説明

有機発光素子及びその製造方法

【課題】陰極を高エネルギー堆積する際のダメージに対する保護層として、有機発光構造体の上に有機陰極バッファー層を有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】a)基板、b)前記基板上に配置された陽極、c)前記陽極上に配置された有機発光構造体、d)前記有機発光構造体上に配置され、陰極の高エネルギー堆積を可能にするように選ばれた物質からなる陰極バッファー層、e)前記陰極バッファー層上に配置された陰極、及びf)前記陰極バッファー層と前記陰極との間に配置され、前記有機発光構造体と前記陰極バッファー層との間の界面に界面電子注入層を提供するように前記バッファー層を横切って拡散する電子注入ドーパントを提供するドーパント層を含んでなる有機発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子に関する。特に、本発明は、有機発光構造体の上に配置された有機陰極バッファー層を有し、前記陰極バッファー層を横切ってドーパント層から拡散される電子注入ドーパントを有する素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(また、有機エレクトロルミネセント(EL)素子もしくは有機内部接合発光素子とも称する)は、電極が有機発光構造体(有機EL媒体とも称する)により分離され間隔をあけた状態で含まれているが、この有機発光構造体は、電極間に印加した電位差に応答して電磁放射線、典型的には光を発する。この有機発光構造体は、光を効率よく生成することができなければならないだけでなく連続状に作製できなければならず(即ち、ピンホール及び粒子欠陥があってはならない)、そして容易に作製され、運転の維持に十分な程度に安定でなければならない。
【0003】
初期の有機EL素子は、Mehl等の米国特許第3,530,325 号及びWilliamsの米国特許第3,621,321 号に記載されているように有機材料の単結晶を用いて作製された。有機単結晶EL素子は、比較的作製が困難であり、薄膜構造体には役に立たなかった。
【0004】
最近、薄膜堆積技法を用いて好ましい有機EL素子が作られている。素子基板として陽極を用い、薄膜の1層もしくは組み合わせとして有機エレクトロルミネッセント媒体が堆積され、その後に陰極(薄膜堆積物として形成される)が堆積される。従って、陽極構造体から始めて、膜堆積技法によって、有機EL素子の完全な活動構造体を形成することができる。ここで用いた「薄膜」の用語は厚さ5μm未満の層をいい、一般的には、層厚は約2μm未満である。薄膜堆積技法よって作られた有機エレクトロルミネッセント媒体及び陰極構成を有する有機EL素子の例は、Tangの米国特許第4,356,429 号、Van Slyke等の米国特許第4,539,507 号及び同第4,720,432 号並びにTangの米国特許第4,769,292 号明細書に記載されている。
【0005】
この技術分野では内部接合有機EL素子に完全に適合する安定な陽極を構成する際にほとんど困難に遭遇しなかったが、陰極構成には長期研究の問題があった。陰極金属の選定では、最高の電子注入効率を有する金属と最高レベルの安定性を有する金属とを比較考量しなければならない。最高の電子注入効率は都合良く使用するには不安定すぎるアルカリ金属を用いて得られるが、最高の安定性を有する金属は限定された電子注入効率を示し、実際は、陽極構成により適している。
【0006】
Tangの米国特許第4,356,429 号明細書には、イリジウム、銀、スズ、及びアルミニウム等の金属から有機EL素子の陰極を形成することが教示されている。Van Slyke等の米国特許第4,539,507 号明細書には、銀、スズ、鉛、マグネシウム、マンガン、及びアルミニウム等の金属から有機EL素子の陰極を形成することが教示されている。Tangの米国特許第4,885,211 号明細書には、金属の組合せから有機EL素子の陰極を形成することが教示されており、陰極の少なくとも50%(原子に基づく)は4.0eV未満の仕事関数を有する金属で占められている。Van Slykeの米国特許第5,047,607 号には、複数の金属を含有する陰極を用いることが教示されており、その少なくとも1種はアルカリ金属以外の低仕事関数金属である。陰極の上に位置するのは、有機EL媒体の少なくとも1つの有機成分と4.0〜4.5eVの仕事関数を有し、周囲水分の存在下で酸化される可能性がある少なくとも1種の金属との混合物を含んでなる保護層である。
【0007】
通常の蒸着、高エネルギースパッタ蒸着もしくは電子ビーム蒸着によって、より低い仕事関数(<4.0eV)の電子注入金属と、より高い仕事関数(>4.0eV)でより安定な金属との組合せから、有機EL媒体上に陰極を形成することが考えられているが、陰極を形成する実際的な方法まで高エネルギー堆積は開発されていない。陰極のスパッタ蒸着又は電子ビーム蒸着時の、有機EL媒体の電子衝撃及び/又はイオン衝撃により、有機EL媒体がダメージを受けることもわかっている。このダメージは、通常の熱蒸着によって形成された陰極を有する素子のエレクトロルミネッセンス性能と比較した場合の、素子の実質的に劣ったエレクトロルミネッセンス性能によって証明される。
【0008】
従って、スパッタ蒸着又は電子ビーム蒸着によって、有機発光構造体の上に形成された陰極は、付着及びステップカバリッジを改善する潜在的利点を提供するが、そのような利点は、高エネルギー堆積に関するダメージ効果のために達成されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、陰極(複数でもよい)を高エネルギー堆積する際に、有機発光構造体又は有機EL媒体中に導入されるダメージを最小限にするか除去するということをその目的として有する。
