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有機物超伝導体及びその製造方法
説明

有機物超伝導体及びその製造方法

【課題】弾性変形可能な有機物超伝導体であって、臨界温度が高い有機物超伝導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングしてなる有機物超伝導体とする。この有機物超伝導体は、真空状態としたガラス管内にピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属を封入する封入工程と、ガラス管を所定温度以上に加熱することによりアルカリ金属またはアルカリ土類金属をピセンにドーピングするアニール工程とによって製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物超伝導体及びその製造方法に関し、特に、多環芳香族炭化水素の一種であるピセンを用いた有機物超伝導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導物質としては金属酸化物を用いた超伝導体が著名であり、様々な組成の超伝導体が知られている。
【0003】
また、昨今では、金属酸化物だけでなく有機物でも超伝導体となることが知られており、ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT−TTF)系化合物からなる超伝導体(例えば、特許文献1参照。)や、ジメチル(エチレンジチオ)ジセレナジチアフルバレン(DMET)系化合物からなる超伝導体(例えば、特許文献2参照。)や、メチレンジチオテトラチアフルバレン(MDT−TTF)系化合物からなる超伝導体などが知られている。
【0004】
これらの有機物超伝導体は、ほとんどの場合において電解結晶成長法で生成されるため、製造効率が悪く、短時間で生成することが困難であった。
【0005】
そこで、生産性を向上させた有機物超伝導体として、溶剤に溶解または分散させた電子供与体と電子受容体とを超音波処理により反応させることにより(BEDT−TTF)2Cu(NCS)2からなる有機物超伝導体を製造することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
これらの有機物超伝導体の臨界温度は10K程度であるが、フラーレンを利用した有機物超伝導体では、20Kを超える臨界温度を有する超伝導体も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−277691号公報
【特許文献2】特開昭63−246383号公報
【特許文献3】特開平05−327037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ピセンを用いた研究を行う中で、ピセンが超伝導性を有することを知見するとともに、フラーレンを用いない有機物超伝導体でも20Kを超える臨界温度となる可能性があることを知見し、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機物超伝導体では、ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングしてなる有機物超伝導体とした。さらに、ピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属のモル比を1:2.5〜3.5としていることにも特徴を有し、アルカリ金属がカリウムであることにも特徴を有するものである。
【0010】
本発明の有機物超伝導体の製造方法では、真空状態としたガラス管内にピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属を封入する封入工程と、ガラス管を所定温度以上に加熱することによりアルカリ金属またはアルカリ土類金属をピセンにドーピングするアニール工程とを有することとした。
【0011】
さらに、本発明の有機物超伝導体の製造方法では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)ピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属のモル比を1:2.5〜3.5としていること。
(2)アニール工程の加熱条件を170℃以上で4日以上とすること。
(3)アニール工程の加熱条件を170℃以上で10日以上とすること。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機物超伝導体では、ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングしてなる有機物超伝導体としていることにより、新規な有機物超伝導体を提供できる。特に、この有機物超伝導体は、弾性変形できるので、所望の形状に加工しやすく、成形性にすぐれた超伝導材料を提供できる。
【0013】
また、本発明の有機物超伝導体の製造方法では、真空状態としたガラス管内にピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属を封入する封入工程と、ガラス管を所定温度以上に加熱することによりアルカリ金属またはアルカリ土類金属をピセンにドーピングするアニール工程とを有しており、比較的簡便な作業で有機物超伝導体を製造でき、製造コストを低減できるだけでなく、アニール工程の加熱条件を170℃以上で10日以上とすることにより、超伝導における臨界温度を20Kとすることができ、高温の臨界温度を有する有機物超伝導体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ピセンとカリウムのモル比を1:2.9とし、アニール温度を440K、アニール時間を9日として生成した有機物超伝導体の温度−磁場相図である。
【図2】ピセンとカリウムのモル比を1:2.9とし、アニール温度を440K、アニール時間を9日として生成した有機物超伝導体のHc2>>104Oeでの温度−磁場相図である。
【図3】ピセンとカリウムのモル比を1:3.3とし、アニール温度を440K、アニール時間を11日として生成した有機物超伝導体の温度−磁場相図である。
【図4】ピセンとカリウムのモル比を1:3.3とし、アニール温度を440K、アニール時間を11日として生成した有機物超伝導体のHc2>>104Oeでの温度−磁場相図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有機物超伝導体では、ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングしてなる有機物超伝導体としており、真空状態としたガラス管内にピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属を封入する封入工程と、ガラス管を所定温度以上に加熱することによりアルカリ金属またはアルカリ土類金属をピセンにドーピングするアニール工程とにより製造することができる。
【0016】
ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属がドーピングされた有機物超伝導体は弾性変形できるので、所望の形状に加工しやすく、加工性に優れた有機物超伝導体を提供できる。
【0017】
特に、ピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属のモル比を1:2.5〜3.5とすることにより超伝導性を発現させることができ、アニール工程では、170℃以上で4日以上の加熱条件で行うことにより、確実に超伝導性を発現させることができる。
【0018】
さらに、アニール工程の加熱条件を170℃以上で10日以上とすることにより、超伝導における臨界温度を20Kとすることができ、高温の臨界温度を有する有機物超伝導体を提供できる。
【0019】
以下において、具体的な実施例に基づいて本発明を詳説する。
【実施例】
【0020】
(1)ピセンの合成方法
ピセンは一般的に市販されており、市販のピセンを用いてもよいが、本実施例では、以下に説明する方法によって合成したピセンを使用した。なお、以下において説明するピセンの合成方法は、市販のピセンの合成方法よりも高効率である。
【0021】
まず、テトラヒドロフランから1,2−ジ(1−ナフチル)エタンを合成する。すなわち、10mLのテトラヒドロフランに2.14g(88mmol)の金属マグネシウムを加えた混合物を生成し、この混合物に、28.28g(160mmol)の1−(クロロメチル)ナフタレンを100mLのテトラヒドロフランに溶解させた溶液を40分かけて滴下することにより反応液を生成した。
【0022】
その後、反応液を室温で約2時間攪拌し、さらに加熱還流を約30分間行った後、1mLのメタノールを加えて不溶性の塩を濾別して、200mLのクロロホルムで洗浄した。
【0023】
そして、得られた濾液と洗浄液とを合わせて水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥処理した後、溶媒を減圧留去することにより得られた結晶をメタノールで洗浄することにより1,2−ジ(1−ナフチル)エタンを得ることができる。本実施例では21.7gの1,2−ジ(1−ナフチル)エタンを得ることができ、収率は96%であった。
【0024】
次いで、2.82g(10mmol)の1,2−ジ(1−ナフチル)エタンと、5.41g(30mmol)の9−フルオレノンを所定の容器内で450mLのクロロホルムに溶解させ、容器内を窒素置換した後に450Wの高圧水銀灯を用いて約40時間の光照射を行った。
【0025】
その後、容器内の反応液を約50mLまで減圧濃縮し、析出した結晶を濾別してクロロホルムで洗浄することにより、ピセンを得ることができる。本実施例では、462gのピセンを得ることができ、収率は16.6%であった。
【0026】
このようにして得られたピセンは、昇華処理等によって濃縮してもよい。すなわち、昇華処理では、温度勾配を生じさせた電気炉内にガラス管を設け、このガラス管内にピセンを収容するとともに、ガラス管内に高温側から低温側に向けてアルゴンガスを送気させることにより昇華したピセンを生成できる。
【0027】
(2)有機物超伝導体の製造方法
まず、水及び酸素の濃度を0.1PPM以下としたアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、それぞれ所定量のカリウムとピセンとをガラス管に封入した。本実施例では、ガラス管はφ9mmであって、コックを取り付けており、コックによってガラス管を閉鎖可能としている。
【0028】
次いで、カリウムとピセンが封入されたガラス管をグローブボックスから取り出し、ガラス管を真空ラインに取り付けてガラス管内を真空として、ガラス管をガスバーナーで封じ切りした。
【0029】
次いで、真空状態でカリウムとピセンとが封入されたガラス管を電気炉に入れて加熱することにより、ピセンにカリウムがドーピングされて有機物超伝導体を得ることができる。
【0030】
図1及び図2は、ピセンとカリウムのモル比を1:2.9とし、アニール工程でアニール温度を440Kとし、アニール時間を9日として生成した有機物超伝導体の温度−磁場相図であり、零磁場では7.1Kよりも高温側で金属状態(M)であるものが、7.1Kより低温となることで超伝導状態(SC)となっていることが確認された。
【0031】
図3及び図4は、ピセンとカリウムのモル比を1:3.3とし、アニール工程でアニール温度を440Kとし、アニール時間を11日として生成した有機物超伝導体の温度−磁場相図であり、零磁場では20Kよりも高温側で金属状態(M)であるものが、20Kより低温となることで超伝導状態(SC)となっていることが確認された。
【0032】
下表は、ピセンに対するカリウムの配合量、アニール工程でのアニール時間をそれぞれ異ならせて製造した試料の臨界温度の測定結果の一覧表である。
【表1】

