説明

有機系多層型エレクトロルミネセンス素子

【課題】有機系EL素子の正孔輸送層として芳香族アミン類以外の有機化合物を提供すること。
【解決手段】有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。


(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機系エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機系エレクトロルミネセンス素子は、光電子素子の一種であって当該素子を流れる電流に応答して発光するものである(略して、エレクトロルミネセンスの一般的頭字語であるELを代用する場合がある)。また、電流−電圧挙動が非線形である、すなわちEL素子を流れる電流がEL素子に印加される電圧の極性に依存する有機系EL素子を記述するために、用語「有機系発光ダイオード」又は「OLED」も一般に用いられている。本具体的態様には、用語「EL」及び「EL素子」にはOLEDとして記述される素子が含まれるものとする。
【0003】
一般に、有機系EL素子は、アノードとカソードの間に有機系発光媒体が挟み込まれた層状構造を有している。通常、有機系発光媒体とは、非晶質又は結晶性の薄膜形態にある発光性有機材料又はその混合物をさす。初期の有機系EL素子の代表例が、Gurneeらの米国特許第3,172,862号(1965年3月9日発行)、Gurneeの米国特許第3,173,050号(1965年3月9日発行)、Dresner の「Double Injection Electroluminescence in Anthracene」(RCA Review, Vol. 30, pp. 322-334, 1969)、及びDresner の米国特許第3,710,167号(1973年1月9日発行)に記載されている。これらの従来技術における有機系発光媒体は、共役系有機ホスト物質と縮合ベンゼン環を有する共役系有機活性化剤とで形成されたものである。有機ホスト物質の例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ベンゾピレン、クリセン、ピセン、カルバゾール、フルオレン、ビフェニル、テルフェニル、クアテルフェニル、トリフェニレンオキシド、ジハロビフェニル、トランス−スチルベン及び1,4−ジフェニルブタジエンが提案されている。活性化剤の例としてはアントラセン、テトラセン及びペンタセンが挙げられている。有機系発光媒体は、1μmよりもはるかに厚い単層として存在するものであった。EL素子を駆動するのに要する電圧は二三百ボルト程度と高かったため、これらのEL素子の発光効率はむしろ低いものであった。
【0004】
譲受人共通の米国特許第4,356,429号において、Tangは、二層型EL素子構造を開示することによって有機系EL素子の技術をさらに進展させた。この二層型構造の有機系発光媒体は、非常に薄い二枚の有機薄膜(厚さの合計は1.0μm未満である)をアノードとカソードの間に挟み込んだ構成を有する。アノードに隣接した層(正孔輸送層と称する)は、EL素子において主として正孔のみを輸送するように具体的に選ばれる。同様に、カソードに隣接した層は、EL素子において主として電子のみを輸送するように具体的に選ばれる。正孔輸送層と電子輸送層の間の界面又は接合部を電子−正孔再結合帯域と称し、ここで電子と正孔が再結合することにより電極からの妨害を極力抑えたエレクトロルミネセンスが得られる。この再結合帯域は、界面領域を越えて正孔輸送層もしくは電子輸送層又はこれらの双方の一部を包含するように拡張することもできる。極薄の有機系発光媒体は電気抵抗が低くなるため、EL素子への印加電圧が一定である場合には電流密度を高くすることができる。EL強度はEL素子を流れる電流密度に直接比例するため、このような薄い二層構造の有機系発光媒体により、初期のEL素子とは対照的に2〜3ボルト程度の低電圧でEL素子を動作させることが可能である。このように、二層型有機系EL素子は、単位電力投入量当たりのEL出力の点で高い発光効率を達成しており、したがってフラットパネルディスプレイや照明のような用途に有用である。
【0005】
譲受人共通のTangの米国特許第4,356,429号に、銅フタロシアニンのようなポルフィリン系化合物を含む厚さ1000Åの正孔輸送層とポリ(スチレン)中にテトラフェニルブタジエンを含む厚さ1000Åの電子輸送層とを有する有機系発光媒体で構成されたEL素子が記載されている。アノードは導電性インジウム錫酸化物(ITO)ガラスで形成され、そしてカソードは銀層としている。このEL素子は、30〜40mA/cmの範囲内の平均電流密度において20ボルトのバイアスをかけた場合に青光を発した。この素子の輝度は5cd/mであった。
【0006】
二層型有機系EL素子のさらなる改良が、譲受人共通の Van Slykeらの米国特許第4,539,507号に教示されている。 Van Slykeらは、正孔輸送層に含まれるTangのポルフィリン系化合物に代えてアミン系化合物を使用することにより、EL発光効率の劇的な向上を実現した。当該EL素子は、正孔輸送層として1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサンのような芳香族第三アミンを用い、また電子輸送層として4,4’−ビス(5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾキサゾリル)−スチルベンを用いることにより、約20ボルトのバイアス時に、単位注入電荷量当たりフォトン約1.2%の量子効率で青緑光を発することができた。
【0007】
以来、有機系EL素子の正孔輸送層のための材料として芳香族アミンを使用することは、EL素子性能の向上について各種アミンの有用性が多くの従来技術に開示されているように一般に認識されている。正孔輸送材料パラメーターの改良には、正孔輸送移動度の増加、構造のさらなる非晶質化、ガラス転移温度の上昇、そして電気化学的安定性の向上が含まれる。これらの改良型アミンによる有機系EL素子の改良点として、発光効率の向上、動作寿命及び保存寿命の延長、そして熱的許容度の増大が挙げられる。例えば、譲受人共通の Van Slykeらの米国特許第5,061,569号に、改良型アリールアミン系正孔輸送材料が記載されている。譲受人共通の Shiらの米国特許第5,554,450号には、高温型EL素子用に設計されたガラス転移温度が165℃程度と高い一連の芳香族アミンが記載されている。 Shirotaらの米国特許第5,374,489号には、安定な非晶質ガラスを形成して優れた正孔輸送材料として機能する新規なπ−共役系スターバースト分子の4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
芳香族アミン類の正孔輸送特性が周知であるとの前提に立てば、有機系EL素子の正孔輸送層に芳香族アミン類以外の有機化合物を使用することは一般的ではない。しかしながら、二層型EL素子の正孔輸送層として芳香族アミン類を使用することには大きな欠点がある。すなわち、一般にアミン類は強い電子供与体であるため、電子輸送層に用いられる発光材料と相互作用して、蛍光消光中心を形成せしめ、ひいてはEL発光効率を低下させることになる場合がある。
本発明の目的は、有機系EL素子の正孔輸送層として芳香族アミン類以外の有機化合物であってEL性能の向上をもたらすものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式Iの有機化合物を含むことを特徴とするものにおいて達成される。
【0010】
【化1】

