説明

有機無機複合系薄膜

【課題】表面が内部より高い硬度を有するポリシロキサン系の有機無機複合体からなる膜の表面を更に無機質化することを課題とする。
【解決手段】本発明の有機無機複合系薄膜は、
a)式(I)
SiX4−n (I)
(式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物の縮合物、及び、
b)有機高分子化合物
を含有する層を有する有機無機複合系薄膜であって、
該膜の表面に式(I)で表される有機ケイ素化合物の縮合物が濃縮した層が形成されており、表面から10nmの深さの炭素原子の濃度が、表面から100nmの深さの炭素原子の濃度より20%以上少なく、さらに、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比が1.8〜2.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合系薄膜に関し、詳しくは、膜の表面から10nmの深さの炭素原子含有率が、膜の表面から100nmの深さの炭素原子含有率より小さく、さらに、膜の表面から2nmの深さでのO/Si元素比が1.8〜2.5である有機無機複合系薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
市販品のシラン系コート剤の原料としては、主として3官能のシランが用いられており、かかる3官能シランにより、適度な硬さと柔軟性を持つポリシロキサンが形成される。しかしながら、3官能シランの膜ではハードコート性が充分ではない。そこで、3官能シランに、4官能シランやコロイダルシリカを混合することでハードコート性を補っているが、膜を硬くすれば、ヒビ割れやすくなり、密着性が悪くなるという問題がある。
【0003】
シラン系のコート剤としては、例えば、エポキシ基を有する3官能アルコキシシラン化合物を含有する防汚膜形成用組成物(特許文献1参照)がある。また、光触媒を含有したシラン系コート剤も提案されており、光酸発生剤、架橋剤、硬化触媒等を使用して、膜を硬化している(例えば、特許文献2,3参照)。さらに、材料中の金属系化合物の含有率が、材料の表面から深さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するシラン系の有機−無機複合傾斜材料も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
本発明者らは、光感応性化合物の存在下に有機ケイ素化合物に紫外線を照射することにより、表面が非常に高い硬度を有すると共に、内部及び裏面側が適当な硬度を有しつつ、かつ基体との密着性に優れた有機無機複合体を提供した(特許文献5参照)。さらに、膜の表面を無機質にすることにより、有機樹脂の欠点である劣化を防ぎ、耐湿性や耐熱性に優れた薄膜を提供した(特許文献6参照)。これらは一定の効果を奏するものであるが、膜の密着性と膜表面の無機質化をさらに向上した薄膜の製造が望まれていた。
【0005】
一方、ハードコート膜としては、UV硬化樹脂としてアクリレート系樹脂等を用いることが知られている。たとえば、特許文献7には、(メタ)アクリル酸エステル混合物(A)、光重合開始剤(B)、エチレン性不飽和基含有ウレタンオリゴマー(C)、コロイダルシリカゾル(D)及び希釈剤(E)を含有するハードコートフィルムが記載されており、得られたフィルムは、鉛筆硬度、カール、基材への密着性が良好であることが記載されている。
【0006】
また、特許文献8には、(A)ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子と、重合性不飽和基を含む有機化合物とを結合させてなる粒子、(B)分子内にウレタン結合及び2以上の重合性不飽和基を有する化合物、及び(C)光重合開始剤を含有する硬化性組成物を用いることが記載されており、優れた塗工性を有し、かつ各種基材の表面に、高硬度及び高屈折率を有するとともに耐擦傷性並びに基材及び低屈折率層との密着性に優れた塗膜(被膜)を形成し得ることが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献9には、(A)有機ケイ素化合物の加水分解物と金属酸化物微粒子の混合物、(B)多官能アクリレート又はメタクリレート、(C)光重合開始剤を配合してなることを特徴とする紫外線硬化性ハードコート樹脂組成物が記載されており、帯電防止剤の表面へのブリード、透明性の低下、耐湿性の劣化等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ、且つハードコートとしての機能(耐擦傷性、表面硬度、耐湿性、耐溶剤・薬品性等)を満足することが記載されている。
【0008】
しかしながら、これらのアクリレート系樹脂等を用いるハードコート膜は、耐摩耗性に関しては無機膜よりも劣るため、金属酸化物ゾルを添加することにより改善を図っており、そのため、硬度は向上するが、透明性、可撓性が低下するという問題があった。
【0009】
一方、プラズマ処理やUVオゾン処理は、各種基材の表面を洗浄する方法として一般に用いられている(例えば特許文献10)。また、特許文献11には、銅メッキを使った配線基板において、プラズマ処理やUVオゾン処理によって金属粒子や樹脂層の表面に親水性を付与する旨が記載されている。しかし一般に、プラズマ処理やUVオゾン処理を有機樹脂に施すと、樹脂表面の有機化合物が分解され、樹脂表面が荒れるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−195417号公報
【特許文献2】特開2002−363494号公報
【特許文献3】特開2000−169755号公報
【特許文献4】特開2000−336281号公報
【特許文献5】WO2006/088079号パンフレット
【特許文献6】WO2008/069217号パンフレット
【特許文献7】特開2002−235018号公報
【特許文献8】特開2005−272702号公報
【特許文献9】特開2001−214092号公報
【特許文献10】特開2008−279363号公報
【特許文献11】特開2010−080527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、表面が内部より高い硬度を有するポリシロキサン系の有機無機複合体からなる膜の、膜表面を更に無機質化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に取り組み、鋭意研究した結果、有機無機複合系薄膜であって、シロキサン成分を選択すること、若しくは、更にプラズマ処理、UVオゾン処理を施すことにより膜表面の更なる無機質化を達成し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)a)式(I)
SiX4−n (I)
(式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物の縮合物、及び、
b)有機高分子化合物
を含有する層を有する有機無機複合系薄膜であって、
該膜の表面に式(I)で表される有機ケイ素化合物の縮合物が濃縮した層が形成されており、表面から10nmの深さの炭素原子の濃度が、表面から100nmの深さの炭素原子の濃度より20%以上少なく、さらに、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比が1.8〜2.5である有機無機複合系薄膜、
(2)更にc)チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステン及び鉛から成る群より選ばれた金属元素を有する金属化合物を含有する上記(1)記載の有機無機複合系薄膜、
(3)式(I)中のRがビニル基である化合物の縮合物を有機ケイ素化合物の縮合物全体の70質量%以上含有することを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の有機無機複合系薄膜、
(4)表面から100nmの深さにおけるSi/C元素比が0.2以下であることを特徴とする、上記(1)〜(3)に記載の有機無機複合系薄膜、
(5)有機無機複合系薄膜の外側に、さらに、金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層を有することを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機無機複合系薄膜、
(6)金属界面活性剤がシランカップリング剤であることを特徴とする、上記(5)に記載の有機無機複合系薄膜に関する。
【0014】
さらに、本発明は、
(7)a)式(I)
SiX4−n (I)
(式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物の縮合物、及び、
b)有機高分子化合物
を含有する有機無機複合系薄膜に、プラズマ処理、もしくはUVオゾン処理を施すことを特徴とする有機無機複合系薄膜の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
従来、表面無機化ハードコートの表面にはシロキサン濃縮層は存在するが、完全に加水分解されてSiOになってはおらず、そのため、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比はせいぜい1.5程度であった。それに対して、本発明によれば、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比が1.8〜2.5と、ほぼ完全に加水分解されてSiOになっている。
すなわち、本発明の有機無機複合系薄膜は、膜内部が有機樹脂に富んでいるのに対して、膜表面がほぼ完全に無機化しているという特徴を有するため、表面に無機材料のような化学的、熱的、光的な安定性や親水性を付与し、且つ基体との密着性に優れた有機無機複合系薄膜を提供することができる。
本発明の有機無機複合系薄膜は、有機樹脂を多く含む膜材料であるにも関わらず、大気圧プラズマ処理等の有機物を分解する処理を施しても、膜表面の荒れを防ぐことができる。
また本発明の有機無機複合系薄膜は、膜表面が無機質であるため、更に外側に金属界面活性剤の加水分解縮合物からなる緻密な単分子膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の有機無機複合系薄膜において、ESCAにより測定した膜厚方向における各膜成分の分布を示す図である。
【図2】実施例1の有機無機複合系薄膜において、大気圧プラズマ処理を施す前の膜表面の凹凸をAFMにより測定した画像である。
【図3】実施例1の有機無機複合系薄膜において、大気圧プラズマ処理を施した後の膜表面の凹凸をAFMにより測定した画像である。
【図4】実施例2の有機無機複合系薄膜において、ESCAにより測定した膜厚方向における各膜成分の分布を示す図である。
【図5】実施例2の有機無機複合系薄膜において、膜の断面を透過電子顕微鏡で撮影された写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、薄膜中の炭素含有量を規定する時に用いている膜厚の値は、ESCA分析においてスパッタエッチングした時に算出される値であるが、現実の膜厚の値とは必ずしも一致しない。その理由は、スパッタエッチングによりエッチングされる膜厚は、膜の材質に依存するためである。そのため、現実の膜厚値は、各膜材料に対するエッチング速度を換算することで得られる。