従って、本発明の目的は、有機発光構造体の上に有機陰極バッファー層を提供することであり、このバッファー層はこの層の上に陰極を高エネルギー堆積するときのダメージに対する保護層である。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、陽極の上に形成された有機発光構造体、前記発光構造体の上に形成された有機陰極バッファー、前記陰極バッファー層の上に配置された陰極、及び前記陰極バッファー層を横切ってドーパント層から拡散する電子注入ドーパントによって前記バッファー層と前記発光構造体の間に形成された電子注入界面層を有する有機発光素子を提供することである。
【0011】
本発明のさらにもう一つ目的は、界面改良物質を拡散させることにより有機相の界面特性を改善することによって、素子に使用する界面層を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を、
a)基板、
b)前記基板上に配置された陽極、
c)前記陽極上に配置された有機発光構造体、
d)前記有機発光構造体上に配置され、陰極の高エネルギー堆積を可能にするように選ばれた物質からなる陰極バッファー層、
e)前記バッファー層上に配置された陰極、及び
f)前記陰極バッファー層と前記陰極との間に配置され、前記有機発光構造体と前記陰極バッファー層との間の界面に界面電子注入層を提供するように前記バッファー層を横切って拡散する電子注入ドーパントを有するドーパント層
を含んでなる有機発光素子によって達成する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来技術の有機発光素子の概略図である。
【図2】従来技術の有機発光素子の概略図である。
【図3】本発明の有機発光素子の概略図である。
【図4】本発明の有機発光素子の概略図である。
【図5】スパッタ蒸着システムの概略図である。
【図6】有機発光素子の電流−電圧関係を表すグラフである。
【図7】図6記載の素子のエレクトロルミネッセンス出力と駆動電流との関係を表すグラフである。
【図8】有機発光素子の電流−電圧関係を表すグラフである。
【図9】図8記載の素子のエレクトロルミネッセンス出力と駆動電流との関係を表すグラフである。
【図10】有機発光素子の電流−電圧関係を表すグラフである。
【図11】図10記載の素子のエレクトロルミネッセンス出力と駆動電流との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
個々の層が非常に薄く、種々の素子の厚みの違いが大きすぎて共通の尺度で表すことができず、都合のよい尺度に合わせられないので、やむを得ず略図に表す。
陰極の高エネルギー堆積、例えば、スパッタ蒸着は陰極の有機層への接着を高める。また、スパッタ蒸着は、横方向に間隔を開けた複数の陽極と横方向に間隔を開けた交差する複数の陰極によって形成される発光ピクセルのアレイを有する有機発光素子に存在することができる、下に位置する位相機構の上方に適合する陰極(複数でもよい)を提供する。
【0015】
高エネルギー堆積、例えば、スパッタ蒸着もしくは電子ビーム蒸着は、通常の熱蒸着では容易に堆積することができない陰極材料から陰極を堆積することを可能にする。
本発明では、有機発光構造体の上に形成される有機陰極バッファー層は安定であり、陰極スパッタ蒸着時のダメージから発光構造体を保護する。陰極バッファー層上の低仕事関数(<4.0eV)のドーパント層から拡散するドーパントは、陰極バッファー層と発光構造体との間の界面に電子注入界面層を形成するので、素子性能を改善する。
【0016】
陰極バッファー層とこの陰極バッファー層の上のドーパント層とを組み合わせると、高エネルギー堆積を用いて陰極を形成することができ、また、高仕事関数金属もしくは金属酸化物を利用して陰極を作ることができるので、素子構成において所望の製造オプションを提供することができる。
【0017】
本発明の有機発光素子を説明する前に、従来技術の有機発光素子の2種類の構成を説明する。
図1において、有機発光素子100は、光透過性陽極104を上に配置した光透過性基板102を有する。陽極の104と陰極110の間に、有機発光構造体120が形成されている。有機発光構造体122は、順に、正孔輸送層122、有機発光層124、及び有機電子輸送層126を含んでなる。陽極104と陰極110との間に、陰極110に対して陽極104がより正の電位となるように電位差(示されてない)を印加すると、陰極110は界面128のところで電子輸送層126に電子を注入し、電子は電子輸送層126及び発光層(これも、電子を透過することができる)124を通り抜ける。
【0018】
同時に、正孔が陽極104から正孔輸送層122に注入され、正孔は層122を横切って移動し、正孔輸送層122と発光層124の間に形成されている接合部123のところかこの近くで電子と再結合する。このようにして、陽極104が陰極110よりも正電位であるときの順方向バイアス条件のダイオードを表す内部接合発光素子として、有機発光素子100を見ることができる。この条件下では、正孔(正電荷キャリア)の注入は陽極104から正孔輸送層122に生じ、電子は陰極110から電子輸送層126に注入される。注入された正孔と電子はお互いに反対に帯電した電極の方向に移動し、再結合及び正孔−電子再結合が接合部123で起きる。正孔を充たす際に、移動電子が伝導帯電位から価電子帯に降下すると、エネルギーが光として放出される。図1の素子100に示すように、観察者が見る場合は、光は光透過性陽極104と基板102を通る光180として放出される。斜線を付けた陰極110は、この陰極が光学的に不透明であることを示す意図である。
【0019】
図2に目を向けると、陰極210がここでは光透過性であり、導電性且つ光学的不透明基板202も陽極としてはたらくという点で、従来技術の有機発光素子200は図1の素子100を明らかに超えている。有機発光構造体220及びその有機層222、224及び226、並びに接合部223及び界面228はそれぞれ図1の素子に対応する。放出される光280は、接合部223のところもしくは近くで有機発光層224の起点から陰極210を通して外にいる観察者に透過される。発光素子の基板が電気絶縁性且つ光透過性である態様も考えられる。
【0020】
