説明

有機物分解用光触媒、並びに該光触媒の製造方法

【課題】毒性が低く、高い活性を有する有機物分解用光触媒等として有用な酸化セリウムを活性成分として含有する光触媒を提供する。
【解決手段】(1)酸化セリウムに、(2)異種元素としてランタンを添加し、さらに(3)助触媒として白金を担持することにより水及び有機物分解用光触媒を構成する。この光触媒は、(1)酸化セリウムと、(2)ランタンを含む化合物を混合し、得られた前駆体を空気中で500〜1400℃の温度に加熱した後に、(3)助触媒として白金を担持することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物の分解に用いられる光触媒、並びに該光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを利用して物質変換を行う方法として、光触媒の利用が挙げられる。光触媒については、光照射によって生じる電子で反応物を還元、正孔で反応物を酸化する能力を持つことが既に知られている。この技術を応用した有害物質の分解除去、部分酸化反応、および水分解反応などの化学反応プロセスは、環境およびエネルギー問題の観点から重要な課題になっている。光触媒には、光照射によって効率良く化学反応を進行させることはもとより、環境維持の観点から光触媒自身が毒性の低い材料から構成されることが要求される。これまでに開示されている光触媒の中では酸化チタンが高い光触媒活性を持ち、毒性の低い材料として知られている。
【0003】
一方、酸化セリウムは高い紫外線遮断能を持ち、紫外線吸収サングラス、自動車用紫外線カットガラス、日焼け防止化粧品などに幅広く応用されている。また、酸化セリウムは希土類の一種で極めて毒性が低く、人体に対して中毒性や急性毒性がない化合物として知られている。酸化セリウムは、その電子構造から光照射によって生成した電子とホールは直ちに再結合し、微弱な熱が放出される。したがって、酸化セリウムを光触媒として応用するには、光を吸収して生成した電子とホールを再結合させることなく反応物に接触させる必要がある。
酸化セリウムは、その高い紫外線吸収能および低毒性から光触媒への応用が試みられている。(例えば、非特許文献1、2及び特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-162176号公報
【特許文献2】特開2000-212054号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Applied catalysis, A General 205(2001),117-128
【非特許文献2】Huaxue Yanjiiu Yu Yingyong,16(2004),463-465
【0006】
上記の非特許文献1において、荒川らは酸化セリウム光触媒による水からの酸素生成について言及している。この場合、光照射により酸素を発生させるには、電子受容体として働くFe3+やCe4+が光触媒懸濁液中に存在することが必要である。電子受容体であるFe3+やCe4+が存在しない場合の、酸化セリウム光触媒による水素生成については言及していない。
非特許文献2には、
酸化チタンと少量の酸化セリウムを複合化することにより、有機物の光分解が促進されることが開示されている。同文献には、酸化セリウム単独の光触媒機能についての記述はない。また、水分解反応に対する活性については言及していない。
【0007】
特許文献1には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウムのいずれか、あるいは複数を含有している光触媒のNOxガスの浄化作用について開示されている。
また、特許文献2には、光触媒活性を有する粉末を酸化セリウムで被覆した複合化粉末を含む組成物が、医薬品、医薬部外品、化粧品等の外用組成物への応用に対して光毒性(光照射によって生成する電子とホールに由来する人体への悪影響)を抑制する能力を持つことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでに酸化セリウムの光触媒機能に関する研究は多数あるが、水を水素と酸素に完全分解できるような高い光触媒機能を発現するものは知られていない。
本発明は毒性が低く、高い活性を有する有機物分解用光触媒等として有用な酸化セリウムを活性成分として含有する光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記課題を解決するために、次の構成1〜4を採用する。
1.(1)酸化セリウムに、(2)異種元素としてランタンを添加し、さらに(3)助触媒として白金を担持したことを特徴とする有機物分解用光触媒。
