説明

有機物を含有する水媒体の処理方法及び水熱反応装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機物を含有する水媒体の処理方法及び水熱反応装置に関し、特に、都市ごみ、し尿、下水汚泥、あるいは産業廃棄物などの、固形状、汚泥状、または液状の有機性廃棄物から原料スラリーを生成し、次いで、水熱反応処理させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】廃棄物を燃料又は炭素源に変換して有効利用することが注目されている。都市ごみ、し尿、下水汚泥、産業廃棄物等の廃棄物は、一般に有機物を含有するものであり、かかる有機物を取り扱いが容易な形態に変換し、エネルギー源又はC1化学等の炭素源とすることが望まれる。エネルギー源としては、単位質量当たりの発熱量が高いことも望まれる。
【0003】そこで、廃棄物に含まれる有機物を資源化させる方法として、水熱反応処理が研究されている。具体的には、廃棄物の粉砕、分別等の前処理を行って、水を含む原料スラリーを得て、次いで、この原料スラリーに対して水熱反応処理を行って、カーボンスラリーを得て、次いで、このカーボンスラリーから水及び水に溶解する有機成分を除去する。
【0004】図3に、従来の水熱反応による処理方法の工程図を示す。
【0005】まず、廃棄物を前処理する。廃棄物が固形物を含有している場合には、固形物を数mm以下の粒径まで破砕する。この粉砕工程において、ガラス、瓦礫、金属などの無機固形物をできるかぎり除去する。一方、廃棄物が、汚泥、廃液等であて、破砕する必要がない場合には、必要に応じてスクリーンに通し、十mm前後を越える粗大固形物は異物として排除する。
【0006】この粉砕工程及び分別工程は、液体中で固形物を分散させた状態で行うことが好ましく、これにより、原料スラリーが容易に得られる。または、空気中で破砕工程を行い、次いで、破砕された廃棄物と水を含む液体を混合することによって、原料スラリーを得てもよい。この原料スラリーは、ポンプで送ることが可能な程度の流動性を有する含水率とすることが好ましい。原料スラリーは、典型的には、水及び水に溶解した物質を含む媒体と、媒体に分散する可燃性粒子とを有し、粘度が高い。
【0007】次いで、原料スラリーを、酸化剤を添加することなく、水熱反応させることにより、カーボンスラリーが生成する。水熱反応とは、水の存在下、高温、高圧に保持する反応をいい、この水熱反応工程では、例えば150気圧以上に加圧し、次いで、少なくともその圧力を維持したまま、250〜350℃の温度に昇温した状態にて、通常、数十分間保持する。例えば、連続処理の場合には、特定の容器の内部を昇温しておき、そこに原料スラリーを加圧して送り込み、原料スラリーが、高温、高圧下で、所定の時間、対流できるようにする。一方、バッチ処理またはバッチ処理を繰り返す連続処理の場合には、密閉耐圧容器に原料スラリーを封入して温度を上昇させ、温度の上昇に伴って上昇する水蒸気圧より、圧力を上昇させる。
【0008】水熱反応では、原料スラリーに含まれている種々の有機物が分解する。例えば、溶存酸素及び有機物に含まれている酸素原子により酸化され、二酸化炭素が発生する。更に、アンモニア、硫化水素、メルカプタンなどの還元性ガスも若干、生成する。また、廃棄物に含まれている塩は、水相に移行する。更に、有機化合物に含まれている、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子も脱離し、ハロゲン原子を含む塩を生成し、水相に移行する。
【0009】カーボンスラリーは、有機物が少なくとも部分的に脱ハロゲン化や脱炭酸化して、チャーと呼ばれる炭化物、油分等に変化したものと水とが混合したものをいう。また、油分とは、へキサンやジクロロベンゼン等の有機溶媒により抽出されるものをいう。従って、油分には、タールやピッチなど室温においては固形化するものや、水溶性の有機化合物も含まれる。水相とは、有機溶媒で抽出した残渣をろ過して得たろ液をいい、固相とは、油分と水相を濾過して得たケーキである固形分をいう。
【0010】水熱反応後、フラッシュ操作、間接熱交換等を行って、大気圧まで減圧するとともに、冷却、脱ガスする。
【0011】得られた固形分又は固化した油分は、ハロゲン原子が除去され、含水率が低く、かつ、相対的に発熱量が高い粉砕しやすいものとすることが出来る。
