説明

有機物アルミナ複合薄膜及びその製造方法

【課題】自立膜として利用可能な強度を有し、可撓性があり、クラックの発生がなく、かつ高い透明性、機能性を具備した有機物アルミナ複合薄膜を提供する。
【解決手段】アスペクト比(長径/短径)が30〜5000である繊維状もしくは針状の形状を有するアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子と、有機物の集積からなり、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が、見かけ上、ホストとなっている有機物アルミナ複合薄膜であって、前記有機物総量が、前記アルミナ複合薄膜に対して、重量百分率で、30%以下であり、それらのアルミナが配向性を有し、支持体付又は支持体から剥離している有機物アルミナ複合薄膜、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物アルミナ複合薄膜、その製造方法に関するものであり、更に詳しくは、高耐熱性、高熱伝導率、低熱膨張率のような無機物特有の特徴を保持し、分子レベルで高度に粒子もしくは細孔が配向し、更には、自立して利用できる強度を有した有機物アルミナ複合薄膜及びその製造方法に関するものである。本発明は、自立膜として利用可能な十分な強度を有し、可撓性があり、クラックの発生がなく、かつ高い透明性を有し、種々の機能を具備した有機物アルミナ複合薄膜であって、選択する有機物に応じて、優れた熱安定性、熱伝導性、電気絶縁性などを併せ持つ、光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜などとして有用な新しい材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミックスは、強度、耐熱性、熱伝導度、低熱膨張率など、優れた物性を有し、基板、触媒担体、電極、フィルターなどに工業的に広く使用されている。また、近年では、セラミックスは、その多孔性を利用し、細孔内に、有機物を挿入もしくは固定化するような分散媒(ホスト)としても利用されている。
【0003】
このため、セラミックス材料を形成する粒子や細孔の形状、サイズ及び配向性の制御は、力学的性質の向上だけでなく、分離機能、光学機能面でもきわめて重要であり、様々な検討が行われている。例えば、セラミックス配向膜は、粒子又は細孔が、特定方向に配向し、高い異方性を有する膜であり、その粒子異方性、細孔異方性の特性を利用して、様々な用途に使われている。
【0004】
例えば、粒子が高度に配向することにより、熱伝導性に異方性が発現することが知られている。一般に、熱は、セラミックスを形成する粒子のアスペクト比や、配向性が高いほど、長軸方向へ伝わりやすく、更には、粒子配向性が増加するほど、粒子同士の接触割合が高くなるため、熱伝導性は、向上する(非特許文献1)。樹脂フィルムに代表される有機物は、一般に、熱伝導性が低く、無機フィラーを添加し、熱伝導性の改良がはかられている。
【0005】
先行文献には、アスペクト比5〜80の粒子を、有機物中に複合化し、有機物の物性を改良する検討が行われている。しかし、粒子を高度に配向させるには、無機粒子を高濃度で添加する必要がある。しかし、このような大きさ、形状を有するアルミナ粒子を、樹脂中に高濃度で添加すると、強度や成形性が低下し、均一な成形体は得られない。このように、高度に配向された高濃度アルミナ粒子中に有機物を挿入した複合膜は、これまで、得られていないのが実情であった。
【0006】
また、多孔質セラミックスの細孔を高度に制御し、有機化合物を細孔内に分散させた複合体の開発、検討が行われている。制御された細孔に、有機化合物を分子レベルで配向させることにより、物質本来の分子レベル及びそれ相当の機能や性能を発現させることが可能になる。また、高度に分散した細孔に、有機物を挿入することにより、無孔性のガラス基板では困難であった化合物を、高分散、固定化することが可能になる。
【0007】
例えば、液晶材料などは、液晶分子を配向させるために、ラビング処理や、特殊な基板を使用している。しかし、予め分子レベルで高度に配向制御した細孔に挿入することにより、頻雑な処理を省くことができる。更に、蛍光材料は、有機溶媒への溶解性が低く、結晶性の高い化合物が多いため、通常は、CVD法によってコーティングされているが、この方法は、効率性の面で問題を有している。
【0008】
更に、このような蛍光材料を、溶媒に溶かし、無孔性のガラス基板上にディップコーティングや、スピンコーティングして塗膜化した場合、結晶性の高いものは、乾燥途中で結晶が巨大化し、不均一膜となり、発光効率が低下してしまうという問題がある。しかし、分子レベルに制御された細孔に、このような発光材料を、有機溶媒に溶かして挿入することにより、結晶の巨大化を抑制でき、高分散することが可能である。
【0009】
従来のアスペクト比の小さなアルミナ粒子を凝結させて得られる細孔は、数ナノ〜数μmと大きく、形状、方向が不規則であり、細孔の大きさ、方向性が制御されたアルミナ膜中に、有機物を挿入した複合体の作製は、困難であった。そこで、高度に細孔の配向性を制御した多孔質セラミックス材料を作製するために、様々な検討が行われている。
【0010】
他の先行文献では、所定方向に配向させた細孔を有する無機多孔質膜を作製する方法として、金属アルコキサイドを含むゾル中に液晶分子を分散させ、電場をかけながらゲル化させた後、得られた配向膜から液晶分子を除去する方法が開示されている。しかし、この種の方法は、特殊な装置が必要であることや、ゲル化時に電圧を印加しておく必要があるうえ、効率面でも問題を有しており、更には、電極間距離に応じて、印加電圧をコントロールする必要がある。
【0011】
また、他の先行文献には、酸性水溶液中で、アルミニウム基板上に電圧をかけポーラスアルミナ膜を形成し、内部に有機EL発光体を挿入し、固定化する方法が開示されている。しかし、この種の方法は、膜形成に多大な時間を要するうえに、基板と一体であるため、用途が限定的であり、柔軟性や軽量化の面でも問題を有していた。
【0012】
このように、高耐熱性、高熱伝導率、低熱膨張率のような無機物特有の特徴を保持し、分子レベルで高度に粒子もしくは細孔が配向し、更には、自立して利用できる強度を有した有機物アルミナ複合薄膜は得られていないのが実情であり、当技術分野においては、このような有機物アルミナ複合薄膜を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−062905号公報
【特許文献2】特開2004−29719号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,49,1625(1993)
【非特許文献2】Japanease Journal of Applied Physcics,43,7552(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の有機物アルミナ複合薄膜を開発することを目標として鋭意検討を重ねた結果、アルミナゾル粒子の形状を繊維状あるいは針状とし、更に、アスペクト比を制御することで、アルミナ粒子が配向して、二次元的に集積することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、高耐熱性、高熱伝導率、低熱膨張率のような無機物特有の特徴を保持し、分子レベルで高度に粒子もしくは細孔が配向し、更には、自立して利用できる強度を有した有機物アルミナ複合薄膜を提供することを目的とするものである。また、本発明は、自立膜として利用可能な十分な強度を有し、可撓性があり、クラックの発生がなく、かつ高い透明性を有し、種々の機能を具備した有機物アルミナ複合薄膜を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、有機物アルミナ複合薄膜であって、選択する有機物に応じて、優れた熱安定性、熱伝導性、電気絶縁性などを併せ持つ、光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜などとして有用な新しい材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)アスペクト比(長径/短径)が、30〜5000である、繊維状もしくは針状の形状を有するアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子と、有機物の集積からなり、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が、見かけ上、ホストとなっている有機物アルミナ複合薄膜であって、前記有機物総量が、前記アルミナ複合薄膜に対して、重量百分率で、30%以下であり、それらのアルミナが、配向性を有し、支持体付又は支持体から剥離していることを特徴とする有機物アルミナ複合薄膜。