再度、図1の従来技術の装置100に目を向けると、光透過性基板102はガラス、水晶、もしくはプラスチック材料から構成することができる。陽極104は、好ましくは、光透過性且つ導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、最適には、インジウムスズ酸化物(ITO)等の1種又は組み合わせから構成される。本明細書で用いる用語「光透過性」とは、記載する層又は素子が、それが受ける少なくとも一つの波長(好ましくは少なくとも100nm間隔以上で)の光の50%を超える量を透過することを意味する。有効な正孔注入電極として機能するためには、陽極104は4.0eVを超える仕事関数を有しなければならない。ITOは約4.7eVの仕事関数を有す。
【0021】
有機発光構造体120は、好ましくは、正孔輸送層122、発光層124、及び電子輸送層126の連続蒸着によって形成される。Van Slyke等の米国特許第4,539,507 号明細書(引用することにより本明細書の内用とする)は、次のように、正孔輸送層122は少なくとも1種の芳香族第三アミンを含有するのが好ましいと教示する。
【0022】
選択される好ましい種類の芳香族第三アミンは、少なくとも二個の芳香族第三アミン部分を含むものである。このような化合物としては、以下の構造式(I )で表されるものが含まれる。
【0023】
【化1】

【0024】
式中、Q1及びQ2は、それぞれ独立して、芳香族第三アミン部分であり、Gは、アリーレン基、シクロアルキレン基もしくはアルキレン基、又は炭素−炭素結合であり、Q1及びQ2並びにGの少なくとも一つは上記のような縮合芳香環部分を含む。特に好ましい形態では、Q1及びQ2がアミン窒素原子に結合された縮合芳香環部分(最適には、縮合ナフチル部分)を含む。Gがアリーレン部分である場合は、フェニレン、ビフェニレンもしくはナフチレン部分であるが好ましい。
【0025】
構造式(I )を満足し、そして2個のトリアリールアミン部分を含有する特に好ましい種類のトリアリールアミンは、以下の構造式(II)を満足するものである。
【化2】

【0026】
式中、R1及びR2は、各々独立して、水素原子、アリール基又はアルキル基を表すか、R1とR2がいっしょになってシクロアルキル基を完成する原子団を表し、R3及びR4は、各々独立して、下式(III )で示されるように、ジアリール置換されたアミノ基で次に置換されるアリール基を表す。
【0027】
【化3】

【0028】
式中、R5及びR6は、それぞれ独立して、選定されるアリール基である。式(III )のアミン窒素原子に結合されたアリール基の少なくとも1つは上記の縮合芳香環である。特に好ましい形態では、R5及びR6の少なくとも一方は縮合芳香環であり、ナフチル部分が最適である。
【0029】
別の好ましい種類の選定される芳香族第三アミンは、テトラアリールジアミンである。好ましいテトラアリールジアミン類は、アリーレン基を介して結合した式(III )で示されるようなジアリール基を2個含む。好ましいテトラアリールジアミンとしては、下式(IV)により表されるものが含まれる。
【0030】
【化4】

【0031】
式中、Ar、Ar1、Ar2及びAr3は、個々に独立してフェニル、ビフェニル及びナフチル部分から選ばれ、Lは二価のナフチレン部分であるか、もしくはdn であり、dはフェニレン部分であり、nは1〜4の整数であり、そしてLがdn であるとき、Ar、Ar1、Ar2及びAr3の少なくとも一つはナフチル部分である。
【0032】
上記の構造式(I )、(II)、(III )及び(IV)の種々のアルキル、アルキレン、アリール及びアリーレン部分を、次に置換されることができる。典型的な置換基には、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基並びにフッ化物、塩化物及び臭化物等のハロゲンが含まれる。種々のアルキル及びアルキレン部分は、典型的に炭素数約1〜6を有する。シクロアルキル部分は、炭素数は3〜約10を有することができるが、典型的には、5、6又は7個の環炭素原子を含み、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル環構造を有する。アリール及びアリーレン部分は縮合芳香環部分ではなく、フェニル及びフェニレン部分であることが好ましい。
【0033】
有機発光構造体120(220)の正孔輸送層全体を上記のタイプの選定された単一の芳香族第三アミンから形成することができるが、選定された芳香族第三アミン類の組合せを有利に用いることができ、また上記のタイプの選定された芳香族第三アミンと、Van Slyke等の米国特許第4,720,432 号明細書に記載されているタイプの芳香族第三アミン(即ち、縮合芳香環部分を欠いた芳香族第三アミン類)との組合せを用いることができることも認められる。特に記載した違いの他に、Van Slyke等の米国特許第4,720,432 号明細書の記載(参照することにより本明細書の内用とする)は、一般的に、本発明の内部接合有機EL素子に適用できる。
【0034】
有用な芳香族第三アミンを以下に例示する。
ATA−1:4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−2:4,4”−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕−p−ターフェニル
ATA−3:4,4’−ビス〔N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−4:4,4’−ビス〔N−(3−アセナフテニル)−N−フェニル−アミノ〕ビフェニル
ATA−5:1,5−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ナフタレン
【0035】
ATA−6:4,4’−ビス〔N−(9−アントリル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−7:4,4”−ビス〔N−(1−アントリル)−N−フェニルアミノ〕−p−ターフェニル
