説明

有機結晶

【課題】有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等による経時的な性能変化や劣化を防ぐことにより、有機結晶がもつ種々の特性を経時的に充分に発揮させ、種々の用途において好適に用いることができる有機結晶を提供する。
【解決手段】有機物を含む結晶体からなる有機結晶であって、該結晶体の表面をポリマーで被覆してなることを特徴とする有機結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機結晶に関する。より詳しくは、有機物を含む結晶体からなり、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体、発光体等として有用な有機結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
有機結晶は、通常では有機低分子化合物によって結晶が形成され、塗膜や成形物中で結晶体として存在することにより種々の機能を発揮することになる。有機結晶を形成する有機低分子化合物は、色素、導伝材料、強誘電体等の種々の技術分野において様々なものが知られている。このような有機低分子化合物のもつ性質が有機結晶という形態によって発現されることにより、有機結晶特有の特性が発揮されることになる。例えば、高分子化合物中に有機結晶を分散して形成された膜においては、膜中で有機結晶特有の種々の機能性を発揮することになる。この際、有機結晶の膜中における分散状態、有機結晶の結晶構造や形状、膜中における含有量等が有機結晶の機能性に影響を与えることになる。
【0003】
従来の有機結晶を用いた技術としては、有機低分子系誘電体物質又は強誘電体物質を、極性のある側鎖を有するゴム材料又はエラストマー材料に分散させた高減衰材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この高減衰材料は、車両の防音壁等に適用される振動や騒音を吸収する制振材・防音材等として用いられるものである。実施形態としては、塩素化ポリエチレンと有機低分子系誘電体物質とによる高減衰材料が挙げられ、また、これにより減衰性能の経時劣化を抑制することが目的とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−312191号公報(第2〜4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の有機結晶を用いた技術においては、マトリックスポリマーの極性と有機低分子系誘電体物質との相互作用で分散性を維持しているものと考えられる。このように、有機結晶をマトリックスポリマーに分散させて膜を形成する場合、マトリックスポリマーと有機結晶との相互作用によって膜中における有機結晶の分散性を維持し、有機結晶の機能性を発現させることもできるが、有機結晶に関する経時劣化の抑制を種々の用途において更に充分なものとするための工夫の余地があった。
【0006】
例えば、経時等による有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウトによる性能劣化という課題があった。有機結晶の凝集は、有機結晶のマトリックスポリマー中における分散性に関係し、これによりマトリックスポリマーとの分散時や経時において有機結晶が凝集して良好な分散状態とはならない。有機結晶の形のくずれは、有機結晶そのものの形状変化に関係し、有機結晶がある一定の粒子形状となっている場合、粒子形状がくずれ、膜中における分散性や有機結晶自体の機能発現に影響を与えることになる。ブリードアウトは、経時により有機結晶が膜中から膜表面に析出、凝集することであり、これにより有機結晶の膜中における含有量が減少するとともに、膜表面に有機結晶が析出することにより何らかの悪影響を与える場合がある。
【0007】
このような有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等による性能劣化は、有機結晶の分散性や有機結晶としての特性が性能に影響する技術分野において、例えば、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体、発光体等の技術分野において生じるものと考えられる。例えば、色素、導伝材料、強誘電体として有機結晶を用いる場合、上述した有機結晶の経時劣化により、色素であれば光学特性変化、導伝材料であれば導伝性低下、強誘電体であれば圧電性能低下をきたすこととなる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等による経時的な性能変化や劣化を防ぐことにより、有機結晶がもつ種々の特性を経時的に充分に発揮させ、種々の用途において好適に用いることができる有機結晶を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、有機物を含む結晶体が有機結晶として種々の用途で用いられることに着目し、上述した経時変化の抑制等に関する課題について種々検討したところ、結晶体をポリマーコートすることで、経時変化等を防ぐことができることを見いだした。これにより、有機結晶を種々の用途に用いた場合における経時等による有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウトによる性能劣化という課題を解決することができる。有機結晶の凝集については、有機結晶同士が凝集する性質をポリマーコートが阻むことができる。形のくずれについては、ポリマーコートが結晶体を包むことによって結晶体の形状を保つことができる。ブリードアウトについては、マトリックスポリマー中に有機低分子化合物による有機結晶が分散される場合、マトリックスポリマーと有機低分子化合物との相互作用によって分散されるのと比較して、マトリックスポリマーとポリマーコートとの相互作用によって分散される方が分散性を良好に保つことができ、それにより有機低分子化合物が膜中から膜表面に析出しにくくなるものと考えられる。
このような有機結晶は、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体、発光体等の技術分野において有用である。これらの分野において、結晶体による特性を高めるとともに、経時変化や劣化を抑制し、経時において安定した性能を発揮する製品を提供することが可能となる。
【0010】
すなわち本発明は、有機物を含む結晶体からなる有機結晶であって、上記結晶体の表面をポリマーで被覆してなる有機結晶に関する。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
本発明の有機結晶は、有機物を含む結晶体からなる。
本明細書中において、「有機物を含む結晶体」(以下、単に結晶体ともいう)とは、有機物を必須に含み、結晶の形態となっているものであり、ポリマーで被覆されていないものをいう。本発明の有機結晶は、そのような結晶体がポリマーで被覆されたものである。該ポリマーを被覆ポリマーともいう。結晶体及び被覆ポリマーは、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
上記有機物としては、種々の技術分野において様々なものを適用することができるが、通常では、有機低分子化合物を用いることになる。また、上記結晶体は、有機物を必須とする限り、塩の形態であってもよく、また、有機無機複合体となっていたり、金属元素等の無機成分を含んでいたりしてもよい。
【0012】
本発明の有機結晶における被覆ポリマーは、実質的に結晶体の表面の全部を覆っていることが好ましいが、結晶体の表面の一部だけを覆っていたり、結晶体の表面の一部又は全部を覆いつつ、結晶体の内部に入り込んだりしていてもよい。ここで「実質的に結晶体の表面の全部を覆っている」とは、結晶体の表面面積全体の50%以上を覆っていることを意味する。また、70%以上を覆っていることが好ましく、90%以上を覆っていることがより好ましい。