本明細書中のESCA分析では、熱酸化SiO膜を標準試料としたSiO換算膜厚を用いた。標準試料はシリコンウェハー上に形成された熱酸化SiO膜である。エリプソメーターによりあらかじめ膜厚を測定してある標準試料を、スパッタエッチングしながらESCA分析することで、エッチング速度を算出した。
【0018】
1 有機無機複合系薄膜の成分
本発明の有機無機複合系薄膜は、有機ケイ素化合物の縮合物、及び有機高分子化合物を必須成分として含有するが、その他、金属化合物、光重合開始剤などを含有していてもよい。
【0019】
(有機ケイ素化合物の縮合物)
本発明の有機無機複合系薄膜は、以下の式(I)で表される。
SiX4−n (I)
式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。
【0020】
ここで、Rで表される「Siに炭素原子が直接結合する有機基」としては、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい炭化水素のポリマーからなる基等を挙げることができる。
上記「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよい炭化水素のポリマーからなる基」の炭化水素基としては、通常、炭素数1〜30の炭化水素基であり、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、炭素数3〜8のシクロアルケニル基である。
【0021】
また、上記「炭化水素基」又は「炭化水素のポリマーからなる基」には、酸素原子、窒素原子、又はケイ素原子を含んでいてもよい。
【0022】
「炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基等が挙げられる。 なお、炭素数10を超える長鎖のアルキル基としては、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、パルミチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0023】
炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0024】
「炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基」は、いずれか1カ所以上に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜10の直鎖、又は分岐鎖のアルケニル基を意味し、例えば、エテニル基、プロパ−1−エン−1−イル基、プロパ−2−エン−1−イル基、プロパ−1−エン−2−イル基、ブタ−1−エン−1−イル基、ブタ−2−エン−1−イル基、ブタ−3−エン−1−イル基、ブタ−1−エン−2−イル基、ブタ−3−エン−2−イル基、ペンタ−1−エン−1−イル基、ペンタ−4−エン−1−イル基、ペンタ−1−エン−2−イル基、ペンタ−4−エン−2−イル基、3−メチル−ブタ−1−エン−1−イル基、ヘキサ−1−エン−1−イル基、ヘキサ−5−エン−1−イル基、ヘプタ−1−エン−1−イル基、ヘプタ−6−エン−1−イル基、オクタ−1−エン−1−イル基、オクタ−7−エン−1−イル基等が挙げられる。
【0025】
「炭素数3〜8のシクロアルケニル基」は、いずれか1カ所以上に炭素−炭素二重結合を有し、かつ環状部分を有する炭素数3〜8のアルケニル基を意味し、例えば、1−シクロペンテン−1−イル基、2−シクロペンテン−1−イル基、1−シクロヘキセン−1−イル基、2−シクロヘキセン−1−イル基、3−シクロヘキセン−1−イル基等が挙げられる。
【0026】
「アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、プロパ−1−イン−1−イル基、プロパ−2−イン−1−イル基、ブタ−1−イン−1−イル基、ブタ−3−イン−1−イル基、ペンタ−1−イン−1−イル基、ペンタ−4−イン−1−イル基、ヘキサ−1−イン−1−イル基、ヘキサ−5−イン−1−イル基、ヘプタ−1−イン−1−イル基、オクタ−1−イン−1−イル基、オクタ−7−イン−1−イル基等が挙げられる。
「シクロアルキルアルキル基」としては、例えば、シクロプロピルメチル基、シクロプロピルプロピル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロへキシルエチル基、シクロヘプチルメチル基等が挙げられる。
【0027】
「アリールアルキル基」としては、例えば、C6−10アリールC1−8アルキル基として、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニル−n−プロピル基、4−フェニル−n−ブチル基、5−フェニル−n−ペンチル基、8−フェニル−n−オクチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
「アリールアルケニル基」としては、例えば、C6−10アリールC2−8アルケニル基として、スチリル基、3−フェニル−プロパ−1−エン−1−イル基、3−フェニル−プロパ−2−エン−1−イル基、4−フェニル−ブタ−1−エン−1−イル基、4−フェニル−ブタ−3−エン−1−イル基、5−フェニル−ペンタ−1−エン−1−イル基、5−フェニル−ペンタ−4−エン−1−イル基、8−フェニル−オクタ−1−エン−1−イル基、8−フェニル−オクタ−7−エン−1−イル基、ナフチルエテニル基等が挙げられる。
【0028】
「酸素原子を有する炭化水素基」としては、エポキシ基、エポキシアルキル基、グリシドキシプロピル基等のオキシラン環(エポキシ基)を有する基、アクリロキシメチル基、メタクリロキシメチル基などが挙げられる。
【0029】
ここで、エポキシアルキル基としては炭素数3〜10の直鎖又は分岐鎖のエポキシアルキル基が好ましく、例えばエポキシメチル基、エポキシエチル基、エポキシ−n−プロピル基、エポキシイソプロピル基、エポキシ−n−ブチル基、エポキシイソブチル基、エポキシ−t−ブチル基、エポキシ−n−ペンチル基、エポキシイソペンチル基、エポキシネオペンチル基、エポキシ−2−メチルブチル基、エポキシ−2,2−ジメチルプロピル基、エポキシ−n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
「窒素原子を有する炭化水素基」としては−NR’(式中、R’は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、各R’は互いに同一でも異なっていてもよい。)を有する基、又は−N=CR’’(式中、R’’は水素原子又はアルキル基を表し、各R’’は互いに同一でも異なっていてもよい。)を有する基が好ましく、アルキル基としては上記と同じものが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基、アントラセン−1−イル基、フェナントレン−1−イル基等が挙げられる。
【0031】
例えば、−NR’を有する基としては、―CH−NH基、−C−NH基、−CH−NH−CH基等が挙げられる。−N=CR’’を有する基としては、−CH−N=CH−CH基、−CH−N=C(CH基、−C−N=CH−CH基等が挙げられる。
【0032】
「ケイ素原子を有する炭化水素」としては、例えば、ポリシロキサン、ポリビニルシラン、ポリアクリルシラン等のポリマーを含む基等が挙げられる。
【0033】
上記「置換されていてもよい」の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、メタクリロキシ基等を挙げることができる。ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基としては、Rにおけるものと同じものを例示することができる。
【0034】
上記のうち、350nm以下の波長の光の照射によって分解される基としては、ビニル基、オキシラン環を有する基、−NR’(式中、R’は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、各R’は互いに同一でも異なっていてもよい。)を有する基、又は−N=CR’’(式中、R’’は水素原子又はアルキル基を表し、各R’’は互いに同一でも異なっていてもよい。)を有する基が挙げられる。
【0035】
また、有機ケイ素化合物の式(I)中、nは、1又は2を表し、n=1のものが特に好ましい。nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよい。また、これらは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
式(I)において、Xは、水酸基又は加水分解性基を表す。式(I)の(4−n)が2以上のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。加水分解性基とは、例えば、無触媒、過剰の水の共存下、25℃〜100℃で加熱することにより、加水分解されてシラノール基を生成することができる基や、シロキサン縮合物を形成することができる基を意味し、具体的には、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基等を挙げることができ、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜6のアシルオキシ基が好ましい。
【0037】
炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等が挙げられ、炭素数1〜6のアシルオキシ基としては、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。ハロゲンとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。イソシアネート基としては、例えば、アルキル基に結合したイソシアネート基、シクロアルキル基に結合したイソシアネート基、アリール基に結合したイソシアネート基、シクロアルキル基が置換したアルキル基に結合したイソシアネート基、アリール基が置換したアルキル基に結合したイソシアネート基等が挙げられる。
【0038】
具体的に、原料となる有機ケイ素化合物としては、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ノナフルオロブチルエチルジメトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ジメチルジアミノシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)プロピルトリメトキシシラン、オキサシクロヘキシルトリメトキシシラン、メチルトリ(メタ)アクリロキシシラン、メチル[2−(メタ)アクリロキシエトキシ]シラン、メチル−トリグリシジロキシシラン、メチルトリス(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