ATA−8:4,4’−ビス〔N−(2−フェナントリル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−9:4,4’−ビス〔N−(8−フルオランテニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−10:4,4’−ビス〔N−(2−ピレニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
【0036】
ATA−11:4,4’−ビス〔N−(2−ナフタセニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−12:4,4’−ビス〔N−(2−ペリレニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−13:4,4’−ビス〔N−(1−コロネニル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル
ATA−14:2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレンATA−15:2,6−ビス〔ジ−(1−ナフチル)アミノ〕ナフタレン
【0037】
ATA−16:2,6−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ〕ナフタレン
ATA−17:N,N,N’,N’−テトラ−(2−ナフチル)−4,4”−ジアミノ−p−ターフェニル
ATA−18:4,4’−ビス{N−フェニル−N−〔4−(1−ナフチル)フェニル〕アミノ}ビフェニル
ATA−19:4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(2−ピレニル)アミノ〕ビフェニル
ATA−20:2,6−ビス〔N,N−ジ(2−ナフチル)アミン〕フルオレン
ATA−21:1,5−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ナフタレン
【0038】
有機発光層124及び有機電子輸送層126は両方とも、電子輸送性を有し、薄膜形成可能な有機材料を蒸着することによって形成される。従って、有機発光層124及び有機電子輸送層126は両方とも、有機電子輸送物質の1種もしくは組合せから形成することができるが、以下に詳細に説明するように、発光層124はさらに正孔−電子再結合に応答して光を放出することができる色素を含有する。
【0039】
有機発光素子100の電子輸送層及び発光層を形成するのに用いる特に好ましい薄膜形成材料は、オキシン(一般的に、8−キノリノールもしくは8−ヒドロキシキノリンともいう)それ自体のキレートを含む金属キレート化オキシノイド化合物である。このような化合物は、両方とも高レベルの性能を示し、そして容易に薄膜に形成できる。考えられるオキシノイド化合物の例は、以下の模造式(V )を満足するものである。
【0040】
【化5】

【0041】
式中、Meは、金属を表し、nは、1〜3の整数であり、そしてZは、各々独立してそれぞれの場合において少なくとも2個の縮合芳香環を有する核を完成する原子団を表す。
上記のことから明らかなように、この金属は、一価、二価又は三価の金属となることができる。この金属は、例えば、リチウム、ナトリウムもしくはカリウム等のアルカリ金属;マグネシウムもしくはカルシウム等のアルカリ土類金属、又はホウ素もしくはアルミニウム等の土類金属となることができる。一般的には、有用なキレート金属であることが知られている一価、二価又は三価のいずれの金属も用いることができる。
【0042】
Zは、少なくとも2個の縮合芳香環(少なくとも1個はアゾール又はアジン環である)を含有する複素環核を完成する。脂肪族環と芳香環の両方を含めた追加の環を、2個の必要な環と縮合できる。機能の向上が無いのに分子の嵩が増加するのを避けるために、環原子の数は、18個以下に維持することが好ましい。
【0043】
有用なキレート化オキシノイド化合物を以下に例示する。
CO−1:アルミニウムトリソキシン、〔トリス(8−キノリノール)アルミニウムとも称される〕
CO−2:マグネシウムビスオキシン、〔ビス(8−キノリノール)マグネシウムとも称される〕
CO−3:ビス〔ベンゾ{f}−8−キノリノール〕亜鉛CO−4:アルミニウムトリス(5−メチルオキシン)、〔トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウムとも称される〕
CO−5:インジウムトリスオキシン、〔トリス(8−キノリノール)インジウムとも称される〕
CO−6:リチウムオキシン、〔8−キノリノールリチウムとも称される〕
CO−7:ガリウムトリス(5−クロロオキシン)、〔トリス(5−クロロ−8−キノリノール)ガリウムとも称される〕
CO−8:カルシウムビス(5−クロロオキシン)、〔ビス(5−クロロ−8−キノリノール)カルシウムとも称される〕
CO−9:ポリ〔亜鉛(II)−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリニル)メタン〕
CO−10:ジリチウムエピンドリジオン
【0044】
発光層124に、正孔−電子再結合に応答して光を放出することができる色素を導入して、発光層123からの放出波長を変え、ある場合には、運転時の発光素子の安定性を高めることができる。この目的に有用となるためには、この色素は、それが分散されるホスト材料のバンドギャップよりも大きくないバンドギャップを有し、ホスト材料の還元電位よりもプラスの還元電位をもたなければならない。Tang等の米国特許第4,769,292 号明細書(参照することにより本発明の内用とする)には、種々のクラスから選定された色素が電子輸送ホスト材料中に分散された内部接合有機EL素子が記載されている。
【0045】
有機発光構造体120(220)を形成する好ましい活性材料は、それぞれ膜形成材料であり、真空蒸着可能である。極薄で欠陥の無い連続層を真空蒸着によって形成することができる。具体的には、十分なEL素子性能を依然として達成しながら、個々の層は約50オングストロームほどの薄さで存在することができる。真空蒸着された膜形成芳香族第三アミンを正孔輸送層122(次に、トリアリールアミン層及びテトラアリールジアミン層を含んでなることができる)として用い、キレート化オキシノイド化合物を電子輸送層126及び発光層124として用いて、約50〜5000オングストロームの範囲の各層厚を企図するが、100〜2000オングストロームの範囲の層厚が好ましい。有機素子100の総厚が、少なくとも約1000オングストロームとなるのが一般的に好ましい。