上記被覆ポリマーは、重合体であることが好ましいが、結晶体となる有機低分子化合物とは異なる高分子化合物であればよい。すなわち、結晶体を被覆できる限り、1種又は2種以上の単量体単位によって構成される重合体であっても、炭素数が多く、いわゆる炭化水素鎖等をもつ有機化合物であってもよい。このような被覆ポリマーは、結晶体に分子間力等によって付着した状態であってもよいし、結晶体を構成する有機化合物と共有結合した状態であってもよい。また、有機結晶を用いた製品調製時や経時により被覆ポリマーが結晶体から分離することがないようにすることが好ましい。
なお、被覆ポリマーとしては、後述のように、高い分子量を有する、高いガラス転移温度を有する、架橋している等の条件を満たすものが好ましい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態としては、上記有機結晶を含む分散体、及び、上記有機結晶とポリマーとを含んでなる分散体等が挙げられる。また、上記有機結晶を含む分散体を成膜させてなる塗膜、及び、上記有機結晶とポリマーとを含んでなる分散体を成膜させてなる塗膜も、本発明の好ましい実施形態である。
上記有機結晶を含む分散体及びそれを成膜させてなる塗膜の好ましい形態としては、下記実施形態1、3等が例示され、また、上記有機結晶とポリマーとを含んでなる分散体及びそれを成膜させてなる塗膜の好ましい形態としては、下記実施形態2等が例示される。
【0014】
上記実施形態1の分散体は、有機結晶を必須成分とし、有機結晶を分散媒(溶媒)中に分散させたものであることが好ましい。これを基材等に塗布、乾燥することにより、分散体を成膜させてなる塗膜を得ることができる。
この実施形態1においては、結晶体を被覆ポリマーで覆い、さらにその上からマトリックスポリマーで覆った形態、つまり、結晶体、被覆ポリマー、マトリックスポリマーの順に積層された形態(3層構造形態)であることが好ましい。
ここで、マトリックスポリマーとは、塗膜にした場合にマトリックスとなるポリマーのことを意味する。
なお、上述のように、結晶体を被覆するポリマーのことを被覆ポリマーというものであるが、当該3層構造形態の有機結晶においては、当該有機結晶の分散体を塗膜にした場合、結晶体を被覆する最外層ポリマーはマトリックスポリマーとなるため、便宜上、マトリックスポリマーともいう。
このような形態においては、結晶体がポリマーで被覆されてなる有機結晶が、マトリックスポリマー中に、分散した形態の塗膜を得ることができる。この実施形態1の概念図を図1に示す。
【0015】
上記実施形態2の樹脂組成物は、有機結晶とポリマーとを必須成分とし、有機結晶をポリマー中に分散させたものであることが好ましい。これを基材等に塗布、乾燥することにより、樹脂組成物を成膜させてなる塗膜を得ることができる。
この実施形態2においては、結晶体が被覆ポリマーで被覆されてなる有機結晶が、有機結晶とともに分散体中に含まれる必須成分のポリマーであるマトリックスポリマー中に分散した形態の塗膜を得ることができる。この実施形態2の概念図を図2に示す。
【0016】
上記実施形態3の分散体は、有機結晶を必須成分とし、有機結晶を分散媒(溶媒)中に分散させたエマルションと、マトリックスポリマーのエマルションを混合したものであることが好ましい。これを基材等に塗布、乾燥することにより、分散体を成膜させてなる塗膜を得ることができる。
この実施形態3においては、結晶体が被覆ポリマーで被覆されてなる有機結晶が、マトリックスポリマーのエマルション中に存在していたマトリックスポリマー中に分散した形態の塗膜を得ることができる。この実施形態3の概念図を図3に示す。
【0017】
上記実施形態1〜3のいずれにおいても、被覆ポリマーとマトリックスポリマーとは、非相溶であることが好ましい。これにより、マトリックスポリマー中に、これに非相溶の被覆ポリマーによって被覆されている有機結晶が、溶解ではなく、分散されることになる。そのため、結晶体を分散したときに発現される特性を、経時的に変化したり劣化したりするのを防ぎながら、発現させることができる。
上記被覆ポリマー、マトリックスポリマーは、それぞれ1種でもよく、2種以上であってもよい。
また、上記実施形態1〜3のいずれにおいても、被覆ポリマーと結晶体とが結合していることが好ましい。すなわち、被覆ポリマー/結晶体間結合が形成されていることが好ましい。
さらに、上記実施形態1〜3のいずれにおいても、被覆ポリマー及びマトリックスポリマーが結晶体を被覆する形態は、上述したのと同様に、実質的に結晶体の全部を覆っていることが好ましいが、一部だけを覆っていてもよい。
なお、有機結晶は、上記2層構造、3層構造以外に、4層以上の構造を有することも可能である。4層以上の構造を有する有機結晶の分散体を塗膜にする場合、結晶体に接しているポリマー層(最内層)が被覆ポリマーとなり、最外層のポリマー層がマトリックスポリマーとなるが、最内層と最外層に挟まれたポリマー層は、使用ポリマーの種類や性質等に応じて、被覆ポリマー又はマトリックスポリマーとなる。また、この場合、被覆ポリマー/結晶体間結合における被覆ポリマーとは、最内層の被覆ポリマーを意味する。
【0018】
上記実施形態において、被覆ポリマー/結晶体間結合が形成されている場合、当該結合は、結晶体を構成する有機低分子化合物が反応性の官能基(官能基A)を有し、かつ、被覆ポリマーも反応性の官能基(官能基B)を有し、官能基Aと官能基Bとが反応することによって形成することができる。当該官能基は、有機化合物とポリマーとを結合する場合に適用されるものを用いればよく、それぞれ1種であっても2種以上であってもよい。
また、官能基Aと官能基Bとは、同種のものであっても異種のものであってもよい。
【0019】
上記実施形態において溶媒を用いる場合、当該溶媒としては、上記分散体又は上記樹脂組成物を分散させることができるものであればよく、各種用途において適宜選択すればよい。例えば、水、水系溶剤を主体とする溶媒等を用いることができる。
また必須成分以外の成分としても、各種用途において求められる性能に応じて適宜選択すればよい。
【0020】
上記実施形態1〜3においては、単に結晶体をポリマー中に分散させる場合と比較して、被覆ポリマーによって有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウトを抑制しつつ塗膜を形成することができ、しかもこれらの不具合を経時的に抑制することが可能となる。本発明の有機結晶、それを必須とする分散体、樹脂組成物、それらによって形成される塗膜における上記のような性能は、経時で結晶化度を測定することによって評価することができる。結晶化度が低下すれば、有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等が生じていると評価できる。
【0021】
本発明の有機結晶は、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体及び発光体からなる群から選択される少なくとも1種のものとして用いることが好ましい。これらの用途においては、結晶体による特性を高めるとともに、経時変化や劣化を抑制し、経時において安定した性能を発揮する製品を提供するという本発明の作用効果を発揮することができ、それによって各用途における製品の有用性を高めることができる。
【0022】
上記各種用途のうち、有機結晶を誘電体又は強誘電体として用いる場合、有機結晶からなる分散体、樹脂組成物は、圧電材料となる。当該材料は、制振材、吸音材として用いるのが好適である。すなわち、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することによって振動を吸収、滅衰させる圧電型制振材として好適に用いることができる。
