説明

有機系脱酸素剤の製造装置及び有機系脱酸素剤の製造方法

【課題】簡易な構成で、有機系脱酸素剤の製造効率を通年維持することのできる有機系脱酸素材の製造装置及び有機系脱酸素材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、有機系脱酸素材が供給される計量回転盤と、当該計量回転盤の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マスと、当該計量マスの下部開口を開閉自在に塞ぐシャッターとを備え、当該シャッターを開いて、当該計量マスの下方に配置された包装材に、計量された有機系脱酸素材を充填して、有機系脱酸素剤を製造する有機系脱酸素剤の製造装置において、当該計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が3.25vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給する窒素供給手段を備える構成を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、酸素を吸収することにより雰囲気中から酸素を除去する有機系脱酸素剤に関し、詳しくは、製造効率を通年維持することのできる有機系脱酸素剤の製造装置及び有機系脱酸素剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流通過程において、食品等の酸化等を防止するため、食品等を脱酸素剤と共に包装容器(包装袋含む)内に封入することが行われている。脱酸素剤を用いることにより、包装容器内の酸素を吸収して、食品等を無酸素雰囲気中で保存することが可能になる。このため、食品等の酸化等による品質低下を防止して、長期に渡って良好な状態で食品等を流通することができる。脱酸素剤として、鉄粉を主剤とする鉄系脱酸素剤と、有機系の易酸化物質を主剤とする有機系脱酸素材とが知られている。従来、安価であり、且つ、安定した酸素吸収能を有することから、鉄系脱酸素剤が広く使用されてきた。
【0003】
しかしながら、近年では、食品等の流通過程において金属探知器による金属製異物混入検査が行われたり、電子レンジで包装容器ごと加熱される食品が流通していること等を背景にして、金属探知器に検知されず、電子レンジでの加熱も可能な有機系脱酸素剤の需要が伸びている。そこで、本出願人は、例えば、特許文献1、2に示す有機系脱酸素剤を提案してきた。
【0004】
ところで、脱酸素剤の製造工程では、原料となる脱酸素材を包装材に充填する作業が行われる。この充填作業では、例えば、特許文献3に記載されるような自動充填装置が用いられる。特許文献3に記載の自動充填装置は、回転自在に設けられる計量回転盤と、この計量回転盤に脱酸素材を供給するホッパーと、計量回転盤に埋設される複数の計量マスとを備えている。ホッパーは計量回転盤の盤面の略中央に脱酸素材を供給する。一方、計量マスは計量回転盤の盤面の外周付近に同心円状に埋設されている。計量回転盤の回転動作に伴う遠心力により、ホッパーから供給された脱酸素材は盤面の略中央から外周側に移動する。その過程で、計量マスに脱酸素材が投入される。計量が終了した計量マスから順に、計量マスの下部に設けられたシャッターが開き、計量マスの下方に配置された包装材に所定量の脱酸素材が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−74962号公報
【特許文献2】特開2007−268326号公報
【特許文献3】特開2007−168831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機系脱酸素材の場合、雰囲気湿度が増加すると、計量マスの内壁面に当該有機系脱酸素材が付着して、正しく計量することができず、充填量にバラツキが生じるという問題があった。このため、計量マスに対して有機系脱酸素材が付着すると、有機系脱酸素材の充填作業を一旦停止して、計量マスの清掃作業等を行う必要があり、有機系脱酸素剤の製造効率低下の原因となっていた。
【0007】
ここで、計量マスに有機系脱酸素材が付着するのは、有機系脱酸素材の水分量が増加することが原因であると考えられる。例えば、本出願人は、水酸基が酸化反応に寄与する水酸基反応型の易酸化性有機物質を主剤とする有機系脱酸素剤を提案してきた。水酸基は親水基であるため、水酸基酸化型の易酸化性有機物質を主剤とする有機系脱酸素材は、鉄系脱酸素材に比して吸湿性に富む。また、水酸基酸化型の易酸化性有機物質は、雰囲気中の酸素と反応して水を生じる。このため、雰囲気湿度が増加すると、有機系脱酸素材の吸湿、或いは、酸化反応の進行により、有機系脱酸素材の水分量が増加する。その結果、当該有機系脱酸素材の流動性が低下し、上記計量マスに対して付着するようになると考えられる。
【0008】
そこで、季節の移り変わりに伴う外部雰囲気の湿度変化の影響を受けないようにするため、計量回転盤の周囲を密閉系に構成して計量回転盤内の雰囲気湿度を一定以下に保つことが考えられる。しかしながら、計量回転盤には原料を供給する必要があり、また、下部開口を有する計量マスが設けられているため、計量回転盤内は外部雰囲気と連通している。計量回転盤の回転を阻害しないようにした上で、これらの外部雰囲気と連通する箇所を含めて計量回転盤の周囲を完全な密閉構造とするのは困難である。また、計量マスに対する有機系脱酸素材の付着の有無によらず、計量回転盤や計量マスは定期的な清掃を要するため、計量回転盤の周囲を完全な密閉構造とした場合、メンテナンス性が低下することが考えられる。
【0009】
以上より、本件発明の目的は、簡易な構成で、有機系脱酸素剤の製造効率を通年維持することのできる有機系脱酸素材の製造装置及び有機系脱酸素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、上記目的を達成するため、鋭意研究を行った結果、以下の有機系脱酸素剤の製造装置及び有機系脱酸素材の製造方法に想到した。
【0011】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置は、有機系脱酸素材が供給される計量回転盤と、当該計量回転盤の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マスと、当該計量マスの下部開口を開閉自在に塞ぐシャッターとを備え、当該シャッターを開いて、当該計量マスの下方に配置された包装材に、計量された有機系脱酸素材を充填して、有機系脱酸素剤を製造する有機系脱酸素剤の製造装置において、当該計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が3.25vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給する窒素供給手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置において、前記窒素供給手段は前記計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が1.5vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給することが好ましい。
【0013】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置において、前記窒素供給手段の窒素供給量は、下記式(1)で表される充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、1.0L/min〜2.4L/minとすることが好ましい。
S=S−S・・・(1)
但し、上記式(1)において、Sは、前記計量回転盤における全空間体積(L)を表し、Sは前記計量回転盤内において有機系脱酸素材が占める体積(L)を表している。
