説明

有機無機複合組成物、成形体および光学部品

【課題】無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性と高い屈折率とを有する有機無機複合組成物の提供。
【解決手段】側鎖に芳香族ヘテロ環基を有し、主鎖に−COO−結合を有する繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含む有機無機複合組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れる有機無機複合組成物、その成形体、並びに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、低分散性(すなわち高いアッベ数)、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献1および2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。また、光ファイバーや光導波路では、異なる屈折率を有する材料を併用したり、屈折率に分布を有する材料を使用する。これらに対応するために、屈折率を任意に調節できる技術の開発も望まれている。
【0004】
有機物のみで屈折率を高めることは難しいことから、高屈折率を有する無機微粒子を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる手法が報告されている(例えば、特許文献4参照)。また、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリックス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の1次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリックス中に均一に分散させることは極めて難しかった。また、レンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得なかった。このため、これらの無機微粒子を分散させた熱可塑性樹脂を成型した成形体では、透明性を低下させずに無機微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散させて屈折率を高めることはこれまでできなかった。
【0005】
また、数平均粒子サイズ0.5〜50nmの超微粒子が分散した熱可塑性樹脂組成物を主体とする成形体であって、光波長1mm当たりの複屈折率の平均が10nm以下である樹脂組成物成形体(例えば、特許文献5)や、特定の数式で示される屈折率およびアッベ数を有する熱可塑性樹脂と、特定の平均粒子直径と屈折率とを有する無機微粒子とからなる熱可塑性材料組成物およびこれを用いた光学部品が報告されている(例えば、特許文献6〜8)。これらも樹脂中に無機微粒子を分散させたものであるが、いずれも樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散させて屈折率を高めるといった観点からは十分な性能を発揮するものではなかった。
【0006】
これに対し、有機無機複合組成物として、例えば、表面有機修飾した無機微粒子と、酸性基含有樹脂を溶融混練する方法が報告されているが、無機微粒子の添加量は1質量%程度であり、得られる成形体の屈折率を高める観点からは充分とはいえない(特許文献9)。
また、無機微粒子の表面修飾基と樹脂をリンカーを介して結合させる有機無機複合組成物を成型したフィルムも報告されているが(特許文献10)、高屈折率のレンズに使用可能な厚い成形体としたときの光学特性に関しては何ら記載されていない。また特許文献10に記載の有機無機複合組成物は結合形成に高温を要するなど操作が煩雑であり、ゲル化の懸念もあることから成形加工性の観点から充分な性能を発揮するのもではなかった。
近年、フルオレン骨格を有する縮合樹脂を用いた有機無機複合組成物も提案されているが(特許文献11)、スピンコート法によって製膜したフィルムのみが開示されており、高屈折率のレンズに使用可能な厚い成形体としたときの透明性に関しては何ら記載されていない。
【0007】
一方、高屈折率で、低複屈折な熱可塑性樹脂として、フルオレン構造をもつポリエステルが開示されている(特許文献12参照)。詳しくは、特許文献12では9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いたポリエステル系共重合体の耐熱性および成形性を改良するために、ジヒドロキシ成分として9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンおよびエチレングリコールを用いた芳香族ジカルボン酸とのポリエステル系共重合体を開示している。しかしながら、該文献で開示されているポリエステル系共重合体は確かに成形性が改善されているものの、屈折率は高々1.63程度であり、依然として高屈折率化の要求に対して充分とは言えない。また、特許文献12に開示されているフルオレン構造を含むポリエステル系共重合体は無置換体のみであり、置換基の屈折率への影響、特に側鎖にヘテロ環基を有するときの屈折率への影響についても開示されていない。さらに、該文献では無機微粒子を分散させることについて検討すらしていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2003−73559号公報
【特許文献5】特開2003−147090号公報
【特許文献6】特開2003−73563号公報
【特許文献7】特開2003−73564号公報
【特許文献8】特開2004−524396号公報
【特許文献9】特開2004−217714号公報
【特許文献10】特表2004−352975号公報
【特許文献11】特開2008−1820号公報
【特許文献12】特開平7−198901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、高屈折性および透明性を併せもち、さらにガラスと比較したときに十分な耐熱性および軽量性を併せもち、さらには屈折率を高く任意に制御できる有機無機複合組成物、およびそれを含んで構成される光学部品は未だ見出されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は前記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性と高い屈折率とを有する有機無機複合組成物、並びに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高屈折率を有する透明性に優れた特定の熱可塑性樹脂と無機微粒子とを原料とした有機無機複合組成物が、無機微粒子の均一分散効果により、高屈折性と優れた透明性とを有することを見出し、以下に記載する本発明の完成に至った。
【0011】
[1] 側鎖に芳香族ヘテロ環基を有し、主鎖に−COO−結合を有する繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含む有機無機複合組成物。
[2] 前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(1)に記載のジオール成分、および、一般式(2)に記載のジカルボン酸成分の少なくともいずれか一方を繰り返し単位として含むことを特徴とする[1]に記載の有機無機複合組成物。
【化1】