本発明の有機結晶を制振材用有機結晶として用いる形態、該制振材用有機結晶を用いてなる制振材は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0023】
なお、制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されるものである。
従来の制振材としては、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要性があることから、作業性等の改善が望まれており、塗布型制振材(塗料)が開発されている。例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することにより形成される塗膜により、振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。しかしながら、これらの従来品をもってしても未だ、制振性能が充分に満足できるレベルにあるとはいえず、更に充分に制振性能を発揮できるようにする技術が求められている。
このような中で、本発明の有機結晶、該有機結晶を必須とする分散体、樹脂組成物を制振材用途において用いる技術は、制振性能の向上、経時における制振性能低下の抑制に効果的であり、制振材の性能向上に大いに寄与することになる。
以下では、有機結晶における結晶体、有機結晶、分散体、樹脂組成物、それらによって形成される塗膜等の好ましい形態を詳述するが、当該好ましい形態は、特に圧電材料、すなわち制振材用途において好適に適用されるものである。
【0024】
上記結晶体の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、楕円体状、多角体状等の粒状;鱗片状、板状等の薄片状;針状、柱状、棒状、筒状;等が挙げられ、好ましくは針状、柱状、棒状等である。これらの形状は、1種で存在していても2種以上が混在していてもよい。また、有機結晶の形状も結晶体の形状と同様なものとなっていることが好ましい。すなわち、結晶体の形状や結晶構造を変化させないように、結晶体がポリマーで被覆されていることが好ましい。
【0025】
上記結晶体の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましい。結晶体の平均粒子径は、有機結晶を適用する技術分野によって種々設定されることになるが、通常では、0.1μm未満であると、凝集しやすく、取り扱いが困難になる傾向があり、100μmを超えると、分散性等に影響を与えるおそれがある。より好ましくは、上限値が50μmであり、下限値が0.2μmであり、更に好ましくは、上限値が20μmであり、下限値が0.3μmである。
また、有機結晶の平均粒子径としては、0.12〜120μmであることが好ましい。より好ましくは、上限値が60μmであり、下限値が0.14μmであり、更に好ましくは、上限値が24μmであり、下限値が0.16μmである。
なお、後述のアスペクト比が1より大きい粒子の場合、図4に示すように、粒子径には長径と短径があるが、ここで述べる平均粒子径としては、長径を用いるものとする。
当該平均粒子径は、上述のどのような形状の結晶体にも適用できる。
【0026】
ここで、粒子群が径の不均一な多くの粒子から構成される場合に、その粒子群を代表させる粒子径を平均粒子径とする。当該粒子径としては、一般的な決められたルールに従って測定した粒子の長さを用いる。例えば、顕微鏡観察法の場合には、1個の粒子について長軸径、短軸径、定方向径等二つ以上の長さを測定し、その平均値を粒子径とする。少なくとも50個の粒子に対して測定を行うことが好ましい。
上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、光学顕微鏡、デジタルマイクロスコープ等により測定することができるが、本発明においては、SEMで測定した値を用いる。
具体的には、SEM(日立ハイテク社製、FE−SEM、S−4800)を用い、測定画像を解析することで50個の粒子径を測定し、これらの平均値を算出することにより、結晶体、及び、有機結晶の平均粒子径を求める。なお、アスペクト比が1より大きい粒子の場合は、50個の粒子の長径を測定し、これらの平均値を算出して求める。
【0027】
上記結晶体のアスペクト比(長径と短径の比率、つまり長径/短径)としては、有機結晶の分散性や各種の性能発現の点から、好ましくは、2以上である。より好ましくは、4以上、更に好ましくは、6以上である。また、結晶体のアスペクト比の上限値に関して、好ましくは、20以下である。より好ましくは、18以下、更に好ましくは、15以下である。また、有機結晶のアスペクト比も結晶体のアスペクト比と同様なものとなっていることが好ましい。
当該アスペクト比は、各形状の長径の平均値/短径の平均値として求めることができる。
当該アスペクト比についても、上述した平均粒子径を測定する手法に準拠して測定することができるが、本発明においては、SEMで測定した値を用いる。
具体的には、SEM(日立ハイテク社製、FE−SEM、S−4800)を用い、測定画像を解析することで50個の粒子の長径と短径を測定し、長径と短径のそれぞれの平均値を算出することにより、結晶体、及び、有機結晶のアスペクト比(長径の平均値/短径の平均値)を求める。
【0028】
本発明の有機結晶においては、有機結晶により発現させる性能と、塗膜強度のバランスの点から、ポリマーと結晶体との質量割合が1:9〜9:1であることが好ましい。より好ましくは2:8〜8:2、更に好ましくは3:7〜7:3である。
【0029】
上記有機結晶を構成する結晶体の材料としては、有機物を含むものであれば特に限定されないが、例えば、フェノール系化合物、芳香族第一級アミン系化合物、芳香族第二級アミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、スルフェンアミド系化合物、チオウレア系化合物、チウラム系化合物、チアゾール系化合物、グアニジン系化合物、アルデヒド−アンモニア系化合物、アルデヒド−アミン系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、キサントゲン酸塩系化合物、炭酸エステル(炭酸エチレン等)、アミド化合物(N−メチルアセトアミド(NMAC)等)等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上でも用いることができる。また、上記結晶体の材料のうち、好ましくは、フェノール系化合物、スルフェンアミド系化合物、芳香族第二級アミン系化合物等が挙げられ、より好ましくは、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、N,N−ジシクロへキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
上記結晶体は、公知の方法により製造することができる。例えばN,N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミドは、アセトンに溶解した後、水へ再沈澱させることで結晶体を製造することができる。また、市販の結晶体を用いてもよい。
【0030】
本発明の有機結晶の製造方法としては、結晶体の表面をポリマーで被覆することができる方法であれば特に限定されないが、例えば、水性媒体中、分散剤で分散させた結晶体の存在下で、重合性モノマーを乳化重合することにより、有機結晶を水分散体の形態で製造することができる。また、当該水分散体から上記有機結晶を分離して乾燥させれば、当該有機結晶を粉体の形態で製造することができる。更に、粉体の形態である有機結晶を水性媒体以外の分散媒に再分散させることにより、又は、水分散体の分散媒を水性媒体から水性媒体以外の分散媒に置換することにより、有機結晶を水性媒体以外の分散媒に分散した分散体の形態で製造することができる。
