説明

有機繊維コードの接着剤処理方法

【課題】ゴムとの接着性およびコード物性を付与するのに必要な最少量の接着剤を塗布し、接着剤の消費量を低減するとともに接着剤カスのディップマシンへの付着、汚染を抑えることができる有機繊維コードの接着剤処理方法を提供する。
【解決手段】ディップ浴13にロールの一部分を浸漬しながら、回転軸15を接着剤液面とほぼ平行にして回転する回転自在のロール14を用い、有機繊維コード11をディップ浴外において前記ロール14に接触し走行させ該ロール14を共に回転させることにより、有機繊維コード11に該ロール表面に付着した接着剤液12を転写し塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードの接着剤処理方法に関し、詳しくは、タイヤ補強用等に用いられる有機繊維コードに対し、ゴムとの接着性および適切なコード物性を付与するためのコード表面に接着剤を塗布する有機繊維コードの接着剤処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ補強用等に用いられるポリエステルやナイロン等の有機繊維コードは、通常、ゴムとの接着性を向上するためにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)液等の接着剤液を溜めたディップ浴中にコードを浸漬し接着剤液を塗布(ディップ工程)した後、乾燥、熱処理を施すことにより改質されて、補強用コードとしての接着性と所望のコード物性を付与される。
【0003】
従来、ディップ工程は、図5に示すように、有機繊維コードの単体やすだれ織物を、ディッピングマシン30に設けられたRFL液を貯留したディップタンク31中で浸漬ロール36を通してディップ液中を通過させディッピングすることによって、ディップ液をコードCに付着させることによっていた。ディッピングによりディップ液を含浸された生コードCは絞りロール35によって引き上げられ、長さ方向に張力をかけた状態で乾燥炉32を経て熱処理炉33、34に搬送され所定の延伸条件、温度下で炉内を循環する熱風により一定時間の熱処理が行われ、接着性の付与とコード特性が調整された処理コードPが得られていた(例えば、特許文献1)。
【0004】
従来、上記のディップ工程では、コードの処理速度が遅い時は問題が少ないが、処理速度が20m/分以上の高速になると、接着剤液の粘度が高いこともあってコード表面に過剰の接着剤液が付着し、理論的には単分子膜で覆うだけで良いはずの接着剤量は、ディップ直後の接着剤付着量が10〜14重量%にもなっていた。過剰の接着剤液は絞りロール、バキューム装置、エアーなどで除去し、接着剤付着量を4〜5重量%に調整されるが、除去できなかった接着剤液はカスとなってディップマシンのロールやプーリー、ガイドに付着するため、定期的にマシンを清掃する必要があった。
【0005】
また、コード表面に単分子膜で良い接着剤の膜厚が、数千〜数万倍の厚さになり、資源の多消費、生産性の低下を招き、結果としてコード価格を上昇させていた。
【0006】
下記特許文献2には、従来の接着剤液への浸漬方式に代えて、繊維撚りコードの表面に、薄く、均一な接着層を形成させる接着剤液の塗布方法として、コードを接着剤の噴霧によって塗布すること、具体的には、噴霧にはコーティングノズル、コーティングガイドなどの繊維用塗布器具を用い、さらにインターレーサー等のエアーブロー器具を用いて被覆を均一化させることが記載されている。しかしながら、コードに接着剤液を直接噴霧すると、たとえエアーブローにより被覆を均一化しようとしても、コード表面には接着剤の被覆ムラが生じ、またカス付き発生の問題が残されていた。
【特許文献1】特開平10−140123号公報
【特許文献2】特開2005−68572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記の従来技術における問題点を解決するもので、有機繊維コードに対し、ゴムとの接着性およびコード物性を付与するのに必要な最少量の接着剤を均一塗布し、接着剤の消費量を低減するとともに接着剤カスのディップマシンへの付着、汚染を抑えることで、省資源化、生産性を向上させることができる有機繊維コードの接着剤処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有機繊維コードを、ロール表面に接着剤液を付着させた回転自在のロールに接触しながら走行させ該ロールを回転させることにより、前記有機繊維コードに前記ロール表面の接着剤液を転写し塗布することを特徴とする有機繊維コードの接着剤処理方法である。
【0009】
本発明においては、前記接着剤液浴にロールの一部分を浸漬しながら、回転軸を前記接着剤液面とほぼ平行にして回転する回転自在のロールを用い、前記有機繊維コードを前記接着剤液浴外において前記ロールに接触しながら走行させ該ロールを共に回転させることにより、前記有機繊維コードに該ロール表面に付着した接着剤液を転写し塗布することができる。
【0010】
また、前記接着剤液浴に前記ロールの一部分を浸漬しながら、回転軸を前記接着剤液面にほぼ平行にして回転する回転自在の第1ロールと、前記接着剤液浴外において前記第1ロールに平行に接触し共に回転する回転自在の第2ロールを用い、前記有機繊維コードを前記第1ロールと第2ロールの間を走行させて第1ロールと第2ロールを共に回転させることにより、前記有機繊維コードに該ロール表面に付着した接着剤液を転写し塗布することもできる。
【0011】
本発明では、前記ロールの回転が、走行する前記有機繊維コードとの接触摩擦力によることが好ましい。
【0012】
また、有機繊維コードと接触する前記ロールの表面は、4フッ化エチレン樹脂のコーティングが施されているものでもよく、弾性材料からなるものでもよい。
【0013】