【0014】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置において、前記有機系脱酸素材は、水酸基を有する易酸化性有機物質を主剤とするものであることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置において、前記有機系脱酸素材は、主剤として前記易酸化性有機物質を100重量部含むとき、副剤として水を10重量部〜200重量部含むものであることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法は、自動充填装置を用いて所定量の有機系脱酸素材を包装材に充填して、有機系脱酸素剤を製造するための有機系脱酸素剤の製造方法であって、当該自動充填装置は、有機系脱酸素材が供給される計量回転盤と、当該計量回転盤の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マスと、当該計量マスの下部開口を開閉自在に塞ぐシャッターとを備え、当該計量回転盤内の酸素濃度が3.25vol%以下になるように、当該計量回転盤内に窒素を供給しながら、当該シャッターを開いて、計量マスの下方に配置された包装材に、計量された有機系脱酸素材を充填して、有機系脱酸素剤を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本件発明によれば、窒素供給手段により、計量回転盤内の酸素濃度を3.25vol%以下になるように、当該計量回転盤内に窒素を供給しながら、計量マスにより有機系脱酸素材を計量することにより、計量回転盤内の湿度を低下させ、且つ、有機系脱酸素材の酸化反応を防止することができる。これにより、有機系脱酸素材の水分量が増大するのを防ぎ、有機系脱酸素材の流動性を維持して、有機系脱酸素材が計量マスの内壁面に付着するのを防止することができる。また、上記構成によれば、計量回転盤の周囲を密閉構造とするのではなく、窒素を供給して計量回転盤内の酸素濃度を低下させる構成としているので、従来の装置構成を大きく変更することなく、簡易な構成で、有機系脱酸素剤の製造効率を通年維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置としての自動充填装置の構成を模式的に示す側面図である。但し、計量回転盤、カバー部材及び目張り部材はその断面を示している。
【図2】計量回転盤及び計量マスを示す斜視図である。
【図3】実施例1〜実施例3と比較例とにおいて製造した有機系脱酸素剤の充填量のバラツキを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置及び有機系脱酸素剤の製造方法の実施の形態について説明する。本件発明に係る有機系脱酸素剤は、内容物である有機系脱酸素材を包装材により包装したものである。本実施の形態では、有機系脱酸素剤の製造装置として、図1に示す自動充填装置100を例に挙げて説明する。図1に示す自動充填装置100は、所定量の有機系脱酸素材を計量して、包装材に連続的に包装するために用いられる。自動充填装置100では、計量マス10(図2参照)が埋設された計量回転盤20を用いて、計量回転盤20の回転動作に、有機系脱酸素材の計量を行う。包装材に有機系脱酸素材を充填する際には、計量マス10の下部開口を塞ぐシャッターを開いて、計量マス10の下方に配置された包装材に落下させる方法を採用している。本件発明に係る有機系脱酸素材は、この充填の際の実用的な流動性を保つように調製されたものである。
【0020】
しかしながら、外部雰囲気の湿度が増加するにつれて、吸湿等の理由により有機系脱酸素材の流動性が低下する。具体的には、外部雰囲気の相対湿度が概ね65%を超えると、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材が付着するようになり、充填量にバラツキが生じるようになる。本件発明では、有機系脱酸素材を包装材に充填する際に、窒素供給手段を用いて、有機系脱酸素材の充填雰囲気を酸素濃度が3.25vol%以下になるように窒素を供給することで、外部雰囲気の変化によらず、有機系脱酸素材の流動性を維持して、有機系脱酸素剤の製造効率を通年維持することができるようにしたものである。以下、本実施の形態では、本件発明に係る有機系脱酸素剤について説明した上で、図1に示す自動充填装置100の構成を説明し、そして、窒素供給手段について説明する。
【0021】
1.有機系脱酸素剤
1−1 有機系脱酸素材
まず、本件発明に係る有機系脱酸素材について説明する。本件発明に係る有機系脱酸素材は、易酸化性有機物質からなる主剤の他、主剤が雰囲気中の酸素と酸化反応を行う際に要する副成分を適宜含む。
【0022】
〈主剤〉
易酸化性有機物質: 本件発明において、易酸化性有機物質とは、雰囲気中の酸素と容易に酸化反応を行う有機物質を指し、本件発明に係る有機系脱酸素材の主成分である。易酸化性有機物質として、例えば、雰囲気中の酸素との酸化反応に関与する水酸基を有する水酸基酸化型の易酸化性有機物質の他、不飽和油脂、不飽和脂肪酸、不飽和重合物等の二重結合が雰囲気中の酸素と酸化反応に関与する二重結合酸化型の易酸化性有機物質を挙げることができる。本件発明においては、水酸基酸化型の易酸化性有機物質、二重結合酸化型の易酸化性有機物質のいずれを用いてもよいが、以下では、水酸基酸化型の易酸化性有機物質を例に挙げて説明する。
【0023】
水酸基酸化型の易酸化性有機物質として、具体的には、タンニン又はタンニン酸等のフェノール性水酸基を1個以上含有するベンゼン環が化学構造式中に2個以上含む複合化合物(以下、ポリフェノール化合物と称する)、アスコルビン酸、グリセリン又はグリコール等の多価アルコール化合物、カテコール、ヒドロキノン、没食子酸等の単環の多価フェノール化合物等を挙げることができる。これらの中でも特にポリフェノール化合物を好ましく用いることができる。
【0024】
ポリフェノール化合物は、植物の果実、葉や花、樹皮等の成分として含まれるものである。ポリフェノール化合物として、具体的には、タンニン又はタンニン酸、カテキン、ケルセチン、フラボン、フラバノン、フラボノール、イソフラボン、アントシアニン等を主成分とするものが挙げられる。本件発明に用いられるポリフェノール化合物は、化学的合成により製造されたもの、植物から抽出されたもの、のいずれを用いてもよい。また、植物から抽出されるポリフェノール化合物として、不純物を含む粗製ポリフェノール化合物、不純物が除去された精製ポリフェノール化合物のいずれを用いてもよい。植物から抽出されるポリフェノール化合物として、例えば、ケブラチョやワットル(ミモザ)等から抽出される縮合型タンニン、チェストナット(栗属の渋)から抽出される加水分解型タンニン、茶カテキン(テアフラビンとエピガロカテキンガレート等の混合物やエピガロカテキンガレート単味抽出物)、葡萄種ポリフェノール(アントシアニン)、リンゴポリフェノール(カテキンやケルセチン等)等を挙げることができる。このようなポリフェノール化合物を用いることによって、安価で安全性が高く、所望の脱酸素性能を有する有機系脱酸素材を得ることができる。
【0025】
これらのポリフェノール化合物の中でも、タンニン、タンニン酸、カテキン、ケルセチン、フラボン、フラバノン、フラボノール、イソフラボン、アントシアニンから選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。これらの中でも、入手が容易であり、安価であり、さらに、主剤として十分な酸素吸収能を発揮する点から、タンニン又はタンニン酸、特に、縮合型タンニン又はタンニン酸を主成分とするものを主剤として用いることが好ましい。縮合型タンニンは、pH変化等の雰囲気環境の変化に対して,主骨格の化学構造が変化しづらく、同時に脱酸素反応に関与する官能基が保持されるため、環境の変化によらず脱酸素能力を維持する点で好ましく使用される。
【0026】
〈副剤〉
本件発明に係る有機系脱酸素材は、上述の主剤と共に、副剤として水と、アルカリ剤と、その他任意に添加される副成分とを含有する。水は、主剤及びアルカリ剤と作用し、或いは主剤及びアルカリ剤を溶解し、主剤の酸化反応の場を提供するために添加される。アルカリ剤は、水と作用又は溶解してアルカリ性を示す物質であり、主剤である易酸化性有機物質が雰囲気中の酸素との酸化反応を進める際に必須の物質となる。以下、それぞれについて説明する。
【0027】
水: 本件発明に係る有機系脱酸素材において、主剤を100重量部としたとき、水を10重量部〜200重量部含むことが好ましい。主剤を100重量部としたとき、水を200重量部以下とすることにより、混合物を包装材に充填する際の実用的な流動性を保つことができる。一方、主剤を100重量部としたときの水の含有量が10重量部未満の場合、主剤やアルカリ剤等の有機系脱酸素材を構成する各組成物が混ざり難く、脱酸素能が低下する。また、適切な脱酸素能を発揮するには、適度な水分量が必要となる。本件発明に係る有機系脱酸素材は、通気性を有する包装材に包装して使用するため、当該有機系脱酸素材に含まれる水分が不足である場合には、保存品に含まれる水分を吸収して酸化反応を行うことも可能である。しかしながら、この点を考慮した場合でも、主剤100重量部に対して水分の含有量が10重量部未満となると、脱酸素反応に要する水分量が不足し、保存品から水分を吸収することが困難である場合、所望の脱酸素能力を発揮することが困難になる。但し、当該有機系脱酸素材が水分量の低い保存品と共に用いられる場合、主剤を100重量部とした場合、水を100重量部以上含むことが好ましい。主剤100重量部に対して、水を100重量部以上含むことにより、保存品から水分を吸収できない場合でも適切な脱酸素能力を発揮させることができるからである。
【0028】