また、分散剤を用いず、結晶体を機械的に分散させた状態で重合性モノマーを懸濁重合することでも、有機結晶を水分散体の形態で製造することができる。
【0031】
上記重合反応に用いる重合性モノマーは、結晶体表面にポリマーの被覆層を形成できるものであれば特に限定されず、結晶体がその表面に官能基を有するか否か、また有する場合にはその種類等にもよるが、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等を含有する重合性モノマー等が挙げられる。当該重合性モノマーは、1種で用いても2種以上を併用してもよい。また、以下の各重合性モノマーのそれぞれにおいても、1種で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記ビニル基含有重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等のスチレン誘導体;等が挙げられる。好ましくはスチレン等のスチレン誘導体である。
【0033】
上記(メタ)アクリロイル基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等である。
【0034】
上記エポキシ基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等の不飽和カルボン酸エステル類;ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル類;等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジル等の不飽和カルボン酸エステル類である。
【0035】
上記アミノ基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル等の(メタ)アクリル酸N原子含有エステル類;N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン等のビニルアミン類;アリルアミン、α−メチルアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン等のアリルアミン類;(メタ)アクリルアミド,N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;p−アミノスチレン等のアミノスチレン類;等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸N原子含有エステル類である。
【0036】
上記カルボキシル基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;これらの不飽和ジカルボン酸のモノエステル化物;これらの不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸である。
【0037】
上記水酸基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸水酸基含有エステル類;ポリカプロラクトン変性の(メタ)アクリル酸エステル類;ポリオキシエチレン変性やポリオキシプロピレン変性の(メタ)アクリル酸エステル類;等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸水酸基含有エステル類である。
【0038】
重合性モノマーの使用量は、結晶体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、結晶体100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましい。重合性モノマーの使用量が5質量部未満であると、重合反応が速やかに進行しにくく、結晶体の表面をポリマーで効率的に被覆できにくい傾向がある。逆に、重合性モノマーの使用量が200質量部を超えると、結晶体を含まないポリマー粒子が多く生成し易い傾向がある。より好ましくは10質量部以上、150質量部以下であり、更に好ましくは15質量部以上、100質量部以下である。
【0039】
本発明における被覆ポリマーとしては、上記重合性モノマーを重合することにより得られるポリマー等が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、スチレン及び酢酸ビニルから選ばれる少なくとも1種の重合性モノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。
【0040】
上記被覆ポリマーとしては、高い分子量を有する、高いガラス転移温度を有する、架橋している等の条件を満たすものがより好ましい。
上記被覆ポリマーは、重量平均分子量が2万以上であることが好ましい。上記の分子量未満では、結晶体の経時劣化を抑制できない場合があるおそれがある。当該重量平均分子量は、より好ましくは5万以上であり、更に好ましくは10万以上である。
なお、重量平均分子量(Mw)は、未架橋ポリマーの場合は以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0041】
上記被覆ポリマーは、ガラス転移温度が40〜200℃であることが好ましい。被覆ポリマーとして、このようなガラス転移温度を有するものを用いると、室温以上で安定であり、種々の用途に適用するのに好適なものとなる。被覆ポリマーのガラス転移温度は、より好ましくは50〜190℃であり、更に好ましくは60〜180℃である。なお、重合性モノマーの種類や比率等の選択により、上記ガラス転移温度範囲に調節することができる。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、既に得られている知見に基づいて決定されてもよいし、後述する単量体成分の種類や使用割合によって制御されてもよいが、理論上は、以下の計算式(1)より算出することができる。
【0042】
【数1】

【0043】
式中、Tg′は、ポリマーのTg(絶対温度)である。W′、W′、・・・Wn′は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0044】
上記架橋した被覆ポリマーとしては、上述の重合性モノマーのうち架橋性のモノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。架橋性のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル等が好ましく挙げられる。
【0045】
また、上記被覆ポリマーの溶解度パラメーター(SP値)は、特に限定されないが、被覆ポリマーで被覆されてなる有機結晶が、マトリックスポリマーに溶解することなく分散する等の点から、好ましくは7〜11である。より好ましくは7.2〜10.5であり、更に好ましくは7.4〜10である。
上記被覆ポリマーのSP値は、例えば、以下のSmallの式により求めることができる。
【0046】
【数2】

【0047】
式中、δは、重合体のSP値である。Δeは、重合体を構成する単量体各成分の蒸発エネルギーの計算値(kcal/mol)であり、ΣΔeは、重合体を構成する全単量体成分の当該計算値の合計値である。ΔVは、重合体を構成する単量体各成分の分子容の計算値(ml/mol)であり、ΣΔVは、重合体を構成する全単量体成分の当該計算値の合計である。xは、重合体を構成する単量体各成分のモル分布である。
なお、単量体成分の蒸発エネルギー、及び、単量体成分の分子容は、通常用いられる計算値を用いることができる。
【0048】