さらに、前記接着剤液の転写後に、エアーブロー器具によって接着剤液の塗布を均一化させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機繊維コードに対して必要最少量の接着剤を均一に塗布することで、ゴムとの接着性およびコード物性を付与しつつ、RFLなどの接着材料の消費量を低減し、またディップマシンへのカス付きなどの汚染を防止することでマシンの稼働率を向上し、有機繊維コード処理工程の操業性、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る有機繊維コードの接着剤液処理装置1の構成を示す概略図である。処理装置1は、有機繊維コード(以下、コードと言うことがある)11に対して、ロールに付着した接着剤液をコード11に転写しコード表面を塗布するものである。
【0017】
該処理装置1の前工程であるコード11の繰り出し、後工程である接着剤液塗布後の乾燥、熱処理、巻き取り工程などは、図5に示す従来工程と同一であり、その説明は省略する。
【0018】
処理装置1は、接着剤液12を貯溜するディップ浴13、接着剤液12中にその一部分を浸漬しながら、回転軸15を接着剤液面とほぼ平行にして回転する回転自在のロール14とで構成されている。
【0019】
ロール14は、図3に示すようなV字形状やU字形状などの溝を備えたプーリー型の溝付ロール14a、複数の溝を並列して設けた溝付ロールでもよく、また図4に示すような平ロール14b、さらに平ロール表面にコード11の走行を案内する溝16を設けたものでもよい。
【0020】
ロール14は、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属製、ナイロン、ポリエステルなどの合成樹脂製が使用でき、また、コード11と接触する部分のロール表面は、4フッ化エチレン樹脂のコーティングが施されているものでもよく、平ロールの場合はシリコンゴム、ウレタン樹脂などの弾性材料からなるものでもよい。
【0021】
ロール14の回転は、ロール14表面に接触しながら走行するコード11との接触摩擦力によることが好ましが、モータなどの回転手段により回転させるものでもよい。
【0022】
また、コード11は走行中にロール表面とスリップしながら走行させることが好ましく、スリップすることでロール表面に付着した接着剤液の転写性を向上し、かつ塗布の均一性を向上することができる。この場合のスリップ率は、ロールの表速/コード走行速度の比で0.5〜0.99程度であり、ロールの表速がコード走行速度と同じか速くなる(前記比が1.0以上)と接着剤液の転写性が低下し接着性が確保できず、逆に前記比が0.5未満になると接着剤液の転写量が過剰となりやすくなる。
【0023】
図1に示すように、ロール14は走行するコード11と接触することで、ディップ浴13から接着剤液12を「濡れ現象」によってロール14表面に付着させた状態で回転しながらコード11に接着剤液を転写し塗布することができる。
【0024】
これにより、従来の浸漬方式によるディップ処理と比較して、コードに対して必要最少量の接着剤液を均一に塗布することで、ゴムとの接着性およびコード物性を付与するとともに、接着剤液や接着性樹脂などの高価な接着材料の消費量を低減し、かつディップマシンへのカス付き汚染を低減することができる。
【0025】
さらに、接着剤液の転写後に、エアーブロー器具17にコード11を通して接着剤液の塗布をより均一化させることができる。エアーブロー器具17は、エアーブローによって器具内に乱流を発生させ、その中を通るコード上の接着剤液を均一に拡散させることができ、余分の接着剤液を除去することもできる。エアーブロー器具としては、湯浅糸道(株)製の「オイリングノズルB307013−4」、「オイリングガイドB505009−4」など市販のマイグレーターを利用することができる。
【0026】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態に係る接着剤液処理装置2の構成を示す概略図である。
【0027】
処理装置2は、接着剤液12を貯溜するディップ浴23、接着剤液12中にその一部分を浸漬しながら、回転軸25を接着剤液面とほぼ平行にして回転する回転自在の第1ロール24と、ディップ浴23の上方に配されて、ディップ浴23外において前記第1ロール24に平行に接触し共に回転する回転自在の第2ロール26とで構成されている。
【0028】
ロール24、26の構成、コードとのスリップ率などは、上記第1の実施形態と同様である。
【0029】
図2に示すように、コード11は、第1ロール24と第2ロール26の間を走行させることで第1ロール24と第2ロール26を共に回転する。第1ロール24はディップ浴23から接着剤液12を「濡れ現象」によってロール14表面に付着させた状態で回転し、かつ第2ロール26にも第1ロール24から移動した接着剤液12が付着する。
【0030】
コード11は第1ロール24と第2ロール26間を走行することで、コード11の上下方向から接着剤液を転写し塗布することができる。また、接触状態にある2本のロール24、26間に貯まる接着剤液12の貯まり28を絞ることで余分な接着剤液のコードへの転写を防ぐことができる。
【0031】
これにより、従来の浸漬方式によるディップ処理と比較して、コードに対して必要最少量の接着剤液を均一に塗布することで、ゴムとの接着性およびコード物性を付与するとともに、接着剤液や接着性樹脂などの高価な接着材料の消費量を低減し、かつディップマシンへのカス付き汚染を低減することができ、接着剤液の転写量や塗布の均一性が上記第1の実施形態より調整しやすくなる。
【0032】
本発明におけるコード11としては、ナイロン6、ナイロン66、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等があり、タイヤを始めとして各種ゴム製品に使用できるものは全て適用可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0034】
