説明

有機皮膜性能に優れた容器用鋼板およびその製造方法

【課題】製缶加工性に優れるとともに、絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性、濡れ性に優れた容器用鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Zrイオン、リン酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより鋼板上に形成されたZr皮膜を有し、前記Zr化合物皮膜の付着量が、金属Zr量で1〜100mg/mであり、表面の濡れ張力が31mN/m以上である容器用鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製缶加工用素材として、特に、絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、濡れ性、フィルム密着性等の有機皮膜性能に優れた容器用鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料や食品に用いられる金属容器は、2ピース缶と3ピース缶とに大別される。DI缶に代表される2ピース缶は、絞りしごき加工が行われた後、缶内面側に塗装が行われ、缶外面側には塗装及び印刷が行われる。3ピース缶は、缶内面に相当する面に塗装が行われ、缶外面側に相当する面に印刷が行われた後、缶胴部の溶接が行われる。
【0003】
何れの缶種においても、製缶前後に塗装工程が不可欠である。塗装には、溶剤系もしくは水系の塗料が使用され、その後、焼付けが行われるが、この塗装工程において、塗料に起因する廃棄物(廃溶剤等)が産業廃棄物として排出され、排ガス(主に炭酸ガス)が大気に放出されている。近年、地球環境保全を目的とし、これら産業廃棄物や排ガスを低減しようとする取組みが行われている。この中で、塗装に代わるものとしてフィルムをラミネートする技術が注目され、急速に広まってきた。
【0004】
これまでに、2ピース缶においては、フィルムをラミネートし製缶する缶の製造方法やこれに関連する発明が多数提供されている。例えば、「絞りしごき罐の製造方法(特許文献1)」、「絞りしごき罐(特許文献2)」、「薄肉化深絞り缶の製造方法(特許文献3)」、「絞りしごき罐用被覆鋼板(特許文献4)」等が挙げられる。
【0005】
また、3ピース缶においては、「スリーピース缶用フィルム積層鋼帯およびその製造方法(特許文献5)」、「缶外面に多層有機皮膜を有するスリーピース缶用(特許文献6)」、「ストライプ状の多層有機皮膜を有すスリーピース缶用鋼板(特許文献7)」、「3ピース缶ストライプラミネート鋼板の製造方法(特許文献8)」等が挙げられる。
【0006】
一方、ラミネートフィルムの下地に用いられる鋼板には、多くの場合、電解クロメート処理を施したクロメート皮膜が用いられている。クロメート皮膜は、2層構造を有し、金属Cr層の上層に水和酸化Cr層が存在している。従って、ラミネートフィルム(接着剤付きのフィルムであれば接着層)は、クロメート皮膜の水和酸化Cr層を介して、鋼板との密着性や塗料との濡れ性を確保している。この密着発現の機構については、詳細は明らかにされていないが、水和酸化Crの水酸基とラミネートフィルムのカルボニル基あるいはエステル基などの官能基との水素結合であると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1571783号公報
【特許文献2】特許第1670957号公報
【特許文献3】特開平2−263523号公報
【特許文献4】特許第1601937号公報
【特許文献5】特開平3−236954号公報
【特許文献6】特開平05−124648号公報
【特許文献7】特開平5−111979号公報
【特許文献8】特開平5−147181号公報
【特許文献9】特開2006−9047号公報
【特許文献10】特開2005−325402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の発明は、確かに、地球環境の保全を大きく前進せしめる効果が得られるが、その一方で、近年、飲料容器市場では、PETボトル、瓶、紙等の素材とのコスト並びに品質競争が激化しており、上記のラミネート容器用鋼板に対しても、従来技術である塗装用途に対して、優れた密着性、耐食性を確保した上で、より優れた製缶加工性、特に、フィルム密着性、加工フィルム密着性、耐食性などが求められるようになった。
