説明

有機系光学材料の成形製造方法

【構成】 複数種の有機系光学材料をその共通の良溶媒に溶解した溶液を、この良溶媒と相溶性があり、有機系光学材料に共通する貧溶媒と混合して沈殿析出させ、得られた析出物を濾別して減圧乾燥し、次いで粉砕して得られた粉末を真空加熱処理し、さらに真空下に加熱溶融成形する。
【効果】 気化しにくい材料、熱分解しやすい材料等であっても、高品質の光学材料の成形製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、有機系光学材料の成形製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、気化しにくい光学材料であっても、あるいは熱分解しやすい光学材料であっても、高品質で高機能な光学材料として成形することのできる新しい有機系光学材料の成形製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、光学材料の開発と応用は急速に拡大し、近年のオプトエレクトロニクスの発展にともなって、さらに高機能な光学材料への期待が高まり、そのための開発も精力的に進められてきている。これらの光学材料のうち、有機系光学材料は(1)ニオブ酸リチウムなどの無機強誘電体結晶等に比べ、非線形光学定数が大きいこと、(2)ガリウム−ヒ素などの無機半導体に比べ応答速度が速いこと、(3)無機の結晶性材料に比べ、薄膜やファイバーへの加工が容易なことなど、従来の無機材料では同時に満たされることのなかった諸特性を同時に満足する可能性が期待されることから、活発な研究開発が推進されている。たとえば、具体的にも、光の第2高調波発生素子に使用される2次非線形光学材料、光双安定現象を利用した光スイッチや光メモリー、あるいは光位相共役現象を利用した実時間ホログラフィに使用される高い3次非線形光学効果を示す材料の探索等が活発に進められている。
【0003】そして、これらの有機系光学材料の製造方法としては1)単結晶の切削・研磨加工2)塗工法(スピンコート、ディッピングなど)
3)真空蒸着法4)CVD法5)有機分子線蒸着法などが用いられている。しかしながら、これらの従来方法は高度な材料微細構造制御を実現し、より高機能光学材料を得るには種々の欠点を有するのが実情である。
【0004】すなわち、上記の単結晶の切削・研磨加工の場合には、有機化合物の単結晶は脆いものが多く、切削・研磨加工の際に微細なひびが生じやすいという欠点がある。また、2種類以上の有機化合物を複合した材料の「単結晶」を得ることは困難である。次の塗工法の場合には、塗工膜内部に塗工溶剤が残留しやすく、高エネルギー密度のレーザー照射にともなう発熱により、これが気化、発泡して光損傷を起こすという問題がある。
【0005】特に、塗工膜の厚さが数十μm以上の場合、溶剤が残留しやすく、また、除去が容易ではない。そして、真空蒸着法、CVD法、および有機分子線蒸着法については、共通して、気化しにくい有機化合物や、気化と同時に分解する有機化合物に適用できないという欠点がある。特に、高分子化合物や有機イオンの塩は気化させるのが困難である。
【0006】しかもまた、2種類以上の有機化合物を混合した光材料の微細構造を制御した形で光部品への加工を行なうことが極めて困難である。そこでこの発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、熱分解しやすい光学材料や、気化しにくい光学材料であっても、高品質な微細構造制御が可能で、機能性に優れた有機系光学材料を製造することのできる新しい製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題を解決するために、複数種の有機系光学材料をその共通の良溶媒に溶解した溶液を、この良溶媒と相溶性があり、有機系光学材料に共通する貧溶媒と混合して沈殿析出させ、得られた析出物を濾別して減圧乾燥し、次いで粉砕して得られた粉末を真空加熱処理し、さらに真空下に加熱溶融成形することを特徴とする有機系光学材料の成形製造方法を提供する。
【0008】以下、この発明の光学材料の製造方法について、さらに詳細に説明する。すなわち、まず、この発明の有機系光学材料に用いることのできる物質は適当な溶媒に溶解するものであれば、いかなるものも使用可能である。具体的には複数の有機高分子材料の溶液、これにさらに無機微粒子を分散した液、有機低分子化合物および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液、有機化合物の微粒子を有機高分子材料の溶液に分散した液、液晶および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液等を使用することができる。
【0009】具体例を挙げてみると以下の通りとなる。
[有機高分子材料]有機高分子化合物のうち、「光学的性質や機能」を有するものは、この発明の光学材料として利用することができる。また、これら有機高分子化合物は、有機低分子化合物の分子または凝集体、および無機化合物の微粒子を分散し保持する材料、すなわち「マトリクス材料」としても利用することができる。
【0010】このような有機高分子材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネイト)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマンおよびこれらの共重合・共重縮合体、および、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサン、トリメチルクロロシランなどの、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを挙げることができる。