上記乳化重合においては、乳化剤を用いることができる。当該乳化剤としては、特に限定されないが、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の各種乳化剤、高分子乳化剤等が挙げられる。これら乳化剤は、1種で用いても2種以上を併用してもよい。また、以下の各乳化剤のそれぞれにおいても、1種で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記アニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルコハク酸ジ塩;ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。
【0050】
上記ノニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン等の反応性を有するノニオン性乳化剤も用いることができる。
【0051】
上記カチオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0052】
上記両性乳化剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。
【0053】
上記高分子乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0054】
上記乳化剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の乳化剤を用いることが好適である。
上記乳化剤の使用量としては、用いる乳化剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、充分な重合安定性の点から、例えば、重合性モノマー成分の総量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましい。より好ましくは1質量部以上、8質量部以下であり、更に好ましくは1.5質量部以上、7質量部以下である。
【0055】
上記乳化重合においては、重合開始剤を用いることができる。当該重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤である限り、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム等の過酸化物;これらの過酸化物に、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ロンガリットC(NaHSO・CHO・HO)、ロンガリットZ(ZnSO・CHO・HO)、デクロリン(Zn(HSO・CHO))等の還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤;t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類;ジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−アミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類;ジベンゾイルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジドデカノイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類;t−ブチルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステル類;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系化合物;等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
重合開始剤の使用量は、重合性モノマーの使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対して、0.1〜4質量部であることが好ましい。より好ましくは0.15質量部以上、3質量部以下であり、更に好ましくは0.2質量部以上、2質量部以下である。
【0057】
上記重合反応で用いられる水性媒体としては、特に限定されないが、水、及び、水と水混和性の有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
上記水混和性の有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、アリルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等のエステル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機溶媒のうち、モノマー成分は溶解するが、モノマー成分から合成されるポリマーは溶解しない有機溶媒が好ましい。
【0058】
水性媒体として、水と水混和性の有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、水100質量部に対して、水混和性の有機溶媒は、結晶体の溶出のおそれがない点から、1〜100質量部であることが好ましい。より好ましくは2〜75質量部であり、更に好ましくは3〜50質量部である。
【0059】
重合反応の反応温度は、特に限定されないが、例えば、重合速度を速めたり、水の沸騰温度の点から60〜95℃であることが好ましい。より好ましくは70℃以上、90℃以下である。また、重合反応の反応時間は、結晶体や重合性モノマーの使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、例えば、急激な反応による発熱を防いだり、残存モノマーを減らす点から3〜10時間であることが好ましい。より好ましくは4時間以上、8時間以下である。
【0060】
なお、乳化重合により有機結晶の分散体(エマルション)を製造した後、中和剤によりエマルションを中和することもできる。これにより、エマルションが安定化されることになる。中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;ジグリコールアミン、アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、上述のように、結晶体を構成する有機低分子化合物が反応性の官能基(官能基A)を有し、かつ、被覆ポリマーも反応性の官能基(官能基B)を有する場合、当該官能基は、有機化合物とポリマーとを結合する場合に適用されるものを用いればよい。
官能基Aとしては、例えば水酸基、フェノール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。また、官能基Bとしては、例えばグリシジル基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アジリジン基、カルボジイミド基等が挙げられる。それぞれ1種であっても2種以上であってもよい。
なお、有機低分子化合物が上記官能基Bに例示の官能基を有し、かつ、被覆ポリマーが上記官能基Aに例示の官能基を有する場合も、本発明に含まれる。
【0062】
本発明においては、有機物を含む結晶体を用いているため、無機粒子等を用いる場合に比べて、ポリマーとの結合性が顕著に良好であるが、上記結晶体とポリマー層の結合をより強くするために、結晶体の表面をあらかじめ、クロム酸、シランカップリング剤、次亜塩素酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過硫酸アンモニウム、コロナ放電等で処理して、官能基を導入しておくこともできる。
【0063】
重合反応後、結晶体の表面がポリマーで被覆されてなる有機結晶の水分散体が得られる。得られた水分散体は、そのまま用いてもよいし、例えば、重合反応液を遠心分離にかけて上澄み液と沈降物に分離し、この沈降物を回収して乾燥させることにより、ポリマー被覆された有機結晶を得て、粉体の形態で用いてもよい。