アルカリ剤: 本件発明では、アルカリ剤として、水酸化カルシウムを用いる。水酸化カルシウムは、従来の有機系脱酸素材において使用されてきた他のアルカリ剤と比較して、主剤である易酸化性有機物質に対して加水分解等の反応を引き起こすことも少ない。また、水酸化カルシウムは、水との相互作用により易酸化性有機物質の酸化反応に好適なpHに安定化することもできると考えられる。このため、水酸化カルシウムをアルカリ剤として用いることにより、主剤の脱酸素に関わる官能基(水酸基)を安定に保持することができ、且つ、雰囲気中の酸素濃度が増加した場合は、主剤と雰囲気中の酸素との酸化反応を速やかに進めることができる。但し、易酸化性有機物質の酸化反応に好適なpH領域は、概ねpH9〜pH12の範囲である。
【0029】
ここで、水酸化カルシウムの平均粒径D50は、0.5μm〜200μmであることが好ましく、より好ましくは1μm〜80μmであり、最も好ましくは2μm〜60μmである。このような粉体特性を有する水酸化カルシウムを用いることにより、優れた脱酸素能力、脱酸素速度を実現することができる。これと同時に、本件発明に係る有機系脱酸素材の製造時において、混練により、他の組成物と馴染みやすくすることができる。すなわち、水酸化カルシウムの平均粒径D50が0.5μm未満のものは、当該有機系脱酸素材原料(主剤、副剤)を混練する際に、ブロッキングが生じて粉体流動性が低下する。その結果、当該有機系脱酸素材原料の混練状態にムラが生じたり、混合容器に水酸化カルシウムが付着するなどの不具合が生じる。また、水酸化カルシウムの平均粒径がD50が0.5μm未満の場合、水酸化カルシウムの粉塵が舞い上がり易く、当該有機系脱酸素材を包装材へ封入する際にシール部に粉体が噛み込んでシールが不完全となる場合がある。このため、製品としての有機系脱酸素剤包装体の外観を損ねたり、シール部から粉漏れが生じる等の不良品が発生する場合がある。一方、水酸化カルシウムの平均粒径D50が200μmを超える場合、水酸化カルシウムの比表面積が小さくなり、脱酸素材の酸化反応における反応速度が低下するので好ましくない。
【0030】
ここで、本件発明においては、アルカリ剤として、上述の水酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムを併用することが好ましい。アルカリ剤として水酸化カルシウムの微粉を用いた場合、水酸化カルシウムの比表面積が大きくなり、主剤の脱酸素反応(酸化反応)の反応速度が向上すると考えられる。しかしながら、上述の通り、水酸化カルシウムの平均粒径D50が小さくなればなるほど、粉体が舞い上がり易く、他の組成物との混練性や流動性において問題が生じやすくなる。そこで、本件発明に係る有機系脱酸素材において、アルカリ剤として、水酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムを併用することが好ましい。炭酸カルシウムは、水に難溶性の弱いアルカリ剤であり、比重が大きく、水酸化カルシウムと共にアルカリ剤として用いると、水酸化カルシウムの粉立ちを抑える効果が得られる。また、炭酸カルシウムは主剤を担持すると共に、反応の場を提供する担持体としての機能も発揮すると考えられる。従って、本件発明において、アルカリ剤として水酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムを併用することにより、脱酸素反応の促進に好適な微粒の水酸化カルシウムを用いても、混練時等の粉立ちを抑え、且つ、炭酸カルシウムが主剤を担持すると共にアルカリ剤としての役割を果たす。その結果、従来、二酸化ケイ素等の担持体を別途用いる必要がなくなり、有機系脱酸素材全体におけるアルカリ剤の量を増量することができるので、二酸化ケイ素等の担持体を用いる場合と比較すると、脱酸素能力を向上することができる。
【0031】
アルカリ剤として、炭酸カルシウムを併用する場合、水酸化カルシウム100重量部に対して、炭酸カルシウムを5重量部〜50重量部用いることが好ましい。炭酸カルシウムの含有量が5重量部未満の場合、有機系脱酸素材の原料成分を混合する際に、粉立ちが生じると共に、流動性が低下するため、包装材内に充填封入して用いる脱酸素材に適さない。一方、炭酸カルシウムは弱いアルカリ剤であり、炭酸カルシウムのみを脱酸素材のアルカリ剤として用いると、脱酸素材の脱酸素能力が不十分となる。このため、炭酸カルシウムの含有量が、水酸化カルシウム100重量部に対して50重量部を超えると、アルカリ剤における炭酸カルシウムの含有比率が高くなり、脱酸素材の単位重量当たりの脱酸素量が減少するため、好ましくない。
【0032】
但し、水酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムを併用しない場合は、担持体として、二酸化ケイ素、アルミニウムシリケート、アルミナ、活性アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪藻土、パーライト、ゼオライト、活性白土等を使用することができる。
【0033】
その他の副成分: その他、本件発明に係る有機系脱酸素材の副成分として、主剤の酸化反応速度を高めるための触媒を含む構成としてもよい。触媒として、無機系触媒及び有機系触媒のいずれも使用することができる。無機系触媒として、例えば、鉄、ニッケル、銅、マンガン等の遷移金属の塩酸塩、硝酸塩又は硫酸塩等の遷移金属塩、塩化ナトリウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。また、有機系触媒として、例えば、ナフトヒドロキノン、フロログリシン、t−ブチルカテコール、t−ブチルヒドロキノン、5−メチルレゾルシン等の有機系触媒を使用することができる。また、本件発明に係る有機系脱酸素材は、副成分として、更に、活性炭を含む構成としてもよい。組成物として活性炭を添加することにより、主剤の酸化反応後に生じる低分子量物質を捕捉し、当該低分子量物質の揮散を防止することができる。
【0034】
有機系脱酸素材の粒径: 本件発明に係る有機系脱酸素材の平均粒径D50は、アルカリ剤として用いる水酸化カルシウムの平均粒径D50に依存する。アルカリ剤として用いた水酸化カルシウムの平均粒径D50が小さいほど、製造される有機系脱酸素材の平均粒径D50も小さくなる。上述した範囲の平均粒径D50の水酸化カルシウムを用いて、主剤と、他の副剤とを混練することにより、最終的に製造された有機系脱酸素材の粒径は、500μm以下であり、好ましくは400μm以下であり、最も好ましくは300μm以下である。但し、当該粒径の測定には、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(JSM−6060A)を用いて測定した値とする。本件発明に係る有機系脱酸素材は、このように微粒子であり、また副剤としての水分含有率も高い。しかしながら、後述する自動充填装置100を用いて、本件発明に係る方法により有機系脱酸素剤を製造することにより、造粒工程とを経ずとも、微粒子の状態で包装材に連続的に充填することが可能である。
【0035】
1−2 包装材
以上説明した有機系脱酸素材は、通気性を有する包装材により包装されて使用される。有機系脱酸素剤は、雰囲気中の酸素と反応して、雰囲気中の酸素を吸収するものであるため、通気性を有する包装材により包装しなければ、脱酸素能を発揮し得ないからである。
【0036】
包装材としては、当該有機系脱酸素剤の使用態様を考慮すると、耐湿性及び撥油性を備える素材から成ることが好ましい。有機系脱酸素剤は、水分や油分を含有する食品等の保存品と共に包装容器内に封入されるため、食品等から浸出した水分や油分が包装材を介して有機系脱酸素材に触れると、有機系脱酸素材の酸素吸収能が低下する恐れがあるためである。さらに、有機系脱酸素剤の製造工程を考慮すると、包装材は、後述するように、ヒートシールされて袋体が形成されるため、ヒートシール性を有するものであることが好ましい。
【0037】
複合フィルム: 本件発明に係る包装材としては、上述の性質を備えるものであれば、いかなるものを用いてもよいが、本件発明では、外層材及び内層材をラミネート加工により積層した複合フィルム、又は、外層材及び内層材を積層し、さらに外層材側に最外層フィルムを積層した複合フィルムを好適に用いることができる。このような複合フィルムを用いることにより、外層材及び内層材に用いる素材を適宜選択視、必要に応じて最外層フィルムを外層材の外側に更に積層することにより、上述の包装材に求められる特性、すなわち、通気性、耐湿性及び撥油性、ヒートシール性を満足することができる。例えば、最外層フィルムとしては、熱可塑性を有する樹脂製フィルムに微細貫通孔を複数設けた有孔樹脂製フィルムを用いることができる。具体的には、有孔ポリエステルフィルム、有孔ポリエチレンフィルム、有孔ポリプロピレンフィルム等を用いることができる。また、外層材としては、紙、織布、不織布等であって、内層材と、或いは内層材及び最外層フィルムとのラミネート加工により接着可能であり、且つ、接着後においても通気性を有する材質から構成されることが好ましい。具体的には、紙として、クラフト紙、撥油紙、撥水紙等を用いることができ、織布及び不織布として、ポリエステル、ポリアミド等からなる織布及び不織布を挙げることができる。さらに、内層材としては、ヒートシールにより内層材同士が熱融着可能な素材を用いることが好ましく、具体的には低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のポリエチレンから成るものを好ましく用いることができる。