また、炭化水素のポリマーからなる基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸および無水マレイン酸などの酸無水物;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ化合物;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ化合物;(メタ)アクリルアミド、イタコン酸ジアミド、α−エチルアクリルアミド、クロトンアミド、フマル酸ジアミド、マレイン酸ジアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド化合物;アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどから選ばれるビニル系化合物を共重合したビニル系ポリマーを式(I)のR成分とするものを挙げることができる。
なお、本発明の有機無機複合系薄膜における主成分となる有機ケイ素化合物の縮合物は、これらの有機ケイ素化合物及び/又はその縮合物がさらに縮合したものを意味する。
有機ケイ素化合物の縮合物の配合割合は、有機無機複合体全体の固形分に対して2〜98質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0040】
(有機高分子化合物)
本発明の有機無機複合系薄膜は、上記有機ケイ素化合物の縮合物に加え、さらに有機高分子化合物を含有する。
本発明の有機高分子化合物とは、特に限定されるものではないが、好ましくは、光重合開始剤の存在下で紫外線の照射により重合反応を起こす官能基を有する化合物あるいは樹脂を、光重合開始剤の存在下で紫外線の照射により重合反応させたものである。たとえば、(メタ)アクリレート系化合物、エポキシ樹脂、アクリレート系化合物を除くビニル化合物などを重合反応させたものが例示される。官能基の数は、1個以上であれば特に限定されない。
【0041】
原料となるアクリレート系化合物としては、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリスチリル(メタ)アクリレート、ポリカーボネートジアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシロキサンポリマー等が挙げられるが、好ましくはポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、ポリウレタン(メタ)アクリレートである。
分子量は、有機無機複合体形成用組成物に溶解する限り限度はないが、通常は質量平均分子量として500〜50,000、好ましくは1,000〜10,000である。
また、紫外線照射により重合反応を起こして生成した重合物が硬化物である。
【0042】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる、両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。または、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0043】
ポリウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物であり、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0044】
エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環とアクリル酸とのエステル化反応により得ることができる。
【0045】
本発明で用いるウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、荒川化学工業(株)製商品名:ビームセット102、502H、505A−6、510、550B、551B、575、575CB、EM−90、EM92、サンノプコ(株)製商品名:フォトマー6008、6210、新中村化学工業(株)製商品名:NKオリゴU−2PPA、U−4HA、U−6HA、H−15HA、UA−32PA、U−324A、U−4H、U−6H、東亜合成(株)製商品名:アロニックスM−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−1960、共栄社化学(株)製商品名:AH−600、AT606、UA−306H、日本化薬(株)製商品名:カヤラッドUX−2201、UX−2301、UX−3204、UX−3301、UX−4101、UX−6101、UX−7101、日本合成化学工業(株)製商品名:紫光UV−1700B、UV−3000B、UV−6100B、UV−6300B、UV−7000、UV−7600B、UV−2010B、根上工業(株)製商品名:アートレジンUN−1255、UN−5200、HDP−4T、HMP−2、UN−901T、UN−3320HA、UN−3320HB、UN−3320HC、UN−3320HS、H−61、HDP−M20、ダイセルユーシービー(株)製商品名:Ebecryl 6700、204、205、220、254、1259、1290K、1748、2002、2220、4833、4842、4866、5129、6602、8301等を挙げることができる。
【0046】
また、アクリレート系化合物をのぞくビニル化合物としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル、スチレン、不飽和ポリエステルなどがあり、エポキシ樹脂としては、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどを挙げることができる。
有機高分子化合物の配合割合は、有機無機複合体全体の固形分に対して、通常2〜98質量%、好ましくは50〜95質量%である。
【0047】
(光重合開始剤)
本発明の光重合開始剤は、(a)光照射によりカチオン種を発生させる化合物及び(b)光照射により活性ラジカル種を発生させる化合物等を挙げることができる。
光照射によりカチオン種を発生させる化合物としては、例えば、下記式(II)に示す構造を有するオニウム塩を好適例として挙げることができる。
[RW]+e[MLe+f−e (II)
(式(II)中、カチオンはオニウムイオンであり、Wは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、又はN≡N−であり、R、R、R及びRは同一又は異なる有機基であり、a、b、c、及びdは、それぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。Mは、ハロゲン化物錯体[MLe+f]の中心原子を構成する金属又はメタロイドであり、例えば、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Co等である。Lは、例えば、F、Cl、Br等のハロゲン原子であり、eは、ハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷であり、fは、Mの原子価である。)
このオニウム塩は、光を受けることによりルイス酸を放出する化合物である。
【0048】
上記式(II)中における陰イオン(MLe+f)の具体例としては、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl)等を挙げることができる。
また、式〔ML(OH)〕に示す陰イオンを有するオニウム塩を用いることもできる。さらに、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメタンスルフォン酸イオン(CFSO)、フルオロスルフォン酸イオン(FSO)、トルエンスルフォン酸イオン、トリニトロベンゼンスルフォン酸陰イオン、トリニトロトルエンスルフォン酸陰イオン等の他の陰イオンを有するオニウム塩でもよい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
光照射により活性ラジカル種を発生させる化合物としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0050】
本発明において用いられる光重合開始剤の配合量は、有機高分子化合物の原料の紫外線硬化性化合物の固形分に対して、0.01〜20質量%配合することが好ましく、0.1〜10質量%が、さらに好ましい。
【0051】
なお、本発明においては、必要に応じて増感剤を添加することができる、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミン及び4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が使用できる。
【0052】
(金属化合物)
本発明の有機無機複合系薄膜は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステン及び鉛から成る群より選ばれる金属元素を有する金属化合物を含有していてもよい。
金属元素としては、これらの中でもチタン、ジルコニウム、アルミニウム、スズが好ましく、特にチタンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上用いることもできる。
【0053】
本発明における金属化合物は、そのメカニズムの如何によらず、表面側から照射される350nm以下の波長の光の作用によって、表面側の炭素成分を除去することができる化合物であり、好ましくは、表面から10nmの深さの炭素原子の濃度が、表面から100nmの深さの炭素原子の濃度より20%以上少なくすることができる化合物であり、特に好ましくは、炭素成分を、その除去量が表面側から漸次減少するように所定深さまで除去することが可能な化合物、すなわち、表面から所定深さまで炭素含有量が漸次増加する膜を形成することができる化合物をいう。具体的には、例えば、350nm以下の波長の光を吸収して励起する化合物を挙げることができる。
【0054】
ここで、350nm以下の波長の光とは、350nm以下のいずれかの波長の光を成分とする光源を用いてなる光、好ましくは、350nm以下のいずれかの波長の光を主成分とする光源を用いてなる光、すなわち、最も成分量の多い波長が350nm以下の光源を用いてなる光を意味する。
【0055】
本発明の金属化合物としては、金属キレート化合物、金属有機酸塩化合物、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属化合物、それらの加水分解物、及びそれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、加水分解物及び/又は縮合物であることが好ましく、特に、金属キレート化合物の加水分解物及び/又は縮合物が好ましい。
これらから誘導される化合物としては、例えば、金属キレート化合物の縮合物等がさらに縮合されたもの等を挙げることができる。かかる金属化合物及び/又はその誘導体は、上述した有機ケイ素化合物と化学結合していてもよく、非結合状態で分散していてもよく、その混合状態のものでもよい。
【0056】