(一般式(1)および一般式(2)中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に2価の連結基を表し、Ht1およびHt2はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子および酸素原子から選ばれる1以上の原子から構成される2価の連結基、もしくは単結合を表す。n1およびn2は1〜4の整数を表す。)
[3] 前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(3)で表される化合物を重合させて得られる繰り返し単位を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合組成物。
【化2】

(一般式(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ar1〜Ar4はそれぞれ独立に2価の芳香環基を表す。L3およびL4はそれぞれ独立にヒドロキシル基を有する炭素数1〜3の2価の連結基を表す。Ht3およびHt4はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。)
[4] 前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(4)で表される化合物を重合させて得られる繰り返し単位を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【化3】

(一般式(4)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ht5およびHt6はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。)
[5] 前記芳香族ヘテロ環基がベンゾチアゾール基、ベンズオキサゾール基またはベンズイミダゾール基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[6] 前記熱可塑性樹脂が、前記無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[7] 前記熱可塑性樹脂が、下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【化4】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OH、または−Si(OR17m1183-m1[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
[8] 前記熱可塑性樹脂が、前記官能基をポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個有していることを特徴とする[7]に記載の有機無機複合組成物。
[9] 前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[10] 前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[11] 前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜15nmであることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[12] 前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[13] [1]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
[14] 波長589nmにおいて厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であることを特徴とする[13]に記載の成形体。
[15] 波長589nmにおける屈折率が1.66以上であることを特徴とする[13]または[14]に記載の成形体。
[16] 最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする[13]〜[15]のいずれか一項に記載の成形体。
[17] 請求項13〜16のいずれか一項に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
[18] レンズ基材であることを特徴とする[17]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機無機複合組成物および光学部材は、高屈折性および透明性に優れることに加え、ガラスレンズと比較したときに十分な耐熱性と軽量性を併せ持つ。また、本発明によれば屈折率を任意に制御することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の有機無機複合組成物およびそれを含んで構成されるレンズ基材等の光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[有機無機複合組成物]
本発明の有機無機複合組成物は、側鎖に芳香族ヘテロ環基を有し、主鎖に−COO−結合を有する繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含むことを特徴とする。
【0015】
<熱可塑性樹脂>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂はポリエステルまたはポリカーボネートであることが好ましく、ポリエステルであることがより好ましい。また、ポリエステルの中でも、ポリアリレートなどの芳香族ジカルボン酸を含むポリエステルが特に好ましい。
また、本発明の成形体を得る際には、本発明の本発明の有機無機複合組成物単体を成形してもよいし、本発明の本発明の有機無機複合組成物とその他のポリマーやその他の成分を含む混合物を成形してもよい。その中でも本発明では、本発明の本発明の有機無機複合組成物単体を成形することが高屈折率化の観点から好ましい。
以下、本発明に用いられる熱可塑性樹脂の特徴を詳細に説明する。
【0016】
前記熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)に記載のジオール成分、および、一般式(2)に記載のジカルボン酸成分の少なくともいずれか一方を繰り返し単位として含むことが好ましい。
【0017】
【化5】

【0018】
一般式(1)および一般式(2)中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に2価の連結基を表し、Ht1およびHt2はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子および酸素原子から選ばれる1以上の原子から構成される2価の連結基、もしくは単結合を表す。n1およびn2は1〜4の整数を表す。
【0019】
前記Q1は、2価の連結基の中でも炭素数2〜50の2価の連結基が好ましく、炭素数2〜40の2価の連結基がより好ましい。前記Q1は芳香環を含むことも好ましく、芳香環とカルド構造の環を含むことがより好ましく、フルオレン環を含むことが特に好ましい。
前記Q2は2価の連結基の中でも炭素数2〜30の2価の連結基が好ましく、炭素数2〜20の2価の連結基がより好ましく、炭素数6〜18の2価の芳香環基であることが特に好ましく、炭素数6〜10の2価の芳香環基であることがより特に好ましい。
前記Q1および前記Q2としては、例えば、下記の2価の連結基およびこれらの誘導体を挙げることができる。なお、本発明はこれらの具体例によって限定されるものではない。また「*」は、隣接する原子との連結部を表す。
【0020】
【化6】