【0011】これら有機高分子化合物は有機色素や光非線形効果を示す有機低分子化合物の残基をモノマー単位の側鎖として、架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として含有してもよい。また、これら有機高分子化合物は数種類を混合して用いても良く、「ミクロ相分離」する組合せを利用することもできる。
[無機微粒子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学材料として使用できる無機微粒子の具体例としては、セレン、テルル、ゲルマニウム、珪素、シリコンカーバイド、Cd−Zn−Mn−Se−Te−S−Ox、Ga−In−Al−As−P等の半導体粒子、Auコロイド等の貴金属超微粒子などが例示される。
[有機低分子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学材料に用いられる有機低分子化合物の具体例としては、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロ−アニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N′−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)−プロリノールなどのピリジン誘導体、2′,4,4′−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などの2次非線形光学活性物質の他、各種の有機色素、有機顔料などを挙げることができる。
【0012】前述のように、これら有機低分子化合物の残基と有機高分子化合物は化学結合を形成していても良い。
[液晶]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学材料に用いられる液晶の具体例としては、種々のコレステロール誘導体、4′−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4′−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4′−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4′−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4′−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4′−アルコキシベンジリデンアニリン類、4′−シアノベンジリデン−4−n−ブチトキシアニリン、4′−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4′−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4′−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニルn−アミルカーボネート、n−ヘプチル4−(4′−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなどの炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸4′−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸4′−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸4′−ヘキシルルオキシフェニルなどの4−アルキルル安息香酸4′−アルコキシフェニルエステル類、4,4′−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4′−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4′−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4′−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4′−アキルルルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸4′,4″−オクチルオキシビフェニル、4′−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸4−ヘキシルオキシフェニル、4′−オクチルビフェニル−4−カルボン酸4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を挙げることができる。
【0013】たとえば以上の有機系光学材料を用いて所要の形状にまで成形製造するには、この発明では、これら材料の複数種のものを共通の良溶媒に溶解し、次いで得られた溶液を、この良溶媒に相溶性があって、かつ、光学材料には共通して貧溶媒である溶媒と混合し、再沈殿させて析出物を得る。このような良溶媒あるいは貧溶媒としては、光学材料の種類に応じて、たとえば以下のものから選択することができる。