金属キレート化合物としては、水酸基若しくは加水分解性基を有する金属キレート化合物であることが好ましく、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属キレート化合物であることがより好ましい。また、前記金属キレート化合物としては、β−ケトカルボニル化合物、β−ケトエステル化合物、及びα−ヒドロキシエステル化合物が好ましく、具体的には、アセト酢酸メチル、アセト酢酸n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸sec−ブチル、アセト酢酸t−ブチル等のβ−ケトエステル類;アセチルアセトン、へキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、5−メチル−へキサン−2,4−ジオン等のβ−ジケトン類;グリコール酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸等が配位した化合物が挙げられる。
【0057】
金属有機酸塩化合物としては、金属イオンと有機酸から得られる塩からなる化合物であり、有機酸としては、酢酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸等のカルボン酸類;スルフォン酸、スルフィン酸、チオフェノール等の含硫黄有機酸;フェノール化合物;エノール化合物;オキシム化合物;イミド化合物;芳香族スルフォンアミド;等の酸性を呈する有機化合物が挙げられる。
【0058】
また、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属化合物は、上記金属キレート化合物及び金属有機酸塩化合物を除くものであり、例えば、金属の水酸化物や、金属アルコラート等を挙げることができる。
【0059】
本発明の金属化合物における加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基が挙げられ、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が好ましい。なお、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有するとは、水酸基及び加水分解性基の合計が2以上であることを意味する。
【0060】
金属キレート化合物の加水分解物及び/又は縮合物としては、金属キレート化合物1モルに対して、5〜100モルの水を用いて加水分解したものであることが好ましく、5〜20モルの水を用いて加水分解したものであることがより好ましい。
【0061】
金属有機酸塩化合物の加水分解物及び/又は縮合物としては、金属有機酸塩化合物1モルに対して、5〜100モルの水を用いて加水分解したものであることが好ましく、5〜20モルの水を用いて加水分解したものであることがより好ましい。
【0062】
2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属化合物の加水分解物及び/又は縮合物としては、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属化合物1モルに対して、0.5モル以上の水を用いて加水分解したものであることが好ましく、0.5〜2モルの水を用いて加水分解したものであることがより好ましい。
【0063】
本発明において用いられる金属化合物の配合量は、その種類にもよるが、一般的に、有機ケイ素化合物中のSiに対して、金属化合物中の金属原子が0.01〜0.5モル当量、好ましくは0.05〜0.2モル当量であることが好ましい。
【0064】
2 有機無機複合系薄膜の製造法
1) 有機無機複合系薄膜形成用溶液の調製
本発明における有機無機複合系薄膜の形成用溶液は、有機ケイ素化合物、有機高分子化合物の原料及び光重合開始剤、及び、必要に応じて、金属化合物、水及び/又は溶媒等のその他の成分を混合して調製される。
【0065】
具体的には、たとえば、金属化合物を溶媒に混合し、所定量の水を加え、(部分)加水分解を行い、続いて、有機ケイ素化合物を添加して(部分)加水分解させる。一方、有機高分子化合物の原料を溶媒に溶解して光重合開始剤を添加し、その後、両溶液を混合する。これら4成分は、同時に混合することもでき、また、有機ケイ素化合物と金属化合物の混合方法については、有機ケイ素化合物と金属化合物を混合した後に、水を加えて(部分)加水分解する方法や、有機ケイ素化合物及び金属化合物を別々に(部分)加水分解したものを混合する方法を挙げることができる。水や溶媒を加える必要は必ずしもないが、水を加えて(部分)加水分解物としておくことが好ましい。所定量の水の量としては、金属化合物の種類にもよるが、例えば、金属化合物が2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属化合物の場合、金属化合物1モルに対して、0.5モル以上の水を用いることが好ましく、0.5〜2モルの水を用いることがより好ましい。また、金属化合物が金属キレート化合物又は金属有機酸塩化合物の場合、金属キレート化合物又は金属有機酸塩化合物1モルに対して、5〜100モルの水を用いることが好ましく、5〜20モルの水を用いることがより好ましい。
【0066】
本発明の有機ケイ素化合物の縮合物としては、有機ケイ素化合物を、公知のシラノール縮合触媒を用いて(部分)加水分解させたものを用いても良い。
【0067】
本発明における有機無機複合系薄膜の形成用組成物としては、上記の各成分に加え、水及び/又は溶媒等を含有することが好ましい。
用いる溶媒としては、特に制限されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール誘導体類等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
また、得られる塗膜の硬度向上を目的として4官能シランやコロイド状シリカを添加することもできる。4官能シランとしては、例えば、テトラアミノシラン、テトラクロロシラン、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラベンジロキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラ(メタ)アクリロキシシラン、テトラキス[2−(メタ)アクリロキシエトキシ]シラン、テトラキス(2−ビニロキシエトキシ)シラン、テトラグリシジロキシシラン、テトラキス(2−ビニロキシブトキシ)シラン、テトラキス(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)シランを挙げることができる。また、コロイド状シリカとしては、水分散コロイド状シリカ、メタノールもしくはイソプロピルアルコールなどの有機溶媒分散コロイド状シリカを挙げることができる。
【0069】
また、得られる塗膜の着色、厚膜化、下地への紫外線透過防止、防蝕性の付与、耐熱性などの諸特性を発現させるために、別途、充填材を添加・分散させることも可能である。この充填材としては、例えば有機顔料、無機顔料などの非水溶性の顔料または顔料以外の粒子状、繊維状もしくは鱗片状の金属および合金ならびにこれらの酸化物、水酸化物、炭化物、窒化物、硫化物などが挙げられる。この充填材の具体例としては、粒子状、繊維状もしくは鱗片状の鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、亜鉛、フェライト、カーボンブラック、ステンレス鋼、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、合成ムライト、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー、ケイソウ土、消石灰、石膏、タルク、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、雲母、亜鉛緑、クロム緑、コバルト緑、ビリジアン、ギネー緑、コバルトクロム緑、シェーレ緑、緑土、マンガン緑、ピグメントグリーン、群青、紺青、岩群青、コバルト青、セルリアンブルー、ホウ酸銅、モリブデン青、硫化銅、コバルト紫、マルス紫、マンガン紫、ピグメントバイオレット、亜酸化鉛、鉛酸カルシウム、ジンクエロー、硫化鉛、クロム黄、黄土、カドミウム黄、ストロンチウム黄、チタン黄、リサージ、ピグメントエロー、亜酸化銅、カドミウム赤、セレン赤、クロムバーミリオン、ベンガラ、亜鉛白、アンチモン白、塩基性硫酸鉛、チタン白、リトポン、ケイ酸鉛、酸化ジルコン、タングステン白、鉛亜鉛華、バンチソン白、フタル酸鉛、マンガン白、硫酸鉛、黒鉛、ボーンブラック、ダイヤモンドブラック、サーマトミック黒、植物性黒、チタン酸カリウムウィスカー、二硫化モリブデンなどを挙げることができる。
【0070】
その他、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、テトラエトキシシランなどの公知の脱水剤、各種界面活性剤、前記以外のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、染料、分散剤、増粘剤、レベリング剤などの添加剤を添加することもできる。
【0071】
本発明における有機無機複合体形成用溶液中の固形分(有機ケイ素成分、金属化合物成分、有機高分子化合物の原料及び光重合開始剤)としては、1〜75質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。有機無機複合体形成用原料の固形分(有機ケイ素化合物及び/又はその縮合物、有機高分子化合物の原料、及び必要に応じて金属化合物、光重合開始剤等)の全質量に対して、有機高分子化合物の原料は2〜98質量%、好ましくは50〜95質量%であり、有機ケイ素化合物及び/又はその縮合物は2〜98質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0072】
金属化合物の含有量としては、その種類にもよるが、一般的に、有機ケイ素化合物中のSiに対して、金属化合物中の金属原子が0.01〜0.5モル当量、好ましくは0.05〜0.2モル当量であることが好ましい。
【0073】
光重合開始剤の含有量としては、有機高分子化合物の原料の紫外線硬化性化合物の固形分に対して、0.01〜20質量%配合することが好ましく、0.1〜10質量%が、さらに好ましい。
【0074】
2) 有機無機複合系薄膜の製造法
本発明の有機無機複合系薄膜は、(A)上述した有機無機複合系薄膜形成用溶液を基体上に塗布し、乾燥する工程、(B)350nm以下の波長を含む光を照射する工程、及び任意で(C)プラズマ処理もしくはUVオゾン処理を施す工程を経ることにより製造できる。
【0075】
本発明の有機無機複合系薄膜は、ESCA分析によって測定された、表面から10nmの深さの炭素原子の濃度が、表面から100nmの深さの炭素原子の濃度より20%以上少なく、さらに、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比が1.8〜2.5であることを特徴とする。
ここで、「炭素原子の濃度」とは、(全金属原子+酸素原子+炭素原子)を100%とした時の炭素原子のモル濃度を意味する。他の元素の濃度も同様である。
また、「有機ケイ素化合物の縮合物が濃縮した層」をESCA分析による炭素原子の濃度で規定しているが、濃縮した層では、ケイ素濃度においても濃度が高くなっている。
本発明においては、炭素濃度が低いほどケイ素濃度が高くなる関係にある。
【0076】