2.(2)異種元素の添加量が(1)酸化セリウムを基準として0.1〜50モル%であり、(3)助触媒の担持量が(1)酸化セリウム及び(2)異種元素からなる複合体を基準として0.1〜10重量%であることを特徴とする1に記載の有機物分解用光触媒。
3.(1)酸化セリウムと、(2)ランタンを含む化合物を混合し、得られた前駆体を空気中で500〜1400℃の温度に加熱した後に、(3)助触媒として白金を担持することを特徴とする1又は2に記載の有機物分解用光触媒の製造方法。
4.(1)硝酸セリウム又は塩化セリウムと、(2)ランタンを含む化合物を水に溶解させ、pHを7以上に調整して得られた前駆体を空気中で500〜1400℃の温度に加熱した後に、(3)助触媒として白金を担持することを特徴とする1又は2に記載の有機物分解用光触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られる光触媒は、毒性が低く、高い活性を有する有機物分解用光触媒等として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は参考例1で得られた、酸化ルテニウム担持10mol%ストロンチウム添加酸化セリウムの水分解活性を示す図である。
【図2】図2は参考例2で得られた、酸化ルテニウム担持0〜50mol%ストロンチウム添加酸化セリウムの水分解活性を示す図である。
【図3】図3は参考例3及び比較例2で得られた、酸化ルテニウム担持10mol%M添加酸化セリウムの水分解活性(M=なし、Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Zn2+,Pb2+)を示す図である。
【図4】図4は参考例及び比較例で得られた、酸化ルテニウム担持10mol%M添加酸化セリウムのX線回折パターン(M=なし、Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Zn2+,Pb2+)を示す図である。
【図5】図5は参考例及び比較例で得られた、酸化ルテニウム担持10mol%M添加酸化セリウムの可視紫外拡散反射スペクトル(M=なし、Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Zn2+,Pb2+)を示す図である。
【図6】図6は参考例1で得られた、10mol%ストロンチウム添加酸化セリウムの発光分光スペクトルを示す図である。
【図7】図7は参考例4で得られた酸化ルテニウム担持10mol%ランタン添加酸化セリウムの水分解活性を示す図である。
【図8】図8は参考例5及び比較例3で得られた、酸化ルテニウム担持10mol%M添加酸化セリウムの水分解活性(M=Y3+,La3+,Er3+,In3+,Sb3+)を示す図である。
【図9】図9は実施例1で得られた白金担持10mol%ランタン添加酸化セリウムのメチレンブルー分解活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光触媒を製造する好ましい手順の例について、以下に説明する。
1)はじめに、粉末状の(1)酸化セリウムと(2)異種元素となるランタンを含む化合物の1種又は2種以上を、(2)異種元素の添加量が(1)酸化セリウムを基準として0.1〜50モル%の範囲で混合して前駆体を得る。
1’)別法として、(1)硝酸セリウムあるいは塩化セリウムと、(2)異種元素となるランタンを含む水溶性化合物を、(2)異種元素の添加量が(1)セリウム化合物を基準として0.1〜50モル%の範囲で水に溶解させ、pHを7以上に調製して得られた沈殿を前駆体とすることもできる。
【0013】
2)次に、前駆体を空気中、500〜1400℃の温度に加熱する。
3)得られた(1)酸化セリウム及び(2)異種元素からなる複合体に、複合体を基準として0.1〜10重量%程度になるように、助触媒として白金を担持させることによって光触媒を構成する。
また、助触媒を担持する方法としては、上記の浸漬による方法の他に、光照射によって生じる励起電子を用いた光電着法を使用することも可能である。
【実施例】
【0014】
次に本発明の光触媒を製造する方法について、参考例及び実施例によりさらに詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の例では、光触媒の性能は水分解反応に対する水素と酸素の生成活性、および有害物質分解の代表例としてメチレンブルーの分解活性により評価した。
(参考例1)
粉末状の酸化セリウムと炭酸ストロンチウムを、セリウムに対してストロンチウム元素を10%のモル比で混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。得られた複合体のX線回折パターンを図4に、紫外可視拡散反射スペクトルを図5に、そして発光スペクトルを図6に示す。
【0015】