【0012】原料スラリーが可燃性粒子を含有する場合には、水熱反応処理により、炭素の含有率が高まった、脆いチャーである固体粒子がカーボンスラリー中に生成する。また、この水熱反応に伴う分解反応により、スラリーの粘性が減少し、カーボンスラリーの脱水が容易となる。カーボンスラリーを脱水することにより、かかる固体粒子を燃料として流動層を有するボイラで燃焼させることができる。また、かかる固体粒子を、石油又は水中で微粉砕して、スラリーとし、燃料とすることができる。かかるスラリーは流動性があるという点で、疑似液体であり、貯留、搬送に便利である。これは、石炭におけるオイルスラリーCOM(Coal OilMixture)若しくは、石炭における水スラリーCWM(Coal Water Mixture)と同様である。例えば、発熱量が3000〜5000 kcal/kg 以上の濃縮カーボンスラリーを得ることができる。
【0013】流動層を有するボイラに対しては、カーボンスラリーを脱水したケーキを火炉中に投入することができる。かかるケーキは、湿りによって団塊状であるために、火炉中のガスによって吹き飛ばされることなく流動層に入り込み、その中で600〜850℃の流動媒体中でもまれつつ、乾燥され、もみ崩され、着火して燃焼するので、燃焼効率が向上する。ボイラ底部及び煙道底の沈降灰及び集塵灰を、流動層に再び供給する、いわゆる戻し灰を行うことによって、燃焼効率をさらに高めることもできる。
【0014】原料スラリーに含有している有機物が分子中にハロゲン原子を含む場合には、水熱反応処理、及び、カーボンスラリーの脱水により、ハロゲン原子を除去することができる。一方、カーボンスラリーを燃料とする場合には、燃料中のハロゲン原子は、排気ガスに接触する金属を腐食させ、灰を溶融させてスケール若しくはクリンカを生成させ、又は、重金属を揮発させる。更に、セメント焼成用燃料として使用する場合には、製品のセメント中の塩類濃度が上昇する。従って、ハロゲン原子を除去できることは、金属の腐食を低減し、スケール若しくはクリンカの生成を抑制し、又は、セメント焼成燃料としての用途を可能とする。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ここで、問題となるのは、特に、他の元素に比較して圧倒的に多く含まれることが多い塩素原子であり、例えば、廃棄物が都市ゴミの場合、又は、廃棄物が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素含有ポリマーを多く含有する場合である。
【0015】カーボンスラリーの脱水後、ハロゲン原子を含有する塩を更に十分に除去するために水洗して、残留水を除去し、固形分ないし油分を得てもよい。脱水水洗装置としては、バケット式遠心脱水機が好ましく用いられる。これにより、脱水工程、洗浄工程、洗浄水の脱水工程を効率よく行うことができる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このようにしてカーボンスラリーから分離した排水には、高濃度、通常は2万〜10万ppmの化学的酸素要求量(COD)に相当する有機物が含まれている。かかる有機物としては、例えば、アルコール、ケトン、アミン等が挙げられる。有機物を含有する水は、通常、生物処理されるが、かかる高濃度の有機物が含まれている場合には、予め、大量の水で希釈して生物処理するか、又は、燃料油により蒸発酸化処理せざるを得なかった。
【0017】本発明は、カーボンスラリーからの排水の化学的酸素要求量(COD)を、容易に生物処理できる程度に低減することができる処理方法の提供を目的とする。更に、本発明は、カーボンスラリーに限られず、広く一般に、有機物を含有する水媒体のCODを低減することができる処理方法を提供することも目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の側面は、200℃以上374℃以下の第1温度において、前記第1温度における水蒸気圧以上の圧力の下、酸化剤を添加することなく、有機物を含有する水媒体を前処理する第1工程と、200℃以上374℃以下の第2温度において、前記第2温度における水蒸気圧以上の圧力の下、前処理された水媒体の化学的酸素要求量を減少させるために十分な量の酸化剤の存在下、前記水媒体を処理する第2工程と、を有することを特徴とする有機物を含有する水媒体の処理方法を提供する。
【0019】本発明において、第1工程の水媒体が、水に分散されている可燃性粒子を有するスラリーであることが好ましい。
【0020】また、第1工程で得られた水媒体から固形物を除去し、水溶液を得て、この水溶液を第2工程で処理することが好ましい。
【0021】更に、前記酸化剤の量は、前記水媒体の化学的酸素要求量の0.1〜10当量に相当することが好ましい。
【0022】更にまた、前記酸化剤が、酸素、オゾン又は過酸化水素水であることが好ましい。