式(I)で表される有機ケイ素化合物において、Rがビニル基である化合物の縮合物を有機ケイ素化合物の縮合物全体の70質量%以上含有する場合、上記(C)工程を経ずに、本発明の有機無機複合系薄膜を製造することができる。当該(C)工程を経ることによって、式(I)中のRを選択することなく、本発明の有機無機複合系薄膜を製造することができる。
また、350nm以下の波長を含む光を照射する量を多くすることによっても、式(I)中のRを選択することなく、同様の結果を得ることができる。
【0077】
本発明の薄膜が形成可能な基体としては、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック等が挙げられる。従来、薄膜のプラスチック基体への形成は困難であり、ガラス等の無機基体に限定されていたが、本発明の薄膜は、形成の難しいプラスチック基体であっても、容易に皮膜形成でき、プラスチック製光学部品に対しても適している。かかるプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリエーテルスルフォンが挙げられる。
【0078】
有機無機複合系薄膜形成用溶液の塗布方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法、シルクスクリーン法、インクジェット法等を挙げることができる。また、形成する膜厚としては、特に制限されるものではなく、例えば、0.1〜200μm程度である。
【0079】
有機無機複合系薄膜形成用溶液を塗布して形成した膜の乾燥処理としては、例えば、40〜200℃で、0.5〜120分程度行うことが好ましく、60〜120℃で、1〜60分程度行うことがより好ましい。
【0080】
本発明において「350nm以下の波長を含む光」とは、350nm以下の波長のみならず、350nmよりも長い波長の紫外線も有するという意味である。これは、光感応性化合物が350nm以下の波長を必須とするのに対し、紫外線硬化性化合物は350nmを超える波長、好ましくは365nm付近に感光性を有するからである。
【0081】
350nm以下の波長を含む光の照射は、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーランプ等の公知の装置を用いて行うことができ、照射する光としては、150〜350nmの範囲のいずれかの波長の光を主成分とする光であることが好ましく、250〜310nmの範囲のいずれかの波長の光を主成分とする光であることがより好ましい。かかる範囲の波長に感応し、350nm、好ましくは310nmを超える光に反応しないものであれば、太陽光によりほとんど影響を受けることはない。また、照射する光の照射光量としては、例えば、0.1〜100J/cm程度が挙げられ、膜硬化効率(照射エネルギーと膜硬化程度の関係)を考慮すると、0.2〜20J/cm程度であることが好ましく、0.5〜10J/cm程度であることがより好ましい。
なお、350nm以下の波長の光の照射とは、350nm以下のいずれかの波長の光を成分とする光源を用いる照射、好ましくは、350nm以下のいずれかの波長の光を主成分とする光源を用いる照射、すなわち、最も成分量の多い波長が350nm以下の光源を用いる照射をいう。
【0082】
乾燥後の薄膜(光照射した薄膜においては、膜の内部に相当する。)をガラス基板に形成したときの、JIS K 5600−5−4鉛筆法に規定する鉛筆硬度は、1H〜4H程度であり、基板との密着性及び硬度の点から、2H〜4Hであることが好ましい。また、光照射後の薄膜をガラス基板に形成したときの、JIS K 5600−5−4鉛筆法に規定する鉛筆硬度は、5H以上であることが好ましく、7H以上であることが好ましい。
【0083】
本発明に置いてプラズマ処理とは、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理、あるいはヘリウム、アルゴンなどの希ガス雰囲気でのグロープラズマ処理である。
より具体的には、電極対の少なくとも一方を誘電体で被覆した平行平板電極間に、高周波数の高電圧を印加することでプラズマを発生させ、該電極間に基材層を保持する方法、あるいは該電極間で該基材層を移動させる方法が挙げられる。プラズマ処理には、大気圧プラズマ処理と真空プラズマ処理があるが、大気圧プラズマ処理では真空プラズマ処理に比して活性種の密度が高いために、高速、高効率で電極表面の処理ができ、また処理時に真空にする必要がないために、少ない工程数で処理ができるといった利点がある。
【0084】
大気圧プラズマ処理は、大気圧プラズマ発生装置(例えば、(株)魁半導体製の大気圧プラズマ装置S−5000、積水化学工業(株)製の常圧プラズマ表面処理装置RDシリーズ等)を用いて行うことができる。
【0085】
本発明においてUVオゾン処理とは、薄膜にUV(紫外線)を照射し、空気中の酸素をオゾンに変化させ、このオゾン及び紫外線により当該薄膜を改質することを意味する。
【0086】
UV光源は、UV照射により酸素をオゾンに変化させることができれば、特に制限されない。UV光源としては、低圧水銀ランプが挙げられる。低圧水銀ランプは185nmと254nmのUV光を発生し、185nm線が酸素をオゾンに変化させることができる。照射の際の照度は、用いる光源により異なるが、一般的に数十〜数百mW/cmのものが使用されている。また、集光や拡散することで照度を変更することができる。照射時間は、ランプの照度及び前記未処理層の種類により異なるが、通常、1分〜24時間である。処理温度は、通常、10〜200℃である。また、UVの照射量(即ち、紫外線量)は、通常1J/cm以上であり、好ましくは1〜100000J/cmであり、より好ましくは10〜100000J/cmである。
【0087】
本発明における有機無機複合系薄膜は、上記(B)工程を経ることで、膜表面部の炭素原子含有量が膜の内部(基材との接合部付近)の炭素原子含有量に比して少ない構成であり、膜表面にシラン化合物の濃縮層を形成しているといえる。
そのため、上記(C)工程におけるプラズマ処理及びUVオゾン処理を施しても、膜表面のシラン化合物のみが反応し、膜内部の有機高分子化合物はほぼ影響を受けない。その結果、(C)工程の前後でAFM測定による平均粗さを比較しても、変化が見られない。
【0088】
一般に有機化合物はプラズマ処理やUVオゾン処理によって分解されるため、当該処理は主にガラス等の無機化合物上で、有機物に由来する汚れを洗浄する目的に用いられてきた。本発明の有機無機複合系薄膜においては、膜表面のシラン化合物濃縮層が、プラズマ処理やUVオゾン処理に対する保護層としての役割を果たしているともいえる。
【0089】
3 金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層の作製
また、本発明においては、上記有機無機複合体の外側に、さらに金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層を設けることができる。金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層としては、好ましくは単分子膜である。
以下に、金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層の作製法について説明する。
金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層は、たとえば、WO2008―059840パンフレット等に記載されているように、「少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤」、「該金属系界面活性剤と相互作用し得る化合物」及び水を含む有機溶媒溶液に、前記有機無機複合膜を接触させることにより作製することができる。
【0090】
「少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤」としては、式(III)
Mxt−s (III)
〔式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基、連結基を含む炭素数1〜30の炭化水素基、又は連結基を含む炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基を表し、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表し、Xは、水酸基又は加水分解性基を表し、tはMの原子価を表す。sは、1から(t−1)のいずれかの正整数を表し、sが2以上の場合、Rは、互いに同一でも相異なっていてもよい。(t−s)が2以上の場合、Xは同一であっても、相異なっていてもよいが、Xのうち、少なくとも一個は加水分解性基である。〕で示される金属系界面活性剤が好ましい。
式(III)中、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−オクタデシル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、n−デシニル基、n−オクタデシニル基等のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0091】
置換基を有していてもよい炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜30のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜30のハロゲン化アルケニル基、炭素数1〜30のハロゲン化アリール基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜30のアルキル基中の水素原子の2個以上がハロゲン原子に置換された基が好ましく、炭素数1〜30のアルキル基中の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換されたフッ素化アルキル基がより好ましい。また、フッ素化アルキル基が分岐構造を有する場合には、分岐部分は炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2の短鎖であるのが好ましい。
【0092】
連結基を含む炭化水素基の炭化水素基及び連結基を含むハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基としては、具体的には、前記置換基を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基及び置換基を有していてもよいハロゲン化炭化水素基のハロゲン化炭化水素基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
前記連結基は、炭化水素基若しくはハロゲン化炭化水素基の炭素−炭素結合間、又は炭化水素基の炭素と後述する金属原子Mとの間に存在するのが好ましい。
連結基の具体例としては、−O−、−S−、−SO−、−CO−、−C(=O)O−又は−C(=O)NR51−(式中、R51は、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;を表す。)等が挙げられる。
これらの中でも、撥水性、耐久性の観点から、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のフッ素化アルキル基、又は連結基を含むフッ素化アルキル基であるのがそれぞれ好ましい。