【0046】
次のTang等の米国特許第4,885,211 号明細書(引用することにより本明細書の内容とする)の教示から、好ましい陰極110は、4.0eV未満の仕事関数を有する金属と他の金属、好ましくは4.0eVを超える仕事関数を有する金属との組合せから形成されるものである。高及び低仕事関数金属を、非常に広範な割合、即ち、他の金属、好ましくは陰極の残余を形成するより高い仕事関数の金属(例えば、仕事関数4.0eV超を有する金属)に対し低仕事関数の金属1%未満〜99%超の範囲で使用できる。Tang等の米国特許第4,885,211 号明細書記載のMg:Ag陰極が好ましい陰極構成の一つである。マグネシウムを少なくとも0.05(好ましくは少なくとも0.1)%で、アルミニウムを少なくとも80(好ましくは少なくとも90)%を有するアルミニウム:マグネシウム陰極が、もう一つの好ましい陰極構成である。アルミニウム:マグネシウム陰極が、Van Slyke等の米国特許第5,059,062 号明細書(引用することにより本発明の内容とする)の主題である。
【0047】
陰極110から界面128を通って電子輸送層126に行く最高の電子注入効率は、低仕事関数金属であるアルカリ金属を含有する陰極から得られるが、従来技術の素子100及び200の陰極110(もしくは陰極210)において便利に使用するためには不安定過ぎるので、アルカリ金属は除外されていた。
【0048】
陰極110及び210において利用可能な低仕事関数金属選択、並びに陰極及び図2の陽極202に利用可能な高仕事関数金属選択のリストが、Tangの米国特許第4,769,292 号明細書に記載されている(引用することにより、本明細書の内容とする)。
【0049】
前述したように、陰極110及び210は、通常、一つが低(<4.0eV)仕事関数陰極材料の蒸気源ともう一つが高(>4.0eV)仕事関数陰極材料の蒸気源の共蒸着から形成される。
【0050】
図3を参照すると、有機発光素子500が本発明に従って構成されている。光透過性基板502、光透過性陽極504、並びに順に、有機正孔輸送層522、有機発光層524、及び有機電子輸送層526を含んでなる有機発光構造体520は、それぞれ図1の従来技術素子100の素子102、104、120、122、124及び126に対応する。同様に接合部523及び界面528並びに放出された光580は、図1の従来技術素子100の接合部123及び界面128並びに放出された光180に対応する。従って、前述した発光素子500の対応する素子並びにその構造及び機能については、詳細な説明は要しないであろう。
【0051】
同様に、図4の有機発光素子600は、順に、有機正孔輸送層622、有機発光層624、及び有機電子輸送層626を含んでなる有機発光構造体620、接合部623、及び界面628をその上に配した光学的に不透明な基板及び陽極602を有し、各素子はそれぞれその構成及び機能に関して、図2の従来技術の素子200の、素子202、220、222、223、224、226及び228の構成及び機能に対応する。
【0052】
図3及び4を参照すると、電子輸送層526(626)の上に形成された有機陰極バッファー層530(630)が、スパッタ蒸着もしくは電子ビーム蒸着による素子500(600)上の陰極510(610)の高エネルギー堆積を可能にすることが予期せず見出された。驚くことに、有機陰極バッファー層530(630)(好ましい厚みは5〜100nm)は、陰極の高エネルギー堆積時、例えばスパッタ蒸着もしくは電子ビーム蒸着時の電子衝撃又はイオン衝撃に起因するダメージから有機発光構造体520(620)を保護する有効な保護層である。
【0053】
ドーパント層532(632)を、通常の熱蒸着もしくは高エネルギー堆積によって有機陰極バッファー層530(630)の上に形成する。ドーパント層532(632)はドーパント物質(点で表す)からなり、それは4.0eVより低い仕事関数を有し、矢印534(634)で示すように、陰極バッファー層530(630)を横切ってドーパント層から拡散することができ、その結果、電子輸送層526(626)と陰極バッファー層530(630)との間の界面528(628)に、電子注入界面ドーパント層540(640)を提供する。
【0054】
このドーパント層532(632)の上に熱蒸着もしくは高エネルギー堆積によって陰極510(610)を設ける。陰極形成材料(複数でもよい)は、4.0eVより高い仕事関数を有するものから選ぶことができるので、この素子の保存及び運転時に化学的、機械的に安定な陰極を提供する。好ましくは高仕事関数の陰極材料は、元素金属もしくは金属合金からなり図3の光学的に不透明な陰極を形成し、また好ましくは、導電性且つ光透過性金属酸化物からなり図4の光透過性陰極を形成する。
【0055】
界面電子注入層540(640)は電子注入層ドーパントのいくつかの単原子膜程度の薄さとなって、陽極に対して負の電位に陰極がバイアスされるとき、界面528(628)での有機電子輸送層526(626)への効率のよい電子注入を提供する。そのような界面電子注入層を、ドーパント層532(632)から陰極バッファー層530(630)を横切る一部の電子注入ドーパントのみの拡散によって容易に達成することができる。あるいは、このドーパント層532(632)を当該層532(632)の全てのドーパントが陰極バッファー層530(630)を横切って拡散して界面電子注入層540(640)を形成するように、十分な薄さ(0.5〜2.0nm)に作ることができる。
【0056】
陰極バッファー層530(630)を横切って拡散することができる好ましい電子注入ドーパント物質は周期律表のIA及びIIA から選ばれる。そのような物質の例は、セシウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムである。