(2)有機物アルミナ複合薄膜が、支持体から剥離した状態で、柔軟性を示す、前記(1)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(3)アルミナ水和物粒子が、無定形、ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種である、前記(1)又は(2)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(4)アルミナ粒子の結晶系が、γ、θ、又はαから選ばれる少なくとも1種である、前記(1)又は(2)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(5)有機物の沸点が、低くても40℃である、前記(1)又は(2)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(6)有機物アルミナ複合薄膜の厚さが、0超〜1000μmである、前記(1)から(5)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(7)アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の短径が、1〜10nmで、長径が、100〜10000nmである、前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(8)アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子のアスペクト比が、100〜3000である、前記(1)から(7)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(9)アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の長径が、700〜7000nmである、前記(1)から(8)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(10)ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種のアルミナ水和物粒子の集積体が、見かけ上、有機物のホストとなった有機物アルミナ複合薄膜であって、X線回折において、アルミナ粒子に基づく結晶子面(020)と結晶子面(120)の回折強度比d(020)/(120)が5以上である結晶配向性を有する、前記(1)から(9)いずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(11)無定形、ベーマイト、擬ベーマイト、γ−アルミナ、又はθ−アルミナから選ばれる少なくとも1種のアルミナ粒子の集積体が、見かけ上、有機物のホストとなった有機物アルミナ複合薄膜であって、その柔軟性が、支持体から剥離直後の状態で、100μm以下の膜厚において、JIS K5600−5−1に基づいた耐屈曲性試験を行った場合、円筒形マンドレルの直径が2mm以上でクラックの発生を示さない特性を有する、前記(2)から(10)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(12)前記有機物アルミナ複合薄膜の熱伝導率が、0.1〜10W/mKである、前記(11)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(13)前記有機物アルミナ複合薄膜の透光度が、膜厚0.1〜100μmで、全光線透過率20%以上を示す、前記(12)に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
(14)前記(1)から(10)のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜を製造する方法であって、短径が2〜5nm、長径が100〜10000nmであり、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状もしくは針状のアルミナ水和物粒子が分散している水性アルミナゾルを、支持体ないし対象物に塗布し、乾燥することを特徴とする有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。
(15)アルミナ水和物粒子が、ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種のである、前記(14)に記載の有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。
(16)アルミナゾルが、アルミニウムアルコキシドを加水分解、解膠することにより得られたものである、前記(14)又は(15)に記載の有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。
【0018】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明のアルミナ複合膜は、特定の大きさ、アスペクト比を有する繊維状のアルミナ水和物粒子及び/又はアルミナ粒子と、有機物を必須の構成要素として含み、アルミナ複合膜の全質量に対する有機物の合計質量が、30質量%以下であり、好ましくは0.001〜20質量%であることを特徴とするものである。
【0019】
アルミナ複合膜の全質量に対する有機物の合計質量が、30質量%を超える場合は、アルミナ水和物やアルミナに期待される効果、すなわち、低熱膨張性、高熱伝導性、アルミナ粒子の配向効果が得られないことから、好ましくない。有機化合物の含量が、0.001質量%を未満の場合は、アルミナ複合膜中の有機物の添加効果が小さくなるため、好ましくない。
【0020】
アルミナ複合膜の各成分について説明する。本発明のアルミナ複合膜は、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子から構成される。本発明のアルミナ複合膜を構成するアルミナ水和物粒子、アルミナ粒子は、平均アスペクト比が30〜5000、平均短径が1〜10nm、かつ平均長径が100〜10000nmである繊維状の粒子である。好ましくは、アスペクト比が100〜3000、平均短径が2〜5nm、平均長径が500〜7000nmである繊維状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子である。
【0021】
粒子の平均アスペクト比が30未満の柱状、板状などの場合は、アルミナ複合膜の可撓性が低下し、更には、十分な強度が得られないため、好ましくない。平均アスペクト比が5000を超える場合は、多大な製造時間を要するため、実用的でない。粒子の平均短径が1nm未満である場合は、粒子が凝集し易く、アルミナ複合膜の強度が不足するため、好ましくない。粒子の平均長径が10000nmを超える場合は、調製に多大な時間を要するため、好ましくない。
【0022】
本発明のアルミナ複合膜を構成するアルミナ水和物粒子の結晶系は、特に限定されないが、好ましくは無定形、ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種である。更に、好適にはベーマイト、擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種である。ベーマイトは、組成式Al・nHO(n=1〜1.5)で表されるアルミナ水和物の結晶である。また、擬ベーマイトは、ベーマイトのコロイド状凝集体を指している。
【0023】
アルミナ水和物を加熱するに従って、その結晶系が、γ、θなどに遷移し、最終的には、α−アルミナになる。本発明のアルミナ複合膜を構成するアルミナ粒子は、結晶系が、γ、θ、αから選ばれる少なくとも1種であり、更に好適にはγ、θから選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
本発明のアルミナ複合膜中のアルミナ水和物層及び/又はアルミナ層は、多孔質であり、これらの層を形成しているアルミナ水和物粒子及び/又はアルミナ粒子は、細孔を有する。本発明において、多孔質とは、繊維状もしくは針状の粒子と粒子とで形成される空隙により多孔質構造を有していることを意味する。
【0025】
液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線から、マイクロ孔ないしメソ孔依存のヒステリシスとして、MP法ないしBJH法により解析して得られた細孔分布曲線において、ピークットップを示す細孔直径dpeakが、0.5〜20nmである細孔分布を有する。ここで、MP法とは、吸着等温線からマイクロ孔容積、マイクロ孔面積及びマイクロ孔の分布などを求める方法である(文献:R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968))。
【0026】
また、BJH法とは、吸着等温線からメソ孔容積、メソ孔表面積及びメソ孔の分布などを求める方法である(文献:E.P.Barrett,L.G.Joyner,P.P.Halenda,J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951))。ピークットップを示す細孔直径dpeakが、0.5nm未満である場合は、細孔内に有機物を充填することが困難になるため、好ましくなく、20nmを超える場合は、自立膜の強度が低下するため、好ましくない。
【0027】