【0009】
また、近年、欧米を中心に、鉛やカドミウムなどの有害物質の使用制限や製造工場の労働環境への配慮が叫ばれ始め、クロメートを使用しない、かつ、製缶加工性を損ねない皮膜が求められるようになった。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた製缶加工性を有するとともに、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、濡れ性、フィルム密着性を有する容器用鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、クロメート皮膜に代わる新たな皮膜として、Zr化合物皮膜の活用を検討し、例えば、「表面処理金属材料及びその表面処理方法、並びに樹脂被覆金属材料(特許文献9)」あるいは「スズ又はスズ系合金めっき鋼材の表面処理方法(特許文献10)」を提案している。確かにこれらの技術を用いれば一定の性能を確保する事は可能であるが、本発明の課題である塗料の濡れ性については、不十分である。
【0012】
そこで本発明者らは、電解あるいは浸漬処理により、Zr化合物皮膜あるいはZr化合物皮膜にリン酸皮膜が複合された複合Zr皮膜等のZr皮膜を形成させた後、直ちに、温水、洗浄処理を行うことで、塗料の濡れ性を飛躍的に向上でき、しかも、塗装あるいはラミネートフィルムと非常に強力な共有結合を形成し、従来のクロメート皮膜以上の優れた製缶加工性が得られるとともに、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性をも得られることを知見し、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち本発明は、
(1)Zr酸化物の付着量が金属Zr量で1〜100mg/mであり、かつ、表面の濡れ張力が31mN/m以上であるZr皮膜を有することを特徴とする、容器用鋼板。
(2)前記Zr皮膜は、付着量がP量で0.1〜50mg/mであるZrリン酸化合物を更に含むことを特徴とする、(1)に記載の容器用鋼板。
(3)Zrイオン、アンモニウムイオンおよび硝酸イオン、または、Zrイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンおよびリン酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより、鋼板上に(1)または(2)に記載のZr皮膜を形成させ、水洗した後、40℃以上の温水で0.5秒以上の洗浄処理を行うことを特徴とする、容器用鋼板の製造方法。
(4)前記鋼板は、少なくとも片面に、Niを10〜1000mg/m及び/又はSnを100〜15000mg/mを付着させた表面処理層を有する表面処理鋼板であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の容器用鋼板。
である。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る容器用鋼板は、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性を有する。そのため、本発明に係る容器用鋼板は、製缶加工性に優れたラミネート容器用鋼板として利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態としての製缶加工性に優れた容器用鋼板について詳細に説明する。
【0016】
本発明で用いられる原板は、特に規制されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板を用いる。この原板の製造法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。この原板にNi、Snのうちの1種以上を含む表面処理層が付与されるが、付与する方法については特に規制するものでは無い。表面処理層の付与は、例えば、電気めっき法や真空蒸着法やスパッタリング法などの公知技術を用いれば良く、拡散層を付与するため、めっき後に加熱処理を組み合わせても良い。また、Niは、Fe−Ni合金めっきを行っても本発明の本質は不変である。
【0017】