【0038】
2.自動充填装置100(有機系脱酸素剤の製造装置)
次に、本実施の形態の自動充填装置100について説明する。本実施の形態の自動充填装置100は、図1に示すように、原料としての有機系脱酸素材を貯留するホッパー30と、ホッパー30から有機系脱酸素材が供給される計量回転盤20と、当該計量回転盤20の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マス10(図2参照)とを備えている。但し、図1において、計量回転盤20はその断面を示している。
【0039】
また、自動充填装置100は、当該計量マス10の下部開口を開閉自在に塞ぐシャッター(図示略)を備え、計量マス10が予め位置決めされた原料充填位置まで回転した際にこのシャッターを開閉するシャッタ開閉機構が設けられている。また、計量回転盤20の下方には、この原料充填位置において、計量孔11から落下する有機系脱酸素材を包装材に導く充填シュート40が設けられる。また、包装材としては、長尺なシート状に形成されたヒートシール性を有するものを用いている。さらに、自動充填装置100には、この長尺なシート状に形成された包装材を長手方向に沿って折り目を下にして二つに折り曲げ、所定間隔で折り目に直交するようにヒートシール部を作成し、封入口としての上部開口を有する連続した袋体を形成し、この状態で包装材を充填シュート40の下方に連続的に供給する製袋搬送部(図示略)を有している。以下、各構成要素毎に説明する。
【0040】
ホッパー30: ホッパー30は、原料としての有機系脱酸素材を収容する収納容器である。ホッパー30は上部に原料投入口31を有し、下部に原料排出口32を有している。原料排出口32は計量回転盤20の盤面21に近接して配置される。ホッパー30に収容された有機系脱酸素材は自重により落下して原料排出口32を介して計量回転盤20の盤面21の略中央に供給される。但し、ホッパー30は、計量回転盤20の略中央に原料排出口32が位置するようにホッパー支持部材60により支持されている。
【0041】
計量回転盤20: 計量回転盤20は、図2に示すように、ホッパー30から排出される原料を受ける上面視略円盤状のものであり、水平回転可能に軸支される。計量回転盤20の盤面21には、厚さ方向に貫通する貫通孔22が計量回転盤20の外周側に同心円状に複数設けられ、その貫通孔22の各々には計量マス10が取り外し自在に埋設されている。また、計量回転盤20の盤面21の外周端には外周壁23が立設して設けられており、遠心力により有機系脱酸素材が計量回転盤20の外側に飛散しないようにされている。
【0042】
カバー部材50: また、図1に示すように、計量回転盤20の周囲はカバー部材50により覆われている。なお、当該カバー部材50についても図1では断面を示している。カバー部材50は、計量回転盤20の上部を覆う上面部51と、計量回転盤20の外周壁23の外周面を覆う外周部52とを有している。上面部51の略中央には略円形の開口が形成され、上述したホッパー30の下部が挿入される。カバー部材50は、上記ホッパー支持部材60に支持されている。このとき、計量回転盤20の回転動作を阻害しないように、カバー部材50の上面部51と計量回転盤20の外周壁23の上端との間には隙間が設けられる。また、カバー部材50の外周部52と計量回転盤20の外周壁23との間にも隙間が設けられる。このように、カバー部材50と、計量回転盤20とが離間した状態で、カバー部材50はホッパー支持部材60に固定される。このカバー部材50により計量回転盤20の周囲(上部及び外周)を覆うことにより、計量回転盤20内の有機系脱酸素材が計量回転盤20の外周壁23を越えて外部に飛散するのを防止することができる。
【0043】
また、当該カバー部材50は、計量回転盤20や計量マス10の清掃等を行う際のメンテナンス性を考慮して、2つ乃至は3つに分割可能に構成されている。つまり、上面部51の一部と外周部52の一部とを有する分割部材を2つ乃至は3つ組み合わせることにより、上記形状のカバー部材50が構成される。そして、カバー部材50により計量回転盤20とホッパー30の原料排出口32側の外周とを被覆するようにして、ホッパー支持部材60に固定した後、ホッパー30の外周と、カバー部材50の上面部51の略中央に形成された開口との間は、目張り部材70を用いて目張りされる。このように、カバー部材50の上面部51の略中央に形成された開口を介して、計量回転盤20の盤面21側に挿入されるホッパー30の原料排出口32側の外周とを目張りすることにより、当該目張り箇所から有機系脱酸素材がカバー部材50の外側に飛散するのを防止することができる。
【0044】
目張り部材70としては、例えば、シーラント、コーキング等を用いて、ホッパー30の外周と、カバー部材50との間の間隙を充填する構成とすることができる。しかしながら、メンテナンスの際にカバー部材50を取り外すことを考慮すると、目張り部材70として、市販の目張りテープや、クラフトテープ、ガムテープ等の粘着テープを好適に用いることができる。これらの粘着テープを用いることにより、カバー部材50を取り付けた後で、簡易に当該箇所の目張りを行うことができ、カバー部材50を取り外す際には目張り部材70を簡易に取り外すことができる。
【0045】
また、カバー部材50の上面部51の裏面側、すなわち計量回転盤20の内側に面する側には、温度センサ、湿度センサ及び酸素濃度センサ(いずれも図示略)が取り付けられており、これらのセンサを用いて、計量回転盤20内の温度、湿度及び酸素濃度を随時測定できるようになっている。
【0046】
計量マス10: 計量マス10は、図2に示すように、計量回転盤20の盤面21と同じ厚みを有し、盤面21の厚さ方向に貫通する計量孔11を有している。すなわち、計量マス10はリング状に形成されている。計量マス10の外径は計量回転盤20に形成された貫通孔22の孔径と略等しく、各貫通孔22に取り外し自在に埋設される。計量孔11の孔径と計量マス10の厚みにより、当該計量マス10で計量可能な容量が定まる。計量孔11の孔径が異なる計量マス10が複数用意されており、有機系脱酸素材の充填量に応じて適宜適切な孔径を有する計量マス10に交換することができる。但し、有機系脱酸素剤を製造する際には、通常は、同じ充填量の製品を連続して製造するため、計量回転盤20の各貫通孔22には、計量孔11の孔径が同じものがそれぞれ埋設される。
【0047】
シャッター: シャッターは計量マス10に形成された計量孔11の下部開口を開閉自在に塞ぐものである。シャッターは、各貫通孔22毎に計量回転盤20の盤面21の裏側に設けられており、当該貫通孔22に埋設された計量マス10の下蓋として機能している。そして、計量回転盤20の回転に伴い、計量マス10が予め定められた所定の原料充填位置に移動すると、当該シャッターが開いて、計量マス10内の有機系脱酸素材が自重により落下して、包装材に充填シュート40を介して充填される。この原料充填位置には、計量マス10がこの原料充填位置を通過する間だけ当該シャッターを開くシャッター開閉機構(図示略)が設けられている。
【0048】
充填シュート40: 充填シュート40は、図1に示すように、ロート状に形成されており、上記原料充填位置に設けられている。充填シュート40の下部には上述した製袋搬送部により搬送された袋体の封入口が配置される。計量マス10から落下した有機系脱酸素材は、この充填シュート40を介して袋体に充填される。
【0049】
マス切り板: また、上記の計量回転盤20の盤面21上には、その下方を計量マス10が通過する際に、計量マス10のマス切りを行うマス切り板(図示略)が設けられている。本実施の形態では、計量マス10が計量回転盤20の盤面21に埋設されているため、マス切り板の板端面は盤面21に当接或いは近接するようにして配置されている。当該盤面21の略中央に供給された有機系脱酸素材は、計量回転盤20の回転に伴い遠心力により盤面21に埋設された計量マス10に投入される。そして、このマス切り板の下方を通過することにより、計量マス10はマス切りされて、所定量の有機系脱酸素材が投入された計量マス10が原料充填位置の側に移動する。マス切り板は、計量マス10のマス切りを行うと共に、このマス切り板を通過した計量マス10の側に有機系脱酸素材が移動しないように盤面21を計量側と、充填側とに仕切る仕切り板としても機能している。
【0050】