本発明のアルミナ複合膜中のアルミナ水和物及び/又はアルミナ層を形成しているアルミナ水和物粒子及び/又はアルミナ粒子は、結晶配向性を有している。アルミナの熱伝導性、電気伝導性などの諸物性に適合する膜の異方性を利用する場合には、アルミナ複合膜中の、アルミナ水和物粒子を、100〜300℃の範囲の温度で焼成する。
【0028】
得られるベーマイト又は擬ベーマイト粒子が集積してなるアルミナ多孔質層は、その結晶子面(020)と結晶子面(120)のX線回折強度比d(020)/d(120)が5以上である、結晶配向性を有するものであることが好ましい。d(020)/d(120)が5未満である場合は、アルミナ複合膜の熱伝導性、電気伝導性などに、所望の異方性を得ることができない。
【0029】
本発明のアルミナ複合膜においては、前記した特定の大きさ、アスペクト比を有する繊維状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が集積して、アルミナ水和物層及び/又はアルミナ層を形成している。本発明において、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の集積とは、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が、膜の平面方向に、その長軸方向の全部ないし一部を揃えて、積み重なって形成される集積であることを意味する。
【0030】
次に、本発明の複合膜中のゲストになる有機物としての有機化合物について説明する。以下は、代表例であって、これらに限定されるものではなく、ゲスト有機物が、ガスあるいは低粘性液体となって飛散するものでなければ、基本的に問題はなく、いずれもゲストとなり得る。
【0031】
(有機物)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物とは、沸点が40℃以上の有機化合物である。本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としては、合成樹脂、光照射や通電により発光するいわゆるフォトルミネッセンス性や、エレクトロルミネッセンス性を有する、蛍光物質、蛋白質(酵素)、核酸、液晶物質、導電性高分子、香料、染料などが例示される。
【0032】
(合成樹脂)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての合成樹脂は、熱硬化性樹脂もしくは高エネルギー線硬化性樹脂などの硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂である。熱硬化性樹脂とは、硬化性樹脂前駆体が熱により架橋、硬化する樹脂を、また、高エネルギー線硬化性樹脂とは、紫外線や電子線などの高エネルギー線により架橋、硬化する樹脂を、更に、熱可塑性樹脂とは、加熱により軟化、溶融する樹脂を指している。
【0033】
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂や尿素樹脂などのアミノ樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタンなどが包含される。また、本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する高エネルギー線硬化性樹脂には、アクリル樹脂、光カチオン重合を利用して得られるエポキシ樹脂などが包含される。
【0034】
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての熱可塑性樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール(部分鹸化物を含む)、ポリビニルアセタール(部分アセタール化物を含む)、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどの飽和ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルスルホンなどが包含される。
【0035】
(蛍光物質)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての蛍光物質としては、エレクトロルミネッセンス、フォトルミネッセンスなど、蛍光を発する有機化合物であれば、特に限定されない。具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(1−ナフトラト)アルミニウム、ビス(8−キノリラト)マグネシウム、ビス〔ベンゾ(f)−8−キノリノラト〕亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノラト)インジウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラト)亜鉛、ビス(o−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト)亜鉛、ビス(o−(2−ベンゾトリアゾリル)フェノラト)亜鉛などの金属錯体系蛍光物質が使用される。
【0036】
また、ジスチリルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)−2−メチルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)−2−エチルベンゼンなどのスチリルベンゼン誘導体が使用される。
【0037】
また、2,5−ビス(4−メチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス(4−エチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(1−ナフチル)ビニル〕ピラジン、2,5−ビス(4−メトキシスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(4−ビフェニル)ビニル〕ピラジンなどのジスチリルピラジン誘導体;トランス−4,4’−ジフェニルスチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾリル)−スチルベン、4,4’−ビス(5−フェニルベンゾオキサゾリル)−スチルベンなどのスチルベン系蛍光色素が使用される。
【0038】
また、3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)などのクマリン系蛍光色素;4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−8−イル)ビニル]−4H−ピラン(DCM2)などのジシアノメチレン系蛍光色素が使用される。
【0039】
更に、4−アミノナフタル酸フェニルイミドなどのナフタルイミド系蛍光色素、3−エチル−2−[5−(3−エチル−2−ベンゾオキサゾリニリデン)−1,3−ペンタジエニル]ベンズオキサゾリウムヨウ化物(DODCI)などのポリメチン系蛍光色素、3−ニトロフェノキサジン、3,7−ジニトロフェノキサジンなどのオキサジン系蛍光色素、ポリフェニレンビニレン、ポリアリレン、ポリアルキルチオフェン、ポリアルキルフルオレンなどの高分子系蛍光物質などが例示される。
【0040】
(蛋白質など・生体高分子)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての生体高分子は、食品加工、医薬品領域で利用されている酵素などの蛋白質や核酸などであり、特に限定されるものではない。具体的には、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、カタラーゼ、グルコオキシラーゼ、アントシアナーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アスパルターゼ、グルコースイソメラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ、サチライシン、アミノアシラーゼ、ペニシリナーゼ、ラクトナーゼ、ニトリルヒドラターゼ、フマラーゼ、イソメラーゼ、各種DNA、各種RNAなどが例示される。
【0041】
(液晶物質)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての液晶物質として、典型的には、2−(4’−シアノフェニル)−6−オクチルナフタレン、2−(4’−ペンチルフェニル)−6−メトキシナフタレン、2−フェニルベンゾチアゾール、4−シアノフェニル−4−ノニルベンゾエート、ヘプチルシアノビフェニル、オクチルフェニルビフェニル、ノニルシアノビフェニル、4−シアノフェニル−4−エチルベンゾエート、ペンチルシアノビフェニルなどが例示される。
【0042】
(導電性高分子)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜を構成する有機物としての導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソチオナフテンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
(その他の成分)