こうして付与されたNi、Snのうちの1種以上を含む表面処理層において、例えば、Niは金属Niとして10〜1000mg/m、Snは金属Snとして100〜15000mg/mの範囲であることが好ましい。
【0018】
Snは、優れた加工性、溶接性、耐食性を発揮し、この効果が発現するために、金属Snとして100mg/m以上を付与することが望ましい。また、十分な溶接性を確保するためには、200mg/m以上付与することが望ましく、十分な加工性を確保するためには、1000mg/m以上付与することが望ましい。Sn付着量の増加に伴い、Snの優れた加工性、溶接性の向上効果は増加するが、15000mg/m以上では耐食性の向上効果が飽和するため、経済的に不利ある。従って、Snの付着量は、金属Snとして15000mg/m以下にすることが好ましい。また、Snめっき後にリフロー処理を行うことによりSn合金層が形成され、耐食性をより一層向上させることができる。
【0019】
Niは、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性にその効果を発揮し、その為には、金属Niとして、10mg/m以上のNiを付与することが望ましい。Niの付着量の増加に伴い、Niの優れたフィルム密着性、耐食性、溶接性の向上効果は増加するが、1000mg/m以上ではその向上効果が飽和するため、経済的に不利ある。従って、Niの付着量は、金属Niとして10mg/m以上、1000mg/m以下にすることが好ましい。
【0020】
ここで、上記表面処理層中の金属Ni量および金属Sn量は、例えば、蛍光X線法によって測定することができる。この場合、金属Ni量既知のNi付着量サンプルを用いて、測定の結果得られる値と金属Ni量との関係を表す検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Ni量を特定する。金属Sn量の場合も同様にして、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、測定の結果得られる値と金属Sn量との関係を表す検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
【0021】
これらのNi、Snの1種以上を含む表面処理層の上層に、本発明の本質とする処である、Zr皮膜が付与される。この皮膜を付与する方法は、例えば、Zrイオン、リン酸イオンを溶解させた酸性溶液に鋼板を浸漬する方法や、陰極電解処理により行う方法等がある。ただし、浸漬処理では、下地をエッチングして各種の皮膜が形成される為、付着が不均一になり、また、処理時間も長くなる為、工業生産的には不利である。一方、陰極電解処理では、強制的な電荷移動および鋼板界面での水素発生による表面清浄化とpH上昇による付着促進効果も相俟って、均一な皮膜を得る事が出来る。更に、この陰極電解処理において、処理液中に硝酸イオンとアンモニウムイオンが共存することにより、数秒から数十秒程度の短時間処理と耐食性や密着性の向上効果に優れたZr酸化物、Zrリン酸化物を含むZr皮膜の析出を促進することが可能であることから、工業的には極めて有利である。従って、本実施形態に係るZr皮膜の付与には陰極電解処理が望ましく、特に硝酸イオンとアンモニウムイオンを共存させた処理液での陰極電解処理が更に望ましい。
【0022】
Zr皮膜の役割は、耐食性と密着性の確保である。Zr皮膜は、酸化Zr、水酸化Zrで構成されているZr水和酸化物を含む。また、Zr皮膜は、酸化Zr、水酸化Zrで構成されているZr水和酸化物とZrリン酸化物との双方を含んでも良い。これらのZr化合物は、優れた耐食性と密着性を有している。従って、Zr皮膜が増加すると、耐食性や密着性が向上し始め、金属Zr量で、1mg/m以上になると、実用上、問題ないレベルの耐食性と密着性が確保される。更に、Zr皮膜量が増加すると耐食性、密着性の向上効果も増加するが、Zr皮膜量が金属Zr量で100mg/mを超えると、Zr皮膜が厚くなり過ぎZr皮膜自体の密着性が劣化すると共に、電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。従って、Zr皮膜付着量は、金属Zr量で1〜100mg/mとすることが必要である。
【0023】