製袋搬送部: 上述した製袋搬送部は、長尺なシート状の包装材を長手方向に沿って、折り目を横にするようにして2つに折りたたみ、折り目に直交するように一定間隔でヒートシールして連続した袋体を形成し、封入口としての上部開口が、充填シートの下方に位置するように包装材を連続的に搬送するものである。なお、袋体に所定量の有機系脱酸素材が充填された後、袋体の上部開口は、図示しないトップシール装置によりヒートシールされる。これにより、包装材により形成された袋体に有機系脱酸素材が密閉された有機系脱酸素剤が製造される。
【0051】
3. 窒素供給手段
構成: 次に、窒素供給手段について説明する。窒素供給手段は、計量回転盤20内に窒素を供給するもので、例えば、窒素を貯留する窒素ボンベ、或いは窒素発生装置と、この窒素ボンベ或いは窒素発生装置と計量回転盤20内とを接続する窒素供給チューブ81と、窒素ボンベ或いは窒素発生装置と窒素供給チューブ81の接続部に設けられる流量調整弁等とを備えて構成される。窒素供給チューブ81は、カバー部材50に形成された挿通孔53に挿通される。そして、流量調整弁の弁開度を調整することにより、計量回転盤20内に供給する窒素供給量を調整することができる。
【0052】
ここで、本件発明に係る有機系脱酸素材として、上記水酸基酸化型の易酸化性有機物質を主剤とする有機系脱酸素材を好適に用いることができる。この場合において、有機系脱酸素材は、主剤としての易酸化性有機物質を100重量部含むとき、副剤としての水を10重量部〜200重量部含むようにして調製される。これは、既述の通り、水の200重量部以下とすることで有機系脱酸素材を包装材に充填する際の実用的な流動性を維持し、且つ、水を10重量部以上含むことで、各組成物を混ざりやすくし、更に、適切な脱酸素能を発揮させるためである。
【0053】
しかしながら、水酸基酸化型の易酸化性有機物質は、親水基である水酸基を有するため、吸湿性に富む。このため、計量回転盤20内の雰囲気湿度が高くなると、易酸化性有機物質が吸湿して、吸湿した水分量だけ有機系脱酸素材の水分量が増加することが考えられる。また、水は、主剤が脱酸素反応を行うための反応の場を提供し、且つ、適切な脱酸素能力を発揮させるために副剤として添加されている。このため、水の含量が吸湿により増加すると、易酸化性有機物質の酸化反応の脱酸素能が向上することが考えられる。また、当該易酸化性有機物質が雰囲気中の酸素と反応すると、水酸基と酸素との反応により水が副生成される。従って、計量回転盤20の周囲の外部雰囲気が多湿になると、水酸基酸化型の易酸化性有機物質が吸湿し、或いは酸化反応が進行して、有機系脱酸素材の水分量が調製時の水分量よりも増加し、有機系脱酸素材の流動性が低下すると考えられる。但し、本件発明において、外部雰囲気が多湿とは、相対湿度が約65%以上の場合、及び/又は、計量回転盤20内に窒素の供給を行わない場合に、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材が付着し始める程度の湿度をいう。
【0054】
そこで、計量回転盤20内の周囲の外部雰囲気が多湿になり、計量マス10の内壁面に対して有機系脱酸素材の付着が見られるようになった場合、窒素供給手段により、計量回転盤20内の酸素濃度が下記の範囲となるように、窒素を供給することが好ましい。計量回転盤20内に、酸素濃度が下記の範囲となるように窒素を供給することで、有機系脱酸素材の流動性を維持することができる。これにより、外部雰囲気が多湿である場合でも、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材が付着するのを防止して、包装材に対する充填量のバラツキを防止し、製造効率を通年維持することができる。
【0055】
計量回転盤20内の酸素濃度: ここで、窒素供給手段により、計量回転盤20内の酸素濃度を毎分毎に測定した場合、その平均値が3.25vol%以下になるように窒素を供給することが好ましい。大気中の酸素濃度は約20.8vol%であるが、窒素を計量回転盤20内に供給して酸素濃度を3.25vol%以下に低下させることにより上述の効果を得ることができる。窒素供給手段により、計量回転盤20内に窒素を供給した場合でも、窒素の供給を開始してから毎分毎に酸素濃度を測定したときの平均値が3.25vol%を超える場合、外部雰囲気が多湿である場合は、有機系脱酸素材の流動性を維持することが困難になる傾向にあり、計量マス10に対する付着が見られるようになる。このため、外部雰囲気の変化に応じて、有機系脱酸素剤の製造効率が変動する。
【0056】
この際、計量回転盤20内に窒素を供給してから毎分毎に測定した酸素濃度の平均値が1.5vol%以下となるように窒素を供給することがより好ましく、当該平均値が1.0vol%以下となるように窒素を供給することが更に好ましい。計量回転盤20内の酸素濃度が窒素の供給を開始してから毎分毎に測定した酸素濃度の平均値が1.5vol%以下になると、計量回転盤20内の湿度を低下させることができ、且つ、充填作業中における有機系脱酸素材と雰囲気中の酸素との反応を極めて有効に低減することができる。このため、最終製品として得られた有機系脱酸素剤の脱酸素能が高くなる。計量回転盤20内の酸素濃度が低くなるほど、当該脱酸素能が高くなる傾向が見られる。従って、計量回転盤20内の酸素濃度が1.0vol%以下となるように、窒素供給手段により窒素を計量回転盤20内に供給することがさらに好ましい。
【0057】
平均濃度到達時間: 窒素の供給を開始してから、予め定めた平均濃度到達時間内に計量回転盤20の酸素濃度が上記範囲内に達するように、窒素供給手段により窒素を供給することが好ましい。具体的には、この平均濃度到達時間は、5分以内であることが好ましく、3分以内であることがより好ましく、2分以内であることが更に好ましい。上述のように、カバー部材50は、計量回転盤20の回転動作を阻害しないように外周壁23とは離間して配置されており、計量回転盤20の盤面21に埋設された計量マス10の下部開口は、原料充填位置で開放される。このように計量回転盤20の内部は外部雰囲気に連通していため、窒素供給前の計量回転盤20内の酸素濃度は外部雰囲気と等しく約20.8%である。窒素の供給を開始すると、計量回転盤20内の酸素が窒素に置換されて計量回転盤20内の酸素濃度が徐々に低下していく。従って、窒素の供給を開始してから酸素濃度の平均値が上述の範囲に達するまでの時間が短い方が、計量回転盤20内の酸素濃度を速やかに低減し、計量回転盤20内の湿度を速やかに低減することができる。これにより、窒素供給開始直後においても、有機系脱酸素材の流動性の低下を防止することができるため、窒素供給開始直後に製造する有機系脱酸素剤の充填量のバラツキを低減することができる。ここで、計量回転盤20内の酸素濃度の平均値が上述の範囲となるまでの時間が5分を超える場合、有機系脱酸素材の吸湿、或いは、酸化反応の進行により水分量が増加して、有機系脱酸素材の流動性が低下することから、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材が付着するようになる。一方、5分間経過するまでの間の酸素濃度の平均値が上述の範囲内であれば、外部雰囲気が多湿であっても、有機系脱酸素材の実用的な流動性を維持することができ、計量マス10の内壁面に当該有機系脱酸素材が付着するのを防止し、充填量のバラツキを防止することができる。有機系脱酸素材の流動性が低下するのをより早い段階で防止するには、この平均濃度到達時間が短くなればなるほどよい。したがって、当該平均濃度到達時間が3分以内であることがより好ましく、2分以内であることが更に好ましい。図1に示す自動充填装置100を用いて、実際に有機系脱酸素剤を製造する際には、毎分40個〜100個の速さで有機系脱酸素剤が充填される。有機系脱酸素剤は、100個〜200個を一袋に梱包して出荷するため、一袋当たり1分〜5分の速さで製造される。従って、上述の範囲内で計量回転盤20の酸素濃度を低減させることで、窒素供給開始直後に有機系脱酸素剤を製造する場合であっても、その充填量のバラツキを低減し、生産歩留まりを向上することができる。
【0058】
酸素濃度の変動: さらに、毎分毎に酸素濃度を測定した場合、この測定値の変動が少ない方が好ましい。具体的には、上記酸素濃度の平均値が上述の範囲内になった後、毎分毎に測定した酸素濃度の値の差が1.0vol%以内であることが好ましく、0.3vol%以内であることがより好ましく、0.1vol%以内であることがさらに好ましい。計量回転盤20内の酸素濃度の変動を上述の範囲に保つことにより、有機系脱酸素材の酸化反応の進行を防止して、より均質な脱酸素能を有する有機系脱酸素剤を連続的に大量に製造することができる。毎分毎に測定した酸素濃度の測定値の前後の値の差が1.0vol%を超える場合、計量回転盤20内の酸素濃度の変動が大きくなり、均質な製品を連続して製造するのが困難になる場合がある。
【0059】