【0011】
上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
正孔輸送層材料の代表例として以下のa〜cが挙げられる。
a)式IIのアントラセン誘導体
【0012】
【化2】

【0013】
上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
b)式III, IV, Vのアントラセン誘導体
【0014】
【化3】

【0015】
上式中、置換基R、R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
c)式VI, VII, VIII, IX, X, XIのアントラセン誘導体
【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
上式中、置換基R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
【0019】
当該正孔輸送層に用いられる芳香族炭化水素又は縮合芳香族炭化水素は、アルキルアミノ部分又はアリールアミノ部分を含む必要がないという特徴を有する。
本発明による有機化合物のイオン化ポテンシャルは5.0eVよりも高い。
本発明による正孔輸送層は、電子輸送層もしくは発光層又は発光層としても機能する電子輸送層と共に効果的に働き、効率の高いエレクトロルミネセンス素子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】二層型有機系EL素子の横断面図である。
【図2】二層構造を変更したEL素子の横断面図である。
【図3】図1に示した二層構造を有する有機系EL素子のエネルギー準位の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の有機EL素子の構成に採用される基本構造を示すものである。この二層型構造は有機正孔輸送層30と有機電子輸送層40とを含んで成る。当該電子輸送層は、エレクトロルミネセンスが生じる発光層でもある。両者を合わせて有機EL媒体50を形成する。アノード20は正孔輸送層に隣接しており、そしてカソード60は電子輸送層に隣接している。基板は層10である。本図は例示を目的としたものにすぎず、また個々の層の厚さは実際の厚さに応じた一定の割合で拡張したものでもない。
【0022】
図2は、本発明の有機系EL素子の別の構成を示すものである。これは改変型二層構造である。EL媒体は、正孔輸送層と電子輸送層の間に発光層を含む。この発光層がエレクトロルミネセンスが生じる層である。このように、層300が正孔輸送層であり、層400が発光層であり、層500が電子輸送層であり、そしてこれらを合わせて有機EL媒体600を形成する。層200はアノードであり、そして層700はカソードである。基板は層100である。本図は例示を目的としたものにすぎず、また個々の層の厚さは実際の厚さに応じた一定の割合で拡張したものでもない。
【0023】
図3は、図1に示した二層構造を有する有機系EL素子のエネルギー準位の概略図を示すものである。当該有機系EL媒体は、特徴的な低イオン化ポテンシャルエネルギーを有する正孔輸送層と、相対的に高いイオン化ポテンシャルエネルギーを有する電子輸送層とにより表される。分子固体のイオン化ポテンシャルエネルギー又はイオン化ポテンシャル(IP)は、当該固体の最高被占軌道(HOMO)レベルと真空レベルとの間のエネルギー差と定義される。真空レベルは、通常、分子固体のエネルギー準位を測定する基準レベルと称される。HOMOは、電子が充填された最高エネルギー準位であり、その中では正孔が自由に移動する。同様に、最低空軌道(LUMO)は、電子のない最低エネルギー準位であり、その中では自由電子が自由に移動する。HOMOとLUMOの間のエネルギー差がバンドギャップであり、その内部では利用可能な分子軌道状態はない。IP値は、分子固体から電子を1個取り去るのに必要な最小エネルギーの測定値であり、文献等に十分に説明がある光電子分光法で実験的に容易に求めることができる。