また、Zrリン酸化物が増加するとより優れた耐食性と密着性を発揮するが、その効果をはっきり認識できるのは、P量で0.1mg/m以上である。更に、リン酸皮膜量が増加すると耐食性、密着性の向上効果も増加するが、リン酸皮膜量がP量で50mg/mを超えると、リン酸皮膜が厚くなり過ぎリン酸皮膜自体の密着性が劣化すると共に電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。従って、Zrリン酸化合物を含むZr皮膜を形成する場合、リン酸皮膜付着量はP量で0.1〜50mg/mとすることが必要である。
【0024】
上記のZr皮膜を形成させ、水洗の後に、直ちに、温水で洗浄する必要がある。温水で洗浄する目的は、処理液の洗浄と濡れ性の向上である。特に、濡れ性向上により塗装弾きによるピンホールを抑制し、塗装鋼板の品質確保に大きく寄与するものである。十分な濡れ性を確保するには、表面の濡れ張力として31mN/m以上が必要であり、好ましくは、35mN/m以上あれば良い。ここで述べた表面の濡れ張力は、JIS K 6768で規格されている方法で測定された値である。この規格では、種々の表面の濡れ張力測定に調整された試験液を塗布し、試験液の濡れ状態で測定する為、表面の濡れ張力が高い試験液の濡れ状態が良好であれば、優れた濡れ性を示していることとなる。そのため、本発明では、試験液の表面の濡れ張力で記載している。
【0025】
この温水洗浄による濡れ性の向上機構の詳細は不明であるが、皮膜の最表層で親水性の官能基が増加する等の機構が考えられる。これらの効果が発揮されるには、40℃以上の温水で0.5秒以上の洗浄処理が必要である。かかる洗浄処理として、例えば、浸漬処理、スプレー処理等を挙げることができる。工業的には、液の流動による洗浄促進効果が期待できるスプレー処理または浸漬処理とスプレー処理による複合処理が好ましい。
【0026】
なお、本発明では、Zr皮膜形成のために硝酸Zrを含む処理液を用い、またZr皮膜の析出を促進するため硝酸イオンとアンモニウムイオンを共存させた処理液を用いる場合がある。この場合、硝酸イオンは処理液中に含まれることから、Zr化合物と共にZr皮膜中に取り込まれる場合がある。本発明ではZr皮膜の表面の濡れ張力を規定しているが、Zr皮膜中に硝酸イオンが残存すると、当該イオンが有する特性のひとつである親水性のために、表面濡れ張力を測定することに支障をきたす(見掛け上の表面濡れ性を向上させる)ことになり、本発明で提案しているZr皮膜の表面濡れ性張力規定に関して不都合であり、かつ正確な表面の濡れ張力を測定できなくなる可能性がある。さらに、皮膜中の硝酸イオンは、塗料やフィルムの通常の密着性(一次密着性)には基本的に影響を及ぼさないが、レトルト処理などの高温殺菌処理時等の水蒸気を含む水分共存下での高温処理時での密着性(二次密着性)や耐錆性あるいは塗膜下腐食性を劣化させる原因となる。これは、皮膜中に残存する硝酸イオンが水蒸気や腐食液へ溶出し、有機皮膜との結合を分解、或いは、下地鋼板の腐食を促進することが原因と考えている。
【0027】
そこで、前記Zr皮膜1m相当分を1Lの70℃蒸留水中に浸漬し、30分撹拌後の溶液中に溶出する硝酸イオン濃度が、5ppm以下であることが好ましい。溶出する硝酸イオン濃度が5ppmを超えると、これらの諸特性の劣化が顕在化し始めることから、溶出する硝酸イオン濃度が5ppm以下であれば、Zr皮膜中に存在している可能性のある硝酸イオンは表面の濡れ張力に影響を与えることはないと考えられる。そのため、温水洗浄処理における温水の温度及び処理時間を前述のようにすることで、同溶出量を5ppm以下にすることが好ましい。溶出する硝酸イオンの濃度は、より好ましくは、3ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であり、本質的には溶出しない(0ppmである)ことが最も好ましい。
【0028】
なお、本実施形態に係るZr皮膜中に含有される金属Zr量及びP量は、例えば、蛍光X線分析等の定量分析法により測定することが可能である。
【0029】
また、Zr皮膜より溶出する硝酸イオンの濃度は、例えばイオンクロマトグラフィーを用いた定量分析法により測定することが可能である。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例及び比較例について述べ、その結果を表1に示す。
【0031】
<鋼板上の表面処理層>
以下の処理法(0)〜(6)の方法を用いて、板厚0.17〜0.23mmの鋼板上に表面処理層を付与した。