【0023】また、第2温度が、第1温度以上であることが好ましい。
【0024】本発明の第2の側面は、水熱反応の圧力に耐えることができる容器と、当該容器を加熱するための加熱装置と、水媒体を前記容器に導入するための液体入口と、水媒体を前記容器から排出するための液体出口と、前記容器で水熱反応が進行している際に、流体状態の酸化剤を導入することができる酸化剤入口とを有する水熱反応装置を提供する。
【0025】また、前記容器の内部の水媒体のレベルを一定の範囲に定めるレベル調節機構と、前記容器の内部の圧力を一定の範囲に調節する圧力調節機構とを有し、前記レベル調節機構はレベル検出器を有し、前記圧力調節機構は圧力検出器を有することが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】本発明の第1の側面では、酸化剤を添加することなく水熱反応を行い(第1工程)、次いで、酸化剤の存在下、水熱反応を行う(第2工程)。何れの水熱反応であっても、超臨界にならない温度及び圧力で、水媒体が水熱反応処理される。即ち、374℃以下の温度で水熱反応処理される。374℃は水の臨界温度であり、臨界温度より高い温度では超臨界となり、気相と液相とを区別することができなくなる。また、超臨界では、一般的に、塩類が溶解できなくなり、油類が溶解し、更に、粘度が減少してスラリーを維持できなくなる。
【0027】第1工程における温度は、200℃以上374℃以下であり、200〜350℃が好ましく、200℃〜300℃であることが更に好ましい。温度が低くなると、水に不溶性の反応生成物が多くなるので、不溶成分を燃料源等とするのに適しているからである。しかし、温度が200℃より低いときには、反応速度が遅くなり、好ましくない。
【0028】一方、第2工程における温度も、200℃以上374℃以下である。第2工程の温度は、第1工程の温度よりも高いことが好ましく、30℃以上高いことが更に好ましく、50℃以上高いことが更になお好ましい。水に溶解した有機物を酸化させるためには、温度が高い方が反応速度が大きいからである。第2工程の温度は、250℃以上374℃以下であることが好ましく、300℃以上374℃以下であることが更に好ましい。
【0029】何れの水熱反応であっても、その温度における水蒸気圧以上の圧力の下、処理される。即ち、水が液相で存在する条件で、水熱反応処理が行われる。「蒸気圧」とは、一定の温度において液相又は固相と平衡にある気相の圧力をいう。本発明においては、高温、高圧における水の蒸気圧が問題になることから、主に、液相と平衡にある気相の圧力をいう。水の蒸気圧は、水に溶解した成分により影響を受けるので、有機物又は塩が溶解している水媒体の蒸気圧は、一般的には、純粋な水の蒸気圧と異なる。
【0030】何れの水熱反応であっても、圧力は、水蒸気圧から水蒸気圧より50気圧高い圧力の範囲であることが好ましい。圧力が、水蒸気圧より50気圧より高いときには、耐圧性が過剰に高い反応器が必要となるので、好ましくない。また、圧力が、水蒸気圧から水蒸気圧より10気圧高い圧力の範囲であることが更に好ましく、水蒸気圧から水蒸気圧より5気圧高い圧力の範囲であることが更になお好ましい。運転に伴う圧力の変動は、通常5気圧未満だからである。なお、所定の上限の圧力を越えた場合には、安全弁等が作動することが好ましい。
【0031】何れの水熱反応の場合であっても、連続処理のときには、圧力を上昇させてから温度を上昇させることが好ましい。一方、バッチ処理又はバッチ処理を繰り返す準連続処理のときには、密閉容器に封入し、次いで、温度を上昇させ、これに伴って、上昇する蒸気圧により圧力を上昇させてもよい。
【0032】図6は、純粋な水の状態図を示す。曲線OAは蒸気圧曲線であり、液体の蒸気圧の温度変化を表す。曲線OAは、圧力と液体の沸点との関係を表すものでもあり、一定圧力のもとで液体を熱すると、曲線OAに達したときに、液体が沸騰する。
【0033】曲線OAは臨界点Aで終わり、臨界点の温度、圧力、モル体積をそれぞれ、臨界温度、臨界圧、臨界体積という。これらを総称して、臨界定数(critical constant)といい、臨界定数は、物質に固有の定数である。なお、臨界点では、気体と液体のモル体積は一致する。
【0034】臨界温度又は臨界圧力を越えた温度又は圧力の下では、気体、液体の区別ができない流体となり、かかる流体は、超臨界流体(supercritical fluid)という。例えば、水の臨界温度は374℃であり、臨界圧は218atmである。臨界温度以下で気体を圧縮すると、蒸気圧曲線に達したところで、急激な液化が起きる。これに対して、臨界温度より高い場合には、気体と液体の間で不連続的な変化は起こらない。