窒素供給量: ここで、窒素供給手段は、計量回転盤20内に下記式(1)で表される充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、窒素供給量を1.0L/min〜2.4L/minとすることが好ましい。
(式)S=S−S・・・(1)
但し、下記式(1)で表される充填雰囲気体積(S)は、計量回転盤20における全空間体積をS(L)とし、計量回転盤20内において有機系脱酸素材が占める体積S(L)とした場合、で表される体積をいう。
【0060】
また、「計量回転盤20における全空間体積」とは、本実施の形態の場合「計量回転盤20の盤面21と、外周壁23と、カバー部材50の天面部とによって仕切られた空間の体積」を指す。そして、カバー部材50により計量回転盤20の周囲を被覆しない場合は、「計量回転盤20の盤面21と外周壁23とによって仕切られた空間の体積」を指し、計量回転盤20自体に天面部を覆うカバー部材50が一体に取り付けられている場合は、「当該計量回転盤20の盤面21と外周壁23と、天面部とによって仕切られた空間の体積」を指す。一方、有機系脱酸素材が占める体積(S)とは計量回転盤20内において有機系脱酸素材が占める体積を指す。
【0061】
上記(1)式で示される計量回転盤20の充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、窒素供給量が1.0L/min未満である場合、毎分毎に測定した計量回転盤20内の酸素濃度の平均値を上述の範囲にすることができず、有機系脱酸素材の実用的な流動性を維持することができない。また、当該窒素供給量が2.5L/minを超える場合、窒素が計量回転盤20に流入する速度が速くなりすぎて、計量回転盤20とカバー部材50との間隙から空気が流入し、計量回転盤20内の酸素濃度が逆に増加していき、所望の効果が得られない場合がある。当該観点から、上記充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、窒素供給量は1.8L/min以下とすることがより好ましく、1.5L/min以下とすることが更に好ましい。但し、計量回転盤20内の酸素濃度と窒素供給量との関係は、計量回転盤20の大きさや形状、計量回転盤20内において有機系脱酸素材が占める体積、計量回転盤20とカバー部材50との間隙の大きさや形状等によって異なってくるので、厳密に上記範囲に限定されるものではなく、実施態様に応じて適宜適切な供給量とすることが好ましい。
【0062】
例えば、具体例を挙げると、計量回転盤20の内径が350mm(外径354mm)であり、計量回転盤20の高さが80mm、計量回転盤20の盤面21からカバー部材50の上面部51までの高さが90mmの場合、計量回転盤20における全空間体積(S)は、以下の式(2)により求められる。
=π×(350/2)×90=8.7(L)・・・(2)
【0063】
そして、計量回転盤20内において、有機系脱酸素材が外周壁23の半分の高さまで占める場合、計量回転盤20内において有機系脱酸素材が占める体積(S)は、以下の式(3)により求められる。
=π×(350/2)×(80×1/2)=3.8(L)・・・(3)
【0064】
このとき、計量回転盤20内(カバー部材50により形成される天面部を含む)における充填雰囲気体積(S)は、上記式(1)に上記式(2)、式(3)により得た値を代入すれば求められる。
S=8.7−3.8=4.9(L)
【0065】
以上の様に求めた充填雰囲気体積(S)が4.9Lであり、カバー部材50の上面部51の内径が358mmであり、計量回転盤20の外壁の上端と当該カバー部材50の上面部51との間に10mmに間隙がある場合、当該計量回転盤20内への窒素供給量は、4.9L/min〜12.3L/minとすることが好ましい。このとき、窒素供給量は6.4L/min〜8.8L/minとすることがより好ましく、6.9L/min〜7.4L/minとすることが更に好ましい。
【0066】
ところで、窒素ガスを計量回転盤20の内部に供給する際に、窒素供給箇所を複数箇所設けてもよい。複数箇所から窒素ガスを計量回転盤20の内部に供給することで、計量回転盤20内の酸素濃度或いは窒素濃度を均一にすることが容易になる。この場合、例えば、外部雰囲気の湿度によらず、一の箇所からは、常に一定量或いは一定速度で窒素を供給し、他の箇所からは外部雰囲気の湿度変化に応じて窒素の供給量或いは供給速度を変化させる構成とするのも好ましい態様である。本件発明に係る有機系脱酸素材は、雰囲気中の酸素と反応して雰囲気中の酸素を吸収する脱酸素反応を行うものである。したがって、外部雰囲気の湿度によらず、窒素置換雰囲気下で、有機系脱酸素材の充填を行うことが好ましいためである。この場合、外部雰囲気の相対湿度が65%以下の場合、計量回転盤20内の酸素濃度が6.0vol%以下、より好ましくは5.2vol%以下となるように窒素を供給すれば足りる。そして、外部雰囲気の相対湿度が65%を超えて、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材の付着が見られるようになった場合、上述の通り、計量回転盤20内の酸素濃度が3.25vol%以下となるように、他の箇所から窒素を供給するようにすればよい。
【0067】
例えば、具体例として例示した上記式(1)で表される充填雰囲気体積(S)が4.9Lであり、外周壁23の上端とカバー部材50の上面部51との間に10mmの間隙がある場合、外部雰囲気の湿度変化によらず、一の箇所から窒素を2L/minずつ定常的に供給することで、計量回転盤20内の酸素濃度を約5.1%にすることができる。そして、もう一の箇所から外部雰囲気の湿度に応じて、2.9L/min〜10.31L/minの範囲で窒素を供給することにより、毎分毎に測定した計量回転盤20内の酸素濃度の平均値を5分以内に0.9vol%〜3.25vol%程度にすることができる。このとき、計量回転盤20内に窒素を4.4L/min〜10.3L/minの範囲で供給する構成とすることがより好ましく、4.9L/min〜5.4L/minの範囲で供給すると更に好ましい。
【0068】
但し、充填作業中の有機系脱酸素材の雰囲気酸素との反応を防止するという観点から、ホッパー30内にも窒素ガスを供給する構成とすることが好ましい。この場合、例えば、ホッパー30内に窒素を供給するための窒素供給孔を複数箇所形成し、この窒素供給孔に窒素ボンベ或いは窒素発生装置から接続される窒素供給用のチューブ81を挿入する構成とすることができる。
【0069】
また、上述した様に、窒素供給手段が備える流量調整弁の弁開度の調整は、手動で行ってもよいし、自動制御により行ってもよい。いずれの場合であっても、カバー部材50の上面部51に取り付けられた酸素濃度センサから出力される計量回転盤20内の酸素濃度に応じて、窒素供給量を増減する構成としてもよいし、予め、実験等を行うことにより、窒素供給量と、計量回転盤20内の酸素濃度との相関関係を調べておき、計量回転盤20の酸素濃度が予め定められた濃度となるように一定の窒素供給量で窒素を供給する構成としてもよい。さらに、外部雰囲気の湿度を測定する外部雰囲気湿度測定手段を設け、外部雰囲気湿度測定手段により測定された湿度が予め定めた湿度以上になった場合に、窒素供給手段に窒素の供給を開始させるように制御する制御手段を設ける構成としてもよい。また、当該制御手段と酸素濃度センサ及び/又は湿度センサとを接続し、これらのセンサから入力される酸素濃度検出信号及び/又は湿度検出信号に基づいて、窒素供給手段が備える流量調整弁の弁開度を調整する構成としてもよい。
【0070】
以上のように、自動充填装置100を用いて、有機系脱酸素材を袋体に充填して有機系脱酸素剤を製造する際に、外部雰囲気が多湿である場合に、窒素供給手段を用いて、計量回転盤20内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が3.25vol%以下になるように窒素を供給することで、外部雰囲気の変化によらず、有機系脱酸素材の実用的な流動性を維持して、有機系脱酸素剤の製造効率を通年維持することができる。また、上述の通り、窒素供給手段は、計量回転盤20の周囲を覆うカバー部材50に挿通孔53を形成し、この挿通孔53を介して窒素供給チューブ81により窒素を供給する構成としている。従って、自動充填装置100の従来の構成を大きく変更することなく、簡易な構成で計量回転盤20内の酸素濃度を上述の範囲にすることができる。
【0071】
以下、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0072】
〈有機系脱酸素材の調整〉