【0093】
Xは、水酸基又は加水分解性基を表す。加水分解性基としては、水と反応して分解する基であれば特に制約されない。例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基;置換基を有していてもよいアシルオキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;イソシアネート基;シアノ基;アミノ基;又はアミド基等が挙げられる。
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等が挙げられる。アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。これらの置換基としては、カルボキシル基、アミド基、イミド基、エステル基、水酸基等が挙げられる。これらの中でも、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又はイソシアネート基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基又はアシルオキシ基がより好ましい。
【0094】
Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、チタン原子、及びジルコニウム原子からなる群から選ばれる1種の原子を表す。これらの中でも、原料の入手容易性、反応性等の観点から、ケイ素原子が好ましい。
【0095】
上記式(III)で示される金属系界面活性剤としては、例えば、下記に示すシランカップリング剤が挙げられる。以下においてはMがSiであり、R1が炭化水素基である場合
であるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
CH(CHSi(OCH、CH(CH11Si(OCH、CH(CH13Si(OCH、CH(CH15Si(OCH、CH(CH17Si(OCH、CH(CH19Si(OCH、CH(CH21Si(OCH、CH(CH17Si(OCHCH、CH(CH17SiCl、CH(CHSi(OCHCH、CH(CHSiCl、CH(CHSi(CH)(OCHCH、CH(CHSi(CH)(OCH、CHCHO(CH15Si(OCH、CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH、CH(CHSi(CH(CHSi(OCH、CHCOO(CH15Si(OCH、CHCHO(CH15Si(OC、CH(CHSi(CH(CH15Si(OC、CH(CHSi(CH(CHSi(OC、CHCOO(CH15Si(OC
【0097】
CHCHO(CH15Si(OCH)(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH)(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OCH)(OH)、CHCOO(CH15Si(OCH)(OH)、CHCHO(CH15Si(OC)(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OC)(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OC)(OH)、CHCOO(CH15Si(OC)(OH)
【0098】
CHCHO(CH15Si(OCH(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OCH(OH)、CHCOO(CH15Si(OCH(OH)、CHCHO(CH15Si(OC(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OC(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OC(OH)、CHCOO(CH15Si(OC(OH)、
【0099】
CHCHO(CH15Si(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OH)、CHCOO(CH15Si(OH)、CHCHO(CH15Si(OH)、CH(CHSi(CH(CH15Si(OH)、CH(CHSi(CH(CHSi(OH)、CHCOO(CH15Si(OH)、CH(CHSi(NCO)、CH(CH10Si(NCO)、CH(CH11Si(NCO)等。
また、これらの化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
「金属系界面活性剤と相互作用し得る化合物」としては、金属酸化物;金属水酸化物;金属アルコキシド類;金属アルコキシド類部分加水分解生成物;金属アルコキシド類加水分解生成物;キレート化又は配位化された金属化合物;シラノール縮合触媒及び酸触媒から選ばれる少なくとも1種が使用される。
【0101】
金属酸化物として、具体的には、メタノールシリカゾル、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−ZL、NPC−ST−30、DMAC−ST、MEK−ST、MIBK−ST、XBA−ST、PMA−ST(以上、いずれも日産化学工業(株)社製オルガノシリカゾルの商品名を表す。)等を例示することができる。
【0102】
金属水酸化物としては、金属の水酸化物であれば、どのような製造方法で得られたものであってもよい。金属水酸化物の製造方法としては、後述の金属アルコキシド類を加水分解する方法、金属塩を金属水酸化物と反応させる方法等が挙げられる。また、金属水酸化物として市販されているものを、所望により精製して使用することもできる。
【0103】
金属アルコキシド類としては、Si(OCH、Si(OC、Si(OC−i)、Si(OC−t)等のケイ素アルコキシド;Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC−i)、Ti(OC等のチタンアルコキシド;Ti[OSi(CH、Ti[OSi(C等のテトラキストリアルキルシロキシチタン;Zr(OCH、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OC等のジルコニウムアルコキシド;Al(OCH、Al(OC、Al(OC−i)、Al(OC等のアルミニウムアルコキシド;Ge(OC等のゲルマニウムアルコキシド;In(OCH、In(OC、In(OC−i)、In(OC等のインジウムアルコキシド;Sn(OCH、Sn(OC、Sn(OC−i)、Sn(OC等のスズアルコキシド;Ta(OCH、Ta(OC、Ta(OC−i)、Ta(OC等のタンタルアルコキシド;W(OCH、W(OC、W(OC−i)、W(OC等のタングステンアルコキシド;Zn(OC等の亜鉛アルコキシド;Pb(OC等の鉛アルコキシド;等が挙げられる。これらの金属アルコキシド類は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0104】
金属アルコキシド類部分加水分解生成物は、金属アルコキシド類を完全に加水分解する前に得られるものであって、例えば、金属酸化物ゾルの前駆体、またはオリゴマーの状態で存在するもの等を挙げることができる。
金属アルコキシド類部分加水分解生成物としては、具体的には、有機溶媒中、酸、塩基及び分散安定化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の非存在下、凝集せずに安定に分散している性質を有する分散質を好ましく例示することができる。この場合、分散質とは、分散系中に分散している微細粒子のことをいい、具体的には、コロイド粒子等を例示することができる。ここで凝集せずに安定に分散している状態とは、有機溶媒中、酸、塩基及び/又は分散安定化剤の非存在下、加水分解生成物の分散質が、凝結して不均質に分離していない状態をいい、好ましくは透明で均質な状態をいう。また透明とは、可視光における透過率が高い状態をいい、具体的には、分散質の濃度を酸化物換算で0.5重量%とし、石英セルの光路長を1cmとし、対照試料を有機溶媒とし、光の波長を550nmとする条件で測定した分光透過率で表して、好ましくは80〜100%の透過率を表す状態をいう。加水分解生成物の分散質の粒子径は特に限定されないが、可視光における高い透過率を得るためには、1〜100nmの範囲であることが好ましく、1〜50nmの範囲であることがより好ましく、1〜10nmの範囲であることがさらに好ましい。
金属アルコキシド類の部分加水分解生成物の製造方法としては、有機溶媒中、酸、塩基、及び/又は分散安定化剤の非存在下、上記例示した金属アルコキシド類に対し0.5〜2.0倍モル未満の水を用い、−100℃から有機溶媒還流温度範囲で加水分解する方法を好ましく例示することができる。
【0105】
本発明に用いられる金属アルコキシド加水分解生成物は、金属アルコキシド類の2倍当量以上の水で加水分解することによって得られる生成物である。該加水分解生成物は、金属アルコキシド類を該金属アルコキシド類の2倍当量以上の水で加水分解することによって得られたものであっても、金属アルコキシド類を該金属アルコキシド類の2倍当量未満の水で部分加水分解することによって、金属アルコキシド類の部分加水分解生成物を得た後、この部分加水分解生成物を、さらに所定量の水(先の部分加水分解に使用した水の量との合計で金属アルコキシド類の2倍当量以上となる量の水)で加水分解することによって得られたものであってもよい。
【0106】
キレート化又は配位化された金属化合物は、金属化合物の溶液に、該金属化合物の金属と錯体を形成し得るキレート化剤又は配位化合物を添加することで、調製することができる。キレート化剤又は配位化合物としては、金属水酸化物、金属アルコキシド類、又は金属アルコキシド類を水で処理して得られた加水分解生成物の金属にキレート化又は配位して、錯体を形成し得るものであれば特に限定されない。
キレート化剤又は配位化合物としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪族カルボン酸類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、アレイン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;安息香酸、トルイル酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸類;クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲノカルボン酸類;アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン等のβ−ジケトン類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のβ−ケトエステル類;テトラヒドロフラン、フラン、フランカルボン酸、チオフェン、チオフェンカルボン酸、ピリジン、ニコチン酸、イソニコチン酸等の複素環化合物類;等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0107】