なお、ポリマー被覆された有機結晶を乾燥させる方法としては、従来公知の乾燥方法から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。得られたポリマー被覆された有機結晶は、粉体のままで用いてもよいし、適当な溶媒に再分散させた分散体の形態で用いてもよい。
【0064】
ポリマー被覆された有機結晶を分散媒に再分散させる方法としては、従来公知の分散方法から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、攪拌機、ボールミル、サンドミル、超音波ホモジナイザー等を用いた方法が挙げられる。
【0065】
また、ポリマー被覆された有機結晶が分散体の形態であり、前記ポリマー被覆された有機結晶を異なる分散媒に分散させる場合には、例えば、分散体を濾過、遠心分離、分散媒の蒸発等により、ポリマー被覆された有機結晶を分離した後、置換したい分散媒に混合した後、上記のような方法を用いて分散させるか、又は、分散体を加熱することにより、分散体を構成する分散媒の一部又は全部を蒸発させて留去しながら、置換したい分散媒を混合するという、加熱溶媒置換法等を採用することができる。
【0066】
上記のようにして得られた水分散体、粉体、他溶媒への分散体における有機結晶は、結晶体の表面をポリマーで被覆してなるものである。
当該有機結晶を用いて、上述の実施形態1〜3の分散体を得ることができる。
【0067】
上述の実施形態1の分散体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記のようにして得られた被覆ポリマーで被覆された有機結晶を含有する水分散体において、当該有機結晶の被覆ポリマーの表面に、更にマトリックスポリマー形成用モノマーを上記と同様にして乳化重合させて、マトリックスポリマーを形成する方法等が挙げられる。
また、分散剤を用いず、被覆ポリマーで被覆された有機結晶を粉体にした後、これを機械的に分散させた状態で、マトリックス形成用モノマーを懸濁重合することによっても、3層構造の有機結晶を水分散体の形態で製造することができる。
【0068】
上記被覆ポリマーとは非相溶のマトリックスポリマーとしては、特に限定されず、例えば、被覆ポリマーにおける例示と同じ重合性モノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。好ましくは、水溶性ポリマーの原料であるビニルアルコール、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸等;(メタ)アクリル酸エステル;及びスチレンから選ばれる少なくとも1種の重合性モノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。
【0069】
なお、被覆ポリマーとマトリックスポリマーに用いられる重合性モノマーの例示が同じといっても、実際には、マトリックスポリマーとしては、上記例示のうち、被覆ポリマーで用いたポリマーとは異なる溶解度パラメーター(SP値)を持つように、モノマーの組合せを選択することが好ましい。
また、被覆ポリマーとマトリックスポリマーとのSP値の差は、0.2以上であるものが好ましい。SP値差は、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上である。なお、SP値差は、両者のSP値のうちの大きい方のSP値から小さい方のSP値を引いた値を意味する。
当該マトリックスポリマーのSP値は特に限定されないが、被覆ポリマーで被覆されてなる有機結晶が、マトリックスポリマーに溶解することなく分散する等の点から、好ましくは7〜11である。より好ましくは7.2〜10.5であり、更に好ましくは7.4〜10である。
なお、SP値は、上記と同じ方法により求めることができる。
【0070】
また、当該マトリックスポリマーの重量平均分子量は、2万〜100万であることが好ましい。上記範囲内であると、塗膜にした場合、成膜性に優れ、塗膜が充分な強度を持つ。当該重量平均分子量は、より好ましくは4万以上、75万以下であり、更に好ましくは6万以上、50万以下である。
なお、重量平均分子量は、上記と同じ方法により求めることができる。
また、当該マトリックスポリマーは、塗膜の成膜性と強度の点から、ガラス転移温度が−20〜50℃であることが好ましい。より好ましくは−15〜45℃であり、更に好ましくは−10〜40℃である。
なお、ガラス転移温度は、上記と同じ方法により求めることができる。
【0071】
更に、上記のようにして得られた水分散体、粉体、他溶媒への分散体における、結晶体の表面を被覆ポリマーで被覆した有機結晶を、被覆ポリマーとは非相溶のマトリックスポリマー中に分散させた分散体(以下、ポリマー分散体ともいう)の形態(上述の実施形態2)とすることもできる。
【0072】
上記被覆ポリマーで被覆された有機結晶のマトリックスポリマーへの分散体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、被覆ポリマーで被覆された有機結晶の水分散体を、上述のようにして粉体の形態とし、これをマトリックスポリマー中に再分散させる方法等が挙げられる。又は、有機結晶の水分散体を加熱することにより、分散体を構成する分散媒の一部又は全部を蒸発させて留去しながら、置換したい分散媒であるマトリックスポリマーを混合するという、加熱溶媒置換法等が挙げられる。
【0073】
上述の実施形態3の有機結晶の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記のようにして得られた被覆ポリマーで被覆された有機結晶を含有する水分散体と、マトリックスポリマーを用いて乳化重合させて得られた、マトリックスポリマーを含有する水分散体を、混合する方法等が挙げられる。
【0074】
上記の各形態のうち、粉体の形態のものを、本発明の有機結晶の形態とする。
また、上記有機結晶を含有してなる組成物も本発明の1つである。上記の各形態のうち、分散体(水分散体、他の分散媒等への分散体、及び、ポリマー分散体を含む)の形態のものは、当該有機結晶含有組成物に分類される。
当該有機結晶含有組成物としては、上記有機結晶、又は、上記有機結晶とポリマーを含有するものであるが、更に他の成分を含むことができる。
【0075】
他の成分を含む場合、組成物全体100質量%のうち、他の成分の割合は、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは85質量%以下である。なお、ここでいう他の成分とは、当該組成物を塗布した場合、加熱乾燥した後も塗膜中に残る不揮発分(固形分)を意味し、水性媒体等は含まれない。
【0076】
本発明の有機結晶含有組成物は、塗膜の強度を維持しつつ、塗膜に結晶体により発現する性能を付与する観点から、結晶体の含有割合が、ポリマーと結晶体を合計したものの固形分100質量%中、40〜80質量%が好ましく、より好ましくは50〜70質量%である。
なお、ここでいう固形分とは、当該組成物を塗布した場合、加熱乾燥した後も塗膜中に残る不揮発分を意味する。
【0077】
他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶媒;充填剤;分散剤;消泡剤;着色剤;防錆顔料;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;発泡剤;粘性調整剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、上記有機結晶と混合され得る。
【0078】