【0021】
前記Ht1および前記Ht2はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表し、炭素数20以下の芳香族ヘテロ環基が好ましく、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含む芳香族ヘテロ環基がより好ましく、ベンズアゾール類であることが特に好ましく、ベンゾチアゾール基、ベンズオキサゾール基またはベンズイミダゾール基であることがより特に好ましい。
【0022】
前記L1および前記L2は、炭素原子と水素原子とからなる2価の連結基;炭素原子、水素原子および酸素原子からなる2価の連結基;または単結合であることが好ましく、アルキレン基、フェニレン基、−O−および単結合からなる群より選ばれる1つの基または2以上の基の組合せであることがより好ましい。
前記L1と前記Q1が連結する場所や、前記Q2と前記L2が結合する場所についても特に制限はない。
【0023】
前記n1および前記n2はそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、1または2が好ましい。
【0024】
上記Q1、Q2、Ht1およびHt2、L1、L2は置換基を有してもよい。置換基に特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基)、置換または無置換のカルバモイル基(例えば、カルバモイル基、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル基)、アルキルカルボニル基(例えば、アセチル基)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基)、ニトロ基、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド基、エトキシカルボニルアミノ基)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基)、イミド基(例えば、スクシンイミド基、フタルイミド基)、イミノ基(例えば、ベンジリデンアミノ基)、アルコキシ基(例えばメトキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基)、アルキルスルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニリオキシ基)、アリールスルホニルオキシ基(例えば、ベンゼンスルホニルオキシ基)、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基(例えば、スルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基)、アルキルスルホニル基(例えば、メタンスルホニル基)、アリールスルホニル基(例えば、ベンゼンスルホニル基)、ヘテロ環類などを挙げることができる。
【0025】
置換基はさらに置換されていてもよく、置換基が複数ある場合は、各置換基が同一でも異なっていてもよい。また置換基は縮合環を形成していてもよい。置換基として好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基であり、さらに好ましくは、アルキル基、アリール基である。
【0026】
前記一般式(1)に記載のジオール成分は、下記一般式(1−1)で表される単位構造であることがより好ましい。
【0027】
【化7】

【0028】
一般式(1−1)中、L11は2価の連結基を表し、Htは芳香族ヘテロ環基を表す。
前記L11は炭素原子と水素原子とからなる連結基;炭素原子、水素原子および酸素原子からなる連結基;または単結合であることが好ましく、アルキレン基、フェニレン基、−O−、−OCO−、2価の縮合環基および単結合からなる群より選ばれる1つの基または2以上の基の組合せであることがより好ましい。また、前記L11はさらに置換基を有していてもよく、好ましい置換基は、前記Q1、Q2、Ht1、Ht2、L1およびL2の好ましい置換基の例と同様である。
一般式(1−1)におけるHtは、一般式(1)におけるHt1およびHt2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0029】
前記一般式(1)に記載のジオール成分は、下記一般式(1−2)で表される単位構造であることがより好ましい。
【化8】

【0030】
一般式(1−2)中、R5およびR6は置換基を表し、Ht11およびHt12は芳香族ヘテロ環基を表す。
【0031】
前記R5およびR6として好ましい置換基は、前記Q1、Q2、Ht1、Ht2、L1およびL2の好ましい置換基の例と同様である。
前記R5およびR6が互いに連結して環構造を形成する場合、カルド構造であることが好ましく、フルオレン骨格を形成することがより好ましい。
一般式(1−2)におけるHt11およびHt12は、一般式(1)におけるHt1およびHt2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0032】
以下に、重合によって一般式(1)で表される繰り返し単位を形成することができるジオールモノマーの具体例MA−1〜MA−22と、重合によって一般式(2)で表される繰り返し単位を形成することができるジカルボン酸モノマーの具体例MB−1〜MB−11を挙げるが、本発明に用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
(共重合可能なモノマー)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成するジオール成分またはその誘導体や、一般式(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成するジカルボン酸成分またはその誘導体を共重合成分として含むことができる。
【0037】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成するジオール成分またはその誘導体の種類については特に制限はないが、好ましい例として以下のジオールモノマーを挙げることができる。
【0038】
MC−1 エチレングリコール
MC−2 プロピレングリコール
MC−3 1,3−ブタンオール
MC−4 テトラメチレングリコール
MC−5 ヘキサンジオール
MC−6 ジエチレングリコール
MC−7 1,4−シクロヘキサンジオール
MC−8 1,4−シクロヘキサンジメタノール
MC−9 4,4’−ビフェノール
【0039】
【化12】

【0040】
MC−41〜71:MC−10〜40のエチレンオキサイド付加体
【0041】
これらの共重合可能なジオールモノマーは置換基を有してもよい。置換基はさらに置換されていてもよく、置換基が複数ある場合は、各置換基が同一でも異なっていてもよい。また置換基は縮合環を形成していてもよい。置換基として好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子およびアルキル基である。
【0042】
前記一般式(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を構成するジカルボン酸成分またはその誘導体の種類については特に制限はないが、好ましい例として以下のジカルボン酸モノマーを挙げることができる。
【0043】
【化13】