【0024】
図1に示した二層構造は、電子−正孔再結合を正孔輸送層と電子輸送層との間の界面に制限するように設計される。この制限は、界面に電子注入障壁もしくは正孔注入障壁又はこれらの両方を確立することによって実現する。正孔注入障壁について説明すると、それは、図3に記号φで示したように、正孔輸送層と電子輸送層のHOMOレベル間の差である。φ値が大きい(>0.5eV)場合、正孔輸送層の内部を界面に向けて移動する正孔は、ポテンシャルエネルギー障壁を越えることができないため、当該界面の正孔輸送層側に捕捉される。同様に、電子注入障壁はLUMOレベル間の差であり、この電子注入障壁が大きいと電子が界面の電子輸送層側に局在化する。正孔輸送材料と電子輸送材料を適切に選択することによりこれらの電荷が局在化する結果、電子−正孔対が界面で再結合して当該界面に特有のエレクトロルミネセンスを生じることとなる。
【0025】
EL素子に常用されている正孔輸送材料はアリールアミン類である場合がほとんどであるが、これはその正孔の移動性が通常の有機材料に認められる最高レベルにあるからである。有機系EL素子のような電流駆動型素子の場合、素子の動作に必要な電圧が下がるので、移動性の高い材料が望まれる。アリールアミン類はまた、有機材料の中では最低レベルのイオン化ポテンシャルを有することも知られている。このため、二層型EL素子において正孔輸送層と電子輸送層との間に正孔注入障壁を生ぜしめる場合にアリールアミン類は適切なものとなる。正孔輸送層として各種アリールアミン類を使用することにより高効率EL素子が製作されている。
有機系EL素子において特に有用であることが知られているアリールアミン類は下式VII で表される。
【0026】
【化6】

【0027】
上式中、Arはアリーレン基、好ましくはフェニレン部分であり、nは1〜4の整数であり、そしてR、R、R及びRは、各々独立に選ばれたアリール基である。
これらのアリールアミン類はEL素子の正孔輸送材料として特に有用である。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
アリールアミン類はEL素子の正孔輸送材料として有用であるが、いくつかの欠点もある。第一に、有機材料の一種として、アリールアミン類は比較的強い電子供与体である、すなわち、酸化されやすく、したがって周囲環境下では不安定であることを意味する。第二に、EL素子の電子輸送層に隣接した正孔輸送層として使用した場合、アリールアミン類は電子輸送層と相互作用して非発光性中心を生ぜしめ、エレクトロルミネセンスの低減をもたらす可能性がある。第三に、アリールアミン類のイオン化ポテンシャルが低いため、アリールアミンの正孔輸送層と電子輸送層との間に形成された正孔注入障壁が正孔をアリールアミン内に局在化せしめ、同様にエレクトロルミネセンスの低減をもたらすことである。このような理由から、新規正孔輸送材料はEL素子性能を一段と改良するのに有用である。
【0031】
本発明における新規正孔輸送材料は、20個以上の炭素原子を含む分子構造を有する芳香族炭化水素又は縮合芳香族炭化水素を含む。
当該正孔輸送層は下式Iの有機化合物を含む。
【0032】
【化9】

【0033】
上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
正孔輸送層材料の代表例として以下のものが挙げられる。
a)式IIのアントラセン誘導体
【0034】
【化10】

【0035】
上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
下記の分子構造は、上記一般式IIで表されたアントラセン誘導体の具体例を構成するものである。これらの化合物はEL素子における正孔輸送材料として特に有用である。
【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
【化14】