図1及び図2の概略図に示すコードの処理装置を作製した。タイヤ補強用のナイロン66、1400dtex/2コード(旭化成(株)「レオナ66」、上×下撚数=36×36回/10cm)を、シングルコードで接着剤処理を行った。
【0035】
接着剤液としては下記D5A処方(濃度15%)を使用し、図1に示す実施例1は、溝底直径60mmの図3に示すU字形溝を持つプーリー型ロール(ステンレス製、「テフロン」(登録商標)コーティング)を使用し、図2に示す実施例2は直径60mmのシリコンゴム製平ロールを使用し、コードを20m/分で走行させ接着剤液をコード表面に塗布した後、熱処理炉にて乾燥、熱処理し、処理コードを巻き取った。
【0036】
比較例は、市金工業社(株)製のシングルコード処理機を使用し、D5A処方にて従来の浸漬法により接着剤液をコードに塗布した以外、実施例と同様の処理速度を20m/分、熱処理条件で処理し処理コードを得た。
【0037】
処理コードの接着剤付着率(A)(JIS L1017に記載のディップピックアップ、a)溶解法、ナイロンの場合に準拠)、接着力(JIS L1017に記載のTテストに準拠(A法、埋め込み長さ10mm))、コード1000m処理当たりの接着剤液消費量(重量法)を評価し、接着剤消費量から理論的なコードの接着剤付着率(B)を求めた。すなわち、「B−A」は、熱処理炉にて乾燥、熱処理など接着剤処理後に接着剤がカスとなって設備のガイド、プーリー、ロールなど付着した量を表し、値が大きいほど設備汚染が多いことを示す。に結果を表1に示す。
【0038】
[D5A処方]
A液 水:152g
レゾルシン:7.7g
37%ホルマリン:10.4g
10%苛性ソーダ:7.1g
B液 水:174.7g
ビニルピリジンラテックス:112.5g
SBRラテックス:38.7g
アンモニア水:7.1g
A液を22℃で、16時間熟成後、B液に混合し使用。
【0039】
【表1】

【0040】
表に示される通り、従来の浸漬法に比べ、必要最少量の接着剤をコード表面に塗布できることから、接着剤消費量を低減しながら、優れた接着力が得られる。また、処理設備への接着剤カスによる汚れが防止できるので、装置の清掃頻度を大幅に減ずることができ、稼働率の向上に寄与できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る有機繊維タイヤコード熱処理方法は、アラミド、ナイロン、ポリエステルなどのタイヤコードのシングルコードの熱処理、コードセッターによる複数本のタイヤコードの同時処理に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1の実施形態のコード処理装置を示す概略図である。
【図2】第2の実施形態のコード処理装置を示す概略図である。
【図3】転写用ロールの例を示す概略図である。
【図4】転写用ロールの他の例を示す概略図である。
【図5】従来のディップマシンを示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
11……有機繊維コード
12……接着剤液
13……ディップ浴
14……ロール
15……回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維コードを、ロール表面に接着剤液を付着させた回転自在のロールに接触しながら走行させ該ロールを回転させることにより、前記有機繊維コードに前記ロール表面の接着剤液を転写し塗布する
ことを特徴とする有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項2】
前記接着剤液浴にロールの一部分を浸漬しながら、回転軸を前記接着剤液面とほぼ平行にして回転する回転自在のロールを用い、
前記有機繊維コードを前記接着剤液浴外において前記ロールに接触しながら走行させ該ロールを共に回転させることにより、前記有機繊維コードに該ロール表面に付着した接着剤液を転写し塗布する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項3】
前記接着剤液浴に前記ロールの一部分を浸漬しながら、回転軸を前記接着剤液面にほぼ平行にして回転する回転自在の第1ロールと、前記接着剤液浴外において前記第1ロールに平行に接触し共に回転する回転自在の第2ロールを用い、
前記有機繊維コードを前記第1ロールと第2ロールの間を走行させて第1ロールと第2ロールを共に回転させることにより、前記有機繊維コードに該ロール表面に付着した接着剤液を転写し塗布する
ことを特徴とする請求項2に記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項4】
前記ロールの回転が、走行する前記有機繊維コードとの接触摩擦力による
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項5】
前記有機繊維コードと接触する前記ロールの表面が、4フッ化エチレン樹脂のコーティングが施されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項6】
前記有機繊維コードと接触する前記ロールの表面が、弾性材料からなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項7】
前記接着剤液の転写後に、エアーブロー器具によって接着剤液の塗布を均一化させる
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−138280(P2009−138280A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312331(P2007−312331)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】