【0033】
このことから、ピセンとカリウムのモル比を1:2.5〜3.5はであることが望ましいことがわかる。また、アニール工程でのアニール時間は4日以上が望ましいことがわかる。
【0034】
特に、アニール時間は長ければ長いほど望ましく、10日以上加熱することにより、超伝導における臨界温度を向上させることができる。
【0035】
本実施例では、ピセンにカリウムをドーピングしているが、ピセンにドーピングする金属はカリウムに限定されるものではなく、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングすることができ、さらには1種だけでなく2種以上の金属をドーピングしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピセンにアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドーピングしてなる有機物超伝導体。
【請求項2】
前記ピセンと前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属のモル比を、1:2.5〜3.5としている請求項1に記載の有機物超伝導体。
【請求項3】
前記アルカリ金属がカリウムである請求項1または請求項2に記載の有機物超伝導体。
【請求項4】
真空状態としたガラス管内にピセンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属を封入する封入工程と、
前記ガラス管を所定温度以上に加熱することにより前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属を前記ピセンにドーピングするアニール工程と
を有する有機物超伝導体の製造方法。
【請求項5】
前記ピセンと前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属のモル比を、1:2.5〜3.5としている請求項4に記載の有機物超伝導体の製造方法。
【請求項6】
前記アニール工程の加熱条件を、170℃以上で4日以上とする請求項4または請求項5に記載の有機物超伝導体の製造方法。
【請求項7】
前記アニール工程の加熱条件を、170℃以上で10日以上とする請求項4または請求項5に記載の有機物超伝導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−231894(P2010−231894A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75004(P2009−75004)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】