バッファー層、及び形成される陰極が20〜80℃の温度となる高エネルギー陰極堆積のとき、有機陰極バッファー層530(630)を横切ってドーパント層532(632)から前述のドーパントの少なくとも一部分が拡散する。現実に測定される温度は、例えば、蒸着電力、蒸着速度、蒸着時間等の陰極蒸着条件を含むいくつかの因子、並びに陰極蒸着時の温度制御基板取付手段の有無に依存する。いずれの速度においても、バッファー層530(630)、及び形成される陰極510(610)は、界面電子注入層540(640)を提供するように、陰極バッファー層530(630)を横切ってドーパント層532(632)からドーパントの少なくとも一部を拡散するのに十分な温度に、陰極蒸着中は維持される。
【0057】
保護層として有効な有機陰極バッファー層530(630)を、5〜100nmの好ましい厚みに通常の熱蒸着でポルフィリン系化合物から形成できることがわかった。ポルフィリン系化合物は、ポルフィリンそれ自体を含む、ポルフィリン構造に由来するかポルフィリン構造を含んだ天然物合成物のいずれの化合物でもよい。Alder 等による米国特許第3,935,031 号やTangによる米国特許第4,356,429 号に開示されている(引用することにより本明細書の内容とする)いずれのポルフィリン系化合物を用いてもよい。
【0058】
ポルフィリン系化合物は、下記の構造式(VI)で表されるものが好ましい。
【化6】

【0059】
式中、
Qは−N=又は−C(R)=であり、
Mは金属、金属酸化物又は金属ハロゲン化物であり、
Rは水素、アルキル、アラルキル、アリール又はアルカリールであり、
1 及びT2 は、水素を表すか、もしくは一緒になって不飽和6員環を完成するが、この不飽和6員環は例えばアルキルかハロゲン等の置換基を含んでいてもよい。好ましい6員環は、炭素、イオウ、及び窒素環原子から形成されるものである。アルキル部分は炭素数が約1〜6であることが好ましく、フェニルが好ましいアリール部分を構成する。
【0060】
別の好ましい態様においては、ポルフィリン系化合物は、構造式(VI)のものとは、下式(VII )に示すように金属原子が2つの水素原子でおきかわっている点で異なる。
【化7】

【0061】
有用なポルフィリン系化合物の非常に好ましい例は、金属を含まないフタロシアニン類及び金属含有フタロシアニン類である。一般的にポルフィリン系化合物、特にフタロシアニン類はいずれの金属を含有してもよく、この金属は2価以上の正の原子価を有することが好ましい。好ましい金属としては、例えば、コバルト、マグネシウム、亜鉛、パラジウム、ニッケル、そして特に銅、鉛及び白金が挙げられる。
【0062】
有用なポルフィリン系化合物の例を以下に挙げる。
PC−1:ポルフィン
PC−2:1,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)
PC−3:1,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)
PC−4:5,10,15,20−テトラキス(ペンタフルオロフェニル)21H,23H−ポルフィン
PC−5:シリコンフタロシアニン酸化物
【0063】
PC−6:アルミニウムフタロシアニン塩化物
PC−7:フタロシアニン(金属を含まない)
PC−8:ジリチウムフタロシアニン
PC−9:銅テトラメチルフタロシアニン
PC−10:銅フタロシアニン
PC−11:クロムフタロシアニンフッ化物
PC−12:亜鉛フタロシアニン
PC−13:鉛フタロシアニン
PC−14:チタンフタロシアニン酸化物
PC−15:マグネシウムフタロシアニン
PC−16:銅オクタメチルフタロシアニン
【0064】
ポルフィリン化合物からなる陰極バッファー層は、下にある発光構造体520(620)の保護層としてはたらくだけでなく、そこを横切る電子注入ドーパントの拡散を可能にする。
フタロシアニン、特に金属含有フタロシアニン、具体的には、銅フタロシアニンは、約250nmの厚さのバッファー層、即ち、5〜100nmの範囲の好ましいバッファー層厚よりも非常に厚くても、実質的に光透過性である。
【0065】
図5には、図解目的のためだけの図5に示されている有機発光素子600上に陰極を蒸着するのに有用なスパッタ蒸着システム10の概略図を示されている。システム10は、ベースプレート12に対して真空シール(示されてない)を形成するチャンバー11を有する。ポンプ導管13はベースプレート12を通って伸び、制御弁14を通ってポンプ15に接続されている。チャンバー11の上部に示されているガス導管16は、チャンバー内にスパッタガス17、例えば、アルゴンガスもしくはキセノンガスの調整流を導入する。スパッタガス17は支持板19に形成されたガス流分配器18を通って流れるので、スパッタガス17の流量は、ガス導管16を通ってチャンバーに入るガス流量及びポンプ導管13を通ってポンプ15によってチャンバーから抜き出されるガス流量を含むいくつかの因子によって決められる。
【0066】
図4の素子600は概略的に示されており、その基板602のところで支持プレート19に固く取り付けられている。スパッタ電源26(DC電源でも、RF電源でもよい)を導線23によって接続し、貫通接続25を介して支持プレート19に通し、そしてスパッタ電源26は導線24によってターゲットTを支持するターゲットバッキングプレートに接続されている。周知のように、ターゲットT及びターゲットバッキングプレート20は、シールド21(スパッタ蒸着システムの当業者によってダークスペースシールドとも呼ばれる)によってシールドされている。
【0067】
スパッタガス17のイオン(実線矢印で示す)がターゲットTを攻撃して、ターゲットエネルギー原子もしくは分子を放出させる(点線矢印40で示す)。この原子もしくは分子40は、組成がターゲットTの組成と一致し、高エネルギースパッタ蒸着によって形成される間、陰極610の表面に点線で概略的に示すように、陰極バッファー層630の上に陰極610を形成する。
【0068】
