粒子分散液と有機樹脂との相溶性が低くなるため、通常の分散方法では微粒子が有機樹脂中へ混合分散しない。
【0015】
すなわち、有機樹脂中に微粒子を高分散させるためには、有機樹脂に適した微粒子の表面性の付与と最適な分散溶媒の選択が必要であり、この相反する特性を両立させることは非常に困難であった。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、透明性が高く、線膨張率が低く機械的物性に優れた有機無機複合材料の製造方法を提供するものである。また、本発明は、前記有機無機複合材料を光学材料として使用した光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決する有機無機複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散媒を用いて分散させる分散工程を有する有機無機複合材料の製造方法において、前記分散媒として少なくとも1種類の極性を有する分散媒を用いて、前記極性を有する分散媒の超臨界状態下で前記無機微粒子の分散処理を行うことを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決する光学素子は、上記の製造方法により作製した有機無機複合材料を用いた光学素子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透明性が高く、線膨張率が低く機械的物性に優れた有機無機複合材料の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記有機無機複合材料を光学材料として使用した光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明の有機無機複合材料の製造方法はこれにより何ら限定されるものではない。
【0021】
本発明に係る有機無機複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散媒を用いて分散させる分散工程を有する有機無機複合材料の製造方法において、前記分散媒として少なくとも1種類の極性を有する分散媒を用いて、前記極性を有する分散媒の超臨界状態下で前記無機微粒子の分散処理を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明の有機無機複合材料の製造方法では、熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散させる分散工程において、分散媒として少なくとも1種類の極性を有する分散媒を用い、その極性を有する分散媒の超臨界状態下で混合分散を行う。このような極性を有する分散媒を用いることにより、混合分散過程において微粒子表面に発生するζ電位に起因する静電反発力を利用することができ、混合する微粒子の分散性を上げることができる。同時に超臨界状態を利用した混合分散であるため、親水性表面をもつ微粒子でも疎水性である有機樹脂に相溶させることができる。したがって、微粒子の表面修飾をなくす、あるいは必要最小限にすることができる。また混合時の溶融粘度が下がるため、分散効率を大幅に向上させることが可能である。本発明の方法により、微粒子を高分散させた有機無機複合材料を作製することができ、その結果、高透明かつ低散乱で機械的物性に優れた光学材料を提供することが可能である。
【0023】
<熱可塑性樹脂>
本発明で用いる熱可塑性樹脂はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリチオエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂のいずれかであることが望ましい。また、これらの樹脂を複数種混合したものであってもよい。熱可塑性樹脂の分子量については特に限定されるものではないが、成形性と成形品の強度を考慮すると、数平均分子量が3000以上であることが好ましい。
【0024】
また本発明で用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は80℃以上300℃以下であることが好ましく、特に100℃以上200℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃未満であると光学素子を成形した後、使用環境下において十分な耐熱性が得られないおそれがある。一方、ガラス転移温度が300℃を超えると、成形加工時に高温でのプロセスが必要となるばかりでなく、樹脂自身が着色するなどの問題が生じるおそれがある。
【0025】
本発明で用いる熱可塑性樹脂には、その総量が10重量パーセント以下の濃度で樹脂添加剤が含まれていても構わない。添加剤は、その目的により様々な種類の添加剤を単独で又は組み合わせて使用してもよい。具体的な添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、離型剤、加工助剤等が挙げられる。製造過程での着色を防止し、成形時の成形性を得るために、リン酸エステル類やフタル酸エステル類、クエン酸エステル類、ポリエステル類に代表される可塑剤と、フェノール類などの酸化防止剤が含まれていることが望ましい。
【0026】
<無機微粒子>
本発明に用いる無機微粒子としては、金属微粒子、金属酸化物微粒子などが挙げられる。特に本発明のように作製した有機無機複合材料を光学用途として用いる場合には、金属微粒子よりも可視光領域において光吸収の少ない金属酸化物微粒子が好ましい。金属酸化物微粒子としては、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミ、酸化チタン、酸化イットリウム酸化ハフニウム、酸化ニオブなどの金属酸化物微粒子を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。それらの中で無機微粒子が酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミ、酸化チタンから選ばれる金属酸化物微粒子であることが好ましい。またケイ酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、酸化インジウムスズなどの複合酸化物微粒子であってもよい。さらに上記のような金属酸化物微粒子を複数種類混合したものであってもよい。これらの微粒子の組成や結晶性は特に限定しないが、有機無機複合材料に求められる物性、例えば光学特性などにより、適宜選択することが可能である。またこれらの微粒子表面はリン酸エステルやアルキルシラザン等で表面処理されていてもよい。