【0040】
b)式III, IV, Vのアントラセン誘導体
【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
上式中、置換基R、R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
下記の分子構造は、上記一般式III, IV, Vで表されたアントラセン誘導体の具体例を構成するものである。これらの化合物はEL素子における正孔輸送材料として特に有用である。
【0044】
【化17】

【0045】
【化18】

【0046】
【化19】

【0047】
【化20】

【0048】
【化21】

【0049】
【化22】

【0050】
【化23】

【0051】
【化24】

【0052】
【化25】

【0053】
【化26】

【0054】
【化27】

【0055】
【化28】

【0056】
【化29】

【0057】
【化30】

【0058】
【化31】

【0059】
c)式VI, VII, VIII, IX, X, XIのアントラセン誘導体
【0060】
【化32】

【0061】
【化33】

【0062】
【化34】

【0063】
【化35】

【0064】
上式中、置換基R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。
下記の分子構造は、上記一般式VI, VII, VIII, IX, X, XIで表されたアントラセン誘導体の具体例を構成するものである。これらの化合物はEL素子における正孔輸送材料として特に有用である。
【0065】
【化36】

【0066】
【化37】

【0067】
【化38】

【0068】
【化39】

【0069】
【化40】

【0070】
【化41】

【0071】
これらの芳香族炭化水素系正孔輸送材料の一部のイオン化ポテンシャルを測定し、その値をアリールアミン系正孔輸送材料の場合と比較して以下に示す。一般に芳香族炭化水素系正孔輸送材料はアリールアミン系よりも高いイオン化ポテンシャルを有することに留意されたい。
アリールアミン類又は芳香族炭化水素類 IP(eV)
【0072】
【化42】

【0073】
【化43】

【0074】
【化44】

【0075】
【化45】

【0076】
二層型EL素子において正孔輸送層から電子輸送層へ正孔を注入する場合、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが高い方が、正孔注入障壁が低くなり、その結果EL発光効率が高くなることから、より望ましい。イオン化ポテンシャルの好適な範囲は5.0eV以上である。別の基準は、二層型EL素子の電子輸送材料のイオン化ポテンシャルと同程度の高さとすることである。
【0077】
有機系EL素子の正孔輸送層を形成させる場合、本発明の正孔輸送材料をいくつかの方法によって付着することができる。好ましい方法は真空蒸着法である。これは、芳香族炭化水素は熱安定性が良く、昇華させて薄膜にすることができるからである。別法として、正孔輸送材料を適当な溶剤に溶かして流延することにより薄膜にすることもできる。その他、インクジェット印刷法、感熱転写法、レーザー融蝕法、スパッタリング法、等の付着法も有用である。
【0078】
二層型EL素子は、高い発光効率と低電圧動作を提供する基本構造である。素子性能を改良する別のEL素子構造体が実証されている。これらの別の素子構造体には、基本的二層構造の他に、(a)米国特許第4,356,429号に記載されている正孔注入層、(b)米国特許第5,776,622号に記載されているアルカリ又はハロゲン化アルカリによるカソード改質、(c)譲受人共通のHungらの米国特許出願第09/191,705号に記載されているプラズマ蒸着フルオロカーボンによるアノード改質、及び(d)米国特許第4,769,292号に記載されている正孔輸送層と電子輸送層との間に挟み込まれたドープされた発光層、のような特徴が含まれる。これらのEL素子構造体は、エレクトロルミネセンス媒体の一成分として正孔輸送層を保持する。したがって、本発明が開示する芳香族炭化水素系又は縮合芳香族炭化水素系の正孔輸送材料は、これらのEL素子構造体にも適用可能である。
【0079】
好ましいEL素子構造体は、アノードと、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層とを含んで成る。この好ましいEL構造体における発光層は、電子を輸送することもできるので、これを、高発光機能が付加された電子輸送層とみなすこともできる。その主要機能はエレクトロルミネセンスのための発光中心を提供することである。この発光層は、ホスト材料に一種以上の蛍光色素(FD)をドープしたものを含む。通常、この蛍光色素はホスト材料に対して2〜3モル%以下程度の量で存在するが、EL発光を主に当該蛍光色素によるものとさせるには、それで十分である。この方法を用いて高効率EL素子を構築することができる。同時に、EL素子の発光色を、発光波長の異なる複数種の蛍光色素を使用することにより調節することもできる。蛍光色素の混合物を使用することにより、個々の蛍光色素のスペクトルを組み合わせたELカラー特性を得ることができる。EL素子に関するドーパントのスキームについては譲受人共通のTangの米国特許第4,769,292号に相当に詳しく記載されている。
【0080】
ホスト材料中に存在させる場合に発光の色相を調節することができるドーパントとして蛍光色素を選択する際の重要な関係は、当該分子の最高被占軌道と最低空軌道との間のエネルギー差として定義されるそれぞれのバンドギャップポテンシャルを比較することである。
【0081】
本発明が開示する有機系EL素子の発光層に好適なホスト材料は、オキシン(一般には8−キノリノール又は8−ヒドロキシキノリン又はAlqとも称する)自体のキレートをはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物である。別の種類の好適なホスト材料として、米国特許第5,141,671号に記載されている混合リガンド型8−キノリノラトアルミニウムキレートがある。別の種類の好適なホスト材料として、米国特許第5,366,811号に記載されているジスチリルスチルベン誘導体がある。
【0082】
ホスト材料からドーパント分子への効率的なエネルギー伝達に必要な条件は、当該ドーパントのバンドギャップがホスト材料のそれよりも小さいことである。発光層にドーパントとして用いられる好適な蛍光色素として、クマリン類、スチルベン類、ジスチリルスチルベン類、アントラセン誘導体、テトラセン、ペリレン類、ローダミン類及びアリールアミン類が挙げられる。
EL素子の発光層として好適な蛍光色素の分子構造を以下に示す。
【0083】
【化46】