【0044】
これらの共重合可能なジカルボン酸モノマーは置換基を有してもよい。置換基はさらに置換されていてもよく、置換基が複数ある場合は、各置換基が同一でも異なっていてもよい。また置換基は縮合環を形成していてもよい。置換基として好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基である。
【0045】
ジカルボン酸モノマーを重合反応に供する場合、エステル結合形成可能な誘導体(酸クロライド、酸無水物、エステル)を用いてもよい。
【0046】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂中の、全ジオール成分に対する一般式(1)で表される繰返し単位を構成するジオール成分のモル分率は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂が一般式(2)で表される繰り返し単位を含まない場合は、本発明のポリマー中の全ジカルボン酸成分に対する一般式(1)で表される繰り返し単位を構成するジオール成分のモル分率は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0047】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂中の、全ジカルボン酸成分に対する一般式(2)で表される繰返し単位を構成するジオール成分のモル分率は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂が一般式(1)で表される繰り返し単位を含まない場合は、本発明のポリマー中の全ジカルボン酸成分に対する一般式(2)で表される繰り返し単位を構成するジオール成分のモル分率は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0048】
(無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂には、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基が導入されていることが好ましく、該官能基がポリマー鎖の非末端に導入されていることが寄り好ましい。ポリマー鎖の非末端に導入された官能基とは、具体的には、ポリマー鎖の側鎖に結合した官能基や、ポリマー鎖の末端以外でポリマー鎖を構成する原子に直接結合した官能基をいう。典型的な例としては、ポリマーを構成する繰返し単位に結合している官能基である。
【0049】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、無機微粒子との相溶性向上のために無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有することが好ましい。そのような官能基として、以下の構造を有する官能基を例示することができる。
【化14】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OH、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
【0050】
11、R12、R13、R14、R15、R16の好ましい範囲は、次の範囲である。
アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。アルケニル基は、炭素数2〜30が好ましく、より好ましくは炭素数2〜20であり、例えばビニル基、2−フェニルエテニル基を挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル基、2−フェニルエチニル基を挙げることができる。アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。R11、R12、R13、R14として特に好ましいのは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましいのは水素原子である。
17、R18の好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14、R15、R16と同様である。nは、好ましくは3である。
【0051】
上記のうち塩を形成しうる官能基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0052】
これらの官能基の中でも、好ましくは、
【化15】

−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、または−Si(OR17m1183-m1であり、より好ましくは、
【化16】

−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩であり、さらに好ましくは、
【化17】

または−CO2Hまたはその塩である。
【0053】
無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を熱可塑性樹脂中に導入するには、該官能基もしくはその前駆体を有する重合性モノマーを用いて重合反応を行う方法や、樹脂を反応剤と反応させて該官能基もしくはその前駆体を導入する方法(例えば、樹脂の末端水酸基と該官能基挿入可能な反応剤とを反応させる方法)を挙げることができる。
【0054】
重合反応によって樹脂を得る場合、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーとして、ジオール化合物、ジカルボン酸化合物など、本発明で用いる他のモノマーと重合反応できるモノマーを採用することができる。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマー好ましい例として以下のME−1〜ME−17を挙げることができるが、本発明で使用することができる官能基を有するモノマーはこれらに限定されない。
【0055】
【化18】

【0056】
なお、これらモノマーに含まれる無機微粒子吸着性官能基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等のカチオンと塩を形成していてもよい。カルボキシル基を2つ以上含むモノマー(MC−5、MC−9)は、2つのカルボキシル基が縮合反応に供され、残りのカルボキシル基が無機微粒子吸着性官能基として供される。
【0057】
本発明において、上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが無機微粒子分散性の観点から好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。
【0058】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、公知の方法で合成できる。例えば、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(2)縮合系高分子の合成(高分子学会編)になどに記載の方法で合成することができる。
【0059】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、屈折率が1.64以上であることが好ましく、1.65以上であることがより好ましい。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社DR−M4)にて波長589nmの光について測定した値である。
【0060】
また本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、高アッベ数、具体的にはアッベ数45〜60のレンズと組み合わせて、色収差の補正を行うのに相応しいアッベ数を有することが好ましく、具体的にはアッベ数が15〜35程度であることが好ましく、アッベ数が17〜30程度であることがより好ましい。
【0061】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であることが好ましく、120〜400℃であることが好ましく、150〜300℃であることがさらに好ましい。Tgが200℃以上であれば、耐熱性を求められる用途でも優れた性能を発揮することができる。
【0062】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂の分子量は、重量平均分子量で5,000〜300,000(ポリスチレン換算)であることが好ましく、8,000〜200,000であることがより好ましく、10,000〜150,000であることが最も好ましい。分子量10,000〜150,000程度であれば、レンズ、フィルムとした場合に十分な機械的強度が得られる。
【0063】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0064】
(熱可塑性樹脂の具体例)
以下に本発明で用いられる好ましい熱可塑性樹脂の例を示すが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
以下の表では、ポリエステル系樹脂の具体例を、ジオール成分、ジカルボン酸成分、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーの組合せとして表記している。なお、熱可塑性樹脂中の無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0065】
【表1】

【0066】
その他の熱可塑性樹脂として、以下の例も挙げることができる。
【0067】
【化19】

【0068】
これらの熱可塑性樹脂は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、ガラス転移温度はP−36は125℃であり、P−37は120℃である。
【0069】
<本発明に用いられる熱可塑性樹脂の製造方法>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、公知の方法で合成できる。例えば、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(2)縮合系高分子の合成(高分子学会編)などに記載の方法で合成することができる。
【0070】
(単量体)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(3)で表される化合物を単量体として用い、単独または共重合させて合成することが好ましい。すなわち本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(3)単量体を重合させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0071】
【化20】