【0035】本発明の第1工程では、「有機物を含有する水媒体」が処理される。この「水媒体」は、水を含む媒体であればよく、懸濁液、乳化液、水溶液の何れでもよい。また、水媒体には、液体の有機物が混合していてもよい。有機物は、液体、固体を問わない。従って、「有機物を含有する水媒体」には、非沈降性の固体可燃性粒子が水に分散している懸濁液、液体可燃性粒子が水に分散している乳化液、液体の有機物が溶存している水溶液、又は、これらの混合物が含まれる。「有機物を含有する水媒体」は、原料スラリー及びカーボンスラリーを含み、何れも、水、液体有機物、溶解塩類とを含有する連続相と、可燃性粒子とを含有する分散相とを含有し、更に、灰など不燃性固体をも含有してもよい。可燃性粒子は固体であることが多く、また、タール、ピッチ等の固体も更に含有してもよい。
【0036】本発明の第2工程では、水熱反応処理された水媒体が、酸化剤の存在下、更に、水熱反応処理され、これにより、水媒体に含有している有機物が酸化され、水媒体の化学的酸素要求量が低下する。従って、水媒体から固形物を分離した後の排水の処理が容易になる。
【0037】酸化剤が存在しない場合には、水熱反応により、二酸化炭素を主体として、硫化水素、メルカプタン、アンモニアなどを含むガスが生成される。これに対して、酸化剤が存在する場合には、酸化剤が存在しない場合と比べて、二酸化炭素の含有量が増加し、硫化水素、メルカプタン、アンモニアの含有量が低下し、更に、水相における、硫酸イオン(SO42-)及び硝酸イオン(NO3-)の濃度が増加する。
【0038】酸化剤は、クロム、マンガン等の重金属を実質的に含まないことが好ましい。これらの重金属は、排水等を汚染し、環境上問題があるからである。
【0039】酸化剤としては、具体的には、酸素、オゾン又は過酸化水素水が好ましく、酸素が更に好ましい。酸素としては、酸素ガスを含有する気体、例えば、空気を用いてもよい。例えば、反応器に、直接、高圧の空気を導入することにより、空気中の酸素ガスを導入してもよい。
【0040】あるいは、酸素ガスが溶解した水等の液体を用いてもよい。酸素ガス(空気として添加する場合を含む。)のようなガス形態の酸化剤は、温度が低いほど、又は、圧力が高いほど、水への溶解度が高い。従って、高圧下において、予め冷水にガス形態の酸化剤を溶解させ、次いで、この冷水をスラリーに添加してもよい。
【0041】本発明では、酸化剤は、水媒体の化学的酸素要求量を減少させるために十分な量、用いられる。ここで、化学的酸素要求量は、サンプル中の有機物の酸素当量を測定するものである。例えば、水媒体のサンプルを、硫酸中で既知量のジクロム酸カリウムとともに2時間、リフラックスする。リフラックス前に、直鎖化合物を酸化するために、硫酸銀を添加し、硫化水銀を塩化物イオンの酸化を防止するために添加する。未反応のジクロム酸カリウムを、硫酸鉄アンモニウム標準に対して滴定することにより、水媒体のCODを求めることができる。
【0042】本発明で使用する酸化剤の量は、水媒体の化学的酸素要求量の0.1〜10当量に相当することが好ましい。酸化剤が、0.1当量未満の場合には、水媒体の化学的酸素要求量を十分に低減させることができない。一方、酸化剤が10当量より多い場合には、水媒体の有機物の酸化に要する以上の酸化剤が使われることになり、酸化剤のロスが多くなる。従って、水媒体の化学的酸素要求量を低減させるためには、酸化剤の量は、水媒体の化学的酸素要求量の10当量以下であることが好ましく、5当量以下であることが更に好ましく、2当量以下であることが更になお好ましい。
【0043】本発明では、第1工程の後、第2工程の前に、水媒体から、有機固体粒子等の固形物が予め、除去されていてもよい。あるいは、第2工程の後に、有機固体粒子等の固形物が除去されてもよい。何れの場合であっても、固形物は、燃料源又は炭素源に用いられる。
【0044】後者の場合には、第2工程の水熱反応処理において、水媒体中の可燃物であって水媒体より分離し得るものの全てを酸化しないことが望まれる。具体的には、スラリー中の水に溶解している低級アルコール、低級カルボン酸等の水溶性有機物が主に酸化され、固体可燃性粒子はさほど酸化されないことが好ましい。かかる観点からは、酸化剤の量は、水媒体の化学的酸素要求量の1当量以下であることが好ましく、0.8当量以下であることが更に好ましく、0.5当量以下であることが更になお好ましい。従って、酸化剤の量は、例えば、前記水媒体の化学的酸素要求量の0.2〜0.8当量に相当することが好ましく、0.3〜0.5当量に相当することが更に好ましい。