【0027】
本発明で用いる無機微粒子の平均一次粒子径は1nm以上30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下であることが望ましい。ここでいう平均一次粒子径とは凝集していない粒子における当体積球相当直径を指す。平均一次粒子径が1nm未満では微粒子の結晶性が崩れ、無機材料としての物性が発現しない。また有機樹脂中への分散の際、単位体積あたりに存在する微粒子の個数が非常に多くなるため、微粒子間距離が小さくなり凝集が発生しやすくなる。そのため、微粒子体積濃度をあげることができなくなり、あわせて有機無機複合材料中の無機材料の濃度も小さくなるため、無機材料に起因する物性を高めることができない。一方、平均一次粒子径が30nmを超えると微粒子による光散乱が大きくなり、有機無機複合材料にしたときの透明性を確保することができない。
【0028】
また熱可塑性樹脂に対する無機微粒子の配合割合は、所望する有機無機複合材料の光学物性及び機械的物性により適宜選択することができる。無機微粒子の配合割合は、熱可塑性樹脂と無機微粒子の合計に対して50体積%以下、好ましくは3体積%以上30体積%以下であることが望ましい。50体積%を超えると成形性が悪くなり、透明性も失われるために好ましくない。
【0029】
本発明で用いる無機微粒子は、有機樹脂に混合する時に粉体状態であっても微粒子分散液の状態であってもよいが、有機無機複合材料として微粒子を有機樹脂中により高分散化させるためには溶媒中に微粒子を分散させた微粒子分散液を用いる方が好ましい。ここで微粒子分散液を用いる場合、溶媒としては以下に述べる超臨界状態にする分散媒と同種のものを選択することが望ましい。特に極性溶媒を選択すれば、ζ電位による静電反発力を利用できるため、必要最小限の表面修飾でも微粒子の分散性を維持することができる。有機無機複合材料としてさらに高分散化および高透明化を達成するためには、これらの微粒子分散液を予め微粒化分散装置により分散処理を施し微粒子分散液の状態で高分散化及び透明化させておく方がより好ましい。この際に用いる微粒化分散装置としては、ビーズミル、ジェットミル、ディスクミル、ホモジナイザー、超音波処理装置など種々の分散装置を用いることができる。
【0030】
<極性を有する分散媒>
本発明では極性を有する分散媒を超臨界状態にして有機樹脂と無機微粒子の分散を行うことを特徴とする。極性を有する分散媒は常温常圧下で気体状態であっても液体状態であってもよいが、好ましくは液体状態である極性溶媒であることが望ましい。このような極性溶媒としては、水系溶媒またはアルコール系有機溶媒などが挙げられる。具体的には、水系溶媒は、純水または電解質等が溶解した水溶液が挙げられる。アルコール系有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノール等の第一級アルコール系、2−プロパノール、2−ブタノール等の第二級アルコール系、1,1,1−トリメチルメタノール等の第三級アルコール系、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール系などが挙げられる。また、少なくとも1種類以上の極性を有する分散媒が含まれていれば、無極性の分散媒との混合物であってもよい。これらの極性を有する分散媒中ではpHや電解質の濃度が一定であれば、微粒子のζ電位は比較的安定した値をとる。そのため、ζ電位による静電反発力により、有機樹脂中においても微粒子の分散性を維持することが可能である。
【0031】
前記熱可塑性樹脂は、常温常圧下において前記極性溶媒に溶解しないことが好ましい。
【0032】
<有機無機複合材料の製造方法>
次いで、本発明における有機無機複合材料の製造方法について説明する。
【0033】
上記に記載した熱可塑性樹脂、無機微粒子または無機微粒子の分散液、及び極性を有する分散媒をそれぞれ必要量分量して混合した後、超臨界装置の圧力容器に入れ密封する。この圧力容器は超臨界状態の高温高圧条件に耐えられるように十分な強度を持っている必要があり、異常時に内部圧力を開放するリーク弁を備えている方が望ましい。また仕込んだ材料と反応しないように、材質としてはハステロイなど耐熱・耐食性金属で製作されていることが望ましい。この圧力容器は熱電対と圧力計を備え、容器内部の温度及び圧力を常時制御かつ監視できるようにしてある。また、圧力容器内部には混合効率を高めるために攪拌翼が備えられており、昇温冷却過程及び超臨界過程において内部を適宜攪拌することができる。密封した圧力容器の周りに加熱用ヒーターをセットし、分散媒の超臨界状態になるまで加熱加圧を行う。具体的には分散媒として水を用いた場合は臨界温度:374℃、臨界圧力:22.1MPa、メタノールを用いた場合は臨界温度:239℃、臨界圧力:8.1MPaである。圧力容器内が超臨界状態に達したら、数分から数十分その状態を保持した後、冷却を開始する。冷却は圧力容器内に設けた冷却管内に冷却水を流して強制的に冷却を行う。圧力容器の内部温度及び内部圧力が十分下がったところで、容器を開封し内部の有機無機複合材料を取り出す。複合材料中に残留している溶媒は真空乾燥等の方法により除去する。
【0034】
<有機無機複合材料を用いた光学素子>
本発明に係る光学素子は、上記の製造方法により作製した有機無機複合材料を用いた光学素子である。以上のようにして得られた有機無機複合材料は押出成形、射出成形、圧縮成形など種々の方法より成形し光学素子を製造する。成形条件は光学素子の大きさ、形状及び成形方法により適宜選択されるが、成形時の流動性確保しながら、熱による樹脂の分解や黄変を避けるためにも、有機樹脂のガラス転移温度程度の温度であることが望ましい。具体的には80℃以上300℃以下の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の有機無機複合材料の実施例を示すが、以下の実施例で本発明の内容が限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
熱可塑性樹脂として環状オレフィン樹脂(日本ゼオン社製:ZEONEX E48R)8g、無機微粒子として二酸化ケイ素微粒子(日本アエロジル社製:300、平均一次粒径7nm)2g、極性を有する分散媒として純水10gを混合し、容量50mlのハステロイ製圧力容器に入れて密閉した。その後、水の超臨界状態である臨界温度:374℃、臨界圧力:22.1MPaまで加熱加圧を行い、超臨界状態を10分間維持した。その後、常温常圧状態まで冷却してから容器を開封し、真空乾燥により材料中に残留する水を除去して、有機無機複合材料を得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1に記載の有機無機複合材料の製造方法において、環状オレフィン樹脂の量を9g、二酸化ケイ素微粒子の量を1gにした以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0038】