図4のX線回折パターンによると、ストロンチウム添加酸化セリウムは酸化セリウムと同様な結晶構造を有し、ほぼ単一相であること、および高い結晶性を有することが判る。また、図5の可視紫外拡散反射スペクトルから、ストロンチウムを添加した酸化セリウムの光吸収特性は、酸化セリウムとほぼ一致し、吸収端は450nm付近であることが判る。そして、図6の発光スペクトルから、ストロンチウムを添加することにより、470nm付近に発光ピークが出現し、その励起スペクトルの最大波長は275nmであることが判る。
【0016】
このストロンチウム添加酸化セリウム複合体1.000gとトリルテニウムドデカカルボニル0.0210gをテトラヒドロフラン30mLに溶かし、60℃の温度で4時間還流した後に、空気中で4時間焼成して光触媒を得た(複合体を基準として、助触媒酸化ルテニウム1.0重量%を担持)。
【0017】
(光触媒の水分解活性)
このようにして作製した酸化ルテニウム担持酸化セリウム0.8gを蒸留水700mL中に懸濁させ、450W高圧水銀ランプを光源として円筒型石英製ジャケットを通して光を照射した。その結果を図1に示す。
図1に見られるように、光照射によって水素と酸素がほぼ化学量論比で生成することが判った。反応初期の水素と酸素の生成活性は119μmol/時間、58μmol/時間であった。3時間の光照射後、生成した水素と酸素を真空排気し、再び光照射を行うと水素と酸素の生成が見られたが、生成活性は低下した。しかし、4回目以降は、安定な水素と酸素の生成活性が見られた。この時の水素および酸素の生成活性はそれぞれ47μmol/時間、23μmol/時間となった。
【0018】
(比較例1)
上記参考例1において、ストロンチウムを添加していない酸化セリウムを用いて、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した以外は、参考例1と同様にして助触媒として
酸化ルテニウムを担持した光触媒を得た。この光触媒に同様に光を照射した結果を図3に示す。図3の左端に見られるように、水素0μmol/時間、酸素0μmol/時間の生成活性を示し、水分解活性を有しないことが判明した。
一方、参考例1において、酸化ルテニウムを担持する前のストロンチウム添加酸化セリウムに、同様に光照射したところ、水分解活性を示さなかった。
【0019】
(参考例2)
粉末状の酸化セリウムと炭酸ストロンチウムを、セリウムに対してストロンチウム元素のモル比が0〜50%の範囲で混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。得られた焼成体に、参考例1と同様な方法で酸化ルテニウムを1.0重量%の割合で担持して、光触媒を作製した。これらの光触媒に、同様に光を照射した結果を図2示す。
図2に見られるように、ストロンチウムの添加量を変えることにより、水素と酸素の生成活性が変化することが判った。酸化セリウムに対して、ストロンチウムを10%のモル比で添加した光触媒が最も高い生成活性を示し、10%以上の添加量では活性が単調に減少することが判った。
【0020】
(参考例3及び比較例2)
粉末状の酸化セリウムに、ストロンチウムと同様に2価の価数をとるカルシウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、鉛の炭酸塩あるいは酸化物を、セリウムに対してそれぞれの元素のモル比が10%となるように混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。ついで、参考例1と同様な方法で酸化ルテニウムを1.0重量%で担持して、光触媒を得た。これらの光触媒に、同様に光を照射した結果を図3に示す。
【0021】
カルシウムを添加した酸化セリウムは、ストロンチウムを添加した酸化セリウムと同様に水分解反応に対して活性を示し、安定な水素と酸素の生成が見られた。水素および酸素の生成活性はそれぞれ32μmol/時間、17μmol/時間であった。
一方、マグネシウム、バリウム、亜鉛、鉛を添加した酸化セリウムは、化学量論比で水素と酸素を生成させる光触媒機能を有しなかった。
【0022】
(参考例4)
粉末状の酸化セリウムに3価のランタンを含有する酸化ランタンを、セリウムに対してランタン元素のモル比が10%となるように混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。ついで、参考例1と同様な方法で酸化ルテニウムを1.0重量%で担持して、光触媒を得た。この光触媒に、同様に光を照射した結果を図7示す。
図7に見られるように反応初期から安定に水素および酸素が生成した。3時間の光照射後、生成した水素および酸素を真空排気して反応を繰り返したが、活性は変化しなかった。この時の水素および酸素の生成活性はそれぞれ205μmol/時間、101μmol/時間であった。
【0023】
(参考例5及び比較例3)