【0084】
【化47】

【0085】
【化48】

【0086】
【化49】

【0087】
有機系EL素子の電子輸送層を形成するための好ましい材料は、オキシン(一般には8−キノリノール又は8−ヒドロキシキノリンとも称する)自体のキレートをはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物である。代表的な化合物は、Al、Inのような第 III族金属;Mg、Znのような第II族金属;及びLiのような第I族金属の8−ヒドロキノリンである。
【0088】
本発明のEL素子のアノードを形成するための好ましい材料は、上記の譲受人共通のHungらの米国特許出願第09/191,705号に記載されているフルオロカーボンで改質したインジウム錫酸化物系アノードである。
本発明のEL素子のカソードを形成するための好ましい材料は、米国特許第5,429,884号及び譲受人共通のTang、Hungその他の米国特許第5,776,622号に記載されているMg、Li又はこれらの材料の合金である。
【実施例】
【0089】
本発明とその利点を以下の具体例でさらに説明する。
例1:3,5−(ジフェニル)ブロモベンゼンの合成
300mLの乾燥テトラヒドロフラン(THF)に1,3,5−トリブロモベンゼン(60.0g、0.19モル)を溶かした溶液に、窒素下で、0.5gのビス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドを加えた。その溶液を乾燥窒素で5分間パージした後、175mLのフェニルマグネシウムクロリド(THF中2.0モル/L)を窒素下、室温において添加漏斗から添加した。反応混合物を一晩攪拌した。その後、0.5モル/LのHCl(50mL)を攪拌しながらゆっくりと加えることにより反応を停止させた。溶剤をロータリーエバポレーターで除去した。その残留物をヘプタンに溶かし、そして0.1モル/LのHClで洗浄し、次いで水で洗浄した。溶剤を除去した後、粗生成物を3%メタノールジクロロメタン溶液を溶離液として用いたシリカゲル系クロマトグラフィーで精製した。乾燥後、18.0gの高純度3,5−(ジフェニル)ブロモベンゼンが集められた。収率は30.0%であった。
【0090】
例2:9,10−ジ−(3,5−ジフェニル)フェニルアントラセン(化合物14)の合成
100mLの乾燥THFに6.5g(0.02モル)の9,10−ジブロモアントラセンと0.5gのビス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドとを含む懸濁液を還流しながら、開始剤に1,2−ジブロモエタンを用いて150mLの乾燥THF中の15.5g(0.05モル)の3,5−(ジフェニル)ブロモベンゼンと30mLの乾燥THF中の1.5gのマグネシウムとから調製したての3,5−(ジフェニル)フェニルマグネシウムブロミドの溶液を添加した。添加後、反応混合物を還流状態で3時間維持した。次いで、反応混合物を冷却して30mLの水を慎重に添加した。溶剤を減圧ロータリーエバポレーターで除去した後、残留物をジクロロメタンで抽出し、次いで希塩酸及び水で洗浄した。そのジクロロメタン溶液を硫酸ナトリウムで乾燥し、そしてそれをシリカゲルのカラムに通した。溶剤を除去した。ヘキサンから再結晶化させることにより高純度9,10−ジ−(3’,5’−ジフェニル)フェニルアントラセン(化合物14)(9.5g)が得られた。収率は75.0%であった。
【0091】
例3:3,5−ジ−(m−トリル)ブロモベンゼンの合成
150mLの乾燥テトラヒドロフラン(THF)に1,3,5−トリブロモベンゼン(47.3g、0.15モル)を溶かした溶液に、窒素下で、0.5gのビス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドを加えた。その溶液を乾燥窒素で5分間脱気した後、155mLのm−トリルマグネシウムクロリド(THF中2.0モル/L)を窒素下、70℃において添加漏斗から添加した。添加後、反応混合物を還流下さらに2時間攪拌した。冷却後、0.5モル/LのHCl(50mL)を攪拌しながらゆっくりと加えることにより反応を停止させた。次いで、溶剤をロータリーエバポレーターで除去した。その残留物をヘプタンに溶かし、そして0.1モル/LのHClで洗浄し、次いで水で洗浄した。溶剤を除去した後、粗生成物をヘキサンを溶離液として用いたシリカゲル系クロマトグラフィーで精製した。乾燥後、28.0gの3,5−ジ−m−トリルブロモベンゼンが集められた。収率は55.3%であった。