(一般式(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ar1〜Ar4はそれぞれ独立に2価の芳香環基を表す。L3およびL4はそれぞれ独立にヒドロキシル基を有する炭素数1〜3の2価の連結基を表す。Ht3およびHt4はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。)
【0072】
一般式(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ar1〜Ar4はそれぞれ独立に2価の芳香環基を表す。L3およびL4はそれぞれ独立にヒドロキシル基を有する炭素数1〜3の2価の連結基を表す。Ht3およびHt4はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。
前記R1およびR2として好ましい置換基は、前記Q1、Q2、Ht1、Ht2、L1およびL2の好ましい置換基の例と同様である。
前記R1およびR2が互いに連結して環構造を形成する場合、カルド構造であることが好ましく、フルオレン骨格を形成することがより好ましい。
前記Ar1〜Ar4は炭素数6〜10の芳香環基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
前記L3およびL4はヒドロキシル基を有する炭素数1〜3のアルキレン基またはアルコキシ基であることが好ましく、ヒドロキシル基を有する炭素数1〜3のアルコキシ基であることがより好ましい。
前記Ht3およびHt4は、一般式(1)におけるHt1およびHt2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0073】
前記単量体は、下記一般式(4)で表される構造であることがより好ましい。
【0074】
【化21】

【0075】
一般式(4)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ht5およびHt6はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。
前記R1およびR2は、一般式(3)におけるR1およびR2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記Ht5およびHt6は、一般式(1)におけるHt1およびHt2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0076】
(架橋樹脂)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂には、耐溶剤性、耐熱性などの観点から架橋樹脂を併用することができる。架橋樹脂の種類としては熱硬化性樹脂、放射線硬化樹脂のいずれも種々の公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0077】
熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。その他、架橋方法としては共有結合を形成する反応であれば特に制限なく用いることができ、ポリアルコール化合物とポリイソシアネート化合物を用いて、ウレタン結合を形成するような室温で反応が進行する系も特に制限なく使用できる。但し、このような系は製膜前のポットライフが問題となる場合が多く、通常、製膜直前にポリイソシアネート化合物を添加するような2液混合型として用いられる。
【0078】
一方、1液型で用いる場合、架橋反応に携わる官能基を保護しておくことが有効であり、ブロックタイプ硬化剤として市販もされている。市販されているブロックタイプ硬化剤として、三井武田ケミカル(株)製B−882N、日本ポリウレタン工業(株)製コロネート2513(以上ブロックポリイソシアネート)、三井サイテック(株)製サイメル303(メチル化メラミン樹脂)などが知られている。
【0079】
また、エポキシ樹脂の硬化剤として用いることのできるポリカルボン酸を保護した下記B−1のようなブロック化カルボン酸も知られている。
【0080】
【化22】