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶媒の配合量としては、組成物中の有機結晶濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0079】
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、クレー等の無機質充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。充填剤の配合量としては、ポリマーと結晶体の合計100質量部(固形分)に対して、10〜700質量部とすることが好ましく、より好ましくは50〜600質量部であり、更に好ましくは100〜550質量部である。
【0080】
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0081】
また、上述のように、上記有機結晶を含有してなる塗膜も本発明の1つである。つまり、当該塗膜としては、上記有機結晶を成膜させてなる塗膜、及び、上記有機結晶をポリマーマトリックスに分散させてなる塗膜等が挙げられる。
【0082】
上記有機結晶を成膜させてなる塗膜としては、例えば、上述の有機結晶の水分散体又は他の分散媒への分散体を用いて得られた塗膜(実施形態1、3)等が挙げられる。
上記有機結晶をポリマーマトリックスに分散させてなる塗膜としては、例えば、上述の被覆ポリマーで被覆した有機結晶を、マトリックスポリマー中に分散させた分散体を用いて得られた塗膜(実施形態2)等が挙げられる。
【0083】
当該塗膜は、上記有機結晶含有組成物を、例えば、基材に塗布して乾燥することにより形成することができる。基材としては特に限定されるものではないが、例えばアルミ板、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ガラス板、スレート板、テフロン(登録商標)板等が挙げられる。また、有機結晶含有組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
【発明の効果】
【0084】
本発明の有機結晶は、有機物を含む結晶体の表面をポリマーで被覆してなるので、有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等による経時的な性能変化や劣化を防ぐことにより、有機結晶がもつ種々の特性を経時的に充分に発揮させ、種々の用途において好適に用いることができる有機結晶となる。また、当該有機結晶は、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体及び発光体として、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】上記実施形態1の概念図である。
【図2】上記実施形態2の概念図である。
【図3】上記実施形態3の概念図である。
【図4】アスペクト比の大きい粒子の長径と短径を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0086】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0087】
なお、以下の実施例において、各種物性等は以下のように評価した。
<平均粒子径>
SEM(日立ハイテク社製、FE−SEM、S−4800)を用い、測定画像を解析することで50個の粒子径を測定し、これらの平均値を算出することにより、結晶体の平均粒子径を求めた。なお、アスペクト比が1より大きい粒子の場合は、50個の粒子の長径を測定し、これらの平均値を算出して求めた。
<アスペクト比>
SEM(日立ハイテク社製、FE−SEM、S−4800)を用い、測定画像を解析することで50個の粒子の長径と短径を測定し、長径と短径のそれぞれの平均値を算出することにより、結晶体のアスペクト比(長径の平均値/短径の平均値)を求めた。
【0088】
製造例1
4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)をアセトンに溶解したものを、10倍量の水に添加することで再沈殿による結晶化を行った。ろ過後、80℃で3時間の減圧乾燥を行うことにより、粒子径20μm、アスペクト比10の結晶体(1)を得た。
【0089】
製造例2
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水80部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。滴下ロートにスチレン56.5部、2−エチルヘキシルアクリレート42部、アクリル酸1.5部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの20%水溶液)15部及び脱イオン水30部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの1部、5%過硫酸カリウム水溶液4部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を60分にわたって均一に滴下した。滴下終了後、60分間80℃を維持した。
得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水1部を添加し、不揮発分44.2%のエマルション(1)を得た。
【0090】
実施例1
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンをアセトンに溶解したものを、10倍量の水に添加することで再沈殿による結晶化を行った。ろ過後、80℃で3時間の減圧乾燥を行うことにより、粒子径11μm、アスペクト比8の結晶体(3)を得た。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水600部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)45部、上記結晶体300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を80℃まで昇還した。
滴下ロートにスチレン32.5部、2−エチルヘキシルアクリレート14.2部、アクリル酸0.8部、ジエチレングリコールジメタクリレート2.5部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)7.5部及び脱イオン水15部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの1部、5%過硫酸カリウム水溶液4部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を60分間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、60分間80℃を維持した。
得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水0.5部を添加し、不揮発分35.2%の有機結晶のエマルション(2)を得た。
【0091】
実施例2
4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)をアセトンに溶解したものを、10倍量の水に添加することで再沈殿による結晶化を行った。ろ過後、80℃で3時間の減圧乾燥を行うことにより、粒子径20μm、アスペクト比10の結晶体(1)を得た。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水400部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)30部、上記結晶体200部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。