【0092】
例4:9,10−ジ−(3’,5’−m−トリル)フェニルアントラセン(化合物20)の合成
100mLの乾燥THFに6.5g(0.02モル)の9,10−ジブロモアントラセンと0.5gのビス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドとを含む懸濁液を還流しながら、開始剤に1,2−ジブロモエタンを用いて150mLの乾燥THF中の15.5g(0.046モル)の3,5−ジ−(m−トリル)ブロモベンゼンと30mLの乾燥THF中のきれいな乾燥した1.5gのマグネシウムとから調製したての3,5−ジ−(m−トリル)フェニルマグネシウムブロミドの溶液を添加した。添加後、反応混合物を還流状態でさらに3時間維持した。次いで、反応混合物を冷却して30mLの水を慎重に添加した。溶剤を減圧ロータリーエバポレーターで除去した後、残留物をジクロロメタンで抽出し、次いで希塩酸及び水で洗浄した。そのジクロロメタン溶液を硫酸ナトリウムで乾燥し、そしてそれをシリカゲルのカラムに通した。300mLのヘキサンから再結晶化させることにより高純度9,10−ジ−(3’,5’−m−トリル)フェニルアントラセン(化合物20)(11.5g)が得られた。収率は76.8%であった。
【0093】
例5:3,5−(1−ナフチル)ブロモベンゼンの合成
500mLの乾燥テトラヒドロフラン(THF)に1,3,5−トリブロモベンゼン(105.0g、0.22モル)を溶かした溶液に、窒素下で、1.0gのビス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドを加えた。その溶液を乾燥窒素で5分間バブリングした後、開始剤に1,2−ジブロモエタンを用いて100mLの乾燥THF中の150.0g(0.48モル)の1−ブロモナフタレンと250mLの乾燥THF中のきれいな乾燥した18.0gのマグネシウムとから調製した1−ナフチルマグネシウムブロミドを、窒素下、70℃において添加漏斗から添加した。反応混合物を還流下さらに2時間攪拌した。反応混合物を冷却した後、5%HCl(25.0mL)を攪拌しながらゆっくりと加えることにより反応を停止させた。次いで、溶剤をロータリーエバポレーターで除去した。その残留物をジクロロメタンに溶かし、そして0.1モル/LのHClで洗浄し、次いで水で洗浄した。溶剤を除去した後、粗生成物をヘプタンから再結晶化させて精製した。57.0gの高純度3,5−ジ(1−ナフチル)ブロモベンゼンが集められた。収率は63.5%であった。
【0094】
例6:9,10−ジ−〔3,5−(1−ナフチル)フェニル〕アントラセン(化合物21)の合成
150mLの乾燥THFに6.7g(0.02モル)の9,10−ジブロモアントラセンと0.3gのビス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドとを含む懸濁液を加熱還流しながら、開始剤に1,2−ジブロモエタンを用いて150mLの乾燥THF中の18.4g(0.045モル)の3,5−ジ−(1−ナフチル)−ブロモベンゼンと30mLの乾燥THF中のきれいな乾燥した1.5gのマグネシウムとから調製したての3,5−ジ−(1−ナフチル)フェニルマグネシウムブロミドの溶液を添加した。添加後、反応混合物を還流状態でさらに3時間維持した。次いで、反応混合物を冷却して30mLの0.5%HClを慎重に添加した。溶剤を減圧ロータリーエバポレーターで除去した後、残留物を濾過し、そして水、1:1の水/アセトン、その後最少量のジクロロメタンで洗浄した。乾燥後、高純度9,10−ビス−〔3’,5’−(1−ナフチル)フェニル〕アントラセン(化合物21)(12.5g)が得られた。収率は74.0%であった。
【0095】
例7:2−ナフチレンボロン酸の合成
200mLの乾燥THF中の2−ブロモナフタレン(30.0g、0.14モル)に、n−BuLi溶液(ヘキサン中1.6モル/L、100mL、0.16モル)を−78℃において添加漏斗により添加した。その黄色懸濁液を上記温度で30分間攪拌し、そして150mLの乾燥THFにB(OMe)を含む溶液(26.6mL、29.1g、0.28モル)を温度を−60℃未満に維持しながら滴下した。得られた無色溶液を一晩かけて室温にまで温めさせ、次いで300mLの10モル/LのHClを添加して、その混合物を窒素下でさらに1時間攪拌した。水とエーテルを添加して、水層をエーテルで数回抽出した。有機抽出物を一緒にし、これをMgSOで乾燥させ、そして減圧下で蒸発させたところ白色固形分(21.0g、95%)が得られ、これをさらに精製することなくカップリング反応に使用した。