シラノール縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート等を例示することができる。
具体的には、酢酸第一スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第一スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレート、チタンテトラエトキサイド、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、チタンビス(アセチルアセトニル)ジプロポキサイド等を例示することができる。
【0108】
酸触媒としては、塩酸、硝酸、ホウ酸、ホウフッ化水素酸等の鉱酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、炭酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸等を例示することができ、さらには、光照射によって酸を発生する光酸発生剤、具体的には、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等を例示することができる。
【0109】
少なくとも1以上の加水分解性基を有する金属系界面活性剤、該金属系界面活性剤と相互作用し得る化合物及び水を含む有機溶媒溶液中における水の含有量は、10ppm〜2000ppmが好ましい。水分含量を所定量範囲内になるように調整するか又は保持する方法としては、(i)前記有機溶媒溶液に接触して水層を設ける方法、(ii)水分を含ませた保水性物質を共存させておく方法、(iii)水分を含む気体を吹き込む方法、等を挙げることができる。
【0110】
有機無機複合系薄膜を有する有機無機複合体上に金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層を設けるには、上記有機溶媒溶液を、ディップ法、スピンコート法、スプレー法、ローラコート法、メイヤーバー法、スクリーン印刷、刷毛塗り法等の方法、好ましくはディップ法により、有機無機複合体上の有機無機複合系薄膜に接触させることにより行うことができる。
【実施例】
【0111】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
本実施例において、「大気圧プラズマ処理」は、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業(株)製)を用い、窒素ガスにより発生したプラズマを有機無機複合系薄膜に照射した。当該基材処理のための基材搬送速度は20m/分で行った。
「UVオゾン処理」は、アイUVオゾン洗浄装置(岩崎電機(株)製)を用い、有機無機複合系薄膜を10分間洗浄した。
【0112】
各薄膜の評価は以下の方法により行った。
薄膜表面からの深度に対する炭素原子の元素濃度及び酸素/ケイ素元素比は、ESCA分析により決定した。
薄膜の密着力測定は、180度ピール試験により評価した。試験はJIS Z 0237(粘着テープ、粘着シート試験方法)に準拠して実施した。長さ300mmにカットした有機無機複合膜に粘着テープ(ポリエステル製31Bテープ、幅10mm。日東電工(株)製)を1kgのローラーで2往復することで圧着した。この有機無機複合膜と粘着テープを300mm/分の速度で150mm引き剥がし、最初の25mm分のデータを除いた125mm分の試験応力の平均値を測定した。
薄膜の静的接触角は、接触角測定装置として、Drop Master(協和界面科学製)を用い、水2μlの撥水性、n−テトラデカン7μlの撥油性を評価した。
薄膜の平均表面粗さは、SPI3800NおよびSPA400ユニット(いずれもエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製)を用い、AFMモードで測定した。AFM測定にはSN−AF01カンチレバーを使用し、走査速度1Hzで10μm四方の範囲を測定した。測定した形状像のデータより表面粗さの大きさを求めた。
薄膜の断面観察は、集束イオンビームで試料の切片を加工した後、透過電子顕微鏡(FE−TEM;日立製 HF−2000)を用いて実施した。断面観察は、加速電圧は200kV、観察倍率は100万倍で行った。
【0113】
[実施例1]
(有機無機複合系薄膜形成用溶液の調製)
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン(日本曹達(株)製、「T−50」、酸化チタン換算固形分:16.5質量%)264.7gを、工業用エタノール(日本アルコール販売製、「ソルミックス(登録商標)AP−7」)137.3gに溶解した後、攪拌しながらイオン交換水51.1gを加えた。この溶液を40℃に加温しながら、2時間攪拌し加水分解させ、黄色透明な金属化合物の加水分解物溶液[A−1](酸化チタン換算固形分5.0質量%)を得た。
ビニルトリメトキシシラン[B−1](信越化学工業(株)製、「KBM−1003」)264.8gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン[B−2](信越化学工業(株)製、「KBM−503」)190.2gを混合した液[C−1]([B−1]/[B−2]=70/30:モル)を調製した。次に、[A−1]453.1gと[C−1]455.0gを攪拌混合し、イオン交換水を92.0g加え1日攪拌し縮合した液[D−1]を作製した。
ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「UV7600B」)451.8gをメチルイソブチルケトン364.1gに溶解させた。この溶液に光重合開始剤として2−メチル−1−(メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(BASF製「Irgacure(登録商標)907」)18.1gを溶解させ、溶液[E−1]を得た。
固形分の割合が[D−1]/[E−1]=10質量%/90質量%となるように、[D−1]166.1gと[E−1]834.0gを混合させ有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−1](固形分濃度52.0質量%)を作製した。
(有機無機複合系薄膜の作製)
有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−1]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量473mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、マイクログラビアコーター(康井精機社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜した。さらに、この塗膜表面に大気圧プラズマ処理を行い、膜厚5μmの有機無機複合系薄膜[X−1]を得た(図1)。
大気プラズマ処理の前後での膜表面の凹凸を測定したところ、平均表面粗さは、処理前3.0nm(図2)、処理後2.8nm(図3)で全く変化がなかった。
【0114】
[実施例2]
実施例1で使用した有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−1]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量473mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、マイクログラビアコーター(康井精機社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜した。さらに、この塗膜表面にUVオゾン処理を行い、膜厚5μmの有機無機複合系薄膜[X−2](図4)を得た。
有機無機複合系薄膜[X−2]の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、表面から40.7nmの厚さでシロキサン濃縮層が観測され、そのうちさらに表面から15.5nmの厚さに無機質化した部分が観測された(図5)。
【0115】
[実施例3]
(有機無機複合系薄膜形成用溶液の調製)
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン(日本曹達(株)製、「T−50」、酸化チタン換算固形分:16.5質量%)144.7gを、工業用エタノール(日本アルコール販売製、「ソルミックス(登録商標)AP−7」)279.0gに溶解した後、攪拌しながらイオン交換水53.8gを加えた。この溶液を40℃に加温しながら、2時間攪拌し加水分解させ、黄色透明な金属化合物の加水分解物溶液[A−2](酸化チタン換算固形分5.0質量%)を得た。
ビニルトリメトキシシラン[B−1](信越化学工業(株)製、「KBM−1003」)358.8gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン[B−2](信越化学工業(株)製、「KBM−503」)66.8gを混合した液[C−2]([B−1]/[B−2]=90/10:モル比)を調製した。次に、[A−2]477.5gと[C−2]425.6gを攪拌混合し、イオン交換水を96.9g加え1日攪拌し縮合した液[D−2]を作製した。
ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「UV7600B」)466.2gをメチルイソブチルケトン318.7gに溶解させた。この溶液に光重合開始剤として2−メチル−1−(メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(BASF製「Irgacure(登録商標)907」)18.7gを溶解させ、溶液[E−2]を得た。
固形分の割合が[D−2]/[E−2]=10質量%/90質量%となるように、[D−2]196.5gと[E−2]803.6gを混合させ有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−2](固形分濃度54.4質量%)を作製した。
(有機無機複合系薄膜の作製)
有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−2]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量473mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、バーコーター(テスター産業社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜し、膜厚5μmの有機無機複合系薄膜[X−3]を得た。
【0116】
[実施例4]
(有機無機複合系薄膜形成用溶液の調製)
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン(日本曹達(株)製、「T−50」、酸化チタン換算固形分:16.5質量%)130.6gを、工業用エタノール(日本アルコール販売製、「ソルミックス(登録商標)AP−7」)251.8gに溶解した後、攪拌しながらイオン交換水48.6gを加えた。この溶液を40℃に加温しながら、2時間攪拌し加水分解させ、黄色透明な金属化合物の加水分解物溶液[A−3](酸化チタン換算固形分5.0質量%)を得た。