本発明の有機物アルミナ複合薄膜には、熱膨張、熱伝導度の特性を損なわない範囲で、充填剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料などが含まれていてもよい。
【0044】
次に、有機物アルミナ複合薄膜の製造方法について説明する。本発明の有機物アルミナ複合薄膜の製造方法には、種々の方法が適用可能であり、特に規定されるものではないが、典型例として、以下の方法が挙げられる。
【0045】
(a)アルミナ多孔質自立膜を利用する方法。これは、前記した各種有機物を溶媒に溶解もしくは分散させた液に、前記した大きさ及び形状を有するアルミナ水和物粒子及び/又はアルミナ粒子が集積したアルミナ多孔質自立膜を浸漬し、適宜、余分な有機物を除去した後、乾燥し、更に、必要に応じて、加熱、高エネルギー線照射などの硬化処理を行う方法、あるいは、アルミナ多孔質自立膜に、前記した有機物含有組成物を塗布し、乾燥、硬化する方法、である。
【0046】
有機物として、合成樹脂前駆体、すなわちモノマー成分、架橋もしくは重合性官能基を有するオリゴマー、プレポリマーなどの合成中間体を使用する場合は、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤などを、溶媒に溶解、もしくは分散させる。
【0047】
(b)前記した有機物を、水性溶媒に溶解もしくは分散する方法。これは、前記した大きさ及び形状を有するアルミナ水和物粒子、前記した有機物、更に、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、架橋促進剤などが溶解、分散しているアルミ有機物混合分散液を、撥水性の支持体に塗布し、乾燥した後、支持体から剥離し、更に、必要に応じて、加熱、高エネルギー線照射などの硬化処理を行う方法、である。
【0048】
有機物が、フィルム形成性の合成樹脂である場合は、合成樹脂フィルム・シートに、前記のアルミナ樹脂水性分散液を塗布し、乾燥後、必要に応じて、加熱する方法や、合成樹脂フィルム・シートとアルミナ多孔質自立膜を接着する方法などが例示される。
【0049】
上記(b)の方法では、樹脂溶液との混合方法によっては、繊維状アルミナ水和物粒子のアスペクト比が、前記した範囲の下限値より小さくなる可能性があること、上記(a)の方法では、溶媒への溶解性に限定されずに、広範囲の合成樹脂が使用できること、などから、(a)の方法が好ましい。しかし、その後の利用方法により、成膜方法は、上記(a)、(b)の方法に限定されることなく、目的に応じて、選択され、工夫されるべきである。アルミナ熱硬化性樹脂複合膜を製造する場合は、特に、(a)の方法が好ましい。
【0050】
硬化性樹脂であるエポキシ樹脂との複合膜であるアルミナ−エポキシ樹脂複合膜を例として、(a)の方法について、具体的に説明する。アルミナ多孔質自立膜を、エポキシ樹脂含有組成物に浸漬し、余分な樹脂前駆体などを洗浄した後、分散媒を除去し、硬化処理することにより、アルミナ−エポキシ樹脂複合膜を得ることができる。
【0051】
(アルミナ多孔質自立膜)
(a)の方法などで使用するアルミナ多孔質自立膜は、文献(特願2008−278951号公報又は特願2008−312762号公報)に記載した方法により製造することができる。すなわち、例えば、短径が1〜10nm、長径が100〜10000nm、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状アルミナ水和物粒子が分散している水性アルミナゾルを、撥水性の支持体に塗布し、乾燥した後、支持体から剥離させること、更に、必要に応じて、加熱、焼成することにより、該アルミナ多孔質自立膜を製造することができる。
【0052】
前記の水性アルミナゾルは、加水分解性アルミニウム化合物を、加水分解し、酸性もしくはアルカリ性条件下で解膠することにより製造することができる。加水分解性のアルミニウム化合物の種類、加水分解や解膠の条件を適宜選択することにより、無定形及びベーマイト、又は擬ベーマイトの結晶系であるアルミナ水和物粒子からなる水性アルミナゾルを製造することができる。アルミナ水和物粒子の結晶系としては、ベーマイト又は擬ベーマイトが好ましい。
【0053】
加水分解性アルミニウム化合物には、各種の無機アルミニウム化合物、及び有機性の官能基を有するアルミニウム化合物が包含される。無機アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムなどの無機酸の塩、アルミン酸ナトリウムなどのアルミン酸塩、水酸化アルミニウムなどが例示される。
【0054】
有機性の官能基を有するアルミニウム化合物としては、酢酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウムなどのアルミニウムキレート、アルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物などが例示される。
【0055】
これらの化合物のうち、適度な加水分解性を有し、副生成物の除去が容易であることなどから、アルミニウムアルコキシドが好ましく、炭素数2〜5の低級のアルコキシル基を有するものが特に好ましい。
【0056】
水の量は、水性ベーマイトゾル中の繊維状のベーマイト又は擬ベーマイト粒子の濃度が、0.1〜20質量%になるように調整することが好ましく、更に好ましくは、これらの粒子の濃度が0.5〜10質量%になるように調整する。水性ベーマイトゾル中の繊維状のベーマイト又は擬ベーマイト粒子の濃度が、0.1質量%以下の場合は、乾燥に多大な時間を要し、20質量%以上の場合は、分散液の粘度が高くなり、均一な膜が得られ難い面があるので、好ましくない。
【0057】
前記の水性アルミナゾルには、目的とするアルミナ多孔質自立膜の性状に悪影響を及ぼさない範囲で、アルコール、ケトン、エーテル、水溶性高分子などを添加することが可能である。所定量の水と、加水分解性アルミニウム化合物を添加後、80〜170℃で、0.5〜10時間加熱し、好ましくは100〜150℃で、1〜5時間、水熱処理する。
【0058】
加熱温度が80℃未満の場合は、加水分解に長時間を必要とし、また、170℃を超える温度で実施しても、加水分解速度の増大は僅かであり、高耐圧容器などを必要とし、経済的に不利であるので、好ましくない。加熱時間が0.5時間未満の場合は、温度調節が難しく、加熱時間が10時間を超えて加熱しても、工程時間が長くなるだけであるので、好ましくない。
【0059】
次に、加水分解により得られたアルミナスラリーを、特定量の酸の存在下で加熱することにより解膠する。共存させる酸としては、塩酸、硝酸、蟻酸、酢酸などの一価の酸が好ましく、酢酸が、特に好ましい。
【0060】
酢酸の共存量は、加水分解性アルミニウム化合物に対して0.1〜2モル倍であり、好ましくは0.3〜1.5モル倍である。酢酸の共存量が0.1モル倍未満の場合は、解膠が十分進行せず、目的とする短径が1〜10nm、長径が100〜10000nm、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状もしくは針状の形状を有するアルミナ水和物粒子が分散している水性アルミナゾルを得ることができない。酢酸の共存量が2モル倍を超える場合は、経時安定性が低下する可能性があるので、好ましくない。
【0061】
本発明の繊維状及び針状のアルミナゾルのpHは、2.5〜4の酸性を示すことから、コーティング、フィルムなどに使用した際は、基板に腐食などの影響を与えることがある。その場合、pH調製試薬を添加し、アルミナゾルのpHを中性又はアルカリ性に調整することにより、基板への影響を抑え、塗膜を作製することができる。
【0062】
この場合、pH調整試薬として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又はアンモニア及びエチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、尿素などの有機アミン類が好適に使用される。
【0063】
しかし、無機水酸化物、炭酸塩などは、焼成後も元素が残存してしまうことから好ましくなく、好適にはアンモニア、有機アミン類である。また、アルミナ多孔質膜が形成される過程で、アンモニア、有機アミンなどの塩基性物質が発生する場合は、この種の調整試薬の添加は、特に必要としない。
【0064】
また、得られた水性アルミナゾルの粘度が高い場合は、液中に気泡を含むため、支持体に塗布する前に、脱気処理が必要となる。減圧処理、遠心処理などを利用することにより、気泡を取り除くことができる。前記水性アルミナゾルを塗布する支持体としては、各種の樹脂を使用することができる。
【0065】
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルジアセテートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリプロピレンなどが使用される。撥水性を有する支持体の場合、室温で容易に剥離して自立膜を得ることができることから、ポリテトラフルオロエチレンなどの撥水性を有する支持体を用いることが好ましいが、コーティング膜など、支持体付の場合は、この限りではなく、支持体は、特に制限されるものではない。
【0066】