(実施例3)
実施例1に記載の有機無機複合材料の製造方法において、熱可塑性樹脂として環状オレフィン樹脂の代わりにアクリル樹脂であるPMMA(旭化成ケミカルズ社製:デルペット70NH)を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0039】
(実施例4)
実施例1に記載の有機無機複合材料の製造方法において、無機微粒子として二酸化ケイ素微粒子の代わりに酸化ジルコニウム微粒子(平均一次粒径10nm)を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0040】
(実施例5)
実施例1に記載の有機無機複合材料の製造方法において、極性を有する分散媒として純水の代わりにメタノールを用い、臨界温度:239℃、臨界圧力:8.1MPaの超臨界状態を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0041】
(実施例6)
実施例5に記載の有機無機複合材料の製造方法において、熱可塑性樹脂として環状オレフィン樹脂の代わりにアクリル樹脂であるPMMA(旭化成ケミカルズ社製:デルペット70NH)を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0042】
(実施例7)
実施例5に記載の有機無機複合材料の製造方法において、熱可塑性樹脂として環状オレフィン樹脂の代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成社製:パンライト AD−5503)を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0043】
(比較例1)
実施例1に記載の有機無機複合材料の製造方法において、分散媒として純水の代わりに無極性である二酸化炭素を用い、臨界温度:31℃、臨界圧力:7.3MPaの超臨界状態を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0044】
(比較例2)
実施例3に記載の有機無機複合材料の製造方法において、分散媒として純水の代わりに無極性である二酸化炭素を用い、臨界温度:31℃、臨界圧力:7.3MPaの超臨界状態を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0045】
(比較例3)
実施例7に記載の有機無機複合材料の製造方法において、分散媒として純水の代わりに無極性である二酸化炭素を用い、臨界温度:31℃、臨界圧力:7.3MPaの超臨界状態を用いた以外は同様の製造方法で有機無機複合材料を得た。
【0046】
以上に示す実施例および比較例で得られた有機無機複合材料を所定の型に封入した後、圧縮成形により1mm厚のペレット状の光学素子を作製し、透過率および線膨張率を測定した。
【0047】
(透過率の評価)
透過率は紫外可視分光光度計を用いて波長430nmにおける透過率を測定した。透過率が90%以上であった場合を◎、80%以上90%未満であった場合を○、80%未満であった場合を×で記載した。
【0048】
(線膨張係数の評価)
線膨張係数は熱機械測定装置(商品名TMA Q400;TAインスツルメント社製)を用いて測定し、光学素子の厚み方向について20℃から60℃における線膨張係数を測定した。
【0049】
透過率および線膨張率の結果を表1にまとめて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果より、本発明の製造方法で作製した有機無機複合材料による光学素子は透明性が高く、線膨張係数が小さいことが判明した。これは極性を有する分散媒の超臨界状態下で微粒子分散を行ったため、微粒子が凝集せずに有機樹脂中へ分散したためと考えられる。したがって、本発明の製造方法により光学素子として非常に有用な有機無機複合材料を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製造方法は、透明性が高く、線膨張率が低く機械的物性に優れた有機無機複合材料を得ることができるので、光学素子、光学用部品に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散媒を用いて分散させる分散工程を有する有機無機複合材料の製造方法において、前記分散媒として少なくとも1種類の極性を有する分散媒を用いて、前記極性を有する分散媒の超臨界状態下で前記無機微粒子の分散処理を行うことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記極性を有する分散媒が極性溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒が少なくとも水系溶媒またはアルコール系有機溶媒からなることを特徴とする請求項2に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂または環状オレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が常温常圧下において前記極性溶媒に溶解しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記無機微粒子が酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミ、酸化チタンから選ばれる金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記無機微粒子の平均一次粒子径が1nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の製造方法により作製した有機無機複合材料を用いたことを特徴とする光学素子。

【公開番号】特開2013−1784(P2013−1784A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133502(P2011−133502)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】