説明

有機系ハンダ酸化物除去剤及び電子基板の製造方法

【課題】溶融ハンダの酸化を防止しハンダドロスの発生を防止するとともに、発生したハンダドロスを取り除くことができる有機系ハンダ酸化物除去剤を提供し、また、この有機系ハンダ酸化物除去剤を用いた電子基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ハンダ槽1内の溶融ハンダに、結晶カーボン剤を0.0001〜5.0重量%、カーボンナノチューブを0.0001〜2.0重量%、リン(P)を0〜1.0重量%、ニッケル(Ni)を0〜1.0重量%、インジウム(In)を0〜1.0重量%のうちの少なくとも一の添加物を含有し残部がロジン及び不可避不純物である有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンを混入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板等の技術領域においてハンダ合金の酸化物を取り除くための有機系ハンダ酸化物除去剤に関し、また、この有機系ハンダ酸化物除去剤を用いた電子基板の製造方法に関する。具体的には、電子部品の組立、パッケージ及び電子、電機設備、通信機材、自動車などの領域におけるろう付けハンダの使用に適したハンダ合金の酸化物を取り除く技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンダ合金を溶融し、異材料の接合面に流すことによるハンダ付け技術は、工業会で広く使用されている。特に、電気機械の新しい機能を実現し、また、長寿命を維持するためのコア技術の一つである。
【0003】
溶融されたハンダは、大気中で使用されるため、酸化し易い。酸化物が形成されると、溶融されたハンダの表面に浮き、ハンダドロスになる。ハンダドロスの発生は、ハンダの酸化状態に関係している。ハンダの酸化は、ハンダ合金の組成、微量不純物、酸化温度と溶融時間、ハンダの周囲の雰囲気、撹拌状態及びハンダ槽中において酸化する表面の面積に関係する。
【0004】
特に、電子部品のフローハンダ付けの実装中には、溶融ハンダは、連続的に撹拌されてハンダ槽から噴流し、大量の溶融ハンダが大気中に曝露されるため、溶融ハンダの表面には、大量の酸化物が発生する。そのため、大量のハンダ(例えば、10%程度)が損失される。また、ハンダ付けの界面にハンダドロスが残ると、ハンダ付けの欠陥が形成される。そのため、大量のハンダ付け不良が発生し、ハンダ付けの信頼性が低下する。
【0005】
特許文献1には、ハンダ槽内の溶融ハンダの酸化を防止するため、ハンダ槽の表面に合成油の層を形成する記述が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−38248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、現在、広く使用されている鉛(Pb)フリーハンダについては、液相温度(融点)が、217°C〜220°Cと高いため、大気中において特に酸化し易く、酸化物の問題はますます重大となっている。
【0008】
特許文献1に記載された技術によっては、ハンダ槽の表面における酸化は防止できるものの、噴流する溶融ハンダの酸化を防止することはできない。また、合成油がハンダ付けの品質に影響を及ぼす虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、溶融ハンダの酸化を防止し、ハンダドロスの発生を防止するとともに、発生したハンダドロスを取り除くことができる有機系ハンダ酸化物除去剤を提供し、また、この有機系ハンダ酸化物除去剤を用いた電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するため、本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤は、以下の構成を有するものである。
【0011】
〔構成1〕
結晶カーボン剤を0.0001〜5.0重量%、カーボンナノチューブを0.0001〜2.0重量%、リン(P)を0〜1.0重量%、ニッケル(Ni)を0〜1.0重量%、インジウム(In)を0〜1.0重量%のうちの少なくとも一の添加物を含有し、残部がロジン及び不可避不純物であることを特徴とするものである。
【0012】
なお、リンは、0.005〜0.02重量%とすることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤は、ハンダ付けプロセス中に溶融したハンダの大量のドロスを取り除き、また、微視的なドロスがハンダ付け界面に残ることによるハンダ付け欠陥を防止するために発明されたものである。また、ハンダドロスを取り除くことにより、損失するハンダの量を大幅に減少させ、ハンダの節約を図ることができる。
【0014】
本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤は、公知の製作方法により、液体、粉末、ペレット、あるいは、棒状、球状、または、線状の固体など、各種の物理的形状に製作することができる。この有機系ハンダ酸化物除去剤は、リフローハンダ付け、ウェーブハンダ付けや、手付けハンダ付けなど、各種のハンダ付けに適用することができる。
【0015】
そして、本発明に係る電子基板の製造方法は、以下の構成を有するものである。
【0016】
〔構成2〕
構成1を有する有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンを溶融ハンダに混入させ、この溶融ハンダをノズルから噴流させてプリント基板に供給し、このプリント基板上に電子部品をハンダ付けすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
構成1を有する本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤においては、結晶カーボン剤を0.0001〜5.0重量%、カーボンナノチューブを0.0001〜2.0重量%、リン(P)を0〜1.0重量%、ニッケル(Ni)を0〜1.0重量%、インジウム(In)を0〜1.0重量%のうちの少なくとも一の添加物を含有し、残部がロジン及び不可避不純物であるので、溶融ハンダに混入させることにより、溶融ハンダの酸化を防止することができる。
【0018】
本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤を用いることにより、溶融したハンダの大量のドロスが取り除かれ、また、微視的なドロスがハンダ付け界面に残ることがなくなり、ハンダ付け欠陥が防止される。また、ハンダ表面に保護膜が形成され、ハンダの酸化が防止されるので、ハンダを節約することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤の添加成分がハンダ付けの界面に入っていた場合、界面組織を微細化させ、界面の接合強度を向上させることができる。添加成分がハンダ付け部分の表面にあれば、その抗酸化性と耐久性を向上させることができる。