【0045】一方、前者の場合には、第2工程の水熱反応処理では、水媒体中の有機物を全て酸化してもよい。酸化剤の量は、水媒体の化学的酸素要求量の0.8当量以上であることが好ましく、1当量以上であることが更に好ましく、2当量以上であることが更になお好ましい。なお、この場合には、第1工程の水熱反応処理の後に、一旦100℃以下まで冷却して、燃料等となる固形分、油分を分離する。
【0046】
【実施例】図4に、本発明の第2の側面の反応器の概略構成図を示す。反応器1は、ほぼ縦型の筒形状を有し、頂部では若干S字型に曲がっている。この反応器1の垂直方向の長さは、径の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。高圧ポンプを用いることなく、必要な圧力を得るためには、反応器1の高さは150m以上であることが好ましく、200m以上であることが更に好ましい。
【0047】反応器1の外周には、加熱装置20が設けられ、反応器1の内部のスラリーを加熱することができる。加熱装置20の原理には制限がなく、電磁誘導、輻射熱、高温流体のジャケット等で加熱してもよい。酸化剤の添加位置から下流側の領域cにおいて、酸化反応の反応熱でスラリー温度を高温に維持することができる場合には、領域cに対応する加熱装置20を省略することができる。
【0048】反応器1は、底部にスラリー導入口2、頂部にガス排出口6、及び、中央上部よりに、ヘッダを経て高圧空気を導入するための空気注入口3を有する。反応器1のガス排出口6の下部に、スラリー沫又は液滴を分離するための気液分離器4が設けられる。
【0049】反応器の内部の水媒体のレベルを一定の範囲に定めるレベル調節機構は、ガスと水媒体の圧力の差を検出するためのレベル検出器、水媒体を排出するための弁、レベル検出器からの信号で弁を制御する制御器を有してもよい。水媒体のレベルは、水媒体が気液分離器4に接触せず、かつ、水媒体の排出口5より上の範囲に調節することが好ましい。また、これよりも狭い範囲で調節してもよい。レベル調節機構は、導圧管19を有してもよいし、又は、圧電素子を有してもよい。
【0050】図4では、気液分離器4の上部空間とスラリーレベルの下部との間に導圧管19を設け、この導圧管に、気液界面又はスラリーレベルを定めるためのレベル検出器8を設ける。レベル検出器8は、ガスとスラリーとの差圧でスラリーレベルを測定し、カーボンスラリー12の排出量は、このスラリーレベルが一定ないし一定の範囲になるように行う。なお、気液分離器4の上部空間と、スラリーレベルの下部との各々に圧力を電気信号に変換する圧電素子を設け、この電気信号がレベル検出器に入力されることにより、差圧を検出してもよい。
【0051】図4に示すように、スラリーレベルを、反応器1の曲がり部の近傍に設定することにより、スラリーレベルの面積を広くすることが好ましい。これにより、ガス分離を容易にし、スラリー中に残存するガスを低減させることができる。
【0052】反応器の内部の圧力を一定の範囲に調節する圧力調節機構は、気相の圧力を検出するための圧力検出器、ガスを排出するための弁、圧力検出器からの信号で弁を制御する制御器を有してもよい。圧力調節機構は、例えば、水媒体が液相を保持する圧力以上であって、反応器を安全に運転できる圧力以下の圧力に調節する。圧力検出器は、圧電素子を有していてもよい。
【0053】図4では、気液界面の液相側に、即ち、曲がり部の突端の近傍に、スラリー排出口5が設けられている。スラリー排出口5からの配管には開閉弁7が設置されており、レベル検出器8の検出値に基づいて、スラリーレベルが一定ないし一定の範囲内となるように、制御器9により開閉弁7を調節してスラリー抜出し量を制御する。ここで、開閉弁7の弁開度ではなく、開閉弁7の開閉頻度を調節することが好ましい。スラリーが開閉弁7を高速で通過することにより、開閉弁が磨耗すること、及び、開閉弁7の開閉度が小さすぎて、スラリーが詰まることを防止するためである。
【0054】気液分離器4の上側に排ガス排出口が設けられている。この排ガス排出口の脇に圧力検出器8aが設けられ、圧力検出器8aの圧力が一定ないし一定の範囲となるように制御器9aにより調節弁7aを調節して、排ガス排出口からの抜き出しガス13の量を調節し、反応器1の内部圧力を調節する。酸化剤の存在下、水熱反応を行うことにより、二酸化炭素等のガスが発生するからである。また、空気を酸化剤として用いる場合には、酸素ガスに伴って、窒素ガス等も導入されるからである。