水性アルミナゾルの粘度、所望する膜の形状、大きさにより、各種の一般的な塗布方法を採用することができる。好ましく用いられる塗布方法としては、流涎法、ドクターブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などが挙げられる。
【0067】
分散媒を除去する乾燥方法としては、蒸発法が好ましい。10〜100℃の恒温室内で、10分〜5時間程度乾燥することにより、前記したアルミナ多孔質自立膜が得られる。アルミナ多孔質自立膜の厚さは、分散媒中のアルミナ粒子量により、容易に調節することが可能である。膜厚が0.1〜100μmのアルミナ多孔質自立膜を作製することが可能であり、100cm×100cmのような大面積の膜も作製することが可能である。また、切断して、膜の形状を変えることも適宜可能である。
【0068】
(エポキシ樹脂含有組成物)
エポキシ樹脂前駆体、硬化剤、更に、必要に応じて、硬化促進剤を所定の溶媒に添加し、エポキシ樹脂含有組成物を調製する。硬化速度が小さい硬化剤、すなわち酸無水物、芳香族ポリアミンなどを使用する場合は、硬化促進剤を併用することができる。
【0069】
エポキシ樹脂前駆体としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型など)、脂環式エポキシ化合物(脂環式ジエポキシアセタール、脂環式ジエポキシアジペートなど)、グリシジルエステル型エポキシ化合物(フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなど)が使用される。
【0070】
更に、グリシジルアミン型エポキシ化合物、すなわちテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp−アミノフェノールなど、複素環式エポキシ化合物、すなわちジグリシジルヒダントインなどのヒダントイン型エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレートなど、公知の有機エポキシ化合物及びその(共)重合体が使用でき、また、複数のエポキシ樹脂前駆体を混合して使用することもできる。
【0071】
硬化剤としては、トリエチレンテトラミン、テトラメチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどのポリアミン;フェノールノボラック樹脂、アニリン変性レゾール樹脂などのフェノール樹脂;メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサ無水フタル酸、無水コハク酸などの酸無水物;ジシアンジアミドなど、公知の化合物が使用できる。また、ジアルキル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム塩などの紫外線硬化剤も使用できる。
【0072】
硬化促進剤としては、N,N−ジメチルピペラジン、ベンジルジメチルアミンなどの三級アミン;2−メチルイミダゾールなどイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイドなどの有機リン化合物など、公知の化合物が使用できる。
【0073】
溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒;酢酸ブチルなどのエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリゴールモノメチルエーテルなどのグリコール類など、公知の溶媒が使用できる。
【0074】
分散媒中の樹脂の濃度は、0.01〜20質量%が好ましく、更に、好ましくは0.1〜15質量%である。0.01質量%以下では、アルミナ多孔質膜内に空隙が生じるため、好ましくなく、20質量%を超えると、アルミナ多孔質膜表面に厚くコートされる溶媒などで除去されロスが多くなるため好ましくない。
【0075】
(浸漬、塗布、乾燥、硬化処理)
前記のアルミナ多孔質自立膜を、エポキシ樹脂含有組成物に浸漬する場合は、浸漬時間は、5〜120分であり、更に、好ましくは10〜60分である。5分以下の場合は、エポキシ樹脂前駆体、硬化剤、溶媒などがアルミナ多孔質細孔内へ十分に浸透できず、120分を超えて浸漬しても特段の効果がないことから、好ましくない。
【0076】
エポキシ樹脂前駆体、硬化剤などが含浸したアルミナ多孔質自立膜を、エポキシ樹脂含有組成物から引き上げ、エポキシ樹脂含有組成物の溶媒により、数回洗浄する。蒸発法など、一般的な方法により、溶媒を乾燥除去後、公知の方法で、硬化処理(加熱、UV照射など)を行う。樹脂前駆体、硬化剤、硬化促進剤に応じて、適宜、硬化条件を選択する。
【0077】
前記のアルミナ多孔質自立膜に、エポキシ樹脂含有組成物を塗布することによっても、アルミナ−エポキシ樹脂複合膜を得ることができる。流涎法、ドクターブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法などの一般的な塗布方法が採用できる。
【0078】
ポリイミドなど他の熱硬化性樹脂を使用する場合も、各樹脂に関する公知の製造方法を利用して、アルミナ−エポキシ樹脂複合膜と同様に、アルミナ樹脂複合膜を得ることができる。ポリビニルアルコールなど熱可塑性樹脂を使用する場合も、硬化処理工程を省くことにより、硬化性樹脂と同様に、アルミナ熱可塑性樹脂複合膜を得ることができる。
【0079】
ここで、(b)の方法について説明すると、アルミナ有機化合物混合分散液を、撥水性の支持体に塗布し、乾燥後、支持体から剥離し、更に、必要に応じて、加熱、高エネルギー線照射などの硬化処理を行う。
【0080】
アルミナ樹脂水性分散液は、短径が1〜10nm、長径が100〜10000nm、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状アルミナ水和物粒子からなる粉体、及び合成樹脂もしくは合成樹脂前駆体を、水性溶媒に分散する方法、アルミナ水和物粒子からなる粉体を、合成樹脂もしくは合成樹脂前駆体が水性溶媒に溶解もしくは分散している水性樹脂溶液もしくは分散液に分散する方法、アルミナ水和物粒子が水性溶媒に分散している水性アルミナゾルと、合成樹脂もしくは合成樹脂前駆体が水性溶媒に溶解もしくは分散している水性樹脂溶液を混合する方法、などにより製造できる。
【0081】
短径が1〜10nm、長径が100〜10000nm、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状アルミナ水和物粒子が分散している水性アルミナゾルは、(a)の方法により、得ることができる。
【0082】
水性溶媒とは、主成分として水を含む溶媒であり、水のみであってもよく、もしくは、水溶性の、好ましくは20℃において、所望濃度の水溶性を示す有機溶剤と水との混合物であってもよい。
【0083】
水としては、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水など、いずれも用いることができるが、イオン交換水が好ましい。また、水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールなどの低級脂肪族アルコール;蟻酸、酢酸などの低級脂肪族カルボン酸;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒を包含する。
【0084】
アルミナ熱可塑性樹脂複合膜を製造する場合は、前記した熱可塑性樹脂の中で、水性溶媒に溶解もしくは分散するもの(本明細書では、水溶性熱可塑性樹脂と記載する。)が好適に使用できる。水溶性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合体、ポリビニルアルコール、水溶性飽和ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリカーボネートなどを包含する。
【0085】
アルミナ硬化性樹脂複合膜を製造する場合は、前記した硬化性樹脂の前駆体、更に、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤を使用するが、各成分は、水性溶媒に溶解もしくは分散、かつ安定であることが必要である。
【0086】
水溶性熱硬化性樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂(尿素、メラミンなどで変性されていてもよい)、2,4,6−トリス(メチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2−ジメチルアミノ−4,6−ビス(メチルアミノ)−1,3,5−トリアジンなどのメチル化メラミン類、2,4,6−トリメチロールメラミンなどのメチロールメラミン類、トリメチロールメラミントリメチルエーテル、トリメチロールメラミンジメチルエーテルなどのメチル化メチロールメラミン類などの、メラミン樹脂前駆体が使用される。
【0087】
また、ジメチロール尿素、ジメチロールエチレン尿素、1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ジヒドロキシメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ジヒドロキシメチル−2−イミダゾシジノン、4,5−ジヒドロキシ−1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの、水溶性のアミノ樹脂前駆体が使用される。