スパッタ蒸着ターゲットTもしくは電子ビームターゲット(示されてない)は、当業者によって複合ターゲットとして処方され、構成されることができる。複合ターゲットは、4.0eV超の仕事関数を有する少なくとも2種類の選定された陰極材料を含有する合金ターゲットとなることができる。例えば、アルミニウムとシリコン、もしくはクロムとニッケルの合金を容易に形成することができる。光透過性層を形成できる複合ターゲットには、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウム−ドープもしくはインジウム−ドープされた酸化亜鉛及びカドミウムスズ酸化物が含まれる。
【0069】
本発明の態様の上記の説明から、有機層と上にある有機バッファー層との間の界面特性を、界面特性を適当に変える物質を選択することによって、有機層とバッファー層との間に界面層を提供するように、有機バッファー層を通って物質が拡散することによって大きく変えることができることがわかるであろう。
【実施例】
【0070】
本発明をさらに理解するために以下の例を提供する。簡潔にするために、材料及びそれから形成される層を次のように略して表す。
ITO:インジウムスズ酸化物(陽極)
CuPc:銅フタロシアニン(陰極バッファー層;及び陽極の上に配置される正孔注入層)
NPB:4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(正孔輸送層)
Alq:トリス(8−キノリノラート−N1,08)−アルミニウム(電子輸送層;ここでは組合せた発光層と電子輸送層として機能する)
MgAg:容積比10:1のマグネシウム:銀(陰極)
Ag:銀(陰極)
Al:アルミニウム(陰極)
Li:リチウム(陰極バッファー層の上に配置される電子注入ドーパント層)
【0071】
有機発光構造体の調製
有機発光構造体を次のように構築した。
a)ITOコートガラスの光透過性陽極を市販の洗剤で超音波洗浄し、脱イオン水内ですすぎ、トルエン蒸気中で脱脂して、強酸化剤に接触させた;
b)15nm厚のCuPc正孔注入層を、通常の熱蒸着によって陽極上に蒸着した;
c)65nm厚のNPB正孔輸送層を、通常の熱蒸着によってCuPc層上に蒸着した;
d)75nm厚のAlq電子輸送層及び発光層を、通常の熱蒸着によってNPB層上に蒸着した。
上記構造体は以下の例の各ベース構成としてはたらき、次のように略号で表す。
ITO/CuPc(15)/NPB(65)/Alq(75)
【0072】
例A
有機発光素子を次のように構築した:
MgAg陰極を、二つのソース(Mg、Ag)から通常の熱共蒸着によって、ベース構成のAlq(75)の上に、従来技術の陰極を提供するように約200nmの厚みまで蒸着した。
例B
有機発光素子を次のように構築した:
CuPc陰極バッファー層を通常の熱蒸着によって、ベース構成のAlq(75)層の上に15nmの厚みまで蒸着した。MgAg陰極を例Aの蒸着によってCuPc陰極バッファー層上に蒸着した。
【0073】
例C
有機発光素子を次のように構築した:
CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。1nm(10オングストローム)厚のLi層を通常の熱蒸着によってCuPc陰極バッファー層上に蒸着した。MgAg陰極を例Aの蒸着によってLi層上に蒸着した。
【0074】
例D
MgAg陰極を、通常の熱蒸着によって100nm厚までLi層上に形成されたAl陰極によって置き換えた以外は、例Cと同じように有機発光素子を構築した。
例E
MgAg陰極を、通常の熱蒸着によって30nm厚までLi層上に形成されたAg陰極によって置き換えた以外は、例Cと同じように有機発光素子を構築した。
【0075】
例F
有機発光素子を次のように構築した:
15nm厚CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。100nm厚のAl陰極を電子ビーム(e−ビーム)蒸着によってCuPcバッファー層上に蒸着した。
【0076】
例G
有機発光素子を次のように構築した:
15nm厚CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。1nm厚のLi層を通常の熱蒸着によってCuPc層上に蒸着した。100nm厚のAl陰極を通常の熱蒸着によってLi層上に蒸着した。

本発明の要件を満たす有機発光素子を次のように構築した:
15nm厚CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。1nm厚のLi層を通常の熱蒸着によってCuPc層上に蒸着した。100nm厚のAl陰極を電子ビーム(e−ビーム)蒸着によってLi層上に蒸着した。
【0077】

本発明の要件を満たす有機発光素子を次のように構築した:
15nm厚CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。1nm厚のLi層を通常の熱蒸着によってCuPc層上に蒸着した。200nm厚のMgAg陰極を抵抗加熱によってLi層上に連続して蒸着した。
【0078】

本発明の要件を満たす有機発光素子を次のように構築した:
15nm厚CuPc陰極バッファー層を例Bのようにベース構成のAlq(75)層の上に蒸着した。1nm厚のLi層を通常の熱蒸着によってCuPc層上に蒸着した。100nm厚のITO陰極を、真空を解除しないでスパッタリングによってLi層上に連続して蒸着した。
【0079】
陽極と陰極の間に、陽極が陰極に対して正となるように駆動電圧を印加して各素子をテストした。電流−駆動電圧関係を測定し(図6、図8、及び図10に示す)、エレクトロルミネッセンス(EL)光出力と駆動電流(所定の駆動電圧のところ)を測定した(図7、図9、及び図11に示す)。
【0080】
図6と7を一緒に眺めると、例BのAlqとMgAgに挟まれたCuPc層が、ベース構成のAlq(75)層上に直接蒸着されたMgAg陰極を有する例Aの従来技術を比較すると、電流−駆動電圧関係が非常に悪かったことがわかる。例Bの素子のEL出力がほとんどなく、例Aの素子が約2.5×10W/Aの効率で強いエレクトロルミネッセンスを示したことはさらに驚きである。二つの素子の大きな違いは、明らかに、CuPcとAlqの間にある電子注入障壁にあることを示しており、その結果電子と正孔が、CuPc−Alq界面近くのCuPc内で再結合し、極端に弱いエレクトロルミネッセンスを生じる。