【0055】予め調整されたスラリー10は、スラリーに圧力を付与するためのポンプ(図示されていない)により、反応器1にスラリー導入口2から導入され、反応器1の内部を領域a、領域b及び領域cの順序に上昇する。反応器1は加熱装置20で加熱されており、領域aでは、スラリーの温度が下部から上部に向かって上昇している。一方、領域bでは、スラリーの温度がほぼ一定である。領域a及びbでは、実質的に酸素ガス等の酸化剤が存在しておらず、領域bにおいて水熱反応が進行し、これに伴って、脱ハロゲン化、還元反応等も進行する。また、領域aのうち領域bに近い部位でも水熱反応が一部、進行する場合もある。水熱反応に伴って、スラリーに含有している有機物の分解により、気泡22が生成する。
【0056】空気注入口3から高圧空気が導入され、反応器1は、高圧に維持されているので、領域cにはスラリーに溶存した酸素ガスが存在する。そして、領域cに上昇したスラリーは、この酸素ガスという酸化剤の存在下、水熱酸化反応が進行する。
【0057】そして、スラリーは、気液界面下のスラリー排出口5から抜き出される。一方、スラリー表面から遊離したガスは、気液分離器4で同伴するスラリー沫又は液滴を分離し、排ガス13として、排ガス排出口6から調節弁7aを通り排出される。
【0058】他の実施態様として、反応器は、U字形状を有し、一方の頂部にスラリー導入口を有し、他方の頂部にスラリー排出口を有してもよい。この実施態様では、スラリーは、一方の頂部のスラリー導入口から導入され、この頂部から底部に下降しし、そして、底部から他方の頂部に上昇し、スラリー排出口から排出される。この場合には、高圧ポンプを用いることなく、スラリーの自重で高圧を得るために、反応器の高さは1000m以上であることが好ましく、1500m以上であることが更に好ましい。酸化剤は、底部から導入してもよい。
【0059】何れの実施態様であっても、反応器の最上部に反応終端側がくるように、スラリーの流れ方向と反応器形状を合わせることが好ましい。
【0060】次に、本発明を図1の工程図に従って説明する。
【0061】図1において、廃棄物を、粗大固形物を主体とする廃棄物の場合には、細破砕してガラスや瓦礫や金属類などの無機物質をできるかぎり除去し、水を含んで流動性を持ったスラリー状態とする。一方、汚泥、廃液などもともと細かくて破砕の必要がない固形物、又は、固形物をほとんど含まない廃棄物の場合には、必要に応じて粗大固形物の混入がないようにスクリーンを通し、スラリーとする。次いで、所望により、流動性を付与するために、希釈して、スラリー濃度の調整を行う。しかし、スラリーを希釈しすぎないようにする。スラリー濃度が高いほど、水熱反応で処理する必要があるスラリーの量が少なくなるので、望ましいからである。
【0062】ここで、特願平8−132568号に記載するように、メタン資化菌(methanotroph)により原料スラリーを処理し、原料スラリーに含有しているメタンを予め低減させてもよい。
【0063】原料スラリーは、高温、高圧下に曝す水熱反応処理に供する。水熱反応においては通常、温度は200〜350℃、圧力は温度に応じてその温度下における水蒸気圧以上の圧力とする。
【0064】反応時間は温度に依存し、温度が高いほど短い。一般的には、反応時間は、10分ないし1〜2時間とする。典型的には、反応時間は、スラリーが反応器に滞留する時間となり、反応器の体積及びスラリーの導入速度より計算する。
【0065】原料スラリー中の化合物からハロゲン原子や酸素が離脱する反応は、250℃前後から顕著に進行する。この水熱反応で、化学結合をしている酸素等が反応して二酸化炭素が発生する。また、化学結合をしている塩素や臭素などのハロゲン原子も離脱し、水側に移行する。更に、若干の還元性ガスも生成する。
【0066】図1では、酸化剤が実質的に存在しない状態で、水熱反応を行った後に、所定の量の酸化剤を添加して、更に、水熱反応を進行させる。図4は、このための反応装置を示すものである。酸化剤の存在下の水熱反応は、酸化剤が添加されていない水熱反応と比べて、温度を高くすることが好ましく、例えば、300〜374℃で反応させる。
【0067】また、カーボンスラリーから燃料を得る場合には、過剰に酸化剤を加えると、収率が低下するので、好ましくない。そこで、水熱反応後、スラリーから分離したガス中にアンモニア、硫化水素等の悪臭ガスが発生する場合がある。かかる場合には、悪臭ガスの燃焼又は活性炭による吸着等の悪臭対策が必要となる。
【0068】前記の水熱酸化反応を行った後に、カーボンスラリー12について、減圧、冷却、脱ガスを行う。減圧、冷却及び脱ガスは、フラッシュ操作で達成することができる。ここで、フラッシュ操作とは、スラリーを体積がより大きい容器に放出して、急激に減圧させることをいう。この操作の直後の瞬間では、スラリー温度は一定に保たれる。一方、沸点は圧力に依存するため、スラリー温度は、減圧後の沸点より高くなる。従って、スラリー中の水が蒸発し、蒸発熱を奪い、スラリーを冷却する。また、水の蒸発に伴って、スラリー中に溶存していたガスも放出される。フラッシュ操作は、通常は、多段のバルブ及びタンクを有する装置で、複数の段階に分けて行う。得られた水蒸気を含むガスの熱は、別途利用することが好ましい。