【0088】
更に、水溶性ブロックイソシアネート樹脂、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、メチレンビス−(4−フェニルイソシアネート)などのポリアルキレングリコール付加物など、ポリカルボン酸、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂などが使用される。
【0089】
前記した(a)の方法により、アルミナ樹脂水性分散液を支持体へ塗布、乾燥し、必要に応じて、硬化処理を行うことにより、アルミナ複合膜を、支持体付あるいは支持体なしで得ることができる。すなわち、該アルミナ複合膜は、支持体に塗布し、膜を形成した後、これを剥離して、自立膜として使用することができるだけでなく、支持体から剥離せず、コーティング膜としても使用することができる。
【発明の効果】
【0090】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、分子レベルで高度に粒子もしくは細孔が配向し、更には、自立して利用できる強度を有した有機物アルミナ複合薄膜及びその製造方法を提供することができる。
(2)本発明により、種々の支持体上に、発光、偏光、屈折、導電など、さまざまな機能を有するアルミナ有機物複合薄膜を得ることができる。
(3)本発明により、自立膜として利用可能な十分な強度を有し、可撓性があり、クラックの発生がなく、かつ高い透明性を有し、種々の機能を具備した有機物アルミナ複合薄膜を得ることができる。
(4)本発明の有機物アルミナ複合薄膜は、アルミナをベースとしている有機物アルミナ複合薄膜であり、選択する有機物に応じて、優れた熱安定性、熱伝導性、電気絶縁性などを併せ持つ、光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜などとして有用な新しい材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0091】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、自立膜を構成する粒子の同定は、X線回折測定で行った。X線回折測定は、回折角2θ:10〜90°で測定を行った。繊維状擬ベーマイト粒子の平均長径及び平均短径、及び、アスペクト比は、電子顕微鏡写真から測定した数値の平均値から求めた。
【0092】
繊維状ベーマイト粒子などの特定結晶面の強度比は、X線回折装置を使用し、ベーマイト粒子の(020)結晶面と(120)結晶面の回折ピークの強度比として示した。自立膜の全光線透過率は、濁度計により測定した。自立膜の可撓性は、乾燥直後の膜を、JIS K5600−5−1に従って、円筒形マンドレル屈曲試験器により評価した。
【0093】
測定装置については、以下の装置を使用した。
・X線回折装置(Mac.Sci.MXP−18、管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:250mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.020°、走査速度:10°/min、発散スリット:0.5°、散乱スリット:0.5°、受光スリット:0.30mm)
・透過型電子顕微鏡(FEI−TECNAI−G20)
・濁度計(日本電色工業(株)製、NDH5000)
・円筒形マンドレル屈曲試験器BD−2000(コーテック(株)製)
【0094】
線熱膨張係数は、以下により測定した。装置:TMA8310(リガク製)、温度範囲:25〜100℃、昇温速度:5℃/min、測定モード:引張(荷重49mN)、雰囲気:N(50ml/min)
熱伝導率は、以下により測定した。装置:オートΛHC−072(英弘精機製)、測定方法:レーザーフラッシュ法、測定温度:40℃
【0095】
(参考例)
<繊維状アルミナゾル>
500mlの四つ口フラスコに、イオン交換水300g取り、撹拌しながら、液温を75℃に上昇させた。これに、アルミニウムイソプロポキシド64g(0.34mol)を滴下し、発生するイソプロピルアルコールを留出させながら、液温を、95℃まで上昇させ、反応液を調製した。この反応液を、電磁撹拌式のオートクレーブに移し、これに、酢酸10.2g(0.17mol)を加え、撹拌しながら、160℃で、3時間反応を行った。
【0096】
反応液を、40℃以下に冷却し、反応を終了した。反応液中の固形分濃度は、4.8質量%であった。得られたアルミナ水和物粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、平均短径が2nm、平均長径が2000nm、平均アスペクト比が1000の繊維状粒子であった。
【実施例1】
【0097】
<繊維状アルミナ−PVA樹脂複合膜>
参考例で示した繊維状アルミナ粒子分散液9.5g、及び12.5質量%ポリビニルアルコール(PVAと略称、関東化学、平均重合度:900〜1100、完全ケン化型)水溶液0.36gを、プラスチック製容器に入れ、20分間激しく振とうし、遠心分離機で脱気することにより、均一なアルミナ−PVA分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とポリビニルアルコールの質量比は、10/1であった。
【0098】
この均一なアルミナ−PVA分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(80mm×80mm×2mm)に流し込み、送風式オーブン内で、50℃、1時間乾燥することにより、縦80mm、横80mm、厚さ50μmの均一な繊維状アルミナ−PVA複合膜を得た。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近のピーク(020)面及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=8であった。この均一な繊維状アルミナ−PVA複合膜の全光線透過率は、90%であった。
【0099】
(比較例1)
<柱状アルミナ−PVA樹脂複合膜>
繊維状アルミナ粒子分散液を、柱状アルミナ粒子(平均短径:10nm、アスペクト比:5)分散液(分散媒:水、固形分:10質量%)4.32gに変更し、実施例1と同様にして、均一な柱状アルミナ−PVA分散液を得た。柱状アルミナ粒子とポリビニルアルコールの質量比は、0.432/0.045であった。この均一な柱状アルミナ−PVA分散液を使用して、実施例1と同様に成膜したが、断片状の膜しか得られなかった。
【実施例2】
【0100】
<アルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム複合膜>
実施例1で使用した繊維状アルミナゾル10g、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業、重合度:22,000−70,000)0.01g及びイオン交換水5gを、プラスチック製容器に入れ、20分間激しく振とうし、遠心分離機で脱気することにより、均一なアルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とポリアクリル酸ナトリウムの質量比は、48/1であった。
【0101】
この均一なアルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム分散液を、実施例1で使用したテフロン(登録商標)コートした容器に流し込み、送風式オーブン内で、40℃、3時間乾燥することにより、縦80mm、横80mm、厚さ45μmの均一なアルミナ−アクリル酸ナトリウム複合膜を得た。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近のピーク(020)面及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=7であった。この均一なアルミナ−アクリル酸ナトリウム複合膜の全光線透過率は、60%であった。
【0102】
(比較例2)
<アルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム複合膜>
比較例1で使用した柱状アルミナゾル4.8g、実施例2で使用したポリアクリル酸ナトリウム0.01g及びイオン交換水10gを、プラスチック製容器に入れ、20分間激しく振とうし、遠心分離機で脱気することにより、均一なアルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム分散液を得た。柱状アルミナ粒子とポリアクリル酸の質量比は、4.8/0.01であった。この均一なアルミナ−ポリアクリル酸ナトリウム分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(80mm×80mm×2mm)に流し込み、送風式オーブン内で、40℃、3時間乾燥したが、断片状の膜しか得られなかった。
【実施例3】
【0103】
<アルミナ−エポキシ樹脂複合膜>