【0096】
例8:9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(化合物26)の合成
600mLのトルエンと100mLのエタノールに9,10−ジブロモアントラセン(34.0g、0.1モル)と2−ナフチレンボロン酸(40.0g、0.232モル)を溶かした溶液に、Pd(PPh(1.0g、0.8ミリモル)と300mLの2.0モル/LのNaCO水溶液を添加した。反応混合物を窒素で10分間パージした。窒素下で一晩中還流させた後、その有機懸濁層を高温のまま分離し、そして300mLの2.0モル/LのHClを添加して激しく攪拌しながら1時間還流させた。再度、水層を高温のまま分離し、次いでpHが約7になるまで水で3回洗浄した。有機層から得られた析出物を濾過し、そして少量の冷アセトンで洗浄した後、トルエンで洗浄した。乾燥後、34.0gの高純度9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(化合物26)が得られた。収率は80.0%であった。
【0097】
例9:9,10−ジ−〔2−(6−メトキシナフチル)〕アントラセン(化合物43)の合成
200mLの乾燥THFに22.0g(0.09モル)の9,10−ジブロモアントラセンと0.75gのビス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)クロリドとを含む懸濁液を還流しながら、開始剤に1,2−ジブロモエタンを用いて400mLの乾燥THF中の50.0g(0.211モル)の6−メトキシ−2−ブロモナフチレンと100mLの乾燥THF中の5.6gのマグネシウムとから調製したての6−メトキシ−2−ブロモナフチルマグネシウムブロミドの溶液を添加した。添加後、反応混合物を還流状態で3時間維持した。次いで、反応混合物を冷却して100mLのTHFと50mLの15%塩酸を慎重に添加した。溶剤を減圧ロータリーエバポレーターで除去した後、残留物を濾過し、そしてpHが7になるまで水で洗浄した。粗生成物を500mLのジクロロメタン中で1時間還流させた。冷却後、生成物を濾過し、そして少量の冷アセトンで洗浄したところ、34.0gの高純度9,10−ジ−〔2−(6−メトキシナフチル)〕アントラセン(化合物43)が得られた。収率は77.1%であった。
【0098】
EL素子の製造及び性能
例10〜16
本発明のEL素子を以下のようにして構築した。当該EL媒体はアノードと、正孔輸送層と、発光及び電子輸送層と、カソードとを有する。基板はガラスとした。
a)アノードは、ガラス基板上に導電性インジウム錫酸化物(ITO)を被覆したものとした。その厚さは約1000Åとした。ITOガラスを市販のガラス板クリーナーで洗浄した。有機層の付着前に、市販のエッチャーにおいてITO基板に酸素プラズマ洗浄を施した。
b)ITO基板の上に、タンタルボートソースを用いた真空蒸着法により正孔輸送層を付着させた。層厚は約600Åとした。
c)正孔輸送層の上に、タンタルボートソースを用いた真空蒸着法により電子輸送及び発光層を付着させた。層厚は約700Åとした。
d)電子輸送及び発光層の上にカソード層を付着させた。層厚は約2000Åとした。カソードの原子組成は約10部のマグネシウム及び1部の銀とした。
【0099】
上記一連の蒸着工程は、個々の層の蒸着工程間で真空を破壊することのない連続工程により完了した。次いで、完成したEL素子を周囲環境から保護するためにドライグローブボックスの中でカバーガラスプレートで封止した。当該EL素子の保存寿命を延ばすため、封止したパッケージには乾燥剤も入れておいた。
【0100】
例10〜16のEL素子の結果を表1に示す。例10は比較例である。この例で用いられる化合物3はアリールアミンである。このEL素子で得られる発光出力及び発光効率は、正孔輸送層として芳香族炭化水素を使用した例11〜16のEL素子と比較して実質的に低くなった。正孔輸送層として芳香族炭化水素を使用することにより、30〜40%のオーダーの効率上昇が実現された。
【0101】
【表1】