【0069】次いで、このカーボンスラリーを脱水し、次いで、脱水した固形物(固形分及び固化した油分からなる。)を水洗してこの固形物からハロゲン原子を含む水溶性の塩を除去し、固形物を得る。脱ガス、冷却で得られた凝縮水をこの洗浄水として用いてもよい。都市ゴミを処理した場合の固形物は、通常3000〜5000kcal/kg以上の発熱量を有する。本発明で得られる固形物が高い発熱量を有するのは、水分が少なく、かつ、酸素原子及びハロゲン原子が脱離したからと思われる。
【0070】固形分と油分を分離した排水のCODは、空気を添加することなく水熱反応させた場合に対し、廃棄物の種類によっても異なるが、1〜3割程度にまで低減されているので、生物処理等で処理される。
【0071】図2では、酸化剤が実質的に存在することなく、200℃以上374℃以下の温度において、水蒸気圧以上の圧力の下で水熱反応処理し、次いで、固形分と油分とを含有するカーボンスラリーを分離する。この結果、CODが高い排水が生じる。そして、図5の装置で、酸化剤の存在下、この排水を水熱反応処理する。固形物が除去された排水は、スラリーと比べて粘度が低い。そして、この排水を更に水熱反応処理するので、この処理水の粘度は更に低くなり、反応器上部における気液分離が容易となる。
【0072】図2の実施態様では、処理水の燃料化を考慮する必要がないので、十分な量の酸化剤を加えることができる。従って、水熱反応及びフラッシュ操作後の排水は、放流を許容できるレベルまでCODを低減することができる。また、反応器上部からの抜き出しガスは、二酸化炭素、水蒸気、未反応の酸素ガス等の混合物とすることができ、アンモニア、硫化水素等の悪臭性ガスの発生を防止することができる。即ち、抜き出しガスは、大気放出が可能となる。
【0073】酸化剤が実質的に存在することなく、水熱反応処理され、次いで、固形分、油分が分離された溶液を、更に、酸化剤の存在下で水熱反応処理するための装置の概略構成図を図5に示す。なお、前段の水熱反応処理は、例えば、図4に示す装置において、酸化剤を添加しないことにより、行うことができる。
【0074】図5で、反応器14は、筒形状を有し、図1R>1の反応器1と異なって、上部に曲がり部が形成されていない。処理される溶液の粘度が低いので、気液分離が容易だからである。
【0075】図5において、反応器14の外周には、加熱装置20が設けられている。別個の容器で水熱反応処理され、固形物が除去された溶液17に酸化剤が添加され、この溶液17が反応器14の底部の導入口15から導入される。導入された溶液17は、反応器14を上昇し、該反応器の上部に設けられた廃液18の排出口16から抜き出される。溶液17は、反応器14を上昇する過程で、酸化される。
【0076】反応器14の頂部に、排ガス13を排出するためのガス排出口6を設け、ガス排出口6の下部に、スラリー沫又は液滴を分離するための気液分離器4を設ける。
【0077】気液分離器4の上部空間と溶液レベルの下部との間に導圧管19を設け、この導圧管に、気液界面又は溶液レベルを定めるためのレベル検出器8を設ける。レベル検出器8は、ガスと溶液との差圧で溶液レベルを測定し、廃液18の排出量は、この溶液レベルが一定ないし一定の範囲になるように行う。
【0078】排出口6からの配管には調節弁7aが設置されており、圧力検出器8aの検出値に基づいて、反応器14内の圧力が一定乃至一定範囲になるように制御器9aにより調節弁7aの弁関度を調節して排ガス抜出量を制御している。
【0079】廃液18を排出するための排出口16からの配管には、調節弁7が設置されており、レベル検出器8の検出値に基づいて、溶液レベルが一定又は一定の範囲になるように、制御器9により調節弁7の弁開度を調節して廃液抜き出し量を制御している。この実施態様では、既に水熱反応を経て、粘度が低減した溶液が反応器14に導入されるので、スラリーと異なって、調節弁の磨耗、閉塞が起こり難いので、セラミックバルブ等の調節弁を用いることができる。
【0080】なお、酸化剤の添加位置は、必ずしも昇圧後である必要はなく、酸化剤が過酸化水素水のような溶液状態の低温では遅い反応速度のものであれば、酸化剤を加えてから昇圧するのが好ましい。しかし、溶液に添加するとすぐに分解して酸素ガスを発生する場合には、ガスの体積が小さくなる昇圧後に添加することにより、ガスの発生を低減させることができる。また、酸化剤が、酸素、空気のようなガスの場合には、高圧に昇圧してから添加することで溶液に溶け込ませることができるので、望ましい。