実施例1で使用した繊維状アルミナゾル11g、及びイオン交換水9gを、プラスチック製容器に入れ、20分間激しく振とうした後、遠心分離機で脱気することにより、均一なアルミナ分散液を得た。この分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(80mm×80mm×10mm)に流し込み、送風式オーブン内で、40℃、3時間乾燥することにより、縦80mm、横80mm、厚さ50μmの均一なアルミナ多孔質自立膜を得た。更に、剥離した自立膜を、150℃で、2時間焼成し、0.60gのアルミナ多孔質乾燥自立膜を得た。
【0104】
得られたアルミナ多孔質自立膜を、エポキシ樹脂前駆体(商標:EPICLON EXA−4850−150、大日本インキ化学工業)1g、トリエチレンテトラミン(和光純薬工業)0.075g、トルエン20gからなる混合溶液に、30分間含浸後、自立膜を、混合溶液から取出し、トルエン50mlで、自立膜表面をかけ洗いし、80℃(3時間)→昇温(1時間)→125℃(2時間)→昇温(1時間)→150℃(2時間)の条件で、硬化処理し、アルミナ−エポキシ樹脂複合膜を得た。
【0105】
繊維状アルミナ粒子とエポキシ樹脂の質量比は、0.60/0.09であった。この膜の全光線透過率は、92%であった。14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=20であった。更に、線熱膨張率を測定した結果、線熱膨張率:11×10−6であった。可撓性を評価した結果、マンドレル径:15mmであった。
【0106】
(比較例3)
<柱状アルミナ−エポキシ樹脂複合膜>
繊維状アルミナ水和物粒子を、柱状アルミナ水和物粒子(アルミナ含量:68%、平均短径:10nm、アスペクト比:5)に、また、エポキシ樹脂前駆体の添加量を0.6gに変更し、実施例3と同様にして、均一な柱状アルミナ−エポキシ樹脂分散液を得た。柱状アルミナ粒子とエポキシ樹脂前駆体の質量比は、2.04/0.6であった。この均一な柱状アルミナ−エポキシ樹脂分散液を、実施例3と同様に成膜したが、断片状の膜しか得られなかった。
【実施例4】
【0107】
<アルミナ−ポリビニルピロリドン複合膜>
ポリアクリル酸ナトリウムを、ポリビニルピロリドン(PVPと略称、和光純薬工業、商標:ポリビニルピロリドンK30)に変更した以外は、実施例2と同様にして、均一なアルミナ−PVP分散液を得た。この分散液を、実施例2と同様に処理することにより、縦80mm、横80mm、厚さ45μmの均一なアルミナ−PVP複合膜を得た。この複合膜の全光線透過率は、65%であった。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近のピーク(020)面及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=15であった。
【実施例5】
【0108】
<アルミナ−ポリエチレングリコール複合膜>
ポリアクリル酸ナトリウムを、ポリエチレングリコール(PEGと略称、和光純薬工業、平均分子量:2000)に変更した以外は、実施例2と同様にして、均一なアルミナ−PEG分散液を得た。この分散液を、実施例2と同様に処理することにより、縦80mm、横80mm、厚さ45μmの均一なアルミナ−PEG複合膜を得た。
【実施例6】
【0109】
<アルミナ−アルミキノリノール錯体複合膜>
実施例3と同様にして得たアルミナ多孔質乾燥自立膜0.57gを、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3と略称、Aldrich社製)の0.08質量%トルエン溶液10gに、30分間含浸した後、デシケーター内で、2時間減圧乾燥することにより、アルミナ−Alq3複合膜を得た。Alq3のアルミナ多孔質自立膜への吸着量は、0.0035gであり、アルミナとAlq3の質量比は、0.57/0.0035であった。
【0110】
このアルミナ−Alq3複合膜に、波長254nmの紫外線を照射すると、緑色の発光(ピーク波長:500nm、)が観察された。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近のピーク(020)面及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=15であった。
【実施例7】
【0111】
<アルミナ−EL発光体複合膜>
実施例3と同様にして得たアルミナ多孔質乾燥自立膜0.67gを、トリス(ジベンゾイルメタン)モノ(1,10−フェナントロリン)ユーロピウム[Eu(phen)錯体と略称、Aldrich社製]の0.1質量%トルエン溶液10gに、30分間含浸し、実施例6と同様に処理することにより、アルミナ−Eu(phen)錯体複合膜を得た。Eu(phen)錯体の、アルミナ多孔質自立膜への吸着量は、0.003gであり、アルミナとEu(phen)錯体の質量比は、0.67/0.004であった。
【0112】
このアルミナ−Eu(phen)錯体複合膜に、波長254nmの紫外線を照射すると、赤色の発光(ピーク波長:613、410nm)が観察された。
【実施例8】
【0113】
<アルミナ−EL発光体複合膜>
実施例3と同様にして得たアルミナ多孔質乾燥自立膜0.64gを、N,N−ビス(サリシリデン)エチレンジアミン(サレンと略称、Aldrich社製)の0.5質量%エタノール溶液15gに、30分間含浸し、実施例6と同様に処理することにより、アルミナ−サレン複合膜を得た。サレンのアルミナ多孔質自立膜への吸着量は、0.005gであり、アルミナとサレンの質量比は、0.64/0.005であった。
【0114】
このアルミナ−サレン複合膜に、波長254nmの紫外線を照射すると、青色の発光(ピーク波長:470nm)が観察された。
【実施例9】
【0115】
<アルミナ−グルコアミラーゼ複合膜>
実施例3と同様にして得たアルミナ多孔質乾燥自立膜10mgと、8mg/mlのグルコアミラーゼ(GA)溶液1ml(和光純薬工業,0077−0471,10000units,11units)を加え、4℃で、12時間撹拌させた。更に、3000rpmで、5分間遠心分離し、上澄みの未吸着タンパク質を、BCA法で測定した結果、アルミナ10mgあたり0.9mgの吸着量であった。更に、50mM酢酸緩衝溶液(pH5.5)で、1〜5回洗浄し、洗浄液のタンパク質を、BCA法で測定し、残存タンパク質吸着量を算出し、下記の表1に示した。表1は、洗浄によるアルミナ自立膜へのGA吸着量変化を表わす。アルミナとグルコアミラーゼの質量比は、10/0.9〜0.6であり、更には、アルミナ膜への固定化を確認することができた。
【0116】
【表1】

【0117】
アルミナに吸着されたグルコアミラーゼの活性を測定した結果、遊離のグルコアミラーゼと同等の活性を示した。
【実施例10】
【0118】
<アルミナ−尿素複合膜>
参考例と同様にして得た繊維状アルミナ粒子分散液(固形分:4.8質量%)50g、尿素(和光純薬工業)0.28g及びイオン交換水50gを、実施例1と同様に処理することにより、均一なアルミナ−尿素分散液を得た。繊維状アルミナ粒子と尿素の質量比は、2.4/0.28であった。この均一なアルミナ−尿素分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(300mm×280mm×10mm)に流し込み、送風式オーブン内で、40℃、3時間乾燥することにより、縦300mm、横280mm、厚さ30μmの均一なアルミナ−尿素複合膜を得た。
【0119】
この均一なアルミナ−尿素複合膜の全光線透過率は、85%であった。また、14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=20であった。
【実施例11】
【0120】
<アルミナ−デオキシリボ核酸ナトリウム複合膜>
尿素を、デオキシリボ核酸(和光純薬工業)0.02gに変更した以外は、実施例10と同様にして、均一なアルミナ−DNA分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とデオキシリボ核酸の重量比は、2.4/0.02であった。この均一なアルミナ−DNA分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(300mm×280mm×10mm)に流し込み、送風式オーブン内で、30℃、3時間乾燥することにより、縦300mm、横280mm、厚さ30μmの均一なアルミナ−デオキシリボ核酸複合膜を得た。
【0121】
この均一なアルミナ−デオキシリボ核酸複合膜の全光線透過率は、85%であった。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=20であった。
【実施例12】
【0122】
<アルミナ−3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン複合膜>
尿素を、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPMSと略称、信越化学工業)0.05gに変更した以外は、実施例10と同様にして、均一なアルミナ−GPMS分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とGPMSの質量比は、2.4/0.2であった。この均一なアルミナ−GPMS分散液を、実施例12と同様に処理することにより、縦300mm、横280mm、厚さ30μmの均一なアルミナ−GPMS複合膜を得た。