【0081】
放射線硬化樹脂の例としては、ラジカル硬化性樹脂とカチオン硬化性樹脂が挙げられる。ラジカル硬化性樹脂の硬化性成分としては、分子内に複数個のラジカル重合性基を有する化合物が用いられ、代表的な例として分子内に2〜6個のアクリル酸エステル基を有する多官能アクリレートモノマーと称される化合物やウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートと称される分子内に複数個のアクリル酸エステル基を有する化合物が用いられる。ラジカル硬化性樹脂の代表的な硬化方法として、電子線を照射する方法、紫外線を照射する方法が挙げられる。通常、紫外線を照射する方法においては紫外線照射によりラジカルを発生する重合開始剤を添加する。なお、加熱によりラジカルを発生する重合開始剤を添加すれば、熱硬化性樹脂として用いることもできる。
【0082】
カチオン硬化性樹脂の硬化性成分としては、分子内に複数個のカチオン重合性基を有する化合物が用いられ、代表的な硬化方法として紫外線の照射により酸を発生する光酸発生剤を添加し、紫外線を照射して硬化する方法が挙げられる。カチオン重合性化合物の例としては、エポキシ基などの開環重合性基を含む化合物やビニルエーテル基を含む化合物を挙げることができる。
【0083】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂において、上記の熱硬化性樹脂と放射線硬化樹脂のそれぞれ複数種を混合して用いてもよく、熱硬化性樹脂と放射線硬化樹脂とを併用してもよい。また、架橋性樹脂と架橋性基を有さないポリマーと混合して用いてもよい。
【0084】
さらに本発明に用いられる熱可塑性樹脂に上記の架橋性樹脂を混合して用いた場合、耐溶剤性、耐熱性、光学特性および強靭性が得られるため好ましい。また、本発明のポリマーを含む樹脂には架橋性基を導入することも可能であり、ポリマー主鎖末端、ポリマー側鎖、ポリマー主鎖中のいずれの部位に架橋性基を有していてもよい。この場合、上記で挙げた汎用の架橋性樹脂を併用しなくてもよい。
【0085】
(その他の樹脂)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋樹脂以外のその他の樹脂を混合することもできる。本発明に用いられる熱可塑性樹脂に混合される樹脂材料は、熱可塑性樹脂および硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0086】
熱可塑性樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、アクリロイル化合物などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であることが好ましい。
【0087】
上記熱可塑性樹脂のうち、好ましい例としては(括弧内はTgを示す)、ポリカーボネート樹脂(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン樹脂(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃、JSR(株)製 アートン:170℃)、ポリアリレート樹脂(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES:220℃)、ポリスルホン樹脂(PSF:190℃)、ポリエステル樹脂(例えば鐘紡(株)製 O−PET:125℃、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の実施例1の化合物:162℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂(BCF−PC:特開2000−227603号公報の実施例−4の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート樹脂(IP−PC:特開2000−227603号公報の実施例−5の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の実施例−1の化合物:300℃以上)のものを挙げることができる。
【0088】
<無機微粒子>
本発明に用いられる無機微粒子としては特に制限はなく、例えば特開2002−241612号公報、特開2005−298717号、2006−70069号各公報等に記載の微粒子を用いることができる。
【0089】
具体的には、酸化物微粒子(酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化錫等)、複酸化物微粒子(ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウムなど)、硫化物微粒子(硫化亜鉛、硫化カドミウム等)、その他半導体結晶微粒子(セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム等)、あるいはLiAlSiO4、PbTiO3、Sc2312、ZrW28、AlPO4、Nb25,LiNO3などを用いることができる。
【0090】
これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。
【0091】
本発明における無機微粒子は、屈折率、透明性、安定性などの観点から、複数の成分による複合物として用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドープしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、有機酸(カルボン酸類、スルホン酸類、リン酸類、ホスホン酸類等)などで表面修飾した微粒子であってもよい。さらに目的に応じて2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0092】
本発明において無機微粒子の屈折率の制限はないが、本発明の有機無機複合材料成形体が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、無機微粒子は上記熱温度依存性に加えて高屈折率特性を併せ持つことが好ましい。この場合、用いられる無機微粒子の屈折率は22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5の場合である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0093】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明の熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる無機微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0094】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均粒子サイズが大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、材料組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
【0095】
また本発明に用いられる無機微粒子は上記の平均粒子サイズを満たし、かつ粒子径分布が狭いほど望ましい。このような単分散粒子の定義の仕方はさまざまであるが、例えば特開2006−160992号公報に記載されるような数値規定範囲が本願で用いられる微粒子の好ましい粒径分布範囲にも当てはまる。
ここで、上述の数平均粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)などで測定することができる。
【0096】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、特開2007−238929号公報の[0078]〜[0082]に記載される方法を用いることができる。
【0097】
本発明の有機無機複合組成物における前記無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20%以上であることが好ましく、20〜95質量%がより好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、本発明における前記無機微粒子と前記熱可塑性樹脂(分散ポリマー)との質量比は、分散性の点から、1:0.01〜1:100が好ましく、1:0.05〜1:10がさらに好ましく、1:0.05〜1:5が特に好ましい。
【0098】
(添加剤)
本発明の有機無機複合組成物には、上記の熱可塑性樹脂や無機微粒子以外に、均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂の合計量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
添加剤の具体例については、特開2007−238929号公報の[0088]〜[0101]に記載される可塑剤などを挙げることができ、本発明においても適宜選択して用いることができる。以下に、本発明の有機無機複合組成物に好ましい用いられる表面処理剤について説明する。
【0099】
本発明では、後述するように水中またはアルコール溶媒中に分散された無機微粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性または置換性を高める目的、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記熱可塑性樹脂以外の微粒子表面修飾剤を添加してもよい。該表面処理剤の重量平均分子量は50〜50,000であることが好ましく、より好ましくは100〜20,000、さらに好ましくは200〜10,000である。
【0100】
前記表面処理剤としては、下記一般式(5)で表される構造を有するものが好ましい。
一般式(5)
A−B
【0101】
一般式(5)中、Aは本発明で用いられる無機微粒子の表面と化学結合を形成しうる官能基を表し、Bは本発明で用いられる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂マトリックスに対する相溶性または反応性を有する炭素数1〜30の1価の基またはポリマーを表す。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等をいう。
【0102】
Aで表わされる基の好ましい例は、本発明で用いられる熱可塑性樹脂の官能基として前記したものと同じである。
一方、Bで表される基の化学構造は、相溶性の観点から該樹脂マトリックスの主体である熱可塑性樹脂の化学構造と同一または類似するものであることが好ましい。本発明では特に高屈折率化の観点から、前記熱可塑性樹脂とともにBの化学構造が芳香環を有していることが好ましい。
【0103】