【0020】
構成2を有する本発明に係る電子基板の製造方法においては、構成1を有する有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンが溶融ハンダに混入されているので、溶融ハンダの酸化を防止した状態で、プリント基板上に電子部品をハンダ付けすることができる。
【0021】
すなわち、本発明は、溶融ハンダの酸化を防止し、ハンダドロスの発生を防止するとともに、発生したハンダドロスを取り除くことができる有機系ハンダ酸化物除去剤を提供し、また、この有機系ハンダ酸化物除去剤を用いた電子基板の製造方法を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の最良の実施の形態について、詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る有機系ハンダ酸化物除去剤は、結晶カーボン剤を0.0001〜5.0重量%、カーボンナノチューブを0.0001〜2.0重量%、リン(P)を0〜1.0重量%、ニッケル(Ni)を0〜1.0重量%、インジウム(In)を0〜1.0重量%のうちの少なくとも一の添加物を含有し、残部がロジン及び不可避不純物である。リンは、0.005〜0.02重量%とすることがより好ましい。
【0024】
この有機系ハンダ酸化物除去剤は、母材がロジンである。ロジンには、ハンダ付け部分の酸化物を除き、ハンダドロスを除去する還元作用がある。その原料をなる資源は豊富であり、コストも安い。
【0025】
カーボンナノチューブが添加されていることにより、表面効果及びサイズ効果など、ナノ粒子の特性により、還元作用が大きくなる。ハンダドロスの特性及び生成量によって、カーボンナノチューブの添加量を調整することが好ましい。添加量が少ない(0.0001重量%未満)場合には、還元作用が弱くなる。添加量が多すぎる場合、ハンダ付けの界面特性が変わるため、添加量の上限は、2.0重量%である。
【0026】
結晶カーボン剤(結晶炭素)は、強い還元剤であり、添加することにより、酸化物を速やかに除去することができる。しかし、結晶炭素の添加量が多すぎると、ハンダ付け表面が汚れるため、添加量の上限は、5.0重量%である。
【0027】
リンの添加によって形成される酸化物Pの特性は、通常の金属酸化物と異なり、昇華性があるので、溶融ハンダの表面を被覆する効果があり、フラックスと同様の作用を生ずる。また、少量のリンがハンダ付け界面に残されると、界面の組織が微細化される。しかし、リンの添加量が多すぎると、ハンダ付け界面の接合強度が低下する。したがって、リンの添加量の上限は、1.0重量%であり、好ましくは、0.005〜0.02重量%である。
【0028】
ニッケル及びインジウムの添加により、ハンダの抗酸化力が向上する。ハンダの種類により適宜添加すると、ハンダドロスを除去し、溶融ハンダ表面を保護する効果がある。
【0029】
以上の添加成分は、ハンダの種類により、同時に、または、単一で添加することができる。ハンダドロスの除去、溶融ハンダ表面の保護、酸化防止、ハンダ付け界面の特性に鑑みて、最適な添加物及び添加量を決定することができる。
【0030】
この有機系ハンダ酸化物除去剤は、公知の製作方法により、液体、粉末、ペレット、あるいは、棒状、球状、または、線状の固体など、各種の物理的形状に製作することができる。
【0031】
そして、本発明に係る電子基板の製造方法は、前述の有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンを溶融ハンダに混入させ、この溶融ハンダをノズルから噴流させてプリント基板に供給し、このプリント基板上に電子部品をハンダ付けするものである。
【0032】
この電子基板の製造方法には、噴流ハンダ付装置を用いる。噴流ハンダ付装置は、ハンダ槽内の溶融ハンダを、ポンプを用いてノズルから上向きに噴流させ、この噴流波をノズルの上方を通過するプリント基板に供給するようにした装置である。
【0033】
図1は、噴流ハンダ付装置の構成を示す縦断面図である。
【0034】
噴流ハンダ付装置は、図1に示すように、ハンダ槽1を有し、ハンダ槽1内の溶融ハンダを噴流させるポンプ2がプリント基板5の通過方向に対する側方に設置されて構成されている。ノズル3は、ハンダ吐出口4がプリント基板5の通過方向に対して直交する方向が長手方向となされたスリット状となっている。
【0035】
ポンプ2により噴流される溶融ハンダは、ハンダ吐出口4の全幅に亘って、上方に噴出する。この噴流ハンダ付装置においては、ハンダ吐出口4の上方をプリント基板5が通過することにより、ハンダ吐出口4の全幅に亘って、プリント基板5に対する良好なハンダ付けを行うことができる。
【0036】
そして、ハンダ槽1内の溶融ハンダには、前述の有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンを混入させておく。混入させる量は、8時間使用時で、350kgの溶融ハンダに対して、100g程度の有機系ハンダ酸化物除去剤を混入させることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】噴流ハンダ付装置の構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ハンダ槽
2 ポンプ
3 ノズル
4 ハンダ吐出口
5 プリント基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶カーボン剤を0.0001〜5.0重量%、カーボンナノチューブを0.0001〜2.0重量%、リン(P)を0〜1.0重量%、ニッケル(Ni)を0〜1.0重量%、インジウム(In)を0〜1.0重量%のうちの少なくとも一の添加物を含有し、残部がロジン及び不可避不純物である
ことを特徴とする有機系ハンダ酸化物除去剤。
【請求項2】
請求項1記載の有機系ハンダ酸化物除去剤、または、ロジンを溶融ハンダに混入させ、この溶融ハンダをノズルから噴流させてプリント基板に供給し、このプリント基板上に電子部品をハンダ付けする
ことを特徴とする電子基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−29875(P2010−29875A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191751(P2008−191751)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(508074158)
【出願人】(508225761)
【Fターム(参考)】