【0014】具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、カルビトールなどのエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、α−クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの尿素誘導体類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ピリジン、キノリンなどの含窒素複素環化合物類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノアルコール、アニリンなどのアミン類、などの他、水、ニトロメタン、二硫化炭素、スルホランなどの溶剤を用いることができる。
【0015】これらの溶剤は、また、複数の種類のものを混合して用いてもよい。なお、「良溶媒」、及び「貧溶媒」の区分は相対的なものであり、溶質とする有機系光学材料を特定した場合、その溶質の溶解度(一般に、一定重量、又は容量の溶媒が溶かすことのできる溶質量として定義される)を基準とした順列において、高い溶解度を示す溶媒類が「良溶媒」であり、低い溶解度を示す溶媒類が「貧溶媒」である。
【0016】次いで、この発明の方法においては、得られた析出物を濾別し、たとえば1pa以下の減圧下に乾燥し、外径1mm未満程度の小片となるように粉砕して粉末とする。そして、より好ましくは1×10-4Pa以下の真空下において加熱処理する。減圧乾燥、粉砕には、従来公知の手段が適宜に採用されることは言うまでもない。また、その際の減圧条件や、粒径は、特に臨界的なものではない。
【0017】ただ、粒径については、次の真空熱処理を有効に行うためには外径1mm未満とするのが好適であることが確認されている。もちろん、1mm以上であっても、真空熱処理条件の変更によって対応可能でもある。真空熱処理は、残留する溶媒を完全に除去することを目的としている。粉末中に残留する溶媒および吸着水分等の揮発成分の有無を確認し、揮発成分の除去を完全に行うには、粉末を超高真空下に置いて加熱した時に放出される気体分子をイオン化し、質量分析装置で分析する方法を用いることができる。なお、この方法の詳細は、特願平4−360252号出願の明細書にも記載されている。
【0018】このため、真空熱処理は、イオン化装置、質量分析装置を備えた真空容器内において行うのが好ましい。次いで、真空熱処理された粉末は、真空下に加熱溶融成形する。この成形は、すでに提案されている(特開平4−99609号)ように、たとえば150℃前後の温度において、50kg/cm2 の静水圧を10分間程度加えることにより行われる。この時、一方向のずり応力を加えながら加圧するのが好適でもある。この加圧処理より、光学薄膜等が得られることになる。
【0019】成形製造は、より低温度で行われるので、熱分解の心配はなく、気化しにくい有機イオン塩と高分子化合物との混合系であっても、高品質な光学材料の成形が可能となる。以下、実施例を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。
【0020】
【実施例】有機系光材料、たとえば次式の3,3′−Diethyloxadicarbocyanine Iodide
【0021】
【化1】


【0022】(DODCI)をポリマー中、たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA)中に分散させる場合、DODCI及びPMMAの双方を溶解する適当な溶媒、たとえば1リットルのアセトンにDODCIを10-3モル(486.35mg)、PMMAを10-2モル(1001.2mg)でそれぞれ溶解し、充分に攪拌混合したのちに、攪拌装置、または超音波振動装置により攪拌された10リットルの貧溶媒(たとえば、n−ヘキサン)中に少量づつ滴下し、DODCI・PMMAの共沈物を得る。
【0023】得られた析出物を濾別し、減圧乾燥器により1Pa以下の減圧下で乾燥後、外径1mm未満の小片になるよう粉砕して粉末化し、超高真空装置にて圧力が1×10-4Pa以下になるまで、熱分解温度(150℃)以下の140℃に保持して熱処理する。乾燥されたDODCIを含有するPMMA粉末は、ホットプレス法(特開平4−99609)により150℃の温度で、50kg/cm2 の静水圧により約10分間真空中にて加熱・加圧処理した。光学的に透明な薄膜が得られた。
【0024】この薄膜は、昇温により融解をせずに分解に到るDODCIをPMMA中に分散させたものであって、光学的に透明な薄膜としてこの発明によってはじめて実現されたものである。図1は、この薄膜材料のDODCIの吸収・発光スペクトルである。
【0025】
【発明の効果】この発明により、以上詳しく説明した通り、有機イオンの塩と高分子化合物の混合系のように、気化しにくい有機系光材料を加工製造することができる。また、熱分解しやすい材料の製造も容易となる。また、たとえば塗工法で加工するよりも、高パワーレーザーに耐久性のある膜に加工できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例としての薄膜のDODCIの吸収・発光スペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数種の有機系光学材料をその共通の良溶媒に溶解した溶液を、この良溶媒と相溶性があり、有機系光学材料に共通する貧溶媒と混合して沈殿析出させ、得られた析出物を濾別して減圧乾燥し、次いで粉砕して得られた粉末を真空加熱処理し、さらに真空下に加熱溶融成形することを特徴とする有機系光学材料の成形製造方法。

【図1】
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