本発明で好ましく用いられる、表面処理剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ−α−ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
これらの表面処理剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
これら表面処理剤の添加量の総量は無機微粒子に対して、質量換算で0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0105】
<有機無機複合組成物の特性>
本発明の有機無機複合組成物の光線透過率は、波長589nmにおいて厚さ1mm換算で70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また波長405nmにおける光線透過率は60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、材料組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0106】
また本発明の有機無機複合組成物は波長589nmにおける屈折率が1.66以上であることが好ましく、1.68以上であることがより好ましく、1.70以上であることが特に好ましい。
【0107】
本発明の有機無機複合組成物では、前記熱可塑性樹脂と無機微粒子とを必須の構成成分とするが、この他に必要に応じて別種の樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0108】
本発明の有機無機複合組成物は成形体への埃の付着などを防ぐ目的から帯電しにくいことが望ましい。帯電圧は−2〜15kVであることが好ましく、−1.5〜7.5kVであることがより好ましく、−1.0〜7.0kVであることが特に好ましい。帯電圧を調節するために、帯電防止剤を添加することができるが、本願の有機無機複合材料では、光学特性改良の目的で添加した無機微粒子自体が別の効果である帯電防止効果にも寄与する場合がある。帯電防止剤を添加する場合には、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯防止剤、ノ二オン性帯電防止剤、両性イオン性帯電防止剤、高分子帯電防止剤、あるいは帯電性微粒子などが挙げられ、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの例としては、特開2007−4131号公報、特開2003−201396号公報に記載された化合物を挙げることができる。
帯電防止剤の添加量はまちまちであるが、全固形分の0.001〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量%であり、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0109】
本発明の有機無機複合組成物は、ガラス転移温度(Tgとも言う)が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0110】
本発明の有機無機複合組成物は、200℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、230℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることであり、特に好ましくは250℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることである。
【0111】
本発明の有機無機複合組成物の飽和吸水率は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%であることが特に好ましい。
【0112】
[有機無機複合組成物の製造方法]
本発明に用いられる無機微粒子は、前記官能基を有する本発明に用いられる熱可塑性樹脂と化学結合して該熱可塑性樹脂中に分散される。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。本発明の有機無機複合組成物の好ましい製造方法としては、[1]無機微粒子を上記表面処理剤の存在下に表面処理を行い、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と前記熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、[2]無機微粒子と前記熱可塑性樹脂および他の添加剤を均一分散あるいは溶解できる溶媒を用いて全ての成分を均一混合して無機微粒子と前記熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法が挙げられる。
【0113】
上記[1]の方法によって無機微粒子と前記熱可塑性樹脂の有機無機複合組成物を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる表面処理剤については、前述のものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された無機微粒子と前記熱可塑性樹脂を混合する際に、さらに可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0114】
上記[2]の方法を採用する場合は、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、tert−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加してもよい。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で前記熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、無機微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。このとき、前記表面処理剤を添加してもよい。
【0115】
上記[1]または[2]の方法によって得られた有機無機複合組成物溶液は、そのままキャスト成形して透明成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することが好ましい。またこの際、本発明の有機無機複合組成物の材料粉体を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
【0116】
[成形体]
上述の本発明の有機無機複合組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。本発明の成形体では、有機無機複合組成物の説明で前記した屈折率、光学特性を示すものが有用である。さらに、本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上の厚みとすることが容易にできる点でも有用である。本発明の成形体は最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品に対して特に有用であり、好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する透明部品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の材料を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、無機微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する材料とすることができる。
【0117】
[光学部品]
本発明の成形体は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、有機無機複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かかる光学部品を備えた光学機能装置としては、例えば、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0118】
また、光学機能装置に用いられる前記パッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機微粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0119】
本発明の有機無機複合組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合組成物を用いて製造されたレンズ基材は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0120】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0121】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0122】
[分析および評価方法]
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察:
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0123】
(2)光線透過率測定:
測定する試料を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)を用いて波長589nmの光で測定した。
【0124】
(3)屈折率測定:
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
【0125】
(4)X線回折(XRD)スペクトル測定
リガク(株)製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0126】
(5)分子量測定:
数平均分子量、重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒としてテトラハイドロフランを用いて測定した。分子量は、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した。
【0127】
(6)ガラス転移温度(Tg)測定:
DSC(セイコー(株)製、DSC6200)にて、窒素雰囲気下で、昇温温度10℃/分で測定した。
【0128】
(7)高分子鎖一本当たりの官能基数の測定:
高分子鎖一本当たりの、官能基の数の測定方法を、官能基含有ユニット中の官能基数が1である場合について示す。なお、官能基含有ユニットが2以上の場合も、同様の手法を利用できる。
まず、ポリマーの酸価aを測定により求める。ここで酸価とは、ポリマー1gの滴定に必要なKOHのmg量を指す。得られたポリマーの酸価a[mg]、官能基含有ユニットの分子量m1、KOHの分子量m2=56.1を利用すると、高分子中の官能基含有ユニット量X[wt%]は、
【数1】