まず、主剤としての縮合型タンニン(ケブラチョ抽出タンニン)11gと、水11gとを混合した。この混合物に、反応触媒として、t−ブチルカテコール0.14gを添加し、混合した。続いて、この混合物に、アルカリ剤として、水酸化カルシウム(平均粒径D50=4.7μm)と、炭酸カルシウム13.0gとを、この順に添加し、混練した。その後、活性炭2.0gを添加し、更に混練した後、熟成させて有機系脱酸素材(有機系脱酸素材)を得た。すなわち、主剤としての有機系易酸化物質100重量部に対して、水を100重量部含む構成とした。このとき、得られた有機系脱酸素材の粒径は、385μm以下であった。但し、当該粒径の測定には、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(JSM−6060A)を用いて測定した値とする。
【0073】
〈包装材〉
上述の様に調整した有機系脱酸素材を包装する包装材として、厚さ12μmの有孔ポリエステルフィルムから成る最外層フィルムと、50g/mの耐水耐油紙から成る外層材と、厚さ25μmの有孔ポリエステルから成る内層材とを、ヒートラミネート加工により三層積層体とした複合フィルムを用いた。
【0074】
〈有機系脱酸素剤の製造〉
以上の様に調製した有機系脱酸素材を図1に示す自動充填装置100を用いて上述の包装材により形成した200個の袋体に連続的に充填して、充填量のバラツキを調べた。このときに用いた自動充填装置100の計量回転盤20の内径は350mmであった。また、計量回転盤20の外周壁23の高さ(盤面21からの高さ)は80mmであった。更に、計量回転盤20の周囲を覆うカバー部材50の上面部51の内径は358mmであり、外周壁23の上端から当該上面部51が10mm離間するようにして配置した。また、カバー部材50の中央に形成された開口と、ホッパー30の外周との間の間隙はガムテープを用いて目張りした。そして、有機系脱酸素材は、計量回転盤20内に盤面21から約40mmの高さまで供給されるようにした。
【0075】
従って、計量回転盤20の盤面21と外周壁23と、カバー部材50の上面部51によって囲まれた計量回転盤20における全空間体積(S)は8.7Lであり、計量回転盤20内において有機系脱酸素材が占める体積(S)は3.8Lであり、これらを上記式(1)に代入すると、計量回転盤20内の充填雰囲気体積(S)は8.7L−3.8L=4.9Lであった。
【0076】
窒素供給量: このとき、窒素ボンベ(太陽日産社製液化窒素)に流量調整弁を介して接続される窒素供給チューブ81を、カバー部材50の上面部51に形成した挿通孔53を介して計量回転盤20の内部に挿入した。そして、当該窒素供給チューブ81を介して、計量回転盤20内に5L/minの割合で窒素を供給した。つまり、上記計量回転盤20内の充填雰囲気体積(S)1Lに付き、窒素供給量を1.0L/minとした。但し、本実施例1では窒素を二箇所から計量回転盤20の内部に供給した。一の箇所における窒素供給量は、2L/minとし、他の箇所からの窒素供給量は、3L/minとした。このとき、毎分毎に計量回転盤20内の酸素濃度を測定すると、窒素の供給を開始してから5分経過するまでの間の酸素濃度の平均値は3.2vol%であった。なお、以下において、「計量回転盤20内の充填雰囲気体積(S)1L当たりの窒素供給量」を「単位当たり窒素供給量」と称し、「計量回転盤20内に対する実際の窒素供給量」を全窒素供給量と称する。
【0077】
以上のように計量回転盤20内に窒素を供給しながら、毎分70個の充填速度で有機系脱酸素材を包装材により形成された袋体に充填した。このとき、各袋体に対して0.9gずつ有機系脱酸素材を充填することのできる計量孔11を有する計量マス10を用いた。そして、1個ずつ袋体の内部に充填された有機系脱酸素材の重量を測定し、充填量のバラツキを調べた。さらに、得られた有機系脱酸素剤を室温にて室内に放置し、1日経過後と4日経過後とにそれぞれ酸素の吸収量を測定した。
【実施例2】
【0078】
実施例2では、全窒素供給量を5L/minから7L/minに増量した以外は、実施例1と同一の方法により201個の袋体に充填量が0.9gになるようにして有機系脱酸素材を充填した。このとき、単位当たり窒素供給量は約1.4L/minである。また、実施例1と同様に窒素を二箇所から計量回転盤20の内部に供給し、一の箇所における窒素供給量を2L/minとし、他の箇所からの窒素供給量を5L/minに増量した。このとき、毎分毎に酸素濃度を測定すると、窒素の供給を開始してから5分経過するまでの間の酸素濃度の平均値は0.9vol%であった。実施例2で得られた有機系脱酸素剤についても、実施例1と同様に、各袋体に充填された有機系脱酸素材の重量を測定し、充填量のバラツキを調べると共に酸素吸収量の測定を行った。
【実施例3】
【0079】
実施例3では、全窒素供給量を5L/minから12L/minに増量した以外は、実施例1と同一の方法により200個の袋体に充填量が0.9gになるようにして有機系脱酸素材を充填した。このとき、単位当たり窒素供給量は約2.4L/minである。また、実施例1と同様に窒素を二箇所から計量回転盤20の内部に供給した。一の箇所からの窒素供給量は2L/minとし、他の箇所からの窒素供給量を3L/minから10L/minに増量した。また、毎分毎に酸素濃度を測定すると、窒素の供給を開始してから5分経過するまでの間の酸素濃度の平均値は1.3vol%であった。実施例3で得られた有機系脱酸素剤についても、実施例1と同様に、各袋体に充填された有機系脱酸素材の重量を測定し、充填量のバラツキを調べると共に酸素吸収量の測定を行った。
【比較例】
【0080】
比較例として、全窒素供給量を2L/minとし、計量回転盤20内に1箇所からのみ窒素を供給した以外は、実施例1と同一の方法により200個の袋体に充填量が0.9gになるようにして有機系脱酸素材を充填した。このとき単位当たり窒素供給量は約0.4L/minである。また、毎分毎に酸素濃度を測定すると、窒素の供給を開始してから5分を経過するまでの間の酸素濃度の平均値は5.1vol%であった。
【0081】
[評価]
1.酸素濃度変化
まず、実施例1〜実施例3及び比較例1のそれぞれにおける計量回転盤20内の酸素濃度、湿度及び温度の平均値を表1に示す。また、このときの外部雰囲気における酸素濃度、湿度及び温度の平均値を示す。但し、表1に示す各平均値は、計量回転盤20内に窒素の供給を開始してから5分経過するまでの間の値である。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、計量回転盤20に対する全窒素供給量が2L/minであった比較例では、窒素の供給を開始してから5分間の間の酸素濃度の平均値は5.1vol%であった。これに対して、実施例1〜実施例3は、比較例に比して、計量回転盤20に対する全窒素供給量がそれぞれ3L/min、5L/min、10L/min多く、当該酸素濃度の平均値は、それぞれ、3.2vol%、0.9vol%、1.3vol%であった。当該結果より、単位窒素供給量を1.0L/min、1.4L/min、2.4L/minと、1.0L/min以上とすることにより、毎分毎に測定した計量回転盤20内の酸素濃度の平均値を3.2vol%以下にすることができたことが分かる。また、実施例2に比して、窒素供給量の多い実施例3は、当該酸素濃度の平均値が0.9vol%から1.3vol%に増加している。したがって、窒素供給量を単に増大しても、計量回転盤20内の酸素濃度が直線的に低下するのではないことが分かる。計量回転盤20は、完全な密閉構造とはされておらず、カバー部材50と計量回転盤20の外周壁23との間には間隙が設けられている。このため、窒素供給量を増大した場合、いわゆる巻き込み現象により、外部雰囲気が計量回転盤20内に流入し、窒素供給量を増大しても、酸素濃度が逆に増加すると考えられる。
【0084】
また、表1には、計量回転盤20内の相対湿度の平均値と、外部雰囲気における相対湿度の平均値とを示している。ここで、比較例1において、外部雰囲気における相対湿度が76%であるのに対して、計量回転盤20内の相対湿度が83%となっている。これは、計量回転盤20内に供給される有機系脱酸素材は、副剤として水を含むため、有機系脱酸素材から放出される水分の影響により計量回転盤20内の相対湿度が外部雰囲気における相対湿度よりも増加するものと考えられる。実施例1についても同様に、計量回転盤20内の相対湿度は83%であり、外部雰囲気の相対湿度が79%であることから、有機系脱酸素材が計量回転盤20内に供給されることにより、計量回転盤20内の相対湿度が増加することが分かる。一方、実施例2についてみると、計量回転盤20内の相対湿度は69%であり、このときの外部雰囲気における相対湿度は77%である。また、実施例3についてみると、計量回転盤20内の相対湿度は68%であり、このときの外部雰囲気における相対湿度は79%である。従って、全窒素供給量を5L/min、単位窒素供給量を1.4L/min以上とすることにより、計量回転盤20内の相対湿度を下げる効果があることが分かる。
【0085】
2.酸素濃度の変化