【0123】
この均一なアルミナ−GPMS複合膜の全光線透過率は、60%であった。アルミナの結晶系は、ベーマイトであり、14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=5であった。
【実施例13】
【0124】
<アルミナ−導電性高分子複合膜>
尿素を、5質量%ポリピロール水溶液(シグマアルドリッチジャパン)1gに変更し、かつイオン交換水を添加せずに、実施例10と同様に処理することにより、均一なアルミナ−ポリピロール分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とポリピロールの質量比は、1.4/0.05であった。この均一なアルミナ−ポリピロール分散液を、実施例11と同様に処理することにより、縦300mm、横280mm、厚さ30μmの均一なアルミナ−ポリピロール複合膜を得た。
【0125】
この均一なアルミナ−ポリピロール複合膜の全光線透過率は、40%であった。14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=15であった。また、この複合膜の表面抵抗率を測定したところ、2.5×10Ω/□であった。
【実施例14】
【0126】
<アルミナ−導電性高分子複合膜>
尿素を、ポリアニリン(シグマアルドリッチジャパン)0.1gに変更し、かつイオン交換水を添加せずに、実施例10と同様に処理することにより、均一なアルミナ−ポリアニリン分散液を得た。繊維状アルミナ粒子とポリピロールの質量比は、1.4/0.1であった。この均一なアルミナ−ポリアニリン分散液を、実施例10と同様に処理することにより、縦300mm、横280mm、厚さ30μmの均一なアルミナ−ポリアニリン複合膜を得た。
【0127】
この均一なアルミナ−ポリアニリン複合膜の全光線透過率は、40%であった。14.5°付近の(020)面ピーク及び28.5°付近の(120)面ピーク強度比は、(020)/(120)=20であった。また、この複合膜の表面抵抗率を測定したところ、3.7×10Ω/□であった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上詳述した通り、本発明は、有機物アルミナ複合薄膜及びその製造方法に係るものであり、本発明により、分子レベルで高度に粒子もしくは細孔が配向し、更には、自立して利用できる強度を有した有機物アルミナ複合薄膜及びその製造方法を提供することができる。本発明により、種々の支持体上に、発光、偏光、屈折、導電など、さまざまな機能を有するアルミナ有機物複合薄膜を得ることができる。また、本発明により、自立膜として利用可能な十分な強度を有し、可撓性があり、クラックの発生がなく、かつ高い透明性を有し、種々の機能を具備した有機物アルミナ複合薄膜が得られる。本発明の有機物アルミナ複合薄膜は、アルミナをベースとしている有機物アルミナ複合薄膜であって、選択する有機物に応じて、優れた熱安定性、熱伝導性、電気絶縁性などを併せ持つ、光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜などの新しい材料を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比(長径/短径)が、30〜5000である、繊維状もしくは針状の形状を有するアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子と、有機物の集積からなり、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が、見かけ上、ホストとなっている有機物アルミナ複合薄膜であって、前記有機物総量が、前記アルミナ複合薄膜に対して、重量百分率で、30%以下であり、それらのアルミナが、配向性を有し、支持体付又は支持体から剥離していることを特徴とする有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項2】
有機物アルミナ複合薄膜が、支持体から剥離した状態で、柔軟性を示す、請求項1に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項3】
アルミナ水和物粒子が、無定形、ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項4】
アルミナ粒子の結晶系が、γ、θ、又はαから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項5】
有機物の沸点が、低くても40℃である、請求項1又は2に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項6】
有機物アルミナ複合薄膜の厚さが、0超〜1000μmである、請求項1から5のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項7】
アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の短径が、1〜10nmで、長径が、100〜10000nmである、請求項1から6のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項8】
アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子のアスペクト比が、100〜3000である、請求項1から7のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項9】
アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の長径が、700〜7000nmである、請求項1から8のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項10】
ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種のアルミナ水和物粒子の集積体が、見かけ上、有機物のホストとなった有機物アルミナ複合薄膜であって、X線回折において、アルミナ粒子に基づく結晶子面(020)と結晶子面(120)の回折強度比d(020)/(120)が5以上である結晶配向性を有する、請求項1から9いずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項11】
無定形、ベーマイト、擬ベーマイト、γ−アルミナ、又はθ−アルミナから選ばれる少なくとも1種のアルミナ粒子の集積体が、見かけ上、有機物のホストとなった有機物アルミナ複合薄膜であって、その柔軟性が、支持体から剥離直後の状態で、100μm以下の膜厚において、JIS K5600−5−1に基づいた耐屈曲性試験を行った場合、円筒形マンドレルの直径が2mm以上でクラックの発生を示さない特性を有する、請求項2から10のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項12】
前記有機物アルミナ複合薄膜の熱伝導率が、0.1〜10W/mKである、請求項11に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項13】
前記有機物アルミナ複合薄膜の透光度が、膜厚0.1〜100μmで、全光線透過率20%以上を示す、請求項12に記載の有機物アルミナ複合薄膜。
【請求項14】
請求項1から10のいずれかに記載の有機物アルミナ複合薄膜を製造する方法であって、短径が2〜5nm、長径が100〜10000nmであり、かつアスペクト比が30〜5000である繊維状もしくは針状のアルミナ水和物粒子が分散している水性アルミナゾルを、支持体ないし対象物に塗布し、乾燥することを特徴とする有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。
【請求項15】
アルミナ水和物粒子が、ベーマイト、又は擬ベーマイトから選ばれる少なくとも1種のである、請求項14に記載の有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。
【請求項16】
アルミナゾルが、アルミニウムアルコキシドを加水分解、解膠することにより得られたものである、請求項14又は15に記載の有機物アルミナ複合薄膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−285315(P2010−285315A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140625(P2009−140625)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(390003001)川研ファインケミカル株式会社 (48)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】