ビニルトリメトキシシラン[B−1](信越化学工業(株)製、「KBM−1003」)179.9gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン[B−2](信越化学工業(株)製、「KBM−503」)301.6gを混合した液[C−3]([B−1]/[B−2]=50/50:モル比)を調製した。次に、[A−3]431.0gと[C−3]481.5gを攪拌混合し、イオン交換水を87.5g加え1日攪拌し縮合した液[D−3]を作製した。
ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業(株)製、「UV7600B」)486.7gをメチルイソブチルケトン332.6gに溶解させた。この溶液に光重合開始剤として2−メチル−1−(メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(BASF製「Irgacure(登録商標)907」)19.5gを溶解させ、溶液[E−3]を得た。
固形分の割合が[D−3]/[E−3]=10質量%/90質量%となるように、[D−3]161.2gと[E−3]838.8gを混合させ有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−3](固形分濃度55.5質量%)を作製した。
(有機無機複合系薄膜の作製)
有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−3]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量500mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、バーコーター(テスター産業社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜した。さらに、この塗膜表面に大気圧プラズマ処理を行い、膜厚5μmの有機無機複合系薄膜[X−4]を得た。
【0117】
[比較例1]
実施例4で使用した有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−3]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量473mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、マイクログラビアコーター(康井精機社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜し膜厚5μmの有機無機複合系薄膜を得た[Z−1]
【0118】
実施例1〜4及び比較例1で得られた各有機無機複合系薄膜のESCA分析、密着力試験、静的接触角試験の結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
[実施例5]
実施例1で作製した有機無機複合系薄膜[X−1]を単分子膜形成剤(日本曹達(株)製SAMLAY−A(登録商標))に30秒間浸漬した後、引き上げ、NSクリーン100(登録商標、(株)ジャパンエナジー製)でリンス洗浄した。洗浄後の薄膜を乾燥することで、単分子膜処理した有機無機複合系薄膜[Y−1]を得た。
【0121】
[実施例6]
実施例2で作製した有機無機複合系薄膜[X−2]を用いて、実施例5と同様の処理を行うことで、単分子膜処理した有機無機複合系薄膜[Y−2]を得た。
【0122】
[実施例7]
実施例4で作製した有機無機複合系薄膜[X−4]を用いて、実施例5と同様の処理を行うことで、単分子膜処理した有機無機複合系薄膜[Y−3]を得た。
【0123】
[比較例2]
(ケイ素化合物を含まない、紫外線硬化樹脂薄膜の形成)
実施例1で作製した紫外線硬化樹脂溶液[E−1]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量473mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、マイクログラビアコーター(康井精機社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜し、膜厚5μmの紫外線硬化樹脂薄膜を得た。大気圧プラズマ処理した後に、実施例5と同様の方法で単分子膜処理を行い膜[Z−2]を得た。
【0124】
実施例5〜7及び比較例2で得られた単分子膜処理後の薄膜の密着力試験及び静的接触角試験の結果を表2に示す。
【0125】
【表2】

【0126】
[実施例8]
実施例3で使用した有機無機複合系薄膜形成用溶液[F−2]を、乾燥温度80℃、積算UV照射量500mJ/cm(アイグラフィック社製高圧水銀灯)の条件で、バーコーター(テスター産業社製)を用いてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4300」)上に成膜した。さらに、この塗膜表面にUVオゾン処理を行い、膜厚5μmの有機無機複合系薄膜[X−5]を得た。
【0127】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、表面が非常に高い硬度を有すると共に、内部及び裏面側が適当な硬度を有しつつ、かつ基体との密着性、耐湿性に優れた有機無機複合体を提供することができる。
【0129】
本発明の薄膜は、表面が極性の高いSiO状の構造を有しているので、各種の膜を積層した時の層間密着性に優れている。例えば、市販されている多くのシリコン系硬化膜の場合、その撥水性のために印刷インクとの密着性が問題になっているが、本発明の薄膜はインクとの密着性が良好である。また、無機薄膜との密着性にも優れている。無機薄膜としては、TiOなどの光触媒膜、ITO、SnO系薄膜などの導電性薄膜、Ta、PZTなどの誘電・圧電薄膜、SiO、MgO、MgFなどの低屈折率膜、TiO、ZrOなどの高屈折率膜など通常、樹脂の上には密着し難く、Siウェハーやガラス基板上への成膜されているような無機膜や、金属Al、金属Cr、金属Cu、金属Ag、金属Auなどの真空蒸着、スパッタ、メッキなどで成膜される金属膜との密着性にも優れている。
また、シランカップリング処理による表面処理も可能で、表面を撥水撥油性に変えたり、アミノ基を導入し、メッキ密着性を付与したり、各種処理が容易である。
【0130】
本発明の薄膜は、加熱硬化と紫外線硬化の2段階で製造される。加熱処理では有機ケイ素化合物の加水分解・重縮合が進行し、ポリシロキサンへと変化し硬化していく。しかし、紫外線硬化性化合物は加熱では硬化が進行しにくいので、有機ケイ素化合物の種類、紫外線硬化性化合物の種類およびその混合割合を適宜選択することにより、加熱処理後の膜は成型できる特長をもつ。
【0131】
本発明の薄膜は、例えば、加熱処理後の膜へ型により凹凸のパターン形成をすることも可能である。エンボス加工やナノインプリントなどにより各種のパターンを形成できる。その後、紫外線照射により、そのパターンを保持した状態で、紫外線硬化性化合物の硬化および表面のシロキサンのSiO化により本特徴である表面無機化ハードコート膜が形成できる。
【0132】
また、同様の方法で、転写法による膜形成も可能である。剥離膜処理されたフィルム(例えばポリエステルフィルム)に本発明の組成物をコートし、加熱処理した段階の膜を形成し、これを紫外線照射する前に転写箔として使用し、各種基材に熱、圧力、粘着剤などの力により膜を転写し、その後紫外線照射する方法である。
【0133】
インモールド成型時の転写箔としての使用も可能である。本発明の薄膜は、印刷適合性(インクとの密着性)に優れているので本発明の組成物を塗った上に各種柄を印刷した状態でインモールド成型し、その後紫外線照射すれば、柄とハードコート膜が同時に成形体に転写できる。曲面のある成形体へのハードコート膜形成法として有用である。
【0134】
こうして形成された薄膜は、ハードコート膜以外にも、ガスバリアー膜、帯電防止膜、UVカット膜、反射防止膜等として用いることができる。ハードコート膜の適用例としては、例えば、自動車のガラス、ヘッドライト、外装部品、内装部品、電装部品、サンルーフ;携帯電話のフロントケース、リアケース、バッテリーケース;眼鏡レンズ;光ディスク;建材化粧シート、フィルム;テレビ前面パネル;CRTカバー;ビデオリフレクター等を挙げることができる。
また、本発明の薄膜は、これ等の製品を作製するための金型にも使用することもでき、産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)式(I)
SiX4−n (I)
(式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物の縮合物、及び、
b)有機高分子化合物
を含有する有機無機複合系薄膜であって、
該膜の表面に式(I)で表される有機ケイ素化合物の縮合物が濃縮した層が形成されており、表面から10nmの深さの炭素原子の濃度が、表面から100nmの深さの炭素原子の濃度より20%以上少なく、さらに、膜の表面から2nmの深さのO/Si元素比が1.8〜2.5である有機無機複合系薄膜。
【請求項2】
更に、c)チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステン及び鉛から成る群より選ばれた金属元素を有する金属化合物を含有する請求項1に記載の有機無機複合系薄膜。
【請求項3】
式(I)中のRがビニル基である化合物の縮合物を有機ケイ素化合物の縮合物全体の70質量%以上含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機無機複合系薄膜。
【請求項4】
表面から100nmの深さにおけるSi/C元素比が0.2以下であることを特徴とする、請求項1〜3に記載の有機無機複合系薄膜。
【請求項5】
有機無機複合系薄膜の外側に、さらに、金属界面活性剤の加水分解縮合物を含有する層を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の有機無機複合系薄膜。
【請求項6】
金属界面活性剤がシランカップリング剤であることを特徴とする、請求項5に記載の有機無機複合系薄膜。
【請求項7】
a)式(I)
SiX4−n (I)
(式中、RはSiに炭素原子が直接結合する有機基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表す。nは1又は2を表し、nが2のとき各Rは同一でも異なっていてもよく、(4−n)が2以上のとき各Xは同一でも異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物の縮合物、及び、
b)有機高分子化合物
を含有する有機無機複合系薄膜に、プラズマ処理、もしくはUVオゾン処理を施すことを特徴とする有機無機複合系薄膜の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108050(P2013−108050A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25243(P2012−25243)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】