次に、実施例1〜実施例3及び比較例1のそれぞれにおける計量回転盤20内の酸素濃度の変化を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1〜実施例3では、いずれも2分以内に計量回転盤20内の酸素濃度の平均値が3.25vol%以下に低減している。また、実施例2及び実施例3は、2分以内に計量回転盤20内の酸素濃度の平均値が1.5vol%以下に低減している。さらに、実施例2については3分以内に計量回転盤20内の酸素濃度の平均値が1.0%以内に低減している。これに対して、比較例では、4分経過時の酸素濃度の測定値は1.8vol%であったが、5分以内に計量回転盤20内の酸素濃度の平均値が3.25vol%以下に低減することはなかった。
【0088】
また、比較例1では、酸素濃度の測定値が毎分毎に6.7vol%〜1.8vol%の範囲で、毎分毎に大きく変動している。これに対して、実施例1においては、酸素濃度の測定値が毎分毎に0.1vol%〜2.4vol%の範囲で変動しており、比較例に比して変動の幅が小さい。実施例2では、酸素濃度の測定値の毎分毎の変動値は0.3vol%以内であり、実施例3についても同様である。また、実施例2については、2分経過以降は、酸素濃度は略一定の値を示し、変動の幅は0.1vol%以内であり、計量回転盤20内の酸素濃度を略一定に保つことができている。このことから、比較例に比して、実施例1〜実施例3は、酸素濃度の平均値を早く低減することができており、また、酸素濃度の変動も少ないことが分かる。また、窒素供給量を増大させても、酸素濃度の変動幅が直線的に小さくなるのではなく、実施例3に比して窒素供給量の少ない実施例2の方が酸素濃度の変動幅も小さくなることが分かる。このことからも、計量回転盤20内に窒素を供給する際に、計量回転盤20内の酸素濃度を低減し、且つ、計量回転盤20内の酸素濃度を安定に保持するには、窒素供給量を単純に増加させればよいのではないことが分かる。
【0089】
3.充填量のバラツキ
次に、表3にで製造した有機系脱酸素剤の各袋体における有機系脱酸素剤の充填量の平均値を示す。また、各袋体の有機系脱酸素材の充填量のバラツキをグラフに表したものを図3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示すように、実施例1及び実施例3で製造した有機系脱酸素剤の充填量の平均値はが0.9gであり、実施例2で製造した有機系脱酸素剤の充填量の平均値は0.89gであった。当該結果から、計量回転盤20に対して、窒素の供給を開始してから5分以内に酸素濃度を3.25vol%以下にすることにより、各袋体に対して目的とする充填量と略同量の有機系脱酸素材を充填できることが分かる。これに対して、比較例で製造した有機系脱酸素剤の充填量の平均値は0.81gであり、図3に示すように大きくバラツキが生じた。充填量の最も少ないものは、0.62gであり、充填量の最も多いものは0.9gであったことから考慮すると、比較例の製造条件では、有機系脱酸素材の流動性を維持することができず、計量マス10の内壁面に有機系脱酸素材が付着し、計量マス10により正確に有機系脱酸素材を計量することができなかったことが分かる。また、充填量の平均値は0.81gであり、充填量が0.72g、0.79gであった袋体の個数が最も多いことから、全体的に有機系脱酸素材の充填量が少なく、所望の脱酸素能を発揮することができない可能性が高い。
【0092】
4.酸素吸収能
次に、表4に、実施例1〜実施例3及び比較例で得た有機系脱酸素剤を室内に放置したときの酸素吸収量の変化を示す。但し、酸素吸収量は、有機系脱酸素材1g当たりの酸素吸収量(ml)を示している。また、実施例1〜実施例3及び比較例で得た有機系脱酸素剤をそれぞれ3袋ずつ室内に放置して、1日経過後と、4日経過後にそれぞれの重量変化から酸素吸収量を求めた。
【0093】
【表4】

【0094】
表4に示すように、実施例1〜実施例3で製造した有機系脱酸素剤を室内に放置したところ、実施例1で製造した有機系脱酸素剤は、比較例で製造した有機系脱酸素剤と同じ程度の酸素吸収量を示した。一方、実施例2及び実施例3で製造した有機系脱酸素剤は、比較例に比して、酸素吸収量は大きい値を示した。当該結果から、充填量のバラツキを低減するには、窒素供給量を充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、1.0L/min以上にして、計量回転盤20内の酸素濃度を3.25vol%以下にすることが有効であるが、より脱酸素能の高い有機系脱酸素剤を製造するには、窒素供給量を充填雰囲気体積(S)1L当たりの窒素供給量を増大した方がよいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置は、計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が3.25vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給する窒素供給手段を備えており、有機系脱酸素材の流動性を維持して、有機系脱酸素剤を製造する際に好適に用いることができる。また、本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造装置は、有機系脱酸素材の製造以外にも、雰囲気中の湿度が増加した場合に、吸湿して流動性が低下する材料や、雰囲気中の酸素と反応して水を生成する材料等の、雰囲気湿度の変化により流動性が変化する材料の充填作業に用いる流動体の充填装置としても好適に用いることができる。また、本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法についても同様に、有機系脱酸素剤の製造だけではなく、吸湿により流動性が低下する材料や、雰囲気中の酸素と反応して水を生成する材料等の充填作業に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系脱酸素材が供給される計量回転盤と、当該計量回転盤の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マスと、当該計量マスの下部開口を開閉自在に塞ぐシャッターとを備え、所定の原料充填位置において当該シャッターを開いて、当該計量マスの下方に配置された包装材に、計量された有機系脱酸素材を充填して、有機系脱酸素剤を製造する有機系脱酸素剤の製造装置において、
当該計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が3.25vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給する窒素供給手段を備えたことを特徴とする有機系脱酸素剤の製造装置。
【請求項2】
前記窒素供給手段は、前記計量回転盤内の酸素濃度を毎分毎に測定したときの平均値が1.5vol%以下になるように当該計量回転盤内に窒素を供給する請求項1に記載の有機系脱酸素剤の製造装置。
【請求項3】
前記窒素供給手段による窒素供給量は、下記式(1)で表される充填雰囲気体積(S)1L当たりにつき、1.0L/min〜2.4L/minとする請求項1又は請求項2に記載の有機系脱酸素材の製造装置。
S=S−S・・・(1)
但し、上記式(1)において、Sは、前記計量回転盤における全空間体積(L)を表し、Sは前記計量回転盤内において有機系脱酸素材が占める体積(L)を表している。
【請求項4】
前記有機系脱酸素材は、水酸基を有する易酸化性有機物質を主剤とするものである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の有機系脱酸素剤の製造装置。
【請求項5】
前記有機系脱酸素材は、主剤として前記易酸化性有機物質を100重量部含むとき、副剤として水を10重量部〜200重量部含むものである請求項4に記載の有機系脱酸素剤の製造装置。
【請求項6】
自動充填装置を用いて所定量の有機系脱酸素材を包装材に充填して、有機系脱酸素剤を製造するための有機系脱酸素剤の製造方法であって、
当該自動充填装置は、有機系脱酸素材が供給される計量回転盤と、当該計量回転盤の回転動作により前記有機系脱酸素材が投入される複数の計量マスと、当該計量マスの下部開口を開閉自在に塞ぐシャッターとを備え、
当該計量回転盤内の酸素濃度が3.25vol%以下になるように、当該計量回転盤内に窒素を供給しながら、当該シャッターを開いて、計量マスの下方に配置された包装材に、計量された有機系脱酸素材を充填して、有機系脱酸素剤を製造すること、
を特徴とする有機系脱酸素剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−30814(P2012−30814A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170051(P2010−170051)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】