粉末状の酸化セリウムに、ランタンと同様に3価の価数をするイットリウム、エルビウム、インジウム、アンチモンの炭酸塩あるいは酸化物を、セリウムに対してそれぞれの元素のモル比が10%となるように混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。ついで、参考例1と同様な方法で酸化ルテニウムを1.0重量%で担持して、光触媒を得た。これらの光触媒に、同様に光を照射した結果を図8に示す。
【0024】
イットリウムを添加した酸化セリウムは、ランタンを添加した酸化セリウムと同様に水分解反応に対して活性を示した。水素および酸素の生成活性はそれぞれ45μmol/時間、19μmol/時間であった。
一方、エルビウム、インジウム、アンチモンを添加した酸化セリウムは化学量論比で水素と酸素を生成させる光触媒機能を有しなかった。
【0025】
(参考例6)
粉末状の塩化セリウムとストロンチウムの塩化物を、セリウムに対してストロンチウム元素を10%のモル比で水に溶解させ、水酸化ナトリウムを滴下して得られた沈殿を前駆体とした。この前駆体を大気中、1000℃の温度で10時間焼成した。ついで、参考例1と同様な方法で酸化ルテニウムを1.0重量%で担持して、光触媒を得た。この光触媒に、同様に光を照射したところ、参考例1と同様に水素と酸素が安定に生成した。
【0026】
(実施例1)
粉末状の酸化セリウムと酸化ランタンを、セリウムに対してランタン元素がモル比10%となるように混合し、大気中で、1000℃の温度で10時間焼成した。このランタン添加酸化セリウムを蒸留水30mLに懸濁させ、ランタン添加酸化セリウムに対して白金元素が1.0重量%となるように濃度調整を行った塩化白金酸水溶液を加えた。ついで、外部照射型石英セル内にこの溶液を移し、200W水銀キセノン光源により光を照射し、白金の光電着を行った後に、分離することにより光触媒を得た。
得られた白金担持ランタン添加酸化セリウムを、メチレンブルー3mgを水1000mlに溶解させたメチレンブルー水溶液に懸濁させ、1時間の光照射を行った結果を図9に示す。
【0027】
また、白金を担持させる前のランタン添加酸化セリウムについても1時間の光照射を行いその結果を図9に示した。図9に見られるように、光照射により、ランタン添加酸化セリウムでは36%、白金担持ランタン添加酸化セリウムでは100%のメチレンブルーが分解した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明で得られた光触媒は、メチレンブルーの分解のみならず、エタノールや油などの有機物質の分解、或いは排ガスなどに含まれる環境汚染物質の光分解反応や、各種の光合成反応等の幅広い分野にも適用可能なものである。さらには、本発明の光触媒の持つ低い毒性を生かして、医療用光触媒や環境用光触媒としての応用することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸化セリウムに、(2)異種元素としてランタンを添加し、さらに(3)助触媒として白金を担持したことを特徴とする有機物分解用光触媒。
【請求項2】
(2)異種元素の添加量が(1)酸化セリウムを基準として0.1〜50モル%であり、(3)助触媒の担持量が(1)酸化セリウム及び(2)異種元素からなる複合体を基準として0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の有機物分解用光触媒。
【請求項3】
(1)酸化セリウムと、(2)ランタンを含む化合物を混合し、得られた前駆体を空気中で500〜1400℃の温度に加熱した後に、(3)助触媒として白金を担持することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機物分解用光触媒の製造方法。
【請求項4】
(1)硝酸セリウム又は塩化セリウムと、(2)ランタンを含む化合物を水に溶解させ、pHを7以上に調整して得られた前駆体を空気中で500〜1400℃の温度に加熱した後に、(3)助触媒として白金を担持することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機物分解用光触媒の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−143762(P2012−143762A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105862(P2012−105862)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2006−345205(P2006−345205)の分割
【原出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】