【0032】
(処理法0)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板に脱脂、酸洗を施した鋼板を作製した。
(処理法1)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをめっきし、Snめっき鋼板を作製した。
(処理法2)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、ワット浴を用いてNiめっきを施し、Niめっき鋼板を作製した。
(処理法3)冷間圧延後、ワット浴を用いてNiめっきを施し、焼鈍時にNi拡散層を形成させ、Niめっき鋼板を作製した。
(処理法4)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをめっきし、その後、リフロー処理を行い、Sn合金層を有するSnめっき鋼板を作製した。
(処理法5)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてFe−Ni合金めっきを施し、引き続き、フェロスタン浴を用いてSnめっきを施し、Ni、Snめっき鋼板を作製した。
(処理法6)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてSn−Ni合金めっきを施し、Ni、Snめっき鋼板を作製した。
【0033】
<皮膜形成>
上記の処理により表面処理層を付与した後、以下の処理法(7)〜(10)でZr皮膜を形成した。
【0034】
(処理法7)1000ppmの硝酸Zr、1500ppmの硝酸アンモンを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬、陰極電解してZr皮膜を形成した。
(処理法8)2000ppmの硝酸Zr、500ppmのリン酸、1500ppmの硝酸アンモンを溶解させた処理液に、上記鋼板を浸漬し、陰極電解してZr皮膜を形成した。
(処理法9)1000ppmの硝酸Zr、1500ppmの硝酸アンモンを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬し、Zr皮膜を形成した。
(処理法10)2000ppmの硝酸Zr、500ppmのリン酸、1500ppmの硝酸アンモンを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬し、Zr皮膜を形成した。
【0035】
<水洗処理>
上記の処理によりZr皮膜を形成した後、得られた鋼板に対して、表1の温水洗浄処理方法に記載の水温及び時間条件で、浸漬洗浄処理を行った。
【0036】
なお、本実施例において、表面処理層中の金属Ni量および金属Sn量は、蛍光X線法によって測定し、検量線を用いて特定した。また、Zr皮膜中に含有される金属Zr量、P量は、蛍光X線分析等の定量分析法により測定した。
【0037】
一方、水洗処理後の化成処理皮膜からの硝酸イオン溶出量の特定は、以下の方法で実施した。
【0038】
サンプルは、前記処理鋼板を50mm×100mmに剪断したものとし、剪断エッジのマスキングや脱脂処理をしないで、そのまま試験に供した。
【0039】
容量2Lの水冷還流菅を具備し得るセパラブルフラスコに蒸留水を約900mL入れて、電熱ヒーター上で加熱し70℃とした。沸騰を確認した後、ガラス製のサンプル立てに10枚をセットして、沸騰水中に投入した。サンプル全体が浸漬するように水冷環流(必要に応じて蒸留水を添加)および撹拌しながら、30分抽出した。抽出完了後、前記抽出サンプルに付着した溶液を蒸留水で洗い流し、前記抽出溶液に加え、沸騰させ、そこに新たなガラス製のサンプル立てに10枚をセットしたサンプルを投入し、同様の抽出作業を5回繰り返し実施して、計50枚(総面積0.5m)からの抽出を行った。
【0040】
抽出処理終了後、溶出蒸留水の全量を1Lに合わせて試験液とし、液体イオンクロマトグラフィーにて溶出された硝酸イオンの濃度を特定し、1mあたりに換算した。
【0041】
<液体イオンクロマトグラフィー測定条件>
(1)装置 :島津パーソナルイオンアナライザー PIO−1000
(2)カラム種:Shim−pack IC−A3(S) (2.0mm ID×150mm L)
(3)移動相 :IC−MA3−1 (PIA アニオンMA3−1)
(4)流速 :0.25ml/min.