【0081】
1nm厚のLiをCuPc上に配置すると、図6及び7の陰極としてMgAg、Al、もしくはAgを有する素子は、例Aの従来技術と比較するとほとんど同じ電気的、光学的特性を示す。X線光電子分光法によるLiプロフィールの測定は、CuPc層及びCuPc−Alq界面でのいくつかのLiを示した。界面でのLiの存在は、電子注入障壁を実質的に低下させた。結果として、電子と正孔はNPB−Alq界面のAlq内で再結合したので、強力なエレクトロルミネッセンスを生じた。例C、D、及びEから、CuPc層と薄いLi層の組合せによって効率のよい陰極を形成するために高仕事関数金属の利用が可能となることに留意することも重要である。Al(4.24eV)もしくはAg(4.74eV)の仕事関数は、Mg(3.66eV)の仕事関数よりもかなり高い。
【0082】
図8及び9を見ると、素子F、G、及びHの各素子は15nm厚のCuPc陰極バッファー層、100nm厚のAl界面層を有するが、素子Fの結果は素子G及びHのものとは大きく異なっている。これは陰極バッファー層と陰極層との間にLiドーパント層を挟むことが非常に重要であることを示している。素子GとHの間に電気的及び光学的特性の大きな違いが無いことに留意することも重要である。従って、保護層としてCuPc層を用いると、Alをe−ビーム蒸着しても素子に実質的なダメージを与えないことは明らかである。反対に、ベース構成のAlq(75)上にAlをe−ビーム蒸着すると、得られた素子は高駆動電圧と低EL効率を有し、大きなダメージを受けていた。
【0083】
図10及び11は例I及びJの素子から取ったデータを示す。例Iでは、陰極バッファー層CuPc、薄いドーパント層Li、及び熱蒸着されたMgAg陰極を用い、例Jでは、CuPc層、Li層、及びスパッタITOを用いた。図10では、MgAgとITOの仕事関数の明確な相違にも関わり無く、二つの素子はほとんど同じ電気特性を示す。最上部電極としてITOを用いると、底部面からも、同様に最上部面からも光を放出することができる。
【0084】
MgAgを陰極として用いると、底部面からのみ光を放出することができるが、MgAg陰極からの光学的反射のためにそれは実質的に増幅される。図11では、J1は底部面のところで測定された光を表し、J2は最上部面のところでの光を表す。J1とJ2の合計はIの値に近いことがわかった。これは陰極をスパッタリングで調製したときEL出力の悪化が無いことを示している。素子を例Jと同じように構成すると(但し、CuPcとITOの間にLiを挟まない)、Liドーパント層を備えた例Jの素子と比較すると、この素子の電気特性及び光学特性の両方とも大きく悪化したことに留意することも重要である。
本発明をその好ましい特定の態様を引用して詳細に記載したが、本発明の精神及び範囲内で種々の変更及び改造が可能であることは、理解されるであろう。
【符号の説明】
【0085】
10 スパッタ蒸着システム
11 チャンバー
12 ベースプレート
15 ポンプ
17 スパッタガス
19 支持プレート
37 ガスイオン
100 有機発光素子
102 光透過性基板
104 光透過性陽極
110 不透明陰極
120 発光構造体
122 正孔輸送層
123 接合部
124 発光層
126 電子輸送層
128 界面
180 放出された光
200 有機発光素子
220 有機発光構造体
532 ドーパント層
540 界面電子注入ドーパント層
632 ドーパント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)基板、
b)前記基板上に配置された陽極、
c)前記陽極上に配置された有機発光構造体、
d)前記有機発光構造体上に配置され、陰極の高エネルギー堆積を可能にするように選ばれた物質からなる陰極バッファー層、
e)前記陰極バッファー層上に配置された陰極、及び
f)前記陰極バッファー層と前記陰極との間に配置され、前記有機発光構造体と前記陰極バッファー層との間の界面に界面電子注入層を提供するように前記バッファー層を横切って拡散する電子注入ドーパントを有するドーパント層を含んでなる有機発光素子。
【請求項2】
前記有機発光構造体が、
(i )前記陽極上に形成された有機正孔輸送層、
(ii)前記正孔輸送層上に形成された有機発光層、及び
(iii )前記発光層上に形成された有機電子輸送層
を含んでなる請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
(a)基板を設けること、
(b)前記基板上に陽極を配置すること、
(c)前記陽極上に有機発光構造体を形成すること、
(d)前記有機発光構造体上にあり、陰極の高エネルギー堆積を可能にするように選ばれた物質からなる陰極バッファー層を設けること、
(e)前記陰極バッファー層の上にあり、そして前記有機発光構造体と前記陰極バッファー層との間の界面に界面電子注入層を提供するように前記バッファー層を横切って拡散することができる電子注入ドーパントを有するドーパント層を形成すること、
(f)前記ドーパント層の上に陰極を形成すること、そして
(g)前記界面のところに界面電子注入層を提供するようにドーパント層から少なくとも一部のドーパントを拡散すること
の各工程を含んでなる有機発光素子の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−251803(P2010−251803A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173892(P2010−173892)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【分割の表示】特願平11−212340の分割
【原出願日】平成11年7月27日(1999.7.27)
【出願人】(510059907)グローバル オーエルイーディー テクノロジー リミティド ライアビリティ カンパニー (45)
【Fターム(参考)】