で求められる。
次に、GPCを用いて測定し、ポリマーの分子量Mを求める。これらの値を利用して下記式より、高分子鎖一本当たりの官能基の数を定量的に求めることができる。
【数2】

【0129】
[有機無機複合組成物の合成]
(1)酸化チタン微粒子の合成
特開2003−73559号公報の合成例9に記載の方法に従い、酸化チタン微粒子を合成した。XRDとTEMより、アナタ−ス型酸化チタン微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。微粒子の屈折率は2.5であった。
【0130】
(2)酸化ジルコニウム微粒子の合成
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。微粒子の屈折率は2.1であった。
【0131】
(3)酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散液の調製
前記(2)で合成した酸化ジルコニウム微粒子懸濁液と日本化薬製の「KAYAMER PM−21」を溶解させたトルエン溶液を混合し、50℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出して酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散液を作製した。
【0132】
(4)酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散液の調製
前記(2)で調製した酸化ジルコニウム分散液(15質量%水分散液)500gに500gのN,N’−ジメチルアセトアミドを加え約500g以下になるまで減圧濃縮して溶媒置換を行った後、N,N’−ジメチルアセトアミドの添加で濃度調整をすることによって15質量%の酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散液を得た。
【0133】
[有機無機複合組成物の調製および透明成形体(レンズ基材)の作製]
(実施例1)
前記酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散液に熱可塑性樹脂(P−4)、および表面処理剤(4−プロピル安息香酸:4−C3BA)を質量比が、ZrO2固形分/P−1/4−C3BA=40.0/52.0/8.0となるように添加して均一に攪拌混合した後、加熱減圧下ジメチルアセトアミド溶媒を濃縮した。得られた有機無機複合材料の高分子鎖一本当たりの官能基数を測定した。該濃縮残渣を表面がSUS製の金型で加熱圧縮成形し、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
得られた成形体の高分子鎖一本当たりの官能基数、ガラス転移温度、光線透過率および屈折率を表2に示す。
【0134】
(実施例2〜6および比較例1〜3)
実施例1における熱可塑性樹脂の種類、ZrO2固形分、4−C3BAの比をそれぞれ表2のように置き換えた以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6および比較例1の成形体を得た。
また、比較例2および3では、無機微粒子を添加せず、表2に記載した熱可塑性樹脂のみを成形して、比較例2および3の成形体を得た。
なお、比較例1で用いたポリマーQ−1は、特開平7−198901号公報の実施例1に記載の方法で合成した、以下の構造単位を有する樹脂である。
【0135】
【化23】

x1/y1/z1=70/30/100(モル比)
得られた成形体の高分子鎖一本当たりの官能基数、ガラス転移温度、光線透過率および屈折率を表2に示す。
【0136】
(実施例7)
前述した酸化チタン微粒子を、熱可塑性樹脂P−36、表面処理剤4−C3BAが溶解したクロロホルム溶液に撹拌しながら常温で5分かけて添加した後、溶媒を留去した(TiO2固形分/P−1/4−C3BA=30/64/6)。濃縮残渣を実施例1と同様にして成形することにより実施例7の透明成形体(レンズ基材)を得た。
得られた成形体の高分子鎖一本当たりの官能基数、ガラス転移温度、光線透過率および屈折率を表2に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2から明らかなように、本発明により屈折率が大きくて透明性が良好な光学部品が得られた(実施例1〜7)。比較例1では試料が白濁し、透明成形体は得られなかった。比較例2および3は、実施例に比べて屈折率が劣っていた。
また本発明の有機無機複合組成物は、生産性よく凹レンズ、凸レンズ等の金型形状に合わせて正確にレンズ形状を形成できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の有機無機複合組成物は、優れた透明性と高い屈折率とを併せもつ。また、本発明によれば屈折率を任意に調整することが可能である。さらに、本発明の有機無機複合組成物を用いれば、機械的強度や耐熱性・耐候性、成形性が良好な光学部品を提供しやすい。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に芳香族ヘテロ環基を有し、主鎖に−COO−結合を有する繰り返し単位を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂と、無機微粒子とを含む有機無機複合組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(1)に記載のジオール成分、および、一般式(2)に記載のジカルボン酸成分の少なくともいずれか一方を繰り返し単位として含むことを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【化1】

(一般式(1)および一般式(2)中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に2価の連結基を表し、Ht1およびHt2はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に炭素原子、水素原子および酸素原子から選ばれる1以上の原子から構成される2価の連結基、もしくは単結合を表す。n1およびn2は1〜4の整数を表す。)
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(3)で表される化合物を重合させて得られる繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合組成物。
【化2】

(一般式(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ar1〜Ar4はそれぞれ独立に2価の芳香環基を表す。L3およびL4はそれぞれ独立にヒドロキシル基を有する炭素数1〜3の2価の連結基を表す。Ht3およびHt4はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。)
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、下記一般式(4)で表される化合物を重合させて得られる繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に有機無機複合組成物。
【化3】

(一般式(4)中、R1およびR2はそれぞれ独立に置換基を表し、互いに連結して環構造を形成してもよい。Ht5およびHt6はそれぞれ独立に芳香族ヘテロ環基を表す。)
【請求項5】
前記芳香族ヘテロ環基がベンゾチアゾール基、ベンズオキサゾール基またはベンズイミダゾール基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、前記無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【化4】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OH、または−Si(OR17m1183-m1[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、前記官能基をポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個有していることを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合組成物。
【請求項9】
前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項10】
前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項11】
前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜15nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項12】
前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
【請求項14】
波長589nmにおいて厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
波長589nmにおける屈折率が1.66以上であることを特徴とする請求項13または14に記載の成形体。
【請求項16】
最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか一項に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
【請求項18】
レンズ基材であることを特徴とする請求項17に記載の光学部品。

【公開番号】特開2010−215833(P2010−215833A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65847(P2009−65847)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】