1段目の滴下:滴下ロートにメチルメタクリレート65部、2−エチルヘキシルアクリレート28.5部、アクリル酸1.5部、ジエチレングリコールジメタクリレート5部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)15部及び脱イオン水30部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの1部、5%過硫酸カリウム水溶液4部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を60分にわたって均一に滴下した。1段目の滴下終了後、40分間80℃を維持した。
2段目の滴下:滴下ロートにメチルメタクリレート97部、n−ブチルアクリレート100部、アクリル酸3部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)30部及び脱イオン水60部からなる単量体乳化物を仕込み、1段目の滴下終了から40分後に5%過硫酸カリウム水溶液4部を添加し、直ちに滴下ロートの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。2段目の滴下終了後、60分間80℃を維持した。
得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水3部を添加し、不揮発分47.6%の有機結晶のエマルション(3)を得た。
当該エマルションを、表面が平滑なテフロン(登録商標)板上に乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように塗布し、80℃で12時間乾燥させて、乾燥塗膜を得た。
【0092】
実施例3
N,N−ジシクロへキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミドをアセトンに溶解したものを、10倍量の水に添加することで再沈殿による結晶化を行った。ろ過後、80℃で3時間の減圧乾燥を行うことにより、粒子径18μm、アスペクト比11の結晶体(2)を得た。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入菅及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水200部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)15部、上記結晶体100部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。
1段目の滴下:滴下ロートにスチレン35部、2−エチルヘキシルアクリレート14.2部、アクリル酸0.8部、ラテムルPD−104(商品名、花王社製、20%水溶液)7.5部及び脱イオン水15部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの1部、5%過硫酸カリウム水溶液4部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を60分にわたって均一に滴下した。1段目の滴下終了後、40分間80℃を維持した。
2段目の滴下:実施例2の2段目の滴下と同様に行った。
得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水2.5部を添加し、不揮発分52.3%の有機結晶のエマルション(4)を得た。
当該エマルションを、表面が平滑なテフロン(登録商標)板上に乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように塗布し、80℃で12時間乾燥させて、乾燥塗膜を得た。
【0093】
実施例4
不揮発分の比率がエマルション(2):エマルション(1)=7:2となるように混合したエマルションを用い、表面が平滑なテフロン(登録商標)板上に乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように塗布し、80℃で12時間乾燥させて、乾燥塗膜を得た。
【0094】
比較例1
不揮発分の比率が結晶体(1):エマルション(1)=1:1となるように混合したエマルションを用い、表面が平滑なテフロン(登録商標)板上に乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように塗布し、80℃で12時間乾燥させて、乾燥塗膜を得た。
【0095】
以下のようにして、結晶化度及び結晶形状を評価した。その結果を表1に示す。
<結晶化度>
上記実施例2〜4及び比較例1で得られた塗膜において、X線回折により求めた塗膜作製直後の結晶化度を100とし、経時での変化を評価した。
X線回折は、RINT−TTRIII(リガク社製)を用い、CuKα線、電圧50kV、電流300mA、スキャンスピード10度/分、サンプリング幅0.02度、走査範囲5〜75度、走査軸2θ/θ、積算回数1回の条件で測定した。
また、評価の基準は以下の通りとする。
100〜90:○、50〜80:△、50以下:×。
【0096】
<結晶形状>
電子顕微鏡により観察した結晶体の形状の変化を評価した。
また、評価の基準は以下の通りとする。
変化無し:○、形状が変化している:△、形状が大きく変化あるいは結晶が消失している:×。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例2〜4の塗膜中の有機結晶は、結晶体の表面をポリマーで被覆しているので、40℃で1カ月及び3カ月保存した後でも、その結晶化度及び結晶形状共に変化は見られなかった。一方、比較例1の塗膜中の有機結晶は、結晶体の表面をポリマーで被覆していないので、40℃で1カ月及び3カ月保存すると、時間が経つにつれて、その結晶化度及び結晶形状が大きく変化した。
このように、結晶体の表面をポリマーで被覆してなる有機結晶とすることによって、有機結晶の凝集、形のくずれ、ブリードアウト等による経時的な性能変化や劣化を防ぐことにより、有機結晶がもつ種々の特性を経時的に充分に発揮させる作用機序はすべて同様であるものと考えられる。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
【符号の説明】
【0099】
1:結晶体
2:被覆ポリマー
3:マトリックスポリマー
4:分散媒
5:長径
6:短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む結晶体からなる有機結晶であって、
該結晶体の表面をポリマーで被覆してなることを特徴とする有機結晶。
【請求項2】
前記結晶体は、平均粒子径が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の有機結晶。
【請求項3】
前記結晶体は、アスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機結晶。
【請求項4】
前記有機結晶は、ポリマーと結晶体との質量割合が1:9〜9:1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機結晶。
【請求項5】
前記有機結晶は、誘電体、強誘電体、紫外線吸収体、赤外線吸収体、磁性体、導電体又は発光体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−103956(P2013−103956A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246813(P2011−246813)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)