(5)測定温度:35℃
(6)検出器 :電導度
(7)注入量 :20μL
(8)希釈率 :1
(9)前処理 :ろ過(5C)
【0042】
<性能評価>
上記の処理を行った試験材について、以下に示す(A)〜(H)の各項目について性能評価を行った。
【0043】
(A)加工性
試験材の両面に厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネートし、絞り加工としごき加工による製缶加工を段階的に行い、成型を4段階(◎:非常に良い、○:良い、△:疵が認められる、×:破断し加工不能)で評価した。この加工性について、○以上を合格とした。
【0044】
(B)溶接性
ワイヤーシーム溶接機を用いて、溶接ワイヤースピード80m/minの条件で、電流を変更して試験材を溶接し、十分な溶接強度が得られる最小電流値とチリ及び溶接スパッタなどの溶接欠陥が目立ち始める最大電流値からなる適正電流範囲の広さから総合的に判断し、4段階(◎:非常に良い、○:良い、△:劣る、×:溶接不能)で溶接性を評価した。この溶接性について、○以上を合格とした。
【0045】
(C)フィルム密着性
試験材の両面に厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネート氏、絞りしごき加工を行い、缶体を作製し、125℃、30minのレトルト処理を行い、フィルムの剥離状況を、4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。このフィルム密着性について、○以上を合格とした。
【0046】
(D)一次塗料密着性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さのゴメン目を入れ、テープで剥離し、剥離状況を4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。この一次塗料密着性について、○以上を合格とした。
【0047】
(E)二次塗料密着性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さのゴメン目を入れ、その後、125℃、30minのレトルト処理を行い、乾燥後、テープで塗膜を剥離し、剥離状況を4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。この二次塗料性について、○以上を合格とした。
【0048】
(F)塗膜下耐食性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、地鉄に達する深さのクロスカットを入れ、1.5%クエン酸−1.5%食塩混合液からなる試験液に、45℃、72時間浸漬し、洗浄、乾燥後、テープ剥離を行い、クロスカット部の塗膜下腐食状況と平板部の腐食状況を4段階(◎:塗膜下腐食が認められない、○:実用上問題無い程度の僅かな塗膜下腐食が認められる、△:微小な腐食下腐食と平板部に僅かな腐食が認められる、×:激しい腐食塗膜下腐食と平板部に腐食が認められる)で判断して評価した。この塗膜下耐食性について、○以上を合格とした。
【0049】
(G)レトルト耐錆性
試験材を125℃、30minのレトルト処理し、錆の発生状況を4段階(◎:全く発錆無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな発錆有り、△:僅かな発錆有り、×:大部分で発錆)で評価した。このレトルト耐錆性について、○以上を合格とした。
【0050】
(H)濡れ性(濡れ張力)
試験材に市販の濡れ張力試験液を塗布し、試験液が弾き始める限界の試験液の張力で評価し、張力の大きさで3段階(◎:35mN/m以上、○:31mN/m以上、×:30mN/m以下)で評価した。この濡れ性について、○以上を合格とした。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明の範囲に属する実施例1〜18はいずれも、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性、耐錆性、濡れ性に優れることがわかった。一方、本発明のいずれかの要件を満たさない比較例1〜4は、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性、耐錆性、濡れ性の少なくとも一部の特性が劣ることがわかった。
【0053】
特に、比較例3,4は、Zr皮膜中に残存する硝酸イオンが5ppm超であることから、見掛け上の濡れ性は良好であるが、レトルト処理を実施するフィルム密着性、塗料密着性(二次)は十分でないことがわかった。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr酸化物の付着量が金属Zr量で1〜100mg/mであり、かつ、表面の濡れ張力が31mN/m以上であるZr皮膜を有することを特徴とする、容器用鋼板。
【請求項2】
前記Zr皮膜は、付着量がP量で0.1〜50mg/mであるZrリン酸化合物を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の容器用鋼板。
【請求項3】
Zrイオン、アンモニウムイオンおよび硝酸イオン、または、Zrイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンおよびリン酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより、鋼板上に請求項1または2に記載のZr皮膜を形成させ、水洗した後、
40℃以上の温水で0.5秒以上の洗浄処理を行うことを特徴とする、容器用鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板は、少なくとも片面に、Niを10〜1000mg/m及び/又はSnを100〜15000mg/mを付着させた表面処理層を有する表面処理鋼板であることを特徴とする、請求項1または2に記載の容器用鋼板。



【公開番号】特開2011−12344(P2011−12344A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126851(P2010−126851)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】