【0081】
【発明の効果】本発明によれば、有機物を含有する水媒体の化学的酸素要求量CODを低減させることができる。例えば、カーボンスラリーから固形物を除去した排水の化学的酸素要求量(COD)を、生物処理できる程度に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水熱反応処理方法の一例を示す工程図。
【図2】本発明の水熱反応処理方法の他の例を示す工程図。
【図3】従来の水熱反応処理方法の工程図。
【図4】本発明に用いる水熱反応を連続して行う反応器の概略構成図。
【図5】本発明で用いる廃液を水熱酸化反応する反応器の概略構成図。
【図6】水の状態図。
【符号の説明】
1…反応器、2…スラリー導入口、3…空気注入口、4…気液分離器、5…スラリー排出口、6…排ガス排出口、7…開閉弁、7a…調節弁、8…レベル検出器、8a…圧力検出器、9…制御器、9a…制御器、10…高圧スラリー、11…高圧空気、12…反応スラリー、13…排ガス、14…反応器、15…溶液導入口、16…溶液排出口、17…溶液、18…廃液、19…導圧管、20…加熱装置、22…気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】 200℃以上374℃以下の第1温度において、前記第1温度における水蒸気圧以上の圧力の下、酸化剤を添加することなく、有機物を含有する水媒体を前処理する第1工程と、200℃以上374℃以下の第2温度において、前記第2温度における水蒸気圧以上の圧力の下、前処理された水媒体の化学的酸素要求量を減少させるために十分な量の酸化剤の存在下、前記水媒体を処理する第2工程と、を有することを特徴とする有機物を含有する水媒体の処理方法。
【請求項2】 第1工程の水媒体が、水に分散されている可燃性粒子を有するスラリーである請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】 第1工程で得られた水媒体から固形物を除去し、水溶液を得て、この水溶液を第2工程で処理する請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】 前記酸化剤の量は、前記水媒体の化学的酸素要求量の0.1〜10当量に相当する上記請求項の何れかに記載の処理方法。
【請求項5】 前記酸化剤が、酸素、オゾン又は過酸化水素水である上記請求項の何れかに記載の処理方法。
【請求項6】 第2温度が、第1温度以上である上記請求項の何れかに記載の処理方法。
【請求項7】 水熱反応の圧力に耐えることができる容器と、当該容器を加熱するための加熱装置と、該容器の下部に設けられている水媒体導入口と該容器の上部に設けられている水媒体排出口と該容器の内部高さ方向中位に形成されている水熱反応領域と、該水熱反応領域よりも該容器の内部高さ方向上位に形成されている水熱酸化反応領域と該水熱酸化反応領域に流体状態の酸化剤を導入することができる酸化剤入口と、を備え、水熱反応領域では酸化剤の実質的不存在下で水熱反応が進行し、水熱酸化反応領域では酸化剤の存在下で水熱酸化反応が進行するようになされている水熱反応装置。
【請求項8】 前記容器の内部の水媒体のレベルを一定の範囲に定めるレベル調節機構と、前記容器の内部の圧力を一定の範囲に調節する圧力調節機構とを有し、前記レベル調節機構はレベル検出器を有し、前記圧力調節機構は圧力検出器を有する請求項7に記載の水熱反応装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3354438号(P3354438)
【登録日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【発行日】平成14年12月9日(2002.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−138626
【出願日】平成9年5月28日(1997.5.28)
【公開番号】特開平10−52698
【公開日】平成10年2月24日(1998.2.24)
【審査請求日】平成12年3月24日(2000.3.24)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【参考文献】
【文献】特開 平3−70793(JP,A)
【文献】特開 平1−310799(JP,A)
【文献】特開 昭53−1957(JP,A)
【文献】F.J.Zimmermann,New Waste Disposal Process,Chemical Engineering,1958年8月,117