【0102】
例17〜22
本発明のEL素子を例10〜16と同様に構築した。当該EL媒体はアノードと、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、カソードとを有する。基板はガラスとした。
a)アノードは、ガラス基板上に導電性インジウム錫酸化物(ITO)を被覆したものとした。その厚さは約1000Åとした。ITOガラスを市販のガラス板クリーナーで洗浄した。有機層の付着前に、市販のエッチャーにおいてITO基板に酸素プラズマ洗浄を施した。
b)ITO基板の上に、タンタルボートソースを用いた真空蒸着法により正孔輸送層を付着させた。層厚は約600Åとした。
c)正孔輸送層の上に、タンタルボートソースを用いた真空蒸着法により発光層を付着させた。層厚は約350Åとした。
d)発光層の上に、タンタルボートソースを用いた真空蒸着法により電子輸送層を付着させた。層厚は約350Åとした。
e)電子輸送層の上にカソード層を付着させた。層厚は約2000Åとした。カソードの原子組成は約10部のマグネシウム及び1部の銀とした。
【0103】
上記一連の蒸着工程は、個々の層の蒸着工程間で真空を破壊することのない連続工程により完了した。次いで、完成したEL素子を周囲環境から保護するためにドライグローブボックスの中でカバーガラスプレートで封止した。当該EL素子の保存寿命を延ばすため、封止したパッケージには乾燥剤も入れておいた。
【0104】
例17〜22のEL素子の結果を表2に示す。例17は、正孔輸送層としてアリールアミン(化合物3)を使用した比較例である。このEL素子で得られる発光出力及び発光効率は、正孔輸送層としてアリールアミンの代わりに化合物26の芳香族炭化水素を使用した例18のEL素子と比較して実質的に低くなった。その他の点では、どちらのEL素子も同一構造を有する。正孔輸送層として芳香族炭化水素を使用することにより、34%の効率上昇が実現された。
例21は、正孔輸送層としてアリールアミン(化合物3)を使用した別の比較例である。このEL素子で得られる赤発光出力及び発光効率は、正孔輸送層としてアリールアミンの代わりに化合物26の芳香族炭化水素を使用した例22のEL素子と比較して実質的に低くなった。その他の点では、どちらのEL素子も同一構造を有する。正孔輸送層として芳香族炭化水素を使用することにより、80%の効率上昇が実現された。
【0105】
【表2】

【0106】
本発明をその特定の好ましい具体的態様を特に参照しながら詳細に説明したが、本発明の精神及び範囲内の変更、バリエーションが可能であることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0107】
10 基板
20 アノード
30 正孔輸送層
40 電子輸送層
50 有機系EL媒体
60 カソード
100 基板
200 アノード
300 正孔輸送層
400 発光層
500 電子輸送層
600 EL媒体
700 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化1】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項2】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化2】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項3】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化3】

(上式中、置換基R、R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項4】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化4】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項5】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化5】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項6】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化6】

(上式中、置換基R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項7】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化7】

(上式中、置換基R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項8】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化8】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項9】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化9】

(上式中、置換基R、R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項10】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化10】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)
【請求項11】
アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化11】

(上式中、置換基R、R、R及びRは、各々独立に、水素、炭素原子数1〜24のアルキル基、炭素原子数5〜20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5〜24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−94878(P2012−94878A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257855(P2011−257855)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【分割の表示】特願平11−348434の分割
【原出願日】平成11年12月8日(1999.12.8)
【出願人】(510059907)グローバル オーエルイーディー テクノロジー リミティド ライアビリティ カンパニー (45)
【Fターム(参考)】