説明

有機燐系神経ガスの検知材

【課題】有機燐系神経ガスを呈色反応により検出するための検知材の提供。
【解決手段】検知材は、水素イオン濃度指示薬、例えばメチルレッド0.02wt%、バッファ溶液17.5ミリリットル、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15ミリリットル、及び有機燐系神経ガスを水素化する水素化用均一系触媒、例えば銅錯塩を、全量が100ミリリットルとなるようにメタノール等の易蒸発性有機溶媒に溶解した発色液に、セルロースを素材とするろ紙に含浸させ有機溶媒を揮散させて構成されている。
【効果】有機燐系神経ガスを分解して酸性成分であるフッ化水素を生じさせて水素イオン指示薬と呈色反応するため、前処理用の熱分解炉が不要となり検出装置の簡素化、小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機燐系神経ガスを呈色反応により検出するための検知材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機燐系神経ガス、例えばマスタードを呈色反応により検出するためには、特許文献1に見られるように神経性ガス自体と呈色反応する適当な反応試薬が存在しないため、被検ガスを500℃程度に加熱して酸性物質であるフッ化水素に分解する必要上、熱分解炉を必要として検出装置の構造が複雑かつ大型化、さらには熱分解炉を作動させるための大きな電力を必要とする等の不都合がある。
【特許文献1】特開2005-62136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、前処理を必要とすることなく検知材自体で神経性ガスを検出することができる新規な有機燐系神経ガスの検知材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために本発明は、水素イオン指示薬、保湿剤、及び有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させる剤を担体に展開して構成されている。
【発明の効果】
【0005】
有機燐系神経ガスを分解して酸性成分であるフッ化水素を生じさせて水素イオン指示薬と呈色反応するため、前処理用の熱分解炉が不要となり検出装置の簡素化、小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
そこで以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。
本発明の検知材は、水素イオン濃度指示薬、例えばメチルレッド0.02wt%、バッファ溶液17.5ミリリットル、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15ミリリットル、及び有機燐系神経ガスを水素化する水素化用均一系触媒、例えば銅錯塩を、全量が100ミリリットルとなるようにメタノール等の易蒸発性有機溶媒に溶解した発色液に、セルロースを素材とするろ紙に含浸させ有機溶媒を揮散させて構成されている。
【0007】
また、水素イオン指示薬としては、メチルオレンジのほか、メタニールイエロー、アザリンイエロー、ベンジルイエロー、メチルイエロー、メチールレッド、ベンジルオレンジ、トロペオリン、ブロモフェノールブルーを使用することが出来る。
【0008】
このようにして構成された検知材は、テープ状に裁断してカセットケースに収容して連続測定用に供したり、また紙片に成形して遮気性の袋に保管し、必要の都度、遮気性袋から取り出してバッチ測定に供したりすることができる。
【0009】
この検知材は、例えば図1に示したような検出装置、つまり発光素子11と受光素子12とを備えた光学濃度検知手段としての測定ヘッド13と、一定時間毎にテープ状に整形された検知材を測定ヘッド13の領域に搬送するテープ搬送機構14と、サンプリングポンプ15からの負圧を受けて、測定ヘッド13と共同して検知材Sに被検ガスを接触させる吸引ヘッド16とから構成された装置に装填して使用される。なお、図中符号17は、検知材Sの未使用領域を測定領域に一定量送り出すための間欠駆動部を示す。
【0010】
この実施例において、濃度0.1mg/立方メートル程度のマスタードを含むエアを時間30秒だけ吸引すると、有機燐系神経ガスは検知材上の水素化用均一系触媒により、
【化1】

【0011】
なる反応によりフッ化水素を生成し、検知材Sの一方の面から他方の面に通過し、検知材Sに担持されている発色剤と反応する。この際、検知材のシリカゲルや保湿剤が反応を促進することになる。
【0012】
このようにしてサンプリング時間が経過した時点で、測定ヘッド13の発光素子11と受光素子12とにより、ガスを通過させる以前の光学濃度との差分を検出すると、発色液の光学的飽和濃度の27%程度の検出出力を得ることができた。
【0013】
なお、上述の実施例においては、水素化用均一系触媒により有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させているが、基本反応試薬である水素イオン濃度指示薬、例えばメチルレッド0.02wt%、バッファ溶液17.5ミリリットル、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15ミリリットルに、メチルセロソルブを0.5乃至10v/v%となるように100ミリリットルのメタノール等の易蒸発性有機溶媒に溶解して発色液を調製し、セルロースを素材とするろ紙などの担体に含浸させ、有機溶媒を揮散させて構成することもできる。
【0014】
この実施例によれば、有機燐系神経ガスは、担体上のメチルセロソルブにより分解されてフッ化水素を発生するので、反応試薬がフッ化水素により呈色反応することになる。
【0015】
なお、水酸化ナトリウムやジエチレントリアミンも有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させることが知られているが、これら水酸化ナトリウムやジエチレントリアミンは、いずれも強塩基性物質であるため、反応試薬のpHを変化させることなり、フッ化水素により呈色反応させることが不可能となり、有機燐系神経ガスを検出するための剤としては不適当であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の検知材に適した検出装置の一実施例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0017】
11 発光素子 12 受光素子 13 測定ヘッド 14 テープ搬送機構 15 サンプリングポンプ 16 吸引ヘッド 17 間欠駆動部 S 検知材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン指示薬、保湿剤、及び有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させる剤を担体に展開して構成された有機燐系神経ガスの検知材。
【請求項2】
前記有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させる剤が、水素化用均一系触媒である請求項1に記載の有機燐系神経ガスの検知材。
【請求項3】
水素化用均一系触媒が、銅錯塩である請求項2に記載の有機燐系神経ガスの検知材。
【請求項4】
前記水素化用均一系触媒が、硫酸銅である請求項2または請求項3に記載の有機燐系神経ガスの検知材。
【請求項5】
前記有機燐系神経ガスを分解してフッ化水素を発生させる剤が、メチルセロソルブである請求項1に記載の有機燐系神経ガスの検知材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−40934(P2007−40934A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228086(P2005−228086)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】